リビア中部の地中海岸の都市シルトで10月20日、生きたまま捕えられ射殺されたとも伝えられる同国の元最高指導者ムアマル・カダフィ大佐(69)の死について、ラテンアメリカの一部諸国の指導者や知識人から反応が出ている。
大佐と親交のあったベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は20日、ハバナで癌の精密検査を終えて帰国した際、「カダフィは生きて捕らえられてから殺害された。ラウール(カストロ・キューバ国家評議会議長)は<カダフィは殺されるだろう>と言っていたが、そうなった。命への蹂躙だ、と言うしかない。彼は殉教者として記憶されるだろう。生涯を通じて闘士だった。彼の死によっても、人民の抵抗は終わるまい。リビアの歴史は今、新しく始まる」と語った。
政権党ベネズエラ統一社会党(PSUV=ペエセウベ)は21日、カダフィの死について「米仏英指揮下の占領軍部隊によるマグニシディオ(大物要人暗殺)だった」と糾弾した。
ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は11月6日に連続再選をかけた大統領選挙に臨むが、20日、「カダフィが死んだという情報は疑わしい」と述べた。一方、野党・立憲自由党幹部は同日、「再選を狙うオルテガにとって、カダフィの死は悪夢だろう。援助してくれた友人を失ったのだから」と語った。
エクアドールの外務省高官は20日、「リビアの政権移行国民評議会を承認しない。事態の推移を見守る」と表明した。
エクアドールのラファエル・コレア大統領は22日、カダフィの死を祝う国際社会の動きを非難し、「カダフィは生きて捕らえられ、処刑された。死の真相を調査すべきだ」と述べた。
キューバの「革命指導者」フィデル・カストロ前国家評議会議長は24日のコラム「省察」で、「NATOの虐殺の役割」と題して、「カダフィは、乗っていた車がNATO空軍機に爆撃され重傷を負って捕えられ、NATOが武装した者たちによって殺害された。遺体は奪われ、戦利品のように展示された。これは、イスラム教をはじめ世界の宗教の規範に最も反する行為だ」と糾弾した。
キューバ政府も、リビア暫定政権を承認しないと表明している。
コロンビアのフアン・サントス大統領は20日、「リビアが正常に戻り、民主が定着するのを期待する」と述べた。
チリのアルフレド・モレーノ外相は20日、「平和の機会が訪れ、諸問題の解決が進む契機になる」と語った。
南米諸国連合(UNASUR=ウナスール)のマリーア・メヒーア事務総長(コロンビア人)は20日、「リビア人民が和解に向かうのを期待する」と述べた。
メキシコ紙ラ・ホルナーダに執筆しているアンヘル・ゲラ=カブレーラ氏は、「NATOのリビア介入は、米帝国とその仲間が、気に食わない政府に介入し、それをつぶすモデルになる。石油や金が豊かな、チャベス政権のベネズエラなどが介入の標的になりうる」という趣旨の指摘をしている。
ボリビア政府は11月1日、「死者の日」に因んで、外務省でダビー・チョケウアンカ外相主催で故人を偲ぶ会合を開いた。スペイン植民勢力に対する抵抗の英雄トゥパック・カタリ、ボリビアでゲリラ戦の末に死んだ革命家チェ・ゲバラらと並んで、カダフィも追悼対象になった。ボリビアのエボ・モラレス大統領は、大統領になる前の2000年に「カダフィ人権賞」を受賞している。
【2011年10月21~11月2日 伊高浩昭まとめ】