2011年11月7日月曜日

グアテマラ「最悪の選択」  

   グアテマラで11月6日、大統領選挙の決選投票が実施され、開票率96%の段階で、オットー・ペレス=モリーナ候補(61)が得票率55%弱で、当選者と認定された。

   9月11日実施の第1回投票での上位2人が決選に臨んだが、2位だったマヌエル・バルディソーン候補(41)は45%強で、「2位の壁」を越えられなかった。

   新大統領は来年(2012年)1月14日就任する。任期は4年。

   当選したペレスは陸軍の退役将軍。内戦(1960~96年)中、最悪の殺戮が行なわれたとされるリオス=モント軍政時代、陸軍の第一線にあり、先住民族ら市民殺害が最も多かったキチェー県で部隊を指揮した。1998年のフアンホセ・ヘラルディ司教暗殺事件の黒幕と目されている。

   このような<血塗られた>人物が政権に就くことになるとは、あたかもグアテマラの歴史が過去に向かって逆流しているかのような錯覚を抱かされる。ペレスは伝統的支配階層の利益を守りつつ、事あるごとに軍・警察を使って強権を発動するだろう。

   敗れたバルディソーンは弁護士で、ペテーン県を中心に勢力を張る成金資産家。麻薬資金を動かしているとの疑いがもたれている。凶悪犯には死刑で臨むと公約していた。

   決選に進出した両候補とも、イデオロギーは極右~右翼で、いずれも有産層の利益を代表する。このため識者から、「悪か次悪」でなく「最悪か悪の選択」と皮肉られてきた。 

   マヤ民族で1992年のノーベル平和賞受賞者リゴベルタ・メンチューは、前回に次ぎ2度目の大統領選挙に挑戦したが、得票率が3・26%(候補10人中6位)で、前回同様に振るわなかった。

   長年にわたる少数派白人とラディーノ(混血)による支配下で、人口の絶対的多数派であるマヤ系先住民族は、方言ごとに別々の民族集団であるかのように教え込まれ、分断され統治されてきた歴史の催眠術からいまだに覚めていない。マヤ人の多くが決選で<両悪>のいずれかに笑顔で投票したのだ。

   たしかにマヤ民族も若返っている。意図的ともいえる歴史教育での<内戦隠し>で、軍の残虐性を知らない若い有権者が多いのも事実だ。ペレスを支持した多くの貧しい若者の過去は<白紙>なのだ。

   疫病化している大土地所有制度、貧富格差、麻薬犯罪、人権蹂躙。。。貧しい多数派のグアテマラ人は、内戦が終わって15年を経ても、依然、悲惨さや困窮状態から抜け出せない。

  それでも、新政権が何らかの社会政策を打ち出すかどうかを見守りたい。困窮者のために、ペレスが過去の汚名をすすぐため<大化け>するのを祈りたい。

(2011年11月7日 伊高浩昭)