ーーーーーー共同通信社編集委員室インタビュー企画18回連載記事紹介ーーーーーー
7人目の発言者は、タイ人映画監督アピチャッポン・ウィーラセタクン氏(41)。2004年、「トロピカル・マラディ」でカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した。
「この悲劇(東日本大地震)を通じて自然は、非常に重要な信号を世界中の人々に送った。<母なる自然>は人々を温かく抱擁する理想的な母でありながら、時には怒り、破壊する」
「インターネットやテレビの映像で、世界中の人々が瞬時にして自然の破壊力を知った。世界中から日本への支援が送られたのも、自然が触媒になり人々を結びつけたからだろう」
カンヌでの受賞時、「世の中が西欧的、ハリウッド的に染まるなか、物の見方がまるで違う世界もあるのだ、ということを教えてくれた」と評された。
08年のリーマンショックについては、「起こるべくして起きた。格差や不平等を放置してきたからだ。人を最優先する思想が必要だ」
「経済発展を早期に達成したが、非常に大きな人権問題を抱えている中国のシステムは、新たな発展モデルとしては機能しない。人権という自然な価値を求める人々の力がいつか示され、中国も変わらざるを得なくなるだろう」
「従順さのレベルが日本では非常に高い。だが震災後、政府に怒りをぶつけられないことに居心地の悪さを感じている日本人がたくさんいることがわかった。いつもきちんと列に並び、豊かな文化をもつ人たちがなぜ窒息しそうだと感じるのか、理解できない。従順だった社会が深いところで変わっていく様子を撮ってみたい」
8番手は、米国人作家レベッカ・ソルニットさん(50)。世界の被災地を訪れ、市民が連帯や共助の素晴らしさに気づき、無能な政府を倒すことさえある。そのような状況を取材し書いてきた。
「関東大震災時に朝鮮半島出身者が殺害された。そんなパニックは、慌てた警官や行政官が起こすのだ」
「市民は、復興は自分たちでやった方がよいと立ち上がる。政権や政権党がいかに機能しないかが暴かれ、市民は自信をもつ。一方、政治エリートは失った行政権限を取り戻そうと戒厳令を敷き、市民を再び管理下に置こうとする。メディアもエリートの一員として現状維持に力を貸す」
「(大災害を経験した)日本では目覚ましい変化がいずれ起きるだろう。どんなものになるのか想像できないが、世界は今、日本に注目している」
9人目は、台湾南東部の離島・蘭嶼に住む先住民族タオ人の漁民作家シャマン・ラポガン氏(53)。自給自足の暮らしをしながら、書きつづける。
「若者はモーターボートに乗り、夜の海を怖がる。海と闘いつつも愛するという海との親密な関係からは程遠い」
「海は自然の冷蔵庫だ。中には魚がいて、腐ることがない。われわれは海と友だちになり、必要なものをもらう。すべての国が底引き網漁をすれば、魚はいなくなってしまう」
「年とともに体力も衰えてきたが、やっぱり潜りたい。海は魚がいて美しく、豊かな情感や知識をくれるからだ」
台湾では3つの原発・計6基が稼働している。日本の援助で第4原発の建設も進んでいる。2つの既存の原発は台北から20キロ圏内にあり、事故の際、速やかに避難できるかどうかが問題になる。
故郷の蘭嶼には、核廃棄物貯蔵所がある。「福島原発には1987年に行ったことがある。台湾電力がタオ人を視察に招待した。蘭嶼の貯蔵所は安全だ、と宣伝するためだった」
「海の汚染が心配だ。台湾政府はタオ人をだまして核廃棄物を蘭嶼に置いた。貯蔵所移転のに向けて努力している。だが島民の危機感はとても弱い」
(2011年11月16日 伊高浩昭まとめ)