ーーーーーーー共同通信社編集委員室国際インタビュー企画18回連載記事紹介ーーーーーーー
13人目の登場人物は、米国人政治思想家フランシス・フクヤマ氏(58)。「東京電力と日本政府のお粗末な災害対策、事故発生後の対応のまずさ、原子力産業と政府の癒着が、実に悲惨な結果を招いた。規制当局が何ら監視機能を果たさず、業界の手先となり、その利益のために働いていたようなものではないか」
「さまざまな利益集団が生まれて、強い影響力を持つようになり、自己の権益を守ろうと民主的政治制度を操る術を覚えた。このため、政治制度は身動きがとれなくなっている。その一例が、規制当局と癒着し、市民の安全を犠牲にしてまで自己利益を図ってきた日本の原子力業界だ」。「米国では、保険会社と医療業界がつるんで、本格的な医療保険改革を難しくしている。金融業界も強くなりすぎて、激しい富の集中と格差が生まれている」ーーー「これが、先進民主社会が直面している政治の自壊、という問題だ」
「今の日本の制度や政治は、どこかがおかしくなっている。日本国家を組み立てている諸制度が自壊しはじめたのか」。「政治制度は、激変する環境に対応できないと、破綻する。権力や財の世襲を求める力が強まると、自壊する」
「これまで優位だった欧米の思想・制度は、他地域の思想を取り込んだものとなっている」
14人目は、アイルランド人の政治学者、ベネディクト・アンダーソン氏(75)。「被災地支援に駆けつける日本人に、良質で純粋なナショナリズムと、将来への希望を感じる」
「一方、日本の官僚、東京電力の無責任さは犯罪的だ。首相を代えても問題は解決しなことを、日本人は知るべきだ」
「日本人は菅直人氏ら政治家を非難するが、官僚や企業幹部の責任を追及すべきだ。首相や閣僚はたたかれて更迭されるが、問題の根である官僚や組織は居直るから解決しない。メディアの責任でもある」
「ナショナリズムや愛国主義には二つの側面がある。法律や制度を守り、自分たちの仲間を助けよう、社会にとって良いことをしよう、責任をもって行動しようという良い面と、主に右翼政治家が煽る排外主義だ」。「もし日本に良質のナショナリズムがなかったら、今回の震災で人々はもっと利己的に行動し、悪事も働いたと思う」
「良質なナショナリズムは子供、つまり将来を大事にする」
15人目は、イタリア人政治哲学者アントニオ・ネグリ氏(78)。「東日本大震災は、20世紀後半からつくられてきた<原子力国家>が幻想だったことを証明した。国家は権力を永続きさせるため原発の絶対的安全性を保証しなければならず、結果的に原子力に国家体制を捧げることになる。原子力は、国家の形を変える一種の怪物になった」
「第2次世界大戦では二つの恐ろしいことが起きた。ユダヤ人虐殺と、広島・長崎だ。この二つは、かつてはコインの表裏だった。この記憶をもう一度取り戻す必要がある。なぜなら、二つとも恐ろしい技術の力が行使されたものだからだ」
「核廃棄物の問題を解決できない以上、歴史は脱原発のドイツの道を歩むと思う」
「新自由主義は矛盾をはらんでいる。一方で社会と市場の自由化を促しながら、もう一方で国家を巨大化する。原子力国家も一例だ」
「米国の覇権は深刻な危機にある。リーマンショック前後から、世界は米国の指令から独立し、多極的に動いている。かつて完全に米国に従属していたラ米も従来より独立し、中印両国もそれぞれ拠点になっている。米国の覇権の衰退に拍車がかかっている」
「同じ敗戦国でもドイツは、欧州に依存することで米国からの独立性維持に努めたが、日本はそうしなかった。中国でなく米国との関係をずっと優先させてきたため、その代償をいま支払っている」
「世界のシステムを民主化できなかったオバマ米大統領に失望した。それだけ軍事産業ロビーが完全に国家構造に入り込み、軍事産業から脱することは不可能になっている。原子力が巣食ったときと同じように、国家システムが硬直している」
「市民ネットワークには、自治だけでなく、共同体を形成するという気持が大事だ。政府に介入されない独自の通信網を持つとともに、財産権など個人の権利を超越する必要がある」
(2011年11月23日 伊高浩昭まとめ)