2011年12月31日土曜日

用語「中南米」の破綻

▼▼▼▼▼日本のメディアは、ラテンアメリカ・カリブ地域を「中南米」という言葉で表してきた。外務省がそう呼んでいるから、それに従ってきたのだ。この点で、メディアに主体性はない。

    「中南米」は極めて不的確な用語だ。厳密に言えば、北米のメキシコが欠け、カリブ海が除外されている。「中米」にメキシコとカリブ地域を含めてしまったところに最大の間違いがある。

    それに、「中米」は北米大陸の一部であり、南米大陸につながる回廊部分(地峡)にすぎない。スペインからの独立直後に地峡5カ国が「中米連邦」を短期間結成した歴史的経緯から、「中米」が定着した。その「中米」に緯度が合っているからといって、カリブ地域が含まれるはずがない。

    12月3日に「ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC=セラック)」が発足した。日本のメディアは「ラテンアメリカ」を使わないため、これに「中南米」を当てた。ところが、それに「カリブ」を付け加え「中南米・カリブ」としたため、従来「中米」にカリブ地域を含めていた矛盾が完全に露呈してしまった。

    CELACは、アングロサクソンの牛耳る「アングロアメリカ」(米国とカナダ)と対峙する「ラテンアメリカ」という、米州を2分する構図を踏まえて結成されたところに意味があるのだ。「ラテンアメリカ」を「中南米」という曖昧で間違った用語に置き換えたのでは、意味がなくなってしまう。

    「ラテンアメリカ」が用語として長すぎるというなら、「ラ米」を使えばいいのだ。中国は長らく「拉美」という略語を用いている。この点に関して中国人は、地理的視座と言語表現において、日本人よりはるかに的確だと言わねばならない。

    外務省のラ米担当職員は、名刺の日本語面に「中南米」を使い、スペイン語やポルトガル語で書かれる裏面には、「ラテンアメリカ」を使っている。「中南米」が国際社会で通用しないことを誰よりもよく知っているからだ。

    日本のメディアよ、そろそろ「中南米」という用語に別れを告げてはどうか。こんな用語にしがみついているかぎり、日本人が地球的視座を得るのは一層困難になる。メディアが運動し、外務省に用語を変えさせるぐらいの気概がないと駄目だ。

    かつて外務省は、メキシコの制度的革命党(PRI=プリ)を「立憲革命党」と意図的に誤訳していた。党名が「メキシコ革命を1917年憲法下で制度的に継続実施する党」を意味することから、「制度的=インスティトゥシオナル」を「立憲=コンスティトゥシオナル」に勝手に置き換えてしまったのだ。

    これに対し、共同通信メキシコ通信局・支局が中心になって「制度的革命党」の正しい訳語を徹底的に広めた。今日「立憲」を使うメディアはまず見当たらない。

    私は1967年から「ラ米」ないし「拉米」を使ってきた。自分の積極的意思で「中南米」を記事に用いたことは一度もない。積極的意思で、もしくは無意識にこれを用いれば、<ラ米報道の素人>と見なされても仕方なくなってしまうからだ。

    私は大晦日が来るたびに、用語「中南米」の通夜になればいいと願ってきた。CELAC発足で、この用語の矛盾点がわかりやすくなってきたため、用語の寿命も縮むのではないかと期待する。

    ちなみに、「ラテンアメリカ」を安易に「ラテ」と略すのは、いただけない。「ラ米」とすべきだ。

(2011年12月31日 伊高浩昭執筆)