2013年10月5日土曜日

ハイチ人女流作家エドゥウージ・ダンティカの新訳書を読む


 エドゥウージ・ダンティカの2011年の評論集『地震以前の私たち、地震以後の私たち-それぞれの記憶よ、語れ』(佐川愛子訳、作品社、今年8月刊行)を読んだ。

 2010年1月12日の大震災でハイチは激変した。邦題は、そこに焦点を当てている。だが原題は「危険を冒して創作せよ」である。その意味は、本書を読んで確認してほしい。

 ハイチを離れ米国に移住したダンティカは、故国ハイチを描き続けてきた。この作風は終生変わらないだろう。一度、彼女の文章に触れたら、それから離れるのは難しい。

 ラ米で「レアリズモ・マヒコ」(魔術的リアリズム)が20世紀半ばごろから小説に使われてきた。だがハイチはすべてが魔術的であって、それを気負うことなく書き綴るダンティカの文章はレアリズモ・マヒコを超越した不思議なリアリズムがある。

 書評を書いたため、内容には触れない。強調したいのは、彼女の書く文章が極めて人間的であることだ。だから心にしみる。大事なのは、彼女が「美談」を書かないこと。本書を読むことを万人にお薦めしたい。