鶴見俊輔著『ことばと創造』(河出文庫)を読んだ。新年最初の読書だった。91歳の著者が若き日に書いた諸論文や随筆に、何十年も経った現代を見通す警告が多い。その慧眼に感服した。
「西洋文化は日本文化と比べて駄目だが、西洋文化の中の自然科学だけは欲しいという、15年戦争下のすべての日本軍人の考え」という記述がある。独りよがりの裸の王様の論理を振り回し世界中で嫌われながらオスプレイだけは欲しい、という昨今の輩に酷似しているではないか。
「吉川英治の『宮本武蔵』や『親鸞』は、ファシズムの時勢に便乗したのではなく、ファシズムの時代をつくる力として働いたという指摘がある」という箇所も意味深長だ。NHKが性懲りもなく何年も何年も続けている通年時代劇の分析に参考になる。
「侵略思想を拡げようとする時には、日本という漢字は(にほんでなく)<にっぽん>と発音される」。鋭い着目だ。
「日本の国は狭い。領土の狭さに加えて、一人ひとりの人間が、隣近所の一人ひとりの由来について知りたがり、時の政府の行き方に反対する者を、すぐに密告する習慣があるためだ」。頭隠して尻隠さずの超スパイ社会を、ずばり分析している。
「(戦争の残酷な実態を描く)漫画を、文部省検閲済みの社会科教科書のそばに置くことがないと、日本の15年戦争の歴史は戦争体験派自らの手ですりかえられていくだろう。漫画精神をもって、教科書を読むことを学ぶようでありたい」。戦後教科書の歴史は、史実改竄の歴史だ。これを見抜いている。
一読をお勧めしたい。ラ米関連の文章も登場する。