2014年5月1日木曜日

☆ピースボート「2014波路遙かに」第3回 =「翼休める燕」=伊高浩昭

 アドリア海を離れて3日、スペイン内戦とジブラルタル史について講演した。船は、アンダルシーアのモトゥリール、英領ジブラルタル、モロッコのカサブランカに一日ずつ寄港した。モトゥリールからバスでグラナーダ市に行った。40年ぶりのグラナーダだった。友人らがアルハンブラを見たいというので、付き合った。市中心部の巨大な大聖堂も見た。そして港に引き返した。
 ジブラルタルは、千田善とエル・ペニョン(巨岩)を巻くようにして歩きに歩き、ほぼ一周した。西国との「国境」から、彼方にセウタの見える南端までだ。ジブラルタル空港の滑走路を歩行者も車も横切る。離着陸する航空機があると、サイレンが鳴り、通行が遮断される。のどかな光景だ。だがエスパーニャは、植民地奪回の夢を捨てていない。時折「ヒブラルタル・エスパニュール」と叫び、気勢をあげる。今は静かだ。
 昨年夏、ラホーイ政権は、腐敗を暴露され退陣の危機に瀕したが、突如ヒブラルタルで「緊張状態」をでっち上げて世論の目をそらせ、危機を乗り切った。亜国政権がマルビーナス諸島の領有権問題を持ち出して、反政府世論を反英に向けるのと同じ手法だ。
 ギリシャから船上講師として乗っていたロマーナ(ジプシー女性)のパトリシアがヒブラルタルで下船した。ヒターノス(ジプシー)の人権闘争を展開している彼女の話は興味深かった。いずれ詳しく記事にする。良い友人ができた。
 カサブランカは、友人らと、カスバに囲まれたメディナの市場を散策した。野良猫が肉や魚のおこぼれをちょうだいしていた。ここにも、野良ちゃんたちを皆で飼う愛情があった。映画「カサブランカ」の舞台になぞらえた「リックスカフェ」が、Hホテルの入り口脇にある。他愛ない。
 観光客向けのレストランでないと、ビールさえ飲めない。女郎蜘蛛のような怪しげなマダムのいる真っ暗な酒場で辛くもビールにありついたが、気が抜けていた。千田善はここで下船、一泊してから東京に向かう。ヨルダンのアカバから乗ったパレスティーナとイスラエルの青年男女10人は、モトゥリ-ルで下船した。
 その前夜、彼らは2週間に亘る議論の経過を先客に公表した。難民、入植、分離壁、安全保障、パレスティーナ国家建設、領土、拘束者、個人と政府の見解、市民による抵抗運動、の9項目について議論したという。
 一人ずつ感想を述べたが、当初は対立感情が理性を凌ぎ、議論ができなかったという。イスラエル人女性が、イスラエル政府はパレスティーナ領土の占拠をやめるべきだ、と語ったのが印象的だった。PB船上での数年来の両者の対話には既に1000人が参加している。PBが平和情勢活動の一環として貸座敷役を務める価値ある実例がまた増えた。
 船はカリブ海を目指し西へ航行中。船客の関心が、次の寄港地カラカスに向いている。ラ米基本知識、ラ米対北米、冷戦期のラ米軍政の講座は既に済ませた。ベネスエラ情勢の講座が近づいている。

 燕が10羽、PBで翼を長時間休めていた。どこから来てどこに渡ろうとしているのか。大西洋を飛ぶ渡り鳥の本能、勇気、無謀を考えた。この船に辿り着けずに海に落ち、魚に食われた渡り鳥は計り知れないほど多いはずだ。哀れ、胸が痛む。