2017年6月8日木曜日

★★★米南方軍がベネズエラ近海バルバドス領海で19カ国海軍合同演習「貿易風2017」を開始。ラ米・カリブ15カ国と米加英仏が参加。13日からの第2段階はTT領海で実施へ。マドゥーロ政権に軍事圧力かけるのが狙い  

 米南方軍は6月6日、ベネスエラへの軍事的圧力をかけるための「貿易風2017」という多国間軍事演習を開始した。始まった「第1段階」は6~12日、ベネスエラ北東沖約600kmのバルバドス領海で実施。続いて13~17日、「第2段階」がベネスエラの眼と鼻の先のトリゥニダーダ&トバゴ(TT)で展開される。

 南方軍はフロリダ州マイアミに司令部があり、ラ米・カリブ諸国ににらみを利かせる米州南方探題の役割を担う。カート・ティッド司令官(海軍大将)は7日、演習の目的を「カリブ海域での安全保障と、自然災害および犯罪取引に対応するため」と説明した。

 だがティッド提督は4月、米上院軍事委員会で、「<ベネスエラ危機>は地域の不安定要因となり、地域による対応を余儀なくされる」と証言、軍事介入の可能性を示唆した。ニコラース・マドゥーロ大統領のベネスエラ政権は「ティッド証言」を直ちに糾弾した。

 演習に参加しているのは、カリブ英連邦加盟12カ国のうちセントルシーアを除く11カ国、スリナム、アイチ(ハイチ)、ドミニカ共和国(RD)、メヒコのLAC(ラ米・カリブ)15カ国および米加英仏の計19カ国。LAC諸国の中には、親ベネスエラ諸国も含まれている。

 ティッド司令官は、米国務省、CIA、USAIDなどとともに、マドゥーロ政権打倒工作の「行程」を、ベネスエラ反政府勢力に指南してきた。USAIDは、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDに活動資金も提供してきた。

 MUDは「行程表」に沿って、4月初めから70日近くベネスエラの都市部で街頭暴力戦術を展開してきた。だが「勝機」が見えないのと、マドゥーロ政権が7月30日の制憲議会(ANC)議員選挙に向けて邁進しているのに焦っている。これを観たトランプ政権と南方軍は、急遽、今演習に踏み切った。

 「第2段階」の実施現場は、ベネスエラ領海に隣接しており、ベネスエラ国軍(FANB)には緊張が走っている。南方軍には、軍事
圧力をかけて、マドゥーロ政権を支持している国軍を割り、軍事クーデターの可能性を高める狙いがある。

 だが、トランプ大統領が弾劾される可能性に直面しており、中東、北朝鮮、対中関係など難題を抱えている折から、米軍がベネスエラに直接軍事侵攻する可能性は現時点では乏しい、との見方は成り立つ。親ベネスエラ諸国を巻き込むのも得策ではない。

 しかし、だからこそ、内憂(弾劾可能性)を外患(ベネスエラ問題)排除によって打ち払いたいという危険な力学が働くこともありうるのだ。この誘惑が高じれば、極めて危険な事態となる。その場合、米軍は「有志国」を募るだろう。