☆★☆東京セルバンテス文化センターで5月10~12日、「キューバ映画上映会」が開かれている。初日10日夜、レステル・ハムレット監督の2010年作品「カサ・ビエハ(古い家)」(95分)が上映された。主人公はバルセローナに住みついて14年、父親が危篤のためキューバに帰ってきたエステバン。彼にとって、生まれ育ち、老父母が住む昔ながらの家は、自分が捨てた、革命体制の硬直した<古い祖国>を象徴する。
★テーマは革命、教条主義、隣人愛、集団主義、家族、対米移住希望などだが、最後に同性愛問題が大きく浮かび上がる。ラ米だけでなく世界中が依然マチズモ優位で、キューバも例外ではない。とくに武力革命で独裁を倒したカストロ兄弟体制下では、男にとってマチョであることが誇りであり<義務>だった。同性愛者への差別と懲罰的強制労働は、革命後、制度化された時期があった。
☆エステバンが帰国してすぐに老父は死ぬ。葬儀を機に、家族とエステバンの間の隔たりが明確になる。マチョマチョした兄ディエゴは、言い争いが昂じて、不和の根底に、エステバンが同性愛者という事実があるのを指摘する。その瞬間を境に、言い争いは静まっていき、理解と融和が始まるる。だが、エステバンは荷物をまとめてキューバを離れていく。
★上映後、ハムレット監督と観衆の間で30分間、質疑応答が行なわれた。監督自身、同性愛者で、質問者の一人の日本人も同性愛者だった。監督は90年代初期の、同性愛問題を取り上げた映画「苺とチョコレート」の延長線上に「カサ・ビエハ」があると位置付けた。愛と性は人間が生きるうえで最も重要なテーマだが、人間らしい生き方を至上の価値と考えるキューバ人にとっては、とりわけ重要なテーマだ。だから同性愛問題が先鋭化する。考えさせられる映画である。
☆最後には、「マドリーやパリを観たが、幸福だとは感じられなかった。やはりキューバに帰って考えてみたい」というような歌詞の曲が流れる。これは、スペインを居住地に選んだエステバンや、これから国外に移住しようとしているキューバ人へのメッセージだ。「いかにみすぼらしくとも、故郷に勝る土地はない」ということを訴えている。この「祖国帰還」を讃えるような呼びかけは、90年代からのキューバ映画によく見られる傾向だ。
☆自身が同性愛者である監督は、これまで制作した3本の作品のうちの2本で同性愛問題を取り上げた。