エル・サルバドール(ES)最高裁判所憲法法廷は7月13日、1993年3月20日成立の恩赦法を違憲と判断した。判事5人のうち4人が違憲と判断、1人が反対した。
同法廷は、「正義に反し、人道犯罪および戦争犯罪の犠牲者を償う立場に反する」として恩赦法を違憲と判断した。
同国では1980~92年、寡頭支配体制を維持したい保守・右翼勢力の命令下にあった政府軍と、社会主義革命を目指すゲリラ連合「ファラブンド・マルティ民族解放戦線」(FMLN)が内戦を展開。死者7万5000人、不明者8000人、身体障害者1万2000人と厖大な損失を出した。
極右政党ARENA(国家共和同盟)が多数を占めていた国会は恩赦法を成立させ、内戦中の人道犯罪、戦争犯罪を無処罰とした。加害者の大多数は米国に支援された政府軍、警察、民兵隊だった。被害者は、同法施行以来、違憲を訴えてきた。
2014年6月就任したサルバドール・サンチェス=セレーン現大統領は、内戦を戦ったFMLN司令の一人だった。サンチェスは昨年、内戦和平時の「真実委員会」の報告書「狂気から希望へ: ESの12年戦争」を初めて公表、世論に恩赦法について再考を促した。
最高裁判断について、ドゥグラス・メレンデス検事総長は、「判断を尊重する。検察は法に則り対処する」と述べた。国会は14日の本会議を休会とし、各政党は恩赦法違憲判断について対応策を練った。
違憲判断を受け、賛否両論が渦巻いている。保守派は「過去の傷跡を暴けば再び国内対立を招く」と警告。進歩派は「和平合意には内戦被害者の意見が反映されなかった。今後、恩赦法見直しを契機として、新らしい和平合意が生まれる」と評価する。
内戦開始のきっかけとなったオスカル・ロメーロ大司教暗殺(1980)、エル・モソーテ大虐殺(1981)、スペイン人イエズス会士殺害(1989)など大事件のほとんどは未解決のままだ。これらの事件に光が当てられる可能性が出ている。
イエズス会士事件では、関与した元軍人4人が収監されており、スペイン政府は身柄引き渡しを要求している。この問題の決着に関心が集まっている。
山中の農村で村人約1000人が政府軍に虐殺されたエル・モソーテ事件では、フネス前大統領が正式に謝罪している。アムネスティー・インターナショナルは、違憲判断を讃え、人道犯罪責任者を早期に裁くよう呼び掛けた。
ESオンブズマンのダビー・モラレスは、「ラ米諸国でこれまでに人道犯罪が裁かれてきた。恩赦法違憲判断で民主体制はかえって強化される」と指摘した。
従来、法廷と検察は内戦中の事件が問題になった場合、加害者に有利な姿勢をとっていた。無処罰・免罪の見直しや、被害者の立場を十分尊重する裁判が行われるかどうかが焦点だ。