2017年4月20日木曜日

 ベネズエラ政府・反政府両勢力の大動員合戦は「天王山」の19日、死者3人、負傷者64人、逮捕者312人。反政府側は20日も動員へ。大統領は対話を呼び掛け▼エクアドル次期大統領にモレーノ氏認定▼LATINA誌がエクアドル情勢特集記事掲載

 大産油国ベネスエラの新旧支配勢力間の大動員対決は4月19日、首都カラカスをはじめ全国各地で展開され、「痛み分け」に終わった。「天王山」の闘争での「引き分け」は、権力を握る政府側の「勝利」と言える。旧支配層を代表する保守・右翼野党連合MUDは20日も大量動員による反政府行動を決行すると表明、緊張状態が続いている。

 オンブズマン事務所および警察の発表によると、19日の両派の衝突で、ミランダ州内で17歳の少年、コロンビア国境に近いサンクリストーバル市で23歳の女性が、それぞれ銃弾を受けて死亡した。ミランダ州内では国家警備隊(GNB)の軍曹1人が顔面に銃弾を受け死亡、同大佐一人が脚に銃弾を受け負傷した。首都では国家警察(PNB)要員19人が負傷、うち9人は婦警だった。負傷者は64人、逮捕者は全国で312に及んだ。

 タレク・エルアイサミ副大統領は、「ベネスエラが混沌状態にあるとの偽った印象を国際社会に広めようとしている輩がいる。右翼国会議員フレディ・ゲバラがMUDの覆面別働隊を指揮していた証拠がある」と明らかにした。また、「一連の街頭暴力事件は、フリオ・ボルヘス議員(国会議長)が促進したと確信する」と断言した。

 首都チャカオ区にある「国家適正価格管理行政本部」(SUNDDE)は暴徒に破壊され、電脳危機などが略奪された。MUD系区長の下にある同区警察は見て見ぬふりしていたと、政府側は非難、区長らを取り調べることにしている。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は、支持派の大群衆の前で演説。カラカスだけで政府支持派300万人を動員したと述べた。大統領は、右翼勢力(旧支配層)を、街頭暴力を煽って騒乱状態を起こし、それを内外メディアに報じさせ、国際社会に「弾圧・独裁」などの悪印象を拡め、米国と連携してゴルペ(クーデター)を起こそうと謀った、と糾弾した。

 大統領は、MUDがゴルペを画策する理由として、①米政府の内政干渉声明というお墨付きを得た②ベネスエラの経済復調を阻止する③国会で圧倒的多数を占めながら公約を果たせないーの3点を挙げた。

 マドゥーロはまた、「ベネスエラに必要なのは労働、生産、団結、調和、共生、平穏、愛だ」と指摘。MUDに対話を求めた。政権党PSUV(ベネスエラ統一社会党)幹部エリーアス・ハウア、首都リベルタドール区長ホルヘ・ロドリゲス、その妹で外相のデルシー・ロドリゲスを「国民和平対話」の担当者に任命。併せてジャーナリストのJV・ランヘールと教授エルマン・エスカラーに、対話顧問になるよう要請した。

 大統領はさらに、「選挙を実施したい。選挙闘争を始めよう。選挙で平和裡に勝利しよう」と支持者に呼び掛けた。16年末までに実施予定だった州知事・州会議員選挙を指している。次期大統領選挙は18年末、実施される。

 米国は内政干渉発言を続けており、レックス・ティラーソン国務長官は19日、「マドゥーロ政権は野党に耳を貸さないから我々は懸念する。ベネスエラ情勢を注視している」と述べた。これに対しデルシー外相は同日、「世界とベネスエラは、米軍によるシリアとアフガニスタンへの爆撃を深く憂慮している。米国の移民政策や制度的人種主義を懸念している」と反撃した。

 マドゥーロの「民兵隊拡大」政策に懸念を表明しているコロンビアのJMサントス大統領に対してデルシーは、「心配無用」といなした。マドゥーロも、「コロンビアはベネスエラから生まれた。我々は父であり、コロンビアの寡頭勢力は私を尊重せねばならない。両国民は兄弟だ」と述べ、サントスを揶揄した。

 諜報機関SEBINは19日、マラカイボ在住の反政府派退役陸軍少将クリベル・アルカラーの自宅を捜索した。「ゴルペの陰謀」への加担可能性が捜索理由と見られるが、軍部内のMUD同調勢力への牽制策であるのは疑いない。

 国軍の「現役佐官・尉官級将校」らの「反政府声明読み上げ場面」を映した映像が出回っているが、真偽は不明。マドゥーロ政権に忠誠を誓う国軍上層部と中堅将校を離反させたいゴルペ派の陰謀であるのは間違いない。

 チレのアジェンデ社会主義政権は1970~73年存続、国内の伝統的支配勢力、保守・右翼政党、米政府に揺さぶられ続けた結果、アウグスト・ピノチェー将軍らによる軍事ゴルペで押しつぶされた。現在のMUD・米政府・OEAの連携戦略は、44年前のチレでのアジェンデ政権打倒の陰謀を想起させる。

▼ラ米短信   ◎エクアドール選管がレニーン・モレーノ勝利を正式に認定

 赤道国で4月2日実施された大統領選挙決選の勝者は4月18日、コレア現政権の後継者レニーン・モレーノ候補と正式に確定した。モレーノは5月24日就任する。

 既に勝利は決まっていたが、敗れた保守・右翼候補ギジェルモ・ラッソが敗北を認めず、開票やり直しを要求。選管は、約120万票を集計をし直し、あらためてモレーノを次期大統領に認定した。だラッソはまだ、敗北を認めていない。

★★★◎月刊誌LATINA5月号がエクアドール特集記事掲載

 同誌連載の伊高浩昭執筆「ラ米乱反射」第133回は、「エクアドール次期大統領はレニーン・モレーノ  <市民革命>継続、南米右傾化食い止める」(6ページ特集)。現代赤道国の政情や今回の大統領選挙のもようが詳述・解説されている。