2017年7月28日金曜日

 ベネズエラ大統領が「反政府勢力の悪意と破壊・暴力能力を過小評価していた」と語る▼米大使館は外交官家族に出国を命令▼野党連合MUDは制憲議会(ANC)開設阻むため全国で対決姿勢▼政府は30日のANC議員選挙実施に向け厳戒態勢▼ニカラグアが米国を糾弾

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は7月27日、首都カラカスでの政府支持者大集会で演説、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDに、制憲議会(ANC)開設前に対話しよう、と呼び掛けた。ANC議員選挙は30日に実施される。大統領は、「ベネスエラは30日の選挙実施によって、帝国主義者(米国)と反VEN諸国に教訓を与えることになる」と述べた。

 大統領はこの日、外国メディアによるインタビューで、「私の最大の誤りは、反政府勢力が持つ悪意と破壊・暴力能力を過小評価していたことだ」と述懐した。ドナルド・トランプ米大統領に向けては、「ベネスエラへの侵略とラ米介入を止めなさい。ベネスエラはカリブと南米安定の要なのだから」と諭した。

 先の南部共同市場(メルコスール)首脳会議でベネスエラへの内政介入発言をしたマウリシオ・マクリ亜国大統領を「蛭」と呼び、「世論調査によれば、マクリが実施している野蛮な新自由主義経済政策に亜国民の80%は反対している」と指摘。反ベネスエラの立場をとるブラジルとパラグアイの大統領をも非難した。

 MUDは26、27日「反政府全国ストライキ」を実施、「労働者800万人が参加した」と発表した。だがこの動員人数は検証されていない。MUDはまた、ANC選挙を阻止するため28~30日、全国で「ベネスエラ攻略」作戦を実施すると発表した。

 これに対し、ネストル・レベロール内相は記者会見し、「28日以降、全国で集会や行進を禁止する。ANC投票を妨害した者には禁錮5~10年の実刑が科せられる」と発表した。

  米国務省は27日声明を発表、カラカスの米大使館勤務の外交官の家族に出国命令を出した。政治的緊張、治安悪化、飲料物資・薬品入手困難などを理由にしている。ベネスエラ国内の米機関で働く、外交官特権を持たない米国人職員に対しても自発的出国を促した。米国人ジャーナリストに対しては、取材査証を必ず取得して入国するよう勧告した。一般の米国人には、ベネスエラ訪問を控えるよう求めた。

 声明は、「政府系暴力集団が約70人を殺害した」と指摘する。だが根拠は示されておらず、信憑性は定かでない。4月初めからの反政府暴動に関連する死者は110人を超えているが、政府は、一部の死傷者が治安部隊の過剰防衛によるものと認めながらも、「大多数の死者は反政府勢力の暴力分子の仕業」と主張している。だが反政府右翼メディアは「死者全員が弾圧による」と、虚偽報道を続けている。

 同声明はまた、「スリア、タチラ、アプレ3州のコロンビア国境地帯で、麻薬取引と武器密輸が活発化している」と指摘。さらに、「米国人を含む市民が確乎たる証拠なしに長期間拘禁されることがある」として、言動に注意するよう呼び掛けている。

 MUDの戦略は米国務省、米南方軍、CIA、USAIDなどと連携している。MUDが全国の主要拠点で暴動を起こし、これを反政府系の内外メディアが大々的に報じ、「ベネスエラは統治不能に陥った」との偽りの印象を醸し、MUDが「対抗臨時政権」を樹立、これを米国と親米諸国などが承認。その要請で「人道介入」の名分で、米軍主体の米州諸国機構(OEA)軍がベネズエラに介入し、マドゥーロ政権を倒す。このような筋書きもある。

 米政府は、マドゥーロ政権揺さぶり工作の一環として26日、政府高官13人への「経済制裁措置」を発表した。ANC大統領委員会のエリーアス・ハウア委員長(教育相)、オンブズマンのタレク・サアブ、国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長、内相ネストル・リベロール将軍が含まれている。メヒコ政府は27日、この米国の措置に協力する用意があると表明した。

 米政府に「制裁」されるいわれはないというのがベネスエラの立場であり、高官たちは「米国の言いなりにならない我々の勝利であり、むしろ名誉である」と反応している。

 エル・サルバドールの航空会社アビアンカは26日、ボゴタ-カラカス、リマーカラカスの両往復便を8月16日打ち切ると発表した。米デルタ航空も25日、アトランタ-カラカス往復便を9月17日打ち切ると明らかにした。

 べエスエラ政府は26日、中国とベネスエラでの石炭とニッケルを増産する合弁会社を設置することで合意した。

 一方、チレの日刊紙ラ・テルセーラは26日、同紙のカラカス通信員ヒメナ・マリーンが、ベネスエラ政府とMUDの間で対話仲介役を担っているJL・Rサパテロ前西首相にインタビューしたとして書いた署名記事は、西政治週刊誌「カンビオ16」が5月に掲載したサパテロ会見記事の丸写しだった、と発表した。

 同記者は、ベネスエラの敵である極右のコロンビア前大統領アルバロ・ウリーベとの会見記事もラ・テルセーラに載せたが、これもカンビオ16誌が6月掲載した記事の焼き直しと判明した。同紙はマリーンの署名記事をすべてHPから削除。今後、法的措置をとるという。

▼ラ米短信   ◎ニカラグア政府が米介入主義を糾弾

 米下院外交委員会は7月27日、ニカラグアで民主が欠けているとして同国への援助(年間2億5000万~3億ドル)を削減する「ニカ法」案を可決した。これに対し、ロサリオ・ムリージョNICA副大統領は同日、伝統的な米国の内政干渉政策だと糾弾した。ニカラグア国会は28日、対応を審議する。

 ニカラグア政府はまた、同国内戦中に米国が侵した破壊行為への賠償170億ドルを米政府に支払いを命じた国際司法裁判所の1986年の判断を遵守し、賠償金を払うよう米政府に要求した。ただしチャモロ元政権が90年代初め、賠償請求権を取り下げており、ニカラグア政府の立場は厳しい。

 一方、ベネスエラ外務省は声明を発表、ニカラグアへ連帯を表明。米州bリバリアーナ同盟(ALBA)加盟諸国に同調するよう求めた。