映画「エスコバル 楽園の掟」は3月12日、東京のシネマサンシャイン池袋で公開される。これを前に9日夕刻、東京・六番町のスペイン政府国際文化伝播機関「セルバンテス文化セントロ」で、配給会社トランスファー主催のトークショーと、最後の試写会が催された。
トークショーは、テレビ番組出演で1990年代後半にコロンビアに旅行したことのあるドロンズ石本(マセキ芸能社所属、石本武士)と私の対談形式。彼が主に旅行体験、私がコロンビアの麻薬状況とパブロ・エスコバルについて、それぞれ語った。
試写会は、前列を報道陣が占め、他は一般応募の観衆150人だった。観衆は年配が多かったが、若い女性も来ていた。
このところ、コロンビアやメヒコの「麻薬戦争」を題材にした映画が目立っている。SF物や恐怖映画に飽きた観衆が、虚構よりもはるかに恐ろしい闇の麻薬業界の実態になびいているためなのだろうか。
製作者が観衆の興味を先取りして作品を生産しているからには違いないが、考えてみれば殺伐とした需給関係だ。黒澤のように人間を深く描く大河劇も、ジョン・フォードのような文句なしに楽しめる活劇も見られなくなっている。
創作・虚構よりも生の現実、芸術よりもジャーナリズム、劇映画よりもドキュメンタリーというご時世なのだろう。
映画は同時に内外の新作が何十本も上映されている。可能ならば、常にさまざまな作品を同時的に観ながら、比較、位置付け、解釈、批評し、
楽しむことだろう。
映画の洪水に巻き込まれながら、正気を維持するのが面白いのだ。