2018年4月25日水曜日

 ニカラグアの反政府抵抗行動下火に▼オルテガ夫妻政権に退陣求める声も▼カトリック教会が対話仲介へ▼学校教育も25日再開

 ニカラグアでは先週半ばに始まった社会保障改革をめぐる反政府行動が全国的に拡大し、4月23日現在、公式発表で26人が死亡した。治安部隊の発砲、私刑などによる。
    赤十字や人権団体の集計では死者28人、負傷者428人。逮捕者および所在不明者が約200人いるという。反政府行動は24日下火になった。

 首都マナグア中心部では23日、数千人ないし1万人強の大規模な反政府デモ行進が展開された。エステリ、マタガルパ両市でもデモがあった。
 参加者が「オルテガ退陣」を要求するのが目立った。その落書きが、あちこちの公共建築物などの壁面に殴り書きされている。

 ダニエル・オルテガ大統領は21日、「反政府勢力がニカラグアを破壊するため不安定化を謀っている」と批判したが、22日改革を撤回。カトリック教会を仲介者として「国民対話」を呼び掛けた。これを受けてニカラグア司教会議は24日、仲介に同意した。

 今回の反政府行動の主体である大学生らは、大統領および、その夫人でもあるロサリオ・ムリージョ副大統領の退陣を要求している。社会保障改革問題の解決とは別に、政権への不満が解消されるかどうかは不確かだ。不満がくすぶり続けるのは確かだ。

 暴動状況で授業が休止されていた小学校から大学に至る教育機関は25日に授業を再開させる。特に大学では学生が集まれば、政治的行動が再発する可能性がある。

 今回の出来事の中心にあった社会保障庁(INSS)は、赤字7600万ドルを抱える。このため政府は労使および年金生活者に負担増を求める改革を発動していた。これが総スカンを食らったわけだ。
 専門家は、オルテガ政権が発足した2007年初め当時、INSSは3260万ドルの黒字だったと指摘する。政府の腐敗により赤字になった、との批判が出ている。

 改革が官報に記載されるや、経団連(COSEP)が生産と経済成長を阻害すると反対。これを受けて、首都マナグアにあるイエズス会運営の中米大学(UCA)の学生十数人が抗議集会を開いた。
 これが国立農大(UNA)、国立工学大(UNI)、バプティスト運営のニカラグア工科大(UPOLI)、トマ―ス・モア大(UTM)や、中等学校に波及した。
 闘争の中核となったUPOLIには学生数百人が籠城。警察は22、23両日、同大学を捜索た。

 野党、反政府メディア、学生を含む反政府市民は、今回の騒乱状況を11年以上も続いているオルテガ政権の打倒に繋げたいところと見られる。だが統合組織はなく、強力な指導者も見当たらない。学生らは、野党も経団連も自分たちの代表とは思えないと言う。

 ある評論家は、オルテガ大統領の政治的出自である1979年のサンディニスタ革命を念頭に、そのかすかな延長線上にある現状を「蝕まれた革命」と評した。
 今回の事態を「市民の蜂起」と捉え、その打開には出直し選挙しかないと見る向きもある。しかし、その前提として、選管要員の公正な選出が不可欠と指摘する。オルテガ夫妻のサンディニスタ政権が、3権と選管をすべて握っているためだ。

 別の評論家は、ベネズエラで昨年4~6月起きたマドゥーロ政権打倒のための街頭暴動の焼き直しであり、背後に米政府があると見る。

 国際社会にも波紋が広がっており、国連、欧州連合、米州諸国機構(OEA)、米政府、ラ米諸国などから懸念の声が出ている。
 地元中米では、コスタ・リカ外相が中米統合機構(SICA)加盟諸国に打診、ニカラグア問題をOEAなど国際機関に提起するかどうかを探っていた。

 大統領再選を制限する憲法規定を最高裁判断で変え、再選を繰り返してきたオルテガ大統領は、2021年の次回大統領選挙では夫人ムリージョを大統領候補に擁立したい構だ。
 だが、その長期的野望は今、挫折するかどうか先行きを占うべき微妙な局面に差し掛かっているかに見える。ただしオルテガ体制は強力で、簡単には揺るぎそうにないのも事実だ。貧困大衆の多くは政府を支持している。