2016年10月2日日曜日

ドイツ映画「アイヒマンを追え」を観る

 「ナチスが最も畏れた男」の副題は、ユダヤ人ながら西ドイツ時代のヘッセン州検事長になった実在の人物フリッツ・バウアー(1903~68)を指す。反ユダヤ人意識が根強く残る戦後の西独司法界で、政治的、思想的な敵たちに囲まれながら、頑固に一徹に、ナチ戦犯を追及し、ついにはアルヘンティーナに逃亡していたアドルフ・アイヒマンの所在を突き止める。

 バウアーは、イスラエルを2度訪れてモサドに会い、アイヒマン逮捕の手柄を譲る。アイヒマン裁判はドイツでという約束だったが、裁判はイスラエルで行なわれることになる。モサドは1960年5月アイヒマンをブエノスアイレス州で逮捕、アイヒマンはエルサレムでの裁判を経て、62年処刑された。

 日本人に興味深いのは、この映画から、戦後の西アデナウアー政権期ごろまでは、ドイツ人によるナチス断罪という有名な戦後処理がなされていなかったという事実である。「ドイツは日本と異なり、自ら戦犯を裁き、戦後処理を済ませた」などと言われるが、そうなるまでには苦難に満ちた道程があった。その過程をバウアーが象徴する。

 アイヒマンが偽名で亜国に入国したのは1950年7月だった。当時の亜国はフアン・ペロン将軍の政権期だった。ペロンはムッソリーニの協同翼賛体制に学び、これを亜国に取り入れていた。反米だったペロンは、枢軸国に敵対的態度をとらなかったペロンの時代だったから、アイヒマンらの入国が可能だった。だがアイヒマンの亜国での<安寧>は9年10カ月しか続かなかった。

 見応えのある作品だ。2017年1月、渋谷文化村のル・シネマ、 有楽町のヒューマントラストシネマで封切られる。2015年作、105分。