「2013 洋上ルポ 波路はるかに」 第2回=プンタアレナス=
【2月7日プンタアレナスにて伊高浩昭】PBオーシャン・ドゥリーム号は明け方、チリ・マガジャネス州都プンタアレナスに入港した。昨日6日は終日、エストゥレーチャス・デ・マガジャネス(マゼラン海峡)の迷路のような狭路をさまようかのように航行し、海にそびえ立つアンデス山脈南端部の至る所にある氷河と、その〈死骸〉を見た。
チリ南部最大のこの都市は、水平線のある海、つまり大海原に面した平地に広がっている。昨日、両側に岩山の迫る細い海峡の水道を巡航したのが幻のように感じられる。ここは、チリの南極への前進基地であり、南極戦略の本拠である。私は1980年代に、オゾン層拡大の記事を書くためやってきた。以来何度か来た。前回訪れたのは5年前、南極からの帰途だった。
市中心街のアルマス広場の中央に高く大きく立つフェルディナンド・デ・マガリャンイス(マゼラン)の銅像と久々に再会した。中心街の情景は、5年前とさして変わっていない。州立インターネット・国際電話局が開かれていて、繁盛しているのが目立つ程度だった。人々はこの地を「エル・フィン・デル・ムンド」(世界の果て)と呼ぶ。一昨日寄港した亜国ウスアイアの人々も、自らの大地をそう呼んでいる。だが、この〈果て〉に身を置いている私にとって、地の果ては、あのアジアの果ての日本なのだ。
昼食は、大型のロモ・デ・ポブレ(亜国ではビフェ・デ・チョリーソ=ビーフステーキ)、夕食は、その小型を食べた。バイレス(ブエノスアイレス)からこれを食べ続けてきたが、バルパライソとリマでも、これでいく。発想を少し変えようとの狙いからだが、とにかく味が良い。日本の肉食は概して貧しいが、ステーキに関して特に貧しい。その貧しさを束の間、豊かに満たせば、視座が少し変わるのではないかと、新たに挑戦しているわけだ。
船は夜出港し、真夜中に再び海峡に入った。明日8日は終日、フィヨルド巡りだ。地球温暖化で滅びゆくアンデス山脈氷河群を、心中で葬送の曲を奏でながら見詰めるのだ。