【2月10日チリ南部太平洋上にて伊高浩昭】PB船は昨日、今航海で見られる最大の氷河「ピオ11世氷河」を奥地のフィヨルドに訪ねた。海に落ち込む最先端の幅が4・5km、山の懐まで数十キロという大氷河だ。寿命の長からんことを祈ったが、温暖化で先行きが危ぶまれている。
今日は、プンタアレナスから乗った船上講師リカルド・クラケオ弁護士による、マプーチェ民族についての講演を聴いた。苗字で明白なようにマプーチェの血を引くリカルドは、マプーチェの関わる裁判でマプーチェのために闘っている。
マプーチェは、南下を図るインカと戦ったという。だが交流もあった。マプーチェの布や、水壷の形と模様がインカのそれにそっくりなのも、交流を思わせる。そしてマプーチェの鳥の踊りや口琴は、アイヌのそれと酷似している。バルパライソに着く前の夜、私はリカルドと質疑応答する講演会を開く。
私の今日の講演の演題は、「チリ軍事クーデター40周年」。私はクーデター直後のチリをサンティアゴ一帯で取材したが、あれから40年も経った。一抹の感慨を禁じえない。ラ米諸国の新聞は1973年9月11日の翌日、「チリは泣いている」と書いた。チリやラ米だけでなく、心ある世界中の人々が泣いていた。私のジャーナリスト人生で最も忘れがたい重大事件の一つである。
マプーチェの人々も軍政に迫害された。民政移管後23年、彼らは土地奪回闘争を続けている。その取材が、私の今回のチリ訪問の主題だ。まともな記事が書けるかどうか覚束ない。やってみるだけだ。