米州(ラス・アメリカス=南北両米大陸およびカリブ海地域)には、米州新聞協会(SIP=シップ)がある。新聞経営者と編集主幹らの組織である。東西冷戦時代には、米政府の意向に沿って、反共主義で凝り固まっていた。冷戦が終わって20年余り、反・新自由主義や反米・嫌米の国々のメディア政策への批判ないし非難が目立っている。
SIPの第67回総会が10月18~19日、ペルーの首都リマで開かれた。会長が、グアテマラ紙「21世紀」の編集幹部ゴンサロ・マロキンから、ワシントンポスト編集幹部ミルトン・コールマンに移った。伝えられるところによると、マロキンは開会演説で、ベネズエラ、アルゼンチン、ニカラグア、エクアドールの名前を挙げて「自由の約束を裏切った」と非難し、「当面の報道の自由の敵は、組織犯罪と専横政権だ」と指摘した。
新会長コールマンも、「ベネズエラ、エクアドール、ホンジュラス、アルゼンチン、ボリビアなどで言論の自由が挑戦を受けている」と、就任演説で語ったと伝えられる。総会決議には、「エクアドールでは言論の自由が失われつつある。チャベス・ベネズエラ政権は専横政権だ。アルゼンチン政府のメディア介入が目立っている」などの文言が盛り込まれたという。
言論の自由は基本的人権としては不変だが、時代や政治体制の変化に影響される。武力革命でカストロ兄弟政権の生まれた社会主義キューバを除いては、SIPの新旧会長が国名を挙げた国々の政権は普通の選挙で選ばれている。「米州ボリバリアーナ同盟(ALBA=アルバ)」を構成するベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、エクアドールなどラ米左翼諸国では、「現代風の人民民主主義」とも言うべき「人民参加型民主主義」が支配的だ。それが、強力な指導者の下で、貧しい多数派の意思として表明されている。
東西冷戦は終わったが、欧米型民主制度とくに米国式のそれに忠実なSIPは今や、人民参加型民主主義体制に対し、新たな冷戦を挑んでいるかに見える。米国務省の干渉政策と酷似している。「新聞経団連」の性格の強いSIPであるからには、当然の傾向と言えるかもしれない。
敢えて付記すれば、欧米型民主制のラ米諸国の記者たちの多くは、SIPの主張にほとんど無関心なのだ。ラ米の多数派である貧困層にとって重要極まりない「社会正義」や「変革(富の公平な分配)」などの価値をめぐる欺瞞が、ALBA諸国よりも欧米型民主制諸国に強く深いことに気づいているからではないか。
SIPの次回総会は、サンパウロで開かれる。
(2011年10月23日 伊高浩昭)