2012年11月1日木曜日

仲里効著『悲しき亜言語帯』(未来社)を読む


☆★☆日本語(標準語~共通語)の<言語植民地>にされてきた沖縄(琉球)の、沖縄語~琉球諸語と日本語の間の対峙、葛藤、対決、融合、翻訳、屈従など複雑で多様な関係を解き明かした優れた本である。

☆日本本土(ヤマト)にとって<南の辺境>である沖縄のさらなる<僻地>南大東島に生まれ、東京の大学に学び、那覇市を拠点に文筆活動している著者ならではの複眼的かつ重層的な視座から問題が分析され、書かれている。

☆山之口獏、川満信一、中里友豪、高良勉の詩人4人、目取真俊、東峰夫、崎山多美の小説家3人、劇作家・知念正真、沖縄語研究者・儀間進の9人が分析対象者として登場する。私はこのうちの5人にインタビュー取材したことがあり、9人の書いたものをある程度読んでいた。だから、本書の内容は理解しやすかった。

☆川満信一は「詩と思想」で「<おまえ>に向かって問いかけ」、「内的他者」を発見した。こう著者は記す。この部分を読んで、大城立裕の『カクテル・パーティー』の後段の「お前」で突き進む記述との関連性を考えた。川満の「パナリ」(離れ(島))や、中里の「異化と同化(の相克)」という言葉も、大城作品の題名との共通点があるように思えた。

☆著者は、大城立裕を本書では正面から取り上げていない。「大城らの言語的取り組みは東峰夫に超えられてしまった」という指摘において登場する程度だ。又吉栄喜に至っては全く登場しない。詩人も、船越義彰、星雅彦、伊良波盛男らは登場しない。

☆この著者の文章の特徴は、自らの発想を支える豊かな読書体験から、引用をふんだんに盛り込むことだ。また、日本では外来語として十分には熟していない横文字言葉を盛んに用いることだ。本書でもアポリア、テクネー、エクリチュール、コノテーション、マスキュリニティー、メタモルフォーゼ、インファンティアなど枚挙にいとまがない。

☆読書に基づく引用と横文字の多さは、衒学的な印象を醸す。著者が、それらを完全に消化して自分のものとしたとき、真に読みやすい熟達した文章になるのではないか。