2012年1月20日金曜日

マリオ・バルガス=ジョサがセルバンテス院総裁就任を断る

☆★☆ペルー人にしてスペイン人でもあるノーベル文学賞作家マリオ・バルガス=ジョサ(MVLL)が、スペイン政府のスペイン語および文化の普及機関「セルバンテス院」(インスティトゥート・セルバンテス)の総裁に就任するよう求められたが、執筆活動を理由に断ったという。

     フアン=カルロス国王は1月15日、MVLLに直接電話で要請したが、このことが19日明らかになり、大きな話題になっていた。背景には、マリアーノ・ラホーイ首相が国王に対し、この件で作家に働きかけるよう要請していた事実がある。作家は「少し考えさせてほしい」と応答したというが、19日夜、「執筆活動と時間的に相容れないため断らざるをえないが、協力は従来どおり続けたい」と、首相の元に回答があった、と伝えられる。

     これまでセルバンテス院は、文化省、教育・科学省など関係省庁官僚の縄張り争いに巻き込まれて、思うような活動ができないという事情があったらしい。昨年末、首相に就任したラホーイは、同院を首相の直轄機関としたうえで、世界的に有名なMVLLを総裁に任命する方針を固めていた、と伝えられる。

     国王は名誉総裁であり、今後は国王、総裁とともに<三位一体>で言語と文化の普及に力を注いでいきたい、というのが首相の願いだったようだ。

     フランコ独裁の流れを汲む保守・右翼の政権党PP(国民党)を率いるラホーイは、「パンイスパニカ(汎スペイン)」主義が強い。セルバンテス院を従来以上に機能化し、スペインの存在を世界に印象付けていく文化外交戦略を定めたのだ。文学とともに政治や外交が好きなMVLLが、同院の顔として格好の存在であるのは疑いない。

     作家にとっては、祖国ペルーの立場を、国王や首相に必要な時、直接伝えることができるようになるわけで、就任すれば、ペルーでのこの作家の影響力も一層大きくなるはずだ。

     昨年7月末に就任したペルーのオヤンタ・ウマーラ大統領には、MVLLをスペイン駐在大使に任命する腹案があったとも伝えられる。作家がセルバンテス院総裁になれば、ペルーにとっても外交上の意味は小さくない。

     だが、それは希望に終わったようだ。70代半ばのMVLLは、自身の創作能力を依然信じているのだ。それは、スペイン文化の中枢を担う名誉ある要職をもってしても替えられるものではなかったのだ。

     ノーベル賞は、「御苦労さまでした」という労いのためでなく、「さらに創作を」という激励のためだった。この作家の株は、今回の一件でさらに上がるだろう。