メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きた教員養成学校生43人強制失踪および学生ら6人殺害事件に関するメヒコ当局の捜査がでっちあげだったことが判明、メヒコ政府は窮地に陥っている。
事件発生から19カ月経った26日、首都メヒコ市や教員養成学校のあるアヨツィナパに近いゲレロ州都チルパンシンゴなどで、犠牲者家族、学生、人権団体、一般市民などが真相究明を政府に求め定例の抗議デモを展開したが、今回はいつになく抗議の声が大きかった。
検察庁の捜査結果については当初から科学的根拠が薄いなどと疑問が出ていたが、米州人権委員会(CIDH)が捜査協力のためメヒコに派遣していた「独立専門家学際グルーポ」(GIEI)は24日、捜査に関する最終報告書を発表。その中で、少なからぬ問題点を暴きだした。
まず容疑者のうち17人は拷問されて証言。検察庁の捜査結果は、その証言も踏まえて記されていた。GIEIは、拷問で得られた証言は無効と切り捨てた。
また検察庁は事件発生翌月の10月29日、イグアラ市近郊のコクーラ市ごみ捨て場で43人の焼かれた遺骨が発見されたと報告書に書いているいるが、捜査に当たっていた犯罪捜査局(AIC)のトマース・セローン局長らが前日28日にごみ捨て場に行き、翌日「発見」されることになる「証拠品」を置いていた可能性が指摘された。当局発表には、同局長のこの訪問は全く触れられていなかった。
事件当日、学生たちは乗り合いバス4台を奪取してイグアラ市に乗り付けたとされていたが、5台目のバスがあった事実を当局は隠していた。そのバスには、ゲレロ州を拠点とする麻薬マフィアがヘロインを米国のシカゴに運ぶため使っていた疑いがある。
学生たちがそうとは知らず、そのバスに乗り込んでしまったため、バスはマフィアと連携するイグアラ市警およびコクーラ市警によって襲撃された可能性があると見られる。
事件当日、現場には連邦警察要員も展開していたが、これに関する記述は検察報告には盛り込まれていない。また学生たちは事件に遭う前、イグアラ市駐屯の陸軍第27大隊に保護を求め拒否されており、GIEIはメヒコ政府に同大隊の捜査許可を要請したが、政府は拒否し続けてきた。これはまぎれもない証言・証拠隠しと受け止められている。
さらに「一部学生は武装していて、警官隊と衝突した」との検察庁報告についても、学生たちは当時丸腰で、警官隊との衝突などなく、一方的に襲われたことがわかった。
GIEIは、警官隊が、ヘロイン現物か現金が置いてあったバスを襲撃した場合、現物か現金を確保するためだった可能性があると見ている。
メヒコ政府が捜査活動継続を拒否したため、GIEIは4月30日でメヒコでの捜査活動を打ち切る。だが報告書は、メヒコ当局が拷問によって当局に有利な証言をさせ得たこと、当局による証拠捏造と真の証拠の隠滅と破壊、当局の分析能力の欠如、軍部を捜査しないこと、連邦警察関与隠し、などを明るみに出した。
エンリケ・ペニャ=ニエト大統領は、信用をさらに失った。大統領は誰を何のために何故かばっているのか、という当然の疑問がメヒコ全体に拡がっている。メヒコの司法制度が腐りきっている事実が今新たに証明された。
さらに深刻なのは、この国の、強制失踪させられた行方不明者(遺体所在不明者)が2万5000人の上っていることだ。
検察庁は28日、セローン局長を捜査すると発表した。同局長は大統領に極めて近い人物と見なされている。