墨米両国関係は今、メヒコが英米石油資本などを国有化した1930年代以来、最悪の状態に陥っている。ドナルド・トランプ米大統領が「国境の壁建設」という愚かな政令を1月25日発したからだ。
メヒコのエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は同日、当然のことながら「建設費など一銭も払わない」と応じた。するとトランプは26日、「払うつもりがないのなら、31日の(EPNとのワシントンでの)会談は中止するのがよかろう」と脅しをかけた。
米政府は、メヒコからの輸入品に20%の関税をかけ、これを壁建設費に回す案を提示している。
これに対しEPNは全国向けテレビ演説で、「米国内の全50カ所のメヒコ領事館は在米同胞を守るため全力を尽くす」と悲壮な表情で決意を伝えた。次いでEPNは、31日の訪米を中止すると発表した。追い詰められての決断だった。
メヒコ世論は、日ごろ不人気な大統領をいつになく支持している。ジャーナリズム論調には、メヒコを見下すトランプの傲慢、横柄な態度を「高飛車に出て交渉を有利に進める戦法」と捉える分析が出ている。「トランプはやはり野卑な男だった」と書く者もいる。
メヒコ穏健左翼の大御所クアウテモク・カルデナスは、早くからトランプとの会談をしないよう忠告していた。クアウテモクは30年代に米石油資本を国有化した故ラサロ・カルデナス大統領の息子。
またホルヘ・カスタニェーダ元外相は、「トランプはメヒコを侮辱し、対話前から対立を煽っている。このような脅迫の下に居続けることはメヒコには耐えられない」と述べ、首脳会談中止を求めていた。
★このような非常事態に陥ったメヒコは強い対米交渉カードを持たねばならない。それには、対米関係が険悪化する可能性を秘めている「中国と政経両面の同盟関係を結ぶ」のが最良策との主張さえ見られる。
一方、24日夜から25日までドミニカ共和国(RD)東端の保養地プンタ・カーナ(カーナ岬)で開かれた第5回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)首脳会議は最終宣言で、米国やトランプの名を出さずに「不法移民犯罪者化と移民差別を糾弾する」との一項が盛り込まれた。
またトランプの保護主義を念頭に、「LAC(ラ米・カリブ)地域は、移り気な金融市場と保護主義が醸す危険と不安に対し団結を強化する」の項目も加えられた。
EPNは当初、この首脳会議に出席してLACの連帯を勝ち取り、反トランプ世論を醸成する戦略だったが、対米関係の急速な悪化で出席を取りやめた。その間、メヒコのルイス・ビデガライ外相とイルデフォンソ・グアハルド経済相はホワイトハウスで米側と10時間話し合った。
CELAC首脳会議出席のラ米首脳陣からは対米批判が相次いだ。エクアドール(赤道国)のラファエル・コレア大統領(G77議長)は、「移民問題は壁では解決できない。解決策は富の再分配しかない」と指摘した。
ボリビアのエボ・モラレス大統領は、「不法滞在者が一人もいなくなるよう<世界市民>制度創設を提案する」と述べ、「墨米国境の壁建設は馬鹿げたことだ」と切り捨てた。
CELACの輪番制議長は会議閉会時に、ダニーロ・メディーナRD大統領から、エル・サルバドールのサルバドール・サンチェス=セレーン大統領に移った。サンチェスは、「加盟国間の新たな合意形成と活動活発化」の必要を訴えた。
会議にはラウール・カストロ玖議長、ニコラース・マドゥーロVEN大統領、ダニエル・オルテガNICA大統領、ハイチのジョスレルム・プリヴェール暫定大統領、ガイアナのデイヴィド・グレンジャー大統領、ドミニカのチャールズ・サヴァリン大統領、ジャマイカのアンドゥルー・ホルネス首相も出席した。
だがブラジル、亜国、ペルーなど、新自由主義経済政策をとる保守・右翼系諸国は首脳が欠席、外相らが代理出席した。