★☆★イタリア映画「海と大陸」(2011年、エマヌエーレ・クリアレーゼ監督、93分)を試写会で観た。地中海のシチリア海峡の南にある小さなイタリア領リノーサ島を舞台に展開する人道的、社会的な物語で、傑作である。
★★4月6日から東京・神田神保町の岩波ホールで公開される。
★この島は、マグレブ(アフリカ北岸)のチュニジアとリビアに近く、だいぶ前から、欧州移住や出稼ぎ労働を望むアフリカ人難民の流入が絶えない。物語は、島の経済を支える観光と旧来の零細漁業、新世代と老世代、北イタリアと南イタリア、欧州とアフリカ、旧宗主国と旧植民地、本土(陸)と海、など幾重もの対比の中で繰り広げられる。
★さまざまな葛藤に苛まれていた主人公ら漁民一家の暮らしは、エティオピア人難民母子の<闖入>という異質で非合法の重大問題を抱えて暗転する。だが、最後に人間的な共感が生まれて一時的な救いがもたらされる。だが、その先はわからない。
★イタリア南部の日常に絡んで久しいアフリカ難民の問題は、岩波ホールで昨年上映された「ジョルダニ家の人々」でも取り上げられた。それほど南伊では無視できない社会問題にして国際問題なのだ。
★物語では、難民女性サラはエティオピア人で、リビア経由、リノーサ島に辿り着く。エティオピアもリビアも20世紀にイタリアの支配下に置かれた歴史がある。この設定も暗示的だ。しかもサラを演じた女性が、まさに難民出身者なのだ。
★この映画には、殺人場面と愛欲場面が全く無い。この二つを盛り込まずに面白い映画は幾らでも作ることができる。そのことを新たに証明している。この点からも好感が持てる。