☆★☆★☆東京・神田神保町の岩波ホールで、巨匠アンジェイ・ワンダ監督のポーランド映画「菖蒲」(2009年、87分)が上映されている。人生の不可逆性、生と死、「長く宿る死(癌)」と突然死、出会いと別離などを描いた人間的で、重厚な作品だ。
☆映画館で販売される、上映作品に関する薄い冊子を、以前は「プログラム」と呼んでいた。昨今は、飾り気なく「パンフレット(冊子)」と呼ぶようだ。「菖蒲」の冊子冒頭の「エキプ随想」欄に、「私のポーランドは『パサジェルカ』から始まった」という文章を書かせてもらった。「パサジェルカ(女船客)」とは、私が学生時代に観た1963年のポーランド映画である。
☆岩波ホールの映画ではないが、8月に「7 DAYS IN HAVANA」が上映された折、その冊子に「現代キューバの日常と哀愁を綴る美しい詩歌」という文章を書いた。それは作品内容の「解説」であり、随筆ではなかった。
☆私は今回、過去の記憶や思い出を盛り込んだ「随想」を書いたことで、「菖蒲」という映画で展開される人間模様に私自身も関与してしまったような気がしてならない。そのくらい、観る者を惹きつける作品なのだ。
☆製作時点ですでに古典のような、多くの人々にぜひ観てほしい「名作」である。