【8月3日北米沖の太平洋上にて伊高浩昭】エンセナーダ港付近で2日夕、地元の大学生や青年労働者がつくる「私は132人目エンセナーダ支部」の青年男女約20人が、ピースボート乗客にメキシコ政治の現状を訴えるためデモ行進した。PBオーシャンドゥリーム号から遠い、港入り口の関門で阻まれ、彼らの声は船には届かなかったが、上陸した乗客たちの目を引いた。たまたま帰船するため歩いていた私は、彼らと話すことができた。
私が、ジャーナリストであり、メキシコ情勢を注視しており、船内講座でも7月1日のメキシコ大統領選挙や「私は132人目」の運動ついて既に話したことを伝えると、彼らは喜び、作成したばかりのスペイン語の声明文を私に託した。船内および日本の関心を持つ人々に伝えてほしい、と頼まれたのだ。以下は、その要旨である。
2012年8月2日、北下加州エンセナーダ市にて、停泊中のピースボートの皆さんへ、
一つ、私たちの国メキシコは民主主義国として国際社会に紹介されているが、事実ではない。長年の政治的無関心がメキシコの先住民族および他の人民に対する重大な蹂躙を許してきた。
一つ、メキシコ政府は、連邦、州、市の全領域でテレビをメロドラマやくだらない番組で埋め尽くし、人民の教育を怠り、支配階層や財界の利益ばかりを追求してきた。
一つ、7月の大統領選挙でPRI(プリ=制度的革命党)候補エンリケ・ペニャ=ニエトが〈勝利した〉とされているが、同候補の選挙戦のさなかの5月、私たちの運動「私は132人目」が生まれた。選挙戦があまりにも空虚であるため、有権者の多くは眠っていた。そんな時に私たちの組織は生まれた。
一つ、メキシコ市のイベロアメリカ大学の学生たちが、ペニャが責任を持つべき過去の重大事件について追及すると、ペニャは大学構内から逃げた。この事件の責任問題で同候補もPRIも、ペニャを全面支援するテレビサ、テレビアステカも沈黙を押し通した。「沈黙の共犯」によって、忘却を招こうとしたのだ。
一つ、そうする一方で学生を、「偽学生」、「左翼候補の回し者」などと根拠なしに呼び、誹謗した。ここに怒った全国の人々が、イベロアメリカ大学の名乗りを上げた131人の学生に連帯し、私たちの運動が生まれた。これは「多数者の怒り」という国際的な運動の一環であり、メキシコでの現れとして位置づけることができる。
一つ、私たちの目的は、情報への接近の自由、言論・表現の自由、真正な民主主義国の建設の3点の実現にある。
一つ、全メキシコ人は、歴史の重大な転換期にある。私たちは目覚めつつある。私たちは孤立しているのではなく、仲間がいる。社会なくして個人は存在し得ない。私たちはこのエンセナーダで、政治的無関心や絶望と闘ってきた。流れに逆らえない魚は死ぬ。だから抵抗する。
一つ、私たちは教養を備え、平和主義であり、人権を擁護する。暴力でなく対話を探っている。そのためには、社会ネットワークの構築が極めて重要だ。それを通じて、地元から全国へ、メキシコから全世界へと情報が伝わっていく。
一つ、私たちは、エンセナーダ中の壁を「叫ぶ壁画(ムラレス・ケ・グリータン)」で埋め尽くすつもりだ。
一つ、ピースボートの皆さん、メキシコの状況と、メキシコが歴史的転換期にあることを知ってほしい。そして連帯を求めたい。私たちの運動については、さまざまなビデオ映像で観ることができる。ぜひ観てほしい。(了)