ブラジル国会上院の大統領弾劾問題特別委員会(21委員)は5月6日、弾劾審議開始を上院に求める同委員会の報告を賛成15、反対5、棄権1で可決した。これにより、上院(定数81人)は本会議を11日開き、弾劾審議開始案を採決する。
採決は11日夜か12日未明、41票以上の賛成をもって可決される見通し。最高裁は5日、大統領弾劾の推進者でヂウマ・ルセフ大統領の最大の政敵、腐敗まみれのエドゥアルド・クーニャ下院議長の下院議員資格を遅ればせながら停止、これにより下院議長を事実上解任した。
現時点では、最高裁は土壇場で、弾劾推進、クーニャ解任という<喧嘩両成敗>の手を打ったと言える。
最高裁は先に、ミシェル・テメル副大統領の弾劾審議を下院に要請したが、下院は無視してきた。上院で11~12日に弾劾審議推進が決まれば、ルセフ大統領は最大180日間、停職処分となり、政権を離れるのを余儀なくされる。その場合、テメルが大統領代行となる。テメルは弾劾推進の「共犯者」と見なされており、やはり収賄嫌疑がかけられている。
クーニャが牛耳っていた下院は論外だが、検察庁や最高裁のテメルに対する甘い手加減は目に余る。もしテメルが失墜させられれば、正副大統領不在となって、10月の統一地方選挙時に繰り上げ大統領選挙実施への道が開けてくる。
だがブラジルの伝統的支配体制は「テメル代行政権」で政治危機を乗り切り、労働者党(PT)政権の社会政策重視路線から、富裕層・大企業優先の新自由主義経済路線強化に切り換えていく構えだ。米国は暗黙の支持を与えている。
上院がルセフ停職を決めれば、1964年の軍事ゴルペ以来の重大な政変(国会ゴルペ)が歴史に記録されることになる。
一方、ルセフ大統領は4日、英BBC放送によるインタビューで、「軍事ゴルペ(クーデター)に代わる国会ゴルペが進行している。私は絶対に辞任せず、最後まで闘う。辞任すればゴルペを成功させることになるからだ」と語った。
リオデジャネイロ五輪の聖火が到着したことについては、「喜びと悲しみが交錯している。聖火は五輪を開催するブラジルの努力を象徴する。だが私は法的根拠なく弾劾される危機にあり、五輪開会式に出られなくなる可能性がある」と述べた。
政財界に蔓延する汚職については、「ブラジルは諸外国と変わらないが、汚職取り締まりが弱い。だがルーラ政権以来、取締強化策を講じてきており、2013年からは贈収賄事件に関与した企業側も罰せられることになった」と指摘した。
大統領は、クーニャらの画策によって友党が次々に政権を離れ、下院で4月17日、弾劾推進決議が採択され上院に送られたことに関し、BBCから政党対策に不備があったのではないかと問われると、「私は13~14政党と連携していた」と答えた。
ブラジルには現在35政党があり、うち26党は国会議席を持つ。大統領は「イデオロギーを備えた政党は3~4党だけで、残りは利益代表の党で、利害関係で動く」と語った。