☆☆☆☆☆アルベール・カミュ(1913~60)原作、仏伊アルジェリア3国合作の映画「最初の人間」(105分)を試写会で観た。見応えある作品だ。12月15日から東京・神田神保町の岩波ホールで公開される。
☆アルジェリアでフランス人移住者の家庭に生まれたカミュの自伝的小説で、カミュが交通事故で死去した際、執筆中のこの原作の原稿が鞄の中に残されていたという。未完の作品は、1994年に刊行されるまで眠っていた。結果として、自伝にして<遺書>となった。
☆題名の「最初の人間」は、移住者としてアルジェリアに住みついていた父親までのフランス人系世代を指すようだ。アルジェリアではアラブ人、ベルベル人ら先住民族こそが言わば<最初の人間>であり、この点の思考がカミュには薄かったように見受けられる。
☆だから、アルジェリア人の多くが希求した「独立」を支持するまでに至らなかった。そして、その1962年の独立を見ずに死んでいった。
☆アルジェリア人とフランス人の融合・共存を願ったカミュだった。その<中立的理想>は激しい独立戦争によって崩れ去る運命にあった。生前すでに壁にぶち当たっていたカミュの思想的苦しみが、全編を貫いている。
☆評者は、この作品が「実存主義や不条理観など、カミュに結び付けられる概念を改めるよう促す」と指摘する。イタリア人のジャンニ・アメリオ監督は、「映画化に際し、私がカミュと同じ立場をとることが重要だった。今なお、自身に深く刻まれた戦争の記憶を抱えている人々の懊悩が正確に表現される映画を作りたかった」と述懐する。
☆この映画は、来年のカミュ生誕100周年を記念して製作された。だが1年以上経った今も、フランスでは公開されていないという。アメリオ監督が示唆するように、多くのフランス人の心の中で過去の整理がついていないためだろうか。