メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きた、アヨツィナパ農村教員養成学校生43人強制失踪事件および殺害事件から12月26日で2年3カ月経った。エンリケ・ペニャ=ニエト大統領のメヒコ政府が事件の真相を隠してきたのは、陸軍と連邦警察が事件に関与、大統領責任が問われるためだった。
調査報道で有名なメヒコの女性ジャーナリスト、アナベル・エルナンデス(45)は11月、『イグアラ真実の夜 政府が隠そうとした事実』を刊行した。そこには、政府がひた隠しにしていた、ある検事の「報告」などに基づく事件の真相が描かれている。以下は、その粗筋だ。
著者は、事件の生き残りの学生らの証言の中に連邦警察関与を指摘するものが2件あったにも拘わらず政府が知らぬ存ぜぬを貫いていたのに疑念を抱き、政府が嘘をついているとすれば政府が隠したい事実は何かと考え、取材を始めた。
事件で犠牲になるのを辛くも免れた学生たちに熱心に働きかけたところ、学生らが携帯電話で事件現場の様子を撮影していたのを知り、その画像を見せてもらった。
事件がイグアラ市内の中心街で起きていたのがわかった。だが検察など当局は、たくさんの目撃者がいたにも拘わらず、彼らから証言を聴取していなかった。
著者は、事件現場に面していた街並みの商店や住宅を訪ね歩き、目撃証言を得るのに成功する。連邦警察やイグアラ市警だけでなく、短髪の精悍な風貌の若者たちが事件に関与していたことがわかった。その短髪の若者たちは私服姿だったが、誰もが兵士たちだと感ずいていた。
後に、イグアラ市駐屯の陸軍第27歩兵大隊の司令官ヘスース・ラミーレス大佐が、部下の兵士たちに私服姿で出動するよう命じていたことが判明した。この事実を政府は隠し続けていた。
イグアラ市長夫妻をはじめ左官職人ら、事件に無関係だった人々が逮捕、拷問され、濡れ衣を着せられて、犯人に仕立て上げられたことも明るみに出た。
事件の核心は、失踪した教員養成学校生たちが乗っていたバス2台にヘロインが積まれていたこと。米国に密輸するための麻薬だが、そのヘロインの持ち主が第27大隊司令官に電話し、「私の麻薬を回収してほしい。学生たちは麻薬の存在を知ってしまい証言者となる恐れがある」と伝えた。これを受けて大隊が動きだしたのが事件の発端だった。
事件、すなわち銃撃、殺害、強制失踪に関与した大隊兵士らは薬莢を回収、証拠を隠した。学生たちの失踪には警察車両が加担した。事件には麻薬犯、陸軍、連邦警察、ゲレロ州警察、イグアラ市警などが関与していた。
つまり最高責任は国軍の最高司令官にして連邦警察も配下に置く大統領にある。ラミーレス大佐は事件後、国防省に栄転、准将に昇格している。
だが消えた43人の遺体がどこにあるのか、また、麻薬の主は誰だったのか、など事件の核心は依然解明されていない。
一方、失踪学生43人の父兄や支援者は12月25日、メヒコ市-クエルナバカ自動車道を一時的に遮断、事件の真相解明を求めるビラを車に配布した。また26日には首都にあるグアダルーペ大寺院に父兄、支援者、弁護団計200人が集まり、陸軍関与を捜査し、長らく事件の真相を隠し偽りの犯人を仕立てていた検察庁をも取り調べるよう訴えた。
メヒコ市内の革命記念碑広場では、支援する若者たちが失踪学生43人が横たわる姿を地面に輪郭で描く抗議行動を展開した。
▼ラ米短信 ◎サパティスタ蜂起23周年記念行事開く
メヒコ・チアパスス州サンクリストーバル・デ・ラスカサス市で12月26日から1月4日の日程で、「サパティスタと人類のための良心」と題した会合が開かれている。サパティスタ民族解放軍(EZLN)の200人および、11カ国から科学者82人が参加している。
科学者の分野は、量子論、数学、火山学、天体物理学、天文学、宇宙論、核融合、遺伝学、微生物学、統計物理学、光学、生命倫理学など。