2015年3月24日火曜日

世に出た『方丈記』対訳書の訳者・伊藤昌輝さんが語る

 鴨長明(1155~1216)が鎌倉時代の1212年ごろ著した随筆集『方丈記』の日西対訳書が3月23日、神戸市の大盛堂書房(電話078-861-3436)から発売された。本体1700円。

 翻訳者は、オンドゥーラス駐在大使、ベネスエラ駐在大使などを務めた元外交官、伊藤昌輝氏。
伊藤さんは対訳書が世に出るのに際し、本ブログに、翻訳時の工夫や苦労を語ってくれた。


 苦労、工夫した点ですが、『方丈記』は散文形式で書かれています。そして日本の古典文学における三大随筆の一つとされています。

 この作品の魅力は、言葉の力にあると言われています。当時の日本には歌はありましたが、西洋的な詩はありませんでした。

 そのため鴨長明は散文形式にせざるを得ませんでした。ですが本質的には詩であると私は思います。

 そこで、詩形式にして訳してみました。もちろん、韻を踏む本格的な詩ではありません。言わば、散文詩です。そこが一番の工夫だと言えるかもしれません。

 苦労といえば、どの翻訳にも共通しますが、原文の字面にとらわれず、いかにその心、真意を捉えるか、それをいかにしてスペイン語らしいスペイン語で表現するか、ですね。

 原文からあまり離れてもいけないし、原文にこだわって、スペイン語がぎこちなくなってもいけません。その究極のバランスですね。

 その点では、ベネスエラの女流詩人ヨランダ・デル・ノガルさんの献身的な協力が得られたのは大きかったと思います。

 彼女は現地のラジオで自分の番組を持ち、私も何度か出演し、俳句などについて話したことがあります。彼女は、そのラジオ局の設備を使って『方丈記』全文を朗読しCDにして、私の大使離任の際の餞別としてくれました。

 このCDが付いているのも、本対訳書の魅力の一つかと思います。