2012年11月28日水曜日

チャベス・ベネズエラ大統領がキューバで治療へ


▼▽▼ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は11月27日、高圧酸素治療を受けるため同日以降キューバを訪問する、との書簡を国会に送り、出国許可を求めた。ディオスダード・カベジョ国会議長が発表した。

▼この治療法は、放射線治療で骨などにできた傷を治したり和らげたりするために用いられる、という。数か月継続する必要があるとされる。大統領は骨盤に癌を患っている。

▼チャベスが最後に訪玖したのは6月下旬で、放射線治療を受けた。その後7月1日、大統領選挙戦に突入し、10月7日4選を果たした。最近は人前に出る機会が少なくなっていた。

▼大統領は、新任期が始まる1月10日にはカラカスに居る、としている。

▼ベネズエラは現在、12月16日の統一知事選の選挙戦の真っ最中。大統領の不在は野党に有利に作用する、との見方もある。  

2012年11月27日火曜日

ベネズエラで臓器移植・提供法が発効


☆★☆ベネズエラで臓器移植・提供改正法が11月26日発効した。死を予告されている成人(18歳以上)全員が、臓器、繊維、細胞の提供者となる。一般の成人は、提供するか否かを自由意思で決めることができる。

★改正法は昨年11月25日に公布されたが、施行が1年間猶予されていた。

★現在、同国の臓器提供登録者は1万7000人。移植待機患者は角膜、腎臓、骨髄、肝臓など3200人。

2012年11月26日月曜日

コロンビア和平交渉が市民参加で合意


☆★☆コロンビア政府とゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)は11月25日、ボゴタで来月、農地問題に関する市民参加のフォーラム(フォロ)を開くことで合意した。双方は今月19日からハバナで和平交渉を続けている。フォーラム開催は、交渉で成立した最初の具体的決定となった。

☆農地改革などを話し合う「農地統合開発政策フォロ」で、12月17~19日開かれる。双方は国連とコロンビア国立大学に協力を要請した。討論結果は1月8日に、ハバナの交渉の場に報告される。

☆和平交渉の主要議題は、農地問題の他、麻薬、武装解除、政治参加、犠牲者賠償の4項目。

FARCは交渉開始の19日、今月20日から1月20日までの60日間停戦を一方的に発表して注目された。その後、双方の間で戦闘が散発的に続いている。

 

2012年11月22日木曜日

パブロ・シーグレルの「革新タンゴ」を聴く


☆★☆アルゼンチン人ピアニスト、パブロ・シーグレルの「ジャズ・タンゴ」コンサート(LATINA主催)を11月21日、有楽町朝日ホールで聴いた。なかなか良かった。前回よりもずっと良かった。

☆全14曲のうちアストル・ピアソーラが3曲、11曲はシーグレルの自作品だった。「ラ・ラユエラ」(あるいはラ・ラジュエラ、石蹴り遊び)という自作のこの題名は、亜国人作家、故フリオ・コルタサルの同名の代表作を思わせる。本人に関係を訊ねると、全く関係ないとのことだった。

☆私は開演前に楽屋でシーグレルにインタビューした。マエストロは、自分がピアソーラの「革新タンゴ」の流れを汲み、新しい演奏法と創作を絶えず心がけていることを淡々と語った。

☆ニューヨークに定住しており、年2回ブエノスアイレスに帰る。創作のためには亜国と距離を置くことが必要なのかと訊くと、その必要はないと答えた。

☆伝統的なタンゴも弾くには弾くが、一たび指がピアノの鍵盤に触れるや創作が始まり、伝統作品も「自分のタンゴ」になる。ここは強調した。

★演奏を聴いて、絵画に例えれば「伝統タンゴは具象画で、ピアソーラやシーグレルのタンゴは抽象画だ。抽象曲に歌詞は要らない」-こんな直感を得た。

★ピアソーラの名曲「リベルタンゴ」は無論、リベルター(自由)とタンゴを合わせた言葉だ。だが、「タンゴ・リブレ(自由なタンゴ)」という在り来たりのニュアンス(意味合い)ではなく、「タンゴ=自由」というセンティード(意味)なのだ、と感知できた。

☆これらの★2つは、会場に足を運んだ収穫だった。

☆バンドネオン北村総、コントラバス西嶋徹、ギター鬼怒無月(きど・なつき)、フルート赤木りえ。4人の日本人奏者がシーグレルに息を合わせた。シーグレルも、若い4人を盛り立てた。だから良かったのだろう。

☆ところで、ビオロン(ヴァイオリン)が欠けていた。何故か。これを訊き忘れた。シーグレルが成田空港を離れる前に、この質問をしなければならない。

2012年11月21日水曜日

LATINA誌がパナマ情勢記事を掲載


☆★☆月刊誌「LATINA」12月号(11月20日発行)の、連載「ラ米乱反射」は、パナマの状況の現地ルポと解説です。伊高執筆です。

☆1989年12月に米軍がやった大規模なパナマ侵略では、パナマ人が最高8000人殺されたとされています。死傷者が最も多く出たのは、エル・チョリージョ地区という低所得者居住地区です。記事には、同地区で最近、筆者が撮影した2枚の写真も掲載されています。

☆本号には、伊高執筆の書評も出ています。『ぼくは書きたいのに、出てくるのは泡ばかり』(ペドロ・シモセ著、細野豊訳、現代企画室)と、『岐路に立つキューバ』(山岡加奈子編、岩波書店)です。ご覧ください。

シリア特使がキューバ議長に親書


▽▼▽シリアのバシャル・アルアサド大統領の特使ファイサル・メクダド副外相は11月20日ハバナを訪れ、ラウール・カストロ議長宛ての親書を手渡した。JRマチャード副議長とブルーノ・ロドリゲス外相が対応し、副議長が親書を受け取った。

▽親書の内容は明らかにされていない。

▽マチャード副議長は特使に対し、シリアを支持するキューバの立場をあらためて表明した。

2012年11月20日火曜日

ニカラグアが「海の争い」でコロンビアに勝訴


★☆★☆★国際司法裁判所は11月19日、ニカラグアとコロンビアのカリブ海領海・経済水域画定に関する裁定を下し、ニカラグアが国土の約35%に匹敵する広大な海域を経済水域として認められた。同裁判所は2001年からこの問題で審理していた。

★問題の海域は、ニカラグア東方沖に北から南に並ぶサナンデレス諸島など3諸島に属する7つの群島と周辺の海。両国間で1928年に条約が結ばれ、島々の領有権と海域のほとんどはコロンビアに属すると定められた。だがニカラグアは、米軍占領下で結ばれた条約であり無効だ、と主張していた。

★これまでは西経82度が海の国境線とされていた。今回の裁定で、東に大きくずれて西経79度近くが海の国境線となった。

★ニカラグアは、大陸棚の延長上の海域は自国の経済水域だと主張し、訴えていた。ダニル・オルテガ大統領は、首都マナグアの革命広場に支持者を大動員して祝賀行事を催し、「国家の勝利だ」と宣言した。アルノルド・アレマン、エンリケ・ボラーニョスの両元大統領と歴代外相経験者も出席した。

★一方、コロンビアは島々の領有権は確認されたが、諸島の北、西、南の海域をそっくり失った。フアンマヌエル・サントス大統領は、沈痛な面持ちで「裁定は間違いだ」と述べただけだった。

★コロンビアは、旧領海・経済水域を前提として、米国と自由貿易協定を結んでいるが、修正を迫られることになった。

★一方ニカラグアは、漁業資源をはじめ生物多様性、海底資源が自国のものになった、と手放しで喜んでいる。島の領有権よりも海という、実をとったのだ。

★同裁判所は、チリとペルーの領海線確定問題で審理しており、近く裁定が出る。両国は、今回のニカラグアとコロンビアの問題に関する裁定に強い関心を示している。

メキシコの住民共同体が鉱山会社を追放


▽▼▽▼▽メキシコ・チウアウア州ブエナベントゥーラ市にあるエヒード「ベニート・フアレス」の最高決定機関であるエヒード(議)会は11月17日、同エヒード内での開発事業を向こう100年間規制することを決めた。会員400人のうち240人が出席し、全会一致で議決した。画期的な決定だ。

▽同時に、06年からエヒード域内で「環境許可」なしに開発し、問題を起こしてきたカナダの鉱山会社「マグシルヴァー&メジャーズ」および同子会社エル・カスカベル社に対し、48時間内の人員退去と機材など全物資の撤去を命じた。

▽エヒード会の審議と採決には、国家人権委員会や州当局高官が立ち会った。州当局は決議への支持を表明した。

▽エヒード住民と会社は長らく対立してきたが、10月23日、エヒードの環境運動の指導者イスマエル・ソロリオと妻が、隣接するメノニータ(メノナイツ)クアウテモク移住地内を自動車で走行中に射殺されたのを機に、会社に退去を求める動きが活発化していた。

▽エヒード住民たちは今回の決定につて、メキシコだけなく、乱開発の横暴に苦しめられているラ米全体の励みになる、と語っている。

▽19日朝現在、会社側の反応は伝えられていない。

 

2012年11月18日日曜日

「カディス宣言」採択し、イベロアメリカ首脳会議終わる


★☆★スペインのカディスで11月16日開会した第22回イベロアメリカ(イ米)首脳会議は17日、「カディス宣言」と「行動計画」を採択して閉会した。宣言は、雇用拡大のため経済成長路線をとることを再確認した。また中小企業の重要性を強調した。

★議長を務めたマリアーノ・ラホーイ西首相は閉会に先立ち、スペインのラ米投資は1150億ユーロだとし、投資の安全を保障する措置を講じてほしいとラ米側に要請した。首相はまた、イ米全体の企業構成は中小企業が95%で、雇用の80%、GDPの60%を占めているとして、中小企業の重要性を指摘した。

★次回首脳会議は来年10月パナマで開かれるが、その後は隔年開催となる。

★今会議では、経済危機にあってラ米を頼りにする西葡両国の立場が鮮明になった。

2012年11月17日土曜日

スペインで第22回イベロアメリカ首脳会議開く


☆★☆ラ米19カ国(ハイチ除く)とイベリア半島3国(スペイン、ポルトガル、アンドーラ)の計22カ国が集う第22回イベロアメリカ(イ米)首脳会議が11月16日、スペイン・アンダルシーア州カディスで開会した。今会議は、ラ米植民地の独立に対応しようとした1812年のカディス憲法制定の200周年を記念している。

★欧州経済危機のさなか、ゼネストが決行されたばかりの騒然としたスペインで開かれた今会議は、欧州経済危機が焦点。17日に共同声明を発表して閉会する。

★スペインのフアン=カルロス国王は開会演説で、「我々はかつてなかったほどイ米を必要としている。大西洋の此岸は近年、経済危機にある。スペイン人は再びイ米人民を見詰めている。イ米は声を一つにして国際社会で発言すべきだ」と述べた。

★マリアーノ・ラホーイ同国首相は、「ラ米はかつて欧州にとって機会(オポルトゥニダー=チャンス)だったが、いまや欧州がラ米にとって機会になっている」と指摘した。

★首脳会議事務総長のエンリケ・イグレシアス(元ウルグアイ外相)は、「今会議は国際関係における立場の変化、欧米経済危機、ラ米の好況が焦点となる。西葡両国の経済危機はラ米経済に深刻な影響を及ぼしつつある」と語った。

★イ米首脳会議は1991年以来21年も続き、儀式化、形骸化している。今回もアルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ベネズエラ、ニカラグア、グアテマラ、キューバの7カ国首脳が、さまざまな理由で欠席した。

★このため来年パナマで開かれる第23回首脳会議以降は、隔年開催とする方針で、17日に決まる。各種の大型首脳会議がほぼ一年中続いていることも、隔年化の理由だ。

★一方、欧州とラ米の知識人ら市民は16日、カディス大学で「対抗サミット」を開いた。17日まで、11の分科会に分かれて討論し、最終宣言をまとめる。

★「対抗サミット」は16日、イ米首脳会議に向けて「人民の時」という声明を発表した。「諸国人民が主人公になる時空を拓く」必要性を訴えている。

2012年11月14日水曜日

国連総会がキューバ経済封鎖廃棄求め決議


☆★国連総会は11月13日、米国の対キューバ経済封鎖廃棄を求める決議案を賛成188カ国で可決した。反対は米国、イスラエル、パラオ。棄権はマーシャル諸島とミクロネシアだった。21回連続の可決となった。だが決議に拘束力はない。

★封鎖は、1960年にアイゼンハワー政権が始め、62年2月ケネディ政権が制度化した。キューバのブルーノ・ロドリゲス外相はこの日総会で演説し、キューバが封鎖で被った損出は62年から2011年末までに1兆660億ドルに達した、と明らかにした。

★同外相はまた①米国は封鎖によっても対キューバ外交目的を達していない②米国には封鎖を維持すべき法的、倫理的正当性がない③封鎖はキューバに対する虐殺行為に等しく、大規模・現行犯的・制度的な人権蹂躙だ-と述べた。

★これに対し、米国のロナルド・ゴダード国連大使は、①決議を拒否する②米国がキューバの経済停滞の責任者だとする論法を拒否する③キューバの発展を阻んできたのはキューバ政府自身だ④キューバは経済困難の責任を転嫁すべき生贄の羊を国外に求めている⑤米政府はキューバ人民を制裁しているのではなく、米国内から昨年20億ドルの送金があったし、12億ドルの人道援助を許可している-と反論した。

★キューバ外相の演説には満場の拍手があったが、米大使には誰も拍手しなかった。

2012年11月13日火曜日

バスコ人作家キルメン・ウリーベが語る


★☆★バスコ人詩人で作家のキルメン・ウリーベ(1970年生まれ)の小説『ビルバオ-ニューヨーク-ビルバオ』(2008年)が今年10月、白水社から金子奈美訳で翻訳出版された。これを機に著者ウリーベが来日した。

★東京・麹町のセルバンテスセントロで11月7日夕、ウリーベの対話形式の講演があった。書評を書く参考にする意味もあって出かけたが、とても興味深い話だった。

▽バスコ語は過去50年間、とりわけフランコ独裁体制が終わり民主化されてから言語として息を吹き返し、表現手段として発展した。

▽私は詩人だから表現を繰り返す。物語は時系列的進行と、(フラッシュバックなど)繰り返しとで進展する。

▽記憶が重要だ。国、家族、個人の認同(イデンティダー=アイデンティティー)がどう変わっていくか。変わりつつ発展する。ここに過去の再現としてのフィクションが生まれる。

▽小説は事実を語るのではなく、ただ語るのだ。フィクションは、多くの現実を繋ぐ。

▽過去40年にバスコ語とバスコ文化は大きく発展した。言葉を選ばずに自然に書けるようになった。強化された言葉で書ける。

▽バスコ地方には、バスコ語出版社は十幾つあるが、小さなものばかり。作家も誰も金持にはなれない。だが読者がいる。通常の初版は1点700部程度だ。多くても1000~2000部だ。

▽翻訳は、商売としてではなく、文学への愛から為される。

▽小説家には詩人の魂が必要だ。心の中に詩が要る。語りすぎるな、しゃべりすぎるな、ということだ。

▽私の世代はアングロサクソン文化と交流できる。バスコは小さな文化だ。限られている。外に開いていくしかない。

★この小説の初めの方に、バスコ人画家アウレリオ・アルテタの壁画「巡礼祭」(1917年ごろの作品)の写真が挿入されている。アルテタは内戦中、共和国側から、ゲルニーカを空爆したフランコファシズムとナチスドイツの横暴を告発する壁画制作を依頼された。だが仕事を蹴ってメキシコに去ってしまった。このため、この仕事はパリにいたピカーソに回された。ウリーベは、これについて、「芸術と人生のどちらを選ぶか、という問題がある。アルテタは人生を選び、ピカーソは芸術を選んだ」と指摘した。

[会場の聴衆席に光がほとんどなく、メモが十分に取れなかった。取ったメモも読めない部分が少なくなく、再現できないのが残念だ。]

2012年11月8日木曜日

プエルト・リーコ住民投票で対米併合票が初の過半数


▼▽▼カリブ海の米植民地プルト・リーコ(PR)で11月6日実施された住民投票で、「自由連合州」という現在の自治体制の維持に反対する票が54%で、初めて過半数となった。

▼だが投票率は、50%をわずかに上回った程度だった。

▼現体制に代わる将来の在り方については、対米併合61%、自由連合主権国家33%、完全独立5%で、米国の51番目の州になりたいという意思が打ち出された。この設問への回答の3分の1は白票だった。

▼この投票結果は、ワシントンの国会(連邦議会)で審議され、判断される。

▼同時に実施されたPR州知事選挙では、現状維持派・民主人民党PPDのアレハンドロ・ガルシアが、併合派・新進歩党PNPの現職ルイス・フォルトゥーノを僅差で破った。

▼専門家は、①知事選で現状維持派が勝った②棄権率が50%弱と高かった③第2問での白票が多かった-ことから、島民は実質的には対米併合を積極的に望んでいるのではなく、現状の大幅な改善を求めている、と分析している。

▼しかし、1967年以来4度目の住民投票で初めて現状維持が過半数を割り、対米併合派が多数を占めた結果は、世代交代により、PR人の認同(アイデンティティー)がぐらついていることを示している、と受け止めることも可能だろう。

2012年11月7日水曜日

「世界」誌がベネズエラ大統領選の解説記事掲載


☆★☆月刊誌「世界」12月号(岩波書店、11月8日発売)の「世界の潮」欄に、「チャベス・ベネズエラ大統領4選の意味」という解説記事が載っている。筆者は伊高浩昭。

☆筆者は、10月7日実施のベネズエラ大統領選挙について、週刊2誌、月刊2誌、通信社1社に解説原稿を書いた。この「世界」の記事は最後(したがって最新)のものである。どうぞ御一読を。

☆11月6日の米大統領選挙で、現職のバラク・オバーマが再選された。ラ米諸国はおおむね歓迎している。チャベスも歓迎する立場だ。

☆ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC=ファルク)と和平交渉をしているコロンビア政府も、オバマ続投を良しとしている。オバマは、内戦続行を望む米国、イスラエル、コロンビアなどの軍産複合体と立場を異にする、と理解しているからだ。

ラテンアメリカはオバマ再選を歓迎


★☆★☆★ラ米諸国の多くは、11月6日の米大統領選挙でのバラク・オバマ大統領の再選を歓迎しているようだ。当確時刻が7日未明(深夜)であるため、各国政府の公式見解は出ていない。各国の主要メディアは、特派員電や映像を通じて詳報を伝えている。

★オバマ再選でほっとしているのは、キューバとベネズエラだ。キューバの対米関係は、共和党政権期に悪化し、民主党政権期に改善してきた。オバマは、在米キューバ系市民のキューバ渡航条件を大幅に緩めたが、それによってもたらされる米ドルや物資がキューバの経済と社会を潤してきた。

★共和党政権は、フロリダ州を中心とする在米キューバ人社会の右翼と結びついており、そのロビー活動によって対キューバ政策が影響されてきた。2000年の大統領選挙でブッシュ息子が不正とも言える開票操作で勝ったとされた出来事の裏にも、キューバ系右翼の力が働いていた。

★キューバのラウール・カストロ政権は先月、移民法(出入国管理法)を抜本的に改革し、キューバ人の出入国条件を来年1月から大幅に緩和させる。このキューバとしては思い切った措置は、オバマ再選を願う気持ちの表れでもあった。つまり、マイアミなどのキューバ系有権者にオバマへの投票を促す信号だった。

★ラウールは、社会主義経済建設の行き詰まりを打破するため、市場経済原理を公式に導入し、中越両国の経済改革を参考にしつつ、改革を慎重ながら進めてきた。これをさらに進めていくには、対米関係に波風が立たないことが不可欠だ。

★キューバはまた、3選があり得ないオバマが、キューバへの経済封鎖を解除する方向に踏み切るのを密かに期待している。それには米国会上下両院の民主党優位が必要だが、それ以前の問題として、共和党大統領では封鎖解除の発想さえ出てきそうもないからだ。

★ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は、オバマ支持を口にしていた。チャベスは去年、オバマ再選が危ぶまれる事態を想定し、当初今年12月に予定されていた大統領選挙を10月7日へと2カ月早め、快勝し4選を果たした。この措置は、オバマが負けた場合、その余波がベネズエラまで及んで、新自由主義復活を狙う右翼の対立候補が有利になりかねない、との警戒心からだった。チャベスは、自分もオバマも勝ち、ラ米と米国の関係が必要以上に緊張する事態が避けられる、と安堵しているはずだ。

★メキシコでは12月1日、制度的革命党PRIの保守・右翼政権が発足する。就任するエンリケ・ペニャ=ニエト大統領にとっては、人道問題や腐敗問題で厳しくない共和党政権の方がやりやすかったかもしれない。またグアテマラ、ホンジュラス、パナマなどの保守・右翼政権も、苦手のオバマと付き合いつづけなければならなくなった。

2012年11月5日月曜日

プエルト・リーコで主権の在り方問う住民投票


▼▽▼米大統領選挙の実施される11月6日、カリブ海アンティージャス諸島にある「自由連合州(ELA)」という名の米植民地プエルト・リーコ(PR)で、州知事選と併せて、将来の島の主権の在り方を決める住民投票が行なわれる。

▼島の人口は370万人、有権者は240万人。1998年までの過去3回の住民投票では、いずれもELAとしての現状維持が過半数を占めた。

▼投票は、2つの設問について行なわれる。第1問は、現状維持の賛否を問う。第2問は、現状維持でない場合の主権の在り方として、完全独立、自由連合主権(LAS)国家としての独立、米国併合(PR州化)の3つの選択肢から1つを選ぶ。

▼第1問で現状維持反対が過半数を占めた場合、第2問の回答が生きてくる。

▼現状維持は民主人民党(PPD、最大野党)、完全独立はPR独立党(PIP)、LAS国家は自由連合主権同盟(ALAS)、対米併合は新進歩党(PNP、現政権党)が、それぞれ主張している。

▼最新の世論調査では、現状維持が51%、現状維持否定が39%。否定の場合、対米併合44%、LAS国家42%、完全独立4%。

▼この調査結果は、「米国から離れれば経済が成り立たなくなる。だが島の認同(アイデンティティー)は守りたい」という、従来の多数派の立場が依然変わっていないことを示している。

▼米国は1898年、キューバの対スペイン独立戦争に介入し<米西戦争>化し、勝ってPR、フィリピン諸島などを奪取し、キューバに名目的独立を与えて属領化した。1952年、米国はPRに自治権利を認め、ELAとした。

▼キューバは1959年元日の革命で米国の権益を排除し、実質的独立を果たした。キューバは以後、国連などでPR独立運動を展開してきた。

2012年11月2日金曜日

殺されたキューバ人外交官の遺体が故国に還る


★★★1976年8月9日、ブエノスアイレス駐在のキューバ人外交官2人が大使館を出て間もなく拉致され、秘密の監禁所に連行されて拷問された後、殺害された。犠牲者はクレセンシオ・ガラニェーナとヘスース・セハスだった。

★この事件には、反カストロ派キューバ人でCIA要員のギジェルモ・ノボ、ルイス・ポサーダ、オルランド・ボッシュ、CIA米人要員、チリ秘密警察高官らが関与していた。拉致の指揮を執ったのは、ノボだった。CIAが組織した南米軍事政権諸国の暗殺共同作戦「コンドル作戦」による犠牲者だった。

★同じころ、キューバ大使館付属小学校の教師だったマリーア=ロサ・クレメンティら、大使館に関係していたアルゼンチン人12人も拉致され、殺害された。

★事件は迷宮入りしつつあったが、今年6月ブエノスイアレス近郊で偶然見つかった、ドラム缶から、セメント詰めにされていた遺体が発見された。ガラニェーナとクレメンティの遺体だった。

★亜国側の法的手続きが終わって10月25日、キューバ大使館でガラニェーナの葬儀が挙行され、遺体は事件から36年ぶりに故国キューバに帰った。

★11月1日、遺体は、サンクティ・スピリトゥス州ヤグアハイにある革命防衛殉教者墓地に埋葬された。

★極貧家庭に生まれたクレセンシオは、革命によって教育され、外交官にまでなった。殺害された時、26歳だった。

★同僚セハスの遺体は依然見つかっていない。
 
★秘密監禁所の責任者だった退役将軍エドゥアルド・カバニージャスは去年、終身刑を言い渡され、服役している。ポサーダはマイアミで米当局に守られて余生を送っている。ボッシュは先年、死んだ。ノボはマイアミで新たなテロリズムの機会をうかがっていると伝えられる。 

2012年11月1日木曜日

ハイチが台風被害で30日間の非常事態発動


▼▽▼ハイチは10月25日ハリケーン<サンディー>に見舞われ、甚大な被害が出ている。このためミシェル・マルテリ大統領は31日、全土に30日間の非常事態を発動した。

▼政府集計では、死者54人、行方不明者21人に達した。1万8000人が住居を失った。各地で河川が氾濫して洪水が起き、道路や通信網が寸断されている。

▼この国は2010年1月、大地震に見舞われ23万人弱が死亡した。その後、コレラが蔓延し、7500人が死亡した。震災の復興が滞っているときに今回の台風被害に遭い、最貧国のハイチとしては、国際社会からの救援を待つしかない。

▼洪水などで衛生状態も一層悪化しており、コレラが再び蔓延するのが懸念されている。

▼ベネズエラのチャベス政権は逸早く27日、キューバとハイチに緊急支援物資を輸送する支援作戦を開始した。ウーゴ・チャベス大統領は、「ラ米兄弟国に対する我々の義務だ」と語っている。

▼通常ならばキューバが隣国ハイチを支援するのだが、キューバ東部一帯が今回被災し、キューバとしても動くに動けない状態だ。
 
▼近隣ではジャマイカ、バハマ両国にも被害が出ている。 

仲里効著『悲しき亜言語帯』(未来社)を読む


☆★☆日本語(標準語~共通語)の<言語植民地>にされてきた沖縄(琉球)の、沖縄語~琉球諸語と日本語の間の対峙、葛藤、対決、融合、翻訳、屈従など複雑で多様な関係を解き明かした優れた本である。

☆日本本土(ヤマト)にとって<南の辺境>である沖縄のさらなる<僻地>南大東島に生まれ、東京の大学に学び、那覇市を拠点に文筆活動している著者ならではの複眼的かつ重層的な視座から問題が分析され、書かれている。

☆山之口獏、川満信一、中里友豪、高良勉の詩人4人、目取真俊、東峰夫、崎山多美の小説家3人、劇作家・知念正真、沖縄語研究者・儀間進の9人が分析対象者として登場する。私はこのうちの5人にインタビュー取材したことがあり、9人の書いたものをある程度読んでいた。だから、本書の内容は理解しやすかった。

☆川満信一は「詩と思想」で「<おまえ>に向かって問いかけ」、「内的他者」を発見した。こう著者は記す。この部分を読んで、大城立裕の『カクテル・パーティー』の後段の「お前」で突き進む記述との関連性を考えた。川満の「パナリ」(離れ(島))や、中里の「異化と同化(の相克)」という言葉も、大城作品の題名との共通点があるように思えた。

☆著者は、大城立裕を本書では正面から取り上げていない。「大城らの言語的取り組みは東峰夫に超えられてしまった」という指摘において登場する程度だ。又吉栄喜に至っては全く登場しない。詩人も、船越義彰、星雅彦、伊良波盛男らは登場しない。

☆この著者の文章の特徴は、自らの発想を支える豊かな読書体験から、引用をふんだんに盛り込むことだ。また、日本では外来語として十分には熟していない横文字言葉を盛んに用いることだ。本書でもアポリア、テクネー、エクリチュール、コノテーション、マスキュリニティー、メタモルフォーゼ、インファンティアなど枚挙にいとまがない。

☆読書に基づく引用と横文字の多さは、衒学的な印象を醸す。著者が、それらを完全に消化して自分のものとしたとき、真に読みやすい熟達した文章になるのではないか。