2014年8月30日土曜日

フォロ・デ・サンパウロがラ米統合促進を謳って閉会

 ボリビアのラパスで8月25日から開かれていた第20回フォロ・デ・サンパウロ(FSP)は29日、最終宣言を採択し閉会した。今会議は「大なる祖国のための議題:貧困と帝国主義の逆襲を打ち負かし、我らのアメリカでビビール・ビエン(良く生きること)、開発、統合を実現する」を標語に開かれ、LAC(ラ米ラカリブ)域内から180の進歩主義政党・団体の代表団が出席した。

 宣言は、「資本主義と帝国主義による不安定化工作に対抗しつつ、CELAC、ウナスール、アルバなど域内機構の強化を通じてLAC統合を促進する」と謳っている。米国は(チャベスらに05年潰されたALCAでなく今や)太平洋同盟(AP)諸国を通じてLACを乗っ取ろうと謀っている、と指摘した。

 宣言はまた、米支配下にあるプエルト・リーコ(PR)の独立支持と、米獄中に33年間拘禁されてきたPR独立運動指導者オスカル・ロペスの即時解放を訴えた。

 さらに、仏領のマルティニク島、グアダループ島、ギアナ、および蘭領のアルバ、ボナイレ、クラサオの民族自決支持を謳った。英植民地マルビーナス諸島の領有権奪回を唱えるアルヘンティーナを支持している。

 チレに対し太平洋岸領土の回復を求めてきたボリビアを支持し、両国がこの問題を平和裏に解決することを求めた。ボリビアが国際社会に訴えている伝統文化としてのコカ葉栽培も支持した。 
 
 今年10月実施されるブラジル、ボリビア、ウルグアイの大統領選挙に出馬するヂウマ・ルセフ大統領、エボ・モラレス大統領、タバレー・バスケス前大統領を支持することも謳った。

 ラ米に進歩主義政党が政権党になっている国が増えていることについて、「ラ米は変化の時代でなく、時代の変化を生きている」との認識を示した。

 このほか、米国によるクーバ経済封鎖解除、ベネスエラ政権打倒を狙う陰謀糾弾、米石油企業シェヴロンと闘っているエクアドール政府支持を謳った。

 域外では、イスラエルによるパレスティーナ攻撃を糾弾した。米国によるイラクとリビアへの攻撃も糾弾した。これらの攻撃がシリアへの外部外勢力の侵略を招いた、と指摘している。

 今会議は最初の3日間は、資本主義危機に関する政治意識、進歩主義政権の在り方、若者、女性、アフリカ系市民に関する分科会が開かれた。

 全体会議は28日始まり、ボリビアのアルバロ・ガルシア副大統領が演説して、「ラ米で今日、新自由主義を語るのは擬古主義を語るに等しい。新自由主義は15年前には聖書だったが、我々はそれをごみ箱に捨てた。二度と取り出されることはない」と強調した。また、「革命過程深化で最初に得たのは、革命手段としての民主主義だった。今や民主は革命文化になっている」と述べた。

 閉会式では、ダビー・チョケウアンカ外相が演説した。次回FSPは、AP加盟国で米国に隣接するメヒコで開かれる。
 
   

ブラジル軍政犠牲者の遺体の主が判明

 ブラジル極右軍政時代の1971年、拷問で殺された共産党幹部エパミノンダス・ゴメス=デ・オリヴェイラ(死亡時68歳)の遺体が8月29日確認された。

 国家真実委員会(CNV)は同日、ブラジリアの無縁墓地で昨年8月20日発掘された遺体はDNA検査の結果、オリヴェイラのものと判定された、と発表した。

 オリヴェイラは共産党系のゲリラ組織、労働者革命党(PRT)にも所属していたが、ブラジル北西部で71年8月7日、陸軍に逮捕され、首都に移送された。激しく拷問され、同月20日、陸軍病院で死亡した。

2014年8月29日金曜日

アルゼンチンで今年2度目のゼネスト

 アルヘンティーナで8月28日、ゼネストが決行され、労組側によると経済・社会活動の80%が麻痺した。政府側は75%と見ている。空の便は欠航した。

 亜国労働総同盟(CGT)モジャーノ派、トラック労連など4団体が、給与所得税廃止を求め、インフレ(今年30%)、失業率悪化(7・5%)に抗議して実施した。

 政府はストの影響を、首都ブエノスイアレスでは80%、首都周辺地帯では60%とはじいている。コルドバ、サンタフェ、フフイの3州でも影響が目立った。

 ゼネストは今年2回目。前回は4月10日で、全土が麻痺した。今回は乗り合いバス、タクシーの労連は参加しなかった。

 CGTモジャーノ派は同じペロン主義路線ながら、クリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル大統領の政権には反旗を翻している。来年の大統領選挙に向けての「政争」の色合いも濃い。

 

戦時通信社・同盟の戦争責任を綴る労作生まれる

◎最近の伊高浩昭執筆記事

★週刊金曜日 8月29日号(本日刊) きんようぶんか(書評)欄

「権力と一体化した通信社の過ちは今また繰り返されつつある」

☆元共同通信記者・鳥居英晴著『国策通信社「同盟」の興亡-通信記者と戦争-』(花伝社)書評

 日本の戦時通信社・同盟は日本軍が起こした中国侵略戦争をはじめとする敗戦までの戦争に情報工作面で加担した。敗戦直後、同盟は解散し、共同、時事の両通信社に衣替えした。共同通信の場合、戦争責任の分析や反省がないまま出発した。共同に在籍した書評子(伊高)は「同盟の遺伝子」と闘わざるを得ない。

★月刊LATINA9月号(8月20日刊)

ラ米乱反射 連載第101回 「ポール・ゴーギャンとラテンアメリカ」、「タヒチ行きの原点は幼年時のペルー生活」(リマ在住写真家・義井豊氏撮影の写真も掲載)

書評:『伊達侍と世界をゆく』写真・篠田有史、文・工藤律子(河北新報社)

書評:『ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件』中村一成著(岩波書店)




2014年8月28日木曜日

米国による不正規戦争を警戒し、ベネズエラに連帯を

 フォロ・デ・サンパウロはボリビアのラパスで始まって3日目の8月27日、クーバ共産党国際局長ホセ=ラモーン・バラゲールが、米国がラ米で仕掛けている不正規戦争を警戒し、それを仕掛けられているベネスエラに連帯するよう呼び掛けた。

 米国は、敵と見なした国々の政府を倒すため、不安定化工作を展開する。米政府自体の介入は見えないようにしつつ、地元右翼勢力、内外マスメディアと共謀し、標的国に政治、経済、メディア、テロリズモなどの工作を仕掛ける。

 だがこれは特に新しい戦略・戦術というわけではなく、クーバ革命体制は米政府のこの種の工作に幾度となく遭ってきた。このところラ米でこの種の工作が目立っているのは、「米帝国主義が失地回復のため反撃に出ていることを示す」と、バラゲールは見る。

 ベネスエラのマドゥーロ政権は特に今年2月以降、軍事クーデターを狙った反政府街頭暴動事件に見舞われた。まさに米国の陰謀による不正規戦争であり、バラゲールは、「ベネスエラに連帯しよう」と訴えた。

  

2014年8月27日水曜日

ベネズエラが食品など21品目の「密輸」を禁止

 ベネズエラ政府は8月26日、食料品など重要物資21品目の輸出を禁止した、と官報で伝えた。これはコロンビア国境での密輸取り締まりに適用される。品目は食用油、米、砂糖、マグロ缶、牛乳、薬品、衛生用品など。国内での品不足への対応策の一環。

 政府は今月12日から夜間、コロンビア国境を閉鎖し、密輸取り締まりを厳重にしてきた。同日以降、食品を中心に計540トンの密輸物資を押収し、28人を拘禁し、トラックなど車両56台を差し押さえた。

 ベネスエラでは、物価統制や補助金供与によって物価が安いため、密輸業者によって大量に買われ、コロンビアで高く売られる。ガソリンも大量に密輸されていたが、ガソリン輸送車は目立ち摘発されやすいため、国境通過がめっきり減っている。

 一方、ニコラース・マドゥーロ大統領は26日、政府は従来通り、外貨管理制度を維持する、と発表した。「国の外貨は人民のものであり、社会政策と国策のために使う」と述べた。 

2014年8月26日火曜日

フリオ・コルタサルが生誕100周年

 アルヘンティーナ人でフランスに帰化した作家、故フリオ・コルタサルが8月26日、生誕100周年となった。記念行事がブエノスアイレス、パリなど縁の地で催されている。

 フリオは1914年のこの日、第一次世界大戦で動揺する欧州のブリュッセルで生まれた。父が外交官で、同地の亜国大使館に駐在していたためだ。

 亜国で教育を受け、1963年に代表作の小説『ラジュエーラ』(石蹴り遊び)を著す。小説の他、物語、詩、脚本、論文など幅広く執筆し、ボルヘスとともに亜国を代表する知識人となった。

 だが軍政に嫌われパリに去る。軍政に抗議する意味を込めて81年、フランスに帰化した。84年パリで死去した。

ベネズエラがキューバなどへの原油優遇輸出の現状を公表

 ベネスエラ中央銀行は8月25日、同国が優遇輸出している原油の39%はクーバ向け、と公表した。2000年以降、ベネスエラはクーバに17億ドルの借款を供与し、サービスおよび食糧3億7520万ドルと電気・電信事業向けの3億3200万ドルの無償援助を与えた。

 クーバは、原油代金のかなりの部分を、医師、看護師、教師、軍事顧問らベネスエラへの人材派遣で相殺している。

 ベネスエラは05年、カリブ連帯石油機構(ペトロカリーベ)を設立し、加盟18か国およびアルヘンティーナなど非加盟国に原油を安く提供してきた。その額は06~13年に計549億ドルにのぼる。

 クーバ以外では、亜国、ラ・ドミニカーナ、ジャマイカ、ニカラグアに多くの原油が渡されてきた。ガイアナ、ニカラグア、ラ・ドミニカーナ、ジャマイカなどは米、砂糖、食用油、カフェ、牛肉、牛乳、家畜、家畜のえさ、セメント原料など現物で代価を支払っている。

 ペトロカリーベの原油輸出は2011年以降、19%減少した。近年、代価の現金払いの比率が増えている。

 中銀が現時点で以上のような事実を敢えて公表したのは、マドゥーロ政権が7月発表したガソリン価格値上げ方針と無関係ではない。野党勢力から、ガソリン値上げ実施前に、対外原油優遇輸出を打ち切るべきだとの声が高まっている。政府はそこでまず、中銀に実態の一部をを明らかにさせた。

 ベネスエラの財政赤字は国庫に重くのしかかっており、政府は部分的な「経済調整」に着手している。チャベス時代のような、原油と石油外貨の大盤振る舞いは困難になっている。

【参考:月刊誌「世界」10月号(9月8日発売)掲載予定のベネズエラ情勢】

2014年8月25日月曜日

ラウール・カストロ議長の娘マリエーラ議員が法採決で独り反対票投ず

 キューバのラウール・カストロ国家評議会議長の娘マリエーラ・カストロ国会議員が昨年12月、国会(人民権力全国会議)での労働法採決の際、ただ一人、反対票を投じていたことが明かになった。

 理由は、法案に、性的少数派およびHIV感染者を差別しないことが明記されていなかったため、という。マリエーラは、性教育セントロ(CENESEX)所長でもあり、性的少数者保護運動の指導者。

 キューバは共産党一党制。党上層部が策定した法案を全国の党細胞で討議して修正し、最終法案を国会で審議し、満場一致で採択するのが習わし。
 
 マリエーラは最高指導者の娘で、フィデル前議長の姪。だからこそ「反逆できた」と言える。  

2014年8月24日日曜日

サパティスタの元マルコス副司令が商業メディア扱き下ろす

 メヒコのサパティスタ民族解放軍(EZLN)の顔だった「マルコス副司令」が5月25日に「マルコス副司令」であることを辞めてから3カ月経った。私は、彼が辞めた日はラパヌイ(パスクア島)にいた。事実を知ったのは、しばらくしてからだった。

 1994年元日の蜂起から20年を経て、サパティスタの組織や集落の大方の指導者たちは混血から生粋の先住民に替わった。一時代を画した「マルコス」は自分の役目は終わったと見て、「ガレアーノ副司令」と呼び名を替えて第一線を退いた。ガレアーノは、暗殺されたサパティスタ同志の名前からとった。
 
 退くに際して、「反逆し戦うのに指導者、大立者、救世主は要らない。少しばかりの羞恥、それなりの尊厳、十分な組織があればいい」と語った。

 8月10日、「ガレアーノ副司令」は姿を現した。サパティスタ支配地域の中心レアリダーで、独立メディア記者たちとの会合に出たのだ。「資本主義の下で、商業メディアは真実を伝えないことによって金を稼いでいる」と商業メディアを扱き下ろし、「今後サパティスタは、独立メディアとしか会わない」と語った。

 扱き下ろしの言葉は至言である。 

 

2014年8月23日土曜日

パレスティーナ人子供1000人受け入れたいと、ベネズエラ大統領

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月22日記者会見し、パレスティーナ人の子供1000人を引き取りたい、と述べた。べネスエラで教育を施し、帰国させる計画で、目下、受け入れ準備中という。

 大統領は、ガザ地区でのイスラエル軍による虐殺を命じたべンヤミン・ネタニヤフ首相を「ヘロデ」と呼び、糾弾した。ヘロデは聖書で、幼児キリストを殺すためベツレヘムで幼児全人の虐殺を命じたとされるユダヤの暴君。

 マドゥーロはまた、ベネズエラ人の基本食糧・食品の輸出を禁止するとし、25日に禁止品目を発表すると明らかにした。

 さらに、南米諸国連合(ウナスール)事務局長に22日就任した元コロンビア大統領エルネスト・サンペールを「支持する」と語った。サンペールは90年代半ば、大統領選挙戦のさなかに麻薬組織から巨額の選挙資金をもらったことから、内外で評判が芳しくない。

コロンビア軍とゲリラFARCがハバナで直接交渉

 ハバナで続けられているコロンビア和平交渉で8月22日、政府軍とコロンビア革命軍(FARC)が和平実現に向けて初めて直接交渉した。双方は「技術的小委員会」を設置し、ゲリラの武装解除と復員の問題を含め話し合った。

 会談後、FARC首席代表イバン・マルケスは、「双方が対等の立場で交渉に入った。これは異論の余地のない事実だ」と語った。

 また政府首席代表ウンベルト・デラカージェは、「和平交渉は決定的段階に入った」と述べた。

第20回フォロ・デ・サンパウロはラパスで開催

 フォロ・デ・サンパウロ(FSP、サンパウロフォーラム)事務局は8月22日、第20回FSPをラパスで25~29日開催すると発表した。ラ米カリブの左翼・進歩主義政党・団体180の代表が参加する。

 25~27日は、若者、アフリカ系市民、女性、域内左翼・進歩主義政党所属議員の4分野でタジェール(研究集会、ワークショップ)を開き、その育成、地位向上などを討論する。

 27日にはまた、オンドゥーラス2009年、パラグアイ12年の両クーデター、ベネスエラ14年の政権打倒狙った暴動など、合憲政府に対する帝国主義、右翼勢力による反転攻勢について分析する。

 その間、ボリビア副大統領アルバロ・ガルシア、同外相ダビー・チョケウアンカが演説する。

 29日には最終宣言を採択する。米国による対玖経済封鎖解除、亜国のマルビーナス諸島奪回、ボリビアの海への出口回復などへの支援を表明する。また、10月12日実施のボリビア大統領選挙に3選をかけて出馬するエボ・モラレス大統領を支持する。

 FSPは東西冷戦終結後の1990年、ブラジルの労働者党指導者ルイス・ルーラ(その後、大統領)が左翼・進歩主義政党の在り方を探るためサンパウロ市で始めた。

 当時、FSP加盟の政権党はクーバ共産党だけだった。現在ではクーバのほか、ブラジル、亜国、ウルグアイ、チレ、ボリビア、エクアドール、ベネスエラ、ニカラグア、エル・サルバドールに及んでいる。

アントニオ・スカールメタがチリ文学賞受賞

 チレ政府主催のチレ文学賞2014年受賞者に8月22日、アントニオ・スカールメタ(73)が決まった。代表作は、パブロ・ネルーダのカプリ島亡命期に題材を得た『燃え立つ忍耐』(1985)。後に『ネルーダの郵便配達夫』と改題、1994年「イル・ポスティーノ」(郵便配達夫)として映画化された。

 スカールメタはアントファガスタ市に生まれ、チレ大学哲学科を卒業。64年フルブライト奨学金で米コロンビア大学に学び、文学修士。帰国後、チレ大学哲学科教授。67年、物語『情熱』刊行。68年『屋根上の裸体』でアメリカス館賞受賞。
 

 アジェンデ社会主義政権時代には、人民連合の一角、人民・統一行動運動(MAPU)の党員だった。

 73年の軍事クーデター後、アルヘンティーナに亡命、次いで西ドイツに移る。奨学金を得て執筆や文化活動に従事。89年帰国し、サンティアゴにゲーテ協会を開いた。ここは作家らの集いの場となった。

 2000~03年、駐ドイツ大使。チレ文学界の長老格。
 
 

2014年8月22日金曜日

ニカラグアでのラ米カリブ学生会議終わる

 マナグアで8月18~21日、第17回ラ米カリブ学生会議(CLAE)が開かれた。ラ米カリブ大陸学生機構(OCLAE)主催で、域内26カ国から4000人が参加した。

 会議は、新しい変革的教育の重要性、域内学生の連帯、独立200年期にあるいま「第2の独立」を果たす意味、などが主要議題として討議され、決議された。

 社会主義クーバ支援、コロンビア和平交渉支持、プエルト・リーコ独立支持、パレスティーナとの連帯、も決議された。今会議は、昨年3月死去したベネスエラのウーゴ・チャベス大統領に捧げられた。今会議で初めて、ラ米カリブ中等学生会議と女子学生会議が並行して開かれた。

 閉会式ではニカラグアのダニエル・オルテガ大統領が演説し、「ベネスエラのニコラース・マドゥーロ現大統領を暗殺する陰謀がある」と警告した。オルテガは、「領土拡張主義者と覇権主義国が陰謀している。リビアのカダフィ政権が倒された時のようだ」と述べたが、詳細には触れなかった。

 会議には、オンドゥーラスのマヌエル・セラーヤ元大統領、コロンビアの人権活動家ピエダー・コルドバも出席した。

 ラ米学生会議は数々の政治指導者を生み出してきた。フィデル・カストロもハバナ大学生時代、クーバ代表としてラ米学生会議に出席している。 
 
 

ドクトル荻田政之助が集めたチョンターレス詩集『チョンタルの詩』を読む

 メヒコ南部のオアハカ州一帯に生きる先住民族チョンターレスの詩を編んだ『チョンタルの詩』を読んだ。ラ米の本が何千冊もある、とある部屋で偶然見つけた本だった。

 私は、それを手に取って驚き、感激した。何と、故・荻田政之助が収集した詩の訳詩集だったからだ。仁術歯科医で、メヒコの貧しい人々から「ドクトル荻田」と呼ばれ慕われていた荻田先生は、私のメヒコ時代に欠かせない何人かの日本人の一人だった。大変お世話になった。

 深夜、遅すぎる晩餐を御馳走になり、メスカルを飲みながら、チョンタルの詩について何度も話を聞いた。それが高野太郎の手によって本になったのだ。

 1981年11月に誠文堂新光社から出ていたのだが、ようやく手にして読んだのだ。

 1976年初め死去したドクトルにあらためて感謝の気持ちを捧げつつ、この詩集から一篇を紹介する。

 「歯の出る時うたう歌」

歯が出てきました
もう出てきました 私の歯
だから私はうたいます
だから歌をうたいます

レオンよ レオンよ
おまえの歯を私におくれ
私の歯をおまえにやろう
おまえの歯を私におくれ
私の歯をお前にやろう

おまえの歯は堅く 厚く 真っ白だ
おまえの歯で私は食べよう
そうして おまえは食べるのだ
私の歯で

2014年8月21日木曜日

ベネズエラ大統領がハバナでフィデル・カストロと会談

 クーバのフィデル・カストロ前議長は8月20日、ベネスエラのニコラース・マドウーロ大統領と19日会談したと、「真の友情」と題した新聞コラムで明らかにした。大統領は8月13日のフィデル88歳の誕生日にハバナに来られなかったため、19日に来訪したという。

 フィデルは、ベネスエラがパレスティーナ・ガザ地区に緊急援助物資12トンを贈ったことに触れて、その連帯を祝福した。イスラエル軍による同地区での虐殺については、「史上最も劇的な出来事の一つ」とし、「核保有国イスラエルは国際関係上、無責任だ」と指摘した。

 一方、マドゥーロ大統領は20日カラカスでフィデルに前日会ったことを明らかにし、フィデルが推進している「食糧革命」について語り合い、その実験現場をフィデルとともに訪れたと述べ、数枚の写真を公開した。

 またパレスティーナ問題で意見を交換した、と語った。

ブラジル社会党がマリーナ・シルヴァを大統領候補に決定

 ブラジル社会党(PSB)は8月20日、大統領候補に環境活動家マリーナ・シルヴァを決定した、と発表した。副大統領候補は、ベト・アルブケルケ下院議員。

 選挙は10月5日実施される。現時点でシルヴァは、世論調査で得票率1位で2選を狙うヂウマ・ルセフ現大統領とともに決選投票に進出する可能性が高い。そうなれば、この国で初めての女性候補同士の大統領選一騎討ちとなる。

2014年8月19日火曜日

ルセフ・ブラジル大統領再選戦略に狂い?

 ブラジル大統領選挙は10月5日実施される。ヂウマ・ルセフ現大統領(労働者党=PT)は再選を目指しているが、行方は混沌としてきた。ブラジル社会党(PSB)の副大統領候補だったマリーナ・シルヴァが出馬する可能性が出てきたからだ。

 最新の世論調査によると、シルヴァが出馬しない場合、第一回投票の得票率は1位ルセフ、2位アエシオ・ネヴェス(ブラジル民社党=PSDB)。決選投票では47%対43%でルセフが勝つ見通し。

 だが人気のある環境活動家シルヴァ出馬の場合、第一回投票ではルセフ36%、シルヴァ21%、ネヴェス21%で、決選ではシルヴァ47%、ルセフ43%で、シルヴァ勝利の公算が大きい。

 PSBの大統領候補エドゥアルド・カンポスはこのほど飛行機事故で死亡、シルヴァが代替候補として出馬する可能性が高まっている。

 シルヴァが出馬すれば、ルセフとシルヴァが得票3位以下の他党票をどれだけ自陣に引き寄せられるかが勝敗を分ける鍵となる。

ジュリアン・アサンジが「エクアドール大使館を出る」と語る

 エクアドールのリカルド・パティーニョ外相は8月18日、ロンドンの同国大使館で、館内亡命中のウィクリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏(43、豪州人)とともに記者会見し、館内滞在を2年2ヶ月間も余儀なくされてきたアサンジの健康状態について「深刻なようだ」と述べた。

 アサンジは最近、不整脈、高血圧、肺疾患で医師の診断を受けたとの情報が流れている。記者団から大使館を離れるかどうかを訊かれたアサンジは、冗談めかして「早急に大使館を出る」と答えた。だが次期や将来計画には触れなかった。

 外相は、英国の身柄引き渡しに関する法律が改正され、起訴されていない者の身柄は第三国に引き渡されないことになった、と述べた。

 アサンジは、スウェーデン当局から女性2人に暴行した疑いで国際手配されている。エクアドール政府は再三、在英大使館内で事情聴取するようスウェーデン政府に要請してきた。だが同国検察は、これに応じていない。

 アサンジは、身柄がスウェーデンに引き渡されば、米政府の膨大な外交機密情報をウィキリークスで暴いた罪で身柄を米国に送られると警戒し、エクアドール大使館に亡命した。

 エクアドール政府は、アサンジが完全に自由の身になるまで亡命者として安全を保障する、との立場を変えていない。

2014年8月17日日曜日

クーバ詩人レイーナ・ロドリゲスがパブロネル-ダ・イベロアメリカ詩賞受賞へ

 チレ政府主催の第11回「パブロ・ネルーダ=イベロアメリカ詩賞」(2014年度)受賞者に、クーバ人レイーナ=マリーア・ロドリゲスが決まった。ロドリゲスは8月16日サンティアゴ入りし、政庁で18日、ミチェル・バチェレー大統領から賞状、メダル、賞金6万ドルを渡される。

 1952年生まれの彼女は、ハバナ大学文学部を卒業。詩集『ロス夫人の写真』(09年)、散文詩『旅』(94年)、小説『象に触るための三つの方法』(06年)など詩集と著作多数。昨年、クーバ詩人賞を受賞したほか、アメリカス館賞など、さまざまな賞を受賞してきた。

 ロドリゲスは23日までのチレ滞在中、イズラネグラ、セバスティアーナ(バルパライソ)、チャスコーナ(サンティアゴ)の旧ネルーダ邸(博物館)を訪れ、ネルーダの作品を朗読する。

 またネルーダが少年期を過ごした南部のテムーコ市に行き、1949年に時の政府から迫害されたネルーダがアンデス山脈を越えてアルヘンティーナに脱出した「逃避行路」の一部を辿る。同市にある国立パブロ・ネルーダ鉄道博物館も訪れる。ネルーダの父は、蒸気機関車の運転士だった。

 このイベロアメリカ詩賞はこれまでに、ホセ=エミリオ・パチェコ(メヒコ、04年)、フアン・ヘルマン(亜国、05年)、エルネスト・カルデナル(ニカラグア、09年)、ニカノール・パラ(チレ、12年)らが受賞している。クーバ人としては3人目。

2014年8月16日土曜日

ハバナでのコロンビア和平交渉に内戦犠牲者が参加

 コロンビア内戦の犠牲者代表60人の第1陣12人が8月15日、ハバナに到着した。政府とコロンビア革命軍(FARC)による和平交渉は12日、第4議題の「内戦犠牲者への賠償」に入った。到着した12人は交渉の場で16日証言し、17日帰国する。

 12人は、政府軍による犠牲者4、同準軍部隊AUC2、同FARC5、その他1。残る48人も12人ずつ4回に分けて交渉に参加する。

 一昨年11月に始まった和平交渉は、農地改革、ゲリラ復員、麻薬の3議題が部分的合意を得ている。犠牲者への賠償の次には、最終議題の「和平達成」が来る。 

キューバ・バヤモの蠟人形館にガルシア=マルケスが登場

 クーバ東部のバヤモ市にある蠟人形館に、4月死去したコロンビア人文豪ガブリエル・ガルシア=マルケス(ガボ)の等身大の人形が展示された。シャツもズボンも白。椅子に腰かけ瞑想している姿を描いてある。衣服は生前着ていたもので、ガボの遺族から寄贈された。

 ガボと親交のあったクーバ革命の指導者フィデル・カストロが8月13日、88歳の誕生日を迎えたのに合わせて展示された。

 ガボは、フィデルの率いた反乱軍が革命戦争に勝利した1959年1月、ハバナを訪れ、発足したばかりの通信社プレンサ・ラティーナの記者になった。2年余り滞在し、61年メヒコに去った。

 制作者はラファエル・バリオスと、その息子2人。館内には既に、偉人ホセ・マルティ、歌手ベニー・モレ、米人作家アーネスト・ヘミングウェイらの蠟人形が展示されている。

キューバが米政府の反体制工作で国連に抗議文書提出

 クーバ国連代表部は8月14日、米国際開発局(USAID)による内政干渉を糾弾するクーバ外務省の文書を国連文書として公開するよう、国連事務総長に要請した。クーバが加盟する米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)の付帯声明も併せて総長に渡された。

 USAIDは、ラ米の青年たちに手当を払いクーバに旅行させ、クーバの若者たちに反体制運動に関与するよう働きかけさせていた。AP通信の報道で暴露され、米連邦議員も、このUSAIDの秘密活動を認めている。 

パナマ運河庁が、さらなる運河拡張を構想

 パナマ運河庁(ACP)のホルヘ・キハーノ長官は8月15日、同運河開通100周年に際して記者会見し、現在工事中の閘門式第3水路とは別に、一層規模の大きな運河拡張の可能性を検討している、と明らかにした。

 現行の2水路、および第3水路はいずれも閘門3式型だが、新たな構想は閘門4式型になるという。

 長官は別途、中国港湾工事会社(CHEC)が新構想に沿った設計、建設、融資に関心を示している、と語っている。

 近隣のニカラグアは香港企業と組んで「大ニカラグア運河」の建設工事を年末に開始すると表明している。キハーノ発言が、パナマ運河第3水路より規模の大きいニカラグア運河計画を意識したものであるのは疑いない。 

2014年8月15日金曜日

パナマ運河が通航開始100周年迎える

 パナマ運河は8月15日、通航開始100周年を迎えた。太平洋側の出入り口バルボア港のあるパナマ市と、大西洋カリブ海側の出入り口クリストーバル港のあるコロン市を中心に記念行事が催されている。

 コロンビア領だったパナマは、米国の軍事圧力を背景に独立。米国は、スエズ運河建設者フランス人レセップス失敗したパナマ運河建設を引き継ぎ、閘門式を導入して1914年、第1次世界大戦開戦後の8月15日、完成させた。

 運河と両側の帯状の運河地帯は米国の支配下に置かれていたが、第二次世界大戦後、クーバ革命を経て、パナマに民族主義が高まった。64年には運河奪回を求める大学生らが運河地帯に入り、パナマ国旗を掲げようとして米軍に射殺される重大事件も起きた。

 1968年10月軍事クーデターで政権に就いた国家警備隊の司令官に収まったオマール・トリホス将軍は果敢な運河奪回闘争を開始し、77年、カーター米大統領との間で新運河条約を結んだ。その結果、運河は1999年12月31日正午、パナマに返還されることになった。だがトリホス将軍は81年、CIA関与が濃厚な陰謀で、ヘリコプター機上で爆殺された。

 ブッシュ米政権は89年12月、パナマを軍事侵攻しノリエガ将軍が率いていたパナマ軍を壊滅させた。将軍の身柄を米国に拉致連行し、後続のパナマ政権に、米国による非常時の運河支配継続を認めさせた。この米軍による大規模侵攻で、最大推計8000人のパナマ人が殺された。

 ブッシュは、息子ブッシュ(後の大統領)のパナマでの放蕩の証拠握るノリエガ将軍を排除し写真などの証拠を破壊する目的も込めて軍事侵攻したとの見方が、米国人らから打ち出されている。

 21世紀に入り、故トリホス将軍の息子マルティンが閘門式第3水路建設を決め、現在工事が進行中。当初、開通100周年の今頃には新水路も開通しているはずだった。だが工事は遅れ、現時点では16年1月通航開始の見込み。

 日本の通航量は米国、中国に次ぎ第3位。

 私は1972年、トリホス将軍の計らいで、外国人記者団の一員として、パナマ市から運河鉄道でコロン市に行き、貨物船で運河を通ってパナマ市に戻った。最近ではピースボート船上講師として7~8回通航した。
 

南米諸国連合事務局長にサンペール元コロンビア大統領就任へ

 ウルグアイ外務省は8月14日、南米諸国連合(ウナスール)外相会議を22日モンテビデオで開き、エルネスト・サンペール元コロンビア大統領を同連合事務局長に正式に指名する、と発表した。

 当初、ウナスール首脳会議を22日同地で開き、イスラエル軍のパレスティーナ・ガザ地区侵攻・虐殺問題を討議することになっていた。だが出席を表明した首脳が3人だけだったため、ウルグアイのホセ・ムヒーカ大統領が首脳会議開催中止を決めた。

 出席を予定していたチレのミチェル・バチェレー大統領は、併せて予定していたウルグアイ公式訪問を延期した。首脳会議は10月に開催される。

 今外相会議で、ウナスール輪番制議長国はスリナムからウルグアイに移る。事務局長はこれまで、ベネスエラのアリー・ロドリゲスが任期満了後も、後任が決まらないため務めてきた。

 サンペールは90年代半ばの大統領選挙戦のさなか、カリ麻薬マフィアから巨額の選挙資金をもらったことから就任後、弾劾される危機に陥ったこともある。「ナルコプレシデンテ」(麻薬大統領)とののしられ、内外での評判は今も芳しくない。

 このため、ウナスールの最も重要な地位に就任することに対する非難、異論が高まっている。 

ペルーで鉱山開発による環境破壊めぐり国際会合開く

 ペルー北部のカハマルカ県内のエル・タムボ村で8月4~6日、第1回「水と母なる大地を守る人民」国際会合が開かれた。コンガ鉱山開発で湖水の水質汚染など環境破壊が問題化している現地の村が会合場所に選ばれた。

 会合には、多数の地元農民らペルー人のほか、チレ、コロンビア、アルヘンティーナ、メヒコ、オランダ、フランス、バスコ、カタルーニャから代表団が参加した。

 会合は、ペルーの行政、立法、司法、検察、警察、マスメディアがすべて大企業と環境破壊の味方だ、と糾弾した。環境破壊を摘発していた地元指導者グレゴリオ・サントスが投獄された事実も報告された。

 会合は「エル・タムボ宣言」を採択。「水を守る国際網構築」などを謳った。参加者は、村人とともに、鉱山開発に伴うダム建設工事で汚染されているアスール、エル・ペロル両湖を視察した。

 8日には、リマの国会で記者会見が開かれ、会合の結果と問題点が報告された。 

2014年8月14日木曜日

ボリビア大統領がイスラエルのガザ侵攻で米大統領を非難

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は8月13日、バラク・オバーマ大統領は初の黒人米大統領でありながら、人種差別主義者にして虐殺実行者のイスラエルに教訓を与える機会を失った、と強調した。

 モラレスはコチャバンバ市での「南米諸国連合(ウナスール)地域統合における市民参加フォロ(フォーラム)」の開会式で演説した。「ノーベル平和賞受賞者が最大の戦争遂行者になってしまったのは歴史の皮肉だ」と、オバーマを非難した。

 さらに、イスラエルは米国の武器、資金、外交によって侵略行動をとっていると指摘。「無関心を決め込んでいる欧州の目と鼻の先で共犯両国(米・イスラエル)が虐殺を続けるなどということは在ってはならないことだ」と、欧州をも非難した。

故チャベス大統領の二女がベネズエラ国連大使に任命さる

 ベネスエラ外務省は8月13日、故ウーゴ・チャベス前大統領の二女マリーア=ガブリエーラ・チャベスを国連駐在共同大使に任命した。サムエル・モンカーダ大使を補佐し、国連を通じてチャベス思想を国際社会に広める役割を担う。

 マリーア=ガブリエーラは、2002年4月のチャベス打倒クーデターの最中、携帯電話で当時のフィデル・カストロ玖議長と連絡を取りクーデターを失敗に終わらせるのに貢献するなど、政治的行動に長けている。

 チャベスの長女ロサ=ビルヒニアはホルヘ・アレアサ副大統領の妻で、視力回復政策「ミシオン・ミラーグロ」の代表を務めている。

 長男ウーゴは<ノンポリ>で、チャベス存命中からほとんどメディアに登場していない。他に三女ロサ=イネース(ロシーネス)がいる。

ブラジル社会党の大統領候補が事故死

 ブラジル社会党(PSB)の大統領候補エドゥアルド・カンポス(49)が8月13日、自家用セスナ機の墜落事故で死亡した。操縦士を含む他の搭乗者6人も死亡した。

 この飛行機はリオデジャネイロ空港を離陸しサンパウロ空港に向かっていたが、大西洋岸のサントス市の住宅街の家屋の屋根に墜落、炎上した。

 大統領選挙は10月5日実施される。世論調査でカンポスは、ヂウマ・ルセフ大統領(労働者党=PT)、セレソ・ネヴェス(ブラジル民社党=PSDB)に次ぎ3位に付けていた。

 PSBの副大統領候補マリーナ・シルヴァが大統領候補になるか否かが、にわかに注目されている。ルセフ大統領は13日、選挙運動を中断し、3日間の国喪を宣言した。 
  

2014年8月13日水曜日

フィデル・カストロ前議長が88歳の日迎える

 クーバのフィデル・カストロ前国家評議会議長が8月13日、満88歳の誕生日を迎えた。

 フィデルは政府、共産党、軍、国会の公職から離れているが、「クーバ革命の指導者」の名誉称号を与えられている。

 1953年7月26日、サンティゴ市内にある陸軍モンカーダ兵営を襲撃した。攻略には失敗したが、来るべき革命の狼煙を上げることには成功した。

 亡命地メヒコで亜国人旅行者エルネスト・ゲバーラと出会い、「チェ」と呼んで、仲間に加えた。ゲリラ戦の準備を整え、56年11月、クルーザー「グランマ」でトゥースパン港を出航し、12月2日、クーバ島東部の海岸に上陸する。

 その後、マエストラ山脈に立て籠もって革命戦争の指揮をとり、59年元日のフルヘンシオ・バティスタ逃亡をもって、革命戦争
は勝利した。

 以後、幾多の試行錯誤を経て、72年7月、ソ連圏の経済相互援助会議(コメコン)に加盟し、経済を安定させた。

 76年、政治体制をソ連化し、それまでの革命軍最高司令官(元帥級)、共産党第一書記に加え、国家評議会議長(国家元首)兼閣僚評議会議長(首相)の地位に就いた。

 社会主義クーバは政権両面の安定期に入ったが、80年、不満派12万5000人が米国に出国する。

 80年代半ば、ソ連共産党書記長にミハイル・ゴルバチョフが就任すると、玖ソ関係に隙間風が吹き始めた。

 89年12月、ベルリンの壁崩壊を経てコメコンは崩壊、米ソ首脳は東西冷戦終結を宣言する。ソ連も91年末に消滅した。

 援助源を失ったクーバ経済はどん底に陥る。90年代は、革命体制死守のための超耐乏生活の時代となる。背に腹は代えられず、米ドルなど外貨の合法化、外資導入、観光産業重視と、改革政策に着手する。

 99年2月、ベネスエラにウーゴ・チャベス大統領の革新政権が登場すると、石油がクーバに入るようになり、クーバ経済は一息つく。

 経済はやがてソ連時代末期の水準まで戻り、その後は徐々に成長期に入る。ところが06年7月、腸内出血で倒れ、実弟ラウール・カストロらに政権を委譲する。

 08年、正式に議長・首相の地位をラウールに譲る。ラウールは遠慮して最高司令官の地位には就かず、上級大将の地位に留まって革命軍を指揮するようになる。

 11年4月、第6回共産党大会で、第一書記の地位もラウールに譲った。これで政界から完全に身を引いた。ラウールの施政には、相談を持ちかけられた場合を除いて、一切、口を挟まないことにしている。

 新聞コラム、伝記、戦記の出版、外国要人との会談などで、しばしば話題になる。

 生地オルギン州ビラーンの再建された家(史跡、博物館)は今、新たに修復されている。

 全国で88歳の祝いの行事が展開されている。 
  


 

ガザ地区支援物資積んだベネズエラ輸送機が出発

 ベネスエラ軍C130輸送機が8月12日、イスラエル軍の大規模侵攻で破壊されたパレスティーナ・ガザ地区に贈る人道支援物資12トンを載せてカラカス空港を飛び立った。「72時間停戦」を機に支援作戦を開始した。

 空港での出発式で、エリーアス・ハウーア外相と、パレスティーナのリアド・マルキ外相が挨拶した。ハウーア外相は、輸送機はエジプトの空港に向かうと明らかにし、同国の協力に感謝した。外相は先ごろエジプトを訪れ、協力を依頼していた。

 マルキ外相は、「地理的にはるか遠く人民同士は近いベネスエラ」による多大な支援と連帯に感謝の意を表した。また、この連帯が「ボリバリアーナ革命を指導した故ウーゴ・チャベス大統領の賜物だ」と賛辞を送った。

 同外相は、イスラエル軍侵攻により、児童ら未成年者460人を含む1940人が殺され、家屋1万1000戸が全壊、3万2000戸が半壊、17病院が破壊された、と述べた。

 ハウーア外相は、次いで15トンの支援物資を積んだ第2便が出発すると明らかにした。輸送機の尾翼には、シモン・ボリーバルの肖像、ALBA(米州ボリバリアーナ同盟)の文字、ベネスエラ、クーバ、ボリビア、エクアドール、ニカラグア、およびカリブ4カ国のALBA加盟9か国の国旗が描かれている。

 援助物資は、医薬品、食料、テント、衣類、靴、寝具など。クーバ人医師らが搭乗している可能性がある。 

2014年8月12日火曜日

FARC最高幹部が「年内の和平は困難」と表明

 コロンビア革命軍(FARC)の最高指導者ロドリーゴ・ロンドーニョ(ティモチェンコ)は8月11日、地下声明を発表し、コロンビア政府との和平合意調印は年内は困難、との見通しを示した。双方はハバナで和平交渉を続けている。

 ロンドーニョは、交渉の枠内で8月21日「歴史委員会」が設置され、4か月かけて内戦過程を再現し、犠牲者について討議すると明らかにした。これが年末までかかり、さらに他の重要議題も残されていることから、年内の調印は難しいと表明した。

 停戦については、FARCと政府軍が同時に停戦するなら応じる、と述べた。政府は、同時停戦を拒否してきた。 

チリ大統領がマンデーラ幽閉地、南ア・ロベン島を訪問

 チレのミチェル・バチェレー大統領は8月8日プレトリアで、ジェイコブ・ズマ南アフリカ大統領と会談した。9日にはケープタウンで、故ネルソン・マンデーラ大統領の夫人グラサ・マシェルと会談した。

 グラサは、旧南ア白人政権諜報機関によって暗殺された、モサンビークのサモラ・マシェル大統領の夫人だった。

 バチェレーは10日、ケープタウン沖ロベン島の刑務所跡を訪れ、マンデーラが18年間拘禁されていた独房を視察した。刑務所跡は現在は博物館になっている。

 大統領は11日、モンサンビークの首都マプートに到着した。12日、アルマンド・ゲブーザ大統領と会談する。12日にはルアンダで、アンゴラのエドゥアルド・ドサントス大統領と会談する。 

 この旧ポルトガル領両国訪問の狙いは、両国の石油・天然ガスの輸入などについて話し合うため。 

 バチェレーは今回のアフリカ3国歴訪に際し、アフリカ連合(AU)本部のあるエティオピアの首都アディスアベバに大使館を開設する方針を明らかにしている。

2014年8月11日月曜日

LATINA9月号「ラ米乱反射」は「ゴーギャンとラテンアメリカ」

◎伊高浩昭執筆記事および関係記事掲載状況お知らせ

★月刊LATINA誌9月号(8月20日刊)

 「ラ米乱反射第101回」-「ポール・ゴーギャンとラテンアメリカ」---ゴーギャンの晩年のタヒチ行きの原点は、幼児期に過ごしたペルーの記憶だった。リマとタヒチでの取材を基にまとめた。

☆書評:『伊達侍と世界をゆく』写真・篠田有史、文・工藤律子、河北新報社--400年の歴史の時空を追体験

☆書評:『ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件』中村一成著、岩波書店--醜悪なヘイト犯罪と当局対応の実態を暴く力作

★週刊金曜日8月1日号書評欄:下嶋哲朗執筆「救世主と夢想家のハイブリッドは<裸の王様>」-- 『ウーゴ・チャベス ベネズエラ革命の内幕』(ローリー・キャロル著、伊高浩昭訳、岩波書店)の書評

☆NHKラジオ西語講座テキスト8月号(7月刊)-『ウーゴ・チャベス』(同上)の新刊紹介

★季刊誌「友 Iwanami Hall 夏」-伊高浩昭執筆・映画「ワレサ 連帯の男」評 

ペルーの政治家ヘンリー・ピース死去

 ペルーの穏健左翼の政治家ヘンリー・ピース(69)が8月9日、リマ市内の病院で死去した。1990年の大統領選挙に統一左翼(IU)の候補として出馬し、第一回投票で敗れた。この選挙では、アルベルト・フジモリが当選した。

 トレード政権下の2003~04年、国会議長を務めた。かつては共産党系左翼だったが、トレードの「可能なペルー」党に歩み寄り、代表も務めた。カトリック大学の教授でもあった。

 私は1980年代末、大統領候補だったピースにリマでインタビューした。少し斜に構えるところのある、神経質な知識人、という印象だった。

ベネズエラで第1回社会主義労働者全国会議開く

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月9日、バルガス州都ラ・グアイラでの第1回社会主義働者全国会議で開会演説し、生産、押収物資配分、価格調整、補助金配分、密輸問題などを討議するよう労働者に呼び掛けた。会議は11月まで続く。

 大統領は「社会主義生産における労働者の役割の見直し」を図るとして、「労働者も経済戦争に参加し、ブルジョア階級が廃棄した工場や生産現場」を占拠するよう促した。この占拠行動は、政府が全面的に支援するという。

 マドゥーロは、政庁内に来週、「労働者階級人民政府理事会」を設置する、とも述べた。生産、価格、補助金問題を話し合い、決定する機関になる。

 さらに、「調整が必要な分野では調整する」と言い、補助金廃止によるガソリン価格値上げ方針への支持を訴えた。

2014年8月10日日曜日

ベネズエラが密輸防止のためコロンビア国境を夜間閉鎖へ

 ベネスエラ政府は8月9日、コロンビアとの国境を11日から夜間閉鎖することを決めた。密輸防止のためで、カルタヘーナで1日実施された両国首脳会談で合意されていた。

 今年既にベネスエラからコロンビアに密輸されようとしていた石油4000万リットル、食糧2万1000トンが国境地帯で押収されている。べネスエラではガソリンは、乗用車1台の油槽をいっぱいにして1ドル程度。コロンビアでは1リットルが1・18ドルする。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は7月末の政権党大会で、ガソリン値上げの方針を発表している。

 大統領は9日、国境で密輸を取り締まる「国境民・軍司令部」の司令官に、ホルヘ・アレアサ副大統領を任命した。アレアサは、故ウーゴ・チャベス前大統領の女婿。

フィデル・カストロがパレスティーナ支援声明に署名

 「クーバ革命の指導者」の名誉称号を持つフィデル・カストロ前国家評議会議長は8月9日、「人類防衛網」(REDH)が4日付で発表した「パレスティーナ防衛」のための声明に署名した。

 既に50カ国の34万人が署名している。REDHはボリビアのエボ・モラレス大統領が創設し、ラパスに本部がある。

 モラレスは7月30日、イスラエルを「テロリスト国家」に指定した。

2014年8月9日土曜日

キューバ人医師団がエクアドールに新たに到着

 エクアドール(赤道国)に8月8日、クーバ人医師団約200人が到着した。玖赤間の医療協力協定に基づくもので、国内各地で診療に当たる。

 6月までに最初の医師団200人が到着し、すでに活動している。エクアドールに展開するクーバ人医師団は、最終的には1000人となる。

米国務省がアルゼンチンの提訴に応じないと表明

  米国務省は8月8日、国際司法裁判所はアルヘンティーナの主張について話し合うべき適切な場ではないとして、亜国政府が同裁判所に対し7日行なった提訴を受け入れない考えを明らかにした。

 ホワイトハウスは公式には、この提訴を拒絶していないが、事実上、拒絶したことになる。

ラ米知識人らがイスラエルと米国を糾弾

 ボリビアのラパスに本部を置く「人類防衛網(ネットワーク)」(REDH)は、イスラエル軍によるパレスティーナ・ガザ地区への侵攻と虐殺を前に、「イスラエルによるテロリズモと米帝国主義」を糾弾する声明を8月4日付で発表した。

 声明はまず、REDH創設者であるエボ・モラレス大統領が7月30日「イスラエルはテロリスト国家だ」と規定したことへの賛同を表明。パレスティーナ人民に連帯し、イスラエルの暴挙を支援している米国の帝国主義の役割を糾弾する、としている。

 米国は歴史的に偽善と冷笑主義をもってラ米、アフリカ、ユーラシアの人民を介入と制裁によって脅してきた、と指摘。欧州連合(EU)諸政府の共犯性と、米政府の言い分に従っている国際寡占メディアを糾弾している。

 その上で、「テロリスト国家イスラエルへのボイコット、投資打ち切り、制裁への賛同を求める」と呼び掛けている。また、パレスティーナにおける人種隔離、虐殺、壁建設、ユダヤ人不法居住地拡大を無くすこと、を要求している。

 さらに、イスラエル軍のパレスティーナからの完全撤退と、1967年戦争前の国境に国境線を戻すよう、訴えている。

 故ネルソン・マンデーラの「我々の自由は、パレスティーナの自由なしには不完全だ」との言葉を共有しよう、と呼び掛けている。

 両国家が話し合いによって、国際的に認知された国境線を定めて共存すべく訴える、と強調している。

 最後は、「イスラエルは倫理を失った。世界は、そんなならず者(カナージャ)国家を糾弾すべきだ」と結んでいる。

 声明には、ラ米を中心に北米、欧州、マグレブの知識人多数が署名している。ラ米はエボ・モラレス大統領を筆頭に、亜国人ノーベル平和賞受賞者アドルフォ・ペレス=エスキベル、ウルグアイ人作家エドゥアルド・ガレアーノ、メヒコ人教授パブロ・ゴンサレス=カサノバ、元オンドゥーラス大統領マヌエル・セラヤらが署名している。

 クーバ人は、ラス・アメリカス館長ロベルト・フェルナンデス=レタマール、歌手シルビオ・ロドリゲス、知識人・作家協会長ミゲル・バルネー、国立バレエ団長アリシア・アロンソらが署名している。

 このほか、チレ人作家マルタ・ハーネッカー、コロンビア人平和活動家ピエダー・コルドバ、米国系ベネスエラ人エバ・ゴリンジャー、エクアドール人映画監督パブロ・グアヤサミーン、メヒコ人作家パコ=イグナシオ・タイボらの署名もある。

 ハバナに本部のあるアジア・アフリカ・ラ米3大陸人民連帯機構(OSPAAAL=オスパアール)、カラカスに本部のある「国際3大陸連帯機構」、ブラジルの土地無し運動(MST)など団体も署名に加わっている。
  
  

2014年8月8日金曜日

アルゼンチンが債務返済判決問題で国際司法裁に米国を提訴

 アルヘンティーナは8月7日、国際司法裁判所に米政府を提訴した。米法廷が亜国主権を侵害するのを許し、かつ、そのことによって亜国の対外債務再建策を妨害した、というのが理由。

 ハーグの同裁判所は、この訴訟が成立するには、米政府の同意が必要だと述べた。

 ニューヨークの米連邦裁判所判事トマス・グリエサは先ごろ、一部債権者の言い分を容れて、亜国政府に約16億ドルの債務返済を命じ、亜国の債務再建策に応じた債権者への支払いを停止させた。これにより、亜国に、不本意にも「債務返済不履行」状態が生じた。

 同判事はさらに8月6日、亜国政府が再建策に応じた債権者に支払うためニューヨーク銀行の口座に入れていた5億3900万ドルを差し押さえた。これを受けて亜国政府は、ハーグでの提訴に踏み切った。

 亜国によると、米国のNMLエリオットとアウレリウスの両「禿鷹ファンド」は2008年に亜国の不良債券を債権者から4800万ドル買い、その元本と利子の合計額として今、16億ドルの支払いを要求している。

 亜国のCFK大統領は、米政府が容認しなければ法廷審理はなく、判事の判決もなかった、として、米政府を訴えた。

サントス・コロンビア大統領が2期目に就任

 コロンビアのフアン・サントス大統領が8月7日、連続2期目に就任した。任期は2018年までの4年間。サントスは5月25日の大統領選挙で得票2位に甘んじて6月15日の決選に臨み、右翼野党候補に逆転勝利した。

 大統領は就任演説で、2012年11月から続けてきたゲリラ・コロンビア革命軍(FARC)との和平交渉の完遂が最大目標と確認した。だがFARCは6月、FARC発足50周年を機に一大攻勢をかけている。サントスは、「和平交渉の進展と矛盾する。交渉を阻害してはならない」と警告した。

 国会議事堂での就任式を、アルバロ・ウリーベ前大統領(上院議員)以下、大統領選挙で敗れた右翼野党「民主中心」(CD)は欠席した。ウリーベは和平交渉に反対している。

 式典には、ペルー、エクアドール、メヒコ、パラグアイ、グアテマラ、オンドゥーラス、パナマ、ラ・ドミニカーナの大統領、ブラジル、ウルグアイの副大統領、チレ前大統領、スペイン前国王、ハイチ首相、クーバ副議長、欧州理事会議長、米州諸国機構(OEA)事務総長らが出席した。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は欠席したが、一日カルタヘーナでサントスと会談している。

2014年8月7日木曜日

ロシアが南米4国と食料輸入拡大で交渉か

 ロシア政府は8月7日、欧米豪などからの生鮮食料品の輸入を停止した。ロシアからの情報によると、同国は代替輸入先としてエクアドール、ブラジル、チレ、アルヘンティーナの南米4国からの食料品輸入を増やす交渉を7日にもモスクアで開始する。

 ウラディーミル・プーチン露大統領は7月、ラ米4カ国歴訪で伯亜両国を訪れている。

エクアドール大統領がイスラエル訪問を中止

 エクアドールのラファエル・コレア大統領は8月6日、今年後半に予定されていたイスラエル公式訪問を、同国軍のパレスティーナ侵攻による大虐殺ゆえに中止した、と発表した。

 7月上旬からのイスラエル軍侵攻で、子供400人を含む2000人が殺され、1万人が負傷している。コレア大統領は7月逸早く、イスラエル駐在大使を召還している。

 またリカルド・パティーニョ外相は同日、パレスティーナにエクアドール大使館を開くことになった、と明らかにした。

2014年8月6日水曜日

ベネズエラが在米製油所CITGO売却へ

 ベネスエラ石油相兼PDVSA(国営石油会社)社長ラファエル・ラミーレスは8月5日、PDVSAの在米子会社(製油所)CITGOを「適切な時期に適切な価格で売却する」と発表した。

 ラミーレスは、ベネスエラの原油開発開始100周年に因む式典で演説し、CITGOの価格は政府の見積もりでは100億ドルだが、交渉に応じる、と述べ、しかし急がない、と付け加えた。

 CITGO売却は、国営企業の民営化に他ならない。マドゥーロ政権が、苦境にあるベネスエラ経済を建て直すため、新自由主義的な「調整」政策を導入し始めた、と捉えることも可能だ。

 ラミーレスはまた、故ウーゴ・チャベス前大統領による石油資源国有化策によって、2003年から10年間に総額5100億ドルの石油収入があった、と明らかにした。

 ラミーレスは、経済担当副大統領でもある。だが副大統領としての行政権限は持たない。
 

アルゼンチン「五月広場の祖母たち」のエステーラ・デ・カルロット会長の孫見つかる

 「五月広場の祖母たちの会」のエステーラ・バルネス=デ・カルロット(83)の孫息子がついに見つかった。孫のギド(36)は、誕生後間もなく、当時の軍政によって軍政関係者に与えられ、以来「行方不明」とされていた。

 ギドは、育て親から「イグナシオ」と名付けられていた。音楽家で、ブエノスアイレス州内の音楽学校長をしているが、自分の生い立ちに疑念を抱き、「祖母たちの会」と連絡を取りながら、DNA鑑定を受けていた。その結果が8月5日、祖母のエステーラによって発表された。自分がエステーラの孫と知るや、仰天したという。

 ギドの母親は、エステーラの娘ラウラ。妊娠中のところ、連れ合いで、ペロン派極左モントネロスの同志オスカル・モントヤとともに1977年11月、軍政に拉致された。オスカルは拷問されたのち殺害された。ラウラはギドを生んで2か月後の78年8月下旬、殺害され、遺体は軍政からエステーラに引き渡された。孫が生まれた事実を知ったエステーラは、自分の夫の名前ギドを孫に命名し、36年間捜し求めてきた。

 その年「祖母たちの会」に入会したエステーラは、89年に会長になる。必死の努力で113人の孫たちを発見してきた。ギドは114人目となった。

 エステーラは記者会見で、「孫を抱擁するまでは死ねない、と決意していた」と喜びを語りながらも、「まだ400人もの孫たちがいる。これからも探し続けていく」と語った。

 亜国のクリスティーナ・フェルナデス=デ・キルチネル(CFK)大統領は、エステーラに電話を掛けたとたんに号泣し、エステーラとともにしばし泣いたという。国中が感動に包まれている。

 故ネストル・キルチネル前大統領と、妻のCFK大統領は、国家予算で「祖母たちの会」を支えてきた。

 ギドは、ブエノスアイレス州内の農園で育てられた。結婚しており、子供が二人いる。エステーラの曾孫である。

 連れ合いだったオスカルの祖母は、サンタクルス州内に住む。91歳の彼女もギドと会うのを待っている。

【参考】私は昨年1月末ブエノスアイレスでエステーラにインタビューし、LATINA2013年7月号の「ラ米乱反射」に書いた。参照されたい。その時、私に同行した、BA在住の映画監督ミリアム・アンゲイラから今朝、「エステ-ラの孫発見」の喜びを伝える電郵(イーメイル)が届いた。
 

2014年8月5日火曜日

米国際開発局がキューバで反体制活動促す

 米国際開発局(USAID)は、社会主義クーバの青年らに「民主運動」を起こさせるため援助してきた、と7月4日、AP通信が報じた。「民主運動」は、反体制活動を意味する。

 それによると、USAIDはたとえば2009~11年、ワシントンに本部を置くクリエイティヴ・アソシエイツ・インターナショナル(CAI)社を通じ、ラ米諸国の若者たちをクーバに送り込み、エイズ対策活動などの場でクーバの若者らに接触させていた。

 ベネスエラ、コスタ・リーカ、ペルーなどの青年十数人が送り込まれた、という。派遣された青年たちは防諜訓練を特に受けているわけではなく、クーバの諜報機関に摘発される危険性があるという。

 反カストロ派クーバ系右翼の共和党下院議員イレアナ・ロスレティネンは、USAIDがそうした支援活動をしているのは秘密でもなんでもない、と語っている。

影が薄かった安倍首相のラ米・カリブ歴訪

 安倍首相のラ米・カリブ(LAC)5カ国歴訪は、ラ米メディアの報道ぶりや国際通信社の分析記事の有無などを見る限りにおいて影が薄かった。

 直前にウラディーミル・プーチン露大統領がクーバ、ニカラグア、アルヘンティーナ、ブラジルを歴訪し、習近平中国主席がブラジル、アルヘンティーナ、ベネスエラ、クーバを歴訪した。首相はメヒコ、トゥリニダード・トバゴ(TT)、コロンビア、チレ、ブラジルを歴訪した。中露首脳と同じなのは、訪伯だけだった。

 国際報道上、影が薄かった理由として考えられるのは、中国の存在が既に大きすぎ、日本の存在がかすんで久しいことが挙げられる。中国は新華社の多言語サービスを通じ、自国の立場を常に強調し、安倍政権の右傾化や復古主義を厳しく批判してきた。これがLACで広く報道され、中国に有利、日本に不利な世論がかなり前から形成されてきた。

 LACは2011年に米加両国を除く「ラ米・カリブ諸国共同体」(CELAC=セラック)を形成するなど、北米離れが著しい。日米安保体制上、「米国の支配下」に置かれていると見なされている日本は、米国のくびきから相当に自由になりつつあるLACにとって「古い」のだ。

 プーチンはクーバに対する債権350億ドルを帳消しにした。習主席はBRICS首脳会議が打ち出した「新開発銀行」に410億ドルを供出し、LACの社会基盤整備向けに200億ドル投下すると、桁外れに巨額な金額を提示した。安倍首相が最後の訪問国ブラジルで結んだ協力協定の具体的金額は7億ドル程度だった。このような物質的援助落差も日本に不利だった。

 LACの政治的潮流は、2023年のモンロー宣言200周年を前に、米国から距離を置きアジア、太平洋、アフリカなどに接近する遠心力を備えつつある。ただしアジアとは中国であり、インドである。伯露印中南5カ国がBRICSを組んでいる意味と影響力は発展途上社会で極めて大きい。

 首相は、「太平洋同盟」(AP)をペルーとともに組んでいるメヒコ、コロンビア、チレの太平洋岸3国を歴訪先に加えた。だがこれら3国は「新自由主義路線偏重」と見なされ、今日のLAC世論形成上、ベネスエラ、ブラジル、ボリビア、アルヘンティーナなどに及ばない。

 
 首相が思い切って一大産油国ベネスエラを訪問していたら、歴訪効果は大きく異なるものになっていたはずだ。だがワシントンが気になる日本外交には、最初から、そんな構想が浮かぶわけがない。

 ラ米との「戦略的互恵関係樹立」の希望を表明した首相だが、何が真に戦略的なのか、外務省ともども熟考すべきだろう。 

2014年8月3日日曜日

安倍首相がラ米と戦略的互恵関係を築きたいと強調

 安倍首相は8月2日サンパウロで記者会見し、私の今回の歴訪は日本・ラ米関係に新しい一章を開いた、と述べた。首相はまた、国際社会におけるラ米の存在は大きく、不可欠な取引仲間であり、日本は長年続いてきた対ラ米関係を高い水準に引き上げたい、戦略的互恵関係を築きたい、と強調した。

 さらに、日本の財界が望んでいる南部共同市場(メルコスール)と自由貿易協定を結ぶための交渉の開始を望む、と語った。

 先ごろBRICSがブラジルでの首脳会議で打ち出した「新開発銀行」構想について意見を求められ、世界銀行は高質で運営状態もいいが、「BRICS開銀」も国際規約に則って運営されるのが望ましい、と述べた。

 首相は日程をほぼ終了し、2日夜、帰国の途に就く。

パナマが米州首脳会議にキューバ招待の意向表明

 パナマのイサベル・デサンマロ外相は8月2日、来年5月パナマで開催される米州首脳会議にクーバを招待したい、と述べた。

 だが、同会議に出席する米州諸国機構(OEA)の一部加盟国に異論があるため、現時点では微妙な問題だ、と指摘した。米国とカナダは、OEAを米国によって1961年に追放されたクーバの出席に反対してきた。

 パナマでは7月、フアン・バレーラ保守政権が発足し、マルティネリ前右翼政権と異なる内外政策をとっている。バレーラ大統領は就任と同時に断交状態にあったベネスエラとの国交を正常化した。

 クーバでは、グラディス・ベハラーノ副議長が会議出席への関心を表明している。 

2014年8月2日土曜日

安倍首相とルセフ大統領が9項目協力で調印

  安倍首相は8月1日ブラジリアでヂウマ・ルセフ大統領と会談し、9項目の協定・合意書に調印した。以下の通り。

 保健:日本製医薬品・医療機械のブラジル輸入審査期間の短縮、予防医療と公共保健の経験交換

 科学技術:日本が人材交流を通じて造船技術協力

 環境:関係省庁を通じて環境・自然災害問題に取り組む

 国際援助:関係融資機関同士が共通関心事業を特定

 石油開発:日本が大型リグ建設に5億ドル融資

 穀類:大豆・トウモロコシなど農業の安全性協力、産地と港湾都の間の輸送機関整備協力、日本が2億ドル融資

 国際合同協力:モサンビークでの炭鉱開発および開発技術協力

 資源探査:鉄鉱石、石炭など鉱物資源探査および開発融資協力

 海洋工学:関係機関同士で人材育成に協力

  両首脳は国際問題では、豪州で11月開かれるG20首脳会議、中東紛争、東アジア紛争、地域紛争解決における国連の重要性、国連安保理改革、国際経済活性化などを話し合った。

  ルセフは、いかなる平和醸成政策にも連帯すると述べた。これは、東アジアでの中国の動向を踏まえた首相発言を受けたもの。

  このほか大統領は、日本が昨年、伯国産豚肉の輸入を解禁したのに感謝した。また同牛肉輸入の早期解禁への期待を表明した。

  この日、首相はブラジリアで、ジーコ、ドゥンガ、アルシンドらサッカーJリーグの発展に貢献したブラジル人の元監督、選手らに感謝する集いを開いた。

2014年8月1日金曜日

安倍首相がチリのミチェル・バチェレー大統領と会談

 安倍首相は7月30日、チレの首都サンティアゴに到着し、チレ中北部アタカマ砂漠にあるカセロネス銅山の開発開始式にテレビ電話を通じて参加し、開始を宣言した。この銅山はルミナ銅山会社が所有するが、日本が初めて開発を担当する。

 首相は31日、ラ・モネーダ殿堂(大統領政庁)でミチェル・バチェレー大統領と会談し、鉱山開発、地震を中心とする自然災害対策、科学技術、などの協力で合意し、協定に調印した。

 鉱山関係では、開発の有効性拡大、銅の利用可能性拡大への日本側の協力が決まった。災害対策では、地震国同士が協力し、南米、中米、カリブ沿岸での津波対策、地震対策などの専門家2000人を育成することが決まった。

 首相一行は、昼食会の後、今回の歴訪の最後の国ブラジルに向かった。

ベネズエラ政権党PSUV大会終了、ガソリン値上げ決まる

 ベネスエラ統一社会党(PSUV)は7月31日、カラカス市内で26日から開いていた第3回党大会を終えた。党首であるニコラース・マドゥーロ大統領はチャベス廟での閉会式で演説し、締めくくった。

 党大会の討議内容と決定事項など全貌はまだ明らかでない。ガソリン値上げ、および、通貨ボリーバル交換率の一本化という重要提案が承認されたことは公表された。

 ガソリンは乗用車の油槽を一杯にしても1米ドルしかかからず、「世界一安い」と言われてきた。だが日量80万バレル消費され、年間150億ドルの補助金が費やされている。これは重い負担で、財政赤字の一因ともなっている。

 故ウーゴ・チャベス前大統領は、選挙民を気にしてガソリン値上げに踏み切れなかった。マドゥーロ政権は経済再建の必要に迫られており、ついに値上げを決めた。これが一連の「経済調整」に繋がる可能性がある。

 一方、交換率は公定、入札、並行市場(闇)と3通りある。一本化の時期や交換率は明らかにされていない。

 国会に、物資投機と密輸を取り締まる委員会を設置することも決まった。腐敗退治、官僚主義反対、従属経済打破、経済戦争勝利、党員・労働者への社会主義教育徹底などの方針も認められた。

 党が、来年以降の選挙や国民投票を目指して選挙運動と革命運動に全力を注ぐことも決まった。  

ボリビアがイスラエルを「テロリスト国家」に指定

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は7月30日、イスラエルを「テロリスト国家」に指定した、と発表した。ボリビアが軍事独裁時代の1972年に結んだイスラエル人に対する査証免除協定を無効とし、イスラエル人は30日から入国査証取得が義務付けられる、と明らかにした。

 モラレスは、「イスラエルは国際条約や人権を尊重していない」とし、パレスティーナ侵略を糾弾した。ボリビアにはパレスティーナ人家族1000が居住しているが、同社会はボリビア政府の決定に謝意を表明した。

 ラ米諸国は既にイスラエルに対し厳しい態度を示している。30日までにブラジル、アクアドール、チレ、エル・サルバドール、ペルーがイスラエル駐在大使の召還を決めた。コスタ・リーカも召還を検討中。

 これに対しイスラエル外務省は、「ラ米諸国は外交的に矮小化した」と非難した。

 7月上旬からの軍事侵攻で、パレスティーナ人1400人が殺され、8000人が負傷し、家屋5000戸が破壊されている。

 南部共同市場(メルコスール)は29日カラカスで首脳会議を開いた際、ベネスエラ、ブラジル、アルヘンティーナ、ウルグアイの4カ国大統領はイスラエルを糾弾する声明を発表した。もう一つの加盟国パラグアイは別途、イスラエルに即時侵略停止を求めた。

 ベネスエラは、ガザ地区への援助物資供与を決めた。

 他のラ米・カリブ諸国の大勢も、イスラエルに批判的な立場をとっている。