2016年12月31日土曜日

対カタール合意不正で、アルゼンチン大統領捜査を検察要請

 亜国連邦検察庁は12月30日、マクリ政権とカタール政府が11月6日調印した両国合同財団創設合意には不正があるとして、裁判所に捜査開始許可を要請した。

 亜国インフラ整備用として創設が決まった財団は基金13億ドルを持つことになるが、亜国側は社会保障庁(ANSES)の資金から分担額を支出することになっている。検察は、なぜ同庁資金が使われるのかが明確でないうえ、必要な手続きをせずに国際合意がなされた点を追及している。検察はまた、合意には財団が税金回避のための隠れ蓑になる可能性があると指摘している。

 検察が不正容疑をかけているのは、マウリシオ・マクリ大統領、ガブリエーラ・ミケッティ副大統領、スサーナ・マルコーラ外相ら政府高官ばかり。ミケッティは合意書に調印した。またマクリは今年4月、「パナマ文書」で払税回避疑惑が明らかになった。

 一方、検察は29日、2015年1月18日に謎の死を遂げたアルベルト・ニースマン検事の死因再調査を開始した。ニースマンは、1994年にブエノスアイレスで起きたイスラエル・亜国相互協会(AMIA)爆破事件を捜査していた。

 2004年に当時のネストル・キルチネル大統領から同事件の主任捜査官に任命されたニースマンは06年、イラン外交官とヒズボラ(イスラム教シーア派民兵組織)が事件に関与したと結論づけた。事件ではユダヤ系85人が死亡、約300人が負傷した。

 ニースマンはその後、キルチネル元大統領の妻クリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル(CFK)前大統領、CFK政権期のエクトル・ティメルマン外相ら政府高官を同事件の真相隠蔽容疑で起訴する準備を進めた。イラン人関与を隠す見返りにイラン原油の供給を受けるなどの便宜を図ってもらう密約をしていた、という容疑だった。

 ニースマンは、その「真相」と現職大統領だったCFKらを起訴する旨を亜国国会で報告する前日、自宅で頭部に銃弾1発を浴びた変死体で発見された。以来、自殺か他殺かで議論が二分されてきた。

 今年8月、在亜ユダヤ系組織DAIAは、ニースマン死亡事件の再調査を要請。法廷がこのほど受け入れた。CFK政権とイラン政府は13年にAMIA事件の合同捜査実施で合意に達したが、合同捜査は実行されなかった。

▼ラ米短信  ◎サパティスタが大統領候補擁立へ

 メヒコ・チアパス州サンクリストーバル・デ・ラスカサス市で12月30日、サパティスタ民族解放軍(EZLN)と全国先住民理事会(CNI)は2018年7月の大統領選挙にEZLNの候補を出馬させるための政治綱領策定などの話し合いに入った。

 かつてサパティスタはメヒコ政治体制の外側から批判する立場をとっていた。だが内側から平和裏に社会正義実現などを目指す方針に切り替えた。

 一方、EZLNのガレアーノ副司令(元マルコス副司令)は30日、サパティスタが運営する地球大学で声明を発表、「元日実施のガソリン値上げは国中に大混乱を招くだろう。メヒコの現実はサイエンスフィクションのようだ」 と述べた。

▼ラ米短信  ◎ジャーナリスト93人が今年殺される

 ブリュッセルに本部のある国際ジャーナリスト連盟は12月30日、世界で今年、ジャーナリストおよび報道従業者が93人殺害されたと発表した。イラクで15人、アフガニスタンで13人、メヒコで11人の順。

 昨年の112人より少ないが、同連盟はジャーナリストへの脅迫、迫害、また自己規制が増えており、言論・報道の自由が脅かされていることに留意せねばならないと指摘した。

 このほか、ブラジル人ジャーナリスト29人がコロンビアでの飛行機墜落事故で死亡。ロシア人ジャーナリスト9人も黒海での航空機墜落事故で亡くなった。

▼ラ米短信  ◎グアテマラの米大使館が脅迫受け閉鎖

 グアテマラ市の米大使館は12月30日、深刻な脅迫を受けているとして30日から1月2日まで閉館すると発表した。3日には開館する予定。

 ことし5月、グアテマラ人の男が米大使館に手製の爆発物を投げ込んだ事件があった。米国から強制退去させられた腹いせだった。大使館は今回の脅迫について明らかにしていない。グアテマラ警察が捜査している。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラが輪番制議長を亜国に渡す

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は12月30日、南部共同市場(メルコスール)の輪番制議長国の資格を亜国に渡した、と発表した。ベネスエラは6月30日から半年間、議長国を務める立場にあった。

 だがパラグアイ、ブラジル、アルゼンチンの3国が反対。12月2日には、ベネスエラのメルコスール規約の大量未批准を理由に、同国の加盟資格停止を決めた。

 これに納得しないベネスエラは「議長国の任務を遂行し終えた」として、亜国にその地位を引き渡すという外交的パフォーマンスを演じた。

▼ラ米短信  ◎クーバへの外国観光客400万人超える

 玖観光省は12月30日、ことしの外国からの来訪観光客は同日400万人を超えた、と発表した。前年比13%増。達成目標を6%上回った。北米人と欧州人が多かった。
 

2016年12月30日金曜日

グアテマラ和平20年、貧者に届かぬ平和の報酬

 グアテマラは12月29日、内戦和平合意調印による内戦終結から20周年となる記念日を迎えた。首都グアテマラ市で式典が催され、内戦終結に努力したビニシオ・セレソ元大統領、調印時に政権にあったアルバロ・アルセ元大統領、ジミー・モラレス現大統領と、政府高官、国会議員、先住民・市民団体、外交団などが出席した。

 式典では、内戦で強制失踪させられ殺害された女流詩人アライーデ・フォッパの名前をかぶせた女声合唱団と、国軍の軍楽隊が初めて共演、和平を演出した。マヤ民族歌手サラ・クルチュチが、内戦中に虐殺・強姦・略奪・破壊に遭ったマヤ・イシル人をテーマにした歌などを披露した。

 式典には、和平合意を政府と結んだゲリラ組織グアテマラ民族革命連合(URNG。その後、政党化)の姿がなかった。和平合意が十分には遵守されていない状況や、政治面での左翼の退潮を象徴するようだと指摘されている。

 人口1600万人の59%は貧困にあえぎ、先住民人口では79%が貧困。「貧者には和平合意が適用されていない」と酷評される所以だ。先住民は人種差別、社会的疎外からも解放されていない。

 歌手クルチュチは、「国家は和平合意を遵守していないという債務を人民に負っている。正義無くして和平は無く、記憶無くして正義は無い」と語っている。

 1960年から36年続いた内戦では、25万人が殺された。うち4万5000人は遺体が見つかってなく、「行方不明者」扱いされている。

▼ラ米短信  ◎アルゼンチン女性活動家に判決

 亜国フフイ州の先住民社会活動家でペロン派左翼のミラグロ・サラ(52)=南部共同市場(メルコスール)議会議員=は12月28~29日、同州の法廷で執行猶予付き禁錮3年、罰金3760ペソ、法人参加禁止の判決を言い渡された。

 サラは2015年12月、マクリ保守・右翼政権発足時に就任したマクリ派のフフイ州知事ヘラルド・モラレス(元上銀議員、急進党)の政策に反対、州庁舎前で野営しながら抗議したことにより「治安を乱した」ことで判決を受けた。09年、上院議員だったモラレスに卵を投げつけた罪も含まれている。

 彼女は今年1月16日から逮捕されており、執行猶予付き判決ながら、「共同謀議」、「行政詐欺」など別件でも起訴されており、身柄の拘禁は解かれていない。

 この事件は、マクリ政権のペロン派左翼弾圧の象徴と内外で指摘されてきた。国連と米州諸国機構(OEA)の人権部門やメルコスール議会を始め、各方面からサラ解放の要求が出ている。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラがコロンビア国境でガソリン販売へ

 ベネスエラ政府は12月29日、コロンビア国境に面したスリア州パラグアチョン、タチラ州ウレーニャの両地点で1月2日からガソリンを販売する、と発表した。コロンビアペソを含む外貨が使用できる。

 マドゥーロ政権は、コロンビアマフィアによる安価なベネスエラ原油の大量密輸を防ぐため販売することにした、と説明。だが、販売価格は発表していない。 

2016年12月29日木曜日

コロンビア国会でFARC恩赦法が成立

 コロンビア国会は12月28日、サントス政権とゲリラFARC(コロンビア革命軍)との内戦和平最終合意に基づき、FARC要員を恩赦・赦免する新法を可決した。上院は賛成69、反対無し、下院も賛成121、反対無しだった。

 和平合意に反対している保守・右翼代表格のアルバロ・ウリーベ前大統領の政党「民主中心」は両院での議決に不参加だった。このため反対票がなかった。

 恩赦法成立を受けてJMサントス大統領は同日、「和平を固めるための第一歩だ」と評価、国会に敬意を表した。FARC最高司令ティモチェンコも、「平和への長い道のりの一歩だ」と歓迎した。

 当局によると、法成立によってFARC武装要員5700人は国内20カ地域および6地点に集結、武装解除してゆく。来年1月30日までに、恩赦対象にならない要員の数を確認する。人道犯罪など重罪は恩赦対象にならない。

 一方、服役中の軍・警察要員1200人には来年2~3月に仮出所が認められる模様。

▼ラ米短信   ◎クーバ経済が22年ぶりに後退

 ラウール・カストロ国家評議会議長は12月27日、人民権力全国会議(国会)で演説、2016年の経済が0・9%後退したと明らかにした。議長は、輸出品の国際価格低下による輸出収入減少、ハリケーン被害、外資不足などを原因として指摘した。

 クーバ経済は1989年11月のコメコン体制崩壊を受けて90年から縮小。1993年には36%マイナスとなった。だが94年からはわずかずつ成長、2003年には89年の水準を回復していた。ラウールは、2017年には2%成長する見込みと語った。

▼ラ米短信  ◎パラグアイで女性保護法発効

 パラグアイで12月28日、女性統合的保護法が発効した。女性への暴力を禁止、フェミニシディオ(女性殺し)は重罪扱いとなり、禁錮10~30年の実刑が科せられることになった。

 女性はまた、性教育を受け、避妊方法を知り、妊娠回数を決める権利を認められた。

 

2016年12月28日水曜日

アルゼンチンのフェルナンデス前大統領を公金詐取で起訴

 亜国法廷は12月27日、クリスティーナ・フェルナデス=デ・キルチネル(CFK)前大統領らを共同謀議および行政詐欺で起訴。CFKと、フリオ・デビード元企画・社会基盤相(現下院議員)、ホセ・ロペス元公共事業次官(逮捕済み)、建設会社社長ラサロ・バエス(同)の4人に各100億ペソ(約6億3000万米ドル)の資産差し押さえを命じた。

 罪状は、2003~15年(CFK政権期および、その前のネストル・キルチネル政権期)に、キルチネル夫妻の出身州サンタクルース州の公共事業工事(総額22億ドル)を銀行員出身のバエスの建設会社「アウストラル建設」に不正発注し、公金を横領したこと。

 CFKは昨年12月任期満了で政権を降りたが、今年に入ってから不正蓄財で起訴された。今回は別の罪状で起訴された。収監は免れないと見られている。

 バエスは工事代金を11億ドルも水増しして請求、受け取っていた。主に州内の道路工事だったが、未完成の工事も含まれている。工事代金はすべて、山分けされたと見られている。

 CFKは、政敵のマウリシオ・マクリ現大統領が今年の経済2・4%縮小など行政の不手際を隠すため、政治的裁判で自分たちを迫害していると非難している。だが裁判所命令にこれ以上抵抗するのは困難と見られている。

▼ラ米短信   ◎コロンビア政府とゲリラELNは1月10日和平交渉へ

 コロンビアのサントス政権と「民族解放軍」(ELN)は来年1月10日、エクアドールの首都キトで和平交渉を開始する。ELNは12月27日、年末声明を発表、交渉開始を確認した。

 ELNはエクアドール、キューバ、ベネスエラ、チレ、ノルウェー、ブラジルの6カ国に、和平交渉の「保証国」となるよう求めている。

 交渉は当初10月27日開始の予定だったが、ELNがチョコー県内で、極右準軍部隊を動かしていたオディオ・サンチェスを拉致、依然解放していない。この事件に怒ったサントス政権は交渉を延期していた。

 最大のゲリラ組織FARCは既に政府と和平合意し、武装解除に向けて前進している。FARCが和平に踏み切った以上、ELNは内戦を継続する意味を失い、和平を望んでいる。
 

2016年12月27日火曜日

コロンビアがNATOと協力合意に向け交渉開始へ

 コロンビアのJMサントス大統領は12月23日、国軍へのナビダー(クリスマス)の祝辞で、コロンビアは北大西洋条約機構(OTAN=NATO)から加盟国外の協力国として協力交渉をすることを承認された、と明らかにした。

 コロンビアはウリーベ前政権期末からOTANに対し、情報交換と組織犯罪対策で協力関係を結ぶよう働きかけてきた。OTANは、サントス政権がFARCとの内戦和平合意に達したのを受けて、協力交渉開始を受け入れた。

 OTAN側には、従来と異なる形でOTANに対応する意志を示しているトランプ次期米政権を牽制する意図もある。コロンビアは、米国にとり、南米で唯一の明確な軍事同盟国である。

 これに対しベネスエラ外務省は26日、南米に不安定要因および戦争要因を広めることになり、断固反対し糾弾する、との声明を発表した。また、サントスが2010年に故ウーゴ・チャベス大統領との会談で、OTANとの交渉は進めないと伝えた外交上の約束にも反する、と非難した。

 さらに、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)はLAC(ラ米・カリブ)地域を「平和地域」と宣言しており、CELAC加盟国のコロンビアは、同宣言の精神にも反しており、南米諸国連合(ウナスール)、非同盟諸国運動の精神にも反する、と厳しく指摘した。

▼ラ米短信  ◎クーバの2016年重要ニュース

 クーバ国営ラディオ・アバーナ・クーバ(ハバナ放送=RHC)は12月26日、今年の同国重要ニュース10項目を発表した。トップに11月25日の革命指導者フィデル・カストロ前国家評議会議長の死去を置いたほかは、時系列的に並べている。

 2月11日、ロシア正教のクリル大主教来訪および12日ハバナ空港での同大主教とローマ法王フランシスコとの歴史的会談。両宗教指導者の会談は、1054年の「大分裂」以来初めて。

 3月20~22日、バラク・オバーマ米大統領来訪。1928年にカリヴィン・クールリッジ大統領が第6回汎米会議出席のため訪れて以来88年ぶりの米大統領来訪。

 4月16~19日、第7回クーバ共産党(PCC)大会。新しいクーバ社会主義モデルの概念化策定を決議。

 5月1日、ハバナ放送創立55周年。

 6月7日、ハバナが世界の「素晴らしい都市」に指定される。

 9月、クーバ製皮膚癌用薬品「エベルフェロン」の使用が薬品登録されている諸国で認可される。

 10月5日、グアンタナモ州がウラカン(ハリケーン)・マシューに見舞われ、6300万ドルの被害出る。

 10月26日、国連総会での経済封鎖解除要求決議が賛成191カ国、反対無し、棄権2で採択された。米国とイスラエルは初めて    反対せず棄権した。

 11月14日、受刑囚787人を赦免。殺人、強姦など重罪犯は赦免対象から除外。

 11月25日、★フィデル・カストロ死去。 




 
 

2016年12月26日月曜日

メキシコ学生失踪事件への陸軍・連邦警察関与が明るみに

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きた、アヨツィナパ農村教員養成学校生43人強制失踪事件および殺害事件から12月26日で2年3カ月経った。エンリケ・ペニャ=ニエト大統領のメヒコ政府が事件の真相を隠してきたのは、陸軍と連邦警察が事件に関与、大統領責任が問われるためだった。

 調査報道で有名なメヒコの女性ジャーナリスト、アナベル・エルナンデス(45)は11月、『イグアラ真実の夜 政府が隠そうとした事実』を刊行した。そこには、政府がひた隠しにしていた、ある検事の「報告」などに基づく事件の真相が描かれている。以下は、その粗筋だ。

 著者は、事件の生き残りの学生らの証言の中に連邦警察関与を指摘するものが2件あったにも拘わらず政府が知らぬ存ぜぬを貫いていたのに疑念を抱き、政府が嘘をついているとすれば政府が隠したい事実は何かと考え、取材を始めた。

 事件で犠牲になるのを辛くも免れた学生たちに熱心に働きかけたところ、学生らが携帯電話で事件現場の様子を撮影していたのを知り、その画像を見せてもらった。

 事件がイグアラ市内の中心街で起きていたのがわかった。だが検察など当局は、たくさんの目撃者がいたにも拘わらず、彼らから証言を聴取していなかった。

 著者は、事件現場に面していた街並みの商店や住宅を訪ね歩き、目撃証言を得るのに成功する。連邦警察やイグアラ市警だけでなく、短髪の精悍な風貌の若者たちが事件に関与していたことがわかった。その短髪の若者たちは私服姿だったが、誰もが兵士たちだと感ずいていた。

 後に、イグアラ市駐屯の陸軍第27歩兵大隊の司令官ヘスース・ラミーレス大佐が、部下の兵士たちに私服姿で出動するよう命じていたことが判明した。この事実を政府は隠し続けていた。

 イグアラ市長夫妻をはじめ左官職人ら、事件に無関係だった人々が逮捕、拷問され、濡れ衣を着せられて、犯人に仕立て上げられたことも明るみに出た。

 事件の核心は、失踪した教員養成学校生たちが乗っていたバス2台にヘロインが積まれていたこと。米国に密輸するための麻薬だが、そのヘロインの持ち主が第27大隊司令官に電話し、「私の麻薬を回収してほしい。学生たちは麻薬の存在を知ってしまい証言者となる恐れがある」と伝えた。これを受けて大隊が動きだしたのが事件の発端だった。

 事件、すなわち銃撃、殺害、強制失踪に関与した大隊兵士らは薬莢を回収、証拠を隠した。学生たちの失踪には警察車両が加担した。事件には麻薬犯、陸軍、連邦警察、ゲレロ州警察、イグアラ市警などが関与していた。

 つまり最高責任は国軍の最高司令官にして連邦警察も配下に置く大統領にある。ラミーレス大佐は事件後、国防省に栄転、准将に昇格している。

 だが消えた43人の遺体がどこにあるのか、また、麻薬の主は誰だったのか、など事件の核心は依然解明されていない。

  一方、失踪学生43人の父兄や支援者は12月25日、メヒコ市-クエルナバカ自動車道を一時的に遮断、事件の真相解明を求めるビラを車に配布した。また26日には首都にあるグアダルーペ大寺院に父兄、支援者、弁護団計200人が集まり、陸軍関与を捜査し、長らく事件の真相を隠し偽りの犯人を仕立てていた検察庁をも取り調べるよう訴えた。

 メヒコ市内の革命記念碑広場では、支援する若者たちが失踪学生43人が横たわる姿を地面に輪郭で描く抗議行動を展開した。

▼ラ米短信  ◎サパティスタ蜂起23周年記念行事開く

 メヒコ・チアパスス州サンクリストーバル・デ・ラスカサス市で12月26日から1月4日の日程で、「サパティスタと人類のための良心」と題した会合が開かれている。サパティスタ民族解放軍(EZLN)の200人および、11カ国から科学者82人が参加している。

 科学者の分野は、量子論、数学、火山学、天体物理学、天文学、宇宙論、核融合、遺伝学、微生物学、統計物理学、光学、生命倫理学など。

  

2016年12月25日日曜日

伊高浩昭が選んだ2016年ラテンアメリカ重要ニュース

◎伊高浩昭が選んだ「2016年のラ米重要ニュース」(12月25日現在)

革命家フィデル・カストロ死去
 11月25日90歳で死去した。ラ米20世紀最大の出来事と位置付けられるクーバ革命の覇者は、次期米大統領が新自由主義+右翼主義+ファシズムを兼備したような人物になるのを確認し、実弟ラウールの経済改革の行方に不安を抱きながら逝った。この時期の死は、ラ米進歩主義退潮+右傾化の時代を象徴するかのようだ。

コロンビア内戦和平
 半世紀以上続いていたコロンビア政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は、2012年からハバナで続けていた和平交渉の結果、11月に最終合意に達し、国会の承認を得て和平実施段階に移行した。JMサントス大統領はノーベル平和賞を受賞したが、FARC最高司令ティモチェンコにも授賞すべきだったとの批判がある。政府と、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)との和平問題が残っている。

ブラジル政変
 労働者党(PT)のヂウマ・ルセフ大統領は、従来弾劾条件とされていなかった財政関係の不手際をとらえられ国会での弾劾裁判にかけられ、リオデジャネイロ五輪終了後の8月31日、弾劾された。これは大統領選挙で連続4回PTに敗れた保守・右翼・財界が米政財界と謀って決行した事実上のクーデターだった。首謀者で大統領にのし上がったミシェル・テメルは汚職まみれで、世論から退陣を求められている。

ベネスエラ情勢混迷
 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は、国際原油価格低迷、経済政策不調、国会多数派を野党に握られたこと、内外メディアの意図的宣伝報道などから年頭以来、政経両面で混乱を深めてきた。12月には右傾化著しい南部共同市場(メルコスール)から加盟資格停止処分に遭った。

ペルー大統領選挙
 4月10日実施され、得票1位のケイコ・フジモリと2位のぺドロ=パブロ・クチンスキが6月5日の決選に進出。激戦の末、ケイコは超僅差で敗れた。だがフジモリ派の政党「人民勢力」(FP)は国会で多数派であり、クチンスキ政権とのねじれが目立っている。

パナマが米軍侵攻真相解明に動く
 フアン=カルロス・バレーラ大統領は7月20日、1989年12月20日に決行された大規模な米軍によるパナマ侵攻作戦の死者数確認などに携わる特別委員会を設置した。真相を隠してきた米政府が資料公開などでどこまで協力するのかわからない。一方、パナマ運河の閘門式第3水路は6月26日開通した。

ボリビア国民投票で大統領敗北
 エボ・モラレス大統領は、2019年選挙に出馬するた連続3選禁止条項を修正するための改憲の是非を問う国民投票を2月21日実施したが、僅差で敗れた。ラ米左翼退潮は、ここにも現れた。だがモラレスは12月、政権党「社会主義運動」(MAS)の次期大統領候補に擁立され、3選禁止条項をいかに変更するかで戦略策定段階に入った。

ニカラグアのオルテガ支配長期化固まる
 11月6日実施の大統領選挙にダニエル・オルテガ大統領が妻ロサリオ・ムリージョを副大統領候補として出馬、事実上の無風選挙で圧勝した。オルテガはサンディニスタ革命政権期の1980年代を加えると4選されたことになる。野党を支援する米議会は9月以降、ニカラグアへの融資を禁止する立法措置でオルテガ体制に揺さぶりをかけている。これもラ米左翼勢力潰しの一環。

ハイチ大統領選挙実施
 昨年10月実施の大統領選挙が政権による組織的不正が明るみに出て無効とされ、今年2度の延期を経て11月20日やり直し選挙として実施された。昨年同様、政権党候補が得票1位になったが、野党候補たちはまたも不正を糾弾。選管は12月29日に最終選挙結果を発表する予定だが、状況は波乱含みだ。

エクアドールで地震続く
 M7・8の大地震が4月16日太平洋岸を見舞い、死傷者多数を含む甚大な被害が出た。その後、余震とみられる地震が続き、その都度、被害が出ている。

 アルヘンティーナ(亜国)で国内対立激化:昨年12月発足したマクリ保守・右翼政権の新自由主義政策で、長らく政権にあって「我が世の春」を謳歌していたペロン派は憂き目に遭い、政府との対立関係が先鋭化している。先住民女性、社会活動家、フフイ州議会前議員のミラグロ・サラ(52)は今年初めマクリ政権と州政府に抗議行動をした結果、逮捕され、弾圧と人権侵害の象徴的被害者と見なされている。

 このほか「メヒコがトランプ次期米政権に戦々恐々」、「ドミニカ共和国大統領選挙(5月15日)でメディーナ大統領2選」など。
  

2016年12月24日土曜日

内戦中の人道犯罪でグアテマラ政府に賠償命令

 米州諸国機構(OEA、本部ワシントン)の司法機関である米州人権裁判所(CorteIDH、在サンホセ)は12月22日、グアテマラ政府に対し、同国内戦中(1960~96)の1981~86年にバハ・ベラパス県内で軍に殺されたマヤ民族農民遺族らへの賠償金支払いを命じた。

 同県ラビナル市チチュパック村では、村民が拷問、強姦、強制失踪(法律外処刑)に遭った。村民は1993年から国内の司法機関に告訴していたが、全く取り合ってもらえなかった。このため弁護士団がOEA機関の米州人権委員会(CIDH、在ワシントン)に訴えた。CIDHは調査した後、CorteIDHに提訴。11月30日に判決が下っていた。

 同裁判所は、国家機関である軍を断罪する一方、農民の訴えを聴き入れなかった政府を厳しく糾弾した。強制失踪(殺人)被害者183人各人名義で一人当たり5万5000米ドル、その犠牲者家族に3万ドル、精神的被害者一人当たり1万ドル、土地を追われた避難民一人当たり5000ドルを、それぞれ支払うよう政府に命じた。奪われた土地は元の農民に返還された。

 36年間続いた内戦では、20万人が死亡、4万5000人が行方不明になった。これら犠牲者の大多数はマヤ系農民だった。不明者の遺骨は数千柱が各地の集団墓から発掘されているが、DNA鑑定で身元が判明したのは約500柱だけだ。

▼ラ米短信   ◎ハイチ選管が投票結果の検証を決定

 アイチ(ハイチ)では11月20日大統領選挙が実施されたが、不正疑惑が渦巻いているため、暫定選挙理事会(CEP)は12月20日、投開票記録の12%を検証することを決めた。

 この選挙では、政権党候補ジョヴネル・モイズが55・67%の得票で当選したとされた。だが2位のジュディ・セレスタン(得票率19・52%)ら主だった候補たちが一斉に不正を叫び、不穏な状況となっている。

 野党候補らの弁護団は、投開票記録の78%を検証すべきだと主張しており、12%の検証が済んでも、緊張状態は収まりそうもない。
 CEPは12月29日に最終公式結果を発表する予定。過半数得票者が出ない場合は、上位2候補が来年1月29日の決選に望むが、モイズ当選が確定すれば、決選はなくなる。  

  
  
 

2016年12月23日金曜日

 米国は他国への主権侵害を省みずにロシアのトランプ勝利工作を非難できない-作家アリエル・ドルフマンが厳しく指摘

 チリ人で米国籍を持つ著名な作家・劇作家アリエル・ドルフマンはこのほど、ロシアがドナルド・トランプ共和党候補を先の米大統領選挙に勝たせるため介入した件について論評をNYT紙に載せた。以下は、その要旨。

                     ×                    ×                    ×

 ロシアがトランプを勝たせるため大統領選挙に介入した事実が多くの米国人を怒らせているが、私は自分が抱いてきた怒りをあらためて思う。1970年10月22日、チリで国軍司令官レネー・シュナイデル将軍が極右勢力に銃弾3発を浴びせられ暗殺された。同年9月初め大統領選挙で得票1位になっていたサルバドール・アジェンデを政権に就かせないために、CIAがチリの極右勢力を使って決行した事件だった。

 私は当初からCIAの陰謀だと感知していたが、その事実が後に証明された。当時のニクソン米政権は巨額のチリに資金を投入しながらアジェンデ当選を阻止でなかった。ニクソン政権は、公正な福利実現のためのアジェンデによる非暴力革命が許せなかったのだ。当時、国中に軍事クーデターの噂が流されていた。以前、イラン、グアテマラ、インドネシア、ブラジルなどで米国益に反する諸政府が倒されていた。シュナイデル将軍はクーデターに反対したため、暗殺されたのだ。

 暗殺はアジェンデ就任を阻止できなかったが、CIAはキッシンジャーの命令を受けて、その後3年間、チリの主権と経済に攻撃を仕掛け続けた。その結果73年9月11日のクーデターでアジェンデ政権は崩壊、大統領は死んだ。拷問、処刑、迫害を恣にした軍政が16年半続くことになる。

 チリなどの主権を侵すことを厭わなかったCIAが今、手法をロシアに真似されたことを嘆くとは皮肉なことだ。私は、その皮肉を味わうことはできても、痛快さを感じることはなかった。米国籍を持ち先の大統領選挙で投票した私は、新たな外国による介入の犠牲者になったのだ。私の落胆は、個人の弱さを超えた所にある。

 米国の有権者は、チリ人が被ったような目に遭ってはならないという手段的倒錯がある。本質は、どのような国であろうと、自国の運命が外国に操作されてはならないということだ。

 人民の意志を侵害する今回の事件を過小評価してはならない。トランプと取り巻きたちは、勝利はロシアのお陰ではないと否定しているが、彼らの反応は、我々がチリへのCIA介入を糾弾した時のチリ反政府勢力が示した反応とそっくりだ。トランプは「馬鹿げている」、「ありえない」、「陰謀論にすぎない」と、当時のチリ反政府勢力と同じ言い回しをしたのだ。

 チリの場合は、米議会上院のチャーチ委員会が1976年に発表した勇気ある調査結果によって、CIAの犯行が明らかにされた。米国は、共産主義から救うとの口実で他国の民主政治を破壊していた。平和共存・相互尊重という自由と自決の基本原則が今回は米国で蹂躙された。

 ならば、民主への信頼回復を図るにはどうすべきか。公開捜査し、米国内の勢力と国外勢力が共謀したか否かを含め付きとめて、責任者を最も厳しく罰することしかない。トランプ次期政権の正統性は、ヒラリー・クリントン民主党候補が得票総数で(300万票も)上回っていたいたことで既に損なわれている。

 しかし米市民には、政治家や諜報機関が何をしようと、為すべき崇高な使命がある。この嘆かわしい矛盾を正さねば、米国の価値、信頼、歴史は終わりのない不信感に満ちた内省を招くことになるだろう。

 米政府は、米国が為してきた他国市民への侵害と向き合うことなしには、米国民への侵害を非難することはできない。この自己検証の結果として、米国は他国への帝国主義的かつ傲慢な介入をもはやしない、という結論に達しなければならない。

 米国が己の姿を鏡で見つめる好機ではないだろうか。エイブラハム・リンカーンの国が己の真正な責任と向き合う好機ではないだろうか。

▼ラ米短信  ◎ボリビア大統領がメルコスールに警告

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月22日ラパスで記者会見し、南部共同市場(メルコスール)に対し、「米州諸国機構(OEA)は1962年にイデオロギー上の理由でクーバを追放したが、メルコスルールは今、同じ理由でベネスエラを追放するという過ちを繰り返してはならない」と警告した。

 モラレスはまた、「米国の差し金でメルコスールはベネスエラ追放という過ちを犯しつつある。米国がCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)の前進を阻もうとしているのは嘆かわしい。米国は、民営化政策を進めるAP(太平洋同盟)を使って南米諸国連合(ウナスール)を分断しようとしている」と指摘した。




2016年12月22日木曜日

中米首脳会議が統合のため改革加速で合意

 中米統合機構(SICA、加盟8カ国)は12月20日マナグア市で首脳会議を開催。同機構の抜本的改革の必要性をめぐって議論が交わされた。議長を務めたニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は、「世界経済の全球化は待ってくれない。我々中米が改革を急がねば」と強調した。

 半年交代の輪番制議長国はニカラグアからコスタ・リカに移行。ルイス・ソリース大統領の代理として出席したエリオ・ファジャス副大統領は、コスタ・リカも新議長国として中米統合強化に務めると述べた。

 オルテガは、中米と韓国の自由貿易協定(FTA)交渉が終わり、来年半ば調印する運びとなった、と伝えた。

 米国に多くの出稼ぎ労働者を送り込んでいる「中米北部三角形」と呼ばれるグアテマラ、エル・サルバドール(ES)、オンドゥーラス(ホンジュラス)は、メヒコと連携して、トランプ次期米政権の移民政策に対応する措置を講じつつあると明らかにした。

 グアテマラのジミー・モラレス大統領はオンドゥーラスとの関税98%の同盟化が済んだとし、両国国境を来年中に開放すると言明した。両国を結ぶ航空路も従来の割高な国際線から安い国内線扱いにする計画も検討されている。

 会議はオルテガが「マナグア宣言」を発表して閉会した。会議にはドミニカ共和国のダニーロ・メディーナ大統領、ESのサルバドール・サンチェス大統領も出席。パナマからはイサベル・サンマロ副大統領、オンドゥーラスは外務閣外相、ベリーズはニカラグア駐在大使がそれぞれ出席した。

▼ラ米短信  ◎エクアドール次期大統領に政権党候補有力か

 エクアドール(赤道国)では2017年2月17日、次期大統領選挙が実施される。当選には過半数得票、もしくは得票率40%で2位に10ポイント差を付けること。該当者がなければ、上位2候補が4月2日の決選に臨む。

 12月20日現在、約10人の出馬予定者のうち、ラファエル・コレア現大統領の政権党「パイース同盟」候補レニーンモレーノ元副大統領(63)が有利に選挙戦を進めている。2番手は、「機会創設運動」のギジェルモ・ラッソ元グアヤキル銀行頭取(61)。続いてキリスト教社会党(PSC)の女性候補シンシア・ビテリ(51)。

2016年12月21日水曜日

米軍のパナマ軍事侵攻から27年、いまだ不明の死者数

 パナマは12月20日、米軍侵攻27周年記念日を迎えた。「1989年12月20日犠牲者家族・友人協会」(AFAC)をはじめ関係団体、人権団体などが、一部犠牲者の墓のある「平和墓苑」、最大の犠牲者が出たエル・ショリージョ地区など米軍侵攻の縁の地で追悼式典や「悲しみの行進」を実施した。

 AFACのトゥリニダー・アジョーラ会長(60)は、「遺族が黙らないのは、肉親たちがどのようにして殺され、遺体がどこにあるのかがわからないからだ」と語った。米軍侵攻で殺されたパナマ人は2000~8000人と推計に幅があり、定かでない。破壊されひら地にされてしまったエル・チョリージョ地区は、被爆地になぞらえて「ヒロシマ」と呼ばれている。

 遺族らは12月20日を「国喪の日」に制定するよう政府に働きかけてきたが、政府は依然、承諾していない。フアン=カルロス・バレーラ大統領の政府はこの日、「平和墓苑」で式典を催した。

 バレーラ政権下で今年7月設立された「1989年12月委員会」のフアン・プラネルス委員長(AMラ・アンティグア・カトリック大学長)は20日、米政府が約束通り、侵攻関係文書などを我々に提供するよう求め、約束が実施されるか否かを監視する、と述べた。また、侵攻時に米軍が持ち去ったパナマ公的機関の文書類を返還するよう要求した。

 米国のジョン・フーリー駐巴大使は今年2月、赴任に際して、米政府は事件を見直す用意があると述べ、資料提供などに触れていた。同大使は委員会に対し、トランプ次期政権が外交上の正式な約束をほごにすることはありえない、と伝えたという。

 米州諸国機構(OEA)の米州人権委員会(CIDH)は今月9日ワシントンで、侵攻事件被害者から証言を聴取した。パナマでは、被害者賠償などに道が開かれる兆しとも受け止められている。

 ジョージ・ブッシュ(父親)政権は、海兵隊など4軍部隊2万6000人を投入してパナマを急襲。破壊、殺戮、機密文書奪取などを恣(ほしいまま)にした。90年1月初め、パナマ最高指導者だったマヌエル・ノリエガ国防軍司令官をマイアミに強制連行し、麻薬取引関与罪で禁錮20年の実刑に処した。これも主権と国際法を完全に無視した暴挙だった。

 ブッシュがなぜ残忍なパナマ侵略を決行したかには、さまざまな見方がある。第一は、1999年末のパナマ運河返還まで10年の時点で、必要とあらば米国はいつでも運河管理権を握ることができる、ことを内外に示すという狙いだ。

 米政府が鳴り物入りで「米国とパナマ民主の敵」に仕立てたノリエガを打倒し連行する狙いもあったが、連行のために大軍を投入し残虐行為に出る必要はなかったはずだ。

 CIA元要員筋情報では、息子ブッシュがパナマで放蕩していた証拠写真などを探し破壊する目的もあったという。父親は息子を、いずれ米大統領に仕立て上げたかったかららしい。来るべき戦争に備え、新型兵器を試し、旧兵器類を消費し、奇襲作戦の演習をする意味もあった。90年の湾岸戦争では、パナマで実験されたステルス爆撃が投入された。

 上記委員会は、死者数、米軍侵攻の理由などを調査、バレーラ政権の任期末までに報告を出す。

 侵攻事件に関して書籍が刊行されてきた。社会学者オルメド・ベル―チェの『侵攻の真実』、クラウディオ・カストロ『パナマ侵攻』、詩人ホセ・ブランコ『死の蛍』、元パナマ駐在クーバ大使ラサロ・モラ『パナマ1989ね12月 我々に忘れる権利はない』、FJスクリアレフスキ『始まった侵攻』、フアン・モルガン『無益な傷跡』、ペドロ・プラード『夢の反対側』などがある。

 
 
  

2016年12月20日火曜日

メキシコ大統領が「トランプ政策への対応策」策定中と表明

 メヒコ国会上院は12月18日、ドナルド・トランプ次期米大統領の政権に予想される対墨政策に関し上院がエンリケ・ペニャ=ニエト大統領に書面で質問していた事項への大統領の回答を公開した。上院は次のような事情から、大統領に次期米政権に対する政策を質していた。

 トランプ氏の選挙戦中からの厳しい対墨発言により、メヒコでは先行き不安感が立ち込めている。米国からの対墨投資が様子見のため幾つも停止状態にある。雇用や経済成長への影響が出ているほか、在米不法滞在メヒコ人が大量に強制送還されれば、彼らからの送金が大幅に減り、これを重要な外貨収入源としているメヒコには重大な問題が生じる、との懸念も膨らんでいる。

 ペニャ大統領は、「北方には大統領選挙戦の枠を超えての排外主義的、人種主義的な姿勢が窺える」と前置きし、トランプ就任前に国益防衛策として、移民を支援する「社会経済支援計画」を策定すると回答。

 「特に不法移民の大量送還が統御できなくなる場合に備え、在米同胞の尊厳、福利、権利を守るための措置」として、保険、雇用、教育を含む様々な救済措置を講じると強調。外務省を中心に保健、労働、教育、財務、社会開発、農業、経済、地方・都市開発の各省と連携し、対策を策定中。

 オバーマ現政権下(2009~15年)に計290万人の在米不法滞在者が送還された。2015年度は24万人だった。

 ペニャ大統領は18日、下院で発言。米加両国と1994年から維持してきた北米自由貿易協定(NAFTA、西語ではTLCAN)の見直しをトランプが語っていることについても、「墨米2国間関係の対話を通じて双方に利益のある合意が得られるよう努めてゆく」と述べた。

 トランプは当選後、メヒコ進出を決めていた米企業3社を翻意させており、メヒコではトランプ就任後、短期的には米資本の流れが止まるのではないかとの観測が流れている。万が一、TLCAN(北米自由貿易条約)がなくなれば、メヒコ人1000万人が職を失うと見られている。

 トランプの下で副大統領となるペンス氏が、「NAFTA見直しには米墨国境地帯での安全保障問題も含まれる」と語っていることもメヒコ政府を深刻にしている。また軍部右翼強硬派だったジョン・ケリー前米南方軍司令官の国土安全保障長官への就任が決まっていることも不安材料だ。ケリーは「国境警備を厳重にする」と、厳しく望む姿勢を示している。

▼ラ米短信  ◎FARC戦闘継続派は190人か

 コロンビアのフアン=パブロ・ロドリゲス国軍司令官は12月19日、内戦終結合意に反対しているFARC反主流派は約190人で、その多くは東部ゲリラ軍団所属だと明らかにし、政府から彼らを掃討するよう命令されていると語った。

 同司令官はまた、FARC主流派は国内27カ所の指定地域に集結しつつあり、国軍兵士1万5000人および警察部隊2000人が2017年元日から旧FARC勢力圏に展開する、と述べた。これはFARC不在となった地域に極右準軍部隊など組織犯罪集団が入り込まないようにするための措置。

2016年12月19日月曜日

ボリビアのエボ・モラレス大統領が2019年出馬を受諾

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月17日、政権党「社会主義運動」(MAS=マス)の第9回党大会決定を受けて、2019年の大統領選挙に連続4選、現行憲法下では連続3選を目指し出馬することを約束した。現行任期は2012年1月まで。

 大会は東部のサンタクルース州モンテロ市で16~17日開かれ、代議員ら6000人が参加した。「他の人物が政権を握れば、再び民営化や、少数者が富を独占する政治に戻ってしまう」と指摘し出馬を受け入れたモラレスは、「選挙で右翼と対決するには分裂してはならない。右翼は団結している。我々は人民として団結せねばならない」と訴えた。

 モラレスは現行憲法下での連続3選を目指し、連続2選しか認めていない憲法修正の是非を問う国民投票を2月実施。だが、僅差で否決された。

 このため党大会は、連続3選に道を開くための「4つの方法」を打ち出した。①有権者(630万人)の20%の署名を集めて改憲国民投票を再び実施②国会の3分の2の議員の発議で改憲し国民投票を実施③モラレスが任期切れの半年前(19年半ば)に辞任④憲法裁判所による憲法解釈。

 ③については、モラレス辞任後、腹心のアルバロ・ガルシア副大統領が暫定大統領となる。これによりガルシアは、2019年の大統領選挙にモラレスの副大統領候補としては出馬できなくなる。

 国民投票を必要とする①②は、今年国民投票に敗れているだけに危険が大きい。③④は可能だが、世論の反発が高くなることが予想される。最近の世論動向は、カルロス・メサ元大統領の支持率がモラレスを凌ぎがちだ。

 モラレスとMASは18日、コチャバンバ州チャパーレ市のイビルガルサマで、モラレス大統領選挙勝利11周年を「民主・文化革命記念日」として祝った。ベネスエラからはニコラース・マドゥーロ大統領の代理として、アリストーブロ・イズトゥーりス副大統領が出席した。出席を予定していたエクアドールのラファエル・コレア大統領は訪問を中止した。

 マドゥーロ大統領は20日からトルコ、アゼルバイジャン、カタール、イラン、サウディアラビアを歴訪、「向こう10年間の国際原油価格安定化」について話し合う。

 モラレスは出馬表明したが、内外の政治状況は楽観を許さない。ラ米とりわけ南米は昨年末以降、政治の潮流が右旋回しており、コレア大統領は今年、3選出馬を断念した。マドゥーロ大統領も政経両面の困難に直面している。老舗左翼のクーバも経済困難、国父フィデル・カストロ死去、トランプ次期米政権登場で先行きは険しい。

▼ラ米短信   ◎玖米関係正常化決定発表から2年

 玖米両首脳が2014年12月17日、それぞれの首都で関係正常化方針を同時発表してから丸2年経った。【これについては近い将来、論文を執筆。】

 内戦中のシリアに18日、クーバ製医薬品(髄膜炎ワクチン24万回分)=時価93万ドル相当=が到着した。友好協力協定に基づく。

2016年12月18日日曜日

ペルーの日本大使公邸事件から満20年、フジモリ氏が回想

 在ペルー日本大使公邸占拠人質事件発生から12月17日で丸20年が過ぎた。ゲリラ組織「トゥパック・アマルー革命運動」(MRTA=エメエレテア)のネストル・セルパ司令以下14人が、天皇誕生日祝賀会さなかの公邸を急襲、多くの人質を取った。

 人質は最終的に青木盛久大使ら男性72人となり、日秘両政府とゲリラ側との交渉が始まった。MRTAは、当時収監されていた仲間470人の解放、フジモリ政権が推進していた新自由主義経済政策の変更、刑務所の囚人待遇改善、身代金、クーバへの出国などを事件解決の条件として打ち出していた。

 カトリックのフアン=ルイス・シプリアーニ司教(現在リマ大司教兼枢機卿)が仲介、寺田輝介駐墨大使(当時)らがセルパらと話し合った。当時の橋本政権はアルベルト・フジモリ大統領に平和解決を繰り返し要請する一方、ゲリラが出国先として希望していたクーバのフィデル・カストロ国家評議会議長(故人)にも解決への協力を依頼した。

 だが強気のフジモリ大統領は終始、軍事力による決着を求め、事件発生から127日経った1997年4月22日、軍と警察の要員で140人で構成する特殊部隊を、公邸の地下まで掘り進めていたトンネルから公邸に突入させ、MRTAを制圧、人質を解放した。

 この作戦でペルー人の人質だった判事1人と突撃要員2人が死亡。ゲリラはセルパら十数人が射殺されたが、当時の大使館員の証言によれば、生き残っていたゲリラ2~3人は拘束された後、殺害された。

 殺人を含む人道犯罪を命じた罪で禁錮25年の実刑に服役中のフジモリ元大統領は17日、電子メディアを通じて、「睡眠中に見た夢にトンネルが出てきた。ある朝4時に起床し、作戦試案を練った。以前見ていたトンネルの多いチャビン・デ・ウアンタル遺跡を思い出し、作戦名とした」と書いた。

 元大統領はまた、「人質解放に成功したあの出来事から20年が過ぎた。危機管理が成功したことに満足し、勇気ある兵士たちを誇りに思っている」とも記した。

 さらに、事件当日について、「あの日は日本の代表団と共にアヤクーチョ市に行き、(日本からの)贈り物の贈呈式をし、帰途、ナスカ市に立ち寄って、少し前に起きた地震の被災地を視察した。リマの政庁に戻ったのは午後7時半だった。待っていた(長男)ケンジの経済の勉強の面倒を見た。机上には日本大使からの招待状が置いてあった。この種の会合には通常は出席しないが、日ごろの厚い援助に鑑み、出席しようかと考えていた」と書いている。だが結局出席せず、人質にならないで済んだ。

 フジモリへの恩赦を求める声が本人、家族、支援者から出ている。だが司法省は16日、フジモリへの赦免は人道犯罪ゆえにありえない、と発表した。

 PPクチンスキ現大統領は事件発生20年記念日に先立つ12日、突撃コマンドの生存者らを招いて功績を讃えた。一方、米州諸国機構(OEA)の米州人権委員会(CIDH)は昨年、「MRTA要員2~3人が身柄拘禁後に殺害された件」について捜査するよう、ペルー政府に命じている。

 フジモリの長女ケイコが党首の政党「人民勢力」(FP)は国会最大勢力。最近、老舗政党PAP(ペルーAPRA党)と連携し、ハイメ・サアベドラ教育相不信認決議を可決、解任に追い込んだ。

 これを受けてシプリアーニ大司教は、大統領府と国会の関係を安定させるため、クチンスキ大統領とケイコ・フジモリを近く大司教公邸に招き会談させる手はずを整えた。
 

2016年12月17日土曜日

ベネズエラのラ米医科大を第三世界医学生が新たに巣立つ

 カラカスにあるラ米医科大学(ELAM=エラム)サルバドール・アジェンデ分校に学んでいた318人が12月16日、卒業した。第4期生で、同期卒業生は1117人に達した。

 ELAM本校はクーバにある。この分校は2005年、故フィデル・カストロ議長と故ウーゴ・チャベス大統領が話し合い、創設した。この日、卒業式で訓辞を述べたニコラース・マドゥーロ大統領は、フィデルとチャベスの功績を讃え、これを模範とするよう諭した。分校卒業生は3万人を超えている。

 今回卒業した医学生の国籍は多様だ。ラ米はボリビア、エクアドール、ペルー、パラグアイ、アイチ、ニカラグア、エル・サルバドール、オンドゥーラス、メヒコ。アフリカはアンゴラ、ギネビサウ、カボヴェルデ、モサンビーク、シエラレオーネ、セネガル、ナイジェリア、ケニア、エティオピア、リビア、アラブ・サハラウイ共和国。他にパレスティーナと南米ガイアナ。

 留学生たちは貧しい家庭出身。卒業生は帰国後、無医村や寒村の医師となる。クーバの「医療保健国際主義」の思想が生かされている。

 一方、ベネスエラでは通貨ボリーバル・フエルテ(bf)の旧紙幣を新紙幣と交換する作業が続けられているが、交換所が少なく長蛇の列ができて、各地で混乱。数か所で怒った市民らが商店やスペルメルカードを略奪する事件が起きた。

 政府は交換期間を延長し、混乱回避に努めている。今回の措置は、世界最悪とも言われる超インフレに対処するため高額紙幣を流通させることにしたもの。

 ブエノスアイレスの亜国外務省前で起きたデルシー・ロドリゲス外相をめぐる小競り合いに関し、ベネスエラと亜国の罵り合いが続いている。マウリシオ・マクリ亜大統領は16日、ベネスエラ指導部を「卑怯者」と非難した。
 

2016年12月16日金曜日

コロンビア国会にFARCが会派と代議員を置く

 コロンビア政府と和平合意したゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は12月15日、国会上下両院に3人ずつの政治代表を置いた。女性政治活動家イメルダ・ダサら6人は同日、選管に会派「和平と和解の声」運動(MVPR)を届け出た。

 ダサら3人は下院、他の3人は上院に属す。審議の際、発言権は持つが投票権は持たない。FARCは来年前半に予定される武装解除と社会復帰の完了後、政党化し、2018年の国会議員選挙と大統領選挙に参加する計画だ。MVPRは、FARC政党化までの繋ぎ役を果たす。当面の役割は、和平合意実施過程の監視と検証。

 ダサは1980年半ばに出来たFARCおよび共産党の政党「愛国同盟」(UP)に所属していた。UP幹部3000~4000人が秘密警察や極右勢力によって暗殺されたが、ダサは生き残った幹部の一人。ダサは87年に暗殺未遂に遭いスイスに亡命、昨年帰国したばかり。他の5人も弁護士、政治学者、大学教授ら知識人。

 ローマ法王は16日、ヴァティカンにJMサントス大統領とアルバロ・ウリーベ前大統領を招き、個別に会談してから3者会談に入った。右翼のウリーベは内戦継続を主張、和平に頑迷に反対してきた。法王は、犬猿の仲のサントス・ウリーベ両人の対話を促し、和平過程実施に向けて協力態勢をとるよう促した。

 サントスは法王を前に、ウリーベに協力を求めたが、ウリーベは最終和平合意内容の修正が不十分と主張、協力に応じる姿勢を見せなかった。

 サントスは法王との会談では、和平最終合意調印時のボリグラフォ(50ミリ銃弾で作ったペン)を贈った。このペンには「銃弾はコロンビアの過去を書いた。未来は平和が書く」という言葉が刻まれている。調印時にサントスがFARC最高司令ティモチェンコに伝えた言葉だ。

 一方、コスタ・リカ警察は15日、サンホセ市内の民家からFARCの隠し資金として現金48万ドル(約15億コロンビアペソ)を押収した。ウリーベ前政権は08年3月エクアドール北部への越境軍事攻撃を決行、FARC幹部ラウール・レジェスらを殺害したが、その時奪ったパソコン資料から隠し資金の存在を突き止めていた。隠し資金はエクアドール、ペルー、パナマ、メヒコ、スペイン、米国にもあった。

 コロンビア司法省は14日、FARC要員中、最初の110人が赦免されたと発表した。来年初めにかけて、さらに約300人が赦免される運び。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ最高裁が国会に大統領弾劾審議禁止を命ず

 ベネスエラ最高裁は12月15日、保守・右翼野党連合MUDが進めていたニコラース・マドゥーロ大統領の事実上の弾劾を狙う審議を違憲として止めるよう命じた。

 圧倒的多数の議席を握るMUDは10月25日、「憲政・民主秩序の崩壊および経済・社会基盤荒廃に鑑み大統領政治責任を宣言する手続き」開始で合意。これに基づき審議していた。

 一方、マドゥーロ大統領に次ぐ実力者デョオスダード・カベージョ国会議員(前国会議長)は15日テレビ定例番組で、亜国警察がデルシー・ロドリゲス外相に暴力を振った問題に触れ、亜国大統領マウリシオ・マクリを「マクリは卑怯者」と糾弾。ベネスエラ駐在の亜国大使には「出て行け」と言い渡した。

▼ラ米短信  ◎クーバがラム酒で債務返済を提案

 チェコ政府は12月15日、クーバ政府が2億7600万ドルの債務をラム酒で返済したいと持ちかけてきた、と明かした。この債務は1989年のコメコン体制崩壊前に発生していた。

 チェコ側は、少なくとも一部は現金で返済してもらいたいが、ラム酒とクーバ製医薬品での返済受け入れもあり得る、と受け止めている。
 一方、ハバナの反体制派声明によれば、「白衣の女性たち」のベルタ・ソレル代表が15日、警察に身柄を拘禁された。

  

 チリの故サルバドール・アジェンデ大統領の孫がヘンリー・キッシンジャー元米国務長官逮捕をノルウェーに求める

 チレの故サルバドール・アジェンデ大統領の孫パブロ・セプールベダ=アジェンデ(40)が、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官(93)の逮捕をノルウェー政府に呼び掛け、大きな話題となっている。故大統領の長女カルメンの息子であるパブロはカラカス在住の医師。コロンビア内戦和平に貢献したフアン=マヌエル・サントス大統領へのノーベル平和賞授与式が催された2016年12月10日、ノルウェーの有力紙アフテンポステンに同国語で、「親愛なるノルウェーよ、キッシンジャーを逮捕してほしい」と題した公開書簡を掲げた。ノーベル平和賞受賞者でもあるキッシンジャー元長官はこの式典に招待されて出席、記念講演までぶった。以下は、同書簡スペイン語版訳の要旨。

 私の祖父アジェンデ大統領は、キッシンジャーが計画した軍事クーデターのさなかに死んだ。ノルウェーはキッシンジャーを逮捕すべきだ。1970年に選ばれた祖父大統領の政治的願いは、公正なチレ社会を建設することだった。巨大な貧富格差を平等化し、労働者に政治権力を与え、民主と複数政党制の枠内で平和裡に社会主義を建設することだった。

 1973年、その夢は破れた。大統領政庁(モネーダ宮)はアウグスト・ピノチェー指揮下の裏切り者軍隊と戦車に包囲され、空爆された。ピノチェーらは、米政府および、CIAと連携するキッシンジャーの指揮に従っていた。アジェンデには辞任する選択肢もあったが、人民の権力を守るため死ぬ道を選んだ。政庁とチレ民主の廃墟で死んでいった。

 キッシンジャーに支援され血塗られたクーデターと残虐な独裁は、その後数十年に亘って何百万人ものチレ人に影響を及ぼした。3000人以上が拉致され殺害され、何万人もが拷問され、他の何万人もが国外への亡命を余儀なくされた。キッシンジャーは南米でCIAおよび軍政諸国と組んで、恐怖と死の(コンドル)作戦を展開した。政治家、軍人、先住民、農民、労組員、左翼や、反米闘争をしていた人々が狙われた。

 多くのチレ人は、ノルウェーが小国でありながら、ピノチェー恐怖政権を逃れてきたたくさんのチレ人を受け入れてくれた事実を覚えている。だからこそ、キッシンジャーがノーベル平和賞授賞式に招かれたというニュースは信じ難かった。抑圧された人々の亡命地としてのノルウェーを記憶する我々にとって理解し難いのだ。キッシンジャーは南米左翼をテロと殺害で弾圧した最悪の知的主犯だった。それを示す十分な証拠文献があり、議論の余地はない。

 アジェンデに(1970年9月)大統領選挙当選の可能性が出るや、キッシンジャーは「ある国が、その国の無責任な人民のせいで共産主義国になるのを座して待つわけにはいかない。問題は、チレの有権者が決定するにはあまりにも重要な案件ということだ」と言って憚らなかった。キッシンジャーとニクソン(当時の米大統領)の政治的判断によって、アルゼンチンではチレの10倍(3万人以上)が殺された。逮捕された左翼女性から生まれた何百、何千という赤子が奪い去られた。

 彼らは皆、よりよい社会の建設を願い、植民地時代から続く不公正な社会構造の変革のため闘っていた。その社会では、少数の選良が外国勢力と組んで、富と資源の大部分を独り占めしている。その一方で大多数の人民は貧しく、日常的に搾取され辱められ抑圧されている。恐怖と戦(いくさ)を基盤とする体制の押し付けと維持にキッシンジャーほど大きな役割を演じた者は稀だ。

 キッシンジャーは、20世紀の大虐殺の一つである(インドシナ)空爆の直接の責任者でもある。彼はアレグザンダー・ヘイグ将軍に、「ニクソン大統領はカンボジアでの大量爆撃作戦を望んでいる。これは命令であり、遂行されねばならない。動く標的はすべて攻撃する。わかったか」と命令した。これによってカンボジア、ラオス、北ヴェトナムに計275万トンの爆弾が投下され、何百万人もの人々が殺された。

 キッシンジャーの戦略は南米でもアジアでも地政学的計算にすぎなかった。目的達成のために無数の人々が殺された。命の価値はそれほどまでに小さかった。こうした人種主義的で犯罪的な発想は植民地主義と帝国主義に根差しており、新しいものではない。

 しかし、オスロ大学とノーベル委員会という重要機関が、夥しい数の人命を軽んじた戦犯を招き讃えるとは驚きだ。亡命、拷問、爆撃の犠牲者は、そのような機関にとって価値がないということか。我々が南の貧しい人民だからなのか。

 平和と人権の保証人として振舞ってきたノルウェー政府に、虐殺、軍事クーデター、拷問の証明付き犯罪者の逮捕を求めるのは初(うぶ)すぎるのだろうか。ノーベル委員会には、無数の犠牲者の姿が隠されてしまう式典でキッシンジャーを讃えるという歴史的恥辱にまみれる代わりに、キッシンジャーのノーベル平和賞を剥奪し、彼の歴史的暴虐の償いをさせようと提起する倫理観の高い人物はいないのか。

 最後に、この忌むべき人物の来訪に反対する人々に感謝する。ノーベル平和賞を受賞しようとも、歴史は決してキッシンジャーに無罪を宣告しない。このことを本人に知らしめてほしい。    

2016年12月15日木曜日

アルゼンチン警察がベネズエラ外相に暴力行使

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は12月14日、ブエノスアイレスの亜国外務省で開催されていた南部共同市場(メルコスール)外相会議に出席しようとしたところ、外務省前で機動隊に阻止され、その際、警官に肩を強く殴られた、と抗議した。

 デルシーは、「この暴力はマクリ(亜国大統領)による報復だ」と非難した。過去にアスンシオンでのメルコスール会合で、デルシーはマクリをやり込めたことがある。

 また、メルコスール加盟手続き中のボリビアのダビー・チョケウアンカ外相も警官に殴られた。同外相も会議出席を拒否された。両外相はそろって抗議声明を出した。

 会議終了後、スサーナ・マルコーラ亜国外相は記者会見し、亜国が半年交代のメルコスール輪番制議長国に就任したことを明らかにした。同外相はまた、ベネスエラが必要な手続きを経て復帰することについて楽観的見通しを口にした。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は14日、ハバナでの「フィデル・カストロ、ウーゴ・チャベス両司令官初会談22周年記念日」および、「米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)発足12周年記念日」の行事に出席した。

 ブルーノ・ロドリゲス玖外相は、「ALBAは帝国主義に脅かされているマドゥーロ合法政権のベネスエラを守る」と強調した。フィデルはベネスエラを11回訪問、チャベスは晩年の癌治療を含め約30回訪玖した。

 ALBAにはベネスエラ、クーバ、ボリビア、ニカラグア、エクアドールのラ米5カ国と、アンティグア&バーブーダ、セントクリストファー&ネヴィス、グレナダ、ドミニカ、セントルシーア、セントヴィンセント&グラナディーンのカリブ英連邦6カ国が加盟している。

 一方、ベネスエラ工業連盟は14日、連盟加盟2000社のうち17%は稼働していないと明らかにした。また、47%は数年来、販売が減少していると述べた。

 またベネスエラ政府は14日、新旧通過紙幣交換に伴う混乱を避けるためとして、ブラジルとの国境を72時間閉鎖すると発表した。すでにコロンビアとの国境は72時間閉鎖中。

2016年12月14日水曜日

コロンビア憲法裁が和平立法審議短縮を承認

 コロンビア憲法裁判所は12月13日、サントス政権とFARC(コロンビア革命軍)が結んだ内戦終結のための最終和平合意の国会審議を大幅に短縮するための包括的審議(ファーストトラック)を合憲と認めた。国会が6月、同審議を可決していた。

 これを受けてJMサントス大統領は同日上院に、内戦中、戦争犯罪、人道犯罪など重罪を除く罪を犯した者を恩赦もしくは赦免する法案を提出した。

 憲法裁はまた、和平合意を次期政権以降の政権が遵守するようにすることなどのため、大統領政令を法令と同一効力を持つようにすることを認めた。

 FARCは12月2日以降、国内の予備集結地に集合しつつある。そこから最終集結地に入り、関係立法を待って、武装解除と社会復帰を同日から180日以内に完了することになっている。

 2018年に次期大統領と国会議員の選挙があるため、政党化してゆくFARCとしては、17年前半中に関係諸法が成立発効するのを望んでいる。FARC指導部は13日、和平合意に異議を唱える司令級幹部5人を追放した。

 コロンビアでは今年、労組・人権・環境運動などの社会的指導者が94人殺され、28人が負傷し、279人が脅迫された。これを受けて、米連邦下院の人権派ジム・マクガヴァンら議員38人が連名で、ジョン・ケリー国務長官に対処を求めた。

 一方、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は13日、通貨ボリーバル・フエルテ(bf)の新旧紙幣交換に際し、コロンビアとの国境を72時間閉鎖する命令を発した。

 ベネスエラはまず、現行の100bf紙幣(公定15米セント、闇で同2セント)を回収しているが、コロンビアの組織犯罪団が同紙幣を大量にコロンビア国内に持ち去り隠匿している事実を確認、国境閉鎖に踏み切った。

 15日からは1万bf、2万bfなど高額紙幣が段階的に流通してゆく。ベネスエラは超インフレに苛まれており、紙切れ同然の価値しか持たなくなった旧紙幣では買い物や取引が困難になっていた。だが、いずれデノミネーションが来ると予測されている。

▼ラ米短信  ◎次期ブラジル大統領最有力者はルーラ元大統領

 伯紙フォーリャデサンパウロは12月13日、世論調査結果を公表。2018年実施の次期大統領選挙の予想出馬者の中で、労働者党(PT)のルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ元大統領が支持率25%で人気一番手になった。

 2位は、「持続可能網」(REDE)のマリーナ・シルヴァ15%、3位は、伯社民党(PSDB)のアエシオ・ネヴェス11%。不人気のミシェル・テメル現大統領(伯民主運動党=PMDB)は、4%で6位だった。 

2016年12月13日火曜日

拉致されたアルゼンチンの左官ロペス氏に名誉博士号

 ブエノスアイレス(BA)州都ラ・プラタ市にある国立ラ・プラタ大学は12月12日、旧軍政極右陣営によって強制失踪させられた左官職人ホルヘ=フリオ・ロペスに名誉博士号を授与、息子ルベーン・ロペスが証書を受け取った。

 ロペスは軍政時代(1976~83)に連行され、地下収容所で拷問された。2006年に元BA州捜査警察長官ミゲル・エチェコラツら、軍政期に同州内で起きた人道犯罪の責任者たちを裁く法廷で証言。新たに法廷証言する直前の同年9月18日、拉致された。殺害されたと見られている。

 だがロペスが済ませていた証言により、エチェコラツらに2012年、終身刑が言い渡された。エチェコラツは拉致、拷問、殺害、政治囚に生まれた赤子奪取などに関与した。

 ロペスは、野放しになっているエチェコラツの元部下らによって拉致され抹殺されたと見られている。ロペスは失踪から10年経った今、人権のために闘った功績を認められ、名誉博士号を授与された。

▼ラ米短信  ◎クーバと欧州連合(EU)が関係正常化で調印

 クーバとEUは12月12日ブリュッセルで「政治対話・協力合意」に調印した。1996年に当時のスペイン右翼政権の主唱で定められた「共通姿勢」(ポシシオン・コムン)という対玖締め付けのための統一政策は過去のものとなった。

 調印式にはブルーノ・ロドリゲス外相(共産党政治局員)が出席した。トゥランプ次期米大統領が就任する前にEUとの関係正常化に到達したことは、クーバにとって重要だ。

 トゥランプ次期大統領は12日、米南方軍(マイアミ司令部)の前司令官、ジョン・ケリー退役海兵隊大将を国土安全保障相に任命した。ケリーは南方軍司令官時代、ベネスエラ潰しの工作に力を入れていた。このためベネスエラやクーバは警戒している。

 一方、玖電気通信会社ETECSAと米グーグル社は12日ハバナで、電子機器通信協力協定を結んだ。パソコン通信の速度加速化などが目的。

 またフランスのカレブ航空は9日、パリ・ハバナ定期便を就航させた。毎金曜日に往復便が運航される。毎火曜日には、同じくパリ・サンティアゴデクーバ便が運航される。また玖国営航空クバーナとの毎土曜日の共同運航を検討している。

2016年12月12日月曜日

ブラジル世論調査:63%がテメル大統領辞任を要求

 ブラジルで実施された最新の世論調査の結果が12月11日公表された。それによると、ミシェル・テメル大統領の支持率は10%だった。63%は即時辞任を要求。34%は「まあまあ我慢できる」だった。

 これを受けて、野党PT(労働者党)は同日、国会下院でテメル即時辞任と大統領直接選挙実施を要求した。最大政党PMDB(伯民主運動党)のテメルは、些細な理由でヂウマ・ルセフ前大統領(PT)を8月末、弾劾に持ち込み、政権に就いた。テメルは副大統領として弾劾裁判中、大統領権限を代行していた。

 テメルの不人気は、前大統領弾劾がPT長期政権を潰すためのPMDBなどによる陰謀に基づく事実上のクーデターだったことや、テメルの汚職、経済後退などによる。

 テメルは国営石油会社ペトロブラスから巨額の賄賂を受け取ったとして取り調べ対象者に含まれている。同社汚職事件と絡む建設最大手オデブレヒト社の元幹部は最近、法廷で、2014年にテメルから300万ドルを要求されたと証言した。テメルは否定したが、収賄疑惑は一層強まっている。
 
 世論調査のテメル施政に関する設問には、40%が施政悪化と回答。34%が変わらない、21%が良くなったと答えた。経済状況では65%が悪化、20%が安定、9%が良くなった、だった。

 テメル政権の閣僚は既に6人辞任、うち4人は腐敗が理由だった。11月末にはテメルの側近、ジュエル・リマ大統領府長官が、自身の不動産処理のために職権を濫用した事実が暴露され、辞任に追い込まれた。

 またテメルの盟友、レナーン・カリェイロス上院議長(PMDB)は腐敗により今月5日、最高裁から議長職務停止命令を受けたが、テメルらの支持で居座った。最高裁は腰砕けで7日、命令を覆した。だがカリェイロスは犯罪容疑者であるため大統領地位継承権を剥奪された。

   
 

2016年12月11日日曜日

故ビクトル・ハラ夫人ジョーン・ターナーがネルーダ勲章受章

 チレのミチェル・バチェレー大統領は12月9日、パブロ・ネルーダ芸術・文化勲章を舞踊家ジョーン・ターナー(82)に授与した。ターナーは、音楽家で演出家だった故ビクトル・ハラの夫人。ハラは軍事クーデターが起きた1973年9月11日軍政に逮捕され、同月16日、拷問された後、射殺された。

 ターナーは英国生まれの舞踊家。1954年にチレに来て、国立バレエ団に入団。60年ハラと結婚。クーデター後、娘2人を連れて英国に亡命。80年代半ば帰国し、「精神舞踊センター」を設立。93年には「ビクトル・ハラ財団」を設置した。国会は2009年、ターナーにチレ国籍を与えた。

 ネルーダ芸術・文化章は、ネルーダ生誕100周年の2004年、文化・芸術理事会(CNCA)が創設。ターナーは、長年の舞踊および教育活動が評価され、受賞した。

 バチェレー大統領の父親は空軍将軍だったが、アジェンデ社会主義政権に協力したとして、ピノチェー軍政に逮捕され、拷問されて獄中死した。肉親を軍政に殺された点でターナーと共通する。

 一方、12月10日は、独裁者だったアウグスト・ピノチェーが2006年91歳で死去した10周年記念日。遺族ら100人はこの日、ピノチェー家の別荘のある太平洋岸のロス・ロルドスでミサを催した。遺骨は同別荘内に安置されている。

 政府は6日、「ピノチェーはチレ人の団結でなく分裂に関わった過去の人物だ。チレは現在と未来に目を向けねばならない」との簡単な声明を発表している。

 首都サンティアゴ市には、クーデターおよび軍政期の人道犯罪の資料などを展示する「記憶博物館」があり、年間15万人が訪れている。ピノチェー軍政期に3200人以上が殺され、このうち、まだ多くの人々の遺体が見つかっていない。拷問された者は3万人に上る。

▼ラ米短信  ◎コロンビア大統領がノーベル平和賞受賞

 コロンビアのフアン=マヌエル・サントス大統領は12月10日、ノルウェー・オスロ市公会堂でノーベル平和賞を受賞した。FARCとの半世紀を超える内戦に終止符を打った功績を評価された。

 大統領は式典で、「内戦で肉体的危害を受けていない人々が和平に反対しているというパラドックスがある。(国民投票敗北で)我々の和平の船がまさに漂流しようとしていた時、天からノーベル賞が与えられた」と述べ、同伴してきた内戦犠牲者代表7人を紹介した。

 ノルウェーの平和賞委員会は、「国民投票結果を受けてサントス氏への授賞は時期尚早という意見が出た。だが我々は、和平が危機に瀕している今こそ国際的支援をすべきだと判断した」と、授賞決定の内幕を披露した。

 一方、コロンビア世論は、「サントスは和平を導いたが、分裂している国内をまとめることができないままだ」と批判。「サントスはオスロに大使館を開くなど、2年前から受章に向けて準備していた」との指摘もある。

 2012年から4年間続いたハバナでの和平交渉では、クーバがFARCの、ノルウェーがコロンビア政府の、それぞれ後見国を務めた。

2016年12月10日土曜日

アルゼンチンのマクリ保守政権が発足1周年

 アルヘンティーナ(亜国)のマウリシオ・マクリ大統領の保守・右翼政権は12月10日、発足1周年を迎えた。この1年間にインフレは累計45%、景気は後退した。貧困人口が増えた。870万人が貧困、130万人が窮乏状態にある。両者合わせた1000万人は、人口の38%に相当する。

 その間、公務員7000人、民間企業労働者20万人が馘首された。1米ドル=9・75ペソだった外為交換率は、1d=16・11pと、65%もペソの価値が落ちた。

 その傍ら、亜国への債権を買い取り、巨額の債務返済を要求していた米投資会社(禿鷹ファンド)と妥協、高額を支払った。

 貧困大衆は生活苦から抗議行動を続けている。「五月広場の母たちの会」(エベ・デ・ボナフィニ派)と、同会創設者路線(ノラ・コルティーニャスら)は8~9両日に亘って「24時間抗議行進」を、カサ・ロサーダ(大統領政庁)前の五月広場で実行した。

 88歳のボナフィニ会長は車椅子で参加。母たちと支援者は「連帯と闘争か、それとも飢餓と弾圧に身をまかすか」の横断幕を掲げ、ペロン主義キルチネル派の前政権の政治家が共に行進した。

 一方、創設者路線の行進には、ノーベル平和賞受賞者アドルフォ・ペレス=エスキベルらが参加した。

 両母の会ともに、マクリ政権下で政治的弾圧、失業、飢餓、誹謗、不公正などが急速に増えたと指摘する。ことし初め、フフイ州内で、州当局を批判した女性ミラグロ・サラが逮捕され、拘禁されたままになっている。

 親米・新自由主義路線を共にするマクリとテメルの亜伯大統領は関係を深めている。一方でクリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル前亜国大統領と、ルーラ元伯大統領、テメルらの陰謀で弾劾されたヂウマ・ルセフ前伯大統領は連携を進めている。

▼ラ米短信  ◎亜英両国が無名戦士の身元確認で合意

 亜英両国は11月29日、マルビーナス戦争(1982年4~6月)で戦死し「無名戦士」としてマルビーナス(フォークアンド)諸島のダーウィン墓地に埋葬されている亜国軍兵士123人のDNA鑑定による身元確認をすることで予備合意、12月9日、最終合意した。双方は赤十字国際委員会(ICRC)に委託し、来年中にDNA鑑定する。

 亜国軍がマルビーナス領有権奪回のため開戦した戦争で、亜国軍649人(無名戦士1234人含む、英軍255人、島人3人が死亡した。英国が勝ち、諸島は英国の植民地のままとなっている。 

 
 

2016年12月9日金曜日

キューバとロシアが軍事産業協力協定に調印

 ハバナで12月8日、第14回玖露閣僚理事会執行委員会が開かれた。露首席代表ディミートゥリ・ロゴジン副首相は、「ロシアは米国のような西側諸国から圧力を受けてきたが、この国(クーバ)とは主権護持の志を共有している」と述べ、両国が連携して、そのような圧力に対し防衛してゆきたいとの姿勢を見せた。

 玖側首席はリカルド・カブリーサス副首相。両国は続いて、2020年までの軍事産業協力を始め、運輸(航空、鉄道、機関車)、電力、薬品に関する協定に調印した。

 ロシア側はまた、クーバの中長期開発計画への参画意志を確認した。

 一方、玖米両国は7日ハバナで第5回2国間会議を開催、国交改善政策継続で一致した。玖側首席ホセフィーナ・ビダル外務省米国局長は、「2014年12月以来の関係改善は両国市民と国際世論の多数派の支持を受けてきた」と強調、トゥランプ次期米政権になっても、良好な関係を発展させてゆきたい意志を示した。

 米側首席はマリ=カルメン・アポンテ国務省米州担当次官補代理。双方はオバーマ政権が終わる来年1月20日前に、これまで話し合ってきた懸案を可能な範囲で合意に持ち込みたい意欲を表明した。ビダル局長は、経済封鎖全面解除とグアンタナモ基地返還をあらためて訴えた。

 ビダルは、今年1~10月に米国人20万8000人が来訪、前年同期比68%増と明らかにした。同期間の在米玖系人の来訪は24万8000人で、同4%増。同じく両国間の文化などの交流は1200件あり、12%増だった。

 クーバの自営業者ら100人は7日、ドナルド・トゥランプ次期大統領に書簡を送り、オバーマ政権の対玖政策を維持発展させるよう要請した。

 欧州連合(EU)は6日、1996年に当時のアスナール・スペイン右翼政権の主唱で定められた「対玖共通姿勢」を正式に廃止した。クーバに「民主化」などを要求するもので、玖側は内政干渉として反駁していたが、去年、事実上廃止された。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラ対話が暗礁に乗り上げる

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDは12月7日、マドゥーロ政権との政治対話を打ち切ると発表した。スペインのサパテーロ前首相ら元首脳3人による政府・野党間の仲介工作により10月から対話が続けられていたが、MUDは、政府が大統領罷免国民投票を実施しなければ対話に応じないと跳ね付けた。

 南米の亜URU伯PAR智COL秘の7カ国とメヒコ、グアテマラのラ米計9カ国外相は8日連名で、ベネスエラ政府に対し、対話再開に向けて努力するよう要請した。 

2016年12月8日木曜日

~~ピースボート2016年波路遥かに~番外編~~

 国連公認のNGOピースボート(PB)が企画し、旅行代理店ジャパン・グレイス(JG)が運営する世界一周船には、「水先案内人」(水案)と呼ばれる船上講師が交代で乗船する。国際情勢、沖縄、環境、人権・反差別、軍事・反核、教育、世界遺産などの語り手から、冒険家、奇術師、落語家、俳優、音楽家、スポーツ選手、画家、歌手、料理評論家、自立生活者などまで、様々な分野の専門家たち約70人である。

 その望年会が12月7日、昨年に続いて、横浜港大桟橋停泊中のPB「オーシャン・ドゥリーム号」の船内で開かれた。初代ルポライター鎌田慧、フォトジャーナリスト豊田直巳らジャーナリズム関係者を始め、アニメーション作家や細川佳代子(元首相夫人)ら40人が集い、PB・JGスタッフと歓談した。軍事ジャーナリスト前田哲男は珍しく欠席。落語家古今亭菊千代も多忙で不参加だった。

 昨年3月死去したアイヌ研究・文化運動推進者の計良光範、今年10月死去した登山家田部井淳子の不在を感じた。親しい水案仲間だった。

 PBの旅客船運航は1983年に始まった。それから数えて100回目の記念航海が2018年12月から96日間、アフリカ・南米南端周りで実施される。この南周り航海の内容が望年会場であらためて発表された。

 私は92回航海をホノルルで切り上げ11月半ば過ぎに帰国したばかりだったが、20日ぶりに船上で仲間たちと再会できた。船は明日9日、南周りの第93回航海に乗客1000人乗せて出航する。

 その中にはシンガポール、上海、台湾などの華人客が60人含まれている。従来の英西両語に加え、中国語通訳も乗船する。今後、乗客の多国籍化が急速に進むと見られており、水案講座の主題も変化してゆくだろう。
 
 

2016年12月7日水曜日

ベネズエラ大統領が産油諸国首脳会議開催を提案へ

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は12月6日、向こう10年間の原油政策を話し合うため、OPEC(石油輸出国機構)加盟国および非加盟産油国有志の首脳会議開催を提案する方針、と発表した。来年第1・4半期に文書で正式に提案するという。

 マドゥーロ大統領はまた、プーチン露大統領と6日電話会談し、両国間の軍事協力協定継続を確認、ロシアが来年、新しい軍事装備をベネスエラに供給することが決まった、と明らかにした。

 さらに、最近の全国パン製造業者組合絡みのパン工場サボタージュ事件でパン供給が不十分になったのに鑑み、ロシアが来年、農業やパン製造技術の専門家を派遣してくることも決まった、と述べた。

 両首脳は、このほど決定したOPEC加盟国が日量120万バレル、ロシアなど非加盟国が同60万バレルずつ原油生産を削減することについても話し合った。

 一方、ベネスエラ国営石油会社PDVSA(メデベサ)社長を兼ねるエウロヒオ・デルピノ石油相は6日、12月1~3日に計1万6943回のサイバー攻撃がPDVSAに仕掛けられた、と発表した。その8割方は韓国、オランダ、米国から発信されたもの。

 石油相は、この攻撃を、PDVSAの電脳系統を麻痺させ生産を停止させるのが狙い、と見ている。3日には、製油所の電気系統が破壊される事件も起きたと、同相は明らかにした。

 諜報機関SEBIN(セビン)は6日、破壊活動の一部実行容疑者を逮捕したと発表。同機関は、事件に野党連合MUDが関与していると見ている。

 またアリストーブロ・イズトゥーリス副大統領は同日、野党勢力は国家と社会の不安定化を狙ってサイバー攻撃と経済戦争を仕掛けていると非難した。副大統領はまた、銀行などの現金引き出し機が先週作動しなくなったのも、同一勢力の攻撃のせいとの見方を表明した。 

2016年12月6日火曜日

元ペルー大使がマリエル難民流出時のフィデル・カストロ議長との遣り取り明かす

 元クーバ駐在ペルー大使が1980年の「マリエル大量難民流出」のきっかけとなった在ハバナ秘大使館へのクーバ人流入事件時、当時のフィデル・カストロ国家評議会議長との緊迫した遣り取りのもようを初めて明らかにした。

 エルネスト・ピントバスルコ元大使は4日、フィデルの遺骨埋葬に合わせてペルー紙エル・コメルシオに語った。「フィデルが死んだ今、初めて明かす」として、1980年4月4日、クーバ人1万人強が大使館構内に入り混んだが、それ以前に大使館はクーバ人30余人を匿っていた。

 最初のフィデルとピントバスルコとの交渉で、フィデルは大使館に入ったクーバ人の一部の身柄を引渡すよう要求、大使は応じなかった。するとフィデルは「大きな違いがある。私は人を殺せるが、あなたはできまい」と言った。

 これに対し、「殺すのは簡単で、動物も他者を殺す。だが人間一人を生かすのはずっと難しい」と応じた。続けて、「この問題は私のでもペルーの問題でもない。私は明日出国できる。問題はあなた方に残る。ここで解決しなければならない。死者が出たら、司令官(フィデル)の責任になる」と伝えた。

 翌4月5日、大使館の電気は切られ、事態は緊迫していた。するとフィデルが密かにやってきて、車の中で話し合おうと持ちかけた。フィデルと大使は車に乗り、マレコン通りを走りながら、交渉した。フィデルは、大使館内のクーバ人を「亡命者」と呼ばず、「入り込んだ者」と呼ぶよう要求、大使は受け入れた。館内の全員が安導権を認められ、マリエル港から出国することになった。

 ピントバスルコ元大使は、近く『外交と自由』という本を刊行、その中で詳細を語ることにしている。当時出国した「マリエル難民」は、ペルー大使館内の1万人強を含め12万5000人に達した。

▼ラ米短信  ◎ブラジル上院議長資格停止さる

 ブラジル最高裁は12月5日、国会上院のレナーン・カリェイロス議長に資格停止を命じた。建設会社に事業を発注し、見返りに収賄、その金を愛人と娘に渡していたという腐敗で起訴されたため。上院議員資格は維持されている。
 
 カリェイロスは、国営石油ペトロブラス絡みの巨額収賄でも告発されている。ヂウマ・ルセフ前大統領を正当な理由なしに弾劾したミシェル・テメル現大統領の盟友でもあり、テメルにも大きな痛手だ。テメル自身も収賄で告発されている。

 議長代行には、労働者党(PT)のジョルジ・ヴィアナ議員が就任。ところがカリェイロスは議員らの支持を受けて6日、最高裁命令に従わず議長職に留まると表明した。

2016年12月5日月曜日

フィデル・カストロの遺骨、ホセ・マルティ廟の隣に眠る

 11月25日90歳で死去した革命家フィデル・カストロの遺骨は12月4日早朝、サンティアゴデクーバ市の聖母イフィヘニア墓地に新設された墓に埋葬された。花崗岩製で高さ4mの円い形の墓は、クーバ史上最大の人物とされるホセ・マルティの巨大な霊廟のすぐ横にある。

 遺骨を納めた小さな棺は、ラウール・カストロ国家評議会議長の手で、墓の中央にある穴に納められた。議長からは、すすり泣きの声が聞かれた。その穴は、青みがかった大理石の石板で塞がれた。石板には金色の文字で「フィデル」とだけ書かれている。

 墓の右横には、オベリスク状の石柱に、フィデルが2000年5月1日に表明した「革命の概念」の文字が刻まれている。「概念」には、謙虚、正直、愛他主義などが盛り込まれている。

 式典には、ダリア・ソトデルバージェ夫人、息子たちをはじめとする遺族、外国人招待客約40人、クーバ共産党・政府・軍の指導部などが参列。国歌が流され、弔砲21発が轟いた。

 来賓にはベネスエラ、ニカラグア、ボリビアの大統領、ブラジルの前・元大統領、コンゴ、エティオピア、マルチニック島の要人、フランス環境相、亜国元蹴球選手ディエゴ・マラドーナらが含まれていた。

 一方、フィデルが生前、支援を惜しまなかったクーバ国立バレエ団のアリシア・アロンソ団長(間もなく96歳)は3日ハバナで、「フィデルのことを語りたくない。涙が出てくるから」と語った。アリシアはフィデルの死を受けて、フィデルに感謝する声明を発表している。

【アリシア・アロンソのバレエ人生を描いた2015年の映画『ホライズン』(水平線)は現在、東京都写真美術館ホール(電話03-3280-0099)などで上映中。】

▼ラ米短信  ◎ベネスエラが新紙幣発行

 ベネスエラ中央銀行は12月4日、通貨ボリーバル・フエルテ(Bf)の500、1000、5000、1万、2万Bfの新紙幣を15日から流通させる、と発表した。併せて10、50、100Bfの新硬貨も流通する。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は今月2日、右翼政財界と在米勢力がハッカー攻撃をかけベネスエラの銀行など金融機関を麻痺させる経済戦争に出て、通貨流通が疎外されている、と表明。新紙幣・硬貨発行に触れていた。

2016年12月4日日曜日

サンティアゴ市でフィデル・カストロ氏の告別式挙行

 故フィデル・カストロ氏の告別式が12月3日、サンティアゴデクーバ市のアントニオ・マセオ広場で挙行された。実弟のラウール・カストロ国家評議会議長(85)が演説。「我々は、クーバ人民の愛国的信念、規律、成熟に支えられて、祖国と社会主義を防衛することを誓う。何百万人ものクーバ人民が、革命の指導者(フィデル)の思想的継承者として革命体制維持のため署名した」と強調した。

 議長はまた、「モンカーダ兵営襲撃、グランマ号遠征、独裁打倒の革命、ヒロン浜侵攻攻撃、識字教育、社会主義革命宣言、ミサイル危機克服、アンゴラ戦争勝利などを彼(フィデル)は成し遂げた」と指摘。

 「ソ連消滅後は平時の特別機関、GDP34・8%縮小、長期長時間停電などに耐えた。敵(米国)の間近で、これだけ抵抗できる人民は稀だ」と続け、「これまでいかなる障害をも克服してきたように、今後も克服する」と述べた。最後は「勝利まで(アスタ・ラ・ビクトリア)」と叫び、群衆が「必ず(シエンプレ)」と呼応、演説は終わった。

 告別式にはサンティアゴ市民30万人、共産党・政府・軍部高官らのほか、来賓としてベネスエラのニコラース・マドゥーロ、ニカラグアのダニエル・オイルテガ、ボリビアのエボ・モラレスの3大統領、ブラジルのルーラ元大統領とヂウマ・ルセフ前大統領、亜国元蹴球選手ディエゴ・マラドーナらが参列した。

 モラレスは地元メディアに、「我々は皆フィデルであり、チャベスである。彼らは祖国と、大なる祖国(ラ米)のために闘った」と語った。ルーラは「フィデルは現代ラ米最大の人物だった」、ヂウマは「公平な社会建設と、ラ米統合を目指した現代最大の政治家の一人だった」と、それぞれ述べた。

 この日、人民権力全国会議(国会)は、フィデルの遺言により、フィデルの銅像建設、道路への命名など個人崇拝に繋がる一切を禁止すると発表した。

 一方、米次期大統領ドナルド・トランプは2日、個人メディアで、「クーバが私とよりよい合意を結ばなければ外交関係を断つ」旨のメンサヘ(メッセージ)を発した。彼の補佐は、トランプの対玖優先課題として「政治囚釈放、在玖米人逃亡犯身柄引渡、政治と宗教の自由」を挙げた。

▼ラ米短信  ◎ボリビア娘がモラレス大統領暗殺を企て?

 ボリビア内務省は12月3日、17歳のボリビア人女性がラパスの米大使館宛ての電郵(eメイル)で、自身と家族の政治亡命を認めてくれればエボ・モラレス大統領を殺害する用意があると伝えていたことが、米大使館からの通報で明らかになった、と発表した。

 当局は、既に17歳の女性と両親を特定。その女性の電郵から発信されたのか、それとも他人が彼女の電郵を利用したのかを含め捜査中。大統領は、フィデル・カストロ氏の告別式出席のため、サンティアゴデクーバ滞在中。

 因みに、伯サッカーチーム「シャペコエンセ」を乗せてこのほどコロンビアで墜落したボリビアLAMIA航空旅客機と同じ機体に、モラレス大統領が11月15日、ボリビア・ベニ州内で搭乗していたことが分かった。 

2016年12月3日土曜日

フィデル・カストロ氏の遺骨、故郷オルギン州を通過

 フィデル・カストロ以下82人のゲリラ戦士を乗せたクルーザー「グランマ号」がクーバ島東部の海岸に到着、革命戦争が始まってから12月2日で丸60年。この日はクーバ革命軍創立記念日になっているが、同日フィデルの遺骨を展示行脚中の車列は、オルギン州都オルギンを通過した。

 同市から50km離れた同州内のビラーン村にはフィデルの復元された生家があるが、車列は同村は通過しなかった。私生活面を表に出すのを極度に嫌っていたフィデルの意向を、実弟ラウール議長が汲んだのだ。

 車列は11月30日ハバナを出発してからマタンサス、サンタクラーラ、シエンフエゴスなどを回ったが、サンタクラーラ市入口にあるチェ・ゲバラ広場を通過した際、「両雄が再会した」とテレビアナウンサーは伝えた。車列は3日サンティアゴデクーバ市に到着、アントニオ・マセオ革命広場で告別式が挙行され、遺骨は4日埋葬される。

 ボリビアのエボ・モラエス大統領は2日、同国コチャバンバ州内で開かれている第2回世界反帝国主義青年会議の開会式で演説、3日のサンティアゴデクーバでの告別式にラウール議長から招待されており、参列すると述べた。同大統領は11月29日のハバナでの国葬にも参列している。

▼ラ米短信  ◎FARCにも医療保険適用へ

 コロンビア政府は12月2日、武装解除し社会復帰するFARCゲリラ要員は、集結地で国連機関に登録すれば医療保険の恩恵に与かることができる、と明らかにした。この措置は11月30日に遡って適用される。

▼ラ米短信  ◎ウルグアイ政府が、ベネスエラは依然メルコスール加盟国と言明

 ウルグアイのホセ・カンセラ副外相は12月2日、ベネスエラは投票権はないが発言権はあるメルコスール加盟国だ、と述べた。副外相はまた、このウルグアイの立場は、他の加盟国(ブラジル、亜国、パラグアイ)と異なる、と指摘した。

 同3国は、いずれも保守・右翼政権化にあり、マドゥーロ左翼政権のベネスエラをメルコスールから追放しようとしている。

 カンセラ副外相は、ベネスエラは加盟国が批准すべきメルコスール規定1159項目のうち931に承認加盟しているが、228項目に依然加盟していない、と明らかにした。

 ベネスエラ政府は、同228項目のうち117項目は承認できないと通告している。その中には、マドゥーロ政権への揺さぶり工作に応用されうる「人権規定」も含まれている。

 ブラジルなど3国は、117項目への不参加を理由にベネスエラの加盟資格停止を強行。さらに追放しようと工作している。


2016年12月2日金曜日

南米のメルコスールがベネズエラを資格停止に

 南米の関税同盟、南部共同市場(メルコスール)は12月1日、ベネスエラに資格停止処分を通告した。理由を、同国が「メルコスールが定めた域内条約・規定の30%以下しか批准していない」ことと説明している。

 原加盟国アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ4国は14日、モンテビデオのメルコスール本部で外相会議を開き、ベネスエラの資格停止について正式に決定する。

 これに対し、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は、「既に92%批准した」と主張。デルシー・ロドリゲス外相は、3国同盟(亜国、ブラジル、パラグアイ)の反ベネスエラ工作を許さないと糾弾した。

 ウルグアイについては、同国とベネスエラは18日、ベネスエラの加盟資格を「投票権なし・発言権あり」とすることで合意していた、、と明らかにした。だが3国はベネスエラ追放さえ視野に入れている。

 亜国では昨年12月、マクリ保守・右翼政権が発足、ベネスエラでも同月の国会議員選挙で保守・右翼野党連合が圧勝、今年1月から野党が支配する国会となってきた。

 またブラジルでは今年8月末、ヂウマ・ルセフ大統領が正当な理由に欠ける弾劾裁判で解任され、腐敗にまみれた保守のテメル政権が発足した。

 パラグアイは、80年代末までのストロエスネル長期独裁の流れを汲むカルテス保守・右翼政権の下にある。ウルグアイだけは、左翼連合「拡大戦線」のバスケス政権下にある。

 ベネスエラが3国同盟と形容する3国は、マドゥーロ政権打倒を目指す米政府およびベネスエラ国会と連動、メルコスール加盟資格停止という強圧処分で同政権揺さぶりに加担している。

 ベネスエラは今年7月から半年間、メルコスールの輪番制議長になるはずだったが、特にパラグアイとブラジルの反対で議長就任を阻止された。

 トゥランプ次期米政権はベネスエラに対し厳しい政策をとるものと見込まれており、それにメルコスールは同調する形となる。
 

2016年12月1日木曜日

フィデル・カストロ氏の遺骨が東部行脚に出発

 小さな棺に納められたフィデル・カストロ前議長の遺骨は11月30日、国防省でガラス箱に入れられ、特製霊柩車の荷台に乗せられた。この霊柩車を含む7台の車列がハバナ市内を行進、沿道で無数の市民が棺に別れを告げた。先頭車にはラウール・カストロ議長が乗っている。

 車列は午後、マタンサス州カルデナスに到着、夜、サンタクラーラ市に着く。12月3日、サンティアゴデクーバ市のアントニオ・マセオ革命広場で30万人が参列する人民告別式が挙行され、4日埋葬される。ハバナは小一週間ぶりに平常に戻った。

▼ラ米短信  ◎コロンビア和平合意を国会が承認

 コロンビア国会上院は11月29日、政府とFARCとの内戦和平最終合意を賛成75、反対0で可決、承認した。和平に反対する右翼政党は事前に退場、不参加だった。

 下院も30日、賛成130、反対0で承認した。右翼政党は退場し、不参加だった。国民票に代わる国会の承認で、和平合意は実施に移される段階を迎えた。

 アルバロ・ウリーベ前大統領が率いる保守・右翼勢力は、和平合意にウリーベを含む政府現・元高官の内戦責任の免除が盛り込まれているにも拘わらず、和平に反対している。

 JMサントス大統領は1日、FARCは12月1日から31日の間に国内23カ所の指定地域に集結、150日以内に武装解除される、と語った。サントスはまた、国会に来週、和平関連法制案を提出つると明らかにした。その時期は、同大統領のノーベル平和賞受賞式と重なる。

 一方、政府と、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)は和平交渉を来年1月10日再開することで29日合意した。