2017年8月21日月曜日

 ベネズエラが「対話」のため国際会議を呼びかけ▼「リマグループ」は制憲議会(ANC)による国会権限奪取を糾弾▼オルテガ前検事総長はコロンビアに亡命か

 ベネスエラのホルヘ・アレアサ外相は8月19日、マドゥーロ政権と反政府勢力との対話を実現するため国際会議を開くべく、関係諸国に呼びかけた。


 ベネスエラの制憲議会(ANC)は18日、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDが支配する国会の立法機能を剥奪、ANCに移した。


 これに対し、米州の親米・反ベネスエラ12カ国(亜伯パラグアイ智秘コロンビア巴CRホンジュラス・グアテマラ墨加)は19日、ANCの国会権限奪取を厳しく糾弾した。


 同12カ国は、自分たちを「リマグループ」(グルーポ・デ・リマ)と呼んでいる。先にリマ市で外相会議を開き、ANC開設を認めず糾弾したのに因む。今回、再度リマで外相会義を開いた。


 米国はベネスエラと敵対している関係で、「リマグループ」には参加していない。同グループの「中立性」を装うためだ。米国と同グループは、米州諸国機構(OEA)の「米州民主憲章」をベネスエラに適用し、それを根拠として同国に介入する戦略を維持している。


 一方、ANCに検事総長を解任されたルイサ・オルテガは18日未明、パラグアナ半島から快速艇で脱出し、カリブ海沖の蘭領アルバに到着。そこから空路、コロンビアの首都ボゴタに着いた。政治亡命と受け止められている。


 マドゥーロ政権は3月末、国会機能を最高裁憲法法廷に移したが、これに真っ先に異論を唱えたのが、当時のオルテガ検事総長だった。大統領は身内から厳しく批判され、決定を取り下げざるを得なくなった。


 MUDは、この大統領の朝令暮改の大失態を受けて反政府行動を一挙に激化させた。それに起因する街頭暴力事件および、その関連で125人が死亡、1500~2000人が負傷した。


 政権は、窮地を打開するため8月4日、「万能のANC」を開設した。そのためのANC議員選挙を7月末実施したが、MUDは「違憲」として認めていない。


 カラカス中心街の国会議事堂内にMUDの国会と政権のANCが共存する異常事態となったが、ANCは計画通り国会機能を奪取した。

2017年8月13日日曜日

 ベネズエラANCのデルシー議長がトランプ発言を糾弾▼ペンス米副大統領が13日からラ米4カ国歴訪へ▼ANCは中央選管指導部を信任▼フレイ元チリ大統領毒殺犯6人を断罪へ

 ベネスエラ制憲議会(ANC)のデルシー・ロドリゲス議長は8月11日、ドナルド・トランプ米大統領による対VEN軍事攻撃の脅迫発言を受けて、ANCが対処について審議したことを明らかにした。デルシー議長は、「米大統領による卑劣、傲慢、破廉恥な脅迫を糾弾する」と表明した。

 議長はまた、「国家最高機関である大統領ニコラース・マドゥーロへの攻撃は、反帝国主義のVEN人民によって一蹴されよう」とも述べた。

 米大統領はHマクマスター安保担当補佐官らと協議した後、「軍事的選択」を口にしたが、マクマスターは先週、「マドゥーロに責任を米国に転嫁する口実を与えないのが肝要」と語っていた。トランプ発言は「好戦的米帝国主義」という攻撃理由をマドゥーロ政権に既に与えてしまったことになり、同補佐官と大統領の間に政策の食い違いがある、との指摘がなされている。

 弾劾に繋がる対露癒着疑惑の捜査で窮地に陥りかねないトランプが、ベネスエラを軍事攻撃してマドゥーロ体制を破壊し、人気を勝ち取り劣勢を挽回する誘惑に駆られているのではないか、とする見方が成り立つ。その体制破壊作戦を、「核威嚇」を続ける北朝鮮への「見せしめ」にする、という計算もありうるだろう。

 だがら、チレ外相は逸早く危険を察知し、軍事攻撃への断固反対を打ち出した。マイク・ペンス米副大統領は13~18日、コロンビア、亜国、チレ、パナマを歴訪、4カ国首脳と「ベネスエラ対策」を含め話し合う。トランプ発言は、この歴訪に「軍事的選択」という枠をはめてしまった。

 一方、ANCは11日、ティビサイ・ルセーナ理事長以下4人の国家選挙理事会(CNE=中央選管)執行部を信任した。これにより、年内に実施される予定の州知事選挙を含め、今後の選挙や国民投票は現行CNEが推進することになった。

▼ラ米短信    ◎フレイ元チレ大統領暗殺で断罪へ

 チレ検察は8月11日、エドゥアルド・フレイ元大統領を1982年1月22日、首都サンティアゴ市内のサンタマリーア診療所で毒殺した犯人集団6人に求刑することを決めた。フレイは、当時のピノチェー軍政に反対していた。被告6人は、元秘密警察要員2人、フレイの元自動車運転手1人、医師3人。近く判決となる運びだ。

 フレイの娘カルメン・フレイ元上院議員は、「これで気持ちが晴れた」と語り、ピノチェー軍政による暗殺実行という重罪をあらためて指摘した。ンーベル文学賞詩人パブロ・ネルーダもピノチェークーデター直後の1973年9月、同じサンタマリーア診療所で謎の死を遂げており、軍政に毒殺された可能性が濃厚となっている。10月には、その最終的判断が公表される見込み。 

2017年8月12日土曜日

★トランプ米大統領がベネズエラへの軍事攻撃も選択肢と表明▼ピノチェー軍政の苦い経験持つチリはトランプ発言を糾弾▼制憲議会(ANC)は州選挙の10月実施を審議▼新検事総長は検察庁の腐敗を摘発

 ドナルド・トランプ米大統領は8月11日、休暇先のニュージャージー州で記者団からの質問を受けて、「ベネスエラに対し必要ならば軍事的選択をすることももありうる」と述べ、軍事攻撃する可能性が残されていることを示唆した。

 トランプは、レックス・ティラーソン国務長官、Hマクマスター安保担当補佐官、ニッキ・ヘイリー国連大使との会談後、記者団と会った。米国防省は同日、現時点でベネスエラへの出撃命令は受けていない、と述べた。

 大統領の軍事的脅迫発言は、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権および支持派人民を「抗米」で団結させる一方、保守・右翼野党連合MUD内の極右勢力にテロリズムや破壊活動を焚きつける効果を持つ。

 米国は、ブッシュ政権が2002年4月にチャベス前VEN政権打倒の軍事クーデターを仕掛けて失敗。オバマ前政権は15年、ベネスエラを、あろうことか「米国の安全保障にとって重大な脅威」と位置付け、マイアミに司令部を置く米南方軍を中心にクーデター計画を練ってきた。

 当時の南方軍司令官だったジョン・ケリーが今やトランプの首席補佐官に収まり、軍事攻撃の可能性が増している。また共和党極右クーバ系2世の上院議員マルコ・ルビオが強硬策をトランプに入れ知恵してきた。

 ベネスエラのエルネスト・ビジェガス情報相は11日、「シモン・ボリーバルの祖国に対する、かつてなかったほど傲慢で重大な脅迫だ」と指摘した。またブラディーミル・パドゥリーノ国防相は、「極端極まりない、常軌を逸した言動だ」と糾弾した。

 チレのエラルド・ムニョス外相は首都サンティアゴで、軍事侵攻の脅迫を糾弾した。1973年に米国に支援された流血の軍事クーデターでアジェンデ社会主義政権を倒されたチレだが、同政権の流れを汲むバチェレー現政権は、軍事侵攻絶対反対の立場をとっている。

 ヂウマ・ルセーフ前伯大統領は、米国がベネスエラ攻撃の材料にしてきた内外報道について、「右翼が起こした暴力事件であるのに、メディアは無責任で馬鹿げた報道をしてきた」と厳しく批判した。

 これに対しトランプ政権べったりのPPクチンスキ秘大統領は11日、ベネスエラのディエゴ・モレーロ駐秘大使に国外退去を命じた。マドゥーロ大統領は、報復としてペルー臨時代理大使に退去を命じた。秘大使は既に本国に召還されている。マドゥーロは、「PPクチンスキはベネスエラの敵であり、ラ米統合の破壊者だ」と非難した。

 一方、ベネスエラ制憲議会(ANC)は11日、12月10日実施予定の州知事・州会議員選挙を10月繰り上げ実施するための審議を開始した。

 パドゥリーノ国防相は11日、バレンシア市の陸軍基地を6日攻撃した武装集団の首謀者フアン・カグアリパーノ国警隊退役大尉と、現役中尉ジェファーソン・ガルシアをカラカス市内で逮捕した、と発表。「極右テロ集団に打撃を与えた」と述べた。

 タレク・サアブ検事総長は、「官僚主義と腐敗だらけの検察庁を掃除している。幹部職250人を調査のうえ更迭しており、全国24支部検事長も交代させつつある」と明らかにした。賄賂の有無で起訴するか否かを決めることもあったという。

 ビジェガス情報相は10日、カラカス市内に創設された「ラ米伝達大学」(ULAC)の開学式で、「学生は、国際メディアの虚偽報道に対抗するジャーナリズムを学ぶ」と強調した。

 ANC議員ディオスダード・カベージョ(政権党副党首)は9日、カラカスの米大使館に勤務するVEN人退役大佐1人を8日逮捕した、と明らかにした。この男は、カベージョの所在を調べ回っていたという。

2017年8月11日金曜日

 キューバのラウール・カストロ議長が「激しい闘いの日々が来る」と、マドゥーロ・ベネズエラ大統領への書簡で表明▼制憲議会(ANC)は州選挙に参加する極右に「善良宣誓」を要求▼「軍人の極右地下武闘結社」が意思表明

 ベネスエラ大統領政庁(ミラフローレス宮殿)は8月9日、ラウール・カストロ玖国家評議会議長からニコラース・マドゥーロ大統領へ宛てた親書の内容を公表した。ラウール議長は、VEN制憲議会(ANC)発足に「革命的大歓喜」を表明している。

 書簡は8日、カラカスで開かれたALBA(米州ボリバリアーナ同盟)外相会議に出席したブルーノ・ロドリゲス玖外相からマドゥーロに渡された。ラウールは、「国際的圧迫によって激しい闘いの日々が来るだろうが、それはVEN人民にとって創造と労働の日々になるだろう」と、懸念と激励を表した。

 さらに、「VENは独りではない。クーバは大義に忠実であり、同志的連帯の最前線にいる」と、同盟関係を強調した。エネルギー源の約半分をベネスエラに依存しているクーバにとって、VEN情勢は極めてゆゆしいことだ。

 米政府は9日、故ウーゴ・チャベス前大統領の実兄アダン・チャベスANC議員ら高官8人の「在米資産凍結」、「査証発給制限」などの「制裁」を科した。理由は、8人が議員になるなど「何らかの形でANCに関与したため」とされている。

 これに対し、ホルヘ・アレアサVEN外相は同日、ラ米諸国大使との会合で、「シモン・ボリーバルの国の人民を<制裁>する道徳的権利はいかなる国にもない」と反駁、米政府を糾弾した。

 ANC議員で政権党PSUV副党首の実力者ディオスダード・カベージョ(元国会議長)は9日、年末の州知事・州会議員選挙に立候補する者は「2度とベネスエラを炎上させるようなことはしない」と宣誓し、ANCから「善良証明書」をもらわねばならない、と述べた。

 これは4月から一連の街頭暴力事件を起こしてきた保守・右翼野党連合MUDの、極右含む諸政党が12月10日の州選挙参加を決めているのを受けて、出馬に条件をつけたもの。

 最高裁は、カラカス首都圏エル・アティージョ区のダビー・スモアンスキ区長を9日、禁錮15か月の実刑に処した。区内での反政府暴力を許したため。同様に首都圏チャカオ区長、バルキシメト市長、メリダ市長も禁錮刑を適用されている。

 ANC発足を機に、マドゥーロ政権は暴力行使の責任者への対応が甘かったのを反省、「無処罰」路線を止めた。

 一方、反政府勢力の機関紙役を務めてきた右翼紙エル・ナシオナルは9日、武闘地下結社「レシステンシア」(抵抗)のビデオメッセージを掲載した。結社は、「現役および退役軍人集団」を名乗り、「対話と選挙の時は終わった。マドゥーロ政権打倒のための<ダビー作戦>を開始する」と主張している。

 結社はバレンシア市で6日、陸軍基地を襲撃して逮捕されたフアン・カグアリパーノ(元国警隊大尉)の集団と一体化する、とも述べている。ベネスエラ政府当局は、MUD極右やCIAが結社に関与していると見ている。
  

2017年8月10日木曜日

 国連「国際先住民族の日」に記念行事▼ボリビア大統領は「先住民族運動は反帝国主義」と指摘▼メンチューは「人種主義者は教義の犠牲者」と見なす▼メキシコでは先住民族の政治運動が進展▼米国がキューバ外交官2人退去させる

 国連「国際先住民族の日」の8月9日、LAC(ラ米・カリブ)各地で記念行事が催された。ボリビアのエボ・モラレス大統領(アイマラ人)はサンタクルース市での記念式典で演説、「500年の偉大な闘争を経た先住民族の運動は自動的に反帝国主義になった。なぜなら反植民地闘争であるからだ」と指摘した。

 1992年のコロンブス米州到着500周年にノーベル平和賞を受賞したグアテマラ・マヤ民族のリゴベルタ・メンチューは、授賞25周年を兼ねた式典で、「人種差別主義者は加害者というよりも、自らの教義の犠牲者だ」と強調した。

 LAC地域の先住民族は522民族。ブラジルは241民族だが、その合計人口は73万人と少ない。コロンビアは83民族で、人口は139万人。メヒコは67民族、950万人と人口は最も多い。ペルーは43民族、392万人。LAC先住民族の87%はメヒコ、ボリビア、ペルー、グアテマラ、コロンビアに住む。エル・サルバドールは3民族で、1万3000人と少ない。

 サパティスタ民族解放軍(EZLN)が1994年元日に蜂起したメヒコのチアパス州は、州人口1570万人の14・2%が先住民族。チャムーラ、ララーインサルなど41市にツェルタル、ツォツィル、チョル、ソケ、トホラバルなど12民族が住む。

 州都トゥーストラグティエレスでは7日、全国先住民族会議(CNI、1996年発足)とEZLNの会合が開かれ、「先住人民開花の時が来た」という名称の市民協会が設立された。

 CNIは今年5月、先住民族女性マリーアデヘスース(愛称マリチュイ)・パトゥリシオ=マルティネス(57)を、2018年7月のメヒコ大統領選挙に出馬する初の先住民族統一候補に選んだ。「2度と先住民族抜きのメヒコ政府をつくらないように」との願いからだ。

 今会議では、各州政府、組織犯罪集団、鉱山・石油・電力・森林業者らによる暴力、土地奪取、水源破壊などが日常的に起きていることがあらためて指摘された。

 パラグアイでも6日、「パラグアイ多民族先住民政治運動」が結成されている。

▼ラ米短信    ◎米国がクーバ外交官2人退去させる

 米国務省は8月9日、在米クーバ大使館の外交官2人を5月23日、国外退去させたと発表した。昨年秋、ハバナの米大使館外交官数人が、外交官宿舎で原因不明の聴覚障害に見舞われたのに対する報復的措置だった。クーバ政府は関与を否定している。

2017年8月9日水曜日

 ペルーのリマで米州諸国が外相会議開催▼採択の「リマ宣言」はベネズエラ制憲議会(ANC)を認めず▼カラカスではALBA外相会議がANC開設を祝福▼VENと中国が2030年までの投資計画を協議

 ペルー政府は8月8日リマで、親米・反べネスエラ諸国を集めて米州有志国外相会議を開いた。トランプ米政権と、その代弁者であるルイス・アルマグロOEA(米州諸国機構)事務総長の意向を受けて開くに至ったが、米国寄りの印象を和らげるため事前に調整し、米国務長官は招かれなかった。

 外相会議は7時間近く話し合った末、「リマ宣言」を採択した。①ベネスエラで4日開設された制憲議会(ANC)を認めない②OEAによる「米州民主憲章」のベネスエラへの適用努力を継続③ベネスエラへの武器禁輸を国際社会に呼び掛ける、など16項目が盛り込まれている。

 リカルド・ルナ秘外相は当初、亜パラグアイ伯智秘コロンビア巴CRホンジュラス墨グアテマラ加の12カ国が宣言に署名、と発表した。だが、その後、ウルグアイおよび、カリブ英連邦諸国のジャマイカ、ガイアナ、セントルシ-ア、グレナダの5カ国が加わり、計17カ国に達したと明らかにした。OEA加盟国は、キューバを除く34カ国であり、半数がリマ宣言に署名したことになる。

 署名した国々は、今秋の国連総会の折にニューヨークで第2回会合を開くことを決めた。

 これに対し、ベネスエラは8日カラカスでALBA(米州ボリバリアーナ同盟)外相会議を開いら。その共同声明は、①ANC開設を祝福②VENへの経済制裁・内政干渉を糾弾③反政府勢力による暴力への国際的糾弾を要求、などを表明した。

 べネスエラ、クーバ、ボリビア、エクアドール、ニカラグア、SV&G、A&B、SC&N、セントルシーア、グレナダの外相や代理が出席した。だがセントルシーアとグレナダは、「リマ宣言」に署名したとされており、情報が錯綜している。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は会議後、「我々を非難する諸国(リマ宣言署名諸国)と話し合う用意がある」と述べた。さらに、CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)の輪番制議長国エル・サルバドールで、LAC(ラ米・カリブ)の分裂回避と統合のための首脳会議を開いてはどうか、と提案した。

 亜国の元サッカー選手ディエゴ・マラドーナ8日、「マドゥーロ大統領から命じられればベネスエラ軍の制服をまとって、自由ベネスエラのために米帝国と戦う。私は死ぬまでチャビスタ(チャベス派)だ」と表明した。これに対し、元亜国サッカー選手で保守派のマリオ・ケンペスが異議を唱えた。

 カラかスでは8日、ベネスエラ政府と中国企業代表団が、2030年までの中国による投資計画について話し合った。
  

★写真展「写真家チェ・ゲバラが見た世界」始まる▼長男カミーロ・ゲバラが開場式で挨拶▼「自撮り」含む興味深い240点▼8月27日まで恵比寿ガーデンプレイスで

 「写真家チェ・ゲバラが見た世界」写真展の開場式が8月8日夕刻、東京・恵比寿のガーデンプレイス・ガーデンルームで催された。7月下旬から来日中のカミーロ・ゲバラ=マルチ(55)が挨拶、「チェ・ゲバラが関わった歴史的事実と、写真家として撮影した被写体の両方を観てください」と述べた。

 カミーロは、革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)の長男で、目鼻立ちが父親にそっくり。まさに忘れ形見だ。母アレイダ・マルチ(81)が所長を務めるチェ・ゲバラ研究所でコーディーネイターとして働く。自身も亡き父親に似て写真が趣味で、いつもキャノンを携行している。この日も会場で撮りまくっていた。

 写真展は、10月6日に東京で封切られる日玖合作映画「エルネスト」(阪本順治監督、オダギリジョー主演)の関連文化行事として開かれ、チェ・ゲバラ研究所が保管する厖大な写真やネガから240点が選ばれ、展示されている。

 チェ・ゲバラが撮影したものばかりで、最期の地ボリビアに乗り込んだ日の、ラパス市内のホテルの自室での、変装した自分の顔写真をはじめとする、セルフタイマーを用いた「自撮り」シリーズや、1959年7月の来日時に訪れた広島で、被爆14年後の原爆ドーム一帯を撮ったワイド写真などが特に興味深い。マヤ文明の遺跡群の写真や、汎米競技会の選手たちの躍動する姿を捉えた作品も見事だ。

 開場式には、カミーロ夫妻のほか、阪本監督、キューバ大使館員、1959年に広島でゲバラを取材した中国新聞の林記者の遺族、崔監督、ジャーナリストらが出席した。私(伊高)は、解説、写真説明で写真展に協力した。

 カミーロは、一般公開初日の9日夕刻、開場を訪れ、同日夜、帰国の途に就く。来日後、東京でメディア取材に応じ、広島、京都を訪問。広島では8月6日の式典に出席、献花した。日本の印象を訊くと、「日本の皆さんの対応に心を打たれた」と答えた。

 写真展は8月26日まで、1100~2000。最終日27日は1100~1500。入場料1000円、大学生800円、高校生以下は無料。





 

2017年8月8日火曜日

 映画「笑う故郷」を観る▼アルゼンチンの田舎町を舞台にした破天荒な人間模様▼背景に漂う軍政期の陰▼最後に笑うのは誰か▼岩波ホールで9月16日封切りへ

 これぞ映画だ。文句なく面白い。それでいて考えさせる。アルヘンティニダー(アルゼンチン性)が十分に描かれている。亜国、南米、ラ米、スペイン語、バルセローナなどが好きな人には必見だ。

 亜国人でバルセローナ在住の作家ダニエル・マントバーニはノーベル文学賞を受賞する。世界各地から講演依頼などが殺到するが、ダニエルは40年前に捨てた生まれ故郷の田舎町からの帰郷招待を受けることにする。

 この映画は2016年の作品だが、40年前の1976年は、ホルヘ・ビデーラ将軍らがクーデターでイサベル・ペロン政権を倒し、軍政ファシズムを敷いた年である。1983年まで7年続いた軍政下で、じつに3万2000人が殺害された。ダニエルが、軍政を逃れて出国した多くの左翼、知識人、芸術家の一人であったことが、まず窺える。

 ブエノスアイレスのエセイサ空港に着くや、入道のような風貌の粗野な大男が待っていた。首都ブエノスアイレス周辺に拡がるブエノスイアレス州の「サラス」の市長から派遣された出迎えだった。軍政期の秘密警察の拷問者を連想させる、乱暴な口のきき方しかできないこの男は、パンパ(大草原)を走る道でタイヤをパンクさせるが、スペタイヤを持っていない。

 この男は便意を催すと、ダニエルの小説のページを破り取り、それを持って草むらにしゃがみ込む。この男の絡む最初の難儀の逸話が、ダニエルの帰郷の先行きが荒れ模様になることを予感させる。

 待っていたサラスの市長は好人物だ。市庁舎の壁には、故フアン・ペロン大統領と故エバ・ペロン夫人の写真が並ぶ。市長がペロン派であることを示唆している。市長は、ダニエルを「卓越した市民」(この映画の原題)として表彰し、胸像を建てる。

 だが、地元の実力者は、農牧業者協会(ソシエダー・ルラル)の面々で、伝統的に農牧業者とペロン派は折り合いが良くない。同協会員を思わせる富裕な旧友アントニオ、地元美術界のボスであるロメーロの存在がダニエルの滞在を不確かなものにする。

 ロメーロは自作の絵画がダニエルによって選考から外されるや、ダニエルを敵視、手下をも使って公然、非公然の攻撃を仕掛ける。その度を超えた激しさが、軍政期の市民迫害を想起させる。

 成り金の友人アントニオは、粗野なマチスタ(男性優位主義者)の本性を露わにする。妻がかつてのダニエルの恋人だったことが、わだかまちになって消えていないアントニオだが、娘フリアがダニエルのホテルを訪ね関係をもったことを知るや激怒。ダニエルを小型トラックの荷台に荷物のように乗せ、空港に送る。

 と、アントニオは、闇夜のパンパの道でダニエルを降ろし、走れと命じる。そして、逃げ惑うダニエルの足元をライフル銃で撃つ。だが突然、ダニエルは転倒する。フリアのボーイフレンドが狙い撃ちしたのだ。

 ボーイフレンドは大柄の若者で、野豚の鳴き声が得意だが、やはり粗野な人物。これまた軍政期の「法律外処刑」を連想させる。物語は暗転するのだが、と思いきや、舞台はバルセローナに転じる。ノーベル賞受賞後、最初の書き下ろし作品を発表する記者会見の場面だ。

 ダニエルは、胸をはだけて銃弾が貫通した傷跡を示し、フィクションとノンフィクションの狭間を記者らに悟らしめる。満面笑顔の作家は、遠い故郷の粗野で嫉妬深い人々よりも数段上手だった。笑えない話だ。

 実は、この映画は、その新作の物語を展開させる形で描かれているのだ。故ガブリエル・ガルシア=マルケスがコロンビアを描きつづけ、マリオ・バルガス=ジョサがペルーを題材とし続けているように、ダニエルも故郷の田舎町から逃れられないのだ。

 粗野ではあっても怒ることを知る純朴な田舎町の人々と、バルセローナに住み、故郷を発想源として使い続けるしたたかで富裕な作家の対比も、よく描かれている。それは、「アメリカーノ」(この場合は亜国人)と「ペニンスラル」(イベリア半島人=スペイン人)との対比でもある。

 イタリア移民の末裔らしいダニエルは、バルセローナ人、欧州人になってしまい、「アメリカーノ」(米大陸人)から見れば、「彼岸の人」にすぎない。サラス市長に閃いた「卓越した市民」の表彰は、実態のない空しいエピソードだった。だが市長は誠実さにおいては、著名人ダニエルに勝っている。しかし、誠実さが必ずしも評価されない世の中なのだ。

★「笑う故郷」は、現在「静かなる情熱」を上映中の岩波ホールで9月16日~10月27日上映される。

 

2017年8月7日月曜日

★軍事蜂起でなく準軍部隊のテロ攻撃、とマドゥーロ・ベネズエラ大統領が指摘▼米国とコロンビアで組織された、と非難▼野党連合MUD右翼も州選挙参加へ▼ボリビアがメルコスールを糾弾▼パラグアイ先住民が政治運動結成

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月6日、国営テレビVTVの定例番組で、同日未明起きた「軍事蜂起」について、「軍事蜂起でも何でもない。テロリズムの攻撃だった」と述べた。

 大統領は、国軍最高司令官として統合司令部に詰めて事態収拾の指揮に当たったとし、「米国とコロンビアに資金支援され組織された約20人の準軍部隊だった。陸軍部隊が3時間の戦闘を経て10人を制圧したが、他の分子は逃走中」と明らかにした。

 制圧された10人のうち2人は死亡、負傷者1人を含む8人は逮捕された。うち一人は脱走していた陸軍中尉で、自白し、情報を提供しているという。一味には、同中尉の仲間の女婿記者パトリシア・ポレオが加担している、とも明らかにした。国家に銃を向けた犯罪者は厳罰に処す、とも語った。

 マドゥーロは、国軍全部隊・全施設に警備と諜報を強化するよう命じた、と強調。「我々は1週間前には投票で勝利したが、今日は戦闘で勝った」と述べ、7月30日実施の制憲議会(ANC)議員選挙を想起させた。

 事件のあったバレンシア市内の陸軍第41機甲旅団基地上空にはヘリコプターが旋回。基地周辺は装甲車部隊が警備している。一部市民はバリケードを構築したが、国家警備隊(GNB)が撤去した。

 ANCは6日、政治的暴力事件を究明する「正義・真実委員会」に強権を与える方針を固めた。この委員会に証人喚問された者は出席を拒否できない、ことなどが定められる。

 国家選挙理事会(CNE)は同日、民主行動党(AD)に続いて、「進歩主義前衛」(AP)、「新時代」(UNT)、「まず正義を」(PJ)、「人民意志」(VP)の野党連合MUDの4党も、12月実施の州知事・州会議員選挙に参加すると明らかにした。

 MUD極右のVPとPJは、4月以来の街頭暴力の首謀者。ANC開設が既成事実となり、暴力への拒否反応が社会に強まっていることから、戦略的変更を余儀なくされたのかもしれない。国会機能がANCに吸収されれば、合法的政治基盤を失うため、手を打つことを余儀なくされたと見ることもできる。

 一方、ボリビア政府は6日声明を発表、ベネスエラの加盟資格を「恒久的停止」とした南部共同市場(メルコルール)の5日の決定について、「ベネスエラへの内政干渉と資格停止に関する処分を糾弾する」と、強く抗議した。

▼ラ米短信   ◎パラグアイ先住民が政治運動結成

 パラグアイの無混血先住民10万人の一部である1万5000人は、「パラグアイ多民族先住民政治運動」(MPIPP)を、国政選挙に参加できる政治会派として登録する準備を進めている。先住民の権利は自分たちで守るしかない、との政治的結論に基づく。 

2017年8月6日日曜日

★ベネズエラ陸軍の小集団が反政府決起し制圧さる▼カラボボ州都バレンシアの機甲旅団基地で▼制憲議会(ANC)が検事総長を解任▼メルコスールはベネズエラの加盟資格を「恒久的停止」に

 ベネスエラ中北部のカラボボ州都バレンシアで8月6日未明、陸軍部隊の一部がマドゥーロ政権打倒を目指し蜂起したが、制圧された。

 地元紙エル・カラボベーニョは、同市内にある陸軍第41機甲旅団所属のフアン・カグアリパーノ大尉以下約20人が、同旅団の本拠パラマカイ基地を占拠しようとして銃撃が展開された。屋内の床に転がる兵士の姿が映し出されている。

 4日発足した制憲議会(ANC)のディオスダード・カベージョ議員(政権党PSUV副党首)は6日、蜂起があったことを認め、「テロリスタらは制圧され、逮捕されている.他の基地では同様の事態は起きない」と表明した。

 カグアリパーノ大尉は映像メッセージで、「憲政秩序回復を目指しマドゥーロ政権を倒すため、市民に決起を求める」と呼び掛けた。この蜂起は「ダビー・カラボボ作戦」と名付けられていた。大尉らは、憲法350条が「市民不服従」 の権利を認めているとし、これを蜂起の論拠としている。

 基地周辺の道路では、ベネスエラ国旗を持ち、国歌を歌いながら歩く市民らしい人々の姿が見られた。彼らが蜂起した軍人たちを支持しているか否かは確認されていない。

 マドゥーロ政権は「文民軍人合同政権」として安定を確保してきたが、ごく僅かであるにせよ軍部の一部が蜂起した事態は極めて重大だ。しかも、政権が政治危機打開のための起死回生の策として開設したANC発足から3日目に起きた事件だ。

 ANCは5日、3月末から政権と対立していたルイサ・オルテガ検事総長を解任し、公職から追放した。オルテガは、抵抗し続けると表明、政権相手に闘い続ける構えだ。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は、暫定検事総長にオンブスマンのタレク・サアブを任命した。強権執行者と人権擁護者が同一人物という異常な人事で、批判が起きている。

 1日に自宅軟禁から刑務所に身柄を移された保守・右翼野党連合MUDの極右政治家レオポルド・ロペスと、同右翼政治家アントニオ・レデスマは4日から5日にかけて再び自宅軟禁処分となった。

 一方、南部共同市場(メルコスール)は5日、ベネスエラはANC開設により民主が失われたとして、同国のメルコスール加盟資格を、従来の「一定期間の停止」から「恒久的停止」に切り替えた。事実上の追放処分である。この決定は、トランプ米政権の意向も汲んだ南米右翼の旗頭マウリシオ・マクリ亜国大統領が主導した。 

2017年8月5日土曜日

★★★ベネズエラ制憲議会(ANC)開設成る。デルシー・ロドリゲス元外相が議長に就任▼ローマ法王庁はANC開設を止めるよう説得したが奏功せず▼ニカラグアが逸早く祝福

 ベネスエラ憲法を「加憲改定」するための制憲議会(ANC)が8月4日、国会議事堂で開設された。保守・右翼野党連合MUDが016年1月以来、圧倒的多数を握る国会(AN)と同じ議事堂内に共存することになったが、ニコラース・マドゥーロ政権の意思を代表するANCは早晩、国会にとって代わる存在になろうと準備を進めている。

 この日、7月30日の選挙で当選したANC議員のうち530人以上が出席、宣誓して就任。直ちに、デルシー・ロドリゲス議長(元外相)以下5人の執行部を選んだ。

 デルシーANC議長は就任演説し、「マドゥーロ大統領は(ANC開設によって)権力を人民に渡したことで巨人となった」と、ニコラース・マドゥーロ大統領を讃えた。現行憲法349条が、ANCは最高権力機関であり、大統領をはじめいかなる機関もANCの決定を阻止できないと規定していることを踏まえて発言だ。

 続けて、「ANCは、祖国を我がものとし新自由主義を復活させようと企む国内少数派による未曾有の深刻な紛争の中から生まれた。ANCは、暗黒の右翼独裁勢力に打ち勝った」と指摘。4月初めから続く、MUD極右と米政府が連携しての街頭暴力・破壊活動事件によって陥った危機の打開のためANC開設を余儀なくされた、という政権側の立場を示唆した。

 チャベス派民兵隊は、故ウーゴ・チャベス前大統領の大きな肖像写真と、同じく解放者シモン・ボリーバルの肖像画を国会本会議場に再設置した。16年初め、MUDが国会多数派となった際、撤去されたものだ。

 MUDは4日、カラカス市内を抗議行進したが、かつての勢いを失っていた。MUD穏健派の民主行動党(AD)が2日、他の野党諸党に先駆けて年末の州知事・州会議員選挙に参加する意思を表明するなど、MUD内の対立・分裂が表面化していることと無関係ではない。

 ANCの第1副議長には、アリズトーブロ・イズトゥーリス前執権副大統領、第2副議長にはイサイーアス・ロドリゲス元検事総長が、それぞれ就任した。このほか執行書記と副執行書記も就任した。

 ローマ法王庁は4日、ANC開設に先立ち声明を発表、「現行憲法順守を求める。新憲法制定過程は回避もしくは中断すべきだ。緊張と衝突の空気を醸成し、未来を抵当に入れることになるからだ」と、いつになく明確な調子でANC開設を思い止まるよう、マドゥーロ政権に働きかけた。だが効きめはなかった。

 ダニエル・オルテガ大統領のニカラグア・サンディニスタ政権は、逸早くベネスエラを祝福。クーバ共産党(PCC)機関紙グランマは、ANC発足の模様を細かく伝えた。

 米フロリダ州上院のある議員は、ベネスエラ原油の輸入即時打ち切りを呼び掛けた。一方、ベネスエラ国営石油PDVSAは露ロスネフト社と合弁で、VEN国内3カ所の天然がス田の調査を開始した。ベネスエラ原油は4日、1バレル=46・61ドルだった。

2017年8月4日金曜日

 「写真家チェ・ゲバラが見た世界」240点の写真展が9日開場▼東京・恵比寿のガーデンプレイス・ガーデンルームで8月27日まで▼ゲバラの忘れ形見カミーロが初日、会場に出現▼10月の映画「エルネスト」封切りに繋がる文化行事

 革命家エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)は無類の写真撮影好きだった。日記や手紙を書きまくったように、人生や事象の記録としてシャッターを押していたのか。

 革命初期の新国家建設の様子を映し出した場面は貴重だ。最初の妻イルダと訪れたメヒコ・ユカタン地方のマヤ遺跡の写真も印象深い。

 「自撮り」が多いのは、自らの風貌へのナルシシズムがあったからかもしれない。再婚した妻アレイダがしばしば登場する。

 メヒコ市滞在中の1950年代半ば、母国アルヘンティーナ(亜国)の国営通信社の依頼で、汎米競技大会の競技、選手たちの躍動などを間近で撮影した、玄人顔負けの見事な写真もある。

 チェ・ゲバラが撮影した放浪時代のグアテマラ、メヒコ、革命後のクーバ、外遊先のエジプト、インド、日本、インドネシアなどの写真、および亜国での青年期から、ボリビア遠征前の1966年に至るまでにセルフターマーで取った「自画像」類を合わせた240点が、間もなく日本人の審美眼や思考を刺激することになる。

 この写真展に合わせて初来日したゲバラの長男カミーロ・ゲバラ=マルチ(55)=チェ・ゲバラ研究所コオディナドール=も、趣味で写真を撮る。滞在していた新宿マンハッタンの街並みをパチリパチリやっていた。

 カミーロは、父親が1959年7月、玖革命政府外交特使として来日した折、訪れた広島を6日の原爆記念日に訪問、式典に参加する。カミーロに東京でインタビューしたが、これは、いずれ記事として発表する。

               ★          ★         ★          ★

 写真展「写真家チェ・ゲバラが見た世界」 8月9~27日1100~2000、恵比寿ガーデンプレイス、ガーデンルームで。
 前売り券800円。当日売り一般1000円、大学生・専門学生800円。高校生以下無料。
 入場券問い合わせ 050-5533-0888。展示会問い合わせ 03-5781-7610

 
  
 

2017年8月3日木曜日

 ベネズエラ制憲議会(ANC)議員が宣誓。ANCは4日開設へ▼「米州諸国機構(OEA)に復帰する」とマドゥーロ大統領発表。外相を交代させる▼野党連合MUDの穏健派が州知事選挙参加を決定か▼電脳集計会社が「投開票の不正操作」の可能性を指摘▼腐敗まみれのブラジル大統領が弾劾裁判を免れる

 ベネスエラのニコラース・マドゥーーロ大統領は8月2日、首都カラカス市内のポリエドロ(多目的催事殿堂)で、制憲議会(ANC)議員545人の宣誓式を主宰。ANCは当初の予定2日を変更し、4日午前11時、国会議事堂で開設する、と発表した。

 大統領はまた、6月に暫定的に就任したサムエル・モンカーダ外相を、ホルヘ・アレアサ環境重視鉱業相と交代させた。アレアサ新外相は外資との難しい交渉に携わり、国際感覚が豊か、と大統領は評価。アレアサは故ウーゴ・チャベス大統領の女婿。2013~16年、執権副大統領を務めた。

 マドゥーロ大統領はまた、ベネスエラは、脱退を通告していた米州諸国機構(OEA)に復帰する、と発表した。モンカーダ前外相が、北米担当副外相兼OEA駐在大使となる。大統領は、「ワシントンに駐在し、そこからベネスエラの真実、平和主義、尊厳を防衛してほしい」と、モンカーダ大使を激励した。

 大統領はさらに、保守・右翼野党連合MUDの穏健派(非暴力派)の伝統政党、民主行動党(AD)が年末の州知事・州会議員選挙に参加する、と明らかにし、同党の決断を評価した。大統領によれば、ヘンリー・ラモス同党書記長(前国会議長)も出馬する。

 マドゥーロは、「ベネスエラは外国から政治・経済・軍事的攻撃を受けており、世界にベネスエラ防衛への支援を求める」と、国際社会に呼び掛けた。これは、ペルーのPPクチンスキ大統領が米政府の意向を汲んで8日リマで、ラ米有志国外相会議を開き、対ベネスエラ共同政策を策定しようとしているのを特に牽制したものと受け止められている。

 大統領に次ぐ政権の実力者ディオスダード・カベージョ政権党副党主は2日、国会解散と検察庁改革の可能性を指摘、MUDが15年1月取り払ったチャベス前大統領の肖像画を国会議事堂に戻す考えを示した。

 一方、米副大統領マイク・ペンスは訪問先のモンテネグロの首都ポドゴリツァで、「ベネスエラ独裁糾弾」を呼び掛けた。「独裁」呼ばわりは、米政府に軍事侵攻以外の有効的手段がなくなったことを示唆する極めて危険は表現だ。

 ベネスエラは独裁とは程遠い。独裁ならば、MUDを初め反政府勢力、反政府マスメディアなどが、これほどしたい放題に暴れたり虚偽情報を流したりすることは不可能だ。独裁とは、かつてのピノチェー智軍政のような体制を指す用語だ。米首脳の無知と苛立ちが曝け出された。

 7月30日のANC議員選挙をはじめ、これまで選挙の電脳集計を担ってきたスマートマティック社は、投開票に不正操作があった可能性がある、と公言した。これを受けてMUDは2日、ANC開設前に国会で同社責任者を証人喚問する必要があると述べた。

 欧州連合(EU)は2日、ANC開設を認めない、と表明した。亜国のアエロリネアス航空は、5日のブエノスアイレス-カラカス便の運航を取りやめ、以後、同便の運航を停止する、と発表した。米国による反ベネスエラ諸国への呼び掛けが奏功したもの。

▼ラ米短信    ◎テメル伯大統領が弾劾裁判免れる

 ブラジル国会下院は8月2日、汚職まみれのミシェル・テメル大統領を弾劾裁判にかけるか否かを採決、賛成227、反対263で、否決した。弾劾決定には定数の3分の2の342票が必要だが、遠く及ばなかった。 

2017年8月2日水曜日

 ベネズエラ制憲議会(ANC)議員545人選出。2日開設へ▼野党連合MUD右翼政治家2人、自宅軟禁から刑務所に収監▼英国大使館が自国民に警告▼ロシアは国際社会に「破壊的計画止めよ」と呼び掛け

 ベネスエラのタレク・エルアイサミ執権副大統領は8月1日、大統領政庁で閣僚評議会を主宰、ニコラース・マドゥーロ大統領に対しトランプ米政権が7月31日科した「在米資産凍結」および、内政干渉を糾弾し、マドゥーロ大統領への連帯を表明した。

 この日、制憲議会(ANC)の先住民族割り当て8議席を占める8人の議員が選出された。これにより、市・コムーナなど地域代表議員364人、職能分野別議員173人、先住民族8人の計545議員が選出された。ANCは国会議事堂に2日開設される。

 ANC議員には、大統領の先妻との間の息子ニコラース・マドゥーロ=ゲラ(27)、現大統領夫人シリア・フローレス、前外相デルシー・ドロリゲス、共産党幹部ヘスース・ファリーアスらが含まれている。

 運輸労連議長フランシスコ・トレアルバも議員に当選。「我々当選議員は、野党と対話する用意がある」と述べた。同時に、ANCは4月以来の反政府勢力による暴力事件の責任者を処罰する、とも強調した。

 諜報機関SEBINは1日未明、保守・右翼野党連合MUDの右翼幹部レオポルド・ロペス(2014年暴動教唆罪)と、同アントニオ・レデスマ(カラカス首都圏市長=停職中=)の自宅軟禁処分を停止、ラモベルデ軍事刑務所に移し収監した。2人は、自宅軟禁条件に反し政治的発言をしたため刑務所に戻された。

 MUDは、ANC開設に抗議して3日、首都で大規模な動員をかけると発表した。MUD幹部で国会議長のフリオ・ボルヘスは、「国会は(マドゥーロ政権に対抗する)新政権・新大統領を選びはしない。それは選挙民が選ぶ」と述べ、「臨時代替政権樹立」構想を否定した。

 ベネスエラ統一社会党(PSUV)を柱とする政権党連合「大愛国軸」(GPP)所属の国会議員3人は、ANCに反対して1日GPPを離れ、MUDに歩み寄り、国会内に社会主義会派を結成した。

 一方、カラカスの英国大使館は1日、同日付で英国人大使館員の家族は出国する、と発表した。またベネスエラに滞在する英国人に対しては、コロンビア国境から80km以遠に行くな、と警告した。さらに、英国人は通常の商業便で出国するのが望ましいとしながらも、政情がさらに悪化すれば航空便が止まる可能性がある、と注意を促した。

 スペインのイベリア航空は1日、政情不安により8月3日からマドリー・カラカス往復便を打ち切ると発表した。

 チレ外務省は、カラカスの同国大使公邸に、MUDが国会で任命した最高裁判事・補欠33人のうち、3人が政治亡命を求めて滞在している、と明らかにした。ベネスエラ政府は、同33人を認めておらず、追及対象としている。

 ロシア政府は1日、「国際社会は破壊的計画を止めて、外国の介入なしにベネスエラが危機を乗り越えられるように支援すべきだ」と呼び掛けた。中国やインドは、ANC開設に関し沈黙している。

2017年8月1日火曜日

 米政府がマドゥーロ・ベネズエラ大統領の在米資産を凍結▼米政府の言いなりにならない故の制裁を歓迎、と同大統領▼キューバ政府が米主導の「国際反ベネズエラ作戦」を糾弾▼MUD指導部に「過ちを正せ」と内側から要求

 米財務省は7月31日31日、米国の警告に反してベネスエラが制憲議会(ANC)議員選挙を30日実施したとして、ニコラース・マドゥーロ大統領が米施政下に保有する全資産を凍結する、と発表した。また米国人がマドゥーロ大統領と金融取引するのを禁止した。さらに、ANC議員は将来的に制裁対象になる、と表明した。同大統領を「独裁者」と決めつけた。

 大統領名義の「在米資産」がどのようなものなのかは明らかにされていない。

 米政府に「制裁」する倫理的資格はなく、「制裁」されるいわれもないとする立場のマドゥーロ大統領は、「好きなようにやればいい。VEN人民は自由になろうと決意した。私は自由な国ベネスエラの大統領だ」といなし、「米政府は、ANC選挙をするなという米国の命令に従わなかったことに怒っている。私が外国の命令に従うことはありえない。私は独立国の大統領であり、反米帝国主義だ」と強調した。

 続けて、「VEN人民は、対話、平和、対テロリズムと反無処罰の強化、脱石油依存経済の新モデル構築を図るためANC議員選挙で投票した。それゆえに制裁された」と反駁。「ベネスエラの石油を(内外)経済界の大物の手に渡さないため制裁された。天然資源を米帝から守っているがゆえに制裁された。それゆえに制裁を歓迎する」と言ってのけた。

 大統領はANC選挙に触れて、「投票機181台が暴徒に破壊され、影響が出た」と明らかにした。

   クーバ外務省は31日声明を発表、「ANC選挙はVEN人民が主権を行使し、平和、治安、独立、自決の側に決定的に賛同したことを示す。同選挙は、帝国主義、寡頭支配勢力および、残酷の最たる手段に訴えては憚らない野党勢力の戦略を打ち破った」と讃えた。また、米政府はマドゥーロ大統領に、異常かつ国際法違反で一方的な「制裁」を科した。と糾弾した。

 さらに、「米政府が指揮し、米州諸国機構(OEAのルイス・アルマグロ事務総長が支援するところの、十分に意思統一された反ベネスエラの国際的作戦がある。ベネスエラ人民を沈黙させ、その意思を否定し、攻撃と経済制裁によってベネスエラを屈服させるためだ」と指摘。

 また、「彼らはそのようにすれば、彼らが支援する傀儡野党勢力にベネスエラ人民が屈従すると信じている」と指摘。「チャベス主義者のボリバリアーナ革命を、違憲、暴力、クーデターで潰そうと謀る者には歴史的責任を科せられる」と警告した。

 一方、保守・右翼野党連合MUDに属するアントニオ・レデスマ(服役しカラカス首都圏市長資格停止中)は31日、MUD指導部宛てに公開書簡を送り、「勝利するためには指導部が過ちを正さねばならない。釈明すべきは、そうせねばならない。国会は政府に対決し続けた結果、大統領に政令政治を許してしまった」と厳しく指摘した。このようなMUD内部の批判や自己批判は珍しい。

2017年7月31日月曜日

★ベネズエラ制憲議会(ANC)議員選挙終わる。808万人投票(41%)と選管発表。N・マドゥーロ大統領はANCを国会議事堂に8月2日召集▼親米・反ベネズエラのラ米諸国はリマで8日外相会議開き対応協議へ▼ボリビア、ニカラグア、エル・サルバドールなどは「勝利」を讃える

 ベネスエラで7月30日、制憲議会(ANC)議員選挙が実施され、ニコラース・マドゥーロ大統領と政権にとって大勝利に終わった。国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長は、30日深夜、投票率は41・53%、808万9000人が投票した、と発表。「暴力と脅迫に屈せず投票した」と選挙民を讃えた。

 出馬したのは、政権党ベネスエラ統一社会党(PSUV)と、その友党の党員ばかり。選挙をボイコットしたばかりでなく、道路封鎖、破壊活動、対人テロで投票を阻止しようとした保守・右翼約20政党の野党連合MUDは、新しい憲法条項を起草するANCに代表を一人も持たない状況に陥ることになる。

 マドゥーロ大統領は一夜明けた31日、政権党の勝利集会で演説。「チャベス主義政権18年間で最大の勝利だ」と自賛。、ANCを8月2日、国家議事堂に召集する、と発表した。

 国会は昨年初めからMUDが圧倒的多数議席を確保、政権との「ねじれ現象」を最大限に活用し、政策にことごとく異議を唱えてきた。これに対し政府は、国会の立法や決議を最高裁判断で「違憲」とし、政令で施政を続けてきた。

 だが、この手法も限界に達し、大統領は今年3月末、国会機能を最高裁憲法法廷に移そうとして失敗。これが4月初めから今日に至る、MUD指揮下の反政府暴動を招いた。

 マドゥーロ政権を倒してラ米左翼陣営を大きく弱体化させ、財界主導のMUD政権を樹立し、ベネスエラの原油を20世紀末までのように支配したい米政府は,MUDを支持。クーデター、テロりズム、外交、メディア宣伝などの戦略をMUDに授け、巨額の資金援助をしてきた。MUDが「持久戦」を展開してこられたのも、米政府の支援があったからだ。

 「メディアテロリズモ」と呼ばれるほどにひどい「反マドゥーロ報道」は、虚偽情報だらけで、ジャーナリズムは死を宣告されたも同然の状態となってきた。これに影響され抜け出せない日本メディアも目立つ。「選挙を強行」という見出しもあったが、これではANCに反対する米州諸国の内政干渉路線に加担していると解釈されても仕方ないだろう。

 マドゥーロ大統領は31日の演説で、「ANCを開設したらベネスエラに厳しい経済措置を講じる」と脅してきたトランプ米政権について、「カラホ(阿呆か)! トランプが何と言おうが無意味だ。ベネスエラ人民の声が重要なのだ」と強調した。

 また、30日に全国で投票所150カ所が反政府暴徒に襲撃されたと明らかにし、「真実・和平委員会」を直ちに設置すると述べた。反政府暴動の実態を調査・検証し、国会議員らMUD指導部を法的に追及する構えを示したものだ。検察庁は投票日に10人が殺害されたと認めた。4月以来、反政府活動に関連する死者は125人を超えたもよう。

 大統領はさらに、今年12月10日に予定されている州知事・州会議員選挙にMUDが参加できるか否かは、政府との対話次第だと述べ、MUDが暴徒を動員しての破壊活動を今後も続ければ、州選挙に参加出来なくなる可能性を示唆した。

 MUDは30日深夜、「投票率は12・4%にすぎない」と述べた。これは先ごろの反政府系世論調査で「ANC反対が80%台」となったと報じられたのを受け、おおまかな差引をした結果と受け止められており、「12・4%」に根拠はない。MUDは31日正午から街頭で反政府・ANC活動、夕方から反政府行動中に出た死者への追悼をすると明らかにしている。

 投票結果を受けて、米政府の他、亜パラグアイ伯智秘コロンビア巴コスタ・リカ墨加西がANC開設を認めないと表明。トランプ政権と密接に連携しているペルー政府は31日、リマで8月8日有志国外相会議を開くと発表した。亜パラグアイ伯智秘コロンビア巴コスタ・リカ墨グアテマラ加ホンジュラスが出席するもようという。

 一方、ボリビア、ニカラグア、エル・サルバドールの3国大統領はANC選挙成功を祝福。ルーラ元伯大統領、ロドリーゴ・ロンドーニョFARC最高司令らも祝福した。またクーバ共産党(PCC)機関紙グランマは31日、「ベネスエラの模範的勝利」と題した記事を掲げ、ANC選挙終了に安堵する立場を示した。 

2017年7月30日日曜日

 きょう30日、ベネズエラで制憲議会(ANC)議員選挙▼政治情勢の行方決める天王山▼野党連合MUDは投票阻止・監視活動展開へ

 ベネスエラで7月30日(JST同日深夜)、制憲議会(ANC)議員選挙が実施される。結果は早ければ、同日深夜(JST31日昼ごろ)判明する見込み。全国都市選挙区から364人、職能別173人、先住民8人の計545人を選ぶ。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は29日、政権党ベネスエラ統一社会党(PSUV=ペスーブ)大会で演説、「この国を統治するのはコロンビアでも米国でもない。それがベネスエラであることが明日の選挙で明確になる」と強調した。

 有権者は2000万人を超えるが、登録有権者は1940万人程度と見られている。国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長は29日、全国の投票所は万全の態勢にある、と述べた。コロンビア国境に近い西部のタチラ、メリダ両州内で4市ずつ計8市で、反政府勢力の暴徒が投票所を襲撃し投票用紙や機器類を破壊するなどしたが、完全に復旧した、としている。

 だが29日、東部のボリーバル市で、ANC議員候補ホセ・ピネーダが反政府派に射殺される事件が発生。これで候補者殺害は2件となった。

 ANC選挙阻止を掲げる保守・右翼野党連合MUDは、全国の投票所近くで30日午前4時から道路封鎖など妨害行動や投票所監視活動開始する予定。また首都カラカスでは午前10時、主要な自動車道の一地点に集結し、反政府行動を開始する。

 軍事法廷は28日、マラカイボ市の市議1人、その仲間10人、および記者2人を、治安部隊に敵対した現行犯で有罪とし、軍事刑務所に送った。

 チレ外務省は声明を発表。カラカスの同国大使館は、ベネスエラ国会が最高裁判事に任命したエレニス・デルバージェ判事が政治的庇護を求めて29日来訪したため、同大使館の庇護下に置いた、と明らかにした。ベネスエラ国会はMUDの支配下にある。政府は、国会によるこの人事を認めていない。

 一方、29日は、1967年7月29日起きたカラカス大震災の50周年。死者236人、負傷者2000人、4億5000万ボリーバルの被害の出た。28日から市内で追悼行事が続いている。

 ベネスエラ原油は28日、1バレル=44・42ドルだった。先週末より94セント上昇した。  

2017年7月29日土曜日

 米政府は制憲議会(ANC)を否定しようと謀っている、とベネスエラ外相が非難▼反政府暴徒がメリダ州内で投票所を破壊▼スペイン元首相は国軍に決起を促す▼ペルー大統領が施政1周年演説

 ベネスエラのサムエル・モンカーダ外相は7月28日カラカスで記者会見し、米政府は国際法に違反して、ベネスエラの制憲議会(ANC)開設の正当性を否定しようとしている、と糾弾した。「この策謀にCIAも加担している」と指摘した。

 米政府と連携している反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは、30日に予定されるANC議員選挙を阻止するため全国各地で妨害工作を展開中。西部のメリダ州トバルでは、MUDの別働隊である覆面暴徒約150人が投票所を襲撃、投票用紙、投票箱、機器類などを破壊し、燃やした。

 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は8月1日まで街頭行動を禁止しているが、MUDはお構いなし。30日には、全国の主要道路を封鎖する、と28日発表した。検察庁は、4月初めから昨27日までの、反政府勢力の暴動や抗議行動に関連する死者は113人に達した、と発表した。

 ジュネーヴの国連人権高等弁務官事務所は、ANC議員選挙の投票は義務的であってはならない、とベネスエラ政府に注文を付けた。

 スペインのフェリーペ・ゴンサレス元首相は最近、ベネスエラ国軍が政府に不服従の態度をとっても、現在の状況から正当化されると述べた。暗にゴルペ(クーデター) を国軍に呼び掛けた発言として、ゴンサレスは非難されている。1980年代から90年代にかけてスペイン民主化の旗頭だったゴンサレスはすっかり右翼化し、旧日の面影はない。

 ベネスエラ庶民・大衆は、長引く反政府勢力の街頭行動、とりわけ破壊活動に嫌悪感を募らせており、MUDに一時なびいた無党派層も離れつつある。MUDは、これに危機感を募らせているが、対処法がなく、投票日を前に別働隊を使って破壊活動を激化させている。

 この日28日は、故ウーゴ・チャベス前大統領の生誕63周年。チャベス廟のある「丘上の砦」では追悼式典が催された。チャベスの側近だった元陸軍将校ディオスダード・カベージョ政権党副党首は、「チャベスの思想と記憶を若い世代に引き継いでいかせる必要がある」と強調した。

▼ラ米短信   ◎PPKペルー大統領が施政1周年

 ペルーのペドロ=パブロ・クチンスキ大統領は7月28日(独立記念日)、施政1周年を迎え、国会で施政報告演説し、2018年の経済成長目標を4%とし、これによって貧困層が20・7%から15%に減り、極貧層も3・8%から1・5%になろ、と述べた。

 また施政最終年の2021年には、農村部の84%に上水道が行き届く、と公約した。

2017年7月28日金曜日

 ベネズエラ大統領が「反政府勢力の悪意と破壊・暴力能力を過小評価していた」と語る▼米大使館は外交官家族に出国を命令▼野党連合MUDは制憲議会(ANC)開設阻むため全国で対決姿勢▼政府は30日のANC議員選挙実施に向け厳戒態勢▼ニカラグアが米国を糾弾

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は7月27日、首都カラカスでの政府支持者大集会で演説、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDに、制憲議会(ANC)開設前に対話しよう、と呼び掛けた。ANC議員選挙は30日に実施される。大統領は、「ベネスエラは30日の選挙実施によって、帝国主義者(米国)と反VEN諸国に教訓を与えることになる」と述べた。

 大統領はこの日、外国メディアによるインタビューで、「私の最大の誤りは、反政府勢力が持つ悪意と破壊・暴力能力を過小評価していたことだ」と述懐した。ドナルド・トランプ米大統領に向けては、「ベネスエラへの侵略とラ米介入を止めなさい。ベネスエラはカリブと南米安定の要なのだから」と諭した。

 先の南部共同市場(メルコスール)首脳会議でベネスエラへの内政介入発言をしたマウリシオ・マクリ亜国大統領を「蛭」と呼び、「世論調査によれば、マクリが実施している野蛮な新自由主義経済政策に亜国民の80%は反対している」と指摘。反ベネスエラの立場をとるブラジルとパラグアイの大統領をも非難した。

 MUDは26、27日「反政府全国ストライキ」を実施、「労働者800万人が参加した」と発表した。だがこの動員人数は検証されていない。MUDはまた、ANC選挙を阻止するため28~30日、全国で「ベネスエラ攻略」作戦を実施すると発表した。

 これに対し、ネストル・レベロール内相は記者会見し、「28日以降、全国で集会や行進を禁止する。ANC投票を妨害した者には禁錮5~10年の実刑が科せられる」と発表した。

  米国務省は27日声明を発表、カラカスの米大使館勤務の外交官の家族に出国命令を出した。政治的緊張、治安悪化、飲料物資・薬品入手困難などを理由にしている。ベネスエラ国内の米機関で働く、外交官特権を持たない米国人職員に対しても自発的出国を促した。米国人ジャーナリストに対しては、取材査証を必ず取得して入国するよう勧告した。一般の米国人には、ベネスエラ訪問を控えるよう求めた。

 声明は、「政府系暴力集団が約70人を殺害した」と指摘する。だが根拠は示されておらず、信憑性は定かでない。4月初めからの反政府暴動に関連する死者は110人を超えているが、政府は、一部の死傷者が治安部隊の過剰防衛によるものと認めながらも、「大多数の死者は反政府勢力の暴力分子の仕業」と主張している。だが反政府右翼メディアは「死者全員が弾圧による」と、虚偽報道を続けている。

 同声明はまた、「スリア、タチラ、アプレ3州のコロンビア国境地帯で、麻薬取引と武器密輸が活発化している」と指摘。さらに、「米国人を含む市民が確乎たる証拠なしに長期間拘禁されることがある」として、言動に注意するよう呼び掛けている。

 MUDの戦略は米国務省、米南方軍、CIA、USAIDなどと連携している。MUDが全国の主要拠点で暴動を起こし、これを反政府系の内外メディアが大々的に報じ、「ベネスエラは統治不能に陥った」との偽りの印象を醸し、MUDが「対抗臨時政権」を樹立、これを米国と親米諸国などが承認。その要請で「人道介入」の名分で、米軍主体の米州諸国機構(OEA)軍がベネズエラに介入し、マドゥーロ政権を倒す。このような筋書きもある。

 米政府は、マドゥーロ政権揺さぶり工作の一環として26日、政府高官13人への「経済制裁措置」を発表した。ANC大統領委員会のエリーアス・ハウア委員長(教育相)、オンブズマンのタレク・サアブ、国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長、内相ネストル・リベロール将軍が含まれている。メヒコ政府は27日、この米国の措置に協力する用意があると表明した。

 米政府に「制裁」されるいわれはないというのがベネスエラの立場であり、高官たちは「米国の言いなりにならない我々の勝利であり、むしろ名誉である」と反応している。

 エル・サルバドールの航空会社アビアンカは26日、ボゴタ-カラカス、リマーカラカスの両往復便を8月16日打ち切ると発表した。米デルタ航空も25日、アトランタ-カラカス往復便を9月17日打ち切ると明らかにした。

 べエスエラ政府は26日、中国とベネスエラでの石炭とニッケルを増産する合弁会社を設置することで合意した。

 一方、チレの日刊紙ラ・テルセーラは26日、同紙のカラカス通信員ヒメナ・マリーンが、ベネスエラ政府とMUDの間で対話仲介役を担っているJL・Rサパテロ前西首相にインタビューしたとして書いた署名記事は、西政治週刊誌「カンビオ16」が5月に掲載したサパテロ会見記事の丸写しだった、と発表した。

 同記者は、ベネスエラの敵である極右のコロンビア前大統領アルバロ・ウリーベとの会見記事もラ・テルセーラに載せたが、これもカンビオ16誌が6月掲載した記事の焼き直しと判明した。同紙はマリーンの署名記事をすべてHPから削除。今後、法的措置をとるという。

▼ラ米短信   ◎ニカラグア政府が米介入主義を糾弾

 米下院外交委員会は7月27日、ニカラグアで民主が欠けているとして同国への援助(年間2億5000万~3億ドル)を削減する「ニカ法」案を可決した。これに対し、ロサリオ・ムリージョNICA副大統領は同日、伝統的な米国の内政干渉政策だと糾弾した。ニカラグア国会は28日、対応を審議する。

 ニカラグア政府はまた、同国内戦中に米国が侵した破壊行為への賠償170億ドルを米政府に支払いを命じた国際司法裁判所の1986年の判断を遵守し、賠償金を払うよう米政府に要求した。ただしチャモロ元政権が90年代初め、賠償請求権を取り下げており、ニカラグア政府の立場は厳しい。

 一方、ベネスエラ外務省は声明を発表、ニカラグアへ連帯を表明。米州bリバリアーナ同盟(ALBA)加盟諸国に同調するよう求めた。 

 
 

 




2017年7月26日水曜日

 キューバ革命の原点「モンカーダ兵営襲撃」の64回記念日の中央式典がピナルデルリオ市で開かる▼マチャード第2書記は最大の問題は「経済困難」と指摘▼対米警戒とベネズエラへの連帯を確認▼メキシコ学生43人失踪事件、未解決のまま34ヶ月経過

 社会主義クーバは7月26日、第64回「民族反逆の日」を迎えた。カストロ兄弟らによる1953年7月26日の陸軍モンカーダ兵営襲撃事件を記念する。キューバ革命の原点となった武装決起だった。兵営はサンティゴ市にあり、革命後は学園都市となった。旧兵営の一部は、襲撃事件に関する博物館になっている。

 中央式典は、西部のピナルデルリオ州の同名の州都で午前7時開会。灼熱の太陽を避けるためだ。ラウール・カストロ国家評議会議長(86)以下の幹部をはじめ数千人が出席、ホセ=ラモーン・マチャード共産党第2書記(87)が演説した。

 マチャードは、1959年元日の革命勝利時、クーバ人の平均寿命は53歳だったが、今日は79歳になったと強調。30%だった非識字率は現在、実質的に零%と、革命直後の識字運動と、その後の無料教育制度を讃えた。

 最大の問題は経済困難だと指摘、「経済建設こそが革命の成果を維持することを可能にする」と説いた。また、「対敵姿勢を断固維持する」とし、国交再開から2年経った米国に対する警戒を忘れない厳しい姿勢を示した。経済封鎖全面解除に向けて闘争し続けることも確認した。

 「ボリバリアーナ革命」を遂行するベネスエラとニコラース・マドゥーロ同国大統領への支持と連帯をあらためて表明。「ベネスエラの問題はベネスエラ人民のみが解決できる」とし、諸外国の内政干渉を批判した。

 マチャードは、英紙フィナンシャルタイムズが最近、「クーバがベネスエラ問題の仲介する可能性がある」と報じたのを踏まえて、これを否定。「ベネスエラの主権と自決を絶対的に尊重する」と述べた。

 式典には、モンカディスタ(モンカーダ兵営襲撃参加者)、グランマ号遠征、革命戦争開始前夜時代からの地下活動の、それぞれの生存者も出席。次代を担う若者たちも数多く出席した。式典は午前8時15分に終わった。

 革命の最高指導者フィデル・カストロは昨年11月25日、90歳で死去。フィデルのいない最初の「民族反逆の日」となった。

▼ラ米短信   ◎メヒコ農村教員学校生43人強制失踪事件から34カ月

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26日起きたアヨツィナパ農村教員養成学校生43人が、陸軍、連邦警察も関与して失踪させらてから7月26日で34カ月。事件jは依然未解決のままだ。遺族や支援団体はこの日、雨の中、首都メkヒコ市のレフォルマ大通りを抗議行進し、政府に事件捜査状況を開示するよう要求した。

 この日、2016年のメヒコでの殺人事件発生件数が2万3953人と発表された。一日平均65人強。
 

2017年7月25日火曜日

 マドゥーロ・ベネスエラ大統領が、CIAはメキシコ、コロンビア両国と組んで同大統領の政権打倒を策謀と糾弾。両国は否定▼ボリビア大統領は過去のクーデター計画への米政府関与を確認▼FARCが9月、コロンビアの政党に移行へ

 7月24日は、解放者シモン・ボリーバル(1783~1830)の234回目の生誕記念日。マラカイボ湖水軍に始まるベネスエラ海軍の創立記念日でもある。ニコラース・マドゥーロ大統領はこの日、ラ・グアイラ軍港にある海軍士官学校で、海軍部隊行進に先立ち演説、30日の制憲議会(ANC)議員選挙を念頭に、「ベネスエラ史上、決定的な週を最高の形で始めることができた」と述べた。

 大統領は、「勇気、勇敢、愛国の一週間にしよう。挑戦に応じ選挙で責任を果たそう」とベネスエラ人民に呼び掛け、「一週間後には、平和、主権、独立、憲政を保障するANCが開設される」と強調した。

 さらに、米政府の諜報・謀略機関である中央情報局(CIA)のマイケル・ポンペオ長官が最近コロンビアとメヒコを訪問し、両国政府と協力してベネスエラ政権を倒そうと話し合った明かした、と糾弾。米コロンビア墨3国政府に同長官発言をめぐる真意を質した。

 またサムエル・モンカーダVEN外相も24日、CIA長官に関しマドゥーロ大統領と同様に発言。さらに、VEN反政府勢力は今週、外部機関と連携して暴力を激化させようと策謀している、と保守・右翼野党連合MUDを非難した。米国べったりのルイス・アルマグロ事務総長が仕切る米州諸国機構(OEA)は、26日ワシントンでベネスエラ情勢をめぐり大使会議を開こうとしているとも指摘した。

 コロンビアとメヒコの外務省は24日、「CIAとの共謀」というベネスエラ政府の非難を、事実でないと否定した。

 米政府やOEA保守・右翼勢力の支援を受けているMUDは、ANC選挙を阻止するため、26、27両日、首都カラカスをはじめ各地で自動車道封鎖など、街頭行動を展開する予定。

 カラカスの米大使館は逸早く23日、ベネスエラ在住の米国人に対し、26~27日の反政府行動に備え、食糧と飲料水を少なくとも3日分確保しておくよう通達した。また、反政府行動に参加しないよう勧告した。

 一方、ベネスエラ政府とMUDの間で対話仲介の労をとっているホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテロ前西首相は23日カラカス入りし、24日、自宅軟禁処分されているMUD極右指導者レオポルド・ロペスとロペスの自宅で会談。ロペスは、ANC開設反対を伝えた。

 カラカスは25日、建都450年を迎えた。最初の都市名は「サンティアゴ・デ・レオン・デ・カラカス」だった。

▼ラ米短信    ◎ボリビア大統領が米政府のクーデター計画加担を確認

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は7月24日ラパスで、米政府は2006~09年、同大統領の政権を倒すため、米国際開発局(USIAD)を通じてボリビア反政府勢力に資金400万ドルを渡すなどクーデター計画を支援した、と明らかにした。

 米国の陰謀加担は既に明らかだったが、大統領は、ウィキリークス情報で確認された、と述べた。06~09年はブッシュ息子政権末期からオバマ政権初年度にかけての時期。

 ブッシュ息子政権は02年4月、当時のチャベスVEN政権打倒のクーデターを画策して失敗。オバマ政権はセラヤ・ホンジュラス政権、ルーゴ・パラグアイ政権、ルセーフ伯政権打倒に成功した。

▼ラ米短信    ◎FARCが9月、政党に

 武装解除が済んだ元ゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)のイバン・マルケス司令ら最高幹部は7月24日ボゴタで記者会見し、FARCは9月1日、政党になると発表した。7月23日からボゴタで幹部61人による「国民和解会議」を開催中で、26日に政党綱領を策定する、と明らかにした。

 一方、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)は7月24日、赤道国首都キト郊外で、コロンビア政府との和平交渉の第3期交渉に入った。 
 

2017年7月24日月曜日

 岩波ホールで29日(土)封切り:重厚で美しい映画「静かなる情熱」▼詩人エミリー・ディキンソンの生涯を描く傑作

 米国の著名な女流詩人エミリー・ディキンソン(1830~86)は、この映画の冊子では「エミリ・ディキンスン」とか書かれている。尊重しよう。19世紀中葉の米国には、米国がメヒコ(メキシコ)から国土の北半分を奪った悪名高い「米墨戦争」(1845~48)と、「米国内戦=南北戦争」(1861~65)があった。

 これら二つの戦争の間の1853年、米国のペリー黒船船団が那覇に入港、次いで浦賀で末期の徳川幕府に開港を迫った。米国では、エイブラハム・リンカーン大統領が内戦のさなかの1863年、奴隷解放を宣言した。だが65年に暗殺された。

 エミリーは、そんな時代をマサチューセッツ州の上流階級の娘として生まれ、過ごし、生きた。映画は、エミリーの女学生時代から始まる。修道女や教師が生徒に集団的に押し付け信じさせようとする集団的な神に、エミリーは異論を唱える。この最初の反逆的場面が、彼女の人生が波乱含みであることを予測させる。

 エミリーは極めて保守的だった時代に、言動に制約が課せられる上流家庭で過ごした娘時代から、無神論や不可知論と、「自分の神」との間を行き来していたはずだ。

 異性に対しては、ある種の潔癖主義、引っ込み思案、理想に忠実な空想主義から晩生(おくて)だったようだ。このため「見当違い」の愛を抱いたり、恋を仕掛けたりして失敗する。

 結局、女としては不完全燃焼、満たされない人生を送った。森のような庭園のある大邸宅に死の日まで住み続けた。キリスト教には、修道院の内奥に蟄居して毎瞬、神と向き合う「クラウスラ」(禁域主義)という厳しい修行がある。エミリーは、あたかも禁域主義の修道女のごとく、邸宅内に生き続けた。

 このような生き方から、どんな詩が生まれたのか。それは映画を観る各自が、エミリーの詩編を読めばいい。ここでは触れまい。だが少し触れれば、作品は詩人が生きた時代背景の中心にあった内戦(南北戦争)と奴隷解放の影響を受けている。

 これから確認したいのは、エミリーが米墨戦争に影響を受けたか否かということだ。この不正な戦争を米国人である詩人は、どう捉えていたのだろうか。

 米国は、傲慢な「モンロー教義」を1823年に宣言。メヒコとの戦争時には、「明白なる天命」という傍若無人で独りよがりの覇権主義=帝国主義理論を身につけていた。ヘンリー・ソーローは、「不正な戦争」に反対し、戦費となる税金の支払いを拒否して投獄された。

 と、この映画は、昨今滅多にお目にかかれない、人間の魂を描いた重厚で美しい作品であるがゆえに、いろいろなことを観る者に考えさせずにはおかないのだ。

 2016年の英ベルギー合作。125分だが、時間の長さを感じさせない。友人の中に、この映画を観た人がいるとすれば、それはとても素敵なことだ。

2017年7月23日日曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ大統領が「野党は有権者登録するため制憲議会(ANC)議員選挙実施を数週間延期してほしいと言ってきた」と明かす▼内相は野党が対抗権力を作ろうと画策していると警告▼ボリビア大統領がチリ大統領候補を糾弾

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は7月22日、テレビ番組に出演し、「野党勢力は1週間前、国際仲介者を通じて私に、選挙人登録をするため制憲議会(ANC)議員選挙を数週間送らせてほしいと言ってきた」と明らかにした。

 マドゥーロ大統領は、「ANCに本気で参加すると公式に表明するならば、2~4週間ぐらい送らせてもいい、と回答した」と述べた。また、「我々は、このような形で野党勢力との対話を維持している」と付言した。

 対米関係に触れて、「私はドナルド・トランプと良好な関係を持ちたい。手を差し伸べ話し合い、我々が21世紀に居ることを伝えたい」と語った。

 大統領はさらに、「ベネスエラ革命は危機にある」と認めた。ANC候補のデルシー・ロドリゲス前外相は、「ANCによって権力が固まる」と述べ、ANC開設がボリバリアーナ革命体制立て直しの鍵であることを強調した。

 ネストル・レベロール内相は22日、野党勢力が21日、最高裁判事11人と同補欠22人を一方的に任命したことに関し、「野党は対抗権力を作ろうとしており、これは紛れもないゴルペ(クーデター)の画策だ」と指摘し、警告した。

 内相は、反政府活動分子による破壊活動に参加した若者ら456人を20日逮捕したことを明らかにした。4月初めから続く反政府勢力による街頭暴力などによる死者は22日までに100人に達したもよう。

 反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは22日、ANC選挙直前の反政府撹乱行動として26~27両日、全国で道路封鎖を決行する、と発表した。30日の投票日に向けて緊張が高まりつつある。

 トランプ米政権は、ANC選挙が実施された場合、ベネスエラに強力な経済措置をとると警告しているが、ベネスエラ国営石油PDVSAへの石油代金の米ドル払いを禁止する措置も含まれる、との情報が流れている。

 一方、ボリビアのエボ・モラレス大統領はラパスで22日、「ピノチェー派寡頭勢力代表のセバスティアン・ピニェーラにベネスエラをうんぬんする道徳的資格はない」と述べ、10月のチレ大統領選挙に保守・右翼陣営から出馬しようとしているピニェーラ前大統領を糾弾した。

 ピニェーラは21日、亜国メンドサ市で開かれた南部共同市場(メルコスール)首脳会議について、「会議はベネスエラの民主を守るため強い態度を示すべきだ」と表明していた。モラレスは、「ベネスエラ人民はゴルペの陰謀を打ち破るだろう」とも述べた。 

2017年7月22日土曜日

 南部共同市場(メルコスール)首脳会議が対ベネズエラ強硬路線を変更▼バスケス・ウルグアイ大統領の根回しが奏功▼ボリビアのエボ・モラレス大統領は「石油資源狙う米国の共犯者になるな」と熱弁振るい警告

 南部共同市場(メルコスール)は7月21日、亜国中西部アンデス山麓のメンドサ市で首脳会議を開き、ベネスエラ問題を中心に討議した。会議には原加盟国の亜ウルグアイ伯パラグアイ、準加盟国ボリビア、協賛国チレの6カ国統領が出席した。資格停止中の加盟国ベネスエラは招かれなかった。

 議長国亜国のマウリシオ・マクリ大統領(右翼)は、同傾向の伯パラグアイ両国と連携し、ベネスエラを事実上の除名に相当する「恒久的資格停止」処分にしようと謀っていた。

 だが、進歩主義(穏健左翼)ウルグアイのタバレー・バスケス大統領が根回しし、「恒久的資格停止」案を葬った。

 また、マナグア、ハバナを歴訪しメンドサ入りしたボリビアのエボ・モラレス大統領は、ベネスエラを憎悪している亜パラグアイ伯3国を念頭に、「メルコスールも、いかなるラ米機関も、ベネスエラに介入する米国の共犯者になってはならない」と熱弁を振るい、親米国派の内政干渉路線を糾弾した。

 モラレスは、「リビアやイラクを見よ。石油資源奪取のためベネスエラ介入を続ける米国に加担してはならない」と激しく詰め寄った。さらに、「メルコスールは(米国がラ米介入のため利用してきた)米州諸国機構(OEA)の苦い歴史を繰り返してはならない」と諌めた。

 結局、首脳会議は、ニコラース・マドゥーロVEN大統領に保守・右翼野党連合MUDとの対話と、制憲議会(ANC)開設中止を求める書簡を送ることになり、ボリビアを除く5カ国がそれに署名した。

 一方、ベネスエラでは21日、国軍(FANB)が全国に要員23万2000人を展開させ治安を維持し、30日のANC議員選挙の投票所1万4515カ所を警備する「2017ANC共和国計画」が始まった。

 MUDはこの日、最高裁判事13人と同補欠20人を一方的に任命した。むろん最高裁は、これを認めない。

 ベネスエラ原油は21日、1バレル=43・48ドルをつけた。 

 
 

2017年7月21日金曜日

 ベネズエラ政府は反政府野党連合を封じ込め、トランプ米政権を牽制しつつ、30日の制憲議会議員選挙に向かう▼アルゼンチン・メンドサ市ではメルコスール首脳会議に対抗する「人民サミット」が開かれ、ベネスエラを支持

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDは7月20日、全国各地で反政府ストライキを打ったが、多くは当局に封じ込められた。政権党ベネスエラ統一社会党(PSUV、ペスーブ)のディオスダード・カベージョ副党首は同日、「野党のストは失敗した。(制憲議会=ANC=開設に関し)政府が野党と交渉することなどありえない」と述べた。

 副党首はまた、米国のベネスエラへの内政介入を糾弾。「米国は、ベネスエラが小国ながら自由で主権を持つ独立国であることを認識せねばならない」と、トランプ米政権を諌めた。だが、「我々は根っからの反米帝国主義者だ。トランプこそ、MUDの首領だ」と非難した。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は20日、「善く生きる共同体休暇計画」が31日、ANC議員選挙大勝利を祝いつつ始まる、と述べた。30日の選挙の翌日から休暇期間を始め、ANC選挙に反対する反政府勢力を懐柔する戦術だ。

 ベネスエラは20日カラカスで、ベネスエラでのダイアモンド鉱開発協力に関し、アンゴラ国営ダイアモンド会社(ENDIAMA)と基本合意書に署名した。双方は、合弁会社設立などで交渉を開始する。

 基幹産業省は、16年の輸出が5億ドルだったと明らかにし、17年は10億ドルに達する見込みと発表した。同省は、鉄鉱石採掘、製鉄など非石油部門を扱う。

 一方、亜国中西部アンデス山麓のメンドサ市で20日、南部共同市場(メルコスール、MS)外相会議が開かれ、宙づり状態にあるベネスエラの加盟資格問題などについて話し合った。会議後、ホルヘ・ファウリエ亜国外相はメディアに、「ベネスエラに民主はなくなった。ウスアイア議定書を適用し、同国を<無期限資格停止>とする可能性がある。事実上の除名処分だ」と述べた。

 MSは21日、同市で首脳会議を開催、亜ウルグイア伯パラグアイの加盟4カ国、準加盟国ボリビア、協賛国チレの6カ国大統領が出席する。ベネスエラ大統領は招待されていない。

 これに先立ち20日、メンドサ市の国立クヨ大学芸術学部で「人民対抗サミット」が開かれた。左翼・進歩主義団体、労働組合、「五月広場の母たちの会」、知識人らが参加、共同宣言を発表した。

 マドゥーロVEN政権とANC開設支持、VENのMS加盟資格剥奪反対、テメル伯非合法政権糾弾、ボリビア領海回復支持、亜国マルビーナス諸島領有権支持、長期間獄中にいる亜国先住民女性活動家ミラグロ・サラ解放要求などが盛り込まれている。

 ベネスエラのカルロス・マルティネス駐亜大使は参加し、「ラ米が今日直面しているのは新自由主義経済路線復活だけでなく、再植民地化の動きだ」と述べ、マドゥーロ政権支持を要請した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領はニカラグア革命記念日に出席した19日、ハバナを訪問、ミゲル・ディアスカネル第1副議長と会談した。玖共産党機関紙グランマは20日、モラレスが「米国はラ米をシリアやアフガニスタンのようにしたがっている。ベネスエラの原油を狙っている」と語ったと報じた。

 モラレスは20日ハバナを出発、MS首脳会議出席のため、亜国メンドサに向かう。対抗サミット主宰者は21日、モラレスに共同宣言文書を手渡すことにしている。

 

2017年7月20日木曜日

 ニカラグアがサンディニスタ革命38周年祝う▼FSP(サンパウロフォーラム)参加者も式典参加▼東京でも記念行事、ニカラグア大使が講演▼ベネスエラ野党連合が「政権構想」発表

 ニカラグアは7月19日、サンディニスタ革命38周年を迎え、首都マナグアで盛大な式典が催された。政権党「サンディニスタ民族解放戦線」(FSLN)党首を兼ねるダニエル・オルテガ大統領は記念演説で、「人口630万人のうち275万人(43%)が14~39歳の若い層であり、世代交代が進んでいるが、革命の志は引き継がれている」と強調した。

 世界銀行統計では、11年目のオルテガ現政権下で貧困率は42・5%から29・6%に、極貧率は14・6%から8・3%に、それぞれ減った。無料の教育と医療保健が低所得層を特に助けている。

 大統領はまた、「クーバは半世紀もの経済封鎖など米国の圧力を凌ぎ、対話により対米関係を再開させた」と前置きし、「ベネスエラ問題も圧力や脅迫でなく、対話によって解決すべきだ」と述べた。

 来賓のボリビア大統領エボ・モラレスは、「資本主義は、自らの金融危機や社会正義の問題を解決する能力を備えておらず、失敗だ」と指摘。ラ米連帯を訴えた。

 エル・サルバドール(ES)のサルバドール・サンチェス=セレ-ン大統領は、ニカラグアの英雄アウグスト・サンディーノとESの英雄ファラブンド・マルティが米侵略軍相手にニカラグアで共に戦った史実を踏まえて、両国の絆と共通性を説いた。

 クーバの次期国家評議会議長候補ミゲル・ディアスカネル第1副議長は、「フィデルは無条件でニカラグア支持を打ち出した」と、玖革命政権とニカラグア革命政権の強固な関係を讃えた。

 エクアドール(赤道国)からはマリーア・エスピノーサ外相が出席した。また18日までマナグアで開かれていたフォロ・デ・サンパウロ(FSP)の第23回年次会議参加の各国政党代表団も式典に参加した。

 FSPは、マドゥーロ・ベネスエラ政権支持、コロンビア内戦和平過程防衛、迫害されているルーラ元伯大統領支持、米国の対玖経済封鎖撤廃要求、エボ・モラレスの2019年ボリビア大統領選挙出馬支持、亜国のマルビーナス諸島領有権支持などを決議した。

 会議に参加した米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)のダビー・チョケウアンカ事務局長(前ボリビア外相)は、「母なる大地と社会正義を重んじる世界共通の開発モデルを構築する必要がある」と訴えた。

 今FSP会議には、ラ米20カ国と、バルバドス、トゥリニダード&トバゴ(TT)のカリブ英連邦系両国および、米領プエルト・リコ、蘭領アルバ、同クラサオ(キュラソー)、仏領マルチニックから政党や政治運動の代表約300人が出席した。

 次回会議は来年、クーバで開かれる。エボ・モラレスは19日マナグアからハバナ入りした。21日には亜国メンドサ市での、南部共同市場(メルコスール)首脳会議に出席する。

▼ラ米短信   ◎東京でもニカラグア革命記念日祝う

 東京・高田馬場のNGOピースボート(PB)本部で7月19日、サンディニスタ・ニカラグア革命38周年記念の祝賀会合が開かれた。サウール・アラナ同国駐日大使が講演、1979年の革命に至るまでの、20世紀初頭からのニカラグア情勢を解説。「今も敵がいる」と指摘し、油断してはならないと警告した。

 この会合にはベネスエラ、エクアドールの両国大使、クーバ、エル・サルバドール、ボリビア、グアテマラなどの外交官も出席した。吉岡達也PB共同代表、PB要員、ジャーナリスト、大学教授、歌手、PB世界周遊船乗船経験者、同乗船予定者ら、百数十人が参加した。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDは7月19日、「MUD政権構想」を打ち出した。ニコラース・マドゥーロ大統領に退陣を迫り、親米・新自由主義路線を復活させる構想で、従来のMUDの主張と変わらない。

 米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長(前ウルグアイ外相)は19日、米上院ラ米小委員会で証言。マルコ・ルビオ委員長(共和党極右クーバ系議員)の質問に対し、「ベネスエラ民主は崩壊した。VEN政権には麻薬取引が構造的に組み込まれている」と述べた。

 これを受けてルビオは、「ディオスダード・カベージョ(VEN政権党副党首)はベネスエラのパブロ・エスコバル(故人、かつてのコロンビア麻薬王)だ」と糾弾した。

 米政府の言いなりのアルマグロと、ラ米介入主義者ルビオの発言は根拠が乏しく、ポスト真実期の典型的な虚偽情報だ。この種の非論理的発言が一方的に証言され、ラ米への内政介入を当然視する米政府の政策になる傾向がある。

 ボリビアの政治首都ラパスでは19日、アルバロ・ガルシア副大統領が、元暫定大統領ホルヘ・キロガ(キリスト教民党首)を、「軽薄な挑発者で、押し付けがましい」と扱き下ろした。

 キロガがこのほどカラカスに行き、MUDを支持しする内政干渉言動をした。ガルシアはこれを非難した。これに対しキロガは、「押しつけがましいのは汝(なんじ)だろう」と言い返した。

 


 

2017年7月19日水曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ大統領が「トランプの脅迫」を一蹴。対米関係見直しへ▼サンパウロ・フォーラムは「ベネズエラ防衛」を宣言

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は7月18日、「米帝国による脅迫に統合的に対処するため」として、国防会議を招集した。ドナルド・トランプ米大統領は17日、「ベネスエラが制憲議会(ANC)開設を止めなければ強力な経済的措置を速やかに発動する」と強圧的な内政干渉政策を打ち出している。

 マドゥーロ大統領は、「ここベネスエラではベネスエラ人民だけが命じることができる」とし、「ANC開設は既に人民に委ねられており、その主権者人民が30日に投票権を行使するだけだ」と、トランプの脅迫を一蹴した。

 VEN外務省は18日声明を発表、マドゥーロ大統領の指示を受けて、対米関係の根本的見直しを図る、と明らかにした。声明はまた、「米大統領声明は前例のないほど低水準で質が悪く、侵略国の意図を知的に解釈するのを妨げている」とホワイトハウスを揶揄した。

 声明はさらに、「米政府は他国を辱めれば従属すると信じてきた」と指摘。「米国は恥知らずにも、ベネスエラの人民・民主政権を倒すためテロリズムを厭わないVEN政界暴力過激派と連携している」と糾弾した。

 英紙フィナンシャルタイムズは18日、コロンビアのJMサントス大統領が17日ハバナでの首脳会談でラウール・カストロ玖議長に、ベネスエラ問題で仲介を要請した、と報じた。同席したコロンビアのマリーア・オルギン外相は、ベネスエラ問題が話し合われたことを認めている。

 サントスは会談後、ANC開設を止めるようマドゥーロ大統領に求めるメンサヘを発進した。これに関しマドゥーロは18日、「コロンビアの寡頭勢力が解放者ボリーバルの祖国を支配することなど決してありえない」と跳ね付けた。

 ANC候補デルシー・ロドリゲス前外相は18日、「VEN人民は30日、完全なVEN独立のため投票する。ANCは、対話を通じての民主、参加、平和的理解のための空間だ」と力説。「私は命を懸けで祖国を防衛する」と述べた。

 ベネスエラ国営石油PDVSAは18日、6月の同国原油生産は日量215万バレルだったと発表した。対米原油輸出は4月に日量85万7000バレルに達したように好調。「トランプの脅し」には、VEN原油輸入打ち切りが含まれている可能性がある。

▼ラ米短信   ◎ラ米左翼・進歩主義陣営が「ベネスエラ防衛」を宣言

 ニカラグアのマナグアで開催中のフォロ・デ・サンパウロ(サンパウロ・フォーラム)は18日、「ボリバリアーナ革命防衛のため非常事態を宣言する」と決議した。同日の会議には、エル・サルバドール(ES)のサルバドール・サンチェス=セレーン大統領も出席した。

 革命家、故エルネスト・チェ・ゲバラの娘アレイダ・ゲバラ=マルチ医師も出席。ゲバラ歿後半世紀を記念する部会で講演した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は18日、会議出席のためコチャバンバからマナグアに向かった。サンチェスES大統領とともに19日のサンディニスタ・ニカラグア革命38周年記念日の行事に出席する。  

2017年7月18日火曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ政権は30日の制憲議会(ANC)選挙に向け邁進。トランプ米政権はANC選挙実施すれば厳しい経済措置講じると警告▼コロンビア大統領はハバナでキューバ議長とVEN問題含め会談

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は7月17日、制憲議会(ANC)議員選挙(30日)の予行演習として16日実施した模擬投票を「大成功。ANC勝利の前兆だ」と捉え、投票した支持派有権者に謝意を表明。16日にANC反対の非公式「国民投票」を決行した反政府勢力に、対話をあらためて呼び掛けた。政府は投票を「非合法で無効」として無視している。

 政府は支持層を固めるため21~23日、首都カラカス・リベルタドール区中心部のボリーバル広場で、「祖国身分証」の追加発給手続きを再開する。この身分証保持者は、格安食糧品配給制度(CLAP)や公務員就職に際し、有利になる。

 米国、ラ米保守・右翼陣営、米州諸国機構(OEA)の「従米事務総長」ルイス・アルマグロ、欧州連合(EU)、ドイツ、スペインなどが一斉にANC開設反対を表明しているが、マドゥーロ大統領は、意に介さず一蹴した。

 だが米政府は17日、ドナルド・トランプ大統領声明として、30日にANC議員選挙を実施すれば米国は強力な経済措置を速やかに講じると、マドゥーロに警告した。米国務省は、ラ米諸国と国際社会に、ANC選挙中止をベネスエラに呼び掛けるよう要請した。

 サムエル・モンカーダVEN外相は外務省で記者会見し、国際社会はベネスエラの状況やMUD投票に関し真実を重視せず、虚偽情報に基づいて判断していると、批判した。

 反政府勢力の中核で非公式投票を決行した保守・右翼野党連合MUDは17日、今後の行動日程を発表した。投票の最終結果を18日発表、「国民統合政府」構想を19日発表、全国ストライキを20日決行、国会任命の最高裁判事を21日発表、というもの。米国務省と米南方軍の筋書きに沿っている。

 一方、コロンビアのJMサントス大統領は16日ハバナ入りし、17日公式訪問を開始。同日、「ANC構想を廃案にして交渉による解決を図るべきだ」と、マドゥーロに呼び掛けた。同日、ラウール・カストロ玖国家評議会議長と会談する。

 この会談について英紙フィナンシャルタイムズ(FT)は、サントスはラウールにマドゥーロの亡命を受け入れるよう要請する、と報じた。この要請案策定にはメヒコや亜国も加わっているという。

 FTは根拠として、サントスがマドゥーロ、ラウール、トランプを個人的に知る唯一のラ米指導者であることや、クーバがベネスエラの最重要同盟国であることを挙げている。

 だがボゴタのコロンビアメディアは17日、FT報道内容を否定した。サントスは昨年のノーベル平和賞受賞者であり、ラ米域内で何か功績を挙げたがっているのは事実だ。

 問題は、2013年4月に民主選挙で選ばれたマドゥーロ政権に、利害を異にするMUD、米政府、国際社会などが退陣を迫るのは正しい行動ではない、ということだ。「ゆっくりと進行するクーデター」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。

 米政府は、MUDを通じての4月以来のベネスエラ国内での暴力キャンペーンと、内外メディアを動員しての虚偽報道の多い反マドゥーロ宣伝を展開、政権を揺さぶりつつ、OEAでベネスエラ糾弾決議を採択し、これを名分にベネスエラに介入する準備を進めてきた。だが、長引く暴力に国民が反発、OEAの企てもことごとく失敗した。このため戦略を切り換え、非公式「国民投票」を打った。

 ベネスエラは30日のANC投票まで2週間を切った。米政府の支援を受けているMUDは反政府行動を激化させようとしており、不安定な社会状況が続いてゆく。 

2017年7月17日月曜日

 ベネズエラ反政府勢力が「国民投票」実施。98%がマドゥーロ政権の制憲議会(ANC)開設に反対。だが投票率は30%台と低迷。政府は同日、ANC議員選挙に備え模擬投票を実施▼世論調査で75%が政府の「社会主義経済モデル」を支持

 ベネスエラの反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは7月16日、独自に「国民投票」を実施、有権者の3分の1に当たる718万人が投票した、と発表した。設問は①マドゥーロ政権が推進する制憲議会(ANC)開設に反対②国軍の憲政護持任務③早期大統領選挙実施-の3点で、いずれも98%が賛成したとしている。

 マドゥーロ政権は、国家選挙理事会(CNE)が公認しない投票であり無効として、結果を無視している。政権側はこの日、7月30日実施のANC議員選挙の準備の一環として模擬投票を実施、CNEノティビサイ・ルセーナ理事長は「成功した」と述べた。

 MUDは投票の監視役としてラ米4ヵ国から大統領経験者計5人を招いたが、その一人であるビセンテ・フォックス元墨大統領が「ベネスエラ人の善意を逆手にとって内政干渉した」として、サムエル・モンカーダVEN外相は16日、フォックスに「ペルソナ・ノン・グラタ」(歓迎されざる人物)を宣告した。フォックスは既に出国済み。

 一方、著名なジャーナリスト、ホセ=ビセンテ・ランヘールは16日、民放テレベンの定例番組で、最新の世論調査結果を発表。回答者の75%は、マドゥーロ政権が維持している社会主義経済モデルに賛成し、反対は24%と伝えた。

 政府の経済政策には61%が賛成、31%が反対した。政府による民間部門規制には78%が賛成、20%が反対した。資本主義モデル復活に賛成するのは32%だった。政府の民間投資と外資の導入には86%が賛成している。

 社会福祉など重要部門の民営化には74%が反対。国営通信会社CANTVの民営化には69%が反対。国営石油PDVSAの民営化には74%が反対した。MUDは経済問題を解決できるかとの設問には、63%が不可能とし、34%が可能と答えた。

2017年7月16日日曜日

 ベネズエラ野党連合MUDがきょう16日、マドゥーロ体制否定のため「国民投票」を実施。政権は非合法として投票結果無視へ▼ボリビアのエボ・モラレス大統領がベネズエラ連帯を打ち出す

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDが指揮する反政府勢力は7月16日、ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権の正統性を否定するため「国民投票」を実施する。

 マドゥーロ政権は、憲法大幅修正・条項追加のため制憲議会(ANC)を設置する政策を進めており、今月30日にANC議員選挙を実施する。MUDは、これに先駆け投票で「ANC開設」を否定、それによってマドゥーロ政権の正統性を否定し、大統領選挙の早期実施を内外世論に働きかける戦略だ。

 政府は、国家選挙理事会(CNE)が公認していないため、MUDの投票は無効とし、投票結果を無視する考えだ。

 MUDと連携する「スペイン・ラスアメリカス民主構想」(IDEA)の大統領経験者5人は15日、MUDの招きで投票監視のためカラカス入りした。IDEAは、保守・右翼系の政府首班経験者のクラブで、米国や欧州連合の保守・右翼陣営と繋がっている。

 来訪したのは、アンデレス・パストラーナ元コロンビア大統領、ビセンテ・フォックス元メヒコ大統領、ホルヘ・キロガ元ボリビア暫定大統領、ラウラ・チンチージャ前コスタ・リカ(CR)大統領、ミゲル=アンヘル・ロドリゲス元CR大統領。5人はすぐにMUD幹部と会合、16日の投票監視の手はずを整えた。

 5人のうち、パストラーナとキロガは今月5日、JMサントス・コロンビア大統領とボリビアのエボ・モラレス大統領に、ベネスエラ問題を話し合う南米諸国連合(ウナスール)の緊急首脳会議を開催するよう要請している。

 そのモラレス・ボリビア大統領は15日、米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長がベネスエラの有権者に16日の投票に参加するよう14日呼び掛け、「ベネスエラが独裁体制に占拠されている」と非難したのに対し、「ベネスエラを軍事占拠したがっているのは米帝国だけであり、アルマグロは帝国の召使いに成り下がっている」と糾弾した。

 ベネスエラのサムエル・モンカーダ外相は15日、モラレスの連帯に謝意を表明した。同外相はまた、英政府がANC開設に異議を唱えたのに対し、これを糾弾した。

 ボリビア政府は10日、モラレス大統領を暗殺する陰謀がある、と警告を発した。同国の右翼野党国会議員ノルマ・ピエーロラは12日、「ボリビア軍部隊300人がベネスエラに展開中」と発言、内外に波紋を呼んでいる。

 これについてボリビア政府は15日、虚偽情報として否定し、10日以内に発言の基となった証拠を提示しなければ法的措置をとる、と同議員に伝えた。ボリビア国防相は、在ベネスエラ大使館に武官4人、同国士官学校などに軍人留学生17人がいるだけだ、と明らかにした。

 一方、マドゥーロ政権と敵対しているルイサ・オルテガ検事総長は14日、「最高裁が他者を嘘発見機にかけないと公約すれば、私は17日、科学捜査警察に出頭し、嘘発見機に敢えて臨む」と述べた。

 オンブズマンのタレク・サアブは、オルテガの一連の反政府言動に関し、嘘発見機にかけるよう最高裁に要請していた。

 カラカスの外港ラ・グアイラには14日、食糧品を詰めたコンテナ500個が到着した。格安食糧配給制度CLAPのための物資で、メヒコ、ニカラグア、パナマなどから輸入されている。マドゥーロ政権は、庶民に食糧を保障し、30日のANC選挙で圧勝したい考えだ。

 同政権は、米政府が物資供給を止めるようメヒコなどに圧力をかけている、と非難してる。

2017年7月15日土曜日

 ペルーのオヤンタ・ウマーラ前大統領夫妻が予防拘禁で収監さる。伯オデブレシ社絡みの汚職疑惑で▼ベネズエラ国営石油が米社と油井掘削契約を結ぶ

 ペルーのオヤンタ・ウマーラ前大統領と、そのナディーン・エレディア夫人は7月13日夜、当局に出頭、18カ月間の予防拘禁に服した。法廷はこの日、夫妻を腐敗容疑で起訴している検察の要請を容れて、国外逃亡の可能性を封じるためとして予防拘禁を命じていた。

 夫妻は、2011年の大統領選挙の選挙戦のさなか、伯建設最大手のオデブレシ(オデブレヒト)から300万ドルを選挙資金として受け取った容疑がかけられている。ウマーラはこの選挙でケイコ・フジモリを決選で破って当選、16年7月末まで5年間政権にあった。ウマーラは「政権を去ってから政治的迫害が続いている」と、暗にPPクチンスキ現政権を批判している。

 ウマーラ陣営は2006年の大統領選挙時には、ベネスエラのウーゴ・チャベス大統領(当時、故人)から選挙資金を受け取った疑いがある。この時の選挙ではウマーラは、アラン・ガルシア(2期目、元大統領)に決選で敗れた。

 そのガルシアもオデブレシから資金をもらった疑いで捜査されている。またアレハンドロ・トレード元大統領は同社からの巨額の収賄で起訴され逃亡、米国に潜伏中。ペルー政府は身柄引き渡しを求めている。

 ブラジルでは12日、ルーラ元大統領がやはり建設大手OAS社からの収賄で9年半の禁錮判決を受けた。ウルグアイのホセ・ムヒーカ前大統領は14日、「法廷や報道が何と言おうと、貧困人民が君にはついている」と、ルーラ擁護を表明した。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ国営石油が米社と契約

 国営PDVSAは7月14日、米ホリゾンタル油井掘削会社から13億ドルの投資を受け入れる契約を結んだ。向こう3年間にベネスエラ国内で油井200箇所を掘り、日量10万5000バレルの原油を増産する計画。現在のVEN原油生産は日量190万バレルと見られてる。これは最盛期より100万バレル少ない。

 ホリゾンタル社は過去の契約に基づき既に、オリノコ油田で開発に参加している。ニコラース・マドゥーロ大統領は、新契約調印式で、外資が必要であり、投資を歓迎する、と述べた。また、ドナルド・トランプ米大統領と対等の立場で会談したい、と表明した。

 一方、アントニオ・グテレス国連事務総長は14日、ベネスエラ政府と反政府勢力が即時融和するのが必要だとし、「言論の自由回復などが求められる」と指摘した。これに対しVEN外交当局は、「言論の自由」論は反政府勢力の主張を丸のみしたものと批判した。言論の自由があるからこそ、反政府メディアは連日、マドゥーロ政権を虚偽報道を含め激しく攻撃している。 


 

2017年7月14日金曜日

 ニカラグアの首都マナグアで16~18日、第23回FSP(サンパウロ・フォーラム)開催。CELAC33カ国から300人出席へ▼19日のサンディニスタ革命38周年記念行事に直結


 ニカラグアの首都マナグアで7月16~18日、第23回フォロ・デ・サンパウロ(FSP、サンパウロフォーラム)会合が開かれる。ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)加盟33カ国から左翼・進歩主義政党・運動・団体の代表約300人が出席する。15日は予備日、19日はサンディニスタ人民革命(RPS)38周年記念日で、その式典にFSP出席者全員が参加する。

 ことし1月マナグアで開かれた予備会合で、「我らのアメリカ合意」が採択された。LAC(ラ米。カリブ)の左翼統合と、LACに再台頭している新自由主義経済路線への反撃のための闘い強化を謳っている。

 今回の会合では①危機にある資本主義に替わる経済モデル構築と、その政治的・社会的影響②LAC統合③反腐敗闘争④国家制度衰退問題⑤跋扈する個人利益追求経済への対策⑥労働者階級の復権⑦ベネスエラ情勢と米州諸国機構(OEA)-などがテーマになる。

 横暴な新自由主義路線の政治経済再台頭は、域内の左翼・進歩主義勢力にとって逆襲すべき好機だが、それは経済的にでなく、、政治的に対処せねばならない。FSPは、そのように捉えている。

 FSP事務局、ニカラグアのオルテガ政権、政権党FSLN(サンディニスタ民族解放戦線)は、ルーラ元ブラジル大統領を断罪した1審判決を糾弾、ルーラへの連帯を表明した。

 FSPがニカラグアで開催されるのは4度目、中米開催は8度目となる。社会主義クーバからは、ホセ=ラモーン・バラゲール共産党国際局長が出席する。

2017年7月13日木曜日

 ブラジル第1審で、ルーラ元大統領に禁錮9年半の判決。2審判決までは収監はない。来年の大統領選挙の最有力候補だが、政治生命危ぶまれる

 ブラジル法廷第1審(セルジオ・モロ裁判長)は7月12日、ルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ元大統領に、腐敗罪で禁錮9年半の実刑判決を下した。弁護団は控訴手続きを始めつつあり、第2審での有罪判決が出るまでは身柄拘禁はない。

 だがルーラは2018年10月の大統領選挙に労働者党(PT)から出馬する意向で、選挙前に2審有罪判決が出れば、出馬は不可能になる。21世紀初頭の南米政界を故ウーゴ・チャベス前VEN大統領とともに主導したルーラの政治生命は危機に瀕している。

 今回の判決は、ルーラが、伯最大手建設会社オデブレシ(オデブレヒト)とOAS社の契約成約時に豪華住宅を受け取ったのを収賄と見なし、有罪とした。だが、この住宅はOAS名義になっており、弁護側は収賄事実はないと否定している。

 来年の大統領選挙の立候補届けは7月30日~8月15日の期間になるもよう。ルーラは主要な出馬予定者の中で30%の支持率を維持、トップに立っている。昨年8月末にルーラ後継のヂウマ・ルセーフ大統領を無理やり弾劾した保守・右翼勢力がルーラを再び政権に就かせないため展開している「政治的陰謀」と、PTをはじめ内外の左翼陣営は批判している。

 ルーラが大統領選挙で当選した後に2審で有罪判決が出た場合は、司法審議会が大統領資格を審理する。

 ルーラは他の容疑でも捜査されている。オデブレシ資金1200万ドルでサンパウロ市内に「ルーラ研究所」建設用地を買ったか否か。スウェーデン製グリペン戦闘機購入(50億ドル)に際し、影響力を行使して収賄したか否か。

 また元PT幹部でルーラの側近だった元上院議員は、国営石油ペトロブラス汚職に関与した元同社幹部を買収して沈黙させる計画にルーラも関わった、と証言、これも捜査対象だ。さらにアンゴラでの建設事業参入に際しても影響力を行使し、オデブレシ経営者と組んで違法行為に関与したという容疑もある。

 法廷は、検察庁が機密書類など厖大な証拠物件を提出したことで審理が進んだ、と検察の協力を評価している。ルーラ弁護団は、控訴するとともに、国連人権部門にも訴えると表明している。

2017年7月12日水曜日

 ベネズエラ情勢:マドゥーロ政権は30日の制憲議会(ANC)議員選挙に向け邁進。反政府野党連合MUDは政権を否定する投票実施へ▼コロンビア政府がFARC要員7700人を恩赦

 ベネスエラでは今、マドゥーロ政権が推進する制憲議会(ANC)開設のための議員選挙(7月30日)と、これに反対する保守・右翼野党連合MUDが進める同政権否定の是非を問う「国民投票」(7月16日)に向かって、政府と反政府勢力が激しく闘っている。

 ニコラース・マドゥーロ大統領の政権党PSUV(ペスーブ=ベネスエラ統一社会党)は7月11日、MUDの「国民投票」は国家選挙理事会(CNE)の承認を得ていないため違憲かつ無効と主張、同日にも最高裁選挙法廷に投票差し止めを求め提訴する構えだ。

 これに対しMUDは、後ろ盾の米政府、米州諸国機構(OEA)、内外マスメディアなど外部勢力の支援を基に、ANC開設を阻み、マドゥーロ政権の正統性を否定、大統領選挙実施に持ち込もうと謀っている。

 トランプ米大統領に反ベネスエラ政策を指南している米共和党右翼のマルコ・ルビオ上院議員(反カストロ派クーバ系2世)は11日、マドゥーロ政権に対し「ANC開設を止め、選挙を実施せよ。さもなければ米国は厳しい制裁を科す」と内政干渉した。

 マドゥーロ大統領は直ちに、「ベネスエラは主権国家であり、誰の指図も受けない。ANCを開設し、米帝国主義は吐いた言葉を呑み込まざるをえなくなる」と一蹴した。

 マドゥーロ政権は、埋蔵量世界一のベネスエラ原油と、LAC(ラ米・カリブ)での覇権復活を狙って米国は同政権を倒そうと画策しうている、と見ている。これは内外知識人の味方と一致する。米政府の「民主化」要求は「石油確保の野望隠し」よ見なされている。

 アラグア州マラカイ市で10日、ANC議員候補ホセルイス・リバスが選挙運動中、反政府勢力側の殺し屋と見られる男から射殺された。4月初めの反政府暴動開始から100日を経て、死者は94に達した。

 同日、首都カラカスでは反政府暴徒が自動車道にガソリンを撒いたうえで火炎瓶を投げ、そこに差し掛かった国家警備隊(GNB)のオートバイ部隊の要員7人に火傷を負わせた。報道陣は、この犯行準備を知りながらGNBに通報せず、取材態勢をとっていた。

 政府は8日、MUD極右政党VP(人民意志)党首レオポルド・ロペス受刑囚を健康の理由で刑務所から出し、GPS装置を付けて自宅軟禁処分に切り替えた。ロペス夫人リリアンは9日、この措置に関与したデンルシー・ロドリゲス前外相、その実兄ホルヘ・ロドリゲス首都圏リベルタドール区長に謝意を表明した。

▼ラ米短信   ◎コロンビア政府がFARC要員に恩赦

 コロンビアのJMサントス大統領は7月11日、和平過程にあるゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)の要員7696人を恩赦および赦免で、自由の身にした。この要員は6月末までに武装解除を終え、社会復帰に備えている。FARCは政党になる。

▼ラ米短信   ◎米国の駐玖臨時代理大使が交代

 米臨時代理大使は7月11日、スコット・ハミルトンに交代した。クーバは2015年7月20日の国交再開と同時にワシントン駐在大使を置いているが、米側は依然、大使を任命していない。 
 
 
 

2017年7月11日火曜日

~~ピースボート2017波路遥かに~~④(終)エル・サルバドール

 OD号は、エル・サルバドール(ES)最重要港アカフトゥラに入港した。ここでは「現代史探求」のバスツアーに加わって、首都サンサルバドールで内戦の傷跡を取材した。人権NGOの案内で、広大な公園の一角に建てられた人道犯罪の犠牲者たちの氏名を刻んだ長い石の壁を訪ねた。その前で、連帯集会が開かれた。

 次いで、このNGOの本部で昼食会と、状況説明会が催された。私は、ある人道犯罪被害者の女性にインタビューし、苦悩の声を聴いた。長らく閉ざされていた声と言葉が今は出るようになっている、と彼女は言った。

 同本部の正面には、サルバドール・サンチェス=セレーン大統領の政権党「ファラブンド・マルティ民族解放戦線」(FMLN)の党本部がある。そこも訪れ、取材した。この首都取材は近い将来、長い記事に仕立てる。だから今は細部は語るまい。

 別のバスツアーは1泊2日で、ホンジュラス国境に近い山中のエル・モソテ集落で内戦初期に起きた大虐殺の現場を訪れた。船客の中の被爆者たちは、このツアーに参加した。

 私は1990年代初め、エル・モソテを取材した。当時は、その10年前の虐殺事件発生時とほぼ変わらない情景があった。それが今日では、立派に整えられ、内戦の極悪さを示し、かつ犠牲者を慰霊する聖地となっている。

 私はアカフトゥラ2日目に下船し、海岸線の山道約100kmを車で1時間45分走り、オスカル・ロメーロ大司教国際空港に行った。海岸線は標高600mを超える山地が連なり、急峻な崖が海に落ちている。雨季とあって緑生い茂り、内戦を想起させるものはない。

 アエロメヒコ機は2時間半遅れで出発、夜半、メヒコ市のベニート・フアレス空港に着いた。直ちにアエロメヒコの成田行きに乗り、14時間半の窮屈な空路に身を置いた。隣席は、日本に2週間、ホームステイ旅行するグアナフアト大学予科生10人組の1人で、いろいろと話し合った。

 彼は、機内で配られたメヒコの新聞に全く興味を示さず、ひたすらスマホや座席前の画面に集中していた。この生態は、日本の若者とさして変わらない。

 東京に帰着。辛くも都議会議員選挙に間に合った。都民が自民党と安倍政権に鉄槌を下したのは評価できるが、新しい第2保守党の正体は不明だ。何が出て来るのか、定かでない。かくして、半月の短い船旅は終わった。今回も実り多き旅だった。 
 

2017年7月9日日曜日

~~ピースボート2017波路遥かに~~③パナマからニカラグアへ

 コロン市のサンクリストーバル港で親友ワゴと再会する。近年、彼は活動が多様化して忙しく、PB乗船は弟子たちに任せている。今回はエイラ・エスキベルが乗った。ワゴには、パナマ運河に来る度に会える。また来年会うだろう。

 パナマ市では、ワゴらクナ民族は、運河出入口に架かるラス・アメリカス橋をパナマ市中心街側から西方に渡った地域に集落をつくって居住している。モラは、そこで生産されている。

 カリブ海側の運河出入口は、運河に向かって左側が、昨年6月開通した第3閘門式水路、右側が旧来の第1、第2水路だ。太平洋側出入り口は、両者は離れていて、旧水路から新水路を観ることはできない。

 両洋を結ぶ運河と南北両米大陸を繋ぐラス・アメリカス橋が交差する地点は「世界の十字路」と呼ばれる。運河の中間地点には、日本が贈った独立100周年記念橋がある。現在、カリブ海側出入り口の上に、第3の橋が建設中だ。

 旧運河の通航は、記者時代を含め10回を超える。だから新鮮さがない。新水路は一度は通航してみたいが。通航料は平均、旧水路が1000万円、新水路は3000万円だ。PB船は旧水路で十分。3倍もの通航料を払って新水路をと通ることはない。

 旧水路は、双方向合わせ一日30隻が通航するが、新水路は一日4隻が限度だ。規模が大きいだけに、水の出し入れと閘門開閉に時間がかかるのだ。

 運河を太平洋に抜けてから1日半で、ニカラグアのコリント港に着いた。いつもバスや車で首都マナグアやレオン市に向かうが、今回はコリントの街を散策した。港は、来る度に起重機などが新しくなっている。この国の進歩が、そんなところに窺える。

 本来ならば、「ニカラグア大運河」の建設現場を取材すべきなのだが、今回は時間がなく、叶わない。

 船は夜半、隣国エル・サルバドールのアカフトゥラ港に向かい出航した。我が船室でPBスタッフ3人とビール宴を催す。ハムとチーズとCD音楽で語り合った。

 魅力的なスタッフばかりだが、女性らは自由な世界旅行をそろそろ切り上げて、錨を降ろすべき男性を探そうと決意している。若き友人たちに良縁が生まれるのを、いつも祈っている。

2017年7月8日土曜日

 マリオ・バルガス=ジョサが故ガブリエル・ガルシア=マルケスとの関係を初めて語る。「共作さえ構想した」と明かす。1976年の絶交の理由は語らず

 初めて『百年の孤独』(孤独の百年)を読んだ時、ラ米についに騎士道、現実を踏まえた幻想の語り、記述にうるさい読者を魅了する徳のある大作が現れたと驚き、眼がくらみ、しばらくの間ガブリエル・ガルシア=マルケス(GGM)の幻影に苛まれた。

 ペルー人でスペイン国籍も持つ作家マリオバルガス=ジョサ(MVLL、81歳)は7月5日、スペインのエル・エスコリアルでのコンプルテンセ大学夏期講座で、『百年の孤独』刊行50周年に因み、GGMについて語った。GGMの『族長の秋』については、彼の作品の中で最も軟調であり、漫画的だと思った、と述べた。

 2人とも20世紀後半のラ米大作家時代に属し、ノーベル文学賞作家同士。MVLLはGGMとの共通点について、「共に母方の祖母たちに育てられ、父親と難しい関係にあった」ことを挙げた。さらに、「ウィリアム・フォークナーに傾倒し、欧州に滞在して自分たちがラ米人であるのを悟ったこと」と強調した。

 クーバ革命との関係については、「自分は革命を熱狂的に迎えたが、GGMはさめていた。彼はプレンサ・ラティーナで働いていた当時すでに友人プリニオ・アプレヨとともに玖共産党(PSP)から排除されていた。だが彼はやがてフィデル・カストロと知り合った。実利主義が働いたのか、反玖よりも親玖である方が望ましいと気付いたのだろう」と指摘した。

 「クーバ革命は当初の自由主義、社会主義から共産主義へと傾斜した。我々批判的だった者はクーバから離れていった」と、自らの立場を語った。現代のラ米政治に関しては、「GGMは同意したがらなかったようだが、問題は軍部や社会主義では解決できず、暴力がより少なく貧困を減らすことが可能な民主でやらねばならない。だが腐敗は掃討せねばならない」と述べた。

 GGMとの友情は、「互いに相手の作品を読んで知っていたが、1967年にカラカスの空港で初めて会い、一緒にボゴタに行った。その時はもう親友同士になっていた。書簡をしばしば交わすようになり、アマソニアをめぐって起きたペルー・コロンビア戦争の史実を踏まえた小説を2人で書こうとさえ計画した。この構想は立ち消えになったが」と明らかにした。

 MVLLは1967年、リマでGGMに公開インタビューした。「彼は公衆の面前では引っ込み思案で臆病なところがあった。だが私生活では羽目をはずすほど楽しんでいた」と述べた。「私たちの友情は、ラ米文学が仏英伊などの読者を驚かせていた状況の下で深まっていた」と指摘した。

 GGMは2014年4月死去した。「コルタサルやフエンテスが死んだときと同じように悲しかった。彼らは大作家であり、かつ友人だった。私は、その世代の最後の一人だと思う。今や、彼らのことを語る立場になってしまった」と述懐した。

 MVLLとGGMの友情は1976年に途絶え、以後、2人が会うことはなかった。その年、2人はメヒコ市の劇場で殴り合い、MVLLはGGMを殴り倒した。当時のMVLLのパトリシア夫人にGGMがちょっかいを出したのに怒ったのが原因とされている。この決裂に話が及ぶとMVLLは、「話が危険な領域に及んだ。そろそろ切り上げよう」と当時の逸話に触れず、話を終えた。

 質問役のスペイン人カルロス・カネスは、「カミュがサルトルを、トルストイがドストエフスキーを、フォークナーがヴァージニア・ウルフやジョイスを語るように、ラ米文学の巨人がもう一人の巨人を語った」と称賛した。

【1980年代末に私がリマ市でMVLLにインタビューした際、GGMと絶交した逸話を訊くと、MVLLは「私は彼とインタビューし、彼について評論を書いた。彼とは友好関係にあった」としか答えなかった。】

 
 
 

2017年7月6日木曜日

~~ピースボート2017波路遥かに~~②ベネズエラ

 ちょうど1年ぶりに訪れたカラカスは、反政府勢力の街頭行動がたまたまなかったため、移動が楽だった。街中の壁面には、7月30日実施の制憲議会(ANC)議員選挙に向けた政権党PSUVの大ポスターがペンキで描かれている。すぐに剥がされ破り捨てられる紙のポスターは通用しない。

 都心のボリーバル広場、そこに面した外務省、少し離れた丘陵上のチャベス廟や、あちこちで地元の人々と対話した。船内では来船したラ・グアイラ港地元のバルガス州当局者や外務省当局者と話し合った。巷の庶民は物資不足や治安悪化を託(かこ)つが、政変はないと見る。当局者は落ち着いていた。故ウーゴ・チャベス14年、ニコラース・マドゥーロ4年の計18年、政権を握り固めてきたチャベス派は、国軍と一体化して揺るがない。そんな自信である。

 反政府勢力は、米国務省、米南方軍、CIAの指導を受け、軍資金をもらって合法・非合法の反政府工作を続けきたが、国軍を割ってクーデターを起こす目的を達することができないままだ。米国務省の下部と化した米州諸国機構(OEA)の度重なる反ベネスエラ策謀もことごとく失敗してきた。

 過去200年の間にラ米・カリブの多くの国々は、米帝国主義に侵略された苦い経験を持つ。だから米国を完全には信用しない。かくして米国と、その手先に成り下がったメヒコ、ペルーなどによる多数派工作は毎回失敗してきた。

 マドゥーロ政権は7月30日の投票日に向けて邁進しているが、反政府側はさまざまな妨害工作を激化させるだろう。7月は天王山だ。新自由主義資本に支配されている内外マスメディアの反VENキャンペーンも一層激しくなるはずだ。

 6月23日は「沖縄慰霊の日」。そのため、沖縄・日本関係史、軍事基地を含む今日の問題について特別に語った。船客たちは壁新聞で、大田昌秀元沖縄県知事の死去を知っていた。共謀罪強行採決、森友・加計疑惑事件のことも知っていた。すべてが絡む現代、どの切り口からも、諸問題の生々しい赤い肉が見えてくる。

 毎回気になるのが、若者多数派の政治的、社会的、国際情勢的な深い無関心だ。彼らは自ら気づかずに、やすやすと罠にはまってしまうだろう。歯がゆいが、電脳個人メディアと一体化している彼らに説得は通じない。聞く耳を持たないのだ。彼らがよほど困らない限り、こんな状態が続くだろう。


  

2017年7月5日水曜日

~~ピースボート2017波路遥かに~~① 東京-ハミルトン

 6月後半、NGOピースボート世界周遊船オーシャン・ドゥリーム(OD)号で船上講師を務めた。成田-上海-ニューヨークー英領バーミューダ島都ハミルトンの計2万km弱を40時間かけて飛んだ。NYまでは中国東方航空だった。

 当然のことながら中国語が機内を埋める。そこで中国語の地名を採集した。紐約(NY)、温哥華(バンクーバー)、旧金山(サンフランシスコ)、華盛頓(ワシントン)、芝加哥(シカーゴ)、温尼伯(ウィニペグ)、多倫多(トロント)、魁北克城(ケベック市)、辛辛那堤(シンシナティー)、渥太華(オタワ)、休侘湖(ヒューロン湖)、波土頓(ボストン)。。。漢字の略字が多く、日本語のパソコンでは表せない。kmは「公里」という。米ドルは「美元」だ。

 真夜中にJFK空港に着き、エアートゥレインで空港を一周してからフェデラル・サークル駅で降り、無料電話で予約していたホテルに迎えの車を頼む。やがて送迎バスがやってきたが、ホテルの部屋に辿り着いたのは午前1時半だった。

 眠らずに午前5時、ロビーで集合。パナマのクナ民族のモラ制作者エイラ・エスキベル、日系メヒコ人通訳グティエレス実、女優東ちづる、そのカメラマン、その世話係に私を加えた6人で、AA機に乗り、ハミルトンに渡る。

 島の空港と反対側に位置する港に停泊中のOD号の船室に入ったのは、東京の自宅を出てからちょうど40時間後だった。エイラの師ワゴは私の親友であり、エイラおよび実とハミルトンを散歩した。植民地独特の風情で、通貨は事実上、美元だ。物価高で、「アイルランド風酒場」で飲んだラム酒のマンゴージュース割カクテルは10ドルだった。

 ハミルトンの街は整然としている。灼熱の陽光に対し、白亜の家々がずらりと並ぶ。米英人の別荘地で、自家用ヨットが入江を埋めている。だが灼熱に堪えるものがない。土着の強烈な文化がない。

 この島の南方にある旧英領バハマは独立国だが、米国の植民地的経済状態にあり、首都ナッソーも米ドルに支配されている。ハミルトンとナッソーには、共通する佇まいがある。つまり島の認同(イデンティダー、アイデンティティー)が感じられないのだ。これは悲しく寂しい。

 船はいつしか、ドミニカ共和国と米領プエルト・リコ島の間のラ・モナ水道を抜けて、カリブ海に入った。

 東ちづるは、TV番組で主演する「旅館の若女将」そのままに活発、勝気で、威勢がいい。広島の酒は甘いと言うと、直ちに否定され、呑むべき辛口の銘柄を2つ教えられた。彼女は広島県出身で、酒豪なのだった。

 船内で「ドイツ国際平和村」、「まぜこぜの社会」などたくさんの講演をこなした東ちづるは、主宰する社団法人「Get in touch」の制作で、自らプロデュースした、LGBT問題を取り上げた映画「私はワタシ」を紹介。船内、寄港地での撮影も済ませ、パナマで下船した。エイラもモラについて講演したり、実習会を開いたりして、パナマで降りた。私は港でワゴと再会することにしている。

 私はカラカス訪問に備え、玖米関係、ベネスエラ情勢、故ウーゴ・チャベス大統領について話した。4月に横浜・神戸を出航したOD号船客にとって、3ヶ月半の旅程の最後の3分の1にかかる山場が2日間のカラカス訪問だった。私にとっては、ちょうど1年ぶりのベネスエラである。

 船客には韓国、台湾、シンガポール、マレーシアの人々が計約100人いた。中国語は「中文」と呼ばれ、その通訳が2人乗船していた。もちろん韓国(朝鮮)語通訳もいる。あとは英語と西語の通訳だ。アジアや第2次大戦について話す時、彼ら近隣の人々をも慮って話さねばならない。その緊張感をもって語るのも、かえって楽しい。

2017年7月4日火曜日

 メキシコの画家・彫刻家ホセ=ルイス・クエバス(86)が死去

 メヒコの画家・彫刻家ホセ=ルイス・クエバス(86)が7月3日、メヒコ市内の病院で死去した。オロスコ、リベーラ、シケイロスらの「メヒコ社会派壁画運動」に反旗を翻し、それを自身の認同(イデンティダー、アイデンティティー)としていた。メヒコ芸術庁(INBA)は4日、首都中心街の芸術殿堂で告別式を挙行する。

 私は1971年4月、クエバスの邸宅で2時間インタビューした。画伯が40歳の時だった。「私はメヒコ市の下町の路地に面した製紙工場の中の貧しい部屋で1934年2月のある日生まれた」と言った。3歳若く言っていたのだ。少年時代に売春街の女たちから鍛えられ、貧困ゆえの人間のいびつさ、醜悪さに心を惹かれ、それを題材にした。

 クエバスは、白黒でメヒコを表す線画を評価され、50年代ニューヨークでデニューし、メヒコに凱旋。「サボテン(ノパレス)のカーテンを打ち破れ」と叫び、壁画運動への反対運動を開始した。

 67年には、メヒコ市ソナ・ロサ地区で「はかない壁画」を制作、半永久的に続く壁画作品を揶揄した。当時、存命だった大御所ダビー・アルファロ=シケイロスを「敵」に見立て、自身の存在を強調していた。

 だが1992年、生地に近い首都下町の「歴史地区」に、自分の名前を被せた美術館を開き、94年には、そこに高さ8m、重さ8トンの銅製の巨像「ラ・ヒガンタ」(女巨人)を建てた。

 私は、この巨像を観ながら、壁画運動を蔑視していたクエバスも後世に残る大型の記念碑的作品を結局は作っではないか、と思った。だが再度インタビューする機会はなかった。

 クエバスは1974年シケイロスが死ぬと、芸術殿堂の告別j式に駆け付けた。それから43年後、クエバスが芸術殿堂に横たわることになった。

★拙著『メヒコの芸術家たち』(1997年、現代企画室)参照

2017年7月3日月曜日

 チり大統領選挙(11月)の主要候補が出そろう

 11月19日実施のチレ大統領選挙に出馬する主要候補が7月2日、大方出そろった。この日の党派別予備選挙で、保守・右翼陣営「チレ・バモス(チレよ進もう)」のセバスティアン・ピニェーラ前大統領は58%を得票、マヌエル・オサンドーン上院議員らに圧勝した。

 左翼の「拡大戦線」(FA)は、放送ジャーナリストのベアトゥリス・サンチェスが得票率67%で、社会学者のアルベルト・マジョールを退けた。

 一方、政権党連合「ヌエバ・マジョリア(新多数派)」は4月、統一候補擁立をめぐって亀裂が深まり、中核のキリスト教民主党(DC、中道・保守)は、カロリーナ・ゴイッチ上院議員を擁立。これに対し、もう一つの中核、社会党(PS)など左翼諸党はアレハンドロ・ギジエル上院議員を選んだ。

 政権党連合は1990年3月の民政移管時からDCが2度、PSが3度、大統領を出してきた。現職のミチェル・バチェレー大統領は2期目で、PS党員。DCは今度は我が党からと、逸早くゴイッチを指名した。

 結局、「新多数派」は統一候補を決める予備選を開けなかった。8月19日の出馬締め切りまでに、ゴイッチとギジエルが討論会などを通じて一本化できるかどうかが鍵となる。

 「新多数派」が分裂したしたまま両候補を立てれば、ピニェーラ前大統領の当選が容易になる。現時点ではピニェーラの決選進出は堅いと見られ、対立候補はゴイッチ、ギジエルのいずれかになるもよう。進出が難しい左翼FAは、決選では「新多数派」支持に回る公算が大きい。

 ピノチェー軍政が終わって27年、チレの政情は「軍政後時代」を抜け出し、ピニェーラが代表する新自由主義路線と、「新多数派」の新自由主義+社会政策路線が競い合う型になっている。

2017年6月16日金曜日

 ペンス米副大統領が「対ベネズエラ強硬論」を展開、ラ米諸国に行動を要請▼ボリビアのエボ・モラレス大統領がペンスに論駁▼ベネズエラ選管は州知事・州会議員選挙の詳細日程を発表▼キューバ外相が欧州歴訪を開始。法王庁に対VEN強硬論封じ込め要請か

 マイク・ペンス米副大統領は6月15日、マイアミで16日まで続く「中米安全保障・繁栄会議」で、中米首脳や企業家を前に演説、ベネスエラ情勢に触れて、「自由こそが繁栄への真の道であることをベネスエラに示すべきだ」とラ米諸国に呼び掛けた。

 ペンスはまた、「ベネスエラでの<権力濫用>と暴力を早急に止めさせるべきだ。安保は繁栄の道だ」とも述べた。これは、ベネスエラへの軍事介入も選択肢に入れている米政府の苛立ちを表している。米州諸国機構(OEA)が、米国、カナダ、メヒコ、ペルーなど対VEN強硬派と、ニカラグア、ボリビア、カリブ諸国などベネスエラ擁護派に割れていて、米国の思い通りの決議ができないからだ。

 米南方軍は13~17日の日程で、ベネスエラの眼と鼻の先のトゥリニダード&トバゴ(TT)で合同軍事演習を実施中。この「砲艦外交」と副大統領発言で、軍事、政治両面からベネスエラに圧力をかけているわけだ。

 ペンスはさらに、8月13~18日、カルタヘーナ、ボゴタ、ブエノスアイレス、サンティアゴ・デ・チレ、パナマ市を訪問すると明らかにした。

 ペンス発言に対し、ボリビアのエボ・モラレス大統領はラパスで、「米副大統領よ、権力濫用とは、母なる大地の権利を保障する気候変動パリ合意をないがしろにすることを指す言葉だ」と厳しく批判した。また、「世界中に侵攻のための軍事基地を置いていることが権力濫用なのだ」と論駁した。

 一方、ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は15日、先に発表された12月10日実施予定の州知事・州会議員選挙について、有権者登録を7月15日開始、8月8~12日に立候補届けを受理すると明らかにした。9月4~8日に立候補者を発表、選挙戦は11月15日~12月7日に展開される。

 同議長はまた、7月30日投票予定の制憲議会(ANC)議員選挙の地方区に3200人、職能別区に2300人が立候補する、と発表した。

 首都カラカスでは15日、「私たちはベネスエラだ運動」(MSV)の710実働部隊の長が任命され、出陣式が催された。政府支持派の若者たちの部隊で、首都の家庭を訪問し、生活上の問題点や政府への要望を聴く。

▼ラ米短信   ◎クーバ外相が欧州歴訪

 クーバのブルーノ・ロドリゲス外相は6月15日、トルコ、オーストリア、スロヴァキア、イタリア、ヴァティカン歴訪を開始した。ローマ法王庁では、ベネスエラ問題の平和解決への協力を法王に求めると見られている。

 ベネスエラ原油への依存度の高いクーバは、米国や一部ラ米諸国の対ベネスエラ強硬論に危機感を抱いており、軍事侵攻の可能性を封じ込める外交を展開している。

2017年6月15日木曜日

 ベネズエラでジャーナリスト殺害さる。暗殺の可能性も。マドゥーロ大統領は暴動の黒幕を名指しして警告▼米州諸国機構(OEA)は19日カンクンでVEN問題話し合う外相会議開催へ▼米南方軍はベネズエラ沖で13日、合同軍事演習を開始

 ベネスエラ・スリア州マラカイボ湖畔のオヘーダ市で6月14日、ラジオジャーナリスト、ネルソン・バローソ(53)が他殺体で発見された。現場は自宅で、殴打された痕跡があった。バローソはFMアメリカ放送社主で、チャベス派国会議員レオニダス・ゴンサレスの広報官だった。当局は、反政府勢力による暗殺の可能性も含め捜査中。

 首都カラカスでは同日、反政府派暴徒がオートバイで暴走中、うち2台が激突、2人が死亡した。内務省は、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUD所属のフレディ・ゲバラ国会副議長が暴徒の背後にいると告発した。首都リベルタドール区では13日、反政府派の若者23人が破壊活動現行犯で逮捕されている。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は14日、暴動で若者が死んでいるが、金を払って若者を暴徒に仕立て暴動に駆りたてているのはミランダ州知事エンリケ・カプリーレスと、国会議員ミゲル・ピサーロであり、いずれ収監され代価を払うことになろう、と警告した。カプリーレスはMUD内の極右政党PJ(まず正義を)党首で、ピサーロは同党幹部党員。

 一方、グアテマラ外相カルロス・モラレスは14日、ベネスエラ問題を話し合う米州諸国機構(OEA)特別外相会議を19日、墨保養地カンクンで開催すると発表した。モラレスはOEA会合の輪番制議長。OEAは同地で20~21日、年次定例外相会議を開く。OEAは5月31日、ワシントンでベネスエラ問題を話し合う特別外相会議を開いたが、合意できず、19日に再度話し合うことになった。

 ペルー外務省は、PPクチンスキ大統領がデルシー・ロドリゲスVEN外相により前日、こっぴどく糾弾されたのに反駁、「ベネスエラでの民主復活を断固推進する」と表明、内政干渉政策続行を明らかにした。

 ローマ法王庁は14日、ラ米5カ国6人の保守・右翼系大統領経験者に書簡を送り、「ベネスエラ危機解決は、真剣な交渉と選挙によって可能」との立場を伝えた。

 米南方軍は13日、ベネスエラのすぐ沖にあるトゥリニダード&トバゴ(TT)海域で合同軍事演習「貿易風2017」を開始した。17日まで。18~20日は、南方軍司令部のあるマイアミで、演習参加諸国の指導者セミナーを開く。

 ベネスエラの眼と鼻の先のTT領海での演習は、明らかなベネスエラ牽制策であり、南方軍はその意図をあからさまにしている。米国務省は、ベネスエラ政府高官への新たな「制裁」を準備中と14日表明した。南方軍と歩調を合わせた明白な内政干渉だ。

 ベネスエラ最高裁は14日、政府と対立しているルイサ・オルテガ検事総長が異議を申し立てた最高裁判事33人の過去の任命に関し、異議を却下した。


 
  

2017年6月14日水曜日

 キューバ市会議員選挙は10月実施へ。州会と国会の選挙は未定▼トランプ米大統領が16日マイアミで対キューバ見直し政策発表か

 クーバ政府の最高意思決定機関である国家評議会は6月14日、市会に当たる人民権力ムニシピオ会議議員の選挙を10月22日実施すると発表した。決選は10月29日。任期は2年半。

 州会に該当する人民権力州会議議員および、国会に当たる人民権力全国会議(ANPP)議員(いずれも任期5年)の選挙日程は追って発表される。選挙を経て来年発足する新しいANPP(現在612議員)は国家評議会員(同36人)を選出。国家評議会が議長(国家元首、任期5年、一人2期まで)を選ぶ。

 今月3日86歳になったラウール・カストロ議長は来年2月24日、議長を退く、後任はミゲル・ディアスカネル現第1副議長と内定している。だがラウールには、共産党第1書記の任期が21年4月まで残っており、議長を辞めても第1書記に留まり、新議長の後見役を務めることが可能だ。

  別件だが、ハバナ市マレコン(海岸通り)の著名な民営レストラン(パラダール)「エル・リトラル」と、同「ルンゴ・マレ」の2軒が14日、「資金洗浄」容疑で家宅捜査され、閉店処分となった。店主の自宅も捜索を受けた。たとえば、レストランが不法漁獲した伊勢海老など魚介類を買い取れば「資金洗浄」と見なされることがある。

 一方、ドナルド・トランプ米大統領は「16日マイアミで対玖外交政策を発表する」、との観測がある。クーバ革命軍(FAR)と関係する玖企業・団体との商取引を禁止することなどが発表される、との情報も流れている。

 トランプには確固たるラ米政策も対玖政策もなく、主として米連邦議会のクーバ系反カストロ派極右・右翼議員に吹きこまれた政策を打ち出すことになる。

 
  

2017年6月13日火曜日

 パナマが台湾と断交、中国と国交樹立▼マルティネリ前パナマ大統領がマイアミで逮捕さる▼ベネズエラ最高裁が検事総長の訴えを却下▼デルシーVEN外相はペルー大統領提案を内政干渉と糾弾

 パナマのフアン・バレーラ大統領は6月13日、中国と国交を樹立した、と発表した。この日北京で、イサベル・サンマロ副大統領兼外相と王毅外相が国交樹立協定に調印した。パナマと台湾の外交関係は消滅した。

 バレーラ大統領は、世界最大の人口を持ち世界第2の経済大国である中国と国交がなかったのは虚構だったが、それを正した、と述べた。王毅外相は、パナマが「一帯一路」に参加するのを歓迎すうと述べた。

 これで台湾が外交関係を維持するのは20カ国になった。うち11カ国はLAC(ラ米・カリブ)地域にある。中国系企業はニカラグアで運河を建設中だが、パナマ運河を持つパナマと国交を樹立したことで、中国は存在感を一層増した。

 中国はパナマ運河利用国として米国に次いで世界2位。同運河カリブ海側のコロン自由貿易地域での物資供給国としては第1位だ。中米ではコスタ・リカが中国と国交を維持しており、次はニカラグアになる公算が少なからずあると見られている。

  一方、国際刑事警察機構(インターポール)は12日、パナマ前大統領リカルド・マルティネリをマイアミで逮捕し、身柄を収監した。マルティネリは13日出廷する。パナマ政府は身柄引渡しを要求している。マルティネリは法的追及を逃れ15年初めからマイアミに住んでいた。

 パナマ政府は、違法情報収集および公金横領で国際手配していた。マルティネリは2014年まで5年間政権にあった期間に、政敵ら約150人の電話や電郵(eメイル)を傍受していた。公金横領など腐敗容疑をかけられている。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ最高裁が「制憲議会無効」の訴えを却下。

 ベネスエラ最高裁選挙法廷は6月12日、ルイサ・オルテガ検事総長による制憲議会(ANC)開設決定の無効化を求める訴えを却下した。オルテガは3月末からニコラース・マドゥーロ大統領の法的措置にしばしば異議を唱えてきた。

 政府および政権党PSUVにはオルテガ更迭を求める声が高まっている。一方、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは、オルテガを支持している。

  デルシー・ロドリゲス外相は13日、PPクチンスキ秘大統領がマドリードでベネスエラへの6カ国による仲裁を提案したことについて、内政干渉として糾弾。同大統領に「ベネスエラに伸ばしたその忌まわしい手を引け」と、警告のメッセージを発した。

   
 

 チェ・ゲバラを50年前捕えたボリビア軍退役将軍が「ゲバラは殺されるため送りこまれた」と語る。近く著書で詳述▼プエルト・リコ住民投票は投票率23%と低調。「米国51番目の州」化が多数▼獄中のベネズエラ極右政治家が国軍に「反逆」を呼び掛け。国軍高官が制憲議会反対で辞任か

 50年前の1967年10月8日、ボリビアで革命家エルネスト・チェ・ゲバラを逮捕した人物として知られるボリビア陸軍退役将軍ガリー・プラード=サルモンは6月11日、「チェはクーバ共産党上層部からボリビアに殺されるために派遣された」と語った。

 プラードは『犠牲にされたゲリラ』の著者だが、エル・チェ歿後半世紀に際し、改訂版として近く『ニャンカウアスーからラ・イゲーラへ-50年後に』を出版する。そこに、故フィデル・カストロ首相(1967年当時)の「裏切り」などを証言と共に盛り込むという。

  ゲバラの遺体が埋められていたサンタクルース州バジェグランデ市と民間団体は10月のゲバラ没50周年行事開始の準備を進めている。

 革命戦争中、エル・チェ(チェ・ゲバラ)が重要な戦果を挙げたサンタクラーラ市入口には、「エルネスト・チェ・ゲバラ彫刻複合体」がある。ゲリラ姿のゲバラ像、博物館、霊廟などが並んでいるが、このほど修復作業が完了した。ドイツの協力で、技術者4人が5週間かけて修復した。

 一方、スペイン・バスコ州ビルバオの対玖連帯会合は11日、スペイン保守紙エル・パイースに「クーバをめぐる最悪虚偽報道賞」を授賞することを決め、閉会した。

▼ラ米短信   ◎プエルト・リコ住民投票は低調

 米植民地プエルト・リコで6月11日実施された住民投票は、投票率が23%で、極めて低調だった。投票者の97%は政権党PNP党員ないし支持者で、「米国の第51番目の州」になることを選択した。

 「完全独立」ないし「自由連合国」としての独立に投票したのは1・5%、現状維持(自由連合州)は1・32%だった。独立2党は投票をボイコット、このこともあって投票率は上がらなかった。

 米連邦議会が、この投票結果をどう判断するかに焦点が移る。共和党はプエルト・リコの正式州化に消極的だ。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ情勢

 スペイン訪問中のPPクチンスキ秘大統領は6月12日マドリーで、「ベネスエラの民主体制維持のため、内政干渉と見なされようと
も、ラ米諸国は関与する必要がある」と前置き。「ベネスエラの味方3国、反対派3国の計6カ国で仲裁委員会を作ってはどうか」と提案した。これは米政府の意向を受けた提案。

 一方、暴動教唆罪などで服役中のベネスエラ極右政党VP(人民意志)党首レオポルド・ロペスは11日、ビデオメッセージを流し、その中で国軍に対し、「あなた方は護憲などのために反逆する権利と義務がある」と訴えた。マドゥーロ・チャベス派政権に忠誠を誓っている国軍を離反させる戦術だ

 ジャーナリスト、ブラディーミル・ビジェーガスは12日、国防会議および国家評議会の書記アレクシス・ロペス少将が、マドゥーロ政権が推進している制憲議会(ANC)開設政策に反対して辞任した、と明らかにした。国防相は確認していない。同少将は、故ウーゴ・チャベス前大統領の政権で、大統領親衛隊長、陸軍司令官を務めた。

 ベネスエラ政府は北京で12日、オリノコ油田で原油を日量32万5000バリル増産する合弁事業計画に調印した。



2017年6月12日月曜日

 米植民地プエルト・リコで将来の在り方を選ぶ住民投票実施。選択肢は対米併合(第51州化)、自由連合国含む独立、現状維持(自由連合州)。法的拘束力はない▼ラウール・キューバ議長は来年辞めると、娘マリエーラが語る

 カリブ海にある米国の植民地(自由連合州)プエルト・リコ(PR)島で6月11日、島の将来の在り方を決める住民投票が実施された。選択は①完全独立もしくは自由連合国としての独立②自由連合州としての現状維持③米国の51番目の州になる併合-。

 昨年11月の知事選挙で当選したリカルド・ロセジョー知事と政権党PNP(新進歩主義党)は併合主義。これに対し、PIP(PR独立党)は完全独立、PPD(民主人民党)は自由連合国を目指している。

 最近の世論調査では、52%が併合派、17%が現状維持、15%が両独立派だった。PIPとPPDは、投票ボイコットを呼びかけている。PR財政は、公共債務730億ドルを抱え、破綻している。そのような状況で島の将来を決めるのは無謀との批判がある。

 PRでは1967、93、98、2012年の4回住民投票が実施され、今回は5回目。最初の投票から50年経っている。前回投票で初めて54%が「現状変更」に賛成した。ただし、住民投票には法的拘束力はない。決定権は米連邦議会にあるが、共和党はPRの第51州化に乗り気でないとされる。

 投票結果は日本時間12日昼前に判明する見込み。投票率(もしくは棄権率)の高さに関心が集まっている。

▼ラ米短信   ◎ラウール・カストロ玖国家評議会議長は来年退陣する

 ラウール議長の娘マリエーラ・カストロ(玖性教育センター=CENESEX=所長)は6月10日、スペイン・バスコ州で、地元放送に対し、「父が引退しないよう求める声があるが、高齢(86歳)の父は来年退陣する。ずいぶん前から準備してきたこと」と述べた。

 バスコ州中心都市の一つビルバオでは、第14回バスコ州・クーバ連帯会議が開かれており、マリエーラは招待出席している。革命家チェ・ゲバラの娘アレイダ・マルチ医師も出席しており、「フィデル・カストロとチェ・ゲバラを模範として生きることが、両人への最大のオメナヘ(オマージュ)となる」と強調した。

2017年6月10日土曜日

 ニカラグアのミゲル・デスコト元外相(84)が死去▼メルケル独首相の批判をベネズエラが糾弾。検事総長は「制憲議会(ANC)無効」化を最高裁に訴える

 ニカラグアのミゲル・デスコト元外相(84)が6月8日、首都マナグアの病院で死去した。ロサンジェルスに1933年生まれ、61年ニューヨークでカトリック司祭になり、「解放の神学」派に参加。75年、ソモサ独裁打倒のゲリラ戦を展開していたFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)の支援団体に参加。79年7月19日のサンディニスタ革命勝利で、革命政権執行部に参加した。

 英語力や在米経験を買われて外相に就任。81年に反革命非正規部隊(コントラ)を送りこんで軍事介入したレーガン米政権を相手に84~86年、国際司法裁判所で闘い、米側の侵略事実認定と賠償命令を勝ち取った。米政府は賠償していない。

 サンディニスタ政権に入ったことで、ヴァティカンから司祭資格停止処分に遭った。だが、「私は常に神と共にある」と言い、意に介さなかった。

 2007年、80年代にFSLN政権の大統領を務めたダニエル・オルテガが政権に返り咲くと、大統領の外交顧問に就任した。08~09年には、国連総会議長を務めた。

 現在、連続3期目にあるオルテガ大統領は「偉大な盟友の死」を嘆いた。ラウール・カストロ玖国家評議会議長ら縁のあったラ米諸国要人らから、弔電や花輪が届いている。

【私ブログ子は、デスコトに長いインタビューをしたことがある。私が「パーデレ(司祭)」と呼ぶと、「(資格停止中だが)構わないさ」と言って、にやりと笑ったのを記憶している。】

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は6月9日、反政府勢力による一連の暴動で破壊・略奪された民営商店舗442軒への補償金として計2985億bf(約1億5000万ドル)を被害者に渡す、と発表した。

 デルシー・ロドリゲス外相は9日、アンゲラ・メルケル独首相が8日、訪問先の亜国ブエノスアイレスで「ベネスエラ紛争の平和解決のため、連携して協力するようラ米諸国に呼び掛ける」と発言したことに対し、「内政干渉であり、反政府勢力の暴力を奨励するもの」と糾弾した。同首相は9日にはメヒコ市で、「ベネスエラのひどい状況を解決するのは容易でない」と発言している。

 亜国サンタフェ州ロサリオ市では9~10両日、ノーベル平和賞受賞者5人が出席して平和会合が開かれている。亜国の左翼アドルフォ・ペレス=エスキベル(APE)は9日、ベネスエラ情勢に触れて、「人民は、人民意志を代表しない為政者に替えて、参加型政権を樹立する権利がある」と述べた。

 さらに、「ベネスエラは、ラ米での覇権を失いたくない米国の策謀によるクーデターの危機に見舞われている」と指摘した。これに対し、保守のコスタ・リカ元大統領オスカル・アリアスは、「ベネスエラでは民主が失われて久しい」と言い、APEと対立した。グアテマラのリゴベルタ・メンチュー、ポーランドのレフ・ワレサ、イランのシリン・エバディも、それぞれ発言した。

 ベネスエラ反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは9日、カラカス22地区で「市民会議」を開催した。MUDによる暴動込みの街頭行動戦術は国際宣伝には効果を発揮したが、国内では批判にさらされている。このため、チャベス派に倣い、政策を直接伝えるため「人民集会戦術」を導入した。

 一方、政府と対立しているルイサ・オルテガ検事総長は8日、マドゥーロ政権が推進している制憲議会(ANC)開設とそのための選挙を「人権、民主、投票権を侵害する」として無効とするよう最高裁に提訴した。MUDは検事総長を支持している。

 カラカスでは、政府がクーデターの芽を摘むため国軍の「浄化作戦」を遂行中で、不満派の佐官・尉官ら現役士官14人が4月に逮捕され拘禁中、との情報が流れてる。
  



  

2017年6月8日木曜日

★★★米南方軍がベネズエラ近海バルバドス領海で19カ国海軍合同演習「貿易風2017」を開始。ラ米・カリブ15カ国と米加英仏が参加。13日からの第2段階はTT領海で実施へ。マドゥーロ政権に軍事圧力かけるのが狙い  

 米南方軍は6月6日、ベネスエラへの軍事的圧力をかけるための「貿易風2017」という多国間軍事演習を開始した。始まった「第1段階」は6~12日、ベネスエラ北東沖約600kmのバルバドス領海で実施。続いて13~17日、「第2段階」がベネスエラの眼と鼻の先のトリゥニダーダ&トバゴ(TT)で展開される。

 南方軍はフロリダ州マイアミに司令部があり、ラ米・カリブ諸国ににらみを利かせる米州南方探題の役割を担う。カート・ティッド司令官(海軍大将)は7日、演習の目的を「カリブ海域での安全保障と、自然災害および犯罪取引に対応するため」と説明した。

 だがティッド提督は4月、米上院軍事委員会で、「<ベネスエラ危機>は地域の不安定要因となり、地域による対応を余儀なくされる」と証言、軍事介入の可能性を示唆した。ニコラース・マドゥーロ大統領のベネスエラ政権は「ティッド証言」を直ちに糾弾した。

 演習に参加しているのは、カリブ英連邦加盟12カ国のうちセントルシーアを除く11カ国、スリナム、アイチ(ハイチ)、ドミニカ共和国(RD)、メヒコのLAC(ラ米・カリブ)15カ国および米加英仏の計19カ国。LAC諸国の中には、親ベネスエラ諸国も含まれている。

 ティッド司令官は、米国務省、CIA、USAIDなどとともに、マドゥーロ政権打倒工作の「行程」を、ベネスエラ反政府勢力に指南してきた。USAIDは、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDに活動資金も提供してきた。

 MUDは「行程表」に沿って、4月初めから70日近くベネスエラの都市部で街頭暴力戦術を展開してきた。だが「勝機」が見えないのと、マドゥーロ政権が7月30日の制憲議会(ANC)議員選挙に向けて邁進しているのに焦っている。これを観たトランプ政権と南方軍は、急遽、今演習に踏み切った。

 「第2段階」の実施現場は、ベネスエラ領海に隣接しており、ベネスエラ国軍(FANB)には緊張が走っている。南方軍には、軍事
圧力をかけて、マドゥーロ政権を支持している国軍を割り、軍事クーデターの可能性を高める狙いがある。

 だが、トランプ大統領が弾劾される可能性に直面しており、中東、北朝鮮、対中関係など難題を抱えている折から、米軍がベネスエラに直接軍事侵攻する可能性は現時点では乏しい、との見方は成り立つ。親ベネスエラ諸国を巻き込むのも得策ではない。

 しかし、だからこそ、内憂(弾劾可能性)を外患(ベネスエラ問題)排除によって打ち払いたいという危険な力学が働くこともありうるのだ。この誘惑が高じれば、極めて危険な事態となる。その場合、米軍は「有志国」を募るだろう。 

2017年6月6日火曜日

 ベネズエラ制憲議会(ANC)議員選挙は7月30日実施へ。政権党PSUVは選対本部設置。反政府野党連合MUDはボイコット

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は6月4日、制憲議会(ANC)議員選挙を7月30日実施する、と発表した。全国の都市を選挙区とする地域選挙区出馬登録希望者は約2万人で、今月6~10日に選挙区有権者の3%の署名を集めなければならない。

 職能別選挙区には3万5000人余が出馬を希望。11~14日に署名を集める。ANC議員は545人で、5万5000人強が出馬を登録しており、現時点では101倍の激戦。だが、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDはANC開設に反対しており、立候補していない。

 この選挙に備え、政権党PSUV(ペスーブ=ベネスエラ統一社会党)は、カラカス首都圏および全国各州で選挙対策本部「サモーラ200司令部」を設置している。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は日曜定例TV番組で、反政府勢力の別働隊および前衛となって暴動を演じている若者らについて、「カプタゴーン」を使用している、と指摘した。この興奮剤はシリアで多く生産され、ISが使用していると伝えられる。

 大統領はまた、政府と対立しているルイサ・オルテガ検事総長について、「市民としては政治思想を選ぶ自由があるが、職務上はイデオロギーや政治思想を超えて真実を見極め、正義を施さねばならない」と強調した。

 首都圏チャカオ区アルタミーラで5月20日、反政府勢力別働隊による私刑で殴打され刺されて焼かれた青年オルランド・フィゲロア(21)が3日死亡した。また5月31日、ネルソン・モンカーダ判事を殺害した犯人は5日、治安部隊に包囲され自殺した。

 スペインのJL・Rサパテーロ前首相は4日、軍のラモベルデ刑務所で服役中の極右政党VP(人民意志)党首レオポルド・ロペスと面会した。デルシー・ロドリゲス外相と、首都圏リベルタドール区長ホルヘ・ロドリゲス(外相の実兄)が同伴した。

 一方、米ユナイテッド航空は3日、ヒューストンーアルバ゙ーカラカス往復週5便の運航を7月1日に打ち切る、と発表した。採算が合わないためという。既にエアカナダ、アリタリア、ルフトハンザ、アエロメヒコなど7社がVEN便を止めている。

 VENと中国は3日、マカオで開かれた会合で、合弁によるベネスエラでの重機械組立工場建設、既存バス組立工場拡張で合意した。両国間には790の合弁事業があり、総投資は620億ドル。
 

2017年6月5日月曜日

 スペイン人作家フアン・ゴイティソロ(86)がモロッコ・マラケシュで死去

 スペイン人作家フアン・ゴイティソロ(86)が6月4日、モロッコのマラケシュで死去した。小説、論集、随筆、紀行文、ジャーナリズム記事を書き、多作だった。1931年1月6日、バルセローナに生まれた。バスコとクーバの血を引く。兄ホセ=アグスティンは詩人、弟ルイスは学者である。

 フランコ独裁期の1956~69年、パリで亡命生活を送り、出版社ガリマールで文学所顧問を務めた。その職場で知り合ったモニク・ランジと78年結婚した。だが妻に死なれ、マラケシュに96年定住した。

 論集『小説の問題』(1962)、最後の小説『自国でも他国でも亡命者』(2008)などがある。オクタビオ・パス文学賞(2002)、フアン・ルルフォ・ラ米文学賞(04)、スペイン文学賞(08)、セルバンテス文学賞(14)などを受章した。

 ペリオディズモ(ジャーナリズム)に近い紀行文には、西国アルメリア市の地区を描いた『ラ・チャンカ』(1962)、『クーバ訪問記』(62)、『オスマントルコのイスタンブール』(89)、『サライェヴォ・ノート』(93)などがある。「社会派リアリズモ」路線と呼ばれた。

 1969~75年には、米国のカリフォリニア、ボストン、ニューヨークの3大学で文学を教えた。スペインのエル・パイース紙の寄稿者でもあり、露チチェン紛争、ボスニア戦争などを、同紙特派員として取材し、紀行を物にした。イスラム史・文化に造詣が深く、ジャーナリズムからの執筆依頼が多かった。

 私は、通信社時代の1998年、20世紀末企画の一環として「スペイン内戦」(1936~39)について記事を書くに際し、ゴイティソロに会うことにした。当時既に60年前の出来事だったスペイン内戦は、体験者が依然少なからず生存してはいたが、戦場は遺跡化していた。

 そこで終戦後間もなかった、ボスニア戦争を含むユーゴスラヴィア戦争の内戦的戦場を観ることにした。そこで読んだのが『サラェヴォ・ノート』(クアデルノ・デ・サラヘボ)だった。読んでから、マラケシュの自宅にいたゴイティソロにインタビュしたいと電話で伝えると、×月×日×時ごろ、サライェヴォのアテネフランスに来てほしいと言われた。

 私は、この約束を頼りに東京を出発、ウィーン経由でサライェヴォに入り、翌日、約束の日に無事インタビューをすることができた。ボスニアとクロアティアを取材してから、ウィーン経由でバルセローナに行き、スペイン内戦の傷跡を取材した。

 拙著『ボスニアからスペインへ-戦の傷跡をたどる』(2004年、論創社)は、この取材旅行をまとめたもので、ゴイティソロへのインタビューのほぼ全文を載せてある。世話になったこともあって、このオメナヘ(オマージュ)文を書いた。

 私は2011年3月、マラケシュに滞在したが、ゴイティソロと連絡をとらなかった。とれなかったのだ。日本で、東電原発大事故を伴う「東日本大震災」が発生した日だったからだ。

2017年6月4日日曜日

 今福龍太著『クレオール主義』を読む。「週刊読書人」が今福らの鼎談を特集。「週刊金曜日」は書評を掲載

 文化人類学者・今福龍太(東京外語大学教授)が『クレオール主義』を水声社から3月新装出版した。私は、「週刊金曜日」6月2日号に、「<島国全体主義>からの解放の鍵は多文化・多民族主義」と題して、書評を書いた。「島国全体主義」は私の造語である。

 限られた文字数で内容を紹介するため、私はラ米関係に的を絞った。クリオージョ、先住民族カリーベ人、ニカラグアの詩人ルベーン・ダリーオ(1867~1916)、モデルニズモ、ホセ・マルティ(1853~95)、「我らのアメリカ」、ネグリチュード運動などを本文から引っこ抜いて並べ、まとめた。全体主義の闇が狭い列島を覆おうとしている今、この本は市民に活路を与えるはずだ。そのことを書いた。金曜日誌を読んでほしい。

 「週刊読書人」5月5日号は『クレオール主義』再・新刊に際し、「ポスト・トゥルース(真実)に抗って」という鼎談を特集した。この専門紙は、新刊書の紹介はもちろんのこと、第1面から2~3ページに及ぶ対談などの特集記事が素晴らしい。明石健五編集長は特に企画熱心で、毎号のように面白い企画を読ませてくれる。

 鼎談には、今福龍太、中村隆之(大東文化大学講師)、松田法子(京都府立大学講師)が登場する。これは内容厖大で、さまざまな議論が展開されるため、全文を読まないと、鼎談の全体像は把握できない。読むのをお勧めしたい。
    

2017年6月3日土曜日

 チリ・ピノチェー軍政期の左翼大量殺害事件関与の元DINA要員106人に実刑判決▼パブロ・ネルーダ「毒殺」の真相が10月にも判明か▼ベネズエラ政府と検事総長の対立深まる。米GM社が完全撤退を発表

 チレ第1審法廷のエルナン・クリソスト判事は6月2日、ピノチェー軍政下の1975年に、当時の秘密警察、国家情報局(DINA)にチレ国内で殺された左翼119人「拉致・強制失踪」事件の被害者16人の事件に関与したとして、元DINA軍人106人(うち女性1人)に禁錮20年~541日の実刑判決を下した。刑は控訴審の判断を受けて決まる。

 殺害された119人は、共産党(PCCH)系武闘組織「革命的左翼運動」(MIR)と社会党(PSCH)の要員。軍政は、「仲間割れによる暴力と、亜国軍政当局との戦闘により亜国内で死亡した」と虚偽情報を流した。これを虚偽情報宣伝用メディアとして設立されたブラジルと亜国の週刊誌などが報じていた。同判事は2015年にも同119人事件の容疑者79人に実刑判決を下している。

 119人殺害事件は「コロンボ作戦」と呼ばれた。南米南部のブラジル、亜国、ウルグアイ、パラグアイ、チレ、ボリビアの軍政6国が米政府の後押しで結成した「コンドル作戦」の一部だった。ニクソン米政権のヘンリー・キッシンジャー国務長官は、コンドル作戦の黒幕だった。

★1973年9月のクーデターで発足したばかりのピノチェー軍政に「毒殺」された可能性が濃いノーベル文学賞詩人パブロ・ネルーダ(1904~73)の死因が10月にも公表される見通しとなった。

 ネルーダの甥ロドルフォ・レイエス=ムニョス弁護士が5月末に明らかにした。ネルーダは軍政によって首都サンティゴのサンタマリーア診療所に強制入院させられ、軍政が送り込んだ人物によって葡萄状菌を接種され死亡した可能性が浮上している。

 同弁護士は、「私は伯父が殺害された可能性を微塵も疑わない」と明言している。

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラのルイサ・オルテガ検事総長は6月2日ラジオ放送で、「ニコラース・マドゥーロ大統領は制憲議会開設を思い止まるべきだ」と述べた。また、12月10日実施予定の州知事・州会議員選挙を「繰り上げて早期実施すべきだ」と、国家選挙理事会(CNE)に提言した。さらに、「(政府は)検察から刑事事件捜査権を奪うつもりのようだ」と語った。

 これに対し、政権党PSUV(ベネスエラ統一社会党)の動員担当副党首ダリーオ・ビバスは、「(オルテガは)テロリズムとファシズムを支援しつつ暴力犯罪に密接に関わっている」と、「反政府勢力との関係」を指摘、「辞任すべきだ」と述べた。検察庁前には政府支持派が押し掛け、オルテガを「裏切り者」と呼び、辞任を求めた。

 反政府派大学生組織は2日、国営テレビ放送VTV本社にデモをかけた。VTV社長を兼ねるエルネスト・ビジェーガス情報相は学生代表を迎え入れ、対話。検察情報を基に街頭暴動最中の死者たちの死因を「正しく報道せよ」と迫る学生代表らに情報相は、「検察は捜査権を独占しているが、真実までは独占していない」と交わし、政府側には異なる死因判断があることを説明した。

 検察発表では、4月初めから暴力事件3390件を捜査、63人死亡、1189人負傷。「死者のうち19人は治安部隊要員が責任者」と見なしている。オンブズマン事務所は死者65人としている。またNGO「ベネスエラ社会紛争監視」(OVCS)によれば、4月1日~5月31日に全国で政治的な街頭暴力事件が計1791件あった。

 別件だが、米GM社は2日、カラボボ州バレンシア市から完全に撤退すると発表した。同市の工場で69年間、自動車を組み立ててきた。カラボボ州当局は「約束不履行」などを理由に4月18日同工場を接収、GMは提訴したが、最高裁が5月25日却下した。

 マドゥーロ大統領は、南アフリカとの鉱業開発技術協力、合弁会社設立で協定を結んだ2日、「我々にとって故ネルソン・マンデーラ(南ア大統領)は遺訓である。平等と平和を求め抵抗し闘争したアフリカ民族会議(ANC)の教訓は我々にも伝わっている」と述べた。

 
 
 

 
 
 

2017年6月2日金曜日

 ベネズエラが有志5カ国の対話醸成会合を招集。デルシー外相はメキシコでの次回外相会議で「アヨツィナパ問題」取上げると表明▼カラカスで極右が高裁判事暗殺した可能性浮上▼キューバ国会が「ベネズエラ連帯宣言」を採択▼バチェレー・チリ大統領が最後の施政報告演説 

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は6月1日カラカスで記者会見し、国内対話醸成のためエル・サルバドール、ニカラグア、ドミニカ共和国、セントヴィンセント&グラナディーン、ウルグイアの有志5カ国の会合を招集する、と明らかにした。

 また、カリブ共同体(カリコム)が、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)の枠組内で対話すべきだと提案したことについて、「国際法の原則に則った提案だ」と評価した。

 だが、「ベネスエラは、米州諸国機構(OEA)のいかなる決定をも認めない。したがって(反ベネスエラ決議採択工作をしている)アルマグロ(OEA事務総長)はOEAを破壊していることになる」と指摘した。ベネスエラの政情については、「反政府勢力が民主と憲法に反して暴力状況をつくってしまった、というのが真実だ」と強調した。

 外相は、今月21日、メヒコの保養地カンクンで開かれるOEA外相会議には出席すると31日発表したが、その会議でアヨツィナパ問題を提起する、と述べた。2014年9月26~27日、メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で起きた農村教員養成学校生43人の強制失踪事件のことで、発生後32カ月経ったが、未解決ののまま放置されている。

 「ベネスエラの人権問題」をOEAで再三批判してきたメヒコに、その痛いところを蹴り込んで逆襲する戦略だ。

 制憲議会(ANC)議員の出馬登録は1日終了したが、政府中枢部と対立するルイサ・オルテガ検事総長は同日、最高裁が大統領にANC開設を発議する権限を認めたことについて、憲法が定める国民投票権という人民の権利をないがしろにする決定、と批判した。

 これに対し、ニコラース・マドゥーロ大統領は同日、「新憲法(大幅改定憲法)の最終草案ができたら、それを国民投票にかける」と約束した。

 一方、ネストル・レベロール内相は、カラカス市内で31日殺された首都圏高裁のネルソン・モンカーダ判事(37)は「反政府右翼の殺し屋に殺害された可能性がある」と指摘した。同判事は、14年に街頭暴動事件を教唆した罪などで服役中の極右政治家レオポルド・ロペスの無罪要求を昨年却下、ロペスの有罪はこれで確定した。このため逆恨みの犯罪と見られている。

 エルネスト・ビジェーガス情報相は、社長を兼任する国営テレビVTVに出演、反政府勢力はデモの目的地をVTV本社にしており、放送局を乗っ取る戦術のようだと非難。「だが、何があろうと放送が中断されることはない」と述べた。

 タレク・エルアイサミ執権副大統領は、反政府勢力の中核MUD(保守・右翼野党連合)の代表フリオ・ロドリゲス国会議長が、米投資会社ゴールドマンサックスがベネスエラ国営石油PDVSAの債券28億ドル分の購入を決めたことを誹謗中傷したとして、「反国家的言動」として提訴する考えを示した。

 ロシアのウラディーミル・プーチン大統領はモスクワで1日、通信社10社との会見で、ベネスエラ情勢に触れ、「ベネスエラは激しい政治闘争のさなかにある。反政府勢力も政府も憲法を守り、過激主義を許してはならない」と強調した。

◎クーバ国会が「ベネスエラ連帯宣言」を採択

 社会主義クーバの人民権力全国会議(ANPP、国会に相当)は6月1日、ベネスエラ連帯宣言を採択した。ラウール・カストロ国家評議会議長(共産党第1書記)は閉会演説で「ベネスエラの合憲政権の打倒を狙う攻撃、政策、内政干渉を糾弾せねばならない。経済権益を持つ彼らは、故ウーゴ・チャベス大統領が始めたボリバリアーナ革命の継続を阻もうとしている」と、ベスエラ内外の敵対勢力を非難した。

 議長はまた、「反政府勢力の多くは、2002年のチャベス大統領打倒クーデター未遂事件及び、03年の<石油クーデター>の首謀者と同一人物だ」と指摘した。

 さらに、「ベネスエラを支援する唯一の方法は、主権を全面的に尊重しつつ、立場の相違を和らげるため積極的対話を奨励することだ」と強調。続けて、「もしベネスエラでの人権や安全を懸念するのなら、多くの死傷者を出してきクーデター促進者(反政府勢力)の暴力行為を糾弾せねばならない。人を生きたまま焼くなどの彼らの行為は、最悪のファシズムを想起させる」と厳しく批判した。

 今回のANPPは、去年4月の第7回共産党大会で採択され、党中央委員会も承認した経済改革関連文書類を審議し採択するため開かれた。ラウール議長は採択された文書との関連で、「変わらねばならないものは全て変えよう。変える速度は、人民合意に基づいて」と述べた。

 議長は来年2月に退陣するが、任期が9カ月弱となったこと、石油供給源ベネスエラの政経危機、トランプ政権下で玖米関係が停滞する可能性などを踏まえ、「改革」について極めて慎重な展望ぶりだった。

▼ラ米短信   ◎バチェレー智大統領が最後の施政報告

 チレのミチェル・バチェレー大統領は6月1日、国会で最後の施政報告演説をした。来年3月11日任期を終える。バチェレーは2006~10年、14~18年の2期務めたきた。計8年間を振り返って、「貧富格差是正に努めたが容易ではなく、政策結果は完全ではなかった」と述べた。

 重点政策として、民主憲法起草過程前進、税制改革、選挙法改正、腐敗防止法制定、堕胎合法化、教育改革などで成果を挙げたと自賛した。

 また先住民族マプーチェ人の「500年越しの土地闘争」に終始符を打つため、アラウカニーアの居住地域で統合的計画を促進してきたことを強調した。

 チレでは11月19日、大統領選挙第1回投票が実施される。保守・右翼勢力が優勢と見られている。

 

2017年6月1日木曜日

 米州諸国機構(OEA)外相会議は主権尊重派が動き、「ベネズエラ糾弾決議」に失敗。デルシー外相は21日のメキシコでの外相会議出席へ▼ベネズエラが国連・非植民地化委員会委員長国に選出さる▼制憲議会(ANC)議員選挙立候補登録始まる。

 ベネスエラへの介入を容易にする決議採択を目論んでいた米州諸国機構(OEA)の保守・右翼諸国は、5月31日ワシントンでの特別外相会議で、親ベネスエラ諸国の反逆により決議ができず、失敗した。デルシー・ロドリゲスVEN外相はカラカスで、「国際規範に則った倫理的なALBA(米州ボリバリアーナ同盟)とカリコム(カリブ共同体)の声が、ベネスエラ介入を目論む勢力を制した」と、会議結果を評価した。

 OEAには米州35カ国のうち社会主義クーバを除く34カ国が加盟。うちベネスエラは4月末、脱退を表明、今会議に欠席したが、脱退手続きには2年かかり、加盟資格は19年4月ごろまで続く。

 今回出席国が33カ国で、重要決議には3分の2の23カ国の賛成が必要。米加墨のTLCAN(NAFTA)3国、亜伯秘コロンビアなど計14カ国の「G14」(反ベネスエラ14カ国グループ)は、今会議前に23カ国の賛成を固める多数派工作に失敗。その結果、「唯一の合意は<合意がなかったこと>」(デルシー外相)という惨敗に終わった。

 会議を主導したのは、カリコム諸国を代表するバハマのダレン・ヘイフィールド外相だった。「カリコムは、ベネスエラの問題はベネスエラが解決すべきだ、という立場だ。OEAは介入すべきではない」と「G14」との立場の違いを強調。「全加盟国が基本的にベネスエラでの対話と和解を求めているのは確かなので、同国内の緊張緩和を促しつつ合意を形成すればいい」と主張。

 これにG14が賛成。会議は4時間余り討議した後、決議なしの流会となった。OEAは6月19~21日、墨カンクンで第47回外相会議を開くが、その前にOEA大使会議で引き続きベネスエラ問題を話し合うことになった。

 デルシー外相は、「ニコラース・マドゥーロ大統領の指示により、カンクン外相会議にはベネスエラ防衛のため出席する」と明らかにした。カンクン会議の前哨戦は既に始まっている。

 今会議でルイス・ビデガライ墨外相は、マドゥーロ政権が進めている制憲議会(ANC)開設過程に反対し、街頭暴動教唆罪などで服役している刑事犯の政治家を「政治囚」と呼び釈放を求めた。これに対しデルシーは、「ビデガライは、失敗国家メヒコを覇権主義国家(米国)の庇護の下に置くべく発言した。墨政府はラ米人民を攻撃し、自国人民をも蹂躙している」と糾弾。

 さらに、「メヒコは麻薬組織の犯罪、相次ぐジャーナリスト殺害、その他の社会的暴力で、世界一危険な国の一つだ。またラ米域内で不平等が最も激しい国の一つであり、民主が危うくなっている」と指摘した。

 外相会議には外相18人が出席、他は代理だった。米国は国務省の大物でラ米通のトーマス・シャノン政治問題担当次官補が出席。ベネスエラ問題解決のため、OEA加盟諸国などによる「連絡グループ」結成が必要との立場を表明した。

 ドミニカ共和国(RD)は1965年に米海兵隊に侵略され、流血の第三次に陥り、改革政権復活を阻まれた。それだけに米軍介入の口実になりやすいOEA決議には厳しく対応する。今会議でも、「ベネスエラの問題はベネスエラが解決すればよい。他の国々は解決努力に連帯すればいい」と、介入したいG14を突き放した。

 5月24日にモレーノ新政権が発足したエクアドール(赤道国)は、「ベネスエラの反政府勢力が対話を拒否しているのは遺憾だ。南米諸国連合(ウナス-ル)の仲介路線に沿ってベネスエラを支援すべきだ」と強調した。ウナスール本部は、キト郊外にある。

 ベネスエラのALBA同盟国ニカラグアは、「内政不干渉原則に反する今会議開催そのものに反対する」と前置きし、「ベネスエラだけが解決の当事者だ」と、G14に釘を刺した。

 ボリビアは「OEAは、加盟国の主権を弱めたい事務職員(ルイス・アルマグロ事務総長を指す)の個人的・政治的利益から、ベネスエラに暴力を焚きつけてきた」と糾弾。「今会議に反対だ。自由な人民は保護者を必要としない」と続けた。さらに、「アルマグロは政治俳優と化し、ベネスエラ紛争を醸し、加盟国ではなく、覇権主義国(米国)の利益を代弁している」と扱き下ろした。

 アルマグロは外相会議正面の議長関の隣に座していたが、攻撃されて苦々しい顔を見せるだけだった。事務総長は大使会議の決定を受けて、もしくは大使会議から委託されて重要発言をするが、重要問題であるベネスエラ問題に関し勝手に発言し続けてきた。この点にも加盟国の批判が高まっている。

 一方、ベネスエラは31日、国連総会で第1委員会(軍縮)の副委員長と、非植民地化委員会の委員長に選ばれた。マドゥーロ大統領は非同盟諸国運動の議長を務めており、それも評価された。

 ラファエル・ラミーレスVEN国連大使は、「米国の圧力にも拘わらずベネスエラは得票率95・6%で非植民地化委員長に選ばれ、米国に<尊厳>という教訓を与えた。ベネスエラは国際社会で敬意を払われているのだ」と強調。「ラ米も国連も<米国の裏庭>ではないのだ」と指摘した。

 ベネスエラ最高裁・憲法法廷は31日、制憲議会(ANC) 開設の発議は大統領の権限であり、必ずしも国民投票実施を必要としない、との判断を下した。これを受けて同日、ANC議員選挙の立候補届けが始まった。6月1日までの2日間で登録する。

 反政府勢力を率いる保守・右翼野党連合MUDは、ANC議員選挙ボイコットをあらためて表明した。MUD内の極右で、4月以来の暴力を含む街頭抗議行動を指揮しているエンリケ・カプリーレス(ミランダ州知事)は31日、伯紙バロール・ド・ブラジルから、「2012年の大統領選挙の際、オデブレヒト社(伯建設最大手)から選挙資金をもらった」と書かれた。300万ドルをもらったとされる。

 この選挙で故ウーゴ・チャベス前大統領に敗れ、13年4月の大統領選挙ではマドゥーロ現大統領に敗れた。このため「失うものがない」カプリーレスは反政府動員行動の先頭に立っているが、18年末の大統領選挙でのMUD候補としての出馬への道は険しい。
 
 ベネスエラ中央銀行は31日、通貨ボリーバル・フエルテ(bf)を64・13%切り下げ、1米ドル=2010bfとした。闇市場では、1d=6000bfにもなっている。
 
 
 
 

2017年5月31日水曜日

 ロシア政府が「ベネズエラ情勢は積極的対話で打開を」と表明、米州諸国機構(OEA)外相会議を牽制。マドゥーロ政権は制憲議会(ANC)開設過程を推進。欧州知識人は「奴らを通すな」と、ファシズムを糾弾。反政府側は欧州議会に支援要請 

 米州諸国機構(OEA)は5月31日ワシントンの本部で特別外相会議を開き、ベネスエラ情勢の打開策を討議する。この日、ロシア外務省は、「ベネスエラが内戦を回避するための唯一の方策は積極的対話だ」と表明、OEAを牽制した。

 反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDを代表するフリオ・ボルヘス国会議長(右翼政党PJ所属)は31日、欧州議会を訪れ、ニコラース・マドゥーロ大統領のベネスエラ政権に制裁を科すよう要請した。MUDはOEA外相会議に合わせて31日、カラカスのベネスエラ外務省に大規模なデモを仕掛けることにしている。

 これに対しマドゥーロ大統領は31日、制憲議会(ANC)議員選挙に向けて動き出す。大統領は30日、「ANC開設は、一大国民対話促進と、ボリバリアーナ革命の成果維持強化のためだ。帝国主義枢軸諸国に反革命攻撃を受けているベネスエラに、新しい連帯のうねりが国際社会で起きている」と強調した。

 ANC開設のための戦略・宣伝を担当するホルヘ・ロドリゲス首都リベルタドール区長(デルシー外相の実兄)は、「ANCへの提言が既に1万5000件受理されている。さらに提言を集めるため、電話や電脳機器(社会メディア)を使おう」と呼び掛けた。

 スペインとラ米の保守・右翼系の元政府首班25人が参加するクラブ「エスパーニャ・アメリカス民主提言」(IDEA)は30日、OEA外相会議に向けて、反ベネスエラの旗頭ルイス・アルマグロOEA事務総長(前ウルグアイ外相)を支援するよう訴えた。

 これに対し、欧州の左翼知識人たちはハンブルクで26日、「ノ・パサラーン宣言」を発表している。1936~39年のスペイン内戦中、フランコ・ファシスト叛乱軍を阻止するという意味で「奴らを通すな」と人民戦線側が合言葉のように叫んでいたのに因む。

 ベネスエラ内務省は29日、首都圏、スリア州など全国43カ所で監視カメラが破壊された、と明らかにした。ロドリゲス・リベルタドール区長は同日、「反政府勢力過激派は資金を与えて犯罪集団を組織し、国内要所を狙って武力行動をさせている」と非難した。

 一方、米ゴールドマンサックス社は29日、ベネスエラ国営石油PDVSAの債券28億ドルを購入した。ベネスエラ政府はまた、南アフリカと、ベネスエラ国内でのダイアモンド採掘協力で合意した。

 

2017年5月30日火曜日

 知り過ぎた男:パナマの元最高実力者マヌエル・ノリエガ将軍(83)が死去。依然解明されていない米軍侵攻の犠牲者数▼メキシコ先住民族が大統領候補を擁立▼韓国輸出入銀行がニカラグアに支店開設へ▼FARCがハバナを引き揚げる

 パナマ軍政最後の実力者だったマヌエル・ノリエガ退役将軍(83)が5月29日、首都パナマ市のサントトマース病院で死去した。将軍は今年3月8日、同病院で脳腫瘍の除去手術を受けたが、その後、脳内出血となり、入院を続け、数日来、危篤となっていた。

 娘サンドラは、「痛ましい時を迎えた」と一言述べた。フアン=カルロス・バレーラ大統領は談話を発表、「パナマ史の一章が閉じられた」と語った。

 ノリエガは1983年、パナマ軍を率いて最高指導者になり、政敵を排除、権勢を謳歌したが、米国のブッシュ父親政権に挑発され敵対。89年12月20日、ブッシュはパナマに大規模な軍事侵攻作戦を仕掛け、3000~8000人のパナマ人を殺したとされる。

 ノリエガはパナマ市の法王庁大使館に保護を求めたが、90年1月初め、法王庁はノリエガの身柄を米軍に引き渡した。そ日のうちにノリエガはマイアミに護送され、やがて裁判で麻薬犯罪関与により20年の禁錮刑に処せられた。

 出所と同時に身柄をフランスに送られ、資金洗浄罪で1年余り服役した。2011年12月、ほぼ22年ぶりにパナマに送還されて帰国。政敵暗殺や叛乱兵士虐殺などで禁錮60年を言い渡され、パナマ運河沿いのエル・レナセール刑務所で服役していた。

 今年1月27日、法廷で無罪を主張。翌28日、娘サンドラ宅で自宅軟禁処分になった。持病の糖尿病などで、健康が衰弱していたためだ。そして3月、脳腫瘍で入院、帰らぬ人となった。

 ノリエガは東西冷戦さなか、有力将校として米諜報機関CIAの有給協力者となり、CIA長官だったブッシュとも知り合っていた。1968年から80年代初めまでの最高指導者は、運河返還条約を勝ち取ったオマール・トリホス将軍だった。ノリエガは、CIAと組んでトリホス暗殺に関与したとの見方が有力だ。

 ブッシュが、弱いパナマを赤子の手をひねるように侵略し殺戮し破壊した一つの理由は、1999年12月31日の返還後も非常時には運河を米軍支配下に置くため、ノリエガ後の文民政権に、それを特権として呑ませるためだった。またパナマを従順にするため、国軍を潰し、国家警察隊に縮小させた。

 だがCIA筋は、息子ブッシュ(後の米大統領)に極めて都合の悪い証拠をノリエガが握っていたことも侵略理由と指摘する。ブッシュ父子にとってノリエガは「知り過ぎた男」だった。

 米軍侵攻による死者数や、多くの遺体の在り処は依然わかっていない。バレーラ大統領は、米軍侵攻後、四半世紀も経ってから大統領として初めて、死者数の確認をはじめ真実究明に努めると公約した。

 ノリエガは死んだが、多くのパナマ人の悼み、苦しみ、痛みは癒えていない。

▼ラ米短信   ◎メヒコ先住民族が始めて大統領候補を擁立

 メヒコの全国先住民理事会(CNI)とサパティスタ民族解放軍(EZLN)は5月28日、全国から先住民らの代議員848人が出席して会合、ナウア民族の女性マリーアデヘスース・パトゥリシオ=マルティネス(57)を、来年7月の大統領選挙の候補に選んだ。

 2014年の選挙法改正で、無所属・諸派候補も出馬できるようになった。EZLNは早くから「我々の大統領候補は女性」と公言していた。

▼ラ米短信   ◎韓国輸出入銀行が中米支店開設へ

 ニカラグア財務省は5月29日、韓国輸出入銀行が首都マナグアを中米支店開設地に選んだ、と発表した。開店時期は明らかにされていない。ニカラグアは、パナマからグアテマラまでの中米7か国の中央部に位置する。

▼ラ米短信   ◎FARCがハバナを去る

 コロンビア革命軍(FARC)の和平交渉首席代表を務めたイバン・マルケス司令は5月28日、ラウール・カストロ玖国家評議会議長に別れを告げ、コロンビアに引き揚げた。

 マルケスらFARC交渉団は2012年11月からハバナを拠点とし、サントス・コロンビア政権と和平交渉を続けた。交渉は昨年11月の和平最終合意調印で決着。現在、FARCの武装解除が続けられている。 

 名画「ローマ法王になる日まで」が6月3日東京で公開。3万2000人が殺されたアルゼンチン軍政期の凄惨な人道犯罪と、ホルヘ・ベルゴリオ司教(後の法王フランシスコ)の人間的素晴らしさが描かれている。ラ米学徒には見逃せない作品

 イタリア映画「ローマ法王になる日まで」(2015年ダニエーレ・ルケッティ監督作品、ロドリーゴ・デラセルナ主演、113分)を観た。6月3日から、ヒューマントラストシネマ有楽町と新宿シネマカリテで公開される。

 現代アルゼンチン(亜国、アルヘンティーナ)最悪の時代だった軍政期(1976~1983)の人道犯罪の実態を、この映画で垣間見、想像することができる。また、現在の法王フランシスコがなぜ法王にふさわしい人物だったかが、この映画で明確に示される。

 亜国、南米、ラ米、米州、カトリック教会、ヴァティカンに関心を持つ人にとり、また映画を愛する人々にとって必見の名画だ。壮年期のホルヘ・ベルゴリオ(後の法王)役のロドリーゴ・デラセルナは、革命家エルネスト・チェ・ゲバラが学生時代に第1回南米旅行に出た折、行動を共にした6歳年上の親友アルベルト・グラナードを演じている。この点からも興味深い。

 この映画は、書籍『教皇フランシスコ キリストとともに燃えて』(オースティン・アイヴァリー著、宮崎修二訳、2016年、明石書店)の内容に沿っているように見受けられる。この本を読んでおけば、理解ははるかに深くなるだろう。

 1492年10月12日、クリストーバル・コロン(コロンブス)は西大西洋中央部のバハマ諸島サンサルバドール島に漂着した。これがスペインによる新世界到達なのだが、その日はローマカトリックが新世界(ラス・アメリカス)に強引に植え付けられた最初の日でもある。先住民族は改宗を拒否すれば、その場で殺されかねなかった。
 
 以来5世紀余り、法王庁(教皇庁=ヴァティカン)の2013年の統計では、全世界のカトリック教徒は12億5400万人(世界人口の17・7%)。その49%は、米州(南北両米大陸およびカリブ海)が占める。そして米州ではラ米(ラテンアメリカ)が圧倒的に多い。

 欧州は米州に次ぐ22・9%だが、ごくわずかな例外を除き、欧州人の法王が十数世紀も君臨していた。だが法王を選び、かつ法王に選ばれる資格を持つ枢機卿たちの中には、米州、特にラ米から法王を選ぶのが民主的と考える者がいて、その声は年々高まっていた。

 司祭による未成年者への性的虐待事件が世界各地で続発、カトリック教会全体が猛省を促されて久しいが、そうした信仰の危機や、米国生まれの新教系宗派の台頭・浸透で、カトリック教会は危機感を抱いてきた。

 そのような状況の下、<救世主>として2013年3月抜擢された亜国人イエズス会士J・ベルゴリオ枢機卿が法王フランシスコである。現在80歳だ。もちろんアメリカ人=米州人として初の法王である。

 アイヴァリーの本を読めば、あるいは、この映画を観れば、なぜベルゴリオがカトリック世界の最高指導者に選ばれたかが理解できる。言わば<最後の切り札>だったのだ。だがベルゴリオは、カトリック教会の頂点に立つまでに、さまざまな試練を乗り越えなければならなかった。その最大の難関は、1976年3月に始まり、血塗られた軍政期だった。

 ベルゴリオは司祭の立場を生かし、放置すれば殺されかねない人々を匿い、国外に逃がした。悲観も楽観もせず、前方にひたすら向かうベルゴリオは、「神の深遠な理想」を抱きながら、極めて現実的、実践的に自身の人生を操っていた。

 軍政最高幹部に通じる人脈を持つかと思えば、文豪ホルヘ=ルイス・ボルヘス(1899~1986)とも知己だった。法王になるや、ギリシャ正教、ロシア正教、英国教会、イスラム教、ユダヤ教など異なる宗派・宗教の最高指導者に歩み寄り、相互理解と友好の橋を架けた。偏見を持たずに相手を理解しようと努める法王の真摯な姿勢が、相手の心を開くのだ。

 地中海で難渋する難民の救済活動にも見られるように、法王は生の国際情勢にも積極的に関与している。資本主義の総本山・米国と、社会主義クーバとの間で半世紀余り展開されていた米州の頑迷な冷戦に終止符を打つべく関係正常化のための秘密交渉を側面援助した。その甲斐あって、米玖両国は2014年12月17日、国交正常化合意に至り、15年7月国交は再開した。

 また、南米に残る最後の冷戦構造であるコロンビア内戦を終わらせるため、同国政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)がハバナで続けていた和平交渉を支援した。双方は16年11月和平過程に入り、17年5月現在、FARCゲリラは武装解除に応じている。7月末には全員の武装解除が終わる見通しだ。

 世界最大のカトリック教国ブラジルでは16年8月末、労働者党の合憲政権が腐敗した保守・右翼勢力によって、正当な理由なく国会で弾劾された。まさに「国会クーデター」だった。弾劾賛成派の議員たちは「神のために」と叫んで投票、「神」を大安売りした。この政変に心を痛めた法王は、ブラジルに向けて「祈りと対話をもって和合と平和の道を進んでほしい」と呼び掛けた。

 今ラ米を揺さぶっているのは、大産油国ベネスエラの左翼革新政権を倒そうとする国内保守・右翼層と、これを支援する米政府が、政変誘発を狙って激しい破壊活動を仕掛けていることだ。法王はベネスエラ政府と反政府勢力の双方に向けて対話を訴えたが、政府打倒を目指す反政府側は聴く耳を持たない。自身の影響力の限界を知る法王は謙虚である。

 国際社会の最重要当事者の一人であり、世界平和構築に意識的に取り組んでいる法王フランシスコの思想と人間性を、この映画によって知ることになれば、国際情勢を読み解く上で欠かせない新しい視座が開けるだろう。

 多くの人々に観てほしい名画である。 

2017年5月29日月曜日

 31日の米州諸国機構(OEA)外相会議を前に反ベネズエラの世論形成キャンペーンが米州で展開されている。保守派知識人らも加担。▼メキシコ学生強制失踪事件から28ヶ月経過

 米政府の影響下にある米州諸国機構(OEA、英語でOAS、本部ワシントン、34カ国加盟、うちベネスエラは離脱通告済み)が5月31日、特別外相会議を開いてベネスエラ情勢を話し合うのを前に、米州で激しい外交戦が展開されている。

 米政府の意向に忠実なルイス・アルマグロOEA事務総長は、24カ国の賛成を得て「米州民主憲章」をベネスエラに適用し、同国を孤立させたうえで、米国や反ベネスエラ路線のラ米諸国によるベネスエラ介入に持ち込む戦術を練っている。

 これに対しベネスエラを支持するニカラグア、ボリビアなど左翼・進歩主義陣営とベネスエラは、保守・右翼系や米国に脅されているカリブ諸国などが計24カ国に至らないよう動いている。11カ国が賛成しなければ、賛成は多くても23カ国止まりになる。

 米国に従うオンドゥーラス(ホンジュラス)のフアン・エルナンデス大統領は5月25日、同国の在ベリーズ大使館を通じ、「ベネスエラ危機解決には、もっと多くの血が流れることが決定的に重要だ。(これを受けて)同国人民を人道支援し、同国に民主を回復させる」と読みとれる文書をベリーズ外交界に配布した。外国の介入の可能性を示唆する文書だ。

 デルシー・ロドリゲスVEN外相は27日、同文書を暴いて糾弾、オンドゥーラス政府に強く抗議。併せて、アルマグロ(OEA総長)が促進するベネスエラ反政府勢力の暴力計画を非難した。

 ペルー人作家マリオ・バルガス=ジョサ、メヒコ人歴史家エンリケ・クラウセ、コスタ・リカ元大統領オスカル・アリアスらラ米の保守・右翼系知識人・政治家らは27日、連名でマドゥーロ政権を批判した。これも米政府のゴルペ(クーデター)教本に「反ベネスエラ世論作り」として盛り込まれている。

 エルネスト・ビジェーガス情報相は、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDを、「外国勢力の介入を誘導する筋書きを実行している」と指摘。「虚偽報道で、暴力死の責任を政府側になすりつけている」と、MUDを厳しく批判した。

 米国務省のアンデス諸国担当次官補代理マイケル・フィッツパトゥリックは27日、エクアドールのアンデス通信に、「政権議会(ANC)開設はベネスエラ危機解決に役立たず、むしろ悪化させる」と述べるなど、反ベネスエラ運動を展開した。

 ANC開担当のエリーアス・ハウア教育相は、「チャベス派政権は、歴史的に疎外されていた多数派人民大衆の社会・政治・文化の権利を拡大した。それを可能にした我々の権力を防衛しよう」と呼び掛けた。ANC議員選挙のうち職能別選挙区に出馬する候補を決める会合で27日語った。

 ララ州都バルキシメトでは27日、国家警備隊(GNB)のダニー・スベロ中尉(34)が反政府勢力による私刑で撲殺された。中尉のオートバイは燃やされ、路上に放置された。

▼ラ米短信    ◎学生43人事件発生から2年8カ月過ぎる

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で州内のアヨツィナパ農村教員養成学校生43人が強制失踪させられた事件から5月26日で32カ月が経過した。真相はほとんど解明されていない。

 学生の家族や支援者はこの日、メヒコ市のレフォルマ大通りを抗議行進、検察庁前で集会を開き、真相解明を訴えた。事件の鍵を握る麻薬組織「ゲレロ・ウニード」の元首領が、連絡を取り合っていた市警・州警・国警の警察官氏名・電話を記した(元首領の)手帳の存在を隠していた検察庁職員の捜査を実施するよう、家族らは要求した。

 支援団体は、事件発生3周年となる9月15~26日、大規模な事件究明行事を実施する計画だ。
 
 

2017年5月27日土曜日

 米上院議員らがキューバへの輸出と米国人の渡航の自由化求める法案を議会に提出。トランプ政権の対玖政策試す狙いも▼ベネズエラ・タチラ州は、首都攻略への拠点づくり目指す反政府勢力の騒擾活動を制圧と発表

 米両党上院議員55人の賛同により5月26日、対玖輸出自由化や米国人の渡玖自由化を求める「2017年対玖輸出自由化法」案が上院に提出された。パトリック・リーヒー民主、マイク・エンジ共和の両上議らを中心に法案はまとめられた。

 賛同した議員らは、「トランプ政権がオバーマ前政権が始めた対玖歩み寄り政策を維持継続するか否かの試金石になる法案」と指摘する。「過去の玖孤立化政策が成功しなかったため」、この法案提出のような手段が必要と表明している。

 ハバナではラウール・カストロ国家評議会議長が26日、西サハラ独立を目指すサハラウイ・アラブ民主共和国(RASD)のブラヒム・ガリ大統領と会談した。クーバは一貫して、サハラウイの独立運動を支援してきた。ガリは24日のエクアドール大統領就任式に出席した。

 ラパスでは26日、エボ・モラレス大統領がミゲル・ディアスカネル玖第1副議長と会談、ラ米での右翼勢力台頭を前に連帯強化で一致した。両首脳は伯亜赤VENなどで右翼の攻撃が激化している事態に触れ、特にベネスエラについて「その将来はベネスエラ人民が決めることであり、諸外国は内政に干渉してはならない」と警告した。この2人も赤道国大統領就任式に出席した。

 クーバのサンクティ・エスピリトゥ市で25~28日「日玖文化週間」が開かれており、両国関係者が行事に参加している。

◎ベネスエラ情勢

 コロンビア国境タチラ州のホセ・ビエルマ知事は5月26日、「反政府右翼勢力は州を統治不能に陥れようと20日から4日間、準軍部隊と連携し、常軌を逸したテロ、放火、破壊活動を繰り広げたが、州民がそれを許さず彼らを制圧、MUD(保守・右翼野党連合)に教訓を与えた」と表明した。

 知事はまた、「彼らはタチラ州を首都カラカス攻撃戦略の尖端にしようと謀ったが失敗した。コロンビア準軍部隊とMUDが連携するタチラ州だけに、防衛上、(国軍の治安出動を認める)サモーラ計画が重要だ」と指摘した。

 制憲議会(ANC)開設過程担当のエリーアス・ハウア教育相は26日、「ある政府機関は無責任にも推測に基づいて国家警備隊(GNB)を攻撃している」と、暗に検察庁を批判。「検察庁に遵法させ、異常事態を前にして動かない検察庁のような事態を避けるためにもANC過程は必要だ」と強調した。

 ハウアはまた、MUDの国会議員は「不逮捕特権をいいことにテロリズムを組織しているが、そんな国会を(ANCで)正さねばならない」と警告した。

 一方パナマ政府は26日、ベネスエラ、コロンビア、ニカラグア3国人の観光査証によるパナマ滞在を従来の180日間から90日間に変更する、と発表した。同3国人の査証取得希望者の来訪目的や前科の有無などを今後は調べるという。

 米側発表によると、今年第1四半期のVEN米貿易は往復47億ドルで、前年比45%増し。ベネスエラ側の輸出は36億ドルで、その95%は日量71万バレルの原油だった。ベネスエラ原油は26日現在1バレル=44・82ドル。

2017年5月26日金曜日

  イシカワ駐日ベネズエラ大使が日本記者クラブで、同国情勢に関する国際的な虚偽報道を厳しく批判。ニカラグア、キューバ、ボリビアの3大使もベネスエラとラ米の立場を説く▼制憲議会(ANC)選挙出馬は月末登録へ。トランプ米政権はベネズエラとキューバへの18年度援助をゼロに

 セイコー・イシカワ(石川成幸、日系3世)駐日ベネスエラ大使は5月25日午後、日比谷公園に面した東京・内幸町の日本記者クラブで記者会見し、ベネスエラ情勢に関する虚偽ニュースや意図的誤報が横行、極度に誤った反ベネスエラ世論が国際社会で形成されていると、実例を幾つも挙げて批判した。

 米政治週刊誌ニューズウィーク日本語版は、最新号で「ベネズエラほぼ内戦状態、政府保管庫には大量の武器」という見出しで、翻訳記事を掲げた。イシカワ大使は、英語版の見出しにも本文にもないことを日本語版は見出しにしたと指摘した。

 時事通信はカラカス発AFPの翻訳記事に「ベネズエラ、第2のシリアになる恐れ  米国大使が警鐘」という見出しを付けた。大使は、ベネスエラの状況はシリアと全く異なると述べ、米大使の意図を批判した。因みにVEN・米双方は2010年から相互に大使を置いておらず、この記事の大使は「臨時代理大使」と思われる。

 イシカワ大使はまた、典型的な虚偽ニュースとして、保守・右翼野党連合MUD幹部が発信した「治安部隊に包囲され窮地に陥っている若い女性」という印象を与えた写真は、実は治安部隊の前で笑ってポーズをとっていた同じ女性の「演出場面」を撮影した虚偽写真だと、証拠を示して暴露した。

 さらに、コロンビア国境「タチラ州での人間の鎖」と題した写真がスペイン・カタルーニャ州での「人間の鎖」の写真を偽って流したものだと指摘。ウクライナの写真をベネスエラと偽って流した例、チレとエジプトの警察による弾圧写真をベネスエラでの弾圧として流した例、貧者が治安部隊と対峙しているブラジルの写真をベネスエラと偽って流した例など典型的な虚偽発信を次々に紹介。虚偽記事・写真がいかに誤った判断と世論に人々を導くか、ということを指摘した。

 大使はその上で、世界最大の原油埋蔵量を持つベネスエラが石油の富を貧困解決など社会政策に回し国を変革したことに反感を抱く勢力が虚偽情報配信の背後に居る、と示唆した。

 米国は国際金融界に圧力をかけベネスエラへの融資を禁止、ベネスエラの食糧や薬品の輸入が困難になった。ベネスエラの財界も米国に呼応して減産、在庫隠しをしてきた。この種の「経済戦争」でベネスエラ社会は揺さぶられてきた。

 大使は、そんなからくりを説明。その打開策の一例として、6人家族が半月暮らせる食糧品37種をダンボール箱やビニール袋に詰め、平均賃金の10%程度の価格で配給する「クラップ」政策を紹介した。

 さらに、ベネスエラの人間開発指数0・767がLAC(ラ米・カリブ)平均0・751を上回っていることや、貧富格差を示すジニ係数が2015年には0・38だったと強調。ベネスエラは、「資本主義の独裁」に対する「人間的な代替経済モデル」を遂行し成果を挙げてきたが、それゆえに敵視されている、と指摘した。大使は、日本の最重要同盟国である米国への批判を極力避けるべく配慮していた。

 マドゥーロ・ベネスエラ政権は今、制憲議会(ANC)の7月下旬実施に向けて動いているが、イシカワ大使は5月の世論調査で回答者の54%がANC開設に賛成していることが明らかになったと指摘。またMUD指揮の反政府行動が否定的結果を招くと批判する者が81%に上ったことを強調した。

 会見の場の最前列には、クーバのカルロス・ペレイラ大使、ニカラグアのサウール・アラナ大使、ボリビアのアンヘラ・アイリョーン臨時代理大使が並んで着席していた。アラナ大使は、「世界で最も平和な地域は重大な紛争がないLACだ」と指摘。そこに紛争を持ち込む米国を暗に批判した。

 ペレイラ大使は、「日本の一部メディアも虚偽報道に陥ってはいまいか」と指摘。「米政府は左翼政権、進歩主義政権に反対し攻撃を仕掛ける」とし、「政権打倒の戦略は不変だが戦術を替えた」と分析した。アイリョーン代理大使も民族自決を譲らないエボ・モラレス政権の立場を説いた。

 期せずして記者会見の場は「大なる祖国」の熱気に満たされた。

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は5月25日、7月下旬実施のANC議員選挙に出馬する者は31日~6月1日にCNEに登録すべきことを発表。出馬には選挙民の3%の署名が必要とした。

 議員数は545人で、うち364人は全国の市を基盤にした「地域選挙区」から選出。残る181人は「職能別選挙区」から選ばれる。それは労働者79人、年金生活者28人、学生24人、コムーナ(コミューン)24人、先住民8人、農民・漁民8人、身体障害者5人、財界5人。ANC開設に向け提示される改憲草案を審議する「職能別委員会」が一部地域で25日発足した。

 ニコラース・マドゥーロ大統領はMUD指導部に、暴力打ち切り、ANC選挙参加、安寧・生活・民主のための対話をあらためて呼び掛けた。大統領はまた、「商店1000軒以上が略奪、破壊されたが、正常な状態に戻した」とも述べた。

 ブラディミール・パドゥリーノ国防相とネストル・レベロール内相は25日、反政府勢力の暴動のさなかに死んだ大学生(20歳)の死因について政府と異なる見解を示すなど政府中枢と対立しているルイサ・オルテガ検事総長を厳しく批判した。

 デルシー・ロドリゲス外相は、米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長とOEA加盟諸国がベネスエラ政府を激しく非難しながら、ブラジル政府による人民弾圧に沈黙しているのを「背徳的」と糾弾した。ブラジルのミシェル・テメル大統領は贈収賄関与が決定的な形で暴露され、辞任を求める大規模な抗議行動に遭っている。24日には首都ブラジリアに軍隊を治安出動させた。

 ベネスエラ外務省は国連児童基金(ユニセフ)に、「反政府勢力は少年少女・未青年に火炎瓶を作らせ投げさせている」と、証拠の写真、映像、証言を添えて告発した。

 一方、トランプ米政権は24日、2018年度予算案でLAC援助を大幅に削減。16年度に650万ドルあったベネスエラ向けはゼロとなった。同じくクーバ向けも2000万ドルからゼロにされた。一方で米議会は、ベネスエラ反政府勢力支援資金として新たに2000万ドルを支出する法案を審議している。
 

2017年5月25日木曜日

  エクアドルのレニーン・モレーノ大統領が就任。社会政策重視継続を約束。就任式出席のマクリ亜国大統領は高山病で、南米諸国連合会合を開けずに帰国▼ベネズエラ最高裁が首長8人に反政府街頭行動の許可禁止を命令

 エクドール(赤道国)で5月24日、レニーン・モレーノ大統領(64)が就任した。4月2日の大統領選挙決選で51・16%を得票、保守・右翼陣営で新自由主義者の銀行家ギジェルモ・ラッソ(61)を破った。任期は4年。

 国会での就任式で、車椅子のモレーノは、前任者ラファエル・コレア(54)から大統領の襷をかけてもらった。就任演説で、「未来は我々を待ってくれない。未来は現在だ」で切り出し、「4年後には、よりよい赤道国を人民に渡す」と宣言した。自身も副大統領として関与した「市民革命」という改革政策を推進したコレア前政権10年の実績を讃えつつ、新しい時代を切り開くと強調した。

 モレーノは、「人民の生活を守る責任ある国・政府になる」と述べ、具体的政策として、住宅32万5000戸を建設、うち19万1000戸を極貧過程に無料で与え、残りは低所得層に渡すと約束した。雇用13万6000人分創出、貧困対策の一環としての「人間開発給付金」を月150ドルに引き上げること、65歳上の病弱な高齢者への無料医療提供なども掲げた。

 アマソニアの環境保護、隣国コロンビア政府とゲリラELN(民族解放軍)の和平交渉貸座敷として引き続き支援することなども打ち出した。

 就任式には、ボリビア、コロンビア、ペルー、チレ、パラグアイ、アルヘンティーナ、アイチ、コスタ・リカ、オンドゥーラス、グアテマラのラ米10カ国大統領、クーバ第1副議長、米国務省米州担当次官補、南米諸国連合(ウナスール)前事務局長エルネスト・サンペールらが出席。ベネスエラからはカルメン・メレンデス大統領府相が出席、遠方からはサハラウイ・アラブ民主共和国(SADR)のブラヒム・ガリ大統領が出席した。

 亜国のマウリシオ・マクリ大統領は、モレーノ大統領就任後、キトの亜国大使館でウナスールの非公式首脳会合を開き、事務局長選出問題、ベネスエラ、ブラジル両国の情勢について話し合う計画だった。4月21日にベネスエラからウナスール議長国を引き継いでいたからだ。だが標高2800mのキト到着後間もなく高山病にかかり、就任式後、予定を取りやめ帰国の途に就いた。

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラ最高裁は5月24日、カラカス首都圏区長、ミランダ、メリダ両州内の市長ら計8人の首長に、反政府勢力への街頭行動許可を禁止する命令を発した。「平和デモ」を装い暴動を起こすのが常態となったため。8人は保守・右翼野党連合MUD所属。

 ネストル・レベロール内相は同日、首都圏、ミランダ、スリア両州で破壊活動を組織し資金を暴力集団に与えていたとして、MUD内の極右3政党党員計7人を逮捕した、と発表した。

 元検事イサイーアス・ロドリゲスは、「検察内が割れている」として、政府政策にしばしば異論を唱えてきたルイサ・オルテガ検事総長に「反政府勢力の網に絡らめ捕られるのではないか」と警告。「行政府内の一致」を求めた。

 一方、デルシー・ロドリゲス外相は、MUD指揮下の反政府勢力が2014年に決行した街頭暴動事件(グアリンバ)を調査するため政府が設置した「真実・正義委員会」の任務延長が決まった、と明らかにした。マドゥーロ大統領から指示があった。

▼クーバ・ベネスエラ情勢講演会:5月24日1900~2030、東京・高田馬場のNGOピースボート本部で開かれ、約50人が参加した。講師の伊高浩昭は玖国情勢を語り、コロンビア記者らが昨年制作したグアンタナモ米軍基地をめぐるビデオ映像(35分)を放映した。次いで、険悪度が日々に増しているベネスエラ情勢について話した後、質疑応答に移った。2040ごろ閉会した。

2017年5月24日水曜日

★★★ベネズエラ制憲議会(ANC)選挙は7月下旬、州知事・州会議員選挙は12月10日実施へ。マドゥーロ大統領が政令に署名。一部で手続きへの異論出る。バリーナス州は軍に治安出動を要請▼今日24日夜、ピースボートで関連講演会

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は5月23日、制憲議会(ANC)議員選挙を7月下旬に、州知事・州会議員選挙を12月10日に、それぞれ実施すると発表した。24日にCNEは会合、両選挙の具体的日程を決める。州選挙は昨年末までに実施されるはずだったが、政治的混乱で延期されてきた。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は23日、ANC開設担当官エリーアス・ハウア教育相から報告書を受け取り、カラカス市内を行進した支持派大群衆と記者団を前に、ANC議員選挙実施に関する政令に署名した。

 大統領は、「我々は参加型政権であって、代表制ではない」と強調。「経団連とMUD(保守・右翼野党連合)はANC開設対話を拒否した。MUDの回答は暴力だった。彼らは国中の街を燃やし、不寛容精神を焚きつけ、武装決起を呼びかけ、外国の介入を招こうとしてきた」と非難、「我々は平和、対話、和解、敬意を重んじる」と述べた。

 ハウア報告によれば、ANC議員は540人。うち「地域選挙区」は、全国364市・特別区から選出、先住民には8人が割り当てられる。「職能別選挙区」は有権者8万3000人ごとに1区で、労働者、農民、漁民、身体障害者、年金生活者、学生、企業経営者、コムーナ(コミューン)およびコムーナ理事会がそれぞれ比例代表名簿をCNEに提出、得票により議席が割り当てられる。

 地域選挙区出馬者は、選挙民の3%の推薦を必要とする。18歳以上のベネスエラ人が立候補できる。選挙結果判明後72時間で、ANCが開設される。

 ところがCNE監査官ルイス・ロンドンは23日、改憲要求には国民投票が必要であり、それがなく、政令内容も事前に有権者に諮られなかったとして、反対を表明。また最高裁民事法廷のマリセーラ・ゴドイ判事も、国民投票の必要性を指摘、ANC開設選挙手続きに異議を唱えた。

 一方、MUDが指揮する暴動は各地で続いている。22日に騒乱状態となったバリーナス州では、スレ市の警察署が暴徒に放火され破壊された。若者1人が死亡した。22日の州都バリーナス市の暴動で略奪された店舗は170軒と判明した。

 同州のセナイダ・ガジャルド知事は23日記者会見し、ゴルペ(クーデター)防止作戦「サモーラ計画」の第2段階を発動した。治安部隊とともに、陸軍特殊部隊など軍の治安出動が許される。州知事は、MUD派のバリーナス市長が暴動を放置したと糾弾した。

 内務省は、暴動を鎮圧しないMUD派知事のいるララ州に23日介入、陸軍少将を州警察長官代行に任命した。石油の街マラカイボ市にある私立大学URBEは23日、暴徒に放火され、一部が破壊された。

★きょう24日(水)「クーバ・ベネスエラ情勢講演会」講師・伊高浩昭。1900~2030、東京・高田馬場、NGOピースボート本部地下で、参加費500円。申し込みは電話(03)3363-7561、3362-6307.

 
 

 ベネズエラ反政府勢力は「無政府状態」醸成狙い暴力攻勢。治安部隊施設、選管、政権党支部も襲撃さる。故チャベス大統領縁の家も放火・炎上、略奪。4月初めからの死者は60人に近づく

 ゴルペ(クーデター)教本には、「軍事介入を正当化するための騒擾(無政府)状態を醸成する」という恐るべき段階が盛り込まれている。ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派変革政権の打倒を目指すべネスエラの反政府勢力は今、形振り構わず、騒擾状態=無政府状態をつくろうと、全国各地で殺傷、破壊、当局襲撃、放火、略奪などを激発させている。

 暴徒は5月22日、西南部ジャーノ(大平原)地方にあるバリーナス州都バリーナス市にある故ウーゴ・チャベス前大統領の「聖地」に放火、略奪した。少年ウーゴが兄アダン(現・教育相)とともに州内農村部の貧しい実家を離れて住んだ祖母の家だ。チャベス派にとっては史跡であり聖地である。そこがついに狙われ破壊された。

 反政府勢力を操っている保守・右翼野党連合MUDは、焦っている。MUDを戦略・資金両面で支援している米国の、頼みのD・トランプ大統領が弾劾される可能性のある不安定な状態に陥ったのと、国際社会でMUDの暴力肯定路線に批判の声が徐々に上がってきているからだ。極右暴力路線では、政権の受け皿には到底成りえない。

 チャベスが育った祖母の家の放火・略奪を、反政府派暴徒の仕業だとメディアに証言したのは、バリーナス市が選挙区のMUD派国会議員ペドロ・カスティージョだった。

 タレク・エルアイサミ執権副大統領は22日カラカスで記者会見し、MUDは同日、全国的な「武装ストライキ」を実行しようと計画していたと暴露した。また4月初めから続いている一連の反政府行動の中のテロリズム、破壊活動の責任はMUD指導部にあると指摘した。

 副大統領は、ボリーバル州営バス53台が放火され炎上、破壊された事件を挙げて、「これが平和な抗議デモと言えるか?」と問いかけ、実行犯2人を逮捕したと明らかにし、その本名を公表した。

 またMUD所属の極右政党VP幹部ホルヘ・マチャードを、破壊活動組織と暴徒への資金供与で逮捕、併せて現金の札束を2万束押収したと発表した。

 エルアイサミは、バリーナス市では(チャベスの祖母の家の他)、ボリバリアーナ国家警備隊(GNB)の地区司令部に暴徒が侵入、略奪し破壊、警察署3カ所と政権党PSUV支部も放火された、と明らかにした。

 さらに同市では複数の商店が略奪され、政府大衆医療政策の薬品・医療機材保管庫が破壊、略奪され、病院が襲撃された。政府の大衆向け住宅政策と同教育政策の支部事務所も攻撃された。バリーナス市では一連の暴動で5人が死亡した。

 ララ州都バルキシメトでは主要道路がバリケードで封鎖され、商店主たちは閉店を強制された。MUD系の地元警察は見て見ぬふりをしていた、という。

 国家選挙理事会(CNE=中央選管)は別途、バリーナス州でCNE支部が22日破壊され略奪された、と発表した。またタチラ州の数市の役所が襲われ、選挙人登録名簿が奪われ、破壊された。

 エルネスト・ビジェーガス情報相は、22日には全国で26人が逮捕されたと明らかにした。情報相によると、MUDは4月初めから各地で計1600回の街頭行動を展開、うち600回は暴力を伴っていた。死者は60人に達しつつある。

 MUDの破壊活動を指揮しているのは、ミランダ州知事エンリケ・カプリーレスらと目されている。カプリーレスは2002年4月のチャベス打倒の軍事ゴルペ未遂事件時、カラカスのクーバ大使館に侵入、逮捕されたが、数か月後に免罪された。2013年4月の大統領選挙では僅差でマドゥーロ現大統領に敗れたが、敗北を認めず街頭暴動事件を起こした。

 このような人物を02年に釈放したチャベスを、「温情主義の失敗」と批判する知識人もいる。14年2月の街頭暴動事件時、暴動教唆罪で逮捕され服役中のMUD極右VP党首レオポルド・ロペスも02年事件でつかまっていたが、釈放されていた。

 23日も政府支持派と反政府側はそれぞれ街頭行動を予定している。政府側は制憲議会(ANC)開設準備を急いでおり、大動員をかけてANC開設世論を盛り上げたいところ。反政府側は、ゴルペ誘発を狙い、さらなる非合法活動で「失敗国家」を印象付ける戦略を続けようとしている。 

2017年5月23日火曜日

 ベネズエラで州営バス53台が放火で破壊さる。専門家は「反政府勢力は騒擾状態醸成を狙っている」と指摘▼コロンビアで夜間外出禁止令発動▼グアテマラ農民はJ・モラレス大統領辞任を要求

 ベネスエラでは5月22日も反政府勢力による抗議行動と破壊活動が続いた。ボリーバル州では州営バス車庫で未明に53台が放火され炎上、破壊された。利用者17万人に影響が及んでいる。被害額は1100万ドル。

 カラカス首都圏バルータ区では、国営石油PDVSAの職員輸送バスなどが燃やされ破壊された。また同区で自動車道脇に接近する通路がバリケードで封鎖され、多くの市民が路線バスや地下鉄を利用できなくなった。死者も出ている。

 オンブズマンのタレク・サアブは、「右翼勢力による暴力・破壊活動の責任明確化のための客観的捜査に協力する」と述べた。サアブはまた、暴動取締り中の治安部隊が「過剰規制」した場合の捜査にも協力すると語った。

 暴力行使を抑制しない反政府勢力の中核MUD(保守・右翼野党連合)の指導者エンリケ・カプリーレス(ミランダ州知事)は21日、街頭行動について「憲法350条を実行している」と<合憲性>を主張した。

 同条項には、「共和国の伝統および独立・平和・自由のための闘いに忠実なベネスエラ人民は、価値・原則・民主的保障に反するか、もしくは、人権を尊重しない政府・立法・権力を認めない」と書かれている。

 だがMUDは、米国と連携している点で「独立」性に欠け、暴力を手段として行使しているため「価値、原則、平和、自由、民主、人権」に反している。このためカプリーレスの主張はまともには受け止められていない。

 デルシー・ロドリゲス外相は22日記者会見し、「ベネスエラは今、異常な暴力に晒されており、内外の懸念を生んでいる」と指摘。「正義・真実委員会」が間もなく、反政府勢力による現在の暴力事件および、2014年の街頭暴動事件についての報告書をニコラース・マドゥーロ大統領に提出する、と明らかにした。

 外相は21日、西部国境に隣接するコロンビアのラ・グアヒーラ県パラグアチョンに同国の軍装甲車部隊が展開しているのを「ただならぬ挑発行為であり、受け入れられない」と抗議した。これに対しコロンビア国防相は22日、「国境地帯での通常の犯罪防止策」と説明した。デルシーは22日、「依然、受け入れられない」と反駁した。

 著名な社会学者マリクレン・ステリング(「アンデレス・ベージョ」カトリック大学教授)は21日、反政府勢力のメディア戦略について、非通常戦争戦略に基づき「騒擾状態を起こすためだ。最初は心理的に、次いで肉体的・物理的に暴動を起こす」と述べた。

 また、「政府は<国際(世論)裁判>で負けつつある」とし、資金に物を言わせたMUDの内外メディア工作に対し旗色が悪いことを指摘。対策として、明確に的を絞るべきだと提言した。

 だが教授は、「暴動状況が2カ月近く続いてるため、さすがにベネスエラ人は目を覚まし、チャベス派は18年間で得た社会政策の恩恵を守ろうと意識するようになっている」と語った。

▼ラ米短信  ◎コロンビア太平洋岸に夜間外出禁止令発動

 コロンビアのサントス政権は5月22日、太平洋岸のバジェデルカウカ県の港湾都市ブエナベントゥーラに1800~0600時の
夜間12時間の外出禁止令を発動、警察機動部隊1500人、兵士700人を急派した。

 同市では、病院や水道のサービス向上、雇用創出などをめぐり市民が抗議ストを続け、19日から略奪、暴動が起きている。既に130万ドルの被害が出、市民80人が逮捕されている。

▼ラ米短信  ◎グアテマラ農民が大統領辞任を要求

 グアテマラの「農民開発委員会」(CODECA=コデカ)は5月22日、ジミー・モラレス大統領に対し、「無能で腐敗している」として辞任するよう要求した。モラレスは元コメディアンで、伝統的支配階級である保守・右翼勢力に擁立され一昨年の大統領選挙に当選、昨年1月就任。庶民大衆の評判は極めて悪い。

 農民らはまた、「人民・多民族制憲議会」の開設、伯オデブレヒト社から収賄した国会議員らの断罪を求めている。コデカは3月7日に首都グアテマラ市で大統領辞任要求集会を開いた際には4万人を動員した。 

2017年5月22日月曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ大統領が「暴力の背後にトランプがいる」と非難。「反ファシズム大行進」を全国で23日展開と発表。制憲議会(ANC)開設政策は近く明示へ。ジャーナリストJVランヘールは「重大な局面にある」と指摘

」と ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は5月21日、日曜定例の全国向けTV番組で、4月以来の街頭暴力事件のビデオを数本流しながら反政府勢力の暴力を指摘、「ベネスエラが直面してきた幾波もの暴力テロリズム攻撃の背後には、ベネスエラを植民地化したいドナルド・トランプという帝国主義者の手がある」と非難した。

 また南米右翼指導者の旗頭と位置付けられているマウリシオ・マクリ亜国大統領について、「ゴルペ(クーデター)を狙うベネスエラのファシスト暴力右翼を父親のように保護している」と扱き下ろした。

 マドゥーロ大統領はまた、「平和に賛成し、ファシズム・暴力・憎悪に反対する大行進を23日、全国で展開する」と発表した。政権打倒を目指して街頭デモと暴力を止めない保守・右翼政党連合MUD指導下の反政府勢力の動員への対抗措置だ。

 大統領は、「MUDは過去50日間、ナチファシズム型反革命の憎悪と暴力をばらまいてきた」と非難。「容疑者を何人も逮捕してきたが、(カラカス首都圏の)チャカオ区長ラモーン・マチャードとミランダ州知事エンリケ・カプリーレスは暴力集団の共犯者だ。同知事は自宅で暴力集団に武器、爆発物などを渡した。その証拠がある」と述べた。

 さらに、「覆面した武装暴徒200~300人を治安部隊、当局、秩序に歯向かわせている」とカプリーレスを非難。「MUD内の民主派は暴力を糾弾し、平和情勢のため対話に応じてほしい」と呼び掛けた。マドゥーロは、オンブズマンと検事総長に、「政府は一致して正義を施そう」と求めた。ルイサ・オルテガ検事総長は、司法上の問題で政府を批判してきた。

 大統領は「イデオロギー上の理由による暴力、不寛容、迫害を糾弾しよう」と訴え、「(米国で働く)ベネスエラ人の芸能人やスポーツ選手は、米政府に脅迫されてベネスエラ政府を非難している。同様の傾向が国際社会にある」と前置きし、「そのような在外同胞と話し合う用意がある。対話しようではないか」と呼び掛けた。

 ベネスエラ政府を非難するブラジルのテメル政権については、「贈収賄で腐敗しきって崩壊しつつあるテメル・ファシスト政権に反対する伯人民に連帯する。くたばれテメル、伯人民万歳」と述べた。

 マドゥーロは、「近日中に制憲議会(ANC)開設政策を明示する。これは後戻りできない政策だ」と強調。「投票に賛成、弾丸に反対」と叫んだ。

 著名なジャーナリスト、ホセ=ビセンテ・ランヘールは21日、テレベン放送の日曜定例番組で、「ベネスエラは誰の目にも明らかなように、全人民に等しく影響を及ぼす重大な局面にある」と指摘。「この国には対話の文化が欠けている。MUDは対話を拒否しているが、好き嫌いに拘わらず、平和と和解は対話を通じてしか達成できない」と強調した。

 また、「大統領は、対話の道が閉ざされたためANC開設の場を設けた。MUDとカトリック司教会議がANC対話を拒否しているのはいただけない」と批判した。

 ランヘールは、著名なベネスエラ人映画監督ロマーン・シャルボーを番組に招き、インタビューした。監督は、「国内の右翼勢力は真実を歪め、反ベネスエラの虚偽情報を世界中に撒き散らしている」と指摘。「文化には重要な役割がある。我々は虚偽運動に対し闘わなければならない」と強調した。

 さらに、「彼らは、外国の介入計画に従って内戦を起こそうとしている。だが失敗するだろう」とし、「ANCは対話による解決を探るが、MUDは解決を望まないからANICに反対している」と指摘した。

 一方、ベネスエラ沖のカリブ海にある蘭領クラサオ(キュラソー) のベネスエラ国営石油PDVSA(ペデベサ)製油所で21日、火災が発生した。鎮火したがが、当局は放火を含め原因を調べている。この製油所は、中国などアジア市場向けの原油を日量33万バレル精製している。ベネスエラ原油は19日現在、1b=43米ドル。



 

2017年5月21日日曜日

 ベネズエラ反政府勢力の暴力伴う街頭行動が50日に近づき、死者も50人に及びつつある。南米諸国連合のサンペール前事務局長は、「MUDが街頭行動止め、政府がANC開設方針取り下げれば、交渉開始可能」と指摘▼LATINA誌6月号がベネズエラ情勢詳述記事掲載

 ベネスエラでは5月20日も政府支持派と反政府勢力の街頭行動が首都カラカスを中心に展開された。反政府勢力は主要な自動車道を埋めた。行動を指揮する保守・右翼野党連合MUDのエンリケ・カプリーレス(ミランダ州知事)は、デモ隊を内務省まで向かわせようと発破をかけたが、治安部隊に規制され、果たせなかった。

 この反政府行動のさなか、別働隊の暴徒に青年一人が私刑に遭い、ガソリンをかけられ焼かれ、体の70%に火傷を負った。ニコラース・マドゥーロ大統領は、この青年の救命を命じた。約50日間に亘る一連の武力事件で死者は50人に及びつつある。

 コロンビア国境沿いのタチラ州のホセ・ビエルマ=モラ知事は、「MUDが同州内で動員した4日間の反政府行動は華々しく敗れた」と表明。知事は、MUD加盟の極右政党VP(人民意志)所属の「国会議員ガビ・アレジャーノは麻薬、酒、現金を(動員のために)配布していた」と告発した。州内の食糧と燃料の供給は、治安部隊の増強で滞りなく実施された、と述べた。

 過去の政治的人道犯罪を追究する「正義・真実委員会」のフェルナンド・ソト=ロハス顧問は、「バネスエラは内外から包囲されている。国内では準軍部隊と繋がる反政府ファシズム勢力に攻められている。(背後に居る)米国は、ベネスエラの原油資源獲得のため限りない戦を仕掛けている」と糾弾した。

 ジュネーヴ国連駐在のホルヘ・バレーロVEN大使は人権理事会で、反政府勢力による街頭行動時の暴徒らによる暴力・破壊活動を映したビデオ映像を見せ、暴徒による殺傷、破壊活動、さらに反政府勢力側の狙撃手の銃撃による殺人を告発した。

 同大使はまた、外国メディアの虚偽報道、意図的誤報を糾弾。「治安部隊は市民と公共・私有財産を守っている。政府は対話を求めているが、反政府勢力内の暴力肯定派が対話を阻止している」と説明した。理事会の各国代表らが聴きいった。

 デルシー・ロドリゲス外相は故ウーゴ・チャベス前大統領の出身地バリーナス州での制憲議会(ANC)開設運動の集会で演説、「ANCは暴力を終わらせるのために決定的に重要だ。主権と民族自決権の防衛が同様に重要だ」と強調した。

 外相はまた、「反政府右翼勢力は米帝国主義に従属し、ボリバリアーナ革命以前のような新自由主義と売国主義を植え付けようとしている」と、MUDを非難した。

 マドゥーロ大統領は、MUDを支持してきたメヒコについて、「暴力、不平等、麻薬によって失敗国家に成り下がった」と扱き下ろした。デルシー外相も先ごろ、ルイス・ビデガライ墨外相を、「米国の家来だ。メヒコとラ米の間に壁を築こうとしている」と非難した。

 ベネスエラに敵対的姿勢をとってきた米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長はワシントンで、「ベネスエラは、民主回復方法を決めるため決定的な交渉を開始すべき時に至った」と述べた。

 エルネスト・サンペール元コロンビア大統領は19日、「反政府勢力が街頭行動を止め、政府がANC開設方針を取り下げれば、民主的解決の糸口となる。対話では選挙日程を決めるべきだ。選挙抜きで民主はありえないからだ」と指摘した。サンペールは南米諸国連合(ウナスール)の前事務局長で、ベネスエラ対話仲介の労をとった、双方の対立が厳しく、任務を完遂できなかった。

 一方、カリタスのラ米・カリブ地域代表ホセルイス・アスアヘ(バリーナス州司教)はローマで20日、「ベネスエラのカトリック教会は反政府でなく、人民の味方になるべきだ。(政党でなく)人民の声を聴いて、その意志を実現させるべきだ」と語った。

 このところマドリード、メキシコ市、サンホセ、パナマ市などで、ベネスエラ政府を支持する行事に、反政府派が押し掛け行事を妨害する事件が相次いでいる。ベネスエラ外交当局は、反政府勢力が「暴動を輸出している」と非難している。

★月刊誌LATINA6月号(発売中)掲載; 伊高浩昭執筆 「ラ米乱反射」 連載134回 「<クーデターの危機>に対抗するベネズエラ  反政府勢力は米指示通り街頭暴力激化作戦」 

   

2017年5月20日土曜日

 カリブ共同体(カリコム)外相会議が「ベネズエラ問題は国内対話で解決を」と声明。議長国首相は「カリコム分断を画策」と米国を非難。カトリック教会が政府と会合、制憲議会(ANC)開設に反対。検事総長も反対表明

 カリブ共同体(カリコム)は5月18~19日、バルバドスの首都ブリッジタウンで第20回外相会議を開き、「ベネスエラ問題は外部からの介入、内政干渉を排し、緊張緩和の後、仲介支援を得て、国内対話によって解決すべきだ」とする共同声明を発表した。

 輪番制議長国セントヴィンセント&グラナディーン(SVG)のラルフ・ゴンサルヴェス首相は会議への公開書簡で、「一部の大国がベネスエラ政権を替えようと画策し、カリコムをベネスエラ問題で分断しようとしている」と、米国を暗に非難した。

 輪番制議長ルイス・ストゥレイカーSVG外相は、「カリコムはベネスエラ人民を放置しない。事態を懸念しており、安寧と安定が戻るのを願っている。ベネスエラの民主は機能し安定しており、引き続きそうあってほしいとカルコムは期待している」と述べた。

 出席したオブザーバー国ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は、「反政府勢力はニコラース・マドゥーロ大統領の合憲政府を倒そうと暴力に訴えており、人民を苦しめている」と、保守・右翼野党連合MUDを批判。「ベネスエラは米国にとり脅威ではないし、米州地域の問題でもない」と、米国の言い分に反駁した。

 続けて、「米国はベネスエラを国連安保理に持ち込んだが、それは無能な使用人アルマグロ(米州諸国機構OEA事務総長)の立場を強化するためだった。米国はOEAを使ってベネスエラに介入しようとしている。だが、そのような手法はリビア、イラク、シリアなどで失敗してきた」と強調した。

 さらに、「国際社会にはベネスエラへの偏った見方に立つ介入の策謀がある。その一方で、それら諸国の人権蹂躙は米国によって覆い隠されている」と指摘。「カルコムは、国際法を遵守しており、自分の言い分を一方的に押し付けようとしている者から我々を守る防壁だ」と、カリコムを讃えた。

 デルシーは会議終了後、テレスール記者に「外相たちから大なる支援を得た」と語った。また米財務省が18日、ベネスエラ最高裁判事8人を「制裁対象者名簿」に書き加えたことについて、「前代未聞であり、受け入れ難い。我々は外交的措置をとる。最高裁判事たちは帝国による攻撃の犠牲者だ」と述べた。

 最高裁のマイケル・モレーノ長官もカラカスで19日、「外交政府の押し付けと内政干渉は受け入れられない」と一蹴した。マドゥーロ大統領も、「ドナルド・トランプは帝国主義者宜しく介入を促進している。トランプよ、ベネスエラから手を引け」と、いつになく強いc調子で反駁sた。

 ベネスエラ外務省は19日別途声明を発表、Dトランプ米大統領が18日ワシントンでJMサントス・コロンビア大統領との会談後、「ベネスエラは極めて深刻な問題だ。平和で安定したベネスエラが必要であり、そのためにコロンビアや他の国々と協働してゆく」と述べたことに関し、「限度を超えた発言だ。(T大統領は)国務省に、ベネスエラへの攻撃的な内政干渉政策をなすがままに任せている」と非難した。

 声明はまた、「トランプ大統領(の発言)は虚偽情報に基づいている」と指摘。「米国は、政府諸機関を通じてベネスエラの反政府勢力に不法資金を与えているが、直ちに止めるべきだ」と要求した。

 トランプは19日、中東・欧州歴訪に出発したが、ベネスエラ情勢に関してはローマ法王フランシスコとの会談が注目される。ヴァティカンの立場は、「対話と選挙による解決」であり、内政干渉や軍事介入は認めない。

 ニカラグア駐在のベネスエラ大使フランシスコ・アルーエはマナグアで19日記者会見し、「米国は対ベネスエラ開戦を促進しつつあり、侵略を正当化するため、マドゥーロ政権不安定化を狙う武装テロ集団に資金援助している。以上を、ベネスエラ政府の名において告発する」と、米政府を糾弾した。

 同大使はまた、「ベネスエラ国内18市で計335回、暴力行為があった」と明らかにした。非公式集計では、4月からの一連の反政府勢力絡みの暴力事件で死者50人以上、負傷者1万3000人、逮捕者2500人が出ている。

 一方、制憲議会(ANC)開設担当者エリーアス・ハウア教育相は19日、ベネスエラのカトリック司教会議と会談。終了後、司教会議のディエゴ・パドロン議長は、「ANC開設は不要だ。現行憲法を順守すればいいし、人民の求めているのが食糧、薬品、治安、安寧、公正な選挙であるからだ」と述べた。また、「政府と教会は人民への福利で協働可能な分野がある」と指摘した。

  またルイサ・オルテガ検事総長は19日、ハウアに17日付けで渡した書簡を公表。その中で、「現行憲法はこれ以上改善しようのない最良の憲法であり、チャベス前大統領の最重要遺産だ。人権、民主、人民参加、生活権、社会正義、差別無き平等主義などで世界一進んだ憲法で、憲法を変更すれば、さらなる危機を招く」としてANC開設に反対。18日のハウアとの会合を欠席したことを明らかにした。「身内」からのANC反対表明は、マドゥーロ大統領にとり痛撃だ。

 コロンビア国境沿いのタチラ州では18日、国家警備隊(GNB)中尉パウル・マチャードが「人民に武器は向けられない」と述べ、政府発行の「祖国身分証」を鋏で切り刻んだ。同中尉は19日、軍当局に逮捕された。

 同州では反政府勢力による陸軍駐屯地襲撃などで治安上の危険性が増し、数日前から,GNB2000人と陸軍特殊部隊600人が治安出動で展開している。、
 
 
 

2017年5月19日金曜日

 プーチン・ロシア大統領がベネズエラ問題解決への協力意志を表明。露外務省は、ベネズエラ反政府勢力寄りのメディアを厳しく批判。コレア・エクアドル大統領もブエノスアイレスで、反政府勢力側の暴力を糾弾。トランプ米大統領はコロンビア大統領と会談し、ベネズエラへの「人道支援の用意」を表明

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は5月18日、ウラジ-ミル・プーチン大統領と電話会談し、会談後、「ロシアは小麦を毎月6万トンずつ、長期に亘って供給してくれることになった」と明らかにした。その開始時期には触れなかった。大統領はまた、産油諸国が価格安定化のため原油生産を削減していることについても話し合ったとし、「近い将来、訪露したい」と語った。

 ロシア外務省報道官は、電話会談がベネスエラ側の申し入れによるものだったと明らかにし、「プーチン大統領は、ベネスエラ情勢の正常化を願っている。重要なのは、ベネスエラ国法の合法性の枠内で解決することだ」と表明した。

 報道官はまた、「ベネスエラ情勢は(米州)地域の平和と安全を脅かしてはいない」と前置きし、「ロシアは要請されれば、ベネスエラ問題の平和解決に参加する用意がある」と述べた。

 さらに、内外メディアのベネスエラ情勢報道が反政府勢力寄りに偏向している事実に触れ、「客観性が重要だ。紛争を煽ったり、自陣営の野心達成のために教唆するような報じ方をしてはならない」と強調した。

 エクアドールのラファエル・コレア大統領は17日ブエノスアイレスで、ガブリエラ・ミケッティ亜国副大統領と会談。マクリ亜国保守・右翼政権が明確にしている反マドゥーロ政権の立場は「尊重する」としながらも、「暴力の多くが反政府勢力側に起因している事実は証明されており、これは糾弾せねばならない」と指摘した。

 マウリシオ・マクリ大統領は来日中。コレアは記者団に、「国際社会とラ米は、ベネスエラを攻撃しながらブラジルに甘い二重基準だ」と批判した。これは合憲政権を昨年弾劾した汚職まみれのテメル現政権に正統性が欠けていることへの批判が乏しい事実を指摘したもの。

 制憲議会開設準備担当のエリーアス・ハウアVEN教育相は17日、「PJ(まず正義を)とVP(人民意志)の武装集団は犯罪組織と結託して暴動を決行しており、許し難い」と述べた。PJとVPは、反政府勢力指導部である保守・右翼野党連合MUDの極右政党。

 PJ党首でミランダ州知事のエンリケ・カプリレスは18日、パスポートを無効化され、出国を阻止された。カプリレスは大統領選挙にMUD候補として2度出馬し敗北・2度目の13年4月には、敗北を認めず暴動を起こした。だが、その後、「平和闘争路線」に変身した。

 ところがMUD内暴力肯定派の旗頭でVP党首のレオポルド・ロペス(暴動教唆罪で服役中)の人気が高まると、再び暴力路線に戻った。「マドゥーロ後」の大統領を決める選挙に、MUD候補として3度出馬するため、「弱腰」を見せるわけにいかないからだ。

 一方、ドナルド・トランプ米大統領は18日ホワイトハウスで、JMサントス・コロンビア大統領と会談。記者会見で、「ベネスエラの経済危機はかつて米州になかったことで、人類の恥だ」と述べ、「必要ならば、人道的見地から支援したい」と述べた。米国務省や米機関がベネスエラの反政府勢力を支援してる事実には触れなかった。

 また米財務省はこの日、ベネスエラ最高裁のマイケル・モレーノ長官以下8人の判事を、「ベネスエラ国会の権限を奪った」として「制裁対象者名簿に加える」と発表した。他国にも施政権が及ぶかのごとき米政府の「制裁」政策に、また新たに批判が起きている。