2018年7月5日木曜日

 トランプ米大統領が昨年8月、ベネズエラへの軍事攻撃を提案▼ペンス副大統領が侵攻支持取付けのためラ米歴訪▼当時のティラーソン国務長官らは反対▼ラ米側は難色示す▼関与したVEN野党幹部らを反逆罪で捜査▼中国がVENに50億ドル融資へ▼コレア前赤道国大統領を国際手配▼メキシコ次期政権が大麻合法化を検討か

 ドナルド・トランプ米大統領は昨年8月、マドゥーロ・ベネズエラ政権打倒のため軍事侵攻を提案した。AP、CNNなど米メディアが、米高官からの情報として、7月4日報じた。
 トランプはホワイトハウスで主要閣僚や補佐官らと同政権への制裁政策を検討中、「なぜ米国は南米のその国(VEN)に侵攻できないのか」と切り出した。

 その場にいたレックス・ティラーソン国務長官(当時)やHRマクマスター安保担当補佐官(同)は唖然としたが、軍事攻撃を掛けた場合、ラ米諸国から米国が得てきた支持が損なわれるなど否定的影響が出ることを説明、思いとどまらせようと努めた。

 するとトランプは、「域内にはグレナダ侵攻(1983)、パナマ侵攻(1989)など成功例がいろいろある」と返したという。

 トランプは同じ8月の17日、「米国には軍事攻撃を含む様々な選択肢がある」と口にした。その直後、マイク・ペンス副大統領はコロンビア、アルゼンチン、チリ、パナマを歴訪、軍事侵攻への支持を打診した。

 この報道を受けたニコラース・マドゥーロ大統領は4日、国軍将官昇進式の場で垂れた訓示で国軍にあらためて忠誠を誓うよう求めた。そして「VENの資源を狙う帝国主義の(侵攻)意欲を削ぐため、我々は強力な軍部を必要としている」と強調した。

 さらに、「去年、ある元米高官は、VEN野党勢力幹部らが訪米した折、同幹部らに、VENへの軍事侵攻を米政府に要請するよう求めた、と明らかにした」と述べた。

 制憲議会のディオスダード・カベ―ジョ議長は4日、「米政府に祖国侵攻を要請した野党幹部らを反逆罪容疑で捜査し始めた」と発表した。

 一方、ボリビアのエボ・モラレス大統領は4日ラパスで記者会見し、「昨年秋、国連総会に集まったラ米首脳たちに米政府はVEN侵攻への支持を求めたが、ラ米側は一致して拒否した。その場にいたある首脳から聴いた」と暴露した。

 エボはまた、ペンス(米副大統領)は軍事侵攻支持を勝ち得るためラ米諸国を歴訪した
と指摘した。ペンスは昨年8月17日のトランプ発言を受けてコロンビア、アルゼンチン、チリ、パナマを歴訪。最近はブラジル、エクアドール、グアテマラを訪問した。

 ブラジル、チリ、エクアドールの首脳や外相は、「VEN問題での平和裏の解決」を主張し、暗に米国の軍事侵攻計画への反対を示している。

 老舗政党・民主行動党(AD、キリスト教民主主義)は4日、保守・右翼野党連合MUDを離脱した、と表明した。理由を「MUDは些細なことで内部対立し、昨年来、事務局長を選出できないままだ。国内向け政策も策定せずに、マドゥーロ政権を国際社会の協力という奇跡頼みで倒そうとしてきた」と説明した。

 ADは5月の大統領選挙に出馬、健闘して敗れたヘンリー・ファルコン候補を支持した。MUD極右は、選挙をボイコットした。

 別件だが、シモーン・セルパVEN経済相は3日、オリノコ油田での原油生産拡大のため中国が50億ドル融資してくれることになった、と発表した。原油生産拡大には200億ドルの投資が必要で、あと150億ドル足りない。

▼コレア前赤道国大統領を国際手配

 エクアドール政府は7月3日、ベルギー在住のラファエル・コレア前大統領を「拉致事件関与容疑」で国際手配し、ベルギー政府に手配への協力を求めた。

 拉致されたのは、ボゴタに逃亡していたフェルナンド・バルダ元国会議員。スパイ用電子機器不法取引などで追及されていた。

 VENボリビア両国大統領はコレアへの連帯を相次いで表明し、「コレア氏に対する迫害」と糾弾。これを受けて赤道国政府は声明で、両大統領の発言は赤民主制度の名誉を傷つけるものと非難した。

▼メキシコ次期政権が大麻合法化検討か

 アムロ次期大統領の下で内相就任が内定しているオルガ・サンチェス元最高裁判事は7月4日、麻薬取締政策の一環として、大麻消費を罰しないようにすることをアムロ氏に提案する、と明らかにした。

 また芥子を製薬会社や薬局に売るのを合法化することも提案すると述べた。芥子からできるモルヒネは医療用に使われる。だがモルヒネからは麻薬ヘロインが作られる。

2018年7月4日水曜日

 ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)次期メキシコ大統領がペニャ(EPN)大統領と会談▼政権移行作業に入る▼トランプ米大統領とポンぺオ国務長官が近く来訪へ▼アムロは今月、太平洋同盟(AP)首脳会合に出席し外交デビュー▼アルゼンチン大統領がアムロを訪亜招待

 AMLO(アムロ)次期メキシコ大統領は7月3日、メキシコ市中心街の大統領政庁(国家宮殿)で、エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領と会談、政権移行について話し合った。大統領は移行に協力すると約束。移行作業はこの日始まった。

 会談後アムロは、ドナルド・トランプ米大統領とマイク・ポンぺオ国務長官が近い将来、来訪すると明らかにした。
 北米自由貿易協定(TLCAN/NAFTA)の見直し、国境問題などでアムロは、12月1日の就任まで約5カ月の間、EPN大統領の対米交渉に協力する。

 またアムロは今月24日、太平洋岸の保養地プエルト・バジャルタで開かれる太平洋同盟(AP=アリアンサ・デル・パシフィコ)首脳会議にEPNとともに出席することになった。
 APには、メキシコ、コロンビア、ペルー、チリが加盟。ラ米とAPECの「繋ぎ目」を自負している。

 チリとアンデス山脈で国境を接するアルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領はアムロを逸早く訪亜招待している。マクリは南米右翼の旗頭だが、8月就任するコロンビア次期大統領イバン・ドゥケの極右姿勢を警戒しており、アムロとの接近で一種の「均衡」を図ろうと望んでいるかに見える。

 ブラジル、ウルグアイ、パラグアイとともに関税同盟「南部共同市場」(メルコスール)を組む亜国は、APとの連携を推進している。

 アムロ任期はすさまじく、この日も政庁前の憲法広場(ソカロ)には支持派群衆がアムロを観に待機していて、気勢を上げた。

2018年7月1日日曜日

★★★アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)元メキシコ市長当確▼メキシコ大統領選挙▼他候補者がアムロ勝利認める▼トランプ米大統領も祝福▼封じられたか、大掛かりな不正工作▼4候補が出馬▼苦戦強いられた保守・右翼の政権党と前政権党

 7月1日、メキシコ大統領選挙が実施された。決選制度はない。選管中間発表でアムロ候補が得票率53%で当選を確実にした。公式最終結果は4日発表されるGoa

 ★7月4日(水)1900から高田馬場NGOピースボート本部地下サロンで「歴史的転機迎えたメキシコ」と題し、アムロ当選の意義をめぐる講演会を催します。問い合わせは、電話3363-7561.参加費500円。

  各種出口調査では、アムロ43~49%、アナヤ23~27%、メアデ22~26%、ロドリゲス3~5%だった。
 アナヤはアムロに電話し、勝利を祝福した。メアデもアムロ優勢を認めた。ドナルド・トランプ米大統領はSNSでアムロを「次期大統領」として祝福、「米墨両国のために協働すべきことはたくさんある」と指摘した。 

 これで、1930年代のラサロ・カルデナス大統領以来の、中道左翼~左翼~政権が12月1日生まれることになる。任期は6年。

 過去繰り返された実例から、政権・選管による大掛かりな投開票の不正が懸念されていた。出口調査には、不正に対抗する狙いがあった。出口調査結果は、数多い世論調査の結果と一致する。

 アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)元メキシコ市長(64)は、保守・右翼勢力が候補者を一本化できず苦戦したのに反比例して、勝利に向かって上昇していた。

 出馬したのは4人。保守・右翼の政権党PRI(制度的革命党)のホセ=アントニオ・メアデ元外相(49)は、PVEM(メヒコ環境緑の党)、PNA(新同盟党)と「皆がメヒコのために」を組んで選挙戦を戦ってきたが、現政権の威信は地に落ちている。
 世論調査では支持率は3位に低迷している。

 同じく保守・右翼の前政権党PAN(国民行動党)のリカルド・アナヤ弁護士(39)は、中道ないし保守化したPRD(民主革命党)および社民主義のMC(市民運動)と保守・右翼・中道左翼連合「メヒコのために先頭に立つ」を組む。支持率は2位。
 カルデロン前政権(PAN)の「麻薬戦争」の後遺症で治安が極度に悪化していることなどが響いている。

 PRDから独立した中道左翼 MORENA(国家刷新運動)のアムロは、左翼のPT(労働党)および、保守・右翼の福音派PES(社会出会い党)と左右連合「ともに歴史を創ろう」を組む。支持率は40~50%台で、2、3位両候補の合計支持率を上回る勢い。

 第4の候補は、無所属のハイメ・ロドリゲス前ヌエボレオン州知事(60)。支持率は5%以下だった。

 有権者は18歳以上の8939万人。併せて下院議員500人、上院議員128人、首都市長、8州知事、地方市長・市議会議員の選挙も実施される。

 ニカラグアが米露キューバ・ベネズエラ軍などを招いて軍事演習実施へ▼国会が決議▼反政府勢力への懐柔策か▼メキシコ・中米諸国も参加▼中米首脳会議終わる

 ニカラグア国会は6月29日、今年下半期に軍事演習のため玖VEN墨ES/GUA/HON/RD/米露の計9カ国および台湾の軍隊がニカラグアに入国することを認めた。
 政権党FSLNが圧倒的多数派であるため、賛成73、反対16で可決された。

 また同時期、ニカラグアの陸海空3軍部隊が墨巴露3国で演習することも認めた。演習には、経験交換、人道支援も含まれている。

 ニカ国会は半年ごとに外国軍の入国に関し決議しており、4月18日から続く反政府勢力のオルテガ政権打倒行動とは無関係という。

 しかし、同盟国の玖VEN露3国、外交関係を持つが遠方の台湾、さらにはオルテガ政権に厳しく、反政府勢力の背後にいるとも指摘されている米国の軍隊が参加する「大掛かり」な演習計画が降って湧いたように出現し、内外世論は戸惑っている。

 最大の危機に直面しているダニエル・オルテガ大統領は今回、国会に対し、緊急本会議を開催し決議するよう要請していたとされる。
 反政府勢力の敵対的闘争意欲をそぎ、世論の目を外に向ける一種の目くらまし戦術と捉えることも可能だろう。

 ニカラグアの東南隣のコスタ・リカは国家警備隊は持つが軍隊を持たないことや、関係がよくないことから、今回の演習には招かれていない。

▼中米統合機構(SICA)首脳会合終わる

 RD首都サントドミンゴで6月29日開かれ、ニカラグア政府と反政府勢力の抗争の平和解決、対米移民問題、石油価格高騰などを話し合い閉会した。RDの他、グアテマラ、エル・サルバドール、ホンジュラス、コスタ・リカ、パナマの大統領が出席した。

 ニカラグアからはカリブ担当相が出席した。SICAの輪番制議長国はRDからベリーズに移った。コスタ・リカは、2021年の中米独立200周年を合同で祝おうと提案した。


2018年6月30日土曜日

 ベネズエラで5月、軍事クーデター計画が失敗、軍人ら逮捕▼米誌ブルームバーグ・ビジネスウィークが報じる▼ボゴタで謀議、米コロンビア両政府は情報把握▼アレアサVEN外相がカリブ歴訪▼コロンビア次期大統領がポンペオ米国務長官と会談▼ドゥケは南米諸国にウナスール脱退を呼び掛け

 米週刊誌ブルームバーグバーグ・ビジネスウィークは6月28日、ベネズエラ大統領直前の5月半ば、クーデター計画が暴かれ、軍人ら約10人が逮捕された、と報じた。同計画および、その謀議に関与した複数の人物の証言を基に記事を書いたという。

 それによると、関与者はコロンビアの首都ボゴタで謀議した。米コロンビア両政府は謀議の事実を把握していたが、具体的支援は避けた。だが某米企業が資金などを援助したという。

 計画は「憲法作戦」(OC)と名付けられ、決行者は「OC」の腕章をしていた。だが、謀略部隊内に潜んでいたと見られる二重スパイによって政府に情報が流れ、関与者は摘発された。

 作戦の狙いは、カラカスの大統領政庁(ミラフローレス宮殿)および主要軍事基地を急襲、ニコラース・マドゥーロ大統領を逮捕、政権から排除して、裁判にかけること。

 別の情報によると、逮捕者には将軍、大佐、中尉、軍曹、文民女性らが含まれている。逮捕者の一部は軍事法廷で反逆罪で既に起訴されている。

 マドゥーロ大統領が最近、軍部に盛んに忠誠を求めているのは、このクーデター計画を制圧してからのことだ。2013年4月以来5年余りの施政中、最も危険な政変の陰謀だたっと、大統領が認識している証左と、同誌は指摘する。

 トランプ米政権は、その後、米軍および有志諸国軍によるベネズエラへの軍事侵攻でマドゥーロ体制を倒す方向に重点を置いている。
 マイク・ペンス副大統領の28日までのラ米3国歴訪、とりわけ伯赤両国訪問の狙いは、侵攻計画への賛意を取り付けるためと見られている。

▼ベネズエラ外相がカリブ諸国歴訪

 ホルヘ・アレアサ外相は6月26~27日、アンティグア&バーブーダ、セントルシーア、セントヴィンセント&グラナディーン、セントクリストファー&ネヴィスの4カ国を歴訪。
 それぞれの首相、ガストン・ブラウン、アレン・チャスターネット、ラルフ・ゴンサルヴェス、ティモシー・ハリスと会談し、カリブ石油連帯機構(ペトロカリーべ)による原油優遇輸出量削減への理解と、マドゥーロ政権支持を求めた。

▼コロンビア次期大統領が米国務長官と会談

 訪米中のイバン・ドゥケは6月29日ワシントンでマイク・ポンぺオ長官、ジーナ・ハスペルCIA長官と会談した。

 次いで、米州諸国機構(OEA)本部でルイス・アルマグロ事務総長と会談した。会談後、ドゥケは南米諸国にウナスール(南米諸国連合、本部キト)からの脱退を呼び掛けた。
 加盟12カ国のうち、伯パラグアイ亜智コロンビア秘6か国は既にウナスール関係の会合や行事への出席や参加を取り止めている。

 「米国の声」(VOA)放送は29日、ドヶケは、マドゥーロ大統領を国際刑事裁判所にかけるべきだと述べた、と伝えた。これはアルマグロが先に唱えた主張を受けたもの。

 一方、コロンビア政府は29日、政党FARCに対し、ドゥケ次期政権の移行チームとFARCとの会合を設定する意思を表明した。

 FARCは同日初めて、真実究明・共生・二度と再び委員会に出席した。FARC党首ロドリーゴ・ロンドーニョ(通称ティもチェンコ)が首席として姿を見せた。この委員会は、2016年の和平合意に基づき設置されている。

2018年6月29日金曜日

 モレーノ・エクアドール大統領がペンス米副大統領と会談▼ペンスの対ベネズエラ強硬路線に対し、モレーノは平和・民主的打開策を主張▼ラ米に流れる、米軍以下「有志軍」のベネズエラ軍事侵攻の観測▼ペンスはグアテマラ市で中米北部3国大統領と移民問題などで会談▼ニカラグア反政府勢力が不服従運動展開へ

 エクアドール(赤道国)のレニーン・モレーノ大統領は6月28日でキトで、来訪したマイク・ぺンス米副大統領と2時間会談した。

 会談後の記者会見でペンスは、「両国には10年間の困難な時期があったが今、新しい関係が始まった」と述べ、ラファエル・コレア前大統領(2007~17)とうまくいかなかった期間を振り返った。

 コレアは、内政干渉を理由に米大使を追放、太平洋岸のマンタにあった米軍基地を閉鎖した。昨年就任したモレーノはコレアの下で副大統領を務めた人物だが、コレアと袂を分かち、コレアの左翼外交路線を中道化してきた。

 先ごろ米州諸国機構(OEA)がベネズエラ追放を目指す決議を採択した際、赤道国はこの種の決議では初めて反対票(VEN支持)でなく棄権票を投じた。その直前、モレーノはペンスから電話で説得されていた。

 だがベネズエラ情勢に関しては、ペンスが「ベネズエラに民主回復を促すため、一層孤立させるための具体的行動が必要だ」と強硬路線を主張したのに対し、モレーノは「ベネズエラ人が平和的、民主的に解決を図るべきだ」と述べ、踏み留まった。

 ロンドンの赤大使館は2012年から、ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジ氏(豪州人)を亡命者として匿っているが、この問題について今回の赤米会談で話し合われたかどうかは明らかにされなかった。

 ペンスは、腐敗対策向け150万ドル、ベネズエラ難民支援向け200ドルの供与を発表した。赤国内にはVEN難民15万人がいる。

 モレーノは、赤産生花とマグロに対する輸入関税をなくすようペンスに要請した。昨年の対米輸出は60億ドル、輸入は45億ドルだった。モレーノは、コレア前政権が跳ね付けていた対米自由貿易協定(TLC・FTA)交渉に入る構えだ。

 ペンスは28日、グアテマラ市に到着。同地で対米移住問題、麻薬取締などについて、グアテマラ、ホンジュラス、エル・サルバドール(ES)の「中米北部三角形」3国大統領と会談した。

 会談後の合同記者会見で、ペンスは「腐敗、経済の脆弱性、暴力が中米危機の理由だ」とし、「我々の共同努力は実を結びつつあるが、国境の南側が一層努力すべきだ」と強調。中米3カ国に問題解決へのさらなる努力を促した。

 これに対し、サルバドール・サンチェス=セレーンES大統領は、自助努力をしてきたこと、国際協調が一層必要なことを説いた。ペンスはラ米3国歴訪を終え、帰国の途に就いた。
 

 ペンスは今回のラ米3国歴訪開始に際し、「合法入国でなければ米国に来るな」と同中米3国向けメッセージを発している。

 一方、ブラジルでは26日のミシェル・テメル伯大統領とペンスとの会談で、「ペンスはテメルをあたかも自分の補佐官のように扱った」と、ペンスの傲慢さとテメルの卑屈さを非難する論評が出ている。

 2人は記者会見で「ベネズエラ民主化」に触れ、ペンスは「VENに自由が復活するだろう」と述べた。しかし会談でペンスは、テメルにベネズエラにもっと厳しく当たれと要求していたという。

 ニコラース・マドゥーロVEN大統領は28日、「ペンスは失敗した。ボリバリアーナ革命は困難に対し毎時強くなっている」と表明した。

 ラ米の一部専門家の間では、トランプ米政権は米軍主導、伯亜秘コロンビア巴のラ米5カ国軍が参加するOEA有志国軍でベネズエラに軍事侵攻する計画の根回し工作中、との観測が流れている。

 コロンビアのイバン・ドゥケ次期大統領は28日,ワシントンで共和党の対ラ米外交政策の中心的存在であるキューバ系右翼マリオ・ルビオ上院議員と会談。次いで大統領安保担当補佐官ジョン・ボルトンと会談いた。
 テーマはいずれもベネズエラ情勢。ドゥケは右翼。ルビオ、ボルトンともに右翼で、軍事侵攻支持派だ。

▼ニカラグア反政府勢力が不服従運動呼び掛け

 オルテガ政権打倒を狙う反政府勢力は6月28日、政府当局の命令や決定に従わない運動を実行するよう全国に向け呼び掛けた。30日には大規模な抗議行進を計画している。

2018年6月28日木曜日

 ウルグアイで「大麻入りマテ草」販売へ▼ニカラグア政府が反政府側をクーデター画策と非難▼英国がアルゼンチン軍への兵器部品輸出再開▼コロンビア次期政権はFARC幹部を政界から排除する方針▼エル・サルバドール前大統領を公金横領で国際手配▼ペンス米副大統領がブラジル訪問▼アムロ候補がアステカ・サッカー場で選挙戦締め括る

 ウルグアイで7月から「大麻入りマテ茶」が販売される。保健相が許可した。「コセンティーナ」、「ラ・アブエリータ」の2つの銘柄を販売する業者が6月27日、モンテビデーオで明らかにした。

 「精神的影響はない」という。マテ草と大麻を煎じ湯を混ぜて飲む。普通のマテ草同様、誰でも自由に買える。マテ茶は南米南部で広く愛飲されている伝統茶。チェ・ゲバラも好んだ。

▼ニカラグア政府が「政変画策」と非難

 反政府勢力との対話に政府代表として出席しているデニス・モンカーダ外相は6月27日、「反政府勢力はオルテガ政権を街頭行動で排除しようと違憲行動を続けてきた。国際支援を受けた集団が加担している」と非難した。

 政府側が「事実上のクーデター」の陰謀と明確に表明したのは、4月18日に反政府行動が始まって以来、初めて。

▼英国がアルゼンチンへの兵器部品輸出を再開

 英政府はこのほど、亜国軍への兵器部品輸出再開を決めた。ペロン主義左翼政権だった2012年に関係が悪化、輸出は停止されてきた。

 輸出が再開される部品は、亜国海軍のミサイル搭載駆逐艦、空軍などのパンパ航空機の部品が主になる。

▼コロンビア次期政権派がFARC幹部排除方針を表明

 右翼のイバン・ドゥケ次期大統領派は6月27日、次期国会に、元ゲリラ組織FARCの幹部の参政権を剥奪する改憲案を提出する、と明らかにした。
 ゲリラ時代に人道犯罪に関与した幹部たちが対象という。国会は7月20日開会する。

▼エル・サルバドール(EL)前大統領を国際手配

 EL法廷は6月27日、3億5100万ドルの公金横領容疑でマウリシオ・フネス前大統領と他の14人を国際手配したと明らかにした。14人にはフネス夫人と息子2人が含まれている。フネス一家は2016年にニカラグアに亡命、マナグアに住んでいる。

▼ペンス米副大統領がブラジル訪問

 マイク・ペンスは6月26日ブラジリアで、ミシェル・テメル大統領とベネズエラ情勢を中心に会談した。ペンスは、ベネズエラ軍事侵攻への伯政府の同意を得たいところだが、伯外相が既に「平和解決」方針を強調、軍事路線への反対意志を表明している。

 ペンスは27日、アマゾニアの中心地マナウス市で、ベネズエラ人難民収容所を視察、式年所を表明。その後、エクアドールの首都キトに到着した。

 一方、ベネズエラのニコラース・マドゥ―ロ大統領は27日、「ペンスは毒蛇だ。欧州連合は米政府に跪いている」と非難した。

▼アムロ候補がアステカ競技場で選挙戦を終える

 3日後に迫っているメキシコ大統領選挙の最有力候補AMLOは6月27日、メキシコ市にある世界最大級のアステカ・サッカー競技場で、選挙戦を締めくくった。

 アムロ候補は演説で、「街に安心して出られる国にしたい。命が価値を持つ国に戻したい」と述べ、「麻薬戦争」などで極度に悪化している社会状況の改革方針を表明した。

 また、「国境の壁を越えずに夢を実現できる国にしたい」と強調。米国に出稼ぎに行かなくても暮らせるような経済条件を整える政策を優先させる姿勢を表した。

2018年6月27日水曜日

 ベネズエラ人ジャーナリスト1328人が過去8年間に出国と新聞労組発表▼用紙が買えず発行停止に追い込まれる地方紙も続出▼アルゼンチン国営通信TELAMが大量馘首▼メキシコ大統領選挙はアムロ優位変わらず

 ベネズエラ新聞全国労組(SNTP)は6月26日、2012年以来、記者、テレビ記者らジャーナリスト計1328人が出国した、と明らかにした。

 また、活字メディア15、電子メディア4、TV施設1が、新聞用紙不足など原材料入手困難により影響を受けた。用紙は、用紙販売会社が売るのを拒否したためという。同労組は、背後に当局の圧力があったとしている。

 地方紙も影響を受けている。8紙が用紙を買えないため発行を停止した。4紙は週末版発行を止めた。2紙は、日刊から週刊に切り替えるのを余儀なくされた。

 SNTPによれば、今年既にメディアへの侵害事件が113件起きている。うち87件では労組員24人が逮捕された。ジャーナリストへの侵害は61件起きた。いずれも当局絡みという。

▼アルゼンチン国営通信社TELAMが従業員馘首

 TELAMは6月26日、記者職を含む従業員354人を馘首したと発表した。政府は財政難のため、経費削減政策を進めている。

 2003年の同通信社の従業員は479人だったが、15年末にマクリ現政権発足が決まると、発足直前に従業員は水増し雇用され926人に、ほぼ倍増した。政権を離れるペロン主義勢力が自派要員に職を与えたのだ。だが記者職に採用された者の多くは、未経験者、無能力者だったという。

 TELAM幹部は、通信社を真のジャーナリズム機関として生まれ変わらせるために荒療治もやむをえない、との立場だ。

▼メキシコ大統領選挙:アムロ候補が優位維持

 6月26日公表のバレラ社調査では、MORENAのAMLO(ロペス=オブラドール)49%、PANのリカルド・アナヤ28%、PRIのホセ・メアデ19%、無所属ハイメ・ロドリゲス4%。アムロ候補が圧倒的優位を保っている。

 7月1日実施の選挙では、正副大統領、上院議員128人、下院議員500人、首都メキシコ市長、8州知事を選ぶ。同市長および知事選でもMORENAが優位に立っている。 

2018年6月26日火曜日

 ニカラグア対話再開:オルテガ大統領が繰り上げ選挙を受け入れるか否かが焦点▼ペンス米副大統領がブラジル、エクアドール、グアテマラ歴訪へ▼ペルー人口は3100万人▼メキシコ大統領選挙はアムロ優位▼エクアドール記者の遺体特定▼EUがベネズエラ高官に入域を禁止▼ピノチェー将軍の公金横領内容特定さる

 ニカラグア政府と反政府勢力の間で起きている流血の紛争解決のための対話は6月25日、司教会議(CEN)の仲介で再開した。司教会議はダニエル・オルテガ大統領に対し、2021年実施予定の次期大統領選挙を来年3月末に繰り上げ実施するよう提案しており、この問題が中心議題となる。

 オルテガ大統領は、この提案を7日に受けた際、「考える時間が欲しい」と答え、その後、回答していない。このためCENは23日、大統領に19年3月選挙を受け入れるよう公式に表明するよう求めた。

 対話は、検証・治安、選挙、司法の3部会に分かれて開かれている。政府側はデニス・モンカーダ外相が首席代表。対話に参加する米州人権委員会(CIDH)と国連人権高等弁務官事務所の代表らは24日マナグア入りした。

 4月18日以来の反政府側の抗議行動開始以来、死傷者多数が出ているが、CIDHはその殺傷責任者特定を担当している。設置された「ニカラグア検証特別機関」(MESEN)に参加し活動する。

 オルテガは現在、連続3期政権にあり、22年からの4期目には妻で副大統領のロサリオ・ムリージョを後継者にしようと目論んでいた。その構想も崩れようとしている。

 対話の選挙部会は、選挙法改正で現職正副大統領の次期大統領選挙出馬を阻止しようとしているからだ。オルテガが繰り上げ選挙を認めれば、反政府側に勢いがつき、選挙法改正が成立する公算が大きくなる。

 依然厚いオルテガ支持層は4月以来の反政府活動と仲介対話を、米国が反政府勢力の背後で操る「時間をかけたクーデター」と見なし、非難している。ベネズエラで繰り返し展開されてきたグアリンバ(政治的街頭武力)の焼き直しと見ているのだ。

▼米副大統領がラ米歴訪へ

 マイク・ペンス副大統領は6月26日からブラジル、エクアドール、グアテマラを歴訪する。ペンスのラ米訪問は3度目となる。

 ブラジリアでミシェル・テメル伯大統領とベネズエラ情勢を中心に会談する。伯マラニョン州のアルカンタラ基地を、米航空宇宙局(NASA)の衛星打ち上げ基地として使用するための話し合いもする。

 ペンスはブラジリアからマナウス市に移動、同市内にあるベネズエラ人難民収容所を視察する。ブラジルには同難民5万人がいるとされる。その後、キトに行く。

▼ペルー人口は3100万人

 秘統計庁は6月25日、人口は3123万7000人と発表した。昨年10月、国勢調査が実施された。

▼メキシコ大統領選挙支持率はアムロ優位続く

 ミトフスキ社調査では、ARENA候補アムロ(ロペス=オブラドール)37・7%、前政権党PANのリカルド・アナヤ20%、政権党PRIのホセ・メアデ17・7%、無所属ハイメ・ロドリゲス3・1%。残る21・5%は未定・棄権・白票。

▼エクアドール取材班の遺体確認

 コロンビア検察庁は6月25日、ナリーニョ州内で21日発見された男性3人の遺体は、エクアドール紙エル・コメルシオ取材班員と特定した、と発表した。遺体は、カリ市で司法解剖に付されていた。

 3人は3月下旬、コロンビア国境のエスメラルダ県取材中にコロンビアゲリラの残党に拉致され殺害された。ハビエル・オルテガ記者、パウール・リバス写真記者、エフラーン・セガ―ラ運転手の3人。遺体は直ちにエクアドールに空輸される。

▼欧州連合(EU)がべネズエラ高官に制裁発動

 EUは6月25日、デルシー・ロドリゲス副大統領、タレク・アルアサミ前副大統領ら11人にEU入域を禁止し、EU域内にある資産を凍結した。
 ベネズエラ政府は「内政干渉」と反駁した。VEN国内にはEU人60万人が居住している。米加巴3国は既にVENに制裁中。

▼チリ最高裁がピノチェーの公金横領内容を特定

 最高裁は6月25日、故アウグスト・ピノチェー将軍の資産2100万ドルのうちの不正蓄財部分に含まれる730万ドルを特定したと発表した。不動産、銀行預金、乗用車など。14年間の調査の末にたどり着いた。他に600万ドルが特定されている。

 計1330万ドルは公金横領による。最高裁はピノチェーの遺族に返還を命じている。返還をめぐり遺族および、ヴァージン諸島の金融機関との係争のもある。不正蓄財はほかに約400万ドルある。
 
 

2018年6月25日月曜日

 ベネズエラ副大統領がトランプ米大統領との「対話の用意」を表明▼マドゥーロ大統領は国軍に団結と忠誠を求める▼メキシコ大統領選まで1週間、アムロ候補が優勢▼アルゼンチン司教らがマクリ大統領に貧者救済を要請▼キューバ人口が減少

 ベネズエラのデルシー・ロドリゲス執権副大統領は6月24日、ジャーナリスト、ホセ=ビセンテ・ランヘ―ルの日曜TV番組に出演、ランへ―ルとの質疑で、「もしドナルド・トランプ米大統領と会う機会があれば、ベネズエラ政府は敬意を払い合える対話を持つ用意がある」述べた。また、他の諸国とも対話する用意があると語った。

 同番組が公表した最新の世論調査結果では、ベネズエラ内政問題への外国介入に回答者の76%が反対した。73%は、米政府による経済制裁を糾弾した。

 ニコラ―ス・マドゥーロ大統領(国軍最高司令官)は24日、シモン・ボリーバル麾下の解放軍がスペイン植民地軍を破った「カラボボの戦い」の197回記念日(VEN陸軍創立記念日)に際し、カラボボ州内の縁の地でブラディミール・パドリーノ国防相ら国軍高官らと、国軍兵士1万5000人の行進を観閲。その折の演説で、「隊列を整え、裏切者と寡頭勢力との戦いに備えよ」と号令をかけ、忠誠を求めた。

 大統領は、「コロンビアには、VEN国軍(FANB)を分裂させ対立させようと画策する勢力がある。だがボゴタからの裏切りを求める歌に騙される者はいない」と続けた。

 マドゥ―ロは大統領選挙で再選を果たした直後の5月24日、制憲議会(ANC)での宣誓式でも、「我々は、規律ある、文民統制に従う、祖国・憲法・人民・最高司令官(大統領)に忠実な団結した国軍を必要とする」と述べ、忠誠を求めている。

 反政府系NGO「ベネズエラの正義」は、国軍要員約150人が政治的理由で拘禁されていると主張している。大統領が繰り返し忠誠を求めるのは、国軍内の造反勢力を抑え込む必要性が依然あることを示唆している。

 一方、故ウーゴ・チャベス前大統領の側近の一人で、石油相兼国営石油(PDVSA)社長、外相、国連大使などを歴任後、マドゥーロ大統領に左遷されたラファエル・ラミーレス氏は24日、アポレア電子紙に長文の主張を寄稿、大統領と側近らをこてんぱんに扱き下ろした。

▼メキシコ大統領選挙支持率でAMLOが優勢維持

 7月1日の選挙1週間前の6月24日、公表された支持率はARENA候補ロペス=オブラドールが48・1%で抜きん出た1位だった。
 2位はPANのアナヤ25・5%、3位は政権党PRIのメアデ22・5%。他の1人は泡沫的存在。この国の大統領選挙には決選制度はなく、1位得票者が当選する。

▼亜国社会派司教会議(CEPAS)が大統領に要請

 CEPASは6月24日、マウリシオ・マクリ亜国大統領に、経済調整が貧者の犠牲の下に実施されてはならないと申し入れた。また、「何百万人もが貧困に喘いでいる」と指摘、民主的な経済政策で対外債務返済と貧困救済を果たすべきだと訴えた。

 マクリ政権は、新自由主義の手法である経済開放政策を2年半とり続けてきたが、通貨ペソが暴落。このほどIMFから500億ドルの融資約束を取り付けた。

▼キューバ人口が減少

 玖統計・情報庁(ONEI)ONEIによれば、2017年の人口は1122万人で、前年比1万8000人減少となった。同年の出生は11万5000人、死者10万7000人、出国者2万6000人だった。  

2018年6月24日日曜日

 国連人権高等弁務官事務所がベネズエラ人権状況の報告を公表▼ベネズエラ政府は「信憑性がない」と一蹴▼専門家は「弁務官事務所は対VEN糾弾の意図持つ」と批判▼チリ最高裁がピノチェー遺族に公金返還を命令

 国連人権高等弁務官事務所は6月22日、「ベネズエラにおける人権蹂躙ー終わりなきような下降循環」と題する報告書を発表。「治安部隊による殺人、略式処刑、抗議運動過剰規制、拷問、不法逮捕があった」として、国際刑事裁判所による調査の必要性を指摘した。

 同事務所は、VEN入国が許されないため、VEN国外でVEN人150人への事情聴取含む情報や資料を編集し、報告をまとめたと明らかにしている。

 これに対しベネズエラ外務省は同日、声明を発表。「信憑性がない。この種の機関に必要な客観性、公正、非恣意性に欠けている点で技術的厳しさもなく、高度に疑わしい」と、報告内容を糾弾した。

 サイド・ラアド・アルフセイン高等弁務官にありがちな制度性への過小評価がある、とも批判。「同弁務官は、過去数か月間、諸外国政府がベネズエラに科してきた経済制裁がVEN人民の経済・社会・文化的享受権を一方的に妨げる否定的影響を及ぼしている事実に触れていない。彼は、進行中の多面的な反VEN侵害の共犯者だ」と扱き下ろした。

 外務省声明はまた、「政府が提出した情報は悉く無視された」とし、メディアの虚偽報道に沿ったでっちげと非難した。

 ジュネーブの国連人権理事会に関与する専門家アルフレド・デサヤス氏も「信憑性と客観性に欠ける」と報告内容を批判した。

 同氏は2017年にベネズエラを訪問、4~6月、カラカスをはじめ同国各地で起きた反政府勢力によるグアリンバ(政治的街頭暴力)について調査、報告書をまとめた。反政府側に起因する殺人が124件起きていたことなどが記されている。

 デサヤス氏は、私の報告は無視されたと前置きし、「高等弁務官事務所や反ベネズエラの諸NGOは、私がVEN政府と<人道危機>を糾弾するのを望んでいた」と非難した。

 一方、スペイン政府は22日、VEN国営石油(PDVSA)の元保安・損害予防局長ラファエル・レイテル容疑者の身柄を米国に引き渡すことを決めた。
 同容疑者は、「組織犯罪関与と資金洗浄」で米当局から指名手配されている。米国内での不動産取引も絡んでいるという。

▼チリ最高裁がピノチェー遺族に510万ドル返還命令

 チリの独裁者だった故アウグスト・ピノチェー軍政大統領は、側近らとともに6400万ドルの公金を横領。その約3分の1弱はピノチェーの個人資産となっていた。

 同個人資産2100万ドルのうち1780万ドルは「不当な収入」とされ、その一部510万ドルの国庫への返還が命じられた。ピノチェーと側近らは、米リグ銀行などに計125の隠し口座を持っていたという。

 ピノチェー陸軍司令官らが決行した1973年9月11日の軍事クーデターから45年になる。この政変後、反軍政市民ら3200人が殺された。

2018年6月23日土曜日

 ブラジル最高裁がルーラ元大統領の釈放要請を却下▼ホセ・ムヒーカ氏がルーラに面会、釈放を訴える▼インド大統領がキューバ訪問▼米副大統領がコロンビア次期大統領と会談、ベネズエラへの内政干渉政策促進で合意▼米州人権委員会がニカラグア報告提出

 ブラジル最高裁のエジソン・ファシーン判事は6月22日、汚職事件で拘禁中のルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ元大統領の釈放要請を却下した。最高裁はルーラの
案件で最終審理し、判決を下す。
 ルーラはパラナ州都クリチーバの警察本部拘置所に拘禁されている。10月の大統領選挙に出馬する方針で、支持率1位を維持している。最高裁判決で有罪が確定すれば、極右の新人候補に当選の可能性が開ける。

 ウルグアイのホセ・ムヒーカ前大統領は21日、ルーラに面会した。その直後の記者会見で、「ルーラはブラジルとラ米の将来をとても憂慮していた。ブラジルが良くなればラ米も良くなり、ブラジルが悪くなればラ米もそうなる」と述べた。
 この発言は、極右候補の躍進をルーラとムヒーカが強く懸念していることを物語る。

 ルーラは、ルーラが所属する労働者党(PT)のグレイジ・ホフマン党首と共にルーラに会った。記者団に、ルーラ釈放を願うと述べた。

▼インド大統領がキューバ訪問

 ラムナス・ゴヴィンド大統領は6月21日、サンティアゴに到着、フィデル・カストロ前議長の墓地に参拝した。22日にはハバナでミゲル・ディアスカネル議長と会談、帰国の途に就いた。

▼米副大統領がコロンビア次期大統領と会談

 マイク・ペンス副大統領は6月22日、ワシントンでイバン・ドゥケ次期大統領と会談、「ベネズエラの民主回復促進」で合意した。米国に伝統的なラ米での内政干渉政策にコロンビアが本格的に関与してゆくことになる。

 一方、米下院議員3人はこのほど、FARCとの和平合意見直しを主張しているドゥケに対し文書で、和平強引順守を求めた。

▼米州人権委員会(CIDH)がニカラグア情勢で報告

 米州諸国機構(OEA)機関であるCIDHは6月22日、ワシントンのOEA本部でのOEA大使会議の場で、4月18日から今月19日までの期間に、一連の反政府行動、および政府側の規制行動の過程で死者212人、負傷者1337人が出ていると報告した。今月6日現在の拘禁者は507人という。
 報告は、政府側による人権侵害の可能性を指摘した。

 これに対し、会議に出席したニカラグアのデニス・モンカーダ外相は、「CIDH調査は本質的部分が欠けており、これを最終調査報告として受け入れることはできない」とはねつけた。同外相はまた、「ニカラグア政府の平和、対話、民主の基本姿勢」を強調した。 

2018年6月22日金曜日

  スペイン国王がトランプ大統領に「ベネズエラ民主回復」で協力呼びかけ▼内政干渉にベネズエラの実力者が反駁▼野党指導者ファルコンが新しい政党連合結成▼VEN原油輸出落ちる▼キューバ議長が聖母参拝

 訪米中のスペイン国王フェリーぺ6世がベネズエラへの内政干渉発言をし、物議を醸している。
 国王は6月20日、ホワイトハウスにドナルド・トランプ大統領を表敬し会談。「西米両国には協力し合える分野がたくさんある。ベネズエラの民主回復に努めるのは重要な仕事になる」と述べた。

 トランプは、ニコラース・マドゥーロVEN大統領排除の旗頭であり、これを踏まえて国王が「協力」を持ち掛けたのは疑いない。だがトランプは、国王に直接的な返答はしなかったもよう。

 国王は、メキシコの版図が最大だったヌエバ・エスパーニャ副王領時代に、テハス地方(現・米テキサス州)にスペイン人が築いたサンアントニオ市の建都300年記念式典に出席、その後、ワシントンを訪れた。

 国王発言に対し、ベネズエラ制憲議会のディオスダード・カベ―ジョ議長はすぐさま反駁。「ベネズエラにはスペインの100万倍もの民主がある。真の参加型人民主権がある」と強調した。

 さらに、「生涯に一度も選挙の洗礼を受けないのが国王だ」と揶揄。フェリーペ国王を「エル・ティポ(奴)」と呼んだ。カベ―ジョはマドゥーロ大統領に次ぐ実力者。

 一方、5月20日のVEN大統領選挙で善戦した野党指導者ヘンリー・ファルコンは21日カラカスで、新しい政党連合「変化のための協和」を設立した。
 ファルコンは、旧来の保守・右翼野党連合MUDについて、「MUDが私から離れていった」と述べた。MUDは大統領選挙をボイコットし、出馬したファルコンと袂を分かった。

 国営石油PDVSAによれば、6月前半のVEN原油輸出は日量76万5000バレルだった。5月の平均輸出日量113万3000バレルから32%減っている。

 VEN政府は19日、政治的暴力などで収監されていた服役囚17人を新たに釈放した。

▼キューバ議長が聖母コブレに参る

 ミゲル・ディアスカネル国家評議会議長は6月20日、東部のサンティアゴ市郊外にある聖堂に安置されている聖母像に参拝した。

 カストロ兄弟との「作風の違い」を内外に印象付け、支持基盤拡大を目指す方策の一環。無論、ラウール・カストロ共産党第1書記と打ち合わせた上でのことだ。

2018年6月21日木曜日

 グアテマラ大統領が性的虐待で告発さる▼被害女性が告発事実を確認へ▼ダンテ・カプート元アルゼンチン外相死去▼メキシコの日本大使館が在留邦人に勧告

 フエゴ火山の大爆発で災害非常事態下にあるグアテマラのジミー・モラレス大統領が、女性への性的虐待で告発されている。被害者の女性は5月前半、検察庁に告発したが、同庁が「告発状を受理していない」と表明しているため、近日中に告発を確認するという。同国のプレンサ・リブレ紙が6月20日報じた。

 これに先立ち同国のエル・ペリオディコ紙は18日、エドガル・グティエレス元外相執筆の「最悪の大統領」と題する論評記事を掲載。喜劇役者出身のモラレスを「政治政策を持たずに就任した」と扱き下ろし、「モラレスは複数の若い女性への性的虐待に関与した」旨を暴露した。同紙は19日には、関連する論評記事を掲げた。

 プレンサ・リブレ紙によると、告発した女性は生命の危険を感じているが、数日内に告発した事実を確認する。証拠と証人証言を用意しているという。

 これに対し政府は20日、一連の報道内容を否定した。モラレスは大統領候補だった2015年、別の女性から「性的侵害、致傷、脅迫、暴力」で告発されていた。モラレスはその時は「ある政治勢力が取った絶望的な手法だ」とはねつけた。

 大統領は5月には、友人が経営する安全保障会社が支払うべき脱税への罰金750万Q(ケッツァール)の95%を棒引きし、非難された。

 また5月16日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移した際、モラレスは現地での式典に出席したが、その折の大統領および随行団の往復旅費などは、ラス・ベガスでホテルやカジノを経営しているシェルドン・アデルソンという人物が負担した。

 これは大統領に同行したサンドラ・ホベル外相が明らかにしている。大使館移転と引き換えに外資20億ドルがグアテマラに投下されることが約束されており、アデルソンは投資家の一人だという。

▼ダンテ・カプート元アルゼンチン外相死去

 6月20日、ブエノスアイレスで死去、74歳だった。
 1983年、民政移管を受けて発足したアルフォンシン政権で外相を務め、ローマ法王ヨハネ=パウロ2世の仲裁で、ピノチェー智軍政とのビーグル水道領有権紛争の解決に動き、両国間の平和友好条約調印に漕ぎ着けた。

▼メキシコの日本大使館が在留邦人に勧告

 日本大使館は6月19日、在留邦人向けに、7月1日の大統領選挙を含む総選挙を前に、投票日から数日間、外出に注意するよう勧告した。日本外務省の指令に基づく。

 国会議員、市長などの候補や関係者が計114人も殺害され、政治家や家族への脅迫が続いている事実を指摘。情報を把握し慎重に行動するよう促している。

 ドイツ政府は5月、ドイツ人にメキシコ渡航を控えるよう警告している。今回の日本外務省の勧告は渡航抑制ではない。 

2018年6月20日水曜日

 サッカーW杯:初戦に敗れたコロンビアが悲観に陥る▼一転して、日本の「正当な勝利」讃える▼早くも監督交代説▼場外で不祥事、日本女性が気付かずに馬鹿にされる▼ベネズエラ制憲議会議長決まる▼グアテマラ火山麓は墓地化か

 W杯H組初戦で日本に敗れたコロンビアでは悲観的な論調が充満している。6月19日の各紙電子版は一斉に「敗北の悲劇」を伝えている。

 エル・エラルド紙は、「ロシア2018の悲しい初戦」と題して報道。試合開始3分後のカルロス・サンチェスの赤札一発退場について、「1986年メキシコ大会でのウルグアイ選手ホセ・バティスタの開始後52秒の退場に次ぐW杯史上2番目の早さだった」と指摘した。
 さらに、「コロンビアは日本の鉄壁の守備陣によって、動くべき空間を封じられた」と評した。

 エル・エスペクタドール紙は、「H組で最もつつましい存在と見られていた日本は正当な勝利者として競技場を後にした 」と日本チームを讃えた。

 「コロンビア:悪い発進」の見出しを掲げたAS紙は、「日本は相手が1人減った後、秩序を保ち、驚愕したコロンビアの空間を封じてしまった」と、これまた日本を評価した。

 エル・ティエンポ紙は、サランスクの競技場で観戦したハメス・ロドリゲスの娘サロメ―が試合後、母親ダニエーラと抱き合って泣いていた、と写真付きで報じている。衝撃的敗北を象徴する場面として捉えたようだ。

 当のハメスは、「顔を上げ、忍耐をもって、次の試合に希望を託そう」と表明。ラダメ・ファルカオも、「敗戦は悲しいが、この逆境を好機に変えよう。対ポーランド戦は命がけで戦う」と決意を表した。

 コロンビアのホセ・ポケルマン監督への批判も渦巻いている。「引き分けを狙っていたさなかに決勝ゴールを決められてしまった」という見方が多い。
 采配の誤りは、クアドラードとキンテーロを交代させたことと、不調のハイメを出場させたこと。この批判も多い。

 監督自身、「サンチェス退場後、試合の進め方が複雑になった」と述べ、「コロンビアの決勝リーグへの展望を日本が暗くした」と本音を吐いた。

 「大会終了後、監督が交代する可能性がある。ドイツ相手にメキシコを勝たせたフアン=カルロス・オソリオ監督(コロンビア人)が有力な選択肢だ」ーこうした観測が早くも 各紙誌面を賑わわせている。

 一方、サランスクの競技場外でも問題が起きていた。コロンビア人の男性サポーターが禁じられている酒を観客席に持ち込んで飲んでいる映像が公開され、ロシア当局は調査するもよう。
 コロンビア外務省もこの問題を把握、懸念を表明している。

 また試合後、観客席でごみを片付けていた日本の若い女性サポーター数人に、コロンビア人男性サポーター2人が、スペイン語で「私は雌犬だ。どこにでも行く売春婦だ」と言わせた映像が公開され、問題になっている。
 「これが問題の<2人のスペイン語教師>だ」と、同男性2人を糾弾する記事も出ている。「日本人女性が西語を理解しないのをいいことに卑猥な言葉を押し付けた」と厳しい。

 あるコロンビア人女性は、「いったいどんな種類のコロンビア人がロシアに行っているのだろう。恥ずかしい。すべての日本人女性と世界の女性にお詫びしたい」とSNSで発信している。

▼ベネズエラ制憲議会新議長決まる

 制憲議会(ANC)新議長に6月19日、ディオスダード・カベ―ジョ元国会議長が選出された。デルシー・ロドリゲス(前)議長がこのほど執権副大統領に転出したため、後任選びが進められていた。

 カベ―ジョは、マドゥーロ政権の政権党PSUV(ベネズエラ統一社会党)の副党首。元陸軍中尉で、故ウーゴ・チャベス前大統領の側近だった。陸軍中佐だったチャベスが空挺、戦車部隊を率いて1992年に起こしたクーデター未遂事件にも参加した。

▼グアテマラ火山の麓一帯は墓地化か

 フエゴ火山の大爆発で厚い火山灰に覆われた麓一帯は、埋没した住民の遺体や家屋を発掘しないまま、広大な墓地(カンポ・サント)になるもよう。当局者が6月19日明らかにした。
 6月初めからの爆発で、171万人が被災、1万3000人が家屋を失った。110人が死亡、197人が行方不明となっている。

2018年6月19日火曜日

 メルコスールがアスンシオンで首脳会議▼欧州連合(EU)など他の経済ブロックとの経済合意問題を討議▼中国との経済関係促進も▼ベネズエラ情勢に関する特別声明を採択▼国連がプエルト・リコ独立を米国に求める決議を採択

 南部共同市場(メルコスール)は6月18日、アスンシオンで定例首脳会議を開催。議長のパラグアイ大統領オラシオ・カルテスは、海岸線のない同国の内陸国性に鑑み優遇措置を受けられるよう、他の3国に要請した。
 カルテスは任期満了で8月退陣するため、最後の首脳会議となった。

 会議にはカルテスの他、ウルグアイのタバレー・バスケス、ブラジルのミシェル・テメルの両大統領、アルゼンチンのガブリエーラ・ミケッティ副大統領が出席した。マウリシオ・マクリ亜国大統領は通貨ペソ下落など経済問題への対応に終われ、欠席した。
 ベネズエラも加盟国だが、「民主秩序の欠如」を理由に資格停止処分中。

 会議では、欧州連合(EU)をはじめ他の経済ブロックとの協定締結問題とベネズエラ政情が主に話し合われた。EUとの協定は大幅に遅れている。
 向こう半年間の議長となったバスケス・ウルグアイ大統領は、中国との経済合意促進を表明した。

 会議は、「ベネズエラ情勢への深い懸念」「ベネズエラ人難民問題の軽減措置の必要性」などを盛り込んだ特別声明を採択して閉会した。

▼国連がプエルト・リコ自決決議を採択

 国連非植民地化特別委員会は6月18日、米植民地プエルト・リコの民族自決と独立の権利を認め、それを受け入れるよう米政府に要求する決議案を可決した。

 決議案はキューバ、ニカラグア、ベネズエラ、エクアドール、ロシア、シリアの6カ国が共同提案した。同じ決議が過去に何度もなされているが、米国は無視してきた。

 スペイン領だったプエルト・リコは1898年以来、米国の植民地にされてきた。米政府は「米国との自由連合国家」化を徐々に進めようとしているが、国連委決議は、独立を求めている。

 プエルト・リコは「豊かな港」を意味。コスタ・リカ(豊かな海岸)同様、その昔、金銀財宝を探しに来たスペイン人が命名した。

2018年6月18日月曜日

 コロンビア次期大統領に右翼政党候補イバン・ドゥケ▼決選で左翼候補グスタボ・ペトロを下す▼FARCは和平合意改悪は内戦再開を招くと警告、対話を求める▼ベネズエラ外務省がニカラグア情勢で声明発表

 コロンビア大統領選挙決選は6月17日実施され、野党「民主中央」のイバン・ドゥケ候補(42)が当選した。予想通りの結果だった。8月7日就任する。

 極右のアルバロ・ウリーベ前大統領が率いる同党は、サントス現政権が2016年11月に到達したゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)との和平合意に強く反対していた。ドゥケは当確後、記者団を前に「和平合意を修正する」と言明した。

 これに対し、政党化したFARC(人民革命代替勢力 )の最高指導者ティモチェンコことロドリーゴ・ロンドーニョは記者会見で、「次期大統領に思慮分別を求める」と表明。合意が改悪されればコロンビアは再び政治暴力の巷に陥るだけだ、と警告した。
 さらに次期大統領に会って話し合う用意があると強調した。

 対抗馬の左翼・中道左翼・進歩主義路線の「人間的コロンビア運動」のグスタボ・ペトロ候補は善戦したが、及ばなかった。

 選管発表では、開票率93%段階での得票率は、ドゥケ54・28%(1031万票)、ペトロ41・54%(800万票)。投票率は44・35%。

 第1回投票は5月27日実施され、候補者5人が出馬、ドゥケ39%、ペトロ25%で、それぞれ1、2位となり、決選に進出した。

 前評判を覆せなかったペトロは、「これは敗北ではない。800万人もが私に投票してくれた」と述べ、ドゥケ次期政権に対し、野党の立場で平和構築や腐敗掃討などに尽力すると表明した。

 FARCのティモチェンコも、「従来と異なる野党勢力が国会に生まれる」と述べ、ペトロらの活動への期待を表明している。

 ペトロは上院議員、その副大統領候補だったアンヘラ=マリーア・ロブレードは下院議員になる。1991年の改憲で、決選に進出し敗れた正副大統領候補にはそれぞれ上下両院議席が与えられることになったが、国会はこの規約を昨年4月ようやく承認した。

▼VEN外務省がニカラグアに関し声明発表

 ベネズエラ外務省は6月17日声明を発表、二カラグア反政府勢力による政治目的での暴力行使を糾弾した。声明はまた、マナグアの貧困地区で2人が路上で焼き殺され、一家6人が自宅を放火され焼死した最近の事件を非難した。

 そのうえで、問題解決は対話によるしかないと強調した。声明は、暴動鎮圧のため出動しているオルテガ政権系私服武装組織による殺傷には触れていない。

 一方、ベネズエラ政府と反政府勢力の若い対話を仲介しているホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテロ元スペイン首相は15日カラカスで、野党の民主行動党(AD)、新時代(UNT)の代表および、国家選挙理事会(CNE,中央選管)の元幹部と会合した。

 サパテロはマドゥーロ政権が、反政府政治暴力事件などに関与し収監ないし拘禁されている囚人のうち、昨年12月69人、今年6月123人、計192人を釈放したのを、和解に貢献する措置として評価した。

 

2018年6月17日日曜日

 ニカラグア司教会議がオルテガ大統領に「来年3月29日選挙、4月15日就任」を提案▼大統領再選禁止含む改憲も▼生き残り戦略探るか、オルテガ・サンディニスタ体制

 ニカラグア政府と反政府勢力は6月15日、カトリック司教会議(CEN)の仲介で2週間ぶりに対話を再開した。首都マナグア市内にある聖母ファティマ神学校で開かれた。政府側首席代表はデニス・モンカーダ外相。

 双方は、①4月18日以来の一連の暴力事件による死傷者と加害者に関する調査を米州人権委員会(CIDH)が再開②国連と欧州連合の人権機関に対話参加を要請③米州諸国機構(OEA)事務局の介在④いかなる側からの暴力・脅迫も即時停止⑤双方による検証・治安委員会設置⑥いかなる監視活動も即時停止⑦道路交通を遮断している障害物の撤去⑧CEN調停案への政府回答めぐる討議実施ーで合意した。

 CENは7日、ダニエル・オルテガ大統領に、①大統領選挙を含む総選挙を2019年3月29日実施。大統領を含む当選者は翌4月15日就任②憲法改正ーを提案した。
 改憲は、選挙法改正、大統領再選禁止、最高裁判事任期延長に国会承認不可欠、などを定めるため。

 大統領は「対話の場で話し合う」と回答した。その「対話の場」は16日以降になる。オルテガが、21年10月予定の次期大統領選挙を2年半繰り上げて来年実施するCEN案に同意するか否かが焦点。

 同意する場合、向こう1年弱の間に生き残り戦略を探るはずだ。あるいは3月選挙案を数カ月遅らせる逆提案をする可能性もある。

 反政府活動と、これに対する政府側の弾圧が始まってから18日で2か月。死者は200人に近づいている。対話は、選挙繰り上げ実施の可否をめぐり山場に差し掛かっている。

▼TV番組で解説

 17日2100~2200のテレビ朝日「たけしTVタックル」の「軍事パレード」で、ペルーとコロンビアの特殊部隊などについて筆者は短く解説しました。その中で「(ペルー)アンデス地方の先住民族」とあるのは、「アンデス地方(の山岳高地でない低地の)先住民族」の意味です。ご参考まで。

2018年6月16日土曜日

 日本にメキシコ人2500万人を送り込めば即辞任だろう▼トランプ米大統領がG7会合で安倍首相に言い放つ▼メキシコ各紙が米紙報道基に伝える▼マクロン仏大統領にも言いたい放題▼米墨間で深刻な移民問題が野党大統領候補アムロの人気を押し上げる▼チェ・ゲバラ生誕90周年式典催さる▼ロサリオ市ではホセ・ムヒーカ氏が記念演説

 「ドナルド・トランプ米大統領は安倍晋三首相に対し、<君にはこの問題(移民問題)はないが、私はメキシコ人2500万人を日本に送り込むことができ、そうなれば君はすぐに辞めなければならなくなるだろう>と言った」

 メキシコのウニベルサル、レフォルマなど各紙電子版や、「シンエンバルゴ」など電子新聞は6月15日、一斉に報じた。同日の米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)の転電。

 WSJは、カナダで8、9両日開かれたG7首脳会議の際の非公式会合でトランプ大統領が例え話として発言したと、「その場にいた欧州連合(EU)高官の話」として伝えた。

 転電記事はまた、トランプ大統領がエマニュエル・マクロン仏大統領に対し、「君はこの問題(テロリズム)を認識せねばならない。なぜなら全テロリストがパリにいるからだ、と言った」と報じている。

 トランプ政権が昨年1月発足して以来、メキシコにとり在米同胞移民への扱いは深刻な問題となっている。「国境の壁」建設、TLCAN(北米自由貿易条約=協定=NAFTA)見直しを含め、制度的革命党(PRI)の現政権は押しまくられっ放し。

 これが、野党の大統領候補AMLO(アムロ=アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール)の人気を押し上げる主要な要因の一つとなっている。7月1日の大統領選挙でのAMLO当選が有力視されている。

▼ゲバラ生誕90年記念式典催さる

 玖サンタクラーラ市のラス・ビージャス中央大学講堂で6月14日夜、チェ・ゲバラの側近だったラミーロ・バルデス革命司令官(86、国家評議会副議長)、エステバン・ラソ人民権力全国会議(国会)議長、共産党幹部ら多数が出席し催された。

 詩人の故ニコラース・ギジェンの作品「チェ、コマンダンテ」(司令官チェ)の朗読、チェ・ゲバラに関係する音楽、歌、舞踊も披露された。

    またゲバラの生地である亜国サンタフェ州ロサリオ市で14日催された記念式典には、ホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領が来賓として出席し、モニカ・フェイン市長、ミゲル・リフシッツ州知事らを前に演説した。

 「エル・チェは思い通りに生き死んでゆこうと企図した。社会的戦士だった。写真に写るだけの夢想家でなく、理想と共に歩む模範的人物だった。その理想を実現しようとした」と述べた。 

2018年6月15日金曜日

 「ベネズエラへのいかなる干渉にも反対」とブラジル外相が言明▼チリ外相も同様の発言▼トランプ米政権からのVEN軍事介入の打診を拒否か▼VEN執権副大統領に女性闘士デルシー・ロドリゲス就任

 ブラジルのアロイジオ・ヌネス外相は6月14日、「ブラジルはベネズエラへのいかなる種類の干渉にも反対する。同国の問題は交渉を通じ平和裡に解決されねばならない」と述べた。

 チリのロベルト・アンプエロ外相も12日、「ベネズエラの問題はベネズエラ人が交渉で平和裡に解決すべきだ。リマグループなど国際社会は、それを支援する」と語っている。

 南米有力国外相の相次ぐ同種の発言は、対朝首脳会談が一段落したトランプ米政権が、マドゥーロVEN政権を軍事介入で倒したい誘惑に駆られている可能性を示唆する。

 ラ米諸国はこれまでに何度か、トランプ政権からのVEN武力加入の打診を拒否してきた。だが政権中枢や共和党内に右翼強硬派を抱えるドナルド・トランプ大統領が、中間選挙前に「対朝対話よりも鮮烈な成果」を挙げるため、VEN侵攻をあらためて画策している可能性は十分考えられよう。

 これまで米州諸国機構(OEA)で反マドゥ-ロの米国に同調してきたラ米保守・右翼陣営も、軍事侵攻に加担するのには二の足を踏む。
 ブラジル軍部は1964年、米国の後押しでクーデターを起こし、生まれた軍政は21年も続き、米国に意見を容れながら強権政策や左翼弾圧を進めた。
 チリ軍部も73年、米政府と連携し、アジェンデ社会主義政権をクーデターで倒した。

 今や、ラ米側の「ためらい(二の足)」が、ベネズエラにとり救いとなっている感がある。

 一方、ニコラース・マドゥーロ大統領は14日、政権中枢と閣僚の人事を発表。大統領権限を引き継ぐことのできる執権副大統領にデルシー・ロドリゲス制憲議会(ANC)議長を任命した。

 これまでの執権副大統領タレク・エルアイサミは、新設の産業・国内生産相と、経済部門担当副大統領になった。水産・農業、貿易・外資、都市農業、観光、公共事業、運輸、労働、女性、環境社会主義の9相も交代した。この他、新設された水利省の初代水利省も就任した。

 公共事業相になったマルレニー・コントレラス(前観光相)は、大統領に次ぐ実力者で、政権党PSUV副党首のディオスダード・カベージョの妻。カベ―ジョは以前、公共事業相を務めた折、大規模な汚職関与が指摘された。

 デルシー・ロドリゲスはマドゥーロ政権下で通信・情報相、外相、ANC議長を歴任。兄ホルヘは通信・情報相で、マドゥーロの側近中の側近。また兄妹の父ホルヘはマルクス主義政党「社会主義連盟」創設者で、1976年7月、秘密警察に拘置所で拷問され死亡した。

 マドゥーロ大統領は任命に際し、デルシーを「勇気ある百戦錬磨の若い女性にして殉教者の娘であり、実績は証明済み」と最大限に讃えた。デルシーはANC議長を兼務する。
 5月20日の大統領選挙で再選されたマドゥーロは来年1月、2期目に入るが、これに備え、大型人事で政権の内部固めをした。

 政府は12日、政治暴力事件関与などで収監されていた囚人11人を新たに釈放した。その一人、大学都市メリダで反政府学生運動の指導者として活動、16年月末から拘禁されていたビルカ・フェルナンデスは父親の母国ペルーに追放された。

 コロンビア軍は13日、VEN国境のアラウカ県フォルトゥル市の密林を空爆。和平に応じなかったFARC(コロンビア革命軍)の武闘継続派残党16人を殺害した。

▼本日発売の「週刊金曜日」誌に、『アイルランド革命』(小関隆著、岩波書店)の書評(拙稿)掲載。ご参考まで。

 「次期メキシコ大統領はAMLO(アムロ)」とCITIが当確予測▼マクロ経済重視は変わらず▼国産品輸出優先か▼NAFTA崩壊しても米墨貿易は続く▼中銀の中立性尊重し、通貨切り下げや金利上昇はない

 「AMLO(アムロ=アンドレス=マヌエル・ロぺス=オブラドール)の当選は堅い」。米大手銀行CITIのラ米担当首席エコノミスト、エルネスト・ㇾビージャは6月13日、メキシコ大統領選挙(7月1日)の行方を明確に予測した。

 ニューヨークの同行本店で、ラ米メディアの通信員らを対象に分析結果を語った。「焦点は今や、AMLOの政党連合が国会で多数派を占めるか否かだ。可能性はある」とも述べた。

 大統領選挙連続3度目の出馬の元メキシコ市長AMLOは、民主革命党(PRD)から分派した国家刷新運動(MORENA)に所属し、小党と政党連合「フントス・アレーモス・イストリア」(JHH=共に歴史を創ろう)を組んでいる。

 レビージャはまた、「AMLOの経済政策がどのようなもになるかわからないが」と前置きしながらも、「マクロ経済の安定を重視するはずで、そうでなくなる可能性は短期的には見当たらない」と指摘。「市場開放反対を唱えずに国産品輸出を保護するだろう」とも展望した。

 外資については、「北米自由貿易協定(NAFTA/TLCAN)の交渉が長引いているため、外資投下は目立たない状態が続くだろうが、メキシコが外資にとって魅力的な国であることは変わらないのではないか。しかし先行きの不確実さもある」と予測した。

 また、「仮にドナルド・トランプ米大統領がNAFTA離脱に踏み切ったとしても、米墨関係の濃密さから両国貿易が途切れることはあるまい」と語った。さらに、「中央銀行の中立性を尊重するだろう。ペソ下落や金利上昇はないだろう」とも分析した。

 AMLOは2度の敗北体験から、今回は必勝を期して財界や保守派との政策上の妥協も厭わず、選挙戦終盤で支持率が50%を上回る圧倒的強さを維持している。CITIは、「左翼人民主義者(ポプリスタ)」という過去のAMLOの印象でなく、立場や思想の異なる相手とも妥協できる「現実主義者」としてAMLOを見ているようだ。
 
 

2018年6月14日木曜日

 オルテガ・ニカラグア大統領に大統領選挙の来年実施を提案▼反政府勢力は拒否、全国ストを呼び掛け▼ベネズエラが12月に市会議員選挙実施へ▼VEN原油生産が日量139万バレルに落ちる▼ハバナで7月、サンパウロフォーラム開催へ

 ニカラグアの反政府勢力「正義と民主のための国民同盟」(ANJD)加盟の農民組織代表メダルド・マイレーナが6月13日明らかにしたところでは、ダニエル・オルテガ大統領に7日、2021年の次期大統領選挙を繰り上げ来年19年に実施するという提案が、仲介役の司教会議(CEN)からなされた。

 この旨は、ローラ・ドグ駐ニカ米大使も逸早く日量把握していた。同大使は先週末、来訪していたカレブ・マカリー氏と会合している。マカリーは、ボブ・コーカー米上院外交委員長から派遣された。このことは、オルテガが米側と何らかの取引をした可能性を示唆する。

 だが農民代表のマイレーナは13日、我々はオルテガ即時退陣を要求しており、「来年選挙」など受け入れられないと反発。ANJDは全国ストを14日に実施すべく呼び掛けている。

 CENは13日、政府と反政府勢力の対話を15日再開すべく双方に通告した。

▼ベネズエラが市会議員選挙を12月実施へ

 ニコラース・マドゥーロ大統領は6月12日、全国335市の市会議員選挙を12月に実施すると明らかにした。政権党PSUVは、候補者の半数を35歳以下の若者にする方針。

 一方、OPEC(石油輸出国機構)は12日、べネズエラの5月の原油生産量は日量139万バレルだったと発表した。VENが盟主のカリブ石油連帯機構(ペトロカリーベ)への好条件原油輸出も大幅に減っている。

▼ハバナで7月半ば、サンパウロフォーラム(FSP)会合

 キューバ共産党(PCC)のホセ=ラモーン・バラゲール国際局長は6月13日、ハバナで7月15~17日、第24回FSP年次会合を開く、と発表した。昨年のマナグア会合でハバナ開催が決まっていた。

 FSPは、ラ米・カリブ(LAC)地域の左翼・進歩主義勢力の一大会合。政府、政権党、政党、労連、人権団体、農民、先住民組織の代表や、知識人、芸術家、NGOなどが参加、広範は顔ぶれとなる。 

 今日14日、革命家チェ・ゲバラ生誕90周年記念日▼キューバや生国アルゼンチンで記念行事▼ハバナでは日玖合作映画「エルネスト」上映▼亜国ロサリオでは市営バスが特別路線走る▼現代キューバの若者は国外での「新しい生き方」目指す★ゲバラの娘アレイダが政府の経済政策を批判

 キューバ革命でカストロ兄弟と並ぶ英雄だった「エル・チェ」=エルネスト・チェ・ゲバラ(1928~67)=の公式な誕生日の6月14日、キューバ、アルゼンチンなどゆかりの地で生誕90年記念行事が催される。

 ハバナでは13日、エル・チェの側近中の側近だったハリー・ビジェガス革命軍退役少将らがシンポジウムで、革命家エル・チェについて語り合う。14日には、ラス・ビージャス州都サンタクラーラ入口にあるチェ・ゲバラ像前で遺族や政府要人が参列し、記念式典が挙行される。

 ここには1967年のボリビア遠征で死んだゲバラと部下たちの廟がある。日系ボリビア人ゲリラ、フレディ前村ウルタードの遺骨もここにある。
 その前村の25年の短い生涯を描いた日玖合作映画「エルネスト」(阪本順治監督、キノフィルムズ、2017年)が19日、ハバナで記念上映され、次いで一般公開される。この上映会には阪本監督が出席し挨拶する。

 生地である亜国サンタフェ州ロサリオ市では、社会党所属のモニカ・フェイン市長の肝いりで、市営トロリーバスの一路線が「エル・チェ路線」と名付けられ、革命家の顔が大きく描かれたバスが既に走っている。14日の前後、期間限定の走行だ。

 同市での14日の生誕90周年式典には、ホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領が来賓として参列する予定。ムヒーカは若き日、同国のゲリラ「民族解放運動(MLN)ートゥパマロス」の幹部で、警官隊に銃撃され死線をさまよったこともある。
 彼は革命直後のハバナとモンテビデーオでエル・チェに会い、影響を受けた。ムヒーカは2016年4月の来日時、東京での記者会見で、「人生で最も影響に残る人物はエル・チェだ」と語った。

 ロサリオ市内にはゲバラの立像がある。没後50周年記念日(昨年10月9日)前の8月、市内の右翼勢力がゲバラ像撤去運動を展開、賛否両派が対立した。今回のバスの車体に市側がゲバラの顔を描いたことにも像撤去派は激しく反発し非難している。

 15年末に保守・右翼陣営の財界人マウリシオ・マクリが大統領になって以来、右翼陣営が勢力を拡げている。ロサリオの像撤去運動は、その表れの一つだった。

 ゲバラは晩年、「新しい人間」という革命的人間像を打ち出した。様々な人物からの影響が見られるが、ジャンポール・サルトルもその一人だ。ゲバラはハバナでサルトル夫妻とフランス語で深夜語り合い、相互に強い印象を受けた。

 サルトルの「アンガージュマン」を実践したのが、知識人で医師だったエル・チェだった。アルジェリア対仏独立戦争期のイデオローグ、フランツ・ファノンの影響も見受けられる。大江健三郎の言う「正統的人間」もアンガージュマン思想に立っている。

 今日、キューバの若者たちは、外国での人生設計を企図し、出国してゆく。キューバ社会主義の「改革開放」の歩みの遅さに希望を失っているためだ。「新しい生き方」、これが昨今の多くの若者たちの希望となっている。

 4月に就任したミゲル・ディアスカネル国家評議会議長の最重要課題の一つは、未来への人材である若者に魅力的な「繁栄する社会主義社会」を建設することなのだ。

★チェ・ゲバラの娘アレイダが経済政策を批判

 医師アレイダ・ゲバラ=マルチは14日、玖通信社プレンサ・ラティーナのインタビューで、「玖労働者が給料だけで生活できないのは深刻な問題だ」と指摘。「生活費を海外からの送金に頼るのも(政策上)筋違いだ」とも語った。

 アレイダは、「経済政策の失敗があったが、これを修正するのは革命体制の美点だ」と述べ、「政府は経済状況改善にもっと尽力すべきだ。エル・チェが経済建設現場にもっと必要だ」と強調した。

 チェ・ゲバラは革命初期の1959~54年、農地改革庁工業局長、中央銀行総裁、工業相として経済建設に携わった。  

2018年6月12日火曜日

 マルティネリ前パナマ大統領が逃亡先の米国から送還さる▼「スパイ罪」などで起訴▼ニカラグアで平和集会▼コロンビア決選は保守・右翼候補優勢か

 パナマ前大統領リカルド・マルティネリ(66)被告が6月11日、米国からパナマに送還された。大統領任期を終えた直後の2015年、米国に逃亡したが、パナマ政府からの手配要請に応じた米当局は17年6月逮捕し、マイアミで拘禁していた。

 マルティネリはスーパー店チェーンなどを経営していた富豪。大統領任期中、批判的な政治家、ジャーナリストら約150人の言動をスパイする仕組みを公金で構築、「スパイ罪」で起訴された。公金横領罪でも起訴されている。

 パナマ政府は、米国にいるマルティネリの息子2人の身柄引き渡しも求めている。2人は、ブラジル大手建設会社オデブレシ(オデブレヒト)から5000万ドルを収賄した容疑がかけられている。

 退陣後の起訴を恐れたマルティネリは、法で禁じられている連続2選を求めて出馬しようと謀ったが、反対が多く、叶わなかった。

▼ニカラグアで平和集会

 オルテガ政権打倒を狙う暴力事件の停止を求める市民数千人は6月10日、首都マナグア中心部の革命広場で「和解と平和」を訴えた。

 政権は、対話仲介者のカトリック司教会議(CEN)から提示された和解案に16日までに回答するよう迫られている。

▼コロンビア大統領選挙決選は保守・右翼候補優勢か

 6月17日の決選は保守・右翼陣営のイバン・ドゥケ、中道・左翼陣営のグスタボ・ペトロの闘いだが、「ラ米地政学戦略研究所」(CELAG)は6月11日、支持率を発表。ドゥケ45・5%、ペトロ40%、浮動票など14・5%で、ドゥケ有利と見ている。

 その他7種類の支持率調査結果の平均値は、ドゥケ51%、ペトロ37%で、ドゥケが
圧倒的な優勢を維持している。投票率は54%程度と予想されている。

 ハイチ国軍が22年ぶりに復活▼ドミニカ共和国が安保理非常任理事国に▼ブラジル次期大統領候補支持率はルーラが1位維持▼キューバが米政府主張の「外交官音響被害」で声明を発表

 アイチ(ハイチ)国軍(FAH)は1996年廃止されたが、今年、22年ぶりに復活した。ジョヴネル・モイーズ大統領は2017年11月18日、国軍復活に踏み切り、最初の部隊兵士150人をエクアドール軍の下で訓練した。国防省も復活した。

 18年3月28日、エルヴェ・デ二国防相、ジョデル・ルサージ司令官(中将)を指揮官とする司令部が発足した。当面、陸軍を中心に兵員3000人で部隊編成する方針。現在、18~25歳の兵士候補500人を募集している。2020年以降、兵力を5000人にする計画。

 治安部隊は他に国家警察9000人と、小規模な沿岸警備隊がある。当面150~500人で編成する陸軍部隊は、工兵隊、環境保護隊、衛生兵隊、国境警備隊。

 治安は、米仏加が仕掛けた工作で、改革派のジャンベルトゥラン・アリスティド大統領がアフリカに連行され追放された2004年の政変に至る過程で、動員された無法者集団の暴力で極度に悪化した。

 このため同年、国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)が展開、治安確保に当たったが、2010年の大震災による大混乱もあって、治安維持は極めて困難だった。また派遣団兵士らが不法行為を働き、評判を落としたのも問題化した。

 派遣団は17年10月以降、国連ハイチ正義支援団(MINUJUSTH)に代わり、国際警察部隊1000人が展開。国家警察と共に活動している。今後は、FAHの態勢が整い次第、治安維持に投入される。

 国軍はデュヴァリエ父子2代の長期独裁期に政権の私兵化し、独裁終焉後は、旧勢力による政変の道具にされていた。そこで廃止された。

▼ドミニカ共和国(RD)が安保理非常任理事国に

 ハイチと国境を接するRDは6月8日、ボリビアに代わるLAC(ラ米・カリブ)枠の非常任理事国に選出された。任期は2019~20年。

▼ブラジル大統領選挙候補支持率はルーラが1位

 フォーリャ・デ・サンパウロ紙が6月10日報じた支持率調査で、労働者党(PT)候補ルーラ元大統領が30%で1位を維持。ルーラは警察拘置所に拘禁されている。

 また汚職まみれのミシェル・テメル暫定大統領の不支持率は82%で、歴代大統領最低の不人気度を記録した。

 ルーラの元にこのほど、フランシスコ法王から贈られたロザリオ(磔刑像付き数珠)が到着。ルーラを拘禁したテメル体制への法王側の暗黙の批判とも受け止められている。

▼キューバ政府が「音響被害事件」で声明

 玖外務省は6月10日、ハバナ駐在の米外交官らが「音響被害に遭った」とされる件について声明を発表した。要旨は次の通り。

 一、2018年5月29日付で米国務省から、同月27日、女性外交官1人がハバナの自宅で「音響被害に遭った」との連絡を受けた。

 一、玖政府は医師団、専門的調査団を派遣、同自宅一帯を調査したが「音源」など痕跡は見つからなかった。当該女性外交官にも会えなかった。

 一、(2016年末以後)1年余りの玖米合同調査の結果、この出来事を理由に対玖外交規模縮小を決めた国務省の立場を正当化しうる科学的根拠はなかった。

 一、国務省が6月5日付で、玖中両国で起きた、この種の一連の出来に関する合同調査団結成についての発表に留意する。

 一、玖国は、滞在外国人および駐在外交官の安全を厳重に守っており、このことは良く知られている。今後も対米協力に応じる。

2018年6月11日月曜日

 メキシコ次期大統領最有力のアムロ候補が開発・繁栄のための「同盟」計画暖める▼トランプ米大統領に会って提案する方針▼故ケネディ大統領の「進歩のための同盟」の中米地峡版▼移民流入食い止めが計画の主眼

 メキシコ大統領選挙(7月1日)の最有力候補AMLO(「アムロ」ことアンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール)元メキシコ市長は6月10日、チアパス州のグアテマラ国境沿いにあるタパチュラ市での遊説中、「当選したら」と前置きし、「相互に敬意を払い合う条件さえあれば、ドナルド・トランプ米大統領と会う」と述べた。

 トランプ大統領と会うことになれば、「移民問題などを平和裏に解決するため、米墨加3国と中米7カ国(グアテマラ、ベリーズ、エル・サルバドール、ホンジュラス、ニカラグア、コスタ・リカ、パナマ)で<開発のための同盟>(仮名)を結成すべく提案する」と述べた。

 これは、故ジョン・ケネディ米大統領がキューバ革命後の1961年、ラ米とりわけブラジルの「共産化」を防ぐために開始した「進歩のための同盟」(ALPRO)計画に倣った政策。ケネディは同計画のため、米欧日で総額200億ドルの費用を賄う考えだった。だが63年のケネディ暗殺で、この計画は尻つぼみに終わった。

 その後、64年のブラジル軍事クーデターが発生。軍事政権が強権と、人道犯罪を厭わない弾圧で、反共政策を遂行する。これを米国が支援した。だが東西冷戦終結から29年経った現在、反共政策は特にない。

 北米から中米地峡にかけての地域では長年、中米からメキシコへ、メキシコから米国へと経済難民が流入し、大問題になってきた。この地域には麻薬密輸、武器密輸、組織犯罪、人身取引などもある。根底には社会に渦巻く巨大な貧困問題がある。

 AMLO候補の「開発のための同盟」計画には、それなりの意味がある。北米自由貿易地域(加米墨)と米国・中米・RD自由貿易地域の連携による計画になるはずだが、この地域にはすでに幾つかの多国間開発計画があり、それらと重複しかねない難点がある。
 また、移民流入に厳しく、メキシコと中米を見下す発言をしてきたトランプ大統領が分担資金を出すかどうかもわからない。

 しかし「発想豊か」なのがラ米政治家の特長だ。実現するか否かは別問題なのだ。AMLOは2位候補に支持率で26ポイント差をつけている。自身も9日、故郷のタバスコ州ビヤエルモーサ市で「私の当選が覆ることはない」と言い切った。

 さらに、「大統領になったら公邸でなく自宅に住む。家族と私費で食事する。豊かな政府と貧しい国民という構図があってはならないからだ」とも語っている。

2018年6月10日日曜日

 ニカラグア司教会議がオルテガ政権に事態打開の回答迫る▼選挙法改正を政権が受け入れるか否かが鍵▼ブラジル労働者党がルーラ出馬を正式に表明▼ハバナ駐在の米外交官2人が帰国▼べネズエラ外相がチリ政府を非難

 ニカラグア司教会議(CEN)は6月8日、「オルテガ政権に7日、調停案を提出した。16日までに文書回答がなければ、仲介を止める」と表明した。CENは4月から続く反政府勢力と政権との流血の対決を止めさせるべく対話仲介の労をとってきた。

 対話は5月16日開始。期間1カ月のため、今月16日が期限となる。未確認情報によれば調停案は、死傷者多数が出ている今回の反政府行動と弾圧の真相解明や、選挙法改正を済ませたうえで、来年3月ごろ大統領選挙を実施、4月の政権交代を目指す。

 選挙法改正で、正副大統領の任期制限や現職出馬制限が図られ、連続3期目にあるダニエル・オルテガ大統領、および1期目のロサリオ・ムリージョ副大統領(オルテガ夫人)は正副大統領選挙出馬を封じられる可能性があるという。

 大統領は16日までに為すべきCENへの回答で、どう返答するのか、重大な局面が迫っている。回答が政権延命策になれば、反政府勢力の活動がさらに激化するのは疑いない。

▼ブラジル労働者党がルーラ出馬を発表

 労働者党(PT)のクレイジ・ホフマン党首は6月8日、今年10月の大統領選挙にルーラ元大統領が出馬する、と正式に発表した。8月15日の公示日に登録することになる。

 ルーラは現在、パラナー州都クリチーバ警察本部の拘置所に汚職罪で拘留されており、最高裁の最終判断を待っている。

▼在玖・米大使館員2人が新たに出国

 米国務省は6月8日、ハバナ駐在外交官2人が帰国し、医療診断を受けていると明らかにした。正体不明の音響で体調を崩している、という。

 昨年9月、同様の理由で米大使館員22人が引き揚げており、これで計24人となった。残る大使館員は16人程度となった。帰国した館員の多くはCIAの諜報員と見られている。「諜報対防諜」の戦いから派生した出来事との見方が為されている。

 トランプ政権は、この「事件」をきっかけとして、対玖経済関係や、米玖両国人の相互訪問を大幅に規制した。同様の出来事は最近、中国でも起きたと伝えられる。

▼ベネズエラ外相がチリを非難

 ホルヘ・アレアサ外相は6月7日、チリのラ・テルセーラ紙との電話会見で、「セバスティアン・ピニェーラ大統領は、チリ大統領選挙時から反ベネズエラ姿勢を露わにしていた。ピニェーラ氏がベネズエラとの関係を破壊した」と非難した。

 ピニェーラ政権のロベルト・アンプエロ外相は4日のOEA外相会議でVENを激しく攻撃したが、アレアサ外相は「チリ外相は個人感情を剥き出しにした」と指摘した。

 さらに、「ピニェーラ氏は、リマグループ代表のPPクチンスキ秘大統領が汚職で辞任したのを受けて、その後釜に座ったかのように対VEN攻撃に勤しんでいる」と皮肉った。

 VEN外相は、「わが国には人道問題はない。あるのは外部からの経済的、政治的な攻撃とメディアによる攻撃だ」とし、「ラ米・カリブの友邦や中ロ印トルコなどの協力で、経済制裁を打ち破ってゆく」とも述べた。

 また、「我々は1965年のRD(ドミニカ共和国)でも89年のパナマでもない。対話と政治で問題解決を図る。だが別の選択肢を強制されれば、対応するだけだ」と強調。過去に米軍に侵攻されたRDとパナマの例を挙げて、軍事攻撃の可能性に触れた。

2018年6月9日土曜日

 来年4月27に米州諸国機構(OEA)を脱退する、とベネズエラ大統領が言明▼テレスールは、米国は「汚い戦争」を続行と論評▼キューバが米国を批判▼VENとイランはOPECに支援要請▼ホセ・ムヒーカ氏の愛犬死す▼東京外大で映画「エルネスト」上映会催さる

 ベネズエラのニコラース・マドゥーロ大統領は6月7日、「2019年4月27日にOEA(米州諸国機構)を脱退する。その日、大動員をかけ盛大に祝おう」と述べた。

 大統領はまた、「マイク・ペンス米副大統領はOEA諸国にVEN追放に賛成するよう圧力をかけたが、追放決議に失敗した」と指摘。OEA外相会議に出席したホルヘ・アレアサ外相以下の「VEN外交団の勝利」を讃えた。

 ベネズエラは昨年4月27日、OEA脱退意志を表明。脱退手続きには2年かかり、それが完了する来年の同日を大統領は「脱退記念日」と捉えている。

 カラカスに本社のあるラ米多国籍TV「テレスール」(南部テレビ放送)は7日の論評で、OEAでのVEN追放工作に失敗した米政府は今後も「汚い戦争」や「経済戦争」をVENに仕掛けてくるだろう、と述べた。

 同論評は、その理由を①VEN国内に組織された強力な野党勢力がない②国際原油価格が上昇中③国軍が分裂する兆候はないーからとしている。

   同盟国キューバの外務省は7日、OEA外相会議の5日の決議について「受け入れ難い内政干渉」と糾弾した。
 玖共産党機関紙グランマは、米国とOEAには民主や人権に関し他国に教訓を垂れる道徳的資格はない、と厳しく批判。また、決議案に反対票を投じたカリブの小さな島国2国を「帝国に従わず、勇気、決断、正義を示した」と讃えた。

 一方、VEN石油省は7日、米国による経済制裁に対抗するため支援をOPEC(石油輸出国機構)に要請する、と明らかにした。
 同じく制裁に遭っているイランとともに加盟諸国に書簡で支援を求めたという。OPECは22日に会合する。

▼ホセ・ムヒーカ前大統領の愛犬死す

 ウルグアイのムヒーカ前大統領と22年暮らした雌の愛犬マヌエーラが6月7日死亡した。首都モンテビデーオ郊外に同氏が所有する農場の一角に埋葬されたという。

 この犬の左前足は半分しかなかった。2014年、当時大統領だったムヒーカが農場でトラクターを運転していた時、その機体の下に潜り込んだマヌエーラに気づかず、犬は足の切断を余儀なくされた。以後「三本足の犬」と呼ばれていた。

 ムヒーカは大統領時代、「我が政権の最も忠実な職員」とマヌエーラを讃え、自ら運転する車に乗せたり、旅行に連れて行ったりしていた。

 犬の晩年、歯がこぼれ落ちつつあるからと、食べやすい餌を与えるなど、愛犬を気遣っていた。ムヒーカ夫妻と愛犬の仲睦まじい関係は内外で有名だった。

▼東京外語大学で映画「エルネスト」上映会催さる

 府中市の東外大講堂で6月8日夜、「エルネスト」(阪本順治監督)上映会と座談会(トークショー)が催され、同大の学生、教授、一般市民ら約500人が参加した。
 1967年8月末、チェ・ゲバラ部隊のゲリラとしてボリビアで戦死した日系2世フレディ前村の短い人闘争の人生を描いた作品。

 座談会には、坂本監督、映画の原作『革命の侍』翻訳者・松枝愛、ジャーナリスト伊高浩昭が出席。作品の意味、日系人を超えたフレディの生き方、撮影の苦労話などが、質疑応答を交えて縦横に語られた。

 16日にはハバナで招待上映会が催され、阪本監督が出席し挨拶する。その後、一般公開上映される。今年末には外語大講堂でチリ映画3部作が上映され、トークショーもある。

2018年6月8日金曜日

 モレーノ・エクアドール大統領がベネズエラに国民投票もしくは再選挙の実施を提言▼VEN外相はOEA決議に賛成したラ米・カリブ諸国を非難▼VENの急務は原油生産回復▼グアテマラ火山爆発の死者101人に達す▼ペルー国会がケンジ・フジモリら3議員の資格停止を決める★「世界」誌がキューバ最新情勢記事を掲載 

 エクアドール(赤道国)のレニーン・モレーノ大統領はキトで6月6日、ベネズエラに対し、「5月20日の大統領選挙の正統性を実証するため国民投票をしてはどうか。さもなければ再選挙を実施してはどうか」と提言した。

 これはワシントンで開かれた米州諸国機構(OEA)外相会議が5日、ベネズエラ大統領選挙とその結果を認めず、同国のOEA加盟資格停止に向けた過程に入る」とする決議案を加盟34カ国中19カ国の賛成で可決したのを受けての発言。

 モレーノは、「ベネズエラに関する決定ができるのはベネズエラ人だけだ」とも述べ、米国をはじめとする反ベネズエラ諸国を牽制した。
 ただしモレーノは4日、マイク・ペンス米副大統領と電話会談しており、米政府の意向も汲んで、敢えてVEN説得発言に出た可能性もある。

 モレーノと今や犬猿の仲になっているラファエル・コレア前赤大統領が今VEN選挙監視で中心的役割を果たし「公明選挙だった」と評価したことへの当てつけの狙いもあるかもしれない。

 会議に参加したホルヘ・アレアサVEN外相はワシントンで6日会見し、前日の議決について、「我らのアメリカ(ラ米・カリブ諸国)にはボリバリアニズモ(シモン・ボリーバル主義=統合・連帯主義)を殺そうとするシカリオ(殺し屋)がいる」と指摘。賛成票を投じた19カ国から米加北米両国を除いた17カ国を暗に糾弾した。

 アレアサ外相が同じ会見で、「我がニコラース・マドゥーロ大統領のVEN政権はトランプ米政権との対話を望んでおり、私はマイク・ポンペオ国務長官と話し合いたい」と語った、とされる未確認情報がある。

 マドゥーロ政権は今回のOEA決議と前後して再三、OEAから自主的に脱退する手続きを昨年4月末から進めており、あと10か月余りで脱退が実現する、と強調している。

 米国以下の反マドゥーロ陣営は今回、ベネズエラ資格停止(事実上のOEA追放)の決議に必要な3分の2票(24カ国賛成)を確保できず、「資格停止に向けた過程に入る」との味の薄い決議にしか至れなかった。

 「埋蔵量世界一」のVEN原油を狙い、併せて米州での主導権回復を図りたいトランプ政権に残された決定的な手段は軍事介入。だが、これにはラ米諸国の多数派が賛成しかねており、当座の軍事侵攻はありそうもない。

    キューバ外務省は7日、OEA決議を「受け入れ難い内政干渉であり、国際法と国連憲章に反する。VEN対話に寄与しない」と厳しく批判した。

 日本一部メディアを含む反マドゥーロ国際メディアによる根拠に乏しい意図的報道で、ベネズエラらの印象は悪化しているが、マドゥーロ体制はいつになく堅固だ。

 問題は、経済の命綱である原油生産が日量150万バレルを切っていること。これを最低必要日産220万バレルに戻し、さらに300万バレルの大台を目指さねばならない。

 国際原油価格は、イラン情勢に加えVEN生産低下で上昇している。VENの生産能力は投資不足などで激減しており、VENは儲け時に儲けることが叶わない。VEN石油産業は、この深刻な矛盾に苛まれている。

▼グアテマラ火山爆発で101人死亡

 6月3日からのフエゴ火山(標高3763m)の大爆発で、死者は6日までに101人い達した。

 フエゴ火山の東にはアグア火山(3760m)があり、その鞍部は、古都アンティグア市(旧首都)と太平洋岸のケッツァール港を結ぶ幹線道路が走る。また、同港から北方の首都グアテマラ市に向かう自動車道の東側にはパカヤ火山(2552m)が噴煙を棚引かせるている。
[筆者は、この光景を何度も観てきた。今回の惨事に胸が痛んでならない。]

▼ペルー国会がケンジ・フジモリ議員らの資格を停止

 国会は6月6日、フジモリ、ギジェルモ・ボカーンヘル、ビエンベニード・ラミーレスの3議員の議員資格停止を決めた。3月、当時のPPクチンスキ大統領の弾劾阻止のため賄賂や影響力行使によって工作したのが理由。

 最大政党「人民勢力」(FP)のケイコ・フジモリ党首は実弟ケンジの議員剥奪決議案を提出していたが、定足数に至らず採択できなかった。
 姉と弟の骨肉の争いの背景には、父親であるアルベルト・フジモリ元大統領の恩赦釈放への賛否、次期大統領選挙の出馬争いがある。

 初出馬を目指す弟はクチンスキ弾劾阻止と引き換えに父の恩赦を勝ち取り、3度目の出馬を狙う姉は世論を慮って恩赦に反対した。

★本日発売の「世界」7月号(岩波書店)「世界の潮」欄に拙稿「<カストロ後>への転換期に入ったキューバ」が掲載されています。ご参考まで。 

2018年6月7日木曜日

 サンチェス・スペイン政権の閣僚17人中、11人が女性▼新鮮さで、保守・右翼の国民党との違い鮮明に▼ベネズエラ大統領が「CIAと結託した国営石油破壊工作」を暴く▼国際司法裁がVEN,ガイアナ両国から領有権問題で意見聴取へ

 スペインのペドロ・サンチェス新首相は6月6日、内閣を組閣、17人中、11人を女性が占める「女性優位内閣」となった。副首相兼首相府相に女性閣僚筆頭のカルメン・カルボ(60)が就任した。

 他の女性閣僚10人は、経済、財務、法務、国防、教育、労働、地方、環境、保健、工商の各相。
 一方、男性閣僚はジョセプ・ボレル外相(71)以下、内務、科学、勧業、文化、農水の6人。

 サンチェスは、スペイン内戦(1936~39)でファシズムに蹂躙された共和派の流れを汲むスペイン労働社会党(PSOE)の書記長から首相に就任。内戦で勝利したフランコ・ファシスト勢力の流れを汲む国民党(PP)との違いを明確にする狙いも込めて、女性を数多く登用する内閣とした。

▼ベネズエラ大統領が「国営石油会社破壊工作」を暴く

 ニコラース・マドゥーロ大統領は6月5日、国営石油PDVSA(ぺデベサ)の元幹部職員らはカラカスの米大使館と結託し、同社の原油資産能力を腐敗によって削ぎ、内部から同社を破壊しようと謀っていたと明らかにした。

 カラカスでのPDVSA労働者との会合で暴露したもので、関与した元幹部ら約80人を逮捕、未逮捕者は逃亡したという。
 大統領によると、元幹部らは米大使館で査証申請をした際、CIAから協力を持ち掛けられ協力した。ベネズエラの原油生産は、日量140万バレル台に落ちている。

 スペイン警察は6日マドリードで、PDVSAから横領された資金60憶ユーロを洗浄した容疑でベネズエラ人ホルヘ・リンコンを逮捕した、と発表した。ホルヘは、在米VEN人企業家ロベルト・リンコンの息子。

 一方、国際司法裁判所は4日、ベネズエラ東部のエセキーボ地方(ガイアナ西部)の領有権問題をめぐりVEN・ガイアナ両政府に同裁判所で18日に会合したいと通知した。VEN外務省が5日明らかにした。

 ベネズエラは、旧宗主国スペインから引き継いだ領土エセキーボ地方が、これを奪った英国から独立したガイアナの領土になっているとして、領有権を主張してきた。

2018年6月6日水曜日

 米州諸国機構(OEA)外相会議が「ベネズエラ追放」に失敗▼3分の2の多数派工作叶わず、決議案内容切り替えて可決▼注目されたニカラグア棄権▼ベネズエラは自主的脱退を再確認▼キューバ議長がグーグル社長と会談

 米州諸国機構(OEA,34か国加盟)第48回総会(外相会議、ワシントン開催)は6月5日、ベネズエラ大統領選挙(5月20日実施)を認めず、同国のOEA加盟資格の停止手続きを開始するという決議案を賛成19、反対4、棄権11で可決した。これは米国など反ベネズエラ勢力の失敗を意味する。

 米加墨秘智伯亜の7カ国は当初、ベネズエラの資格停止処分に持ち込む作戦を立て、米当局者は資格停止など重要決議に必要な3分の2(24カ国)の賛成を固めたと豪語していた。だが、それが強がりがったことが明らかになった。このため急遽、「資格停止手続き開始」に切り替えざるをえなかった。

 決議賛成19カ国:米加墨グアテマラ・ホンジュラスCR巴RD・COL秘智パラグアイ伯亜ガイアナ・ジャマイカ・セントルシーア・バルバドス・バハマ。
 反対4カ国:ベネズエラ、ボリビア、ドミ二カ、セントヴィンセント&グらナディーン。
 棄権11カ国:ニカラグア、エル・サルバドール、ハイチ、エクアドール、スリナム、ベリーズ、TT,グレナダ、セントクリストファー&ネヴィス、アンティグア&バーブーダ。

 従来、マドゥーロVEN政権に連帯していたニカラグアが棄権に回ったのが注目される。外相会議はこの日、「ニカラグア暴力即時停止」決議案をも可決した。その案文からは「オルテガNICA政権糾弾」の文言が外された。このことと棄権とは無関係ではない。
 ニカラグアの人権団体の集計では、4月半ばからの抗議行動する反政府勢力への弾圧過程で死者121人、負傷者1300人が出ている。

 会議出席のホルヘ・アレアサVENVEN外相は、「今日の決議はOEAの絶望の表れだ」と指摘。「我々は内政干渉し暴力を煽るOEAから自主的に脱退する手続きに既に入っている」、「OEAはVEN人民と軍部を離反させようとも画策した」と述べ、「大なる祖国万歳」で発言を締めくくった。

 一方、ベネズエラ最高裁は5日、エル・ナシオナル紙に対し、10億ボリーバルの賠償金をディオスダード・カベ―ジョ政権党副党首に支払うよう命じた。同紙は、スペイン王党派系右翼紙ABC報道を踏まえて、「カベ―ジョは麻薬取引関与者」と報じた。

 カベ―ジョは名誉棄損罪で訴えた。同紙が報道の根拠となる確乎たる証拠を示せなかったため、カベ―ジョの勝訴が確定した。エル・ナシオナルは反政府派の機関紙化していた。反政府街頭暴力に関与した極右政党に極めて甘かった。

▼キューバ議長が米議員、グーグル社長と会談

 ミゲル・ディアスカネル国家評議会議長は6月4日、来訪したジェフ・フレイグ米上院議員(共和党)、グーグルのエリック・シュミット社長と会談した。

2018年6月5日火曜日

 ポンぺオ米国務長官がOEA外相会議で内政干渉発言▼アレアサ・ベネズエラ外相が反駁▼マドゥーロ大統領はOEA脱退方針を確認

 米州諸国機構(OEA)外相会議の初日6月4日、マイク・ポンぺオ米国務長官が発言。加墨秘智伯亜とともにベネズエラ資格停止決議案を提出したことについて、「OEAは言葉に加え行動で示すべきだ。ベネズエラは真の選挙を実施することによってのみ米州社会から受け入れられる」と述べた。

 また「米国は従来通り、ベネズエラ人民をしっかりと守る」と強調した。これは明らかな内政干渉、帝国主義丸出しの発言。出席したホルヘ・アレアサVEN外相は反駁した。同外相は、故ウーゴ・チャベス前大統領の女婿。

 米国を含む7カ国は、5月20日の大統領選挙に圧勝し再選を果たしたニコラース・マドゥーロ大統領のベネズエラが「民主秩序が途切れた」と見なし、「民主制度正常化のため」としてOEA加盟資格停止を提案した。OEAの「米州民主憲章」条項に沿った措置。

 これは重要決議案であり、加盟34カ国の3分の2である24カ国の賛成が必要。米国のOEA大使は3日、24カ国を固めたと表明している。

 だがマイク・ペンス米副大統領は4日、エクアドール(赤道国)のレニーン・モレーノ大統領に電話し、「米赤関係活性化」を呼び掛けており、依然、多数派工作を続けていることを示した。
[この電話は5日国連総会で、マリーア=フェルナンダ・エスピノーサ赤外相が総会議長に選出されたことと無関係でない。]

 モレーノ赤大統領は、ラファエル・コレア前大統領のような左翼ではなく、中道是々非々主義者だが、米国とラ米保守・右翼諸国が主導する反マドゥーロ路線とは一線を画してきた。

 一方、マドゥーロ大統領は4日カラカスで、「米政府はLAC(ラ米・カリブ)諸国に対し、犯罪的、醜悪、恐喝まがい、脅迫めいた働きかけをしている。これはOEAでいつも見られる光景となっている」と、トランプ米政権を揶揄。

 続けて、「OEAは無用な機構だ。ベネズエラは米国の植民地省(OEA)から離脱する」と述べ、脱退方針を確認した。事実上の追放処分ともなりうる資格停止決議の有無に拘わらず1年後には脱退していることを加盟国に想起させた。

 マドゥーロ政権は去年4月末、離脱手続きに入った。規則上、脱退手続きには2年かかる。大統領は「必要な24カ月のうち既に13カ月が過ぎた」と付け加えた。一時、脱退中止説が流れていたが、この日、マドゥーロは脱退方針をあらためて明確にした。

 大統領は選挙後の23日から国内対話を開始、既に一部野党、野党系州知事、政府系州知事、市長、銀行協会などとの話し合いを終えている。現在、「対話第2節」に入ったところで、各種市民団体と話し合っている。

2018年6月4日月曜日

 米州諸国機構(OEA,34カ国加盟)の外相会議が4日始まる▼米加伯など7カ国がべネズエラ資格停止決議案を提出▼米国が多数派工作▼ボリビア大統領がペンス米副大統領を糾弾▼ニカラグアのオバンド枢機卿死去

 米州諸国機構(OEA、加盟34カ国)は6月4日、ワシントンの本部で第48回総会(外相会議)を開いた。ベネズエラ情勢が主要議題で、米加墨秘智伯亜の反ベネズエラ7カ国は同日、「民主秩序が途切れた」としてベネズエラのOEA加盟資格停止を提案した。5日、投票にかけられるもよう。

 これに先立ちカルロス・トゥルヒ―ジョ米OEA大使は3日、ベネズエラの加盟資格を無期限停止とする議案を成立させるのに必要な3分の2(24票)を確保した、と明らかにした。資格停止は事実上の追放処分。「ベネズエラ問題」を議案とする決定は18カ国の賛成で成立する。

    米国および同調する国々はまず、5月20日のベネズエラ大統領選挙を「無効」と決議し、次いで資格停止処分に移りたい考え。

 マイク・ペンス米副大統領は以前からマドゥーロ・ベネズエラ政権打倒に意欲を燃やしているが4日、OEA外相会議に出席し、ベネズエラ非難演説をぶつ予定。

 一方、ボリビアのエボ・モラレス大統領は3日、「ベネズエラでのクーデター計画に失敗したペンスは今また内政干渉しようとしている」と糾弾。「米帝国はOEAを、主権国を抑圧する棍棒として使おうとしている」と指摘した。

 OEAはケネディ米政権下の1962年、社会主義キューバを追放した。米政府は同年、米軍主体のOEA有志軍を組んでキューバを武力侵攻する画策をしていた。
 これを逸早く察知した当時のフルシチョフ・ソ連政権がキューバに「確固たる防衛策」としてソ連の核ミサイルを配備するよう提案。その結果、62年10月の米ソ核ミサイル危機が勃発した。

 ベネズエラが今回、OEAから追放されれば、その追放策の底流に、武力でマドゥーロ体制を倒したい米国の執念があるだけに、「ベネズエラ問題」は危険な段階に陥りかねない。

▼ニカラグアのオバンド枢機卿が死去

 ミゲル・オバンド枢機卿(92)が6月3日、死去した。1970年代末まで続いたソモサ独裁と、79年の革命で登場したサンディニスタ政権の両方に反対し、90年の大統領選挙でのダニエル・オルテガ大統領を敗北に導くのに貢献した。

 その後、90年代の2度の大統領選挙でもオルテガ落選で動いた。だが2004年、オルテガと和解。オルテガ政権は07年に復活、現在3期目にあるが、オバンド枢機卿は政治集会などで必ずオルテガ大統領の左隣に座り、政権の権威づけに貢献していた。

2018年6月3日日曜日

 キューバ国会が改憲案起草委員会を設置▼7月末に草案提出へ▼ベネズエラが政治暴力犯40人を新たに釈放▼スペイン新首相が就任

 キューバ人民権力全国会議(ANPP,国会に相当)は6月2日、特別本会議を開き、憲法改正案起草委員会設立を全会一致で決議した。

 委員会はANPP議員33人で構成される。委員長はラウール・カストロ共産党第1書記、副委員長はミゲル・ディアスカネル国家評議会議長。委員会は、改憲草案を7月末のANPP通常会期に提案することになっている。

 現行の社会主義憲法は1976年に公布され、1992年と2002年に改正された。ディアスカネル議長はANPPでの演説で、2011年の党大会で「経済・社会現代化(改革)指針」が導入されたのを受けて改憲が必要になったと説明。
 さらに、人道主義、社会正義、社会主義堅持、国民団結、共産党の前衛の役割、を基本理念とする、と表明した。

 起草委員会に長老ホセ=ラモーン・マチャード第2書記は入っているが、別の長老で守旧派筆頭と見られているラミーロ・バルデス革命司令官(国家評議会副議長)は加わっていない。

 一方、クバーナ(国営キューバ航空)は2日、国内便全便の運航を9月まで停止すると発表した。112人が死亡した5月18日のクーバナ国内便墜落事故を受け、全機の機体点検のため。
 墜落機はメキシコから借りていた機体だった。110人が死亡、3人が救助されたが、うち2人はその後死亡した。

▼べネズエラがさらに40人釈放

 政府は6月2日、街頭暴力事件加担などで逮捕、拘禁されていた40人を釈放した。前日の39人に続くもので、計79人に達した。いずれも殺人など重罪に直接関係していない者とされる。

 政府はまた、通貨ボリーバルのデノミネーションを8月4日実施すると発表した。

▼スペイン新首相が就任

 スペイン労働社会党(PSOE=ぺソエ)のペドロ・サンチェス書記長が6月2日、首相に就任した。モンクロア宮殿でフェリーペ6世国王の前で、憲法に基づき宣誓した。就任式に付き物のキリスト受難像も聖書も用いられなかった。

 同じく就任したばかりのカタルーニャ州のキム・トーラ新首相は、サンチェス首相に、「カタルーニャ問題で対話しよう。互いにリスクを負おう」と呼び掛けた。

2018年6月2日土曜日

 メキシコ大統領選挙まで1カ月:AMLO(アムロ)候補が突出リード▼ベネズエラ政府が街頭暴力犯らを釈放▼ニカラグア国民対話が無期限中断

 7月1日のメキシコ大統領選挙まで1カ月。ㇾフォルマ紙による5月末の世論調査によれば、国家刷新運動(MORENA)候補アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ、元メキシコ市長)が支持率52%で当選する勢い。

 次いで国民行動党(PAN=パン)候補で、民主革命党(PRD=ぺエレデ)などの支持を受けているリカルド・アナヤが25%。政権党・制度的革命党(PRI=プリ)候補ホセ・メアデ元外相は19%だった。5月半ばの調査では、それぞれ43%、24%、16%だった。

 世紀末から3期12年続いてきた保守右翼勢力・新自由主義利権体質のPRI/PANのプリパニスタ体制下で、麻薬組織と政府治安部隊の戦いを中心とする暴力事件が日常茶飯事化し、選挙民から忌み嫌われてきた。

 さらにトランプ米政権に翻弄され手も足も出ないエンリケ・ペニャ=ニエト現大統領と政権党PRIの体たらくと、似たり寄ったりの前政権党PANの支持率は低落した。これに反比例して最有力候補にのし上がったのがAMLOだ。3度目の挑戦で金的を射止める可能性が強まっている。
 選挙戦は終盤。AMLOに対する誹謗中傷宣伝が一層激化するもようだ。

▼ベネズエラが街頭暴力犯らを釈放

 政府は6月1日、2012~17年に起きた反政府グアリンバ(街頭暴力事件)に関与、破壊活動などに加担した受刑囚およひ拘禁者計39人を釈放した。

 コロンビア国境のタチラ州都サンクリスト―バル元市長ダニエル・セバジョスは、
30日ごとに当局に出頭することと出国禁止が釈放条件になっている。
 自宅に立て籠もりライフル銃を構えて治安部隊を威嚇したアンヘル・ビバス退役将軍も釈放された。

▼ニカラグア国民対話が無期限中断

 デニス・モンカーダ外相は7月1日、反政府勢力が破壊活動を止めないことなどを理由に、政府と反政府勢力の対話を無期限中止すると発表した。
 5月16日に始まった対話は23日中断、双方の話し合いで再開が決まったが、各地の街頭での衝突事件が絶えず、死傷者が続出していた。

 スペイン新首相にペドロ・サンチェス労社党(PSOE)書記長▼国会下院がM・ラホーイ首相を不信任▼ラ米に好影響

 スペイン国会下院は6月1日、マリア―ノ・ラホーイ首相(63)に対する不信任決議を採択。同首相は職位を失い、野党第1党「スペイン労働社会党」(PSOE=ぺソエ)のペドロ・サンチェス書記長(46)が新首相に決まった。

 下院定数は350。不信任決議には過半数の176議員の賛成が必要だが、180票集まった。PSOEの議席は84で、これに左翼ポデモス連合、カタルーニャ党、バスク民族党(PNV)が同調した。

 PNVを除く賛成票は175と半数だったが、PNVの5票が加わって180に達した。PNVは、中央政府がバスク州に5億4000万ユーロのインフラ投資をするというサンチェスの約束を多として賛成に回った。

 サンチェスは、軍事独裁者フランシスコ・フランコの1975年の死を経た民主化後、フェリーペ・ゴンサレス、ホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテロに次ぐ3人目のPSOE首相となる。近く国王の認定をもって、正式に就任する。

 フランコ独裁の流れを汲む保守・右翼勢力の国民党(PP)党首だったラホーイは、ホセ=マリーア・アスナル元首相の後を受けて党首に就任。だが2004、08両年の総選挙に敗れ、サパテロ政権を2期許した。

 だが2011年12月、ようやく政権に就いた。リーマンショック後の経済危機で緊縮経済を余儀なくされ、さらにラホーイ自身も関与した疑惑が高まった腐敗事件で14年窮地に陥った。この時、ラホーイは英領ジブラルタル奪回問題を使ってナショナリズムを煽り、窮地を乗り切った。

 だが人気は落ち国民の経済不満も収まらず、15、16両年の総選挙で政権を失う危機にまたも陥ったが、野党分裂により辛くも延命に成功した。

 しかし1999~05年に起きた「グルテル事件」と呼ばれる一大汚職事件が再燃、5月24日、PP幹部ら29人が長期禁錮刑を含む有罪判決を受けた。彼らは、複数の企業から公共事業発注と引き換えに多額の賄賂を受け取っていた。
 さしものラホーイも今度ばかりは逃げられず、不信任された。ラホーイはアスナルと同様、右翼で、ラ米ではキューバやベネズエラに厳しかった。

 ラ米19カ国の宗主国だったスペインは、歴史的、言語的、宗教的、文化的紐帯から依然、ラ米への影響力を維持している。ラ米にとっては、トランプ米政権と歩調を合わせていた右翼ラホーイが去り、中道左翼のPSOEが政権に戻ったことで息つける空間が増えたと言える。

 カタルーニャの共和主義者にとっても、王党派のPPが政権から降りるのは意味がある。だが王政を排して共和国を復活させるのは至難の業だ。スペイン共和国は1939年、内戦に勝ったフランコによって潰され、フランコの死の直後に王政復古した。

 共和国復活が難しいため「独立を」という選択肢が出ているわけだ。ラホーイは昨年来、「独立派を抑えつけた」が、それによって記憶されるかもしれない。

2018年6月1日金曜日

 ベネズエラ野党勢力が再編成▼旧MUDは伝統政党ADと極右中心に出直し▼ファルコン派は伝統政党COPEIなど民社系でまとまる▼不明瞭な「拡大戦線」との関係▼ウルグアイ外相が仲介意欲示す▼キューバ議長が帰国▼ニカラグアで死傷者増える

 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権に反対するベネズエラ野党勢力が5月末、2つの政党連合組織を結成した。

 一つは保守・右翼野党連合「民主連合会議」(MUD)。民主行動党(AD、民社)、まず正義党(PJ、極右)、人民意志(VP、極右)、新時代(UNT、右翼)、ラ・カウサR、ベネズエラ進歩運動(MPV)で30日、再編成された。事務局長にはラモーン・アべレードが就任した。

 二つ目は、5月20日の大統領選挙で敗北したが善戦したヘンリー・ファルコンを支持する勢力。進歩主義前哨(AP、ファルコンの党)、キリスト教社会党(COPEI)、社会主義運動(MAS)の3党を中心に、小さな7会派が参加している。31日公表された。
   この連合体は自らを「野党統一綱領」などと呼んでいるが、正式名称かどうか不明。

 今年初め「MUDの後身」と銘打って発足した野党連合「自由ベネズエラ拡大戦線」(FAVL)と再編成されたMUD、およびファルコン派連合との関係は明らかではない。

 こうした分裂、組織的重複や曖昧さをかかえる野党勢力は、400~500万人の支持基盤を持つチャベス派に歯が立たない。そのため米国、リマグループ、欧州などの反マドゥーロ諸国の支援を得て、「20日の選挙を認めない」「再選挙を」と宣伝活動を繰り広げてきたが、効果がない。

 一方、ウルグアイのロドルフォ・ニン=ノボア外相は5月31日、同国上院外交委員会でベネズエラ情勢に触れ、マドゥーロ政権と反政府勢力の間で仲介役を務めるのが建設的だ、と述べた。

 同外相は、ベネズエラには選挙参加派、棄権(ボイコット)派、福音派と3種類の野党勢力があるようだ、と指摘した。

▼キューバ議長が帰国

 ミゲル・ディアスカネル国家評議会議長は5月30日から2日間のべネズエラ公式訪問を終え、31日帰国した。同議長にとり、4月の就任後最初の外遊だった。
 ハバナ空港には、ラウール・カストロ共産党第1書記(前議長)らが出迎えた。これには新議長を励ます意味があるが、ベネズエラとの経済協力交渉が成果を挙げたことをも示唆する。

   一方、玖米間の直接航空便が5月31日開始された。オバマ前米政権期の2016年3月に実施が決まっていた。

▼ニカラグアで死者15人、199人負傷

 5月30日から31日にかけて各地の都市を中心に大学生ら反政府勢力と、私服の政府系鎮圧団が衝突した。警察発表では、15人が死亡、199人が負傷した。

2018年5月31日木曜日

 キューバ議長が初外遊で同盟国ベネズエラを訪問▼議会演説で「米帝国主義」を糾弾▼マドゥーロ大統領と生産力拡大政策に基づく協力強化を話し合う▼パラグアイ国会は大統領早期辞任を事実上拒否

 キューバのミゲル・ディアスカネル国家評議会議長は5月30日、べネズエラを公式訪問した。4月19日の議長就任後最初の訪問国に、原油を好条件で供給してくれる同盟国ベネズエラを選んだ。

 議長は小型専用機でカラカス空港に到着、タレク・エルアイサミ副大統領、ホルヘ・アレアサ外相らの出迎えを受けた。議長にはリス・クエスタ夫人、ブルーノ・ロドリゲス外相らが同行している。
 一行は国立墓苑内のシモン・ボリーバル廟と、「丘上の砦」にあるウーゴ・チャベス廟に参った。

 議長は、国会議事堂で開かれた制憲議会(ANC)で10分余り演説、「さる20日のベネズエラ大統領選挙におけるニコラース・マドゥーロ大統領の再選を、キューバ人は我が事のように感じていた」と述べ、「この勝利はラ米全体の勝利だ」と讃えた。
 また「米帝国主義の介入」を非難し、「ボリバリアーナ革命は、米国や右翼諸国には不快なのだろうが、ベネズエラ国民は幸せに感じている」と指摘した。

 さらに「ベネズエラのきょうだい国民は、キューバの不変の支持を当てにできる」と強調。故フィデル・カストロ元議長の革命標語だった「祖国か死か、勝利ずるぞ」で演説を締め括った。

 ANCのデルシー・ロドリゲス議長は、「ベネズエラが内外からの脅威に晒されている時に連帯してくれた」と、キューバの姿勢と議長来訪に感謝の意を表した。
 議長は政庁でマドゥーロ大統領と会談した。マドゥーロはディアスカネル議長就任後、直ちにハバナを訪問、最初に会談した外国元首。

    両首脳は「歴史的紐帯強化」で一致。マドゥーロ大統領は「向こう10年間の生産力総合的拡大政策」に基づき、エネルギー・経済・通商・金融協力強化、工業・農業・鉱業・観光の合弁事業新規開始を玖議長と話し合った、と明らかにした。


▼パラグアイ大統領は早期辞任不可

 オラシオ・カルテス大統領は7月1日に上院議員に就任するため、8月15日の任期切れより2か月半早く辞任したいと表明していたが、国会は5月30日、定足数不足で早期辞任の是非を審議できなかった。政権党(コロラード党)議員にも反対者が出た。

 これにより大統領は事実上、辞任を拒否され、任期満了までその地位に留まらねばならなくなった。満了と同時に、大統領経験者として終身上院議員になれるが、議場での発言権はあっても議決(投票)権はない。カルテスは議決権を持つ議員になろうと5月末の大統領辞任を求めたが、国会からはねつけられた形になった。

 現在の上院議長フェルナンド・ルーゴ元大統領は決議権を持つ。「国会クーデター」と呼ばれた弾劾で大統領任期を全うできず下野、その後の選挙で当選したからだ。

2018年5月30日水曜日

 米政府がエル・サルバドール警察特殊部隊に秘密資金提供か▼青少年暴力団員らの法律外処刑容認も▼CNNが報道▼日本ハムがウルグアイ食肉冷凍会社買収か▼ベネズエラがデノミを延期

 米CNNテレビは5月29日、米政府が秘密裏にエル・サルバドール国家警察特殊部隊に資金を与え、犯罪集団要員の法律外処刑を容認していた、と報じた。

 国家警察には今年解体された「特別即応部隊」(FES)があった。米政府ニコラースは2003年から資金を与え始め、16年6790万ドル、17年は7270万ドルだった。

 FESは16年には、マラスと呼ばれる青少年暴力団の中心である「マラ・サルバトゥルーチャ」(MS-13)要員ら591人を殺害。17年前半には43人を殺した。同年5月、警察筋が情報を漏らし、実態が明るみに出始めたという。

 エル・サルバドール政府はFESを解体、新たに「警察ハグアル(ジャガー)部隊」を結成した。同部隊要員はFESと同じように自動小銃などで重武装し、小型トラックで巡視活動をしたり出動したりしている。
 米当局は、重大な事態であり法的解明が必要、との立場を示しているという。

▼日本ハムがウルグアイで冷凍会社買収か

 日本ハムは、ウルグアイの食肉冷凍会社サンハシント(ウルグアイと亜国資本)を買収する交渉を進めている。5月29日の地元紙報道によれば、買収額は6000万ドル程度いう。
 昨年4月には、日本ハムはウルグアイの食肉冷凍会社「ブリーダーズ&パッカーズ・ウルグアイ」(BPU)を1億3500万ドルで買収しており、今回成約すれば2件目となる。

▼べネズエラが通貨デノミネーションを延期

 ニコラース・マドゥーロ大統領は5月19日、通貨ボリーバルのゼロ3つを削除するデノミ実施を60日延期するのを提案する、と明らかにした。当初、6月4日を予定していた。
 一方、ベネズエラ銀行協会(ABV)のアリスティデス・マサ会長は、90日延期が必要との考えを示した。 

2018年5月29日火曜日

 ブラジルで大規模なルーラ支持行動▼パラグアイ大統領がひと月半早めの辞任表明▼ニカラグア対話が再開へ▼メキシコでまた記者殺される

 ブラジルで5月27日、ルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ元大統領を支持・連帯し、拘禁からの解放を求める大規模な抗議行進が展開された。
 ルーラが所属する労働者党(PT)が呼び掛けたもので、PT発表では、全国70都市で計3000万人が参加した。

 ルーラは腐敗罪でパラナー州都クリチーバの警察拘置所で拘禁されている。12年余りの禁固刑だが、最終的には確定していない。
 今年10月、大統領選挙が実施されるが、ルーラは拘禁前も拘禁後も支持率最高位を維持してきた。

 この国の富裕層・軍部・保守・右翼・親米派などで構成される反PT勢力は、過去4回の大統領選挙ですべてPTに敗れた。PTの支持層は貧困層、労働者階級、中産下層、若者らで、有権者の中で圧倒的多数派である。だから選挙のたびに勝利する力を得てきた。

 業を煮やした反PT勢力は2016年8月、弾劾条件としては些細な理由でヂウマ・ルセーフ前大統領を弾劾。反PT勢力側のミシェル・テメル現暫定大統領が政権に就いた。

 これで目的を半分達成した反PT派は今年、ルーラを選挙で勝てないようにしようと司法を動員、ルーラの身柄を早々と拘禁させた。
 だがルーラの人気は高く、選挙の投開票が公正であれば、拘置所から出馬して勝利する可能性が十分にあると見られている。

▼パラグアイ大統領が早期辞任表明

 オラシオ・カルテス大統領は5月28日、上院議員に7月1日就任するため30日で辞任したいと表明した。本来の任期は、マリオ・アブド=べニーテス次期大統領が就任する8月15日まである。

 国会は30日審議し、辞表受理の是非を決める。受理されれば、アリシア・プチェータ副大統領が暫定大統領となる。

▼ニカラグア国民対話再開へ

 5月16日に始まり23日に暗礁に乗り上げた「国民対話」は28日、近日中に再開されることが決まった。司教会議の仲介の下、オルテガ政権と反政府勢力の合同委員会が話し合い、再開を決めた。

 反政府側は、各地の自動車道を遮断している妨害柵を一部撤去することを受け入れた。だがオルテガ退陣のための「自由な選挙」を要求しており、対話は今後も難航必至だ。

 政権側は治安回復を最大目的としており、そのための「弾圧柔軟化」などには応じる構えを示している。対話中も中断後も治安部隊と反政府派学生らの衝突が続いている。

▼メキシコでまた記者殺害さる

 北東部のタマウリパス州都ビクトリア市の路上で5月29日、エクトル・ゴンサレス=アントニオ記者(44)が撲殺体で発見された。首都メキシコ市で発行されているエクセルシオール紙の通信員だった。
 これで今年メキシコで殺されたジャーナリストは6人、現政権下で44人となった。昨年は17人が殺された。

2018年5月28日月曜日

 コロンビア大統領選挙の第1回投票終了▼ドゥケとペトロの両候補が決選進出★この国で極めて稀な左右対決へ▼ウリーベ前大統領に麻薬マフィア資金使用疑惑▼エル・サルバドール政権党が次期大統領候補選ぶ

 コロンビアで5月27日午前8時から午後4時まで、大統領選挙第1回投票が実施された。登用率は53%。5人が出馬したが、予想通り過半数得票者はなく、上位2人が6月17日の決選に進出することになった。当選者は8月7日就任する。任期は4年。

 開票率99%段階で、得票率はイバーン・ドゥケ39%、グスタボ・ペトロ25%。この2人が決選に進出する。現代コロンビアでは内戦が事実上なくなった状況での初の大統領選挙であり、右翼ドゥケと左翼ペトロの左右対決が決選で実現する。

 争点は、和平合意見直し、隣国ベネズエラ問題、国内貧富格差是正など。

 第1回投票の候補者:グスタボ・ペトロ(58)、「人間的コロンビア運動」、エコノミスト、左翼。イバーン・ドゥケ(41)、「民主中央」、弁護士、右翼。ウンベルト・デラカージェ、自由党。セルヒオ・ファハルド、「市民公約」。ヘルマン・バルガス=ジェラス、「バルガス・ジェラス より良い運動」。

  ドゥケは、前上院議員で、アルバロ・ウリーベ前大統領の後継候補。2016年11月の政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍。現在は政党FARC=人民革命代替勢力)との和平合意の見直しを訴えている。

 4月9日、ハバナでの和平交渉にも参加したFARC幹部ヘスース・サントゥリチ(本名セウシス・エルナンデス)がメキシコのシナロア麻薬マフィアと組んでコカインなどを米国に密輸する計画を進めていたとして逮捕された。
 米政府は6月7日までに、サントゥリチの身柄引渡をコロンビア政府に要請する方針。米国は、サントゥリチとシナロアマフィアとの策謀は16年12月で、和平合意のすんだ後のことであり、合意にあるFARC幹部らへの免罪・恩赦の規定は当てはまらない、との立場だ。

 この逮捕事件後、FARC和平交渉首席代表だった最高幹部の一人イバーン・マルケスは、和平合意が突然破られて逮捕される危険があるとの理由で、武装解除された元FARC要員が固まっている南部の密林地帯に避難した。
 和平合意により、政党FARCは7月の新国会開会時に、上下両院に5つずつ計10議席を与えられることになっている。サントゥリチもマルケスも、その10人に含まれている。 
 因みに、FARC最高指導者ロドリーゴ・ロンドーニョ(通称ティモェンコ)は病気などを理由に大統領選挙出馬を取り止めた。

 サントゥリチは、コロンビア産の麻薬を太平洋岸からメキシコ方面に船で運び出す計画で、この船舶輸送には和平に反対したFARC分派も関与していたとされる。
 同分派は3月、エクアドールのエル・コメルシオ紙取材班3人をコロンビア国境地帯で殺害した集団。事態は極めて複雑だ。政党FARCは、ドゥケが8月政権に就いたら、FARC弾圧が始まると予測、警戒を強めている。

 一方、ペトロは元ゲリラ「4月19日運動」(M19)要員で、元首都ボゴタ市長。公約に、石油・石炭など外貨収入源の輸出を抑え、農業拡大で代替する案や、大胆な農地改革、税制改革などを挙げている。いずれも富裕層には呑めない公約ばかりだ。
 ドゥケが代表する富裕層・保守・右翼勢力は、「ペトロはコロンビアをマドゥーロ政権のベネズエラのようにしようとしている」と虚偽宣伝に躍起だ。

 第1回投票で落選した3位以下は、ファハルド(得票率23・7%、元アンティオキア州知事、元メデジン市長)、バルガス=ジェラス(7%、サントス現大統領の後継候補)、デラカージェ(2%、元対FARC和平交渉政府首席代表)の順。

▼NYTがウリーベ前大統領と麻薬組織の関係報じる

 NYT紙は5月26日、解禁された米国務省外交文書を基に、1990年代前半、アルバロ・ウリーベ(後の大統領)はメデジン麻薬マフィアから選挙資金をもらっていたもよう、と報じた。

 当時のコロンビア自由党のルイス・ペレス上院議員が米外交官との会合で語ったとされる情報によれば、お尋ね者だったメデジン麻薬マフィアの頭目パブロ・エスコバル(故人)は当時のガビリア大統領との接触を図るため、選挙資金提供と引き換えに、同マフィア幹部のオチョア一家経由で大統領と連絡が取れるようにしてほしいと持ち掛けた。
 またウリーベは、エスコバルの母親と直接連絡を取った、という。ウリーベは、NYTの報道内容を否定している。

▼エル・サルバドール政権党が大統領候補選出

 ファラブンド・マルティ民族解放戦線(FMLN)は5月27日予備選挙を実施、2019年2月3日の大統領選挙に出馬する候補として、ウーゴ・マルティネス外相を選んだ。
 対立候補はジェラルド・マルティネス前公共事業相。外相は得票率70%強だった。

2018年5月27日日曜日

 サントス・コロンビア大統領が「来週NATO協賛国になる」と発表▼OECD加盟が成った日に表明▼トラテロルコ条約抵触、ラ米・カリブ平和地域決議違反などの非難高まる▼ベネズエラが米国人釈放

 コロンビアのJMサントス大統領は5月25日、同国は来週、NATO(西語でOTAN=北大西洋条約機構)の域外協賛国になると発表した。31日にブリュッセルのNATO本部で手続し、最終決定するという。

 サントス政権は、ゲリラFARCとの和平最終合意が成った翌月の2016年12月、NATOに申請、このほど最終手続き段階に達したという。
 大統領は、豪州、乳国(NJ)、日本、韓国、モンゴル、パキスタン、イラク、アフガニスタンが既に同じ資格の協賛国になっていると付言した。

 コロンビアは25日、OECD(経済協力開発機構)への加盟が認められたばかり。サントスは、その日にNATO協賛国入りを明らかにした。

 この決定に対しラ米では、NATOに米英仏の核保有3国が入っているため、「ラ米核兵器禁止条約」(トラテロルコ条約)に抵触する、という反対意見が浮上している。
 LAC(ラ米・カリブ)を平和地域にすると宣言したCELAC(ラ米・カリブ諸国機構部)の決定に反する、という指摘もある。反対意見がラ米に渦巻くのは必至だ。

 また、FARCとの和平達成で16年にノーベル平和賞を受賞したサントスの言動は受賞者にふさわしくない、との厳しい批判も出ている。サントスは今回の協賛国加盟を「ラ米最初の特権」と自賛している。

[ベネズエラ外務省は26日、コロンビアがNATO協賛国になることに関し声明を発表、「ラ米・カリブ地域の平和にとって脅威になる」と非難した。] 

▼ベネズエラが米国人釈放

 政府は5月26日、米国人ジョシュア・ホルト(24)と、その妻タマーラ・カレーニョ(赤道国系VEN人)を釈放。2人は同日、米国に飛び去った。

 政府発表によると、2人はモルモン教徒。2016年6月、スパイ容疑でVEN諜報機関SEBINに逮捕された。ミランダ州内の自宅からAK47突撃銃、M4複製銃、弾薬多数が押収された。カラカスの戦略拠点を示した地図も持っていた。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は25日カラカスで、ボブ・コーカー米上院外交委員長と外交関係をめぐって会談。コーカー上院議員はホルト夫婦釈放を求めていた。
 VEN人反政府活動家20人も26日釈放された。

2018年5月26日土曜日

 メキシコ次期大統領最有力候補アムロが学生43人失踪事件解明を公約▼ベネズエラ大統領が米上院外交委員長と会談▼バルバドスで初の女性首相誕生へ▼BLPのミア・モトゥリー党首

 メキシコ大統領選挙(7月1日投票)の最有力候補アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)は5月25日、遊説中にゲレロ州イグアラ市で、強制失踪させられた学生43人の家族代表と会い、政権に就いたら事件解決に尽くすと公約した。

 43人はゲレロ州都チルパンシンゴ近郊にあるアヨツィナパ農村教員養成学校生。3年8カ月前の2014年9月26~27日、イグアラ市で事件に遭った。事件には地元警察と麻薬組織が関与。さらに大統領管轄下にある陸軍と連邦警察の関与も明るみに出ているが、大統領責任追及を恐れる政府が動かないため半ば迷宮入りしている。

 AMLOは、大統領になったら、事件の「真実究明委員会」を設置すると約束。同委の中心は、米州諸国機構(OEA)の米州人権委員会(CIDH)と国連人権高等弁務官事務所が占めることになるという。

 アムロはまた、ペニャ=ニエト現政権とカルデロン前政権は、治安戦略を誤り、軍隊を治安出動させたと指摘した。軍隊投入で「麻薬戦争」は悪化、23万人が殺された。

 AMLO「次期政権」の公安相候補と目されるアルフォンソ・ドゥラソは既に、「真実委員会」設置の準備を進めているという。

▼ベネズエラ大統領が米上院外交委員長と会談

 ニコラース・マドゥーロ大統領は5月25日、来訪した米上院外交委員長ボブ・コーカー議員を政庁に迎え、外交関係修復をめぐって会談した。両国はこのほど、臨時代理大使ら外交官各2人を相互に国外退去処分にしている。

 大統領は同日、ラ米開発銀行(CAF)のルイス・カランサ総裁と会談した。CAFは1970年、ベネズエラ政権の主導で設立され、LAC(ラ米・カリブ)19カ国と西葡両国および域内市銀13行が参加。本店はカラカスにある。

 ベネズエラは1970年、同国原油生産の最高記録、日量378万バレルを記録していた。2003年は320万b、現在は150万bに落ちている。

▼バルバドスで初の女性首相誕生へ

 カリブ英連邦のバルバドスで5月24日総選挙が実施され、野党バルバドス労働党(BLP)が下院30議席を独占、完勝した。その結果、BLPのミア・モトゥリー党首(52)が首相に就任することになった。任期は4年。

 英国から1966年に独立して以来8人目の首相だが、初の女性首相となる。民主労働党(DLP)政権のF・スチュアート首相は完敗を認めた。

 モトゥリーは弁護士。91年上院議員となって政界入り。BLP政権で94年教育・青年・文化相、2001年内相兼検事総長、03年第2副首相を歴任。DLP政権になった08年から2年間、BLP党首。13年に党首復帰。

 これまでDLP政権は下院で16議席を握り過半数ぎりぎりだった。新政権は下院で野党を持たないことになり、どのような施政になるか関心を集めている。

 カリブ英連邦諸国は12カ国。その中のベリーズ(旧英領ホンジュラス)は中米にある。またバハマはキューバ北東の大西洋にあり、南米北部のガイアナ(旧英領ギアナ)は大西洋に面している。

 12カ国は南米北部のスリナム(旧蘭領ギアナ)、キューバ、ハイチ、ラ・ドミニカ―ナ(ドミニカ共和国)とともに「カリブ圏」を構成する。

2018年5月25日金曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ大統領が次期任期に向け宣誓▼政策修正と指導部変革を公約▼政治暴力服役囚の一部釈放を示唆▼「国軍分裂画策とクーデター策謀で逮捕」と明かす▼グアテマラ元軍人に重刑判決▼メキシコでまたジャーナリスト殺し▼ウルグアイ労連が大会★「週刊金曜日」がキューバ新政権関連記事掲載

 ベネズエラ大統領に5月20日再選されたニコラース・マドゥーロ大統領(55)は24日、国会議事堂内での制憲議会(ANC)本会議で挙行された次期大統領(2019~25年)確定宣誓式に臨み、デルシー・ロドリゲスANC議長の前で宣誓した。

 大統領は宣誓演説で、①対話・平和・和解②企業との生産的経済合意③腐敗一掃④庇護・社会保障制度充実⑤内外の陰謀に対する自衛強化ーを優先政策として列挙した。
 マドゥーロは、「これまで必ずしも良いことばかりしたわけではない」と前置きして、「修正と指導部の変革を図る」と表明した。

   原油を増産し、外部からの「制裁」を打破するとも述べた。その際、マヌエル・ケベード石油相に、OPEC、中露両国、アラブ諸国に協力を依頼するよう命じた。

 また、政治的暴力事件を起こし服役している者たちのうち、殺人など重罪に関与していない者を釈放する方針を示し、ANCの真実委員会に該当する囚人の特定調査を求めた。
 さらに、「ボリーバル主義的社会主義」の5原則・基盤を拡大するとして、①倫理・道徳・精神②政治・イデオロギー・制度③社会④経済⑤地方ーの問題に取り組むことを強調した。

 大統領は宣誓式の後、市内の国防省、国軍司令部、士官学校などのあるティウーナ要塞での国軍忠誠表明式に出席。「コロンビアと米国の資金でクーデターを画策した者を逮捕した」と明らかにした。大統領は逮捕者の人数を示さなかった。
 「20日の選挙前に暴力を煽り、国軍(FANB)分裂を促そうとする策謀があった」とも述べ、国軍高官たちに署名し忠誠を求めた。

 大統領選挙を挟んだ国軍を標的とした陰謀は、このほど暴露された米南方軍司令官作成のマドゥーロ政権打倒計画に酷似している

 政府は22日、カラカス駐在の米臨時代理大使と次席の参事官を国外退去処分としたが、理由は「国軍分裂画策の陰謀」だった。政府は、同次席をCIAのカラカス支局長と見なしていた。
 一方、ワシントン滞在中のホルヘ・ボルヘス元VEN国会議長は24日、ラジオインタビューで、「先週、国軍将校200人が逮捕された」と述べた。

▼グアテマラで退役軍人4人に重刑判決

 内戦中の1981年6月、当時14歳だったマルコ=アントニオ・モリ―ナ=テイセン少年を強制失踪させ、その姉エンマ=グアダルーペを拷問・強姦した、二つの人道犯罪で、法廷は5月23日、ベネディクト・ルカス元陸軍参謀長ら退役軍人4人に実刑判決を下した。

 姉への仕打ちに対し禁錮33年、強制失踪は25年で、ルカスら3人に計58年、1人に33年の判決だった。

▼メキシコでまたジャーナリスト殺害

 北部のモンテレイ市で5月24日、アリシア・ディアス=ゴンサレス記者(52)が自宅で撲殺された。首都メキシコ市のエル・フィナンシエロ紙の通信員だった。

 メキシコでのジャーナリスト殺害は今年5人目。ペニャ=ニエト現政権下で43人目。ジャーナリストへの迫害は2000件に達している。

▼ウルグアイで労連大会開催

 ウルグアイの「労働者単一中央同盟」(PIT-CNT)は5月24日、第13回大会を開催、フェルナンド・ペレイラ議長は、ルーラ元ブラジル大統領への連帯を表明。「ルーラは迫害されと、罪なくして投獄されている」と指摘した。

 大会テーマは「世界労働界の新しい現実と労組の役割」。伯玖墨ニカラグア西葡などの労連代表も参加している。最終日の26日、声明を発表する。

★お知らせ:本日発行の「週刊金曜日」が拙稿「米国の<新冷戦>攻勢に対峙するディアスカネル新政権 <カストロ後>迎えた社会主義キューバ」を掲載しています。ご参考まで。  

 ニカラグア「国民対話」が議題巡り中断▼反政府側は「自由選挙早期実施」を主張▼オルテガ政権は「政権交代意図したクーデター」と指摘、対話は座礁▼アラブ連盟がグアテマラと関係断つ

 ニカラグアの「国民対話」は5月16日始まったが、1週間後の23日、暗礁に乗り上げた。オルテガ政権と反政府勢力との仲介役の司教会議(CEN)は同日、双方3人ずつ、計6人の「合同委員会」を設置、対話再開に向けて協議するよう求めた。

 対話が途切れたのは、議事進行でもめたため。政府首席代表デニス・モンカーダ外相は、全国各地の自動車道に障害物を置いて通行を遮断している違法行為を止めるよう要求。これに対し、反政府側の「正義と民主のための市民同盟」は、優先すべきは民主的改革を話し合うことだと主張した。

 その改革の柱は、欧米を含む国際監視団を受け入れ、自由選挙を早期実施すること。正副大統領、国会議員、市長、市会議員などすべての選挙をやり直すというものだ。それに伴う改憲と選挙法の修正も要求している。狙いはオルテガ体制切り崩しに他ならない。

 政府側のモンカーダ代表は、「政権交代を意図した一種のクーデター方式ではないか」と指摘、断固応じない構えを示した。
 ダニエル・オルテガ大統領は2016年11月の選挙で連続3選を果たし、17年1月から22年1月まで5年間の3期目任期中。3年半も任期が残っており、反政府側の要求を容れて退陣するなど考えられない。

 司教会議仲介の下で合同委員会が事態打開に行き詰まれば、大学生や市民による抗議行動が再燃するのは目に見えている。施政連続12年目にあるオルテガ政権が重大な危機に直面したのは初めてだ。

▼アラブ連盟がグアテマラと関係断つ

 アラブ連盟は5月23日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移したグアテマラとの協力関係を断ち切ったと発表した。
 同国に続いて大使館をエルサレムに移したパラグアイとの関係については触れていない。
 

2018年5月24日木曜日

 G7が共同声明でベネズエラ大統領選挙認めぬとし、新たな選挙を要求▼米加主導・欧州同調、日本従う構造▼公正と普遍性に欠けるG7▼米国がVEN外交官2人追放▼VEN政府が「政治囚」釈放か

 G7と欧州連合(EU)は議長国カナダの首都オタワで5月23日、ベネズエラ大統領選挙(20日)に関する共同声明を発表、選挙と選挙結果を認めず、「公正で自由な新たな選挙実施」をマドゥーロ政権に要求した。

 一国の選挙に関する異例とも言える声明発表は、米加両国主導、欧州諸国とEUの賛同で路線が敷かれ、日本は乗らないわけにいかなくなった形だ。

 声明は、20日の選挙について、「容認された国際水準を満たさず、公正で民主的な過程の基本的条件を保障せずに実施された」と非難している。
 このG7声明によって、「ベネズエラ問題」は国際化から一挙に「世界化」したと言える。

 過去3日間、ニコラース・マドゥーロ大統領再選を認めたのは、中国、ロシアの両大国と、キューバ、ボリビア、ニカラグア、エル・サルバドールのラ米進歩主義・左翼陣営と、イラン、トルコに限られている。
 マドゥーロ政権はG7声明を突きつけられ、何らかの態度表明を迫られることになった。

 米州諸国機構(OEA)内と、その外枠の「リマグループ」を中心に反マドゥーロ圧力を強めているカナダのトゥルドー首相が今会議の議長であり、マドゥーロ政権打倒をオバマ前政権期から狙ってきた米国と組んで、声明を策定するのは容易だった。
 EUも米加に同調し、航空便打ち切りなどベネズエラへの「制裁」に参加したり、新たな措置を検討してきた。

 日本は先ごろ、ベネズエラ高官らによる「食糧配布資金の横領」事件に関与した人物の国際的特定作業に参加した。この時も米加欧に日本が加わる形になっており、これが今回の声明の下地になったのは確かだろう。

 だが、ラ米には不正選挙で政権に就いた大統領は、過去のメキシコ、現在のホンジュラスなど少なくない。選挙で勝てないため、あるいは反政府陣営の不正や汚職を隠すために、大統領を弾劾した例もパラグアイ、ブラジルと続いている。

 米国は、埋蔵量世界一とされるベネズエラの原油が欲しい。また、米国と復交し牙を抜かれたキューバに代わってラ米左翼の旗頭になった感のあるマドゥーロを潰し、ラ米での覇権を再興、確立したい。
 こうした「米州の力学」に引きずられるのは日本にとっては得策ではあるまい。

 「非民主的選挙」によって政権が運営されている国、選挙のない国、封建的体制などはアジア、アフリカに幾つもあり、ベネズエラを糾弾するG7が公平と普遍的であることを期すならば、何十もの国々について共同声明を出さなくてはならなくなるはずだ。
 さらに、G7首脳陣の中にも「民主性」を問われている者が複数いる事実を忘れてはなるまい。

 一方、米国務省は23日、ワシントン駐在のカルロス・ロン=ラミーレス臨時代理大使および、ヒューストン駐在総領事のベネズエラ外交官2人に対し、48時間以内に国外退去するよう通告した。前日のベネズエラ政府による米外交官2人の追放措置への報復。

▼ベネズエラが「政治囚」釈放か

 今大統領選挙で敗れた野党候補だったハビエル・ベルトゥッチ福音派牧師は5月23日、ニコラース・マドゥーロ大統領と会談。会談後の記者会見で、大統領は24日、「政治囚釈放を発表する」と明らかにした。

 この記者会見には、大統領の側近であるホルヘ・ロドリゲス通信・情報相も立ち会っており、同牧師の発言に信憑性があることを窺わせる。釈放が事実となれば、マドゥーロは国際世論に配慮したことになる。

 悪名高いキューバ系テロリスト、ルイス・ポサーダ=カリーレス(90)が死去▼1976年10月のキューバ航空旅客機空中爆破事件の黒幕▼フィデル・カストロ暗殺には失敗▼元CIA・米陸軍要員★映画「エルネスト」上映会と座談会のお知らせ

   CIAの悪名高いキューバ系テロリスト、ルイス・ポサーダ=カリーレス(90歳、帰化しベネズエラ国籍、以下LPC)が5月23日、米フロリダ州ミラマルの退役軍人官舎で死去した。晩年は米当局に匿われて生きていた。

 LPCは1928年、玖シエンフエゴス市生まれ。ハバナ大学で化学を学んだ。59年元日の革命後、反革命行動に参加。61年、刑務所を逃れメキシコ経由で米国入りした。
 同年、中央情報局(CIA)に入り、破壊活動、対人テロな訓練を受ける。その年4月の、ヒロン浜侵攻作戦の準備に参加。出撃はしなかった。

 67年から亜国、チリ、エル・サルバドール、グアテマラ、ベネズエラが、それぞれ軍政下にあった時期、政府安全保障顧問として活動。
 71年、フィデル・カストロ玖首相が訪智時、カメラマンを装った暗殺犯がフィデル殺害に失敗した。この事件の黒幕がLPCだった。
 76年9月には、ワシントンでアジェンデ政権時代の外相オルランド・ㇾテリエル暗殺の黒幕となった。

 ★同年10月6日、カラカス発ハバナ行きキューバ航空旅客を空中爆破。その主犯としてベネズエラで逮捕さる。73人が死んだこの事件を受けてキュ―バ政府は、LPCの身柄引き渡しを要求し続けることになる。

 81年、レーガン米政権下で「玖系米国人財団」(CANF)がマイアミにできると、その庇護を受けるようになる。
 85年8月、刑務所を脱走、ホンジュラス、グアテマラ、エル・サルバドールに居住。ハバナ市内のホテルで97年、爆弾事件を起こす。イタリア人旅行者1人が死亡した。子の黒幕でもあった。

 2000年パナマ市に国際会議議出席のため滞在するフィデル・カストロ爆殺を工作、未然に終わる。パナマで逮捕されるが釈放され、05年米入国。
 その後、軟禁されたり、有罪判決を受けたりしたが、結局はあいまいなまま釈放された。無処罰のまま死んでいった。2度結婚、2児の父だった。

 フィデルを「正面の敵」と捉えていたが、フィデルが90歳で死んだ2年後、「不世出」のテロリストも同じく90歳で死んでいった。

★映画会と座談会

 6月8日、府中市朝日町の東京外語大学で。映画「エルネスト」上映および座談会(阪本順治監督、伊高浩昭、翻訳家・松枝愛)。
 会場1730、上映1800~2004、座談会2010から小一時間。入場無料、先着500人。

2018年5月23日水曜日

 ニカラグア抗議行動の死者は76人、負傷者868人▼米州人権委員会が確認▼同委はオルテガ政権に15項目を勧告▼ベネズエラが米外交官2人に退去通告▼お知らせ「キューバ・ベネズエラ情勢勉強会」

 ニカラグアで4月18日から5月上旬にかけて続いた反政府抗議行動にさなかに76人が死亡、868人が負傷していた。この事実が確認された。逮捕者は438人だった。

 オルテガ政権と反政府市民勢力との間の「国民対話」に参加している米州諸国機構(OEA)機関「米州人権委員会(CIDH)」が5月21日、調査結果として発表した。
 死傷者の圧倒的多数は、国家警察機動隊と私服の暴動鎮圧部隊による銃、ゴム弾、催涙ガス弾、棍棒などを用いての弾圧で命を落としたという。

 対話に出席しているダニエル・オルテガ大統領は、「治安部隊は弾圧や発砲は命じられておらず、治安維持のため出動した」と釈明したが、納得は得られなかった。
 抗議行動の主役だった大学生の代表は、大統領および、その夫人ロサリオ・ムリージョ副大統領の即時辞任を要求。学生連盟は、国内各地の道路封鎖を解いていない。

 CIDHは政府に対し、15項目の勧告を提示した。「弾圧即時停止」、「死傷者への加害責任者の特定と処罰」など。また「国民対話」の場に15項目実施状況を検証する仕組みをつくることも含まれている。

▼ベネズエラが米外交官に国外退去通告

 ニコラース・マドゥーロVEN大統領は5月22日、米大使館のトッド・ロビンソン臨時代理大使とブライアン・ナランホス参事官に対し、内政干渉を理由に48時間内に出国するよう通告した。

 一方、国家選挙理事会(CNE)はマドゥーロを2019~25年の6年間政権を率いる次期大統領に認定した。

★お知らせ:「キューバ・ベネズエラ情勢勉強会」
 本日5月23日(水)1900から、高田馬場のNGOピースボート本部地下で。会費500円。講師・伊高浩昭。申し込み先は、本ブログ表紙部分にあるピースボート作成の案内状参照。


2018年5月22日火曜日

 ベネズエラ選挙最終結果判明▼マドゥーロ大統領は622万票(67・8%)▼有権者に疲労感、投票率下がる▼6月に通貨デノミ実施へ▼米国やリマグループは新たな対抗措置決定

 ベネズエラ国家選挙理事会(CNE)は5月21日、前日実施の大統領選挙の最終結果を発表した。再選されたニコラース・マドゥーロ大統領(55)は622万票(得票率67・8%)を獲得した。登録有権者913万人が投票、投票率は46%だった。

 だが5年前、13年4月の大統領選挙でマドゥーロは700万票台、17年7月の制憲議会(ANC)議員選挙で政権党連合は800万票台だった。今回600万票台に留まったのは、投票率が50%を下回ったことによる。
 2位の野党候補ヘンリー・ファルコンは197票(21%)だった。

 有権者の過半数は、長引く経済苦、政治抗争、国際社会での孤立感、チャベス派政権19年への飽きと疲れから棄権に回ったのだ。
 マドゥーロは現在の1期目の任期が終わる19年1月に2期目に入り、25年1月まで6年の新たな施政を任された。次回選挙は20年末の国会議員選挙であり、向こう2年半、選挙を気にせずに施政に集中できることになる。

 現在の任期が来年1月に切れるのは、故ウーゴ・チャベス前大統領の最終任期が13年1月に始まったからだ。マドゥーロは闘病中のチャベスに代わり大統領代行、3月5日にチャベスが死去してからは暫定大統領になり、4月の選挙に臨んだ。

 再選を果たしたマドゥ―ロは6月4日、通貨ボリーバルのゼロ3桁を外したデノミネイションを実施する。新紙幣発行で超インフレに対処しようという計らいだ。
 だが頼みの原油生産が過去30年来最低水準という日量150万バレルに低迷。トランプ米政権に起因する新たな「イラン危機」とともに国際原油価格を押し上げる要因となっている。資金欠乏から産油現場でのインフラ老朽化、労働力流出が著しく、増産に対応できないのだ。

 資金不足は、米国主導による金融封鎖が最大の原因。ドナルド・トランプ大統領は21日、ベネズエラ政府が資金調達のため進める国債販売と、国営ベネズエラ石油(PDVSA)による債務売却を規制する政令を出した。

 また米加墨亜伯智6か国は21日ブエノスアイレスで、ベネズエラ大統領選挙の結果を認めないとし、新たな「制裁」を検討するとの声明を出した。同市ではG20外相会合が開かれる。また11月30日から2日間、G20首脳会合が開催される。

 一方、反マドゥーロ連合である「リマグループ」(グリマ)加盟の亜パラグアイ伯智コロンビア秘CR巴ホンジュラス墨グアテマラ加ガイアナ・セントルシーアの14カ国は21日、ベネズエラ大統領選挙結果を認めないと表明。
 さらに「外交レベルを引き下げるため」として、ベネズエラ駐在大使召還、各国駐在のベネズエラ大使への抗議伝達の2点を決めた。また6月ワシントンでの米州諸国機構(OEA)外相会議で、「ベネズエラ問題」を議題にすることも決めた。

 国内では、分裂、弱体化して事実上「有名無実」化した保守・右翼野党連合(MUD)に代わり結成された「自由ベネズエラ拡大戦線」は21日に、活動方針を打ち出す予定。
 政府支持派論調は、「米国、欧州、グリマ、反動マスメディア群などによる策謀は敗北した」というような内容が目立っている。 

2018年5月21日月曜日

★ベネズエラ大統領選挙は現職マドゥーロ再選▼大統領は「国民対話」呼び掛け▼得票率68%弱、 投票率は46%▼「正常に実施」と国際監視団▼国軍は「大成功」と表明▼キューバ首脳が祝電▼ローマ法王からメッセージ▼米政府は選挙結果を認めず▼米国の内政干渉措置、一層厳しくなる見込み▼パラグアイが大使館をエルサレムに移転

ベネズエラで5月20日実施された大統領選挙は午後6時投票が終了。国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長は同日夜、ニコラース・マドゥーロ大統領が582万票(得票率68%弱 )を得て再選された、と発表した。
 投票時間は12時間だった。有権者は2052万人。投票率は46%。マドゥーロ陣営は1000万票獲得を目標に掲げていたが、これには遠く及ばなかった。
 勝利宣言したマドゥ―ロ大統領は、国民対話を呼び掛けた。

 野党側候補は3人で、ヘンリー・ファルコン182万票(21%)、ハビエル・ベルトゥッチ92万票、レイナルド・キハーダ3万票だった。

 同盟国キューバのミゲル・ディアスカネル国家評議会議長とラウール・カストロ共産党第1書記は、別々に祝電をマドゥーロ大統領に送った。

   米国や一部ラ米諸国と連携して選挙ボイコット運動を続けてきた保守・右翼野党連合MUDなど反政府勢力は、「棄権率は70~80%に達した」との見方を根拠を示さずに示していた。

 これに対し、マドゥーロ大統領の選挙運動母体「ソモス・べネスエラ(私たちはベネズエラ)」のデルシー・ロドリゲス事務局長(制憲議会議長)は、「選挙は、棄権を呼び掛けていた側の敗北を明確にした」と述べた。
 これは「棄権率」が54%に留まったのを受けての発言と捉えることができる。

 だが国際監視団の一員としてカラカス市内を巡回したラファエル・コレア前エクアドール大統領は、「私はベネズエラの民主の祭典に参加した。投票は正常に実施された」と表明した。
 コレアは、カナダ政府が在加ベネズエラ人のための投票所設置を妨害しようとしたことに関し、同政府を厳しく批判した。

 ホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテロ前スペイン首相も、「正常」と述べた。国際監視団は当初2000人とCNEは見ていたが、実際に到着し活動しているのは150人。

 国軍戦略作戦司令部のレミヒオ・セバージョス司令官は、全国1万4600余りの投票所のほか、電力施設などを厳重に警戒していると明らかにした。国軍兵士、警察官ら30万人が動員されている。
 またブラディミロ・パドゥリーノ国防相は、「ベネズエラは独自の運命、歴史、民主をもって選挙をしている」と強調。「きょう新たに祖国をつくる。祖国は参政、憲法順守、主権尊重によってつくられる」と述べた。
 選挙結果判明後には、「大成功の一日だった」と語った。

 一方、制憲議会(ANC)のデルシー・ロドリゲス議長は20日、「フランシスコ法王から、我が国の問題を解決する方法を見出すように、とのメッセージをいただいた。ベネズエラへの良き心の呼びかけと善意に感謝いたしたい」と表明した。
 法王はヴァティカンでの定例ミサで「平和と団結への道を探るべし」と表明した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領からは、「帝国(米国)の内政干渉と、選挙ボイコットの呼び掛けにも拘わらず、ベネズエラ民主の伝統が発揮された」との祝意がマドゥーロ大統領に届いた。

 米国のマイク・ポンぺオ国務長官は「ベネズエラ選挙は何も変革しない」と選挙を否定する見解を表明した。これに対しマドゥーロ大統領は、「クークラックスクラン(白人優越主義の極右団体KKK)の政府からの侵略は軽蔑されている」と反駁した。

 大方の予想どおりマドゥーロ再選なったが、ベネズエラへの内政干渉を厭わない米国と同調する諸国は、さらに厳しい圧力をかけてくる見込み。

 ロシア外務省は21日、米国のベネズエラへの内政干渉を厳しく非難した。

▼パラグアイが大使館を移転

 パラグアイは5月21日、在イスラエル大使館をテルアビブからエルサレムに移した。
式典には、パラグアイのオラシオ・カルテス大統領、Bネタニヤフ・イスラエル首相らが出席した。

2018年5月20日日曜日

 ベネズエラ大統領選挙の投票始まる▼国際監視団が各地に展開▼代表格はサパテロ前スペイン首相▼コレア前エクアドール大統領も到着▼米政府は実力者カベ―ジョ政権党副党首に「制裁」科す

 きょう5月20日午前6時、ベネズエラ大統領選挙の投票が始まった。世界各地から集まった選挙監視団が各地で監視活動をしている。
 国家選挙理事会(CNE)は、投票終了時刻を明確には表明していない。投票所に行列ができるなどして投票が長引くような場合、それを認める構えだ。

 選挙前の支持率調査では、D社がニコラース・マドゥーロ大統領43%、野党候補ヘンリー・ファルコン24%、H社がマドゥ―ロ52%、ファルコン22%。3番手はハビエル・ベルトゥッチでいずれも20%前後。ファルコンは、「ベネズエラ経済の米ドル化」を公約して注目されている。

 米国、欧州一部諸国、ラ米一部諸国は今選挙を認めないと表明している。マドゥーロ大統領は、これについて「欧州も米国も他者と対話し、他者を理解する能力を持っているはずだが」と語っている。

 CNEによれば、国際選挙監視団は2000人に及ぶという。その代表格ホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテロ前スペイン首相(社民主義者)は18日カラカスでニコラース・マドゥーロ大統領らと会談。その後、記者会見し、「今選挙も投票の自由と安全が保障されている」と述べた。
 サパテロはまた、再選を狙うマドゥーロに次ぐ有力候補である野党のヘンリー・ファルコン候補とも19日カラカスで会談。内容は公表されていない。

 サパテロはマドゥ―ロ政権と野党など反政府勢力が厳しく対峙し始めた2016年から国際仲介団の中核として、ベネズエラ政治・政界に関与してきた。
 選挙をボイコットしている保守・右翼野党連合MUDの幹部は、サパテロ前首相を「裏切者」呼ばわりしている。これについて前首相は「選挙や対話をしなければ何も始まらない」と反論した。
 サパテロとともに、元フランス上院議長ジャンピエール・ベルや欧州連合(EU)の元高官も監視団に参加している。

 ラファエル・コレア前エクアドール大統領も参加。昨年、大統領任期を終え、夫人の故国ベルギーに住むコレアは、久々にラ米の「熱い現場」に身を置いている。
 アフリカ連合(AU)の駐米大使アリカナ・クアオもワシントンからカラカス入り。露中央選管派遣のワシリー・リハチョフも監視団に参加している。

 一方、米政府は18日、政権党PSUV(ベネズエラ統一社会党)の副党首で、大統領に次ぐ実力者のディオスダード・カベ―ジョ元国会議長に「制裁」を一方的に科した。「麻薬取引関与」などを理由にしているが、選挙直前のマドゥーロ体制への揺さぶり工作であるのは疑いない。

 

2018年5月19日土曜日

 キューバ航空運航の旅客機がハバナ空港離陸直後に墜落▼3人重体、110人死亡▼機体はメキシコ航空会社から貸与▼キューバ観光産業に痛手▼アルゼンチン政権はキューバとの関係立て直しへ

 キューバの首都ハバナ郊外で5月18日、旅客機が墜落した。110人が死亡、生存者は3人。

 国営航空(クバーナ・デ・アビアシオン)運営のボーイング737-200型機(乗客・乗員113人)オルギン市行き国内便はホセ・マルティ国際空港を離陸して間もない12時08分、サンティアゴデラスベガス手前の農地に墜落、炎上した。

 ハバナ空港では、ヤシの木などが茂る彼方の森の方面で黒煙が舞い上がる光景が撮影されている。離陸を見送ったばかりの整備員らが頭を抱える様子も映っている。
 玖運輸省発表によれば、生存者は女性3人で、病院に搬送されたが、いすれも重体。死亡した110人のうちキューバ人は99人。乗客5人が外国人で、亜国2、サハラウイ2、メヒコ1。乗員6人はメキシコ人。

 機はメキシコのダモー(DAMOJH)航空から貸与されていた。メキシコ民間航空局の安全管理下にあった。
 目的地は、ハバナ東南東670kmのオルギン州都オルギン市だった。同市一帯は観光地として人気が上昇中。市郊外には、カストロ一族の生家跡がある。

 ミゲル・ディアスカネル国家評議会議長は現場に急行、死者への哀悼の意を表明。事故原因を徹底調査すると述べた。観光は、キューバにとって外貨を稼ぐ重要産業。旅客機の墜落事故は痛手だ。

▼マクリ亜国政権がキューバとの関係強化へ

 マクリ政権は5月18日、マルコス・ペニャ首席閣僚とフルビオ・ポンぺオ政府戦略問題担当官を24日ハバナに派遣し、ミゲル・ディアスカネル玖政権と話し合うと発表した。

 亜玖関係は、クリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル前大統領の8年間と、その前の故ネストル・キルチネル大統領(クリスティーナの夫)の4年間には緊密だった。

 2015年末に発足した財界右翼主体のマクリ政権は親米路線に舵を切ったが、経済が悪化。ペソが暴落し、国際通貨基金(IMF)IMFに支援を求めている。
 政権発足後最大の危機に直面したマウリシオ・マクリ大統領は、来年の大統領選挙を念頭に国内世論も意識。トランプ米政権から「新冷戦」攻勢をかけられているキューバへの「接近姿勢」を示そうとしているわけだ。

 ブエノスアイレスでは20~21日、G20外相会合が開かれる。

 チリのカトリック司教全員がフランシスコ法王に辞表提出▼元神父による性的虐待と、その隠蔽工作への連帯責任認めて▼法王と3日間話し合い決定▼チリ教会は「深い改革」過程にあると表明

 チリ司教会議所属の司教34人(うち3人は名誉司教)は5月18日、ヴァティカン(ローマ法王庁)で、34人全員がフランシスコ法王に辞表を提出、進退を法王の判断に委ねた、と発表した。

 500年の布教史を持つラ米の伝統的カトリック国の司教全員が一度に辞表を提出するのは極めて稀で、重大事。まさにチリの元神父フェルナンド・カラディマが2011年までに神学生3人らを性的虐待していた事実が明るみに出て、チリ教会はこの7年間、大揺れに揺れてきた。

 フランシスコ法王は今年1月訪智し、性的虐待問題に触れた。4月には犠牲者だった神学生3人をローマに招き、事実関係を正した。そのうえでチリ司教会議を法王庁に招集した。
 司教たちは15~17日、法王と4回話し合った。カラディマ元神父は既に永久追放処分となっているが、元神父が犯した罪の隠蔽工作をしたオソルノ司教区のフアン・バリオス司教が今回の話し合いの中心にあった。法王は隠蔽工作に怒りを露わにしたと伝えられる。

 司教会議は18日記者会見し「連帯責任」を認めたうえで、「虐待犠牲者、法王、チリ信者に深く詫びる」と謝罪。「チリ教会は既に深い変革の過程にある」と表明した。
 バリオス司教は過去2回辞意を表明したが法王は受け入れず、調査を進めるよう指示していた。法王は今回は、同司教および、元神父と親しかった数人の辞表を受理すると見られている。

 ラ米を含め世界各地でカトリック司祭による性的虐待事件が起き、カトリック教会の権威が揺らいできた。これが、米国生まれの福音派進出の原因の一つともなっている。
 それだけに、チリだけでなく各国司教会議の危機感は深刻だ。

2018年5月18日金曜日

 1982年のマルビーナス(フォークランド)戦争中の人道犯罪を新たに追及▼アルゼンチン軍新兵を拷問した元上官らに逮捕命令▼厳寒の前線でいじめの悪行▼ウルグアイでは「政治囚記念碑」が完成▼ベネズエラの選挙戦終わる。来賓マラドーナが踊る

 亜国検察は5月16日、1982年の亜英マルビーナス(フォークランド)戦争中に徴兵された新兵たちに拷問的仕打ちをした当時の国軍士官・下士官系26人を人道犯罪容疑で逮捕すると明らかにした。検察は、人道犯罪ゆえに時効はないと説明している

 開戦当初、亜国軍は英植民地マルビーナス諸島を占領、訓練の不十分な新兵多数を諸島に送り込んだ。季節は4~6月で、亜国東方400kmの南大西洋にある同諸島の気候はは晩秋から初冬の寒さ。

 新兵たちは食糧と防寒服の支給不足に不満で抗議、栄養失調になり、現物を盗む者もいた。すると上官らは特に窃盗者に対し、夜間薄着のまま屋外の杭に縛り付けたり、冷水につからせたりし、最もひどい場合は、首から上だけ地上に出す「埋め込み」をした。みぞれの中、日夜「埋め込み」に遭い、衰弱し野戦病院に運ばれる者もいたという。

 検察に被害22件について告発した被害者らは、陸軍第3歩兵師団第5歩兵連隊所属の部隊に配属され、諸島の最前線に送り込まれた元新兵70人の一部。英軍の襲来で脱出したが、平均15~20kg体重が減っていたという。

 1976年3月クーデターで政権を握った亜国軍部は、3代目のレオポルド・ガルティエリ将軍大統領が対英開戦に踏み切り敗北、翌83年、4代目が民政移管に追い込まれた。7年余り続いた軍政下で市民3万2000人が殺害された。その中には、遺体が見つからず「行方不明者」扱いされている者も少なくない。

 極悪非道の軍政は市民の自由と命を奪ったほか、経済を破綻させ、権勢は地に落ちていた。起死回生の大博打として打ったのが勝算のない無謀な対英戦争で、見事に敗北した。
 最前線に巷の青少年と変わらないような新兵部隊を派遣し、人道犯罪行為をするなど、軍政は上から下まで倫理が腐り切っていた。

 既にほとんどが退役している元士官・下士官らが逮捕、起訴され法廷に立てば、マルビーナス戦争の暗部があらためて明るみに出るはずだ。
 当時、この戦争を亜国側から取材した筆者は、この司法案件の行方に関心を抱いている。

▼ウルグアイに政治囚記念碑

 ウルグアイ・サンホセ県にある旧リベルタ―刑務所には、1960年代末から80年前半にかけてのゲリラ戦および軍政期に多数の政治囚が収容された。拷問され、30人が殺された。

 5月15日、刑務所近くに完成した「リベルター刑務所記念空間」の除幕式が挙行された。この記念碑は高さ15mで、壁面には元政治囚2872人の氏名が刻まれている。制作者は2人の建築家で、いずれの親も元政治囚。
 「リベルタ―」は自由を意味する。なんと皮肉で冷笑的な刑務所名だったことか。

▼ベネズエラ選挙戦終了

 5月20日の大統領選挙の選挙戦は17日終了した。再選を目指すニコラース・マドゥーロ大統領の政権党連合は、カラカス目抜きのボリーバル大通り中心部を埋め尽くして最後の集票運動を展開。
 大統領は壇上で歌い、夫人と踊った。駆け付けた元亜国サッカー界の英雄ディエゴ・マラドーナは壇上で「私はマドゥーロの戦士」と叫び、VEN民俗歌謡に合わせて踊りながらVEN国旗を振った。

2018年5月17日木曜日

 グアテマラが在イスラエル大使館をエルサレムに移転▼PLOは「対抗措置」呼び掛け▼週内にパラグアイも移転を予定▼ホンジュラスも近く移転の見込み▼脛に傷持つ大統領たち▼ラ米左翼・中道諸国はイスラエルの過剰攻撃を非難▼カトリック教会は福音派攻勢に危機感募らせる

 グアテマラの在イスラエル大使館が5月16日、従来のテルアビブからエルサレムに移転した。新大使館の開館式典にはジミー・モラレスG国大統領とベンヤミン・ネタニヤフ首相らが出席した。
 グアテマラは1948年のイスラエル建国に際し、米国に次ぎ2番手でイスラエルを承認した。今回も前々日14日の米大使館移転に続く2番手の移転となった。

 エルサレムには1956年から80年まで大使館を置いていたが、国連決議などを受けてテルアビブに移転していた。今回の移転で元に戻ったことになる。
 Jモラレス大統領は福音派信徒。G国内には、「大統領の職責と信仰を混同させた」との批判が出ている。ネタ二ヤフ首相は年内にグアテマラを訪問すると明らかにした「」。

    パレスティナ解放機構(PLO)は直ちに、グアテマラに「対抗措置」をとるよう、アラブ諸国に呼び掛けた。

 16日の式典には両当事国のほか、以下の31カ国の出席が確認されている。
 アルバニア、オーストリア、チェコ、ジョージア、ハンガリー、マケドニア、ルーマニア、セルビア、ウクライナの欧州9カ国。
 アンゴラ、カメルーン、コンゴ、コンゴ民主共和国、コートジボアール、エチオピア、ケニア、ナイジェリア、ルアンダ、南スーダン、タンザニア、ザンビアのアフリカ12カ国。
 フィリピン、ミャンマー、タイ、ヴェトナムのアジア4カ国。
 ドミニカ共和国、エル・サルバドール、ホンジュラス、パナマ、ペルー、パラグアイのラ米6カ国。

 パラグアイも今週中に大使館をエルサレムに移転させる。任期切れ間もないオラシオ・カルテス大統領が決めたものだが、マリオ・アブド=べニーテス次期大統領は「相談を受けていない」を不満を漏らしている。

 ホンジュラスは国会が4月12日、移転を59対33で可決、政府に決定を任せている。同国でも勢力を張る福音派は「移転すれば経済援助が来て豊かになる」と盛んに誘い水をかけている。
 4月末にはカリブ海に近いグアテマラ国境沿いの巨大なマヤ遺跡のあるコパーンに、イスラエルと米国が総額1億5000万ドルの資金と技術を援助した地熱発電所が完成。フアン=オルランド・エルナンデス大統領が開場式に出席した。
 移転決定は時間の問題と見られている。

 これらラ米3国に共通するのは、大統領の脛に傷があること。G国のモラレスは大統領選挙時の選挙資金に麻薬マフィアから献金を受けたとして米司法当局から告発されている。
 エルナンデスは昨年末の大統領選挙で不正によって再選を果たした。これは誰もが知る事実。米政府はいち早く再選を支持、そんのカードを今生かそうとしている。
 パラグアイのカルテスは大統領になる前、麻薬取引に関与。米国は証拠を握っている。そのカードが今切られた。この国でも福音派の活動が目立っている。

 一方、米大使館の移転に際しパレスティナのガザ地区で発生した、イスラエル軍の過剰攻撃で60以上が殺された重大事件に関し、ラ米ではベネズエラ、ボリビア、ウルグアイ、エクアドール、チリ、コスタ・リカが非難。他の諸国も移転する意思は示していない。

 イスラエルと国交がなく、トランプ米政権の「北風政策」に遭っているキューバは当初
沈黙していたが16日、外務省が声明でイスラエルを厳しく非難した。またハバナに本部を置く国際第3世界連帯機関「アジア・アフリカ・ラ米3大陸人民連帯機構」(OSPAAAL=オスパアル)もイスラエルの行為を糾弾した。
 ラ米諸国のカトリック教会は、福音派の進出に危機感を募らせる一方だ。
  

  

2018年5月16日水曜日

 ニカラグア政府と反政府勢力が16日に「国民対話」開始▼カトリック司教会議の仲介が奏功▼オルテガ大統領退陣の要求が強く薄氷を踏む状態▼日本政府も「懸念と注視」を表明

 ニカラグア司教会議(CEN)を率いるレオポルドオ・ブレネス枢機卿は5月14日、政府と反政府勢力が対話を16日開始する、と発表した。枢機卿は、対話(ニカラグア国民対話)の目的を「民主化過程を促進するため」と説明した。

 ダニエル・オルテガ大統領が、CENが提示していた対話仲介4条件を呑んだため対話開始が決まったが、4条件のうち際立つのは、米州諸国機構(OEA)の機関である「米州人権委員会」(CIDH)の調査団受け入れ。
 この調査団は、4月以来の一連の反政府抗議行動とそれに対する規制・弾圧で死者53人以上、行方不明者60人、負傷者400人強、および不当逮捕者多数が出、店舗などの略奪・放火が続いた事実を調査・検証し、加害者を特定するため近く派遣される。死者の半数は、首都マナグアで出ている。

 全国の自動車道の13か所で14日も道路遮断が続いた。ニカラグア横断運河建設に反対する組織が中心となって、対政府抗議行動の一環として遮断作戦をとっている。

 オルテガ大統領は4条件を受け入れた週末、「同胞の死と破壊に終止符を打つため呼びかけと約束をした。これ以上、流血がないことを」と述べている。
 大統領は常日頃、演説で「愛、平和、慈悲」を必ず口にするが、小一カ月続く反政府行動への激しい弾圧を目の当たりにした人々は、大統領の言葉を「偽善」と捉えている。

 メキシコ人女優ルセロ・ミジャンは14日、メキシコ市からマナグアの報道機関にメッセージを送り、「死の脅迫を受けたためニカラグアを離れた」と明らかにした。
 ミジャンは、オルテガらのサンディニスタ革命が成功した1979年、ニカラグアに移住。劇団を結成し、演劇活動を30年近く続けていた。だが、「劇場を放火破壊する」との脅迫も受けていたという。
 今回の反政府抗議行動が全国化した後、芸術家や知識人の協会は政府支持の署名運動を展開した。ミジャンはこれに参加していなかった。

 ニカラグアで活動するさまざまなNGOは14日、オルテガ大統領退陣を要求した。だが、こうしたNGOには米国際開発局(USAID)から活動資金をもらっているものが少なくない。USAIDは2016年に3100万ドルをNGOを中心とする「市民社会」に提供している。

 一方、日本外務省は14日、ニカラグアの状況を懸念し注視しているとする声明を発表した。声明は、ニカラグアの政府、民間、大学生、「市民社会」に事態打開のため努力するよう強く要請する、とも表明している。

 今回のように反政府行動が燃え上がることを誰も予測していなかった。連続3期、11年余り続くオルテガ政権への不満がマグマのように鬱積していたのだ。「オルテガはゲリラの英雄から、腐敗した皇帝に成り下がった」とする厳しい指摘もある。

 ペルーのアルベルト・フジモリ元大統領も1990年から2期10年の任期を務めた段階で退陣すればよかったものを強引に3期目に入り、多くの不正事実が暴露され、日本に亡命し辞表を送ったが拒否され、国会に解任された。

 ベネズエラのマドゥーロ政権が存続の危機に陥っているのも、1999年2月の故ウーゴ・チャベス大統領就任から数えて19年もチャベス派が続いていることへの飽き要求がや不満が根底にある。

2018年5月15日火曜日

 米州諸国機構(OEA)の反マドゥーロ陣営「リマグループ」がベネズエラに20日の大統領選挙中止を「最後通牒」として要求▼背後に「軍事的選択肢」含むトランプ米政権の影▼ALBAが米政権による不安定化工作を糾弾▼ベネズエラでは選挙態勢整う 

 ベネズエラのニコラース・マドゥーロ大統領の再選を阻止し、マドゥーロ政権打倒を目指す米州諸国で構成する「リマグループ」(グルーポ・デ・リマ=グリマ)は5月14日、ベネズエラ政府に対し、20日実施の大統領選挙を「合法性に欠ける」として中止を要求した。

 グリマはメキシコ市での外相・蔵相会合でベネズエラ問題を話し合い、「これが最後の申し入れだ」として選挙中止を要求した。
 米国が強大な影響力を持つ米州諸国機構(OEA、34カ国加盟)の保守・右翼陣営は、重要決定が全会一致制のため、VEN締め付け決議にことごとく失敗。そこで反マドゥーロ有志連合としてグリマを結成した。リマ市で結成されたため、グリマと呼ばれる。

 米政府は、反マドゥーロ有志連合の決議を受けてベネズエラに軍事侵攻する選択肢を重視している。マイアミに司令部を置く米南方軍の侵攻作戦計画が暴露されたばかりだ。

 加墨グアテマラ・ホンジュラスCR巴コロンビア秘智パラグアイ亜伯ガイアナ・セントルシーアの14カ国が加盟。米国は意識的に黒子として根回し役に回っている。
 セントルシーアは、ベネズエラが盟主の「我らのアメリカ・ボリバリアーナ同盟ー人民通商条約」(ALBA-TCP、通称ALBA=米州ボリバリアーナ同盟)にも加盟しており、ベネズエラ政府にとり「情報源」になりうる立場にある。
 域外からは、マリアーノ・ラホーイ右翼政権のスペインがオブザーバー的立場でグリマ会合に参加することがある。14日には参加した。

 キューバ以外の34カ国が加盟するOEAでグリマに加盟していないのは、「形式的不参加」の米国と、エル・サルバドール、ニカラグア、ハイチ、ドミニカ共和国(RD)、ベネズエラ、エクアドール、ボリビア、ウルグアイ、スリナム、およびジャマイカ、TTなどカリブ英連邦10カ国。

 構図化すれば、マドゥーロ政権をめぐる米州地図は、反対派がグリマ14カ国+米国、非反対派が19カ国+キューバということになる。グリマのセントルシーアは「鵺的存在」だ。

 一方、ALBAのダビー・チョケウアンカ事務局長(前ボリビア外相)は14日ハバナで、「LAC(ラ米カリブ)のベネズエラ、ボリビア、ニカラグア、キューバなど進歩主義政権に対する米政府の内政干渉は受け入れられない」と、米政府を糾弾した。
 「進歩主義諸政権の社会政策を不安定化させようとしているトランプ米政権の国際十字軍は到底受け入れられない」とも述べ、グリマを暗に非難した。

 ニカラグア国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長は14日カラカスで記者会見し、「選挙態勢は整った」とし、全国1万4638投票所(3万4143投票箱)の用意が完了したことを明らかにした。
 理事長はまた、保守・右翼野党連合(旧MUD)などが棄権を呼び掛けているのに触れ、「違法行為であり、逮捕を含め取り締まる」と警告した。

2018年5月14日月曜日

 トランプ米政権がラ米諸国を巻き込んでベネズエラに軍事介入を準備か▼アルゼンチン人ジャーナリストが米南方軍の侵攻計画を基に暴露▼筋書きは「20日のVEN大統領選挙前に攪乱工作、選挙後に周辺諸国から軍事介入」▼ニカラグア各地で略奪続く

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は5月13日、トランプ米政権と米州諸国機構(OEA)の(米国寄り)加盟諸国は、20日のべネズエラ大統領選挙前にマスメディアの宣伝作戦と並行してベネズエラで暴力活動を起こす不安定化計画を実施しようとしている、と非難。コロンビアのトゥマコに米軍部隊が集結していると、懸念を表明した。

 米国および同調諸国は選挙でニコラース・マドゥーロ現大統領が再選された場合、ベネズエラに軍事介入する計画だ、ともモラレス大統領は指摘した。

 ボリビア大統領の発言は、亜国人女性ジャーナリスト、ステラ・カロ―ニが13日、亜国紙ディアリオ・コンテキスト、ベネズエラのウルティマス・ノティシアス紙などに掲載された署名記事で暴露した「対VEN侵攻計画」を踏まえている。

 カロ―ニは、米南方軍司令官カート・ティッド海軍大将がまとめた機密文書を引用し、米軍が軍事介入する場合、パナマ、コロンビア、ブラジル、ガイアナのVEN周辺諸国が拠点となり、亜国など反マドゥーロ政権諸国が介入を支援する、と指摘した。

 また同文書には、「トランプ政権にとり、民主と安全保障に関する姿勢を示す最初の機会となろう」と記されているという。カロ―二は、「米国はチャベス主義を決定的に叩き潰そうと狙っている」と警告している。

 この「ティッド計画」は、マイク・ペンス米副大統領の「失敗国家(VEN)に国境はない」「vENのOEA加盟資格を停止させよう」、JMサントス・コロンビア大統領の「近くVENで政権が交代する」などの不穏な発言の基にもなっている。

 OEAから追放したうえでOEA諸国と「有志連合」を組んで軍事侵攻するのが、米国の常套手段。1962年、米国はキューバに対し、これをやろうとしてソ連に察知され、結果として核ミサイル危機に陥った。65年のドミニカ共和国内紛にも同じ方式で軍事侵攻した。

 一方、ホルヘ・アレアサVEN外相は13日、VEN選挙を認めないと表明している欧州や米州の国々に対し、「VENに敬意を表してほしい」と訴えた。
 VEN政権党PSUVのディオスダード・カべージョ副党首は同日、「MUD(野党連合)が棄権を訴えているのは選挙で勝てないからだ」と指摘。「国会は有名無実化しており、選挙後、国会議員資格を無効にする」と述べた。

 ヘスース・トレアルバ元MUD代表は13日、「MUDは分裂したのではなく消滅した」と明言。選挙後の再結集の備えるべく相互非難などを控えようと、旧MUD加盟会派に呼び掛けた。
 トレアルバはまた、同陣営が棄権でなく結集して投票すれば、ヘンリー・ファルコン野党候補がマドゥーロに勝つ、とも断言した。

 マドリードでは13日、マリアーノ・ラホーイ西首相とサントス・コロンビア大統領が会談、「VENの重大事態は民主的に解決すべきだ」という立場で一致した。これは米軍介入の可能性をカモフラージュする意図的発言、とも受け取られている。
 VEN周辺情勢の混乱は、2016年度ノーベル平和賞受賞者であるサントスが、米国などともにマドゥーロ政権打倒工作に走ったことにも起因する。

 ベネズエラ原油は11日、1b=66・57米ドル。

▼ニカラグア各地で略奪頻発

 反政府活動が激化しているニカラグアの首都マナグア、チナンデ―ガ、ボアコ、グラナーダ、レオン、マサヤの6都市で5月13日、スーパーマーケットなど商店が略奪された。

 被害の出ていない店の店主側は略奪に備え、棍棒、山刀(マチェテ)などで自衛している。警察は、暴徒が政権党支持派である場合、略奪を黙認しがちだという。
 

2018年5月12日土曜日

 ニカラグアでオルテガ政権と反政府勢力が対話開始で合意▼政権がカトリック教会の仲介条件を呑む▼こじれれば反政府行動再燃か▼メキシコで候補19人殺害さる▼ベネズエラ大統領選挙は野党2候補の一本化が鍵

 ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領と、その夫人ロサリオ・ムリージョ副大統領は5月11日、同国カトリック司教会議(CEN)が前日提示していた「対話開始のための4条件」を受諾した、と発表した。

 先月から首都マナグアをはじめ全国各地で、大学生、市民団体などによる反政府行動が続いており、非公式集計で11日までに「49人以上63人以下」が死亡している。経団連(COSEP)は、連続3期の長期支配を続けるオルテガ政権に対する反対行動を支持している。

 レオポルド・ブレネス枢機卿が率いるCENは10日、①米州諸国機構(OEA)の米州人権委員会(CIDH)による4月以来の一連の事件における死傷者・弾圧状況・直接加害者特定などの調査実施②政府系準軍部隊の解体③弾圧の即時停止④政府による人権尊重に基づく対話意志表明ーの4条件を提示。14日までに回答するよう求めていた。
 政府の条件受諾を受けて、「4月19日学生運動」(M19A)、COSEP、市民団体などは11日、対話参加を表明した。

   陸軍も11日「市民弾圧には関与しない」と、「中立的立場」を表明。「対話でしか問題は解決しない」として、政府と反政府勢力の対話を支持した。

 だが同日、マサヤ県ラ・コンセプシオン市の市庁舎が放火・破壊され、政権党FSLNの会合所も略奪された。国立自治大学(UNAN)、ニカラグア工科大学(UPOLI)の学生ら計2人も銃撃されるなどして死亡し、不穏な空気が依然支配している。
 オルテガ政権筋は、今回の反政府騒乱状況が昨年4~6月ベネズエラで続いた反政府街頭暴力運動に酷似しているとし、米国など外部勢力の関与の可能性を指摘している。

 だが同政権が重大局面に直面しているのは事実。14日以降に始まる対話がこじれれば、騒乱状況が再燃するのは疑いない。内外の反政府勢力は現状を、オルテガ政権打倒の一大好機と捉えているからだ。

▼メキシコで候補者19人殺される

 7月1日の大統領選挙、下院議員・市長選挙などを前に選挙戦が展開されているメキシコ・グアナフアト州アパセオエルアルト市で5月11日、野党「国家刷新運動」(ARENA)の市長候補ホセ・アギーレが遊説中、銃弾6発を撃ち込まれて即死した。

 これで前哨戦が始まった昨年9月以来、出馬予定者および候補が計19人殺害されたことになる。内訳は政権党PRIと野党PRD各5人、MORENAと前政権党PAN各3人、緑の党など3会派各1人。
 うちアギーレ候補を含む4人は、今月4日以降、メヒコ、チウアウア、ゲレロ、グアナフアトの各州で殺害された。

 MORENAはPRDから分派した中道左翼および左翼勢力の政党で、大統領選挙の最有力候補AMLO(アムロ)が党首を務めている。

▼ベネズエラ大統領選挙は野党候補統一が鍵

 5月20日実施の大統領選挙の最新の支持率調査では、政権党PSUVなどの「祖国拡大戦線」(FAP)候補ニコラース・マドゥーロ現大統領が48・4%で最有力。
 2番手は33・3%の「進歩主義前哨」(AP)など野党3党候補ヘンリー・ファルコン前ララ州知事。

 3位は、「変化への希望」候補のハビエル・ベルトゥッチ福音派牧師で11・7%。2、3位の両候補の支持率を合わせれば48%で、マドゥーロと拮抗する。このためファルコンは野党候補統一を呼び掛けているが、ベルトゥッチは11日現在拒否している。

 別の調査では、マドゥーロ51%、ファルコン28%、ベルトゥッチ16%。これも野党両候補を一本化すれば51%対44%で、接戦になりうる。
 親米派で保守性の強いベルトゥッチがファルコンを嫌うのは、同候補がかつてチャベス派で、マドゥーロ体制に対し是々非々主義を貫いていたことなどによる。 

 ハバナでのCEPAL(国連ラ米・カリブ経済委員会)総会が閉会▼「2030アジェンダ」、「SDGs」などを討議▼キューバ議長が「不平等文化」撲滅を呼び掛け▼ALBA外相会議がベネズエラとニカラグアへの支持・連帯を表明▼コロンビア大統領はベネズエラを酷評

 国連ラ米カリブ経済委員会(CEPAL)は5月8~11日、ハバナで第37回総会を開催、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」、同開発目標(SDGs)や、LAC(ラ米・カリブ)域内の不平等是正などを討議し、閉会した。

 キューバは向こう2年間、CEPAL議長国を務める。CEPAL下部機関である「南南協力委員会」と「LAC諸国持続的開発フォーラム」の議長も務める。
 会議には各国・地域の経済関係閣僚のほか、ラ米から玖、ベネズエラ、ボリビア、エクアドールなどの外相も出席。ボリビアのフェルナンド・ウアナクニ外相は、「市場全球化や多国籍企業の関与拡大が進む今、国家の立場強化が不可欠だ」と強調した。

 8日の開会式にアントニオ・グテレス国連事務総長らと共に出席したミゲル・ディアスカネル玖国家評議会議長は開会演説で、「域内の不平等文化を変えるのが重要だ」と指摘した。
 同議長は、「不平等は植民地時代に根差し、特に先住民族、アフリカ系、子供、女性に影響を及ぼした」とし、「帝国主義、新自由主義、および多国籍企業に有利なマクロ経済政策に起因する」と分析。「多国籍企業は、人種、国別、都会と農村などの差別を深刻化した」とも述べた。

 また、「我らのアメリカ(LAC)は統合に向けてCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)を結成した。その2014年のハバナ首脳会議はLAC平和地域化宣言を採択した。平和なしに発展はなく、発展なくして平和はない」と明言した。

 さらに議長は、「メディア独占が進行、それを通じて(特定諸国・勢力が)消費主義、我々の実情とかけ離れた意思や価値観を押し付けている状況を考察すべきだ」と語った。
 議長は「少数者の富裕より多数者の福利を」とのホセ・マルティの言葉を引用しつつ、LAC統合、連帯、経済開発に取り組んでいきたいと述べ、演説を締めくくった。

 会議最終日の11日、米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)加盟9カ国の外相らは会合。「ラ米進歩主義政権に対する内政干渉の攻勢が強まっている」との共通認識を踏まえ、べネズエラとニカラグアへの連帯を表明。米政府がモンロー教義を「再活性化」させているのを糾弾した。

 一方、ハンガリー訪問中のJMサントス・コロンビア大統領は11日ブダペストで、「我々(反マドゥーロVEN政権諸国)は、20日のVEN大統領選挙もその結果も認めない。早期政権交代のため圧力をかけている」と述べた。

 サントスはまた、「VENでは政権交代があるだろう。それが早くきて、VEN経済が良い政権の下で早急に回復するのを期待する」と語り、「世界最大の原油埋蔵量をもちながら国民が飢え、難民がコロンビアに66万人も来ている。原因はVEN政権の腐敗と悪政だ」と非難した。

 サントスの「選挙を認めない」と「政権交代」に触れた発言は、選挙でニコラース・マドゥーロ大統領が再選された場合、トランプ米政権が一方的軍事介入に踏み切る可能性を示唆したとも受け取られ、ベネズエラやALBAに懸念が広がっている。 
  

2018年5月11日金曜日

 ガイゼル旧ブラジル軍政が「危険分子」の法律外処刑を密かに決定▼当時のコルビーCIA長官からキッシンジャー国務長官に宛てた文書で確認さる▼伯軍政暗部への米政府の関与がまたも明るみに

 旧ブラジル軍政が「反体制危険分子」の非合法処刑を公認していたことがこのほど米政府文書によって確認され、ブラジル社会で非難を巻き起こしている。

 ジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV)のマティアス・スペクトル教授(国際関係)は5月10日、米国務省が2015年に公開していた機密文書を分析していたところ、1974~79年のエルネスト・ガイゼル軍政期に「危険分子の法律外処刑」が継続決定され実施されていたことが判明した、と明らかにした。

 それによると、CIA長官ウィリアム・コルビー(当時)はヘンリー・キッシンジャー国務長官(同)への74年4月11付覚書で、次の事実を報告している。

 ガイゼル軍政大統領は就任直後の74年3月30日、国家情報局(SNI)長官ジョアン・フィゲイレド(次の軍政大統領)、陸軍諜報局(CIE)のミルトン・デ・ソウザ前長官および、コンフィシオ・アヴェリーノ新長官と会談した。
 メディシ前軍政下でCIE長官だったソウザは、「危険分子」104人を法律外処刑した、と語り、ガイゼル軍政も同様にすべきだと進言した。ガイゼルは「明るみに出れば重大な問題になるため考える時間が欲しい」とその場を引き取った。

 だがガイゼルは2日後の4月1日、フィゲイレドSNI長官と会談、法律外処刑を継続することを決定した。フィゲイレドは決定を受けて、「危険分子」処刑を(CIEに)命じた。米政府は、決定と命令を黙認していたことになる。

 ガイゼルは74年9月ブラジリアで、田中角栄首相と会談、関係強化で合意している。後継のフィゲイレドは1979~85年、軍政最後の大統領を務めた。
 ルセーフ前政権期の「真実委員会」は2012年、軍政期に434人が法律外処刑されるか「行方不明処理」されたと報告している。

 1985年の民政移管から33年、軍政期(1964~85)の「将軍たちの人道犯罪」の多くをCIAがいち早く把握していた事実が次々に明るみに出つつある。
 キッシンジャーこそ、南米極右軍政諸国を左翼相互抹殺協力作戦(コンドル作戦)に導いた黒幕だった。ラ米では、ノーベル平和賞さえもらったキッシンジャーへの評価は決して高くない。
 日米関係にしか目がない日本人の米国研究者の多くはキッシンジャーを極めて高く評価しているが、そんな「異常な見方」をラ米知識人は冷ややかに見ている。

2018年5月10日木曜日

 コロンビア政府とゲリラELNとの和平交渉はハバナできょう再開▼サントス大統領は8月の任期切れまでには最終合意は困難との見方示す▼新たな停戦合意が鍵▼今月27日にはコロンビア大統領選挙

 コロンビア政府とゲリラ組織「民族解放軍」(ELN、兵力1500~2000人)の和平交渉第5段階は5月10日、ハバナで再開した。
 交渉仲介国キューバのイバン・モラ代表は、2014年1月ハバナで開かれた第2回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)首脳会議で、LAC(ラ米・カリブ)を平和地域にするという決議が採択されたことに触れ、和平合意達成に期待を表した。

 JMサントス大統領は滞在中のベルリンで、次期政権が発足する8月7日までに和平最終合意に達するのは困難との見通しを明らかにしながらも、「次期政権に良い道筋を残してあげたい」と、ハバナ交渉の進展に期待を表した。

 ELN首席代表のパブロ・ベルトゥラーンは、今年1月に終わった第1回停戦に次ぐ第2の、だが「堅固な停戦に漕ぎ着けたい」と表明。だが同代表は、2016年11月にFARCと和平合意した政府がその後、「合意事項を誠実に遂行していないことにELNは懸念を抱いている」とも口にした。

 コロンビアでは今月27日、大統領選挙が、6月17日に決選投票がそれそれ実施される。世論調査では、極右アルバロ・ウリーベ前大統領の子飼いイバン・ドゥケ候補が決選で勝つ公算が大きいと見られている。
 ベルトゥラーン代表は9日ハバナで、「選挙結果が気になる」と述べたが、「しかし和平交渉は選挙の争点ではない」と指摘した。

 コロンビア政府のグスタボ・ベル首席代表も、新たな停戦を実施し、サントス政権末期までに最終合意に到達したい意志を表明した。コロンビアでは緑の党、民主軸、進歩主義党、自由党など中道・中道左翼陣営が和平交渉支持を打ち出している。

 この和平交渉は17年2月に赤道国首都キトで始まったが、同年5月就任したレニーン・モレーノ赤大統領は先月、和平仲介国(交渉場所提供国)であることを止めた。
 その結果、新たな貸座敷はFARC和平で実績のあるキューバと決まった。ELNはかつて、チェ・ゲバラの革命思想に共鳴するゲバリスト路線をとっていた。

2018年5月9日水曜日

 トランプ米政権がマドゥーロ・ベネズエラ政権打倒圧力を倍加▼米州諸国機構にVEN加盟資格停止を働きかけ▼コスタ・リカのアルバラード新大統領が就任▼アルゼンチンがIMFに融資要請

 トランプ米政権のベネズエラ政権打倒圧力が倍加している。ニキ・ヘイリー米国連大使は5月8日、米州諸国の外交官、企業家を前に、「ニコラース・マドゥーロ(VEN大統領)が辞めるまで圧力をかけ続けよう。ラ米全諸国民の安全のためにマドゥーロは去るべきだ」と訴えた。
 同大使は、「具体策はないが、圧力をかけるのを止めてはならない。米州地域(の広範な協力)に懸かっている。説得や対話を呼び掛けるべき時は既にすぎている」とも述べた。

 この会合は、米州諸国の財界を中心に1965年デイヴィド・ロックフェラーによって結成された「米州理事会」の主催により米国務省内で開かれた第48回米州会議。ヘイリーはまた、「内破」(内側から崩壊すること)はVENだけでなくニカラグアでも始まっている、と指摘した。

 一方、マイク・ペンス米副大統領は8日、米州諸国機構(OEA)ワシントン本部でのOEA大使会議で演説、「米国は手をこまねいてはいない。ベネズエラは自由になる。失敗国家に国境はない」と強調。当事国VENと米国および非加盟のキューバを除く加盟32カ国に、「ベネズエラのOEA加盟資格停止」に踏み切るよう促した。

 これに対し、VEN外務省は8日カラカスで声明を発表、「覇権主義者の冷笑・傲慢」と米政府を糾弾した。
 特にペンスが「国境はない」と乱暴な言葉を吐いたのは、VENに軍事侵攻したいがラ米側から反対され欲求不満気味の米政府の苛立ちを象徴している。今月20日にマドゥーロ再選が有力視されているVEN大統領選挙が迫っているため、米国は内政干渉を激化させている。

 トランプ政権はVEN、キューバ、ニカラグアの3国をひとまとめにして敵視している。同3国は、特にイランを敵視する米政権がイラン核合意から8日離脱したこともあり、警戒心を強めている。

▼コスタ・リカ新大統領が就任

 4月1日の大統領選挙決選で勝ったカルロス・アルバラード(38)が5月8日就任した。任期は4年。ルイス・ソリース前大統領に続く市民行動党(PAC)の政権。
 新大統領は首都サンホセの「民主・国軍廃止広場」での就任演説で、教育、国庫、治安を優先政策として掲げた。特に歳出削減の可能性を示唆した。

 今年は1948年4月、故ホセ・フィゲレス(元大統領)率いる反乱軍が内乱を起こし政府軍を打倒、執政評議会を設立した70周年。同年12月初め評議会議長のフィゲレスは国軍廃止を柱とする新憲法を発布した。就任式のあった広場の名前は、この史実に由来する。

 就任式にはエクアドール、ボリビア、エル・サルバドール、グアテマラ、パナマ、ドミニカ共和国の各大統領、キューバ副議長(イネース・チャプマン)、コロンビア副大統領、ベネズエラ外相、蘭領アルバ首相らが出席した。

 5月1日に就任した新下院議長カロリーナ・イダルゴも35歳で、若い女性。政権党PACは下院定数57のうち10議席しか保有しておらず、国会での野党の協力が欠かせない。

▼亜国がIMFに融資要請

 アルゼンチン政府は5月8日、通貨ペソが米ドルに対し安値に陥っているため、国際通貨基金(IMF)に融資要請、近くワシントンで交渉が始まる。

 亜国としては、IMF や米政府の介入を拒否したキルチネル夫妻3期12年を入れ15年ぶりのIMFへの接近。施政3年目にあるマクリ新自由主義・右翼政権は来年末に大統領選挙を控え、経済回復に躍起だ。

2018年5月7日月曜日

 メキシコの保守派ジャーナリストが大統領最有力候補AMLO(アムロ)の「暗殺教唆」▼「殺し屋ジャーナリズム」糾弾の嵐巻き起こる▼1994年に実例

 メキシコの著名なジャーナリスト、リカルド・アレマン(63)は5月5日、次期大統領最有力候補アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)の暗殺を教唆するとも受け取れるメッセージをSNSで発信、6日にかけて厳しく糾弾されている。

 アレマンは、「ジョン・レノンはファンから殺された」など数人の著名人が崇拝者に殺害された例を並べた後、「AMLOはいつになるのだ」と書いた。

 これに対しAMLO選対幹部タティアン・クロウティエルは直ちに、「彼がペリオディスタ(ジャーナリスト)を名乗るのは許しがたい。彼は自ら働くメディアをも傷つけた」と反撃した。
 著名な保守派論客エンリケ・クラウセは、「危険、無責任、容認し難い、非難すべき、拒絶すべき」と、アレマンへの厳しい言葉を並べた。

 多くのジャーナリストは6日、「#殺し屋ジャーナリズム(ペリオディズモ・シカリオ)糾弾」運動を開始した。アレマンが出演する主要メディアである最大手TVテレビサと11チャネルは、アレマンとの契約を解除、出演番組を打ち切った。

 アレマンは「誤解を与えてしまった。脅迫でなく警鐘を鳴らしたのだ」と言い訳したが、後の祭り。「#」運動派は、殺人教唆罪で検察庁に告発する構えだ。

 大統領選挙は7月1日実施されるが、昨年、選挙戦が実質的に始まっていたころからアレマンはAMLOを敵視する醜聞めいた虚偽すれすれの情報を盛んに流し、顰蹙を買い、「腐敗政権から金をもらって動いている」と非難されていた。

 メキシコのジャーナリズムは長らく、「(体制に)売られた新聞」、「(体制から)
買われた新聞」と揶揄されていた。だが90年代から今世紀にかけての混乱期に報道の自由が増し、体制批判や社会状況批判が急速に増えた。
 このため多くのジャーナリストが、政治家、当局、麻薬マフィアなどの放った殺し屋によって殺害されてきた。警察が殺し屋である例は珍しくない。

 メキシコでは最有力大統領候補だったコロシオが1994年3月、ティフアーナ市郊外で遊説中に暗殺された例が記憶に新しい。この事件の黒幕は、麻薬資金と絡む大物が黒幕だった。
 コロンビアでは1948年、最有力大統領候補JEガイタンが暗殺され、一大暴動事件が起き、これが、その後のゲリラ諸勢力と政府軍との長期内戦に発展した。

 守旧派や右翼の懸念を代弁するアレマンのような暴言がはびこる裏には、プリパニスタ(PRI・PAN両党支配)体制の危機がある。AMLOは同体制の外にいる大物政治家で、大統領の椅子に3度目の挑戦をしている。
 最初の06年選挙で実質的に勝ちながら投開票の不正で勝利を奪われるという苦い経験を持つ。12年の前回は現政権の金権攻勢に敗れた。

 今回は、メキシコに厳しい要求を突きつけるドナルド・トランプ米大統領に屈辱を味わわされてきたPRI現政権の無能、腐敗、不人気からAMLOに勝機が訪れている。AMLOも意識的に「左翼から中道・進歩主義へ」と印象を和らげる言動をとっている。

2018年5月6日日曜日

 コロンビア政府とゲリラELNの和平交渉はハバナに場所を移して続開へ▼エクアドール大統領の貸座敷打ち切りを受けて▼パナマ大統領が制憲議会開設方針を発表▼パナマ駐在の米大使がトランプ政権嫌って辞任

 コロンビア政府とゲリラ組織「民族解放軍」(ELN)は5月5日、和平交渉を7日以降ハバナで実施する、と発表した。キューバ政府も5日、双方からの要請を受けて和平交渉の貸座敷となることを決めた、と発表した。
 ハバナでは2012~16年、コロンビア政府とゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FRAC)の和平交渉が続けられ、16年11月、和平は実現した。

 COL政府とELNは2017年2月、赤道国首都キト郊外で和平交渉を開始、10月から今年1月にかけての停戦に漕ぎ着けた。交渉は第5段階に達していたが、4月18日、レニーン・モレーノ赤大統領が交渉貸座敷提供打ち切りを表明、当事者双方は新たな交渉場所を探していた。

 キト交渉はラファエル・コレア前赤大統領が受け入れたが、後継者だが保守的なモレーノ大統領は貸座敷であることに必ずしも乗り気でなかった。
 3月から4月にかけて赤主要紙エル・コメルシオの取材班3人がコロンビア国境地帯で、武闘を継続するFARC分派に殺害されたのを受けて打ち切りに踏み切った。
 その理由として「ELNがテロリズムを止めていないこと」を挙げたが、不可解な説明であり、貸座敷であるのを止めたい意思表示と受け止められていた。

 ELNは1964年に武闘を開始した大学生やスペイン人カトリック神父が主体の組織。富裕層出身の神父だったカミ―ロ・トーレスも政府軍との戦闘で死んでいる。
 ELNは故エルネスト・チェ・ゲバラの思想(ゲバリズモ)を信条とし、コロンビア主義の強かった農民と共産党主体のFARCとは一線を画していた。

 ハバナでの新たな和平交渉は、19日に発足したミゲル・ディアスカネル玖国家評議会議長にとり、最初の重要な多国間外交事業となる。ベネズエラ、ブラジル、チリ、ノルウェーも保証国として和平交渉に関与している。

▼パナマが制憲議会設置方針を発表

 フアン=カルロス・バレーラ巴大統領は5月5日、新憲法ないし改憲の草案を起草する制憲議会の議員60人を選ぶ選挙を、2019年5月5日の総選挙と同時に実施すると発表した。7日から国内各界に諮問するという。

 制憲議会開設は同大統領の選挙公約だった。だが任期が残り一年余りとなった今、具体策に踏み切ったことに異論が巻き起こっている。「バレーラ派の長期支配が狙いではないか」という非難が野党からは出ている。
 総選挙では正副大統領、中米議会議員、市長、市会議員、集落役員を選出する。これに制憲議会議員が加わることになる。

 一方、米国のジョン・フィーリー駐巴大使は5日、トランプ政権下ではやっていけないとして辞任した、と公表した。米国務省は、同大使が3月9日付で辞表を提出していたことを明らかにした。

 

2018年5月5日土曜日

 マルクス生誕200周年にキューバで記念行事、ホセ・マルティと対比▼ペルーではマリアテギと比べる▼べネズエラ大統領は人民民主主義を唱える★「週刊金曜日」5月11日号に映画「マルクス・エンゲルス」評掲載

 カール・マルクス(1818~83)の生誕200周年(5月5日)に際し、社会主義体制のキューバでは幾つかの記念行事が催された。
 玖労働者中央同盟(CTC)の機関紙トラバハドーレス(4日付)は、マルクスの熟年・晩年期に青年期にあったキューバ最大の知識人ホセ・マルティ(1853~95)が、「弱者の側に立つことは名誉に値する」と述べていたことを伝えた。

 さらにマルクスについて、「世界を新しい基盤に置くため闘った」と評価していたことにも触れた。だが同紙は、マルティがマルクスの唱えた階級闘争に否定的見方を打ち出していたことには触れなかった。
 
 ハバナにあるラウール・ロア=ガルシア国際関係高等研究所では4日、「マルティ、マルクス、玖社会主義」と題したシンポジウムが開かれた。
 「マルティとマルクスに、社会正義と公共の善のために活動する道を我々は見出した」、「マルクス主義は過去の遺物では決してなく、生きている科学として、時代に反逆する思想を持つことが急務である現代の状況を批判的に分析する方法を与えてくれる」などの意見が出された。

 この会合は、ホセ・マルティ文化協会(SCJM)とマルティ研究所(CEM)が主催。マルティ青年運動(MJM)、「フラグア・マルティ博物館」(MFM)なども参加した。

 玖作家・芸術家連盟(UNEAC)UNEACも5日、記念会合を開いた。

 ペルーのリマで開かれたフォーラムでは、同国共産党創設者で思想家のホセ=カルロス・マリアテギ(1894~1930)とマルクスを対比させる形で議論が展開された。

 また、英知識人らの意見もラ米各紙で紹介された。「共産主義はマルクスとエンゲルスが想定したようにはならなず、ソ連圏がなくなり、世界は資本制に凌駕された」という意見や、「極少数者への富の集中と絶望的貧富格差、市場全球化、労働を伴わない取引による利潤獲得など、現代資本制の歪みをマルクスは19世紀に予測していた」との評価も伝えられた。
 「そんな現代だからこそ、マルクスの価値が再評価されるべきだ」という意見が少なくない。

  一方、「ボリーバル主義(ボリバリアーナ)革命」と「21世紀型社会主義」を標榜するベネズエラのニコラース・マドゥ―ロ大統領は4日、マルクスには触れずに、「世界のほとんどの民主主義は選良による選良のためのものだが、我々のは最大多数者のための人民民主主義だ」と述べた。

★「週刊金曜日」誌5月11日号映画欄(56P)に、仏独ベルギー合作「マルクス・エンゲルス」(岩波ホール上映中)の評「時に無頼な<革命的生き様>描く」を書きました。ご参考まで。

2018年5月4日金曜日

 「世界報道の自由の日」にアルゼンチンで「責任編集と職業ジャーナリズム重視」、「虚偽ニュース拒否」を訴え▼記者殺害頻発するラ米で進歩主義退潮、大企業のメディア独占で「富裕支配層の報道の自由に傾斜」との指摘▼日本では注目度低い「報道の自由日」▼5月3日は朝日新聞阪神支局襲撃事件発生日でもある

 ユネスコ「世界報道の自由の日」の5月3日、亜国ジャーナリズム企業協会(ADEPA)加盟の約200のメディアは電子版で、「このニュースは責任ある編集に基づく」という点を明確に表明し、「社会メディアの虚偽ニュースを拒否しよう」と呼び掛けるた。
 また、「#職業ジャーナズムはシ(良し)」、「#虚偽ニュースはノ(駄目)」と発信することを決め、一斉に発信した。
 クラリン、ラ・ナシオン、インフォバーエ、ぺルフィール、ラ・ガセータ、ラ・ボス・デ・インテリオール、TNなど、アルゼンチンの主要メディアが参加している。

 この「報道の自由の日」は1993年5月3日、ナミビア首都ウィントフクで開かれたユネスコ主催「アフリカ独立メディア促進セミナー」での決定を受け、翌94年に施行。今年は第25回となる。

 「国境のない記者団」の判断による「2018年報道の自由度順位」(世界約190カ国対象)によれば、LAC(ラ米・カリブ地域)では、ジャマイカが上位6位、コスタ・リカが10位に入った。下位10位では、社会主義キューバが最下位から9番目につけた。

 そのキューバでは玖ジャーナリスト協会(UPEC)が会合を開き、ラ米では2017年にジャーナリスト37人が殺害されたと報告した。
 キューバで最後にジャーナリストが殺されたのは、革命戦争中の1958年5月13日、反乱軍が立て籠もるマエストラ山脈でフィデル・カストロ最高司令らを取材し、ハバナから空路出国しようとしていたエクアドール(赤道国)人カルロス・バスティーダスがバティスタ政権の秘密警察に逮捕され、拷問されてから射殺された事件、と指摘された。

 ラ米ジャーナリスト連盟(FLAP)はハバナで、「進歩主義政権退潮、ジャーナリスト殺害頻発、富の分配の不公平拡大が<報道の不正義>を生み、そのような状況が<報道の自由>を富裕支配層と帝国主義に都合の良いものと解釈されている」と批判した。
 さらに、「多国籍大企業によるメディア独占」状況を非難。社会メディアが「政治運動」を展開し、「イデオロギー的攻勢をかけている」と指摘した。
 米国に関しては、「キューバは長年、米国による反革命宣伝ラ・テ放送に晒されてきた」との言及があった。

 記者殺しが最悪状態にあるメキシコでは、ジャーナリスト団体などがこの日、国会で成立済みの「社会伝達法」を施行しないよう、エンリケ・ペニャ=ニエト大統領に訴えた。
 メキシコでは2017年にジャーナリスト12人が殺された。今年はすでに3人が犠牲になっており、最近では3月ベラクルース州内でレオバルド・バスケス記者が自宅玄関で射殺された。

 エクアドールのレニーン・モレーノ大統領は「報道の自由を守る」と述べ、先ごろコロンビアゲリラ残党に殺害された同国エル・コメルシオ紙取材班3人を悼んだ。

 米国ではマイク・ポンぺオ国務長官が「自由なジャーナリズムを促進し守る」と述べた。だが、トランプ現政権下で虚偽ニュースなどが跋扈、充満し、言論の自由が脅かされている、との指摘が数多くある。

 LACの「自由度順位」はCR、ウルグアイ、スリナム、チリ、亜国、ガイアナ、ドミ二カ共和国、ハイチ、エル・サルバドール、ペルー、ニカラグア、パナマ、赤道国、ブラジル、パラグアイ、ボリビア、グアテマラ、コロンビア、ベネズエラ、メキシコ、キューバ、の順。

 日本では「報道の自由の日」は「憲法記念日」と重なり、注目度が低い。政府・官界と国会政権党議員らの虚偽言動が充満 、司法の意志薄弱が目立つ日本の「報道の自由度」は、先進工業国では極めて低い。そんな権力の状況が虚偽情報を日本社会に蔓延させ、言論封じの悪しき傾向が顕著になっている。
 日本のジャーナリストやメディアが「報道の自由の日」をもっと重視することを期待したい。

    5月3日は、朝日新聞阪神支局襲撃事件(1987年)発生の日である。小尻知博記者が29歳の若い人生を銃弾に奪われ、犬飼兵衛記者(今年1月死去)が重傷を負った凶悪な言論封殺事件だった。事件はいまだに未解明だ。
 この日本のジャーナリズムとしては、この事件と「報道自由の日」を結び付けて考えるべきだろう。

    因みに、スペイン語でジャーナリズムは「ペリオディズモ」、ジャーナリストは「ペリオディスタ」という。

2018年5月3日木曜日

 スペイン地下結社「バスク国と自由」(ETA)が書簡で解散を宣言、犠牲者に謝罪▼結成60周年、「自分たちの時代は終わった」と結論▼ベネズエラ大統領が「武闘決起も辞さぬ」と野党候補を牽制

 スペイン・バスコ(バスク)州の独立派武闘地下結社「エウスカディ・タ・アスカタスナ」(バスコ国と自由)は5月2日、新聞や政治家らに送付した書簡で、組織解体を宣言した。書簡は今年4月16日付。

 1958年にバスコ民族主義者党(PNV)の青年組織として発足してから60年。書簡は「ETAの歴史的時代は終わった」と述べている。
 ETAは60年代以降、計853人を殺害したとされる。ETA要員も多数殺害されたり、投獄されてきた。

 書簡には「西仏両政府の理解は依然、得られていないが」と記されている。ETAは書簡で、殺害した犠牲者、遺族に謝罪している。これに対し両国政府は、謝罪は遅すぎたと表明した。ETAはピレネー山脈両側の西仏バスコ地域に拠点を設けていた。

 ETAは、政党化して政治に参加する意図はない、としている。ETAはフランコ独裁時代は、内外の民主派から広範な支持を得ていたが、フランコが1975年11月に死去、やがて民主化過程が軌道に乗ると、「破壊活動組織」などと非難されるようになった。
 スペインの政治評論家は、「コロンビアのFARCと違い、ETAには社会復帰し政治参加する立場にない」と指摘する。

【筆者はフランコ時代末期に仏国側バスコ地域でETA幹部にインタビューした。拙著『イベリアの道』(1995年、マルジュ社)、同『ボスニアからスペインへ 戦の傷跡をたどる』(2004年、論創社)を参照されたい。】

▼ベネズエラ大統領が「武装蜂起も辞さない」と牽制

 5月20日の大統領選挙での再選を目指すニコラース・マドゥーロ大統領は2日、バルガス州カリブ海浜での演説で、「選挙の結果、国富を米国に渡す政府が現れたら、私はライフル銃を手に人民と共に戦いを挑む」と述べた。
 これは、べネズエラ通貨をボリーバルに替えて米ドルにすると公約するヘンリー・ファルコン候補への牽制発言。ファルコンはチャベス派と袂を分かった政治家で、マドゥーロに次ぐ有力候補。

 ファルコンは2日、過去19年間(故ウーゴ・チャベス前大統領14年、マドゥーロ5年)で今はチャベス派に勝つ最大の好機だ、と指摘した。

 一方、米州諸国機構(OEA)は2日、ワシントン本部での大使会議で、「ベネズエラ問題」を6月4~5両日同地で開催される第70回総会(外相会議)の議題とする提案を賛成19、反対6、棄権5、不参加4で可決した。
 「反マドゥーロ派」の米加墨グアテマラCRコロンビア秘智パラグアイ亜伯セントルシーアの12カ国が共同提案していた。同12カ国は、「20日の大統領選挙で生まれるベネズエラ政権を非合法と見なす」という決議案をも提案する準備を進めている。

 これに対しVENのサムエル・モンカーダOEA大使は、OEA憲章にある「内政不干渉原則」を盾に、12カ国の画策を糾弾した。

 この日、米国のOEA大使に就任したカルロス・トゥルヒージョ(反革命キューバ系3世)は、「ベネズエラはOEAを去るべきだ。ただし自発的にではなく」と述べ、VEN追放が望ましいとの考えを示した。
 その就任式でマイク・ペンス米副大統領は、「かつてVENは南米一豊かな国だったが、今や地域で最も貧しい国の一つに成り下がった」と口にした。

2018年5月2日水曜日

 ドミニカ共和国が中国と国交樹立、台湾と外交維持するのは19カ国に▼うち10カ国はラ米・カリブ地域に▼動向気になるニカラグア 

 ドミニカ共和国(RD、ラ・ドミニカ―ナ)のミゲル・バルガス外相と中国の王毅外相は5月1日、北京で国交樹立合意書に調印した。RDは同時に台湾との外交関係を断ち切った。
 建国間もない1950年代、国交を持つ国が23カ国しかなかった中国は今日、RDを含め176カ国と国交を持つ。一方、台湾は19カ国に減った。

 その19カ国のうち、実に10カ国はLAC(ラ米カリブ地域)にある。ラ米はグアテマラ、エル・サルバドール、ホンジュラス、ニカラグア、ハイチ、パラグアイ。カリブはベリーズ、セントクリストファー&ネヴィス、セントヴィセント&グラナディーン、セントルシーア。
 セントルシーアは、台湾と断交し中国と国交を樹立したが、対中断交して台湾と復交した珍しい経緯がある。

 台湾の蔡英文総統は、以上のLAV諸国で大統領や首相が就任する際、就任式に可能な限り出席し、援助を約束してきた。

 ニカラグアのオルテガ・サンディニスタ左翼政権は、プーチン露政権と同盟関係にあり、一方で中国系資本を入れてニカラグア横断運河の建設作業に着手している。しかし建設工事は滞っている。
 オルテガ政権が本気で運河を完成させようと決意するならば、中国資本に前面に出てもらうしかないだろう。その場合、台湾と断交せざるを得なくなる。

 台湾は、外交関係を断たれた後も、亜伯智秘コロンビア赤墨のラ米7カ国には通商代表部を置いている。

2018年5月1日火曜日

 米州諸国機構(OEA)発足70周年▼記念の大使会議でベネズエラ「人道問題」を討議▼20日のVEN大統領選挙を前に揺さぶり掛ける米戦略▼「不安定化の陰謀」とVEN副外相が非難▼キューバで大規模なメイデー行進 

 米州諸国機構(OEA・OAS)は1948年4月、騒乱状態にあったコロンビアの首都ボゴタで発足、それから70年が過ぎた。これに因むと同時に「ベネズエラ人道問題」を討議するOEA特別大使会議が4月30日、ワシントンの本部で開かれた。

 米加墨グアテマラCR・HON巴秘智亜パラグアイ伯の「反ベネズエラ陣営」12カ国が開催を提案(コロンビアは議長国のため提案国にはならなかった)。VENとボリビアは開催に反対した。VENの同盟国キューバはOEAに加盟していない。
 当事国ベネズエラの賛意なしに開かれ、3時間続いた。ニカラグアとエクアドールは特にベネズエラ支援をすることなく黙していた。

 米大統領政庁(ホワイトハウス)のラ米局長フアン・クルーズはベネズエラ国民に向けて「憲法に忠実であれ、マドゥーロ体制に服従するな」と呼び掛けた。特にVEN軍部には、暗に決起を促すとも受け取れる表現で呼び掛けた。

 米国務省ラ米担当次官補代理のマイケル・フィッツパトリックは30日、記者らを前に、OEAは昨年4月に墨カンクンで開かれた外相会議でVEN問題で合意できずに終わったが、その結果として「リマグル―プ」(グリマ)が結成された、と述べた。
 同グループは加墨グアテマラHON・CR巴コロンビア秘智亜パラグアイ伯ガイアナ・セントルシーアで構成。突出を避けるため参加していない米国と連携している。

 「人道危機」という言葉を使ってVENに揺さぶりをかける米国の戦略は、5月20日実施のVEN大統領選挙を控えたVEN有権者に、再選を狙うニコラース・マドゥーロ大統領への投票を止めるよう働き掛ける狙いを持つ。
 VENのサムエル・モンカーダOEA大使(北米担当副外相)は、「OEAはVENに暴力を喚起し、大統領選挙直前のVEN社会を不安定化させようと謀っている」と非難。「人道危機」という言葉を彼らが使っているのは、VENへの介入に備えてだと糾弾した。

 そのうえで、「経済状態が悪いことは否定しないが、5月20日の選挙を経て発足する政権が新しい経済を築く」と述べた。マドゥーロ大統領はカラカスで30日、VENの原油生産日量(180万バレル)を100万バレル増やしたいと、方針を明らかにしている。

 OEAは昨年末のHON大統領選挙の不正について大々的に取り上げることなく、結果的に「不問」に済ませた。16年8月の異常なブラジル大統領弾劾は、労働者党政権を倒し、大掛かりな汚職事件を覆い隠しための保守・右翼陣営の陰謀だったが、これについてもOEAは、弾劾の結果登場したテメル伯現政権追及に執着しなかった。

 トランプ米政権は最近、新たにCIA前長官を国務長官、極右の元国連大使を大統領安保担当補佐官に迎え、右傾化が著しくなった。これはラ米の左翼・進歩主義陣営にさらに厳しい季節が到来したことを意味する。

 フィッツパトリック次官補代理は、5月7日のOEA大使会議と6月ワシントンでのOEA外相会議でマイク・ペンス米副大統領がVEN政策などで演説すると明らかにしている。

▼キューバで大規模なメイデー行進

 ハバナの革命広場では「国際労働者の日」の5月1日、労働者、市民ら数十万人が行進した。観閲台の中央には、ラウール・カストロ共産党第1書記、その左側にミゲル・ディアスカネル国家評議会議長、右側に玖労働者中央同盟(CTC)のウリーセス・ギラルテ書記長が並び立ち、その周囲を党・軍・政府の高官らが固めた。

 今年のメイデーの標語は「団結・公約・勝利」。ディアスカネル議長の下での最初のメイデーだ。全国で「数百万人が行進」と玖メディアは伝えている。
 33カ国からの1300人も参加。彼らは、2日にハバナで開かれる「国際対玖連帯会合」に出席する。 

2018年4月30日月曜日

 汚職を追及されているブラジル大統領がアジア歴訪を中止▼ルーラ投獄と均衡図る狙いも▼元ボリビア軍政独裁者が死去▼進歩主義同盟がチリ前大統領を表彰

 ブラジルのミシェル・テメル大統領は4月29日、アジア歴訪を中止すると発表した。5月7日から1週間の日程でシンガポール、タイ、インドネシア、ヴェトナムを訪問する計画だった。
 政府は外遊中止の理由を「議会審議」などの都合と説明している。だが連邦警察が27日、最高裁に対し、テメル大統領の収賄資金洗浄に関する捜査を60日間延長する許可を申請したことが背景にある。

 テメルには以前から巨額の収賄容疑がかけられているが、今回は、昨年サントス港運営認可期間を複数企業に大幅延長してやった見返りに新たに収賄し、不動産取得に充てるなどして資金を洗浄した容疑。買った不動産の名義は妻や息子にしていた。

 ブラジル当局は、今年10月実施の大統領選挙最有力候補ルーラ元大統領を収賄で有罪とし、身柄を拘禁した。これに対しては世論の反発が大きく、釣り合いをとるためにもテメルを追及する必要があった。

 テメルはヂウマ・ルセーフ前大統領の下で副大統領だったが、2016年8月末の「国会クーデター」(弾劾)でルセーフを解任、暫定的に後釜に就任した。今年末、任期が終わる。「ラ米1不人気の大統領」として知られる。

 一方、ブラジル先住民族の2000人が26日ブラジリアで、テメル政権による先住民領土の「前例のないほどひどい侵害」に抗議するデモ行進と集会を実施した。

▼ボリビア軍政独裁者死去

 ボリビア現代軍政史上最悪の圧政者の一人だったルイス・ガルシア=メサ元将軍大統領(88)が4月29日、ラパスの軍事病院で心臓発作により死去した。

 1980年7月、文民のリディア・ゲイレル暫定大統領(女性)をクーデターで追放し、81年に追放されるまで軍政を率いた。その間、人道犯罪が多発した。逃亡先のブラジルで逮捕され、身柄を送還され、30年の禁固刑に服していた。

 部下で内相だったルイス・アルセ=ゴメス元大佐も、麻薬取引で逮捕されていた米国から送還され、09年より30年の禁固刑に服している。

▼チリ前大統領が表彰さる

 旧社会党など中道左翼政党の組織「進歩主義同盟」は4月29日、サンティアゴでミチェル・バチェレ―前大統領を「自由、正義、連帯」への貢献を理由に表彰した。

 この同盟は、旧社会主義インターナショナルの延長組織。チリ社会党所属のバチェレ―は2006~10年、14~18年の2度、大統領を務めた。

2018年4月29日日曜日

 コロンビア大統領選挙は右翼ドゥケ、左翼ペトロの両候補が決選進出の公算▼決選ではドゥケ優位か▼チリ大統領が縁故主義批判受け大使人事撤回

 コロンビア大統領選挙は5月27日に実施されるが、その1カ月前の4月27日、支持率調査結果が公表された。候補者は7人。過半数得票者がいない場合は、上位2候補が6月17日の決選に進出する。

 最有力候補は支持率41%のイバン・ドゥケ(41)。極右のアルバロ・ウリーベ前大統領の子飼い。ウリーベの政党「民主中央」(CD)から出馬。弁護士で、今月まで上院議員(1期目)だった。

 2番手は、32%のグスタボ・ペトロ(58)。「人間的なコロンビア」(CH)運動から出馬。青年時代に旧ゲリラ組織「4月19日運動」(M19)に参加。シパキラー市議だった80年代半ばの2年間、獄中にいた。中道左翼。
 ベルギー駐在大使、下院議員、上院議員、ボゴタ市長を歴任。2005年には「代替民主軸」(PDA)PDAから大統領選挙に出馬、133万票(得票率9%)を得て落選した。

 ドゥケとペトロが決選に進出する公算が大きい。3位以下は、セルヒオ・ファハド(連立コロンビア=CC)13%、ヘルマン・バルガス=ジェラス(前副大統領、政権党候補)8%、ウンベルト・デラカージェ(元和平交渉政府代表、自由党)2・5%など。

 決選では、ドゥヶ555%、ペトロ42・5%で、ドゥケが優位と見られている。ウリーベらは、「ペトロが勝てばコロンビアはベネズエラ化する」と、ペトロ陣営に対し激しい虚偽的罵倒攻撃を展開している。

▼チリ大統領が大使人事撤回

 セバスティアン・ピニェーラ智大統領は4月28日、実弟パブロを亜国駐在大使に任命した人事を撤回すると発表した。

 大統領は19日この人事を決定したが、野党陣営から縁故重用との非難が巻き起こった。3月11日に2期目に就任したばかりの富豪大統領は、重要人事の撤回に追い込まれ、大きな失点を記録した。

 
 

2018年4月28日土曜日

 メキシコのアヨツィナパ教員養成学校生43人強制失踪事件から3年7か月、依然未解決▼グアダラハーラの大学生3人は麻薬マフィアに殺され硫酸で溶かされる▼アルス―・グアテマラ元大統領死去

 メキシコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きた学生43人の強制失踪事件および市民6人殺害事件は、未解決のまま4月26~27日で3年7か月が過ぎた。

 43人は、ゲレロ州都チルパンシンゴの郊外にあるアヨツィナパ農村教員養成学校の学生。この両日、首都メキシコ市、イグアラ市、同学校、およびハリスコ州都グアダラハーラを中心に、事件を解決しようとしない政府への抗議デモが展開された。

 グアダラハーラ市がなぜ加わったかと言えば、同市にあるグアダラハーラ視聴覚メディア大学(CAAV)の男子学生3人が3月19日、研修取材に出掛けたまま拉致、殺害され、遺体を硫酸で溶かされてしまったことが最近明るみに出たため。3人の遺骨がDNA鑑定にふされ、学生3人のものと判明した。

 アヨツィナパ事件とCAAV事件の共通点は、麻薬マフィアが絡んでいること。CAAV学生は、ハリスコ州内で暗躍するマフィア「ハリスコ新世代」の取材に出掛けたまま行方不明になっていた。各地の学生たちは「第2のアヨツィナパ事件」と捉え、連帯している。

 農村教員養成学校生らは、乗っていたバスに、ゲレロ州に根を張るマフィアが米国のシカゴに運ぼうとしていたヘロインなどの麻薬が積んであったことから、口封じのためか、拉致され消息が不明。1~2人の遺骨が43人のうちの学生のものとDAN鑑定で判明したとされるが、遺族や世論は「43人全員の生還」を政府に訴え続けてきた。

 メキシコでは7月1日、大統領選挙が実施されるが、最有力候補アンドレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ、中道左翼)は、当選したらアヨツィナパ事件解明に尽力すると公約している。

 すでにレイムダック化して久しい汚職まみれのエンリケ・ペニャ=ニエト現大統領は同事件を解決できない。なぜならば指揮下にある陸軍、連邦警察が事件に関与、同軍・警察が麻薬マフィアとつるんでいた事実があるからだ。
 この事実はすでに独立調査機関によりほぼ解明されているが、政府は認めない。

▼グアテマラ元大統領死去

 アルバロ・アルス―元大統領(72)は4月27日、ゴルフ中に心臓発作で死去した。
1996年1月から4年間、大統領を務め、同年12月29日、36年続いた内戦に終止符を打つ和平協定に、左翼ゲリラ統一組織「グアテマラ民族革命連合」(URNG)とともに調印した。

 その後、2004年から連続4期、首都グアテマラ市の市長を務めてきた。同名の息子は国会議長。政治的傾向は保守・右翼で、評判の悪いジミー・モレーノ現大統領の同盟者だった。

2018年4月27日金曜日

 ベネズエラとパナマが関係正常化で合意▼ドミニカ共和国大統領が仲介▼背景に米国などによる反マドゥーロ工作

 ベネズエラのニコラース・マドゥーロ大統領は4月26日、パナマとの関係が同日、正常化したと発表した。両国は4月5日、フアン=カルロス・バレーラ巴大統領が駐VEN大使召還を決定、駐巴VE大使に退去を促したことから関係が悪化していた。

 事の起こりはパナマが3月28日、米国、欧州、ラ米の反ベネズエラ陣営の対VEN攻勢策に同調、マドゥーロ大統領を含むVEN人55人との経済・金融取引を禁止する、と発表したこと。
 これに対しVEN はパナマ人22人と巴44社との経済取引を禁止した。これを受けて巴大統領が大使召還などを決定した。VENは4月6日、両国間の航空関係中断を決定。巴も10日、同じく航空関係を25日から90日間中止ることにした。

 だが双方にとり両国関係は重要で、ドミニカ共和国(RD)のダニーロ・メディーナ大統領に仲介の労を求めた。その結果、両国大統領が電話会談し、正常化が決まった。
 マドゥーロは、①大使相互帰任②27日から航空関係再開③両国外相の下で合同委員会を設置、両国間の諸問題の実態調査と解決法を探り、これを30日後に報告、の3点で合意した、と明らかにした。

 ベネズエラでは5月20日、大統領選挙が実施され、再選を目指すマドゥーロら5人が立候補している。米国の音頭取りで反マドゥーロ再選運動が展開されており、揺さぶり政策にパナマも加担していた。
 だが両国にとり経済関係は重要。パナマ運河のカリブ海側にあるコロン市の自由貿易地域の最重要使用国の一つがベネズエラだ。
 米政府は、パナマによる「対VEN一時的断交」を歓迎していたが、当てが外れた形になった。

2018年4月26日木曜日

 ボリビアのコチャバンバ郊外で列国議会同盟議長会議開く▼エボ・モラレス大統領は南米諸国連合(ウナスール)のボイコット6カ国に団結を呼び掛け▼FARC幹部逮捕でコロンビア和平陰る 

 ボリビア・コチャバンバ州サンベニートで4月25日、列国議会同盟の第12回議会議長会議が26日までの日程で開会した。加盟178カ国議会のうち43カ国が参加、「あなたの声が聞き入れられるために働こう」を標語に、「政治における暴力」について話し合う。

 同国のエボ・モラレス大統領は開会演説で、今会議が新築されたばかりの南米諸国連合(ウナスール、12カ国加盟)議会の議事堂で最初に開かれた国際会議であることを強調。同連合加盟諸国に向けて、「南米域内にはイデオロギーや政治の違いがあるが、違いを尊重しつつ団結し、南米市民から世界市民になろうではないか」と呼び掛けた。

 それというのも、加盟国の半数に当たる亜パラグアイ伯智コロンビア秘の6カ国が、イデオロギー的相違に基づく対立からウナスール行事ボイコットを表明したからだ。このような状態が長引けば、せっかく完成した議事堂も意味が薄れてしまう。

 ボリビア国会のガブリエーラ・モンターニョ議長によると、約50各国の議会の議長は女性。ボリビアでは国会議員は男女半々であり、同議長は「この点でボリビアは先進的だ」と自賛した。

 参加43カ国のうち議長が出席しているのは、ウルグアイ、コスタ・リカ、ロシア、フィジーや、アンゴラ、ジンバブウェ、赤道ギニア、ニジェール、レソト、ボツワナ、ウガンダなどアフリカ諸国などだという。
 南米のボイコット6カ国議会は欠席。ウナスールの「分裂」は、地域を超えた国際会議にも影響を及ぼしている。

▼コロンビア和平に陰り

 コロンビア和平(2016年11月)でゲリラ組織「コロンビア革命軍」(FARC)は政党「人民革命代替勢力」(FARC)になった。同党は3月11日の国会議員選挙に初めて参加したが、全体で5万票程度しか獲得できず、選挙民の信頼が薄いことが印象付けられた。
 だが和平合意により選挙結果とは別にFARCは、上下両院で5議席ずつ与えられることになっている。新議会は7月20日開会するが、FARCは5人ずつ計10人の議員名簿を選管に提出していた。

 ところが政府当局は、FARC下院議員名簿筆頭のヘスース・サントゥリッチ元司令を4月9日ボゴタで逮捕、米国に身柄を送ろうとしている。麻薬取引容疑で元司令を手配していた米政府の要請に従った措置。元司令は拘置所で断食、半月たち衰弱しているという。

 和平交渉のFARC代表だった大幹部で上院議員名簿筆頭のイバン・マルケス政治顧問は24日、上院議席に着かないと表明した。理由は、政府側が和平合意より米国を優先、元司令を逮捕、身柄を引渡そうとしていること。
 サントゥリッチ逮捕とマルケス拒否で、残る8人のFARC議員内定者に動揺が広がるのは避けられない。
 和平合意で16年にノーベル平和賞を受賞したJMサントス・コロンビア大統領は、中立的、仲介者的立場を捨て、米国やラ米保守・右翼勢力寄りに傾斜している。大きな問題は、ここにある。

2018年4月25日水曜日

 ボリビアがリチウム生産の合弁相手をドイツ企業と決定▼ウユニ塩湖に鉱脈眠る▼リチウム電池は電気自動車などに使用

 ボリビア政府は4月24日、同国のリティオ(リチウム)をドイツ企業と合弁で開発する、と発表した。独ACIシステム社で、主目的はリチウム電池の生産。

 ボリビア大高原(アルティプラ―ノ)南部にある広大なウユニ塩湖にはリチウムが眠る。この一帯と亜智両国北部を合わせて「リチウム三角形」と呼ばれている。ボリビアの埋蔵量は世界全体の4分の1とされる。

 国営ボリビア・リチウム鉱床(YLB、フアン=カルロス・モンテネグロ社長)は先週末、エボ・モラレス大統領と話し合い、独社の落札を決定した。

 初期投資13億2800万ドルで、出資率はボリビア51%、独社49%。水酸基、陰極、電池、マグネシウム水酸基をそれぞれ生産する4つの工場を3年内に建設する。

 独社はリチウム電池などの生産と商業化を担当。ボリビア国庫には年間11憶ドルの収益が入ることになるという。リチウム電池は電気自動車、パソコン、携帯電話などに使われる戦略的希少金属。

 入札には、中国5社、露独加各1社の計8社が参加。最後には露ウラニウム・ワングループ社と独社が残り、独社が選ばれた。

 ニカラグアの反政府抵抗行動下火に▼オルテガ夫妻政権に退陣求める声も▼カトリック教会が対話仲介へ▼学校教育も25日再開

 ニカラグアでは先週半ばに始まった社会保障改革をめぐる反政府行動が全国的に拡大し、4月23日現在、公式発表で26人が死亡した。治安部隊の発砲、私刑などによる。
    赤十字や人権団体の集計では死者28人、負傷者428人。逮捕者および所在不明者が約200人いるという。反政府行動は24日下火になった。

 首都マナグア中心部では23日、数千人ないし1万人強の大規模な反政府デモ行進が展開された。エステリ、マタガルパ両市でもデモがあった。
 参加者が「オルテガ退陣」を要求するのが目立った。その落書きが、あちこちの公共建築物などの壁面に殴り書きされている。

 ダニエル・オルテガ大統領は21日、「反政府勢力がニカラグアを破壊するため不安定化を謀っている」と批判したが、22日改革を撤回。カトリック教会を仲介者として「国民対話」を呼び掛けた。これを受けてニカラグア司教会議は24日、仲介に同意した。

 今回の反政府行動の主体である大学生らは、大統領および、その夫人でもあるロサリオ・ムリージョ副大統領の退陣を要求している。社会保障改革問題の解決とは別に、政権への不満が解消されるかどうかは不確かだ。不満がくすぶり続けるのは確かだ。

 暴動状況で授業が休止されていた小学校から大学に至る教育機関は25日に授業を再開させる。特に大学では学生が集まれば、政治的行動が再発する可能性がある。

 今回の出来事の中心にあった社会保障庁(INSS)は、赤字7600万ドルを抱える。このため政府は労使および年金生活者に負担増を求める改革を発動していた。これが総スカンを食らったわけだ。
 専門家は、オルテガ政権が発足した2007年初め当時、INSSは3260万ドルの黒字だったと指摘する。政府の腐敗により赤字になった、との批判が出ている。

 改革が官報に記載されるや、経団連(COSEP)が生産と経済成長を阻害すると反対。これを受けて、首都マナグアにあるイエズス会運営の中米大学(UCA)の学生十数人が抗議集会を開いた。
 これが国立農大(UNA)、国立工学大(UNI)、バプティスト運営のニカラグア工科大(UPOLI)、トマ―ス・モア大(UTM)や、中等学校に波及した。
 闘争の中核となったUPOLIには学生数百人が籠城。警察は22、23両日、同大学を捜索た。

 野党、反政府メディア、学生を含む反政府市民は、今回の騒乱状況を11年以上も続いているオルテガ政権の打倒に繋げたいところと見られる。だが統合組織はなく、強力な指導者も見当たらない。学生らは、野党も経団連も自分たちの代表とは思えないと言う。

 ある評論家は、オルテガ大統領の政治的出自である1979年のサンディニスタ革命を念頭に、そのかすかな延長線上にある現状を「蝕まれた革命」と評した。
 今回の事態を「市民の蜂起」と捉え、その打開には出直し選挙しかないと見る向きもある。しかし、その前提として、選管要員の公正な選出が不可欠と指摘する。オルテガ夫妻のサンディニスタ政権が、3権と選管をすべて握っているためだ。

 別の評論家は、ベネズエラで昨年4~6月起きたマドゥーロ政権打倒のための街頭暴動の焼き直しであり、背後に米政府があると見る。

 国際社会にも波紋が広がっており、国連、欧州連合、米州諸国機構(OEA)、米政府、ラ米諸国などから懸念の声が出ている。
 地元中米では、コスタ・リカ外相が中米統合機構(SICA)加盟諸国に打診、ニカラグア問題をOEAなど国際機関に提起するかどうかを探っていた。

 大統領再選を制限する憲法規定を最高裁判断で変え、再選を繰り返してきたオルテガ大統領は、2021年の次回大統領選挙では夫人ムリージョを大統領候補に擁立したい構だ。
 だが、その長期的野望は今、挫折するかどうか先行きを占うべき微妙な局面に差し掛かっているかに見える。ただしオルテガ体制は強力で、簡単には揺るぎそうにないのも事実だ。貧困大衆の多くは政府を支持している。