2017年4月30日日曜日

 ローマ法王フランシスコがベネズエラ対話は一部野党の反対もあり失敗したと認める。同国政府は外国メディアに「意図的誤報」をせぬよう求める▼法王が「核戦争は人類と文化を破滅させ、耐え難い」とし、北朝鮮に「対話による緊張緩和」を呼び掛け

 ローマ法王フランシスコは4月29日、訪問していたカイロからローマに戻る特別機内で70人の同行記者団と懇談。ヴァティカンによる去年のベネスエラでの対話促進努力は一部野党の反対などで失敗した、と明らかにした。

 ヴァティカンのピエトロ・パロリン国務長官(元ベネスエラ駐在法王庁大使)は昨年、仲介のための条件として、選挙行程表作成、反政府派囚人釈放、国際人道支援受入れ、国会権利復活などを提案した。だが成功しなかった。

 法王は、「問題の一つは、野党が分裂し、条件に同意しなかったことだ。野党が分裂していながら、紛争が毎時激化しているのは妙なことだ」と語った。

 さらに、「ベネスエラのために出来るかぎりの努力を払うが、今後、対話を促進するには極めて具体的な条件を定めるねばならない。保障が必要だ」と強調した。

 カラカスでは29日、デルシー・ロドリゲス外相がエルネスト・ビジェーガス伝達・情報相を伴って外国メディア記者団と会見。「内外メディアは街頭行動中に出た犠牲者について意図的誤報を繰り返している」として、「可能な限り公正な報道を心がけてほしい」と呼び掛けた。

 一例として、ベネスエラの保守・右翼紙エル・ナシオナルは、ある死んだ男子大学生について「催涙ガス弾を胸に受けて死亡した」と報じていることを挙げた。ビジェーガス情報相は、「現場のビデオは、治安部隊が離れた位置から催涙ガス弾を発射していたことを示している。ガス弾は至近距離から発射されないかぎり殺人能力を持たない」と指摘した。

 国内メディアのこうした報道を外国メディアのカラカス通信員が国外に発信するため、虚偽が国際社会に蔓延し、ベネスエラ政府がその都度、悪役として非難される事態に陥っている。両相が公正な報道を求めたのは、そのためだ。

 ビジェーガス情報相はさらに、英ロイター通信は「国家警備隊(GNB)要員が恣意的に記者を逮捕した」との説明付きで写真を流したが、後で「そのGNB要員は記者を助けていたことがわかった」と訂正した、という事実を明らかにした。また、破壊活動を続ける野党側覆面別働隊がロイター通信写真記者に、「自分たちを撮影しないでほしい」と言った事実も公表した。

 保守・右翼野党連合MUDは29日、5月1日に国家選挙理事会(CNE、中央選管)にデモをかけ、選挙実施日程公表を求め、同じく最高裁判所には判事総入れ替えを要求する、と発表した。当日は「国際労働者の日」(メイデー)であり、政府は支持派労働者の大動員を計画している。

 一方、商業会議所連盟は28日、ベネスエラの民間企業は2002年に83万社あったのが、今では25万社しかない、と明らかにした。ベネスエラ原油国際価格は28日、1b=42・46米ドルだった。

▼法王発言  ◎北朝鮮とトランプ米大統領来訪に触れる

 法王フランシスコは4月29日、ローマに向かう機内で「核戦争勃発の可能性」を記者団に訊かれて、「北朝鮮は自らの核開発をめぐって起きた緊張の緩和のため交渉すべきだ。彼らに外交での解決を促してきたが、今後も促す。ノルウェーをはじめ諸国が仲介意志を示している」と答えた。

 さらに、「米国は、壊滅的結果を招きかねない脅威に対処しようと圧力を強めているが、そのさなかに北朝鮮はミサイルを発射した。失敗したが、北朝鮮の状況は極めて熱くなっている」と指摘。「核戦争は人類と文化の大部分を破滅させる。人類は耐えられない」と警鐘を鳴らした。

 法王は、D・トランプ米大統領のヴァティカン訪問について訊かれ、「来訪について公式な連絡は受けていないが、謁見を求められれば対応する。これまで各国の政府首班と会ってきたように」と述べた。

2017年4月29日土曜日

 ベネズエラが米州諸国機構(OEA)脱退を正式に通告。反政府勢力の暴力行動を禁止する州が相次ぐ。政府はCELAC外相会議で対話政策発表へ▼メキシコ学生事件から27ヶ月▼ブラジルでゼネスト決行

 ベネスエラの米州諸国機構(OEA)担当臨時代理大使カルメン・ベラスケスは4月28日、ワシントンのOEA本部でルイス・アルマグロ事務総長に書面で、OEA脱退を正式に通告した。脱退までには手続き上、2年かかる。その間ベネスエラは加盟国としての資格を維持するが、ニコラース・マドゥーロ大統領は、OEAと一切縁を切ると言明している。

 ベネスエラ外交の重鎮で前OEA駐在大使のロイ・チャデルトンは、「OEA諸国は自らの国内問題を覆い隠すためベネスエラに私刑を加え、内政干渉原則を裏切る過ちを犯すという自殺行為をしている。ベネスエラ断罪は米帝国主義の弱さの表れだが、OEAは米国を排除するなどの矯正策なくしては滅びるだろう」と述べた。

 反政府勢力の指導部であである保守・右翼野党連合MUDは28日も街頭行動を続け、14年2月の街頭暴力(グアリンバ)教唆罪で服役中の極右政治家らが収監さてているミランダ州内のラモ・ベルデ軍事刑務所前まで到達した。同州知事カプリーレスがMUD幹部であるため、可能だった。

 抗議行動には平和行進しない大学生若者らの別働隊が破壊活動、投石、暴力行為を続けており、取締りの治安部隊と衝突を繰り返してきた。4月初めからの街頭暴力、破壊、略奪事件で、略奪中に感電死した8人を含め、29人が死亡している。

 MUDは、内外メディアの支援を得て、「街頭暴力加害者を政府、被害者をMUD側」に仕立てる虚偽キャンペーンを展開している。バルガス州のガルシア=カルネイロ知事は28日、州内の抗議行動での覆面使用と暴力を禁止した。MUDの国会議員は直ちに、「州知事は州内での抗議行動を禁止した」と虚偽情報を発信した。

 揚げ足をとれば、この議員は、MUDの抗議行動は別働隊の覆面と暴力と一体化している、ということにを認めたことになる。エルネスト・ビジェーガス伝達・情報相は28日、全国335市で街頭暴力をビデオに撮影する「暴力目撃コンクール」を開始すると発表、スマホなどの所有者に参加を呼び掛けた。

 狙いは、MUD派の暴力のひどさを市民に認識させ、その証拠を掴むことだろう。コロンビア国境沿いのタチラ州も、暴力を伴う街頭抗議行動を禁止した。

 デルシー・ロドリゲス外相は、5月2日サンサルバドールで開かれるCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)緊急外相会議の場で、ベネスエラの政治対話に関与するラ米・カリブ諸国集団を発表し、MUD側暴力を暴くと述べた。

 マドゥーロ大統領は28日、「OEAは右翼諸国に統御されており、反ベネスエラの異端審問所と化した」と糾弾した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は、「ベネスエラはゴルペ(クーデター)状況にある。マドゥーロ大統領への辞任要求は、この国の民主終焉を意味する。アルマグロ事務総長の下でOEA諸国が陰謀者となっているのは嘆かわしい。OEAは左翼大統領へのゴルペの陰謀については議論しない」とOEAを厳しく批判した。

 一方、米国務省広報官は、ベネスエラ脱退まで2年かかることを踏まえて、「OEA脱退か残留かを最終的に決めるのは次期大統領になる」と指摘した。

▼ラ米短信     ◎メヒコ学生強制失踪事件から27カ月

 ゲレロ州イグアラ市でアヨツィナパ農村教員養成学校生43人が強制失踪させられてから4月26日で27カ月経った。事件はいまだに解決していない。この悲しい記念日に父母、支援団体ら400人が首都メヒコ市目抜きレフォルマ大通りを、検察庁前からフアレス大通りのフアレス廟まで行進した。

 親たちは政府に、事件に関与した疑いの濃厚な陸軍、ウイツコ市警、地元市当局、麻薬組織などを捜査するよう要求している。検察庁は24日、この事件の強制失踪や殺害に関与した容疑で、ゲレロ州ウイツコ市を拠点とする犯罪組織「ウイツコ・ゲレロ」の首領ら2人を逮捕した。同組織とイグアラ市警との贈収賄癒着は明るみに出ている。

 一方、メヒコ経済当局は27日、同国の今年第1四半期の経済成長は2・5%だったとし、「トランプ米政権の最初の一〇〇日間、メヒコ経済は生き延びた」と述べた。

▼ラ米短信    ◎ブラジルでゼネスト実施

 ブラジル労連は4月28日、全国で24時間ゼネストを決行した。テメル政権の労働法と年金法の手直しに反対してのこと。昨年、「国会クーデター」で政権に就いたミシェル・テメル大統領は支持率10%、不支持率87%。失業率は13・7%(1420万人)。 
 
 

2017年4月28日金曜日

★アサド大統領が「ベネズエラの状況はシリア内戦初期に酷似」と指摘。キューバはマドゥーロ大統領のOEA脱退決定を断固支持。トランプは「何が起きるか見守ろう」と米亜首脳会談で語る。マクリ亜国大統領は5月来日▼パラグアイとロシアが防衛協力協定結ぶ  

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は4月27日、「ボリバリアーナ革命は新たな時期を迎えた」として、女性市民に力を貸してほしいと訴えた。大統領は、反政府系メディアについて、「右翼勢力(反政府勢力)による街頭暴力、破壊活動を全く伝えず、真実を覆い隠している」と厳しく批判した。

 カラカスに本社を置くラ米多国籍メディア「テレスール」は同日ダマスカスでシリアのバシャール・アル-アサド大統領とインタビューした。アサド大統領は、「現在のベネスエラの状況は、シリア内戦初期とそっくりだ。政府打倒を狙って<平和行動>を展開し、そこに殺傷暴力を絡ませ、その責任を政府に転嫁する手法が使われている」と指摘した。その上で、「ベネスエラ市民は真相を認識せねばならない。反政府と反祖国は全く別ものだ」と強調した。

 クーバ外務省は声明を発表、「ベネスエラとマドゥーロ大統領のOEA(米州諸国機構)脱退という勇気ある決定を断固支持する」と表明した。クーバは1962年1月、ケネディ米政権の主唱でOEAを追放されて以来、復帰していない。

 声明はまた、「OEAは、西半球を支配する帝国主義の道具という伝統的役割を演じ、<我らのアメリカ>(ラ米・カリブ)の主権・独立・尊厳を傷つけている」と指摘。「今はベネスエラ政権打倒を目指しており、さらなる糾弾に値する」と糾弾した。

 政府の物資供給組織CLAPのフレディ・ベルナル代表は、「右翼勢力は権力奪取のためには国全体を炎上させるのも辞さないようだ」と非難した。ベルナルはまた、大統領命令により、全国3万CLAPに「コムニカドール(通報者)」を起き、その全国網をラレク・エルアイサミ執権副大統領の指揮下に置く、と明らかにした。

 ベルナルによると、★各CLAPには「民兵防衛隊」(UDM)を置き、それぞれの地域の防衛に当たる。これは、反政府勢力による政治活動と破壊活動が激化し、「内戦」状況に陥った場合に備えた対策と考えられる。

 デルシー・ロドリゲス外相は、OEAで反ベネスエラの根回し役として目立ったメヒコとアルヘンティーナを批判。「メヒコはトランプのTLCAN(NAFTA)脱退取りやめと引き換えに、米国から金をもらってベネスエラ包囲網づくりに努めたのか」と指弾した。

 一方、D・トランプ米大統領は27日、大統領政庁(ホワイトハウス)でマウリシオ・マクリ亜国大統領と会談。その冒頭で、「ベネスエラは混乱している、ひどい状態だ。ベネスエラ情勢はとても悲しい。何が起きるか、見守ろう」と述べた。

 マクリは会談の後、「ベネスエラに民主政権を復活させねばならない」と、新たな内政干渉発言をして憚らなかった。マクリはまた、2週間内に中日両国を訪問し、6月にはアンゲラ・メルケル独首相を亜国に迎える、と明らかにした。

 米共和党右翼で反カストロ派クーバ系のマルコ・ルビオ上院議員は、米タイム週刊誌上で、「マクリはベネスエラ問題で米国の強力な仲間になりうる。マクリ政権は他の諸国と共にマドゥーロ政権糾弾で米政府と協働した」と述べた。ルビオは、ラ米政策でトランプの<指南役>を務めている。

▼ラ米短信   ◎パラグアイとロシアが防衛協定調印

 パラグアイとロシアは4月28日モスクワで、防衛協力協定に調印した。詳細は不明。


2017年4月27日木曜日

★★★ベネズエラが米州諸国機構(OEA・OAS)脱退を決定、事態は重大な局面へ。OEAは5月外相会議開催へ。CELACは5月2日エル・サルバドールで緊急外相会議を予定。トランプ米大統領は27日、反ベネズエラの急先鋒アルゼンチンのマクリ大統領と会談へ

 ベネスエラ政府が4月26日、ついに米州諸国機構(OEA、英語でOAS)脱退に踏み切った。OEA大使会合が同日、ベネスエラの意向に反して、ベネスエラ情勢を話し合う特別外相会議を5月半ば以降、開催することを決めたためである。ベネスエラ情勢は、重大な局面に入った。

 ニコラース・マドゥーロ大統領はOEA決定を受けて、「私は帝国による内政干渉と決別するため巨大な一歩を踏みこんだ」と述べ、脱退決定を発表。これを受けてデルシー・ロドリゲス外相は大統領政庁で、「27日に脱退手続きを開始する。脱退には2年はかかる」と表明した。また規約により、加盟国割り当金870万ドルを支払わなければならない。

 OEA(加盟34カ国)は、外相会議招集賛成19、反対10、棄権4、不参加1で、招集を決めた。反ベネスエラの急先鋒アルヘンティーナからはスサーナ・マルコーラ外相が大使に代わって発言、「他国の人民や政府に干渉するのは許されないが、制度の民主化を促すのは内政干渉ではない。(ベネスエラでの暴動事件の)死者が制度と指導者の失敗を象徴している」と述べ、外相会議招集への賛成を促した。

 これに対し、ベネスエラのサムエル・モンカーダ大使は、「OEA史上もっとも暗い日だ。主権国家に決定を押し付けている。破壊活動はこのOEAの場から始まっている」と反撃した。

 デルシー外相は、脱退手続き開始を告げた後、OEAの敵対行動を非難、「OEAは米政府主導で内政干渉同盟を結成した。歴史は、北米合州国の国益に貢献しようと跪く従僕たちを厳しく糾弾することになろう」と批判。「脱退決定は成り行き的なものではなく、ボリーバル主義の内政干渉不可原則に則り為された」と説明した。

 外相はまた、ベネスエラの要請により、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC、33カ国加盟)は5月2日、輪番制議長国エル・サルバドールの首都サンサルバドールで緊急外相会議を開く、と明らかにした。

 保守・右翼野党連合(MUD)は26日も首都カラカスなどで街頭行動を決行したが、27日も続行。28日にはMUD所属の政治家らが暴動教唆罪などで服役している刑務所まで行進し、囚人への面会を求めるという。政府のOEA脱退決定を受け、嵩にかかってて挑発する構えだ。MUDは、内外圧力の増幅で、これまでマドゥーロ政権を支持してきた軍部が離反すると計算している。

 一方、政府支持派のチャビスタ(チャベス主義者)青年団らは26日、政庁前で大集会を開き、大統領と会った。大統領は全国32国立大学の施設現代化や奨学金制度拡充のため330億ボリーバルを投下すると発表した。チャビスタも厳戒態勢と動員態勢を維持している。街頭での衝突が懸念されている。

 ドナルド・トランプ米大統領は27日、マウリシオ・マクリ亜国大統領を迎え、ベネスエラ情勢への対応を協議する。マルコーラ外相は、このためワシントン入りし、OEA会議に出席した。

 過去には1962年1月末、ケネディ米政権の主唱で、OEAはクーバを追放した。クーバは復帰要請を跳ね付けている。
    

2017年4月26日水曜日

  4月初めからのベネズエラでの反政府街頭行動の死者26人、負傷者437人。米州諸国機構(0EA)が緊急外相会議招集を協議。ベネズエラは自国の了承なく外相会議が開かれればOEA脱退辞さないと表明。併せてCELAC外相会議開催を要請▼キューバが国連で米国による「電波侵略」を告発

 ベネスエラのルイサ・オルテガ検事総長は4月25日、同月初めからの一連の反政府行動による死者が同日計26人に達したと発表した。負傷者は437人。殺傷、破壊行為、略奪などで1289人を逮捕、うち217人は出廷、65人は依然取り調べ中。他は釈放された。

 ワシントンの米州諸国機構(OEA)は25日、ベネスエラ情勢を話し合う緊急外相会議を招集するか否かを26日の大使会議で討議すると発表した。招集案は、亜URU伯PAR智秘COL巴CR・HON・GUA墨米加BAR・JAM・BAHの17カ国が提案した。

 これに対しデルシー・ロドリゲスVEN外相は、OEAがベネスエラの了承なしに外相会議を開いたら、直ちにOEAから脱退する手続きに入る、と言明した。ニコラース・マドウーロ大統領の命令という。

 外相はまた、国内右翼勢力がベネスエラの憲政民主秩序を脅かしている不安定化の策謀と、VEN独立・主権・自決への内政干渉について話し合い、糾弾するためとして、CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)の緊急外相会議開催を、議長国エル・サルバドールに要請した。

 米州35カ国中、OEAにはクーバ以外の34カ国が加盟。CELACには米加の北米両国以外の33カ国が加盟している。玖米加以外の32カ国は双方に加盟している。

 一方、ウグベル・ロアVEN大学教育・科学技術相は25日、私立大学が勝手に休暇を制定し授業を中断したのは違法だと告発した。私大生が授業を気にせず反政府行動に参加するのを容易にするための措置であり、政府は認めがたい。

 ロア相はまた、「反政府右翼勢力は大学生ら若者を雇って暴動を起こし、国際社会に<内戦状況>を示し、外国の介入を誘導すべく策謀している」と非難した。

 反政府行動を指揮している保守・右翼野党連合MUDは26日、首都カラカス中心部のオンブズマン事務所に向けて行進する予定。政府支持派の若者は同日、大統領政庁(ミラフローレス宮)前に集結する。

 マドゥーロ大統領は25日、「国際労働者の日」(メイデー)には、労働者の生き方を変える重大決定を発表する、と明らかにした。政府系労働者は全体の56%に当たる約738万人。全国でメイデー行進に動員される。

 ベネスエラはモンテビデーオにある南部共同市場(メルコスール)本部で25日、議長国アルヘンティーナを相手に裁定を要求した。ベネスエラは昨年12月、亜伯PAR3国の主唱で、加盟資格を停止させられた。

▼ラ米短信    ◎クーバが国連で米国による「電波侵略」を告発

 米国はクーバに向けてラジオ、テレビによる宣伝放送=電波侵略を続けている。クーバは4月25日、国連情報委員会で告発した。玖側集計で、昨年、米領内から毎週25周波・計1000時間の電波侵略があった。

 ベネズエラ反政府勢力指導者がマドゥーロ政権打倒まで街頭行動続行と表明。チャベス像も倒される。政権党幹部は、反政府勢力は「街頭謀略」などCIA教本通りに行動していると暴露▼チリのエル・メルクリオ紙社主が死去

 ベネスエラでは4月24日も反政府勢力による抗議行動および、その別働隊の破壊活動と、対抗する治安部隊および支援勢力の衝突で死傷者が出た。破壊や略奪事件も起きた。

 保守・右翼野党連合MUD所属のホルヘ・ボルヘス国会議長は、26日にチャベス派の牙城である首都リベルタドール区への行進予定を発表、★「帰らざる行進だ。選挙実施まで、民主国家樹立まで続く」と述べ、平和行進と破壊活動を含む一連の街頭行動をマドゥーロ政権打倒まで続けるつもりであることを明らかにした。

 これに対し、政権党PSUV副党首ディオスダード・カベージョ国会議員は24日記者会見し、5月1日の「国際労働者の日」に政府支持派が首都カラカスで一大動員をかけると発表。★「右翼勢力はCIAの合法政権打倒教本に沿って反政府活動をしている」と指摘。「独裁から民主へ」、「テロリズムと都市ゲリラ教本」、「新しい都市蜂起:街頭謀略」の3教本を挙げた。

 24日も非公式集計で7人が極右暴徒の狙撃などにより死亡した。死者は30人に届こうとしている。カラカス警察署長も脚を撃たれ、病院で手当てを受けた。

  カラボボ州ディエゴイバーラ市では故ウーゴ・チャベス前大統領の立像が放火され、倒された。

 スペイン保守・右翼政界の旗頭マリアーノ・ラホーイ首相は24日ブラジリアでミシェル・テメル伯大統領と会談、ベネスエラ情勢を取り上げて、選挙を早く実施すべきだと述べた。これに対しデルシー・ロドリゲスVEN外相は25日、内政干渉として撥ねつけ、「スペイン政権党(PP)内部の汚職から目をそらせるために我が国を利用している」と非難した。

 同外相は、3月末に脱出しコロンビアに逃げ込んだ国軍尉官3人の身柄引き渡しを求めていたところ、コロンビア政府から「政治亡命を認める」との回答があったと明らかにした。3人は先ごろ、ベネスエラ国軍に反政府蜂起を呼び掛けるビデオメッセージを電脳機器で流した。

 政権党PSUV幹部は24日、ルイサ・オルテガ検事総長が、MUDによる反政府行動のさなかに破壊活動や殺傷事件が続発しているのを非難していないと指摘、同検事総長を非難した。政府・政権党の高官間のこの種の批判は珍しい。

 一方、国際通貨基金(IMF)は24日マナグアでニカラグア経済状況を調査、ベネスエラによるニカラグアへの資金援助が過去2年間、大幅に減少していると明らかにした。

▼ラ米短信   ◎チレ軍政を支持した新聞社主が死去

 チリでエル・メルクリオ、ラ・セグンダ、ラス・ウルティマス・ノティシアスの保守・右翼系3紙を発行していた新聞社主アグスティン・エドゥワーズ(89)が4月24日、老衰で死去した。

 70年代初め、アジェンデ社会主義政権に反対、アウグスト・ピノチェー将軍らによる軍事クー^デターを煽った。米国に留学、親米で、米大使館やCIAと通じていた。 

2017年4月24日月曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ大統領が反政府野党連合に対話を呼び掛け、選挙実施の意思示す▼アルゼンチンでは軍政期に行方不明となった「赤子」を発見、122人目

 ベネスエラは4月23日、比較的平穏な日曜日を迎えた。ニコラース・マドゥーロ大統領はテレビの日曜定例番組で、「我々は対話の用意がある。右翼の暴力と、極右のゴルペ主義(クーデターの策謀)を止めさせるため」と述べ、保守・右翼野党連合MUDに対話を呼び掛けた。MUDは24日、首都カラカスをはじめ全国の主要道路で「立ち番(監視活動)」を展開する予定。

 大統領はまた、「我々は内戦に向かってはいない。人民革命という歴史的で新しい解放過程を進んでいる。革命の下での平和を目指している。ベネスエラに平和なくして、ラ米に平和はない」と強調した。

 マドゥーロは、「労農・先住民で構成する人民制憲議会を通じて共和国を再建するため、選挙による平和裡の人民制憲過程を推進する。私は政府首班、国家元首として、選挙を実施したい」と語り、州知事・州会議員選挙を実施する意志を示した。

 さらに、「破壊活動に駆り立てている野党議員らを、エル・バージェ地区での略奪や母子病院襲撃の責任者として司法に委ねたい」と述べた。また「ミランダ州と首都カラカスで暴徒に破壊され略奪された50軒の店舗・商店に計180万ドルの救済資金を渡した」と明らかにした。暴徒の多くは、破壊活動を働くMUDの別働隊。

 大統領は、ローマ法王による対話の仲介を希望。JLRサパテーロ前スペイン首相ら南米諸国連合(ウナスール)の仲介使節団3人の来訪を要請した。

 政府の貧困大衆向け住宅政策に触れて、既に160万戸を建設したが、年末には200万戸に到達したい、と述べた。

 政府支持派は23日、エル・バージェ地区など、暴徒による破壊活動がひどかった地区で掃除、バリケード撤去、瓦礫除去、植樹などの活動を繰り広げた。

 ネストル・レベロール内相は、19日に反政府側がビルの上層部から意図的に落とした瓶で頭部を割られた47歳の女性が23日死亡した、と発表した。非公式集計では、4月初めからのMUDによる反政府街頭行動関係の死者は21~22人に達した。

 コロンビア極右勢力の旗頭、アルバロ・ウリーベ前大統領は、「マドゥーロを排除すべき時だ」と表明した。リカルド・ルーナ秘外相は、法王庁とラ米有志諸国がベネスエラ対話の仲介者となるべきだ、と提案した。

 一方、国際通貨基金(IMF)はベネスエラの経済指標に触れ、今年のインフレを2068%と予測。経済は昨年18%縮小したが、今年7・4%、来年4・1%、それぞれ縮小すると展望した。失業率は昨年21%だった。

▼ラ米短信    ◎亜国で軍政に奪われた「赤子」を発見

 アルヘンティーナ軍政期に息子・娘を殺害され孫を奪われた祖母たちの「五月広場の祖母たちの会」は4月23日、「孫を見つけた。これで122人め」と発表した。目下、法的手続き中。まだ400人前後の「元赤子」が見つかっていない。

 1977年にブエノスアイレス市内で軍政に拉致され殺害された男女の娘で、現在39歳。殺された両親は、ペロン派極左地下結社「モントネロス」の要員だった。母親は赤子を産むとすぐに引き離され、抹殺された。

2017年4月23日日曜日

 ベネズエラ政府が外国メディアに「虚偽報道」止めるよう要請。野党連合MUDは久々に別働隊加えず平和行進▼パナマ運河を米原潜が通航▼ニカラグアで運河建設反対派が規制さる▼キューバが37年ぶりにモロッコと復交

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は4月22日、「ベネスエラは平和のために行動している。ヴァティカンと国際社会と対話しつつ、テロリズムに訴えている犯罪組織を取締まっている」と述べた。

 また、「帝国主義に支援された国内右翼勢力による不安定化の企みを引き続き打ち破ってゆく。ファシズムと不寛容は革命と祖国愛のベネスエラでは立ち行かない」と強調した。

 エルネスト・ビジェーガス伝達・情報相とデルシー・ロドリゲス外相は、カラカスで外国メディア通信員を集めて記者会見し、メディアによる意図的誤報、虚偽報道などを厳しく批判、「伝達の専門職として責任を持ち、倫理的で公平な報道を心がけてほしい」と訴えた。

 ビジェーガスは、虚偽報道の一例として、カラカス市リベルタドール区エル・バージェの母子病院が野党勢力に雇われた暴徒に襲撃された際、あたかも治安当局に責任があるかのように報じたメディアがあった事実を指摘した。

 同区のホルヘ・ロドリゲス区長(外相の実兄)は、暴動・略奪の被害が大きかったエル・バージェ地区で貧しい住民9800家庭に食糧品を配布した。政府支持派は、23日、一帯で破壊の跡を清掃したり、街路樹の苗木を植えたりしている。

 ネストル・レベロール内相は、タチラ州サンクリストーバル市で若い女性が19日射殺された事件の容疑者の男を逮捕、取り調べ中と明らかにした。内相は、容疑者は保守・右翼野党連合(MUD)右翼のマリーア・マチャード元国会議員の政治組織「ベンテ・ベネスエラ」に所属していると明かした。

 コロンビア政府との和平実施過程にあるゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)の最高司令ティモチェンコ(ロドリーゴ・ロンドーニョ)は22日、「ベネスエラが誹謗中傷されているいま、黙ってはいられない」として、「ボリバリアーナ革命政権を支持する」と表明した。

 同司令は、「コロンビアのメディアは、ベネスエラにあるチャベスへの情熱や、マドゥーロ大統領支持派の存在などに触れず、一方的にベネスエラを暴力や殺人だけの社会のように報じているが、ベネスエラは新自由主義政策に代わりうる政経両面の政策を実施している、民主と寛容のある美しい国だ」と強調した。

 さらに、「米国は世界各地で原油を奪うため、ありえないようなことも含め何でもやる」と、米国を非難した。

 一方、MUDは22日、予定通り、カラカス市内をカトリック司教会議本部まで「沈黙の行進」を実行した。平和裏に行進したが、このことは、MUDが破壊活動やテロリスムを働く別働隊を介入させなければ、平和裡の抗議活動が可能なことを示した。

 ブラジルのミシェル・テメル大統領は、メディアに、ベネスエラは選挙を早期実施すべきだと語った。昨年、不当な弾劾でヂウマ・ルセーフ大統領の合憲政府を倒し、政権に就いたテメルであり、発言に重みはない。顰蹙さえ買っている。

 モロッコ政府もベネスエラを非難したが、ベネスエラ外務省は21日、「国連の植民地解体委員会で議題になっている西サハラ不法占領国(モロッコ)の振舞いはいただけない」と一蹴した。

 デルシー外相は21日、1年交代・輪番制の南米諸国連合(ウナスール)議長の座を、アルヘンティーナに渡した。

▼ラ米短信   ◎米原潜がパナマ運河通過し太平洋に展開

 米海軍の原潜1隻が17日パナマ運河をカリブ海から太平洋に向けて通航したことが確認されていたが、パナマ運河庁(ACP)は22日、通航したのはUSダラス(SSN-700)だと明らかにした。朝鮮半島に近い海域に向かうと見られている。

▼ラ米短信   ◎ニカラグア運河建設反対行動が規制さる

 建設中の「ニカラグア大運河」に反対する農民や住民らは4月22日、「地球の日」に合わせて、中部のフイハルパ市で反対行進を展開することにしていたが、警察に阻止され、参加者は市内に入れなかった。

 カリブ沿岸地方の先住民らの「土地・湖水・主権防衛会議」の面々や、首都マナグアからの「サンディニスタ刷新運動」(MRS)、「民主拡大戦線」(FAD)など野党の党員が阻止された。

 政府側は同市でこの日、運河建設に賛成する政府支持派を集め、「緑の行進」を実施した。

▼ラ米短信   ◎クーバがモロッコと国交再開

 クーバとモロッコは4月21日、国連本部で国交再開文書を交わした。クーバは、西サハラで1976年に独立を宣言した「サハラウイ・アラブ民主共和国」(RASD)を80年承認、西サハラを不法占領中のモロッコは断交した。

 モロッコのムハマド6世は今月初め、秘かにクーバの保養地を訪れていた。モロッコは今年1月末、西サハラ問題をめぐり脱退していたアフリカ連合(AU)に復帰した。今回の復交で、モロッコに対するクーバとベネスエラの立場の違いが鮮明になった。

 一方、ブルーノ・ロドリゲス外相は17~22日、スペイン、ポルトガル、ギリシャ3国を歴訪した。近い将来、スペインの国王と首相が訪玖する予定。 

2017年4月21日金曜日

 ベネズエラで暴力・略奪続き、暴徒ら12人死亡、6人重傷。暴徒は母子病院も襲い、当局が赤子54人を救出。反政府勢力は街頭行動続行へ。国連総長は対話を呼び掛け▼米退役軍人らがトランプ大統領にキューバとの関係拡大を要請

 ベネズエラでは4月20日も反政府勢力による行進、集会があり、首都カラカスでは同勢力の別働隊が首都西部のエル・バージェ地区などで夜から21日未明にかけて暴動、略奪に出た。一連の事件で計12人が死亡、6人が重傷。

 ボリバリアーナ国家警備隊(GNB)が出動し、催涙ガスなどで鎮圧したが、暴動時に若者1人が銃弾を受けて死亡。それを発射したのがいかなる勢力か判明していない。首都の地下鉄駅では車両の硬質ガラスが数多く破壊された。

 エル・バージェ地区ではパン屋が暴徒に略奪されたが、その際、暴徒9人が感電死した。さらに略奪を防ごうとした商店主1人が暴徒に射殺された。他の1人も死亡したが、状況は不明。

 デルシー・ロドリゲス外相は20日、カラカス市内にある母子病院を暴徒が襲撃、生後間もない赤子54人を当局が救出した、と明らかにした。

 ニコラース・マドゥーロ大統領はこの日、無料保健事業「バリオ・アデントロ」の行事で演説、過去14年間にベネスエラ人176万人が命を救われた、と述べた。同事業の一環として、全国各地で病院建設などが進んでいることにも触れた。

 大統領は19日の反政府勢力との攻防戦について、「国際社会に祖国防衛の巨大な教訓を与えた。勇敢な人民に感謝する。革命的人民は国中の道路を受け尽くし、祖国を守った」と、大量動員に応じた政府支持派を讃えた。

 マドゥーロは、反政府勢力の指導部である保守・右翼野党連語MUDについて、「野党の一部が対話に応じると回答してきている」と語った。だが党名には触れなかった。
 
 大統領はまた、電話会社モビスター社を捜査するよう、当局に命じた。同社は19日、MUDのため2時間ごとに動員を呼び掛けるメンサヘ(メッセージ)を発信していた、という。

 隣国コロンビアのJMサントス大統領は20日、「ボリバリアーナ革命は失敗した。そのことを6年前にチャベス(故ウーゴ・チャベス前大統領)に伝えた」と明言した。

 マドゥーロ大統領は反発、「コロンビアは失敗国家だ。70年も内戦が続いてきた。内戦を逃れたコロンビア人がベネスエラ国内に560万人もいる。去年は10万人、ことし1~3月には3万5000人が入国した」と言い返した。

 続けて、「コロンビアは(FARCとの)和平に漕ぎつけたが、チャベスと私のお陰だ。交渉中の各当事者の発言は録音してある。公表しようか。コロンビア人が和平を蔑んでいるのだ。今も蔑み、農民、労働者、学生らの指導者が殺されている。いまはFARC幹部の殺害準備を進めているはずだ」と、厳しく非難した。

 「コロンビアでは医療と薬品はブルジョアのもので、貧者は享受できない。ベネスエラでは庶民大衆は無料で享受している」とも付け加えた。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は20日、「帝国(米国)は反帝国主義諸国への見せしめとしてマドゥーロ政権を倒そうとしている。石油確保も狙っている」と、米政府を糾弾した。

 中国政府も21日、声明で「ベネスエラ政府が内政問題をきちんと解決し、安定化をもたらすと確信する」と表明した。

 国連のアントニオ・グテレス事務総長は20日、「政治的分極化を和らげるよう、双方が具体的に提案し、話し合うべきだ」とベネスエラ両派に呼び掛けた。これに亜伯URUPAR智秘COL・CR墨9カ国政府が賛同した。

 一方、MUDは20日、「抵抗運動犠牲者の鎮魂のため」として、首都にあるカトリック司教会議本部まで22日に「沈黙の抗議行進」を実施、24日には全国幹線道路で「立ち番(見張り)」を展開する、と発表した。

 法廷は20日、今月11日に若者1人が散弾を受けて死亡した事件で、GNB要員4人の見型を拘禁した、と発表した。またポルトゲーサ州知事は、州内で起きた19日の反政府派による破壊活動で2億6000万ボルーバルの損害が出た、と明らかにした。

▼ラ米短信  ◎米退役軍人たちがトランプ大統領に対玖関係拡大を要請
 玖共産党機関紙グランマは4月20日、米軍退役将官たちが書簡でDトランプ大統領に、クーバの地政学的・戦略的重要性に鑑み、関係を維持・拡大するよう要請した、と報じた。

 米共和党内にはクーバ系議員ら、在米・反クーバ市民らの意向に沿って対玖断交や関係凍結を主張し、これをトランプに吹き込む者がいる。退役軍人らは、米国益は対玖関係拡大にあるとの立場だ。

 
 

 

2017年4月20日木曜日

 ベネズエラ政府・反政府両勢力の大動員合戦は「天王山」の19日、死者3人、負傷者64人、逮捕者312人。反政府側は20日も動員へ。大統領は対話を呼び掛け▼エクアドル次期大統領にモレーノ氏認定▼LATINA誌がエクアドル情勢特集記事掲載

 大産油国ベネスエラの新旧支配勢力間の大動員対決は4月19日、首都カラカスをはじめ全国各地で展開され、「痛み分け」に終わった。「天王山」の闘争での「引き分け」は、権力を握る政府側の「勝利」と言える。旧支配層を代表する保守・右翼野党連合MUDは20日も大量動員による反政府行動を決行すると表明、緊張状態が続いている。

 オンブズマン事務所および警察の発表によると、19日の両派の衝突で、ミランダ州内で17歳の少年、コロンビア国境に近いサンクリストーバル市で23歳の女性が、それぞれ銃弾を受けて死亡した。ミランダ州内では国家警備隊(GNB)の軍曹1人が顔面に銃弾を受け死亡、同大佐一人が脚に銃弾を受け負傷した。首都では国家警察(PNB)要員19人が負傷、うち9人は婦警だった。負傷者は64人、逮捕者は全国で312に及んだ。

 タレク・エルアイサミ副大統領は、「ベネスエラが混沌状態にあるとの偽った印象を国際社会に広めようとしている輩がいる。右翼国会議員フレディ・ゲバラがMUDの覆面別働隊を指揮していた証拠がある」と明らかにした。また、「一連の街頭暴力事件は、フリオ・ボルヘス議員(国会議長)が促進したと確信する」と断言した。

 首都チャカオ区にある「国家適正価格管理行政本部」(SUNDDE)は暴徒に破壊され、電脳危機などが略奪された。MUD系区長の下にある同区警察は見て見ぬふりしていたと、政府側は非難、区長らを取り調べることにしている。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は、支持派の大群衆の前で演説。カラカスだけで政府支持派300万人を動員したと述べた。大統領は、右翼勢力(旧支配層)を、街頭暴力を煽って騒乱状態を起こし、それを内外メディアに報じさせ、国際社会に「弾圧・独裁」などの悪印象を拡め、米国と連携してゴルペ(クーデター)を起こそうと謀った、と糾弾した。

 大統領は、MUDがゴルペを画策する理由として、①米政府の内政干渉声明というお墨付きを得た②ベネスエラの経済復調を阻止する③国会で圧倒的多数を占めながら公約を果たせないーの3点を挙げた。

 マドゥーロはまた、「ベネスエラに必要なのは労働、生産、団結、調和、共生、平穏、愛だ」と指摘。MUDに対話を求めた。政権党PSUV(ベネスエラ統一社会党)幹部エリーアス・ハウア、首都リベルタドール区長ホルヘ・ロドリゲス、その妹で外相のデルシー・ロドリゲスを「国民和平対話」の担当者に任命。併せてジャーナリストのJV・ランヘールと教授エルマン・エスカラーに、対話顧問になるよう要請した。

 大統領はさらに、「選挙を実施したい。選挙闘争を始めよう。選挙で平和裡に勝利しよう」と支持者に呼び掛けた。16年末までに実施予定だった州知事・州会議員選挙を指している。次期大統領選挙は18年末、実施される。

 米国は内政干渉発言を続けており、レックス・ティラーソン国務長官は19日、「マドゥーロ政権は野党に耳を貸さないから我々は懸念する。ベネスエラ情勢を注視している」と述べた。これに対しデルシー外相は同日、「世界とベネスエラは、米軍によるシリアとアフガニスタンへの爆撃を深く憂慮している。米国の移民政策や制度的人種主義を懸念している」と反撃した。

 マドゥーロの「民兵隊拡大」政策に懸念を表明しているコロンビアのJMサントス大統領に対してデルシーは、「心配無用」といなした。マドゥーロも、「コロンビアはベネスエラから生まれた。我々は父であり、コロンビアの寡頭勢力は私を尊重せねばならない。両国民は兄弟だ」と述べ、サントスを揶揄した。

 諜報機関SEBINは19日、マラカイボ在住の反政府派退役陸軍少将クリベル・アルカラーの自宅を捜索した。「ゴルペの陰謀」への加担可能性が捜索理由と見られるが、軍部内のMUD同調勢力への牽制策であるのは疑いない。

 国軍の「現役佐官・尉官級将校」らの「反政府声明読み上げ場面」を映した映像が出回っているが、真偽は不明。マドゥーロ政権に忠誠を誓う国軍上層部と中堅将校を離反させたいゴルペ派の陰謀であるのは間違いない。

 チレのアジェンデ社会主義政権は1970~73年存続、国内の伝統的支配勢力、保守・右翼政党、米政府に揺さぶられ続けた結果、アウグスト・ピノチェー将軍らによる軍事ゴルペで押しつぶされた。現在のMUD・米政府・OEAの連携戦略は、44年前のチレでのアジェンデ政権打倒の陰謀を想起させる。

▼ラ米短信   ◎エクアドール選管がレニーン・モレーノ勝利を正式に認定

 赤道国で4月2日実施された大統領選挙決選の勝者は4月18日、コレア現政権の後継者レニーン・モレーノ候補と正式に確定した。モレーノは5月24日就任する。

 既に勝利は決まっていたが、敗れた保守・右翼候補ギジェルモ・ラッソが敗北を認めず、開票やり直しを要求。選管は、約120万票を集計をし直し、あらためてモレーノを次期大統領に認定した。だラッソはまだ、敗北を認めていない。

★★★◎月刊誌LATINA5月号がエクアドール特集記事掲載

 同誌連載の伊高浩昭執筆「ラ米乱反射」第133回は、「エクアドール次期大統領はレニーン・モレーノ  <市民革命>継続、南米右傾化食い止める」(6ページ特集)。現代赤道国の政情や今回の大統領選挙のもようが詳述・解説されている。 

2017年4月19日水曜日

  独立闘争開始記念日の19日、ベネズエラ全土で緊張。「クーデター阻止」主張のマドゥーロ政権と「政権打倒」狙う反政府勢力が大動員態勢。米州全体が警戒

 ベネスエラは4月19日、全土で緊張が高まる中で不気味な朝を迎えた。1810年のこの日、ベネスエラ独立派は宗主国スペインに対し独立を叫び、独立闘争を開始した。祝日だが、政府支持派と反政府派はそれぞれ、首都カラカスをはじめ全国各地で最大動員をかけ、対決する構えだ。

 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は、「米政府主導で野党連合MUDが策謀しているゴルペ(クーデター)を潰すため」行動すると主張。フリオ・ボルヘス国会議長以下の保守・右翼野党連合MUDは、マドゥーロ政権打倒を目指して展開する。

 マドゥーロ大統領は18日、民・軍共同で治安を維持する「対ゴルペ作戦」である「サモーラ計画」を発動した。全国で陸海空軍および国家警備隊(GNB)の4軍(16万5000人)、国家警察と、予備役(2万5000人)を含む民兵隊(MNB、10万人)が出動、治安維持に当たっている。

 カラカス一帯では18日夜から主要自動車道の閉鎖と検問が始まり、早朝の首都の街は閑散としていた。当局は18日までに、ゴルぺ誘発を狙う破壊活動を準備していた武装集団の一部を逮捕した、と明らかにしている。

 ボルヘス議長は18日、国会内で声明を発表、国軍に「憲政と人民の側に立ってほしい」と要請、暗に政府との離反を求めた。国軍は17日、「政府無条件支持」を大統領に誓っている。

 MUDを支援するトランプ米政権は18日、国務省声明を通じて、マドゥーロ政権に「対話による問題解決、憲政擁護、囚人釈放、選挙早期実施」を呼び掛けた。17日のラ米11カ国政府の共同声明に沿った要求だ。

 デルシー・ロドリゲス外相は18日、同11カ国政府に対し、「粗暴な内政干渉を排撃する。反政府勢力に蛮行を保障する低俗な二重基準だ」と糾弾。「国際法に違反して内政干渉している。彼らは自分たちの国で人権を蹂躙しながらベネスエラを統治しようとしているが、馬鹿げたことだ」と反撃した。米政府に対しても同様の反応を示すはずだ。

 外相はまた、ベネスエラ攻撃を続けている米州諸国機構(OEA)について、「政権党指導部にOEA脱退論があるが、OEA内に留まって闘う」と述べた。

 OEAのルイス・アルマグロ事務総長は18日、ドミニカ共和国(RD)の首都サントドミンゴでレオネル・フェルナンス前RD大統領とベネスエラ情勢をめぐって会談した。フェルナンデスは、南米諸国連合(ウナスール)のベネスエラ対話仲介班の元首脳3人の一人。マドリードでは19日、スペインとメヒコの外相がベネスエラ情勢について会談した。

 マドゥーロ大統領は17日の民兵隊創設記念日の式典で、現在10万人の民兵を50万人に増やし、各要員に自動ライフル銃を持たせると表明した。ジュネーヴの国連人権担当高等弁務官事務所は18日、人民(民兵隊)へ武器供与(武装)は緊張と紛争を激化させると批判した。隣国コロンビアのJMサントス大統領も18日、武装民兵隊大増員計画に「深刻な懸念」を表明した。

 マドゥーロ大統領は18日、カラカスの表玄関の空港と港のあるバルガス州の海岸地帯に建設された広大な「ボリーバル広場」の開場式に出席。馬上のシモン・ボリーバル像と故ウーゴ・チャベス前大統領像の除幕式を執り行った。

 MUDは昨年来、内部分裂し支持率も下がっていた。だがマドゥーロ政権が3月末、最高裁・憲法法廷による国会機能代行を決める、事実上の国会閉鎖に踏み切ったことで、MUDを団結させてしまった。

 内外の激しい反発を受けた政権は、検事総長に国会機能代行を違憲と宣言させ、決定を元に戻した。この失態に勢いづいた反政府勢力は4月初めから6波の大動員をかけ、政府を揺さぶってきた。

 反政府勢力には街頭暴力に訴える若者たちの別働隊がいて、破壊活動を働いてきた。これに対し政府側は治安部隊による鎮圧の他、対暴力組織を出動させ、対抗している。行進する両派の大多数の市民は平和裡の行動を望んでいるが、両派の暴力装置が衝突すれば、流血の事態となる。

 反政府側には、流血が大惨事になり、国軍が分裂、ゴルペに繋がるのを期待する極右がいる。治安部隊が挑発にどこまで耐えられるかも試される。

2017年4月18日火曜日

  リマの日本大使公邸占拠事件決着から20年。公邸突入の国軍特殊部隊を「民主の英雄」にするか否か、ペルー国会で意見飛び交う▼ベネズエラ国軍がマドゥーロ政権に「無条件忠誠」誓う。19日カラカスでの両派最大動員前に緊張高まる

 リマ市の日本大使公邸が1996年12月17日、ゲリラ組織「トゥパック・アマルー革命運動」(MRTA)の14人の突撃隊(コマンド)に占拠された事件が97年4月22日に決着してから20年になろうとしている。これに先立ちペルー国会は17日、国会内で記念式典を催した。

 当時の日本大使公邸の玄関の模型が「英雄記念碑」として設(しつら)えられ、これを背景にルス・サルガード国会議長(フジモリ派「人民勢力」(FP)所属)が、「ペルーは公邸を解放し人質を救出した軍特殊部隊に負っている」と語った。「英雄記念碑」とは、この「チャビン・デ・ウアンタル作戦」に参加した140人の特殊部隊要員を指す。

 式典には、事件当時のフランシスコ・トゥデーラ外相、ルイス・ジャンピエトゥリ海軍中将、マルコ・ミヤシロ国家警察幹部(現FP国会議員)ら、人質だった人々も出席。MRTAに急襲されてから126日間続いた悪夢の日々や、政府当局と秘かに連絡を取り合って救出作戦を導いたことなどを語った。

 国会国防委員会は17日、ペルーアプリスタ党(PAP)所属のルシアーナ・レオン委員長提出の、特殊部隊140人に「民主の英雄」の称号を与え、勲章、最低賃金と同額の終身年金供与などの恩恵を施す法案を可決した。法案は本会議に送付された。この恩恵には、無料医療・薬品供与、大学教育補助、住宅購入補助もあり、死に際しては、墓石に「英雄」称号が記録される。

 だが、委員会審議や国会議員の間で、さまざまな意見が飛び交った。左翼野党「拡大戦線」(FA)のフスティニアーノ・アパーサ議員は、「特殊部隊は140人、MRTAコマンドは14人、多勢に無勢の作戦だった。軍は国防のためにあり、国家の危機を任務として遂行したまでだ」と指摘。「英雄とは、何らかの物事を思想や原則に基づいて解決したり守ったりする者を意味する。それに特殊部隊には、投降したゲリラ数人を射殺した疑いもある」と反対意見を述べた。

 また、FAのリチャード・アルセ議員は、「<輝く道>(SL)、MRTA、国家テロのいずれにも反対する。特殊部隊は<平定の英雄>と呼ぶべきだ」と対案を唱えた。

 だがFPのフアン・デルアギーラ議員は、「MRTAの行動は破壊活動であり、特殊部隊出動に値した」とし、「全会一致の必要はないが、FAは考え直すべきだ」と反論した。

 国会のロサ・バルトクラ第2副議長は、「反テロリズム作戦に貢献した軍・警察・市民組織の業績を認める法案を国会で通したい。公邸事件を解決した特殊部隊について学校教育で教えるべきだ」と訴えた。

 一方、PPクチンスキ大統領は19日、公邸事件解決20周年の記念行事を催す。また国防省は20日に式典を開く。ホルヘ・ニエト国防相は」17日、突撃時に隊員2人が殉職し、人質だった判事1人が死亡したことに触れ、「特殊部隊は大多数のペルー人民にとって英雄だ」と強調した。

▼ベネスエラ情勢   ◎国軍がマドゥーロ政権に「無条件忠誠」を誓う

 ボリバリアーナ国家民兵隊(MNB)発足7周年記念日の4月17日、その部隊が首都カラカス中心街を行進。ニコラース・マドゥーロ大統領は記念式典で演説、国軍(FANB)とMNBに謝意を表した。大統領は、MNB要員を50万人に拡大させると述べた。

 式典でウラディーミル・パドゥリーノ国防相は「国軍は平和と人民の民主を守る」として、マドゥーロ政権への無条件忠誠を誓った。また、保守・右翼野党連合MUDについて、「国外の極右勢力の支援を受けて、テロリズム、騒乱、略奪、蛮行を続けている」と糾弾した。大統領は、4月初めからの一連の街頭暴動事件で総額500億ボリーバルの損害が出た、と明らかにしている。

 MUDは17日、大統領から交渉を働きかけられた、とのマイアミ紙の報道を事実無根と否定した。野党は、終わったばかりの聖週間で、マドゥーロ人形を「フーダス」(裏切り者のユダヤ人)として燃やしたり、陸橋から吊り下げたりした。これに対し政府支持派は、米大統領、アルマグロOEA事務総長、MUD幹部らの人形を燃やした。

 両派は、ベネスエラ独立闘争開始記念日の19日、カラカスでそれぞれ最大動員をかけて行進し、集会を開く。衝突する危険性があり、緊張が高まってる。

 OEAでベネスエラ政府に厳しいアルマグロ総長を支持する亜URU伯PAR智COL秘CR・HON・GUA墨の11カ国政府は17日、ボゴタで共同声明を発表。ベネスエラ政府に「デモ行進の自由」尊重を、MUDに「責任ある行動」をとるよう訴えた。また政府側には、選挙実施日程を決めるよう求めた。

 一方、ドミニカ共和国(RD)政府は17日、ベネスエラの反政府勢力とCIAがRD国内で会合しているとのテレベン報道を受けて、「捜査する」と表明した。 
  

2017年4月17日月曜日

 ベネズエラ国軍現役士官らがCIAとドミニカ共和国で定期的に会合、クーデターを謀議と、ジャーナリストJV・ランヘールが暴露▼メキシコでジャーナリストがまた殺される

 ベネスエラの著名なジャーナリスト、ホセ=ビセンテ・ランヘールは4月16日、TVテレベンの日曜定例番組で、反政府勢力がドミニカ共和国(RD)の高級ホテルで定期的に米CIA(中央情報局)と会合している、と暴露した。ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権を打倒するゴルペ(クーデター)の可能性などを謀議しているという。

 この会合には、ベネスエラ側から「国軍現役士官たち、同退役将軍1人、著名な元テレビ人1人」が参加しているという。ランヘールは、故ウーゴ・チャベス前大統領の政権で外相、国防相、副大統領を務めた。マドゥーロ政権の諜報機密情報に接近できる立場にある。

 ランヘールはまた、ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDについて、「いくら街頭動員しても、ベネスエラ人民の平和主義をくずせない」と指摘。それがため、陰謀に傾斜しているとの見方を示唆した。

 さらに、ベネスエラ教会指導部はフランシスコ法王との隔たりが増しており、憲政逸脱傾向を強めている、と批判した。ラ米などの元大統領ら20人が、ゴルペ支持派の米州諸国機構(OEA)事務総長ルイス・アルマグロと連携して、「米州民主憲章」をベネスエラに適用しようと謀っている、とも述べた。

 マドゥーロ大統領は16日、定例TV番組で、「(チャベス派)市民は右翼暴力を打ち破った」と強調した。また、タレク・エルアイサミ執権副大統領は15日、MUDの街頭での反政府行動について「ゴルペ正当化のための理由づけ」と非難した。

 政府とMUDは19日、首都カラカスで、最大動員をかけると共に表明しており、緊張が高まっている。マドゥーロ大統領は、聖週間の特別警備態勢を19日まで延長、厳戒態勢をとる。

 政府諜報機関SEBINは、7日逮捕した著名な反政府派の退役少将アンヘル・ビバス(60)を取り調べた。ビバスは軍事法廷に立たされる見通しと伝えられる。

 一方、D・トランプ米大統領とフロリダ州の別荘で14日会合したコロンビア政界極右指導者アルバロ・ウリーベ前大統領は、米議会に、マドゥーロ大統領を政権から降ろし、ベネスエラを法治国家とすべきだ、という趣旨の主張を含む書簡を送ったことを15日明らかにした。

▼ラ米短信  ◎またメヒコでジャーナリストが殺される

 メヒコ北西部の南下加州都ラパスで4月14日、電子メディア「コレクティーボ・ペリクー」の論説記者マキシミニオ・ロドリゲス(73)が白昼、商店街の駐車場で、自動小銃により銃弾15発を見舞われて即死した。

 ロドリゲスは、政治、警察、治安などの専門記者。昨年来、組織犯罪集団と見られる方面から脅迫されていた。これで今年メヒコで殺されたジャーナリストは4人となった。2000年からは104人目とされる。
 

2017年4月15日土曜日

 国連ハイチ安定化派遣団(MINUSTAH)が10月撤収開始へ。ノーベル平和賞受賞5人は、強姦など派遣団の罪状を告発▼ベネズエラ反政府勢力は19日を対政府行動の「天王山」と位置付け。ミランダ州では20店舗など破壊さる▼ベネズエラ外交の重鎮は「OEA脱退論」を牽制

 米州の最貧国アイチ(ハイチ)で評判の悪かった「国連ハイチ安定化派遣団」(MINUSTAH)が10月15日から撤退することになった。国連安保理が4月13日、全会一致で決めた。

 同派遣団は2004年6月、駐留を開始した。ジャン=ベルトラン・アリスティド大統領が米仏加3国によってアフリカに身柄を放置された政変後の混乱に対処するためだった。

 2010年初めには、首都ポルトープランス一帯が激震に見舞われて破壊され、22万5000人が死亡した。派遣団要員102人も犠牲になった。この大地震の後、ネパール兵からもたらされたコレラ菌が、貧しい人々が飲んでいた川の水などを通じて拡散し、約1万人が死亡した。国連は加盟諸国にコレラ対策資金として4億ドルを募金したが、260万ドルしか集まらなかった。

 国連は、昨年の選挙を経て2月7日、ジョヴネル・モイーズ大統領の政権が発足したのを受けて、民主制度が曲りなりにも定着したと判断、派遣団撤収を決めた。撤収後は代わって、「国連ハイチ司法任務部隊」が駐屯する。軍人980人、警官295人で、アイチの法治、国家警察育成、人権擁護を指導する。

 派遣団は最大人数の要員(計1万3000人)を派遣したブラジルが指揮してきた。約20カ国が軍人や警官を派遣してきた。派遣団は治安確保や災害救援などで活躍したが、犯罪も働き、特に強姦事件を数多く起こし、国際問題化した。

 国連に対する強姦告発は2000件、うち未成年者は300件。他に泣き寝入りした女性が少なくない。被害者の女性たちには、精神的に苦しみ続け、妊娠させられ子供を生み、HIVを移された者がかなりいる。

 国連の捜査で、スリランカ兵134人が04~07年に強姦など犯罪を犯した。バングラデシュ、パキスタン、ヨルダン、ナイジェリア、ブラジル、ウルグアイの兵士らも関与した。

 亜国のアドルフォ・ペレス=エスキベル、グアテマラのリゴベルタ・メンチューらノーベル平和賞受賞者5人は13日、アントニオ・グテレス国連事務総長宛てに公開書簡を送り、派遣団の罪状の徹底捜査を求めた。コレラ感染者を含む被害者への賠償も要求した。

 同5人は、派遣団撤収に「大賛成」。「彼らは、かつての米軍のアイチ占領軍のようなものだ。アイチ人には協力が必要であって、後見保護ではない。国連は信用を問われている」と厳しく批判している。

 この書簡には、昨年の同賞受賞者,JMサントス・コロンビア大統領は参加していない。09年の受賞者バラク・オバーマ前米大統領も加わっていない。

◎ベネスエラ情勢:反政府勢力は19日を天王山に定める

 保守・右翼野党連合MUDは独立闘争開始記念日の4月19日、首都カラカスで最大動員をかけ、市内26地点からオンブズマン事務所に向けて抗議行進を予定、「国会尊重」、「囚人釈放」、「選挙早期実施」、「人権擁護」などを訴える。

 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権に圧力をかけ、米政府や国際メディアの支援を得て、政府の譲歩を勝ち取ることや、揺さぶって政府と軍部の間に亀裂を生じさせるのを狙っている。

 ミランダ州グアイカイプーロ市ロス・テケスでは14日、店舗20軒と市の文化広報用バスが反政府破壊活動集団に襲撃され、破壊された。バスは放火され全焼した。F・ガルセース市長は、州警察は暴挙を取り締まらず放置していたと糾弾した。同州はMUD幹部のエンリケ・カプリーレス知事の権力基盤。

 マイアミの西語紙ヌエボ・エラルド紙は14日、マドゥーロ大統領は最近、今年末の州知事・州会議員選挙実施と引き換えに反政府言動を抑制するようMUD穏健派に持ちかけた、と報じた。大統領は、来年末の大統領選挙まで20カ月間の「平和共存」についても話し合った、という。情報源は匿名。記事の真偽は不明。

 一方、デルシー・ロドリゲス外相は14日、故ネルソン・マンデーラ元南ア大統領の孫、マンドゥラ・マンデーラからマドゥーロ大統領宛てに連帯のビデオメンサヘ(メッセージ) をもらったとして、謝意を表明した。

 ベネスエラ外交界の重鎮、ロイ・チャデルトン前OEA(米州諸国機構)大使は13日、国営テレビVTVで、「ベネスエラはOEA無しでも生きられる。クーバがそうしてきたように。だが私はOEAに留まり、内側から闘い続けるのが望ましいとの立場だ」と述べた。これは政府部内にある「OEA脱退論」を牽制したもの。

 チャデルトンはまた、「米軍のシリア爆撃はベネスエラへの警告でもあろう。米支配層はベネスエラの石油に関心を持っている。我々は注意深く慎重に事を運ぶべきだ」と指摘した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は13日、「ベネスエラでの暴動事件の責任者はルイス・アルマグロ(OEA事務総長)だ」と非難した。そのアルマグロは同日マイアミで、「OEAは加盟国の民主問題では中立であるわけにはいかない」と述べた。

  ドナルド・トランプ米大統領は14日、フロリダ州の別荘で、コロンビアのアルバロ・ウリーベ前大統領およびアンデレス・パストゥラーナ元大統領と、ベネスエラ問題をめぐって話し合った。

 

2017年4月13日木曜日

 東カリブ諸国首脳会議にマドゥーロ・ベネズエラ大統領が出席、連帯への謝意を表明。本国では最近の一連の街頭暴力事件で計5人が死亡。政府は「破壊活動分子による撹乱」を糾弾。トランプ米大統領は月末ワシントンでアルゼンチン大統領と会談すると発表

 東カリブ諸国機構(OECS)の第64回首脳会議が4月12日、セントヴィンセント&グラナディーン(SVG)の首都キングズタウンで開かれた。招待され出席したベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は、加盟諸国・地域から寄せられた連帯への謝意を表した。

 これに対し、セントクリストファー&ネヴィス(SCN)のティモシー・ハリス首相は、ベネスエラによるOECS諸国への援助に謝意を表明した。会議に先立ち、マドゥーロ大統領はSVGのラルフ・ゴンサルヴェス首相の案内で、ベネスエラの援助で完成した同国東島新空港を視察した。

 OECSは1981年設立、セントルシーアの首都カストリーズに本部がある。カリコム(カリブ共同体・共同市場)と連携し、地域統合・開発を目指す。SVG、SCN、アンティグア&バーブーダ、ドミニカ、グレナダ、セントルシーアの英連邦6カ国と英領モンセラトが加盟。協賛島として英領アンギラ、英領ヴァージン諸島。

 マドゥーロ大統領は12日帰国、カラカスで、11日に卵を投げつけられた事件について、「反政府分子による待ち伏せ攻撃だった。カラカスなどで破壊活動分子が逮捕されている」と述べた。

 ララ州都バルキシメトでは11日の保守・右翼野党連合MUDによる反政府行動のさなか、12人が銃弾を受けて負傷、うち3人が12日までに死亡した。これで今回の一連の反政府行動での死者は計5人となった。

 ララ州のヘンリ・ファルコーン知事は、極右武装勢力が群衆の中に紛れ込んで攻撃している、と非難している。既に約50人が逮捕されている。

 カラカス市内には地下鉄5路線があるが13日、5路線にまたがる計28駅が閉鎖された。地下鉄と連携する路線バスのメトロブスとブスカラカスは終日休業した。これはMUD指揮下の反政府勢力が同日、動員をかけていたため。

 政府側は18、19両日、カラカスで大動員をかける。18日は、故ウーゴ・チャベス前大統領が2010年に民兵隊(MNB)を創設した記念日で、民兵部隊が行進する。その200年前の1810年4月19日は、ベネスエラ政界がスペインに対し、独立闘争を開始した日。いずれもチャベス派政権にとって重要な記念日だ。

 反政府勢力も19日に大動員をかける予定。今は聖週間だが、首都大聖堂などでのミサのさなかに両派の信者らが罵り合い、にらみ合う不穏な空気となっている。

 一方、ドナルド・トランプ米大統領は11日、マルリシオ・マクリ亜国大統領を27日ワシントンに招き、ベネスエラ情勢を含め話し合う、と明らかにした。米軍がシリアを攻撃し、北朝鮮近海に空母艦隊を急派しつつある時だけに、ベネスエラや支援国は、この米亜首脳会談を警戒している。
  
  

2017年4月12日水曜日

  ブラジルのルーラ元大統領が2018年大統領選挙出馬の意思を表明。検察は現職閣僚、上下両院議員ら76人を収賄容疑で捜査へ▼ベネズエラは反チャベス未遂クーデター15周年迎える。マドゥーロ大統領は群衆に卵投げられる

 ブラジルのルーラ元大統領(任期2003年元日~10年大晦日)は4月11日、ラジオインタビューで、「私は労働者党(PT)に求められれば、2018年の大統領選挙に出馬する用意がある」と述べた。出馬意志をこれほど明確にしたのは初めて。

 ルーラは3年前から収賄容疑など5件で起訴され、法廷闘争中。10日には建設最大手オデブレヒト社のマルセロ・オデブレヒト前社長が、「ルーラ大統領に1300万レアル(約415万米ドル)を贈賄した」と証言している。

 これについてルーラは、「虚偽発言がメディアに漏らされるのが問題だ」と前置きし、「当局は私の罪状に関する証拠を提示していない。私は刑務所に入ることなど全く考えたことがない」と反論した。

 さらに、「政敵らは過去3年間、私を叩いてきたが、叩く度に私の支持率が上がるため、神経質になっている。人民大衆は私の
政権期に郷愁を抱いているようだ」と、自信を示した。

 ルーラが裁判で有罪確定となれば、公職から追放されるため、来年の出馬も不可能となる。ルーラは、「彼らは私を挑発してきた。私は挑発される度に一層出馬したくなる」と語った。

 一方、最高裁のエジソン・ファシン判事は5日、検察庁の要請に応じて、収賄事件に絡む現職の閣僚8人、上議24人、下議39人、州知事3人ら計76人の捜査を許可した。

◎ベネスエラがクーデター15周年迎える

 ベネスエラは4月11日、2002年のこの日起きたウーゴ・チャベス大統領(当時)打倒のクーデターの15周年を迎えた。きっかけとなったカラカス中心部ジャグーノ橋一帯には、政府支持派数万人が集まり、政府支持を表明した。

 15年前、この橋の上と橋の下には、反政府勢力と政府支持勢力が対峙していた。反政府派が雇ったエル・サルバドール人の狙撃手らが近くの建物などから銃撃、19人が死亡した。

 クーデターを準備していた経団連と軍部は、この事件の責任をチャベスに被せ、チャベスを拘禁、カリブ海のベネスエラ領の小島に幽閉した。だが軍部内のチャベス支持派が蜂起、チャベスを救い、カラカスの大統領政庁に送り届けた。

 チャベスは、こうして奇蹟的に復権し、クーデター派は一気に潰された。この陰謀の背後にブッシュ米政権がいたことから、チャベスの反米施政が以後、鮮明になる。エンリケ・カプリーレス、レオポルド・ロペスら今日のMUD(保守・右翼野党連合)の中堅政治家は、クーデターに加担し逮捕されたが、チャベスに恩赦された。

 この日、リカルド・モリーナ運輸相は、4月に入ってから10日まで5日に亘って展開されたMUDによる反政府行動で、地下鉄を含む公共施設に総額200万ドルの被害が出た、と明らかにした。MUDによる抗議行進参加者の大勢は平和裡に行動したが、大学生ら若者の別働隊が投石、バリケード設置、最高裁を含む公共施設破壊などで大暴れした。

 国家警察と国家警備隊は放水、催涙ガス弾発射、交通遮断などで取り締まった。一連の事件のさなかに若者2人が死亡した。この街頭暴動事件は、2014年2月に始まり3カ月間続いた「グアリンバ」(街頭暴動事件)に酷似している。逮捕者が数十人出ている。負傷者は200人を超えている。

 一方、ニコラース・マドゥーロ大統領は11日、東南部のボリーバル州グアヤナ市郊外サンフェリックスで、「サンフェリックスの戦い」200周年を記念する軍事式典に出席した。この戦いで独立軍はスペイン植民地軍を破り、その後、勝ち戦を続け、独立に漕ぎつけることになる。

 式典終了後、マドゥーロ大統領は軍用車で大群衆の中を移動していたところ、1~2ダースの鶏卵を投げつけられた。うち1個が大統領の頭部に命中した可能性がある。この事件に関与した青少年5人が逮捕された。

 反政府派は、聖週間さなかの13日も、その後の19日にも抗議行動を予定している。「マドゥーロ打倒」の世論を盛り上げ、軍部に決起させるのがMUDの狙いだ。米政府や保守・右翼の外国メディアはMUDを支援している。
 

2017年4月11日火曜日

 マドゥーロ・ベネズエラ大統領が「野党勢力によるクーデター行動に直面している」とALBA会合で糾弾。同外相会議はベネズエラ、ニカラグア、カリブへの連帯宣言を採択▼チェ・ゲバラ部隊最初のキューバ人ゲリラの死から半世紀

 LAC(ラ米・カリブ)左翼・進歩主義諸国が構成する「米州ボリバリアーナ同盟」の第15回外相会議が4月10日ハバナで開かれた。今会議は、ALBA主導国ベネスエラへの連帯、LAC「平和地域」化実現への方策が主な議題だった。

 議長のブルーノ・ロドリゲス玖外相は、ベネスエラ攻撃の中心にいる米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長(前ウルグアイ外相)を「常軌を逸している」と批判した。エクアドールのギヨーム・ロング外相は2日の同国大統領選挙決選で、「市民革命」を10年間推進してきたコレア政権の後継候補レニーン・モレーノが当選したことを報告した。

 ニカラグアのシッダルタ・マリーン国際問題担当大統領顧問は、米共和党極右のクーバ系議員イレアナ・ロスレティネンらによる米議会への「ニカラグア投資条件法」(通称「ニカ法」)案再提出の動きを糾弾した。法案は、「ニカラグア選挙の公明正大な実施」、「人権尊重」などが保障されなければ投資を制限する、という内容。昨年9月、同議員らが提出、下院は通過したが、上院で否決されていた。

 外相会議では4種類の文書が採択された。「ニカラグア連帯宣言」は、ニカ法案を「経済封鎖法案」と捉え、再提出しようとしている議員たちを糾弾した。「カリブ連帯宣言」は、カリブ地域の統合と発展を支援。最貧国ハイチに連帯。欧州連合(EU)によるカリブ共同体(カリコム)への対応を批判した。

 エクアドール関係文書は、「市民革命」10年の成果とモレーノ当選を讃えた。「ベネスエラ支援宣言」も採択された。

 閉会式は会議殿堂で開かれ、ラウール・カストロ玖国家評議会議長、ニコラース・マドゥーロVEN大統領も出席した。クーバ国歌で始まり、終わって首脳らが着席しようとすると、会場に居たベネスエラ人留学生らが同国国歌を歌い出し、合唱となって拡がった。ベネスエラへの連帯の感動的な場面だった。

 ラウール議長に代わって演説した玖大学生連盟(FEU)のジェニファー・ベーヨ議長は、べネスエラをはじめとするラ米進歩主義政権を攻撃しているOEAを「米国の植民地省」と扱き下ろし、「クーバは絶対にOEAに復帰しない」と強調した。

 マドゥーロ大統領も演説、「ALBAは<奇蹟作戦>でLAC住民400万人の視力を回復させた」と讃えた。次いでOEA批判を開始、「創設以来69年のOEA史は、痛み、死、侵略者の血で彩られている。帝国主義者の利益へ我々ラ米諸国が従属した屈辱の歴史だった。LACの全合法政権への侮辱の歴史だった」と述べた。

 さらに、アルマグロOEA総長を厳しく批判、「ベネスエラは、OEAと米国に支援され、帝国主義者の利益に供する野党勢力によるゴルペ・デ・エスタード(クーデター)の行動に直面している」と指摘した。

 べネスエラの首都カラカスでは10日も、保守・右翼野党連合MUDの反政府行進があった。その若者らの別働隊は投石や「器物損壊」行動を展開、治安部隊が催涙ガスと放水で鎮圧した。18人が逮捕され、200人が負傷した。

 この野党行動は4月になってから5回目。マドゥーロ大統領が指摘するように、反政府勢力は街頭での騒乱状態を重ね、これを政権打倒の起爆剤とし、軍部に蜂起を促す戦略をとっている。

▼ラ米短信   ◎ボリビアでゲバラ部隊最初の玖人ゲリラが死んでから半世紀

 1967年4月10日、ボリビアでゲリラ戦を展開していたチェ・ゲバラのゲリラ部隊の一員ヘスース・スアレス=ガヨル(30)が激流に呑まれて死亡してから50年が経った。ゲバラ部隊で最初に死んだ玖人ゲリラだった。この日、クーバでは追悼行事が催された。

 スアレスは、スペイン・アストゥリアス州からの移民の子孫。ハバナ大学生だったころ、フィデル・カストロの「7月26日革命運動」に参加、都市部で反軍政の破壊活動に従事した。

 追及されてメヒコに亡命。革命戦争中の58年、玖島西部のピナール・デル・リオ州に潜入する。ゲバラの部隊に入って闘い、革命勝利を迎えた。革命後、ゲバラ工業相の下で、砂糖産業担当副工業相に就任。だがゲバラに従って66年12月19日、ボリビアに赴いた。 

2017年4月10日月曜日

 ベネズエラ首都カラカスで暴動状態が断続的に続く。マドゥーロ政権は政敵カプリーレス知事に公職追放処分科す。ハバナでは10日ALBA外相会議開催、米政府や米州諸国機構(OEA)の「対ベネズエラ圧力」への対応策練る

 ベネスエラの首都カラカスが4月初めから大荒れに荒れている。3月末、最高裁・憲法法廷が国会権限を代行する決定を下し、後に取り下げた一件をめぐり、国会で圧倒的多数派の保守・右翼野党連合MUD(ムドゥ)は4波の大規模な反政府抗議行進を展開。その若者たちの別働隊が激しい投石を治安部隊に浴びせ、公共施設を破壊、騒乱状態が続いた。

 その間、7日には会計検査院がミランダ州のエンリケ・カプリーレス知事を「公職追放15年」に処した。同知事が、「州予算案を州議会に提出せず、許可なくポーランド、英国両大使館と国際協力協定を結び、企業と違法契約を結んだ」のが理由とされている。

 カプリレースは過去2度、MUDの統一候補として大統領選挙に出馬。故ウーゴ・チャベス前大統領と、ニコラース・マドゥーロ現大統領に敗れた。来年末には大統領選挙があり、知名度の高いカプリーレスはMUDの有力候補の一人。

 公職追放は、知事任期が切れた日から15年続く。次期知事選がいつ実施されるか未定だが、その選挙への出馬はできず、選ばれた新知事が就任した時点で失職、公職追放となるもよう。8日にはカプリーレスの事務所が不審火に遭い、科学警察が捜査を開始した。

 この公職追放措置についてメヒコ、亜国、ブラジル、コロンビアの4カ国政府が直ちに声明を発表、ベネスエラ政府を批判した。これを受けて9日、デルシー・ロドリゲスVEN外相は激しく反発。「コロンビアは自国の現状を見よ。人権が蹂躙されており、労組・農民指導者らが殺されている」と逆襲した。

 メヒコに対しては、「ベネスエラへの内政干渉という不道徳な行為をする代わりに、自国の現実を見よ。何が起きているか、我々は知っている」。ブラジルには、「5400万人の有権者が選んだ大統領が昨年、クーデターで排除された。そうして生まれた非合法政府がベネスエラに民主について講義しようとしている」と皮肉った。

 アルヘンティーナのマクリ政権に対しては、「ひどく腐敗している上に、亜国人民の社会経済的権利に反する犯罪的な新自由主義政策を導入している。ベネスエラから鼻をひっ込めろと言いたい。我が国が聴くべきことなど何もない」と厳しかった。

 デルシー外相はその上で、「ここベネスエラ外務省から糾弾する。あなた方は米政府の利益と命令を満たすためにベネスエラに干渉している」と、はねつけた。

 カラカス首都圏を構成する5区の一つ、エル・アティージョ区のダビー・スモランスキ区長は9日、「マドゥーロ政権はシリアのように化学兵器を使い始めた」と、恐るべき虚偽情報をtwtで流した。大統領は、警察に同区長の捜査を命じた。

 マドゥーロ大統領は9日、「私は近く地方選挙(州・市)を公示するつもりだが心配だ。なぜならMUDがこてんぱんにやられることになるからだ」と述べ、野党連合を揶揄した。

 同大統領、デルシー外相は9日、ハバナに飛んだ。同市で10日開かれる第15回ALBA(米州ボリバリアーナ同盟)外相会議に出席するためだ。この会議は、米州諸国機構(OEA)によるベネスエラへの「米州民主憲章」適用問題、ラ米・カリブを「平和地域」にする方策策定などを話し合う。

 デルシーはハバナで、マイアミの米南方軍司令部がベネスエラへの干渉発言をしていることについて、「我々は南方軍の脅迫には屈しない」と表明した。

 会議には、ALBAのダビー・チョケウアンカ事務局長(前ボリビア外相)、クーバ、ボリビア、エクアドール、ニカラグアなど加盟10カ国の外相もしくは高官が出席。オブザーバーのエル・サルバドール外相も参加する。2日の赤道国大統領選挙決選で、穏健左翼のレニーン・モレーノが保守・右翼の財界候補を破ったことから、ALBAの士気は高まっている。

 一方、MUDは、カラカスで10日新たに大規模な反政府行動を実施する準備中。欧州連合(EU)は10日、「ベネスエラ政府がカプリーレスを公職追放処分にしても、ベネスエラの緊張状態は収まらない」と表明した。
 

2017年4月8日土曜日

 ベネズエラ大統領が米軍のシリア爆撃を厳しく非難。キューバ政府も「重大な違反」と糾弾。ボリビアは安保理で会合開催を主唱。ウルグアイは「戦争犯罪・人道危機」に際しての国連介入を阻む安保理常任理事国の拒否権行使を批判。同国含むラ米8カ国が「シリアの化学兵器使用」を糾弾

 シリア軍の「化学兵器使用」と、これに対応した米軍のシリア爆撃をめぐり、ラ米諸国も反応している。ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は4月7日、米軍の爆撃について、「シリアの主権と尊厳への攻撃であり、過激な戦争主義を押し付けるものだ」と糾弾した。

 さらに、「ベネスエラは戦争を前にして沈黙しない。戦争、爆撃、流血はもうたくさんだ。世界は平和と融和を望んでいる」と述べた。同国外務省は声明を発表、「シリア主権の侵害であり、国連憲章違反」と、米国を非難した。マドゥーロはまた、ベネスエラへの介入を求めてワシントン詣でしている反政府勢力を「売国奴」と扱き下ろした。

  クーバ外務省も7日声明を発表した。「米軍のシリア爆撃は国連の枠外で為された不法行為であり、国連憲章と国際法の重大な違反にして、主権国家に対する蹂躙だ」と厳しく指摘。「シリアと中東地域における紛争を激化させ、交渉による可決に資さない」と批判した。

 ロヘリオ・シエラ玖副外相は声明発表に際し、「化学兵器監視機関による公平かつ客観的で透明性があり非政治的な査察がなされないままの米軍のシリア攻撃を断固糾弾する」と述べた。また、シリア軍の攻撃による子供含む市民多数の死に哀悼の意を表した。

 国連安保理非常任理事国ボリビアのサチャ・ジョレンティ大使は7日、安保理に米軍による一方的シリア爆撃問題に関し理事会を開くよう要請。また、「人権演説は米国の関心を呼ばない。彼らは組織的に人権を蹂躙している」と非難した。

 同大使は、その後の記者会見で、「国連は、この種の重大行為について沈黙すれば共犯者になる」と警告した。さらに、「ボリビアは小国で、軍隊らしい軍隊を持たないが、原則には忠実であり、国連憲章原則を力の限り守る」と強調した。  

 一方、ウルグアイ外務省は7日声明を発表、シリア軍の「化学兵器使用は国際人道規約と市民の人権を損ねる野蛮な行為であり、断固糾弾する」と強調するとともに、「全当事者に戦火拡大を押しとどめるべく努めるよう」促した。

 声明は続けて、「国連安保理常任理事国は、戦争犯罪や人道的危機に際しては拒否権を行使しないのが妥当だ」として、国連の介入を阻む拒否権行使を批判した。

 ウルグアイの他、アルヘンティーナ、ブラジル、パラグアイ、チレ、ペルー、コロンビア、メヒコのラ米7カ国が「シリアの化学兵器使用」を非難している。これは南部共同市場(メルコスール)と太平洋同盟(AP)の計8加盟国が連携して意志表明したものだ。

 アルゼンチンで全国24時間ゼネスト成功。マクリ政権の新自由主義路線に反対。首都ブエノスアイレスでは世界経済フォーラム(WEF)ラ米版開会。労働者庶民と富裕経営者層の対比鮮やか

 アルヘンティ-ナで4月6日、マウリシオ・マクリ政権に反対する初の24時間全国ゼネストが実施された。「亜国労働者センター」(CTA)と「労働総同盟」(CGT)の2大労連が組織、「スト参加率は90%」と労連側は評価した。

 2015年12月発足したマクリ保守・右翼政権は、新自由主義による緊縮財政政策をとり、労働者解雇、停職、賃下げなどによるインフレ抑制に力を入れている。12年続いた、労働者重視のペロン派左翼政権が敷いた電気・ガス・電話・自動車道・公共玖通機関などの無料サービスを有料化するなどの対策を講じてきた。

 だが昨16年、インフレは年率40%。今年の目標は17%だが、既に28%に及ぶ兆候が表れている。労働者の購買力は減り、不満が日ごとに高まっている。去年の失業率は8・5%、25万人が職を失った。

 特に教員組合は賃上げを要求し続けてきたが、政府は無視。このほど法廷は、政府に回答するよう命じた。教員組合の闘争が今回のゼネストの引き金の一つとなった。

 交通機関、タクシー、航空、学校、銀行、商店、工場、ごみ収集、病院(最小限対応)などがストに応じ、首都ブエノスアイレスは閑散となった。若者や左翼はあちこちで自動車道を遮断した。

 これに対し政府は憲兵隊や機動隊を大量に投入、バリケードを除去、ピケラインを崩した。催涙ガスが発射され、数人が逮捕されたり負傷したりした。マクリ政権は昨年2月、法廷命令なしに道路封鎖やピケットを解除できる法令を定め、これを今回発動した。

 ストに参加した亜国労働党(POA)のホルヘ・アルタミーラ党首は、「インフレ抑制策と公定歩合引き上げで景気が後退した。インフレはかえって昂進している」と指摘した。

 一方、マクリ大統領はこの日、首都で開催中の「世界経済フォーラム」(WEF)ラ米版で演説。パラグアイのオラシオ・カルテス大統領を含むラ米政財界人1100人が参加している。

 労連は「ゼネストに参加していない全国で唯一の場はミニWEF会場だ」と皮肉った。外国からのフォーラム参加者は、遭遇したゼネストに亜国が直面する問題を垣間見た。

 それでもマクリの支持率は40~50%台。1日には首都でマクリ支持デモが展開された。

2017年4月7日金曜日

 アルベルト・フジモリ元ペルー大統領による「アウトゴルペ(自作自演クーデター)」から25年。娘ケイコ世代は政変を讃えず、民主制度を重視▼米法廷がメキシコ麻薬組織「ベルトゥラン=レイバ」首領に終身刑と巨額の罰金言い渡す

 ペルーは4月5日、1992年のこの日フジモリ政権が起こした「お手盛りクーデター」(アウトゴルペ)25周年を迎えた。当時のアルベルト・フジモリ大統領は四半世紀前、「非常事態・国家再建政権」樹立を宣言、「真の民主を創る」と強調。国会を閉鎖、司法を再編、マスメディアを規制した。首都リマには戦車部隊が出動、兵士が要所を固めた。

 その後間もなくして選挙を実施、制憲議会を開設。新憲法草案を策定し、国民投票を経て93年に新憲法を公布した。

 25周年のこの日、フジモリは、人道犯罪(殺人)命令罪で禁錮25年の実刑に服している特別の収監場からメンサヘ(メッセージ)を7回発信。「私は現代民主の建築家であり、あの日採った手段には意味があった。みなが今日尊重している現行憲法をつくったのは私だ。4月5日は民主を圧殺したのではなく、救ったのだ。国民の80%が支持した」と述べた。

 93年憲法は、国会を2院制から1院制に変え、大統領の連続再選を1回だけ可能にした。自ら指揮した政変後、大権を握ったフジモリは、自派の国会議員ともめったに会わず、報道を規制。国家情報局の諜報報告を基に施政、この関係で情報局を握っていたブラディミロ・モンテシーノスに頼り切った。「密室政治」が罷り通り、「国家テロリスム」による殺傷事件、逮捕・拷問事件が続発した。

 90年大統領選挙決選で作家マリオ・バルガス=ジョサを破って政権に就いた数学者フジモリだったが、白人富裕層、伝統的保守政界、海軍などによる政変の陰謀に直面。安定政権を築くため、陸軍や警察と組んで「自作自演の政変」を打ったのだった。

 だが95年に再選を果たしたフジモリは、1回だけの連続再選を拡大解釈し、2000年選挙に強引に出馬、3選を勝ち得た。これが墓穴を掘った。孤立し、アジア外遊の帰途、帰国せず、父母の祖国・日本に亡命した。

 しかし政権に返り咲きたい野心から、チレ経由での帰国を決意。2005年11月チレで逮捕され、後に身柄をペルーに引き渡された。裁判を経て服役している。

 娘ケイコ・フジモリは2011、16両年の大統領選挙に出馬、いずれも決選で惜敗した。対立候補が父フジモリのクーデターを攻撃、これで勝利を阻まれた。現在、国会ではケイコの政党「人民勢力」(FP)が圧倒的多数を握る。だがPPクリンスキ大統領の新自由主義政権に是々非々主義で対応している。

 フジモリの熱烈な支持者であるマルタ・チャベス元国会議員(現FP顧問)は、25年前の政変について「当時、国土の40%はゲリラの影響下にあった。国を内戦から救ったのだ。<4・5>を破壊活動へのクーデターと捉えれば、フジモリは国家に貢献したことになる」と説いた。

 だが世代交代も進み、ケイコを含めFPの若手・中堅幹部らは、国会を閉鎖した政変を肯定することはない。「アルベルティスタ」(フジモリ元大統領派)は、マルタら少数派になっている。

▼ラ米短信    ◎メヒコ人麻薬組織元首領に米法廷が終身刑言い渡す

 ワシントン地裁は4月5日、メヒコ北西部に根を張る麻薬組織「ベルトゥラン=レイバ」(BL)の元首領アルフレド・ベルトゥラン=レイバ(46)に終身刑と罰金5億2900万ドルを言い渡した。

 直接的な罪状は、2000~12年、米墨国境越しにコカイン29・7トンを米側に密輸したこと。米検察は求刑で罰金を100億ドルとしていた。

 アルフレドは08年1月逮捕、14年11月、身柄を米国に引渡され、16年2月有罪となっていた。BLは90年代に麻薬組織シナロアマフィアと連携したが今世紀になってから対立、シナロアの裏切りと見られる密告でアルフレドは逮捕された。兄アルトゥーロも09年12月、国軍に包囲され射殺された。

2017年4月6日木曜日

 ブラジル選挙最高裁判所がルセーフ前大統領とテメル現大統領の「不正選挙資金」事件の判決公判日程を延期。ルーラ元大統領は大統領選挙の早期実施を訴える▼ベネズエラ大統領が「来年、選挙を実施」と発言

 ブラジル選挙最高裁判所(TSE)は4月4日、ヂウマ・ルセーフ前大統領とミシェル・テメル現大統領が2014年に正副大統領として当選した選挙時、不正資金を用いたとされる容疑の裁判の判決公判日程開始を今月下旬まで延期した。この日開始の予定だったが、ヂウマ被告側弁護団が証人証言日程を延期するよう求め、これを認めたため。

 同選挙で敗れたPSDB(伯社民党)は16年12月、ヂウマ-テメル陣営は、建設会社最大手のオデブレヒト社から3400万ドルをもらい、それを選挙資金に組みん込んだとして、選挙無効を求めて提訴した。

 PSDBが、選挙で勝てない労働者党(PT)を叩き潰す狙いで提訴したのは明らか。ヂウマ(PT所属)と、次期大統領選挙での最有力候補と目されるルーラ元大統領(PT)=不正蓄財などで公判中=を有罪で「参政権8年停止」に追い込めば、選挙で勝つ公算が膨らむからだ。

 ヂウマは、訴訟の基となったオデブレヒト前社長マルセロ・オデブレヒト(服役中)の証言について、「(資金を提供したという)マルセロの証言は偽りだ。おそらく拷問されて言わされたのだろう」と語っている。ルーラは、「一時も早く(国会でなく)直接選挙で大統領を選ぶべきだ」と主張している。

 テメルはPMDB(伯民主運動党)所属で、昨年、PTと袂を分かち、PSDBと結託して強引にヂウマ大統領を国会での弾劾裁判にかけ失職させ、自分が後釜に座った。

 裁判で有罪になれば、ヂウマは8年間公職に就けなくなり、テメルは大統領の座を追われることになる。そうなれば国会が下院議長を暫定大統領として、新大統領を選ぶことになる。その新大統領の任期が半年を上回る場合は、大統領選挙実施に道が開ける。

 かつての正副大統領は今は敵同士で、共に被告になっている。両被告の弁護団は、TSEが却下の判決を下すのを望んでいる。ヂウマは既に弾劾で失職、テメルは支持率が10%しかないが2018年末までの残り任期を全うしたいからだ。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ大統領が「選挙実施」を口にする

 ニコラース・マドゥーロ大統領は4月4日、訪問先のアプレ州で、「来年は大統領選挙であろうと地方選挙であろうと選挙がある。だから闘おう」と述べた。

 大統領選挙は18年10~12月に実施される見通し。州知事・州会議員選挙は16年末までに実施されねばならなかったが延期
されてきており、今年半ば実施という観測も出ていた。

 だが、この日の大統領発言は、大統領選挙と州選挙を来年同時に実施する可能性をも示唆している、と受け止められている。
 


  

 

2017年4月5日水曜日

 チリ大統領選挙(11月)に女性放送記者ベアトゥリス・サンチェスが出馬表明。左翼「拡大戦線」でまず指名を争う。左右2大勢力の谷間で旋風を巻き起こせるか

 チレで今年11月29日に第1回投票が実施される大統領選挙に4月3日、著名な女性放送記者が出馬への名乗りを挙げた。ラジオ放送「ラ・クラベ」で3月まで政治記者をしていたベアトゥリス・サンチェス(46)だ。子供3人の母親だ。

 サンチェスは、新興の左翼野党連合「拡大戦線」(FA)に所属する「民主革命党」(RD)と「自治主義者運動」(MA)から3月21日、出馬を要請され受諾、記者を辞め、4月28日のFA候補指名の予備選に出馬することを決めた。社会学者アルベルト・マジョールと指名を争う。

 サンチェスは3日、首都サンティアゴ中心街のイタリア広場で出馬を宣言。最初の演説で、「私は政治は素人だが、皆さんも素人だ。素人同士が水平に繋がり、全員で物事を決める政治をしよう」、「女性が女性の問題を決め、先住民族が自分たちの未来を決め、ピノチェー独裁の負の遺産を自由に話し合える社会、異なるチレを創る」と訴えた。

 各会派の「候補者候補」は既にほぼ出そろっている。中道・中道左翼・左翼の政権党連合「新多数派」はアレハンドロ・ギジエル(ジャーナリスト)、リカルド・ラゴス元大統領、カロリーナ・ゴイク(キリスト教民主党首)。

 ピノチェー独裁の流れを汲む「独立民主連合」(UDI)と「国民改新党」(RN)の保守・右翼野党連合は、セバスティアン・ピニェーラ前大統領、マヌエル・オサンドーン上院議員、フェリーペ・カストが指名を争う。

 現時点での支持率は、ピニェーラ24%、ギジエル16%、ラゴスおよびベアトゥリス・サンチェス4%、オサンドーン3%、ゴイク2%、その他各1%。政権党連合と野党連合の谷間にある第3勢力FAは、組織と資金で最初から劣勢に立たされているが、サンチェスは知名度ではまずまずだ。

 サンチェスは1994年に放送記者となり、2014年に5局目の「ラ・クラベ」放送に移っていた。テレビ番組にもしばしば出演してきた。サンチェスが力をつければ、その分、政権党候補は票を食われることになる。

 政権党連合はギリエル、野党連合はピニェーラ、FAはサンチェスが指名を勝ち取る公算が大きい。サンチェスがダークホースになれるかどうかに関心が集まっている。
 
 FA(拡大戦線)には、前記両会派の他、人道党(PH)、「緑環境党」(PEV)、「平等党」(PI)、「自治左翼」(IA)、「絶対自由主義左翼」(IL)が参加している。社会党と共産党は「新多数派」に属している。

2017年4月4日火曜日

 エクアドルのレニーン・モレーノ次期大統領が貧困対策継続を強調。「ラ米は世界変革の前衛」などと各国首脳から祝電続く▼米州諸国機構(0EA)が反ベネズエラ決議を強引に採択▼メキシコ北部の調査報道紙が閉刊に追い込まれる

 エクアドール(赤道国)のレニーン・モレーノ次期大統領は4月3日、キト中心街のカロンデレー宮(大統領政庁)のバルコニーにラファエル・コレア大統領、ホルヘ・グラス次期大統領と並び立ち、眼下の「独立広場」一帯を埋め尽くした大群衆から祝福を受けた。

 前日の大統領選挙決選は開票率99・46%でモレーノ51・17%、ギジェルモ・ラッソ48・83%だった。ラッソは「開票に不正があった」と主張、モレーノ当選を認めず、開票作業のやり直しを求めている。

 モレーノは、「私は全赤道国人の大統領になる。とりわけ貧者のための大統領になり、貧困問題解決政策を継続する。支持者を決して裏切らない」と述べ、大群衆に抱擁を送った。

 コレア大統領は10年間「市民革命」を掲げ、改革政策を続けてきた。この日の勝利集会でみな、「市民革命」の讃歌「新しい人民」を合唱した。

 赤外務省によると、3日までにベネスエラ、ボリビア、クーバ、ニカラグア、エル・サルバドール、亜国、ブラジル、パラグアイ、コロンビア、メヒコ、チレ、ペルーなどの元首ないし政府から祝電が届いている。米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長、クリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル前亜国大統領からも祝賀の言葉が届いた。

 ラウール・カストロ玖国家評議会議長は、「市民革命の新しい過程が始まる。赤道国は<我らのアメリカ(ラ米・カリブ)>の統合と主権防衛に今後も貢献する」と祝電で述べた。

 ニコラース・マドゥーロVEN大統領は、「<大なる祖国(ラ米・カリブ)>の勝利だ」と祝福。同国外務省は声明で、「米国務省主導の政権奪取の画策が敗れた。ラ米進歩主義政権不安定化の企図はまたも敗れた」と強調した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は咽頭の手術を受けたハバナから祝電を送った。大統領代行のアルバロ・ガルシア副大統領はラパスで、「ラ米解放過程の新しい始まりだ。この勝利は右翼・保守勢力を黙らせた。ラ米は再び世界の革命過程の前衛になった」と論評した。

 米国務省は、勝利を期待していたラッソが敗北を認めていないことから、モレーノ勝利について言及を避けている。

▼ラ米短信   ◎OEA大使会議が変則的にベネスエラ批判決議を可決

 米州諸国機構(OEA)は4月3日ワシントンの本部で緊急大使会議を開き、強引に反ベネスエラ決議を採択した。決議は「ベネスエラには憲政中断状況がある。最高裁が制度的に国会に介入している」として、マドゥーロ政権に選挙実施日程策定と<政治囚>釈放を求めている。

 この日、輪番制議長国(4~6月)のボリビアは同副議長国ハイチとともに、開会目的の異常性を指摘し閉会を主張。これにベネスエラ、ニカラグアなどが同調した。だが米国、カナダ、亜伯両国など保守・右翼を中心に21カ国が開会に賛成、オンドゥーラスを臨時議長に仕立てて議事を進行させた。

 決議は、ベネスエラ国内対話優先を訴えるエル・サルバドール、ドミニカ共和国、ベリーズ、バハマが棄権。17カ国の賛成で可決された。

 マドゥーロVEN大統領は決議を受けてカラカスで、「OEAは反ベネスエラの異端尋問所と化した感がある。右翼諸国は米国の圧力を受けて域内諸国と我が国の断交を謀っているが、そうはいかない」と糾弾した。

▼ラ米短   ◎記者を殺されたメキシコの新聞が閉刊

 メヒコ北部チウアウア州フアレス市のタブロイド紙「ノルテ・デ・シウダー・フアレス」(北部フアレス市)は4月2日、第1面に「アディオス!」の大見出しを付け、この日限りで閉刊すると発表した。

 同紙は1981年、フアレス市で「エル・ウニベルサル」として創刊。90年に現在の紙名となった。小さな地方紙ながら、麻薬取引、麻薬組織と政財界の癒着、女性殺しなどの果敢な調査報道で有名になった。

 それだけに当局や麻薬組織からの圧力や脅迫も多く、今年3月23日には、麻薬取引を暴く報道で名を挙げていたミロスラバ・ブリーチ記者が殺害された。

 オスカル・カントゥー社主は3日、「社員の安全が保障されなくなって久しい。政争、腐敗、麻薬組織の暗躍などで危険な環境となっている。チウアウア市には社会の木鐸として調査報道に重きを置く新聞を発行する条件がなくなった。閉刊は抗議のしるしでもある」と述べた。今後は電子版でニュースや論評を流す。



 


 
 

2017年4月3日月曜日

★★★エクアドル大統領選挙決選で政権党候補レニーン・モレーノが当選。新自由主義路線の銀行家ギジェルモ・ラッソ候補を接戦で凌ぎ、「南米左翼の潮流」を辛くも守る▼マルビーナス(フォークランド)戦争35周年行事催さる

 エクアドール(赤道国)で4月2日実施された大統領選挙決選で、政権党「パイース同盟」(AP)候補レニーン・モレーノ元副大統領(64)が当選した。同国のアンデス通信をはじめ内外がメディアが一斉に報じた。

 国家選挙理事会(CNE=中央選管)が開票率95・56%段階で、モレーノ候補51・10%、対立候補ギジェルモ・ラッソ48・90%で、モレーノ当選と発表した。ラッソは銀行家で元経済相。「機会創出運動」(CREO)党首で、「行動活発化統合社会運動」(SUMA)と連合している。その後、開票率98%段階でモレーノ51・14%、ラッソ48・86%で、趨勢は変わらなかった。

  モレーノは当確を受けて、「市民革命は続く。だが作風が変わる。敬意を払い対決はしない」と述べた。

 現地時間1700の投票終了時に公表された出口調査結果は、A社とB社は52%対48%でモレーノ勝利。C社は53%対47%でラッソ勝利だった。今決選は赤道国史上最高の接戦で、出口調査結果以上の激戦だった。新政権は5月24日発足する。任期は4年。ラッソはC社の数字を頼りに、「開票の不正」があったと主張、票の数え直しを要求していた。

 モレーノは、ラファエル・コレア大統領が連続10年間続けてきた「市民革命」と名付けられた改革政策を継続する。これに対しラッソは、内外大企業優先の新自由主義経済路線の推進者。

 南米左翼が下降傾向にある中、エクアドールの決選は「南米左右両勢力の潮流の行方を懸けた戦い」と位置付けられていた。モレーノn勝利は、「南米左翼は辛くも踏ん張った」ことを意味する。

 決選直前の3月末、このブログでも詳述した通り、ベネスエラでは一時的に「国会閉鎖状況」となり、マドゥーロ政権は「憲政破壊」、「お手盛りクーデター」と厳しく批判された。

 ベネスエラ主導のラ米・カリブ左翼・進歩主義諸国の「米州ボリバリアーナ同盟」(ALBA)にコレア政権の赤道国が加盟していることから、選挙戦最終段階でラッソ候補は、「モレーノが勝てばベネスエラのようになる」と宣伝した。これがある程度奏功し、得票差が縮んだもよう。

 3月21日発表の支持率調査では、モレーノ52%、ラッソ48%だった。この時点で「支持候補未決定」(浮動票)は、有権者1243万人の16%で、これが勝敗を左右すると見られていた。だが決選の投票率は75%で、浮動票の動向はさほど影響しなかったと分析される。

 ラッソは、コレア現政権10年の施政を攻撃、「変化」を強調して支持を固めた。2月19日の第1回投票では、モレーノの39・36%に対し、28・09%で2位に着けたラッソは、第1回投票での落選候補たちの票を取り込んで20ポイントも支持票を増やした。

 当選条件は過半数得票者が居ない場合、得票率40%以上で、2位に10ポイント差をつけること。モレーノは40%にわずかに及ばず、決選に持ち込まれた。

 ラッソは追い上げた勢いとベネスエラ情勢の影響で勝利の可能性もあった。だが選挙戦終盤初期に、ラッソがパナマに所有する銀行の租税回避疑惑が報じられて痛撃となり、これが最後まで響いた。

 このため、ラッソは、それまで否定していた「無料の社会政策」実施などを公約に加えた。ところが社会政策重視は政権党の最重要政策であり、ラッソの唐突な追加公約は自身の独自性を弱める結果となった。

 モレーノは熱血漢のコレアと比べ穏健な改革者で、コレアの「急進主義」的作風とラッソの富裕層優先策の中間に位置し、選挙民に安心感を与えたと言えるかもしれない。事件に遭い車椅子生活を余儀なくされているモレーノは、身体障害者への理解が深く、この「人道的雰囲気」も有利に作用したはずだ。

 第1回投票と決選で、南米諸国連合(ウナスール)の選挙監視団代表を務めたホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領は「選挙は全く問題なく実施された」と評価した。

▼ラ米短信   ◎亜英マルビーナス戦争35周年

 ガルティエリ亜国軍事政権が1982年4月2日、同国東方の南大西洋にある英領マルビーナス(フォークランド)諸島奪回を狙って開始した戦争から35年経った。この日、亜国法で諸島が同国最南端のティエラ・デル・フエゴ州に属することから、州都ウスアイアで記念式典が催された。

 政府代表のロヘリオ・フリヘリオ内相は演説し、「主権を要求し続ける。主権回復のため賢明な道を探ろう」と、元従軍兵や、戦死者の遺族らに呼び掛けた。ロサーナ・ベルトネ州知事は、マルビーナス島民を「フエギーノス」(州民よ)と呼んだ。

 戦争は6月まで74日続き、サッチャー政権の英国が勝った。亜国兵649人、英国兵255人、島民3人が戦死した。

2017年4月2日日曜日

 パラグアイ上院議員25人が憲法の大統領再選禁止条項を違憲行為で修正。野党が抗議、警官隊に1人が射殺され30人が負傷、首都アスンシオンは混乱に陥る

 パラグアイで3月31日、国会上院の議員25人が不正に憲法条項を修正、怒った野党党員や市民ら約1000人が国会周辺など首都アスンシオンで抗議行動を展開した。国警機動隊が出動、1人が警官に散弾銃で射殺された。他に約30人が負傷、211人が逮捕された。

 事の起こりは28日、憲法の大統領再選禁止条項を修正して再選を狙いたいオラシオ・カルテス大統領の政権党コロラード党、これに同調する野党「グアスー戦線」(FG=拡大戦線)、および野党・真正急進自由党(PLRA)反主流派の上院議員計25人が、上院本会議場でなく上院内のFG会派室で、憲法修正案を<可決>したこと。上院定数は45。

 同25議員は31日、再びFG室で<本会議>を開き可決、下院に<送付>した。下院(定数80)は4月1日審議を開始する予定だったが、混乱が収まらないため、3日以降に延期した。下院は政権党が多数派のため通過は容易。

 エフライーン・アレーグレ党首らPLRA主流派を中心とする野党勢力は上院内外で25議員の違憲行動を糾弾、31日、抗議行動に出た。若者ら一部勢力は上院に放火、市内でも小競り合いが続いた。

 機動隊はPLRA本部に乱入した際、党青年部のロドリーゴ・キンターナ(25)に散弾銃を1回発射、キンターナは散弾9発を受けて死亡した。さらに約30人が重軽傷を負った。PLRAのエドゥガル・アコスタ下院議員は顔面に散弾を浴びせられ重傷。カルテス大統領は、死傷者が出たのを受けて、内相と国警長官を更迭した。

 上院議員25人が一方的に可決した憲法修正案は、「正副大統領は連続または非連続的に計2期まで就任できる」とし、「連続再選を目指す正副大統領は任期満了半年前に辞任せねばならない」というもの。

 パラグアイでは1954~89年、故アルフレド・ストロエスネル将軍が35年間の長期軍事独裁を敷いた。これを教訓とした政界は92年、憲法に大統領再選禁止条項を盛り込んだ。コルテスは2016年、再選禁止条項修正を試み、失敗している。

 上院では過半数に達しない政権党は、12年に「国会クーデター」と呼ばれる不当な弾劾裁判で大統領を解任されたフェルナンド・ルーゴ元司教の政党FGおよびPLRA反主流派に働き掛け、25人議員集団を結成した。

 ルーゴは、1989年の独裁体制終焉後、最初の非コロラード党政権を率い、穏健な社会改革で成果を挙げた。改革路線が定着するのを恐れたコロラード党は2012年6月、農民・警官殺害事件をでっちあげてルーゴを弾劾した。

 ルーゴは現在、上院議員だが、志半ばで解任されたため、やり残した改革をやりたいと、再選条項修正に回った。18年4月の大統領選挙で再選が可能になった場合の現時点での予想候補者支持率は、ルーゴ52%、カルテス12%で、ルーゴが優位。カルテスは敗れても、<ルーゴ次期政権>の次を狙うことが可能になる。

 この来年の総選挙では正副大統領の他、国会上下両院議員、17州知事・州会議員、南部共同市場(メルコスール)議会議員18人が選ばれる。

 今回、問題の25議員は、上院本会議を開けないことから、コルテス派の上院第2副議長を<上院議長>に就け、FG室で審議、憲法修正に必要な賛成票を従来の30から23人に変更し、憲法修正案を可決した。

 パラグアイ弁護士会は、大統領再選は憲法条項修正では不可能で、正式に改憲せねばならないと主張している。ラ米進歩主義世論は、米州諸国機構(OEA)がベネスエラ問題だけに集中し、パラグアイ上院での違憲の暴挙を取り上げないのはおかしいと非難している。

2017年4月1日土曜日

★ベネズエラ最高裁・憲法法廷による国会権限代行決定は、検事総長の「違憲判断」を受け覆さる。米州諸国機構(OEA)は3日ワシントンで緊急会合へ▼ボリビア大統領はOEA事務総長の恣意性を非難

 ベネスエラ国家防衛会議(CDN)は3月31日、最高裁の憲法法廷が28~29両日決定した国会権限代行に関し31日、検事総長が違憲だと異議を唱えた問題を協議した。その結果、国会権限を憲法法廷が代行する決定(事実上の国会閉鎖)は覆された。4月1日未明、発表された。

 CDNはまた、最高裁と検察庁が対立したことに鑑み、「憲法判断の権限は憲法法廷だけに属する」ことを確認した。会議は、国外勢力による内政干渉を断固排除することも確認した。大統領に与えられた「非常大権」も取り下げられた。

 さらにCDNは、南米諸国連合(ウナスール)によるベネスエラ政府と野党連合MUDの対話継続を確認、MUDに対話に応じるよう求めた。

 最高裁(憲法法廷)の国会権限代行決定は内外に強い衝撃を与え、「違憲」、「お手盛りクーデター」などと厳しい批判を浴びた。それがルイサ・オルテガ検事総長の異議申し立てによって一転、CDN開催となり、最高裁決定は元に戻された。

 オルテガ検事総長は従来、ニコラース・マドゥーロ大統領の支持者で、今回のような重大案件で異論を唱えることはなかった。それだけに意外性が強い。内外世論の強烈な非難を受けた大統領が検事総長を使って事態収拾に走ったのか、検事総長が法律家として信念を貫いたのか、謎が残る。

 一方、米州諸国機構(OEA、加盟34カ国)は、20カ国の要請で3日、ワシントンの本部で緊急大使会議を開き、ベネスエラ情勢を話し合う。ルイス・アルマグロOEA事務総長は、ベネスエラにOEAの「米州民主憲章」を適用し、同国のOEA加盟資格を停止させるのを狙っている。

 これについて、ハバナで咽頭の治療を受けているボリビアのエボ・モラレス大統領は1日、パラグアイ上院が31日、違憲と見られる強引な手法で大統領再選を可能にする改憲法案を可決したことに触れて、「アルマグロはなぜパラグアイ上院の動きを問題にしないのだ」と非難した。

 同大統領はまた、昨年8月末の「国会クーデター」と内外世論から見なされたD・ルセフ伯大統領弾劾や、昨今のトランプ米政権による対墨国境での壁建設事業についてアルマグロが問題にしなかったことも指摘。アルマグロにベネスエラを指弾する資格はないと糾弾した。