2017年6月16日金曜日

 ペンス米副大統領が「対ベネズエラ強硬論」を展開、ラ米諸国に行動を要請▼ボリビアのエボ・モラレス大統領がペンスに論駁▼ベネズエラ選管は州知事・州会議員選挙の詳細日程を発表▼キューバ外相が欧州歴訪を開始。法王庁に対VEN強硬論封じ込め要請か

 マイク・ペンス米副大統領は6月15日、マイアミで16日まで続く「中米安全保障・繁栄会議」で、中米首脳や企業家を前に演説、ベネスエラ情勢に触れて、「自由こそが繁栄への真の道であることをベネスエラに示すべきだ」とラ米諸国に呼び掛けた。

 ペンスはまた、「ベネスエラでの<権力濫用>と暴力を早急に止めさせるべきだ。安保は繁栄の道だ」とも述べた。これは、ベネスエラへの軍事介入も選択肢に入れている米政府の苛立ちを表している。米州諸国機構(OEA)が、米国、カナダ、メヒコ、ペルーなど対VEN強硬派と、ニカラグア、ボリビア、カリブ諸国などベネスエラ擁護派に割れていて、米国の思い通りの決議ができないからだ。

 米南方軍は13~17日の日程で、ベネスエラの眼と鼻の先のトゥリニダード&トバゴ(TT)で合同軍事演習を実施中。この「砲艦外交」と副大統領発言で、軍事、政治両面からベネスエラに圧力をかけているわけだ。

 ペンスはさらに、8月13~18日、カルタヘーナ、ボゴタ、ブエノスアイレス、サンティアゴ・デ・チレ、パナマ市を訪問すると明らかにした。

 ペンス発言に対し、ボリビアのエボ・モラレス大統領はラパスで、「米副大統領よ、権力濫用とは、母なる大地の権利を保障する気候変動パリ合意をないがしろにすることを指す言葉だ」と厳しく批判した。また、「世界中に侵攻のための軍事基地を置いていることが権力濫用なのだ」と論駁した。

 一方、ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は15日、先に発表された12月10日実施予定の州知事・州会議員選挙について、有権者登録を7月15日開始、8月8~12日に立候補届けを受理すると明らかにした。9月4~8日に立候補者を発表、選挙戦は11月15日~12月7日に展開される。

 同議長はまた、7月30日投票予定の制憲議会(ANC)議員選挙の地方区に3200人、職能別区に2300人が立候補する、と発表した。

 首都カラカスでは15日、「私たちはベネスエラだ運動」(MSV)の710実働部隊の長が任命され、出陣式が催された。政府支持派の若者たちの部隊で、首都の家庭を訪問し、生活上の問題点や政府への要望を聴く。

▼ラ米短信   ◎クーバ外相が欧州歴訪

 クーバのブルーノ・ロドリゲス外相は6月15日、トルコ、オーストリア、スロヴァキア、イタリア、ヴァティカン歴訪を開始した。ローマ法王庁では、ベネスエラ問題の平和解決への協力を法王に求めると見られている。

 ベネスエラ原油への依存度の高いクーバは、米国や一部ラ米諸国の対ベネスエラ強硬論に危機感を抱いており、軍事侵攻の可能性を封じ込める外交を展開している。

2017年6月15日木曜日

 ベネズエラでジャーナリスト殺害さる。暗殺の可能性も。マドゥーロ大統領は暴動の黒幕を名指しして警告▼米州諸国機構(OEA)は19日カンクンでVEN問題話し合う外相会議開催へ▼米南方軍はベネズエラ沖で13日、合同軍事演習を開始

 ベネスエラ・スリア州マラカイボ湖畔のオヘーダ市で6月14日、ラジオジャーナリスト、ネルソン・バローソ(53)が他殺体で発見された。現場は自宅で、殴打された痕跡があった。バローソはFMアメリカ放送社主で、チャベス派国会議員レオニダス・ゴンサレスの広報官だった。当局は、反政府勢力による暗殺の可能性も含め捜査中。

 首都カラカスでは同日、反政府派暴徒がオートバイで暴走中、うち2台が激突、2人が死亡した。内務省は、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUD所属のフレディ・ゲバラ国会副議長が暴徒の背後にいると告発した。首都リベルタドール区では13日、反政府派の若者23人が破壊活動現行犯で逮捕されている。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は14日、暴動で若者が死んでいるが、金を払って若者を暴徒に仕立て暴動に駆りたてているのはミランダ州知事エンリケ・カプリーレスと、国会議員ミゲル・ピサーロであり、いずれ収監され代価を払うことになろう、と警告した。カプリーレスはMUD内の極右政党PJ(まず正義を)党首で、ピサーロは同党幹部党員。

 一方、グアテマラ外相カルロス・モラレスは14日、ベネスエラ問題を話し合う米州諸国機構(OEA)特別外相会議を19日、墨保養地カンクンで開催すると発表した。モラレスはOEA会合の輪番制議長。OEAは同地で20~21日、年次定例外相会議を開く。OEAは5月31日、ワシントンでベネスエラ問題を話し合う特別外相会議を開いたが、合意できず、19日に再度話し合うことになった。

 ペルー外務省は、PPクチンスキ大統領がデルシー・ロドリゲスVEN外相により前日、こっぴどく糾弾されたのに反駁、「ベネスエラでの民主復活を断固推進する」と表明、内政干渉政策続行を明らかにした。

 ローマ法王庁は14日、ラ米5カ国6人の保守・右翼系大統領経験者に書簡を送り、「ベネスエラ危機解決は、真剣な交渉と選挙によって可能」との立場を伝えた。

 米南方軍は13日、ベネスエラのすぐ沖にあるトゥリニダード&トバゴ(TT)海域で合同軍事演習「貿易風2017」を開始した。17日まで。18~20日は、南方軍司令部のあるマイアミで、演習参加諸国の指導者セミナーを開く。

 ベネスエラの眼と鼻の先のTT領海での演習は、明らかなベネスエラ牽制策であり、南方軍はその意図をあからさまにしている。米国務省は、ベネスエラ政府高官への新たな「制裁」を準備中と14日表明した。南方軍と歩調を合わせた明白な内政干渉だ。

 ベネスエラ最高裁は14日、政府と対立しているルイサ・オルテガ検事総長が異議を申し立てた最高裁判事33人の過去の任命に関し、異議を却下した。


 
  

2017年6月14日水曜日

 キューバ市会議員選挙は10月実施へ。州会と国会の選挙は未定▼トランプ米大統領が16日マイアミで対キューバ見直し政策発表か

 クーバ政府の最高意思決定機関である国家評議会は6月14日、市会に当たる人民権力ムニシピオ会議議員の選挙を10月22日実施すると発表した。決選は10月29日。任期は2年半。

 州会に該当する人民権力州会議議員および、国会に当たる人民権力全国会議(ANPP)議員(いずれも任期5年)の選挙日程は追って発表される。選挙を経て来年発足する新しいANPP(現在612議員)は国家評議会員(同36人)を選出。国家評議会が議長(国家元首、任期5年、一人2期まで)を選ぶ。

 今月3日86歳になったラウール・カストロ議長は来年2月24日、議長を退く、後任はミゲル・ディアスカネル現第1副議長と内定している。だがラウールには、共産党第1書記の任期が21年4月まで残っており、議長を辞めても第1書記に留まり、新議長の後見役を務めることが可能だ。

  別件だが、ハバナ市マレコン(海岸通り)の著名な民営レストラン(パラダール)「エル・リトラル」と、同「ルンゴ・マレ」の2軒が14日、「資金洗浄」容疑で家宅捜査され、閉店処分となった。店主の自宅も捜索を受けた。たとえば、レストランが不法漁獲した伊勢海老など魚介類を買い取れば「資金洗浄」と見なされることがある。

 一方、ドナルド・トランプ米大統領は「16日マイアミで対玖外交政策を発表する」、との観測がある。クーバ革命軍(FAR)と関係する玖企業・団体との商取引を禁止することなどが発表される、との情報も流れている。

 トランプには確固たるラ米政策も対玖政策もなく、主として米連邦議会のクーバ系反カストロ派極右・右翼議員に吹きこまれた政策を打ち出すことになる。

 
  

2017年6月13日火曜日

 パナマが台湾と断交、中国と国交樹立▼マルティネリ前パナマ大統領がマイアミで逮捕さる▼ベネズエラ最高裁が検事総長の訴えを却下▼デルシーVEN外相はペルー大統領提案を内政干渉と糾弾

 パナマのフアン・バレーラ大統領は6月13日、中国と国交を樹立した、と発表した。この日北京で、イサベル・サンマロ副大統領兼外相と王毅外相が国交樹立協定に調印した。パナマと台湾の外交関係は消滅した。

 バレーラ大統領は、世界最大の人口を持ち世界第2の経済大国である中国と国交がなかったのは虚構だったが、それを正した、と述べた。王毅外相は、パナマが「一帯一路」に参加するのを歓迎すうと述べた。

 これで台湾が外交関係を維持するのは20カ国になった。うち11カ国はLAC(ラ米・カリブ)地域にある。中国系企業はニカラグアで運河を建設中だが、パナマ運河を持つパナマと国交を樹立したことで、中国は存在感を一層増した。

 中国はパナマ運河利用国として米国に次いで世界2位。同運河カリブ海側のコロン自由貿易地域での物資供給国としては第1位だ。中米ではコスタ・リカが中国と国交を維持しており、次はニカラグアになる公算が少なからずあると見られている。

  一方、国際刑事警察機構(インターポール)は12日、パナマ前大統領リカルド・マルティネリをマイアミで逮捕し、身柄を収監した。マルティネリは13日出廷する。パナマ政府は身柄引渡しを要求している。マルティネリは法的追及を逃れ15年初めからマイアミに住んでいた。

 パナマ政府は、違法情報収集および公金横領で国際手配していた。マルティネリは2014年まで5年間政権にあった期間に、政敵ら約150人の電話や電郵(eメイル)を傍受していた。公金横領など腐敗容疑をかけられている。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ最高裁が「制憲議会無効」の訴えを却下。

 ベネスエラ最高裁選挙法廷は6月12日、ルイサ・オルテガ検事総長による制憲議会(ANC)開設決定の無効化を求める訴えを却下した。オルテガは3月末からニコラース・マドゥーロ大統領の法的措置にしばしば異議を唱えてきた。

 政府および政権党PSUVにはオルテガ更迭を求める声が高まっている。一方、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは、オルテガを支持している。

  デルシー・ロドリゲス外相は13日、PPクチンスキ秘大統領がマドリードでベネスエラへの6カ国による仲裁を提案したことについて、内政干渉として糾弾。同大統領に「ベネスエラに伸ばしたその忌まわしい手を引け」と、警告のメッセージを発した。

   
 

 チェ・ゲバラを50年前捕えたボリビア軍退役将軍が「ゲバラは殺されるため送りこまれた」と語る。近く著書で詳述▼プエルト・リコ住民投票は投票率23%と低調。「米国51番目の州」化が多数▼獄中のベネズエラ極右政治家が国軍に「反逆」を呼び掛け。国軍高官が制憲議会反対で辞任か

 50年前の1967年10月8日、ボリビアで革命家エルネスト・チェ・ゲバラを逮捕した人物として知られるボリビア陸軍退役将軍ガリー・プラード=サルモンは6月11日、「チェはクーバ共産党上層部からボリビアに殺されるために派遣された」と語った。

 プラードは『犠牲にされたゲリラ』の著者だが、エル・チェ歿後半世紀に際し、改訂版として近く『ニャンカウアスーからラ・イゲーラへ-50年後に』を出版する。そこに、故フィデル・カストロ首相(1967年当時)の「裏切り」などを証言と共に盛り込むという。

  ゲバラの遺体が埋められていたサンタクルース州バジェグランデ市と民間団体は10月のゲバラ没50周年行事開始の準備を進めている。

 革命戦争中、エル・チェ(チェ・ゲバラ)が重要な戦果を挙げたサンタクラーラ市入口には、「エルネスト・チェ・ゲバラ彫刻複合体」がある。ゲリラ姿のゲバラ像、博物館、霊廟などが並んでいるが、このほど修復作業が完了した。ドイツの協力で、技術者4人が5週間かけて修復した。

 一方、スペイン・バスコ州ビルバオの対玖連帯会合は11日、スペイン保守紙エル・パイースに「クーバをめぐる最悪虚偽報道賞」を授賞することを決め、閉会した。

▼ラ米短信   ◎プエルト・リコ住民投票は低調

 米植民地プエルト・リコで6月11日実施された住民投票は、投票率が23%で、極めて低調だった。投票者の97%は政権党PNP党員ないし支持者で、「米国の第51番目の州」になることを選択した。

 「完全独立」ないし「自由連合国」としての独立に投票したのは1・5%、現状維持(自由連合州)は1・32%だった。独立2党は投票をボイコット、このこともあって投票率は上がらなかった。

 米連邦議会が、この投票結果をどう判断するかに焦点が移る。共和党はプエルト・リコの正式州化に消極的だ。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ情勢

 スペイン訪問中のPPクチンスキ秘大統領は6月12日マドリーで、「ベネスエラの民主体制維持のため、内政干渉と見なされようと
も、ラ米諸国は関与する必要がある」と前置き。「ベネスエラの味方3国、反対派3国の計6カ国で仲裁委員会を作ってはどうか」と提案した。これは米政府の意向を受けた提案。

 一方、暴動教唆罪などで服役中のベネスエラ極右政党VP(人民意志)党首レオポルド・ロペスは11日、ビデオメッセージを流し、その中で国軍に対し、「あなた方は護憲などのために反逆する権利と義務がある」と訴えた。マドゥーロ・チャベス派政権に忠誠を誓っている国軍を離反させる戦術だ

 ジャーナリスト、ブラディーミル・ビジェーガスは12日、国防会議および国家評議会の書記アレクシス・ロペス少将が、マドゥーロ政権が推進している制憲議会(ANC)開設政策に反対して辞任した、と明らかにした。国防相は確認していない。同少将は、故ウーゴ・チャベス前大統領の政権で、大統領親衛隊長、陸軍司令官を務めた。

 ベネスエラ政府は北京で12日、オリノコ油田で原油を日量32万5000バリル増産する合弁事業計画に調印した。



2017年6月12日月曜日

 米植民地プエルト・リコで将来の在り方を選ぶ住民投票実施。選択肢は対米併合(第51州化)、自由連合国含む独立、現状維持(自由連合州)。法的拘束力はない▼ラウール・キューバ議長は来年辞めると、娘マリエーラが語る

 カリブ海にある米国の植民地(自由連合州)プエルト・リコ(PR)島で6月11日、島の将来の在り方を決める住民投票が実施された。選択は①完全独立もしくは自由連合国としての独立②自由連合州としての現状維持③米国の51番目の州になる併合-。

 昨年11月の知事選挙で当選したリカルド・ロセジョー知事と政権党PNP(新進歩主義党)は併合主義。これに対し、PIP(PR独立党)は完全独立、PPD(民主人民党)は自由連合国を目指している。

 最近の世論調査では、52%が併合派、17%が現状維持、15%が両独立派だった。PIPとPPDは、投票ボイコットを呼びかけている。PR財政は、公共債務730億ドルを抱え、破綻している。そのような状況で島の将来を決めるのは無謀との批判がある。

 PRでは1967、93、98、2012年の4回住民投票が実施され、今回は5回目。最初の投票から50年経っている。前回投票で初めて54%が「現状変更」に賛成した。ただし、住民投票には法的拘束力はない。決定権は米連邦議会にあるが、共和党はPRの第51州化に乗り気でないとされる。

 投票結果は日本時間12日昼前に判明する見込み。投票率(もしくは棄権率)の高さに関心が集まっている。

▼ラ米短信   ◎ラウール・カストロ玖国家評議会議長は来年退陣する

 ラウール議長の娘マリエーラ・カストロ(玖性教育センター=CENESEX=所長)は6月10日、スペイン・バスコ州で、地元放送に対し、「父が引退しないよう求める声があるが、高齢(86歳)の父は来年退陣する。ずいぶん前から準備してきたこと」と述べた。

 バスコ州中心都市の一つビルバオでは、第14回バスコ州・クーバ連帯会議が開かれており、マリエーラは招待出席している。革命家チェ・ゲバラの娘アレイダ・マルチ医師も出席しており、「フィデル・カストロとチェ・ゲバラを模範として生きることが、両人への最大のオメナヘ(オマージュ)となる」と強調した。

2017年6月10日土曜日

 ニカラグアのミゲル・デスコト元外相(84)が死去▼メルケル独首相の批判をベネズエラが糾弾。検事総長は「制憲議会(ANC)無効」化を最高裁に訴える

 ニカラグアのミゲル・デスコト元外相(84)が6月8日、首都マナグアの病院で死去した。ロサンジェルスに1933年生まれ、61年ニューヨークでカトリック司祭になり、「解放の神学」派に参加。75年、ソモサ独裁打倒のゲリラ戦を展開していたFSLN(サンディニスタ民族解放戦線)の支援団体に参加。79年7月19日のサンディニスタ革命勝利で、革命政権執行部に参加した。

 英語力や在米経験を買われて外相に就任。81年に反革命非正規部隊(コントラ)を送りこんで軍事介入したレーガン米政権を相手に84~86年、国際司法裁判所で闘い、米側の侵略事実認定と賠償命令を勝ち取った。米政府は賠償していない。

 サンディニスタ政権に入ったことで、ヴァティカンから司祭資格停止処分に遭った。だが、「私は常に神と共にある」と言い、意に介さなかった。

 2007年、80年代にFSLN政権の大統領を務めたダニエル・オルテガが政権に返り咲くと、大統領の外交顧問に就任した。08~09年には、国連総会議長を務めた。

 現在、連続3期目にあるオルテガ大統領は「偉大な盟友の死」を嘆いた。ラウール・カストロ玖国家評議会議長ら縁のあったラ米諸国要人らから、弔電や花輪が届いている。

【私ブログ子は、デスコトに長いインタビューをしたことがある。私が「パーデレ(司祭)」と呼ぶと、「(資格停止中だが)構わないさ」と言って、にやりと笑ったのを記憶している。】

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は6月9日、反政府勢力による一連の暴動で破壊・略奪された民営商店舗442軒への補償金として計2985億bf(約1億5000万ドル)を被害者に渡す、と発表した。

 デルシー・ロドリゲス外相は9日、アンゲラ・メルケル独首相が8日、訪問先の亜国ブエノスアイレスで「ベネスエラ紛争の平和解決のため、連携して協力するようラ米諸国に呼び掛ける」と発言したことに対し、「内政干渉であり、反政府勢力の暴力を奨励するもの」と糾弾した。同首相は9日にはメヒコ市で、「ベネスエラのひどい状況を解決するのは容易でない」と発言している。

 亜国サンタフェ州ロサリオ市では9~10両日、ノーベル平和賞受賞者5人が出席して平和会合が開かれている。亜国の左翼アドルフォ・ペレス=エスキベル(APE)は9日、ベネスエラ情勢に触れて、「人民は、人民意志を代表しない為政者に替えて、参加型政権を樹立する権利がある」と述べた。

 さらに、「ベネスエラは、ラ米での覇権を失いたくない米国の策謀によるクーデターの危機に見舞われている」と指摘した。これに対し、保守のコスタ・リカ元大統領オスカル・アリアスは、「ベネスエラでは民主が失われて久しい」と言い、APEと対立した。グアテマラのリゴベルタ・メンチュー、ポーランドのレフ・ワレサ、イランのシリン・エバディも、それぞれ発言した。

 ベネスエラ反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDは9日、カラカス22地区で「市民会議」を開催した。MUDによる暴動込みの街頭行動戦術は国際宣伝には効果を発揮したが、国内では批判にさらされている。このため、チャベス派に倣い、政策を直接伝えるため「人民集会戦術」を導入した。

 一方、政府と対立しているルイサ・オルテガ検事総長は8日、マドゥーロ政権が推進している制憲議会(ANC)開設とそのための選挙を「人権、民主、投票権を侵害する」として無効とするよう最高裁に提訴した。MUDは検事総長を支持している。

 カラカスでは、政府がクーデターの芽を摘むため国軍の「浄化作戦」を遂行中で、不満派の佐官・尉官ら現役士官14人が4月に逮捕され拘禁中、との情報が流れてる。
  



  

2017年6月8日木曜日

★★★米南方軍がベネズエラ近海バルバドス領海で19カ国海軍合同演習「貿易風2017」を開始。ラ米・カリブ15カ国と米加英仏が参加。13日からの第2段階はTT領海で実施へ。マドゥーロ政権に軍事圧力かけるのが狙い  

 米南方軍は6月6日、ベネスエラへの軍事的圧力をかけるための「貿易風2017」という多国間軍事演習を開始した。始まった「第1段階」は6~12日、ベネスエラ北東沖約600kmのバルバドス領海で実施。続いて13~17日、「第2段階」がベネスエラの眼と鼻の先のトリゥニダーダ&トバゴ(TT)で展開される。

 南方軍はフロリダ州マイアミに司令部があり、ラ米・カリブ諸国ににらみを利かせる米州南方探題の役割を担う。カート・ティッド司令官(海軍大将)は7日、演習の目的を「カリブ海域での安全保障と、自然災害および犯罪取引に対応するため」と説明した。

 だがティッド提督は4月、米上院軍事委員会で、「<ベネスエラ危機>は地域の不安定要因となり、地域による対応を余儀なくされる」と証言、軍事介入の可能性を示唆した。ニコラース・マドゥーロ大統領のベネスエラ政権は「ティッド証言」を直ちに糾弾した。

 演習に参加しているのは、カリブ英連邦加盟12カ国のうちセントルシーアを除く11カ国、スリナム、アイチ(ハイチ)、ドミニカ共和国(RD)、メヒコのLAC(ラ米・カリブ)15カ国および米加英仏の計19カ国。LAC諸国の中には、親ベネスエラ諸国も含まれている。

 ティッド司令官は、米国務省、CIA、USAIDなどとともに、マドゥーロ政権打倒工作の「行程」を、ベネスエラ反政府勢力に指南してきた。USAIDは、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDに活動資金も提供してきた。

 MUDは「行程表」に沿って、4月初めから70日近くベネスエラの都市部で街頭暴力戦術を展開してきた。だが「勝機」が見えないのと、マドゥーロ政権が7月30日の制憲議会(ANC)議員選挙に向けて邁進しているのに焦っている。これを観たトランプ政権と南方軍は、急遽、今演習に踏み切った。

 「第2段階」の実施現場は、ベネスエラ領海に隣接しており、ベネスエラ国軍(FANB)には緊張が走っている。南方軍には、軍事
圧力をかけて、マドゥーロ政権を支持している国軍を割り、軍事クーデターの可能性を高める狙いがある。

 だが、トランプ大統領が弾劾される可能性に直面しており、中東、北朝鮮、対中関係など難題を抱えている折から、米軍がベネスエラに直接軍事侵攻する可能性は現時点では乏しい、との見方は成り立つ。親ベネスエラ諸国を巻き込むのも得策ではない。

 しかし、だからこそ、内憂(弾劾可能性)を外患(ベネスエラ問題)排除によって打ち払いたいという危険な力学が働くこともありうるのだ。この誘惑が高じれば、極めて危険な事態となる。その場合、米軍は「有志国」を募るだろう。 

2017年6月6日火曜日

 ベネズエラ制憲議会(ANC)議員選挙は7月30日実施へ。政権党PSUVは選対本部設置。反政府野党連合MUDはボイコット

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ議長は6月4日、制憲議会(ANC)議員選挙を7月30日実施する、と発表した。全国の都市を選挙区とする地域選挙区出馬登録希望者は約2万人で、今月6~10日に選挙区有権者の3%の署名を集めなければならない。

 職能別選挙区には3万5000人余が出馬を希望。11~14日に署名を集める。ANC議員は545人で、5万5000人強が出馬を登録しており、現時点では101倍の激戦。だが、反政府勢力の中核である保守・右翼野党連合MUDはANC開設に反対しており、立候補していない。

 この選挙に備え、政権党PSUV(ペスーブ=ベネスエラ統一社会党)は、カラカス首都圏および全国各州で選挙対策本部「サモーラ200司令部」を設置している。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は日曜定例TV番組で、反政府勢力の別働隊および前衛となって暴動を演じている若者らについて、「カプタゴーン」を使用している、と指摘した。この興奮剤はシリアで多く生産され、ISが使用していると伝えられる。

 大統領はまた、政府と対立しているルイサ・オルテガ検事総長について、「市民としては政治思想を選ぶ自由があるが、職務上はイデオロギーや政治思想を超えて真実を見極め、正義を施さねばならない」と強調した。

 首都圏チャカオ区アルタミーラで5月20日、反政府勢力別働隊による私刑で殴打され刺されて焼かれた青年オルランド・フィゲロア(21)が3日死亡した。また5月31日、ネルソン・モンカーダ判事を殺害した犯人は5日、治安部隊に包囲され自殺した。

 スペインのJL・Rサパテーロ前首相は4日、軍のラモベルデ刑務所で服役中の極右政党VP(人民意志)党首レオポルド・ロペスと面会した。デルシー・ロドリゲス外相と、首都圏リベルタドール区長ホルヘ・ロドリゲス(外相の実兄)が同伴した。

 一方、米ユナイテッド航空は3日、ヒューストンーアルバ゙ーカラカス往復週5便の運航を7月1日に打ち切る、と発表した。採算が合わないためという。既にエアカナダ、アリタリア、ルフトハンザ、アエロメヒコなど7社がVEN便を止めている。

 VENと中国は3日、マカオで開かれた会合で、合弁によるベネスエラでの重機械組立工場建設、既存バス組立工場拡張で合意した。両国間には790の合弁事業があり、総投資は620億ドル。
 

2017年6月5日月曜日

 スペイン人作家フアン・ゴイティソロ(86)がモロッコ・マラケシュで死去

 スペイン人作家フアン・ゴイティソロ(86)が6月4日、モロッコのマラケシュで死去した。小説、論集、随筆、紀行文、ジャーナリズム記事を書き、多作だった。1931年1月6日、バルセローナに生まれた。バスコとクーバの血を引く。兄ホセ=アグスティンは詩人、弟ルイスは学者である。

 フランコ独裁期の1956~69年、パリで亡命生活を送り、出版社ガリマールで文学所顧問を務めた。その職場で知り合ったモニク・ランジと78年結婚した。だが妻に死なれ、マラケシュに96年定住した。

 論集『小説の問題』(1962)、最後の小説『自国でも他国でも亡命者』(2008)などがある。オクタビオ・パス文学賞(2002)、フアン・ルルフォ・ラ米文学賞(04)、スペイン文学賞(08)、セルバンテス文学賞(14)などを受章した。

 ペリオディズモ(ジャーナリズム)に近い紀行文には、西国アルメリア市の地区を描いた『ラ・チャンカ』(1962)、『クーバ訪問記』(62)、『オスマントルコのイスタンブール』(89)、『サライェヴォ・ノート』(93)などがある。「社会派リアリズモ」路線と呼ばれた。

 1969~75年には、米国のカリフォリニア、ボストン、ニューヨークの3大学で文学を教えた。スペインのエル・パイース紙の寄稿者でもあり、露チチェン紛争、ボスニア戦争などを、同紙特派員として取材し、紀行を物にした。イスラム史・文化に造詣が深く、ジャーナリズムからの執筆依頼が多かった。

 私は、通信社時代の1998年、20世紀末企画の一環として「スペイン内戦」(1936~39)について記事を書くに際し、ゴイティソロに会うことにした。当時既に60年前の出来事だったスペイン内戦は、体験者が依然少なからず生存してはいたが、戦場は遺跡化していた。

 そこで終戦後間もなかった、ボスニア戦争を含むユーゴスラヴィア戦争の内戦的戦場を観ることにした。そこで読んだのが『サラェヴォ・ノート』(クアデルノ・デ・サラヘボ)だった。読んでから、マラケシュの自宅にいたゴイティソロにインタビュしたいと電話で伝えると、×月×日×時ごろ、サライェヴォのアテネフランスに来てほしいと言われた。

 私は、この約束を頼りに東京を出発、ウィーン経由でサライェヴォに入り、翌日、約束の日に無事インタビューをすることができた。ボスニアとクロアティアを取材してから、ウィーン経由でバルセローナに行き、スペイン内戦の傷跡を取材した。

 拙著『ボスニアからスペインへ-戦の傷跡をたどる』(2004年、論創社)は、この取材旅行をまとめたもので、ゴイティソロへのインタビューのほぼ全文を載せてある。世話になったこともあって、このオメナヘ(オマージュ)文を書いた。

 私は2011年3月、マラケシュに滞在したが、ゴイティソロと連絡をとらなかった。とれなかったのだ。日本で、東電原発大事故を伴う「東日本大震災」が発生した日だったからだ。

2017年6月4日日曜日

 今福龍太著『クレオール主義』を読む。「週刊読書人」が今福らの鼎談を特集。「週刊金曜日」は書評を掲載

 文化人類学者・今福龍太(東京外語大学教授)が『クレオール主義』を水声社から3月新装出版した。私は、「週刊金曜日」6月2日号に、「<島国全体主義>からの解放の鍵は多文化・多民族主義」と題して、書評を書いた。「島国全体主義」は私の造語である。

 限られた文字数で内容を紹介するため、私はラ米関係に的を絞った。クリオージョ、先住民族カリーベ人、ニカラグアの詩人ルベーン・ダリーオ(1867~1916)、モデルニズモ、ホセ・マルティ(1853~95)、「我らのアメリカ」、ネグリチュード運動などを本文から引っこ抜いて並べ、まとめた。全体主義の闇が狭い列島を覆おうとしている今、この本は市民に活路を与えるはずだ。そのことを書いた。金曜日誌を読んでほしい。

 「週刊読書人」5月5日号は『クレオール主義』再・新刊に際し、「ポスト・トゥルース(真実)に抗って」という鼎談を特集した。この専門紙は、新刊書の紹介はもちろんのこと、第1面から2~3ページに及ぶ対談などの特集記事が素晴らしい。明石健五編集長は特に企画熱心で、毎号のように面白い企画を読ませてくれる。

 鼎談には、今福龍太、中村隆之(大東文化大学講師)、松田法子(京都府立大学講師)が登場する。これは内容厖大で、さまざまな議論が展開されるため、全文を読まないと、鼎談の全体像は把握できない。読むのをお勧めしたい。
    

2017年6月3日土曜日

 チリ・ピノチェー軍政期の左翼大量殺害事件関与の元DINA要員106人に実刑判決▼パブロ・ネルーダ「毒殺」の真相が10月にも判明か▼ベネズエラ政府と検事総長の対立深まる。米GM社が完全撤退を発表

 チレ第1審法廷のエルナン・クリソスト判事は6月2日、ピノチェー軍政下の1975年に、当時の秘密警察、国家情報局(DINA)にチレ国内で殺された左翼119人「拉致・強制失踪」事件の被害者16人の事件に関与したとして、元DINA軍人106人(うち女性1人)に禁錮20年~541日の実刑判決を下した。刑は控訴審の判断を受けて決まる。

 殺害された119人は、共産党(PCCH)系武闘組織「革命的左翼運動」(MIR)と社会党(PSCH)の要員。軍政は、「仲間割れによる暴力と、亜国軍政当局との戦闘により亜国内で死亡した」と虚偽情報を流した。これを虚偽情報宣伝用メディアとして設立されたブラジルと亜国の週刊誌などが報じていた。同判事は2015年にも同119人事件の容疑者79人に実刑判決を下している。

 119人殺害事件は「コロンボ作戦」と呼ばれた。南米南部のブラジル、亜国、ウルグアイ、パラグアイ、チレ、ボリビアの軍政6国が米政府の後押しで結成した「コンドル作戦」の一部だった。ニクソン米政権のヘンリー・キッシンジャー国務長官は、コンドル作戦の黒幕だった。

★1973年9月のクーデターで発足したばかりのピノチェー軍政に「毒殺」された可能性が濃いノーベル文学賞詩人パブロ・ネルーダ(1904~73)の死因が10月にも公表される見通しとなった。

 ネルーダの甥ロドルフォ・レイエス=ムニョス弁護士が5月末に明らかにした。ネルーダは軍政によって首都サンティゴのサンタマリーア診療所に強制入院させられ、軍政が送り込んだ人物によって葡萄状菌を接種され死亡した可能性が浮上している。

 同弁護士は、「私は伯父が殺害された可能性を微塵も疑わない」と明言している。

◎ベネスエラ情勢

 ベネスエラのルイサ・オルテガ検事総長は6月2日ラジオ放送で、「ニコラース・マドゥーロ大統領は制憲議会開設を思い止まるべきだ」と述べた。また、12月10日実施予定の州知事・州会議員選挙を「繰り上げて早期実施すべきだ」と、国家選挙理事会(CNE)に提言した。さらに、「(政府は)検察から刑事事件捜査権を奪うつもりのようだ」と語った。

 これに対し、政権党PSUV(ベネスエラ統一社会党)の動員担当副党首ダリーオ・ビバスは、「(オルテガは)テロリズムとファシズムを支援しつつ暴力犯罪に密接に関わっている」と、「反政府勢力との関係」を指摘、「辞任すべきだ」と述べた。検察庁前には政府支持派が押し掛け、オルテガを「裏切り者」と呼び、辞任を求めた。

 反政府派大学生組織は2日、国営テレビ放送VTV本社にデモをかけた。VTV社長を兼ねるエルネスト・ビジェーガス情報相は学生代表を迎え入れ、対話。検察情報を基に街頭暴動最中の死者たちの死因を「正しく報道せよ」と迫る学生代表らに情報相は、「検察は捜査権を独占しているが、真実までは独占していない」と交わし、政府側には異なる死因判断があることを説明した。

 検察発表では、4月初めから暴力事件3390件を捜査、63人死亡、1189人負傷。「死者のうち19人は治安部隊要員が責任者」と見なしている。オンブズマン事務所は死者65人としている。またNGO「ベネスエラ社会紛争監視」(OVCS)によれば、4月1日~5月31日に全国で政治的な街頭暴力事件が計1791件あった。

 別件だが、米GM社は2日、カラボボ州バレンシア市から完全に撤退すると発表した。同市の工場で69年間、自動車を組み立ててきた。カラボボ州当局は「約束不履行」などを理由に4月18日同工場を接収、GMは提訴したが、最高裁が5月25日却下した。

 マドゥーロ大統領は、南アフリカとの鉱業開発技術協力、合弁会社設立で協定を結んだ2日、「我々にとって故ネルソン・マンデーラ(南ア大統領)は遺訓である。平等と平和を求め抵抗し闘争したアフリカ民族会議(ANC)の教訓は我々にも伝わっている」と述べた。

 
 
 

 
 
 

2017年6月2日金曜日

 ベネズエラが有志5カ国の対話醸成会合を招集。デルシー外相はメキシコでの次回外相会議で「アヨツィナパ問題」取上げると表明▼カラカスで極右が高裁判事暗殺した可能性浮上▼キューバ国会が「ベネズエラ連帯宣言」を採択▼バチェレー・チリ大統領が最後の施政報告演説 

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は6月1日カラカスで記者会見し、国内対話醸成のためエル・サルバドール、ニカラグア、ドミニカ共和国、セントヴィンセント&グラナディーン、ウルグイアの有志5カ国の会合を招集する、と明らかにした。

 また、カリブ共同体(カリコム)が、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)の枠組内で対話すべきだと提案したことについて、「国際法の原則に則った提案だ」と評価した。

 だが、「ベネスエラは、米州諸国機構(OEA)のいかなる決定をも認めない。したがって(反ベネスエラ決議採択工作をしている)アルマグロ(OEA事務総長)はOEAを破壊していることになる」と指摘した。ベネスエラの政情については、「反政府勢力が民主と憲法に反して暴力状況をつくってしまった、というのが真実だ」と強調した。

 外相は、今月21日、メヒコの保養地カンクンで開かれるOEA外相会議には出席すると31日発表したが、その会議でアヨツィナパ問題を提起する、と述べた。2014年9月26~27日、メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で起きた農村教員養成学校生43人の強制失踪事件のことで、発生後32カ月経ったが、未解決ののまま放置されている。

 「ベネスエラの人権問題」をOEAで再三批判してきたメヒコに、その痛いところを蹴り込んで逆襲する戦略だ。

 制憲議会(ANC)議員の出馬登録は1日終了したが、政府中枢部と対立するルイサ・オルテガ検事総長は同日、最高裁が大統領にANC開設を発議する権限を認めたことについて、憲法が定める国民投票権という人民の権利をないがしろにする決定、と批判した。

 これに対し、ニコラース・マドゥーロ大統領は同日、「新憲法(大幅改定憲法)の最終草案ができたら、それを国民投票にかける」と約束した。

 一方、ネストル・レベロール内相は、カラカス市内で31日殺された首都圏高裁のネルソン・モンカーダ判事(37)は「反政府右翼の殺し屋に殺害された可能性がある」と指摘した。同判事は、14年に街頭暴動事件を教唆した罪などで服役中の極右政治家レオポルド・ロペスの無罪要求を昨年却下、ロペスの有罪はこれで確定した。このため逆恨みの犯罪と見られている。

 エルネスト・ビジェーガス情報相は、社長を兼任する国営テレビVTVに出演、反政府勢力はデモの目的地をVTV本社にしており、放送局を乗っ取る戦術のようだと非難。「だが、何があろうと放送が中断されることはない」と述べた。

 タレク・エルアイサミ執権副大統領は、反政府勢力の中核MUD(保守・右翼野党連合)の代表フリオ・ロドリゲス国会議長が、米投資会社ゴールドマンサックスがベネスエラ国営石油PDVSAの債券28億ドル分の購入を決めたことを誹謗中傷したとして、「反国家的言動」として提訴する考えを示した。

 ロシアのウラディーミル・プーチン大統領はモスクワで1日、通信社10社との会見で、ベネスエラ情勢に触れ、「ベネスエラは激しい政治闘争のさなかにある。反政府勢力も政府も憲法を守り、過激主義を許してはならない」と強調した。

◎クーバ国会が「ベネスエラ連帯宣言」を採択

 社会主義クーバの人民権力全国会議(ANPP、国会に相当)は6月1日、ベネスエラ連帯宣言を採択した。ラウール・カストロ国家評議会議長(共産党第1書記)は閉会演説で「ベネスエラの合憲政権の打倒を狙う攻撃、政策、内政干渉を糾弾せねばならない。経済権益を持つ彼らは、故ウーゴ・チャベス大統領が始めたボリバリアーナ革命の継続を阻もうとしている」と、ベスエラ内外の敵対勢力を非難した。

 議長はまた、「反政府勢力の多くは、2002年のチャベス大統領打倒クーデター未遂事件及び、03年の<石油クーデター>の首謀者と同一人物だ」と指摘した。

 さらに、「ベネスエラを支援する唯一の方法は、主権を全面的に尊重しつつ、立場の相違を和らげるため積極的対話を奨励することだ」と強調。続けて、「もしベネスエラでの人権や安全を懸念するのなら、多くの死傷者を出してきクーデター促進者(反政府勢力)の暴力行為を糾弾せねばならない。人を生きたまま焼くなどの彼らの行為は、最悪のファシズムを想起させる」と厳しく批判した。

 今回のANPPは、去年4月の第7回共産党大会で採択され、党中央委員会も承認した経済改革関連文書類を審議し採択するため開かれた。ラウール議長は採択された文書との関連で、「変わらねばならないものは全て変えよう。変える速度は、人民合意に基づいて」と述べた。

 議長は来年2月に退陣するが、任期が9カ月弱となったこと、石油供給源ベネスエラの政経危機、トランプ政権下で玖米関係が停滞する可能性などを踏まえ、「改革」について極めて慎重な展望ぶりだった。

▼ラ米短信   ◎バチェレー智大統領が最後の施政報告

 チレのミチェル・バチェレー大統領は6月1日、国会で最後の施政報告演説をした。来年3月11日任期を終える。バチェレーは2006~10年、14~18年の2期務めたきた。計8年間を振り返って、「貧富格差是正に努めたが容易ではなく、政策結果は完全ではなかった」と述べた。

 重点政策として、民主憲法起草過程前進、税制改革、選挙法改正、腐敗防止法制定、堕胎合法化、教育改革などで成果を挙げたと自賛した。

 また先住民族マプーチェ人の「500年越しの土地闘争」に終始符を打つため、アラウカニーアの居住地域で統合的計画を促進してきたことを強調した。

 チレでは11月19日、大統領選挙第1回投票が実施される。保守・右翼勢力が優勢と見られている。

 

2017年6月1日木曜日

 米州諸国機構(OEA)外相会議は主権尊重派が動き、「ベネズエラ糾弾決議」に失敗。デルシー外相は21日のメキシコでの外相会議出席へ▼ベネズエラが国連・非植民地化委員会委員長国に選出さる▼制憲議会(ANC)議員選挙立候補登録始まる。

 ベネスエラへの介入を容易にする決議採択を目論んでいた米州諸国機構(OEA)の保守・右翼諸国は、5月31日ワシントンでの特別外相会議で、親ベネスエラ諸国の反逆により決議ができず、失敗した。デルシー・ロドリゲスVEN外相はカラカスで、「国際規範に則った倫理的なALBA(米州ボリバリアーナ同盟)とカリコム(カリブ共同体)の声が、ベネスエラ介入を目論む勢力を制した」と、会議結果を評価した。

 OEAには米州35カ国のうち社会主義クーバを除く34カ国が加盟。うちベネスエラは4月末、脱退を表明、今会議に欠席したが、脱退手続きには2年かかり、加盟資格は19年4月ごろまで続く。

 今回出席国が33カ国で、重要決議には3分の2の23カ国の賛成が必要。米加墨のTLCAN(NAFTA)3国、亜伯秘コロンビアなど計14カ国の「G14」(反ベネスエラ14カ国グループ)は、今会議前に23カ国の賛成を固める多数派工作に失敗。その結果、「唯一の合意は<合意がなかったこと>」(デルシー外相)という惨敗に終わった。

 会議を主導したのは、カリコム諸国を代表するバハマのダレン・ヘイフィールド外相だった。「カリコムは、ベネスエラの問題はベネスエラが解決すべきだ、という立場だ。OEAは介入すべきではない」と「G14」との立場の違いを強調。「全加盟国が基本的にベネスエラでの対話と和解を求めているのは確かなので、同国内の緊張緩和を促しつつ合意を形成すればいい」と主張。

 これにG14が賛成。会議は4時間余り討議した後、決議なしの流会となった。OEAは6月19~21日、墨カンクンで第47回外相会議を開くが、その前にOEA大使会議で引き続きベネスエラ問題を話し合うことになった。

 デルシー外相は、「ニコラース・マドゥーロ大統領の指示により、カンクン外相会議にはベネスエラ防衛のため出席する」と明らかにした。カンクン会議の前哨戦は既に始まっている。

 今会議でルイス・ビデガライ墨外相は、マドゥーロ政権が進めている制憲議会(ANC)開設過程に反対し、街頭暴動教唆罪などで服役している刑事犯の政治家を「政治囚」と呼び釈放を求めた。これに対しデルシーは、「ビデガライは、失敗国家メヒコを覇権主義国家(米国)の庇護の下に置くべく発言した。墨政府はラ米人民を攻撃し、自国人民をも蹂躙している」と糾弾。

 さらに、「メヒコは麻薬組織の犯罪、相次ぐジャーナリスト殺害、その他の社会的暴力で、世界一危険な国の一つだ。またラ米域内で不平等が最も激しい国の一つであり、民主が危うくなっている」と指摘した。

 外相会議には外相18人が出席、他は代理だった。米国は国務省の大物でラ米通のトーマス・シャノン政治問題担当次官補が出席。ベネスエラ問題解決のため、OEA加盟諸国などによる「連絡グループ」結成が必要との立場を表明した。

 ドミニカ共和国(RD)は1965年に米海兵隊に侵略され、流血の第三次に陥り、改革政権復活を阻まれた。それだけに米軍介入の口実になりやすいOEA決議には厳しく対応する。今会議でも、「ベネスエラの問題はベネスエラが解決すればよい。他の国々は解決努力に連帯すればいい」と、介入したいG14を突き放した。

 5月24日にモレーノ新政権が発足したエクアドール(赤道国)は、「ベネスエラの反政府勢力が対話を拒否しているのは遺憾だ。南米諸国連合(ウナス-ル)の仲介路線に沿ってベネスエラを支援すべきだ」と強調した。ウナスール本部は、キト郊外にある。

 ベネスエラのALBA同盟国ニカラグアは、「内政不干渉原則に反する今会議開催そのものに反対する」と前置きし、「ベネスエラだけが解決の当事者だ」と、G14に釘を刺した。

 ボリビアは「OEAは、加盟国の主権を弱めたい事務職員(ルイス・アルマグロ事務総長を指す)の個人的・政治的利益から、ベネスエラに暴力を焚きつけてきた」と糾弾。「今会議に反対だ。自由な人民は保護者を必要としない」と続けた。さらに、「アルマグロは政治俳優と化し、ベネスエラ紛争を醸し、加盟国ではなく、覇権主義国(米国)の利益を代弁している」と扱き下ろした。

 アルマグロは外相会議正面の議長関の隣に座していたが、攻撃されて苦々しい顔を見せるだけだった。事務総長は大使会議の決定を受けて、もしくは大使会議から委託されて重要発言をするが、重要問題であるベネスエラ問題に関し勝手に発言し続けてきた。この点にも加盟国の批判が高まっている。

 一方、ベネスエラは31日、国連総会で第1委員会(軍縮)の副委員長と、非植民地化委員会の委員長に選ばれた。マドゥーロ大統領は非同盟諸国運動の議長を務めており、それも評価された。

 ラファエル・ラミーレスVEN国連大使は、「米国の圧力にも拘わらずベネスエラは得票率95・6%で非植民地化委員長に選ばれ、米国に<尊厳>という教訓を与えた。ベネスエラは国際社会で敬意を払われているのだ」と強調。「ラ米も国連も<米国の裏庭>ではないのだ」と指摘した。

 ベネスエラ最高裁・憲法法廷は31日、制憲議会(ANC) 開設の発議は大統領の権限であり、必ずしも国民投票実施を必要としない、との判断を下した。これを受けて同日、ANC議員選挙の立候補届けが始まった。6月1日までの2日間で登録する。

 反政府勢力を率いる保守・右翼野党連合MUDは、ANC議員選挙ボイコットをあらためて表明した。MUD内の極右で、4月以来の暴力を含む街頭抗議行動を指揮しているエンリケ・カプリーレス(ミランダ州知事)は31日、伯紙バロール・ド・ブラジルから、「2012年の大統領選挙の際、オデブレヒト社(伯建設最大手)から選挙資金をもらった」と書かれた。300万ドルをもらったとされる。

 この選挙で故ウーゴ・チャベス前大統領に敗れ、13年4月の大統領選挙ではマドゥーロ現大統領に敗れた。このため「失うものがない」カプリーレスは反政府動員行動の先頭に立っているが、18年末の大統領選挙でのMUD候補としての出馬への道は険しい。
 
 ベネスエラ中央銀行は31日、通貨ボリーバル・フエルテ(bf)を64・13%切り下げ、1米ドル=2010bfとした。闇市場では、1d=6000bfにもなっている。