2015年12月31日木曜日

アイスランド人作家アーナルデュルの警察小説「湿地」を読む 

 今年最後の読書は、アイスランド人作家アーナルデュル・インドリダーソン著『湿地』(柳沢由実子訳、創元推理文庫)だった。アイスランド産の警察小説を読んだのは初めてだ。

 犯人が頭隠して尻隠さずのような間抜けという意味で、やたらに「いかにもアイスランド的犯罪だ」という記述が出てくるのが面白い。ところが、この本の犯人はアイスランド人であるが、事件は「いかにもアイスランド的」なものではなかった。

 作者の2000年の作品で、この訳書は今年半ばに出た。他の2作も翻訳されているから、年明けに読むこととする。私は一年中、ラ米漬のため、極北に近い土地の気候風土の味わえる物語はありがたい。

 この読書をきっかけに、まだ読んだことのないアイスランド人ノーベル文学賞作家ハルドル・ラクスネス(1902~98、55年受賞)の幾つかの作品も読もうと決めた。

 若いころ、米州のどこでだったか覚えていないが、旅行者のアイスランド青年と話し合ったことがある。はにかみ屋で好人物だったのを記憶している。そのとき、いつかアイスランドに行ってみたいと思ったものだ。

 明日は新年だ。アイスランドに行きたいという夢が正夢になるのを期待する。

コンドル繁殖のためチリがコロンビアに番3組贈る

 冠雪の高峰が連なるアンデス山脈の象徴はコンドルだが、コロンビアでは個体数が180羽足らずとなり、絶滅が危ぶまれる事態となった。このためチレから番(つがい)3組を入れ、繁殖させようとしている。

 チレ鳥類学者連盟(UNORCH)のエドゥアルド・パベス会長によると、2013年末にコロンビアに招かれた折、コンドルの番を送ってほしいと依頼された。

 これを受けて同連盟の猛禽類部門は過去3ヶ月間に3組をコロンビアに贈った。それぞれボゴタ、メデジン、カルタヘーナの大型施設内で飼われている。

 このほど3組目の番がカリブ海岸の大都市カルタヘーナの近郊にあるバルー島に到着した。コンドルの生息には、アンデス山脈の寒冷気候が適していると考えられてきたが、今日では熱帯性気候のカリブ海岸地方でも十分に耐えられるようになっているという。

 コンドルはチレ、コロンビアの他、ペルー、ボリビア、エクアドール、アルヘンティーナ、ベンスエラの山岳地帯に生息している。 

2015年12月30日水曜日

ベネズエラ大統領が「直接民主主義」強化戦略を打ち出す

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は12月29日、国営テレビを通じ演説、6日の国会議員選挙での政権党惨敗を受けて、「政府は革命の修正・再活性化」を図ると強調した。「人民は怪物を見た」とMUD圧勝に触れ、「人民の反逆と覚醒を促す」と述べた。

 大統領は、「汝は人民か、それとも寡頭勢力?」と問い掛け、「彼ら(MUD)に投票することは過去への回帰を意味する」と、改めて警告した。
 
 さらに、「人民が権力に参加する直接民主主義促進のため、労農など広範な市民層および政権党が支配する州・市などで結成する<祖国大会議(GCP)を年明けに招集する」と明らかにした。

 この日、「大統領理事会」設置の政令が出されたが、これも人民参加強化を狙いとしている。国会で112議席の絶対多数を奪われた政府としては、人民動員による国会外での「直接民主主義」でMUDに対抗する戦略だ。

 最高裁選挙法廷は29日、MUD議員8人の当選に異議を申し立てる政権党からの訴えを受理したと発表した。審理の結果、異議が認められれば、8人の当選は無効となり、再選挙が実施される。

 MUDは、勝ち得た絶対多数を切り崩す陰謀だ、激しく反発している。

改憲目指すボリビア大統領が開発5カ年計画を発表

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月29日、「2016~20年経済社会開発5カ年計画」を発表した。現在、人口の17・3%を占める極貧率を2020年には9・3%に引き下げ、貧困率は39・3%から24%に落とす。富裕層と貧困層の所得格差は39倍だが、これを25倍まで縮小する。

 国内総生産(GDP)を340億ドルから570億ドルに増やす。そのため経済成長は年率5・8%とする。向こう5年間の投資は、石油・天然ガス126億ドル、道路建設110億ドル、電力58億ドル、保健17億ドルなど。輸出は160億ドルに増やす。

 2006年1月就任したモラレスは現在3期目にある。その任期は2020年に終わるが、モラレスと政権党MAS(社会主義運動)は、憲法の大統領再選規定を修正して19年末の次期大統領選挙にモラレスが4選出馬できるようにしようとしている。

 この改憲の是非を問う国民投票は16年2月21日実施される。世論調査では賛否半々で、大統領陣営は集票活動に必死だ。

 11月22日の亜国大統領選挙決選での保守・右翼候補マウルシオ・マクリ当選と12月10日の就任、および12月6日のベネスエラ国会議員選挙での保守・右翼野党連合MUDの圧勝に象徴される南米右傾化の波がボリビアにどこまで波及するか。測りかねるモラレスとMASは危機感を抱いており、「2025年以降は大統領の椅子を望まない」と公約し、支持を訴えている。

ラウール・カストロ議長がキューバ経済は来年2%成長と予測

 クーバのラウール・カストロ国家評議会議長は12月29日、人民権力全国会議(ANPP、国会)の年末会期閉会演説で、クーバ経済は今年4%成長したが、来年は資金確保の難しさなどから成長予測は2%に留まると述べた。外国人観光客350万人が今年来訪したことも指摘した。

 外交関係で議長は、LAC(ラ米・カリブ)の進歩主義政権防衛の必要性と、LAC協和機関としてのラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)防衛の必要性を強調した。

 ニコラース・マドゥーロ大統領施政下のベネスエラの主権防衛の闘いへの連帯、および同国革命政権の公約が引き続き守られることへの期待を表明した。(これは特にベネスエラ原油の対玖供給維持への期待を意味する。)

 ラウールはまた、ブラジル国会でのヂウマ・ルセフ大統領弾劾の動きを糾弾、同大統領への連帯を確認した。(クーバ経済浮揚の鍵となるマリエル開発特区=ZEDM=建設の資金と工事はブラジルが担っている。)

 ハバナ交渉でコロンビア政府とFARCが3月実現を目標に9月和平合意したことについては「実現を楽観している」と語った。中米で大問題になっているクーバ経済難民にも触れ、彼らは合法的に出国したが、その後、不法越境業者(コヨーテ)の犠牲になったと指摘。問題の根底に米国の「キューバ調整法」があると批判した。

 2015年に世界184カ国から使節団が来訪したが、うち25カ国からは首脳が来たと、外交の隆盛に触れた。7月に復交した対米関係の正常化深化には、対玖経済封鎖解除とグアンタナモ米海軍基地返還が不可欠だと、改めて強調した。議長はまた、クーバ体制転換を目指す米政府を念頭に、「クーバが主権と尊厳を守るため独立と諸原則を失うことはありえず、失わせようと画策してはならない」と、新たに釘を刺した。

 議長は今年のオランド・フランス大統領来訪への答礼として来年2月、公式に訪仏することを明らかにした。クーバは今年、欧州連合(EU)との関係修復も果たし、パリクラブは対玖債権利子分を免除した。

 ASPPは、26日の玖共産党第12回中央委員会全体会議が討議しまとめた「玖社会主義発展のための経済社会モデル概念化」、2016年経済計画・歳出予算、第1回共産党全国会議採択の労働目標達成報告などを審議し、採択した。

 マリーノ・ムリージョ副首相兼経済・企画相は「経済計画・歳出」報告で、16年経済計画予算の58%に当たる78億4100万ペソ(約3億2000万米ドル)は投資に向けられるとし、優先分野は観光、エネルギー、石油、農牧、干害・灌漑対策、電気通信、生物工学、ZEDMと述べた。

 国会はまた、2016年を「革命58年目の年」と命名した。


2015年12月29日火曜日

世界最悪か、今年ベネズエラで一日当たり77人殺される

 ベネスエラのNGO「ベネスエラ暴力監視」(OVV)は12月28日、今年同国で2万7875人が殺された、と発表した。1日当たり77人強。人口10万人当たり90人で、OVVは「オンドゥーラス(ホンジュラス)を抜き世界最悪になったもよう」と指摘した。去年は2万4980人だった。

 マドゥーロ政権は今年半ばから、カラカス市周辺の山麓などにあるバリオ(低所得者居住地域)で暴力集団を取締まる「住民解放作戦」を続けてきた。OVVは、殺された者には治安部隊に抵抗して射殺された者が多く、「作戦」はかえって暴力を助長してきた、と批判した。

 検察庁は、去年の殺人事件発生率は10万人当たり64人だったと認めているが、OVV集計の今年の殺人事件数は大げさだとして認めていない。これについてOVVは、検察は法的に殺人事件として処理された件数しか数えていない、と反論している。

 一方、1月5日開会する新国会で選出される野党連合MUDの議長候補の一人、ヘンリー・アルップは28日、ニコラース・マドゥーロ大統領の罷免の是非を問う国民投票を推進する、と述べた。憲法規定に基づき、同大統領が6年の任期の半分を経過する来年4月以降、罷免国民投票のための署名運動実施が可能になる。

 アルップは民主行動党(AD)指導者で、ミランダ州知事エンリケ・カプリーレス(元大統領候補)に代表されるMUD内の合憲活動派に属する。カプリーレスは自派の議長を出すことで、次期大統領選挙でMUD統一候補として新たに出馬するのを狙っている。

 これに対し、破壊活動扇動罪などで収監されているレオポルド・ロペスらMUD内極右勢力は、街頭暴力活動(グアリンバ)など非合法活動も否定しない反政府強硬姿勢を示している。

コスタ・リカのキューバ難民、メキシコ行きが決まる

 ニカラグアを除く中米6カ国およびメヒコは12月28日グアテマラ市で実務者会合を開き、コスタ・リカ(CR)国内にいる米国行き希望のクーバ人経済難民8000人を来週、エル・サルバドールの首都サンサルバドールに空路運び、同市からグアテマラ・メヒコ国境までバスで送り届けることで合意した。メヒコ政府は、同難民を米国国境まで安導することを受け入れた。

  CR外務省は、難民は米国までの移動費を自己負担する、と明らかにした。難民たちはクーバを去る際、全財産を処分しているため、米ドルをかなり所持してると見られているが、マイアミの新参クーバ難民支援団体は支援態勢を整えると表明している。

 会合ではグアテマラのカルロス・モラレス外相が議長を務め、コヨーテ(難民の密出入国を手助けして儲けている者たち)を取締まることも決めた。会合には国際移民機関(IOM)代表も出席、領内通過を認めないニカラグアは欠席した。

 クーバ難民問題は米政府が維持している「キューバ調整法」があるため起きている。クーバ政府にとって今回の大問題は、同法廃止促進の好宣伝材料となっている。その立場に同調するオルテガ・ニカラグア政権は、「治安上の理由」からとして難民通過を拒否した。

 CRはエクアドールなどからやってきたクーバ難民に11月14日領内通過査証を発給したが、翌15日、ニカラグアが難民に国境を閉ざしたため、難民はCR領内の収容所37カ所に寝泊まりしてきた。嵩む経費や安全管理でソリースCR政権は音を上げ、中米統合機構(SICA)に早急に解決策を見出すよう要請していた。

 バレーラ・パナマ政権も28日、国内にいるクーバ難民759人を宿泊施設に収容することを決めた。これまでは教会、修道院、路上などで寝泊まりしていた。

 一方、メヒコ移民庁(INM)は28日、今年1~10月、中米から密入国してきた未成年者2万9217人を保護したと明らかにした。その97%はグアテマラ、オンドゥーラス、エル・サルバドールからだった。

 メヒコ外務省は、難民の出身国・通過国・受入国が一堂に会する難民会議を近々開くよう提案している。このところクーバ難民の多くは、クーバからエクアドール、コロンビア、パナマに出て、CR経由で北上する者が多い。だが今回の出来事を契機に、この中米回廊通過は難しくなるかもしれない。

 また米国の国境管理当局は28日、今年既にクーバ難民2万7296人が入国したと公表した。去年は1万5341人で、今年は78%増し。米政府はCRにいるクーバ難民を、国境まで辿りつけば受け入れると表明している。(米議会下院議員2人は29日、難民問題を把握するためCRを訪れた。)
 
 

2015年12月28日月曜日

ラテンアメリカで日韓慰安婦問題合意、広く報道さる

 ラ米メディアは12月28日、慰安婦問題をめぐる日韓合意を大きく報じた。日本に関する今年一番の報道ぶりで、集団自衛権関連法成立時をはるかに上回っている。「エスクラボス・セクスアレス」(性奴隷)という刺戟的な言葉が関心を呼んでいるかに見える。

 「第2次世界大戦時に日本軍に<性奴隷>になるのを強制された<ムヘレス・デ・コンフォルトゥ(慰安婦)>の問題で、日韓両国は歴史的合意に達した」と、通信社や新聞は一斉に伝えている。また、オバーマ米政権が、米国の同盟国である日韓両国に合意するよう圧力をかけた、とも報じている。

 ノティメックス(メヒコ通信)、プレンサ・ラティーナ(クーバ国営通信)、アンディーナ(ペルーアンデス通信)、亜国テラム通信、ラ米多国籍テレビ「テレスール」や各国主要紙は、独自電や、共同通信、スペインEFE通信、フランスAFP通信、韓国ヨンハップ通信、米AP通信、英ロイター通信などの配信記事を基に報じている。

 だが、ラ米人ジャーナリストによる分析記事や解説記事は28日朝刊段階では見当たらない。昼刊・夕刊段階では、韓国人元慰安婦生存者の発言や辿った運命を紹介する記事が目立った。

中国航空の北京・ハバナ直行便が運航開始

 北京とハバナを結ぶ中国航空B777一番機が12月27日、北京空港を離陸。給油などのため寄港するモントリオールを経由し、ハバナに向かった。飛行19時間半、ハバナには現地時間27日夜、到着した。

 中国航空は、このハバナ直行便を週往復3便運航する。昨年クーバを訪れた中国人旅行者は2万2000人。直行便開通で、その数が飛躍的に伸びるのが期待されている。

 LAC(ラ米・カリブ)諸国も、この便でやって来る中国人を迎えたいと方策を練っている。華人とその子孫合わせて250万人が住むペルーは、ハバナから脚を伸ばしてマチュピチュ遺跡などを観てほしいと望んでいる。

 一方、米国移住を願うクーバ人の出国が続いていて、うち8000人がコスタ・リカ(CR)、1000人がパナマで足止めを食らっており、中米で大問題になっている。CRは12月18日、このような「クーバ人経済難民」への査証発給を停止、不法入国した58人を追放した。

 クーバ難民が米国に陸路向かうには、CRの北にあるニカラグアに入国してからオンドゥーラスもしくはエル・サルバドールを経てグアテマラかベリーズを通ってメヒコに入るしかない。

 だがニカラグアが11月15日、入国を拒否、以来CRで難民が動けなくなり、CRに入れなくなった難民がパナマにもたまってしまった。グアテマラとベリーズも難民の入国・領内通過を拒否、難民問題はパナマからグアテマラまで中米全域の問題に発展した。

 中米諸国は28日グアテマラ市で打開のための会議を開く。ローマ法王フランシスコは27日、同会議に先立ち、人道主義的な立場から善処を呼び掛けた。

 グアテマラでは1月14日、ジミー・モラレス新大統領が就任する。新政権発足前に解決できるどうかに関心が集まっている。毎年数十万人の米国行き密航者が領内を通過しているメヒコは、静観している。

 クーバ政府は、米領に入域したクーバ人に定住権を与える「クーバ調整法」を米国が維持してるため難民が絶えないと非難、同法廃止を要求してきた。

 ニカラグアも、現在中米にいるクーバ難民9000人を米国が引き取るべきだと主張している。CRにいる難民の一部は、一人当たり1000ドルを支払ってニカラグアに密入国し、オンドゥーラス経由でグアテマラ方面に向かっている。
 
 

2015年12月27日日曜日

コロンビアゲリラELNが和平交渉の早期開始を期待

 コロンビアゲリラの第2勢力である民族解放軍(ELN)の最高司令ニコラース・ロドリゲス=バウティスタは12月26日、スペイン・バスコ州のバスコ紙ガラとのインタビューで、年明けにも政府との和平交渉開始を期待する、と述べた。

 ELNはクーバ革命路線を採り1964年から武闘を続けてきた。だがゲリラ第1勢力FARC(コロンビア革命軍)が2012年に政府との和平交渉に入ったため、14年1月から隣国エクアドールで政府との非公式交渉を続けていた。FARCは今年9月、来年3月の和平実現で政府と合意したが、これがELNの和平志向に拍車をかけた。

 ロドリゲス司令は同インタビューで、「交渉議題は既に策定されている。話し合いは公開交渉として行なわれるべきだ」と主張した。だが、「政府軍は(エクアドールでの)非公式交渉が始まるや、軍事攻勢をかけ始めた。寡頭支配勢力はELNの力を殺ごうと狙っているようだ。だが、それにも拘わらずELNは和平交渉する用意がある」と強調した。

 司令はさらに、「まず無条件停戦が実現すれば、交渉は一気に進展する」と展望した。

メキシコ43学生強制失踪事件から15カ月、家族らが抗議の巡礼

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市で教諭養成学校生43人が市警らによって強制失踪させられた事件発生から12月26日で15カ月経った。この日、学生の遺族・家族、学友、教員ら300人は首都大聖堂からグアダルーペ大寺院まで巡礼し、学生らの生還と真相解明を政府に要求した。(43人のうちの2人は、発見された遺骨のDNA鑑定で殺害されたことが判明している。)

 事件解明の鍵を握るのは、イグアラ市駐屯の第27陸軍大隊だが、年明けに同大隊が捜査に応じるかどうかに関心が集まっている。陸軍は国軍であり、同大隊の事件関与が明らかになれば、大統領責任が追及されることになる。

 一方、モレリア州都ミチョアカンでは26日、地元の教諭養成学校生30人の釈放を要求する抗議行進が実施された。同30人は12月7日、教育改革などを求めて自動車道を行進、警察機動隊と衝突した。その際、携行していた「模疑手榴弾」を投げたため、武器密造容疑をかけられ、女子学生22人を含む52人が逮捕された。

 その後、20人が釈放されたが、30人はソノラ州エルモシージョ市の刑務所に収監され、取り調べを受けている。

 抗議行進に参加した家族、教員らは、「偽りの容疑をかけられ拘禁されている」と主張、早期釈放を訴えた。また、イグアラ市で強制失踪に遭った学生43人の生還を訴え、家族らへの連帯を表明した。

2015年12月26日土曜日

チリ首都で「Gミストゥラル文化センター」の拡張工事始まる

 チレのミチェル・バチェレー大統領は12月24日、国立ガブリエーラ・ミストゥラル文化セントロ(GAM)の拡張工事開始式を主催した。Gミストゥラル(1889~1957)はチレの女流詩人で1945年、ノーベル文学賞を受賞、ラ米最初の同賞受賞者となった。この工事は受賞70周年の記念事業。

 GAMは、首都サンティアゴの目抜き、解放者ベルナルド・オヒギンス並木道227番に2010年開場、これまでに500万人を超える入場者があった。

 その建物は、アジェンデ社会主義政権期の1972年、国連貿易開発会議の会場として完成した。だが73年の軍事クーデターで登場したピノチェー軍政は、この建物を政府本部として使用した。クーデター時に大統領政庁ラ・モネーダ宮殿を空爆し炎上させたためだった。サルバドール・アジェンデ大統領は政庁内の執務室で自殺した。

 ミストゥラルは、チレ詩人2人目のノーベル文学賞詩人パブロ・ネルーダ(1904~73)に少年時代から目をかけ、パブロの詩人としての成長に貢献した。

 GAMからさほど遠くないビクーニャ・マケーナ大通り37番地には、2014年11月開館した「ビオレタ・パラ博物館」がある。Vパラ(1917~67)はチレ人カンタウトーラ(シンガー・ソングライター)で、「人生よ、ありがとう」、「なんという胸の痛みだろうか」など数々の名曲を作った。

 ミストゥラル-パラ-バチェレーと続く系譜は、「現代チレの偉大な女性の系譜」である。

 一方バチェレー大統領は23日、国会でその日成立した大学無料教育法に署名、公布した。2016年3月国公立及び私立の大学に進学する学生の半数に当たる約18万人は苦学生で、新法の恩恵に最初に与ることになる。今月27日に願書受付が始まる。
  

 

アルゼンチン:「39年ぶりの対面」は事実でなかった

 亜国軍政期の1976年11月24日ブエノスイアレス州都ラプラタ市で、軍・警察コマンドに急襲され殺害されたペロン派極左モントネロス要員4人のうちの一人の娘で軍政に奪われたクラーラ=アナイー・マリアーニ=テルッジ(当時生後3カ月)を名乗る女性が(2015年)12月24日、「祖母」の元を訪れ、「39年ぶりに再会」と大々的に報じられた。だがノーチェ・ブエナ(クリスマスイヴ)に合わせた偽りだったことがわかった。

 祖母マリーア・チェロビック=デ・マリアーニ(91)の代理人である弁護士が、法廷に判断を依頼したところ、法廷は国立遺伝子試料銀行(BNDG)に照会、その結果、名乗り出た女性は孫娘クラーラ=アナイーでないことが判明した。代理人はナビダー(クリスマス)の25日、この沈痛な事実を発表した。

 その女性はコルドバ州内に住むマリーア=エレーナ・ウェルリ(39)。ことし6月、同州内の民間検査施設で遺伝子検査を受け、76年に殺害されたモントネロス要員ディアナ・テルッジ(当時26、母親)の娘に「99・9%間違いない」と判断された。そこでウェルリはBNDGに照会したが、同銀行は保管試料に基づき血縁を否定した。しかし女性は、その事実を「祖母」と対面した時、言わなかった。

 つまり、女性は半年前から孫娘でないことを知っていたことになる。祖母の息子で孫娘の父ダニエル・マリアーニ(当時28)は77年8月治安部隊に殺害されたが、祖母のDNAと名乗り出た女性のDNAはかけ離れたものだった。

 軍政期に奪われた孫たちを探し続ける「五月広場の祖母たちの会」は「120人目の孫が見つかった」と歓喜したが、一転して落胆した。マリーア・チェロビックも同会創設者の一人で、2代目会長を務めた。

 軍部は76年3月、イサベル・ペロン政権をクーデターで倒した。登場したホルヘ・ビデーラ軍政は周到に用意していた左翼活動家、知識人らの暗殺名簿を基に殺戮作戦を開始。82年の対英マルビーナス(フォークランド)戦争敗北を経て83年に4代の軍政が終わった時、少なくとも3万2000人が殺されていた。日本国籍保持者1人を含む日系人約10人も殺された。

 フォード米政権はビデーラ軍政を支持していた。日本政府もビデーラを訪日に招いた。ビデーラは2013年5月、罪を悔い改めないまま獄中で転倒し死亡した。

2015年12月25日金曜日

キューバ訪問の外国人旅行者数が新記録

 クーバ統計庁は12月24日、今年1~11月来訪した外国人は314万人で新記録となった、と発表した。カナダや欧州からの旅行社が多いが、日本からの旅行者も増える傾向にあるという。

 政府の対外友好機関である人民友好庁(ICAP)は24日、創設55周年を迎えた。この日、パキスタン政府は、2005年の大震災時にクーバ医師団が長期間、現地で治療・診療に当たってくれたのに対するお礼として、米1万5000トンをクーバに贈る、と発表した。

 国営電気通信会社ETECSA(エテクサ)は24日、国内に現在ワイファイサービス地域が58カ所あるが、年内に65カ所に増え、来年には新たに80カ所を新設する、と明らかにした。

 全国700カ所にインターネットサービス所があり、一日15万人が利用している。2013年にインターネットサービスを開始して以来、計720万回アクセスがあった。携帯電話は328万あり、うち120万にはインターネットサービスが付いている、という。

 米国際開発局(USAID)はクーバでツイッターによる洗脳作戦「スンスネロ」を展開して失敗したが、23日、クーバ諜報機関についての事前調査が足りなかったなどと、失敗の原因を認めた。

 共産党機関紙グランマによると、米大リーグはバラク・オバーマ大統領に対し、クーバ人野球選手との契約をしやすくしてほしいと要請している。この種の契約は財務省が管轄しているため、行政権限で解決できると見るからだ。

2015年12月24日木曜日

★★★ラテンアメリカ2015年重要ニュース

 ★伊高浩昭が選んだ「2015年ラ米重要ニュース」(ラ米時間12月23日現在)

1、コロンビア政府とFARCが16年3月期限に内戦終結で合意(9・23)
2、ベネスエラ国会議員選挙で政権党惨敗(12・6)
3、亜国大統領選挙決選で保守・右翼Mマクリ当選(11・22)、12・10就任
4、玖米両国が54年半ぶりに国交再開(7・20)
5、グアテマラ国会がOペレス=モリーナ大統領を事実上解任(9・3)
6、ブラジル国会がDルセフ大統領弾劾手続き開始(12・2)
7、国際司法裁がボリビア・チレ間の海岸領土問題は審理可能と判断(9・24)
8、不正疑惑で混迷のアイチ大統領選挙決選が無期限延期さる(12・21)
9、国際司法裁がコスタ・リカ(CR)とニカラグアのサンフアン河口領土紛争でCR勝訴裁定(12・16)
10、パナマ開催の第7回米州首脳会議に玖首脳初出席、玖米首脳会談実現(4・10~11)
11、Bオバーマ米大統領がベネスエラを「米安保上の脅威」と断定、激しい非難浴びる(3・9)
12、メヒコ麻薬王Jグスマンが再び脱獄に成功(7・11)
13、コスタ・リカで足止めのクーバ経済難民8000人が中米で大問題に(11~12月)
14、パナマ運河第3水路開通が16年4~6月まで延期さる(12・18)
15、カナダ最高裁が米シェヴロン石油にエクアドールへの賠償金支払いを命令(9・4)
16、ベネスエラ・コロンビア間の国境封鎖問題が深刻化(8月以降)
17、ウルグアイ政府が16年から薬局で大麻販売開始と発表(10・1)
18、ローマ法王フランシスコが玖米歴訪(9月)
19、ペルー次期大統領候補一番人気はケイコ・フジモリ(通年)
20、エル・サルバドールの故オスカル・ロメーロ大司教が福者に(5・23)



宇田川彩著『アルゼンチンのユダヤ人』を読む

 風響社のブックレット≪アジアを学ぼう≫別刊9で、「食から見た暮らしと文化」という副題が付いている。60ページ、800円だ。含蓄ある、さまざまな記述が登場する。その一部を紹介する。

 食べ物を分け与えることは、食べ物に本来的に備わっている性質である。他人に食べ物を分け与えないことは、食べ物の精髄を殺すことに等しく、自分に対しても他者に対しても、その食べ物を破壊することになる。

 ユダヤ教には、喜捨という重要な倫理がある。貧者への喜捨は、社会に公正をもたらす。自分、家族、身近な人々以外の人々と食べ物を分かち合うことで繋がりが拡がる。

 ユダヤ人にとり、他のユダヤ人の内臓を体内に移植することは、「適正な食べ物」をとり込むことと同義である。ある学者は、臓器移植は人肉食と原理的に何ら変わらない、と指摘した。

 この本の著者は、ブエノスアイレスを中心に亜国で2年間調査活動した新進気鋭の文化人類学者である。

2015年12月23日水曜日

コロンビアが大麻の医療・科学利用を合法化

 コロンビアのJMサントス大統領は12月21日、大麻の医療・科学使用を合法化する政令に署名した。個人・法人は、国家麻薬理事会(CNE)および保健・社会保障省に申請し、認可を受けて大麻栽培・授受・輸出などが可能になる。

 CNEは、申請を受けてから30日以内に認可の可否を決める。科学利用は、大学、研究所など調査機関に限られる。不正使用は、CNEと国家警察が認可対象を予告なしに査察し、取り締まる。

 薬局は、大麻の加工薬品のみ販売できる。コロンビアでは2012年から、大麻の20g携行が合法化されている。カリブ海岸のサンタマルタ市は最大の大麻密輸港だが、「サンタマルタゴールド」は世界大麻市場で一級品に位置付けられている。

 一方メヒコでは、首都メヒコ市のMAマンセーラ市長(メヒコ連邦地区=DF=長官)が大麻の医療・薬品使用合法化の運動を展開している。このほどメヒコ市大司教区の枢機卿が理解を示し、市長は意を強くしている。

パナマ最高裁がR・マルティネリ前大統領の逮捕を命ず

 パナマ最高裁は12月21日、国外逃亡中のリカルド・マルティネリ前大統領の逮捕を命じた。マルティネリは大統領在任中に犯した公金横領5件、政治家、ジャーナリストら150人の電話盗聴などの容疑で起訴され、検察から禁錮21年を求刑されている。

 マルティネリは「スペル99」という国内最大のスペルメルカード網の経営者で超富裕者だが、金銭に汚いと指摘されてきた。今年1月出国し、マイアミに滞在中。12月11日の公判に出廷しなかったため、最高裁は逮捕命令を出した。

 5年の在任中の4年間マルティネリは、逃亡中だったコロンビア元国家情報局(DAS)長官マリーア・デルピラルを匿っていた。マルティネリは思想的には右翼で、コロンビア極右のアルバロ・ウリーベ前大統領と親しかった。

 パナマでは昨年、フアン・バレーラ大統領が就任、デルピラルは今年コロンビアに追放され、禁錮14年の実刑に処せられた。

27日予定のハイチ大統領選挙決選が無期限延期さる

 アイチ(ハイチ)選管は12月21日、今月27日に予定されていた大統領選挙決選を無期限延期する、と発表した。大統領選挙第1回投票は10月25日実施され、選管は政権党候補ジョヴネル・モイゼ(得票率32・76%)、野党候補ジュドゥ・セレスタン(25・29%)の上位得票者2人が決選に進出する、と発表していた。

 ところがセレスタンをはじめ他の野党候補らから「政府絡みの大規模な投開票時の不正」を指摘され、混乱が拡がっていた。ミシェル・マルテリ大統領は激しい抗議を受けて12月17日、調査委員会を設置する政令を発したが、抗議は収まらなかった。セレスタンは選挙運動を中止し、抗議している。

 「不正」の背後には、マルテリ施政の継続を求める米政府の意向がある。前回選挙でも、不正の結果、マルテリが当選者となった経緯がある。

 規定によれば、新国会は来年1月11日開会、新大統領は2月7日就任することになっている。国連は22日アイチに対し、対話による事態の早期収拾を呼び掛けた。

2015年12月22日火曜日

パナマ運河第3水路開通は来年前半の見通し

 パナマ運河第3水路の建設工事が遅れている。パナマ運河庁(ACP)は2016年1月15日の開通を予定していたが、開通は同年4~6月の第2・4半期になるもようだ。

 ACPのホルヘ・キハーノ長官は12月18日、第3水路太平洋岸の閘門の一つの上部に亀裂が見つかり、その修復工事が来年1月半ばまでかかると明らかにした。第3水路の通航試験は来年4月に予定され、その後6月までに、開通する運びという。

 工事はイタリア企業が率いる企業連合が2007年9月に開始、96%は終わっているという。その過程では工事資金不足で企業連合とACPが対立する事態があり、工期が遅れる原因となった。

 ACPは当初、現行運河開通100周年の2014年8月15日に第3水路の開通を予定していたが、再三延期され、今では「来年前半」となっている。

 一方、近隣のニカラグアでは「ニカラグア大運河」の建設工事が2014年12月から始まっている。その開通は2020年代前半になる模様だが、完成すれば第3水路を備えたパナマ運河の競争相手になると目されている。 

キューバの「永遠のプリマ」アリシア・アロンソが95歳祝う

 クーバのマリーノ・ムリージョ経済相は閣僚評議会で12月21日、同国経済は今年4%成長した、と報告した。同評議会は、2016年度の経済計画を承認した。

 この日、ラウール・カストロ国家評議会議長は、南アフリカ共産党(SAPC)のブレイド・ウンジマンデ書記長を迎え会談した。クーバ軍は1980年代後半、アンゴラ南部で当時の南ア白人政府軍を撃破し、ナミビア独立と南ア・アパルトヘイト体制崩壊を促進した。

 20日には、アリジェリア南西部のティンドゥフにある難民収容所で11月12日から、民主サハラアラブ共和国(RASD)難民に医療手当を施していたクーバ医療派遣団が帰国した。クーバは1970年代半ばから、モロッコに占領された旧スペイン領西サハラで独立を求めて戦うサハラウイ(RASD人民)をアルジェリアと共に支援してきた。

 クーバ国立バレエ団(BNC)のアリシア・アロンソ団長は21日、95歳の誕生日を迎えた。1943年に23歳でバレエ「ジゼル」でデビューして以来、プリマとして国際的に活躍。革命後もクーバに留まり、後年、視力を失ってからもBNCを執り仕切ってきた。「永遠のプリマ」の称号を持つ。

 祝賀会には、国家評議会顧問アベル・プリエト前文化相、玖作家芸術家協会(UNEAC)のミゲル・バルネー会長、BNC団員らが出席した。
 

激しいやりとりを経て、メルコスール首脳会議閉会

 アスンシオンで12月21日開かれた南部共同市場(メルコスール)の第49回首脳会議は同日、共同声明を発表して閉会した。声明は、地域統合促進、太平洋同盟(AP、チレ、ペルー、コロンビア、メヒコ)との協力関係強化を謳っている。

 声明はまた、アスンシオンで2005年に調印された「人権促進・擁護規約議定書」を祝福。「自由が発展と統合に不可欠の要素」指摘した。さらに、パラグアイ、ボリビアの両内陸国に大西洋、太平洋への接近路建設などの便宜を図る配慮を盛り込んだ。

 このほか、玖米復交を祝福し、米国に対玖経済封鎖解除を求めた。シリア内戦にも触れ、政治解決を呼び掛け、難民への連帯を表明した。半年交代の輪番制議長国は、パラグアイからウルグアイに移った。

 声明採択に先立つ首脳会議では、議長を務めたパラグアイのオラシオ・カルテース大統領が演説で、「共同市場実現という初期の理想に戻ろう」と訴え、関税障壁が依然80もあると指摘した。

 ブラジルのヂウマ・ルセフ大統領は、欧州連合(EU)との自由貿易協定(FTA)交渉促進や、コロンビア、クーバなどとのFTA交渉を手掛けるよう求めた。

 首脳会議初参加のマウリシオ・マクリ亜国大統領は、ベネスエラに「政治囚釈放」を要求、同国に「民主促進」を、国会議員選挙で勝った同国野党陣営に「慎重さ」を求めた。

 これに対し、ベネスエラ大統領代行のデルシー・ロドリゲス外相は、「マクリ大統領、あなたは内政干渉しています」と切り返し、獄中にいるベネスエラの極右政治家が昨年カラカスで街頭暴動を煽った首謀者だった事実を強調、テロリズム加担者を釈放しろというのかと激しく詰め寄った。

 また、マクリ政権が亜国「五月広場の母たちの会」のエベ・デ・ボナフィニ会長を法的に追及している事実を挙げ、「二重基準だ」とマクリを批判した。

 同外相は、「マクリが就任早々、投獄されてきた亜国軍政期の人権犯罪責任者らを恩赦する政令を発した」と述べ、マクリを攻撃した。だが、そのような政令を発した事実はなく、亜国側は事実でないと反論した。

 外相は、暴動扇動の政治家が「政治囚」と意図的に宣伝され報道されてきた状況を逆手にとって、亜国大統領の施政に関し「意図的に政令発言をやってのけたのではないか」と解釈えきる。

 「加盟過程にある国」という資格を持つボリビアのエボ・モラレス大統領は、「域外からの資源価格操作などからラ米・カリブを守るため、多民族大陸国家を創設しよう」と訴えた。

 協賛国チレのミチェル・バチェレー大統領は、「チレは1996年に最初の協賛国になった。チレの対外投資の48%(400億ドル)はメルコスール向けだ。チレのメルコスールとの貿易は昨年700億ドルに達し、チレにとり第4位の貿易相手になっている」と述べた。

 新議長国ウルグアイのタバレー・バスケス大統領は、「(EUだけでなく)他の経済ブロックとの対話を進める」と抱負を語った。
 
 首脳会議には、協賛国ガイアナのモーゼス・ナガムートゥー首相も出席した。
 


2015年12月21日月曜日

メルコスール首脳会議にベネズエラ大統領欠席へ

 南米の関税同盟・南部共同市場(メルコスール)は12月20日、パラグアイのアスンシオンで外相・経済担当相会議を開き、21日の第49回メルコスール首脳会議で採択される最終宣言の草案を策定した。

 会議の議長を務めたパラグアイのアラディオ・ロイサガ外相は、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は内政にかかりきりのため首脳会議に出席せず、デルシー・ロドリゲス外相が代行する、と明らかにした。

 マドゥーロ欠席は、亜国で今月10日就任した保守・右翼路線のマウリシオ・マクリ大統領が、就任前に「ベネスエラ民主主義の欠陥」を指摘し、メルコスールの「民主条項」適用を唱えていたことと無関係ではない。これに対しマドゥーロは、マクリを「極右主義者」と扱き下ろしていた。

 同条項が適用されると、メルコスール加盟資格が停止されることになる。過去に、「国会クーデター」でフェルナンド・ルーゴ大統領を不当に弾劾したパラグアイが資格停止に遭ったことがある。

 だがマクリ政権はその後、メルコス-ル首脳会議で民主条項適用を提案することはないと表明した。この首脳会議はマクリにとり最初の多国間外交の舞台となり、しかもそれは地元の南米南部中心の機構であり、会議をぶち壊すのを控えたものと受け止められている。また、マクリのような右翼路線は少数派だからだ。

 ロドリゲス・ベネスエラ外相は20日の会議で、メルコスールと、米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)、およびカリブ共同体(カリコム)との広域経済圏結成を呼び掛けた。

 首脳会議には、ベネスエラ以外のパラグアイ、ブラジル、亜国、ウルグアイの加盟4カ国、加盟手続き中のボリビア、協賛国チレの計6カ国大統領と、ベネスエラ外相が出席する。
 

スペイン総選挙:2大政党支配体制崩れる

 スペイン国会下院350議席を争う総選挙が12月20日実施され、予想通り、政権党PP(国民党、保守・右翼)が過半数を大きく割り込む123議席となり、第一党の地位は維持したが敗北した。

 前政権党PSOE(ペソエ=労働社会党、略称・社会党)は過去最低の90議席に落ち込んだ。代わって急台頭したのが総選挙初参加のポデモスで、一気に69議席を獲得した。第2保守党「シウダダーノス(市民)」は40議席に留まった。

 この結果は、1975年の独裁者フランシスコ・フランコ死後40年の民主化過程の多くの期間を占めてきたPSOEとPPの2大政党制が崩れたことを意味する。

 新国会は来年1月13日召集される。それまでに新内閣結成のための多数派工作が展開される。国王はまず第一党PPのマリアーノ・ラホーイ党首(現首相)に組閣を打診する。だがPPと「市民」を合わせても163議席で、過半数176議席に届かない。

 そこで考えられるのが、PSOE、ポデモス両党、およびカタルーニャ2党(計17議席)、バスコ民族党(PNV、6議席)、統一左翼(IU、2議席)など小政党による中道左翼・左翼・民族主義連合政権だ。これであれば、180議席を上回ることになる。

 もう一つの可能性は、PPとPSOEの「大連立」だが、これは両党それぞれの支持者に対する「裏切り」となり、実現性は乏しい。

 どのような組み合わせの政権ができても安定性に欠け、1年ないし1年半内に新たな総選挙が実施される公算が大きい、と見られている。

 PPは、長引く経済不調、ラホーイら幹部らの報酬不正受領事件、右翼的社会・文化政策などが災いし後退した。PSOEは、進歩主義よりも保守主義に傾斜したと批判され、ポデモスの躍進を許した。

 

2015年12月20日日曜日

LATINA誌「ラ米乱反射」はアルゼンチン右傾化分析

◎最近の伊高浩昭執筆記事

★月刊LATINA誌1月号(2015年12月20日刊)

☆「ラ米乱反射」連載第117回 「亜国右旋回、マクリ新自由主義政権が誕生  ベネズエラ国会でも保守・右翼が多数派に」

☆書評:立石博高編著『概説 近代スペイン文化史 18世紀から現代まで』(ミネルヴァ書房、3200円)

☆松枝愛執筆書評:伊高浩昭著『われらのアメリカ万華鏡』(立教大学ラテンアメリカ研究所刊行、非売品)

ボリビアのエボ・モラレス大統領が初当選10周年迎える

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月18日、初当選10周年を迎えた。2006年1月23日政権に就いてから間もなく10周年を迎える。

 この日、大統領は地元コチャバンバ市の競技場で4万5000人の支持者を前に、2019年の大統領選挙に4選を目指して出馬する意向をあらためて表明。来年2月21日実施の、大統領連続再選規定改正の是非を問う国民投票での支持を訴えた。

 大統領は19日にはタリーハ市で、国際通貨基金(IMF)批判を展開、IMIFは過去20余年、新自由主義の害悪をばらまいた責任を考察すべきだ、と述べた。モラレスはまた、IMFは資本主義の基盤であり、異なる基盤を持つボリビアには介入するな、と突き放した。

 一方、ボリビア政府は19日、2013年12月20日に中国で打ち上げられたボリビア初の通信衛星「トゥパック・カタリ」は今年1900万ドルの通信サービスの売り上げを記録、来年は2400万ドルとなる、と明らかにした。

 この衛星は中国製で打ち上げを含め3億200万ドルかかった。うち85%を中国、15%をボリビア政府が融資した。政府は、この衛星の通信寿命は15年で、建設・打ち上げ費用を除いても総額2億ドルの利益をボリビアにもたらす、と予測している。

 サービスは国内の官民企業に売られているが、政府は南米近隣諸国への販路を開こうとしている。  

キューバ難民問題めぐりコスタ・リカが中米政治会合参加を停止

 コスタ・リカ(CR)のルイス・ソリース大統領は12月18日サンホセで記者会見し、中米統合機構(SICA=シカ)の政治会合参加を無期限停止する、と発表した。

 大統領は同日サンサルバドールで開かれたSICA首脳会議に出席したが、CRが切り出した、米国行き希望のクーバ人経済難民問題の実効ある解決策を会議が真剣に討議しなかったとして、参加停止に踏み切った。だがCRはSICAの経済、通商など他分野には従来通り参加する。

 CR国内には、クーバ人難民がニカラグア国境地帯に5989人、パナマ国境地帯に2053人がいる。ソリース大統領は「中米3国が解決を阻んでいる」と非難したが、それは同難民の入国と領内通過を認めないニカラグア、グアテマラ、ベリーズを指す。

 大統領はSICA会議で、問題解決のため中米に「人道回廊」を開こうと訴えたが、グアテマラは「(米国への入り口である)メヒコが受け入れを保障しなければ我が国に留まってしまう。ただでさえ今年10万人を超える難民がグアテマラを通過した」と異議を唱え、クーバ人が(政治難民でなく)経済難民である点も共感を得にくいとの見方を示した。

 ニカラグアは会議で、米政府が米領に足を踏み入れたクーバ人に定住権を与える「キューバ調整法」を維持しているため難民問題が起きるとして、「CRから米国へのクーバ人空輸」を提案したが、会議は議題として取り上げなかった。

 CR大統領は、今後はクーバ人経済難民に査証を発給しない、と表明した。問題の背景には、玖米復交で「キューバ調整法」が廃止されるのではないかとの観測が、正規の米移住手続きを待てないクーバ人の間に拡がったことがある。この種のクーバ難民は今年4万5000に達している。

2015年12月19日土曜日

キューバ議長が対米正常化深化を前に主権・独立堅持強調

 クーバのラウール・カストロ国家評議会議長は12月18日、全閣僚と政府高官らを前に演説、「クーバは対米国交正常化達成に際しても独立を失わず、独自の経済・政治・社会制度を選ぶ権利を失うこともない」と強調した。

 議長はまた、「いかなる者もクーバに独立の大義を捨てさせようと企図してはならない。クーバ人民が、過去半世紀に亘って闘ってきた原則と理想を捨てることはあり得ない。独自の制度を選ぶ権利は、いかなる内政干渉もなしに尊重されねばならない」と述べた。

 この発言は、バラク・オバーマ米大統領が17日の国交正常化合意1周年に際し、来年内の訪玖希望を新たに表明、米国の願うクーバ民主化促進のため訪玖を役立てたいとの意志を打ち出したのに対する牽制だ。

 議長はさらに、「クーバは主権と独立を相互に尊重しつつ、過去の玖米関係史と異なる両国関係を構築する用意がある。クーバは正常化達成を前に、米国が過去の対玖政策をすべて破棄することに執着する」とも述べた。同時に、経済封鎖解除、グアンタナモ基地返還、「キューバ調整法」廃止などの重要懸案に変化がないことを指摘した。

 正常化合意1周年を機に在米クーバ系社会で実施された世論調査では、56%が正常化に賛成。経済封鎖解除には53%が賛成している、との結果が出た。

 一方18日、イタリアMSCの豪華クルーズ船(最大乗客数2600人)がハバナ港に入港した。この船はジェノヴァを11月下旬出航、クーバの他、ジャマイカ、ケイマン、コスメルなどカリブ海の観光地をめぐる。

中米首脳会議がキューバ人難民問題で成果なく終了

 中米統合機構(SICA、加盟8カ国)は12月18日サンサルバドールで第46回首脳会議を開いた。だが11月15日以来コスタ・リカ(CR)北部のニカラグア国境地帯で足止めを食らっている米国行き希望のクーバ人経済難民6000人の処遇をめぐり紛糾、具体的成果のないまま終了した。

 ルイス・ソリースCR大統領は、SICAが同クーバ人問題を正式議題にしないことに不満で、首脳会議の場から中途退場した。

 会議にはエル・サルバドール(ES)、グアテマラ、オンドゥーラス、CR、ドミニカ共和国の大統領、パナマ副大統領、ニカラグア副外相、ベリーズ首相代理が出席した。

 同経済難民の入国と領内通過を拒否するニカラグアの副外相は、米領土に足を踏み入れたクーバ難民に市民権、永住権を与える「キューバ調整法」を米国が維持しているために今回の問題も起きているとして、米政府に解決責任がある、と強調。その立場を記した政府声明を首脳会議会場で発表した。

 SICAは21日サンサルバドールで、問題解決に向けて実務者会議を開くことを決めた。SICAの半年交代の輪番制議長は、サルバドール・サンチェス=セレーンES大統領からオンドゥーラスのフアン・エルネンデス大統領に交代した。 
 
 

チリ元軍政高官に左翼青年抹殺で実刑判決

 チレ法廷は12月18日、大学生で左翼武闘組織「革命的左翼運動」(MIR)要員だったイスマエル・チャベス=ロボスを拉致、拷問し失踪させた元将軍セサル・マンリケスら元国家情報局(DINA)高官4人に禁錮13年の実刑判決を言い渡した。

 当時22歳だったチャベス青年はDINAに抹殺されながら、翌1975年、DINAが流した「MIRの内輪もめで要員119人が惨殺された」との偽りの情報の死亡者名簿に掲載されていた。

 DINAは、当時のピノチェー軍政に抵抗するMIR要員を「コロンボ作戦」で虐殺しながら、「内輪もめ」をでっちあげたわけだ。

 法廷は、他の39人に禁錮10年、31人に4年をそれぞれ言い渡した。また国家に対し、チャベスの遺族に賠償金1億5000万ペソ(約21万ドル)を支払うよう命じた。

 ピノチェー軍政期に3225人が殺害されたが、うち1192人は遺体が見つかっておらず「行方不明」扱いともなっている。 

2015年12月18日金曜日

ブラジル最高裁が大統領弾劾の是非を上院に委ねる

 ブラジル最高裁は12月17日、国会下院のエドゥアルド・クーニャが今月初めに下したヂウマ・ルセフ大統領弾劾裁判手続き開始の決定を非合法として、手続き続行の是非は上院の決定に委ねることを6対3で決めた。

 大統領弾劾のような重要事項を下院だけで決めるのは正当ではない、と最高裁は判断している。

 最高裁はまた、クーニャ議長が選んだ野党下院議員ばかり65人の弾劾委員会を無効とした。さらに、上院が弾劾裁判開始を決めた場合でも大統領は180日間、職務を離れるだけでよい、とする判断を下した。

 ブラジルは間もなく年末年始休暇およびカルナヴァルの季節を迎えるため、上院の弾劾に関する審議はカルナヴァル明けの2月になると見られている。

 下院の弾劾手続き決定は、巨額の収賄容疑で窮地に陥っているクーニャ議長と、過去4回連続で大統領選挙に敗れた保守・右翼政党PSDB(伯民社党)が連携しての労働者党(PT)政権潰しの策謀と内外で受け止められている。 

2015年12月17日木曜日

キューバ米正常化合意1周年、民間航空機乗り入れで合意

 玖米両国首脳が国交正常化合意を発表してから12月17日で1年経つ。この日、民間航空機の相互乗り入れを決める民間航空協定交渉の妥結が発表された。またバラク・オバーマ米大統領は、米議会に対し対玖経済封鎖解除をあらためて要請した。2月から断続的に続けられていた両国間の水路交渉も17日、ワシントンで終了した。

 玖外務省は17日、1周年に際し声明を発表したが、内容は、対米交渉を執り仕切ってきたクーバ外務省のフォセフィーナ・ビダル米国局長が16日、過去1年を振り返って発表した談話とほぼ同じだった。

 局長は、両国間の民間航空協定交渉に重要な進展があったと明かし、環境保護、海域保護、調節郵便制度などの合意に続く成果となる、と述べた。

 だが、米ドルによる対外決済、米民間金融機関接近、往復通商関係などは依然クーバに認められていない、と指摘した。局長は、オバーマ大統領の権限には限界があり、対玖経済封鎖解除などは米議会の決定次第であると認識していることをあらためて表明した。

 封鎖解除のほか、110年以上も米軍占領下にあるグアンタナモ基地の返還、対玖破壊活動防止、不法移民を促す「クーバ調整法」などの重要問題の解決には進展がない、と局長は強調した。

 オバーマ政権は9月、対敵通商法の対玖適用延長を決め、10月には国連総会での経済封鎖解除決議にイスラエルとともに反対した。

 同法の及ぼす影響については15日ハバナで、ラウール・カストロ議長と、米国渡航を求めるクーバ人6000人を抱えるコスタ・リカのルイス・ソリース大統領が協議した。過去1年間にクーバ人4万5000人が渡米の可能性を求めて密出国している。

 ビダル局長はまた、この1年は人権問題などで双方の立場の隔たりが鮮明になった時期だった、と述べた。だが大使館再開、首脳会談、外相・高官会談、米議員来訪、グアンタナモ基地境界での両国軍人同士の交流維持などの成果があった、と認めた。

 オバーマ大統領が2016年内の訪玖計画を打ち出していることについては、歓迎するが内政干渉は受け入れない、と強調。「節度ある共存」関係を樹立するのがクーバの目的だと述べた。

 米議会下院では16日、共和・民主両党議員が、対玖関係に対応する作業部会を結成した。局長は、これをも進展として評価した。

 一方、米国務省当局者は17日、通貨一本化、民間企業による直接雇用制度確立、政治・社会・経済の活動自由化促進をクーバに求めた。民間部門支援や人民同士の関係強化への関心も表明した。クーバ人の雇用は、国営斡旋会社を通じて行われてきた。

 民間航空協定合意により、これまで両国間でチャーター便を運航してきたアメリカン、ウナイテッド、ブルージェットなど各社は定期便運航に関心を示している。

 だが米国人一般旅行者の自由訪玖が解禁されていないこと、クーバの観光客大量受け入れ態勢が整っていないこと、出入国管理上の問題などから、定期便運航が急速に進むとは受け止められていない。

 クーバは、在米クーバ人30万人の帰国を禁止している。またクーバ航空機は米国で接収される恐れがあるため、乗り入れに踏み切れない。因みに、外国人訪玖観光者は今年前半230万人で、前年比30万人増。

 米ドルにありつけないクーバ庶民の生活は依然、楽ではない。だがテマス誌のラファエル・エルナンデス編集長は、「玖米関係は大きく変わった。長らく敵対関係をとっていた米国が政策を一変させ、相違点を対話で解決するようになったからだ」と指摘している。

 スペインはパリクラブ決定の一環として、対玖債権のうち18億8000万ドルをこのほど帳消しにした。

 

ブラジル全国でルセフ大統領支持行動実施

 サンパウロ、リオデジャネイロ、ミナスジェライスなどブラジル26州の18州都を含む主要70都市で12月16日、国会下院で弾劾される可能性に直面しているヂウマ・ルセフ大統領を支持する広範な集会と行進が決行された。参加者数はまだ集計されていない。

 参加したのは、労働者党(PT)政権を支持する諸団体。労働者単一中央連盟(CUT)、ブラジル労働者中央連盟(CTB)、土地無し農村労働者運動(MST)、家無し労働者運動(MTST)、労組間機構(インテルシンヂカル)、全国学生連盟(UNE)など。

 この日の行動は、弾劾手続き開始を決めたエドゥアルド・クーニャ下院議長の解任も要求した。当局はこのほど、汚職容疑がかけられているクーニャ議長のリオ事務所を家宅捜査した。これは、政府による報復と見られている。

 一方、ルセフ大統領は16日、ブラジリアでの国軍将官を集めた式典で演説、ブラジルは人民を守る国軍を必要としていると述べ、民主擁護と併せて国軍の協力を訴えた。
 

アルゼンチン政府が為替管理制度を廃止

 亜国のマクリ新政権は12月16日、外為二重相場制度を廃止、17日から自由変動相場制にすると発表した。個人・法人は月200万米ドルまでのドル買いが認められる。

 16日現在の相場は公定交換率が1ドル=9・84ペソ、並行相場(闇相場)が同14・25ペソだった。為替一本化で、公定価値が切り下げられる形で実勢が反映されることになる。インフレ加速が予想されている。

 マウリシオ・マクリ大統領は16日、ウラディーミル・プーチン露大統領と電話会談し、国連、G20など多国間機関での外交協力、通商、麻薬取締り、テロリズム対策などについて話し合った。

 一方、検察は16日、「五月広場の母たちの会」のエベ・デ・ボナフィニ会長の発言を有罪と判断、捜査を開始した。同会長は11月末、大統領就任直前のマクリを「敵」と位置付け、就任翌日の12月11日に首都で「抵抗行進」をするよう呼び掛けた。

 検察は、これを「集団暴行罪」および「治安撹乱罪」で起訴可能と捉えた。世論は、マクリ政権による反対派人権団体への弾圧が始まった、と受け止めている。

 同「母の会」は国家予算で運営され、「労働大学」などを維持してきた。だが予算打ち切りの公算が大きくなっている。

国際司法裁がサンフアン河口紛争でコスタ・リカ勝訴の裁定

 国際司法裁判所は12月16日、ニカラグア(ニカ)とコスタ・リカ(CR)の国境河川サンフアン川河口のCR領ロス・ポルティージョス島北西部(ニカ名ハーバーヘッド=港頭)の2・5km2の土地をCR領と認めた。オルテガ・ニカ政権は裁定に従うと表明した。

 カリブ海に注ぐサンフアン川河口にはロス・ポルティージョス潟湖があり、「港頭」は潟湖に突き出している。ニカ政府は2010年、同地に軍隊を派遣し、「港頭」をロス・ポルティージョス島から切り離す形で「浚渫」を進めていた。

 「浚渫」路が新しいサンフアン川河口になれば、その左岸(西側)はニカ領となるとの計算からだった。19世紀の条約で同河口左岸がニカ領、右岸がCR領と規定されているからだ。

 2010年当時のチンチージャCR政権は国際司法裁に提訴、今回の裁定となった。司法裁は、ニカ政府に対し、「浚渫」工事がCR領に及ぼした自然破壊などに関し賠償金の支払いも命じた。オルテガ政権は、ソリースCR政権と話し合うと表明している。

 ニカラグアは数年前に同司法裁の裁定でコロンビアから広大な領海・経済水域を獲得しており、今回、素直に裁定に従った。

 因みに、「浚渫」工事の責任者は、ニカラグア革命の英雄の一人、エデン・パストーラ(コマンダンテ・セロ)だった。

2015年12月16日水曜日

エルマンノ・オルミ監督の長編「木靴の樹」を観る

 イタリア映画の巨匠エルマンノ・オルミ監督(83)が1978年に制作し、カンヌ国際映画祭最高賞パルムドールをはじめ数々の映画賞を獲得した『木靴の樹』を試写会で観た。187分の一大長編だ。

 監督の生地であるイタリア北部ロンバルディア州ベルガモの田園が舞台で、時代設定は19世紀末。悪代官を彷彿させる万能の地主の下で虐げられて働く貧しいの農民4家族の喜怒哀楽と過酷な運命を描く。

 彼方の山脈まで続く広大で美しい田園の四季、絵画の「落ち穂拾い」や「種まく人」を想起させる人々など、情景描写が素晴らしい。だが家畜のガチョウや豚を殺し料理する残酷なリアリズムも映し出される。

 封建的風土で農奴のように生きる人々の実存を見る。現代に生きる私たちは、時空を超えて、彼らに私たちの過去を見る。さらに現在も苦境から解放されていない世界各地の無数の人々の存在に思いを馳せる。だから共感できるのだ。

 制作から38年、今も新しいのは、作品が人間を深く描き、「古典」となっているからだ。

 ★2016年3月26日(土)から、東京・神田神保町の岩波ホールで公開され、順次全国展開する。必見の名作!

コロンビア政府とFARCが犠牲者賠償と責任者断罪で合意

 ハバナで内戦終結のための和平交渉を続けているコロンビア政府と、ゲリラFARC(コロンビア革命軍)は12月15日、和平議題のうち妥結が最も困難と見なされてきた「内戦人道犯罪などの被害者・犠牲者への賠償と正義(法的断罪)」で合意が成立した、と発表した。

 5項目の「統合的制度」合意は、①真実究明委員会設置②行方不明者捜索特別部隊編成③和平特別法制(JEP)制定④統合的賠償制度確立⑤内戦人道犯罪を繰り返さない保障-。

 JEPは9月23日の和平合意で決まっていたが、人道犯罪に直接・間接的に関与した政府治安部隊とFARCの双方の当事者も断罪の対象と明記されたのが新しい。

 この点で譲歩したFARCは、政府軍の補完勢力だった極右殺戮部隊パラミリタレスの「解体・断罪」を勝ち取った。

 2012年に始まった和平交渉で、農地、政治参加、麻薬の3議題に次ぎ、今回の賠償が合意された。残るは、FARCの武装解除、復員、検証を含む「最終停戦」だ。

 一方、コロンビア国会は14日、和平合意承認の是非を問う国民投票実施、およびJMサントス大統領に和平合意実施のため政令を発する特権を与える法案を可決した。下院は可決済みで、憲法裁判所の合憲性の確認作業を経て大統領が署名すれば発効する。

 フアン・クリスト内相は、2016年前半に法的整備が整えば、その後に国民投票が実施されると展望した。サントスは、「コロンビアは来年、戦争のない国として夜明けを迎える」と語った。

 サントスは15日カリ市での第4回コロンビア・エクアドール(赤道国)合同閣僚会議にラファエル・コレア赤大統領とともに出席、アンデス共同体のコロンビア、ペルーの先進両国が欧州共同体(EU)と結んでいる特恵関税を含む多目的協定への赤国加盟を支持すると表明した。サントスはまた、赤国は、コロンビア、ペルー、チレ、メヒコで構成する太平洋同盟(AP)の加盟候補国だと指摘した。

 両国合同閣僚会議では、治安、防衛、基礎構造、教育、通商、環境、スポーツなどで両国統合的な協力関係を樹立することで合意した。

ベネズエラ大統領が革命体制強化方針を発表

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は12月15日、ボリバリアーナ革命体制強化のためとして、①政策上の過ちの検証②野党勢力による国家民営化の脅威に対抗するため街頭で平和的蜂起決行③革命過程の政治的・人民的復興-の3方策を実行すると明らかにした。

 大統領はまた、これまでのチャベス派2代政権下で、電気通信は国民の88%にまで拡充、基礎医療は同80%に達した、と施政の成果を讃えた。

 だが15日、ベネスエラ原油の国際価格は1バレル=29米ドルに下がったと前置きし、歳出資金確保が一層困難になりつつある状況を指摘した。

 一方、NYT紙によると米検察は、ベネスエラのボリバリアーナ国家警備隊(GNB)のネストル・レベロル総司令官と、同国麻薬取締機関のエディルベルト・モリーナ幹部の2人を麻薬取引関与罪で近く起訴する方針を固めた。

 因みに、マドゥーロ大統領夫妻の親類縁者2人が11月ハイチで麻薬犯罪で逮捕され、身柄を米国に送られ収監されている。
  

アルゼンチン新政権が人権政策支出削減に着手

 今月10日に新自由主義経済路線のマクリ保守・右翼政権が発足した亜国で、早くも人権・社会政策の後退が始まった。軍政期(1976~83)に犯された夥しい数の人道犯罪の現場を象徴する旧海軍機会学校(ESMA)=現「記憶・人権空間」=で建物の修復・維持作業に携わってきた労働者2000人に15日、18日をもって解雇するという通告がなされた。

 この作業は、ペロン派左翼のフェルナンス前政権下で、社会開発省、人権庁、国立ブエノスアイレス大学建築・設計・都市計画学部(FADU)が共同で進めてきた「アルヘンティーナは働く」計画に基づく事業の一つだった。

 旧ESMAはブエノスアイレスのリベルタドール大通り8151番地にあるが、解雇通告を受けた労働者のうち500人は15日、同施設前で抗議行動を展開、「政府の不当な決定」を訴えた。

 新政権のへルマン・カラバーノ法相は14日、旧ESMAを視察、人道犯罪被害者の代表的組織である「五月広場の祖母たちの会」のエステラ・デ・カルロット会長に会い、「人権政策継続」を伝えている。法相は、「忘却・沈黙に反対し責任者特定と正義を求める息子・娘たちの会」代表とも会った。その翌日の解雇通告ゆえに、不信感が拡がっている。

2015年12月15日火曜日

未成年者だけで1万人が2カ月間に米国に越境

 米墨国境3200kmを監視する米当局は12月14日、今年10~11月に同国境を不法に越境し拘禁された、親など成人を伴わない未成年者は1万588人に達した、と発表した。昨年同期比106%増という。

 また、同じ期間に密入国し拘禁された家族は、1万2505家族だった。未成年者も家族も多くはグアテマラ、エル・サルバドール、オンドlクーラスなど中米諸国民。

 拘禁された人々は、国境地帯の米国側の収容所で一定期間保護された後、出身国に送還されることが多い。
 

日本含むパリクラブがキューバ債権85億ドルを帳消し

 パリクラブは12月14日、対玖債権利子分85億米ドルを棒引きすると発表した。1980年以来、クーバは返済できずにいた。クーバは債務元本26億ドルだけを18年かけて返済することになった。

 最大債権国はフランスで、利子分40億ドルを帳消しにした。元本は4億7000万ドルで、うち2億4000万ドルはクーバが現金で返済し、残りはクーバ国内での開発投資資金に回される。

 パリクラブの対玖債権国は日本、カナダおよび欧州12カ国の計14カ国。クーバは1986年に返済停止に踏み切り、91年末にソ連が消滅してからは返済不能に陥っていた。

 米国は、対玖経済封鎖を敷いてきたため、債権国には含まれていない。その米国のバラク・オバーマ大統領は14日、来年の訪玖希望をあらためて表明、数か月内に決めると述べた。だが大統領は、反体制派とも会うとし、「私はクーバの現状維持を強化するため訪玖はしない」と強調した。

 マクリ保守・右翼政権になった亜国のスサーナ・マルコーラ外相は14日、オバーマ大統領がマクリ大統領への祝電で訪亜の可能性を示唆した、と明らかにしており、訪玖と訪亜が同時期になる公算が出てきた。

 米玖間での問題点の一つは、米国が1966年から施行してきた、クーバ難民流出を促す「クーバ調整法」の扱い。同法が有効であるため、国交再開後も米移住を願うクーバ人の密出国が絶えない。同法が、米領土に一歩踏み入れたクーバ人には1年内に定住許可を与える、としているからだ。

 最近、6000人のクーバ人がエクアドールに渡り、そこから北上してコスタ・リカ(CR)に到着、だがニカラグアが入国および国内通過を認めないため、6000人はCR国内で足止めを食らい、「難民問題」化している。13日ハバナ入りしたCRのルイス・ソリース大統領は15日、ラウール・カストロ議長と「6000人問題」で話し合う。

 玖米間では11日、航空郵便・小包輸送再開が決まった。8日からはハバナで、相互に主張する賠償問題について話し合っている。クーバは経済封鎖による被害8337億ドルの賠償を要求。米国は、米市民6000人が要求している、クーバ革命後に接収された米資産総額80億ドルの賠償を求めてきた。

 イタリアのMSCクルーズ社は今月18日、クルーズ船をハバナに入港させる。米カーニヴァル社は、経済封鎖緩和の動きを横目に、来年5月のハバナ入港を目指している。日本のNGOピスボートも来秋の入港を予定している。

 クーバ蹴球協会(AFC)は14日、近日中にクーバ人サッカー選手の在外活動のための交渉を開始する、と明らかにした。

 クーバにとって深刻なのは、ベネスエラ政権党が国会で野党連合MUDに絶対多数議席を握られたことで、同国からの原油優遇供給が止まる可能性があることだ。MUDは対玖優遇供給停止を公約している。

 一方、シンガポール法廷は14日、2013年7月パナマ運河カリブ海側のコロンで発覚した北朝鮮貨物船のクーバ軍旧式武器類の無届輸送事件の責任は、この貨物船を運航していた北朝鮮の海事会社OMMを顧客とするシンガポールのチンポー海運会社に帰するとの判断を下した。

 同社は、OMMに対し、積荷をパナマ運河通航に際し、正直に申請するよう求める義務を怠ったという。またチンポー社は、国連や米国による北朝鮮への経済制裁を認識していたとされる。同社が、北朝鮮の核開発計画に関与した可能性もあるという。
  
 


 

2015年12月14日月曜日

閣僚人事で<背水の陣>敷くか、ベネズエラ政権

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は12月12日、カラカス市内の陸軍ティウーナ要塞で演説、政府や政府機関で要職にある軍人たちに対し、これまでの貢献を讃えると同時に、兵営に復帰し国防に専念するよう求めた。

 国軍の将軍、佐官らの多くは、陸軍中佐だった故ウーゴ・チャベス大統領に起用され、政府の要職に就いたが、マドゥーロ現政権になってからも、その状態が続いていた。「脱軍人」は政府の「文民化」強化と、軍内部の規律強化を図るためだ。

 大統領はまた、チャベスが始めたボリバリアーナ革命(解放者シモン・ボリーバルの遺志を継ぐ変革政策)の継続、主権防衛、人民のための国営石油会社PDVSA運営への覚悟を軍人たちに訴えた。

 6日の国会議員選挙での政権党惨敗を受け、全閣僚は辞任した。日本時間14日正午、現地から届いた情報によると、新国防相には国会議長ディオスダード・カベージョが就任する見込み。カベージョも陸軍士官出身で、チャベスの腹心の一人。現政権で大統領に次ぐ実力者だ。

 外相には、米州諸国機構(OEA)でチャベス路線外交を守ってきた外交官ロイ・チャデルトンが有力。またチャベスの娘2人も登用される可能性がある。<背水の陣>を敷いて難局に対応する大統領の決意を表す人事になるだろう。新閣僚の顔ぶれは15日発表される見込み。

 今選挙で政権党は42%の投票があった。圧勝した野党の「民主連合会議」(MUD=ムドゥ)は、これを侮れない。政府と国会に「ねじれ」が生じたが、正常な施政には対話が不可欠だ。

 MUDが大勝に酔い驕り、建設的言動をとらなければ、早晩支持を失うこともあるだろう。なぜなら、有権者の多くは、MUDを積極的に支持したのではなく、政府の経済政策の失敗を糾弾して野党に票を与えただけだからだ。

 MUD内の極右勢力は、一気に政治・社会の撹乱工作に出て、来年4月以降、大統領罷免の是非を問う国民投票に持ち込もうという戦略を描いているようだ。

 だが、チャベス派政権下で17年間、手厚い社会保障の恩恵に浴してきた人民大衆は、簡単に財界・米国寄り姿勢の強いMUDを支持し続けることはないだろう。MUDにとっては、どこまで人民主義政策を採り入れることができるかが政権奪取の鍵とる。

 一方、政府は批判の的である官僚主義、腐敗、不効率、犯罪激化に早急に対応しなければ、支持挽回は覚束ない。マドゥーロ大統領は敗北直後、「民主でなく反革命の勝利だ」と述べたが、このような発想では状況に対応できまい。

 チャベスとマドゥーロの「革命の師匠」を自他ともに認めるフィデル・カストロ前玖議長は12月10日付の公開書簡で、チャベス路線が内外で果たしてきた多大な人民主義政策の実績を讃え、マドウーロを励ました。 
 

ペルーアンデス上空をドローンが飛んでゆく

 アンデス山脈上空の大気汚染を調査しているペルーの科学者チームは、極寒の標高5000mの高度での飛行を可能にするドローン用電池の開発に成功、これを備えたドローンが観測活動で活躍している。

 フランシスコ・クエージャル教授らのチームが開発した電池を搭載したドローンは、強風、雨雪にも耐えて20分は高度飛行ができる。超軽量のセンサーを搭載、アンデス山頂上空で窒素2酸化物、硫黄2酸化物、一酸化炭素、硫黄、オゾンなどの分量を観測している。

 ペルー北部のカハマルカ近郊にあるヤナコチャ金山(標高4200m)上空の汚染度、クスコ近郊のスユ・パリーナ氷河(5100m)の後退状況などの調査も済ませている。

 ウビーナス火山(5600m)の噴火状況観測への出動にも期待されているが、高度が高く、火口上空を飛行する危険が伴うため、検討中だ。

 何かと話題になっているドローンがアンデス山脈上空を観測飛行するとは、せせこましい某国のドローン状況と大きく異なって、何と雄大なことか!

ボリビア大統領が改憲国民投票目指し集票運動開始

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月13日、憲法上の首都であるチュキサカ州都スクレのアニセト・アルセ広場で国民投票を勝利に導くための集票運動を開始した。(政治首都はラパス)

 この国民投票は、憲法の大統領再選規定を改正し、2019年の次期大統領選挙にエボが4選をかけ出馬するのを可能にするたものもので、改憲の是非を問う。

 エボは、ボリビア独立200周年の2025年までの政策綱領を策定しているとして、「だからこそ2019年選挙出馬を目指すのだ」と表明した。

 政権党「社会主義運動」(MAS)は、国民投票での賛成票60%強の獲得を狙っている。

 南米では、アルヘンティーナで12月10日、保守・右翼、新自由主義路線のマウリシオ・マクリ大統領が就任。ベネスエラで12月6日実施された国会議員選挙では保守・右翼野党連合MUDが3分の2の絶対多数を獲得、チャベス主義のマドゥーロ左翼政権は窮地に陥った。ブラジル中道左翼のヂウマ・ルセフ大統領も弾劾される可能性のある苦境に追い込まれている。

 21世紀第2・十年期(2010年代)後半のラ米の潮流は右旋回が顕著になったのだ。ラ米・南米左翼路線の維持・延命の使命は、エボと、エクアドール(赤道国)のラファエル・コレア大統領の肩にかかっており、特にエボに重くのしかかっている。

 エボは10日のマクリ大統領就任式に出席し、11日初会談に臨んだ。隣国同士ゆえ、善隣関係を壊すわけにはいかない。

 ボリビア国民投票は来年2月21日実施される。今年9月、国際司法裁判所は、1879年の太平洋戦争でチレに奪われた太平洋岸領土の回復を求めるボリビアの訴えを受けて審理開始を決めた。この裁定はエボ政権継続に有利に作用すると見られている。 

~波路はるかに~最終回

 PBオーシャンドゥリーム号での船路は12月6日に終わった。実は、横浜に帰着したら、パソコンが通じなくなっていた。長旅の疲れをいいことに故障を1週間放置していた。だから、このブログを更新できなかった。その間、南米政治の右旋回の長物を雑誌用に書き、雑誌社編集部で処理した。

 昨夜(12日夜)、PB船が停泊中の横浜港大桟橋に戻って、船内での水案(船上講師・エンターテナー)忘年会に出た。懐かしい顔ぶれが半分、残り半分は知らない若い世代で、計40人。PB幹部たちとしばし歓談した。

 88回航海を終えたばかりのパシオン田村美和子航海PBディレクターらも勢揃いしていた。横浜と名古屋での船内見学会を終えてから下船し、90回航海乗り組みのPB仲間に船を託すという。最後まで御苦労さまだ。

 この水案会で、パソコン故障放置を咎められた。急遽手を尽くして奇蹟的に復旧させた。だから今、この記事を書くことができた。

 今回の船旅で、本ブログの読者が何人かできたかもしれない。その人たちに感謝しつつ、ら米情勢の愛読者になってほしいと願う。

 もう今日になってしまったが、14日から新規まき直し、せっせと記事を書き、毎日更新する。