2017年1月31日火曜日

アフリカ連合(AU)が西サハラ占領中のモロッコ復帰を承認

 アフリカ連合(AU)はアディスアベバの本部で1月30日、第28回首脳会議を開き、1984年に前身のアフリカ統一機構(OAU)を脱退したモロッコの復帰を認めた。モロッコは55番目の加盟国になった。

 モロッコに隣接する旧スペイン領西サハラはフランコ総統死後の1975年にスペインが統治を放棄、やがてモロッコに占領された。スペイン植民地時代の73年、独立を目指し結成されたポリサリオ戦線は76年、サハラウイ・アラブ民主共和国(SADR)を樹立、OAUへの加盟が認められた。

 OAUはモロッコの不法占拠を槍玉に挙げ続けたが、これに怒ったモロッコは脱退した。だが国王モハメド6世は昨年7月、復帰方針を表明、今首脳会議に向けて復帰工作を続けていた。今会議に同国王も出席した。

 30日の復帰の是非を問う投票では54カ国中39カ国が賛成、復帰が承認された。モロッコに対し依然厳しい態度をとるアルジェリア、ナイジェリア、南アフリカ、ケニア、アンゴラなどは、「加盟国の領土を占領している国に加盟資格はあるのか」と異論を唱えていた。

 モロッコ復帰は、「アフリカの保守化」を物語る。クーバをはじめラ米の左翼・進歩主義勢力はサハラウイを支持してきた。

 首脳会議開会式に出席したアントニオ・グテレス国連事務総長は演説で、「最も発展した諸国が国境を閉ざす一方で、アフリカ諸国の国境は、保護を求める人々に開かれている」と述べ、トランプ米政権の外国人入国規制政策を暗に批判した。

 南アのンコサザナ・ズマ大統領(AU現議長)は、「我々の民族の祖先が奴隷として連れて行かれた国が難民受け入れを拒否している」と、これまたトランプ政策を批判した。

 AUは、南スーダン紛争、リビア情勢悪化、マリ・ソマリア・ナイジェリア3国でのイスラム過激派攻勢、コンゴ民主共和国政情不安など難題を抱えている。

▼ラ米短信   ◎伯亜両国がメルコスールの対外市場多角化で一致

 伯亜両国貿易担当相は1月30日ブラジリアで会合。関税同盟である南部共同市場(メルコスール)加盟国の統合促進と、同市場と欧州連合(EU)、日本、カナダとの貿易関係強化で一致した。

▼ラ米短信   ◎ボリビア大統領がトランプを非難

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は1月30日、「ラティーノス(ラ米人)に対し国境の壁を築き、他国での軍事介入を止めない」と、トランプ米政権を非難。壁建設を「人種主義、ファシズム的政策」と糾弾した。 

2017年1月30日月曜日

 エクアドルで移民・難民の権利を保障する「人的移動法」が発効。トランプ米政権の移民政策に対処

 エクアドール(赤道国)のラファエル・コレア大統領は1月28日、訪問先のスペイン・バルセローナ市で本国へのテレビ中継を通じて、移民や難民の権利を広く認める「人的移動法」に署名、同法は直ちに発効した。

 コレア大統領は署名に際し、スペイン在住の移民同胞およびラ米人移民を前に演説、「人は誰も移民状態において不法ではない」と強調した。同法は、赤道国が受け入れる難民・移民の権利を保障し、政府に在外同胞保護を義務付けている。

 演説でコレアは、ドナルド・トランプ米大統領の移民制限発言を念頭に、「大国の極めて残酷かつ非人間的演説によって、国家間の人的移動が困難になっている」と嘆いた。

 さらに、「ラ米の選良たちは西語を話しながら英語で考え、<アメリカンドゥリーム>、TPP、自由貿易を口にする。そんな人魚の囁きにたぶらかされての浅い眠りから覚めるべきだ。今や、(米国から)足蹴にされているではないか」と批判した。

 新法には、南米諸国連合(ウナスール)を結ぶ南米諸国間の移動を身分証だけで可能にする提案が盛り込まれている。赤道国は6万人の難民を受け入れているが、その95%は隣国コロンビアから流入した。

 大統領は、進歩的な新法の内容は国連難民高等弁務官から賞賛されている、と指摘した。新法により、赤外務省は「外務・人的移動省」と改名された。

 本国の首都キトでは28日、ギヨーム・ロング外務・人的移動相が声明を発表、「トランプ大統領の移民政策発表に伴い、厳しい時期の到来が予想されるため、移民同胞の利益を守る緊急領事業務計画を策定、展開させる」と発表した。

 ロングは同計画策定に際し最近訪米、移民保護団体や弁護士団体と協議した。計画には領事館業務時間延長、法的電話相談、移動領事館制度などが含まれている。

 同相はまた、「幸運にも在米同胞の多くは<聖域州>に居る。米政府の移民取締命令に従わない州だ」と述べた。さらに、「在米移民問題に対処するには、CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)のような機構を通じてラ米団結を国際社会に示す必要がある」、「CELACには、移民に厳しい米政権が醸す状況に対処する責任がある」と指摘した。

 在米エクアドール人は61万人で、うち20万人は不法滞在とされる。在西同胞は44万人で、うち23万人は西国の国籍を取得している。

2017年1月28日土曜日

 トランプとメキシコ大統領が電話会談し、対話継続で合意。ペルーとコロンビアの首脳がメキシコ支持を表明、自由貿易促進を呼び掛ける

 Dトランプ米大統領の国境の壁建設決定などをめぐり、米墨関係は急速に悪化していたが、同大統領とメヒコのエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は1月27日、1時間に亘って電話会談し、話し合いを続けてゆくことで合意した。

 トランプはホワイトハウスで来訪中のテレサ・メイ英首相との合同記者会見の場で、「電話会談は友好的だった。私はメヒコに対しきつく当たり過ぎていた。今後は公正かつ新しい関係において活動してゆく」と述べた。

 一方、EPNも「建設的だった」と評価。メヒコ政府は別途、「この会談で壁建設に関し今後、公に発言しないことで合意した」と明らかにしている。また米製銃器類の対墨密輸や国境地帯での麻薬取引の取締についても話し合ったと明かした。

 トランプは電話会談に先立ち、「メヒコはずいぶん長い間、米国を利用してきた。米側の巨額の貿易赤字と国境警備の弱さは変えねばならない」と微博(twt)発言していた。

 電話会談の内容はほとんど明らかにされていないが、当面の焦点は26日にいったん崩れた両首脳の直接会談をいつ実現させるかだ。トランプが壁建設費用をメヒコに負担させようとするかぎり、これを断固拒否するメヒコとの和解はない。来年12月1日までの任期を残すEPNにとり、壁建設費支払いに応じれば、即、政治生命が途絶えるだろう。

 かといって、今のトランプに翻意させるという勝算もない。メヒコの対米関係は歴史的な危機に陥っている。

 メヒコ人富豪カルロス・スリムは27日、「トランプは死刑執行人でなく取引者だ」と前置きし、EPNに向けて「降伏せず交渉すべきだ」と提言した。スリムは個人的にトランプと交流してきた。

 スリムはまた、「最良の壁は機会と雇用を醸成することだ。メヒコは輸出先の多角化が必要だ」とも指摘した。スリムは23日には、
在米同胞のためのスペイン語テレビ放送局を米国内に設ける、と発表している。

 一方、PPクチンスキ秘大統領とJMサントス・コロンビア大統領は27日、秘国アレキッパ市で27日会談。「メヒコを支援する。自由貿易推進のため対話と融和の情勢が基本的に重要だ」と強調した。

 両大統領はまた、両国および智墨のラ米太平洋岸4カ国で構成する「太平洋同盟」(AP)が墨米問題を話し合うため、発声映像画画面を通じて首脳会議を早急に開くことを智墨両首脳に提案した。

▼ラ米短信   ◎メヒコ人学生43人強制失踪事件発生から28カ月

 メヒコ・ゲレロ州内のアヨツィナパ農村教員養成学校生43人が同州イグアラ市で陸軍兵士、警官らによって強制失踪させられてから1月26日で2年4カ月が経過した。EPN政権は、事件を解決しないまま放置している。

 遺族、学生、支援団体は26日、首都メヒコ市にある検察庁前で6時間、抗議集会を開いた。その間、遺族代表と弁護士が検察側と交渉、2月9日にラウール・セルバンテス検察庁長官と話し合うことで合意した。遺族側は2月にMAオソリオ=チョン内相との会合も望んでいる。

 弁護士ビドゥルフォ・ロサーレスは、「検察は陸軍の関与を長らく伏せていたが、早期に明るみに出していたとすれば、捜査は異なる経過を辿っていたはずだ」と指摘した。一行は、レフォルマ大通りを独立記念碑まで行進した。

 EPNの支持率は10%台に落ち込んでいるが、その要因の一つがこのアヨツィナパ事件未解決だ。遺族らは、ニュースが対米関係に集中し、事件報道が少ないことに危機感を抱いている。

ダニス・タノヴィッチ監督映画「サラエヴォの銃声」を観る

 3月25日に新宿シネマカリテで封切られるダニス・タノヴィッチ監督2016年作品『サラエヴォの銃声』(原題「サラエヴォでの死」、フランス・ボスニアヘルツェゴビナ合作、85分)を試写会で観た。

 セルビア人ガヴリロ・プリンツィプは1914年6月末、サラエヴォ市内でオーストリア・ハンガリー帝国皇太子夫妻を待ち伏せ攻撃し暗殺した。この「サラエヴォ事件」を契機として、第1次世界大戦が勃発した。映画は、2014年6月末の事件100周年記念日に巻き起こる人間模様を描いている。

 サラエヴォ市内にある「ホテル・ヨーロッパ」が舞台。冒頭、記念番組制作中の女性の映像ジャーナリストが実際の暗殺現場に立つが、この場面以外はすべてホテル内部と屋上で撮影されている。サラエヴォの街はホテルの屋上と支配人室のガラス壁越しに見えるだけだ。

 筆者は、内戦のあった1990年代に取材でサラエヴォや周辺を取材したが、当時は戦火で破壊された建物が数多く残っていて、戦争の傷跡が生々しかった。だが、この映画は意図的に街並みを隠しており、街がどうなっているのか、この映画ではわからない。

 屋上に場所を移した女性ジャーナリストは歴史家に「サラエヴォ事件」以後の歴史を語らせ、次いで、100年前の暗殺者と同名のセルビア人青年にインタビューする。ボスニア人の彼女は、プリンツィプが「英雄かテロリストだったか」をめぐって論争する。

 一方、ホテルには欧州各地から100周年記念行事に参加する要人らが訪れつつある。早めに到着したフランス人は、部屋にこもって記念演説の稽古に余念がない。この仏要人も、サラエヴォにまつわる歴史を語る。その模様を、支配人の部下の男は密かに設置したカメラで監視する。この警備員の男はコカイン常習者。

 ホテルを取り仕切る支配人は大忙しだが、ホテルの経営は実は思わしくなく、借金取りと従業員から支払いを迫られている。既に2カ月給料をもらっていない従業員たちはストライキを決行する。

 ひょんなことからストの指導者にまつりあげられたのは、宿泊客の衣類を洗い整える係りの年配女性。その娘は、支配人から信頼される若く美しい切れ者だ。

 以上のような幾つもの人物と出来事が絡み合い、ドラマは進行する。題名は、暗殺者の再来を思わせる青年が、女性ジャーナリストと口論し気が高ぶったまま銃を手に階段を下りたところ、コカイン常習者の警備員と出くわし即座に射殺されてしまう場面に基づく。

 ここには「歴史は(変形されながら)繰り返される」というメッセージも含められている。ホテル内で、来訪する欧州要人らを迎えるため「喜びの歌」を練習していた少女らの合唱団は銃声が聞こえると避難するが、その際、わざわざ二列に並んで出てゆく。ここには、集団が機械的、組織的に行動するドイツ人への皮肉がある。かつてボスニアの通貨として独マルクが使われていた。

 現代欧州はメルケル政権のドイツによって動かされているが、ドイツ人が笛を吹いても欧州は踊れない、という批判が見受けられる。

 殺人事件の発生、ストライキで機能マヒに陥ったホテル、絶望する支配人という権力者。。。ここには90年代のボスニア内戦、その後の移民流入、右翼台頭、近年のロシアによるクリミア併合を防げなかったことなど、「欧州の分裂・失敗」への批判が込められている。それは、「ホテル・ヨーロッパ」の解体的危機に象徴されている。

 ボスニア人の監督ならではの視点がある。この映画に先立ち、パキスタンで起きた事件を基にした同監督作品「汚れたミルク  あるセールスマンの告発」が3月4日に新宿シネマカリイテで公開される。

【参考:伊高浩昭著『ボスニアからスペインへ-戦の傷跡をたどる』(2004年、論争社)】 

2017年1月27日金曜日

 「壁建設費支払わないなら首脳会談中止も」とトランプに脅されたメキシコ大統領が訪米を中止。一方、第5回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)首脳会議はトランプ政策を厳しく批判

 墨米両国関係は今、メヒコが英米石油資本などを国有化した1930年代以来、最悪の状態に陥っている。ドナルド・トランプ米大統領が「国境の壁建設」という愚かな政令を1月25日発したからだ。

 メヒコのエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は同日、当然のことながら「建設費など一銭も払わない」と応じた。するとトランプは26日、「払うつもりがないのなら、31日の(EPNとのワシントンでの)会談は中止するのがよかろう」と脅しをかけた。

  米政府は、メヒコからの輸入品に20%の関税をかけ、これを壁建設費に回す案を提示している。

 これに対しEPNは全国向けテレビ演説で、「米国内の全50カ所のメヒコ領事館は在米同胞を守るため全力を尽くす」と悲壮な表情で決意を伝えた。次いでEPNは、31日の訪米を中止すると発表した。追い詰められての決断だった。
 
 メヒコ世論は、日ごろ不人気な大統領をいつになく支持している。ジャーナリズム論調には、メヒコを見下すトランプの傲慢、横柄な態度を「高飛車に出て交渉を有利に進める戦法」と捉える分析が出ている。「トランプはやはり野卑な男だった」と書く者もいる。

 メヒコ穏健左翼の大御所クアウテモク・カルデナスは、早くからトランプとの会談をしないよう忠告していた。クアウテモクは30年代に米石油資本を国有化した故ラサロ・カルデナス大統領の息子。

 またホルヘ・カスタニェーダ元外相は、「トランプはメヒコを侮辱し、対話前から対立を煽っている。このような脅迫の下に居続けることはメヒコには耐えられない」と述べ、首脳会談中止を求めていた。
 
★このような非常事態に陥ったメヒコは強い対米交渉カードを持たねばならない。それには、対米関係が険悪化する可能性を秘めている「中国と政経両面の同盟関係を結ぶ」のが最良策との主張さえ見られる。

 一方、24日夜から25日までドミニカ共和国(RD)東端の保養地プンタ・カーナ(カーナ岬)で開かれた第5回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)首脳会議は最終宣言で、米国やトランプの名を出さずに「不法移民犯罪者化と移民差別を糾弾する」との一項が盛り込まれた。

 またトランプの保護主義を念頭に、「LAC(ラ米・カリブ)地域は、移り気な金融市場と保護主義が醸す危険と不安に対し団結を強化する」の項目も加えられた。

 EPNは当初、この首脳会議に出席してLACの連帯を勝ち取り、反トランプ世論を醸成する戦略だったが、対米関係の急速な悪化で出席を取りやめた。その間、メヒコのルイス・ビデガライ外相とイルデフォンソ・グアハルド経済相はホワイトハウスで米側と10時間話し合った。

 CELAC首脳会議出席のラ米首脳陣からは対米批判が相次いだ。エクアドール(赤道国)のラファエル・コレア大統領(G77議長)は、「移民問題は壁では解決できない。解決策は富の再分配しかない」と指摘した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は、「不法滞在者が一人もいなくなるよう<世界市民>制度創設を提案する」と述べ、「墨米国境の壁建設は馬鹿げたことだ」と切り捨てた。

 CELACの輪番制議長は会議閉会時に、ダニーロ・メディーナRD大統領から、エル・サルバドールのサルバドール・サンチェス=セレーン大統領に移った。サンチェスは、「加盟国間の新たな合意形成と活動活発化」の必要を訴えた。

 会議にはラウール・カストロ玖議長、ニコラース・マドゥーロVEN大統領、ダニエル・オルテガNICA大統領、ハイチのジョスレルム・プリヴェール暫定大統領、ガイアナのデイヴィド・グレンジャー大統領、ドミニカのチャールズ・サヴァリン大統領、ジャマイカのアンドゥルー・ホルネス首相も出席した。

 だがブラジル、亜国、ペルーなど、新自由主義経済政策をとる保守・右翼系諸国は首脳が欠席、外相らが代理出席した。

2017年1月26日木曜日

 ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領がモンテビデオ入港中のピースボート世界周遊船で講演、持論の人生論を展開。トランプ米大統領の保護主義を批判した

【モンテビデーオ発25日:松村真澄(NGOピースボート国際コーディネーター)】 ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒーカ上院議員(81)は1月25日、夫人のルシーア・トポランスキ上院議員を伴って、モンテビデーオ入港中のピースボート(PB)世界一周船「オーシャン・ドゥリーム号」を訪問、船内を視察し、後方甲板で日本人乗客のうち約500人の前でウルグアイを紹介し、「人生論」など含蓄ある言葉を紡いだ。以下は発言要旨:

 「ようこそウルグアイへ。この国の人口は350万人、そして牛はその4倍いる。一人当たりの肉(牛肉・羊肉)消費量は世界一で、世界一うまい肉が食べられる」

 「南米一、公平な国で、1916年に南米で初めて女性の離婚権を認め、男女参加の選挙制度を確立した。教育は100年も前から公的機関が担ってきた。差別や人権の問題は少ない」

 「PBは世界中を航海しながら、日本から平和、平等、人権、男女平等、非核などの重要なメッセージを運んでいる。その活動を私も応援している。異なる考えを持つ人から理解されない時もくじけてはならない」

 「今に生きる私たちの責務は、これからの世代のために大自然を守り、紛争を無くすことだ。技術の爆発と消費主義に苦しめられ、戦争で死んでゆくのは最も貧しい人々なのだ」

 「大統領期に質素な生き方をしていたのを<風変わりだ>とよく言われたが、質素な生き方を貫きたいからに他ならない。命と人生を愛しているからだ」

 「大切な命は時間だ。時間は金(かね)では買えない。物を買うことは、人生の時間を費やして稼いだ金で買うのであり、物欲に惑わされれば人生の時間が失われてしまう」

 「至高な価値は、利益や市場ではなく、人生だ。人生の闘いとは、時間を持って人間同士互いに気持を確かめ合うことだ。時間は子供、友人、人生を愛するためにある」

 「日本は美しい。だが最高の美しさは、地球というこの惑星にある。世界中の人々は皆きょうだいだ。肌色を超越して人間は一つなのだ」

 「人に認められたいがためでなく、自分の思うままに生きてほしい。国連特別開発目標達成のため頑張ってほしい。きょうは、どうもありがとう」

 ムヒーカは約20分に亘り、海のようなラ・プラタ川を背景に通訳を交えて語りかけた。昨年4月来日した時はやや緊張気味だったが、地元では大いに打ち解けていた。

 前大統領は船内で別途、ドナルド・トランプ米大統領の政策について訊かれ、「勘弁してくれ!メヒコだけでなく、ペルーやこのウルグアイにも影響が及ぶだろう。自国経済保護ばかり考えていれば、経済戦争が起きてしまう」と批判した。

 この日、ムヒーカは青色の愛車フォルクスワーゲンを運転して波止場に到着した。自宅の農園で収穫したばかりのトマトでソースを作っているが、その作業の合間に船を訪れた。できたトマトソースは友人らに配るという。

 オーシャン・ドゥリーム号は25日、リオデジャネイロから到着、夜、ブエノスイアレスに向かった。その後は、亜国パタゴニア最南の都市ウスアイア、南極半島、ウスアイア、ビーグル水道、マゼラン海峡を航行、チレのプンタアレナスを経てバルパライソに向かう。

▼ラ米短信  ◎ピースボートでのクーバ情勢講演会終わる

 東京・高田馬場のNGOピースボート本部で1月25日夜、講師・伊高浩昭によるクーバ最新情勢につての講演と質疑応答の会合が開かれ、約40人が参加した。講師は、フィデル・カストロの功罪、死去の影響、クーバ経済・政治状況、トランプ米政権登場の影響、などについて語り、その後、30分間、活発な質疑応答が展開された。

 
 

2017年1月24日火曜日

 ベネズエラ国立霊廟に軍事独裁と戦ったジャーナリストでゲリラだったファブリシオ・オヘーダの遺骨が納められる

 ベネスエラ政府は1月23日、ラウール・レオニ政権期の1966年、軍部諜報局(SIFA)に虐殺されたジャーナリストでゲリラだったファブリシオ・オヘーダ(当時37)の遺骨を、カラカス市内の南部一般墓地から国立霊廟(パンテオン・ナシオナル)に移し、盛大な記念式典を催した。

 ファブリシオは1929年生まれ、国立ベネスエラ中央大学卒、エル・ナシオナル紙記者となり、大統領政庁を担当した。57年、共産党(PCV)、民主共和同盟(URD)および左翼活動家らと地下組織「愛国会議」を結成。時のマルコス・ペレス=ヒメネス独裁軍政打倒を目指し闘争を開始する。

 翌58年1月23日、愛国会議と軍部が結集、軍政打倒に成功する。ニコラース・マドゥーロ現政権は、この日に因んで遺骨を移納した。

 58年末の選挙でロムロ・ベタンクール政権が誕生、ファブリシオはURD所属の下院議員になる。翌59年1月23日、革命戦争に勝利して3週間余しか経っていなかったフィデル・カストロ玖反乱軍最高司令官がカラカスを訪問、熱狂的に迎えられた。

 フィデルはファブリシオを招待。これを受けてクーバに翌60年4月まで滞在する。ファブリシオは帰国するやURDと訣別し、議員を辞職。62年に共産党がゲリラ組織「民族解放軍」(FALN)を結成する際、ドゥグラス・ブラボらと協力し参加、ゲリラ闘争に入った。

 同年末、逮捕されるが、翌63年脱獄。65年にはFALN議長に収まった。だが組織内に台頭した非武闘争派と抗争。66年6月初め、同派に裏切られ、「居場所は首都」と暴露された。

 これを受けてSIFAは同月20日ファブリシオを逮捕、拷問して虐殺。翌21日、「独房内で自殺した」と発表した。チャベス政権末期の2012年11月、遺骨は発掘され、法医学調査に付された。

 国立霊廟前での式典では、国軍の栄誉礼に続いてマドゥーロ大統領が演説、「人民革命闘争を遂行した革命家の模範」と讃え、「解放者勲章」を死後叙勲し、遺族に渡した。国立霊廟にはシモン・ボリーバルをはじめ独立期の英雄たちが眠っている。

 式典には大統領夫人シリア、タレク・エルアイサミ執権副大統領、ディオスダード・カベージョ国会議員(政権党副党首)、ブラディーミロ・パドゥリーノ国防相ほか、オンブズマンのタレク・サアブ、最高裁長官、検事総長らが参列した。元ゲリラ、ルフォ・メネセス(84)も出席した。

 ファブリシオの人生を紹介したオンブズマンのサアブは、「大統領ラウール・レオニの命令で拷問され殺害されたのには疑いの余地がない。そのうえ自殺説をでっちあげた」と、51年前の政権を糾弾した。

 ジャーナリストで元副大統領のホセ=ビセンテ・ランヘールも演説、「ファブリシオはベネスエラ人民の尊厳と共に国立霊廟に入った」と述べた。パドゥリーノ国防相は、「ファブリシオは人民の解放、尊厳、独立のために闘った」と語った。

 式典に出席しなかった閣僚からも賛辞が相次いだ。デルシー・ロドリゲス外相は、「祖国解放のための人民闘争の鑑。偉大な革命家、人民殉死者、思想家だった」と礼賛した。故ウーゴ・チャベス大統領の実兄アダン・チャベス文化相は、「遺骨移納には歴史的正統性がある。尊厳、勇気、祖国愛への栄誉礼だ」と指摘。エリーアス・ハウア教育相も、「ファブリシオは権力の側に居て安閑としていることもできたが、それを拒否し、権力を糾弾して闘争の道に入った」と述べた。

▼ラ米短信   ◎メヒコ富豪が在米メヒコ系向けテレビ放送開始を決定

 富豪カルロス・スリムは1月23日、在米メヒコ人およびメヒコ系市民3370万人向けにテレビ放送「ヌエストラ・ビシオン」(私たちの視点)を年内に米国内で開始する、と発表した。放送内容は「100%メヒコ製」にするという。

 スリムは、ドナルド・トランプ米大統領のメヒコとメヒコ人に対する一連の言動に鑑み、在米放送開設を決意したと表明した。
 
 

 
   
 

2017年1月23日月曜日

ボリビア大統領が施政11年、国会で成果を報告

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は1月22日、政権担当11周年を迎えた。アイマラ人であるモラレスは、自ら制定した新憲法でボリビアを「多民族国家」と規定、国名にも「多民族」を入れた。この日は「ボリビア多民族国家の日」と定められている。

 モラレスは国会で施政報告演説を4時間20分に亘って展開、政権11年の「長期政権の安定性」を強調した。大統領は、ボリビアが独立した1825年から2005年までの180年間に大統領83人がいて、うち37人はゴルペ(クーデター)で政権に就いたとし、「大統領の平均任期は2年間だった。まともな政策立案や施政は可能だろうか」と指摘、自身の長期政権を肯定した。

 大統領は、2025年までに「ボリビアを南米のエネルギーの中心国とする」と述べ、「天然ガスだけでなく電力も輸出する」と語った。この表明は、2020~25年の次期大統領の任期を念頭に置いている。

 エボは、国会議員166人のうち5割強が女性、全体の41人が先住民族代表、29人が若者代表と指摘、「多民族性」が国会にも代表されていることを強調した。

 施政の成果として、貧困率、極貧率、貧富格差が大幅に減少。国民の健康や非識字率も向上、経済成長率は平均5%で、モラレス政権登場前50年間の平均2・8%の倍近いことを訴えた。

 また、クーバ医療派遣団700人の貢献、クーバの協力による「奇蹟作戦」で67万人余りが視力を回復したことに謝意を表した。

 大統領が「長期政権の安定性」を強調したのは、2019年の大統領選挙に4選出馬し、25年まで任期を延長させたい意欲の表れだ。昨年2月の3選出馬を可能にするための改憲の是非を懸けた国民投票で大統領は僅差で敗れている。

 だが出馬意志は変わらず、昨年末、政権党「社会主義運動」(MAS)から、次期大統領候補に指名された。モラレスは現在3期目にあるが、現行憲法下では2期目。このため3選出馬のための改憲が必要だった。

▼ラ米短信   ◎フランス大統領歴訪

 フランソワ・オランド仏大統領は1月21日サンティアゴでミチェル・バチェレー智大統領と会談。その後の記者会見で、保護主義を厳しく批判した。ドナルド・トランプ米大統領が念頭にあるのは言うまでもない。

 両大統領は、1973年9月の軍事クーデターさなかに自殺したサルバドール・アジェンデ大統領の墓に表敬した。アジェンデは智社会党党首だった。

 オランドは22日ボゴタ入りし、23日コロンビアのJMサントス大統領と会談。24日にはFARC集結地一カ所を視察する。

 一方、FARC幹部イバン・マルケス司令は22日記者会見し、FARCは5月末に結党大会を開き、「開かれ民主的で現代的な政党になる」と述べた。「コロンビア変革を志す者は誰でも入党できる」とも語った。FARCは国内27カ所の集結地で党綱領などを練る。
 

2017年1月21日土曜日

定かでないトランプ新米政権とラテンアメリカの関係

 米国大統領に1月20日、ドナルド・トランプ(70)が就任した。任期は2021年1月までの4年。共和党政権が8年ぶりに復活した。就任演説を未明に民放のTV中継で聴いたが、予想通り格調低い、平凡極まりない内容だった。演説時間が16分と短く、先の記者会見よりはましだったが、知性や理想の欠如には、あらためて辟易した。

 国際関係関連の発言に注目したが、それは実に乏しかった。金儲けに生きてきた人生故に忙しすぎて、地球という球体世界が脳裡に描かれていなかったからではないか。

 「自国益第一主義で諸国との友好親善を求める」と言った。メヒコに対する強圧的接近は確かに米国益最優先主義だが、もはや「友好親善」とは相容れない。

 メヒコは19世紀半ば、米国から不正な戦争を仕掛けら、敗れて国土の北半分を奪われた。現在の3200kmの国境線は、その時できた恨みの国境だ。だからメヒコ人は平然と越境して、米側に住む。その権利が歴史的に備わっていると信じるからだ。

 20世紀前半にはメヒコ革命(1910~17)とその後30年代のラサロ・カルデナス大統領による米英石油資本などの国有化があった。その時、墨米関係は険悪になったが、カルデナスは後に引かなかった。

 今、メヒコは、石油国有化以来とも指摘される対米危機にある。トランプ政権登場で真っ先に選ばれたラ米の生贄がメヒコなのだ。

 トランプは演説で、「米国式生き方を誰にも強制しない」とも口にした。ではなぜクーバに脅しをかけるのか。他国の民主に口出しするよリも、昨秋のようにヒラリーを支持した有権者多数派の意思が反映されない大統領間接選挙制度を見直すのが先決だろう。

 「新しい同盟を結ぶ」とトランプは言った。ロシアとの新しい関係構築を示唆するものなのか。それも含まれているに違いない。

 問題は、トランプのメヒコ以外のラ米政策がいつ出てくるかだ。特に重要なのは、クーバ、ベネスエラ、ニカラグア、ボリビア、エクアドールとの関係がどうなるかだ。

 ラ米側は25日、ドミニカ共和国(RD)で第5回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)首脳会議を開き、米新政権への対応策を練り、表明する。

2017年1月20日金曜日

 メキシコが任期最終日のオバマ政権に麻薬王グスマンの身柄を引き渡す。トランプ氏への明白な当て付け

 メキシコ政府は、バラク・オバーマ大統領任期最後の一日となった1月19日、麻薬王ホアキン・”チャポ”・グスマン(59)の身柄を米当局に引き渡した。国境のフアレス市の刑務所から厳戒態勢の下、連邦警察の武装ヘリコプターで空港に連行されたグスマンは、米当局の小型飛行機で同日夜、ニューヨーク空港に到着した。

 エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)墨大統領がこの日を特に選んで身柄を引き渡したのは、翌20日就任するドナルド・トランプ次期大統領への明らかな当て付けだ。グスマンはメヒコ最大の麻薬マフィア「シナロアカルテル」の首領だった。

 EPN大統領は、米墨国境の壁建設、在米メヒコ人不法移民追放、北米自由貿易協定(TLCAN/NAFTA)見直し、メヒコからの米企業投資引き揚げなどの発言や仕打ちで、トランプからさんざんこけにされてきた。

 大統領は敢えてオバーマ大統領の政権当局にグスマンの身柄を引き渡すことで、トランプにグスマンの身柄確保の手柄は与えないと意志表示すると同時に、「メヒコの協力が欲しければ、あなたも協力しなさい」とトランプに暗黙のメンサヘ(メッセージ) を放ったわけだ。

 ラ米でもトランプ就任演説に強い関心が集まっているが、オスカル・アリアス元コスタ・リカ大統領は19日、米市民は女性蔑視、性好み、外国人排斥主義、少数民族排撃などを厭わぬ最も無教養な人物を大統領に選んでしまったのか、と嘆いた。

 アリアスは、トランプの持論である「米墨国境での壁建設」については、「困っている人々が何物をも恐れず目的地に向かうことは、地中海を渡る欧州への移民の行動で明らかであり、壁など何の意味も待つまい」と指摘した。

▼ラ米短信   ◎クーバがオバマ政権と最後の調印

 クーバ政府とオバマ米政権は1月19日ワシントンで、「動植物衛生協力議定書」に調印した。 

★本日1月20日発売の「週刊金曜日」誌に、ブログ子、伊高浩昭執筆の、クーバおよびラ米とトランプ新政権との関係予測記事が掲載されています。
 

 

2017年1月19日木曜日

ベネズエラの第1回チャベス平和賞はプーチン露大統領に

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は1月18日、新設の「ウーゴ・チャベス平和・主権賞」の第1回受賞者にウラジーミル・プーチン露大統領が決まったと発表、近く訪露すると明らかにした。

 マドゥーロは、「プーチンは多極的世界の偉大な指導者。10回会談したが彼は、故チャベス大統領がとても好きだったと語っていた」と述べた。

 ベネスエラが加盟するOPECと、ロシアを含む一部非OPEC産油国は昨年11月、今年前半の原油生産量削減に合意。現在、国際原油価格は値上がり傾向にある。この削減は国庫収入の95%を原油に頼るベネスエラが特に強く働きかけていた。今回のプーチンへの授賞は、原油生産削減決定への協力を特に評価したものだ。

 また、ベネスエラに厳しい態度をとることが予想されるトランプ米新政権の20日の発足を前に、ロシアとの政策的連携を強めておきたいマドゥーロの思惑の反映とも受け止めることが可能だ。

▼ラ米短信   ◎ルベーン・ダリーオ生誕150年

 ニカラグア史上最大の文化人とされる詩人ルベーン・ダリーオの生誕150年記念式典が1月18日、レオン市のダリーオの墓前で催され、同市市長、政権党FSLN代表、市民らが出席した。

 ダリーオは1867年、メタパ(現ダリーオ市)に生まれ、生後40日でレオンに移り、育てられた。19世紀末から20世紀初めにかけて、モダニズムの作風でラ米と欧州の文学界に影響を及ぼした。

▼ラ米短信   ◎コロンビア政府とELNが2月に和平交渉開始へ

 キトで会合していたコロンビア政府とゲリラ「民族解放軍」(ELN)は1月18日、正式な和平交渉を2月7日エクアドール国内で開始することで合意、共同声明で発表した。ELNは1964年から政府軍相手に内戦を戦ってきた。

 だが最大のゲリラ組織FARCが昨年11月和平合意し停戦、現在FARCは武装解除段階にある。ELNも14年初め和平方針を固め、政府と秘密の準備交渉を断続的に続けていた。

▼ラ米短信   ◎玖米がメヒコ湾境界画定議定書に調印

 玖米両国は1月18日、米国務省内で、「メヒコ湾東部海域大陸棚境界画定議定書」に調印した。両国の200海里経済水域以遠の海域が対象。

 オバーマ米政権は20日の任期切れ寸前に、さまざまな駆け込み合意をクーバと結んでいる。トランプ次期政権下で両国関係が停滞する可能性を見越してのことだ。

 またクーバとメヒコはハバナで18日、同海域での境界画定議定書に調印した。

   

 
 

2017年1月18日水曜日

 オバマ大統領が獄中生活36年目のプエルト・リコ独立運動家オスカル・ロペス=リベーラ(74)の5月釈放を決定

 バラク・オバーマ米大統領は任期切れ3日前の1月17日、米植民地プエルト・リコ(PR)の独立運動家で、獄中生活35年半のオスカル・ロペス=リベ-ラ(74)を5月17日に釈放する赦免措置を発表した。

 オスカルはPR生まれで、14歳の時、家族とシカゴに移住。徴兵されヴェトナム戦争に出兵した。シカゴに帰還し、社会運動に参加したが、やがてPR独立運動に傾斜。1976年にPR武闘独立運動地下結社「民族解放軍」(FALN)の要員になる。

 FALNは70~80年代、シカゴを中心に爆弾闘争や兵士襲撃作戦を展開。オスカルはそのような殺傷事件に直接関与しなかったが、81年5月末逮捕され、米PR支配体制打倒の陰謀、武器・爆発物携行などで禁錮55年の実刑を言い渡され服役した。

 88年には脱獄を試みたとして15年加算された。99年、当時のクリントン政権から恩赦対象者になるか否かの意志を打診され拒否。受け入れていれば、2009年には釈放されていた。

 「PRのネルソン・マンデーラ」、「21世紀の岩窟王」などと呼ばれ、世界中でオスカル解放運動が起きた。現在、インディアナ州テレオウト刑務所にいる。

 この日、大統領は服役者209人の減刑、64人の赦免を決定。大量の政府機密をウィキリークスに流し2010年逮捕され35年の禁錮刑に服役していた元米防衛諜報分析者チェルシー・マニングも5月17日に釈放される。

 オスカルの弁護士は、「彼は、自分の解放のために闘ってくれたPR、米国、世界の人民に深く感謝している。オバーマ大統領はようやくPRの息子を故郷に帰すことを決断した」と述べた。

 ハバナのPR代表部のエドゥウィン・ゴンサレス代表は、「オバーマはやっとPRのことを気にかけた。オスカルはPRと米政府との間で中心的な対立案件だった。この解放決定により、PR独立闘争に弾みがつく」と指摘した。

 クーバ人民友好庁(ICAP)のフェルナンド・ゴンサレス副長官は、玖諜報機関員として逮捕され米国で服役していた時期に4年余りオスカルと同じ監房に居たことがある。「彼の抵抗力、革命家としての質、信念の堅固さに感銘を受けた」と語った。

 ICAPのケニア・セラーノ長官は、「クーバは常にオスカル解放のためにPR人民と共にあった。だから嬉しい。他の政治囚解放にいい影響が及ぶだろう」と述べた。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は政府会合でテレビを前に英語で、「オバーマ大統領、ありがとう、ありがとう、ありがとう」と、「ありがとう」を3度口にした。

▼ラ米短信  ◎イタリアでラ米旧軍政首班らに終身刑判決

 ローマの法廷は1月17日、1970~80年代に南米軍政諸国で米政府の協力の下で展開された「コンドル作戦」でイタリア人ないしイタリア国籍を持つラ米人を拉致・拷問・殺害した罪で被告46人に判決を下した。ほとんどが欠席裁判で、出廷した被告は1人だけだった。

 27人が有罪判決、19人は無罪だった。有罪27人のうち8人は終身刑。ボリビア軍政期の大統領だったルイス・ガルシア=メサ、内相だったルイス・アルセ=ゴメス、ペルー軍政大統領だったフランシスコ・モラレス=ベルムデスが含まれている。

 ガルシア=メサとアルセ=ゴメスは、1993年ボリビアで禁錮30年の実刑となり、ラパス郊外の刑務所で服役中。2人は1980年にリディア・ゲイレル暫定政権を軍事蜂起で倒し、圧政を敷き、約500人を暗殺、4000人を逮捕した。社会党指導者だったマルセロ・キローガ=サンタクルースも殺害された一人。軍部は、エルナン・シレス=スアソ大統領の就任を阻むため、クーデターを決行した。

 モラレス秘軍政は、ペルー人労働者、ジャーナリストら左翼13人をラパス経由で亜国軍政に引き渡した。イタリア系亜国人の「五月広場の母の会」の活動家3人は殺され、うち一人の遺体はマドリードで見つかった。亜国軍政の捜査撹乱工作だった。モラレスの弁護士はリマで、「イタリア法廷の判決はペルーでは無効だ」と述べた。


  

2017年1月17日火曜日

 エルサルバドル和平25周年、サンチェス大統領が「第2の和平合意」策定を野党ARENAに呼び掛ける

 エル・サルバドール(ES)は1月16日、内戦和平合意調印25周年記念日を迎えた。首都サンサルバドールで記念式典が催され、サルバドール・サンチェス=セレーン大統領は、「経済社会問題という今日的必要性を解決するため、<第2の和平合意>を国連仲介の下で探ってゆく」と述べた。

 大統領は、対立する右翼野党ARENA(国家共和同盟)に対し、内戦犠牲者および遺族に補償するための「和解・犠牲者統合的賠償法」の制定を呼び掛けた。これが<第2の合意>だ。

 これについて、「新しい合意は生産的で安全で理性的かつ環境融和的社会にして、排除や社会的・経済的不平等なき福祉の充実した社会をもたらすものであらねばならない。<平和の文化>を創るものでなければならない」と強調した。

 式典に出席した国連特使ミロスラフ・イェンカは挨拶し、「暴力と経済的不平等が多くの人々の和平享受を妨げている」と指摘。隣国オンドゥーラスのフアン・エルナンデス大統領、マリカルメン・アポンテ米州担当米国務次官補(元ES駐在大使)も出席した。

 ESでは昨年5300人近くが殺された。人口10万人中81人で、世界最悪の非戦争殺人発生率である。

 和平合意は1992年のこの日、メヒコ市のチャプルテペック城で調印された。当時のアルフレド・クリスティアーニ大統領のARENA政権と、ゲリラ連合「ファラブンド・マルティ民族解放戦線」(FMLN)の間で署名された。メヒコ、ベネスエラ、コロンビア、スペインが保証国となり、国連が支援した。

 1980年に始まった内戦は勝利のない痛み分けに終わったが、死者7万5000人、行方不明者8000人、負傷者4万人が出た。これら犠牲者の75%は文民だった。避難民は100万人に達した。12年続いた内戦の被害総額は16億ドルと見積もられている。

 <第2の和平合意>のため、政府および政権党FMLNとARENAの間で仲介役をするのは、25年前にも国連ES和平監視団の一員だったメヒコ人外交官ベニート・アンディオーン。経験を買われた任命。

 式典では管弦楽団、合唱隊、軍楽隊、民俗舞踊団が競演した。出席したコロンビア元上院議員で社会活動家のピエドゥラ・コルドバは、「コロンビアもようやく政府とFARCが和平合意に達し、今は政府とELNが和平交渉を始めている」と語った。

 コルドバは14日、サンティアゴ・デ・クーバのフィデル・カストロの墓に参り、「力、抵抗力、光を与えてほしい」と祈願。来年のコロンビア大統領選挙に候補として出馬すると表明した。独自候補を出さないFARCはコルドバを支援するもよう。

 サンチェス大統領は15日には、首都のオスカル・ロメーロ並木大通りに新設された「和解彫刻公園」の開園式と、その中心にある「和平記念碑」の除幕式を主宰。挨拶で「犠牲者補償こそが第2の和解になる」と述べた。ロメーロは1980年に右翼軍部から暗殺された首都大司教。これが内戦の引き金になった。

 一方、犠牲者・遺族支援団体「プロブスケダ」の代表エドゥアルド・ガルシアは、「内戦犯罪者の無処罰の撤廃こそが最大の課題」と指摘した。ES最高裁憲法法廷は昨年7月16日、93年制定の「恩赦法」を違憲と判断している。これにより、国連真実委員会が93年報告した内戦中の人道犯罪事件のうち33件に裁く道が開けた。

 元FMLN幹部のロベルト・カーニャスは、「25年経っても社会的平和がない。6万人の無法者の存在、麻薬犯罪、組織犯罪で社会は疲弊している」と述べた。和平合意にある犠牲者補償などが実現していない理由については、長らくARENA政権が支配、内戦後に新自由主義政策を固めたためと指摘した。

 カーニャスはまた、「内戦を戦ったゲリラと兵士の多くは今、社会から除け者扱いされているが、これを社会に迎え入れる方策を練らねばならない」と訴えた。


   
 
 

2017年1月16日月曜日

マドゥーロ大統領がベネズエラ経済は「困難で複雑」と指摘

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は1月15日、年次施政報告演説をぶち、「国際原油価格低迷で経済は困難かつ複雑な状況にある」と指摘した。政治状況については、「去年は寡頭勢力による政府への攻撃が激化した厳しく難しい年だった」と振り返った。

 国庫の外貨収入については、「去年の収入は53億ドルで、15年の130億ドルから半減以下となった」とし、外貨準備高の目減りを認めた。またコロンビア国境でのベネスエラ石油の大量密輸を非難、近くコロンビア大統領と会い、この問題で話し合いたいと述べた。

 大統領年次報告は国会でなされるのが通例だが、今回は最高裁で行われた。これについては、「国会で報告できないのは残念だ。野党勢力がゴルピスタ(クーデター的)行動をとったためだ」と語った。

 この日、大統領を最高裁に迎えたグラディス・グティエレス最高裁長官は、「憲法上、大統領は年初15日以内に国会で施政報告をすることになっているが、国会が司法命令に従わないため、最高裁での報告になる」と説明した。

 長官はまた、(保守・右翼野党連合MUDが支配する)昨年の国会執行部は司法不服従を止めるよう宣言してから今年の執行部を選ばねばならなかったところ、それをせずに新執行部を選んだとし、「このような不服従のある間は、国会は違憲状態にある」と述べた。

 国会は先日、マドゥーロ大統領を「職務放棄」と決めつけ、大統領選挙の早期実施を要求した。最高裁は、これも違憲行為であり無効と断定した。最高裁判事は32人だが、うち一人は最高裁での年次報告に異議を唱え、欠席した。

 一方、タレク・エルアイサミ執権副大統領は15日、「今年末には経済が回復、インフレは縮小、国富と生産は増える。人民のために経済の構造改革を進める」と述べた。

 同副大統領は「国家対クーデター司令部」(CNA)の議長を務める。MUD加盟の右翼野党「人民意志」(VP)について、2014年に起きた一連の政治的暴力事件(グアリンバ)の責任者であり、「政党資格に値しない」と指摘した。

 エルアイサミはまた、「CNAは治安維持、主権護持のために活動している。国会内に、憲法の枠外で日々に権力を拉致し政権打倒を画策している勢力がいる。彼らから民主体制を守るのもCNAの任務」と強調、MUDを非難した。

 CNAは既にVP国会議員補欠一人を含む4人の野党要員を治安上の問題で逮捕し、取り調べている。
 

2017年1月15日日曜日

エクアドルのラファエル・コレア大統領がG77議長に就任

 アクアドール(赤道国)のラファエル・コレア大統領は1月13日、国連発展途上77カ国グループ(G77、134カ国加盟)の議長に就任した。前議長国タイから引き継いだ。任期は1年。

 コレア議長は国連総会での就任演説で、「抱える議題は厖大だが、これを絞り込んで合意を見出し、国連内で南諸国の利益を代表するようになっていかねばならない」と強調した。
 
 コレアは、公正な世界秩序構築、途上国への関税障壁撤廃などによる公正な貿易、国連総会が決定権を持つようにする国連改革、南国民の全労働者の労働を保障する国際分業確立、「知的私有化」排除、などを訴えた。

 新議長は、「一部強国が多国間協議を拒否している状況の下で、G77は開発融資に関する合意獲得の道を探っている」と指摘、途上国への投資促進の必要性に触れた。

 さらに、エクアドール東部アマソニアでの米シェヴロン・テキサコ石油会社による環境破壊の実例を挙げつつ、「人権と環境を破壊する多国籍企業を制裁する措置を策定するべきだ」と主張した。

 また、「脱税と資金源隠しのための租税回避地は我々の最大の敵であり、対策を講じなければならい」と述べ、「彼ら(脱税者)が税金を払えば、ラ米では3200万人が貧困から脱出できる」と説いた。

 コレアは就任後、アントニオ・グテレス国連事務総長と会談、「実効ある多国籍企業制裁措置策定の必要性」に言及した。

 非同盟諸国会議議長国ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相はカラカスでコレア議長に祝福の言葉を贈り、「民族自決強化と植民地主義脱却」の必要性を伝えた。

 コレアはカラカスに本社のあるラ米多国籍TVテレスールに対し、「ラ米は依然、世界一貧富格差が激しい大陸だ。新自由主義経済政策は極端な少数富裕層と極度に貧しい多数の極貧層を生み出し、完全に失敗した」と批判。また「ラ米の進歩主義政権を不安定にする陰謀が続いている。NGOは右翼戦略に加担している」と非難した。

 コレアは1月15日、エクアドール大統領として施政10周年を迎えた。

▼ラ米短信  ◎コロンビア政府とゲリラELNが和平会合

 エクアドール北部のイバーラ市で1月13日、コロンビア政府と「民族解放軍」(ELN)の和平のための話し合いが行われた。事前発表により公然と話し合いがもたれるのは初めて。これまではエクアドールで秘密交渉が続けられていた。

 会談目的は、正式な和平交渉日程を決めること。二日目14日の話し合い終了後、政府代表は「実のある会合だった」と評価。ELNも「建設的だった」と述べた。

 会合には、和平交渉保障国のエクアドール、ベネスエラ、クーバ、チレ、ブラジル、ノルウェーの代表も出席している。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラが軍民防衛演習を実施

 ベネスエラ政府は1月14日、首都カラカスをはじめ全国各地で軍民合同防衛演習「反帝国主義統合作戦サモーラ200」を展開した。

 オバーマ米大統領が13日、「ベネスエラは米国の安全保障上の脅威」とする15年3月発動した政令を1年間延長したのと、マドゥーロ・ベネスエラ政権に敵対的態度を示しているトランプ次期米政権に対し、国防による主権護持の立場を断固打ち出すため実施された。

 クーバから導入した「全人民戦争戦略」に基づき、国軍4軍兵士7万6000人、民兵10万2000人、労働者ら市民40万人が参加している。参加市民の大多数は、政権党ベネスエラ統一社会党(PSUV=ペスーブ)の党員。

 
 
 

2017年1月14日土曜日

オバマ政権がキューバ人不法移民排除に踏み切る

 玖米両国は1月12日ハバナで、「移民合意に関する共同宣言」に調印、これをハバナとワシントンで同時発表した。クーバ難民の米国への不法入国を禁じるもので、発表と同時に発効した。フリオセサル・ガンダリージャ玖内相とジェフリー・デローレンツ米臨時代理大使が調印した。玖国営テレビは番組を中断し、速報した。

 米国はクリントン政権期の1994年9月、米国領土に査証無しで上陸した玖人難民(「乾いた足」)には自動的に滞在権を認め、米国内に1年以上居住すれば、永住権を与える特別措置を決めた。だがフロリダ海峡渡航中に米沿岸警備隊に拿捕された者(「湿った足」)は身柄をクーバに送還されることになった。

 この94年移民規定は、1966年制定の米「キューバ調整法」に付帯されていた。同法は、米国に1年以上滞在すれば永住権を与えると定めている。不法入国を促す「乾いた足」政策はクーバ難民を積極的に迎える措置で、玖側は重大問題として破棄を要求していた。

 事実、フロリダ海峡を越えて米国に向かう「筏難民」や、メヒコから米国に越境する「乾いた足」が急増した。海で遭難し死亡する者やメヒコで略奪されるなど危害に遭う者が絶えず、人道上も問題だった。

 またラ米諸国の対米移住希望者や難民の間では、「クーバ人だけ優遇されている」と不満が渦巻いていた。

 今後、査証を持たない玖難民は「人道的支援の必要者」を除き、全員クーバに送還されることになる。米国への移住は原則的に、両国間の移民協定に基づき、年間2万人ずつの合法移民だけとなる。

 この日の「宣言」には、クーバ国外で国際任務として働く玖人医師の米国亡命を促し効果を挙げてきた米側の政策も破棄された。玖側は「頭脳奪取だ」と強く抗議していた。

 オバーマ政権は20日の任期切れ直前に、今回の重要な駆け込み決定に踏み切った。米議会の反カストロ派の玖系議員たちは、「乾いた足」廃止に激しく反発している。

 ハバナ市民からは、「手っ取り早い送金源送り出しの手段がなくなった」との声が聞かれる。「人道的、外交的に正しい措置だ」との意見もある。
  
 

 

2017年1月13日金曜日

ベネズエラの対クーデター司令部が国会議員補欠を逮捕

 ベネスエラの「対ゴルペ・コマンド」(対クーデター司令部)のタレク・エルアイサミ議長(執権副大統領)は1月11日、武器を携行していた野党「人民意志」(VP)所属の国会議員補欠ヒルベルト・カロをテロリズム関連容疑で逮捕した、と発表した。

 それによると、カロ容疑者は8日、コロンビア国境のタチラ州内で3人組と会合し、コロンビアに密入国。ククタ市に滞在し、9日未明、ベネスエラに密帰国した。国家情報局(SEBIN)が監視下に置いていた。

 SEBINは11日、カラボボ州バレンシア近郊でカロを逮捕した。ベネスエラ国軍の武器である軽自動小銃FAL、プラスティック爆発物C4などを所持していた。カロには党員仲間のベネスエラ人女性が同行していた。その女性はスイス在住だが12月帰国していた。

 カロは襲撃計画などを記した書類も携行、そこには暗殺対象の要人名簿が含まれていたという。カロはカラボボ州内のSEBIN拘置所に拘禁され、取り調べを受けている。

 発表によると、カロは1985年に殺人を犯し、93年麻薬保持で逮捕され、禁錮刑を科されていたが、2013年出所。14年のグアリンバ(反政府街頭暴力事件)に加担していた。グアリンバ教唆罪などで服役中のVP党首レオポルド・ロペスに近いとされる。

 「対ゴルペ司令部」は10日発足したばかり。泳がせていたカロの逮捕で最初の成果を挙げた。同司令部は、エルアイサミ議長ほか9人で構成されている。その顔触れは以下の通り。

 政治主権・安全保障・平和担当副大統領カルメン・メレンデス、外相デルシー・ロドリゲス、国防相ブラディーミル・パドゥリーノ、内務・司法相ネストル・レベソル、政権党国会議員ディオスダード・カベージョ、SEBIN長官グスタボ・ゴンサレス、国家民兵隊司令官ベガ・ゴンサレス、国家警察長官フランクリン・ガルシア、対軍事諜報局長イバン・エルナンデス。

 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は10日、任期6年の3分の2が経過した。憲法が定める大統領罷免国民投票が今後実施され、同大統領が罷免された場合、エルアイサミ執権副大統領が暫定大統領として残る任期を全うすることになる。

 マドゥーロは去年、VPも加盟している保守・右翼野党連合MUDから罷免同国民投票実施を要求されたが、実施請求有権者名簿の不備を理由に請求を却下した。1月10日以前に実施され大統領が罷免されていたとしたら、政権党は30日以内の大統領選挙実施を迫られることになっていた。そうなれば政権党が敗れる公算が大きいと見られていた。

 次期大統領選挙は来年末ごろになるが、政権党はエルアイサミ副大統領をはじめ何人かの大統領候補をそろえており、約2年間かけて選挙準備をすることができる。

 「対ゴルペ司令部」は、MUDを筆頭とする反政府勢力による体制不安定化戦略を封じ込めるのが狙い。ベネスエラに対し厳しく臨もうとしているトランプ次期米政権の登場に備えた体制引き締め措置の一環でもある。
 
 

2017年1月12日木曜日

トランプの「壁」発言に「費用払わぬ」とメキシコが強く反発

 ドナルド・トランプ次期米大統領は1月11日NYで記者会見し、ラ米では唯一メヒコに触れて、国境(3200km)に壁を出来るだけ早く築き、その資金をメヒコに負担させると強調した。

 メヒコ人と政府は戸惑いと怒りを顕わにしているが、エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は同日メヒコ市で開催中の在外公館長会議の場で、「次期米政権とは立場の違いがある。<壁>建設費はもちろん支払わない」と反駁した。

 1時間近い会見でトランプが記者団との質疑に応じたのは約35分だった。トランプはロシアに次いで中国、日本とともにメヒコに言及した。米自動車会社にメヒコへの工場進出を翻意させたこと、および、大統領選挙勝利への一里塚となった「国境の壁」建設をぶったのだ。メヒコ政府と交渉するが「1年、1年半と待たず、早期に建設したい」と言明した。

 EPN大統領は今月4日、トランプ経営陣に人脈を持ち、トランプ個人からも知られている前財務相ルイス・ビデガライ(48)を外相に任命、トランプ次期政権との関係構築を手掛けようとしていた。だが今回の壁建設確認発言でまたも冷水を浴びせられた。

  トランプは「メヒコは従来、米国を利用、そこから生まれる利益を享受してきたが、今後はそうはいかない」とも述べた。メヒコにとって「壁建設」が意味するのは、対米移民・貿易、米投資導入への障害であり、米加両国と1994年から維持してきた北米自由貿易条約(TLCAN、英語ではNAFTA=北米自由貿易協定)の健全な運営が阻害されることだ。

 EPNはさらに、「米政府は不正資金と密輸武器のメヒコへの流入を阻止するとの約束を守らねばならない」と、いつになく厳しく米政府を批判した。メヒコ上院外交委員会のガブリエーラ・クエバス委員長(PAN所属)も、「壁建設費は一銭たりとも払わない。このことをメヒコ人民に誓う」と述べた。

 これまでにもトランプと遣り合ってきたビセンテ・フォドックス元大統領は、「彼は独裁者だ。利己主義ゆえに記念碑(壁)を建てたいなら、自分で金を払え」と言い返した。

 米加州と国境を接するメヒコの北低加州のエルネスト・ルフォ元知事は、「壁は実現しないだろうが、トランプの孤立主義外交に対しては、ビデガライ流(の人脈外交)でなく、的確な外交政策を基に合理的に対応せねばならない」と注文をつけた。

 メヒコはトランプから蔑まれ、誇りを傷つけられてきた。メヒコはかつてグアテマラからパナマまでの中米と、キューバを中心とするカリブ諸国に外交的影響力を持っていた。だがTLCAN/NAFTA依存が高まり、米国にばかり顔を向けるようになって、中米・カリブへの影響力を大きく失った。南米での存在は全く薄くなってしまった。

 EPNは今、「ラ米への回帰」をまじめに口にするようになっている。また欧州連合(EU)、中国、日本などへの経済的接近強化を目指すようになっている。

 メヒコに1980年代初めまであったような「反米思想」はないが、トランプが、埃を被っていた民族主義をメヒコ人に思い出させたのは確かだ。

 来年7月には大統領選挙が実施されるが、過去2回の選挙で苦杯をなめた改革派のAMロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)=国家刷新運動(MORENA=モレーナ)党首=は、トランプ政権下で米墨関係が悪化すれば、有利になる可能性がある。

 メヒコ人と政府は20日のトランプ就任を固唾をのんで注視している。

▼ブログ子のトランプ会見感想:  これほど格調低い政治指導者の記者会見は初めてだ。弁護士まで登場させ、経営切り離し問題を長々と語らさせたのは時間稼ぎ以外の何物でもない。なぜ記者団は文句を言わなかったのか。知性がほとんど感じられない超三流芝居を見ているような気分になった。これが世界一影響力を持つ強大国の最高指導者に数日内に収まる人物だから悲劇的だ。ジャーナリズムやマスメディアに敵対するのは全くいただけない。権力者は批判されるのが商売、当たり前のことなのだ。これがわかっていない。非難されると、すぐに怒って「倍返しで」攻撃するのでは政治家失格だ。情けない。地球の先行きは暗い。 
 

2017年1月11日水曜日

オルテガ夫妻がニカラグアの正副大統領に就任

 ニカラグア大統領ダニエル・オルテガ(71)と、新副大統領ロサリオ・ムリージョ(オルテガ夫人)が1月10日、就任した。任期は5年。オルテガは連続3期目。サンディニスタ革命政権期の1980年代を含めれば4期目となる。

 就任式はマナグア中心部の革命広場で催された。ラ米からは、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ、ボリビアのエボ・モラレス、エル・サルバドールのサルバドール・サンチェス=セレーン、オンドゥーラスのフアン・エルナンデスの各大統領、クーバのミゲル・ディアスカネル第一副議長らが出席。ハイチのミシェル・マルテリー元大統領も式に出た。

 台湾の蔡英文総統、北朝鮮高官、ロシア特使も出席、日本からは土屋品子特使(自民党衆議院議員、日ニカ友好議員連盟会員)と、NGOピースボート国際コーディネイター草深比呂至が出席した。

 マドゥーロ大統領は、マナグア空港到着に際し、「10年前にウーゴ・チャベス大統領が来て、ニカラグアに新し時代が始まったと言った。チャベスが始めた<大なる祖国ラ米>政策がニカラグアの社会政策を支援した。オルテガ政権の成果は大なる祖国の勝利だ」と述べた。

 現地では、知識人、市民団体などの組織「G27」(27人グループ)や、野党「民主拡大戦線」(FAD)など反オルテガ勢力が、反政権闘争を開始すると宣言した。

 最大援助国ベネスエラの経済危機でニカラグアは資金難に陥っている。また米議会で現在、「政治民主化」を国際金融機関の対ニカラグア融資の条件とする「ニカ法」の審議が続いている。法案成立を阻止したいオルテガ政権は米企業を雇い、米議会内でロビー活動を展開中。

 政権党サンディニスタ民族解放戦線(FSLN)は一院制国会で91議席中、71議席を握っている。最高裁を始め司法機関も政権の影響下にある。

 オルテガが初めて夫人を副大統領にしたことについて、「一族独裁支配の方向性が見えた」との批判が内外で強まっている。だがオルテガ以外にニカラグアの貧困問題を解決できる政治家が見当たらないのも事実。昨年11月の大統領選挙でオルテガは72・5%の得票を記録した。選管は投票率を62%と発表した。だが野党は30%と推定している。

 貧困率はオルテガ政権下で42・5%から29・6%に、極貧率は14・6%から8・3%へ、それぞれ下がった。国民の7割が貧困でない経済状態にあるわけだが、貧困から非貧困層に上昇した「新非貧困者」の生活は依然厳しいと指摘されている。

◎ダニエル・オルテガ大統領就任演説

 オルテガは就任演説で、まず「ニカラグアでもは女性に発言権がある」として、夫人で副大統領のロサリオ・ムリージョに発言を促した。ムリージョは「同胞女性たちよ、共に歩もう」と呼び掛けた。オルテガは次いでミゲル・オバンド枢機卿に、神の祝福を求め、それが済んでから演説を始めた。以下は、その要旨。

 1980年代に米国が仕掛けた内戦のさなか、サンディニスタ政権は国際司法裁判所に米国を訴えた。同裁判所は、レーガン政権の米国に内戦介入を止め、賠償金を支払うよう命じた。その時点で被害額は170億ドルだった。米政府は判決に従わないまま今日に至るが、いつの日か米国が判決に応じるという希望を抱き続けている。

 われわれ中米諸国首脳は米国の圧力に歯向かって、内戦和平を中米主導で進め、成果を挙げた。

 1990年に発足したチャモロ政権は、われわれサンディニスタ政権の業績、痕跡をすべて消し去ろうと試みたが、叶わなかった。人民がそれを許さなかったからだ。

  われわれには、街頭行動によってチャモロ、アレマン、ボラーニョ3代政権を倒す力があったが、政権奪取のための実力行使はしなかった。この国の民主がサンディニスタ革命によってもたらされたという事実にわれわれが深く関与していたからだ。

 3代政権は和平合意と混合経済を伴っていた。内戦の廃墟の困難な状況の下で生まれた3代政権が民間企業の投資を再開させた業績は認めよう。

 今日われわは、米拡張主義が押し付けた(ソモサ3代独裁のような)独裁の打倒ではなく、貧困と飢餓を無くすために団結して闘おう。平和と福利のために闘おう。

◎マナグアでFSP会合開く

 大統領就任式に出席したラ米諸国の左翼政党、労連など40団体代表は1月11~12日、マナグアでフォロ・デ・サンパウロ(FSP=サンパウロフォーラム)会合を開く。議題は、ラ米、とりわけ南米諸国の右傾化、左翼勢力の巻き返し戦略など。

 FSPは昨年12月17日ベルリンで、欧州左翼政党連合と初めて会合、協力関係の強化で一致した。同連合は2004年に発足、19政党が加盟している。双方は今年半ばマナグアで第2回会合を開く。 
 
   

2017年1月10日火曜日

ボリビアに初の先住民自治市が誕生

 ボリビアで1月8日、最初の先住民主体の自治体が発足した。ムニシピオ(市)の資格を持つ。エボ・モラレス大統領が2009年に制定した新憲法は「多民族国家ボリビア」を規定しているが、その理想を新自治体は具現化した。

 自治体は「チャラグア・イヤンバエ・グアラニー自治市」で、市民3万2000人の7割近くは先住民族グアラニー人が占める。サンタクルース州内にあり、従来はチャラグア市だった。面積は7万4400km2と広大。

 チャラグア市は09年12月、先住民中心の市への移行の是非を問う住民投票を将来実施することを決め、15年9月実施、賛成多数で移行を決めた。

 自治体の政治機構は、①集落、地域、市全体の3段階の「集団決定機関」としての住民会議②市議会③行政府④行政責任者、の4機関で構成される。①は直接民主形態である参加型決定機関で、代議員27人は任期3年。②は議員12人(男女半々)で、任期5年。③は6人で、任期5年。④は1人で、任期3年。いずれも自由選挙で選ばれる。

 自治体発足式に出席したアルバロ・ガルシア=リネア副大統領は祝辞で、「グアラニーは700年前にパラグアイ方面から来た。幾多の苦難、差別、涙があった。ここに至る道は容易なものではなかった。きょうは歴史的瞬間だ」と讃えた。

 副大統領はまた、「参加型直接民主制度の最初の市であるが、効率的に施政するのは簡単なことではない。先例として模範になるかどうか、全国から注目されている」と激励。さらに、「しかしボリビア政府の施政の下にあることを忘れないでほしい」と注意を促した。

 この日まず、市の47部署の担当者が就任した。グアラニー幹部は、「新市制によって、少数者の一族による差別的・排他的支配制度が葬られた」と、民主化の成果を指摘した。モラレス政権は、同様の自治市を増やしていく方針だ。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラが「対クーデター・コマンド」を創設

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は1月8日、タレク・エル-アイサミ副大統領管轄下に「対ゴルペ(クーデター)特殊コマンド」を新設すると発表した。同大統領の残る任期は19年1月までの2年間だが、野党連合MUDをはじめとする反政府勢力を抑え込めば、エル-アイサミが後継者として浮かび上がることになる。

 大統領は、「ベネスエラはLAC(ラ米・カリブ)安定のための堅固な基盤だ。オバーマはボリバリアーナ革命を潰そうとして果たせなかったが、成功していたらLACは悲惨な状況に陥っていただろう」と述べた、

 マドゥーロはまた、最低賃金を50%引き上げ、月4万638bf(約60米ドル)にすると明らかにした。インフレの進行で、庶民の生活は楽でない。

  一方、野党連合MUDが圧倒的多数派の国会(フリオ・ボルヘス議長)は9日、マドゥーロ大統領が「職務を放棄した」とする決議を賛成106で可決。大統領選挙の早期実施を要求した。MUDは、大統領罷免の是非を問う国民投票を大統領が1月10日までに実施するのを意図的に怠ったとして「職務放棄」を宣言した。

▼ラ米短信   ◎FARCは大統領候補を擁立しない

 FARC最高司令ティモチェンコは1月8日、2018年実施の大統領選挙でのFARC候補の出馬はないと前置きし、「和平合意を遵守し遂行する候補を支援する」と述べた。

 昨年10月初めの国民投票で和平賛成派が僅差で敗れたことについては、「FARCは一貫して国民投票実施に反対していた。サントス(大統領)は案の定、十分な支持が得られなかった」と語った。

▼ラ米短信  ◎クーバ内相が死去

 クーバのカルロス・フェルナンデス=ゴンディーン内相(78、革命軍中将)が1月7日病死した。角栄戦争中からのラウール現議長の部下で、アンゴラ戦争で戦功を挙げた。15年10月から内相の地位にあった。

 同内相は今月5日実施された革命国家警察(PNR)創設58周年記念日の行事に出席せず、容体が危ぶまれていた。

 新内相には9日、第一副内相フリオセサル・ガンダリージャ海軍中将が昇格した。対軍事諜報の専門家。
 
 

 

2017年1月9日月曜日

エクアドルが国連G77議長国に13日就任

 エクアドール(赤道国)は1月13日、国連内の最大国家集団「G77」(発展途上77カ国グループ)の議長国に就任する。ラファエル・コレア大統領が同日、国連に赴き、就任式に出席する。任期は1年。

 同国は昨年9月、議長国に選ばれた。G77には、国連加盟193カ国中134カ国が加盟している。安保理常任理事国の中国と密接な関係にある。

 コレアは今月で大統領就任10年となるが、5月24日に退陣する。G77議長をその日まで務めるが、残り任期は、2月19日の大統領選挙で決まる次期大統領が引き継ぐことになる。

 G77議長としての最初の重要な任務の一つは、今月25日、ドミニカ共和国(RD)東部の保養地プンタ・カナ(カナ岬)で開かれる第5回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)首脳会議への出席。大統領としても同首脳会議への最後の出席機会となる。

 コレアはその後、イタリア、スイス、スペインを歴訪。2月7日には、Jモイーズ・ハイチ新大統領の就任式に出席する。さらにクーバ、亜国、フランスなども訪れる予定。

▼ラ米短信  ◎中米2カ国が関税同盟

 中米のグアテマラとオンドゥーラス(ホンジュラス)は昨年末、関税撤廃で98%合意し、カリブ海岸地方のグアテマラ・イサバル県とオンドゥーラス・コルテス県を結ぶコリント国境で近く、人間と物資の通過を自由化する。

 ことし7月には、関税自由化を完成させる。両国間の国境線は、相互に開放されることになる。両国はエル・サルバドールに関税同盟への参加を呼び掛けている。

 3国は「中米北部三角形」と呼ばれる。中米諸国は、中米統合機構(SICA=シカ)を通じ地域統合への歩みを続けているが、中米北部両国の関税同盟到達は統合への大きな一歩となる、と期待されている。

2017年1月8日日曜日

社会不安・トランプの内憂外患でメキシコ深刻

 メヒコは内に社会不安、外にトランプ次期米政権という内憂外患を抱え、エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領の不人気も手伝って極めて困難な状況に陥っている。

 EPN政権は元日、財源確保のためガソリンを20%値上げした。これにより全国で抗議行動が起きている。トラック、バス、タクシーなどの輸送業界がまず反対。他の業界も輸送費値上げで物資値上げにつながると抗議している。

 日ごろ失業、インフレ、犯罪激発、腐敗や、政府自体が法治を蹂躙している事実などから不満が鬱積している庶民は、ガソリン値上げを契機に怒り、全国各地でスペルメルカード(スーパーマーケット)や商店を略奪している。

 内務省の6日の発表では、2000店舗以上が略奪され、警察は1500人を逮捕した。略奪事件は首都メヒコ市および、メヒコ、イダルゴ、ベラクルース、タバスコ、ケレタロー、ミチョアカン、キンタナロー、チアパス各州で多発。略奪した市民4人と、取締の警官1人が死亡している。

 内務省は、社会メディア網を用いて略奪を煽動したり、偽情報を「噂」として流したりした発信元を摘発しており、既に1500件で関与者を突き止めたという。
 
 首都では6日、4万人がガソリン値上げと社会不安に抗議して行進。モンテレイ市では1万人が行進した。激しい反対・抗議と社会不安を招いた今回のガソリン値上げは「ガソリナソ」と呼ばれている。

 一方、ドナルド・トランプ次期大統領は5日、メヒコとの北米自由貿易条約(TLCAN、英語ではNAFTA=北米自由貿易協定)の見直し交渉の一環として、「米墨国境の壁を建設、その費用として50~100億ドルをメヒコに支払わせるべく話し合う」と発言。「壁建設問題」が再び脚光を浴びている。

 ビセンテ・フォックス元墨大統領は6日、「メヒコが建設費を支払うことはない」と一蹴。さらに、「人種主義の壁だ。建設されることはあるまい」と指摘した。

 米墨国境は3200km。米国には「安全柵建設法」があり、これに基き、同国境線1250kmdで建設が済んだか、進んでいるかしている。

 だがトランプが主張する壁は建設費がかかり過ぎるためなどから非現実的で、米議会を通らないと見る意見が多い。このため、トランプは柵建設法を遂行することになるのではないか、との見方が出ている。

  

 
 

2017年1月6日金曜日

19世紀創刊のパナマ伝統紙が廃刊を当面免れる

 1867年創刊でラ米で最も古い新聞の一つであるパナマの「ラ・エストゥレージャ・デ・パナマ」(パナマの星)および、同じ経営母体の下にある「エル・シグロ」(世紀)紙が廃刊の危機を当面免れた。

 両紙は、レバノン系パナマ人実業家アブドゥル・ワケド氏が経営する企業集団「グルーポ・ワケド」傘下にある。「パナマの星」紙は2006年にワケド財閥に買収された。

 事の起こりは、麻薬資金洗浄の疑いで米財務省の「特別麻薬取引関与指定」(SDNT)を08年4月受けていたワケドが昨年6月、両紙発行に必要な資金繰りをこの1月6日をもって禁止すると同省から言い渡されたこと。
 両紙は5日、最終号の編集に携わっていた。だが事態を憂慮したパナマ政府と議会が米側に善処を求めたことから、財務省は5日、禁止発効日を7月13日まで延期した。これにより両紙は半年余りの延命が可能になった。

 米政府はパナマ市の大使館を通じてパナマ側に、両紙が存続し続ける最良の方法は身売りし、ワケドグループを離れること、と勧告している。

 ワケド財閥は、両紙のほか、商業施設、銀行、不動産、コロン自由貿易地域内の免税店などを所有している。

 米財務省は、ワケドの甥ニダル・ワケドも資金洗浄でSDNT名簿に加えており、フロリダ州の法廷は出頭をニダルに命じている。ニダルは去年5月コロンビアで逮捕され、身柄引き渡しの対象になっている。

 パナマと米国の有識者は、両紙廃刊の危機を「民主の危機」と捉え、両紙存続を支持している。

▼ラ米短信  ◎FARC集結に備え、宿泊所建設へ

 コロンビアのJMサントス大統領は1月5日、メタ州メセ―タスにある和平実施「監視・検証」本部で記者会見し、FARC要員の集結地として全国に19地域および17地点を設けたと前置きし、同地域の広さは平均11平方km、地点を合わせ全体で約300平方kmになると明らかにした。

 また17地区には、FARC要員の宿泊施設を建設するとし、既に関係業者と契約していると述べた。FARC要員一日一人当たりの食費は1万6000ペソで、食糧・食材として渡し、要員が自炊することになるという。

 大統領は、すでに帰順した要員2500人が健康保険制度に組み込まれ、医療手当を受けていると語った。

 監視・検証拠点は24カ所で、監視員は全国対象58人、地域対象264人、地区対象225人。監視団の自動車は93台、監視団の安全保障用に76台が、それぞれ用意されている。

 和平実施は、コロンビア政府、FARC、国連の3者が一体となって遂行。国連監視団は450人で、うち280人は既に入国している。

 一方、国連は5日、入国済みのポルトガル人監視団員ら4人を解任した。FARC主力はコロンビア北東端のグアヒーラ州コネホに
居るが、同地での大晦日のFARC祝賀パーティーで同4人が女性ゲリラと踊ったのを咎められたため。

 そのビデオが流されたため、事実が明らかになった。コロンビア政府は「監視団の中立性が脅かされる」と抗議。これを受けて国連は4人を処分した。4人は出国する。
   

2017年1月5日木曜日

メキシコ新外相にトランプ人脈あるルイス・ビデガライ任命

  メヒコのエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は1月4日、外相にルイス・ビデガライ前財務相(48)を任命した。ビデガライは昨年8月末にメヒコ市でEPNと、当時、米大統領候補だったドナルド・トランプ次期大統領を引き合わせた人物。外相任命には、トランプとの人脈を活かし、波乱含みの墨米関係を何とかしたいとのEPNの必死の願いがある。

 トランプは選挙戦で「米墨国境地帯に密入国防止用の高い壁を築く」と述べ、メヒコ人不法滞在者を扱き下ろし、人気を勝ち得た。移民規制に次いで、北米自由貿易条約(TLCAN=テエレカン)=英語ではNAFTA(北米自由貿易協定)=の見直しを打ち出し、当選後にはメヒコに工場進出しようとしていた米生産業社に圧力を掛け、進出を翻意させてきた。

 この1月3日にも、メヒコ中部サンルイスポトシー州に経費1600万ドルの工場進出をしようとしていたフォードを翻意させた。ビデガライ任命発表は、その翌日だった。メヒコの危機感を示している。

 昨年8月のEPN・トランプ会談は、ビデガライがトランプ経営陣に持つ人脈を通じて実現させた。だが、メヒコ人を低く見る発言をしていたトランプを招き、ヒラリー・クリンントン陣営と疎遠になった、と厳しい非難の渦が巻き起こった。ビデガライは9月初め、辞任に追い込まれた。

 するとトランプは、「メヒコは優れた財務相を失った。ルイスとならば米墨関係は改善されよう」という趣旨の書き込みをした。そのトランプは11月に当選、ビデガライ復権の兆しが見え始める。

 当時のクラウディア・ルイス=マシュー外相は、米加両国とTLCAN・NAFTAを結んだカルロス・サリーナス元大統領の姪だが、トランプの8月来訪に激しく反対していた。トランプ当選で、彼女の立場は失われた。

 だが、ビデガライ外相が難題だらけの対米関係を改善できるという保証はない。もし成功すれば、来年7月の次期大統領選挙の政権党PRI候補になると見込まれている。

 一方には、「今回の外相交代は、トランプが最初に打ったメヒコ政府人事だ」との痛烈な皮肉も出るなど、EPNの施策に同意しない意見も強くある。ビデガライはエコノミストで、キャリア外交官でないという点も不安材料と見られている。

 一方、サリーナス元大統領は4日、TLCAN交渉中、ブッシュ(父)米大統領から石油も交渉対象に加えようと持ちかけられたが拒否した、と明らかにした。姪の外相降板を受けての発言だ。メヒコは元日のガソリン値上げにより全土で反対行動が起きている。サリーナスは、ガソリン値上げ問題も踏まえて発言している。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラ執権副大統領にエルアイサミ就任

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は1月4日、大統領に昇格する資格を持つ執権副大統領に、これまでアラグア州知事だったタレク・エルアイサミ(42)を任命した。マドゥーロ大統領の任期は19年1月までだが、今後万が一、退陣に追い込まれた場合、エルアイサミが大統領に昇格する。

 エルアイサミはシリア・レバノン系で、メリダ州出身。メリダのロスアンデス大学(ULA)で法律と犯罪学を修めた弁護士。2005年に政権党PSUVの国会議員、その後、治安担当副内相、内相を務め、12年からアラグア州知事だった。

 マドゥーロ大統領は、エルアイサミの犯罪撲滅の手腕に期待している。経済状態の早期向上は望めそうもないが、治安立て直しが成れば、政府と政権党への支持が回復する可能性が見込めるからだ。

 この人事に伴い、11閣僚が交代した。これまで執権副大統領だったアリストーブロ・イズトゥーリスはコムーナ(コミューン)・社会労働相、バリーナス州知事のアダン・チャベス(前大統領の実兄)は文化相、石油相にネルソン・マルティネス(CITGO社長)が、それぞれ就任した。

 有力国会議員エリーアス・ハウアは教育相。チャベス前大統領の女婿ホルヘ・アレアサ(元執権副大統領)は大学教育・科学技術相を解かれた。労相、保健相、経済・財務相、環境社会主義・水利相、公共事業相、都市農業相も交代した。

チェ・ゲバラに賛同したアルゼンチン人画家シロ・ブストス死去

 1960年代に革命家エルネスト・チェ・ゲバラの命を受けて活動した亜国人画家シロ・ブストス(84)が1月1日、亡命生活を送っていたスウェーデン南部マルメ市の自宅で死去した。3日明らかにされたが、死因は心臓発作だった。

 シロは1932年、亜国中西部アンデス山脈沿いのメンドサ市で生まれた。同市にある国立クジョ大学芸術学部に学び、画家になった。61年、亜国芸術家・作家訪問団の一員として革命後間もないクーバを訪問する。

 同国人で、チェの親友だった医師アルベルト・グラナードと知り合い、チェに紹介された。グラナードは、チェの第1回南米旅行の同伴者で、ベネスエラで医師をしていたが、クーバ革命成功後、ハバナに移住していた。

 シロは同年再度訪玖、チェから亜国内にゲリラ拠点を構築するのに協力するよう求められ、承諾する。チェはクーバ国籍を与えられていたが、紛れもない亜国人だった。

 チェ、ジャーナリストとしてハバナで活動、通信社プレンサ・ラティ-ナを率いたこともある亜国人ホルヘ=リカルド・マセッティ、グラナード、シロの亜国人4人は「人民ゲリラ軍」(EGP)結成で合意、グラナードとシロは亜国で結成準備に当たる。

 チェは将来の南米でのゲリラ活動に備え、ペルー、ボリビア、亜国、ブラジルなど南米中南部にまたがる広大な戦線構築を構想していた。

 1963年、EGPはボリビア南部から国境を越え、亜国北部のサルタ州高地で拠点を設ける。マセッティが司令だったが、EGPの活動が定着したら、チェが最高司令に収まることになっていた。

 ところがEGPは存在を察知され、スパイも紛れこみ、64年4月、亜国国境警備隊によって壊滅させられた。シロは逃げおおせ、ウルグアイで地下生活を送る。だがチェとの連絡は維持していた。

 1966年11月、ボリビア・サンタクルース州ニャンカウアスー渓谷にゲリラ拠点を設営したチェは、シロを招く。シロは67年3月、ラパスで仏知識人レジ・ドゥブレと落ち合い、女性工作員タニアの案内でチェの陣地に到達する。

 当時、ボリビア軍はチェのボリビア民族解放軍(ELN-B)の存在を確認、小規模な戦闘が始まっていた。そんなさなかの4月下旬、シロはドゥブレおよび、取材に来ていた英国系チレ人フォトジャーナリスト、ジョージ・ロスの3人で脱出を図るが、ボリビア軍に捕えられてしまう。

 ロスは報道人として釈放されるが、シロとドゥブレは自白を迫られる。2人は自白し、シロはチェ以下、ゲリラの面々の似顔絵を描く。裁判で2人は禁錮30年の実刑判決を受け、服役する。チェは67年10月8日捕えられ、9日処刑された。

 1970年、ボリビアにフアン=ホセ・トーレス将軍大統領の人民政権が登場、シロとドゥブレは同年12月恩赦されて、発足したばかりのアジェンデ社会主義政権のチレに行き、サルバドール・アジェンデ大統領に迎えられた。

 ドゥブレはフランスに帰国、シロはアンデス山脈を越え、故郷メンドサに潜伏する。亜国ではペロン派左翼のカンポラ政権に続いてフアン=ドミンゴ・ペロン退役将軍が73年政権に就く。だが翌年死去し、夫人イサベル・ペロンが副大統領から昇格する。

 ペロン夫妻の腹心だったホセ・ロペス=レガはペロン派極右で、暗殺組織AAA(亜国反共同盟)を結成、左翼狩りを展開していた。76年3月、イサベル政権はクーデターで崩壊、ビデラ極右軍政が発足する。

 命を狙われていたシロはブエノスアイレスのスウェーデン大使館に亡命、同国に渡り、画家として暮らした。その後、チェの遺族や研究者から、シロとドゥブレが裏切ったからELN-Bは全滅しチェは殺された、との非難が起きた。

 スウェーデンのメディアは2001年、ドキュメンタリー「誰がチェ・ゲバラを裏切ったのか」を製作。チェの最期の場ラ・イゲラ村に居たボリビア軍士官ガリー・プラード(その後将軍)、クーバ系CIA要員フェリックス・ロドリゲス、ドゥブレ、シロらにインタビューした。

 プラードとロドリゲスは、シロとドゥブレの供述や似顔絵は必要なかったと語っている。シロは、ボリビア軍を欺くため実在しないゲリラ2人の顔も書き込んでいたと証言している。

 シロは07年、『チェは君に会いたがっている』と題した自伝を西語で刊行。13年6月、その英語版刊行に際してシロはロンドンの亜国大使館で記者会見し、「誰もチェを裏切ってはいない。ボリビア軍部はすべてを知っていた」と語った。

 シロは元日、家族との祝宴に参加、一人暮らしの自宅に帰ってから息を引き取り、数奇な生涯に終止符を打った。
 

2017年1月4日水曜日

ハイチ次期大統領はバナナ業者ジョヴネル・モイーズ

  アイチ(ハイチ)の選管である暫定選挙理事会(CEP)は1月3日、昨年11月20日実施の大統領選挙最終結果を発表、得票率55・6%で過半数を上回ったジョヴネル・モイーズ候補(48)を当選者と認定した。2月7日に就任、任期は5年。

 モイーズは裕福なバナナ業者。ミシェル・マルテリー元大統領の政権党「テトゥ・カレ・アイチ党」(PHTK)から出馬した。「テトゥ・カレ」はスキンヘッドを意味し、著名な歌手でもあるマルテリーの風貌に由来する。

 この大統領選挙は1昨年10月実施されたものが、モイーズ陣営による大規模な不正が発覚して無効となり、昨年2度の延期を経て11月ようやく新規実施された。

 マルテリーは任期満了で昨年2月退陣、その後は上院議長だったジョスレム・プリヴェールが暫定大統領になっていた。

 CEP発表に先立ち、選挙裁判所は「今選挙に不正はあったが、野党勢力が主張するほど大規模ではなかった」とし、選挙を有効と判断していた。

 選挙には27人が出馬したが、得票2位のジュディ・セレスタン(得票率19・57%、LAPEH党)ら野党有力候補たちは、大規模な不正を訴えていた。

 投票率は、わずか21%だった。モイーズの得票はその半分強であり、有権者全体の1割程度の支持で政権に就くことになる。このため次期政権は波乱含みになると予測されている。

 モイーズは記者会見し、発展、平和・秩序のために働くと強調。野党勢力に団結と政策協力を呼び掛けた。

 アイチは1804年元日に独立。米州では米国に次ぎ2番目に早い独立だが、依然今日、米州およびラ米の最貧国に留まっている。旧宗主国フランスによる収奪、その後の事実上の宗主国・米国による介入と収奪、米国によるデュヴァリエ父子2代長期独裁支援、民主化後の米国の政治介入、大震災・ハリケーンなど天変地異が原因と考えられている。

▼ラ米短信   ◎エクアドールで大統領選挙戦始まる

 エクアドール大統領選選挙は2月19日実施されるが、1月3日、その公式選挙戦が始まった。8人が出馬しているが、
有力候補は3人。

 ラファエル・コレア現大統領(53)の政権党パイース同盟(AP)の候補レニーン・モレーノ元副大統領(63)は支持率29~36%で、優位にある。2番手は元銀行頭取の保守・右翼ギジェルモ・ラッソで、18~22%。3番手は左翼の女性候補シンシア・ビテリで、11~19%。これに中道の元キト市長フランシスコ・モンカーヨ退役将軍(7~15%)が続く。




 

2017年1月3日火曜日

キューバで革命軍および「戦う人民」が大行進

 第58回革命記念日翌日の1月2日、ハバナのホセ・マルティ革命広場で軍事観閲式と「戦う人民」行進が約2時間に亘って繰り広げられ、数十万人が参加した。

 1か月前の12月2日は、故フィデル・カストロ以下82人のゲリラ戦士部隊が1956年にクルーザー「グランマ号」でクーバ島東部に上陸、革命戦争を始めた日。昨年は、11月25日に90歳で死去したフィデルの国喪期間だったため、ひと月遅れて記念行事が挙行された。12月2日は「反乱軍(革命後は革命軍)創立記念日」とされている。

 今回の行事は叛乱軍創設60周年だけでなく、フィデルへの栄誉礼の意味も込められていた。マルティ像から見て、広場向かい側の右にある革命軍省の壁面には、革命戦争中のフィデル、グランマ号、マエストラ山脈を写した巨大な写真の幕が掲げられた。

 広場中央の特設画面には、ヒロン浜侵攻部隊を迎え撃つ革命軍を指揮するフィデルの映像などが流されていた。

 式典は暑い日差しを避けるため早朝に始まった。マルティ像真下の幹部および貴賓席にはラウール・カストロ国家評議会議長(85)以下、革命軍、共産党、政府、国会の最高幹部が勢ぞろい。招待席には外交団、FARC最高司令ティモチェンコ、FARC幹部イバン・マルケスらが並んだ。

 この日唯一の演説者は、大学生連盟(FEU)のジェニファー・ベーヨ議長。世代交代を急ぐラウールの意向で、革命体制を若者たちが担ってゆくことを象徴させるため若者代表が選ばれた。FEUは1950年代、ハバナ大学生を中心に「革命幹部会」を結成し、革命に参加した歴史を持つ。

 ジェニファーは演説で「クーバは原則で譲歩することはない」、「対米接近過程の道程は長い。経済封鎖、グアンタナモ基地返還などを要求してゆく」、「反帝国主義を掲げ、全人民戦争戦略を維持する」など、ラウール政権の立場を代弁した。

 これは20日就任するドナルド・トランプ次期米大統領に向けた明らかなメンサヘ(メッセージ)だ。

 軍事行進に先立ち、19世紀のクーバ独立軍の騎兵隊を装った騎馬隊から始まり、複製のグランマ号、ゲリラ部隊を摸した縦隊などが行進。各種軍事学校生、陸軍、特殊部隊、海軍、内務省部隊、女性民兵隊などが観閲を受けた。

 部隊はいずれも自動小銃程度の軽装備で、戦車、地対空ミサイルなどの重兵器類は一切登場しなかった。燃料節約のためだ。

 観閲式に続いて、「戦う人民」行進。労働者、スポーツ選手、専門職、中学生、共産主義青年同盟(UJC)、革命防衛委員会(CDR)、家族連れ市民らの太い行列が延々と続いた。

 「私はフィデル」のスローガンを叫び、「私たちはフィデル」の横断幕が掲げられていた。フィデル、ラウール、JAメーヨ(旧共産党創設者、1929年メヒコ市で暗殺)、カミーロ・シエンフエゴス、エルネスト・チェ・ゲバラの大きな肖像写真もあった。

 ハバナ市内の国立ハバナ大劇場では、アリシア・アロンソ(96)率いる玖国立バレエ団が、革命記念日公演として「カスカヌエセス」を演じた。

2017年1月2日月曜日

ボリビア大統領が国連安保理非常任理事国就任に際し、「世界人民の声になる」と強調

 ボリビアは2017年元日、国連安保理非常任理事国となった。ラ米枠のベネスエラと交代、任期は18年末までの2年間。

 ボリビアは昨年6月、国連総会で193カ国中183カ国の支持を得て選ばれた。64~65年、78~79年に次いで3回目。ラ米のもう一カ国はウルグアイ。

 エボ・モラエス大統領は、非常任理事国就任に際し、「ボリビアは安保理で世界人民の声となって、侵略者も被侵略者もいない地球をつくるために闘う」、「就任は、諸国人民を侵し資源を奪うため戦争を仕掛ける者たちを思想で爆撃する好機だ」と述べた。

 ボリビアは当面の重要課題としてコロンビア和平、ハイチ情勢、西サハラ問題、パレスティーナ問題を挙げている。

 非常任理事国の役割を終えたベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は元日、ボリビアを祝福。さらに新年演奏会でウィーンフィルハーモニーを指揮したグスタボ・ドゥダメルを「国の誇り」と讃えた。

▼ラ米短信  ◎メヒコがガソリン値上げ

 メヒコは元日、ガソリンを14・2~20・1%、ディ-ゼルを16・5%、それぞれ値上げした。国際原油価格上昇を値上げの理由としている。だが、国営石油会社PEMEXの生産政策の失敗を指摘する批判が高まっている。

 全国の給油所で抗議行動が起きている。今回のガソリン値上げは、生活を痛めつけるという意味で「ガソリナソ」と呼ばれている。

▼ラ米短信  ◎先住民の大統領候補は5月決定へ

 サンクリストーバル・デ・ラスカサス市で年末から会合を開いていたEZLN(サパティスタ民族解放軍)と全国先住民会議(CNI)は元日、「先住民施政理事会」(CIG)設置および、来年7月の大統領選挙に出馬する女性の先住民統一候補を5月の次回会合で指名することを決めた。

 先住民66集団が加盟するCNIは昨年10~12月、全国523共同体で先住民と話し合い、政治参加について協議してきた。

▼ラ米短信  ◎クーバが革命58周年迎える

 社会主義クーバは元日、革命58周年を迎えた。共産党機関紙グランマは論説で、「故フィデル・カストロの遺志を継いで社会主義建設を進めてゆく」と強調した。2日にはハバナの革命広場で軍事観閲式と人民行進が催される。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は、クーバに祝電を送った。同大統領はまた、元日に213回目の独立記念日を迎えたアイチ(ハイチ) にも祝電を送った。同時に、ウラジーミル・プーチン露大統領から両国協力関係を讃える元日メッセージを受け取ったことも明らかにした。

 ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領もクーバに祝電を送った。オルテガは10日、連続3期目の大統領就任式に臨む。

2017年1月1日日曜日

ベネズエラ政府が「政治囚」7人を釈放

 ベネスエラ政府は12月31日、マヌエル・ロサーレス元スリア州知事ら野党政治家および反政府活動家計7人を釈放した。南米諸国連合(ウナスール)のエルネスト・サンペール事務総長はキトの同連合本部で、「この釈放は、ベネスエラ政府と野党の間で政治対話が進んでいる証左だ」と評価した。

 ロサーレスはチャベス前政権期に、スリア州知事時代に犯したとされる不正蓄財で起訴され、ペルーに亡命していたが、2015年10月帰国、逮捕された。

 他の6人には、2014年2月以降のグアリンバ(街頭暴動)に関与した極右の若者たちが含まれている。彼らは破壊活動などの刑事犯として収監されていたが、自らを「政治囚」と呼ぶ。「他に未釈放の政治囚は103人いる」と語っている。

 一方、カラカス大司教・枢機卿ホルヘ・ウローサ師は30日の年末声明で、「何か重大な過ちがあるようだ。人民が飢えている時に中露両国から武器を買うとは。全体主義的国家制度が国を廃墟の方向に向かわせている」と、マドゥーロ政権を厳しく批判した。

 大司教はまた、「経済政策を見直すべきだ。人民は食べ物を探すためごみ箱をあさる者さえいる。農業を再活性化すべきだ」と指摘。さらに、「政府による国会無視、政治囚などの問題も解決すべきだ」と注文を付けた。ロサーレスらの釈放は、大司教発言の翌日だった。

▼ラ米短信  ◎ボリビア大統領が米国を非難

 エボ・モラレス大統領は12月31日コチャバンバで年末の記者会見に臨み、「私にとって米国大使はすべてCIA要員だ。米国は私の2019年大統領選挙出馬を阻止しようと策謀してきた」と述べた。

 この発言は、その出馬を可能にするための改憲の是非を問う2月の国民投票直前、大統領の旧愛人絡みの醜聞事件が報道された事実を踏まえている。大統領はこの国民投票に僅差で敗れた。

 モラレスはまた、「これは富裕者と貧者、資本主義と社会主義の闘いだ」と強調した。大統領は政権党MASの次期大統領候補に既に指名されており、出馬を可能にする方策を17年に実施する構えだ。

★★★謹賀新年2017
 拙ブログ「現代ラ米情勢」の読者の皆さん、今年もラ米情勢、世界情勢、そして日本情勢を考えてゆきましょう。新年が一層厳しい年になるのは疑いなく、とても「おめでとうございます」と言えません。今年もまた、「よりよい世界創設を目指して」と、アルテルムンディスタ精神を掲げるしかありません。皆さんの心身の健康を祈ります。

 2017年元日 東京にて ジャーナリスト 伊高浩昭