2016年8月31日水曜日

ラ米9ヵ国外相が米政府にキューバ難民促進政策廃棄求める

 ワシントンのエクアドール(赤道国)大使館は8月29日、米国務省にジョン・ケリー長官宛ての書簡を手渡した。米国を目指すクーバ人経済難民の出国を促してきた「クーバ調整法」および「乾いた足・湿った足」政策を見直すよう求めている。

 この画期的な書簡には、エクアドール、コロンビア、ペルー、パナマ、コスタ・リカ、ニカラグア、エル・サルバドール、グアテマラ、メヒコの9カ国外相が署名している。クーバ難民が押し寄せ、かつ通過する諸国で、経済的負担や治安問題で頭を悩ませている。

 外相らは、米国を目指すクーバ人難民問題を話し合う高級会議開催を要求している。

 エクアドールのギヨーム・ロング外相は29日キトで記者会見し、「クーバ難民流出を促す時代錯誤かつクーバ差別の政策に終止符を打つべきだ。(米政府の)政治的意志の問題だ」と指摘した。

 米政府は昨年7月20日の対玖国交再開後も、クーバ牽制・揺さぶり政策の重要な一環として、「玖調整法」と「乾・湿足」政策を維持している。「乾いた足」すなわち米領土に足を踏み入れれば、永住権に繋がる滞在が認められ、「湿った足」つまり海上や河川で阻止されれば退去、送還されるという政策だ。

 クーバおよびラ米諸国は、これを悪法と見なしてきた。だが今回のように多数の外相が連名で米政府に注文を付けたのは初めて
のことだ

★ブラジル短信  ヂウマ・ルセフ大統領弾劾裁判中のブラジル国会上院弾劾法廷のリカルド・レワンドウスキ裁判長(最高裁長官)は8月30日、上院議員81人による弾劾投票を31日実施する、と発表した。

 3分の2の54議員が賛成すれば、弾劾が成立。ミシェル・テメル大統領代行(副大統領)が大統領に昇格し、2019年元日までのルセフ大統領の残り任期を担うことになる。テメル代行は巨額の収賄で追及対象となっている。

 ルセフ大統領は29日、最後の弁護機会に出廷。弾劾は事実上のクーデターだと主張、自分には弾劾に該当する罪状はないと強調した。
  

2016年8月29日月曜日

コロンビア内戦が29日午前零時、歴史的終結

 コロンビア政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は8月29日午前零時、停戦に入った。1960年以来続いていた両者の間の内戦は歴史的な終焉を迎えた。

 フアン=マヌエル・サントス大統領は政府軍にFARCへの攻撃を一切停止するよう命令、「新しい歴史が始まった。銃撃音は止んだ。FARCとの戦は終わった」と述べた。

 ルイス・ビジェガス内相は、「コロンビアにとって過去100年間で最良のニュースだろう」と語った。

 一方、FARC最高司令ティモチェンコはハバナで、政府軍に対する攻撃停止命令を発し、「戦争がもたらした痛みを今あらためて遺憾に思う。きょうから新しいコロンビア建国のため(政府と共に)尽力してゆく。政府軍が二度と人民に銃口を向けないことを!」と強調した。

 FARC武装ゲリラ7500~8000人、および支援部隊8000人は既に全国7ブロックに分かれて集結しているが、今後22地域および6野営地に入り、武装解除に応じる。武装解除、武器弾薬引渡は180日以内に実施され、ゲリラの復員準備が整う。

 国連に委託されたラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)の民・軍派遣団がFARC集結、武装解除に立ち合い、かつ検証する。

 FARCは9月13~19日、南部のサンビセンテデカグアンで第10回ゲリラ幹部会議を開き、政府との和平協定を承認する。これを受けて10月2日、和平協定内容承認の是非を問う国民投票が実施される。

 ゲリラ幹部会議には、ティモチェンコら幹部29人を含む代議員200人が出席する。また内外から招かれた50人も参加する。

 元ゲリラ「四月19日運動」(M19)の最高幹部だったアントニオ・ナバーロ議員は、「最も重要なのはFARCの武装解除が始まることだ」と指摘した。

 国内では、和平に反対するアルバロ・ウリーベ前大統領ら保守・右翼勢力が、国民投票で反対票を投じるよう運動している。

 また、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)は、政府との和平交渉開始への準備を進めている。 

2016年8月28日日曜日

パラグアイで軍人・警官8人殺害、ゲリラEPPの仕業か

 パラグアイ北部で8月27日、軍人・警官8人が待ち伏せ攻撃に遭い、殺害された。政府は、ゲリラ組織「パラグアイ人民軍」(EPP)の仕業と見ている。

 首都アスンシオンの北方約500kmのコンセプシオン県アロジートの未舗装道路で事件は起きた。巡視中の軍・警察合同作戦部隊(FTC)の少尉1人、軍曹7人を乗せた軍用トラックは地雷で破壊され、8人が様子を見るためトラックを降りたところ、機銃掃射された。

 EPPは2008年に活動を開始。今回の8人を入れて軍・警察要員計29人を殺害。牧場主ら文民約30人を葬った。EPPは、要員50~150人の小さな武装組織と見られている。思想傾向は定かでなく、「官製ゲリラ説」も消えていない。いまも警察下士官1人、メノニータ(メノナイト)農民2人を人質にし、身代金を要求している。

 非政府系団体である人民民主会議(CDP)は27日、恐怖を撒き散らしているとFTCの展開を糾弾。北部の問題は軍事的には解決できないと、政府を批判した。

 富豪のオラシオ・カルテス大統領はメヒコ訪問中だったが、留守中の重大事件発生で恥をかかされる形となった。パラグアイ法廷は7月12日、「クルグアティ虐殺事件」(2012年6月)判決で、被告農民11人に4年から30年の禁錮刑を言い渡したが、この事件はカルテスの所属するコロラード党など伝統的支配階層がでっちあげた謀略と見なされている。

 この事件の直後、当時の進歩主義者の大統領フェルナンド・ルーゴは責任をなすりつけられて弾劾、解任された。進歩主義政権を倒すため、事件がでっちあげられたとの見方が定着している。事件で死亡したのは農民11人、警官6人だったが、当局は警官の死亡に関してしか捜査しなかった。また弾道などから「第三者」による発砲の可能性が濃厚だったにも拘わらず、捜査はなされなかった。

 このような政治・社会状況とEPPの存在との関係は解明されていない。

★ブラジル短信  ブラジル国会上院は8月27日、ヂウマ・ルセフ大統領弾劾審理で証人証言を終了、29日の大統領の反対弁論を待つのみとなった。上院議員81人による弾劾投票は30~31日に実施される。

▼ボリビア短信  ボリビアのエボ・モラレス大統領は8月27日、「協同組合所属の鉱山労働者たちは政府打倒のクーデターを画策していた」と非難した。事件関与した鉱夫組織は、仲間同士の通信で「政権打倒」を口にしていたという。

 鉱夫らは25日、ロドルフォ・イヤネス副内相を6時間に亘って拷問した後、殴り殺した。大統領政庁で27日葬儀が執り行われ、大統領は3日間の国喪を宣言した。

★ベネスエラ短信  ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月27日、来訪したイランのムハマド・ザリフ外相と会談、戦略的関同盟関係強化で一致した。両国は金融協力協定などに調印した。大統領はまた、国軍首席将軍ヘスース・ゴンサレスをイラン駐在の新大使に任命した。ザリフ外相はクーバ、ニカラグア、エクアドール、チレ、ボリビアを歴訪、カラカスから帰国の途に就いた。

 マドゥーロは27日の演説で、ボリビアのモラレス大統領に連帯を表明。「米国内からベネスエラにクーデターの陰謀が仕掛けられている」と指摘、その動きを糾弾した。 

メキシコ学生43人強制連行事件、未解決のまま23カ月経過

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26日起きた教員養成学校生43人強制連行・行方不明事件から8月26日で丸2年が過ぎた。政府の捜査妨害により、事件はいまだに解明されていない。

 この日、ゲレロ州都チルパンシンゴでは、学生の家族、教員、学生、支援団体などが抗議行進。若者らは、首都メヒコ市と保養地アカプロコを結ぶ自動車道を2時間遮断、政府と社会に真相解明を訴えた。

 メヒコ市ではアステカ競技場で、ロックバンド14グループが「43人のための声」と題して無料演奏会を催した。支援者らは「43人は生きたまま連行されたのだから、生きたまま生還せねばならない」の合言葉を唱えた。

 9月26日には事件発生丸2年となるが、事件未解明のまま、その日に至る気配が濃厚だ。

★ラ米短信  ハバナで8月26日、第28回玖中経済通商合同委員会が終わった。両国は、李克強中国首相の9月訪玖の準備に入った。

 安倍首相は9月末の訪玖を計画しているが、これに先立って中国首相がクーバを訪れることになるもよう。

▼ラ米短信  オンドゥーラス(ホンジュラス)のマヌエル・セラヤ元大統領は8月25日、来年の大統領選挙に夫人のシオマラ・カストロが出馬すると表明した。

 セラヤは2009年クーデターで政権を追われた。亡命先からの帰国後、自由・再建党(LIBRE=リブレ)を結党、13年の大統領選挙にシオマラ夫人を出馬させた。だがフアン・エルナンデス現大統領に敗れた。

 雪辱を果たすため再度出馬するわけだが、リブレ党内には出馬予定者もおり、セラヤ夫妻の「党私物化」を非難する声が上がっている。

2016年8月26日金曜日

ボリビア副内相が対政府闘争中の鉱山労働者に殺さる

 ボリビア副内相(治安・警察担当)ロドルフォ・イヤネスが8月25日、鉱山労働者に殴打され殺された。全国鉱山協同組合連合(FEDECOMIN、150組合加盟)は、モラレス政権が施行した改訂労組法に反対、ラパス州内で自動車道を遮断するなどして抗議行動を展開していた。

 組合側は同日、政治首都ラパスのあるラパス州南部のパンドゥーロでイヤネス副内相を拉致、人質とし、組合員が新たに死ねば殺すと公言していた。今回の闘争で組合員一人が死亡していたが、25日、また一人が死亡。組合側は副内相を拷問した末に殴り殺した。

 警官隊と組合側は自動車道で対峙。組合側はさらに自動車道脇の丘の上に陣取り、時折ダイナマイトを投げていた。警官隊は催涙弾を数多く発射していたが、混乱の中でなされた発砲で組合員2人が死んだ。

 副内相の遺体は26日未明、政府に引き渡された。警察は組合員約50人を逮捕、副内相殺害に関与した鉱夫らの特定を急いでいる。組合員らは民間資本との協働認可を求めていたが、政府が拒否したため、闘争に出ていた。

★ラ米短信  阪本順治監督、オダギリジョー主演の日本キューバ合作映画「エルネスト」の日本での撮影は8月24日終了、キューバ側チームは25日、帰国の途に就いた。

 阪本監督ら日本側チーム約30人は28日ハバナに向かい、既に現地入りしているオダギリジョーらと合流。撮影は10月半ばまで続く。

 この映画は、チェ・ゲバラの部下としてボリビア山中で戦い、1967年8月31日処刑された日系ボリビア人青年フレディ・マエムラ(前村)=ウルタードの半生を描く。フレディの姉、故マリー・マエムラ=ウルタード・デ・ソラーレスらが書いた『革命の侍』(松枝愛訳、2009年、長崎出版)を基にしている。

 映画は、チェ・ゲバラ処刑50周年の2017年10月9日の時期に合わせて公開される。日本での場面以外は、台詞はすべてスペイン語。フレディ訳のオダギリジョーは西語の特訓を受けてきた。

コロンビア政府とFARCが和平最終合意、内戦に終止符

 コロンビア政府とFARCは8月24日ハバナで、内戦の最終和平合意に至り、ウンベルト・デラカージェ政府首席代表とイバン・マルケスFARC首席代表が合意書に調印した。

 調印式では、中央にブルーノ・ロドリゲス玖外相、その両側に両首席代表と、和平交渉保証国のクーバとノルウェーの代表が並んだ。交渉同伴国のベネスエラ、チレ両国、交渉関与国の米国、欧州連合(EU)などの代表も出席した。

 コロンビアではJMサントス大統領がテレビ演説し、和平合意文書を25日国会に送付、承認されれば10月2日(日)に国民投票にかけると述べた。

 ハバナではFARCのイバン・マルケス司令が演説、「我々は最も美しい戦闘=和平という戦闘に勝った」と強調。2012年11月以来のハバナ交渉で、農村改革、政治参加、麻薬問題、内戦犠牲者(救済)、和平の5点で合意に達したと振り返った。

 マルケスはさらに、和平を妨害する極右準軍部隊(武装組織犯罪集団)の取締りと解体でも合意したとし、準軍部隊が和平実現にとって癌であることを指摘。

 米国に対しては、「長年、コロンビア内戦で政府側について対ゲリラ戦を支援してきたが、和平を支援し続けてほしい」と注文を付けた。また、もう一つのゲリラ組織「民族解放軍」(ELN)が和平に漕ぎつけるのを望む、と語った。

 1960年以来続いてきたコロンビア内戦では、死者23万、行方不明者7万人、国内避難民650万人など夥しい数の被害者、犠牲者が出た。和平によって、ラ米・南米に残る「最後の冷戦構造」が終わることになる。

★ラ米短信  ブラジル国会上院は8月25日、ヂウマ・ルセフ大統領(停職中)の弾劾裁判最終審理過程に入った。31日までに判決が下る見通し。最高裁長官リカルド・レワンドウスキが弾劾法廷の裁判長を務めている。

▼ラ米短信  ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月24日、2013年3月5日癌で死去したウーゴ・チャベス前大統領の人生を描く国産映画を製作する、と発表した。

 米映画会社がチャベスの生き方を歪曲した映画を製作するのが確かであるのに鑑み、綿密な考証を重ねて国産する、と述べた。

2016年8月25日木曜日

イランがニカラグア運河建設事業への投資に関心示す

 イランのムハマド・ザリフ外相は8月23日、ニカラグアのサムエル・サントス外相とマナグアで会談、建設工事中の「ニカラグア大運河」への投資にイランが関心を抱いていることを伝えた。

 この運河工事は香港拠点の中国系企業が2014年12月22日開始したが、資金不足に陥っていると伝えられる。ザリフ外相はクーバ訪問後ニカラグアを訪れたもので、24日にはエクアドールを訪問する。

 コスタ・リカ(CR)のルイス・ソリース大統領は22日ワシントンでバラク・オバーマ米大統領と会談。輸送機、船舶、埠頭、格納庫など、巨額の警備上の援助を得た。

 大統領は、国境、沿岸、領空の警備と、組織犯罪に対処するためであり、ニカラグアを念頭に置いての「軍備強化」ではない、と強調した。ニカラグアはソ連援助により戦車など軍備を増強中。これに対する中米諸国の懸念が高まっていた。

 ソリース大統領はジョー・バイデン米副大統領とも会談、クーバ人経済難民の出国を促している「クーバ調整法」を改廃するよう要請した。米領土に入れば自動的に居住権が得られる同法に引き付けられてCRにクーバ難民8000人が押し掛け、大騒動になった昨今の苦い経験がある。

 クーバで和平交渉中のコロンビア政府とゲリラFARC(コロンビア革命軍)は23日、和平最終合意に達し、24日正式に発表する。交渉筋が23日明らかにした。

 クーバ統計庁によると、今年上半期、外国人観光客214万人が来訪、前年同期比11・7%増し。数が多いのは、加英独西墨伊亜仏の順。クーバのホテルには計6万3000室があり、その7割は4~5星級。民宿も繁盛している。

★ラ米短信  ボリビア・コチャバンバのコカ葉栽培労連「熱帯農民労働者特別連盟」は8月21日、エボ・モラレス大統領を次期大統領候補に指名した。

 モラレスは今年2月、大統領連続再選制限条項を廃止する改憲の是非を問う国民投票で、51・3%の反対で敗れた。現在の大統領支持率は52%で、大統領は国民投票のやり直しを企図している。

▼ラ米短信  ベネスエラのマルガリータ島で9月13~18日、非同盟諸国首脳会議が開かれ、同国のニコラース・マドゥーロ大統領が議長に就任する。任期は3年。

 南部共同市場(メルコスール)の輪番制議長国にベネスエラが7月から就任するのを、パラグアイ、アルゼンチン、ブラジルの右翼・保守3国が阻んでいる。同3国と前議長国ウルグアイはモンテビデオで8月23日、事務方会合を開いて協議したが、3国のベネスエラ拒否姿勢は変わらなかった。

 ベネスエラは24日モンテビデオで新たな事務方会合を提案したが、これにはウルグアイしか応じていない。

 マドゥーロVEN大統領は23日、「3国の中心パラグアイはストロエスネル独裁の流れを汲む政権下にある」とカルテス政権を酷評。同政権はカラカス駐在大使を召還した。

 デルシー・ロドリゲスVEN外相は23日、イラン、カタール、サウディアラビア、オマーン4カ国歴訪を報告。「これら産油諸国でのベネスエラの受けはとてもよかった」と述べた。

 一方、カラカス首都圏ボリーバル区のホルヘ・ロドリゲス区長(政権党PSUV広報官)は22日、マドゥーロ大統領罷免国民投票実施賛成の署名をした国家・地方公務員は48時間以内に馘首される、と述べた。

2016年8月23日火曜日

ジャーナリストの理想型、反骨の、むのたけじ逝く

 私は若い日に、日本と外国の先人ジャーナリストたちから薫陶され影響を受けた。そんな日本人の一人が、むのたけじ(武野武治)だった。8月21日、101歳で死去した。

 私は学生時代、著書『雪と足と』を読み、存在を知った。戦争に抵抗しなかった朝日新聞を敗戦の日に辞め、秋田県横手市で家族と「たいまつ新聞」を発行していた。その苦労・苦闘と喜びの日々が、この本に綴られていた。

 私は、自分のジャーナリストとしての将来像の一部分にむのたけじを入れた。さまざまな理想型のモンタージュが将来像だった。

 ジャーナリストになって四半世紀経ったころ、1990年代前半のある日、私は横手の自宅にむのたけじを訪ね、インタビューした。人間を描くシリーズに登場してもらったのだ。その時の記事がすぐには見つからないため、ここに紹介できないが、印象深い会見だった。

 私は冒頭、学生時代に著書を読んだ時からむのたけじを知っていたことを話した。「ほう、そうでしたか」と嬉しそうに応じてくれたのを記憶している。当時、75歳ぐらいだったはずだ。

 3~4年前のことだが、神田神保町の東京堂でむのたけじの講演会があり、私は参加し、質疑応答もした。その時のメモは、ブログに書いたはずだ。

 私の理想型の基になった内外ジャーナリストは、これで全員が鬼籍に入ってしまった。101歳、むのたけじの反骨の記者人生は、エベレスト山の頂を窮めたようなものだ。

 生前、会えたことを感謝している。御本人と、ジャーナリズムという共通の職業に対してである。
 
 

2016年8月22日月曜日

伊高浩昭記事:LATINAは「米軍パナマ侵攻事件真実究明」

◎最近の伊高浩昭執筆記事など

★月刊「LATINA」誌9月号(8月)20日刊 連載企画「ラ米乱反射」第125回

「パナマ政府が米軍侵攻の実態究明に委員会設置  苦節27年、犠牲者遺族の執念ついに実る」

 1989年12月、ブッシュ米政権がパナマに大規模な軍事侵攻を仕掛け、非公式集計で4000~8000人のパナマ人が殺害されたとされる一大虐殺事件の遺族代表へのインタビューを柱とするルポルタージュ。米軍侵攻場面など写真9点も掲載。

☆同誌書評;アリエル・ドルフマン著『南に向かい、北を求めて』(飯島みどり訳、岩波書店、4700円)

★「週刊金曜日」誌8月19日付 「きんようぶんか」欄 書評

 「南北両米と英西両語の狭間で<二言語人>として葛藤した半生」:アリエル・ドルフマン著『南に向かい、北を求めて』(同上)

★「週刊読書人」紙8月19日付 書評

「著者の人生分けたチリ軍事クーデター  英西両語の内なる苦闘を秘めた半生の記」(同上)

★TBSラジオ「荻上チキ・セッション22」8月18日2245~2345出演

「ブラジル日系社会で70年前に起きた<勝ち組・負け組>事件の真相」

 暗殺に参加した唯一の生存者らへの電話インタビューも含むトーク番組。(私にとっても極めて興味深かった。)

★月刊「LATINA」誌8月号(7月20日刊) 連載企画「ラ米乱反射」第124回

「軍部の支持固め危機乗り切り図るベネズエラ政権  野党勢力は大統領罷免国民投票を目指す」(現地ルポルタージュ)  

2016年8月21日日曜日

イラン外相が21日からキューバなどラ米6カ国を歴訪

 イランのムハマド・ザリフ外相がラ米諸国を歴訪する。8月21日ハバナに到着、ブルーノ・ロドリゲス外相らと会談する。外相にはイラン政府高官、財界人ら60人が同行する。

 ザリフはクーバの後、ニカラグア、エクアドール、チレ、ボリビア、ベネスエラを訪れる。イランのアフマディネジャド前政権期にはベネスエラとの関係が特に緊密だったが、現政権はラ米外交を構築し直そうとしている。

 米アメリカン航空(AA)は19日、クーバ政府から州56便運航を認可されたと発表した。マイアミと、シエンフエゴス、カマグエイ、オルギン、サンタクラーラ、バラデーロの5市を結ぶ便。9月7日に運航を開始する。

 また米ジェットブルー航空は8月31日、フロリダ州とサンタクラーラを結ぶ便を運航する。同社およびAAは、ハバナ便就航はまだ認可されていないと明らかにした。

 一方、反体制派組織「反全体主義連合戦線」(FANTU)代表ギジェルモ・ファリーニャス(54)は、7月20日から断食ストライキを続けていたが18日、体調悪化のため、サンタクラーラで入院、手当てを受けた。

 ファリーニャスは政府に、反体制派および自営業者への「迫害」に抗議してスト入りした。最近、自営業者が検査官に咎められ、営業免許を剥奪されたり、商品を押収されるのが目立っているという。

 スト支援者は、営業免許発給に際しては贈収賄があり、押収された商品が検査官に私される例がある、と指摘している。自営業は、経済改革を進めるラウール・カストロ政権の目玉政策。余剰人員の多い国家公務員を大量に減らし国営部門の軽減化を図るため、自営業や農業への転出が奨励されてきた。

 だが「検査官による取締り強化」は政策の逆行。その原因や理由は今一つ定かでない。

2016年8月20日土曜日

「南」にきつかったカナダでの「世界社会フォーラム」

 社会正義のあるよりよい世界創設を志す世界社会フォーラム(FSM)の第12回大会が8月9~14日、カナダのモントリオールで開かれた。「北」の工業先進国での開催は初めて。問題点が浮き上がった。

 初日は市の中心街を多数の参加者が「アルテルムンディズモ」(よりよい世界を求める思想)の横断幕を掲げて行進。カナダの知識人、ナオミ・クラインも加わった。

 6日間の会合には125カ国から3万5000人が参加したが、主催者が予定した5万人を下回った。ラ米やアフリカなど「南」からは1000人程度しか参加しなかった。旅費や宿泊料が高いのが一つの問題だった。

 またカナダ政府は査証発給を制限、アフリカ人やラ米人の講演予定者230人が入国を拒否された。これが最大の問題。

 FSMは2001年、世界経済フォーラム(WEF、ダヴォス会議)に対抗して始まり、第1回会合が伯南部のポルトアレーグレで開かれた。それから15年、FSMは曲がり角に立っている。

 それはFSMを推進してきたブラジル労働者党がヂウマ・ルセフ大統領弾劾の危機にあることや、強力な支援者だったウーゴ・チャベス前ベネスエラ大統領の死去、亜国政権がペロン派左翼から保守・右翼のマクリ政権に代わったことなどによる。

 また「アラブの春」が色あせ、内戦や混乱を招いたこと、欧州などでの無差別テロリズムの頻発なども原因だ。

 G7の一員カナダでの今会合では、対立を避けるため、環境・気候温暖化、課税回避・脱税、移民など、南北間に共通する問題が議題に選ばれた。これらの議題を中心に22の主要な会合が開かれた。

 だが、ルセフ大統領を弾劾しようとしているブラジル国会による「制度的クーデター」を会合は糾弾できなかった。反対意見があったためだ。こうした点は前回までのFSMと大きな違いだ。

 FSMの発案者の一人、ブラジルの神学者レオナルド・ボフは、「リオ五輪開会式の5日夜は広島の6日朝だった。我々は国際五輪委員会に開会式さなかの黙祷を求めたが拒否された」と明らかにしている。

 ラ米諸国の進歩主義・左翼勢力は、8月26~28日リマで、「ラ米共産党・革命政党会合」を開き、ラ米情勢を総括することにしている。

2016年8月19日金曜日

ボリビアに反帝国主義教える軍事学校が開校

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は8月17日、サンタクルース州ワルネス市での軍事学校開校式で100分間演説、ラ米進歩主義諸国の軍人に反帝国主義教義を教えてゆく、と強調した。

 同市内の国連訓練施設跡地に建設された「フアン=ホセ・トーレス将軍反帝国主義司令学校」は当面、ボリビア人士官候補生71人に4カ月間、教育を施す。士官および下士官を対象とした入学は義務ではないが、昇進に影響する。教科は歴史、地政学、軍事戦略など。

 将来的には定員200人、ボリビア、ベネスエラ、エクアドール、ニカラグアの「米州ボリバリアーナ同盟」(ALBA)のラ米加盟国軍人を教育する。ALBA加盟国クーバは独自の革命教育を持つため、入学しない。式典にはボリビア軍部高官のほか、べネスエラとニカラグアの国防相、エクアドールの副国防相も出席した。

 モラレス大統領は演説で、米国がかつてパナマ運河地帯に維持していた「ラス・アメリカス学校」のような帝国主義の対ラ米恐怖政策伝播に対抗するため開校したと前置きし、「米国が軍事学校で世界支配を教えるならば、我々は帝国主義の抑圧からの解放を教えよう」と述べ、「これは帝国主義に対する人民防衛のための学校だ」と指摘した。

 大統領はまた、「ボリビアは過去にスペイン支配に遭い、その後、英国の間接的攻撃により1879年の太平洋戦争で海岸領土を失う結果となった」、「米国はテロリズモを口実に中東諸国に侵略、ボリビアには麻薬取引を口実に介入してきた。侵略対象は資源豊かな国々、反帝国主義政府のある国々だ」とも語った。

 学校名のトーレス将軍は1970~71年の軍事人民政権大統領。亡命先の亜国で76年、「コンドル作戦」により暗殺された。

▼ラ米短信 クーバ共産党は8月16日、「経済社会政策指針」を改訂、274項目を発表した。「市場関係が客観的に存在する」と認める一方、「私有資産と富の集中は許さない」、「中央集権経済体制は維持する」と釘をさし、「インターネットのサービス改善に努める」とも表明。

 クーバ経済の成長率は上半期、予想をはるかに下回る1%。米国経済との部分的接近が改革に本質的効果を及ぼしていないことや、ベネスエラの政経両面の危機による原油供給減が影響を及ぼしている事実が明白になった。さらに改革に対する官僚層など守旧派の抵抗が依然強いことも浮き彫りになった。

 国内の経済不調によって、改革の歩みは遅く、効果は限定的であり、国民不満は募っている。共産党は5月、「2030年までに中小民間企業を公認する」と打ち出したが、今回、その実現のための行程表は明らかにされなかった。

 

2016年8月18日木曜日

ドミニカ共和国のダニーロ・メディーナ大統領が2期目就任

 ドミニカ共和国(RD=ラ・ドミニカーナ)のダニーロ・メディーナ大統領(64)は8月16日、2期目の任期(4年)に入った。副大統領マルガリータ・セデーニョと共に、その就任式に臨んだ。

 メディーナはドミニカ解放党(PLD)党首で、5月15日の大統領選挙で得票率62%で連続2選されていた。

 就任演説で、過去3年間年率7%の経済成長を遂げ、それによって貧困層を90万人減らしたと強調。46万人に仕事・職場を与えたと自賛し、引き続き、同じ経済社会政策を維持することを約束した。

 就任式には、ベネスエラ、ボリビア、エクアドール、ハイチ、パナマ、オンドゥーラス、グアテマラのラ米7カ国大統領、ジャマイカ首相、クーバ副議長、スペイン前国王らが出席した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は出席に先立つ15日ハバナを訪れ、13日に90歳になったフィデル・カストロ前議長を表敬し、ラウール・カストロ議長と会談した。ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は13日、フィデル誕生日祝賀式典に出席した。

▼ラ米短信  グアテマラ、オンドゥーラス、エル・サルバドールの「中米北部三角形」3国は8月12日、域内で組織犯罪に対処するため3国合同で「治安エリート部隊」を創設することで合意した。

 メディーナRD大統領就任式に出席した首脳たちの間で話題になった。

▼ラ米短信  ウルグアイのロドルフォ・ニン=ノボア外相は8月16日、下院国際関係委員会で証言。7月5日来訪したブラジルのテメル暫定政権のジョゼ・セラ外相から、ウルグアイに有利な通商協定調印と引き換えに、ベネスエラの南部共同市場(メルコスール)議長国就任に反対するよう働きかけられた、と述べた。

 この伯外相の働きかけで、ウルグアイのタバレー・バスケス大統領もニン外相自身も大変な迷惑を被った、とも証言した。

 この工作が暴露されたブラジル政府は大慌て、ウルグアイ駐伯大使を呼び、抗議した。 
  

2016年8月16日火曜日

オダギリジョー主演の日本キューバ合作映画が撮影開始

 ボリビアでエルネスト・チェ・ゲバラのゲリラ部隊「ボリビア民族解放軍」(ELN-B)の一員として戦い1967年8月31日死んだ日系2世のボリビア人医師フレディ・マエムラ(前村)を主人公とする日本クーバ合作の映画「エルネスト」の撮影が日本で始まる。

 8月15日、チェ・ゲバラ役など俳優3人、監督補佐、プロデューサー、化粧係の計6人のクーバ人チームが来日した。一行は、阪本順治監督の下、広島市の原爆記念公園で撮影を開始する。ゲバラが1959年7月、広島を訪れた事実に基づく場面だ。

 日本での撮影は8月末に終了。撮影はクーバに移る。フレディ役の主演オダギリジョーは15日ハバナに向かい、現地での役作りと撮影の準備に入った。台詞はすべてスペイン語。画面には日本語の字幕がつく。

 来年10月9日は、ゲバラ歿後50周年。この時期に合わせて公開される。

 この映画の基には、フレディの実姉マリー・マエムラ(故人)が夫(故人)とともに取材してまとめた原稿を2007年、マリーと、その息子エクトルが完成させたフレディの伝記がある。

 その訳書が2009年8月、東京の長崎出版から『革命の侍』(伊高浩昭監修、松枝愛訳)として刊行された。これを阪本監督が読み、映画化を決めた。

 この日(15日)、到着した一行6人を迎えての歓迎晩餐会が新宿で催された。1968~69年の日玖合作映画「キューバの恋人」(黒木和雄監督、津川雅彦主演)以来47年ぶりの両国合作映画であり、クーバ側も張り切っており、その意気込みを語っていた。

 映画の題名「エルネスト」は、本職が医師だったゲバラの名前であると同時に、ゲバラが同じ医師フレディに付けた戦士名だった。フレディは「エル・メディコ」(医師)とも呼ばれていた。 
 

2016年8月14日日曜日

フィデル・カストロが90歳の日、広島で謝罪せずとオバマを批判

 キューバ革命の指導者フィデル・カストロ前国家評議会議長は8月13日、満90歳の日を迎えた。ハバナ市内のカール・マルクス劇場で市民5000人を集め、国家主催の祝賀会が催された。

 フィデルの右横には、実弟のラウール・カストロ議長(85)、エステバン・ラソ国会議長、ミゲル・ディアス=カネル第一副議長ら、左横には来賓のNマドゥーロVEN大統領夫妻、ホセ=ラモーン・マチャード副議長、ラミーロ・バルデス革命司令官ら指導部が並んだ。

 共産党機関紙グランマは13日付1面に、フィデルが前日書いたメンサヘ(メッセージ)を掲げた。その中でフィデルは、東部の農村ビラーンで90年前に生まれたこと、生い立ち、サンティアゴ市内の中学校時代などを回想してから、核兵器問題に触れた。

 「オバマ米大統領は先ごろ広島を訪問したが、謝罪しなかった。長崎への残虐行為も犯罪だった」と批判。「いかなる大国も大量虐殺を犯す権利を持たない」と続けた。

 劇場ではオマーラ・ポルトゥオンドら歌手が歌い、子どもたちが劇を演じた。ウラディーミル・プーチン露大統領、ダニエル・オルテガNICA大統領、ティモチェンコFARC最高司令らからの祝賀メンサヘが紹介された。

 緑色のシャツに白いジャンパーをまとったフィデルは、「長寿を楽しむ好々爺」のように映っていた。

2016年8月13日土曜日

コロンビア政府とFARCが和平法廷判事選出で合意

 コロンビア政府と、ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)は8月12日、和平交渉中のハバナで、内戦中の犯罪を裁く判事72人を選ぶ5機関として、ローマ法王庁、国連、コロンビア最高裁刑事法廷、和平司法国際センター(ICTJ)、コロンビア大学制度常設委員会を決定した。

 昨年9月23日の「和平特別法制」合意に基づくもので、和平裁判所判事24人(コロンビア人20、外国人4)、和平3法廷判事24人(同18、6)、補欠24人(同19、5)。

 和平法廷は、戦犯の恩赦、減刑、禁錮状態軽減、一般法廷並の重い禁錮を決める。また、内戦法制全般について審理、裁定する。1960年から続く内戦で死者30万人、国内避難民650万人が出ている。

▼ラ米短信 ベネスエラ高裁は8月12日、野党「人民意志」(VP)党首レオポルド・ロペスの禁錮刑を確認した。ロペスは2014年2月、カラカスで激化した街頭暴力事件を教唆した罪などで15年9月、禁錮13年9ヶ月の実刑判決を受け、服役中。弁護団は最高裁に上告する見込み。

▼ラ米短信 世界社会フォーラム(FSM)は8月9~14日の日程で、カナダ・モントリオールで開催中。

▼ラ米短信 クーバ革命の指導者フィデル・カストロ=ルス前国家評議会議長は8月13日で満90歳。年頭から祝賀行事が内外で断続的に続けられてきたが、それが頂点に達する。 

 

2016年8月12日金曜日

ベネズエラ大統領罷免投票は12月~来年2月実施か

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE)のティビサイ・ルセーナ理事長は8月9日、反政府野党連合MUDが提出した大統領罷免国民投票の実施申請に必要な有権者1%(20万人)の署名の検証が終わり、9月16日に申請手続きの次の段階に入るか否かを決める、と明らかにした。

 次の手続きは有権者の20%(400万人)の署名集め。MUDは10月末に同署名簿をCNEに提出、CNEは30日以内に検証する。名簿の正しさが確認されれば、国民投票は90日以内に実施されることになる。つまり12月~来年2月の期間。

 これに対し亜国のマウリシオ・マクリ大統領は「ベネスエラはひどい状態にあり、VEN大統領は新たな大統領選挙実施のため国民投票を速やかに実施せねばならない」と内政干渉発言をした。

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は直ちにマクリ発言を糾弾。マクリがブラジル、パラグアイrと共に、ベネスエラの南部共同市場(メルコス-ル)議長国就任を阻んでいることに触れて、「マクリは米政府作成の脚本に沿ってメルコスールを破壊しようと画策している。亜国人民は自分たちの声を聞かないマクリ新自由主義・反民主政権の傲慢さに反駁しているが、その傲慢さをもってメルコスールを壊そうとしている」と激しく非難した。

 ワシントンに本部のある米州諸国機構(OEA、加盟34カ国)は11日の大使会議で、ベネスエラに国民投票早期実施を求める声明を作成、15カ国が署名した。米国が主導、カナダ、メヒコ、グアテマラ、ベリーズ、オンドゥーラス、コスタ・リカ、パナマ、コロンビア、ペルー、チレ、パラグアイ、亜国、ウルグアイ、ブラジルが賛同した。
 VENの他、ニカラグア、エル・サルバドール、エクアドール、ボリビア、アイチ(ハイチ)、ドミニカ共和国、スリナム、およびジャマイカ、トゥリニダードトバゴなど英連邦11カ国は声明に反対した。

 OEA駐在ベネスエラ大使ベルナルド・アルバレスは、この内政干渉措置を「異常かつ反外交的」と批判した。

 亜国保守紙ラ・ナシオン10日付が報じたパン・ギムン国連事務総長へのインタビュー発言によると、同総長は「ベネスエラは政治的不安定により、食糧、水、衛生、衣類などが不足し、人間生活が危機に陥っている。国連は事態打開に協力する用意があるが、既に南米諸国連合(ウナスール)など地域機関が関与している」と述べた。

 一方、ニコラース・マドゥーロVEN大統領とコロンビアのJMサントス大統領は11日、VEN西端のボリーバル州オルダース港市で会談、昨年8月19日から閉鎖されてきた両国国境を13日から順次再開することで合意した。

 マドゥーロは去年、密貿易、麻薬取引、武装犯罪団侵入などを理由に国境を閉鎖した。両国は1年ぶりの国境再開に備え、「犯罪取締所」を合同で設置、国防相同士が話し合い、国境線の治安を確保してゆく。

 マドゥーロはまた、治安を担う内務・司法相にネストル・ロベロル将軍を任命した。米麻薬捜査局(DEA)は同将軍の「麻薬取引関与」を指摘、VEN政府に揺さぶりをかけてきたが、マドゥーロは米政府牽制策として敢えて同将軍を要職に起用した。

 VENのエウロヒオ・デルピーノ石油相は8日、中国国営石油(CNPC)との合弁で「SINOVENSA(シノベンサ)」社を設立しつつある、と明らかにした。出資率はVEN60%、CNPC40%。中国側は、この計画用に40億ドル融資する。

 

2016年8月11日木曜日

地人会演劇2題:「テレーズとローラン」「この子たちの夏」

 地人会新社がこの盛夏と初秋に演劇を贈る。一つは、毎夏恒例の「この子たちの夏」、もう一つは「テレーズとローラン」である。

◎「この子たちの夏」(構成・演出 木村光一、舞台監督 井川学)

8月13日(土)1300および1700、14日(日)1400。世田谷パブリックシアターで。問い合わせ 03ー3478ー2189。

出演:13日;一路真輝、かとうかず子、島田歌穂、西山水木、根岸季衣、原日出子。

    14日;かとうかず子、古村比呂、島田歌穂、高橋紀恵、床嶋佳子、原日出子。

★被爆者の遺稿、書簡など資料の中から「母と子」の題材に絞って選んだ原稿を、女優たちが読み上げる朗読劇。私は過去2回観たが、被爆・被曝の集団的記憶を風化させないために何年かに一度観ることにしている。

◎「テレーズとローラン -あるいは愛の終わり、愛の始まり」(原作 エミール・ゾラ、作・演出 谷賢一)

9月9日(金)~19日(月)。 池袋の東京芸術劇場シアターウエスト。問い合わせ 03ー5912ー0840。

出演:木場勝己、奥村佳恵、銀粉蝶、浜田学。

★原作はゾラ『テレーズ・ラカン』。肉欲の果ての、殺人果ての殺人、後悔と恐怖、すれ違う愛の形。欲と利己主義から溢れ出す「究極の愛」とは。これは是非とも観たい。

☆地人会新社 03ー3354ー8361。  

2016年8月8日月曜日

ブエノスアイレスで労働者が反マクリ大規模抗議デモ

 マクリ新自由主義右翼政権が支配するアルヘンティーナで8月7日、生活苦、政治的圧迫感、弾圧に抗議する労働者ら市民が、労働者の守護聖人「聖カジェターノ」の日に因み、聖カジェターノ教会から、大統領政庁(カサ・ロサーダ)前の五月広場までブエノスアイレスを15km行進、同広場で抗議集会を開いた。

 共催した「決起するバリオ(地区)」(BDP)、「階級闘争派」(CCC=トゥリプレ・セ)、「人民経済労働者連盟」(CTEP=セテップ)の発表では、10万人が参加した。

 参加者は、「平和、パン、土地、住宅、働き口」と書かれた巨大な横断幕を先頭に、さまざまな訴えや要求を書いたプラカード、旗、チェ・ゲバラ像などを掲げ行進した。

 人々はメディアのインタビューに対し、年金生活者の苦しさ、若者の失業の深刻さ、マクリ政権のペロン派左翼弾圧などで抗議の声を挙げた。ある高齢の労働者は、「反政府の世論がこれだけ拡がっていることを行動で見えるように示さねば」と、デモ行進の意義を強調した。

 マクリ政権の司法当局からクリスティーナ・フェルナンデス前大統領が公金横領罪などで追及されているが、「市民連立」党首エリサ・カリオー下院議員は7日、ダニエル・シオーリ前ブエノスアイレス州知事が知事時代に公金を横領した可能性があると公言。新たな汚職問題として浮上しつつある。

 シオーリはフェルナンデス前大統領の後継候補として昨年の大統領選挙にペロン派キルチネル路線から出馬。第1回投票で1位になったが、決選でペロン派右翼を取り込んだ前ブエノスアイレス市長マウリシオ・マクリに敗れた。

 マクリは5日、リオ五輪開会式出席時、リオデジャネイロでテメル伯大統領代行、カルテス・パラグアイ大統領と会談、南部共同市場(メルコスール)輪番制議長にベネスエラが就任するのを阻止する方針で一致した。

 これに対し、ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は「3国同盟の陰謀は許さない」と非難、カラカスの外務省にメルコスール旗を掲げ「議長国就任」を演出した。だが就任に賛成しているのはウルグアイだけで、就任は認められていない。

 亜伯パラグアイ3国は、加盟国に認められている拒否権をベネスエラから剥奪することも話し合った。ベネスエラが議長国になるのに反対する理由は、同国が域内関税取り決めに完全には参加していないこと、同国の人権や言論の自由が「危機に瀕している」ことなど。

 だがブラジルは、ヂウマ・ルセフ合憲大統領を弾劾する「制度的クーデター」の真っ最中で、その首謀者の一人がテメル代行だ。またパラグアイでは2012年にフェルナンド・ルーゴ合憲大統領を、カルテスの政権党コロラード党が「国会クーデター」で追放している。さらにマクリは「パナマ文書」醜聞に関与、公務員大量馘首や左翼弾圧で評判が芳しくない。

 こんな時、加盟国でないエクアドールのラファエル・コレア大統領は、「メルコスールにはアルファベット順に議長国が決まる制度があり、ウルグアイの次はベネスエラに決まっている」と述べ、反対する3国に疑問を呈した。
 

2016年8月6日土曜日

キューバ中部で「良質油の油田発見」と豪社が発表

 クーバ中部北海岸地方で4年前から油田探査を続けてきた豪石油会社MEOは8月4日、マタンサス、ビージャクラーラ両州にまたがる「第9開発地域」に良質の油田があることがわかった、と発表した。深さ2000~3500mの地中にあり、埋蔵量は80億バレル。

 玖政府は2日、ハバナのホセ・マルティ国際空港の改造工事の請負に関し仏企業と交渉中、と明らかにした。
 
▼ラ米短信  ウルグアイ国防相エレウテリオ・フェルナンデス=ウイドブロ(74)が8月5日、モンテビデオの国軍病院で肺の病のため死去した。

 ゲリラ組織「民族解放運動-トゥパマロス」(MLN-T)創設者の一人で、1970年代、ゲリラ司令として戦った。1999~2011年、政党「拡大戦線」(FA)所属の上院議員を務め、ホセ・ムヒーカ前大統領のFA政権で国防相になった。タバレー・バスケス現FA政権でも国防相に留任していた。ムヒーカとはゲリラ時代からの盟友だった。

▼ラ米短信  ジョン・ケリー米国務長官は8月4日、亜国を訪問、マウリシオ・マクリ大統領に、亜国軍政期にブエノスアイレスの米大使館と国務省の間で遣り取りされた公電など外交文書4000点を手渡した。

 今年3月、バラク・オバーマ大統領が訪亜した折、亜国軍政期の解禁された米外交文書を引き渡すことが決まった。今回の4000点は2002年に解禁された文書が中心。引き渡しは今後も続く。

 ケリー長官はまた、マクリ政権が決めたシリア難民3000人の受け入れ計画に米国が協力することを明らかにした。

 長官は亜国外相との共同記者会見で、ベネスエラ情勢に触れ、「米国はベネスエラ当事者間の対話を深く懸念している」と述べた。長官は5日のリオ五輪開会式に出席する。

 一方、亜国法廷は4日、「五月広場の母たちの会」のエベ・デ・ボナフィニ会長を「公金横流し」の疑いで逮捕することを決定。逮捕状執行者が同会本部に向かったが、会長を支持する大群衆に阻止された。

 同会は、ペロン派の前政権下で労働者向けの住宅建設計画に携わっていたが、その建設資金を「不正流用」した容疑が会長にかけられている。

▼ラ米短信  ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月5日、原油価格安定化のため、石油出国機構(OPEC)加盟国と、非加盟産油国との会合を提案する、と明らかにした。

 一方、デルシー・ロドリゲスVEN外相は4日、ケリー長官のブエノスアイレスでのVENに関する発言について、「無礼な内政干渉」と糾弾した。 
 


 

2016年8月5日金曜日

オルテガ・ニカラグア大統領の後継者は夫人ムリージョ

 ニカラグアでは11月6日、次期大統領選挙が実施される。出馬登録は8月1~2日で、6人の出馬が決まったが、連続3選を狙うダニエル・オルテガ現大統領(70)が副大統領候補に据えたのは何と、妻ロサリオ・ムリージョ(65)だった。

 他の5候補は泡沫的候補であり、オルテガ組の当選は固い。オルテガは1986~90年、サンディニスタ革命政権の大統領を務めたが、90年の選挙に敗れて野に下り、2006年の選挙で返り咲いた。

 2007年1月から2期10年を務めつつあり、来年からは連続3期、通算4期目の任期に入る。オルテガが夫人を副大統領候補にしたのは、自らの健康不良によるところが大きい。当面の後継者を妻に決めたことになる。

 ムリージョは異色の詩人で、1969年にサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)に参加。オルテガと再婚、2007年に大統領夫人となってから権力の半分を握ってきた。今回、「女性国民の代表として副大統領候補になる」と宣言した。

 内外でたちまち批判非難が渦巻きだし、ビクトル・ティノコ元副外相は、「サンディニスタ革命が1979年に倒したソモサ家3代42年間の独裁の再来」と酷評している。

 ティノコはFSLN分派の左翼党「サンディニスタ改進運動」(MRS)の国会議員だったが、7月29日、国会から追放された。

 ラ米では、亜国の1973年大統領選挙でフアン・ペロンと夫人イサベルが正副大統領に当選、74年ペロンが死去しイサベルが大統領に昇格した。また21世紀になってからペロン派のネストル・キルチネル大統領に続いて、妻のクリスティーナ・フェルナンデスが2期大統領を務めた。

 パナマでは、故アルヌルフォ・アリアス大統領の妻ミレイヤ・モスコーソが大統領になった例がある。グアテマラとオンドゥーラスでは大統領経験者の妻が大統領選挙に出馬し、落選している。

 別件だが2日、ニカラグア湖を小舟で渡ろうとしていたアフリカ人不法移民8人が水死した。米国行きを目指し、コスタ・リカから密入国したアフリカ人一行に属していた。

▼ラ米短信 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月1日、最高裁に国会が非合法か否かの判断を求める、と明らかにした。野党連合MUDが多数派の国会は7月、選管から当選資格を剥奪された自派の3人を議員として認定、議場に入れた。

 大統領はこれを違法行為と指摘、最高裁が非合法と判断すれば、国庫からの国会運営予算は打ち切る、と警告した。

 一方、大統領罷免国民投票実施を求めているMUDは、大統領発言を「国民投票実施を避けるための時間稼ぎ」と非難している。

 

2016年8月3日水曜日

ペルーのマントックが児童労働問題で会合

 ペルーで、児童労働問題を当事者の青少年が中心になって考え、人権や法的庇護改善に取り組んでいる団体「マントック」(Manthoc=キリスト教労働者子弟青少年労働者運動)の創設者および地域指導者の若者2人を迎えた集会が8月2日夜、東京高田馬場NGOピースボート本部で開かれた。

 「児童労働を考える~働く子どもによる、働く子どものための運動」と題されたこの会合には50人が参加。1976年10月マントックを創設したカトリック司祭アレハンドロ・クシアノビッチ(80)、アマソニア・ロレート州都イキートス代表トミー・ラウラテ(17)、リマ首都圏リマック地区代表アニー・オリバレス(16)が語った。

 若者2人は「ペルー政府は子どもの労働を認めたがらない。私たちは認めさせようと長年闘ってきた」と、法的闘争を語り、クシアノビッチ司祭が、国連国際労働機関(ILO)規約などを挙げて補足説明を加えた。

 司祭は、「ラ米諸国に見られる傾向は、子どもの就労可能年齢を引き上げ、刑法適用年齢を引き下げること」と言い、内務省(警察)の取締りが強化されつつある状況を指摘した。

 司祭はまた、「子どもが働くのは基本的には、父母や家庭の貧富状態に関係なく、自立するための権利なのだ」と強調した。

 トミーは弁護士、アニーは政治学者を志している。将来、それぞれの道の専門家としてマントックの活動を支えるためだ。この団体は、巣立っていった多くの社会人によっても支えられている。

 同行しているリマ在住の写真家、義井豊は「かつて永山則夫死刑囚が刑務所内でマントックの存在を知り、著書の印税などを贈ることを決めた」と、継続されている「永山則夫基金」との関係を説明した。

  司祭は会合終了後、「今日<解放の神学>は廃れてしまった」と嘆いた。司祭はリマック教会司祭だったグスタボ・グティエレスとともに1960年代から80年代にかけて同神学を実践、著書が故(もと)でローマ法王庁から処分されたことがある。

 「今日<性的少数者解放>、<先住民解放>、<環境破壊からの解放>など、<解放>が細分化し、かつてのような人間の生き方や社会状況を全体的に捉える<解放の神学>は行き場を失ってしまった。時代が新自由主義隆盛下で物質主義が支配的になっているのと大いに関係がある」と、司祭は語った。 

 クシアノビッチ司祭の2006年の著書『子どもと共に生きる』の新刊日本語訳(現代企画室)も紹介された。一行は3日、次の会合地京都に向かった。
 

2016年8月2日火曜日

ブラジル上院のルセフ大統領弾劾裁判日程固まる

 ブラジル国会上院弾劾特別委員会は8月1日、ヂウマ・ルセフ大統領弾劾審議を2日再開、3日審議し、4日採決する、と発表した。委員会審議は5月12日から中断していた。

 委員会採決結果は5日(リオ五輪開会日)、上院本会議に報告される。本会議は9日、定数81の過半数41で可決できる。可決されれば最高裁が最終弾劾法廷を開廷、29日から5日間の日程で証人喚問などを行なう。

 本会議は9月2日の最終日までに大統領弾劾を決める。弾劾には、定数の3分の2の54議席以上の賛成が必要。

 7月31日にはリオデジャネイロ、サンパウロを始め全国18都市で弾劾反対、賛成両派のデモ行進が実施された。全国で計5万人が参加した。

 有産層主導の弾劾賛成派は、国際メディア五輪取材陣の群がるリオで海岸を行進。これに引きずられて「大統領弾劾賛成派がデモ」と、この日、弾劾反対派も行進していた事実を全く報じない日本メディアもあった。

▼ラ米短信  ベネスエラ国家選挙理事会(CNE=選管)は8月1日、反政府野党連合MUDが提出していた大統領罷免国民投票実施申請に必要な有権者の1%(20万人)の署名の正しさが確認された、と発表した。

 罷免賛成派は次いで、選管が指定する期日内に有権者の20%(400万人万人)の署名を集めて国民投票実施請求をせねばならない。選管は1日段階では、新たな署名収集・提出日を指定しなかった。

 最近の世論調査では、ニコラース・マドゥーロ大統領の不支持率は73%、退陣要求賛成は64%に達している。

▼ラ米短信  ニカラグア国会は7月29日、野党議員16、同補欠12人の計28人の資格を取り消した。同28人は野党連合「民主のための国民連合」(CND)に所属していた。

 CNDは、「独立自由党」(PLI)と、「サンディニスタ改新運動」(MRS)の連合。MRSは、「サンディニスタ民族解放戦線」(FSLM)のダニエル・オルテガ大統領に反対するサンディニスタ分派。資格を奪われた28人中4人はMRS党員だった。

 今年5月、オルテガと通じるペドロ・レジェスという政治経験の乏しい人物がPLI党首の座に着き、エドゥアルド・モンテアレーグレ党首らを追放。レジェスは選管に議員資格剥奪を求めた。

 憲法は、議員議席と所属政党の一体化を謳っており、政党を追いだされた議員らは無所属を宣言した。無所属ならば、議員資格喪失を免れうると考えたからだ。

 ところが選管は、MRS党員を含むCND議員・補欠の資格停止を決め、これを国会に勧告した。国会は28人の追放を決めた。

 背景には、11月6日実施の次期大統領選挙がある。オルテガは連続3選を狙うが、万が一に備えて対立候補を出馬前に潰すため、今回の強引な措置に出た。モンテアレーグレは過去にも出馬したことがあり、知名度は高い。

 大統領出馬登録は8月2日締切りとなる。オルテガは政権党FSLNと16小党派の選挙連合「ニカラグア勝利団結連合」(AUNT)を組み、選挙母体として7月登録した。オルテガは「キリスト教、社会主義、連帯」を政治精神として掲げている。

 28日追放後、内外で「オルテガは事実上の一党支配体制を築き、独裁を恒久化しようとしている」などの非難が出ている。

 ニカラグアの公共対外累積債務は6月末、49億2430万ドル(GDP比37%)に達した。国外からの出稼ぎ者の送金は今年上半期6億ドルで、前年同期比4・7%増し。

 送金額の55%は米国から、21%は隣国コスタ・リカ(CR)から。ニカラグア人口630万人の2割前後は米国、CRなどに住む。2015年の海外からの送金額は12億ドルだった。

 進行中の「ニカラグア大運河」建設事業は、選挙期間中、政府はタブー扱いしている。資金確保の遅れに加え、環境汚染を招いていると反対する世論や、土地収用を拒否する農民ら地主が少なくなく、運河完成に疑問符がついているからだ。
 

2016年8月1日月曜日

隅田川 花火 浴衣 都知事選 鳥越俊太郎

 隅田川の花火大会を7月28日、浅草・花川戸側の川端で観た。かつては「川開き」と呼ばれていたが、近年、この言葉を聞かない。本所生まれ、浅草育ちの私が最初に川開きを観た記憶は、幼稚園児か小学1年生のころ、家族と両国橋か蔵前橋の中央で、大群衆にもまれながら観た情景だ。

 敗戦の破壊の跡が依然生々しかった時代である。世をはかなんだ人の土佐衛門が隅田川を流れ下る光景を、子供ながら乾いた心でしばしば観ていた。花火大会と隅田公園の桜は大きな慰めだった。

 浅草は、異邦人を含む浴衣姿の若い男女で群れていた。貸浴衣屋が大繁盛だと聞いた。そんな時代になっているのだ。

 帰りは、鶯谷駅までの裏道を久々に歩いた。交差点で、高齢の共産党員たちが、「ジャーナリストと共に都政へ」と、ぎりぎりまで闘っていた。これには頭が下がった。

 きょう31日、結果が出た。政府に繋がる官僚知事が新たに一人増えるのがなくなったのは良かった。女性知事が東京に生まれたこと自体は好ましい。だが当選者は「化粧」でなく、真に大化けして、一流の都知事になれるだろうか。もう何十年か、優れた都知事は出ていない。彼女が保守・守旧派になびく恐れがないわけではあるまい。なにせ自民党員なのだ。

 76歳の疲れた肉体に鞭打って出馬した鳥越俊太郎の勇気に拍手を送る。だが知識人、特にジャーナリストの弱さが出過ぎた。知識人は馬鹿芝居ができないから、選挙では迫力に欠ける。

 ジャーナリストは「中立」、「客観性」を重んじ、相撲の行司のように常に自分を対立者の間に置こうとする。いつしか直截的な言い方ができなくなり、自身の意見を失い、優柔不断となり、判断を避け、逃げる傾向に陥る。それでいて気位は高く、理屈ぽい。

 文学は説明したら死んでしまう。つまらないものに堕す。鳥越は演説に説明が多すぎた。本領を発揮できないまま、おしゃべり言葉以外に実力が不明なポピュリストに勝利を持って行かれた。

 日本人有権者の多くは、非政治的で、反知性も少なくない。そんな風土で進歩主義の知識人が勝つには、相当に線が太く、泥臭い人でないと難しい。4年後は、そんな知識人に出馬してほしいものだ。

 それにしても民放テレビの特定候補偏向支援宣伝はひどすぎた。公示前から宣伝、これが今回の勝敗に大きく影響を及ぼしいたのは疑いない。テレビ報道の質が根腐れして久しいが、今選挙で腐臭が一気に拡がった。

 民進党も末期症状だ。知事選前日に代表が辞意を打ち出すとは、これはもう政治家ではない。「鳥越候補が振るわないのも退陣要求圧力に含まれていた」というから、民進党は選挙勝利を早々と諦めていたわけだ。情けない。

 週刊誌のネガティヴ宣伝運動は言わずもがな、何をか言わんやだ。