2017年2月28日火曜日

 メキシコ学生43人失踪事件から29カ月、「かくも長き不在」に家族ら苦悩。来年7月の大統領選に人権派が出馬

 「かくも長き不在」という題名の洋画が半世紀前にあった。メヒコ・ゲレロ州イグアラ市で2014年9月26日、アヨツィナパ農村教員養成学校生43人が軍隊、警察に強制連行されたまま行方不明になってから2月26日で29カ月経った。学生たちの家族や友人は、愛する若者たちの長い不在に悲しみ苦悩し怒っている。

 学生たちの家族や支援団体の数百人は25~26両日、メヒコ市で教員組合、労農組合などと共に第5回全国人民会議(CNP)を開き、メヒコの不公正極まりない政治経済社会状況を根本から変えるための話し合いを繰り広げた。

 また両日、目抜きのレフォルマ大通り、フアレス大通りで抗議行進した。検察庁前では抗議集会を催した。政府は捜査継続を約束しているが、本気で捜査する気配は全くない。

 米州諸国機構(OEA)の機関である米州人権委員会(CIDH)はワシントンの本部で3月15~22日、第161回定例会議を開くが、その折、アヨツィナパ学生失踪問題も取り上げことにしている。メヒコの団体「人権擁護増進委員会」、「反犯罪連合」などが、メヒコの人権状況を報告し、問題提起する。

 一方、CIDH前事務局長エミリオ・アルバレス=イカサ政治学博士(51)は26日、「アオラ(今)」という政治運動を基盤に来年7月の大統領選挙に独立候補として出馬する意志を表明した。人権問題専門家の出馬だけに関心を集めている。

 PRI、PAN、PRDなど既存政党に帰属感を持てない無党派層、反政党派層、恒常的棄権主義層などを開発して支持を広げる方針。まずは出馬申請手続きに必要な有権者8万人の署名を集めねばならない。

 既存政党からは、同3党とMORENA(国民刷新運動)の計4人の候補が出馬する。メヒコには決選投票制度がないため、泡沫候補でない候補者が多ければ多いほど当選ラインが下がる。このため独立候補でも、知名度が高ければ当選可能性が出てくる。

 この日、国営石油PEMEXは、今年の原油生産が日量194万4000バレルになると予測した。昨年は日量200万バレルの大台保っていた。 
  

2017年2月27日月曜日

ベネズエラのエルアイサミ副大統領がトランプ政権に反撃

 ベネスエラのタレク・エルアイサミ執権副大統領は2月26日、トランプ米政権が先ごろ同副大統領を「麻薬取引首領」名簿に加え、「在米資産を凍結」したことについて、「米政府は証拠が全くないのに私を攻撃している。私は一度も訪米したことはなく、米査証を取得したこともない。ましてや資産など保有していない。一方的な虚偽の告発にすぎない」と反撃した。

 エルアイサミは、民放TVテレベンの日曜ニュース番組「ホセ=ビセンテ・オイ」に出演、キャスターのホセ=ビセンテ・ランヘール(元副大統領・外相・国防相)によるインタビューに答えた。

 麻薬関連嫌疑については、「ベネスエラ政府は以前から、米政府の麻薬捜査局(DEA)は麻薬問題そのものだと告発、(DEAを追放したが、)DEAは報復として私を一方的に追及しようとしている」と指摘。「ベネスエラは主要な麻薬取締国として国連から認められている」と強調した。

 副大統領はまた、「米政府のやり方は専横的、違法、かつ内政干渉だ。べネスエラ政府の高官を倫理的に傷つけようと狙っている。これにベネスエラの野党勢力が連携している」と非難。「ベネスエラは威厳をもって弁明せねばならない」と述べた。

 先日NYT紙の一ページ全部を買い取って自身とベネスエラの立場を説いたことについて、「攻撃を受けた副大統領として当然為すべきことをした。あの記事は米社会を震撼させた」と評価。だが、「米政府から侮辱されるのは、ある意味で特権だ。なぜなら私が(米国が蛇蝎のごとく嫌う)チャベス主義者の革命家だからだ」と付け加えた。

 さらに、トランプ政権による攻撃は、マドゥーロ政権を「米国の安保にとって脅威」と規定したオバーマ前政権の反ベネスエラ政策の流れを汲む、と指摘。「(米議会などで反ベネスエラのロビー活動をしている)マイアミマフィアはメディアと連携して、ベネスエラへの憎悪を醸そうとしてきた」と非難した。

 続けて、米TV放送CNNの西語版の有線放送をこのほど禁止したことについて、「暴力とテロリズムをベネスエラ社会に誘発させようと謀っていた放送を禁止したのは的確な措置だった」と強調した。

 また、「米政府は(内外メディアを動員して)、<ベネスエラは違法国家>だと偽りの印象を内外世論に広め、それによってベネスエラへの介入を正当化しようと画策している」と分析した。

▼ラ米短信   ◎チレで3月、アジア太平洋会議

 チレで3月14~15両日、アジア太平洋「統合計画高官対話」会合が開かれる。TPP加盟国と、太平洋同盟(AP、チレ、ペルー、コロンビア、メヒコ)が参加する。

 一方、亜智両国財務相は23日サンティゴで会談。メルコスール(南部共同市場)とAPの統合を促進することで合意した。メルコスールには亜国、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ、ベネスエラ(資格停止中)が加盟。ボリビアが加盟手続き中。  
 

 

2017年2月25日土曜日

ペルーのクチンスキ大統領がトランプ大統領と会談

 ペルーのペドロ=パブロ・クチンスキ(PPK)大統領は2月24日ホワイトハウスで、ドナルド・トランプ米大統領と会談、トランプと直接会談した最初のラ米首脳となった。PPKはかつて世界銀行幹部としてワシントンに駐在。英語は西語よりも流暢に話すとされる。この英語能力が買われ、逸早く訪米に招かれた。

 会談の冒頭、トランプは記者団を前に、「PPKは米国製軍用車を買うと言っている」と披露した。会談では、この軍用装備購入、在米ペルー人移民、麻薬取引取締、ベネスエラ問題などが話し合われた。トランプは、ペルーの麻薬取締政策への協力を約束した。移民問題についてPPKは、トランプの移民政策を批判せずに、在米ペルー人移民を擁護した。

 米加州には、伯建設大手オデブレヒト社から2000万ドルを収賄した容疑で国際手配されているアレハンドロ・トレード元秘大統領が隠れ住んでいる。PPKはトレードの身柄引渡への協力をトランプに求めたもよう。

 双方はまた、来年ペルーで開かれる第8回米州首脳会議についても話し合い、PPKはトランプに出席するよう招待した。

 トランプは冒頭で、「我々はベネスエラとの問題を抱えているが、極めて悪い状態だ」とも述べた。両首脳が会談でベネスエラ問題を取り上げたことから、ベネスエラ政府が内政干渉として反発するのは必至だ。

 トランプはPPKに次いで、亜国、コロンビア、パナマの大統領をワシントンに招いている。一月末に真っ先に訪米することになっていたメヒコ大統領は、関係悪化により訪米を中止。このため訪米がいつになるのかわからない。

▼ラ米短信   ◎米政府が壁建設入札日程を発表

 米国境管理当局は2月24日、米墨国境の壁建設計画工事の入札案内を3月6日、入札期限3月10日、入札会社絞り込み20日、絞り込まれた複数社の再入札24日という日程を明らかにした。4月半ばまでに落札社を決め、工事開始に向かう見通し。イスラエルの建設業者も入札に関心を示している。

▼ラ米短信   ◎OEA総長がベネスエラに選挙実施呼び掛け

 米州諸国機構(OEA/OAS)のルイス・アルマグロ事務総長は2月24日、ベネスエラに総選挙を即刻実施すべきだと呼び掛けた。事態が進展しない場合、OEA民主憲章20条適用を提案するとも述べた。

 20条は、「民主体制に重大な影響を及ぼす憲政変更があった場合、OEA加盟国もしくは事務総長は常設会議を招集することができる」と規定。スペイン滞在中のMマクリ亜国大統領は、アルマグロ発言に賛意を表明した。

 一方、ベネスエラのONG「ベネスエラ反腐敗」は24日、ミランダ州知事エンリケ・カプリーレスが伯オデブレヒト社から300万ドルをもらい、2013年の大統領選挙の資金に充てた可能性があるとして、検察庁に告訴した。

 同知事は事実無根と反撃している。カプリーレスは過去2度、野党連合の大統領候補となったが、2011年に故ウーゴ・チャベス前大統領に、13年ニコラース・マドゥーロ現大統領に、それぞれ敗れている。

 国連は24日、ベネスエラが分担金未払いのため、投票資格を失ったと公表した。未払い分は2400万ドルという。他に南太平洋とアフリカの計6カ国も同様の理由で投票権を失った。支払えば、投票権は復活する。

 
 
 

2017年2月24日金曜日

米メキシコ閣僚会議が中米開発協力で合意

 メヒコ外務省で2月23日、墨米閣僚会議が実施され、両国外交は、これまでの「対立」から、ひとまず「対話」に向かうことになった。だがトランプ大統領の出方次第では、関係が再び険悪化する。メヒコ政府は今や、貿易、移民は安全保障問題そのものだと理解している。

 メヒコ側はルイス・ビデガライ外相、ミゲル・オソリオ内相、ホセ・メアデ財務相、米側はレックス・ティラーソン国務長官、ジョン・ケリー国土安保長官が出席、会議は2時間に及んだ。

 ビデガライ外相は会議で、トランプ政権が「メヒコ経由で不法入国した中米人らもメヒコに送還する」と表明しているのに対し、「メヒコ人以外を受け入れるいわれはない」と否定。会議後の共同記者会見で、「墨米両国間には違いがある。我々はメヒコの利益のために対話を通じて合意を探る」と述べた。

 外相はまた、「墨米両国は、中米北部三角形(グアテマラ、エル・サルバドール、オンドゥーラス)、コロンビア、カナダなどを加えた会合で移民問題を考え、(経済難民の)出国因を減らす方策を練る会議開催で合意した。我々は共同責任で中米開発に当たる」と明らかにした。問題の力点がメヒコから中米に移った感がある。

 ケリー安保長官は、「不法移民の大量送還はない。人権を重視する。軍の出動はない」と強調した。だがワシントンではトランプ大統領が、「犯罪者追放のための軍事作戦だ」と発言、物議を醸している。

 閣僚会議では、北米自由貿易条約(TLCAN=テエレカン、英語でNAFTA=協定)見直しや、国境の壁建設問題の話し合いはなかった、という。

 ケリー長官は、米南方軍の前司令官としてラ米情勢を鳥瞰した経験を踏まえ、中米の犯罪状況や墨ゲレロ州のゲリラの存在などに安保上の観点から関心を抱いており、その分野の発言もあったとされる。
 
 両長官は、大統領公邸ロス・ピノスで1時間弱、エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領を表敬した。大統領は、「常に相互の主権を尊重しつつ、対話で解決を探るべきだ」と述べた。

 メヒコの新聞論調には、「両長官の来訪で、トランプ政権の対墨態度は、喧嘩腰から思慮深差に変わったが、EPNの弱腰は不変」という指摘があった。

▼ラ米短信  ◎日本がクーバのインフラ整備に協力

 日玖は2月23日ハバナで、建設、輸送、観光面のインフラ整備で協力する議定書に調印した。市内にあるナシオナルホテルでは同日、日本企業30社が参加して「日玖インフラ会議」が開かれた。

2017年2月23日木曜日

キューバ政府がOEA(OAS)事務総長の入国を拒否

 米議員訪玖団は2月21日、ラウール・カストロ国家評議会議長ら玖政府中枢と「米玖双方の関心事」について話し合い、22日ハバナで記者会見した。団長のパトゥリック・ヒーリー民主党上議は、「米連邦議会の多数派は対玖関係強化を求めている。将来の世代のためにも両国関係を改善していかねばならない」と述べた。

 また、「経済封鎖と米国人対玖渡航禁止令が解除されるのは疑いないが、それがいつになるか、予測するのは難しい」と語った。団員のジェイムス・マムガヴァン民主党下議は、「民主・共和両党は共に対玖関係強化の意思を共有している。問題は、共和党執行部が対玖法制審議を許可しないことだ」と指摘した。

 一方、玖政府は22日、米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長(前ウルグアイ外相)の入国を拒否した。同総長は、「オスワルド・パジャー賞」授賞式に出席しようとしていた。アルマグロはラ米の左翼・進歩主義政権を揺さぶる右翼思想の持ち主で、かつての上司ホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領は去年、アルマグロに「絶縁宣言」を突き付けた。

 玖政府は21日には、同じ授賞式に参加しようとしていたフェリーペ・カルデロン前墨大統領、マリアーナ・エイルウィン元智教育相の入国を拒否している。玖外務省は22日、アルマグロらへの入国拒否に関し声明を発表した。要旨は次の通り。

 不法な小集団が主催する「賞」は、ラ米の左翼・進歩主義合法政権に敵対する極右の「汎米民主財団」と結託している。同財団は(2015年4月パナマ開催の)第7回米州首脳会議のロビーで結成された。

 アルマグロは、そんな「賞」を受章するため入国しようとしていた。玖を不安定化させ玖の国際関係を損なわるため、ハバナで公然と挑発行動を展開しようとしていた。

 アルマグロおよび、「スペイン・ラスアメリカス民主計画」(IDEA)傘下の右翼勢力は近年、ベネスエラをはじめとするラ米左翼・進歩主義政権を攻撃してきた。

 彼らは「民主・共同体センター」、「ラ米開発研究・工作所」(CADAL)、「米州民主研究所」(CIAのアルベルト・モンタネル玖系米人主宰)などと連携。これらの組織は2015年から、米「国家民主財団」(NED)と協力し、反玖地下活動資金を得ていた。

 玖政府は主権防衛のため、こうした活動に関係する人物の入国を拒否した。アルマグロとOEAは反玖言動をとってきた。アルマグロはOEA加盟国の同意なしに、勝手にベネスエラ、ボリビア、エクアドールを攻撃してきた。

 ラ米・カリブ統合に反対する帝国主義と寡頭勢力の行動や、新自由主義推進行動がこのところ倍加している。OEAは黙して、共犯状態にある。

 1962年2月、フィデル・カストロ首相(当時)は(対玖陰謀を前に)第2次ハバナ宣言を発し、OEAを脱退した。我々は、歴史の教訓を忘れない。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ副大統領がNYT紙で反撃

 ベネスエラのタレク・エルアイサミ執権副大統領は2月22日、NYT紙上に意見記事を掲げ、同副大統領を「麻薬取引首領」と決めつけ、在米資産凍結に踏み切った米財務長官に反撃した。以下は要旨。

 あなた(財務長官)は、VEN・米国関係を相互の承認と尊重に基づく関係に改善しようとする努力を妨げる在米利益集団に騙されている。彼らは証拠もなく虚偽によって「犯罪」をでっちあげようとしている。

 私が内相だった時期を含めベネスエラ政府は、麻薬取引業者取締で多大な成果を挙げ、身柄を米国やコロンビアに引き渡した。米政府はいったい米国内で何人、大物麻薬業者を摘発してきたのか?

 米国は麻薬取締の国際条約に加盟せず、自国法をベネスエラなど国外に押し付けようとしている。

▼ラ米短信  ◎米国務長官と国土安保長官がメヒコ入り

 レックス・ティラーソン国務長官とジョン・ケリー国安長官は2月22日、メヒコ市に到着。同夜、駐墨大使邸で、ルイス・ビデガライ墨外相、国防長官、海軍長官と会食した。

 両長官は23日、エンリケ・ペニャ=ニエト大統領と、両国関係について話し合う。ビデガライ外相は、国安省が21日明らかにした不法移民取締方針について、「一方的措置は受け入れられない」と表明している。

 一方、ケリー長官はメヒコ入りに先立ち22日、グアテマラ市でジミー・モラレスG国大統領と移民問題で会談、グアテマラ人移民の大量送還はないと伝えたした。

 在米G国移民は200万人で、本国への年間仕送りは72億ドルに上る。強制送還の対象となる前歴者は4500人という。

▼ラ米短信   ★エクアドール大統領選挙は決選へ

 エクアドール国家選挙理事会(CNE)は2月22日、4月2日に決選を実施すると発表した。19日の大統領選挙(第1回投票)では当選者がなく、得票率1位の政権党候補レニーン・モレーノ元副大統領(39・3%)と、2位の保守・右翼候補ギジェルモ・ラッソ(28・1%)が決選に進出する。

 モレーノは、わずか0・7ポイント足らずで40%に達せず、当選を逃した。ラファエル・コレア大統領は、決選で野党(ラッソ)が勝てば、私は政治の第一線に復帰するに吝(やぶさ)かでない、と述べた。コレアはかつて留学し、夫人の祖国でもあるベルギーで第2の人生を送ることにしている。






   

 メキシコとカナダが米含む「3国間NAFTA見直し交渉」促進で一致。米は壁の優先的建設地を公表

 メヒコとカナダは2月21日トロントで経済相・外相会議を開き、北米自由貿易条約(TLCAN、英語では協定=NAFTA)の見直し交渉は加盟3国間でするのが望ましいという点で一致した。

 この日、メヒコ国会は次期駐米大使にヘロニモ・グティエレスを決めた。政府は、米側が通商、移民規制、国境壁建設などで押しまくってきた場合、国境地帯を含む両国間の麻薬取引取締り、不法越境者規制などで協力しない方針を選択肢に加えている。

 米国土安保省のジョン・ケリー長官は21日、壁建設を米テキサス州エルパソ・墨チウアウア州フアレス市、アリゾナ州トゥーソン・ソノラ州ノガレス、加州エルセントロ・下加州メヒカリの3カ所の間の国境線で優先的に建設する方針を明らかにした。

 国境最西端の墨ティフアーナ市では21日、米側から送還されたばかりの30代のメヒコ人男性が橋から飛び降りて自殺した。

 一方、シカゴの墨系ベニート・フアレス高校で21日、メヒコの政治家AMLO(アムロ)が講演、「米国第一ではない。墨米間に正義と友情の大地を築くのが先だ」と強調。「トランプがメヒコとメヒコ人に対して発したデマゴギーと新ファシズム的措置は、かつてヒトラーがユダヤ人に対してやったのと似ている」と厳しく批判した。AMLOは次期大統領の有力候補。

▼ラ米短信   ◎クーバ議長が米議員らと会談

 ラウール・カストロ玖国家評議会議長は2月21日ハバナで、パトゥリック・リーヒー民主党上院議員を団長とする米議員団6人と会談した。リーヒーはバラク・オバーマ前大統領と組んで米玖国交正常化を推進した人物。「双方の関心事を話し合った」という。

 クーバ港湾当局は20日ハバナで、ミシシッピ州の2港と協力議定書に調印した。同様に調印した米国の港は計7港となった。

 一方、玖政府は21日、ハバナで22日催される反体制派の故オスワルド・パジャーを記念する賞の贈呈式に出席を予定していたフェリーペ・カルデロン前墨大統領、マリアーナ・エイルウィン元智教育相の入国を認めなかった。マリアーナは故パトゥリシオ・エイルウィン元大統領の娘。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ政府が政権党再編成へ

 ニコラース・マドゥーロ大統領は2月20日、この日から4月19日までの2カ月間にベネスエラ統一社会党(PSUV=ペスーブ)を「戦略的、政治的、組織的に再編成する」と発表した。今年半ばには州知事・州会議員選挙があり、これに備えた措置でもある。

 大統領は同日、スペインのJL・Rサパテロ前首相と会談した。サパテロは、南米諸国連合(ウナスール)から依頼された特使として、ベネスエラ政府と野党連合MUDの対話を仲介している。マドゥーロは21日には、ローマ法王特使と会談した。

2017年2月21日火曜日

一発当選か決選か、エクアドル大統領選結果発表は3日延期

 エクアドール(赤道国)で2月19日実施された大統領選挙は20日、国家選挙理事会(CNE、中央選管)が最終結果公表を3日間遅らせると発表、混迷の度を深めている。

 焦点は、この第1回投票で過半数得票者がいなかったため、次の当選条件である「得票率40%以上、2位に10ポイント差」を満たす候補がいるか否にある。

 政権党「パイース同盟」から出馬している最有力候補レニーン・モレーノ元副大統領(63)は開票率88・77%段階で得票率が39・13%。2位の「変化のための同盟」候補で銀行畑出身のギジェルモ・ラッソ(61)の28・31%を10p以上回る。だが得票率が40%に達していない。

 ラファエル・コレア現政権にとって一発当選は至上命令。というのも残る6候補のうち、泡沫2候補を除く4候補は、得票率第3位(16・36%)に着けた「キリスト教社会党」のシンシア・ビテリ弁護士(51)、5位の「赤道国の力」アブダラー・ブカラム元国会議員(34歳、4・79%、同名の元大統領の息子)、6位の「社会協約」イバン・エスピンエル医師(32、3・2%)と3人までが決選でラッソ支持に回る公算が大きいからだ。ビテリは既にラッソ支持を公言している。

 4位になった「変化のための合意」のフランシスコ・モンカーヨ元キト市長(76歳、元陸軍将軍)だけは「穏健左翼」を自認、決選で誰も支持しないと明言している。

 決選は4月2日実施されるが、そうなればラッソに勝機は十分ある。一昨年12月、亜国大統領選挙決選で第1回投票2位のマウリシオ・マクリ(現大統領)が逆転勝利。昨年6月のペルー決選でも、同様にPPクチンスキ(現大統領)がケイコ・フジモリに逆転勝利している。

 ラッソは新自由主義経済路線の復活を狙い、ロンドンの赤大使館で亡命生活を送っているジュリアン・アサンジ(ウィキリークス創設者)の亡命資格を剥奪することも示唆している。ラッソが当選すれば、コレア大統領の下で10年間、左翼進歩主義路線を歩んできた赤道国は一気に右傾化する。今選挙がラ米内外で注目されている所以だ。

 3日間の開票作業と「不正票」5・49%の一部数え直しによって、モレーノが当選条件に達するか否か。赤全土で期待と不安間が渦巻いている。

 南米諸国連合(ウナスール)監視団のホセ・ムヒーカ代表(前ウルグアイ大統領)はグアヤキル市で20日、「忍耐、平和、希望」を選挙民に呼び掛けた。

2017年2月20日月曜日

マドゥーロ・ベネズエラ大統領がトランプに「目を開け」と忠告

 ベネスエラのニコラース・マドゥ-ロ大統領は2月19日、定例のテレビ番組を通じ、ドナルド・トランプ米大統領に対し、「目を開き、ブッシュ、オバーマ両政権が失敗したベネスエラ政権転覆政策に取り込まれないように」と忠告した。

 また、「あなた(トランプ)を反ベネスエラ政策に巻き込むため、巨額のロビー工作費が使われてい」と指摘。ベネスエラの保守・右翼野党連合MUD幹部、MUDが圧倒的多数派の国会の議長、これと結びつく在米右翼ロビーストらが動いていると述べた。

 マドゥーロ大統領はその上で、トランプに「関係正常化のため協働しよう」と呼びかけた。両国はチャベス前政権期から相互に大使を置いておらず、臨時代理大使級外交が続いている。

 ベネスエラ大統領の今回の発言は、米政府がタレク・エルアイサミVEN執権副大統領を「麻薬取引首領」名簿に加え、同氏の在米資産凍結などの措置を講じたことや、刑事囚として過去3年間服役中のベネスエラの極右政治家らの釈放を求めるという内政干渉に出たのに対する回答としてだ。

 マドゥーロは、この定例テレビ番組でエルアイサミ副大統領を横に座らせ、「彼が内相だった時、麻薬業者102人を逮捕し、うち21人の身柄を米国に引き渡した」と述べ、功績を讃えた。

 大統領はさらに、エルアイサミに対し、「自身と家族の名誉を守るため、誹謗者をベネスエラと、米国を含む外国の法廷で早急に訴えるべきだ」と伝え、提訴を許可した。

 一方、著名なジャーナリスト、ホセ=ビセンテ・ランヘール(元副大統領)も自身の19日の定例テレビ報道番組で、エルアイサミ攻撃に触れ、一連のベネスエラ体制を貶めるための策謀の一環、と批判した。

▼ラ米短信   ◎エクアドール大統領選挙の結果判明遅れる

 2月19日実施されたエクアドール(赤道国)大統領選挙は、JST20日夜現在、政権党「パイース同盟」候補レニーン・モレーノが39%、2位の銀行家ギジェルモ・ラッソが29%。過半数得票者がいない場合、1位得票者が40%を超え、2位に10ポイント差をつければ当選する。モレーノがこの条件を満たしているかどうかが判明していない。

 この条件を満たさない場合、モレーノとラッソは4月2日の決選投票に臨むこことになる。モレーノはコレア現政権で副大統領を務めたことがあり、穏健な改革路線。ラッソはこのこの国の伝統的な富裕層で、政治的には右翼で、新自由主義経済路線復活を目指している。
 
  

2017年2月19日日曜日

 ガイアナ開催のカリコム首脳会議が「単一市場・経済」設立で合意。ハバナで3月、キューバと関税自由化決定へ

 カリブ共同体(カリコム)は2月16~17両日、ガイアナの首都ジョージタウンで第28回首脳会議を開催。デイヴィド・グランジャー同国大統領を議長に諸問題を討議し、「カリコム単一市場・経済」(CSME)の早期設立で合意した。

 今会議には、2月7日就任したばかりのアイチ(ハイチ)のジョヴネル・モイーズ大統領が初出席、外交デビューした。首脳は他に6カ国首相が出席、あとは外相らが出席した。

 グランジャー議長は、「加盟15カ国・地域の総面積は240万km2だが、相互に隔たっていて交通が不便であり、天変地異が頻繁に起き、インフラ整備もままならない。米英をはじめとする対外関係も堅固ではない」と状況を総括。観光立国だけでは経済が立ち行かないことや、カリブ地域の団結強化の必要性を強調した。

 ハバナで3月、カリコム・クーバ関税協定をめぐる外相会議が開かれ、クーバがカリコム産品349品目、カリコムが玖86品目の関税をそれぞれ自由化することも明らかにされた。

 グレナダのケイス・ミチェル首相が7月から次期議長になることも決まった。

▼ラ米短信  ◎米政府がベネスエラに内政干渉強化

 米国務省は2月18日、ベネスエラ政府に対し、野党極右指導者レオポルド・ロペス受刑囚の釈放を求めた。共和党右翼でフロリダ州選出の玖系上院議員マルコ・ルビオの進言などを受け、ドナルド・トランプ大統領はベネスエラ締め付け政策を決めている。

 ロペスは2014年2月にカラカスなどで始まったグアリンバ(街頭暴力)を教唆した罪などで、禁錮14年の実刑に服役中。米政府、ロペス支援者、多くのメディアはロペスを「良心の囚人」、「政治囚」などと呼んでいる。だが、刑事犯罪関与については全く触れていない。このため「虚偽ニュース」の様相を呈している。

 カラカスでは18日、街頭暴力で殺された43人の遺族や800人の負傷者の家族らと支援者多数が行進。代表者は、3年前の暴力事件に関与したロペスの実刑14年は軽すぎると抗議した。ニコラース・マドゥーロ大統領は犠牲者遺族らの立場を支持、間接的ながら米国務省への意思表示をした。この日、ロペス支援者も別途、釈放要求行動を展開した。

 一方、タレク・エルアイサミ副大統領を「ヒズボラの代理人」と伝える電脳メディアがある。これも確固たる証拠を明確に提示していない。

 「ポスト真実」期と呼ばれる現代、反真実、フェイクニュースが飛び交っている。基盤には反知性がある。マスメディアの保守化、政府付随化などが「反真実」状況を促進している。

▼ラ米短信  ◎エクアドール大統領選挙始まる

 エクアドール(赤道国)で2月19日、正副大統領、国会議員137人、アンデス議会議員5人を選ぶ総選挙が始まった。結果はJST(日本時間)20日昼前に判明する見通し。 

 

米メキシコ国境で「トランプの壁」に「人間の壁」で対抗

 墨米国境3200kmの中間に位置する墨チウアウア州国境のフアレス市と対岸の米テキサス州エルパソ市の間を流れる国境河川ブラボ川の墨側堰堤で2月17日、「人間の壁-両国の懸け橋」と題した平和行事が展開された。

 墨全政党が呼び掛けたもので、民主革命党(PRD)元党首クアウテモキウ・カルデナス元メヒコ市長、チウアウア州のハビエル・コラル知事、フアレスのアルマード・カバル市長、エルパソのオスカル・リーサー市長をはじめ2000人が参加した。

 国境の壁建設を決めたドナルド・トランプ米大統領への異議を唱える抗議行動で、メヒコ国歌を歌い、対岸の米側に向かって友情と連帯のメンサヘ(メッセージ)を送った。

 これに先立ち市内では、「国益防衛フォーラム」が開かれた。カルデナスは「両国の友情はメヒコ人の生活向上につながる。双方は長い歴史を経つつ共存してきた」と述べた。コラル知事は、「異なる声を一つにして友情を訴えよう。異なる手を一つにして、二国社会という在り方を続けたい我々の望みを確認し合おう」と語った。リーサー市長も「両都市は一つの同じ都市だ」と強調した。

 メヒコでは来年7月、大統領選挙が実施されるが、PRDから分派したMORENA(国民刷新運動)党首、アンデレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(AMLO=アムロ)が現時点での支持率28%で有力。AMLOは2006年の選挙で事実上勝ちながら、開票操作で勝利を奪われた苦い経験の持ち主。

 12年の前回は、金権候補エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)現大統領に敗れた。AMLOに次ぐのは、EPNの政権党PRI(制度的革命党)のオソリオ内相で17%。3番手は、06年に当選したとされたPAN(国民行動党)のフェリーペ・カルデロン大統領の妻マルガリータ・サバーラで5%。AMLOにとっては、宿敵の妻だ。

 AMLOは、穏健左翼で改革派だが、メヒコをいじめているトランプに対抗できる「民族主義的アンチテーゼ」として、人気が急浮上している。これに伴い、AMLOは財界と会合するなど、革新色を薄めようと努めている。

 一方、ユカタン州都メリダで18日開かれた第16回墨玖友好国会議員同盟会合は、トランプの排外主義を「メヒコ人の尊厳を侵す」と捉え、移民排除や壁建設政策と併せて糾弾。話し合いによる問題解決を呼び掛けた。

 双方はまた、ラ米団結強化でも一致した。

▼ラ米短信   ◎オデブレヒト事件捜査で11カ国が協力

 ブラジル最大手の建設会社オデブレヒトの絡む巨額贈収賄事件に関連する11カ国の検察は2月16日、ブラジリアで検事総長級会合を開き、捜査協力協定を結んだ。伯亜智秘コロンビア赤ベネスエラ墨巴RD葡の各国。
 

2017年2月17日金曜日

 ベネズエラ大統領が「悪宣伝に対抗する」ため「強力なディジタル伝達基盤」構築を命ず

 国連難民高等弁務官事務所は2月16日ベネスエラ政府に対し、コロンビア人難民を収容するなどの人道的支援を評価、謝意を伝えた。先週から難民約400人がベネスエラ西部のスリア州などコロンビア国境地帯の地域に流入している。

 コロンビアでは政府とゲリラ組織FARCとの和平過程が進み、FARCは全国26カ所の集結地域に移動した。これにより、力関係に空白の生じたノルテ・デ・サンタンデル州カタトゥンボ地方に、殺戮やコカイン取引をする極右準軍部隊が流入。恐怖にかられた住民はベネスエラに越境した。コロンビア国防相は13日から同地方に兵士と武装警官隊を増派、準軍部隊を追跡している。

 エクアドールのキト郊外ではコロンビア政府と、FARCに次ぐもう一つのゲリラ組織ELNが和平交渉をしている。双方は16日、コロンビア社会代表の和平交渉参加、および内戦の「人道的な停戦」に関し、それぞれ小委員会を設け話し合うことで合意した。和平交渉で得られた初の合意である。

 一方、NYの国連本部にある非同盟諸国運動(MNOAL)事務局は16日、トランプ米政権によるタレク・エルアイサミVEN副大統領への追及措置を「一方的かつ弾圧的」と非難し、ベネスエラ政府への連帯を表明した。現在のMNOAL議長は、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領。

 マドゥーロ大統領は16日、「裏切り者は皆、米政府の庇護下に逃げ去る」と指摘。国際メディアによる意図的誤報(虚偽報道)に対抗し、「ベネスエラの真の姿を伝え発信するため」として、「強力なディジタル伝達基盤」を創るよう指示した。

 大統領はまた、トランプに同調し、暴動教唆罪などで服役中のベネスエラ極右政治家の釈放を呼び掛けたスペイン保守・右翼政権のマリアーノ・ラホーイ首相を、「ならず者だ。犯罪者と殺人者の保護者」と扱き下ろした。これに対しスペイン外務省は17日、駐西VEN・大使を呼び、真意を質した。

▼ラ米短信   ◎ハバナにガルシア=マルケス像登場

 ハバナ旧市街の芸術・文学学校の庭に2月16日、コロンビアのノーベル文学賞作家ガブリエル・ガルシア=マルケス(GGM、1927~2014)の銅像除幕式が催された。ハバナ史家エウセビオ・レアル、駐玖コロンビア大使らが出席した。

 コロンビアの彫刻家ホセ・ビージャ=ソベロンの作で、高さは生前のGGMより背の高い180cm。昨年、若き日のGGMが活動したコロンビアのバランキージャ市に建てられた銅像の複製だ。

 作家の出世作『百年の孤独(孤独の百年)』の執筆50周年とノーベル文学賞受賞35周年および、作家の生誕90周年に因んで設置された。クーバはGGMがクーバ通信社プレンサ・ラティーナの創設期に記者として働き、故フィデル・カストロ議長と親交を結び、さらに映画学校を設立し指導した縁の深い国だ。GGMは「クーバの養子」と呼ばれることもある。

 彫刻家ビージャ=ソベロンは、ジョン・レノン、アントニオ・ガデス(西人フランメンコ舞踊家)、マザー・テレサらの彫像の政策者として知られている。  

 

2017年2月16日木曜日

「メキシコの次はベネズエラか」。トランプの内政干渉発言にベネズエラ外相が激しく反応、緊張走る

 ベネスエラの国家電気通信委員会(CONATEL=コナテル)は2月15日、米CNNテレビ西語放送のベネスエラでの有線放送を禁止した。「ベネスエラの民主と主権を直接的に侵した」のが理由だ。

 同放送は6日、ベネスエラの在イラク大使館がベネスエラ旅券をテロリズムに関係する可能性のあるアラブ人に売却しており、タレク・エルアイサミ副大統領が関与している、と伝えた。これが原因だ。報道は、ミサエル・ロペスという人物の証言を基にしている。

 クーバ系右翼のマルコ・ルビオ共和党上院議員(フロリダ州選出)は真っ先にCNN報道を取り上げ、これを受けて米政府は13日、エルアイサミVEN副大統領を「首領級麻薬取引者」名簿に加え、在米資産凍結処分とした。

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は15日、「CNNは偽りに基づくメディア運動を展開し、VEN野党および国際右翼勢力のクーデター意図に貢献している」と、CNNを激しく糾弾した。

 外相は、「CNNが証言者としたロペスなる人物は野党勢力の回し者であり、イラク駐在VEN大使の名をかたり現金詐取を謀り、同大使館女性職員に性的脅しをかけ、これらの犯罪行為で裁かれようとしている」と指摘した。

 デルシーROD外相はさらに、「公然と反駁したのは、このような米国からの工作は、人民にとって不吉な戦争宣伝行為だからだ」と説明した。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は、副大統領に対する米政府の措置を「前代未聞で侮辱的だ」と批判。デルシー外相が米大使館の臨時代理大使に文書で抗議した。

 マドゥーロ大統領は15日、エルアイサミを、犯罪撲滅と治安確保を目指す「社会正義大任務」計画の首席調整官に任命した。政府の「安全な祖国」政策の一環で、やはり犯罪対策のための「ベネスエラ生命尊重任務」と並行して進められる。

 一方、ワシントンではルビオ議員が15日、ベネスエラ野党連合MUDの一翼を担う極右政党の党首で破壊活動教唆罪などで服役中のレオポルド・ロペスの妻をドナルド・トランプ大統領とペンス副大統領に引き会わせた。これを受けてトランプは、べネスエラ政府にロペス釈放を要求した。

 これに対し、デルシー外相は、同日「内政干渉だ」として一蹴。トランプを「ベネスエラ野党と、マイアミマフィアおよびロビーストに唆(そそのか)されて共犯者になった」と扱き下ろした。ルビオは15日、トランプとホワイトハウスで夕食を共にした。

 マドゥーロ大統領はこれまで、あからさまなトランプ批判は避けつつ「良好な関係を築きたい」と呼び掛け、「ベネスエラに対するブッシュやオバマの過ちを繰り返さないよう」柔らかに警告していた。

 だが反カストロ派でもある右翼ルビオの介在で、メヒコに向けられていたトランプのラ米諸国への牙がベネスエラに向かう可能性が出てきたと受け止められる今、マドゥーロ政権は事態を熟考している。

 トランプはメヒコについては独自の意見を持っているようだが、ベネスエラやクーバについては定見がなく、ルビオのような右翼世論代表の言いなりになる恐れが出ており、当時国やラ米知識層は懸念している。

▼ラ米短信   ◎エクアドール国会議長が「爆殺テロ」免れる

 赤道国のガブリエーラ・リバデネイラ国会議長は2月15日、事務所に届いた封書に爆発物が入っていたと明らかにし、殺害される可能性のあったテロを免れた、と述べた。爆発物は爆発しなかったという。

 この国では19日、正副大統領、国会議員137人、アンデス議会議員5人を選ぶ総選挙が実施され、国中が騒然とした空気に包まれている。政権党「パイース同盟」所属のリバデネイラも再選をかけて出馬している。
 

2017年2月15日水曜日

 ラテンアメリカ・カリブ核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)調印から半世紀。記念式典でメキシコ大統領はトランプ米政権を厳しく批判、ラ米・カリブ諸国の連帯に感謝する

 ラ米核兵器禁止条約(通称トラテロルコ条約)が1967年2月14日、メヒコ外務省(当時の通称トラテロルコ)で調印されてから14日で50周年となった。今はフアレス大通りにある外務省で記念の外相会議が催された。

 条約は1962年10月のクーバ核ミサイル危機を教訓として生まれ、69年4月25日発効した。推進者のメヒコ外相アルフォンソ・ガルシア=ロブレスは82年、ノーベル平和賞を受章した。

 条約は後に「ラ米・カリブ核兵器禁止条約」と改名された。事務局「LAC(ラ米・カリブ)核兵器禁止機構」(OPANAL=オパナール)はメヒコ市にある。この日、第25回OPANAL総会(外相会議)が開かれた。今日、LAC33カ国全部が加盟、批准している。

 総会で演説したエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)墨大統領は、「世界は依然核兵器の危険に晒されているが、我々はLACを世界平和の約束の地として再確認する」と述べた。

 だが演説の力点は、トランプ米政権の対墨政策への批判に置かれた。大統領は、「強国を含むいかなる国も、国際社会の諸原則に反する独自の原則や意思を押し付けてはならない。国際関係は権利、敬意、対話に基づかねばならず、脅迫や実力に依ってはならない」と強調した。

 EPNはまた、「今新たに世界は我々LACの団結ぶりを観ている。LACが寄せてくれた連帯に、全メヒコ人民を代表して感謝する。メヒコは将来に亘ってLACの国だと、誇りを持って言う。困難な時の友こそ善き友と言われるが、メヒコは支持を受けて感動した。価値ある大きな支援だった」と語った。

 会場からは強い拍手が続いた。トラテロルコ条約は、その後の南太平洋、東南アジア、アフリカ大陸、中央アジア・モンゴルの各地域の核兵器禁止条約締結に繋がった。

 メヒコと、中米北部三角形3国(グアテマラ、エル・サルバドール、オンドゥーラス)の外相は今会議に先立つ13日メヒコ市で会合し、同3国からメヒコを経て米国に向かう移民希望者の扱いなどを協議した。

▼ラ米短信   ◎ドミニカ共和国(RD)でジャーナリスト2人殺害さる

 RDのサンペドロ・デ・マコリス市のラジオ放送局で2月14日、ルイス・マルティネス局長と、ニュースを読み上げていたルイス・メディーナ記者兼アナウンサーが侵入者に射殺された。女性秘書ダヤナ・ガルシアは重傷を負った。

 ドミニカ・ジャーナリスト協会(CDP)と全国報道労働者組合(SNTP)は、メディーナ政権に事件の早期解決を要請した。RDでは一昨年4月にも記者が殺害されている。

▼ラ米短信   ◎大量のベネズエラ紙幣がパラグアイで発見さる

 ベネスエラ通貨ボリーバル・フエルテ(bf)の50bf、100bf札を詰めた約500の袋(重さ30トン)が2月13日、ブラジル国境に近い、パラグアイ東部のカニンデジュー県サルト・デル・グアイラ市の武器商人の家で発見され、警察に押収された。

 警察は資金洗浄および犯罪関与の疑いで武器商人を逮捕、取り調べ中。紙幣は14日、首都アスンシオンの中央銀行に運ばれ、金額計算などにふされた。

 警察は、米国のDEA(麻薬捜査局)とベネスエラ当局と連携、事件解明に努める。ベネスエラ政府は、100bf札を2月20日に使用不可とすることを、本事件発覚前から決めている。

 Bf札は、ベネスエラ西部コロンビアの国境地帯、南部ブラジルの国境地帯で出回っている。だがなぜ遠いパラグアイに運ばれたのか、そこに関心が集まっている。
 
 

2017年2月14日火曜日

パラグアイ農民らが首都まで行進、政府・支配体制を告発

 パラグアイの首都アスンシオン中枢部で2月13日、「長い行進」(ラルガ・マルチャ)と名付けて、遠隔地からの数百キロに及ぶ道程を歩いてきた農民、先住民、労働者ら1500人が「新しいパラグアイ建国」を求めて抗議行動を展開した。

 参加者は、「新しいパラグアイ党」(PPP、エラディオ・フレチャ書記長)と、全国農民連盟(FNC、テオドリーナ・ビジャルバ幹部)が組織。6日、二派に分かれて北部のコンセプシオン市、東部のカニンデジュー県を出発、1週間かけて首都に到着した。

 合流した一行は大統領政庁前で、オラシオ・カルテス大統領を「略奪者」と呼び、退陣を求めた。カルテスは今年8月15日に5年の任期が切れるが、憲法を手直しして連続再選を可能にしようと工作している。人々は「即時退陣」を要求した。

 一行は国会前では、議員たちを「守銭奴」と呼び、「権力は腐敗まみれ、恥知らず、売国奴、反人民、麻薬汚染された政治家に奪われている」と糾弾した。カルテスには就任前、麻薬取引との関係した嫌疑がかけられていたが、うやむやにされた。最高裁判所前では、判事たちを「買収されている」と扱き下ろした。

 PPPのフレチャ書記長らは、先住民や貧農からの土地奪取、住民の強制移住、北部地域の軍事化、逮捕者拷問、強姦など「当局者による人民迫害」を告発した。同党は労農政権樹立を目指し、1996年結党された。「ピャウラ(新しい)」というグアラニー語を党名に用いている。

 一行はまた、差別状況、生活苦、土地無し状態、保健・教育への接近困難、住宅不足、恒常的失業、道路不備なども訴えた。財務相の邸宅付近にも押しかけ、「国有資産売却したコルテスの共犯者」と叫んだ。

 1980年代末まで故アルフレド・ストロエスネル将軍の長期軍事独裁が続いたパラグアイは、南米で民主度が最も低い国とされる。21世紀になってから初めて伝統的支配層に属さない、「解放の神学」派のカトリック司教上がりのフェルナンド・ルーゴ大統領が穏健な改革を進めた。だが支配層の画策で、正当な理由なしに国会で弾劾され解任された。

 この政変は「国会クーデター」と呼ばれる。この手法は16年8月末のブラジルの国会クーデターで踏襲された。ヂウマ・ルセフ大統領の労働者党(PT)に選挙で勝てない支配層が企てた強引な弾劾による政権奪取だった。

 パラグアイでは今年1月15~23日には、東部から首都まで200km余の「パラグアイ愛国の長い行進」が実施された。かつて独裁と闘ったパラグアヨ・クバス弁護士が行進を組織した。

▼ラ米短信   ◎米国がベネスエラ副大統領を麻薬犯名簿に加える

 米財務省は2月13日、ベネスエラのタレク・エルアイサミ執権副大統領を「麻薬組織首領名簿」に加えた。またベネスエラの政商で企業家のサマルク・ロペスを、同副大統領の「名義人」と特定、麻薬取引を実行していると指摘した。

 カラカスでは13日、ベネスエラ中国高級合同委員会が開かれたが、エルアイサミ副大統領は中国代表団と会合した。

 ドナルド・トランプ米大統領は12日、ペルーのPPクチンスキ大統領と電話会談した際、「ベネスエラの人道的状況を懸念している」と述べた。ラ米では、メヒコに続いてトランプに痛めつけられる国はどこかに関心が集まっているが、ベネスエラはメヒコに次いで名指しされた国となった。

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDの代表団は最近訪米、ワシントンでベネスエラ政府を退陣に追い込むための根回し工作をした。それが奏功したとも言える。

 一方、ニコラース・マドゥーロVEN大統領は12日、「ベネスエラはラ米の安定と平和を支援する堅固な地だ」と述べた。

2017年2月13日月曜日

メキシコ政府が批判交わす狙いも込め「反トランプ」行動実施

 メヒコ各地の主要都市で2月12日、政府が組織した「政府支持、反トランプ米政権」のデモ行進が展開された。約60団体が参加したが、首都メヒコ市では政権党PRI、前政権党PAN、財界、宗教界、政府系労連などが1万8000人を動員。一方で非政府計1500人も別途、行進した。

 グアダラハラ、モンテレイ、モレリア、アグアスカリエンテス、ビヤエルモサなど諸都市でもデモ行進が実施された。政府系は、メヒコ人への侮辱、国境の壁、移民排斥、関税障壁などでドナルド・トランプ大統領に抗議した。これに対し非政府系は、トランプ批判と併せて、エンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)墨大統領退陣を要求した。

 今回の抗議行動を政府が組織したのには、ガソリン値上げで高まった反政府・反大統領世論や生活苦への抗議の声をかき消し「反米」に転じさせようとの狙いがあった。トランプ登場で「メヒコ民族主義」が久々に高まっているが、それもEPN大統領が極度に不人気とあって、高まりは燃え上がるまでに至らない。

 大統領の威信が一層地に落ちたのは、トランプに叩かれっ放しだったことに加え、新事実が暴露されたことによる。トランプが国境の壁建設政策を公式に発表した1月25日、その発表に先立ち、訪米していたルイス・ビデガライ墨外相がホワイトハウスで、トランプの女婿で大統領顧問のジャレット・クシュナーと、壁建設に関するトランプの発表文の内容を調整していたことが明るみに出されたのだ。

 暴露報道によると、ビデガライは旧知のクシュナーから発表文草稿を見せられ、米墨関係悪化を和らげるためとして、文言の変更を求め、クシュナーがそれを認めた。2人はそろって大統領執務室に行き、トランプに修正した原稿を見せた。トランプは怒ったが、修正を受け入れ、それを発表したという。

 メヒコ紙の論説は、ビデガライを「大馬鹿者」と扱き下ろしている。「被害国」の外相が「加害国」大統領の「加害政令」の内容を和らげるなどということは前代未聞、というわけだ。

 レックス・ティラーソン国務長官は2月8日ワシントンでビデガライと会談、両国問題は「壁」から北米自由貿易協定(TLCAN/NAFTA)見直しに移行しつつある感がある。この米墨外相会談の場にもクシュナーが立ち合った。

2017年2月11日土曜日

 ノーベル平和賞受賞のサントス・コロンビア大統領の選挙戦に収賄資金? ブラジル建設会社オデブレヒトの一大贈賄事件がラテンアメリカを揺さぶる

 ブラジルおよびラ米の最大手建設会社オデブレヒトに絡む贈収賄事件がラ米を揺さぶっている。同社は昨年12月21日、米司法省と司法取引し、2009~14年にラ米10ヵ国とアフリカ2カ国で総額7億8800万ドルの賄賂を贈ったと供述、波紋が拡がった。

 その12カ国は、ブラジル、亜国、エクアドール、ペルー、コロンビア、ベネスエラ、メヒコ、パナマ、グアテマラ、ドミニカ共和国、アンゴラ、モサンビーク。アフリカ両国は、ブラジルと同じポルトガル語圏。

 ペルーでは、アレハンドロ・トレード元大統領が自動車道建設事業に絡み2000万ドルを収賄していた事実が明らかになり、逮捕状が出されている。トレードは事態を察知しパリに逃亡、所在不明となっている。ペルー政府は国際刑事警察機構(インターポール)に逮捕を要請するとともに、逮捕につながる情報提供者に賞金3万ドルを贈ることにしている。

 コロンビアでは2月7日、検察庁が、2014年の大統領選挙の選挙戦時、オ社資金100万ドルが現大統領JMサントス陣営に渡った疑いがあると明らかにした。サントス大統領は直ちに検事総長に電話し、証拠の有無を尋ねたという。

 これも自動車道建設事業に絡む汚職で、1100万ドルがコロンビア側に渡されたが、100万ドルはその一部。香港企業経由で渡されたとの情報もある。検察庁は国家選挙理事会(中央選管)に調査を要請した。 

 サントスは昨年、ゲリラFARC(コロンビア革命軍)との半世紀余り続いた内戦の和平に漕ぎつけ、ノーベル平和賞を受賞した。2月7日には、残るゲリラELN(民族解放軍)との和平交渉を赤道国のキト郊外で正式に始めたばかり。サントスの威信が陰れば、FARCとの和平過程深化、およびELNとの和平交渉に影響が出ると懸念されている。

 サントスにとり「不幸中の幸い」は、14年選挙で対立候補だった右翼政党「民主中心」(CD)のオスカル・スルアガ候補もオ社から160万ドルを受け取っていた疑惑が出ていること。

 一方、パナマでは1月下旬、リカルド・マルティネリ前大統領が建設事業に絡んでオ社から2200万ドルを収賄した事実が暴露された。この金は、スイスにあるマルティネリの息子2人名義の銀行口座に入っていた。スイス政府は、同口座を凍結した。前大統領は米国に逃亡中。

 ところが事態はさらに発展、2月9日、パナマのJCバレーラ現大統領がオ社から14年の大統領選挙戦時、資金を受け取っていたと告発された。昨年4月以降、国際社会を震撼させてきた「パナマ文書」に関与しているパナマ市のモサック・フォンセカ法律事務所のラモーン・フォンセカ弁護士が暴いたのだ。

 ラモーンは、政権党「パナマ主義者党」(PP)でバレーラと長年の同志で、バレーラ政権で閣僚級の政策顧問となり、PP党首にも就任した。だが昨年3月、オ社関連の汚職事件関与が浮かびあがり、辞任した。

 9日ラモーンは検察で取り調べを受ける直前に、バレーラが選挙資金をオ社からもらっていたと爆弾発言した。パナマ社会では一気に反腐敗運動が拡がっている。

 またエクアドールのラファエル・コレア大統領は10日、先手を打つかのように、オ社関連疑惑が赤道国に及ぶとすれば、それは19日の同国大統領選挙(第1回投票)に影響を与えるための政治的策謀だ、と表明した。

 ブラジルではオ社は、国営石油ペロとブラスと絡む政財界を巻き込んだ一大汚職事件で裁かれ、収賄者の裁判や捜査が続いている。

▼ラ米短信   ◎長期受刑囚がプエルト・リコで刑期満了へ

 米本土各地の刑務所で35年の禁錮刑を受けいてきたプエルト・リコ独立派のオスカル・ロペス=リベーラ服役囚(74)は2月9日、インディアナ州テレホート刑務所を出され、民間航空機で島都サンフアンの空港に身柄を移された。

 バラク・オバーマ前大統領は1月17日、ロペスを5月17日に釈放する減刑措置を発表していた。今後は、実の娘クラリサの家族と暮らす「自宅軟禁」の形で5月までの刑期を勤める。

 サンフアンのカルメン・ユリーン市長は、ロペスには市の安定職が待っている、と明らかにしている。 
 
 

2017年2月8日水曜日

コロンビア政府とゲリラELNがキトで内戦和平交渉開始

 コロンビア政府とゲリラ組織民族解放軍(ELN)が2月7日、エクアドール(赤道国)政府の肝煎りで、内戦和平のための公式交渉を開始した。8日、第1段階の実質交渉に着手、40日間をかけて、段階的停戦実施方式や、交渉への「社会参加」について話し合う。「社会参加」に備え、コロンビアの社会団体80が加盟する「和平社会会議」 がキトで会合している。

 交渉開会式は、キト郊外にあるイエズス会所有のカスアパンバ農園で挙行され、ギヨーム・ロング赤外相、コロンビア政府交渉代表フアン・レストゥレポ、ELN代表イスラエル・ラミーレス(作戦名パブロ・ベルトゥラン)が演壇前列に並んだ。赤道国と並ぶ保証国のクーバ、ベネスエラ、チレ、ブラジル、ノルウェーの代表も出席した。招待者140人、報道陣60人も参加した。

 ロング外相は「コロンビアの和平は我が国の和平であり、南米の和平であり、大なる祖国(ラ米)の和平だ。国境に壁を建設する者がいる傍ら、我々は平和な国境を拓こう」と挨拶した。トランプ米政権を皮肉った発言だ。

 レストゥレポ政府代表は、内外世論は内戦終結を待っていると前置きし、ELNに「合法政治をするよう促す」と述べ、併せて「誘拐戦術を打ち切るよう宣言してほしい」と要求した。

 これに対しラミーレスELN代表は、「政治解決を図る用意がある。ELNは内戦中の暴力への責任をとるが、政府も同様に
責任を取るべきだ」と注文を付けた。ラミーレスはELN序列第2位の最高幹部の一人。

 ELNはクーバ革命の影響を受けた北東部サンタンデル州の学生らが、クーバでゲリラ訓練を受け、1965年初め結成した。解放の神学の司祭だったカミーロ・トーレスはELNに参加、1966年戦死した。

 スペイン人神父も参加、73~98年、マヌエル・ペレス神父が最高司令を務めた。98年に病死し、後をニコラース・ロドリゲス(67)が継ぎ、今日に至る。戦闘員の現有勢力は2000人と見られている。

 政府とELNは、最大ゲリラ組織FARCが和平過程に入っている今、「ラ米最後、コロンビア最後の和平、つまり<完全な和平>に漕ぎつける」点で一致している。

▼ラ米短信   ◎ハイチ大統領が就任

 アイチのジョヴネル・モイーズ大統領が2月7日就任した。任期は5年。「テトゥ・カレ・ハイチ党」(PHTK)所属。昨年11月20日の出直し大統領選挙で55・6%を得票、当選した。だが不正批判が相次いだ。

 バナナ業者である大統領は、就任演説で「発想を変えれば、この国は良くなる」と述べ、野党勢力に協力を呼び掛けた。人口の8割が他は農民。国民の60%は貧困状態にある。

 モイーズはまた、「国外出稼ぎ労働者が帰国できる条件を整備する」、「司法を政治目的に使わない」、「国家資金を開発に回す」ことなどを約束した。

 就任式には、隣国ドミニカ共和国(RD)のダニーロ・メディーナ大統領、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領、海を隔てた隣国クーバのエステバン・ラソ国会議長、米国務省のトーマス・シャノン政務担当次官補らが出席した。

▼ラ米短信  ◎亜伯両国がメヒコに関係強化を呼び掛け

 ミシュエル・テメル伯、マウリシオ・マクリ亜の両大統領は2月7日ブラジリアで会談。南部共同市場(メルコスール)加盟両大国間の関税障壁撤廃、メルコスール強化、メルコスールと太平洋同盟(AP)との関係強化などで一致した。

 マクリ大統領は、エンリケ・ペニャ=ニエト墨大統領と6日電話会談したと明らかにし、「南方に意識的に顔を向けているメヒコ」との経済関係強化を図りたい、と述べた。伯亜は、メルコスールと日本、韓国、カナダ、ノルウェー、アイスランド、スイスとの関係強化でも一致した。

 亜伯両国はかつては左翼・進歩主義政権同士として関係が良好だったが、今は保守・右翼政権同士として仲が良い。双方ともにこのところ経済が縮小、対策を迫られている。

2017年2月7日火曜日

「新しい歌」のチリ人旗頭ビオレタ・パラが歿後50周年経つ

 チレ民俗歌謡の大歌手ビオレタ・パラ(1917~67)は1967年2月5日、首都サンティアゴ郊外で経営していた音楽酒場で拳銃自殺を遂げた。それから半世紀経った5日、首都の一般墓地の墓前で歌手たちがギターを弾きながらビオレタが作詞作曲した歌の数々を歌い、故人に敬意を表した。

 ビオレタは1917年10月4日、南部のビオビオ州サンカルロスに音楽教師で民俗歌謡歌手だったニカノール・パラを父に生まれた。7歳で父親のギターを自己流で弾き始める。父が病気で倒れ苦しい生活を送るが、父の死後、首都で学んでいた兄に呼ばれてサンティアゴに出、17歳でカンタアウトーラ(シンガー・ソングライター)になる。

 世界的名曲となった『人生よ、ありがとう』や、1973年の軍事クーデターを予知したような『ケ・ペーナ(何という胸の痛みだろうか)』など、自作の約130曲を世に出した。

 ビオレタの声はチレ農民女性に多い「疲れた声」であり、いわゆる美しい声ではない。だが情熱あふれる存在感とギターのうまさが声に勝って、聴く人々の心を掴んだ。

 先住民族マプーチェの血を引くビオレタは、気性の激しい女性で、差別や無視に対して怒り、抗議した。自らを「人民に同一化している」と言って憚らなかった。作詞には「人民」や虐げられたマプーチェが主題としてしばしば登場、白人が支配するレコード会社、ラジオ・テレビ局、新聞社などはビオレタに門戸を閉ざした。

 共産党員だったビオレタは1953年、「世界青年・学生祭」に招かれ渡欧、東欧やソ連を回り、パリにも滞在する。ビオレタはギター弾き語りの他、絵画、彫刻、刺繍など幅広い創作活動を展開、64年にはパリのルーヴル博物館に絵画などの作品が展示された。

 パリでは、フランコ独裁に抗議するためスペイン大使館への抗議行進に参加した。50年代には、同胞の詩人パブロ・ネルーダと知己になった。ルーヴル展示により故国チレで名士になったが、白人社会からの差別、無理解、無関心は大きくは変わらなかった。

 しかしビオレタの歌は「新しい歌」として既に脚光を浴びており、59年元日のクーバ革命によって生まれた新しい芸術運動と相俟って、ラ米で広く賞賛されていた。同胞のビクトル・ハラ、キラパジュン(歌謡団)、インティ・イリマニ(同)、ロランド・アラルコン、マウリシオ・レドレースらとともに一世を風靡した。

 ビオレタは恋多き女でもあり、2度の結婚や恋愛生活を続けた。息子アンヘルと娘イサベルは歌手で、ビオレタの歌をひき継いでいる。

 ビオレタは67年2月、恋人のウルグアイ人音楽家とモンテビデーオに汽車で旅行することになり切符も買っていたが、出発の2日前、自殺した。死後に訪れたピノチェー軍事独裁政権下で、ビオレタの作詞した歌詞は「反戦歌」、「抗議歌」と捉えられ、検閲された。

 2011年、アンデレス・ウッド監督が映画「ビオレタ、空に去る」(110分)で、ビオレタの生涯を描いた。その中で主人公は、「描く、刺繍する、歌う、は私にとって同じこと」と語り、何が一番重要かと問われては「私は人民と共にありたい」と答える。

 今年10月4日には、盛大な生誕100周年記念行事が計画されている。この誕生日は「チレ音楽の日」に指定されている。

▼ラ米短信   ◎早大でクーバ情勢シンポジウム催さる

 最新のクーバ情勢などを主題とするシンポジウムが2月6日午後、東京都新宿区戸塚の早稲田大学・小野梓記念講堂に130人を集めて催された。

 発言者は、ジャーナリスト伊高浩昭(現代クーバ情勢)、中部大学教授・田中高(日本でのラ米への取り組み)、早稲田大学準教授・岩村健二郎(クーバのアフリカ系の状況)。早稲田大学準教授・高橋百合子が意見を述べたうえで3人に質問、司会は早稲田大学教授・山崎眞次が務めた。

 聴衆は、大学教員、研究者、ジャーナリスト、大学生、映画監督、国会議員、NGO関係者ら多彩な顔ぶれだった。

 
  
 

2017年2月5日日曜日

H・チャベスが率いたベネズエラ軍事蜂起25周年式典催さる

 故ウーゴ・チャベス前大統領が陸軍中佐時代の1992年2月4日に決行した軍事クーデター未遂事件(4F)から25年経った4日、記念式典が盛大に挙行された。ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は、四半世紀前のこの日を「現代史の転換点」と位置付けている。

 式典は軍事蜂起が始まった未明の時刻に合わせ、チャベスが指揮を執った「山の兵営」で開始された。この兵営は、カラカス市リベルタドール区1月23日町モンテピエダー地区にある。チャベスは蜂起を「エセキエル・サモーラ作戦」と命名、自身の暗号名を「ホセ=マリーア」としていた。

 式典では、チャベスに従って決起したディオスダード・カベージョ大尉(現国会議員、政権党PSUV=ベネスエラ統一社会党=副党首)が記念演説をぶった。

 「兵士たちはベネスエラの自由、主権、独立のため、そして人民に最大幸福を与えるため、旧制度を変革しようと蜂起した」と強調した。チャベスは1998年の大統領選挙で当選、99年2月政権に就いた。クーデター失敗後に逮捕されたチャベスは、「今は引き下がろう」と部下たちに降伏するよう勧めた。その「今は」の発言の主が7年後、大統領に上り詰めたのだ。

、禁錮刑に処せられたチャベスは94年、恩赦で釈放され、苦難の道を歩みながら、政治運動を展開。それが実った。だが同志たちの離脱が相次いだ。カベージョは、「25年間に離脱者が出たのは仕方ない。革命の深さが理解できなかったからだ。我々には団結するしか道はない。我々は4Fの30周年記念日、40周年記念日を見据えている」と謳いあげた。

 決起の政治的意味については、「限界に達していた2大政党制(プント・フィホ体制)を崩壊に導いた」と指摘。だが、コムーナ(コミューン)権力体制の確立などはまだまだだと、課題が少なからず残っていることにも触れた。

 マドゥーロ大統領夫妻、副大統領、国防相、故大統領の実兄アダン・チャベス文化相、チャベスの娘らも出席した。「山の兵営」では続いて軍隊が行進した。

 次いで大統領以下はアラグア州マラカイ市のパエス兵営に移動、第2の式典が催された。チャベスは蜂起当時、同兵営に所属する陸軍空挺大隊の司令官だった。91年12月上旬、蜂起を謀議、2ヶ月後に決行した。

 マドゥーロ大統領は、「ここから反IMF(国際通貨基金)、反寡頭搾取階級への革命的反逆が始まった。それは160年に亘る人民搾取と売国への叛乱だった。その流れを変える出発点となった」と指摘した。

 さらに、「チャベスの真実」を克明かつ正確に描く映画と、テレビ映画を制作するよう、関係当局に命じた。また4F蜂起および、これに続く92年11月27日の軍事蜂起「27N」に参加した元兵士計310人を国軍社会保障受給者とすることを決めた。両蜂起で戦死した兵卒たちを第2軍曹に死後昇格させ、遺族に年金を支払うことも決めた。

 一方、チャベスとの共著のあるアレイダ・ゲバラ=マルチ医師(チェ・ゲバラの娘)は2日、滞在中のスペイン・カナリア諸島中心地テネリフェ市で、「ベネスエラの石油は以前は米国に支えられた家族らのものだったが、今は学校、病院、住宅、無料福利のために流れている」と讃えた。

 「革命過程を不安定化させようとする陰謀のせいで物資不足はあるが、ベネスエラは連帯を拡げている」、「ベネスエラは革命過程成熟化の時間が十分にない。常に米国が頭上にいて<第2のクーバは許さない>と圧力をかけているからだ。ベネスエラと石油が彼らの手を離れてしまい、大打撃を受けたからだ」とも語った。

▼ラ米短信  ◎ロシアとベネスエラが外相会談へ

 ロシア外務省は2月4日声明を発表、モスクワで6日、セルゲイ・ラヴロフ外相とデルシー・ロドリゲス外相が会談すると明らかにした。両国は、国際価格安定化のための原油生産削減、軍備、投資などで協力関係にある。

 ロシアにとってベネスエラは、クーバ、ニカラグアと並ぶ重要なラ米の同盟国である。外相会談を受けて、マドゥーロ大統領が訪露する可能性がある。

▼ラ米短信  ◎コロンビアが「紛争後内閣」組織

 コロンビアのJMサントス大統領は2月4日、内戦終結過程進行に伴い、「紛争後内閣」を結成した。内務、外務、労働、財務、防衛、農業、運輸、鉱山エネルギーの8閣僚および、関係機関高官7人で構成されている。
 

2017年2月4日土曜日

ペルーのトレード元大統領の2000万ドル収賄解明近づく

 ペルーのアレハンドロ・トレード元大統領(2001~06年)が2000万ドルの賄賂をブラジル建設大手から受け取っていた事実が明らかになり、逮捕間近と見られている。

 伯建設最大手オデブレヒトは昨年12月、米司法省との司法取引で、05~14年の期間のペルーでの公共事業参入に関連して総額2900万ドルの賄賂を支払ったと認めた。うち2000万ドルがトレード政権期、残る900万ドルはガルシア、ウマーラ両政権期に支払われた。

 英当局は2月初め、トレード政権期に支払われた2000万ドルが、トレードと密接な関係にあるユダヤ系ペルー人ヨセフ・マイマン名義でロンドンのシティバンクに預金されていた事実を確認した。

 マイマンは、同口座から引き出した資金で、トレードの義母(妻の母親)と共にコスタ・リカで「エコテバ」という不動産会社を設立、事業を展開していたとされ、この件でトレードも捜査されていた。

 トレードへの贈賄は、大西洋岸の伯サントス港から秘国太平洋岸の港を結ぶ「両洋間自動車道」の建設事業入札~落札時に支払われたもよう。

 PPクチンスキ現大統領は、トレード政権で経済相を務めたが、3日、「司法は誰にも公平に適用されねばならず、汚職があれば罰せられる」と述べた。ペルー警察は4日、リマ市内の高級住宅街にあるトレード邸を家宅捜査した。

▼ラ米短信   ◎エボ・モラレス大統領が博物館を開場

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は2月2日、オルーロ州内の生地オリノカで、「オリノカ民主・文化革命博物館」の開場式を催し、演説した。その折、感涙にむせんだ。

 「民主・文化革命」とは、モラレスが過去10年間、推進してきた改革政策を指す。開館したのは、先住民族重視の新憲法制定、地下資源国有化、経済開発など施政の成果をまとめて展示する博物館で、大統領は故郷に錦を飾った形になる。

 総工費は710万ドル。総面積は1万平方m強。野党は「国費の無駄遣い」と非難している。

▼ラ米短信   ◎米政府が「対玖政策見直し中」

 ホワイトハウス報道官は2月3日、「トランプ政権は対玖政策全般の見直し作業を進めている」と明らかにした。「大統領は全世界の人々の人権保障に関与しており、人権が焦点となる」とも述べた。

 この日は、対玖経済封鎖発動55周年の日。報道官は、「目下、(具体的な決定などは)無い」と付け加えた。

★クーバ最新情勢シンポジウム開催のお知らせ

 2月6日(月)1300~1500、新宿区戸塚の早稲田大学正門に近い小野記念講堂で。主催:早稲田大学ラテンアメリカ研究所。入場無料。
 報告者:伊高浩昭(ジャーナリスト)、田中高(中部大学)、岩村健二郎(早稲田大学)。討論者:高橋百合子(早稲田大学)。司会:山崎眞次(早稲田大学)。 
  

2017年2月3日金曜日

アルゼンチンのセステートタンゴ「オラシオ・ロモ」を聴く

 タンゴ・アルヘンティーノ(亜国タンゴ)の6人編成バンド(セステート)「オラシオ・ロモ」セステートの演奏を2月3日、東京の中野サンプラザで聴いた。オルケスタ・ティピカ(標準編成バンド)の半分の規模だが、若手奏者ばかりで勢いがある。

 このセステートを率いるバンドネオニスタのオラシオ・ロモは力強く巧みな弾きっぷりが魅力的だ。前半の曲目にある「エル・アボリヒート」(可愛いあざみ)は良かった。

 第一バイオリンのウンベルト・リドルフィは、欧州大陸(コンティネンタル)タンゴの名曲「ジェラシー」で聴かせた。ピアノのフルビオ・ヒラウドは全体的に光った。

 踊りは3組。シルビアyガスパル、ビクトリアyリカルド、アグスティーナyウーゴ。ガスパルは日本でお馴染だ。ウーゴ組は昨年、バイレス(ブエノスアイス)の世界選手権大会で優勝した。細かな振りが目立った。

 男女の絡み踊りが中心のタンゴ舞踊は、人間男女のすることだから振りに限界がある。毎回、どんな工夫をして来るのか楽しみだが、今回も少しは新鮮さが出ていた。アクロバットの絡み踊りでない、正統的な踊りを一曲でも加えれば、かえって新鮮さが出るのではないか。

 歌手は、若手のイネス・クエージョ(27か28歳)。人生も、ラ・ビーダ・タンゲーラ(タンゴ人生)も浅く、歌に味が出ていない。バイレス場末のタンゴ酒場で聴く、人生に疲れたような風貌の初老の歌手の太く低く、くぐもったような声の歌が最高だ。

 この全国演奏旅行は1月下旬から3月上旬まで一カ月半の期間に横浜、金沢、松戸、八王子、長崎、東京中野(本日・明日)、名古屋、豊橋、尼崎、福岡、佐賀、広島、高知、大阪、四日市、山形、札幌、仙台、小美玉、上田、栃木、竜ヶ崎、川崎をどさ回りする。

 うち東京、尼崎、神戸、大阪は昼夜2回の興行だ。バイレス・成田の往復の長旅に、この強行日程とあって、初老の歌手には向かないのだろう。

 亜国人総勢13人。曲目は前半11曲、後半12曲。これにアンコールの「ラ・クンパルシータ」が付く。タンゴは古典が多いが、最近の作「夜明けの道」や、ピアソーラ調、ミロンガも盛り込まれている。

 客層はいつもながら老人男女が圧倒的に多い。中野駅で中央線の電車を降りるや、明らかな老タンゴ愛好家たちが群なしていて、会場に向かって動いていた。帰りも同じだ。

 節分とあって、新井薬師から招かれて上京していた、岩手県花巻市東和町の「金津流丹内獅子踊り」がサンプラザ前の広場で踊りを披露した。なかなか良かった。

 今回のセステート日本公演も主催は民音、および各公演地の新聞やテレビ。ラティーナ社が制作協力。後援は亜国大使館。

2017年2月1日水曜日

キューバのヘンリー・リーブ医療派遣団にWHO賞決定

 世界保健機構(WHO)は1月31日、クーバの「ヘンリー・リーブ医療派遣団」に今年度の「公衆医療賞」を授賞することを決めた。先年、西アフリカで猛威を振るったエボラ出血熱の患者治療への貢献が評価された。

 同派遣団は2005年に故フィデル・カストロ国家評議会議長が結成した。エボラ出血熱には医師ら250人が現地入りして対応した。派遣団は、これまでに19カ国に延べ7254人が派遣されてきた。

 「公衆医療賞」は09年創設された。授賞式は5月下旬、ジュネーブで催される。

▼ラ米短信   ◎南米諸国連合(ウナスール)事務総長が交代へ

 南米12カ国が加盟するウナスールの事務総長エルネスト・サンペール(元コロンビア大統領)が1月31日、任期を終えた。14年8月から2年半務めた。サンペールはコロンビアに戻り、内戦和平過程に関与するという。

 キトの同機構本部で31日開かれた加盟国外相会議は、2月いっぱいかけて後継候補を絞り、3月の外相会議で選出することを決めた。

 サンペールは最後の任務報告でトランプ米政権による脅威に触れて、「メヒコに手出しすればラ米に手出ししたことになる」と警告した。「外国人排斥主義と人種主義の国境壁建設や移民送還という驚異の前に合意は困難だ。我々はこの戦略的脅威を冷静に考えねばならない」と指摘した。

 この日の外相会議にはエクアドール(赤道国)、ベネスエラ、コロンビア、ボリビア、アルヘンティーナの5カ国外相と代理が出席。ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は、「既に複数の事務総長候補の名が挙がっている」と記者団に明かした。

 一方、ウナスールは2月19日実施される赤道国大統領選挙のウナスール選挙監視団の団長にホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領(現上院議員)を任命した。

 サンペールは主として、ベネスエラでマドゥーロ政権と野党連合MUDとの対話に精力を注いだ。だが成果は上がらなかった。南米では亜伯両大国が右傾化し、かつてのようなまとまりを欠いている。