2012年6月30日土曜日

チャベス大統領がメルコスール加盟で表明

☆★☆ベネズエラのウーゴ・チャベス大統領は6月29日、メルコスールへの加盟が7月末に実現することが決まったのを受けて、「地域統合のための歴史的な日であり、祝わねばならない」と、カラカスで喜びを表した。

★チャベスは、自国の加盟について「米州の専横諸国に倫理が教訓を与えた。地政学的に、また政治・経済・社会的に影響が大きく、帝国主義と、その手先のブルジョア階級には打撃となる」と述べた。それには、「加盟に反対していたベネズエラとパラグアイのブルジョアも含まれる」と付け加えた。

☆長らく加盟を阻んできたパラグアイ国会については、「ベネズエラに対し非理性的な敵対姿勢をとってきた。ラ米、メルコスール、パラグアイ自体の統合を著しく阻害してきた」と指摘した。

★ベネズエラの加盟の意義については、「メルコスールの原油、天然ガス、淡水の保有量を世界一に引き上げるのに貢献する」と強調した。

☆チャベスは10月7日の次期大統領選挙に出馬しているが、癌のため馬力に衰えが目立っている。今回の加盟決定の朗報は、チャベスに有利に作用する。

ベネズエラがメルコスール加盟へ

★☆★☆★南部共同市場(メルコスール)は6月29日、亜国中西部のメンドサ市で第43回首脳会議を開き、ベネズエラの加盟を決定した。同国は、7月31日リオデジャネイロで開かれる特別首脳会議で正式に加盟する。

☆今首脳会議には、今月23日のパラグアイ国会によるフェルナンド・ルーゴ大統領の乱暴な解任という、軍事手段によらない<新手の柔らかなクーデター>を受けて、同国を除くアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイの3国大統領が出席した。会議は、パラグアイのメルコス-ル加盟資格を次期大統領選挙実施まで停止とする処分を決めた。

★ベネズエラの加盟は06年に決まっていたが、パラグアイ国会だけが加盟のための条約改定を批准せず、長らく加盟が阻止されてきた。ストロエスネル長期独裁時代に形成された大地主ら有産階級が牛耳る国会は保守・右翼色で埋まり、改革派のルーゴ大統領を一方的に追放した。だが、それによって地域市場の加盟資格停止となり、批准しないことによってベネズエラの加盟を阻む戦略は皮肉にも崩壊した。

☆首脳会議はまた、次期パラグアイ大統領選挙を監視する委員会を、南米諸国連合(ウナスール)が組織することを決めた。パラグアイに対する経済制裁は、同国人民に負担となるため科さないことを決めた。

★議長を務めたクリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル(CFK)亜国大統領は、「我々は一致して新手のクーデターを糾弾する。パラグアイの民主憲政秩序は中断した。メルコスールの民主条項に違反している。民主主義概念に二重基準はない」と明言した。

☆メンドサでは同日、ウナスール首脳会議も開かれ、パラグアイ問題でメルコスールと同じ方針を打ち出した。メルコスール3首脳のほか、チリ、ボリビア、ペルー、エクアドール、スリナムの5カ国大統領が出席した。ベネズエラ、コロンビア、ガイアナの大統領は欠席した。パラグアイは招かれなかった。

2012年6月27日水曜日

中国がラテンアメリカ政策を打ち出す

▼▼▼中国の温家宝首相は6月26日、チリの首都サンティアゴにある国連ラ米経済委員会(CEPAL=セパル)で、「中国・LAC(ラック=ラ米・カリブ):グローバル経済の新たな挑戦を受けての対話と協力」と題する文書を公表し、包括的なラ米政策を打ち出した。要点は次のとおり。

▼中国とラ米の協力関係について話し合うための「高級フォーラム」をつくる。ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC=セラック、昨年12月発足、33カ国加盟)のトロイカ(輪番制3国)外相と中国外相の会合を設置し、定例化させる。

▼中国はLAC工業化支援資金として基金を設立し、まず50億ドルを供出する。

▼他に、中国銀行を通じて協力資金100億ドルを融資する。

▼LAC諸国との定期首脳会合を設けたい。

▼将来、LACとの貿易総額を4000億ドルに拡大させたい。

▽温首相は25日にはブエノスアイレスで、南部共同市場(メルコスール)のアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイの加盟3国大統領とビデオ会議を開き、以下のような対メルコスール政策を明らかにしている。

▽中国は信頼醸成と戦略的コミュニケーションの強化を図るため、定例外相会議を設置したい。

▽実利的関係の強化を図る。2016年までにメルコスールとの貿易総額を2000億ドルまで引き上げる。相互投資・融資を増やす。自由貿易地域を設定する。人的交流を拡大する。

▽加盟国パラグアイは、22日の<国会クーデター>でフェルナンド・ルーゴ大統領を解任したため、ビデオ会談から外された。これは中国にとっては誤算だった。

▽温首相はリオデジャネイロでの「リオ+20」会議に出席し、ブラジル、ウルグアイ、アルゼンチンを訪問してからチリを訪れた。

2012年6月25日月曜日

ガラパゴス島の長老亀が死ぬ

★☆★エクアドールのガラーパゴス諸島サンタクルース島で観察飼育されていた、巨大な象亀「孤独なホルヘ」が6月24日、死んだ。推定年齢100余歳。

☆同諸島ピンタ島で1972年に見つかり、保護された。これで、同島生まれの象亀は途絶えたという。

★地元の研究所は、解剖して死因を特定する。

2012年6月24日日曜日

イラン大統領がベネズエラ訪問

▼▽▼イランのマハムード・アハマディネジャド大統領は6月22日、ベネズエラを訪問し、ウーゴ・チャベス大統領と会談した。チャベスは、「邪悪な政策を押し付けようとしている帝国主義勢力を相手に闘っている人民の真の指導者」と、イラン大統領を持ち上げげた。

▽チャベスはまた、「あなたのこの来訪を機に、戦略的同盟関係を深化させたい。イラン人民と国家は、主権、独立、合法的諸制度を脅かされている。帝国主義に押し付けられた困難と障害がある。イラン革命を潰すために押し付けられた封鎖、脅威、制裁と闘うあなたの英雄的努力を支援する」と述べた。

▼これに対しアハマディネジャドは、チャベスを「親愛なる兄弟」と呼び、「帝国主義大国に抵抗し、自国と世界の人民の権利を守っている革命家」と讃えた。さらに、「その抵抗の戦いに勝利するのは人民だ。私は、帝国主義解体の兆しを見ている」と語った。

▽チャベスは、「25日にベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が来訪する」と明らかにし、「我々アハマディネジャド、ルカシェンコ、チャベスは<独裁者>呼ばわりされているが、皆、高い得票率で再選されてきたのだ」と強調した。

▼アハマディネジャドはこれを受けて、ルカシェンコをも「革命家」と呼び、「帝国にとって民主主義は帝国が主張するものであって、人民が望むものではない。帝国は自由の名の下に、独裁者たちを政権に就けてきた」と指摘した。続けて、「米国は自分たちの<銃剣付きの民主主義>をイラクに輸出し、100万人を殺し、400万人の難民を生み出し、社会構造を破壊した」と述べた。

パラグアイ大統領解任でラ米諸国動く

▼▼▼パラグアイ国会は6月22日、フェルナンド・ルーゴ大統領を弾劾し解任したが、23日までにALBA(アルバ=米州ボリバリアーナ同盟、8カ国加盟)、ペルー、ドミニカ共和国は暫定政権を認めないと表明した。アルゼンチンとブラジルは解任を非難し、大使を召還した。

▼ALBAにはベネズエラ、キューバ、ボリビア、エクアドール、ニカラグアおよび、カリブ英連邦3カ国が加盟している。

▼伯亜ウルグアイ・パラグアイの4カ国で構成する関税同盟「南部共同市場(メルコスール)」は28日、亜国メンドサ市で緊急首脳会議を開き、対応を協議する。パラグアイ暫定大統領フェデリコ・フランコは23日現在、招かれていない。

▼ペルーのオヤンタ・ウマーラ大統領は23日、南米諸国連合(ウナスール)の緊急首脳会議をリマで開催するよう提案した。

▼中米議会(Parlacen)は23日、パラグアイ政変を「合憲大統領に対するクーデターだ」として、弾劾を認めないよう求める声明を発表した。

▼米州諸国機構(OEA=オエア)のホセ・インスルサ事務総長(チリ元外相)は23日、「(パラグアイ憲法には弾劾規定があるにせよ)余りにも早急な決定で、正当な手続きを踏んでおらず、大統領に十分な釈明機会が与えられなかった」と厳しく批判した。

▼一方、ルーゴ前大統領は23日、報道機関に対し、来年の次期大統領選挙に出馬する可能性を示唆した。また、弾劾に同調したフランコ副大統領(現暫定大統領)を名指しせずに非難した。

2012年6月23日土曜日

パラグアイ大統領が<国会クーデター>で追放さる

▼▼▼▼▼パラグアイのフェルナンド・ルーゴ大統領は、6月22日、国会によって解任され、政権を下りた。前日、下院と上院で採択された弾劾決議に従った。来年8月15日までの1年余りの任期は、副大統領から22日昇格したフェデリコ・フランコ暫定大統領が務める。

▼来年4月、次期大統領選挙が実施される予定。富裕層を代表するコロラード党(共和国民協会)
の守旧派政権が復活する可能性が出てきた。

▼今回の<国会クーデター>は、60年以上政権にあった極右・守旧派のコロラード党が、ルーゴ政権の内政改革と進歩主義外交に我慢できず、なりふり構わず数の力で潰したもの。富裕層が最も恐れる農地改革をルーゴは志向していたが、このことが15日に北東部で起きた土地無し農民と警官隊の衝突事件であらためて浮かび上がり、富裕層はルーゴ追放の好機と捉え、国際世論を無視して弾劾措置を取った。

▼南米諸国連合(ウナスール)は21日アスンシオンに外相団を派遣して、事態を好転させるべく努めたが、外相団の目の前でルーゴは追放された。威信を傷つけられたウナスールは、緊急会議を開き、パラグアイへの集団的対応策を決める。

▼エクアドール、ボリビア、ベネズエラは新政権を認めないと既に表明している。アルゼンチンは「クーデターを認めない。近くウナスールとして対応を決める」との立場だ。亜国はブラジル、ウルグアイ、パラグアイとともに南部共同市場(メルコスール)を構成しており、立場は複雑だ。

映画「セブン・デイズ・イン・ハバナ」を観る

☆★☆★☆映画「7DAYS in HAVANA」を6月21日、試写会で観た。7人の監督が競作・共作した素晴らしい作品だ。アルシネテラン配給で、8月4日から東京・渋谷の「ヒューマントラストシネマ渋谷」などで公開される。

★現代キューバの素顔を垣間見るのに適したリアリズムがある。

☆この映画については別途、解説的な文章を書くため、ここでは、これだけに留めておきたい。多くの人々に観てほしいと思う。

2012年6月22日金曜日

キューバのラウール議長がリオで演説

▽▼▽キューバのラウール・カストロ国家評議会議長は6月21日、リオデジャネイロでの「リオ+20」首脳会議で演説した。20年前に実兄フィデル・カストロ議長(当時)がリオ会議の演説で強調したのを繰り返して、「資本主義による非合理的な生産・消費および征服戦争の結果、現代世界の危機が拡がった」と指摘した。

▼議長はまた、「持続不可能な生産・消費モデルを変革できないため、地球上の生命を支えている大自然のメカニズムの均衡と再生が侵されている。それは、新しい型の軍事侵略によって一層深刻化している」と強調した。

▽ラウールはさらに、「先進諸国は、歴史的・今日的義務に基づいて行動できない。そのような政治意思の欠如が問題だ」と批判し、核兵器廃絶と軍縮促進を訴えた。

▼続けて、「戦争正当化を止め、気候変動問題の解決に取り組むべきだ」と前置きし、「気候変動で海面が徐々に上昇しており、キューバにも影響が及んでいる。熱帯性低気圧発生も頻発するようになっており、地下水の塩水化も深刻になっている」と警鐘を鳴らした。

イラン大統領がリオ会議で演説

▽▼▽イランのマハムード・アハマディネジャド大統領は6月20日、リオデジャネイロでの「リオ+20」首脳会議でペルシャ語で演説し、「覇権なき、道義ある世界新秩序の構築」を訴えた。

▼大統領は、「今日の世界秩序は富裕諸国の価値観である物質主義、経済利益、消費主義、道徳喪失、無神論に基づいており、それらを根拠に富裕諸国は暴力、環境破壊など旧来の手法を行使している」、「帝国主義の制度が支配している」、「先進国と呼ばれる少数国集団が開発モデルを押し付け、他の国々はそれに従属せざるを得なくなっている」と指摘した。

▽そして、「他国人民を犠牲にして覇権を求めてはならない。世界秩序は、人類の物質的・精神的必要を満たすべく再構築されねばならない」と強調した。

▼大統領は、ジルマ・ルセフ伯大統領との公式会談を要請していた。だがルセフは、「リオに来ているすべての首脳と会うことは不可能だ」として、会談を拒否した。

▽アハマディネジャドは21日にはリオでパン・キムン国連事務総長と、シリア情勢やイランの核開発問題で会談した。またブラジルの知識人、映画人らと会合した。

パラグアイ大統領が「守旧派クーデター」を非難

▼▽▼パラグアイのフェルナンド・ルーゴ大統領は6月21日、テレスールによるインタビューで、「国会内の守旧派は結束し、実質的な審議を全くせずに政治裁判を開き、素早くゴルペ(クーデター)を打った」と、コロラード党を中心とする野党勢力を糾弾した。

▽さらに、「弾劾決議採択は、必要な手続きを経ておらず違憲だ」としながらも、「明日(22日の国会での釈明)は理性が勝ち、私はこの不公正な政治裁判から颯爽として抜け出す」と強調した。

▼大統領はまた、今回の画策の背後にコロラード党次期大統領候補オラシオ・カルテスがいる、と指摘するとともに、「彼の支持は伸び悩んでいる。だから他の候補たちと、08年に始まった(ルーゴ政権による)変革過程を潰そうとしている」と非難した。

▽ルーゴは、ストロエスネル長期独裁下で国有資産を私(わたくし)し、特権的地位を謳歌していた守旧派は変化を望まず、民主体制を潰そうとしている、とも述べた。

▼カルテスは銀行、畜産、たばこ生産などを手広く経営する資産家で、コカコーラ社現地代表も務めている。この国の巨大な貧富格差を、富裕な側で代表する人物。1月の党大会で、大統領候補に指名された。昨年11月には、ウィキリークスに「資金洗浄関与」を暴露された。

▽一方、ルーゴ大統領との会合を22日未明に終えた、ウナスールのアリー・ロドリゲス事務総長は、「パラグアイはウナスールの輪番制議長国であり、今回の出来事は民主的な南米統合過程に影響を及ぼす」と批判した。

パラグアイ国会がルーゴ大統領を弾劾

▼▼▼▼▼パラグアイ国会は6月21日、北東部で15日発生した農民・警官17人死亡事件の責任をなすりつける形でフェルナンド・ルーゴ大統領弾劾決議を可決した。大統領には22日、2時間の釈明機会が与えられるが、その後、解任される公算が大きくなっている。

▼これに対し、「ストロエスネル独裁時代から勢力を温存してきた守旧派や有産階級による国会を介しての事実上のクーデターだ」と受け止める内外世論が巻き起こっている。旧勢力は、ルーゴ政権の改革政策や進歩主義外交を毛嫌いし、追い落としの機会を絶えず狙ってきた。

▼南米諸国は事態に緊急に対応している。「リオ+20」会議出席のためリオデジャネイロに集結していた主催国ブラジルおよび、ウルグアイ、チリ、ボリビア、エクアドール、コロンビアの計6カ国大統領は緊急会合を開いた。其の結果21日夜アスンシオンに、南米諸国連合(ウナスール)のアリー・ロドリゲス事務総長(ベネズエラ)と、ブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、チリ、ペルー、エクアドール、コロンビア、ベネズエラの8カ国外相およびボリビア閣僚を急派した。

▼外相派遣団は直ちにルーゴ大統領と会合し、連帯を表明した。


▼また、アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイの加盟する南部共同市場(メルコス-ル)も、パラグアイ国会の決定に強い不信感を抱いている。ウナスールとメルコスールは規約に「民主条項」を持っており、今回の弾劾が「クーデターに等しい」と判断されれば、両機構からのパラグアイの追放もありうることになる。

▼一方、ブエノスアイレスに本部のあるNGO「平和と正義への貢献(SERPAJ)」は21日声明を発表し、パラグアイの旧勢力がルーゴ政権の改革の実績を葬り去ろうとしていると非難し、パラグアイ人民に抵抗を呼びかけた。SERPAJの代表は、ノーベル平和賞受賞者アドルフォ・ペレス=エスキベル氏が務めている。

▼ルーゴ大統領は5月29~31日、日本を公式訪問した。

2012年6月21日木曜日

7時間続くイタリア映画「ジョルダーニ家の人々」を観る

☆★☆伊仏合作映画「ジョルダーニ家の人々」(2010年)を6月19日、試写会で観た。家を朝9時に出て、帰宅したのは1830だった。上映時間と休憩30分を足すと7時間余り。それもそのはず、4回続きの一挙上映だからだ。東京神田神保町の岩波ホールで7月21~9月14日、上映される。

★愛の結実・復活・破綻・再生が全体を貫く基本テーマ。物語の展開は極めて欲張りだ。恋愛、結婚、離婚、出産、家族、死別、不倫、父と息子の対立、少年から壮年までが謳歌する自由性愛、同性愛、別居、堕胎、養子縁組、疑似家族、記憶喪失、精神病、天職などが、ローマの裕福な家庭の日常性のなかで複雑に絡み合い展開する。

☆並行して、米国が仕掛けたイラクとアフガニスタンの戦争、イラン・イラク戦争、クルド人虐殺、国際治安監視団、戦後復興事業、テロリズム、戦争難民、貧富格差、不法移民、麻薬密売、麻薬中毒、人身売買、売春、殺人、マフィア、旧東欧の停滞、エイズ、障害者、介護などの国際問題、社会状況が随所にちりばめられ織り込まれている。

★現代の豊かで教育ある市民は誰も、内外の情勢・状況に無関心でいることは許されないし、無関係で生きることなどできない、ということを作者や監督は言いたいのだろう。主役・準主役が数多く登場するため、日常性だけでは物語の展開が難しい、という事情もあったはずだ。

☆この一族は、深刻な問題を抱えていたイスラム難民母娘を家族として迎え入れる「広い愛」に到達し、破綻した愛を再生させる。一方で、精神分析医である一族の娘は、記憶を喪失していた軍人の記憶を回復させ、昔の婚約者との愛を完成させてやるが、自身は夫にもはや愛していないと告げて別れてしまう。彼女の今後の生き方に余韻を持たせて物語りは終わる。

★小言を言えば、字幕に「出れる」という「ら抜き」ならぬ、正しい「出られる」という言葉を知らない<ら知らず>の誤った日本語が3か所も出てくること。みっともない。字幕はフィルムとともに残る。日本語文法を学ぶべきだ。

☆総じて、楽しめる作品だ。弁当と飲み物は必携。

2012年6月20日水曜日

アサンジ氏がエクアドールに亡命申請

▼▽▼「ウィキリークス」創始者のジュリアン・アサンジ氏は6月19日、ロンドンのエクアドール大使館で同国への政治亡命を申請した。エクアドール政府は、事実関係を英外務省に伝えたと明らかにするとともに、亡命申請について検討すると述べた。

▽英最高裁は14日、スウェーデンへの身柄引き渡しの差し止めを求めるアサンジの訴えを却下していた。

▼アサンジは4月、エクアドールのラファエル・コレア大統領と電脳会談した。大統領は、「アサンジは米政府を追い詰めたため、迫害されている」と語っていた。

イラン大統領がボリビアで「植民地主義」を非難

▼▽▼イランのマハムード・アハマディネジャド大統領は6月19日、ラパスでボリビアのエボ・モラレス大統領と会談した。両国は2007年に国交を樹立したが、イラン大統領は以来3度目のボリビア訪問。

▽会談後の記者会見でアハマディネジャドは、モスクワでのイランと、安保理5常任理事国およびドイツとの話し合い、さらに墨ロス・カボスでの米ロ首脳会談を受けて、「他の国々の発展と自由に反対する一部諸国の態度は、長い植民地主義の時代に根差している」と非難した。

▼モスクワで6カ国側はイランに、ウラン濃縮を大幅に減らすよう求め、米ロ首脳は「イランは、核平和利用に関する国際社会の信頼回復のため真剣に努めるべきだ」と述べた。

▽一方、モラレス大統領はアハマディネジャドに対し、「兄弟大統領、あなたは独りではない。反帝国主義闘争をしている我々がここにいる」と述べ、激励した。

▼両国外相は、麻薬取締協定に調印した。イラン大統領一行は同日、「リオ+20」首脳会議出席のため、リオデジャネイロに向かった。

グアテマラ・マヤ人女性活動家ロサリーナ・トゥユクが語る

☆★☆創刊61年目に入った月刊誌「LATINA」の7月号(通算701号)は6月20日刊行された。連載第77回「ラ米乱反射」(伊高執筆)は、「マヤ民族は自然・文化を浄化する<人的資源> ー ロサリーナ・トゥユク、グアテマラの状況を語る」である。庭野平和賞受賞のため5月来日した際、インタビューした。

★ロサリーナは人権、女権、正義、和平のための活動家。同志リゴベルタ・メンチューが2度出馬した大統領選挙で3%程度の得票しかなかったことについて、興味深い分析をしている。

☆この7月号には、先月83歳で死去したメキシコ人作家カルロス・フエンテスの出世作『最も透明なる地域』(邦題「澄みわたる大地」、2012年、現代企画室)の書評、カナダ映画「ぼくたちのムシュー・ラザール」の映画評も掲載されている。

2012年6月18日月曜日

パラグアイで土地無し農民が警官隊と衝突

▼▽▼パラグアイ北東部、ブラジル国境のカニンデジュー州マリナクエーで6月15日、過去に不法取得された大土地を、土地のない貧農たちが占拠していたところ、排除のために警官隊が派遣され衝突し、農民9人、警官8人が死亡、約80人が負傷し、逮捕者も出た。


▽この土地無し農民は、「ロス・カルペロス(テント生活者)」と呼ばれている。ストロエスネル独裁時代から数年前までの政権党・コロラード党の元上院議員で資産家のブラス・リケルメ所有の農場の一部を占拠していた。


▼同独裁時代に農民や先住民から奪われ、独裁支持者に与えられた土地は675万hrにのぼる。独裁崩壊後も100万hrが不正に富裕層に与えられた。


▽農民側および、これを支持する市民組織は16日、不正に分配され取得された土地を接収し、農地改革の対象にするよう、フェルナンド・ルーゴ大統領に訴えた。


▼大統領は事件後、150人の陸軍部隊を現地に派遣するとともに、内相と警察長官を更迭した。新内相は、検事総長時代に農民らを弾圧した強権派で、農民や市民団体は任命に反対している。

2012年6月16日土曜日

リオで「人民サミット」始まる

▽▼▽リオデジャネイロで6月13日、国連「持続可能な開発」をめぐる会議(リオ+20)の政府間事務協議が始まった。20~22日の首脳会議に向けての最終宣言策定のため。この会議の並行会議として15日、リオのフラメンゴ海岸緑地帯で「人民サミット」が始まった。

▼先ごろポルトアレーグレで開かれた「世界社会フォーラム(FSM)」で開催が決まっていた。人民の立場から首脳会議に提言する。組織者は「大自然を商業化する<緑の経済>政策は失敗した」と宣言している。

▽人民サミットも22日まで続き、70カ国から200団体、3000人の参加が見込まれている。参加している伯(ブラジル)アマゾニーアの先住民代表たちは14日、リオ郊外で「緑の競技会」という独自のスポーツ大会を催した。ある代表は、伯・国家インディオ財団(FUNAI=フナイ」)の運営は、もうそろそろ先住民に任せるべきだ、と述べた。米州のほか、アジア、アフリカの先住民も到着しつつあり、先住民集団として、人民サミットに参加する。

▼一方、アマゾニーア(リオ・アマゾナス=アマゾン川の流域)を共有する南米8カ国は12日、ガイアナの首都ジョージタウンで、アマゾニーア協力条約締約国閣僚級会議を開いた。リオ会議に備え、アマゾニーア諸国の意思統一を図るため。参加国はブラジル、ボリビア、ペルー、エクアドール、コロンビア、ベネズエラ、ガイアナ、スリナム。

下嶋哲朗著『非業の生者たち』を読む

▼▽▼▽▼ノフィクション作家の下嶋哲朗が、執念の著書『非業の生者たち』(岩波書店)をついに世に出した。著者は、1975年に石垣島滞在中、読谷村チビチリガマで戦時中に集団自決があったことを知り、その現場を83年に調査した。それから30年目に、この鬼気迫る労作にして大作が世に出た。著者のライフワークであり、この著者にしか書けない本だと言えるだろう。

▽下嶋は、読谷村、沖縄、そして日本のタブーに挑戦した。社会科学的アプローチで、タブーを打ち破り、「世界」誌に2010年1月号から11年3月号にかけて14回連載した。それに加筆して、この超重量級の本が生まれた。

▼冒頭で、「(集団)自決は、自国による自国民のホロコーストといっても言いすぎではない。ナチですら、自国ドイツ民族の抹殺などは計画しなかった」と、鋭く指摘する。「世界に例を見ない、日本人特有の死の形」と(集団)自決を捉える。

▽(集団)自決には、「強制」と「自発性」の二重性がある-と前置きし、「からくも生き残った人々は、その二重性、つまり矛盾が解き明かせぬために、自ら<自己責任>に一本化させて苦しみ、よって内向するしかなく、<非業の生者たち>となった」と、核心を突く。「この本は、<非業の生者たち>の聞き書き-伏流する魂の声を聞き、それを学び、(集団)自決の真実(真相)、<強いられた自発性>の矛盾を解き明かそうとするものである」と、執筆の目的を明らかにする。

▼明治天皇、山県有朋以来の「死ぬ国民作り」に始まり、戦時中の「一億玉砕」主義、「鬼畜米英」という偽りの煽動が、多くの非戦闘員=民間人を非業の死に至らしめた。著者は、こう説く。

▽私は、戦時中に生まれ戦後に育った。日本人が開戦に踏み切りながら、日本人自身が自らの戦争責任を明確にしていない戦争の時代に生まれた者として、私も「非業の生者」であることから免れない。そんな思いを抱きつつ、この本を繰り返し読んでいる。

2012年6月15日金曜日

アルゼンチン大統領が国連で訴える

▽▼▽アルゼンチンのクリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル(CFK)大統領は6月14日、国連非植民地委員会に、外相、野党議員を含む国会議員団、M(マルビーナス)戦争退役軍人らを伴って出席し、約1時間にわたって、M諸島領有権回復を求める亜国の立場を説明した。

▼大統領の発言趣旨: 彼ら英国人が「フォークランド」と呼ぶM諸島にF旗が掲げられているのを観て、私は恥を感じざるを得ない。ドイツが無条件降伏した5月8日にドイツ旗が英国旗の下に掲げられるのを観たら、ドイツ人とメルケル首相はどんな思いになるだろうか。8月15日ごとに米大統領政庁(ホワイトハウス)で米国旗の下に日本の旗が掲げられたら、日本人はどんな気持ちになるだろうか。

▽1982年のM戦争は、亜国軍事独裁政権が一方的に始めた戦(いくさ)だった。諸島は1833年年1月3日に英海軍によって奪われた。英本国から1万4000kmも離れた諸島が、どうして英領だと言えるのか。英政府は近年、諸島の軍事化強化を進めている。英政府は、わずか3000人程度の諸島住民とだけ話し合っている。その住民の70%だけが英国籍だ。我が亜国本土には諸島の英国人より数多く英国人が住んでいる。我々は諸島住民の国籍を変えようとは思わない。諸島の領有権回復を求めているだけだーー。

▼一方、英国のデイヴィド・キャメロン首相は戦勝記念日に際し、領有権交渉はしない、との従来の立場を強調した。また、「亜国による脅迫は効果がない。我々の諸島防衛の意志を過小評価してはならない」、「亜国大統領は諸島海域での漁船の操業を規制し、亜国・諸島間のチャーター航空便の運航を停止させ、いままた国連で議論を激化させている」と指摘した。

2012年6月14日木曜日

アルゼンチン対英敗戦30周年

▼▽▼亜英マルビーナス(フォークランド)戦争(1982年4月2日~同年6月14日)の、アルゼンチン敗戦による終戦から6月14日で満30年が過ぎた。戦争では亜国人650人、英国人255人が死んだ。

▽亜国のクリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル(CFK)大統領はこの日、国連本部で開かれる非植民地委員会に出席し、マルビーナス諸島の主権奪回を目指す歴史的正統性と、そのための対英話し合いの要求をあらためて主張する。

▼一方、フォークランド諸島の首都ポートスタンリーでは12日、諸島議会代表が、諸島帰属国選択に関する島民意思を確認するための住民投票を来年前半に実施する、と発表した。デイヴィド・キャメロン英首相はロンドンで直ちに、諸島議会の決定を支持すると表明した。

▽私は、この戦争を開戦直後からブエノスアイレスで取材した。戦場と、亜国軍の発進基地のあったパタゴニア地方の取材が許されなかったからだ。敗戦の記事も、同市で書いた。

▼この戦争に敢えて評価できる面があるとすれば、亜国軍の敗北で軍部の権勢が地に落ち、1930年から半世紀にわたって政治に干渉した軍部が政権を投げ出し、今日まで30年も文民政権が続いていることだ。

▽もう一つは、当時のレーガン米政権がサッチャー英政権支持に回り、「米州の一国が域外の国から攻撃された場合、米州全体で防衛する」という条項を持つ「米州相互援助条約」(TIAR、1947年調印)が完全に有名無実になったことだ。(米国はラ米諸国をさんざん軍事侵略し、米州の内なる侵略国に成り下がっていた。TIARは当初から無意味な存在だった。)

2012年6月13日水曜日

キューバの英雄ステベンソン死去

★☆★キューバの英雄だったヘビー級ボクサー、テオフィロ・ステベンソン(60)が6月11日死去した。ミュンヘン、モントリオール、モスクワの五輪3大会連続金メダルに輝いた<拳聖>だった。

☆生涯戦績は、321試合301勝。米ボクシング界からの度重なるプロ化への誘いを拒否した。多くのファンが望んでいたモハメド・アリとの対戦は実現しなかった。

★12日の葬儀には、フィデル、ラウールのカストロ兄弟、ベネズエラ大統領チャベス、ニカラグア大統領オルテガらからの花輪が捧げられた。

☆私は、90年代初め来日したステベンソンに東京でインタビューした。「全盛期にアリと対戦していたら、どちらかが勝ち、どちらかが負けなければならなかった。私はキューバを愛し、生涯キューバに留まる」と語っていた。

2012年6月11日月曜日

ガルシア=マルケスが痴呆症か

▼▽▼コロンビア人作家プリニオ・アプレヨは6月10日、親友の同国人作家ガブリエル・ガルシア=マルケス(GGM、85歳)が老人性痴呆症になっているもようで、友人を識別することもできなくなっている、と述べた。

▽アプレヨは、GGMとの『グアヤバの匂い』という共著がある。5日にウェブサイトでGGMの様子について既に明らかにしていた。

▼GGMは5月15日、メキシコ人作家カルロス・フエンテス(83歳)が死去した際、追悼文を書くことはなかった。ラ・ホルナーダ紙は、1988年にGGMがフエンテスについて書いた文章を再録していた。一昨年、ペルー人作家マリオ・バルガス=ジョサがノーベル文学賞を受賞した際、GGMは沈黙していた。

2012年6月10日日曜日

立教ラ米研のキューバ映画上映会終わる

☆★☆立教大学ラテンアメリカ研究所(ラ米研)が池袋キャンパスで5月26日「キューバの恋人」、6月9日「アキラの恋人」の2本を公開上映した映画会が成功裡に終わった。

★2011年にキューバで制作・公開された「アキラの恋人」は、1968年に撮影され69年に日本で公開された日玖合作「キューバの恋人」がなぜ制作されたか、という過去の映画の制作理由を検証する関係者の証言記録だ。ややミステリーじみた異色の映画である。今回が日本での初公開だった。

☆制作理由と並ぶもう一つの焦点は、「キューバの恋人」がキューバで初公開されたのが2011年であり、なぜそれまで42年間も公開されなかったのかという謎の究明にある。キューバの映画専門家は、68~69年のキューバの政治状況、映画の完成度・評価、日本での反応・評判の3つの理由からキューバでの公開が遅れたと観ている。

★私は、以下のように分析した。映画には、前年ボリビアで処刑されたチェ・ゲバラを讃える場面がしばしば登場する。それから、ソ連軍が戦車をチェコスロヴァキアに侵入させ「プラハの春」を押しつぶした68年8月の大事件を示唆する<落書き>が登場する。

☆ゲバラはコンゴに出発する前の65年2月アルジェでの国際会議で、「ソ連による搾取」を糾弾した。ブレジネフのソ連は激怒し、フィデル・カストロに圧力をかけた。ゲバラは、ついにキューバを去らねばならない時に直面し、去っていった。

★カストロは、ソ連軍のチェコ侵略を支持した。社会主義陣営の危機を救うためやむを得ない措置、という理由だった。この支持声明によって、玖ソ関係は69年、蜜月状態に入った。翌70年に砂糖1000万トンを生産する「大収穫(グランサフラ)」計画の実施を控えていたカストロにとって、ソ連の経済支援はなくてはならないものだった。

☆戦車の<落書き>は、もちろんキューバ共産党宣伝煽動局の仕事だった。カストロはやむにやまれぬソ連支持と、人民の対ソ反発の両方を同時に示していたのだった。

★ゲバラに関する難題は、彼がボリビアで死に、玖ソ間ではもはや過去の問題となっていた。それを蒸し返すのは得策ではなかった。また<落書き>は蜜月時代にふさわしくなかった。そこで69年に「キューバの恋人」は、お蔵入りする運命になった。

☆さらに、「大収穫計画」は失敗する。これを機にキューバは、ソ連圏の経済相互援助会議(コメコン)に72年加盟し、社会主義陣営の国際分業体制に公式に組み込まれた。ところが89年のベルリンの壁崩壊でコメコンは崩れ去り、91年にはソ連が消滅してしまった。「キューバの恋人」の時代は、悪夢に向かう長い前夜の時代であったことが明らかになり、映画はさらに埃をかぶることになる。

★21世紀も第2・10年期に入った。行き詰った経済の活性化のため、ラウール・カストロ政権は、市場原理を慎重ではあるが導入した。90年代の外貨保有・使用自由化以来、外貨とくに米ドルを持つ者と持てない者との間に経済格差が拡がっている。これに伴い、政府物資横流し、贈収賄など腐敗が横行するようになった。

☆キューバ人が革命体制建設のため歯を食いしばって頑張っていた68年当時のキューバの情景を描いた「キューバの恋人」は、時代離れしてはいるものの、一定の教育的価値を持つ。かくして、この映画は、ようやく日の目を見ることができた。

★「アキラの恋人」の証言者たちは、「失われてしまった革命への熱気がまだまだあった往時を物語るドキュメンタリー映画としての価値」を指摘していた。

2012年6月8日金曜日

ニカラグア大統領が運河建設法案を提出

▼▽▼ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は6月5日国会に、「両洋間大運河建設」法案を提出した。カリブ海に河口をもつコスタ・リカ(CR)との国境河川サンフアン川とニカラグア湖を経て太平洋岸に達する長大な運河。

▽建設期間は10年で、総工費は最大300億ドル。49%は外資に頼る方針だが、既に日本、ベネズエラ、ブラジル、中国、韓国、ロシアなどが関心を示しているという。

▼オルテガは2月カラカスで開かれたALBA首脳会議で、運河建設への支援を要請していた。オルテガは国会で、第3水路建設中のパナマ運河との関係について、「競争せず相互補完する」と述べた。

▽早ければ運河は2019年に完成し、貨物が年間4億1600万トン(世界全体の3・9%)通過するという。2025年には5億3700万トン(同4・5%)になると推定している。

▼運河建設は、歴史に名を残したいオルテガの長年の夢の構想だった。

▽一方、コスタ・リカ政府は、サンフアン川が運河として使用されることに、特に環境保全の立場から神経をとがらせている。政府は、過去の国境条約に基づきニカラグアは運河建設計画をCRに事前に諮問する義務を負うと主張しており、6日文書でニカラグア政府に説明を求めた。

▼これに対し、ニカラグア政府の環境担当補佐官は7日、CRには運河建設を観察する権利はあるが、建設に注文をつける権利はないと一蹴した。これが公式回答か否かは不明。

2012年6月7日木曜日

ラ米4国の「太平洋同盟」が正式に発足

▼▽▼チリ、ペルー、コロンビア、メキシコのラ米太平洋岸4カ国大統領は6月6日、智アントファガスタ州内のアタカマ高地パラナル天文台で第4回首脳会議を開き、太平洋同盟(AP)を正式に発足させるための議定書に調印した。

▽これにより、人口2億人、ラ米全体の3分の1のGDP、同50%の貿易額を持ち、高度成長を志向する経済ブロックが誕生した。

▼ラ米側の環太平洋戦略であるアジア地域との経済関係拡大が狙い。4カ国の昨年の対中輸出は計710億ドルに達した。

▽沿岸国のパナマとコスタ・リカはAPのオブザーバー国で、代表が出席した。日豪代表もオブザーバー的立場で出席し、チリ訪問中のスペインのフアン=カルロス国王も出席した。

▼APは、特にペルーのオヤンタ・ウマーラ大統領の意向を容れて、「イデオロギー性のない機関」になるという。ウマーラは、自国内の社会政策重視、ALBA諸国やメルコスール諸国との関係を念頭に置き、親米や新自由主義の立場を強調することに反対していた。

ボリビアでの米州諸国機構総会終わる

▽▼▽ボリビアのコチャバンバで6月3日始まった第42回米州諸国機構(OEA)総会=外相会議=は5日、「コチャバンバ宣言」を採択して終了した。宣言の柱は、「主権を伴う食糧安全保障」である。

▼チリは、この「主権」という文言に反対した。国境を超越して市場を求め広げたい新自由主義の立場からだ。この異論は、宣言文書に付記された。

▽会議は4日には、ベネズエラが2001年から提唱していた「米州社会憲章」を採択した。社会正義、貧困問題解決、平等性、差別反対、弱者の社会保護などを謳っている。

▼会議と並行して「社会サミット」が開かれ、米州諸国から2000人の社会活動家らが参加した。安全保障と主権、気候変動、市民の安全、諸国人民統合、民主制度深化の5つの部会に分かれて討議した。コカ葉使用合法化、M諸島の亜国主権、食糧安保と土地・水利権の関連付けなどが決議された。

2012年6月6日水曜日

ALBA4カ国が米州安保脱退へ

★☆★ベネズエラ、ボリビア、エクアドール、ニカラグアのALBA(アルバ=米州ボリバリアーナ同盟)加盟4カ国は6月5日、米州相互援助条約(TIAR=ティアル)を脱退すると表明した。

☆4カ国は、米州諸国機構(OEA=オエア、英語でOAS)の第42回総会(外相会議)が開かれていたボリビア・コチャバンバで脱退意思を明らかにした。

★脱退の理由は、東西冷戦が進行しつつあった1947年にリオデジャネイロで調印された条約が時代にそぐわなくなったこと。および、1982年の亜英マルビーナス(フォークランド)戦争時に、レーガン米政権が本来条約に基づき亜国を軍事支援すべきところを英国支持に回ったことで、条約が事実上死滅したこと。

☆エクアドールのリカルド・パティーニョ外相が代表して発表し、「TIARは正統性と有効性を失った」と指摘した。規定により、脱退は通告から2年後に発効する。


★今OEA総会では、OEA機関である「米州人権委員会(CIDH=シダーチェ)」が米政府の意向を反映し、米政府と立場の異なる諸国の人権状況に厳しい、という意見がALBA諸国から相次いで出ていた。TIARは有名無実の存在だが、脱退表明は、左翼ALBA勢と米国の対立が後戻りできないところまで達したことを象徴する。

☆ALBAに加盟するキューバは、米国によってOEAから追放されて以来復帰しておらず、TIARにも加わっていない。

アルゼンチン-かくも残酷な不在

▼▽▼NHKの衛星放送BS1が今年3月放映した「実の親を殺したのは育ての親だった~アルゼンチン-奪われた人生」(ディレクター・増田浩)は秀作だ。遅ればせながら、ようやく観ることができた。

▽亜国ファシズム軍政(1976~83)は、最悪の人道犯罪を犯した。日本政府は1979年、全身血にまみれた軍政大統領ホルヘ・ビデラを日本に招いた。人権意識が希薄だった日本政府が、国際情勢に無知なことをさらけ出して展開した<荒廃の極みの外交>だった。悪いことに日本政府は、チリのアウグスト・ピノチェーをも招待しようと考えていた。

▼ビデラ来日は、税金を支払っている我々日本市民の歴史的な恥である。確認されただけで、ビデラ、ビオラ、ガルティエリ、ビニョーネの4代7年の軍政は3万2000人を殺害した。ビデラは今、終身刑で囚われているが、反省していない。 

▽軍政は妊婦をも拉致し、赤子を生むや殺害し、ラ・プラタ川に投棄したり、ドラム缶にセメント詰めにしたりして放置した。赤子は<戦利品>として、子のいない軍人・警官の夫婦や養子の欲しい夫婦に引き渡された。

▼番組は、生後すぐに軍幹部にもらわれ成人した男女2人を例に挙げ、実の親を殺した育ての親と、殺された実の親や遺族の間で苦悩し葛藤する姿を描く。残酷極まりない現実である。

▽奪われた赤子たち約500人の<奪回>に動いたのは、「五月広場の祖母たちの会」と、息子や娘を軍政に奪われた「五月広場の母たちの会」だった。DNA鑑定によって、既に成人した約100人の<奪われた赤子>の実の両親や家族が確認されている。

▼軍政は日本国籍保持者や日系人をも拉致、拷問し、殺害した。日本政府は、その追及に及び腰だ。亜国のタンゴもサッカーも文学も牛肉もパタゴニアも素晴らしい。だが、この国の現代史の地下に依然、おびただしい犠牲者の血の層があることを忘れてはならない。それは、暗黒時代の日本を含む幾つもの国々の地層につながる。

▽いつも思うことだが、なぜNHKは、この種の優れた人道番組を総合テレビや教育テレビで流さないのか。NHKが世界レベルにいま一つ及ばないのは、このような点がなおらないからだろう。

2012年6月4日月曜日

チェとともに戦ったペレード兄弟の弟アントニオ死去

▼▽▼ボリビア人ジャーナリストで元国会議員のアントニオ・ペレ-ド(76)が6月2日、肺疾患のためラパスの病院で死去した。ボリビアでチェ・ゲバラの率いたゲリラ部隊で戦ったココ、インティのペレ-ド兄弟の弟。末弟オスワルドは健在で、サンタクルス市で医師として暮らしてる。

▽アントニオは1936年ベニ州都トゥリニダーで生まれ、青年時代にボリビア共産党(PCB)に入党し、週刊紙「アキー」の編集者になる。その後、大学教授を務めた。90年代半ば、エボ・モラレス(現大統領)らと政党「社会主義への運動(MAS=マス)」を結党。2002年の大統領選挙では、モラレス候補と組んで副大統領候補になったが落選した。

▼だが02~05年国会下院議員、06~09年同上院議員を務めた。葬儀は、国会議事堂内で挙行された。

▽日本で2009年、『革命の侍-チェ・ゲバラの下で戦った日系二世フレディ前村の生涯』(マリー前村ほか著、松枝愛訳、長崎出版)が出た。この本の表紙の帯にアントニオ(当時、上院議員)は、フレディ、両兄、チェについて文章を寄せた。

ボリビアで米州諸国機構総会開く

▼▽▼ボリビア・コチャバンバ市北方郊外ティキパヤ市のバージェ大学で6月3日、米州諸国機構(OEA=オエア、英語ではOAS)の第42回総会(外相会議)が開会した。「食糧安保」を中心議題として、5日まで続く。

▽ボリビアのエボ・モラレス大統領は開会演説で、「OEAは1948年の創設時から米国の<植民地省>として、米国に奉仕する機関だった。<アメリカーノス(米州人)のためのアメリカ(米州)>というOEAの標語は<米国人のためのラ米>という意味でしかなかった」と前置きし、「OEAには、米国のための奉仕機関として死ぬか、米州全人民のために奉仕する機関に生まれ変わるか、いずれかの選択肢しかない」と、厳しく批判した。

▼モラレスはまた、米政府の意向を反映させる傾向の強い、OEA機関「米州人権委員会(CIDH=シダーチェ)」に関して、「CIDHは内政干渉をしすぎる。米政府の政策に従わない国々の人権だけが問題視される。なぜ米国内の人権問題をも問題視しないのか。普遍性を持つべきだ」と指摘し、「CIDHが支配と服従のための機関である実態を直視し、真剣に見直しを図るべきだ。それができないのなら、CIDHは消滅すべきだ」と強調した。

▽OEAのホセミゲル・インスルサ事務総長(チリ元外相)は、モラレス演説に先立つ開会演説で、CIDH問題は慎重に扱うべきだと注意を喚起していた。モラレスは、それを完全に無視した。

▼モラレスはさらに、米州に名目的に存在する集団安保体制「米州相互援助条約(TIAR=ティアール)」に関連させて、「TIARが真に存在すれば、マルビーナス(M)諸島はアルゼンチンのものになっていたはずだ」と、1982年の亜英マルビーナス戦争時に米国が英国を支援し、TIARが事実上消滅したことに注意を喚起した。その上で、「M諸島が亜国のものならば、太平洋岸はボリビアのものだ。ボリビアは1825年に太平洋国家として誕生した。海岸領土回復の意志を決して捨てることはない」と強く語った。これは、19世紀後半にチリとの太平洋戦争でチリに広大な領土を奪われ内陸国家になってしまった史実を踏まえ、<海への出口>回復の悲願を米州に改めて印象付けるためだ。

▽一方、会議に参加しているベネズエラのニコラース・マドゥーロ外相は、ボリビア国営通信ABI(アビ)に、「OEAとCIDHの劣化について討議せねばならない」と述べた。またエクアドールのリカルド・パティーニョ外相も、「ラ米に進歩主義政権が登場したため、OEAはかつてのように振る舞うことができなくなった。変化できないならば消滅するしかない」と語った。同国のラファエル・コレア大統領は、今会議で発言する予定。

2012年6月3日日曜日

グアテマラ政府が「平和文書館」閉鎖

▼▼▼グアテマラのメディアは5月31日、内戦中の人道犯罪の電子化記録200万点が保存されている「平和文書館」が閉鎖される、と報じた。被害者遺族団体や人権団体から激しい反対の声が上がっている。

▼元陸軍将軍オットー・ペレス=モリーナ大統領の政府は6月1日、閉鎖理由を、文書館の管理を担当していた17人を解雇するためと説明した。過剰人員削減の一環だという。

▼保管されていた記録は、国立新聞雑誌館、国家文民警察、中米総合公文書館、大統領府社会福祉局に分散され保管されることになるという。

▼ペレス=モリーナは、内戦中に人道犯罪に関与した嫌疑がかけられている。電子化記録は、リオス=モント元軍政独裁政権首班ら人道犯罪責任者の裁判でも、重要な証拠書類として使用されてきた。文書館は2008年、コロム前政権下で設置された。閉鎖を非難する人々は、軍部・警察の犯罪が暴かれ続けられるのを嫌悪する現大統領の右翼軍人体質が露わになった、と観ている。

▼現大統領は今年1月14日就任したが、早くも「反人権政策」が表面に出たわけで、民主派が懸念していたとおりになった。

ベネズエラで火器販売・携行禁止さる

▼▽▼ベネズエラで6月1日、火器自由販売禁止法が発効した。殺人事件発生率が人口10万人当たり48人と極めて高いのに示されているように、治安問題は市民の重大関心事だ。治安の悪さは、4選を目指して10月7日大統領選挙に臨むウーゴ・チャベス大統領のアキレス腱だ。そこで、凶悪犯罪対策の柱として、新法が制定された。

▽火器携行許可書の新規発行も禁止された。今後、火器を携行できるのは警察官、軍関係者ら治安や国防に当たる公務員だけとなった。外国からの火器輸入も、既に停止されている。武器商店は、国営軍事産業会社(CAVIN=カビン)の管理下に置かれた。

▼殺人事件の98%は火器によるもの。火器で殺害された者の63%は銃弾を5発以上撃ち込まれている。

▽施政13年半に及ぶチャベス政権だが、治安問題をここまで悪化させた責任は重い、との指摘が絶えなかった。

2012年6月1日金曜日

パラグアイ大統領がアジア歴訪終える

▽▼▽パラグアイのフェルナンド・ルーゴ大統領は5月29日からの日本公式訪問を終え、6月1日帰国の途に就いた。大統領は5月17日パラグアイを出発し、20日台湾の馬英九総統の2期目の就任式に出席した後、インド、タイ、韓国を訪れていた。

▼野田首相は30日の首脳会談で、東日本大震災時、パラグアイ政府が同国産大豆で作った豆腐100万丁を贈ってくれたことに感謝の意を表明した。会談では、パラグアイの中小農家に日本が技術支援する案件などが話し合われた。天皇も同日、同じ件で謝意を表明した。

▽日本側は、パラグアイのエンカルナシオン・シウダデルエステ両市間を結ぶ147kmの自動車道建設のため2億1600万ドルの借款を供与することにしており、パラグアイ国会の承認待ち。日本の製鉄および自動車部品製造会社がパラグアイに進出する案件も話し合われた。

▼大統領は日比谷の日本記者クラブで会見し、「外資の国有化は絶対にしない。農牧業生産を倍増、3倍増するため、投資を仰ぎたい」と強調した。

▽パラグアイの昨年の対日貿易は、輸出が農産品を中心に5600万ドル、輸入が工業製品など1億500万ドルだった。大統領は、「不均衡を是正するには、牛肉を輸入してくれるといい。わが国には人口の倍の1300頭の牛がいる」と述べた。大統領はまた、日本が将来メルコスールと通商協定を結ぶ可能性があると指摘した。

▼大統領は31日には京都を訪問した。パラグアイには日系人7000人がいる。

映画「黒いパン(ブラック・ブレッド)」を観る

☆★☆スペイン内戦(1936~39年)は依然、現代である。スペインの作家、歴史家、映画人、ジャーナリストら知識人は、いまも内戦が投げかけた問題に取り組んでいる。現政権党PP(右翼の国民党)と前政権党で野党のPSOE(ペソエ=左翼のスペイン労働社会党)は、憎しみ合い内戦を戦った両派の流れを汲んでいる。

★バルセローナを都とするカタルーニャ州では内戦中、社会主義者、共産主義者、無政府主義者、無政府-労働組合主義者ら左翼陣営が、共和国を守る人民戦線の一翼を担いつつも、親・反スターリンの両派に分かれて激しく抗争した。<内戦の中の内戦>と呼ばれたゆえんだ。

☆内戦で勝利したフランコ総統の率いるファシスト勢力が支配していた時代のカタルーニャの田舎町が、この映画の舞台だ。内戦中に左翼だった2人の男が、権力者によって操られ、魂を失い、殺人者にまでなってしまうという物語だ。人間の弱さ、悲しさを最大限に綴っている。サスペンス豊かな展開で、時に不気味でさえある。このような出来事は、史実として内戦後、あちこちにあったのだろう。冒頭、生きた馬を崖から落とす、過剰とも言えるレアリズモがある。

★この映画はカタラン(カタルーニャ語)で押し通している。私はフランコ時代の末期にカタルーニャを取材したが、カタラン使用は禁じられていた。また20年前のバルセローナ五輪当時は、カタランはエスパニョール(スペイン語)ないしカステジャーノ(カスティージャ語=スペイン語)と闘い、使用可能圏を拡げようとしていた。今やカタランの映画が堂々、スペインを代表してアカデミー賞外国語部門に参加するまでになった。この映画がしかりだ。まさに隔世の感がある。

☆5月25日、試写会で観た。原題は「パ・ネグラ」、エミリ・タシドール原作。アグスティー・ビジャロンガ監督・脚本。113分。

★6月23日、銀座テアトルシネマなどで公開される。考えさせられる映画だ。


【参考資料】伊高浩昭著『ボスニアからスペインへ ー 戦(いくさ)の傷跡をたどる』(2004年、論創社)、伊高浩昭著『イベリアの道』(1995年、マルジュ社)。