2016年12月31日土曜日

対カタール合意不正で、アルゼンチン大統領捜査を検察要請

 亜国連邦検察庁は12月30日、マクリ政権とカタール政府が11月6日調印した両国合同財団創設合意には不正があるとして、裁判所に捜査開始許可を要請した。

 亜国インフラ整備用として創設が決まった財団は基金13億ドルを持つことになるが、亜国側は社会保障庁(ANSES)の資金から分担額を支出することになっている。検察は、なぜ同庁資金が使われるのかが明確でないうえ、必要な手続きをせずに国際合意がなされた点を追及している。検察はまた、合意には財団が税金回避のための隠れ蓑になる可能性があると指摘している。

 検察が不正容疑をかけているのは、マウリシオ・マクリ大統領、ガブリエーラ・ミケッティ副大統領、スサーナ・マルコーラ外相ら政府高官ばかり。ミケッティは合意書に調印した。またマクリは今年4月、「パナマ文書」で払税回避疑惑が明らかになった。

 一方、検察は29日、2015年1月18日に謎の死を遂げたアルベルト・ニースマン検事の死因再調査を開始した。ニースマンは、1994年にブエノスアイレスで起きたイスラエル・亜国相互協会(AMIA)爆破事件を捜査していた。

 2004年に当時のネストル・キルチネル大統領から同事件の主任捜査官に任命されたニースマンは06年、イラン外交官とヒズボラ(イスラム教シーア派民兵組織)が事件に関与したと結論づけた。事件ではユダヤ系85人が死亡、約300人が負傷した。

 ニースマンはその後、キルチネル元大統領の妻クリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル(CFK)前大統領、CFK政権期のエクトル・ティメルマン外相ら政府高官を同事件の真相隠蔽容疑で起訴する準備を進めた。イラン人関与を隠す見返りにイラン原油の供給を受けるなどの便宜を図ってもらう密約をしていた、という容疑だった。

 ニースマンは、その「真相」と現職大統領だったCFKらを起訴する旨を亜国国会で報告する前日、自宅で頭部に銃弾1発を浴びた変死体で発見された。以来、自殺か他殺かで議論が二分されてきた。

 今年8月、在亜ユダヤ系組織DAIAは、ニースマン死亡事件の再調査を要請。法廷がこのほど受け入れた。CFK政権とイラン政府は13年にAMIA事件の合同捜査実施で合意に達したが、合同捜査は実行されなかった。

▼ラ米短信  ◎サパティスタが大統領候補擁立へ

 メヒコ・チアパス州サンクリストーバル・デ・ラスカサス市で12月30日、サパティスタ民族解放軍(EZLN)と全国先住民理事会(CNI)は2018年7月の大統領選挙にEZLNの候補を出馬させるための政治綱領策定などの話し合いに入った。

 かつてサパティスタはメヒコ政治体制の外側から批判する立場をとっていた。だが内側から平和裏に社会正義実現などを目指す方針に切り替えた。

 一方、EZLNのガレアーノ副司令(元マルコス副司令)は30日、サパティスタが運営する地球大学で声明を発表、「元日実施のガソリン値上げは国中に大混乱を招くだろう。メヒコの現実はサイエンスフィクションのようだ」 と述べた。

▼ラ米短信  ◎ジャーナリスト93人が今年殺される

 ブリュッセルに本部のある国際ジャーナリスト連盟は12月30日、世界で今年、ジャーナリストおよび報道従業者が93人殺害されたと発表した。イラクで15人、アフガニスタンで13人、メヒコで11人の順。

 昨年の112人より少ないが、同連盟はジャーナリストへの脅迫、迫害、また自己規制が増えており、言論・報道の自由が脅かされていることに留意せねばならないと指摘した。

 このほか、ブラジル人ジャーナリスト29人がコロンビアでの飛行機墜落事故で死亡。ロシア人ジャーナリスト9人も黒海での航空機墜落事故で亡くなった。

▼ラ米短信  ◎グアテマラの米大使館が脅迫受け閉鎖

 グアテマラ市の米大使館は12月30日、深刻な脅迫を受けているとして30日から1月2日まで閉館すると発表した。3日には開館する予定。

 ことし5月、グアテマラ人の男が米大使館に手製の爆発物を投げ込んだ事件があった。米国から強制退去させられた腹いせだった。大使館は今回の脅迫について明らかにしていない。グアテマラ警察が捜査している。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラが輪番制議長を亜国に渡す

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は12月30日、南部共同市場(メルコスール)の輪番制議長国の資格を亜国に渡した、と発表した。ベネスエラは6月30日から半年間、議長国を務める立場にあった。

 だがパラグアイ、ブラジル、アルゼンチンの3国が反対。12月2日には、ベネスエラのメルコスール規約の大量未批准を理由に、同国の加盟資格停止を決めた。

 これに納得しないベネスエラは「議長国の任務を遂行し終えた」として、亜国にその地位を引き渡すという外交的パフォーマンスを演じた。

▼ラ米短信  ◎クーバへの外国観光客400万人超える

 玖観光省は12月30日、ことしの外国からの来訪観光客は同日400万人を超えた、と発表した。前年比13%増。達成目標を6%上回った。北米人と欧州人が多かった。
 

2016年12月30日金曜日

グアテマラ和平20年、貧者に届かぬ平和の報酬

 グアテマラは12月29日、内戦和平合意調印による内戦終結から20周年となる記念日を迎えた。首都グアテマラ市で式典が催され、内戦終結に努力したビニシオ・セレソ元大統領、調印時に政権にあったアルバロ・アルセ元大統領、ジミー・モラレス現大統領と、政府高官、国会議員、先住民・市民団体、外交団などが出席した。

 式典では、内戦で強制失踪させられ殺害された女流詩人アライーデ・フォッパの名前をかぶせた女声合唱団と、国軍の軍楽隊が初めて共演、和平を演出した。マヤ民族歌手サラ・クルチュチが、内戦中に虐殺・強姦・略奪・破壊に遭ったマヤ・イシル人をテーマにした歌などを披露した。

 式典には、和平合意を政府と結んだゲリラ組織グアテマラ民族革命連合(URNG。その後、政党化)の姿がなかった。和平合意が十分には遵守されていない状況や、政治面での左翼の退潮を象徴するようだと指摘されている。

 人口1600万人の59%は貧困にあえぎ、先住民人口では79%が貧困。「貧者には和平合意が適用されていない」と酷評される所以だ。先住民は人種差別、社会的疎外からも解放されていない。

 歌手クルチュチは、「国家は和平合意を遵守していないという債務を人民に負っている。正義無くして和平は無く、記憶無くして正義は無い」と語っている。

 1960年から36年続いた内戦では、25万人が殺された。うち4万5000人は遺体が見つかってなく、「行方不明者」扱いされている。

▼ラ米短信  ◎アルゼンチン女性活動家に判決

 亜国フフイ州の先住民社会活動家でペロン派左翼のミラグロ・サラ(52)=南部共同市場(メルコスール)議会議員=は12月28~29日、同州の法廷で執行猶予付き禁錮3年、罰金3760ペソ、法人参加禁止の判決を言い渡された。

 サラは2015年12月、マクリ保守・右翼政権発足時に就任したマクリ派のフフイ州知事ヘラルド・モラレス(元上銀議員、急進党)の政策に反対、州庁舎前で野営しながら抗議したことにより「治安を乱した」ことで判決を受けた。09年、上院議員だったモラレスに卵を投げつけた罪も含まれている。

 彼女は今年1月16日から逮捕されており、執行猶予付き判決ながら、「共同謀議」、「行政詐欺」など別件でも起訴されており、身柄の拘禁は解かれていない。

 この事件は、マクリ政権のペロン派左翼弾圧の象徴と内外で指摘されてきた。国連と米州諸国機構(OEA)の人権部門やメルコスール議会を始め、各方面からサラ解放の要求が出ている。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラがコロンビア国境でガソリン販売へ

 ベネスエラ政府は12月29日、コロンビア国境に面したスリア州パラグアチョン、タチラ州ウレーニャの両地点で1月2日からガソリンを販売する、と発表した。コロンビアペソを含む外貨が使用できる。

 マドゥーロ政権は、コロンビアマフィアによる安価なベネスエラ原油の大量密輸を防ぐため販売することにした、と説明。だが、販売価格は発表していない。 

2016年12月29日木曜日

コロンビア国会でFARC恩赦法が成立

 コロンビア国会は12月28日、サントス政権とゲリラFARC(コロンビア革命軍)との内戦和平最終合意に基づき、FARC要員を恩赦・赦免する新法を可決した。上院は賛成69、反対無し、下院も賛成121、反対無しだった。

 和平合意に反対している保守・右翼代表格のアルバロ・ウリーベ前大統領の政党「民主中心」は両院での議決に不参加だった。このため反対票がなかった。

 恩赦法成立を受けてJMサントス大統領は同日、「和平を固めるための第一歩だ」と評価、国会に敬意を表した。FARC最高司令ティモチェンコも、「平和への長い道のりの一歩だ」と歓迎した。

 当局によると、法成立によってFARC武装要員5700人は国内20カ地域および6地点に集結、武装解除してゆく。来年1月30日までに、恩赦対象にならない要員の数を確認する。人道犯罪など重罪は恩赦対象にならない。

 一方、服役中の軍・警察要員1200人には来年2~3月に仮出所が認められる模様。

▼ラ米短信   ◎クーバ経済が22年ぶりに後退

 ラウール・カストロ国家評議会議長は12月27日、人民権力全国会議(国会)で演説、2016年の経済が0・9%後退したと明らかにした。議長は、輸出品の国際価格低下による輸出収入減少、ハリケーン被害、外資不足などを原因として指摘した。

 クーバ経済は1989年11月のコメコン体制崩壊を受けて90年から縮小。1993年には36%マイナスとなった。だが94年からはわずかずつ成長、2003年には89年の水準を回復していた。ラウールは、2017年には2%成長する見込みと語った。

▼ラ米短信  ◎パラグアイで女性保護法発効

 パラグアイで12月28日、女性統合的保護法が発効した。女性への暴力を禁止、フェミニシディオ(女性殺し)は重罪扱いとなり、禁錮10~30年の実刑が科せられることになった。

 女性はまた、性教育を受け、避妊方法を知り、妊娠回数を決める権利を認められた。

 

2016年12月28日水曜日

アルゼンチンのフェルナンデス前大統領を公金詐取で起訴

 亜国法廷は12月27日、クリスティーナ・フェルナデス=デ・キルチネル(CFK)前大統領らを共同謀議および行政詐欺で起訴。CFKと、フリオ・デビード元企画・社会基盤相(現下院議員)、ホセ・ロペス元公共事業次官(逮捕済み)、建設会社社長ラサロ・バエス(同)の4人に各100億ペソ(約6億3000万米ドル)の資産差し押さえを命じた。

 罪状は、2003~15年(CFK政権期および、その前のネストル・キルチネル政権期)に、キルチネル夫妻の出身州サンタクルース州の公共事業工事(総額22億ドル)を銀行員出身のバエスの建設会社「アウストラル建設」に不正発注し、公金を横領したこと。

 CFKは昨年12月任期満了で政権を降りたが、今年に入ってから不正蓄財で起訴された。今回は別の罪状で起訴された。収監は免れないと見られている。

 バエスは工事代金を11億ドルも水増しして請求、受け取っていた。主に州内の道路工事だったが、未完成の工事も含まれている。工事代金はすべて、山分けされたと見られている。

 CFKは、政敵のマウリシオ・マクリ現大統領が今年の経済2・4%縮小など行政の不手際を隠すため、政治的裁判で自分たちを迫害していると非難している。だが裁判所命令にこれ以上抵抗するのは困難と見られている。

▼ラ米短信   ◎コロンビア政府とゲリラELNは1月10日和平交渉へ

 コロンビアのサントス政権と「民族解放軍」(ELN)は来年1月10日、エクアドールの首都キトで和平交渉を開始する。ELNは12月27日、年末声明を発表、交渉開始を確認した。

 ELNはエクアドール、キューバ、ベネスエラ、チレ、ノルウェー、ブラジルの6カ国に、和平交渉の「保証国」となるよう求めている。

 交渉は当初10月27日開始の予定だったが、ELNがチョコー県内で、極右準軍部隊を動かしていたオディオ・サンチェスを拉致、依然解放していない。この事件に怒ったサントス政権は交渉を延期していた。

 最大のゲリラ組織FARCは既に政府と和平合意し、武装解除に向けて前進している。FARCが和平に踏み切った以上、ELNは内戦を継続する意味を失い、和平を望んでいる。
 

2016年12月27日火曜日

コロンビアがNATOと協力合意に向け交渉開始へ

 コロンビアのJMサントス大統領は12月23日、国軍へのナビダー(クリスマス)の祝辞で、コロンビアは北大西洋条約機構(OTAN=NATO)から加盟国外の協力国として協力交渉をすることを承認された、と明らかにした。

 コロンビアはウリーベ前政権期末からOTANに対し、情報交換と組織犯罪対策で協力関係を結ぶよう働きかけてきた。OTANは、サントス政権がFARCとの内戦和平合意に達したのを受けて、協力交渉開始を受け入れた。

 OTAN側には、従来と異なる形でOTANに対応する意志を示しているトランプ次期米政権を牽制する意図もある。コロンビアは、米国にとり、南米で唯一の明確な軍事同盟国である。

 これに対しベネスエラ外務省は26日、南米に不安定要因および戦争要因を広めることになり、断固反対し糾弾する、との声明を発表した。また、サントスが2010年に故ウーゴ・チャベス大統領との会談で、OTANとの交渉は進めないと伝えた外交上の約束にも反する、と非難した。

 さらに、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)はLAC(ラ米・カリブ)地域を「平和地域」と宣言しており、CELAC加盟国のコロンビアは、同宣言の精神にも反しており、南米諸国連合(ウナスール)、非同盟諸国運動の精神にも反する、と厳しく指摘した。

▼ラ米短信  ◎クーバの2016年重要ニュース

 クーバ国営ラディオ・アバーナ・クーバ(ハバナ放送=RHC)は12月26日、今年の同国重要ニュース10項目を発表した。トップに11月25日の革命指導者フィデル・カストロ前国家評議会議長の死去を置いたほかは、時系列的に並べている。

 2月11日、ロシア正教のクリル大主教来訪および12日ハバナ空港での同大主教とローマ法王フランシスコとの歴史的会談。両宗教指導者の会談は、1054年の「大分裂」以来初めて。

 3月20~22日、バラク・オバーマ米大統領来訪。1928年にカリヴィン・クールリッジ大統領が第6回汎米会議出席のため訪れて以来88年ぶりの米大統領来訪。

 4月16~19日、第7回クーバ共産党(PCC)大会。新しいクーバ社会主義モデルの概念化策定を決議。

 5月1日、ハバナ放送創立55周年。

 6月7日、ハバナが世界の「素晴らしい都市」に指定される。

 9月、クーバ製皮膚癌用薬品「エベルフェロン」の使用が薬品登録されている諸国で認可される。

 10月5日、グアンタナモ州がウラカン(ハリケーン)・マシューに見舞われ、6300万ドルの被害出る。

 10月26日、国連総会での経済封鎖解除要求決議が賛成191カ国、反対無し、棄権2で採択された。米国とイスラエルは初めて    反対せず棄権した。

 11月14日、受刑囚787人を赦免。殺人、強姦など重罪犯は赦免対象から除外。

 11月25日、★フィデル・カストロ死去。 




 
 

2016年12月26日月曜日

メキシコ学生失踪事件への陸軍・連邦警察関与が明るみに

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きた、アヨツィナパ農村教員養成学校生43人強制失踪事件および殺害事件から12月26日で2年3カ月経った。エンリケ・ペニャ=ニエト大統領のメヒコ政府が事件の真相を隠してきたのは、陸軍と連邦警察が事件に関与、大統領責任が問われるためだった。

 調査報道で有名なメヒコの女性ジャーナリスト、アナベル・エルナンデス(45)は11月、『イグアラ真実の夜 政府が隠そうとした事実』を刊行した。そこには、政府がひた隠しにしていた、ある検事の「報告」などに基づく事件の真相が描かれている。以下は、その粗筋だ。

 著者は、事件の生き残りの学生らの証言の中に連邦警察関与を指摘するものが2件あったにも拘わらず政府が知らぬ存ぜぬを貫いていたのに疑念を抱き、政府が嘘をついているとすれば政府が隠したい事実は何かと考え、取材を始めた。

 事件で犠牲になるのを辛くも免れた学生たちに熱心に働きかけたところ、学生らが携帯電話で事件現場の様子を撮影していたのを知り、その画像を見せてもらった。

 事件がイグアラ市内の中心街で起きていたのがわかった。だが検察など当局は、たくさんの目撃者がいたにも拘わらず、彼らから証言を聴取していなかった。

 著者は、事件現場に面していた街並みの商店や住宅を訪ね歩き、目撃証言を得るのに成功する。連邦警察やイグアラ市警だけでなく、短髪の精悍な風貌の若者たちが事件に関与していたことがわかった。その短髪の若者たちは私服姿だったが、誰もが兵士たちだと感ずいていた。

 後に、イグアラ市駐屯の陸軍第27歩兵大隊の司令官ヘスース・ラミーレス大佐が、部下の兵士たちに私服姿で出動するよう命じていたことが判明した。この事実を政府は隠し続けていた。

 イグアラ市長夫妻をはじめ左官職人ら、事件に無関係だった人々が逮捕、拷問され、濡れ衣を着せられて、犯人に仕立て上げられたことも明るみに出た。

 事件の核心は、失踪した教員養成学校生たちが乗っていたバス2台にヘロインが積まれていたこと。米国に密輸するための麻薬だが、そのヘロインの持ち主が第27大隊司令官に電話し、「私の麻薬を回収してほしい。学生たちは麻薬の存在を知ってしまい証言者となる恐れがある」と伝えた。これを受けて大隊が動きだしたのが事件の発端だった。

 事件、すなわち銃撃、殺害、強制失踪に関与した大隊兵士らは薬莢を回収、証拠を隠した。学生たちの失踪には警察車両が加担した。事件には麻薬犯、陸軍、連邦警察、ゲレロ州警察、イグアラ市警などが関与していた。

 つまり最高責任は国軍の最高司令官にして連邦警察も配下に置く大統領にある。ラミーレス大佐は事件後、国防省に栄転、准将に昇格している。

 だが消えた43人の遺体がどこにあるのか、また、麻薬の主は誰だったのか、など事件の核心は依然解明されていない。

  一方、失踪学生43人の父兄や支援者は12月25日、メヒコ市-クエルナバカ自動車道を一時的に遮断、事件の真相解明を求めるビラを車に配布した。また26日には首都にあるグアダルーペ大寺院に父兄、支援者、弁護団計200人が集まり、陸軍関与を捜査し、長らく事件の真相を隠し偽りの犯人を仕立てていた検察庁をも取り調べるよう訴えた。

 メヒコ市内の革命記念碑広場では、支援する若者たちが失踪学生43人が横たわる姿を地面に輪郭で描く抗議行動を展開した。

▼ラ米短信  ◎サパティスタ蜂起23周年記念行事開く

 メヒコ・チアパスス州サンクリストーバル・デ・ラスカサス市で12月26日から1月4日の日程で、「サパティスタと人類のための良心」と題した会合が開かれている。サパティスタ民族解放軍(EZLN)の200人および、11カ国から科学者82人が参加している。

 科学者の分野は、量子論、数学、火山学、天体物理学、天文学、宇宙論、核融合、遺伝学、微生物学、統計物理学、光学、生命倫理学など。

  

2016年12月25日日曜日

伊高浩昭が選んだ2016年ラテンアメリカ重要ニュース

◎伊高浩昭が選んだ「2016年のラ米重要ニュース」(12月25日現在)

革命家フィデル・カストロ死去
 11月25日90歳で死去した。ラ米20世紀最大の出来事と位置付けられるクーバ革命の覇者は、次期米大統領が新自由主義+右翼主義+ファシズムを兼備したような人物になるのを確認し、実弟ラウールの経済改革の行方に不安を抱きながら逝った。この時期の死は、ラ米進歩主義退潮+右傾化の時代を象徴するかのようだ。

コロンビア内戦和平
 半世紀以上続いていたコロンビア政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は、2012年からハバナで続けていた和平交渉の結果、11月に最終合意に達し、国会の承認を得て和平実施段階に移行した。JMサントス大統領はノーベル平和賞を受賞したが、FARC最高司令ティモチェンコにも授賞すべきだったとの批判がある。政府と、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)との和平問題が残っている。

ブラジル政変
 労働者党(PT)のヂウマ・ルセフ大統領は、従来弾劾条件とされていなかった財政関係の不手際をとらえられ国会での弾劾裁判にかけられ、リオデジャネイロ五輪終了後の8月31日、弾劾された。これは大統領選挙で連続4回PTに敗れた保守・右翼・財界が米政財界と謀って決行した事実上のクーデターだった。首謀者で大統領にのし上がったミシェル・テメルは汚職まみれで、世論から退陣を求められている。

ベネスエラ情勢混迷
 ニコラース・マドゥーロ大統領のチャベス派政権は、国際原油価格低迷、経済政策不調、国会多数派を野党に握られたこと、内外メディアの意図的宣伝報道などから年頭以来、政経両面で混乱を深めてきた。12月には右傾化著しい南部共同市場(メルコスール)から加盟資格停止処分に遭った。

ペルー大統領選挙
 4月10日実施され、得票1位のケイコ・フジモリと2位のぺドロ=パブロ・クチンスキが6月5日の決選に進出。激戦の末、ケイコは超僅差で敗れた。だがフジモリ派の政党「人民勢力」(FP)は国会で多数派であり、クチンスキ政権とのねじれが目立っている。

パナマが米軍侵攻真相解明に動く
 フアン=カルロス・バレーラ大統領は7月20日、1989年12月20日に決行された大規模な米軍によるパナマ侵攻作戦の死者数確認などに携わる特別委員会を設置した。真相を隠してきた米政府が資料公開などでどこまで協力するのかわからない。一方、パナマ運河の閘門式第3水路は6月26日開通した。

ボリビア国民投票で大統領敗北
 エボ・モラレス大統領は、2019年選挙に出馬するた連続3選禁止条項を修正するための改憲の是非を問う国民投票を2月21日実施したが、僅差で敗れた。ラ米左翼退潮は、ここにも現れた。だがモラレスは12月、政権党「社会主義運動」(MAS)の次期大統領候補に擁立され、3選禁止条項をいかに変更するかで戦略策定段階に入った。

ニカラグアのオルテガ支配長期化固まる
 11月6日実施の大統領選挙にダニエル・オルテガ大統領が妻ロサリオ・ムリージョを副大統領候補として出馬、事実上の無風選挙で圧勝した。オルテガはサンディニスタ革命政権期の1980年代を加えると4選されたことになる。野党を支援する米議会は9月以降、ニカラグアへの融資を禁止する立法措置でオルテガ体制に揺さぶりをかけている。これもラ米左翼勢力潰しの一環。

ハイチ大統領選挙実施
 昨年10月実施の大統領選挙が政権による組織的不正が明るみに出て無効とされ、今年2度の延期を経て11月20日やり直し選挙として実施された。昨年同様、政権党候補が得票1位になったが、野党候補たちはまたも不正を糾弾。選管は12月29日に最終選挙結果を発表する予定だが、状況は波乱含みだ。

エクアドールで地震続く
 M7・8の大地震が4月16日太平洋岸を見舞い、死傷者多数を含む甚大な被害が出た。その後、余震とみられる地震が続き、その都度、被害が出ている。

 アルヘンティーナ(亜国)で国内対立激化:昨年12月発足したマクリ保守・右翼政権の新自由主義政策で、長らく政権にあって「我が世の春」を謳歌していたペロン派は憂き目に遭い、政府との対立関係が先鋭化している。先住民女性、社会活動家、フフイ州議会前議員のミラグロ・サラ(52)は今年初めマクリ政権と州政府に抗議行動をした結果、逮捕され、弾圧と人権侵害の象徴的被害者と見なされている。

 このほか「メヒコがトランプ次期米政権に戦々恐々」、「ドミニカ共和国大統領選挙(5月15日)でメディーナ大統領2選」など。
  

2016年12月24日土曜日

内戦中の人道犯罪でグアテマラ政府に賠償命令

 米州諸国機構(OEA、本部ワシントン)の司法機関である米州人権裁判所(CorteIDH、在サンホセ)は12月22日、グアテマラ政府に対し、同国内戦中(1960~96)の1981~86年にバハ・ベラパス県内で軍に殺されたマヤ民族農民遺族らへの賠償金支払いを命じた。

 同県ラビナル市チチュパック村では、村民が拷問、強姦、強制失踪(法律外処刑)に遭った。村民は1993年から国内の司法機関に告訴していたが、全く取り合ってもらえなかった。このため弁護士団がOEA機関の米州人権委員会(CIDH、在ワシントン)に訴えた。CIDHは調査した後、CorteIDHに提訴。11月30日に判決が下っていた。

 同裁判所は、国家機関である軍を断罪する一方、農民の訴えを聴き入れなかった政府を厳しく糾弾した。強制失踪(殺人)被害者183人各人名義で一人当たり5万5000米ドル、その犠牲者家族に3万ドル、精神的被害者一人当たり1万ドル、土地を追われた避難民一人当たり5000ドルを、それぞれ支払うよう政府に命じた。奪われた土地は元の農民に返還された。

 36年間続いた内戦では、20万人が死亡、4万5000人が行方不明になった。これら犠牲者の大多数はマヤ系農民だった。不明者の遺骨は数千柱が各地の集団墓から発掘されているが、DNA鑑定で身元が判明したのは約500柱だけだ。

▼ラ米短信   ◎ハイチ選管が投票結果の検証を決定

 アイチ(ハイチ)では11月20日大統領選挙が実施されたが、不正疑惑が渦巻いているため、暫定選挙理事会(CEP)は12月20日、投開票記録の12%を検証することを決めた。

 この選挙では、政権党候補ジョヴネル・モイズが55・67%の得票で当選したとされた。だが2位のジュディ・セレスタン(得票率19・52%)ら主だった候補たちが一斉に不正を叫び、不穏な状況となっている。

 野党候補らの弁護団は、投開票記録の78%を検証すべきだと主張しており、12%の検証が済んでも、緊張状態は収まりそうもない。
 CEPは12月29日に最終公式結果を発表する予定。過半数得票者が出ない場合は、上位2候補が来年1月29日の決選に望むが、モイズ当選が確定すれば、決選はなくなる。  

  
  
 

2016年12月23日金曜日

 米国は他国への主権侵害を省みずにロシアのトランプ勝利工作を非難できない-作家アリエル・ドルフマンが厳しく指摘

 チリ人で米国籍を持つ著名な作家・劇作家アリエル・ドルフマンはこのほど、ロシアがドナルド・トランプ共和党候補を先の米大統領選挙に勝たせるため介入した件について論評をNYT紙に載せた。以下は、その要旨。

                     ×                    ×                    ×

 ロシアがトランプを勝たせるため大統領選挙に介入した事実が多くの米国人を怒らせているが、私は自分が抱いてきた怒りをあらためて思う。1970年10月22日、チリで国軍司令官レネー・シュナイデル将軍が極右勢力に銃弾3発を浴びせられ暗殺された。同年9月初め大統領選挙で得票1位になっていたサルバドール・アジェンデを政権に就かせないために、CIAがチリの極右勢力を使って決行した事件だった。

 私は当初からCIAの陰謀だと感知していたが、その事実が後に証明された。当時のニクソン米政権は巨額のチリに資金を投入しながらアジェンデ当選を阻止でなかった。ニクソン政権は、公正な福利実現のためのアジェンデによる非暴力革命が許せなかったのだ。当時、国中に軍事クーデターの噂が流されていた。以前、イラン、グアテマラ、インドネシア、ブラジルなどで米国益に反する諸政府が倒されていた。シュナイデル将軍はクーデターに反対したため、暗殺されたのだ。

 暗殺はアジェンデ就任を阻止できなかったが、CIAはキッシンジャーの命令を受けて、その後3年間、チリの主権と経済に攻撃を仕掛け続けた。その結果73年9月11日のクーデターでアジェンデ政権は崩壊、大統領は死んだ。拷問、処刑、迫害を恣にした軍政が16年半続くことになる。

 チリなどの主権を侵すことを厭わなかったCIAが今、手法をロシアに真似されたことを嘆くとは皮肉なことだ。私は、その皮肉を味わうことはできても、痛快さを感じることはなかった。米国籍を持ち先の大統領選挙で投票した私は、新たな外国による介入の犠牲者になったのだ。私の落胆は、個人の弱さを超えた所にある。

 米国の有権者は、チリ人が被ったような目に遭ってはならないという手段的倒錯がある。本質は、どのような国であろうと、自国の運命が外国に操作されてはならないということだ。

 人民の意志を侵害する今回の事件を過小評価してはならない。トランプと取り巻きたちは、勝利はロシアのお陰ではないと否定しているが、彼らの反応は、我々がチリへのCIA介入を糾弾した時のチリ反政府勢力が示した反応とそっくりだ。トランプは「馬鹿げている」、「ありえない」、「陰謀論にすぎない」と、当時のチリ反政府勢力と同じ言い回しをしたのだ。

 チリの場合は、米議会上院のチャーチ委員会が1976年に発表した勇気ある調査結果によって、CIAの犯行が明らかにされた。米国は、共産主義から救うとの口実で他国の民主政治を破壊していた。平和共存・相互尊重という自由と自決の基本原則が今回は米国で蹂躙された。

 ならば、民主への信頼回復を図るにはどうすべきか。公開捜査し、米国内の勢力と国外勢力が共謀したか否かを含め付きとめて、責任者を最も厳しく罰することしかない。トランプ次期政権の正統性は、ヒラリー・クリントン民主党候補が得票総数で(300万票も)上回っていたいたことで既に損なわれている。

 しかし米市民には、政治家や諜報機関が何をしようと、為すべき崇高な使命がある。この嘆かわしい矛盾を正さねば、米国の価値、信頼、歴史は終わりのない不信感に満ちた内省を招くことになるだろう。

 米政府は、米国が為してきた他国市民への侵害と向き合うことなしには、米国民への侵害を非難することはできない。この自己検証の結果として、米国は他国への帝国主義的かつ傲慢な介入をもはやしない、という結論に達しなければならない。

 米国が己の姿を鏡で見つめる好機ではないだろうか。エイブラハム・リンカーンの国が己の真正な責任と向き合う好機ではないだろうか。

▼ラ米短信  ◎ボリビア大統領がメルコスールに警告

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月22日ラパスで記者会見し、南部共同市場(メルコスール)に対し、「米州諸国機構(OEA)は1962年にイデオロギー上の理由でクーバを追放したが、メルコスルールは今、同じ理由でベネスエラを追放するという過ちを繰り返してはならない」と警告した。

 モラレスはまた、「米国の差し金でメルコスールはベネスエラ追放という過ちを犯しつつある。米国がCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)の前進を阻もうとしているのは嘆かわしい。米国は、民営化政策を進めるAP(太平洋同盟)を使って南米諸国連合(ウナスール)を分断しようとしている」と指摘した。




2016年12月22日木曜日

中米首脳会議が統合のため改革加速で合意

 中米統合機構(SICA、加盟8カ国)は12月20日マナグア市で首脳会議を開催。同機構の抜本的改革の必要性をめぐって議論が交わされた。議長を務めたニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は、「世界経済の全球化は待ってくれない。我々中米が改革を急がねば」と強調した。

 半年交代の輪番制議長国はニカラグアからコスタ・リカに移行。ルイス・ソリース大統領の代理として出席したエリオ・ファジャス副大統領は、コスタ・リカも新議長国として中米統合強化に務めると述べた。

 オルテガは、中米と韓国の自由貿易協定(FTA)交渉が終わり、来年半ば調印する運びとなった、と伝えた。

 米国に多くの出稼ぎ労働者を送り込んでいる「中米北部三角形」と呼ばれるグアテマラ、エル・サルバドール(ES)、オンドゥーラス(ホンジュラス)は、メヒコと連携して、トランプ次期米政権の移民政策に対応する措置を講じつつあると明らかにした。

 グアテマラのジミー・モラレス大統領はオンドゥーラスとの関税98%の同盟化が済んだとし、両国国境を来年中に開放すると言明した。両国を結ぶ航空路も従来の割高な国際線から安い国内線扱いにする計画も検討されている。

 会議はオルテガが「マナグア宣言」を発表して閉会した。会議にはドミニカ共和国のダニーロ・メディーナ大統領、ESのサルバドール・サンチェス大統領も出席。パナマからはイサベル・サンマロ副大統領、オンドゥーラスは外務閣外相、ベリーズはニカラグア駐在大使がそれぞれ出席した。

▼ラ米短信  ◎エクアドール次期大統領に政権党候補有力か

 エクアドール(赤道国)では2017年2月17日、次期大統領選挙が実施される。当選には過半数得票、もしくは得票率40%で2位に10ポイント差を付けること。該当者がなければ、上位2候補が4月2日の決選に臨む。

 12月20日現在、約10人の出馬予定者のうち、ラファエル・コレア現大統領の政権党「パイース同盟」候補レニーンモレーノ元副大統領(63)が有利に選挙戦を進めている。2番手は、「機会創設運動」のギジェルモ・ラッソ元グアヤキル銀行頭取(61)。続いてキリスト教社会党(PSC)の女性候補シンシア・ビテリ(51)。

2016年12月21日水曜日

米軍のパナマ軍事侵攻から27年、いまだ不明の死者数

 パナマは12月20日、米軍侵攻27周年記念日を迎えた。「1989年12月20日犠牲者家族・友人協会」(AFAC)をはじめ関係団体、人権団体などが、一部犠牲者の墓のある「平和墓苑」、最大の犠牲者が出たエル・ショリージョ地区など米軍侵攻の縁の地で追悼式典や「悲しみの行進」を実施した。

 AFACのトゥリニダー・アジョーラ会長(60)は、「遺族が黙らないのは、肉親たちがどのようにして殺され、遺体がどこにあるのかがわからないからだ」と語った。米軍侵攻で殺されたパナマ人は2000~8000人と推計に幅があり、定かでない。破壊されひら地にされてしまったエル・チョリージョ地区は、被爆地になぞらえて「ヒロシマ」と呼ばれている。

 遺族らは12月20日を「国喪の日」に制定するよう政府に働きかけてきたが、政府は依然、承諾していない。フアン=カルロス・バレーラ大統領の政府はこの日、「平和墓苑」で式典を催した。

 バレーラ政権下で今年7月設立された「1989年12月委員会」のフアン・プラネルス委員長(AMラ・アンティグア・カトリック大学長)は20日、米政府が約束通り、侵攻関係文書などを我々に提供するよう求め、約束が実施されるか否かを監視する、と述べた。また、侵攻時に米軍が持ち去ったパナマ公的機関の文書類を返還するよう要求した。

 米国のジョン・フーリー駐巴大使は今年2月、赴任に際して、米政府は事件を見直す用意があると述べ、資料提供などに触れていた。同大使は委員会に対し、トランプ次期政権が外交上の正式な約束をほごにすることはありえない、と伝えたという。

 米州諸国機構(OEA)の米州人権委員会(CIDH)は今月9日ワシントンで、侵攻事件被害者から証言を聴取した。パナマでは、被害者賠償などに道が開かれる兆しとも受け止められている。

 ジョージ・ブッシュ(父親)政権は、海兵隊など4軍部隊2万6000人を投入してパナマを急襲。破壊、殺戮、機密文書奪取などを恣(ほしいまま)にした。90年1月初め、パナマ最高指導者だったマヌエル・ノリエガ国防軍司令官をマイアミに強制連行し、麻薬取引関与罪で禁錮20年の実刑に処した。これも主権と国際法を完全に無視した暴挙だった。

 ブッシュがなぜ残忍なパナマ侵略を決行したかには、さまざまな見方がある。第一は、1999年末のパナマ運河返還まで10年の時点で、必要とあらば米国はいつでも運河管理権を握ることができる、ことを内外に示すという狙いだ。

 米政府が鳴り物入りで「米国とパナマ民主の敵」に仕立てたノリエガを打倒し連行する狙いもあったが、連行のために大軍を投入し残虐行為に出る必要はなかったはずだ。

 CIA元要員筋情報では、息子ブッシュがパナマで放蕩していた証拠写真などを探し破壊する目的もあったという。父親は息子を、いずれ米大統領に仕立て上げたかったかららしい。来るべき戦争に備え、新型兵器を試し、旧兵器類を消費し、奇襲作戦の演習をする意味もあった。90年の湾岸戦争では、パナマで実験されたステルス爆撃が投入された。

 上記委員会は、死者数、米軍侵攻の理由などを調査、バレーラ政権の任期末までに報告を出す。

 侵攻事件に関して書籍が刊行されてきた。社会学者オルメド・ベル―チェの『侵攻の真実』、クラウディオ・カストロ『パナマ侵攻』、詩人ホセ・ブランコ『死の蛍』、元パナマ駐在クーバ大使ラサロ・モラ『パナマ1989ね12月 我々に忘れる権利はない』、FJスクリアレフスキ『始まった侵攻』、フアン・モルガン『無益な傷跡』、ペドロ・プラード『夢の反対側』などがある。

 
 
  

2016年12月20日火曜日

メキシコ大統領が「トランプ政策への対応策」策定中と表明

 メヒコ国会上院は12月18日、ドナルド・トランプ次期米大統領の政権に予想される対墨政策に関し上院がエンリケ・ペニャ=ニエト大統領に書面で質問していた事項への大統領の回答を公開した。上院は次のような事情から、大統領に次期米政権に対する政策を質していた。

 トランプ氏の選挙戦中からの厳しい対墨発言により、メヒコでは先行き不安感が立ち込めている。米国からの対墨投資が様子見のため幾つも停止状態にある。雇用や経済成長への影響が出ているほか、在米不法滞在メヒコ人が大量に強制送還されれば、彼らからの送金が大幅に減り、これを重要な外貨収入源としているメヒコには重大な問題が生じる、との懸念も膨らんでいる。

 ペニャ大統領は、「北方には大統領選挙戦の枠を超えての排外主義的、人種主義的な姿勢が窺える」と前置きし、トランプ就任前に国益防衛策として、移民を支援する「社会経済支援計画」を策定すると回答。

 「特に不法移民の大量送還が統御できなくなる場合に備え、在米同胞の尊厳、福利、権利を守るための措置」として、保険、雇用、教育を含む様々な救済措置を講じると強調。外務省を中心に保健、労働、教育、財務、社会開発、農業、経済、地方・都市開発の各省と連携し、対策を策定中。

 オバーマ現政権下(2009~15年)に計290万人の在米不法滞在者が送還された。2015年度は24万人だった。

 ペニャ大統領は18日、下院で発言。米加両国と1994年から維持してきた北米自由貿易協定(NAFTA、西語ではTLCAN)の見直しをトランプが語っていることについても、「墨米2国間関係の対話を通じて双方に利益のある合意が得られるよう努めてゆく」と述べた。

 トランプは当選後、メヒコ進出を決めていた米企業3社を翻意させており、メヒコではトランプ就任後、短期的には米資本の流れが止まるのではないかとの観測が流れている。万が一、TLCAN(北米自由貿易条約)がなくなれば、メヒコ人1000万人が職を失うと見られている。

 トランプの下で副大統領となるペンス氏が、「NAFTA見直しには米墨国境地帯での安全保障問題も含まれる」と語っていることもメヒコ政府を深刻にしている。また軍部右翼強硬派だったジョン・ケリー前米南方軍司令官の国土安全保障長官への就任が決まっていることも不安材料だ。ケリーは「国境警備を厳重にする」と、厳しく望む姿勢を示している。

▼ラ米短信  ◎FARC戦闘継続派は190人か

 コロンビアのフアン=パブロ・ロドリゲス国軍司令官は12月19日、内戦終結合意に反対しているFARC反主流派は約190人で、その多くは東部ゲリラ軍団所属だと明らかにし、政府から彼らを掃討するよう命令されていると語った。

 同司令官はまた、FARC主流派は国内27カ所の指定地域に集結しつつあり、国軍兵士1万5000人および警察部隊2000人が2017年元日から旧FARC勢力圏に展開する、と述べた。これはFARC不在となった地域に極右準軍部隊など組織犯罪集団が入り込まないようにするための措置。

2016年12月19日月曜日

ボリビアのエボ・モラレス大統領が2019年出馬を受諾

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は12月17日、政権党「社会主義運動」(MAS=マス)の第9回党大会決定を受けて、2019年の大統領選挙に連続4選、現行憲法下では連続3選を目指し出馬することを約束した。現行任期は2012年1月まで。

 大会は東部のサンタクルース州モンテロ市で16~17日開かれ、代議員ら6000人が参加した。「他の人物が政権を握れば、再び民営化や、少数者が富を独占する政治に戻ってしまう」と指摘し出馬を受け入れたモラレスは、「選挙で右翼と対決するには分裂してはならない。右翼は団結している。我々は人民として団結せねばならない」と訴えた。

 モラレスは現行憲法下での連続3選を目指し、連続2選しか認めていない憲法修正の是非を問う国民投票を2月実施。だが、僅差で否決された。

 このため党大会は、連続3選に道を開くための「4つの方法」を打ち出した。①有権者(630万人)の20%の署名を集めて改憲国民投票を再び実施②国会の3分の2の議員の発議で改憲し国民投票を実施③モラレスが任期切れの半年前(19年半ば)に辞任④憲法裁判所による憲法解釈。

 ③については、モラレス辞任後、腹心のアルバロ・ガルシア副大統領が暫定大統領となる。これによりガルシアは、2019年の大統領選挙にモラレスの副大統領候補としては出馬できなくなる。

 国民投票を必要とする①②は、今年国民投票に敗れているだけに危険が大きい。③④は可能だが、世論の反発が高くなることが予想される。最近の世論動向は、カルロス・メサ元大統領の支持率がモラレスを凌ぎがちだ。

 モラレスとMASは18日、コチャバンバ州チャパーレ市のイビルガルサマで、モラレス大統領選挙勝利11周年を「民主・文化革命記念日」として祝った。ベネスエラからはニコラース・マドゥーロ大統領の代理として、アリストーブロ・イズトゥーりス副大統領が出席した。出席を予定していたエクアドールのラファエル・コレア大統領は訪問を中止した。

 マドゥーロ大統領は20日からトルコ、アゼルバイジャン、カタール、イラン、サウディアラビアを歴訪、「向こう10年間の国際原油価格安定化」について話し合う。

 モラレスは出馬表明したが、内外の政治状況は楽観を許さない。ラ米とりわけ南米は昨年末以降、政治の潮流が右旋回しており、コレア大統領は今年、3選出馬を断念した。マドゥーロ大統領も政経両面の困難に直面している。老舗左翼のクーバも経済困難、国父フィデル・カストロ死去、トランプ次期米政権登場で先行きは険しい。

▼ラ米短信   ◎玖米関係正常化決定発表から2年

 玖米両首脳が2014年12月17日、それぞれの首都で関係正常化方針を同時発表してから丸2年経った。【これについては近い将来、論文を執筆。】

 内戦中のシリアに18日、クーバ製医薬品(髄膜炎ワクチン24万回分)=時価93万ドル相当=が到着した。友好協力協定に基づく。

2016年12月18日日曜日

ペルーの日本大使公邸事件から満20年、フジモリ氏が回想

 在ペルー日本大使公邸占拠人質事件発生から12月17日で丸20年が過ぎた。ゲリラ組織「トゥパック・アマルー革命運動」(MRTA=エメエレテア)のネストル・セルパ司令以下14人が、天皇誕生日祝賀会さなかの公邸を急襲、多くの人質を取った。

 人質は最終的に青木盛久大使ら男性72人となり、日秘両政府とゲリラ側との交渉が始まった。MRTAは、当時収監されていた仲間470人の解放、フジモリ政権が推進していた新自由主義経済政策の変更、刑務所の囚人待遇改善、身代金、クーバへの出国などを事件解決の条件として打ち出していた。

 カトリックのフアン=ルイス・シプリアーニ司教(現在リマ大司教兼枢機卿)が仲介、寺田輝介駐墨大使(当時)らがセルパらと話し合った。当時の橋本政権はアルベルト・フジモリ大統領に平和解決を繰り返し要請する一方、ゲリラが出国先として希望していたクーバのフィデル・カストロ国家評議会議長(故人)にも解決への協力を依頼した。

 だが強気のフジモリ大統領は終始、軍事力による決着を求め、事件発生から127日経った1997年4月22日、軍と警察の要員で140人で構成する特殊部隊を、公邸の地下まで掘り進めていたトンネルから公邸に突入させ、MRTAを制圧、人質を解放した。

 この作戦でペルー人の人質だった判事1人と突撃要員2人が死亡。ゲリラはセルパら十数人が射殺されたが、当時の大使館員の証言によれば、生き残っていたゲリラ2~3人は拘束された後、殺害された。

 殺人を含む人道犯罪を命じた罪で禁錮25年の実刑に服役中のフジモリ元大統領は17日、電子メディアを通じて、「睡眠中に見た夢にトンネルが出てきた。ある朝4時に起床し、作戦試案を練った。以前見ていたトンネルの多いチャビン・デ・ウアンタル遺跡を思い出し、作戦名とした」と書いた。

 元大統領はまた、「人質解放に成功したあの出来事から20年が過ぎた。危機管理が成功したことに満足し、勇気ある兵士たちを誇りに思っている」とも記した。

 さらに、事件当日について、「あの日は日本の代表団と共にアヤクーチョ市に行き、(日本からの)贈り物の贈呈式をし、帰途、ナスカ市に立ち寄って、少し前に起きた地震の被災地を視察した。リマの政庁に戻ったのは午後7時半だった。待っていた(長男)ケンジの経済の勉強の面倒を見た。机上には日本大使からの招待状が置いてあった。この種の会合には通常は出席しないが、日ごろの厚い援助に鑑み、出席しようかと考えていた」と書いている。だが結局出席せず、人質にならないで済んだ。

 フジモリへの恩赦を求める声が本人、家族、支援者から出ている。だが司法省は16日、フジモリへの赦免は人道犯罪ゆえにありえない、と発表した。

 PPクチンスキ現大統領は事件発生20年記念日に先立つ12日、突撃コマンドの生存者らを招いて功績を讃えた。一方、米州諸国機構(OEA)の米州人権委員会(CIDH)は昨年、「MRTA要員2~3人が身柄拘禁後に殺害された件」について捜査するよう、ペルー政府に命じている。

 フジモリの長女ケイコが党首の政党「人民勢力」(FP)は国会最大勢力。最近、老舗政党PAP(ペルーAPRA党)と連携し、ハイメ・サアベドラ教育相不信認決議を可決、解任に追い込んだ。

 これを受けてシプリアーニ大司教は、大統領府と国会の関係を安定させるため、クチンスキ大統領とケイコ・フジモリを近く大司教公邸に招き会談させる手はずを整えた。
 

2016年12月17日土曜日

ベネズエラのラ米医科大を第三世界医学生が新たに巣立つ

 カラカスにあるラ米医科大学(ELAM=エラム)サルバドール・アジェンデ分校に学んでいた318人が12月16日、卒業した。第4期生で、同期卒業生は1117人に達した。

 ELAM本校はクーバにある。この分校は2005年、故フィデル・カストロ議長と故ウーゴ・チャベス大統領が話し合い、創設した。この日、卒業式で訓辞を述べたニコラース・マドゥーロ大統領は、フィデルとチャベスの功績を讃え、これを模範とするよう諭した。分校卒業生は3万人を超えている。

 今回卒業した医学生の国籍は多様だ。ラ米はボリビア、エクアドール、ペルー、パラグアイ、アイチ、ニカラグア、エル・サルバドール、オンドゥーラス、メヒコ。アフリカはアンゴラ、ギネビサウ、カボヴェルデ、モサンビーク、シエラレオーネ、セネガル、ナイジェリア、ケニア、エティオピア、リビア、アラブ・サハラウイ共和国。他にパレスティーナと南米ガイアナ。

 留学生たちは貧しい家庭出身。卒業生は帰国後、無医村や寒村の医師となる。クーバの「医療保健国際主義」の思想が生かされている。

 一方、ベネスエラでは通貨ボリーバル・フエルテ(bf)の旧紙幣を新紙幣と交換する作業が続けられているが、交換所が少なく長蛇の列ができて、各地で混乱。数か所で怒った市民らが商店やスペルメルカードを略奪する事件が起きた。

 政府は交換期間を延長し、混乱回避に努めている。今回の措置は、世界最悪とも言われる超インフレに対処するため高額紙幣を流通させることにしたもの。

 ブエノスアイレスの亜国外務省前で起きたデルシー・ロドリゲス外相をめぐる小競り合いに関し、ベネスエラと亜国の罵り合いが続いている。マウリシオ・マクリ亜大統領は16日、ベネスエラ指導部を「卑怯者」と非難した。
 

2016年12月16日金曜日

コロンビア国会にFARCが会派と代議員を置く

 コロンビア政府と和平合意したゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は12月15日、国会上下両院に3人ずつの政治代表を置いた。女性政治活動家イメルダ・ダサら6人は同日、選管に会派「和平と和解の声」運動(MVPR)を届け出た。

 ダサら3人は下院、他の3人は上院に属す。審議の際、発言権は持つが投票権は持たない。FARCは来年前半に予定される武装解除と社会復帰の完了後、政党化し、2018年の国会議員選挙と大統領選挙に参加する計画だ。MVPRは、FARC政党化までの繋ぎ役を果たす。当面の役割は、和平合意実施過程の監視と検証。

 ダサは1980年半ばに出来たFARCおよび共産党の政党「愛国同盟」(UP)に所属していた。UP幹部3000~4000人が秘密警察や極右勢力によって暗殺されたが、ダサは生き残った幹部の一人。ダサは87年に暗殺未遂に遭いスイスに亡命、昨年帰国したばかり。他の5人も弁護士、政治学者、大学教授ら知識人。

 ローマ法王は16日、ヴァティカンにJMサントス大統領とアルバロ・ウリーベ前大統領を招き、個別に会談してから3者会談に入った。右翼のウリーベは内戦継続を主張、和平に頑迷に反対してきた。法王は、犬猿の仲のサントス・ウリーベ両人の対話を促し、和平過程実施に向けて協力態勢をとるよう促した。

 サントスは法王を前に、ウリーベに協力を求めたが、ウリーベは最終和平合意内容の修正が不十分と主張、協力に応じる姿勢を見せなかった。

 サントスは法王との会談では、和平最終合意調印時のボリグラフォ(50ミリ銃弾で作ったペン)を贈った。このペンには「銃弾はコロンビアの過去を書いた。未来は平和が書く」という言葉が刻まれている。調印時にサントスがFARC最高司令ティモチェンコに伝えた言葉だ。

 一方、コスタ・リカ警察は15日、サンホセ市内の民家からFARCの隠し資金として現金48万ドル(約15億コロンビアペソ)を押収した。ウリーベ前政権は08年3月エクアドール北部への越境軍事攻撃を決行、FARC幹部ラウール・レジェスらを殺害したが、その時奪ったパソコン資料から隠し資金の存在を突き止めていた。隠し資金はエクアドール、ペルー、パナマ、メヒコ、スペイン、米国にもあった。

 コロンビア司法省は14日、FARC要員中、最初の110人が赦免されたと発表した。来年初めにかけて、さらに約300人が赦免される運び。

▼ラ米短信   ◎ベネスエラ最高裁が国会に大統領弾劾審議禁止を命ず

 ベネスエラ最高裁は12月15日、保守・右翼野党連合MUDが進めていたニコラース・マドゥーロ大統領の事実上の弾劾を狙う審議を違憲として止めるよう命じた。

 圧倒的多数の議席を握るMUDは10月25日、「憲政・民主秩序の崩壊および経済・社会基盤荒廃に鑑み大統領政治責任を宣言する手続き」開始で合意。これに基づき審議していた。

 一方、マドゥーロ大統領に次ぐ実力者デョオスダード・カベージョ国会議員(前国会議長)は15日テレビ定例番組で、亜国警察がデルシー・ロドリゲス外相に暴力を振った問題に触れ、亜国大統領マウリシオ・マクリを「マクリは卑怯者」と糾弾。ベネスエラ駐在の亜国大使には「出て行け」と言い渡した。

▼ラ米短信  ◎クーバがラム酒で債務返済を提案

 チェコ政府は12月15日、クーバ政府が2億7600万ドルの債務をラム酒で返済したいと持ちかけてきた、と明かした。この債務は1989年のコメコン体制崩壊前に発生していた。

 チェコ側は、少なくとも一部は現金で返済してもらいたいが、ラム酒とクーバ製医薬品での返済受け入れもあり得る、と受け止めている。
 一方、ハバナの反体制派声明によれば、「白衣の女性たち」のベルタ・ソレル代表が15日、警察に身柄を拘禁された。

  

 チリの故サルバドール・アジェンデ大統領の孫がヘンリー・キッシンジャー元米国務長官逮捕をノルウェーに求める

 チレの故サルバドール・アジェンデ大統領の孫パブロ・セプールベダ=アジェンデ(40)が、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官(93)の逮捕をノルウェー政府に呼び掛け、大きな話題となっている。故大統領の長女カルメンの息子であるパブロはカラカス在住の医師。コロンビア内戦和平に貢献したフアン=マヌエル・サントス大統領へのノーベル平和賞授与式が催された2016年12月10日、ノルウェーの有力紙アフテンポステンに同国語で、「親愛なるノルウェーよ、キッシンジャーを逮捕してほしい」と題した公開書簡を掲げた。ノーベル平和賞受賞者でもあるキッシンジャー元長官はこの式典に招待されて出席、記念講演までぶった。以下は、同書簡スペイン語版訳の要旨。

 私の祖父アジェンデ大統領は、キッシンジャーが計画した軍事クーデターのさなかに死んだ。ノルウェーはキッシンジャーを逮捕すべきだ。1970年に選ばれた祖父大統領の政治的願いは、公正なチレ社会を建設することだった。巨大な貧富格差を平等化し、労働者に政治権力を与え、民主と複数政党制の枠内で平和裡に社会主義を建設することだった。

 1973年、その夢は破れた。大統領政庁(モネーダ宮)はアウグスト・ピノチェー指揮下の裏切り者軍隊と戦車に包囲され、空爆された。ピノチェーらは、米政府および、CIAと連携するキッシンジャーの指揮に従っていた。アジェンデには辞任する選択肢もあったが、人民の権力を守るため死ぬ道を選んだ。政庁とチレ民主の廃墟で死んでいった。

 キッシンジャーに支援され血塗られたクーデターと残虐な独裁は、その後数十年に亘って何百万人ものチレ人に影響を及ぼした。3000人以上が拉致され殺害され、何万人もが拷問され、他の何万人もが国外への亡命を余儀なくされた。キッシンジャーは南米でCIAおよび軍政諸国と組んで、恐怖と死の(コンドル)作戦を展開した。政治家、軍人、先住民、農民、労組員、左翼や、反米闘争をしていた人々が狙われた。

 多くのチレ人は、ノルウェーが小国でありながら、ピノチェー恐怖政権を逃れてきたたくさんのチレ人を受け入れてくれた事実を覚えている。だからこそ、キッシンジャーがノーベル平和賞授賞式に招かれたというニュースは信じ難かった。抑圧された人々の亡命地としてのノルウェーを記憶する我々にとって理解し難いのだ。キッシンジャーは南米左翼をテロと殺害で弾圧した最悪の知的主犯だった。それを示す十分な証拠文献があり、議論の余地はない。

 アジェンデに(1970年9月)大統領選挙当選の可能性が出るや、キッシンジャーは「ある国が、その国の無責任な人民のせいで共産主義国になるのを座して待つわけにはいかない。問題は、チレの有権者が決定するにはあまりにも重要な案件ということだ」と言って憚らなかった。キッシンジャーとニクソン(当時の米大統領)の政治的判断によって、アルゼンチンではチレの10倍(3万人以上)が殺された。逮捕された左翼女性から生まれた何百、何千という赤子が奪い去られた。

 彼らは皆、よりよい社会の建設を願い、植民地時代から続く不公正な社会構造の変革のため闘っていた。その社会では、少数の選良が外国勢力と組んで、富と資源の大部分を独り占めしている。その一方で大多数の人民は貧しく、日常的に搾取され辱められ抑圧されている。恐怖と戦(いくさ)を基盤とする体制の押し付けと維持にキッシンジャーほど大きな役割を演じた者は稀だ。

 キッシンジャーは、20世紀の大虐殺の一つである(インドシナ)空爆の直接の責任者でもある。彼はアレグザンダー・ヘイグ将軍に、「ニクソン大統領はカンボジアでの大量爆撃作戦を望んでいる。これは命令であり、遂行されねばならない。動く標的はすべて攻撃する。わかったか」と命令した。これによってカンボジア、ラオス、北ヴェトナムに計275万トンの爆弾が投下され、何百万人もの人々が殺された。

 キッシンジャーの戦略は南米でもアジアでも地政学的計算にすぎなかった。目的達成のために無数の人々が殺された。命の価値はそれほどまでに小さかった。こうした人種主義的で犯罪的な発想は植民地主義と帝国主義に根差しており、新しいものではない。

 しかし、オスロ大学とノーベル委員会という重要機関が、夥しい数の人命を軽んじた戦犯を招き讃えるとは驚きだ。亡命、拷問、爆撃の犠牲者は、そのような機関にとって価値がないということか。我々が南の貧しい人民だからなのか。

 平和と人権の保証人として振舞ってきたノルウェー政府に、虐殺、軍事クーデター、拷問の証明付き犯罪者の逮捕を求めるのは初(うぶ)すぎるのだろうか。ノーベル委員会には、無数の犠牲者の姿が隠されてしまう式典でキッシンジャーを讃えるという歴史的恥辱にまみれる代わりに、キッシンジャーのノーベル平和賞を剥奪し、彼の歴史的暴虐の償いをさせようと提起する倫理観の高い人物はいないのか。

 最後に、この忌むべき人物の来訪に反対する人々に感謝する。ノーベル平和賞を受賞しようとも、歴史は決してキッシンジャーに無罪を宣告しない。このことを本人に知らしめてほしい。    

2016年12月15日木曜日

アルゼンチン警察がベネズエラ外相に暴力行使

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は12月14日、ブエノスアイレスの亜国外務省で開催されていた南部共同市場(メルコスール)外相会議に出席しようとしたところ、外務省前で機動隊に阻止され、その際、警官に肩を強く殴られた、と抗議した。

 デルシーは、「この暴力はマクリ(亜国大統領)による報復だ」と非難した。過去にアスンシオンでのメルコスール会合で、デルシーはマクリをやり込めたことがある。

 また、メルコスール加盟手続き中のボリビアのダビー・チョケウアンカ外相も警官に殴られた。同外相も会議出席を拒否された。両外相はそろって抗議声明を出した。

 会議終了後、スサーナ・マルコーラ亜国外相は記者会見し、亜国が半年交代のメルコスール輪番制議長国に就任したことを明らかにした。同外相はまた、ベネスエラが必要な手続きを経て復帰することについて楽観的見通しを口にした。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は14日、ハバナでの「フィデル・カストロ、ウーゴ・チャベス両司令官初会談22周年記念日」および、「米州ボリバリアーナ同盟(ALBA)発足12周年記念日」の行事に出席した。

 ブルーノ・ロドリゲス玖外相は、「ALBAは帝国主義に脅かされているマドゥーロ合法政権のベネスエラを守る」と強調した。フィデルはベネスエラを11回訪問、チャベスは晩年の癌治療を含め約30回訪玖した。

 ALBAにはベネスエラ、クーバ、ボリビア、ニカラグア、エクアドールのラ米5カ国と、アンティグア&バーブーダ、セントクリストファー&ネヴィス、グレナダ、ドミニカ、セントルシーア、セントヴィンセント&グラナディーンのカリブ英連邦6カ国が加盟している。

 一方、ベネスエラ工業連盟は14日、連盟加盟2000社のうち17%は稼働していないと明らかにした。また、47%は数年来、販売が減少していると述べた。

 またベネスエラ政府は14日、新旧通過紙幣交換に伴う混乱を避けるためとして、ブラジルとの国境を72時間閉鎖すると発表した。すでにコロンビアとの国境は72時間閉鎖中。

2016年12月14日水曜日

コロンビア憲法裁が和平立法審議短縮を承認

 コロンビア憲法裁判所は12月13日、サントス政権とFARC(コロンビア革命軍)が結んだ内戦終結のための最終和平合意の国会審議を大幅に短縮するための包括的審議(ファーストトラック)を合憲と認めた。国会が6月、同審議を可決していた。

 これを受けてJMサントス大統領は同日上院に、内戦中、戦争犯罪、人道犯罪など重罪を除く罪を犯した者を恩赦もしくは赦免する法案を提出した。

 憲法裁はまた、和平合意を次期政権以降の政権が遵守するようにすることなどのため、大統領政令を法令と同一効力を持つようにすることを認めた。

 FARCは12月2日以降、国内の予備集結地に集合しつつある。そこから最終集結地に入り、関係立法を待って、武装解除と社会復帰を同日から180日以内に完了することになっている。

 2018年に次期大統領と国会議員の選挙があるため、政党化してゆくFARCとしては、17年前半中に関係諸法が成立発効するのを望んでいる。FARC指導部は13日、和平合意に異議を唱える司令級幹部5人を追放した。

 コロンビアでは今年、労組・人権・環境運動などの社会的指導者が94人殺され、28人が負傷し、279人が脅迫された。これを受けて、米連邦下院の人権派ジム・マクガヴァンら議員38人が連名で、ジョン・ケリー国務長官に対処を求めた。

 一方、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は13日、通貨ボリーバル・フエルテ(bf)の新旧紙幣交換に際し、コロンビアとの国境を72時間閉鎖する命令を発した。

 ベネスエラはまず、現行の100bf紙幣(公定15米セント、闇で同2セント)を回収しているが、コロンビアの組織犯罪団が同紙幣を大量にコロンビア国内に持ち去り隠匿している事実を確認、国境閉鎖に踏み切った。

 15日からは1万bf、2万bfなど高額紙幣が段階的に流通してゆく。ベネスエラは超インフレに苛まれており、紙切れ同然の価値しか持たなくなった旧紙幣では買い物や取引が困難になっていた。だが、いずれデノミネーションが来ると予測されている。

▼ラ米短信  ◎次期ブラジル大統領最有力者はルーラ元大統領

 伯紙フォーリャデサンパウロは12月13日、世論調査結果を公表。2018年実施の次期大統領選挙の予想出馬者の中で、労働者党(PT)のルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ元大統領が支持率25%で人気一番手になった。

 2位は、「持続可能網」(REDE)のマリーナ・シルヴァ15%、3位は、伯社民党(PSDB)のアエシオ・ネヴェス11%。不人気のミシェル・テメル現大統領(伯民主運動党=PMDB)は、4%で6位だった。 

2016年12月13日火曜日

拉致されたアルゼンチンの左官ロペス氏に名誉博士号

 ブエノスアイレス(BA)州都ラ・プラタ市にある国立ラ・プラタ大学は12月12日、旧軍政極右陣営によって強制失踪させられた左官職人ホルヘ=フリオ・ロペスに名誉博士号を授与、息子ルベーン・ロペスが証書を受け取った。

 ロペスは軍政時代(1976~83)に連行され、地下収容所で拷問された。2006年に元BA州捜査警察長官ミゲル・エチェコラツら、軍政期に同州内で起きた人道犯罪の責任者たちを裁く法廷で証言。新たに法廷証言する直前の同年9月18日、拉致された。殺害されたと見られている。

 だがロペスが済ませていた証言により、エチェコラツらに2012年、終身刑が言い渡された。エチェコラツは拉致、拷問、殺害、政治囚に生まれた赤子奪取などに関与した。

 ロペスは、野放しになっているエチェコラツの元部下らによって拉致され抹殺されたと見られている。ロペスは失踪から10年経った今、人権のために闘った功績を認められ、名誉博士号を授与された。

▼ラ米短信  ◎クーバと欧州連合(EU)が関係正常化で調印

 クーバとEUは12月12日ブリュッセルで「政治対話・協力合意」に調印した。1996年に当時のスペイン右翼政権の主唱で定められた「共通姿勢」(ポシシオン・コムン)という対玖締め付けのための統一政策は過去のものとなった。

 調印式にはブルーノ・ロドリゲス外相(共産党政治局員)が出席した。トゥランプ次期米大統領が就任する前にEUとの関係正常化に到達したことは、クーバにとって重要だ。

 トゥランプ次期大統領は12日、米南方軍(マイアミ司令部)の前司令官、ジョン・ケリー退役海兵隊大将を国土安全保障相に任命した。ケリーは南方軍司令官時代、ベネスエラ潰しの工作に力を入れていた。このためベネスエラやクーバは警戒している。

 一方、玖電気通信会社ETECSAと米グーグル社は12日ハバナで、電子機器通信協力協定を結んだ。パソコン通信の速度加速化などが目的。

 またフランスのカレブ航空は9日、パリ・ハバナ定期便を就航させた。毎金曜日に往復便が運航される。毎火曜日には、同じくパリ・サンティアゴデクーバ便が運航される。また玖国営航空クバーナとの毎土曜日の共同運航を検討している。

2016年12月12日月曜日

ブラジル世論調査:63%がテメル大統領辞任を要求

 ブラジルで実施された最新の世論調査の結果が12月11日公表された。それによると、ミシェル・テメル大統領の支持率は10%だった。63%は即時辞任を要求。34%は「まあまあ我慢できる」だった。

 これを受けて、野党PT(労働者党)は同日、国会下院でテメル即時辞任と大統領直接選挙実施を要求した。最大政党PMDB(伯民主運動党)のテメルは、些細な理由でヂウマ・ルセフ前大統領(PT)を8月末、弾劾に持ち込み、政権に就いた。テメルは副大統領として弾劾裁判中、大統領権限を代行していた。

 テメルの不人気は、前大統領弾劾がPT長期政権を潰すためのPMDBなどによる陰謀に基づく事実上のクーデターだったことや、テメルの汚職、経済後退などによる。

 テメルは国営石油会社ペトロブラスから巨額の賄賂を受け取ったとして取り調べ対象者に含まれている。同社汚職事件と絡む建設最大手オデブレヒト社の元幹部は最近、法廷で、2014年にテメルから300万ドルを要求されたと証言した。テメルは否定したが、収賄疑惑は一層強まっている。
 
 世論調査のテメル施政に関する設問には、40%が施政悪化と回答。34%が変わらない、21%が良くなったと答えた。経済状況では65%が悪化、20%が安定、9%が良くなった、だった。

 テメル政権の閣僚は既に6人辞任、うち4人は腐敗が理由だった。11月末にはテメルの側近、ジュエル・リマ大統領府長官が、自身の不動産処理のために職権を濫用した事実が暴露され、辞任に追い込まれた。

 またテメルの盟友、レナーン・カリェイロス上院議長(PMDB)は腐敗により今月5日、最高裁から議長職務停止命令を受けたが、テメルらの支持で居座った。最高裁は腰砕けで7日、命令を覆した。だがカリェイロスは犯罪容疑者であるため大統領地位継承権を剥奪された。

   
 

2016年12月11日日曜日

故ビクトル・ハラ夫人ジョーン・ターナーがネルーダ勲章受章

 チレのミチェル・バチェレー大統領は12月9日、パブロ・ネルーダ芸術・文化勲章を舞踊家ジョーン・ターナー(82)に授与した。ターナーは、音楽家で演出家だった故ビクトル・ハラの夫人。ハラは軍事クーデターが起きた1973年9月11日軍政に逮捕され、同月16日、拷問された後、射殺された。

 ターナーは英国生まれの舞踊家。1954年にチレに来て、国立バレエ団に入団。60年ハラと結婚。クーデター後、娘2人を連れて英国に亡命。80年代半ば帰国し、「精神舞踊センター」を設立。93年には「ビクトル・ハラ財団」を設置した。国会は2009年、ターナーにチレ国籍を与えた。

 ネルーダ芸術・文化章は、ネルーダ生誕100周年の2004年、文化・芸術理事会(CNCA)が創設。ターナーは、長年の舞踊および教育活動が評価され、受賞した。

 バチェレー大統領の父親は空軍将軍だったが、アジェンデ社会主義政権に協力したとして、ピノチェー軍政に逮捕され、拷問されて獄中死した。肉親を軍政に殺された点でターナーと共通する。

 一方、12月10日は、独裁者だったアウグスト・ピノチェーが2006年91歳で死去した10周年記念日。遺族ら100人はこの日、ピノチェー家の別荘のある太平洋岸のロス・ロルドスでミサを催した。遺骨は同別荘内に安置されている。

 政府は6日、「ピノチェーはチレ人の団結でなく分裂に関わった過去の人物だ。チレは現在と未来に目を向けねばならない」との簡単な声明を発表している。

 首都サンティアゴ市には、クーデターおよび軍政期の人道犯罪の資料などを展示する「記憶博物館」があり、年間15万人が訪れている。ピノチェー軍政期に3200人以上が殺され、このうち、まだ多くの人々の遺体が見つかっていない。拷問された者は3万人に上る。

▼ラ米短信  ◎コロンビア大統領がノーベル平和賞受賞

 コロンビアのフアン=マヌエル・サントス大統領は12月10日、ノルウェー・オスロ市公会堂でノーベル平和賞を受賞した。FARCとの半世紀を超える内戦に終止符を打った功績を評価された。

 大統領は式典で、「内戦で肉体的危害を受けていない人々が和平に反対しているというパラドックスがある。(国民投票敗北で)我々の和平の船がまさに漂流しようとしていた時、天からノーベル賞が与えられた」と述べ、同伴してきた内戦犠牲者代表7人を紹介した。

 ノルウェーの平和賞委員会は、「国民投票結果を受けてサントス氏への授賞は時期尚早という意見が出た。だが我々は、和平が危機に瀕している今こそ国際的支援をすべきだと判断した」と、授賞決定の内幕を披露した。

 一方、コロンビア世論は、「サントスは和平を導いたが、分裂している国内をまとめることができないままだ」と批判。「サントスはオスロに大使館を開くなど、2年前から受章に向けて準備していた」との指摘もある。

 2012年から4年間続いたハバナでの和平交渉では、クーバがFARCの、ノルウェーがコロンビア政府の、それぞれ後見国を務めた。

2016年12月10日土曜日

アルゼンチンのマクリ保守政権が発足1周年

 アルヘンティーナ(亜国)のマウリシオ・マクリ大統領の保守・右翼政権は12月10日、発足1周年を迎えた。この1年間にインフレは累計45%、景気は後退した。貧困人口が増えた。870万人が貧困、130万人が窮乏状態にある。両者合わせた1000万人は、人口の38%に相当する。

 その間、公務員7000人、民間企業労働者20万人が馘首された。1米ドル=9・75ペソだった外為交換率は、1d=16・11pと、65%もペソの価値が落ちた。

 その傍ら、亜国への債権を買い取り、巨額の債務返済を要求していた米投資会社(禿鷹ファンド)と妥協、高額を支払った。

 貧困大衆は生活苦から抗議行動を続けている。「五月広場の母たちの会」(エベ・デ・ボナフィニ派)と、同会創設者路線(ノラ・コルティーニャスら)は8~9両日に亘って「24時間抗議行進」を、カサ・ロサーダ(大統領政庁)前の五月広場で実行した。

 88歳のボナフィニ会長は車椅子で参加。母たちと支援者は「連帯と闘争か、それとも飢餓と弾圧に身をまかすか」の横断幕を掲げ、ペロン主義キルチネル派の前政権の政治家が共に行進した。

 一方、創設者路線の行進には、ノーベル平和賞受賞者アドルフォ・ペレス=エスキベルらが参加した。

 両母の会ともに、マクリ政権下で政治的弾圧、失業、飢餓、誹謗、不公正などが急速に増えたと指摘する。ことし初め、フフイ州内で、州当局を批判した女性ミラグロ・サラが逮捕され、拘禁されたままになっている。

 親米・新自由主義路線を共にするマクリとテメルの亜伯大統領は関係を深めている。一方でクリスティーナ・フェルナンデス=デ・キルチネル前亜国大統領と、ルーラ元伯大統領、テメルらの陰謀で弾劾されたヂウマ・ルセフ前伯大統領は連携を進めている。

▼ラ米短信  ◎亜英両国が無名戦士の身元確認で合意

 亜英両国は11月29日、マルビーナス戦争(1982年4~6月)で戦死し「無名戦士」としてマルビーナス(フォークアンド)諸島のダーウィン墓地に埋葬されている亜国軍兵士123人のDNA鑑定による身元確認をすることで予備合意、12月9日、最終合意した。双方は赤十字国際委員会(ICRC)に委託し、来年中にDNA鑑定する。

 亜国軍がマルビーナス領有権奪回のため開戦した戦争で、亜国軍649人(無名戦士1234人含む、英軍255人、島人3人が死亡した。英国が勝ち、諸島は英国の植民地のままとなっている。 

 
 

2016年12月9日金曜日

キューバとロシアが軍事産業協力協定に調印

 ハバナで12月8日、第14回玖露閣僚理事会執行委員会が開かれた。露首席代表ディミートゥリ・ロゴジン副首相は、「ロシアは米国のような西側諸国から圧力を受けてきたが、この国(クーバ)とは主権護持の志を共有している」と述べ、両国が連携して、そのような圧力に対し防衛してゆきたいとの姿勢を見せた。

 玖側首席はリカルド・カブリーサス副首相。両国は続いて、2020年までの軍事産業協力を始め、運輸(航空、鉄道、機関車)、電力、薬品に関する協定に調印した。

 ロシア側はまた、クーバの中長期開発計画への参画意志を確認した。

 一方、玖米両国は7日ハバナで第5回2国間会議を開催、国交改善政策継続で一致した。玖側首席ホセフィーナ・ビダル外務省米国局長は、「2014年12月以来の関係改善は両国市民と国際世論の多数派の支持を受けてきた」と強調、トゥランプ次期米政権になっても、良好な関係を発展させてゆきたい意志を示した。

 米側首席はマリ=カルメン・アポンテ国務省米州担当次官補代理。双方はオバーマ政権が終わる来年1月20日前に、これまで話し合ってきた懸案を可能な範囲で合意に持ち込みたい意欲を表明した。ビダル局長は、経済封鎖全面解除とグアンタナモ基地返還をあらためて訴えた。

 ビダルは、今年1~10月に米国人20万8000人が来訪、前年同期比68%増と明らかにした。同期間の在米玖系人の来訪は24万8000人で、同4%増。同じく両国間の文化などの交流は1200件あり、12%増だった。

 クーバの自営業者ら100人は7日、ドナルド・トゥランプ次期大統領に書簡を送り、オバーマ政権の対玖政策を維持発展させるよう要請した。

 欧州連合(EU)は6日、1996年に当時のアスナール・スペイン右翼政権の主唱で定められた「対玖共通姿勢」を正式に廃止した。クーバに「民主化」などを要求するもので、玖側は内政干渉として反駁していたが、去年、事実上廃止された。

▼ラ米短信  ◎ベネスエラ対話が暗礁に乗り上げる

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDは12月7日、マドゥーロ政権との政治対話を打ち切ると発表した。スペインのサパテーロ前首相ら元首脳3人による政府・野党間の仲介工作により10月から対話が続けられていたが、MUDは、政府が大統領罷免国民投票を実施しなければ対話に応じないと跳ね付けた。

 南米の亜URU伯PAR智COL秘の7カ国とメヒコ、グアテマラのラ米計9カ国外相は8日連名で、ベネスエラ政府に対し、対話再開に向けて努力するよう要請した。 

2016年12月8日木曜日

~~ピースボート2016年波路遥かに~番外編~~

 国連公認のNGOピースボート(PB)が企画し、旅行代理店ジャパン・グレイス(JG)が運営する世界一周船には、「水先案内人」(水案)と呼ばれる船上講師が交代で乗船する。国際情勢、沖縄、環境、人権・反差別、軍事・反核、教育、世界遺産などの語り手から、冒険家、奇術師、落語家、俳優、音楽家、スポーツ選手、画家、歌手、料理評論家、自立生活者などまで、様々な分野の専門家たち約70人である。

 その望年会が12月7日、昨年に続いて、横浜港大桟橋停泊中のPB「オーシャン・ドゥリーム号」の船内で開かれた。初代ルポライター鎌田慧、フォトジャーナリスト豊田直巳らジャーナリズム関係者を始め、アニメーション作家や細川佳代子(元首相夫人)ら40人が集い、PB・JGスタッフと歓談した。軍事ジャーナリスト前田哲男は珍しく欠席。落語家古今亭菊千代も多忙で不参加だった。

 昨年3月死去したアイヌ研究・文化運動推進者の計良光範、今年10月死去した登山家田部井淳子の不在を感じた。親しい水案仲間だった。

 PBの旅客船運航は1983年に始まった。それから数えて100回目の記念航海が2018年12月から96日間、アフリカ・南米南端周りで実施される。この南周り航海の内容が望年会場であらためて発表された。

 私は92回航海をホノルルで切り上げ11月半ば過ぎに帰国したばかりだったが、20日ぶりに船上で仲間たちと再会できた。船は明日9日、南周りの第93回航海に乗客1000人乗せて出航する。

 その中にはシンガポール、上海、台湾などの華人客が60人含まれている。従来の英西両語に加え、中国語通訳も乗船する。今後、乗客の多国籍化が急速に進むと見られており、水案講座の主題も変化してゆくだろう。
 
 

2016年12月7日水曜日

ベネズエラ大統領が産油諸国首脳会議開催を提案へ

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は12月6日、向こう10年間の原油政策を話し合うため、OPEC(石油輸出国機構)加盟国および非加盟産油国有志の首脳会議開催を提案する方針、と発表した。来年第1・4半期に文書で正式に提案するという。

 マドゥーロ大統領はまた、プーチン露大統領と6日電話会談し、両国間の軍事協力協定継続を確認、ロシアが来年、新しい軍事装備をベネスエラに供給することが決まった、と明らかにした。

 さらに、最近の全国パン製造業者組合絡みのパン工場サボタージュ事件でパン供給が不十分になったのに鑑み、ロシアが来年、農業やパン製造技術の専門家を派遣してくることも決まった、と述べた。

 両首脳は、このほど決定したOPEC加盟国が日量120万バレル、ロシアなど非加盟国が同60万バレルずつ原油生産を削減することについても話し合った。

 一方、ベネスエラ国営石油会社PDVSA(メデベサ)社長を兼ねるエウロヒオ・デルピノ石油相は6日、12月1~3日に計1万6943回のサイバー攻撃がPDVSAに仕掛けられた、と発表した。その8割方は韓国、オランダ、米国から発信されたもの。

 石油相は、この攻撃を、PDVSAの電脳系統を麻痺させ生産を停止させるのが狙い、と見ている。3日には、製油所の電気系統が破壊される事件も起きたと、同相は明らかにした。

 諜報機関SEBIN(セビン)は6日、破壊活動の一部実行容疑者を逮捕したと発表。同機関は、事件に野党連合MUDが関与していると見ている。

 またアリストーブロ・イズトゥーリス副大統領は同日、野党勢力は国家と社会の不安定化を狙ってサイバー攻撃と経済戦争を仕掛けていると非難した。副大統領はまた、銀行などの現金引き出し機が先週作動しなくなったのも、同一勢力の攻撃のせいとの見方を表明した。 

2016年12月6日火曜日

元ペルー大使がマリエル難民流出時のフィデル・カストロ議長との遣り取り明かす

 元クーバ駐在ペルー大使が1980年の「マリエル大量難民流出」のきっかけとなった在ハバナ秘大使館へのクーバ人流入事件時、当時のフィデル・カストロ国家評議会議長との緊迫した遣り取りのもようを初めて明らかにした。

 エルネスト・ピントバスルコ元大使は4日、フィデルの遺骨埋葬に合わせてペルー紙エル・コメルシオに語った。「フィデルが死んだ今、初めて明かす」として、1980年4月4日、クーバ人1万人強が大使館構内に入り混んだが、それ以前に大使館はクーバ人30余人を匿っていた。

 最初のフィデルとピントバスルコとの交渉で、フィデルは大使館に入ったクーバ人の一部の身柄を引渡すよう要求、大使は応じなかった。するとフィデルは「大きな違いがある。私は人を殺せるが、あなたはできまい」と言った。

 これに対し、「殺すのは簡単で、動物も他者を殺す。だが人間一人を生かすのはずっと難しい」と応じた。続けて、「この問題は私のでもペルーの問題でもない。私は明日出国できる。問題はあなた方に残る。ここで解決しなければならない。死者が出たら、司令官(フィデル)の責任になる」と伝えた。

 翌4月5日、大使館の電気は切られ、事態は緊迫していた。するとフィデルが密かにやってきて、車の中で話し合おうと持ちかけた。フィデルと大使は車に乗り、マレコン通りを走りながら、交渉した。フィデルは、大使館内のクーバ人を「亡命者」と呼ばず、「入り込んだ者」と呼ぶよう要求、大使は受け入れた。館内の全員が安導権を認められ、マリエル港から出国することになった。

 ピントバスルコ元大使は、近く『外交と自由』という本を刊行、その中で詳細を語ることにしている。当時出国した「マリエル難民」は、ペルー大使館内の1万人強を含め12万5000人に達した。

▼ラ米短信  ◎ブラジル上院議長資格停止さる

 ブラジル最高裁は12月5日、国会上院のレナーン・カリェイロス議長に資格停止を命じた。建設会社に事業を発注し、見返りに収賄、その金を愛人と娘に渡していたという腐敗で起訴されたため。上院議員資格は維持されている。
 
 カリェイロスは、国営石油ペトロブラス絡みの巨額収賄でも告発されている。ヂウマ・ルセフ前大統領を正当な理由なしに弾劾したミシェル・テメル現大統領の盟友でもあり、テメルにも大きな痛手だ。テメル自身も収賄で告発されている。

 議長代行には、労働者党(PT)のジョルジ・ヴィアナ議員が就任。ところがカリェイロスは議員らの支持を受けて6日、最高裁命令に従わず議長職に留まると表明した。

2016年12月5日月曜日

フィデル・カストロの遺骨、ホセ・マルティ廟の隣に眠る

 11月25日90歳で死去した革命家フィデル・カストロの遺骨は12月4日早朝、サンティアゴデクーバ市の聖母イフィヘニア墓地に新設された墓に埋葬された。花崗岩製で高さ4mの円い形の墓は、クーバ史上最大の人物とされるホセ・マルティの巨大な霊廟のすぐ横にある。

 遺骨を納めた小さな棺は、ラウール・カストロ国家評議会議長の手で、墓の中央にある穴に納められた。議長からは、すすり泣きの声が聞かれた。その穴は、青みがかった大理石の石板で塞がれた。石板には金色の文字で「フィデル」とだけ書かれている。

 墓の右横には、オベリスク状の石柱に、フィデルが2000年5月1日に表明した「革命の概念」の文字が刻まれている。「概念」には、謙虚、正直、愛他主義などが盛り込まれている。

 式典には、ダリア・ソトデルバージェ夫人、息子たちをはじめとする遺族、外国人招待客約40人、クーバ共産党・政府・軍の指導部などが参列。国歌が流され、弔砲21発が轟いた。

 来賓にはベネスエラ、ニカラグア、ボリビアの大統領、ブラジルの前・元大統領、コンゴ、エティオピア、マルチニック島の要人、フランス環境相、亜国元蹴球選手ディエゴ・マラドーナらが含まれていた。

 一方、フィデルが生前、支援を惜しまなかったクーバ国立バレエ団のアリシア・アロンソ団長(間もなく96歳)は3日ハバナで、「フィデルのことを語りたくない。涙が出てくるから」と語った。アリシアはフィデルの死を受けて、フィデルに感謝する声明を発表している。

【アリシア・アロンソのバレエ人生を描いた2015年の映画『ホライズン』(水平線)は現在、東京都写真美術館ホール(電話03-3280-0099)などで上映中。】

▼ラ米短信  ◎ベネスエラが新紙幣発行

 ベネスエラ中央銀行は12月4日、通貨ボリーバル・フエルテ(Bf)の500、1000、5000、1万、2万Bfの新紙幣を15日から流通させる、と発表した。併せて10、50、100Bfの新硬貨も流通する。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は今月2日、右翼政財界と在米勢力がハッカー攻撃をかけベネスエラの銀行など金融機関を麻痺させる経済戦争に出て、通貨流通が疎外されている、と表明。新紙幣・硬貨発行に触れていた。

2016年12月4日日曜日

サンティアゴ市でフィデル・カストロ氏の告別式挙行

 故フィデル・カストロ氏の告別式が12月3日、サンティアゴデクーバ市のアントニオ・マセオ広場で挙行された。実弟のラウール・カストロ国家評議会議長(85)が演説。「我々は、クーバ人民の愛国的信念、規律、成熟に支えられて、祖国と社会主義を防衛することを誓う。何百万人ものクーバ人民が、革命の指導者(フィデル)の思想的継承者として革命体制維持のため署名した」と強調した。

 議長はまた、「モンカーダ兵営襲撃、グランマ号遠征、独裁打倒の革命、ヒロン浜侵攻攻撃、識字教育、社会主義革命宣言、ミサイル危機克服、アンゴラ戦争勝利などを彼(フィデル)は成し遂げた」と指摘。

 「ソ連消滅後は平時の特別機関、GDP34・8%縮小、長期長時間停電などに耐えた。敵(米国)の間近で、これだけ抵抗できる人民は稀だ」と続け、「これまでいかなる障害をも克服してきたように、今後も克服する」と述べた。最後は「勝利まで(アスタ・ラ・ビクトリア)」と叫び、群衆が「必ず(シエンプレ)」と呼応、演説は終わった。

 告別式にはサンティアゴ市民30万人、共産党・政府・軍部高官らのほか、来賓としてベネスエラのニコラース・マドゥーロ、ニカラグアのダニエル・オイルテガ、ボリビアのエボ・モラレスの3大統領、ブラジルのルーラ元大統領とヂウマ・ルセフ前大統領、亜国元蹴球選手ディエゴ・マラドーナらが参列した。

 モラレスは地元メディアに、「我々は皆フィデルであり、チャベスである。彼らは祖国と、大なる祖国(ラ米)のために闘った」と語った。ルーラは「フィデルは現代ラ米最大の人物だった」、ヂウマは「公平な社会建設と、ラ米統合を目指した現代最大の政治家の一人だった」と、それぞれ述べた。

 この日、人民権力全国会議(国会)は、フィデルの遺言により、フィデルの銅像建設、道路への命名など個人崇拝に繋がる一切を禁止すると発表した。

 一方、米次期大統領ドナルド・トランプは2日、個人メディアで、「クーバが私とよりよい合意を結ばなければ外交関係を断つ」旨のメンサヘ(メッセージ)を発した。彼の補佐は、トランプの対玖優先課題として「政治囚釈放、在玖米人逃亡犯身柄引渡、政治と宗教の自由」を挙げた。

▼ラ米短信  ◎ボリビア娘がモラレス大統領暗殺を企て?

 ボリビア内務省は12月3日、17歳のボリビア人女性がラパスの米大使館宛ての電郵(eメイル)で、自身と家族の政治亡命を認めてくれればエボ・モラレス大統領を殺害する用意があると伝えていたことが、米大使館からの通報で明らかになった、と発表した。

 当局は、既に17歳の女性と両親を特定。その女性の電郵から発信されたのか、それとも他人が彼女の電郵を利用したのかを含め捜査中。大統領は、フィデル・カストロ氏の告別式出席のため、サンティアゴデクーバ滞在中。

 因みに、伯サッカーチーム「シャペコエンセ」を乗せてこのほどコロンビアで墜落したボリビアLAMIA航空旅客機と同じ機体に、モラレス大統領が11月15日、ボリビア・ベニ州内で搭乗していたことが分かった。 

2016年12月3日土曜日

フィデル・カストロ氏の遺骨、故郷オルギン州を通過

 フィデル・カストロ以下82人のゲリラ戦士を乗せたクルーザー「グランマ号」がクーバ島東部の海岸に到着、革命戦争が始まってから12月2日で丸60年。この日はクーバ革命軍創立記念日になっているが、同日フィデルの遺骨を展示行脚中の車列は、オルギン州都オルギンを通過した。

 同市から50km離れた同州内のビラーン村にはフィデルの復元された生家があるが、車列は同村は通過しなかった。私生活面を表に出すのを極度に嫌っていたフィデルの意向を、実弟ラウール議長が汲んだのだ。

 車列は11月30日ハバナを出発してからマタンサス、サンタクラーラ、シエンフエゴスなどを回ったが、サンタクラーラ市入口にあるチェ・ゲバラ広場を通過した際、「両雄が再会した」とテレビアナウンサーは伝えた。車列は3日サンティアゴデクーバ市に到着、アントニオ・マセオ革命広場で告別式が挙行され、遺骨は4日埋葬される。

 ボリビアのエボ・モラエス大統領は2日、同国コチャバンバ州内で開かれている第2回世界反帝国主義青年会議の開会式で演説、3日のサンティアゴデクーバでの告別式にラウール議長から招待されており、参列すると述べた。同大統領は11月29日のハバナでの国葬にも参列している。

▼ラ米短信  ◎FARCにも医療保険適用へ

 コロンビア政府は12月2日、武装解除し社会復帰するFARCゲリラ要員は、集結地で国連機関に登録すれば医療保険の恩恵に与かることができる、と明らかにした。この措置は11月30日に遡って適用される。

▼ラ米短信  ◎ウルグアイ政府が、ベネスエラは依然メルコスール加盟国と言明

 ウルグアイのホセ・カンセラ副外相は12月2日、ベネスエラは投票権はないが発言権はあるメルコスール加盟国だ、と述べた。副外相はまた、このウルグアイの立場は、他の加盟国(ブラジル、亜国、パラグアイ)と異なる、と指摘した。

 同3国は、いずれも保守・右翼政権化にあり、マドゥーロ左翼政権のベネスエラをメルコスールから追放しようとしている。

 カンセラ副外相は、ベネスエラは加盟国が批准すべきメルコスール規定1159項目のうち931に承認加盟しているが、228項目に依然加盟していない、と明らかにした。

 ベネスエラ政府は、同228項目のうち117項目は承認できないと通告している。その中には、マドゥーロ政権への揺さぶり工作に応用されうる「人権規定」も含まれている。

 ブラジルなど3国は、117項目への不参加を理由にベネスエラの加盟資格停止を強行。さらに追放しようと工作している。


2016年12月2日金曜日

南米のメルコスールがベネズエラを資格停止に

 南米の関税同盟、南部共同市場(メルコスール)は12月1日、ベネスエラに資格停止処分を通告した。理由を、同国が「メルコスールが定めた域内条約・規定の30%以下しか批准していない」ことと説明している。

 原加盟国アルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラグアイ4国は14日、モンテビデオのメルコスール本部で外相会議を開き、ベネスエラの資格停止について正式に決定する。

 これに対し、ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は、「既に92%批准した」と主張。デルシー・ロドリゲス外相は、3国同盟(亜国、ブラジル、パラグアイ)の反ベネスエラ工作を許さないと糾弾した。

 ウルグアイについては、同国とベネスエラは18日、ベネスエラの加盟資格を「投票権なし・発言権あり」とすることで合意していた、、と明らかにした。だが3国はベネスエラ追放さえ視野に入れている。

 亜国では昨年12月、マクリ保守・右翼政権が発足、ベネスエラでも同月の国会議員選挙で保守・右翼野党連合が圧勝、今年1月から野党が支配する国会となってきた。

 またブラジルでは今年8月末、ヂウマ・ルセフ大統領が正当な理由に欠ける弾劾裁判で解任され、腐敗にまみれた保守のテメル政権が発足した。

 パラグアイは、80年代末までのストロエスネル長期独裁の流れを汲むカルテス保守・右翼政権の下にある。ウルグアイだけは、左翼連合「拡大戦線」のバスケス政権下にある。

 ベネスエラが3国同盟と形容する3国は、マドゥーロ政権打倒を目指す米政府およびベネスエラ国会と連動、メルコスール加盟資格停止という強圧処分で同政権揺さぶりに加担している。

 ベネスエラは今年7月から半年間、メルコスールの輪番制議長になるはずだったが、特にパラグアイとブラジルの反対で議長就任を阻止された。

 トゥランプ次期米政権はベネスエラに対し厳しい政策をとるものと見込まれており、それにメルコスールは同調する形となる。
 

2016年12月1日木曜日

フィデル・カストロ氏の遺骨が東部行脚に出発

 小さな棺に納められたフィデル・カストロ前議長の遺骨は11月30日、国防省でガラス箱に入れられ、特製霊柩車の荷台に乗せられた。この霊柩車を含む7台の車列がハバナ市内を行進、沿道で無数の市民が棺に別れを告げた。先頭車にはラウール・カストロ議長が乗っている。

 車列は午後、マタンサス州カルデナスに到着、夜、サンタクラーラ市に着く。12月3日、サンティアゴデクーバ市のアントニオ・マセオ革命広場で30万人が参列する人民告別式が挙行され、4日埋葬される。ハバナは小一週間ぶりに平常に戻った。

▼ラ米短信  ◎コロンビア和平合意を国会が承認

 コロンビア国会上院は11月29日、政府とFARCとの内戦和平最終合意を賛成75、反対0で可決、承認した。和平に反対する右翼政党は事前に退場、不参加だった。

 下院も30日、賛成130、反対0で承認した。右翼政党は退場し、不参加だった。国民票に代わる国会の承認で、和平合意は実施に移される段階を迎えた。

 アルバロ・ウリーベ前大統領が率いる保守・右翼勢力は、和平合意にウリーベを含む政府現・元高官の内戦責任の免除が盛り込まれているにも拘わらず、和平に反対している。

 JMサントス大統領は1日、FARCは12月1日から31日の間に国内23カ所の指定地域に集結、150日以内に武装解除される、と語った。サントスはまた、国会に来週、和平関連法制案を提出つると明らかにした。その時期は、同大統領のノーベル平和賞受賞式と重なる。

 一方、政府と、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)は和平交渉を来年1月10日再開することで29日合意した。 

2016年11月30日水曜日

フィデル・カストロ前議長のハバナでの国葬終わる

 クーバ革命の最高指導者だった故フィデル・カストロ前国家評議会議長の葬儀が11月29日、ハバナの革命広場で執り行われた。広場に面したホセ・マルティ記念館に安置された遺骨の前を、クーバ市民とともに来賓たちが通過した。

 実弟ラウール・カストロ現議長(85)が、ミゲル・ディアスカネル第1副議長、ホセ=ラモーン・マチャード副議長(共産党第2書記)、ラミーロ・バルデス革命司令官(副議長)と共に、遺骨を納めた小さな棺の両側に立つ「グアルディア」(警護)を最後に務めた。

 夜になってから革命広場を埋めた数十万人の市民を前に人民葬が催された。ラ米・カリブ諸国からベネスエラ、ボリビア、エクアドール、コロンビア、メヒコ、ニカラグア、エル・サルバドール、オンドゥーラス、パナマ、ドミニカ共和国、スリナムの11カ国大統領、ウルグアイ副大統領、ホセ・ムヒーカ同国前大統領、ジャマイカ、バハマ、ドミニカ、セントルシーア、アンティグア・バーブーダ、セントヴィンセント・グラナディーンの6カ国首相が参列した。

 フィデルがクーバ軍や軍事顧問を派遣したアフリカからは南アフリカ、ナミビア、ジンバブウェ、赤道ギネア、カボヴェルデ、ウガンダの6カ国大統領、アルジェリア国家評議会議長が出席。欧州からはギリシャ首相、ロシア下院議長、スペイン前国王ら。アジアからはイラン副大統領、中国副主席、ヴェトナム国会議長らが参列。

 米国からは、大統領顧問ベン・ローズ、ジェフリー・デローレンティス駐玖大使。このほか多くの国から外相、特使、大使らが参列した。日本からは古屋日玖友好議員連盟会長が出席した。

 各国首脳が順次、短く演説。エクアドールのラファエル・コレア大統領は、「フィデルは無敵だったが、寿命にだけ敗れた。生きた時代に名誉を与えて死んだ。信念の人フィデルは信念をクーバ人民と大なる祖国(ラ米)に植え付けた。たぶん強風がラ米を見舞うかもしれない。ラ米は団結せねばならない」と強調した。

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は、「フィデル、あなたの業績は世界人民を永遠に照らす灯台だ。革命遂行を誓い、勝利の道を歩み続ける」と語った。

 ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領は、「フィデル、どこに居る?」と大群衆に問いかけた。群衆が一斉に「ここに居る」と応えると、「彼は逝かない、無敵のまま居続ける。祖国の偉大な歴史によって絶対に無罪を宣告された」と続けた。モンカーダ兵営襲撃後の裁判でフィデルが展開した自己弁護の締めくくりの言葉「歴史は私に無罪を宣告するだろう」を踏まえている。

 ギリシャのアレクシス・チプラス首相は、「フィデルは、社会変革が恒久的な闘争であることを教えてくれた」と前置きし、「我々もまた、新自由主義の市場法則という圧政と闘わねばならなかった」と述べた。

 最後にラウール議長が謝辞を述べ、語った。「世界中から数え切れないほどの連帯を受けた。フィデルは貧者の貧者による貧者のための社会主義革命を指導した。その革命は反植民地主義、反アパルトヘイト、反帝国主義、人民の解放と尊厳のための戦いの象徴となった。彼の言葉はきょうこの革命広場で響きわたっている」。

 「遺骨の前で、あなたの不朽の模範に従い続けることを誓う。愛するフィデル、今ここに国家の英雄ホセ・マルティ像と共にあるが、この場所に半世紀以上に亘って、並はずれた苦難の日々に集い合い、重大な決定に際して人民に諮問した。私たちが勝利を記念したこの場所で、殉死者、戦士、英雄的人民と共に<勝利の日まで必ず>と叫ぶ」。

 (1960年代からマイアミで亡命生活を送っているカストロ兄弟の妹フアーナ・カストロは、「私たちは政治的理由で離ればなれになったが、肉親としての感情は続いている。妹として兄の死を悼んでいる」と、マイアミで語った。)

 遺骨は30日、東部のサンティアゴデクーバ市まで約1000kmの葬送キャラバンの旅に出た。1959年1月、革命戦争に勝ったフィデルがハバナまで1週間かけて凱旋演説をしながら辿った道を逆に進むのだ。

 12月3日、同市内のアントニオ・マセオ革命広場で告別式が挙行され、4日、遺骨は埋葬される。 

ハイチ大統領選挙の暫定結果判明、Jモイーズ当確

 アイチ(ハイチ)暫定選挙理事会(CEP)は11月28日、今月20日実施の大統領選挙の暫定開票結果を発表。ミシェル・マリテリー前大統領の政権党だった「テトゥカレ・アイチ党」(PHTK)の候補ジュヴネル・モイーズ(48)=バナナ業者=が得票率55・67%で当確となった。モイーズは、国民に大同団結を呼び掛けた。

 「テトゥカレ」とは、禿げ頭を意味。スキンヘッドのマルテリー前大統領が自ら政党名にした。

 この選挙には27人が出馬。モイーズに続く有力候補は3人で、野党「進歩・ハイチ人解放代替連盟」(LAPEH)のジュディ・セレスタン(54)は19・52%に留まっている。セレスタンは29日、「でっちあげだ」として、開票結果を認めないと述べた。

 3位は、「デサランの子供たち綱領」のモイーズ・ジャンシャルル(49)で、11・04%。やはり結果を認めないと語った。4位は、かつてのジャンベルトゥラン・アリスティド大統領の政権党だった「ラバラス家族党」のマリース・ジャンシャルル(女医)で、8・99%。彼女も「選挙クーデターだ。支配層が勝利を略奪した」と、結果を認めない。

 CEPは理事9人で構成されているが、うち3人は、暫定結果を示す書類に署名しなかった。CEPは12月29日、最終公式結果を発表する予定。米州諸国機構(OEA)の選挙監視団は29日、暫定結果は概ねOEA集計と符合すると明らかにした。

 ハイチでは昨年10月、マルテリー大統領の後継者を決める大統領選挙を実施。モイーズとセレスタンが1、2位になり、決選に進出することになったが、モイーズ陣営の大規模な不正が発覚、決選は延期されたものの、結局無効とされ、今回の出直し選挙となった。

 マルテリーは今年2月任期を終え、上院議長だったジョスレム・プリヴェール暫定大統領の下で選挙が実施された。

2016年11月29日火曜日

ブラジル野党がテメル大統領弾劾を国会に要求

 ブラジルの野党「社会主義と自由の党」(PSOL)は11月28日、国会下院のロドリーゴ・マイア議長に、ミシェル・テメル大統領を弾劾裁判にかける手続きを開始するよう正式に要求した。理由は、私的事項に権限を行使したこと。

 大統領の側近で大統領府長官だったジェデル・ヴィエイラ=リマは25日、バイーア州内に持つ不動産に関する私的案件を処理するため、文化省管轄下にある歴史文化財庁(IPHAN)に圧力をかけたことが暴露され、辞任した。マルセロ・カレーロ前文化相が、リマの発言を録音、これを証拠として提示していた。

 カレーロはまた、同じ案件でテメル大統領も圧力をかけたと暴露、大統領発言を録音していたことを明らかにした。PSOLはこれを受けて、弾劾裁判を下院議長に要請した。受理したマイア議長は、「根拠がない」と述べており、弾劾裁判には否定的だ。

 ヂウマ・ルセフ前大統領の政権党だった労働者党(PT)も、テメルに辞任を要求している。テメルは、ルセフを強引に弾劾に持ち込んだ守旧派の筆頭で、テメル政権は正統性に欠けている。

 一方、国営石油会社ペトロブラスの巨額の汚職事件に関与、収賄した下院議員たちは24日、お手盛り恩赦法案を採択しようとしたが、テメルが27日、腐敗事件のお手盛り恩赦は許さないと言明。法が成立しても拒否権を行使すると述べた。だが当のテメルにも、ペトロブラス絡みの巨額収賄嫌疑がかけられている。

 ルセフ前大統領は、過去には弾劾条件にならなかった決算処理を理由に弾劾された。テメルの影響力行使は重大な逸脱だ。テメルは深刻な事態に陥ったが、現状ではマイア議長が弾劾裁判手続き開始に踏み切る可能性は乏しい。

 因みに、クチンスキ・ペルー政権のマリアーノ・ゴンサレス国防相は28日、愛人を月給4600ドルの顧問に採用していたことが醜聞事件となって辞任に追い込まれた。
 
 
 

~~波路遥かに2016年10~11月~第7回メキシコ・ハワイ~~

 グアテマラのケッツァール港を出て中2日、「コロンビア内戦の和平合意」と「メヒコ壁画運動と壁画家たち」を話す。マンサニージョ港に着く前の日、音楽番組でメヒコの歌を流した。ゲストには、船上講師仲間のパブロとマルタ=エレーナのメヒコ人夫妻を招き、最後に別れの曲「ラ・ゴロンドゥリーナ」をかけた。2人は感涙を吹きながら、客席に別れを告げた。

 元カトリック司祭、現在、大学教授のパブロ・ロモは、1994年のサパティスタ蜂起後、この武装人民組織とメヒコ政府の和平仲介という困難な工作に従事した。いまも国内の武力紛争などで仲介作業をしている。

 「世界化(ムンディアリサシオン)と全球化(グロバリサシオン)」の講演は面白かった。「もう一つのよりよい世界」を創るのを目指すのが世界化、弱肉強食の資本主義深化を狙うのが全球化という構図だ。

 マルタ=エレーナは現代舞踊家。創作舞踊が得意で、どんなテーマでも、自ら振付け、踊ってしまう。2人はアテネのピレウス港から船客として乗り、パナマを出てからメヒコまでの講師になった。連日、乾杯し語り合った。

 その間、ニカラグア大統領選挙があり、現職のダニエル・オルテガが難なく連続3選を果たした。来年1月就任すれば、80年代と合わせて通算4期目となる。ソモサ家父子3代の長期独裁を1979年の革命で倒したオルテガは今、「長期一族支配」を批判されている。今回当選した次期副大統領は、オルテガ夫人ロサリオ・ムリージョなのだ。

 オルテガ夫妻の長期支配の野心には、建設作業を開始してしまった「ニカラグア大運河」を何としても完成させるという夫妻の意地が込められている。

 マンサニージョのシンボルは巨大な青色のカジキマグロの造形だ。その舞台で日本側の博多祇園太鼓、沖縄エイサーと、メヒコ側の民俗舞踊が披露された。パブロ夫妻と、実君らスペイン語通訳3人はここで下船した。「別れは悲しいけれど、別れなければ会う時が来ない」の言葉を贈った。

 この日、米大統領選挙が実施された。その結果は9日未明、船に届いた。その日の夜、PB職員が手分けして収集した英語と日本語の情報を基に、私は「緊急報告会」を開いた。ブロードウェイの大広間は超満員となった。誰もがヒラリーの勝利を信じていたところ、トランプがまさかの当確を果たしたからだ。

 その後、「太平洋とはどんな海か」2回続き、歴史、日本人移民史、日米開戦、戦後関係、文化など「ハワイ」2回続きを講演した。また、性的少数派、非差別部落出身者、混血日本人など日本の少数派代表を壇上に招いて、討論会を催した。「船内9条の会」の「思いやり予算」についての会合には、招かれて出席、意見を述べた。

 ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒーカの「清貧なる生き方」を語ってほしいと頼まれては、今年4月来日したムヒーカを東京で取材したことや、ウルグアイ現代史を踏まえて語った。これまた超満員で、ムヒーカ人気の高さが窺えた。

 船客の中にいる沖縄出身の若者たちは「沖縄の日」を企画した。彼らに乞われて、軍事基地問題について壇上討論会を催した。沖縄の若者男女が自ら設問し自ら回答する自問自答を通じ、自身と沖縄共同体を分析し掘り下げた。私は音楽番組で、喜納昌吉、海勢頭豊、嘉手刈林昌(「刈」は草冠付き)、上条恒彦の歌う沖縄の歌を流した。

 ホノルル前日には、パブロ・ネルーダ朗読会を開いた。わずか3回の読み合わせだったが、スペイン人1人を含む14人は情熱をこめて読んでくれた。俳優志望の若者が男女一人ずついて、この二人が中心になってくれた。詩を朗読する文化は、こうして少しずつ拡がってゆく。

 ホノルルに着いた。2年半ぶりだ。私は港の近くを少し散歩しただけで下船、空港に向かい、羽田空港行きのJAL機に乗った。船上講師はマンサンニージョから乗った若手のテンダー君(小崎悠太)だけになった。闘う自然生活者テンダーとは、1年前の航海でタヒチ-横浜間でも一緒だった。 後は彼に託した。

 11月18日夜、東京に帰還する。寒くなかったので助かった。これで今回の「波路遥かに」は終わった。オーシャン・ドゥリーム号は今日11月29日昼、横浜港大桟橋に帰港、30日神戸港に着いて第92回航海を終える。
  

岸田外相がキューバ大使館を弔問

 11月25日死去したフィデル・カストロ前議長への弔問は在京クーバ大使館で27日~12月4日行われており、28日、岸田外相が訪れた。同外相は昨年の訪玖時にフィデル邸に招かれ、会談している。

 岸田氏はミゲル・ペレイラ大使と、来日中のロドリーゴ・マルミエルカ通商・投資相に迎えられた。この日午後、外務省で岸田・マルミエルカ会談があり、経済関係拡大について話し合った。

 クーバの国喪は26日~12月4日で、28日、フィデルの遺骨はハバナ市内の革命広場にあるホセ・マルティ記念館に安置され、弔問を受けている。29日には同広場で人民葬が執り行われる。

 遺骨は30日、国内各地巡回に出発、12月3日サンティアゴデクーバに到着。アントニオ・マセオ広場で告別式が催され、4日、聖母イフィヘニア墓地に埋葬される。

 国葬にはベネスエラ、ボリビア、ニカラグア、エクアドールの4カ国大統領、フアン=カルロス前スペイン国王のほか、ギリシャ首相、ロシア下院議長らの参列が決まっている。

 一方、28日、アメリカン航空マイアミ-ハバナ定期便の運航が開始され、一番機がハバナに到着した。米ブルージェット航空NY-ハバナ定期便も始まり、同じく一番機が」到着。デルタ航空定期便は12月1日就航する。

2016年11月28日月曜日

メキシコ人学生43人失踪事件から26ヶ月

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きたアヨツィナパ教員養成学校生43人強制失踪事件および市民殺害事件から11月26日で26カ月が過ぎた。事件は未解明のままだ。

 この日、遺族、家族、学生、市民、人権団体などの300人はイグアラ市内を行進。検察庁支部、州政府支庁、州教育当局などに抗議した。

 首都メヒコ市でも遺族、学生らが「アヨツィナパ記憶行進」と銘打って目抜き通りを行進。「中米行方不明者の母たちの会」の母たちと抱擁し合い、励まし合った。

 特にグアテマラ、オンドゥーラス、エル・サルバドールの中米北部三角形3国から、米国行きを目指して何万人もの少年少女がメヒコに入り、行方不明になる。母たちは娘や息子を探しにメヒコにやってきて、当局に捜査や捜索を求めているのだ。

 学生、教員、知識人らは12月10日、アヨツィナパ校で人権擁護をめぐるフォーラムを開くことにしている。

 また遺族や支援者は11月23日には、首都にある国会下院を訪れ、事件解明を急ぐようあらためて要請した。ある遺族は、「政府は私たちを黙らせるため何百万ペソの現金で買収しようとしてきた。私たちは、人民が支援してくれる浄財1ペソを選ぶ」と語った。

 事件には陸軍、連邦警察など中央政府機関の関与の疑いが濃厚で、それが証明されれば、エンリケ・ペニャ=ニエト大統領には命取りになる。だから事件は解明されない、と世論は厳しく観ている。

~~波路遥かに2016年10~11月~第6回ジャマイカ-パナマ-グアテマラ~~

 ジャマイカは北西端の観光地モンテゴベイに入港する。秋田県とほぼ同じ面積の島国で、対角線つまり南東端に首都キングストンがある。首都はいろいろな意味で面白いが、保養地は、それを楽しむつもりのない者にはつまらない。

 記者時代から何度も来ている所、特に取材上の興味はない。今回は船内生活でなまりがちの足腰を鍛えるため、港から中心部まで5kmの海岸通りを1時間余りかけてゆっくりと歩いた。

 海浜のディスコテカはレゲエの踊り場で、ビールやラム酒を飲みながら何時間も踊り続ける。汗をかけば、海につかる。売店では、ブルーマウンテンコーヒーやラム酒を売っている。

 武者爺と羽後さんは下船した。カナダ西部で過ごしてから帰国するとのこと。夜出港、パナマ運河北岸(カリブ海)のコロン市クリストーバル港に着くまでの中一日には、パナマ史とパナマ運河史を語った。

 クリストーバル港に入港。11月に入った。 ジャマイカで乗った草緑色の小鳥は、運河通航中に密林に消えた。また移民鳥が出た。

 クリストーバル・コロンの姓名をクリストーンバル港とコロン市の名前に分けて使っている。太平洋岸に最初に到達したスペイン人の名前バルボアは、パナマ市の港名とパナマ通貨の名となっている。

 パナマは6月に来て取材したばかりなので、港構内で休養した。夕刻、友人ワゴと何年振りかで再会した。クナ民族で、モラの専門家だ。たまに乗船し、モラを語ることがある。

 翌日、早朝から運河を通航する。運河入口の東側に6月開通したばかりの運河第3水路入口が見えた。通航中、時折、第3水路を通航中の巨大コンテナ船のコンテナの山が密林の上をゆっくりと動くのが見える。旧来の運河は10回は通った。一度、第3水路を通航してみたいものだ。

 パナマ市のバルボア港を横に観て太平洋に出る時、東方の彼方にパナマ市新都心の高層ビル群のスカイラインが見える。「パナマ文書」事件の中心となっている弁護士事務所は、そこにある。

 運河を出て中2日で、グアテマラのケッツァール港に着く。これに備え、グアテマラ史を講義した。同港1日目は、乗り合いタクシーで行ったアンティグア市で独りのんびり過ごした。4年ぶりだった。いつ来ても思うのだが、半世紀前とほとんど変わらない風情だ。

 2日目は資料整理に当てた。船の陰に群がる魚たちは飢えている。大きな魚が小魚を追いまわし、食べてしまう。束の間ながら共食いを止めさせようと、パンくずをやった。船はメヒコのマンサニージョ港を目指す。

2016年11月27日日曜日

フィデル・カストロ前議長の遺骨は12月4日埋葬へ

 クーバ政府は11月26日、前夜死去したフィデル・カストロ前国家評議会議長の国葬日程を発表した。フィデルの遺言により、遺体は火葬する。26日から12月4日までの9日間を国喪に服す。28日から2日間、ハバナの革命広場にあるホセ・マルティ記念館に遺骨は安置され、人民の弔問を受ける。

 30日、遺骨は国内を東部に向けて移動、12月3日サンティアゴデクーバのアントニオ・マセオ広場で告別式が挙行される。4日、同市内の聖母イフィヘニア墓地に埋葬される。この墓地にはホセ・マルティ廟や、革命の戦いで死去した殉死者ら英雄たちの墓がある。葬儀委員会は、ラウール・カストロ議長以下、革命体制の最高指導部で構成されるもよう。

 サンティアゴ市は歴史的に反逆者や革命家が生まれた地であり、フィデルの生まれ故郷や、フィデルが革命戦争の指揮を執ったマエストラ山脈に近い。

 フィデルは8月13日、90歳となり、その後、イラン、ポルトガル、日本(安倍首相)、中国、アルジェリアの首脳を自邸に迎えた。最後に面談した外国首脳は、11月15日のヴェトナム元首だった。

 世界中から弔意が寄せられている。ラ米関係を挙げれば、最重要同盟国ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は、「フィデルは任務を完遂した。安らかに平和に飛び去ってください。私たちはあなたとチャベスの旗印の下で尊厳と自由を人民のために取り戻す任務を遂行してゆく」と述べた。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は、「フィデルへの最良の敬意表明は、世界人民の団結を図ること。彼が帝国主義と資本主義に抵抗しことは決して忘れない」。エクアドールのラファエル・コレア大統領は、「巨人が逝ってしまった。フィデルは、もう一つのよりよい世界が可能なことを示した。大なる祖国を築くことこそが最良の敬意表明となる」。

 ニカラグアのダニエル・オルテガ大統領はクーバに連帯し、9日間の国喪を宣言。「フィデルはクーバ革命を指導しただけでなく、クーバに留まることなく、世界各地で約束を果たすべく、諸国人民の解放に尽力した」と強調した。1979年7月オルテガらが勝利したニカラグア・サンディニスタ革命を支援したのもフィデルだった。

 ホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領は、「フィデルは時代の息子だった。キホーテ(ドン・キホーテ)級の大きな存在だった。世界最大の強国と対峙しつつ、長らく歴史を生きたからだ。当時(米帝国に対し)勇気、決意、抵抗力を持つことは並大抵のことではなかった」。

 コロンビアのゲリラ組織FARCのロドリーゴ・ロンドーニョ最高司令は、「フィデルは常にコロンビア内戦を政治的に解決するよう働きかけてくれた。新最終和平合意は最良の敬意表明となるだろう。フィデルの最後の呼び掛けである<人類は自殺しつつあり、道を正さねばならない。地球上で人類という種の生存を保障する方式を探らねばならな>の言葉を抱き続けたい」。
 
 
 

2016年11月26日土曜日

★★★★★革命家フィデル・カストロ(90歳)が死去

 20世紀ラ米最重要の出来事と位置付けられるクーバ革命を1959年元日なし遂げ、革命体制を半世紀に亘って率いたフィデル・カストロ=ルス(90)が11月25日夜(日本時間26日昼過ぎ)死去した。実弟ラウール・カストロ国家評議会議長(85)がテレビを通じ、沈痛な面持ちで発表した。国葬の日程については26日朝、明らかにされる。

 フィデルは、人間味とカリスマあふれる熱血の革命家であると同時に、権謀術数に長けたずるがしこい政治家だった。1956年12月から59年元日までの革命戦争中から1976年の社会主義憲法制定までの長い期間、さまざまな権力闘争で政敵を次々に失脚させ、権力を固めた。最大援助源だったソ連の言いなりにもならなかった。

 1989年の天安門事件で中国の社会主義体制がぐらつくと、フィデルはアンゴラ覇権クーバ軍の現地司令官で、人気の高い英雄だったアルナルド・オチョア陸軍中将ら軍と内務省の高官4人を「麻薬取引に関与した」として、国家反逆罪で裁き、銃殺刑に処した。

 これは、当時、米政府からかけられていた「カストロ指導部の麻薬取引関与」疑惑を打ち払い、併せて、国内の反体制派を沈黙させる冷酷な荒療治だった。

 フィデルの泣き所は経済建設だった。それに成功したことは一度もなく、ラウールが陰でしりぬぐいし、辛くも国家経済を支えていた。ソ連消滅で経済がどん底状態に陥った90年代、カストロ兄弟は、米政府の体制打倒圧力を撥ね退け、台頭した国内反体制派を厳しく弾圧して、21世紀に革命体制を延命させた。

 しかしフィデルは2006年7月、大腸癌と指摘された重病で倒れ、ラウールら集団指導部に実権を委譲、08年2月、正式にラウールが実権を握った。破綻した台所事情を誰よりも知るラウールは、11年の第6回クーバ共産党大会で市場原理を正式に導入。今年の第7回党大会では、新しい「クーバ経済社会モデル」の構築に着手した。

 その間、12年7月から極秘裏に対米関係正常化交渉に入り、14年12月、正常化で合意。15年7月、玖米両国は54年半ぶりに国交を復活させた。米国と敵対的関係を続けたのでは経済建設が困難ないし不可能になると見るラウールは、積極的に正常化深化に努めてきた。

 そんな矢先、今月8日の米大統領選挙でクーバに厳しい姿勢を見せるドナルド・トランプが当選した。正常化深化の目論見が狂ったラウールは、来年1月20日発足するトランプ政権との厳しい対峙関係を覚悟、国防を含め、対策を準備している。

 国父フィデルは、ラウールにとって外交政策の最大の御意見番だった。その死は、大きな痛手だ。内外の反体制派は勢いづくだろう。

 一方、フィデルとクーバ革命が1960年代以降、世界に残した「革命的遺産」は大きい。国際社会の変革可能性を証明したのがクーバ革命だった。アンゴラ独立を守り、ナミビアを独立させ、南アフリカの人種差別体制を崩壊に導いたのもクーバ軍だった。

 学生時代の1962年からクーバ情勢とフィデルの言動を見守ってき、フィデルにあちこちで会う機会のあった私は、大きく深い感慨をもって、フィデルの死をいま迎えている。

 (私の16年生きた雄の愛猫<玉二毛=たまにけ>も、フィデルに先立ち26日未明、死んでいった。日本時間でフィデルと同じ日である。)  

2016年11月25日金曜日

~~波路遥かに2016年10~11月~第5回バハマ-キューバ~~

 船はNYからバハマの首都ナッソーに着いた。NYでヤンキーの雀2羽が乗船、甲板レストランのパンくずを盛んについばんでいたが、ナッソーでうち1羽が港に近い椰子の林に飛んで行った。渡り鳥ならぬ移住鳥はこうして生まれる!

 だが1羽は船内に残った。どこまで同道するのだろう。日本の入管を通るだろうか? 気になって仕方がない。バハマに着くまでの中2日間は、バハマ史を講義し、さらにクーバ訪問に備え、国交再開に至る玖米関係を話した。

 ナッソーはラ米・カリブ33カ国の中で、一人当たり所得が一番高い。だが観光とオフショー金融で持っている。いずれも他力本願の産業であり、長年これに頼っていれば、自力更生、自助の精神は弱まってしまう。外資と外国人観光客の遊びの楽園、投資家や富裕層の脱税天国と批判されてきた。

 クリストーバル・コロン(コロンブブス)は1492年10月12日、バハマ諸島のある島に漂着、その島をサンサルバドール島と名付けた。ナッソーの政府庁舎の前には小さなコロン像がある。

 政府関係機関をはじめ3権の施設はみな、壁が桃色に塗られていて、わかりやすい。熱帯の島なのに、役人や護衛らは、真っ黒なスーツで身を固めている。これは、カリブ諸島の流行の一つだ。観光客らは、港近くの酒場に群がり、ラム酒、ビール、ほら貝の厚い肉を食べていた。

 ナッソーからハバナの間の中1日、武者爺と広範なテーマで対談した。学生時代から論文を読み発言を聴いていた知の大家と演壇に並ぶとは、考えたこともなかった。武者爺、羽後さんとは船内酒場で、よく飲み語り合い、閃きを得た。

 ハバナは、自営業者が大きく増え、あちこちで営業していた。外貨に対応する兌換ペソと、安いクーバペソのどちらでも物資を買える店が数多く出来ていた。ラウール政権の、二重通貨統合促進政策の現れだ。一方で、伝統的な配給所では、鶏肉を安く売っていた。渋面の市民たちが黙して順番を待っていた。

 来年封切られる日玖合作映画「エルネスト」の阪本順治監督の補佐を務めたクーバ映画人ロランド・アルミランテには8月東京でインタビューしていたが、再会し、自宅での昼食会に招かれた。面白い談義が展開された。

 その後、星条旗ひらめく米大使館を見てから、海岸通りマレコンを歩き、メイン号爆破事件記念碑の下で、仲睦まじい白人男と黒人女に会った。男性は建設現場で働いているが、資材不足で毎半ドンという。女性は家事手伝い。

 革命広場に行くと言うと、遠いから近道を案内しようと言われ、ハバナリブレホテル、ハバナ大学、コロン墓地を巻いて、広場に行き着くことができた。ここを見ないと、ハバナにいる気分になれないのだ。

 そこからは乗り合いバスで港近くに行った。彼らから生活苦を詳しく聞いた。市場経済原理の正式導入から5年半、市民の間の経済格差は開く一方だ。空腹がたまらないと言う。めったに飲めないというラム酒の大瓶を買い、道案内のお礼に渡した。タクシーとバスは使ったが、ずいぶん歩いた。それなりに取材ができた。

 船内で、1968年の日玖合作映画「キューバの恋人」(黒木和雄監督、津川雅彦主演)を流した。先に、オリヴァー・ストーン監督の「我が友ウーゴ」(2013年)を流したのに次ぎ2本目の映画鑑賞。

 実り多い2日間の滞在だった。国連総会は、米国の対玖経済封鎖解除決議を賛成191、反対無し、棄権2(米国、イスラエル)で可決した。1992年以来連続25回目の可決だが、ずっと反対していた米国(イスラエルも)は初めて棄権した。次の政権に封鎖解除を託したのだ。ハバナは、この「歴史的勝利」に沸いていた。

 それが26日。翌27日には国連総会第1委員会(軍縮)が「核兵器禁止条約」交渉を来年開始するという決議を、賛成123カ国、反対38カ国、棄権16カ国で可決した。唯一の被爆国日本は、米国に同調して反対に回った。ピースボートの反核専門家、川崎哲は国連で怒りの声明を発表した。

 船はジャマイカに向かう。音楽番組でボブ・マーリーの人生とレゲエを紹介。講座ではジャマイカ史を語った。夜半、暴風雨が襲来した。夜が明けると、雀がいなくなっていた。心が痛む。
  

コロンビア政府とFARCが新和平合意書に調印

 コロンビアのJMサントス大統領とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)の最高指導者ロドリーゴ・ロンドーニョ(ティモチェンコ)は11月24日ボゴタ市内のコロン劇場で、内戦終結のための新最終合意書に署名した。大統領は、これを「コロン劇場合意」と名付けた。署名が済むと、和平交渉代表団、国会議員ら800人の来賓は総立ちで拍手し、「やった、やった」と叫んだ。

 最初の合意書は8月まとまり9月26日カルタヘーナで調印されたが、10月2日の国民投票では超僅差で承認されなかった。その直後、サントス大統領はノーベル平和章受賞が決まった。大統領は、その「威光」にも支えられてFARCと再交渉に入った。11月12日ハバナで新合意書がまとまり、この日の調印となった。

 大統領は調印後に演説、「内戦の死者、行方不明者、負傷者、被害者と家族は途方もない苦難を強いられた。内戦は国を暴力の迷路に陥れた。内戦の高く痛ましい負債があるが、我々はこの歴史的機会に内外に向けて、新らしい合意書に署名した」と強調。全政党、全勢力に積極的支持を呼び掛けた。

 大統領が明らかにした日程によると、国会は28日以降、新最終合意書承認の是非を決める。これは国民投票に代わる手続きだ。承認されれば、その5日後、FARCゲリラは国内各地に特定されている集結所に集結。90日後に武装解除を開始、150日後には武装解除が終わる。FARCが保持していた武器はすべて、国連の代理機関であるCELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)に渡される。

 サントスは、「武装解除されたFARCは政党になる。新合意はカルタヘーナ合意よりも優れている」と述べた。

 FARCのロンドーニョ最高司令は署名後、「新合意には全既得権益享受者の意見も反映されている。局外者は誰もいない」と指摘。「人民は暴力と不寛容に飽き飽きしている。屈辱や見せかけの取り繕いでなく、深い変化を求めている。内戦に終止符を打ち、矛盾を文明的市民として解決するため、言語を唯一の武器とする」と語った。

 ロンドーニョはまた、「コロンビアは(1948年の政治家ガイタン暗殺以来)70年、暴力抗争に苛まれ、半世紀に亘って内戦が続き、和へ交渉が33年間も断続的に続いた」と、2012年以来のハバナ和平交渉に至った経緯を振り返った。

 一方、最高裁は24日、元国家諜報機関兼秘密警察(DAS)長官ミゲル・マサ=マルケス退役将軍に、政治家暗殺事件関与の罪で禁錮30年の実刑判決を下した。

 1989年8月18日、ボゴタ郊外のソアチャ市で遊説中、自由党大統領候補ルイス=カルロス・ガランが銃撃され殺害された。事件の黒幕アルベルト・サントフィミオ元下院議員は24年の禁錮刑に服役中だが、マサ=マルケスはサントフィミオから依頼され、麻薬組織メデジンマフィア、警察、極右殺害団と連携、ガラン暗殺を決行した。

 ガランは、人望と人気が高く、次期大統領の最有力候補だった。この大物暗殺(マグニシディオ)は1948年のガイタン暗殺事件の再来と捉えられた。  

 

2016年11月24日木曜日

中国がラテンアメリカ専門記者500人育成へ

 中国の習近平国家主席は11月22日チレを訪問、ミチェル・バチェレー大統領と会談した。両国は、既存の自由貿易協定(FTA)の現代化・深化のための交渉開始趣意書など12の合意文書に調印した。

 主席は、サンティアゴで開かれた「中国・ラ米カリブ報道機関指導者会合」にも出席、向こう5年間に中国人のラ米カリブ地域専門記者500人を育成する、と発表した。

 また、中国に「中国・ラ米カリブ報道交流中心(センター)」を建設し、ラ米カリブ諸国の記者を招く、とも述べた。主席は、リマでのAPEC首脳会議出席後、チレを訪れた。

▼ラ米短信  ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は11月23日カラカスで、ホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテーロ前スペイン首相と会談、「民主連合会議」(MUD、反政府政党連合)と対話を続けてゆくと述べた。サパテーロは、南米諸国連合(ウナスール)派遣の対話仲介使節団の団長格。

 対話は、「和平・法治国家尊重・国家主権」、「真実・正義・犠牲者賠償」、「経済社会・信頼醸成」、「選挙行程」の4議題で10月30日、11月11~12日と2回実施され、次回は12月6日に予定されている。

 政情は、マドゥーロ大統領罷免の是非を問う国民投票実施の請求に必要な反政府勢力の署名の扱いをめぐって紛糾してきた。有権者の1%(約20万人)の署名を審査していた国家選挙理事会(CNE)は10月20日、その署名に不正があったとする地方裁判所の判断を受け、同月26~28日に予定されていた第2回署名運動期間(有権者の20%=約400万人)を延期した。

 これに対しMUDは、圧倒的多数を占める国会で10月25日、大統領弾劾の手続き開始を決議した。しかし最終決定権を持つ最高裁は政府系判事で占められているため、国会による弾劾の実現可能性は乏しい。

 MUDはサパテーロのほか、このほどカラカスを訪れたトーマス・シャノン米国務省政務担当次官補とも会談している。

 一方、デルシー・ロドリゲス外相は11月23日、ベネスエラが加盟する南部共同市場(メルコスール)の加盟資格をめぐって、12月1日までにベネスエラが加盟要件を整えなければベネスエラは投票権を失う、とウルグアイ外相が述べたことに反駁した。また、ベネスエラは投票権だけでなく発言権も持つべきでないと述べたパラグアイ外相をも糾弾した。

 要件には、加盟諸国間の人の自由往来を規定する「域内居留合意」や「人権規定」が含まれている。

2016年11月23日水曜日

LATINA12月号乱反射は「キューバ映画人インタビュー」

◎最近の伊高浩昭執筆記事

★月刊誌LATINA

▼2016年12月号 「ラ米乱反射」連載第128回 「キューバ人は参加型社会主義に懸ける  映画人ロランド・アルミランテ語る」

 阪本順治監督、オダギリジョー主演の日玖合作映画「エルネスト」で監督補を務めたキューバ映画人に東京とハバナでインタビューした。この映画は来年のチェ・ゲバラ歿後50周年直前に封切られる。

書評:『子どもと共に生きる  ペルーの「解放の神学」者が歩んだ道』 アレハンドロ・クシアノビッチ著、五十川大輔編訳、現代企画室 2800円

▼11月号 「ラ米乱反射」連載第127回 「メキシコ人学生43人失踪事件から丸2年  <国家テロ>ゆえ解明しない政府」

 2014年9月23日発生した「アヨツィナパ事件」の経緯と真相を描く

書評:『インディオの気まぐれな魂』 エドゥアルド・ヴィヴェイロス=デ・カストロ著、近藤宏・里見龍樹共訳、水声社、2500円

▼10月号 「ラ米乱反射」連載第126回 「ブラジルに正統性なき政権出現  五輪宴の後、<クーデター>が完成」

 腐敗にまみれた政治屋テメルは早速日本を訪れた。

書評:『サバイバー  池袋の路上から生還した人身取引被害者』 マルセーラ・ロアイサ著、常盤未央子・岩崎由美子共訳、ころから 1800円

★週刊読書人 11月18日号 書評『子どもと共に生きる』(上記)

★週刊金曜日 11月11日号 書評『子どもと共に生きる』(上記)

★NGOレコム機関冊子そんりさ10月29日号(VOL158) 「ラ米百景」連載第60回 「現代に繋がる過去の悲惨な事件」
 70年前にブラジル日系社会で起きた「臣道連盟事件」(勝ち組・負け組事件)に触れる

★映画「ホライズン」(オリソンテス=水平線)冊子 「常に<革命の祖国>と共に」(アリシア・アロンソとのインタビューを踏まえた解説的記事)
 
 この映画は、クーババレエ界の永遠のプリマドンナ、アリシア・アロンソの半生を描いた2015年クーバ・スイス合作(アイリーン・ホーファー監督、71分)。11月12日から東京都写真美術館ホール(03-3280-0099)、角川シネマ新宿(03-5361-7878)などで公開


 

~~波路遥かに2016年10~11月~第4回ニューヨーク~~

 久々のNYマンハッタンをハドソン川から眺める。昼、友人一家3人が来訪、船上で会食する。次いで、別の友人、NY在住30年に及ぼうとしている音楽家の大竹史朗が来訪。ギタリストにして、作曲家だ。歌も歌う。かつてはモダンダンサーでもあった。

 若いころ、アタウアルパ・ユパンキに心酔、一瞬の出会いに閃きを得て、亜国フォルクローレに集中した。ユパンキから「エル・アリエロ」(馬を引く人)、言わば吟遊詩人パヤドールに近い呼び名をもらった。

 今では、バッハの古典から現代アメリカ(大陸世界)音楽に至る統合的な「イベロアメリカ」音楽の創設に邁進している。だがフォルクローレも大切にしており、ユパンキと聞き間違うほどのギターの演奏技術も保っている。

 牛車ならぬ、彼の車に揺られながら、ハーレムのアフリカ系街、同ラ米系街を散策。次いで、イースト川沿いを抜けて、グリニッジヴィレッジへ。その間、エル・アリエロの語る言葉を取材した。いずれ記事になるだろう。

 夜は、オーシャン・ドクリーム船内で、事務次長を含む国連の関係者、ジャーナりストらNY在住者500人を招いての会合と、大パーティーに史朗と共に出席、参加した。何人もの懐かしい顔ぶれに再会した。

 「おりづる」(被爆者ら)一行と反核兵器チームは、この日、国連を訪れ、反核運動を展開した。

 二日目は、大ぶりの雨の中、傘ささず、びしょぬれになって、3時間近く歩いた。埠頭から中央公園角のコロンブスサークル、ブロードウェイ。タイムズスクエアを経て、数ブロック先を曲がり、帝国ビルに出、五番街。途中、ロックフェラープラザから曲がって、埠頭に戻った。

 友人の居るK通信NY支局に寄ろうかと思ったが、大統領選挙間近ゆえに、訪問を敢えて避けた。(後で、寄ってほしかったと、その友人からeメイルで言われた。)

 NYを離れ行く船上から、9・11事件の後に聳え立つ新しい高層ビルを眺めた。NYからは西語CC(通訳)3人が乗ってきたが、その一人から、スペイン関係情報会社イスパニカの井戸光子前社長が癌で20日死去したと伝えられた。四半世紀来の友人だった。

 その後、間もなくして今度は、登山家の田部井淳子の癌死の情報が届いた。同じ20日のことだった。思えば、かつて船上講師仲間同士。成田からNYに同道し、NYやタンパを歩き回り、愉快に談笑したお姉さんだった。ラテン名を付けてほしいと言われ、「アンディーナ」と名付けた。「アンデスの女」を意味する。登山家にふさわしく、とても喜んでいた。

 去年末、第88回航海でタヒチ・サモア間をご一緒するはずだったが、病院検査で田部井さんは乗らなかった。このため船内で、登山家田部井さんに関する会合を開いた。そのころから予感はあった。追悼会合を開かねば。

 オランダは、アムステルダムの東インド会社の支店をカリブ海のクラサオ(キュラソー)に置き、マンハッタンと三角航路を拓いていた。だが英国との戦に負け、マンハッタンを奪われ、代わりに南米北部のギアナをもらった。それが今日、独立してスリナムになっている。

 武者小路爺が87歳の誕生日を迎えた。船内の大食堂と和式酒場で祝宴を開いた。船はバーミューダ三角海域を航行、バハマに向かう。
 

2016年11月22日火曜日

25年来最悪の旱害直面のボリビアが緊急事態を発動

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は11月21日、過去25年来最悪の旱害に直面しているとして、国家緊急事態を発動した。大統領は地球温暖化が原因とし、ボリビアは過去100年来、最も気温が高くなっていると指摘した。

 国営水道会社EPSASは同日、政治首都ラパス、エル・アルト、コチャバンバ、オルーロ、ポトシー、憲法首都スクレ、タリーハの主要7都市に飲料水の配給制を敷いた。

 ラパスでは既に過去2週間、3日ごとに3時間だけという厳しい上水道使用制限が敷かれてきた。同市人口80万人の半数に影響が及んでいる。

 既存の主要貯水池の貯水量は最大容量の10%以下に落ち込んでおり、大統領は各地で貯水池建設が急がれる、と述べた。

 各地で断水や水不足に対し抗議行動が起きている。特に灌漑用水が不可欠な農村や、大量の洗浄水を使う鉱山で不満が渦巻いている。

~~波路遥かに2016年10~11月~第3回ニューヨークまで~


 レイキャビックからNYまでの1週間は、国連で核兵器禁止条約が議論されているのに関連付けて、「反核兵器」が中心テーマとなった。反核兵器専門家であるピースボート共同代表・川崎哲を中心に、さまざまな国籍の反核活動家らが連日華々しくも真剣に討論した。

 広島・長崎への原爆投下を命じた故トルーマン大統領の孫クリフトン・トルーマン・ダニエル(59)=米地方コラムニスト=は、「広島原爆投下に関する記述を乗せた教科書を読んだ息子に触発され、2012、13年、息子らと訪日、被爆者証言を聴いた」と切り出し、被爆死した佐々木禎子の家族と交流し、折り鶴を通じて平和を発信する活動をするに至った過程を語った。ミズーリ州内にあるトルーマン大統領記念館の名誉館長であり、館内に「禎子伝承」の在米窓口を設けている。

 NHKが今夏流した原爆投下の真相では、軍部が原爆投下の効果を確認するための実験として日本の5カ所を標的に選び、トルーマン大統領の意志が定かでないまま最初の2カ所に投下された事実が明るみに出された。あまりにもひどい惨劇に驚愕した大統領側近は3発以降の投下を禁止した。だがトルーマンは「多数の米兵の命を救い、早期終戦を招くため必要だった」と釈明せざるを得なかった。これについてクリフトンは、「その番組内容は私にとっても初耳だった」と言った。

 原爆投下時にエノラゲイなど米軍機2機のいずれにも搭乗していた軍事技士を祖父を持つアリ・ビーザー(28)は、被爆者について米国人に伝え、祖父のことを日本人に語りながら、「戦争という過ちを繰り返さないため」活動している。クリフトンの訪日に同行したこともある。外国人「地球大学生」として船内で発言を続けた。

 元国連軍職担当上級政務官の米国人ランディ・ライデルは、核兵器禁止をめぐり核保有国と非保有国の間で激しい闘争が展開されてきた経緯を語り、合意達成の難しさを説明した。

 イスラエルの核兵器対策について訊くと、「彼らは持っていないと否定するから、取り組みは難しい」と肩をすくめた。かつて小型核弾頭を保有していた南アフリカの首都プレトリアの核施設で原爆製造の跡を見た、とも語った。

 船内では、国連が推進してる「持続可能な開発のための17目標(SDGs)」をめぐる講演会や話し合いも活発に展開された。オーシャン・ドゥリーム号の船体には、17目標のロゴが描かれている。

 知的大家の武者小路公秀は地球規模の文明論を展開。国際政治やジェンダー論の専門家である羽後静子は、17目標を解説、分析し、TPP(環太平洋連携協定)の問題点を鋭く指摘した。

 私はと言えば、NYとクーバに備え、「クーバ革命体制の変遷」、「チェ・ゲバラ論」、「NYの歴史」などを語った。音楽番組では、ファド、シャンソン、カントリーをやった。

 グリーンランド南方、ニューファウンドランド東方の海は寒く、波が高かった。だが、徐々に暖かさが増してゆく。オーロラの余韻を楽しみつつも、心は南下する。 

コロンビア政府とゲリラFARCが新合意書調印へ

 コロンビアのゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)の最高幹部ロドリーゴ・ロンドーニョ(ゲリラ名ティモチェンコ)ら書記局員は11月21日、ハバナからボゴタに到着した。24日に政府と新たな内戦終結最終合意書に調印するためだ。

 8月にまとまった最終合意書は9月26日カルタヘーナで調印され、10月2日国民投票にかけられたが、賛成49・8%、反対50・2%の超僅差で拒否された。

 このためサントス政権とFARCはハバナで修正協議に入り、11月12日、新たな最終合意書をまとめた。和平後のゲリラの処遇などに変更が加えられた。

 双方は24日、ボゴタで調印。これを受けてJMサントス大統領は、国会に審議を要請する。審議終了後、国会が合意書承認の是非を決める。新たに国民投票を実施するには、準備期間が長くなり、巨費が必要なためだ。

 和平に反対する右翼・保守勢力の代表格アルバロ・ウリーベ前大統領らは21日、政府和平交渉代表団と会い、新たな最終合意が絶対的決定にならないよう要請した。

 一方、FARC書記局は21日、サントス大統領宛ての公開書簡を発表。その中で、今年に入ってから左翼の社会・農村活動家200人が秘密結社を装った支配階層に暗殺されており、彼らの責任逃れ、無処罰は絶対に許せない、と糾弾した。

 書簡は、そうした階層は内戦で利益を得てきた者たちだと指摘。過去にFARCの政党部門「愛国同盟」(UP)の幹部ら党員5000人が暗殺・殺害された事実を取り上げ、「政府に道義的責任がある」と強調した。

2016年11月21日月曜日

ベネズエラ大統領がトランプ氏に良好な関係を呼び掛け

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は11月20日テレビ定例番組で、ドナルド・トゥランプ次期米大統領と相互に敬意を払い合う良好な関係を築きたいと述べ、ブッシュ・オバーマ両政権下で悪化した対米関係を立て直したい意欲を示した。両国はチャベス前政権下の2010年以来、互いに大使を置いていない。

 マドゥーロ大統領は、「ベネスエラとの関係上、ブッシュ(前米大統領)は重大な過ちを犯した。オバーマはさらに悪化させた」と指摘。2002年の米政府支援によるチャベス政権打倒クーデターの失敗を示唆、「オバーマは去年3月、ベネスエラを<米国の脅威>と政令で決めつけたまま撤回していない」と非難した。

 続けて、「最近も政令撤回をオバーマに求めた。このままでは、あのような(愚かな)政令を発した大統領として政権を終えることになる」と述べ、「オバーマと堅固な関係が築けず失望していたが、トゥランプ次期大統領とは敬意を払い合う関係を築きたい」と強調した。

 マドゥーロは、「今年5月にトゥランプ勝利を予測していた。米国民が新自由主義と飢餓賃金にうんざりし、反ヒラリーに向かっていたからだ」とも述べた。

 またリマでのAPEC首脳会議に出席していたオバーマが若者たちとの会合で「ベネスエラ政府は法治を尊重していない」などと語ったことに触れて、マドゥーロは「馬鹿げた発言だ」と一蹴。「ベネスエラは日々に底辺から深い民主を築いている」と述べた。

 この20日、ベネスエラ政府は国営メディア、左翼メディア、インターネットなどを動員し、「べネスエラ不滅の心」と名付けた、反ベネスエラ宣伝への反撃運動を開始した。

 通信・情報省は、米国主導で内外大手メディアが展開している意図的な反ベネスエラ宣伝報道は「非通常型侵略」であり、これにに反撃する運動、と説明。

 マドゥーロ大統領は、「逆境に対する人民の闘争を世界に示す。この運動はベネスエラの真実、微笑するベネスエラ、働き愛し闘うベネスエラ、邪悪な右翼勢力に勝利するベネスエラを表す」と述べ、発破をかけた。
 

~~波路遥かに2016・10~11月~第2回アイスランド~

 オーシャン・ドゥリーム号は10月9日、アイスランド北岸沖の、北極海外縁部に入り、北緯66度付近を航行する。そして10日未明、曇り空が突然晴れ、頭上に北極星と北斗七星が輝き始めて間もなく、私たちは幻想の世界に招き入れられた。

 北極の方面から白い光の帯が縦に何本も垂直に打ち上がり、両側の2本が高速度で伸びてきて、太い光になった。オーロラである。乗船していたアイスランド人専門家は「北の光」と呼んでいる。日本語では「極光」。北極光だ。南極光もあるからだ。

 この航海最大の見ものが叶えられた。船の西側に高く太く迫ったオーロラの先端は、カーテンのように巻いて、ちりちりと燃えてゆく。何という光景だろう! 生涯忘れることはないだろう。そしてオーロラはいったん隠れてから、再び現れ、今度は船の真上に厚い光の幕となって、私たちを歓迎した。

 夜が明けて、島国の西側の狭湾(フィーヨルド)に入る。鯨の群があちこちで塩を吹き、大きな頭と尾びれを何度も見せてくれた。鯨の上を海鳥が飛び交う。小魚に有り付こうとしているのだ。

 首都レイキャビックには2日間、滞在した。雨が降り続けた。ルター派教会の大聖堂前で良い取材ができた。1000年の伝統を持つ議会や、オーロラ博物館、伝承文学館も訪ねた。交通費を含め物価は高い。物資の多くを島外からの輸入に頼るからだろう。

 船の仲間である「おりづる」一行(広島・長崎被爆者と被爆語り部継承者ら)が市庁舎で市長と会い、学生たちの前で被爆体験を語る会合に私も出席した。

 レイキャビックから乗船した故トルーマン米大統領の孫も参加した。その後ニューヨークまで、彼と語ったり、彼の講演を聴くことになる。原爆を投下した米軍機の乗員の孫も乗っている。彼とも話すことになる。

2016年11月20日日曜日

ボリビア原子炉の建設前調査は来年3月終了へ

 ボリビアの原子力開発当局者は政治首都ラパスで11月18日、同市郊外にある標高4000mのエル・アルト市に建設される実験用原子炉1基から出る廃棄物は年間2kg程度で、すべてロシアに送られる、と明らかにした。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領は2014年、原子力導入を決定。ことし3月、ロシアと原子力協力協定を結んだ。

 これにより、ロシアのロサトム社が平和利用のための原子力調査所を総工費3億ドルで建設することになった。原子炉1基、および癌早期予測や冠状動脈疾患検査などの医療用施設、食糧安全・無害調査施設が含まれる。

 ロサトム社は来年3月、実現可能性調査を終え、着工する見通し。工期は4年。建設敷地総面積は計15ha。国連・国際原子力機関(IAEA)は、この事業を認定している。

 この種の原子力調査所はラ米ではブラジル、アルヘンティーナ、メヒコにある。ボリビアの施設が完成すれば、ラ米最大級の規模になる見込み。

 廃棄物のロシア移送は、原子炉稼働から15~20年後になると、ロサトム社は予測している。なおボリビアはラ米有数の天然ガス生産国であり、産油国でもある。

~~波路遥かに2016年10~11月~第1回ティルベリーから~

 10月初め成田空港を飛び立って2時間半、韓国西岸のインチョン空港に着いた。東アジアのハブ空港を目指すだけに規模が大きい。海の浅瀬を埋め立てた広大な空の港だ。朝鮮(韓国)語が耳にリズムよく飛び込んでくる。

 ロンドン行きのアシアナ航空便も空港同様、韓国(朝鮮)語の合唱だった。本場のキムチが付いた機内食はうまかった。夜遅く、ヒースロー空港に着く。

 同じ朝、成田空港を私の1時間後に別の便でアムステルダム経由で出発した写真家水本さんが1時間先に着いていて、私を迎えてくれた。ロンドンの街を観ることなく、テムズ川沿いを東方の河口に向かって2時間近く走る。河口に近いティルベリー港に、慣れ親しんできたNGOピースボートの世界周遊船「オーシャン・ドゥリーム」号がいつも通り、白く優雅な姿で迎えてくれた。

 翌日、テムズ川を小舟で渡り、南岸に拡がるティルベリーの街を水本さんと散策する。ロンドンを築いた財は、何世紀にも亘って、この港から運び込まれた。往時の繁栄を偲ばせる街並みだ。

 次の日、ベルギーのブルージュを歩いた。中世が残る美しい古都だ。何十羽もの白鳥が川べりの緑に遊び、運河を小舟が行き交う。乗っているのは、外国人観光客ばかりだ。

 ベルギーは特にコンゴで収奪し、無数のアフリカ人を凄まじく殺戮した。そこで奪った富とブルージュとの関係性は、時代の落差もあって定かではないが、「コンゴ動乱」を想起しつつ街を歩き回った。

 翌日はアムステルダムだ。何十年振りかで、中央駅の輝く姿を観た。海に繋がる運河は、幾つかの水面の高低を調整する水門を経て、この古都まで繋がっている。昔、東インド会社の本店がここにあった。

 この会社のアジア拠点はジャカルタで、そこから平戸、長崎にオランダ人たちはやってきた。そして幕府に、「スペインとポルトガルは日本領土奪取を策謀している」と耳打ちした。これが鎖国の原因の一つとなった。彼らによる収奪と、彼らがもたらした「蘭学」を思いつつ、市電を乗り継いでゴッホ美術館に行き、懐かしい絵に再会した。

  船内で船上講師たちが紹介された。ティルベリーから乗った武者小路公秀・羽後静子両先生、アムステルダム乗船の細川元首相夫人らが紹介された。 私も、紹介された講師の一人である。

 私は最初の講座として「アイスランドの歴史」を語った。『原爆基地』(1948年)を書き55年にノーベル文学賞を受賞したハルドル・ラックスネスや、今をときめく警察小説作家アーナルディルについても話した。「音楽番組」では、東方の彼方のロシアを思いやり、ロシア民謡をまず紹介した。

 外界の情報が正確かつ詳細に船に届くには時間がかかる。コロンビアから到着した、内戦終結のための和平合意承認の是非を問う10月2日実施の国民投票結果は、1ポイント以下の超僅差で「不承認」が勝った。6月の英国のEU脱退を決める国民投票で脱退賛成派が僅差で勝ったのに次ぐ「番狂わせ」だ。

 ならば11月8日に迫る米大統領選挙も、両候補のどちらが勝ってもおかしくない。カリブ海のハイチとキューバを「マシュー」と命名された大型ハリケーンが襲った。10月9日実施予定のハイチ大統領選挙は11月20日に延期された。

 船は北海を北北西に進む。目指すはアイスランドだ。

今日20日、ハイチで出直し大統領選挙実施

 カリブ海のアイチ(ハイチ)で11月20日、大統領選挙が実施される。この国には政党・政治運動が100もあり、その中から擁立された27候補が出馬している。主要候補は次の4人。過半数得票者は出ず、上位2人が決選に進出すると見られている。

 ミシェル・マルテリー前大統領の政権党だった「テトカレ・アイチ党」(PHTK)の候補ジョヴネル・モイス(48)=バナナ生産業者=
。昨年10月の大統領選挙で得票1位になり決選進出が決まったが、投開票時の大規模な組織的不正が暴露され、決選は今年4月に延期された。しかし不正糾弾の世論が高まり、10月9日にやり直し選挙実施が決まった。

 ところが直前にハリケーン「マシュー」が襲来、被災者210万人、死者546人、不明者128人、負傷者439人が出た。選挙は11月20日に延期された。

 有力候補二番手は、野党「アイチ進歩・解放代替連盟」(LAPEH)のジョドゥ・セレスタン技師(54)。昨年の選挙で得票2位だったが、1位候補の不正を理由に決選進出を拒否した。

 次いで、「デサランの子どもたち綱領」候補モイス・ジャンシャルル(49)と、「ラヴァラス家族党」候補マリース・ナルシス(女医)。

 アイチは激しい独立戦争を経てフランスから1804年に独立。20世紀には米国の事実上の属領となり、ドュヴァリエ父子2代の長期独裁が続いた。

 独裁崩壊後、民政、クーデターによる強権支配を繰り返してきたが、民政転覆の背後には利権確保を狙う米政府の関与があった。2010年には大地震に見舞われ、首都ポルトープランス一帯が壊滅状態に陥った。復旧は依然終わっていない。

 今選挙は、トランプ次期米政権が決まってから最初のラ米での大統領選挙として注目されている。
 

2016年10月2日日曜日

コロンビアで内戦終結の是非を問う国民投票実施

 コロンビアで10月2日、内戦の終結を決定づける「和平最終合意」の承認の是非を問う国民投票が始まった。同日夜(日本時間3日午前中)に結果が判明する見通し。

 コロンビアでは1960年にゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍、共産党武等部門)の前身組織が武闘を開始。政府軍の攻勢で後退を余儀なくされていたが、64年ごろから軍事的に対峙できるようになった。

 90年代にはFARCが軍事的に政府軍を圧倒。政府はクリントン政権期の米国に軍事支援強化拡大を要請。ブッシュ政権時に
ウリーベ・コロンビア極右政権との間で軍事協力関係が拡大深化、FARCは次第に劣勢になっていった。

 2012年8月、FARCはフィデル・カストロ前クーバ議長、故ウーゴ・チャベスVEN大統領の勧告を容れて和平交渉を受け入れた。交渉は同年11月、ハバナで始まった。

 クーバがFARC、ノルウェーがコロンビア政府のそれぞれ「保証国」、ベネスエラとチレがそれぞれの「同伴国」となって、交渉を側面支援した。とりわけクーバのラウール・カストロ議長の尽力が大きかった。

 クーバは2013年7月からオタワで米国と国交正常化を目指し秘密交渉を開始。コロンビア和平交渉と並行する形となった。玖米は14年12月、正常化合意に達し、15年7月、54年半ぶりに国交を再開した。

 コロンビア政府とFARCは15年9月ハバナで、和平後に内戦中の人道犯罪などを裁く法制で合意。さらに今年8月停戦合意に達し、両者の間での戦火は消えた。

 9月26日カルタヘーナ市でJMサントス大統領とFARCのティモチェンコ最高司令は和平最終合意書に署名。これを受けて国民投票が実施された。

 米州の東西冷戦は玖米国交再開で氷解。もう一つの冷戦構造だったコロンビア内戦が今、終わりつつある。コロンビアの第2のゲリラ組織・民族解放軍(ELN)と政府との和平交渉も近く開始される見通し。

ドイツ映画「アイヒマンを追え」を観る

 「ナチスが最も畏れた男」の副題は、ユダヤ人ながら西ドイツ時代のヘッセン州検事長になった実在の人物フリッツ・バウアー(1903~68)を指す。反ユダヤ人意識が根強く残る戦後の西独司法界で、政治的、思想的な敵たちに囲まれながら、頑固に一徹に、ナチ戦犯を追及し、ついにはアルヘンティーナに逃亡していたアドルフ・アイヒマンの所在を突き止める。

 バウアーは、イスラエルを2度訪れてモサドに会い、アイヒマン逮捕の手柄を譲る。アイヒマン裁判はドイツでという約束だったが、裁判はイスラエルで行なわれることになる。モサドは1960年5月アイヒマンをブエノスアイレス州で逮捕、アイヒマンはエルサレムでの裁判を経て、62年処刑された。

 日本人に興味深いのは、この映画から、戦後の西アデナウアー政権期ごろまでは、ドイツ人によるナチス断罪という有名な戦後処理がなされていなかったという事実である。「ドイツは日本と異なり、自ら戦犯を裁き、戦後処理を済ませた」などと言われるが、そうなるまでには苦難に満ちた道程があった。その過程をバウアーが象徴する。

 アイヒマンが偽名で亜国に入国したのは1950年7月だった。当時の亜国はフアン・ペロン将軍の政権期だった。ペロンはムッソリーニの協同翼賛体制に学び、これを亜国に取り入れていた。反米だったペロンは、枢軸国に敵対的態度をとらなかったペロンの時代だったから、アイヒマンらの入国が可能だった。だがアイヒマンの亜国での<安寧>は9年10カ月しか続かなかった。

 見応えのある作品だ。2017年1月、渋谷文化村のル・シネマ、 有楽町のヒューマントラストシネマで封切られる。2015年作、105分。
 

2016年10月1日土曜日

来月、第1回「フェスティバル・デ・ラティーノ・ロコ2016」開催

★11月18日(金)1800開場、1830開演。全労済開館地下1階:全労済ホール・スペースゼロ=東京都渋谷区代々木2-12-10=新宿駅南口から近い。会場問い合わせは、03-3375-8741。

▼出演者:サム・モレーノ率いる「マリアッチ・サムライ」、「バナナ・ボート」の浜村美智子、トリオ・ロス・ペペスほか。内容問い合わせ:日本ラテンアメリカ音楽振興会事務局、03-6277-0988。

▼入場料:前売り3500円、当日4000円。

★メヒコ短信  アヨツィナパ農村教員養成学校生43人強制失踪および市民6人殺害事件から9月26~27日で丸2年が過ぎた。事件は未解明のまま3年目に入った。

 この日、首都メヒコ市中心街のレフォルマ大通りの独立記念碑前から、大統領政庁(国家宮殿)のある憲法広場(ソカロ)までを事件被害者の家族、学友、教員、支援者ら1万人が行進、広場で政府への抗議集会を開いた。

★予告:LATINA11月号(10月20日発売)の伊高浩昭執筆「ラ米乱反射」第127回は、「アヨツィナパ事件2周年」の特集記事。
 

2016年9月27日火曜日

★★★コロンビア和平調印、54年続いた内戦終結

 コロンビア・カリブ海岸のカルタヘーナ市にある会議センターで9月26日、1960年以来続いていた政府軍とゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)の内戦に終止符を打つ「最終和平合意書」の調印式が催され、JMサントス大統領とロドリーゴ・ロンドーニョFARC最高司令(ゲリラ名ティモチェンコ)が調印。内戦は正式に終焉した。

 署名には、銃弾で作られたペンが用いられた。戦争から平和に移行するという意味が込められてる。会場には「喜びの歌」の曲が流れた。

 双方は2012年11月からハバナで和平交渉を続け、今年8月、停戦に合意した。FARCは9月半ば過ぎ全国代表者会議を開き、和平合意で一致した。FARCは武装解除、社会復帰を経て、政党として政治に参加する。

 今回の内戦終結により、米州に残存していた東西冷戦の残滓がほぼ消えた。残るは、コロンビアの第2のゲリラ組織「民族解放軍
」(ELN)と政府の和平で、交渉による和平は時間の問題となった。

 サントス大統領は調印後の演説で、「世界から戦争が減った。コロンビアの戦争がなくなったのだ!」と歓喜、「これは単なる署名ではない。もう戦争はこりごりだというコロンビア人の宣言だ」と指摘した。さらに「問題が終わったわけではない。克服すべき問題が残っている」と述べた。

 ロンドーニョ司令は、「我々FARCに起因する全犠牲者に謝罪する」と切り出し、拍手を浴びた。サントス大統領を「勇気ある交渉相手」と讃え、「今後は非武装で政治に参加する。心も武装解除する」と強調。和平交渉の保証国となったクーバとノルウェー、交渉同伴国となったベネスエラとチレに謝意を表した。またラウール・カストロ玖議長、故ウーゴ・チャベスVEN前大統領、ニコラース・マドゥーロ現VEN大統領の名前を挙げて感謝した。

 調印式にはラ米20カ国のうち、大統領選挙を控えているハイチとニカラグアなど数カ国を除く15カ国以上の大統領とラウール議長が出席した。

 パン・ギムン国連事務総長も出席したが、国連はラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)にFARCゲリラ集結、武装解除、停戦監視、和平検証の任務を委託している。

 米州諸国機構(OEA)のルイス・アルマグロ事務総長も出席した。OEAは、地雷除去に協力する。コロンビアはアフガニスタンに次い敷設・放置された地雷が多い国とされている。

 ジョン・ケリー米国務長官、ホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領、フアン=カルロス前スペイン国王、世銀・IMF・米州開銀の各理事長らも出席した。ケリー長官は調印式後、マドゥーロVEN大統領と両国関係について会談した。

 コロンビアでは10月2日、調印された和平合意への承認を懸けた国民投票が実施される。世論調査では、有権者の3分の2は賛成している。

2016年9月25日日曜日

キューバが安倍首相と李中国首相に「差」をつける

 中国の李克強首相は9月24日、クーバ公式訪問のためハバナに到着した。これまで中国からは最高首脳の国家主席が訪玖しており、首相の訪玖は初めて。22~23日訪玖した安倍首相と入れ替わるように来訪した。

 空港には、ラウール・カストロ国家評議会議長の後継者、ミゲル・ディアスカネル第1副議長が出迎えた。22日に訪玖した安倍首相を空港に出迎えたのは、国家評議会に6人いる副議長のうち、ディアスカネル(第1副議長)、ホセ=ラモーン・マチャード(共産党第2書記)、ラミーロ・バルデス(革命司令官)に次ぎ序列第4位のサルバドール・バルデス=メサだった。

 クーバと中国との関係は日玖関係と比べ圧倒的に太く、玖政府としても首脳来訪時に「出迎え待遇差」をつけざるを得なかった。安倍首相はクーバ滞在中、中朝両国に批判的な発言をしたが、玖側は、それに直接的に応じることはなかった。出迎えに差をつけたのは、クーバ政府が友好国である中朝に気を遣った表れでもある。

 ディアスカネル第1副議長は6月来日し、安倍首相と会談。ラウール議長からの招待を首相に伝えた。これを受けて今回の訪玖が実現した。一方、李首相もカストロ兄弟と会談。12項目の経済協力協定を結んだ。

★チレ短信  米国務省は9月21日、オルランド・レテリエル元チレ外相のワシントンでの暗殺(1976年9月21日)の40周年に際し、中央情報局(CIA)の機密文書を公開、暗殺を命じたのは故アウグスト・ピノチェー元チレ軍政大統領だったと確認した。

 米人工作員マイクル・タウンリーがレテリエルの乗用車の車体の下に遠隔装置の爆弾を仕掛け、元外相と米人女性秘書を爆殺した。諜報部員だったチレ陸軍士官アルマンド・フェルナンデスが後方支援した。

 米国を公式訪問していたミチェル・バチェレー智大統領は元外相暗殺40周年に際し、事件現場を訪れ追悼した。

▼エクアドール短信  エクアドール(赤道国)は9月23日、国連発展途上「77カ国グループ」(G77)の議長国に就任した。任期は1年。ラファエル・コレア大統領が議長を務める。

★コロンビア短信  コロンビアのカルタヘーナで9月26日、内戦終結最終合意書の調印式が催される。JMサントス大統領とFARCのティモチェンコ最高司令が調印する。全部隊代表者会議を開いていたFARCは23日、和平合意を全会一致で承認した。調印式にはラ米諸国の首脳が数多く出席する。

▼ベネスエラ短信  ベネスエラがクーバに供給している原油は日量52500バレルで、最盛期の40%減とされるが、BMI調査では日量83500bで20%減。ベネスエラ原油は9月23日時点で、1b=37ドル強。


  

2016年9月23日金曜日

安倍首相がキューバ訪問、カストロ兄弟と会談

 安倍首相は9月22日昼、NYからハバナに到着、日本の首相として初めて訪玖した。首相はフィデル・カストロ前国家評議会議長(90)を私邸に表敬、核問題などについて1時間余り会談した。

 フィデルは議長時代に2度来日、2度目の2003年3月には念願だった広島市を訪問、爆心地跡に立った。その時の衝撃についても語った。

 首相は革命広場でホセ・マルティ像に献花。その裏手にある革命宮殿(政府・共産党本部)でラウール・カストロ議長と会談した。双方は、日本からの12億円の無償援助による医療機材提供で合意。

 首相はクーバの友好国・北朝鮮に対し、拉致事件解決や核実験停止などを働き掛けるよう協力を要請。ラウール議長は、日本政府が対玖債権1200億円を帳消しにしたことへの謝意を表明。双方は関係強化で一致した。首相はこの日、在留邦人・日系人代表と会合した。

 一方、欧州連合(EU)は22日、1996年以来の「民主化へ圧力をかけるための対玖共通姿勢」を公式に廃止。加盟諸国に
対玖協力と政治対話への支持を促した。「共通姿勢」は96年当時のアスナール・スペイン右翼政権の主導で定められた。

ベネズエラ大統領罷免国民投票は来年2月実施か

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE、中央選管)は9月21日、ニコラース・マドゥーロ大統領罷免の是非を問う国民投票の実施申請に必要な署名収集は10月26~28日の3日間と発表した。この国民投票は憲法で保障されており、保守・右翼野党連合MUDが申請手続きを進めてきた。

 同3日間にMUDは、全国23州およびカラカス首都圏でそれぞれ、有権者の20%の署名を集めなければならない。署名には爪印(拇印)が必要で、指紋記録機を用いる。MUDは全国6500カ所に計19500台の記録機が必要と主張していた。ELNは1356カ所に計5392台しか認めなかった。

 今年4月30日現在の18歳以上の有権者は1946万人で、その20%は389万人。400万人近い有権者の署名を3日間で集めるのは容易ではない。

 いずれにせよMUDが署名を集めたら、CNEは15日以内(11月半ば)に検証する。検証の結果、有権者20%の署名が正しいと判断されれば、CNEは3日後、国民投票を告示。投票は告示日から90日以内に実施されることになる。

 それは2017年2月に該当する。重要なのは、この点にある。憲法は、現職大統領の任期が半分(3年)経過後、3分の2(4年)を過ぎない期間に実施され、罷免賛成票が罷免対象の大統領の当選時得票数を上回れば罷免が成立し、新大統領を選ぶための大統領選挙を実施すると規定する。

 だが任期4年を過ぎた後に投票が実施されれば、大統領が罷免されても、副大統領が残り任期を暫定大統領として全うする、と規定されている。マドゥーロは13年4月当選、就任したが、その任期は、故ウーゴ・チャベス前大統領の同年1月10日に始まった新任期の残り期間。つまり来年1月10日でマドゥーロの任期は3分の2を超えることになる。

 来年2月の投票実施ならば、マドゥーロ大統領が罷免されても、アリストーブロ・イズトゥーリス副大統領が暫定大統領に就任できる。チャベス派は、この暫定期間にじっくり選挙戦略を練り、有力候補を用意することができる。

 MUDの戦略は、1月10日前の投票で大統領を罷免、勢いを駆って大統領選挙で勝利するというもの。その戦略が事実上不可能になった今、MUDは22日、別の合憲戦略を練るか、それとも14年前半に展開したような非合法の街頭騒擾事件を起こすかなど、打つべき次の手について討議する。

 一方、デルシー・ロドリゲス外相は21日、ベネスエラが非常任理事国を務める国連安保理で、米軍によるシリアでの軍事行動を非難した。

★ニカラグア短信  ニカラグア国会(1院制)は9月21日、今月10日死去したレネー・ヌニェス議長を新国会が開会する来年1月9日まで引き続き議長職に据えるよう決議した。実質的には、イリス・モンテネグロ副議長が議長役を務める。

 ニカラグアでは11月6日大統領および国会議員選挙があり、ダニエル・オルテガ現大統領が3選出馬する。新議長の人選は、選挙後に後回しにされたわけだ。「架空の議長」に留まったヌニェスは、大統領の信頼厚い盟友だった。

2016年9月21日水曜日

ベネズエラ政府が米軍偵察機による領空侵犯を発表

 ベネスエラのブラディミロ・パドゥリーノ国防相は9月20日、米軍沿岸偵察機Dash-8型機が16~17両日、カリブ海マルガリータ島近海上空のベネスエラ領空を侵犯した、と発表した。

 両日は同島で第17回非同盟運動(Mnoal)外相会議と首脳会議が開かれていた。ニコラース・マドゥーロVEN大統領は17日、任期3年のMnoal議長に就任した。偵察機はMnoal会議情報などを収集していたもよう。

 発表によると、問題の偵察機はベネスエラ沖の蘭領クラサオ(キュラソー) の基地を発進。VEN空軍戦闘機が緊急発進し、領空侵犯を警告したところ、領空外に出て、クラサオ基地に帰投した。

 国防相によると、今年になってから米軍機は無通告でVEN沿岸上空を32回飛行した。昨年11月25日に領空侵犯した際には、米軍は侵犯を認めたという。

 デルシー・ロドリゲスVEN外相は近く国連総会で、この米軍機の領空侵犯および事前通告違反について糾弾し、米蘭両政府に責任を正すことにしている。マドゥーロ大統領はMnoal議長として国連総会で演説すると見られていたが、内政を理由に欠席を決めた。

★コロンビア短信  コロンビアのネストル・マルティネス検事総長は9月20日、コロンビア革命軍(FARC)が和平合意に基づき撤退したメタ、ナリーニョ両州の旧FARC支配地域に他の勢力が侵入しつつある、と警告した。

 侵入しているのは、もう一つのゲリラ組織・民族解放軍(ELN)とFARC武闘継続派、および麻薬組織や極右準軍部隊など。政府はELNとの和平交渉開始に合意しているが、正式交渉は始まっていない。コロンビア世論は69%がELNとの和平にも賛成している。

▼メヒコ短信  メヒコ検察庁は9月20日、米連邦捜査局(FBI)の技術協力により、強制失踪させられた教員養成学校生43人の遺体・遺骨が埋められている可能性のある穴墓40カ所を特定した、と明らかにした。発掘調査を開始する。

 2014年9月26~27日の事件発生当時の警察などによる1000回を超える携帯電話通話歴を調べたところ、イグアラ、コクーラ両市の市警だけでなく、近隣のウイツコ市の警察も事件に関与していたことが判明したという。

2016年9月20日火曜日

日本が首相訪問前に対キューバ債権1200億円を放棄

 日本政府は安倍首相のクーバ訪問に先立つ9月19日、対玖公的債務1800億円のうちの1200億円(約11億6500万ドル)を帳消しにした。ハバナでの同合意書には、リカルド・カブリーサス副首相兼経済・企画相(元駐日大使)と渡辺優駐玖大使が署名した。

 日本も加盟する債権国グループ、パリクラブは昨年12月、対玖債権110億ドルのうち利子分を免除し、元本26億ドルをクーバが返済することで合意していた。日玖は、残る600億円の返済繰り延べ交渉に入る。

 イランのハッサン・ルハーニー大統領は19日クーバを公式訪問、ラウール・カストロ国家評議会議長と会談した。両首脳は17~18日、ベネスエラでの第17回非同盟運動首脳会議に出席していた。大統領はフィデル・カストロ前議長を表敬した。

 一方、ワシントンポスト紙は19日、米玖国交再開は本質的に米大企業と玖軍部の協力関係であって、玖人民の基本的人権は優先されていないと指摘。「こうした関係は革命前の米政府とバティスタ政権との関係を想起させる」と述べた。

 同紙は、「米国人は昨年16万人が訪玖、ひとり50ドルの観光許可証を取得したが、計800万ドルに及ぶ」と前置きし、「外貨不足に悩むクーバにとって、これは決して小銭ではない」と書いた。

 また、観光など玖経済の大きな部分を軍部が握っている実情に触れ、「玖民間強化支援というオバーマ大統領の対玖国交再開目的に照らしてどうだろうか」と、問題提起している。

★ラ米短信  南部共同市場(メルコスール)の伯ウルグアイ亜パラグアイ4カ国はニューヨークで外相会議を開き、10月10~14日ブリュッセルで同市場と欧州連合(EU)の自由貿易協定(FTA)交渉を再開することを決めた。

 メルコスール加盟国のベネスエラは外相会議に招かれなかった。テメル伯政権は、同市場からのベネスエラ排除を目指している。  

 

2016年9月19日月曜日

10月2日、浅草公会堂で「東京タンゴ祭2016」開催

★ラ米短信  ベネスエラのマルガリータ島で9月17日始まった第17回非同盟運動(MNOAL)首脳会議(120カ国・地域)は18日、21項目の「マルガリータ宣言」を採択して終了した。次回首脳会議はアゼルバイジャンで2019年に開かれる。

 同宣言の柱は、当ブログも昨日伝えた11項目。会議では、開発途上諸国グループ「G77」がMNOALに連携を呼び掛けた。ボリビアとエクアドールの大統領は、新自由主義に反対するラ米進歩主義諸国の政権を倒そうとする勢力による陰謀(新「コンドル作戦」)がうごめいている、と指摘した。

★「竹田邦夫メキシコ彫銀作品展」 9月22日(木)~10月2日(日)、1200~1900、「土日画廊」で=東京都中野区上高田3-15-2、電話03-5343-1842=。最寄駅は、西武新宿線新井薬師駅、徒歩5分。

★「深化するブラジル音楽傑作65選を聴く」  9月24日(土)1400開場、1430開演。渋谷Li-Po=東京都渋谷区渋谷3-22-11、サンクスプライムビル4階A=で。電話03-6661-2200。出演 濱瀬元彦、司会:LATINA編集部 花田勝暁、坂本悠。入場料1000円。

★「東京タンゴ祭2016」 10月2日(日)1600開場、1630開演。浅草公会堂で。入場料4500円。問い合わせ:LATINA 03-5768-5588。

★月刊LATINA誌10月号(9月20日発売) 伊高浩昭執筆「ラ米乱反射 」連 載第126回「ブラジルに正統性なき政権出現  五輪宴(うたげ)の後、<クーデター>が完成」。

☆同誌掲載書評:『サバイバー 池袋の路上から生還した人身取引被害者』(マルセーラ・ロアイサ著、常盤未央子・岩崎由美子共訳、ころから、1800円) 売春を強制されたコロンビア人女性が「日本」を告発する。
 



2016年9月18日日曜日

ベネズエラのマドゥーロ大統領が非同盟議長に就任

 第17回非同盟諸国運動首脳会議が9月17日、ベネスエラのマルガリータ島都ヌエバ・エスパーニャで開かれ、同国のニコラース・マドゥーロ大統領が非同盟議長に就任した。任期は3年。

 会議は18日までの2日間。イラン大統領ハッサン・ロハーニ前非同盟議長、パレスティーナのマハムード・アッバス議長、ジンバブウェのロバート・ムガベ大統領、ラウール・カストロ玖議長、エクアドールのラファエル・コレア大統領、ボリビアのエボ・モラレス大統領、エル・サルバドールのサルバドール・サンチェス=セレーン大統領が出席している。

 またセントヴィンセント・グラナディーンのラルフ・ゴンサルベス首相、アンティグア・バーブーダのガストン・ブラウン首相、ニカラグア副大統領、スリナム副大統領らも出席。前回イランでの首脳会議には首脳35人が出席したが、今回は10人ちょっとと少ない。国連のパン・ギムン事務総長は、国連総会首脳会合の準備を理由に欠席、ビデオメッセージで挨拶した。

 18日発表される「マルガリータ宣言」の案文をテレスール放送が報道。内容は11項目。
①南代表を安保理常任理事国にするなど国連改革でなく国連再建を目指す
②BRICSなどの登場を受けて国際新経済秩序構築を新たに目指す
③国連が昨年採択した「2030年計画」は、債務および植民地・主義・新植民主義・新自由主義に起因する問題を超克するための最優先課題
④通信報道情報伝達向上が重要であり、ラ米多国籍テレビ「テレスール」は好例
⑤強国による内政干渉や非通常型戦争に対抗するため「平和の文化」、賢人的対話、民族自決を前面に打ち出す
⑥南から「緑の政策」を打ち出すなど地球温暖化対策
⑦パレスティーナの大義実現に向け努力する
⑧クーバへの迫害と経済封鎖をなくす
⑨プエルト・リコの脱植民地実現
⑩中東難民問題への対処
⑪テロリズム対策および不安定化攻撃に対する攻撃に対する闘争。

 16日には会議場前で、故ウーゴ・チャベス前VEN大統領銅像の除幕式が催された。チャベス像は右手を天に向けて高く掲げている。

★クーバ短信  共産党機関紙グランマの副編集局長カリーナ・マローンは6月末、玖ジャーナリスト連盟(UPNC)総会で、1994年ハバナ市内マレコン通りで起きた暴動事件(マレコナソ)のような事件が再び起こりうると警告、共産党および政府メディアの社会的対応を批判した。

 ウェブメディア「クーバネット」が9月17日伝えた。マローン発言をブログで流したオルギン放送のホセ・ラミレス=パントハ記者は、その後、同放送を馘首されたが、最近オルギン州の文化部門に就職したという。

 一方、クーバ公式訪問中のモンゴルのツァヒアギーン・エルベグドルジ大統領は9月16日、ラウール・カストロ議長と会談した。

▼コロンビア短信  コロンビア革命軍(FARC)は9月17日、第10回全国を会議開催した。最高幹部が政府と交わした内戦終結のための最終和平合意文書を討議、賛成するもよう。   

2016年9月17日土曜日

メキシコ市で大規模な大統領辞任要求デモ実施さる

 メヒコ独立記念日前日の9月15日、首都メヒコ市中心部で1万人が参加する「大統領辞任要求」の抗議行進が実施された。理由は、人権蹂躙、無能、腐敗、卒論剽窃、「トゥランプ米共和党大統領候補との会談で味わわされた屈辱」など。

 制度的革命党(PRI、保守・右翼)のエンリケ・ペニャ=ニエト(EPN)大統領は2012年12月就任、あと2年2カ月余り任期が残っているが、支持率は23%と低迷している。

 人権問題に関しては、就任後、1万5000人が国内で強制失踪で行方不明のまま。特に14年9月26~27日ゲレロ州イグアラ市一帯で発生した教員養成学校生43人強制失踪事件および6人殺害事件は、今月で丸2年経つのに未解決のままだ。

 この日の抗議行進の先頭には同43人の家族・遺族、友人、学生、教員らが並び、人権団体、市民団体、知識人、芸術家、労組員、一般市民が続いた。

 「EPNを罷免し、裏切者として収監せよ」、「この政府には怒りで我慢できなくなった」、「我々は少数者ではなく、尊厳だ」-などと書かれたプラカードや紙を人々は掲げていた。

 行進は、レフォルマ大通りの独立記念碑から、大統領政庁(国家宮殿)のある憲法広場(ソカロ)までの予定だったが、警察機動隊がソカロに続く道の入り口でデモ隊を阻止した。このためデモ隊は、フアレス大通りに面したアラメダ中央公園のベニート・フアレス廟前で解散した。

 15日夜は、EPNがソカロに面した政庁中央バルコニーからソカロの群衆に向けて「独立戦争開始の早鐘」を鳴らす重要行事があった。

 メヒコの国家社会開発政策評価評議会(CONEVAL=コネバル)によると、メヒコ人口の半分に当たる5500万人が貧困で、うち1140万人は極貧状態にある。カルデナス改革政権(1934~40年)の後は保守右翼政権が続き、特に80年代からは新自由主義政権が支配、効果的な貧困対策がとられてこなかった。

 一方、非難の矢面に立っているEPNは独立記念日恒例の軍事行進があった16日、市内の陸軍第一駐屯地で、軍事行進に参加した国軍高官、士官、軍曹ら2万3000人のうち1万6000人を招いて昼食会を開いた。大統領は演説で、「国軍はメヒコの支柱だ」と強調した。

 学生43人失踪事件には、イグアラ駐屯の陸軍第27歩兵大隊が関与した疑いが濃厚。だが政府は、同大隊への第3者機関による捜査を阻止してきた。

★エクアドール短信  ロンドンのエクアドール(赤道国)大使館に2012年から亡命滞在している豪州人ジュリアン・アサンジ(ウィキリークス創設者)は9月16日、赤道国政府から亡命継続許可の確認を受けた。

 同氏は10月17日、同大使館内でスウェーデン当局者の尋問を受けることになっている。同国で発生した女性暴行事件の容疑が
アサンジにはかけられている。同氏は否定している。

▼コロンビア短信  コロンビアでは10月2日、内戦終結合意の是非を問う国民投票が実施されるが、最新世論調査では、和平賛成55・3%、反対38・3%、未賛否決定4・3%だった、前回調査では賛成64・8%、反対28・1%だった。

 賛成が減ったのは、極右アルバロ・ウリーベ前大統領、保守アンデレス・パストラーナ元大統領らが和平反対運動を展開していることなどによる。

 今月26日にはカルタヘーナで和平最終合意書の署名式があり、コロンビア大統領およびラ米13カ国首脳が出席する。ウリーベとパストラーナは16日共声明を発表、ラ米13カ国首脳の出席は国民投票の投票動向に影響を与え、その結果「内政干渉」になるとして、カルタヘーナに来ないよう要請した。

 一方、「ノーベル平和賞受賞者協会」は9月16日、内戦終結を見込んで、受賞者会合を来年コロンビアで開くことを決めた。  
  

2016年9月16日金曜日

テメル・ブラジル政権がベネスエラに外交で報復

 ブラジル外務省は9月14日、南部共同市場(メルコスール)の伯パラグアイ亜ウルグアイ4カ国外相が共同声明で、同市場の輪番制議長国の役割を合同で担うことを決めた、と発表した。

 半年交代の議長国は7月からベネスエラが担うことになっていたが、5月発足したテメル伯代行政権とカルテス・パラグアイ政権の両右翼政権がベネスエラ就任に反対。マクリ右翼政権の亜国は、スサーナ・マルコーラ外相が国連事務総長選挙に立候補しているため、ベネスエラなどラ米左翼陣営の支持票を必要としていたことから曖昧な態度をとっていた。

 ところが同外相の当選可能性が遠のいたため、マクリ政権は伯パラグアイ両国に同調。メルコスール本部のあるウルグイアはベネスエラの議長国就任を支持していたが、周辺3国が反ベネスエラで足並みをそろえたため、なびいてしまった。

 4カ国外相共同声明はまた、12月1日までにベネスエラが未批准のメルコスール政治、経済、人権規約を批准しなければ、同国は加盟資格停止となる、と通告している。

 ブラジルでは8月31日、ヂウマ・ルセフ大統領が国会で弾劾罷免され、汚職まみれのテメル代行が後継大統領に就任した。この政変をテメルらによる「制度的クーデター」と捉えるベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は直ちに対伯外交を凍結、ブラジリア駐在大使を召還した。

 テメルは、他の3国に働きかけ、メルコスールからのベネスエラ追放も辞さない強硬な決定に漕ぎつけ、ベネスエラに報復した。マドゥーロ大統領退陣を求めているベネスエラ右翼・保守野党連合MUDは、メルコスール4カ国声明に賛意を表した。

 12月初めベネスエラが資格停止となれば、カリブ海からパタゴニアまで南米大陸を貫くメルコスールは再びブラジル以南の4カ国だけとなる。

 4カ国声明に対し、ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は、ベネスエラは議長国の任務を既に果たしつつあり、断じて拒否すると反駁した。

 ベネスエラのカリブ海の保養地マルガリータ島では17~18両日、第17回非同盟諸国運動(MNOAL)首脳会議が開かれ、マドゥーロ大統領が任期3年の議長に就任する。テメルが主導した4カ国声明は、MNOAL議長国就任直前のベネスエラに水をかける形となった。

★亜国短信  スサーナ・マルコーラ亜国外相とアラン・ダンカン英外交担当閣外相は9月13日ブエノスイアレスで会談、亜国経由のマルビーナス(フォークランド)諸島首都ポートスタンリー(PS)行きの航空便を月2回とすることで合意した。

 現在、チレLAN航空機が毎週土曜にサンティアゴ-プンタアレナス-PS往復便を運航。第2土曜日だけ亜国リオガジェゴを経由することになっている。今後、ブエノスアイレス経由便を加える公算が大きいとされている。

 双方はまた、経済協力強化で合意した。チレ航空機の亜国経由便を月往復2便にすることも協力強化の一環。

▼伯国短信  ブラジル検察庁は9月14日、ルーラ元大統領夫妻を腐敗、資金洗浄の容疑で起訴した。ルーラ側は、2018年10月の次期大統領選挙に当選が確実視されてきたルーラを出馬させないためのテメルら右翼・保守勢力の陰謀と糾弾している。

★コロンビア短信  コロンビア革命軍(FARC)は9月17~23日、カケター州サンビセンテデカグアーンのジャリー平原で第10回全体会議を開き、政府と間で合意済み内戦和平最終合意を受け入れることを決める。

 会議には代議員200人が出席。最高司令ティモチェンコ、和平交渉代表イバン・マルケスら最高幹部たちも出席する。会議を内外メディア350社の700人が現地で取材する。

 この会議の決定を受け、JMサントス大統領とティモチェンコ司令は9月26日カルタヘーナで最終和平合意書に署名する。この式典には、クーバのラウール・カストロ議長およびベネスエラ智秘赤パラグアイ墨ドミニカ共和国グアテマラ・エルサルバドール・オンドゥーラス・コスタリーカ巴の12カ国大統領が出席を予定している。

 伯亜ウルグイア・ボリビア・アイチ・ニカラグアの大統領は欠席・代理派遣になるもよう。一部が直前に翻意し参加する可能性もある。カルタヘーナでの署名に続き10月2日、コロンビアは国民投票で和平合意を最終決定する。

2016年9月15日木曜日

安倍首相が来週半ば過ぎキューバ訪問へ

 安倍首相が9月18~24日の期間に、NYでの国連総会出席に続いて22日ごろクーバを訪問することになった。14日の日本政府の発表によると、商談・投資環境改善による日本企業進出促進、日本の対北朝鮮懸案解決への協力取り付けが柱。

 首相はハバナで、ラウール・カストロ国家評議会議長(85)およびフィデル・カストロ前議長(90)と会談する。日玖首脳会談は、1995年12月東京での村山首相とフィデル議長(当時)、2003年3月東京での小泉首相とフィデル議長の会談に次いで3度目となる。

 首相来訪に懸けるクーバ側の最大の懸案は、日本の対玖債権1800億円のうちの1200億年の徳政。つまり帳消しだ。日本財界は既に民間債権を大幅に徳政している。

 次いで政府開発援助(ODA)10億円程度の供与だ。日本は医療機材を援助するもよう。9月6日ハバナでラウール議長の後継者となるミゲル・ディアスカネル第1副議長と会談した山口公明党代表は、カストロ兄弟宛ての安倍首相の親書を渡したが、この会談で、日本国際協力機構(JICA)事務所設置などで一致している。

 玖側はこれまで、日本が医療機材、薬品を提供し、それをクーバの医師、看護師らが使って第3国での災害救援活動に当たるという、国際的な合同支援活動を日本側に働き掛けてきた。

 クーバはまた、観光産業隆盛に伴い、高級観光ホテル内での和食レストラン設置を考えており、このため日本語習得、料理人育成への協力をJICAに要請してきた。

 北朝鮮関係では、日本側はこれまで訪玖した岸田外相ら閣僚3人をはじめ外務省高官を通じ、また来日した玖外相らを通じて、拉致事件解決への協力を要請してきた。

 安倍首相の訪玖は日本首相として初めてだが、オバーマ米政権下での昨年の米玖国交再開によって可能になった。日本民間のによる対玖友好関係は以前から活発で、1960年代後半から70年代前半にかけては、日玖文化交流研究所の故・山本満喜子所長が率いた砂糖黍刈り援農隊の活動が際立っていた。

 その後は、15回に及ぶNGOピースボート(PB)世界就航船のクーバ寄港(ハバナ13回、サンティアゴ2回)、音楽・スポーツ交流などが続けられてきた。

 フィデル前議長は2010、11両年、PB船客各1000人のうちの希望者約600人と会見している。PBは来月NYからバハマを経てハバナに入港する。こうした米玖港間の直接航海は第3国旅客船には昨年まで不可能だった。

 ちょうど今、阪本順治監督、オダギリジョー主演の映画「エルネスト」の撮影がクーバで為されている。革命家チェ・ゲバラの部下としてボリビアに遠征、1967年8月末にボリビア軍に処刑された日系2世フレディ・マエムラ(前村、父親は鹿児島県人の移民)の生き方・死に様を描くドキュメンタリードラマである。

 フレディの姉、故マリー・マエムラ著『革命の侍』(松枝愛訳、伊高浩昭監修、2009年、長崎出版)を基にした映画で、来年10月9日のゲバラ没50周年に合わせて公開される。「エルネスト」は、ゲバラの名であり、フレディのゲリラ名でもある。
 

2016年9月13日火曜日

ベネズエラ原油の対キューバ供給代金は265億ドル上回る

 ベネスエラ国営石油PDVSA(ペデベサ)は、故ウーゴ・チャベス前大統領が2000年10月にフィデル・カストロ前玖国家評議会議長と結んだ「統合的協力協定」に基づき、対玖原油供給を開始、当初は日量5万3000bだった。

 クーバは、医療保健、教育、スポーツ、文化各分野の専門家を派遣。原油と人材の<物々交換>となった。02年4月のチャベス体制打倒のクーデター未遂事件後、クーバから軍事および諜報の専門家がベネスエラに派遣された。

 PDVSAの報告では、対玖原油供給は04年、日量9万2000bに増えた。06~15年の9年間の日量は9万4000bだった。この9年間の原油代金を国際価格で計算すると、265億dに達する。

 クーバ側からの人材提供への代価を原油代金の半額と考えると、ベネスエラは130億dを上回る持ち出しとなる。現在減りつつある同国の外貨準備高は121億dであり、その倍以上に上る。

 今年上半期から対玖供給日量は40%以上減ったが、これは経済危機に陥っているベネスエラが現金収入を得られる輸入先を優先せざるを得なくなったためなどによる。

 クーバはエネルギー危機に陥り、7月以降、ロシア政府に供給可能性を打診。クーバの窮状を見かねたアルジェリアは9月初め、原油を当面10~12月の3カ月、供給することを決めている。

★ブラジル短信  ブラジル国会下院本会議(定数470)は9月12日、エドゥアルド・クーニャ前下院議長の下院議員資格を剥奪した。クーニャは国営石油ペトロブラスから巨額の賄賂を受け取り、これをスイスの銀行口座に隠しながら、「国外に口座は持っていない」と証言していた。

 ところがスイス政府が、クーニャ口座の存在を暴露、クーニャはブラジル倫理評議会にかけられることになった。昨年12月、クーニャは、ルセフ政権が倫理評議会にかけられるのを阻止しなかったとして逆恨みし、同月、下院にルセフ大統領弾劾手続き開始を許可した。その結果、国会上院に5月、弾劾法廷が設定され、8月31日、大統領は弾劾罷免された。

 クーニャ追放は、賛成450、反対10、棄権9で決まった。下院議員の190人および上院議員49人が収賄事件関連で捜査対象になっているが、国会議員腐敗の象徴がクーニャだった。クーニャは既に、収賄、資金洗浄、不正資金国外隠匿で起訴されている。

 クーニャの盟友で、ヂウマ罷免によって大統領になったミシェル・テメルも収賄事件に関与。クーニャ失脚が「臭いものに蓋」で終わらず、クーニャが再び逆恨み戦略に出れば、テメルを含む腐敗政治家らに火の粉が及ぶ可能性がある。 

2016年9月11日日曜日

ウルグアイで10月から大麻を条件付きで合法販売へ

 ウルグアイ国家麻薬評議会(JND)は9月9日、2013年12月成立の麻薬関係法に基づき、10月から大麻を合法販売する、と明らかにした。大麻栽培希望者、購入希望者、販売希望薬局は9月中に各地の郵便局で登録する。

 消費量は一人週10g、月40gまで。価格は1g=1・2米ドルになるもよう。全国50登録薬局で販売される見通し。栽培者にも栽培量などの条件が課されている。

★ハイチ短信  アイチでは10月9日、やり直し大統領選挙が実施される。1カ月と迫った9月9日、24人の候補者が出そろった。ミシェル・マルテリ前大統領の与党だった「テトゥカレ・アイチ党」(PHTK)のジョヴネル・モイスが昨年10月25日の大統領選挙第1回投票で得票率32・81%で、決選に1位で進出することになったが、大がかりな投開票時の不正が明らかになり、決選が実施されないまま無効とされ、再選挙となった。

、モイスの他、ルネ・プレーヴァル元大統領の政党「アイチ進歩・解放のための代替連盟」(LAPEH)のジュディ・セレスタン(昨年得票率25・27%で2位)、ジャン=ベルトゥラン・アリスティド元大統領の政党「ラバラス家族党」のマリース・ナルシスらが、前回同様、名を連ねている。有権者は600万人。

 決選がなく次期大統領が決まらないまま今年2月、ミシェル・マルテリー大統領が任期切れで退任。ジョスレム・プリヴェール暫定大統領が政権を運営してきた。

 選挙は毎回、暴動や殺傷事件を伴いがちのため、国連アイチ安定化派遣団、アイチ国家警察が厳戒態勢を敷き、米州諸国機構(OEA)監視団120人が展開する。

▼ベネスエラ短信  ベネスエラのマルガリータ島で17~18日、非同盟諸国運動(MNOAL)首脳会議が開かれる。ニコラース・マドゥーロ大統領が任期3年の議長に就任することになっている。

 政府は、実務者会合、外相会合などが始まる13日以降、18日まで同島に厳戒態勢を敷く。

▼チレ短信  チレ軍事クーデターでアジェンデ社会主義政権が倒れてから9月11日で43周年。この日、故サルバドール・アジェンデ大統領の娘イサベル・アジェンデ上院議員は、2017年の次期大統領選挙にバチェレー現政権の政権党連合「新多数派」から出馬する意向を確認した。

 「新多数派」陣営からは、JMインスルサ元外相(前OEA事務総長)、リカルド・ラゴス元大統領らも出馬意志を表明している。

  

エクアドル、コロンビア、コスタ・リカが経済水域境界線を画定

 ラ米太平洋岸のエクアドール(赤道国)、コロンビア、コスタ・リカ(CR)3国は9月9日、エクアドール領ガラーパゴス諸島サンタクルース島プエルト・アヨーラで首脳会合を開き、3国経済水域境界を最終的に画定する文書を交換した。

 特に赤道国ガラーパゴス諸島とCRのココ諸島の周辺の経済水域の画定が懸案だった。31年越しの交渉がようやく実った。

 会合にはラファエル・コレア赤大統領、コロンビアのJMサントス大統領、CRのLGソリース大統領が出席した。

★クーバ短信  ブルーノ・ロドリゲス玖外相は9月9日ハバナで記者会見し、1962年に当時のケネディ米政権が発動した対玖経済封鎖による玖側の累積損害は7536億8800万ドルに達する、と発表した。2015年4月~16年3月の1年間では、46億8000万ドル。

 外相は、バラク・オバーマ米大統領は、14年12月の対玖国交正常化合意発表時に、経済封鎖を効果のない過去の遺物と指摘しながら、21か月経った今も解除されていない、と指摘した。

 国連総会で恒例となっている経済封鎖撤廃決議案採決は今年は10月26日実施される。クーバ政府は毎年この時期になると、経済封鎖問題を外交の中心に置いて活動を活発化させる。

 
 

2016年9月10日土曜日

産油国アルジェリアがキューバに原油供給か

 産油国アルジェリアのブーテフリカ政権筋は9月7日、クーバに10~12月、毎月51万5000バレルずつ原油を供給すると明らかにした。クーバは1999年のチャベス・ベネスエラ政権発足後、同国から原油の供給を受けてきたが、マドゥーロ政権の現在、政経両面の危機にあり、原油供給量が今年前半40%減った。

 これによりエネルギー危機に直面したクーバのラウール・カストロ議長は7月、プーチン露政権に優遇価格による原油供給の可能性を打診した。だがロシア政府は、クーバの代金支払い能力を疑問視している。そんな時にアルジェリアがクーバに助け船を出した。

 クーバは1959年の革命後、対仏独立戦争中のアルジェリアを軍事支援した。クーバが医療チームを派遣した最初の国もアルジェリアだった。

 両国の絆は長く続いており、ラウール議長は2009年2回、15年5月と、計3回、アルジェリアを訪問している。クーバは年間2~3億ドルの石油派生製品を同国から輸入してきた。アルジェリア国営石油ソナトゥラチが対玖原油供給に当たるもよう。

★ブラジル短信  ブラジルの全国工業連盟(CNI)とアルヘンティーナの亜国工業連合(CNA)は9月9日ブエノスアイレスで会合し、貿易、投資、技術協力強化のため、「伯亜企業理事会」(CEMBRAL=センブラル)結成で合意した。

 両国の右翼政権はパラグアイと共に、南部共同市場(メルコスール)からベネスエラを排除する形で同市場を麻痺させており、これに代わる経済市場を強化するためCENMBRAL結成に動いた、と分析されている。

 一方、ブラジルでは、正統性に欠けるテメル新政権に即時退陣を求める抗議行動が9月4日から全国的に続いている。「土地無き者の運動」(MST)、労働者唯一中央同盟(CUT)など4団体が中心に動いており、「大統領選挙即時実施」を要求している。

 ヂウマ・ルセフ合憲大統領を8月31日、国会弾劾裁判で強引に罷免して成立したテメル政権は、テメル自身が300万ドル収賄の嫌疑がかけられている腐敗政治家だ。選挙民から「弾劾は事実上のクーデターだった」と糾弾されてきた。
 

2016年9月8日木曜日

エル・サルバドールのMフネス前大統領がニカラグアに亡命

 エル・サルバドール(ES)のマウリシオ・フネス前大統領(56)は妻、および息子3人と共にニカラグアに政治亡命した。ニカラグア政府が9月6日発表した。フネスはESで、大統領期(2009~14)の不正蓄財、影響力不当行使などで追及されている。

 ES最高裁は今年2月、フネスを取調べる許可を検察庁に与え、当局は8月フネスの邸宅などを家宅捜索した。フネスは大統領選挙出馬時、選挙運動を任せたミゲル・メネンデスの企業に大統領就任後、政府事業を優先的に発注。見返りに利益を得ていた疑い指摘されている。不正蓄財は少なくとも30万ドルとされる。

 フネスは身の危険を感じたとして6月からマナグアに滞在していたが、ES検察庁が起訴に向けて本格的な捜査を開始した8月末、亡命を決意。9月1日ニカラグア外務省に申請、2日許可された。

 ダニエル・オルテガ大統領が書記長を務める政権党FSLNと、ES政権党FMLNは友党。サルバドール・サンチェス=セレーンES現大統領は、前任者フネスを支持している。

 フネスは検察庁の捜査を「政治的迫害」と反駁している。FMLNのメダルド・ゴンサレス書記長は6日、フネスは大統領在任中、フネスの前の政権まで政権党だった極右野党ARENA(国民共和同盟)所属の元大統領フランシスコ・フローレス(故人)の公金横領罪による捜査を後押ししたとみなされ、ARENA幹部らから逆恨みされて「腐敗捜査」対象にされていると指摘。亡命を進めたのは自分だと明かした。

 ES当局の捜査対象には、フネス現夫人および、母親の異なる長男(34)、さらに別の母親の次男(25)も含まれている。現夫人との間の3男は2歳。

 政治評論家には、ブラジル保守・右翼勢力がルーラ元大統領を不動産不正入手などで起訴し、ルーラの政治生命を奪おうとしているのと、フネス迫害は状況が似ていると指摘している。人気のあるフネスには、将来的に政権復帰の可能性があると見られている。

2016年9月7日水曜日

カントリー音楽の王ハンク・ウィリアムズの短い全盛期描いた映画「アイ・ソー・ザ・ライト」を観る

 私の小学校時代は、ハンク・ウィリアムズ(1923~53)の全盛期にして晩年だった。日本を占領していた米軍の極東放送(FEN)から連日、「ジャンバラヤ」が流れていたのを記憶している。教室では、誰がハンクのような裏声を出せるか、競争したものだ。

 ハンク・トンプソン、ハンク・スノーを加えた「3人のハンク」がカントリー界にいるのを知識として仕入れ、自慢する同級生さえいた。私は、ハンクの歌の中では「マンション・オン・ザ・ヒル」(丘上の大邸宅)が好きだった。
     
 この米国映画の試写会の案内状を手にした時、これは絶対に観落とすまいと決意した。だが9月6日、試写会の最終日に辛くも観ることができた。酷暑の下、目黒駅近くの会場まで足を運んだのだ。だが、その意味はあった。

 全編123分終始流れるハンクのヒット曲を楽しんだ。特訓で自ら歌った英国人主演俳優トム・ヒドルストンの歌なのだが、決して悪くはなかった。この役者は2014年の撮影時43歳だったが、20歳も若い23歳のハンクを演じたのだ。

 題名の「アイ・ソー・ザ・ライト」(私は光を見た)は、「神との魂の出合い」を歌ったもので、「アメイジング・グレース」と歌詞が似ている。この歌は、ハンクの長男ランドール(ハンク・ウィリアムズ2世)が生まれた時と、ハンクが死んだ時の2つの場面で効果的に使われている。ハンク2世はカントリー歌手として活躍してきた。

 私はカントリー好きが昂じて駆け出し記者のころ、休暇をとってテネシー州ナッシュヴィルに行き、カントリーの聖地グランド・オール・オプリ(「大きく古いオペラ劇場」を意味)を見学、カントリー街を歩き回って歌を聞きまくった。当時の一番人気は「シティー・オブ・ニューオーリンズ」だった。私はバンドにチップを払って、テネシー州歌「テネシーワルツ」を演奏してもらった。

 この映画は、カントリー好き、ポピュラー音楽好きには欠かせない傑作だ。監督はマーク・エイブラハム。★10月1日(土)に新宿ピカデリーで封切られる。

★ニカラグア短信  ニカラグアの誇る世界的詩人ルベーン・ダリーオ(1867~1916)の作品60点を紹介する『ルベーン・ダリーオ詩選』が9月初め、マナグアで発売された。ニカラグア中央銀行、国家大学理事会(CNU)、文化庁が共同で刊行した。

▼メヒコ短信  9月6日のエル・フィナンシエロ紙によると、2018年7月実施の次期大統領選挙予想候補の支持率は、アンデレス=マヌエル・ロペス=オブラドール(国家改新運動=MORENA)24%、マルガリータ・サバーラ(国民行動党=PAN)23%、ミゲル=アンヘル・オソリオ=チョン(現内相、制度的革命党=PRI)22%が上位を占めている。

 政党別支持率はPRI30%、PAN26%、MORENA16%。これら3党が、同3党以外の友党と連合した場合、PRI35%、PAN32%、MORENA24%となる。メヒコには決選投票制度はなく、第1回投票での得票1位の候補が当選する。

★ドミニカ共和国(RD)短信  レオネル・フェルナンデスRD前大統領は9月6日、同国のリスティン・ディアリオ紙のコラムで、ヂウマ・ルセフ大統領を8月31日に弾劾罷免したブラジル政変について糾弾した。

 フェルナンデスは、「これは、ならず者集団の仕業だ。これをクーデターでないという者がいるが、一理ある。クーデターより一層邪悪なものだからだ。あれは裁判ではなく、腐敗した国会議員たちの存在に触れずに権力闘争した演劇、田舎芝居、悲喜劇だった」と指摘した。



2016年9月6日火曜日

キューバがロシアに原油供給を要請

 ロシア政府筋情報として9月5日報じられたところでは、クーバのラウール・カストロ国家評議会議長は、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領に親書を通じ、クーバに石油を供給する可能性を検討するよう要請した。

 クーバはベネスエラから原油の供給を受けてきたが、同国経済が原油価格低迷や政情不安から危機に陥り、クーバへの原油供給量が最盛期の日量10万バレルから大幅に減った。

 これによりクーバは深刻なエネルギー不足を来たし、厳しい節電政策をとらざるを得なくなっている。ラウール議長は7月、電力事情が厳しいことを公表したが、このころ露大統領に書簡を渡したと見られている。議長は書簡で価格と支払条件を問い合わせているが、希望する供給量には触れていない。クーバは原油派生産品の供給も求めている。

 この件に関連してロシア経済相は、「クーバの支払い能力は重大なリスクだ」と指摘。露国営石油ロスネフト社のようにクーバに投資する露石油会社がクーバに原油を供給するのがいいのではないかと、述べた。ロシアは今年上半期、クーバには原油1400万トン(25万ドル)しか輸出していない。

 イランのムハマド・ザリフ外相は8月訪玖した際、ラウールと会談しており、議長がイランにも原油供給を求めた可能性がある。

 一方、クーバ政府は4日、死去したウズウベキスタンのイスラム・カリモフ大統領のために5日、国喪に服すと発表した。

★ブラジル短信  ミシェル・テメル伯大統領は9月4~5日、中国・杭州でのG20首脳会議に出席、外交デビューした。全体会議のほか、BRICS首脳会議に出席、日伊西3国首相と個別に会談した。

 テメルは大統領代行だった8月下旬、リオ五輪閉会式に出席した安倍首相との会談を望んだが、首相側の都合で実現しなかった。今回は「正式大統領」として会談した。

 だがヂウマ・ルセフ前大統領を強引に弾劾罷免したのを「国会クーデター」と捉える内外世論は根強い。テメル政権の正統性に疑問を持つ首脳も少なくなく、杭州でのテメルの影は薄かった。

 ブラジル労働者中央同盟(CTB)は、クーバ労働者中央同盟(CTC)に対し、ルセフ大統領罷免を「クーデター」として糾弾したクーバ政府とCTCに対し謝意を表明した。クーバ共産党機関紙グランマが5日、それを報じた。 

2016年9月5日月曜日

南米「南銀行」の左翼3国が当初出資を開始

 南米7カ国が合意した「南銀行」(バンコ・デル・スール)への当初出資額を決める第3回財務相会議が9月初めキトの南米諸国連合(ウナスール)本部で開かれ、ベネスエラ、エクアドール(赤道国)、ボリビア3国の当初出資の段取りが決まった。

 ベネスエラが向こう10年間に払い込む出資額は20億ドルだが、そのうちの400万ドルを当初供出資金とし、その5%、20万ドルを30日以内に自国中央銀行内の南銀行口座に入金する。

 赤道国は当初資金40万ドルの5%、2万ドルを自国中銀内の南銀行口座に入れる。ボリビアは同じく10万ドルのうちの5000ドルを入れる。

 南銀行構想は、IMFや世銀に頼らない地域金融機関を設けたいというベネスエラ大統領ウーゴ・チャベス(故人)の発案で生まれ、2007年2月9日、設立議定書が調印された。上記3国のほかブラジル、亜国、ウルグアイ、パラグアイの計7カ国が署名。12年に発効した。

 出資額は、伯亜両国はベネスエラと同じ20億ドル、赤道国とウルグアイは各4億ドル、ボリビアとパラグアイは1億ドルずつ。合計70億ドルとなる。

 今回決まった3国の払い込む当初出資金は、南銀行の営業開始前の人件費や諸雑費の支払いに使われる。

 南銀行側は、未加盟のコロンビア、ペルー、チレ、ガイアナ、スルナムの5カ国に加盟を働き掛けている。

 南銀行構想は、強力なチャベス大統領の主唱で、南米諸国の大勢が左翼・進歩主義政権だった時期に形をとった。今回、入金を開始する3国は、いずれも左翼の「米州ボリバリアーナ同盟」(ALBA)加盟国。

 亜国がマクリ右翼政権、ブラジルがテメル右翼政権になり、両国ともに親米路線と新自由主義を掲げている今、南銀行が構想通り設立されるかどうかはわからない。

★コロンビア短信  JMサントス大統領は9月2日、FARCとの最終和平合意は26日カルタヘーナで調印する、と発表した。

▼ボリビア短信  エボ・モラレス大統領は9月2日、2019年の大統領選挙には出馬せず、現任期の終わる20年1月政権を離れる、と述べた。大統領は今年2月21日、19年出馬を可能にする改憲国民投票に僅差で敗れた。

 だがモラレスの支持母体であるコカ葉生産者労連が8月22日、モラレス擁立を宣言。政権党・社会主義運動(MAS)は、国民投票をやり直すための署名運動を展開してきた。

 このため、野党指導者らは、モラレスの言葉を信用していない。モラレスは「我々には2025年計画がある」とも述べ、1期休んで24年の大統領選挙に出馬する可能性を示唆した。

★クーバ短信  米政府は8月30日、「クーバ調整法」を維持すると言明した。その見直しを求めるラ米9カ国外相による連名の要請書を29日受けたことを確認したが、同法は維持すると述べた。

 このところ、NYTや、移民が数多くメヒコから流入するテキサス州の新聞が、同法見直しを呼び掛ける記事を掲載。クーバ政府も最近、同法がクーバ人の不法出国を促していると、米政府に抗議している。
  

2016年9月2日金曜日

エル・サルバドールが内戦被害者に賠償金支払い開始へ

 エル・サルバドール(ES)のサルバドール・サンチェス=セレーン大統領は8月31日、内戦中(1980~92)に起きた政府軍などによる重大人道犯罪事件の被害者への賠償金を支払うための「内戦時重大人権蹂躙被害者への賠償金支払い計画」を発表した。

 全国262市のうち134市にまたがる6235人が対象。「地方開発社会投資基金」(FISDL)から、一人毎月15~50ドルを支払うことになるもよう。

 同国最高裁は7月、内戦中の人道犯罪加害者ら責任者を免罪する恩赦法を違憲として無効にした。恩赦法は1993年、クリスティアニ極右政権が制定した。

 同法廃止により、内戦時の軍人・警官、極右勢力など加害者が逮捕、裁判の対象になる。最高裁は、内戦時加害者を自国で裁けるようになったため、外国への身柄引渡を禁止した。

 1989年11月首都サンサルバドール市内にある中米大学(UCA)キャンパスのイエズス会礼拝所でスペイン人会士らを虐殺し逮捕されている退役軍人らの身柄引渡も不可能になった。スペイン政府は長年、引渡を求めていた。

 サンチェス大統領は賠償金計画を発表する際、国家元首として内戦中の政府軍などによる人道犯罪を謝罪した。フネス前大統領も謝罪している。

★ベネスエラ短信  野党連合MUDが率いるベネスエラ反政府勢力は9月1日カラカスで「カラカス攻略」と銘打って、一大動員による抗議行進を決行した。主催者側は、少なくとも45万人が参加したと主張している。

 これに対し、ニコラース・マドゥーロ大統領を支持する政権党連合は「対抗行進」を実施、目抜きのボリーバル大通りなど中心街を支持者で埋め尽くした。政府、反政府双方合わせて100万人近い党員や市民が動員されたとする見方もある。

 反政府派は、マドゥーロ大統領罷免の是非を問う国民投票の年内実施要求を掲げて行進した。ブラジルのヂウマ・ルセフ大統領が弾劾罷免された翌日に合わせ、大規模動員を実現した。

 だが、これをクーデター誘発の陰謀と見なす政権側は対抗動員を仕掛け、野党側の意図をくじいた。MUDは7日に再度、大規模行進を計画している。

 大統領は「勝利演説」で、ミラフローレス宮(大統領政庁)から500mしか離れていない場所で、武装一味92人を逮捕したと発表した。2002年4月起きたウーゴ・チャベス大統領打倒のクーデターは、反政府派の抗議行進中、狙撃者たちが無差別発砲した事件が誘因になった。MUDの今回の行進は概ね平和裏に実施されたが、暴力肯定路線の若者らが反発、不法行為を働いた。

 国家選挙理事会(CNE=選管)は、国民投票実施申請に必要な第2次署名(有権者の20%=400万人)の収集活動開始は早くても10月下旬としている。その400万人の署名が正しいか否かの検証には年内いっぱいかかる見通しだ。

 このため国民投票実施は来年1月10日を過ぎてからになる公算が大きい。その日は、マドゥーロ大統領の6年の任期が半分を過ぎる日。その後実施される国民投票でマドゥーロが罷免された場合、2年足らずの残り任期は、アリストーブロ・イズトゥーロス副大統領が担うことになる。

 一方、年内に実施され1月10日までに大統領が罷免されれば、新大統領を選ぶ選挙実施となる。MUDは大統領選挙実施を狙い、年内の国民投票実現を訴えてきた。 

2016年9月1日木曜日

★★★大統領弾劾でブラジル「バナナ共和国」に成り下がる

 ブラジル国会上院の大統領弾劾法廷は8月31日、上院議員81人全員がヂウマ・ルセフ大統領弾劾投票に参加、弾劾賛成61、反対20で弾劾を決定。ルセフ大統領は解任され、政敵のミシェル・テメル大統領代行(ブラジル民主運動党=PMDB)が大統領に昇格就任した。

 テメルは19年元日までのルセフの残り任期を務める。これにより03年元日から13年8カ月続いた労働者党(PT)政権は終わった。テメルはG20首脳会議の開催地中国にいそいそと向かった。ブラジルが加盟するBRICSの他の4カ国は対応に苦慮しており、弾劾について言及を控えている。

 ルセフは、政治的権利を8年間剥奪するか否かを問う投票では、賛成42、反対、36、棄権3で、剥奪を免れた。剥奪には3分の2の54人の賛成が必要だったからだ。弾劾も同様だが、賛成票が54票を7票上回った。

 ルセフ弾劾は、「粉飾決算」による責任を問われたものだが、過去にカルドーソ政権もルーラ政権もやってきたことであり、弾劾条件を満たす重大犯罪ではない。このため、選挙で勝てない保守・右翼勢力が国会と司法を使って決行したクーデター、とも見方が定着。テメル代行体制は非難されてきた。

 直接的な真相は、巨額の収賄で追及されている多くの上下両院議員が追及を阻止するため打った政変劇ということ。弾劾手続きは昨年12月、収賄を追及され始めたエドゥアルド・クーニャ下院議長(当時、PMDB)が、追及を許可したルセフへの報復として開始した。

 また弾劾裁判の判事役となった上院議員81人のうち、議長を含む35人が収賄で追及対象となっている。またテメル自身も追及されているが、副大統領、大統領代行、大統領と要職にあって、捜査など直接的追及を免れてきた。

 財界、米国、ラ米新自由主義保守・右翼陣営は、テメル政権の石油産業をはじめとする民営化を願い、今回の政変を歓迎している。

【参考資料:伊高浩昭「バナナ共和国に成り下がったブラジル 事実上のクーデターでルセフ大統領弾劾へ」(岩波書店「世界」2016年7月号掲載)】

 14年10月の大統領選挙で5450万票を得て再選されたルセフの弾劾に怒ったベネスエラ、エクアドール、ボリビアは、ブラジル駐在大使を召還した。ラファエル・コレア赤大統領は、弾劾理由をでっちあげ民主政治を裏切った、と厳しく非難した。

 ニカラグアのオルテガ政権も弾劾を糾弾、ルセフとルーラ元大統領への連帯を表明した。亜国のクリスティーナ・フェルナンデス前大統領は、「ブラジル初の女性大統領弾劾は(ラ米・南米)地域の民主政治を後退させた」と述べ、オヤンタ・ウマーラ前ペルー大統領もルセフへの連帯を表した。クーバのラウール・カストロ政権も弾劾を「国会・司法クーデター」と見なしている。

★クーバ短信  米ジェットブルー航空の旅客便1番機(エアバスA320)が8月31日、フロリダ州フォート・ローダーデイルを飛び立ち、クーバ中部のサンラクラーラ市に到着した。乗ってきたアンソニー・フォックス米運輸長官はハバナで、ブルーノ・ロドリゲス外相、アデル・イスキエルド運輸相と会談した。

 9月1日米シルヴァー航空機サンタクラーラ便、7日アメリカン航空(AA)オルギン便、シエンフエゴス便、8日AAカマグエイ便、サンタクラーラ便、マタンサス便が、それぞれ就航する。

2016年8月31日水曜日

ラ米9ヵ国外相が米政府にキューバ難民促進政策廃棄求める

 ワシントンのエクアドール(赤道国)大使館は8月29日、米国務省にジョン・ケリー長官宛ての書簡を手渡した。米国を目指すクーバ人経済難民の出国を促してきた「クーバ調整法」および「乾いた足・湿った足」政策を見直すよう求めている。

 この画期的な書簡には、エクアドール、コロンビア、ペルー、パナマ、コスタ・リカ、ニカラグア、エル・サルバドール、グアテマラ、メヒコの9カ国外相が署名している。クーバ難民が押し寄せ、かつ通過する諸国で、経済的負担や治安問題で頭を悩ませている。

 外相らは、米国を目指すクーバ人難民問題を話し合う高級会議開催を要求している。

 エクアドールのギヨーム・ロング外相は29日キトで記者会見し、「クーバ難民流出を促す時代錯誤かつクーバ差別の政策に終止符を打つべきだ。(米政府の)政治的意志の問題だ」と指摘した。

 米政府は昨年7月20日の対玖国交再開後も、クーバ牽制・揺さぶり政策の重要な一環として、「玖調整法」と「乾・湿足」政策を維持している。「乾いた足」すなわち米領土に足を踏み入れれば、永住権に繋がる滞在が認められ、「湿った足」つまり海上や河川で阻止されれば退去、送還されるという政策だ。

 クーバおよびラ米諸国は、これを悪法と見なしてきた。だが今回のように多数の外相が連名で米政府に注文を付けたのは初めて
のことだ

★ブラジル短信  ヂウマ・ルセフ大統領弾劾裁判中のブラジル国会上院弾劾法廷のリカルド・レワンドウスキ裁判長(最高裁長官)は8月30日、上院議員81人による弾劾投票を31日実施する、と発表した。

 3分の2の54議員が賛成すれば、弾劾が成立。ミシェル・テメル大統領代行(副大統領)が大統領に昇格し、2019年元日までのルセフ大統領の残り任期を担うことになる。テメル代行は巨額の収賄で追及対象となっている。

 ルセフ大統領は29日、最後の弁護機会に出廷。弾劾は事実上のクーデターだと主張、自分には弾劾に該当する罪状はないと強調した。
  

2016年8月29日月曜日

コロンビア内戦が29日午前零時、歴史的終結

 コロンビア政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は8月29日午前零時、停戦に入った。1960年以来続いていた両者の間の内戦は歴史的な終焉を迎えた。

 フアン=マヌエル・サントス大統領は政府軍にFARCへの攻撃を一切停止するよう命令、「新しい歴史が始まった。銃撃音は止んだ。FARCとの戦は終わった」と述べた。

 ルイス・ビジェガス内相は、「コロンビアにとって過去100年間で最良のニュースだろう」と語った。

 一方、FARC最高司令ティモチェンコはハバナで、政府軍に対する攻撃停止命令を発し、「戦争がもたらした痛みを今あらためて遺憾に思う。きょうから新しいコロンビア建国のため(政府と共に)尽力してゆく。政府軍が二度と人民に銃口を向けないことを!」と強調した。

 FARC武装ゲリラ7500~8000人、および支援部隊8000人は既に全国7ブロックに分かれて集結しているが、今後22地域および6野営地に入り、武装解除に応じる。武装解除、武器弾薬引渡は180日以内に実施され、ゲリラの復員準備が整う。

 国連に委託されたラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)の民・軍派遣団がFARC集結、武装解除に立ち合い、かつ検証する。

 FARCは9月13~19日、南部のサンビセンテデカグアンで第10回ゲリラ幹部会議を開き、政府との和平協定を承認する。これを受けて10月2日、和平協定内容承認の是非を問う国民投票が実施される。

 ゲリラ幹部会議には、ティモチェンコら幹部29人を含む代議員200人が出席する。また内外から招かれた50人も参加する。

 元ゲリラ「四月19日運動」(M19)の最高幹部だったアントニオ・ナバーロ議員は、「最も重要なのはFARCの武装解除が始まることだ」と指摘した。

 国内では、和平に反対するアルバロ・ウリーベ前大統領ら保守・右翼勢力が、国民投票で反対票を投じるよう運動している。

 また、もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)は、政府との和平交渉開始への準備を進めている。 

2016年8月28日日曜日

パラグアイで軍人・警官8人殺害、ゲリラEPPの仕業か

 パラグアイ北部で8月27日、軍人・警官8人が待ち伏せ攻撃に遭い、殺害された。政府は、ゲリラ組織「パラグアイ人民軍」(EPP)の仕業と見ている。

 首都アスンシオンの北方約500kmのコンセプシオン県アロジートの未舗装道路で事件は起きた。巡視中の軍・警察合同作戦部隊(FTC)の少尉1人、軍曹7人を乗せた軍用トラックは地雷で破壊され、8人が様子を見るためトラックを降りたところ、機銃掃射された。

 EPPは2008年に活動を開始。今回の8人を入れて軍・警察要員計29人を殺害。牧場主ら文民約30人を葬った。EPPは、要員50~150人の小さな武装組織と見られている。思想傾向は定かでなく、「官製ゲリラ説」も消えていない。いまも警察下士官1人、メノニータ(メノナイト)農民2人を人質にし、身代金を要求している。

 非政府系団体である人民民主会議(CDP)は27日、恐怖を撒き散らしているとFTCの展開を糾弾。北部の問題は軍事的には解決できないと、政府を批判した。

 富豪のオラシオ・カルテス大統領はメヒコ訪問中だったが、留守中の重大事件発生で恥をかかされる形となった。パラグアイ法廷は7月12日、「クルグアティ虐殺事件」(2012年6月)判決で、被告農民11人に4年から30年の禁錮刑を言い渡したが、この事件はカルテスの所属するコロラード党など伝統的支配階層がでっちあげた謀略と見なされている。

 この事件の直後、当時の進歩主義者の大統領フェルナンド・ルーゴは責任をなすりつけられて弾劾、解任された。進歩主義政権を倒すため、事件がでっちあげられたとの見方が定着している。事件で死亡したのは農民11人、警官6人だったが、当局は警官の死亡に関してしか捜査しなかった。また弾道などから「第三者」による発砲の可能性が濃厚だったにも拘わらず、捜査はなされなかった。

 このような政治・社会状況とEPPの存在との関係は解明されていない。

★ブラジル短信  ブラジル国会上院は8月27日、ヂウマ・ルセフ大統領弾劾審理で証人証言を終了、29日の大統領の反対弁論を待つのみとなった。上院議員81人による弾劾投票は30~31日に実施される。

▼ボリビア短信  ボリビアのエボ・モラレス大統領は8月27日、「協同組合所属の鉱山労働者たちは政府打倒のクーデターを画策していた」と非難した。事件関与した鉱夫組織は、仲間同士の通信で「政権打倒」を口にしていたという。

 鉱夫らは25日、ロドルフォ・イヤネス副内相を6時間に亘って拷問した後、殴り殺した。大統領政庁で27日葬儀が執り行われ、大統領は3日間の国喪を宣言した。

★ベネスエラ短信  ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は8月27日、来訪したイランのムハマド・ザリフ外相と会談、戦略的関同盟関係強化で一致した。両国は金融協力協定などに調印した。大統領はまた、国軍首席将軍ヘスース・ゴンサレスをイラン駐在の新大使に任命した。ザリフ外相はクーバ、ニカラグア、エクアドール、チレ、ボリビアを歴訪、カラカスから帰国の途に就いた。

 マドゥーロは27日の演説で、ボリビアのモラレス大統領に連帯を表明。「米国内からベネスエラにクーデターの陰謀が仕掛けられている」と指摘、その動きを糾弾した。 

メキシコ学生43人強制連行事件、未解決のまま23カ月経過

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26日起きた教員養成学校生43人強制連行・行方不明事件から8月26日で丸2年が過ぎた。政府の捜査妨害により、事件はいまだに解明されていない。

 この日、ゲレロ州都チルパンシンゴでは、学生の家族、教員、学生、支援団体などが抗議行進。若者らは、首都メヒコ市と保養地アカプロコを結ぶ自動車道を2時間遮断、政府と社会に真相解明を訴えた。

 メヒコ市ではアステカ競技場で、ロックバンド14グループが「43人のための声」と題して無料演奏会を催した。支援者らは「43人は生きたまま連行されたのだから、生きたまま生還せねばならない」の合言葉を唱えた。

 9月26日には事件発生丸2年となるが、事件未解明のまま、その日に至る気配が濃厚だ。

★ラ米短信  ハバナで8月26日、第28回玖中経済通商合同委員会が終わった。両国は、李克強中国首相の9月訪玖の準備に入った。

 安倍首相は9月末の訪玖を計画しているが、これに先立って中国首相がクーバを訪れることになるもよう。

▼ラ米短信  オンドゥーラス(ホンジュラス)のマヌエル・セラヤ元大統領は8月25日、来年の大統領選挙に夫人のシオマラ・カストロが出馬すると表明した。

 セラヤは2009年クーデターで政権を追われた。亡命先からの帰国後、自由・再建党(LIBRE=リブレ)を結党、13年の大統領選挙にシオマラ夫人を出馬させた。だがフアン・エルナンデス現大統領に敗れた。

 雪辱を果たすため再度出馬するわけだが、リブレ党内には出馬予定者もおり、セラヤ夫妻の「党私物化」を非難する声が上がっている。