船は、一日かけてパナマ運河を通航した。記者時代に取材で1回、ピースボートでは7回目、計8回目の通航であり、新鮮さはない。来年末ごろ完成見込みの第三閘門式水路は通航してみたい。
運河を出て、舵は南に切る。パナマ市新地区ヌエバパナマのスカイラインが海上に浮かぶ。4月にこの国の地下鉄第1号が新地区で開通したばかりだ。太平洋に出た。日本が近づいた。その意識が台頭する。
コロンビア沖を南下する。イルカが浮沈する。トビウオが舞う。海鳥がやって来る。ある日の未明、赤道を越えた。エクアドール。キトとガラーパゴス諸島を結ぶ、目に見えない赤い船が脳裏に刻まれた。フンボルト寒流を横断するから、気温が下がり、寒くなる。ペルー情勢を語り、アンデス音楽を紹介した。
カヤオでは、写真家義井豊、曲芸娘メリーナ、料理評論家枝元なほみが下船した。義井豊に連れられてリマ中心街、サンクリストーバル丘、ラルコマルを散策する。一日休養してから、メリーナのいる郊外のビーヤ・エルサルバドールを訪れる。団長のアナソフィアに再会する。振る舞われたキヌアと、アロス・ア・ラ・ハルディネーラがうまかった。
最終日は政治評論家やベテラン記者に会い、ペルー情勢を取材する。ケイコ・フジモリは今のところ、次期大統領有力候補の一人だという評価だ。ケイコに会うつもりだったが、アンデス高地で遊説中とのことで、会えなかった。
リマに来るたびに、新自由主義のビル街の拡大を見る。新自由主義街と、それを十重二十重に囲む巨大な貧困地帯の対峙する異様な光景は威圧的ですらある。
船の職員が、『ウーゴ・チャベス ベネズエラ革命の内幕』をカヤオに運んでくれた。初めて手にし、出来映えを見た。
カヤオを出て2日目、ラパヌイの青年エンリケが歌い、踊り、語った。去年のマリオ・トゥキとは、またひと味違うたたずまいだ。彼を招いてラパヌイとポリネシアの音楽を紹介する企画が待っている。チリ情勢を語った。ラパヌイ到着前に「太平洋とはどんな海か」の前編を語る予定。
好天だが、海は荒れている。トビウオがまた舞っている。(5月21日記)