2016年3月31日木曜日

コロンビア政府とゲリラELNが和平交渉開始で合意

 半世紀余り内戦を戦ってきたコロンビア政府とゲリラ組織ELN(民族解放軍)は3月30日カラカスで、和平交渉を正式に開始することで合意した、と発表した。ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領が仲介した。

 双方は2014年初めから隣国エクアドールで極秘裡に予備交渉をしてきた。ELNより規模の大きいゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は2012年から正式交渉を続け、近い将来、和平協定調印に漕ぎつける見通しとなっている。ELNは、FARCとの同時並行的な和平交渉を望んでいたが、政府と政府軍の内部に、ELNとは交渉せずに壊滅させるべきだという考えがあって、正式交渉開始が遅れていた。

 JMサントス大統領は30日、まずELNは拉致・誘拐した人質を解放すべきで、それなしに交渉は軌道に乗らない、と述べた。政府とELNの和平交渉は当面エクアドールで続けられるが、ラ米の他の国で行われることもありうるという。ベネスエラの他、クーバ、ブラジル、チレ、ノルウェーが交渉の「支援国」となっている。

 合意発表に立ち会ったマドゥーロ大統領は、2007年、当時のウリーベ・コロンビア大統領から故チャベス・VEN大統領が和平交渉仲介を委託された経緯を想起し、政府とELNを祝福した。

▼ラ米短信  国連「奴隷制度および太平洋越し奴隷貿易の犠牲者を記念する国際日」の3月30日、カリブ共同体(CARICOM)加盟諸国は、奴隷制度と先住民殺戮への謝罪と賠償を旧宗主国・英仏蘭に要求すると表明、クーバが支持を打ち出した。

 この国際日は2007年に制定された。

▼ラ米短信  チレ高裁は3月30日、ミチェル・バチェレー大統領の父親、故アルベルト・バチェレー空将を拷問した元軍政士官2人に禁錮4年の実刑を言い渡した。

 同空将は、1973年9月11日、ピノチェー陸将らによる軍事クーデターが起きる前、加担を拒否、アジェンデ合憲政権の要職を務めていた。このため政変直後に逮捕され、拷問が元で心筋梗塞になり、1974年4月死亡した。

 一方、最高裁は30日、軍政下で苦しんだ元政治囚649人に、一人当たり4400米ドルに支払うよう、政府に命じた。  

LATINA:「メキシコでDHローレンスと喧嘩したSモーム」

◎3月の伊高浩昭執筆記事など

★月刊誌「LATINA」4月号(3月20日刊)「ラ米乱反射」連載第120回

「メキシコでDHローレンスと喧嘩したSモーム  第1次大戦期にサモアでスパイ活動」

【文学散歩。昨年末に訪れたサモアで、100年前この島でスパイ活動した英国人作家サマーセット・モームに思いを馳せた。
モームはメキシコでは同国人作家DHローレンスと馬が合わず、互いに扱き下ろす関係になった。】

☆書評:エルナン・コルテス著『コルテス報告書簡』(伊藤昌輝訳、法政大学出版局、7400円)

【500年前アステカ王国を倒した征服者がスペイン国王に書き送った厖大な書簡から、当時の様子が生き生きとわかる】

★月刊誌「世界」4月号(3月8日刊、岩波書店)

論文「半世紀におよぶ内戦終結の黎明を迎えるコロンビア  政府とゲリラ組織が和平協定調印へ」

★毎日新聞国際ニュース面「Bオバーマ米大統領クーバ訪問」記事関連

3月22日付朝刊「一口談話」、23日付朝刊「解説談話」

★「週刊読書人」3月18日号

書評:『コルテス報告書簡』「混血メキシコ誕生の残酷な歳月を綴る  時空超えた異文化理解に貢献する労訳」

★映画「エスコバル 楽園の掟」(3月12日公開)
配給会社トランスフォーマー制作館内配布冊子:「麻薬王エスコバル  ロビン・フッドとゴッドファーザーを自認した<錬金術師>」

★月刊「映画秘宝」4月号(3月20日刊)「麻薬王エスコバル」解説記事

★トークショー:映画「麻薬王エスコバル」をめぐって(3月9日、セルバンテス文化センター)

2016年3月30日水曜日

ルセフ・ブラジル大統領、友党離脱で弾劾危機深刻化

 ブラジル最大の政党ブラジル民主運動党(PMDB、中道・保守)は3月29日、ヂウマ・ルセフ大統領の労働者党(PT)との政権党連合からの離脱を決め、閣僚6人を引き揚げさせた。大規模な汚職事件との関連で国会で弾劾される危機に直面している大統領は極めて困難な状況に陥った。

 国会下院(定数513)の力学は、4月半ばの審議後、3分の2(342議席)でルセフ弾劾法案を可決する方向にある。大統領とPTは、これを阻止するため最小限でも172議席を確保せねばならない。

 下院が可決した場合、弾劾法案は上院(82議席)で審議されるが、過半数で仮採択されれば、3分の2による最終可決までの180日間、大統領は政権を離れねばならない。

 大統領弾劾が正式に成れば、2018年末までの残り任期を副大統領が暫定大統領として埋めることになる。同年、次期大統領選挙が実施される。現副大統領は、PMDB党首ミシェル・テメル。

 友党離脱を受けてルセフ大統領は、原子力安全首脳会議出席のため予定していたワシントン行きを中止した。PT幹部は、PMDBの決定は、過去4回の大統領選挙で一度も勝てなかった政党を利することになる、と非難した。

 その政党は、PTやPMDBの敵党ブラジル民社党(PSDB、保守・右翼)。90年代から2期、カルドーゾ政権を担った。

 ルセフ大統領は、PSDBが主導する野党陣営は「合憲政権を国会クーデター(弾劾)で打倒しようと画策している」と非難してきた。2009年から連立してきたPMDBの離反によって、弾劾される可能性が高まったのは否めない。

▼ラ米短信 ベネスエラ国会は3月29日、「恩赦法」を可決した。1999年2月発足したチャベス前政権以来17年間に有罪となり収監されたり、起訴されたが逃亡中の「政治的犯罪者」が対象で、計5000人が恩恵を受けるとされる。

 ニコラース・マドゥーロ大統領は同日、この法は殺人者、犯罪者を擁護するものであると糾弾、署名拒否の意向を表明した。「恩赦対象者」に2014年の街頭暴動事件を教唆した政治家ら極右勢力が含まれているのを、大統領は暗に指摘した。

 国会は今年初めから、保守・右翼野党連合MUDが3分の2近い圧倒的多数を占めている。少数政権党ベネスエラ統一社会党(PSUV)は、「恩赦法」を獄中にいる身内救済のための「お手盛り免罪、無処罰主義」、と批判している。

 

2016年3月29日火曜日

コロンビア内戦終結で政府とFARCが新行程表策定中

 半世紀余り内戦を続けてきたコロンビア政府とゲリラ組織FARC(コロンビア革命軍)は3月23日を「和平協定調印期限」としていたが、調印は延期された。

 FARCの最高指導者ティモチェンコ司令は22日、FARCは2018年の次期大統領選挙に政党として参加したいため和平を実現させる、と表明。今年16年大みそかから武装解除を始めたい、と提示した。

 これに対し、JMサントス大統領は28日、FARCは武装解除の日程を明確にせねばならないと述べ、大みそかからの武装解除開始と言うFARCの主張に難色を示した。

 だが大統領は、我々は和平交渉の最終過程にあり、和平実現は近い、と楽観的展望を打ち出した。

 コロンビア陸軍司令部とFARC司令部の代表で構成する「実務小委員会」が現在、武装解除など新しい和平実施日程を策定中。

 和平協定の最重要事項で和平実施は、特定地域へのFARCの集結、武装解除、FARC要員の復員(社会復帰)、FARC政党化、同政治参加、という過程を辿る。

 政府は武装解除のための集結場所を既に提示しているが、FARCは、野放し状態にある極右準軍部隊(パラミリタレス)が丸腰になったFARC要員を殺戮する危険性があるとして、政府案を拒否した。これが23日調印が延期された主な理由だ。

 1980年代後半から90年代初めにかけて、当時のFARCの政党「愛国同盟」(UP)は党首2人を含む幹部3000人が秘密警察、準軍部隊、麻薬組織などに殺された。準軍部隊は秘密警察、陸軍、警察、麻薬組織、保守・右翼政財界と連携していた。

 この苦い体験からFARCは、武装解除を警戒している。ハバナで21日、ジョン・ケリー米国務長官はティモチェンコらFARC指導部と会合した席で、米政府は準軍部隊規制に協力する、と約束している。

【参考論文:伊高浩昭「半世紀におよぶ内戦終結の黎明迎えるコロンビア」=月刊誌『世界』2016年4月号掲載】
 

2016年3月28日月曜日

映画「山河ノスタルジア」と「ボーダーライン」を観る

 試写会を梯子した。ジャジャンクー監督の中国映画「山河ノスタルジー」(原題「山河故人」、2015)は125分の長物。カメラの動きや不要な場面の挿入が素人っぽいところがあり、やや気になった。共産党独裁政権が「社会主義市場経済」を採って三十余年、この映画は共産党支配や社会主義をほとんど感じさせない。

 ただ、有産層、知識層らが米加豪など白人支配の資本主義工業諸国に移住する筋から、捨てた祖国・中国の問題点を間接的に描いている。祖国は祖国であり、望郷が生まれる。

 移住した金権主義者の中国人実業家ジンシェンは豪州で暮らしながら、手元から拳銃を離せない。その息子ダオラーは父に愛想を尽かし、父と別れた母タオの居る中国を目指す。

 カナダに移住した女性ミアは白人の夫と離婚し、豪州に住み、ダオラーと出会い、年の差のある恋をする。ダオラーと中国への帰国を試みようとする。

 ジンシェンとタオを争い敗れた青年リャンズーは、その痛手から中国の異境に出稼ぎに行き、炭鉱夫なるが重度の珪肺に罹り、妻子とともに故郷に戻る。入院費用を工面してくれたのは、かつて愛したタオだった。

 このような幾つかの人生が交錯しながら物語は展開する。中国人が金持になって世界に散らばりディアスポラ(華人)化するが、根なし草になりかねないこと、国内に巨大な貧困状況があり、そこから抜け出せない人々が数多いこと、だが国内では人情がまだ健在であること、中国内外での文化の違いの大きさなどが、この作品から感じ取れる。

 急激な変化からは必ず無理が出る、という認識がある。

 登場人物たちがどうなるのか、映画は寸止めで終わる。あとは観る者が想像すれば良いわけだ。★4月23日、東京渋谷文化村のル・シネマで公開される。

              ×              ×               ×

 ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の米作品「ボーダーライン」(2015、121分)は、米墨国境3200kmの中央部エルパソ・フアレス市の国境、その西方にあるアリゾナ州ノガレス・ソノラ州ノガレスの国境が主要舞台。

 原題は「シカリオ」。ラ米スペイン語で「職業的殺し屋」を意味する。この映画の冊子が訳しているような「暗殺者」ではない。ニュアンスが違う。事実上の主人公は「殺し屋」を演じ、強烈な存在感を見せているベニチオ・デルトロだ。

 主人公は女性FBI捜査官の女性(エミリー・ブラント)。メヒコの麻薬マフィア殲滅を狙って奇襲攻撃をかけるCIA殺戮部隊の凄惨な流血劇の中で、女性捜査官は「作戦にはFBIのお墨付きがある」証拠として利用されたのだが、感傷的に描かれている。

 非人道的な凄惨さに「人間味」「現実味」を与えるため、敢えて女性を主人公にしたのだろう。もちろん女性客にそっぽを向かれない用心もあろう。彼女が戦闘の最前線に出ること自体、虚構性を感じさせ、観客を安心させるのかもしれない。

 米墨国境地帯の麻薬絡みの戦闘は、米国という世界最大の麻薬消費国があるから起きている。コロンビアからメヒコに密輸されてくるコカインが米国に密輸されるのを食い止める戦いが実際に行われているのだが、この映画は、殺し屋の協力を得て作戦するCIAを「善」、メヒコを「悪」と位置付ける伝統的、通俗的な捉え方から脱していない。それを補うかのように、デルトロ扮する殺し屋を「元メヒコ検察官」としている。

 人間性の失われた、あるいは人間が破壊された過酷な状況として真っ先に思い当たるのは戦場だ。映画は「麻薬戦争」の戦場を描いている。マフィア要員もCIA要員もみな殺される可能性の高い戦士であり、命の価値はない。だからこそ、女性捜査官が主人公に引っ張りだされたのだ。

 このような映画が人気を博する現代世界の状況は、人間性喪失があたかも当然のことであるかのような錯覚を与える。やりきれない。★4月9日、東京の角川シネマ有楽町、新宿ピカデリーなどで公開される。

 一言付け加える。殺し屋よ、驕るなかれ。シカリオだけでなく、兵士、警官、CIA、麻薬マフィアら皆、驕るなかれ。映画人もジャーナリストも驕るなかれ。  

建設中のパナマ運河第3水路は6月26日開通へ

 パナマ運河庁(ACP)のホルヘ・キハーノ長官は3月27日、建設工事中の同運河第3水路は6月26日に開通する、と発表した。

 当初は、現行運河開通100周年の2014年8月15日に通航開始の予定だったが、工事期間が大幅に延び、2年近く遅れて開通することになった。

 ▼【ラ米短信】アルゼンチン政府は3月27日、ラ米多国籍国テレビ放送「テレスール(南部テレビ)」から脱退する、と発表した。

  このTV放送局は、故ウーゴ・チャベス前ベネスエラ大統領の肝煎りで2005年に開局、その10周年を去年迎えていた。

  チャベスは、強力な米TV網に対抗し、ラ米独自の視点から取材、報道するメディアとしてテレスール開設を友邦に働きかけ、実現させた。ベネスエラ、クーバ、ニカラグア、エクアドール、ボリビア、ウルグアイが加盟している。亜国は16%出資していた。

2016年3月27日日曜日

メキシコ学生43人強制失踪事件から1年半、各地で抗議行動

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市で教員養成学校生43人が警察、麻薬マフィアなどによって強制失踪させられた「アヨツィナパ事件」発生から3月26日で1年半が経過した。

 犠牲者家族、学生、支援団体などは復活祭金曜日の25日、ゲレロ州都チルパンシンゴの大聖堂前に集結、祈りをささげた後、事件未解明に抗議して行進した。

 26日当日は首都メヒコ市中心部のレフォルマ大通りとブカレリ通りが交差する付近の緑地帯に、犠牲者家族、学生らが43人のために苗木43本を植樹。この後、ベニート・フアレス記念碑から憲法広場(ソカロ)まで行進した。

 家族代表は、「政府は事件を忘れさせるため我々を買収しようと試みてきたが、我々は金を受け取っていない。息子たち(失踪学生)に値段などないからだ」と述べた。

 また「エンリケ・ペニャ=ニエト大統領は事件の深刻さを理解しようとしない」と、事件解明に消極的な大統領を非難した。

 この日、全国各地で学生、人権団体、労組、一般市民らによる抗議デモや集会が行なわれた。 

2016年3月26日土曜日

ローリングストーンズが40万人前にハバナで演奏

 英国で1962年に生まれたロックバンド、ローリングストーンズは3月24日ハバナ入りし、25日夜(日本時間26日昼前後)、市内のスポーツ都市屋外ステージで40万人の観衆を前に演奏した。昨年の54年半ぶりの米玖国交再開とバラク・オバーマ大統領の今週初めのクーバ公式訪問を飾る催しだ。コンサートは無料。

★このバンド側は29日、野外ステージに70万人、場外に50万人、計120万人が演奏を聴いたと発表した。

 一方、ブルーノ・ロドリゲス玖外相は24日ハバナでガボンのエマニュエル・ウンゴンデー外相と会談。これに続き、閉鎖されていたハバナのガボン大使館が再開された。近く、ガボンのアリー・ボング大統領が訪玖する。

 クーバ人経済難民の流入が中米で深刻な問題になっているが、パナマ政府は23日、この問題を話し合うため4月、クーバ、中米諸国、エクアドール、コロンビアが副外相会議を開くと発表した。場所と日取りは未定。

 パナマには現在、米国行きを求める玖人難民1600人が滞在、政府は扱いに苦慮している。西の隣国コスタ・リカ(CR)のルイス・ソリース大統領が、玖人難民を今後受け入れないと言明しているからだ。

 CRとパナマは先ごろ、計約1万人の玖人難民をエル・サルバドール、グアテマラ、メヒコの協力を得て、陸路と空路で米国に輸送する一大作戦を完了させたばかり。

 背景には、米政府がクーバ人を優先的に移民として受け入れる1966年施行の「キューバ調整法」および95年の「乾いた足・湿った足」付帯法がある。米領に足を踏み入れれば自動的に移住が認められ、1年後には定住権も与えられる。人材を大量に流出させ玖革命体制を弱体化させるために取られた方策だ。

 だが米玖国交再開で、これらの法規が無意味になったとの判断が米国内で高まり、クーバ政府も廃棄を強く米政府に要求している。「調整法」は施行から40年の今年、廃止が審議される。

 アリゾナ州選出の共和党下議ポール・ゴサーは2月、「調整法」と付帯法の廃止法案を提出。3月にはフロリダ州の同党下議カルロス・クルベロと上議マルコ・ルビオが同様の措置を取った。

 フロリダ州のこの2人の議員はいずれもクーバ系右翼として知られるが、「1980年以降流入してきた玖難民の大多数は、(両議員らが求める)反カストロ派でなく経済難民にすぎない」というのが法案提出の理由だ。両議員は新たに「キューバ移民労働機会法」案を策定した。

 さらに3月23日には、テキサス州の共和党下議ブレイク・ファレンソールドと、民主党下議ヘンリー・クエヤールが廃止法案を提出した。同州は移民流入の盛んな州の一つだ。

 米沿岸警備隊は23日、海上で玖人58人を拘束、身柄をクーバに送還したと発表した。昨年10月1日からの今年度に玖人計2562人をフロリダ海峡で阻止したという。米植民地プエルト・リコも今年度、玖人143人を拘束した。
 
 米統計では、2014年9月末から15年10月初めの昨年度、玖人4万3000人が「調整法」庇護下で米国入りした。前年比77%増。出国者は若者や、米国に家族の居る者が多い。


2016年3月25日金曜日

アルゼンチンで軍事クーデター40周年記念行事、大々的に実施

 アルヘンティーナは3月24日、軍事クーデター発生40周年記念日(国祭日)を迎えた。ブエノスアイレスの五月広場をはじめ全国各地で抗議行進や記念行事が催された。

 「五月広場の祖母たちの会」、同「母たちの会(創設路線)」、逮捕失踪者遺族会などは国会前から7月9日大通りを経て、大統領政庁前の五月広場まで行進した。人々は、軍政に殺された3万2000人余りの犠牲者の顔写真を並べた長い布の幕を掲げながら行進した。

 「祖母たちの会」のエステーラ・デ・カルロット会長は五月広場で声明を読み上げ、マクリ政権は排他的で少数者の権利のためにある、と批判。マクリ政権発足後100日間に10万人以上が解雇されたことなどを糾弾した。

 同「祖母の会」のタティー・アルメイダ会長は、「オバーマ大統領が約束通り機密文書を公開するのを見守る」と表明した。マクリも亜国の機密文書の公開を約束した。

 一方、団体「記憶・真実・正義会合」も左翼や人権団体とともに、国会前から五月広場まで行進した。「調整(首切り)・収奪・弾圧反対、3万人余りの犠牲者はここにいる!」と叫んだ。また、バラク・オバーマ米大統領がこの日、「記憶公園」の「国家テロリズモ犠牲者記念碑」に参ったことに抗議した。

 別の「母たちの会」のエベ・デ・ボナフィニ会長は、会の本部から前政権閣僚らと共にトラックで五月広場に行き、定例の「ロンダ」(周回抗議行動)を展開した。

 フェルナンデス前大統領の息子らが指揮するペロン派左翼青年団体「ラ・カンポラ」は、五月広場で「権利なしに民主はない」と叫び、気勢を挙げた。

 首都のフサイ広場では、政党UCR(急進市民同盟)が、軍政下で殺された国立ブエノスアイレス大学生たちの慰霊板の除幕式を挙行した。

 オバマとマウリシオ・マクリ亜国大統領は24日午前、「記憶公園」を訪れた後、首都を離れ、それぞれ別々に家族と共に保養地バリローチェで過ごした。軍政糾弾行事の中心地ブエノスアイレスを早々と離れた印象だ。

 同地でマクリはオバーマに会い、別れを告げた。オバーマ一行は同日夜、首都郊外のエセイサ空港経由、帰国の途に就いた。米国では、オバーマが23日の晩餐会の場でタンゴを踊ったことに、ベルギー事件の直後に不謹慎だとする批判が出ている。

 オバーマをノーベル平和賞受賞者仲間と見なしている亜国受賞者で人権活動家のアドルフォ・ペレス=エスキベル(APE)は、「24日に亜国に滞在するならば、軍政と米政府との関係を明らかにし、責任を認めるべきだ」という趣旨の書簡を3月初め、米国大使館を通じてオバーマに送付していたことを明らかにした。

 APEは24日には、「過去を記念することは過去に留まることではない。よりよい祖国をついくるため、現在を照らすためだ」と語った。

 また亜国政府が人権擁護を軍政下での人道犯罪に限りがちなことを批判。「人権は鉱山労働者、先住民、幼児、農民、農薬被害者ら広範な問題に及ぶが、これを理解する者が少ない」と指摘した。

 キルチネル夫妻2代12年間のペロン派左翼政権について、「人権問題を自分たちに都合のいいように利用した」と批判した。マクリ大統領に関しては、「新自由主義者であり、人権問題に無関心だ。だから我々はイデオロギー的に政府と対立することになろう」と指摘した。
 
 

タンゴ踊ったオバマ大統領、国家テロ犠牲者記念碑に参る

 バラク・オバーマ米大統領は3月23日、マウリシオ・マクリ亜国大統領主催の晩餐会に出席した。主賓席の前で「ラ・クンパルシータ」を踊った著名なダンサー、モラ・ゴドイは、オバーマを誘い、名曲「頭一つの差で」(ポル・ウナ・カベサ)に合わせて踊った。ミシェル夫人も促されて、男のダンサーと踊った。オバーマは当初「踊れない」と遠慮したが、なかなか上手な足さばきを見せた。

 一夜明けた24日午前、両首脳はラ・プラタ河畔コスタネーラ・ノルテにある「記憶の公園」を訪れ、「国家テロリズム犠牲者記念碑」に参った。この日は、1976年3月24日に起きた軍事クーデターの40周年記念日。

 陸軍司令官ホルヘ=ラファエル・ビデーラ、海軍司令官エドゥアルド=エミリオ・マッセラ、空軍司令官オルランド=ラウール・アゴスティが構成した軍事評議会に始まり、1983年まで7年続いた軍政下で3万2000人が殺された。記念碑には、その名前が刻まれている。

 オバーマ大統領は記者団の前で、「あなた方、犠牲者の遺族の、真実と正義を求める尽力によって、過去が<ヌンカ・マス=二度と再び>繰り返されてはならないこととして記憶されることになった」と、遺族らを讃えた。

 さらに、ジミー・カーター大統領は人権が米外交の基本的要素であることを認識していたと指摘しながら、米外交が人権擁護で後れを取ったことがあったとし、「アルヘンティーナの場合がそうだ」と述べた。

 その上で、「我々は歴史と向き合わねばならない。歴史を明確にする倫理的責任を米国は負っている」と認めた。ニクソン、フォード両政権下で国務長官を務めたヘンリー・キッシンジャーが亜国軍部を支援していた事実は既に明らかにされている。

 マクリ大統領は、オバーマに「亜国にとって、このような重要な日に滞在してくれてありがとう」と表明。オバーマが、亜国軍政の人道犯罪などを記録した米国の軍事・諜報関係の機密文書の解禁を決めたことに感謝した。
 
 マクリはまた、「我が国の歴史上、最も暗い時期をつくった軍事クーデターから40年が過ぎた」と言い、「この日は<国の真実と正義の記念日>だ」と指摘した。

 続けて3月1日の亜国国会開会日の演説で自分が、「政治的・制度的暴力を二度と繰り返してはならないと声をそろえて叫ぼうと国民に呼び掛けた」ことを強調した。

 この日、亜国メディアは40年前のクーデター発生と、その後の人道犯罪のすさまじさなどを一斉に伝えた。「五月広場の祖母たちの会」や「五月広場の母たちの会」はこの日、大統領政庁前の五月広場で記念行事を催した。

 オバーマは、1990年代に大規模なテロ事件に遭ったイスラエル協会とイスラエル大使館も訪れると伝えられる。その後、一行はアンデス山脈の保養地バリローチェに飛び、24日夜、エセイサ国際空港から帰国の途に就く予定。

2016年3月24日木曜日

ペルー選挙審議会がケイコ・フジモリ候補排除要請を却下

 ペルーの特別選挙審議会(JEE)リマ支部は3月24日、大統領候補ケイコ・フジモリが「集票のため金品を有権者に渡していた」との訴えを根拠がないとして却下した。4月10日の大統領選挙第1回投票まで2週間余り、ケイコ候補は危ういところでひ踏みとどまった。

 JEEが訴えを認めれば、出馬資格は剥奪される。既に有力候補だったフリオ・グスマン、セサル・アクーニャがJEEによって出馬を取り消されている。グスマンは自党内の予備選挙が選挙法に違反していたのが理由。アクーニャは現金を渡していた。

 選挙まで3週間だった20日公表された支持率調査によれば、ケイコ(人民勢力)31%、ペドロ=パブロ・クチンスキ(PKK、改革を目指すペルー人)15%、アルフレド・バルネチェア(人民行動党)およびベロニカ・メンドサ(拡大戦線)各12%、アラン・ガルシア(人民同盟)が上位5人。

 過半数得票者がなく6月5日の決選が実施される公算が大きく、ケイコの進出は堅いと見られている。その相手はPPK、バルネチェア、メンドサの3候補のうちの誰かになると予想されている。

 反フジモリ派はJEEに裁定に期待していたが、JEEが訴えを却下したため、決選で反フジモリ戦線を構築しようと全国的なケイコ攻撃運動を展開している。父親アルベルト・フジモリ元大統領の政権期(1990~2000)にあった政府による人道犯罪、公金横領などが盛んに持ち出され、攻撃に使われている。

 だが財界など保守勢力は、ケイコが基本的には新自由主義経済路線であるため、特にケイコに反対する動きは示していない。反ケイコ勢力は、ケイコが大統領になって、受刑中の父親を恩赦で釈放するのを警戒している。

 調査によると、決選でケイコは優勢だが、相手がPPKになった場合、負ける可能性があるという。PKKならば、反フジモリ=ケイコ票を吸収できるから、とされている。 

オバマ米大統領がマクリ・アルゼンチン大統領に「同盟関係」強調

 バラク・オバーマ米大統領は3月22日午後訪玖を終え、ラウール・カストロ議長に見送られてハバナを出発、23日午前1時過ぎ、ブエノスアイレスのエセイサ国際空港に到着、亜国外相の出迎えを受けた。

 カサ・ロサーダ(亜国大統領政庁)で23日午前、マウリシオ・マクリ大統領と、2国間関係、ブラジル情勢、ベルギーテロリズム事件などについて会談した。両国は安全保障、麻薬取締り、通商に関する協力協定に調印した。

 首脳会談後の記者会見で、マクリはベルギー事件犠牲者のため1分間黙祷を、と切り出し、「アルヘンティーナが新しい地平線を切り開きつつある時にオバーマ大統領が来訪した」と歓迎。

 オバーマが、亜国側の要請に応じて、1976年の軍事クーデター40周年(3月26日)に合わせて、軍政期の人道犯罪や、米政府と亜国軍政との関係に関する米政府機密文書の解禁を決めたことに「真実を知るのに貢献する」と謝意を表明した。

 次いでオバーマが発言。亜国は同盟国であり地域の主導国と讃え、「マクリ大統領の最初の100日間は印象的で、素早く包含的、持続的経済政策を打ちだしたと評価。さらに、亜国は地域だけでなく国際社会の指導国になり得、協働していきたい、と持ち上げた。

 記者団との質疑では、ベルギー事件とブラジル情勢に関する質問が目立った。オバーマはベルギー事件については、「世界は反テロリズムで団結すべきだ。シリア和平でも協働したいとマクリ大統領は提言した。IS潰しは最優先課題だが、その実行方法が問題だ。広範な空爆はかえってIS勢力を増幅させることになる。金融締め付けであるとか、機能する方法が重要だ」と述べた。

 終わりつつある施政を問われたオバーマは、「経済を強化した。外交面の成果はクーバは一例にすぎない。イランでもある。だがシリア和平は実現していない。北朝鮮の核兵器問題もある」と答えた。

 マクリは、オバーマ大統領のクーバ訪問を評価して、「クーバの若い世代に自由についての討論を活発化させる」と述べた。また「亜国は国際社会と協働しないと駄目だ。孤立はいけない」と述べ、暗にペロン派左翼の前政権との違いを指摘した。

 ブラジルについて両首脳は、「我々は強力な友邦ブラジルを望んでいる」という点で同意見だった。過去の亜国軍政との関係で謝罪する気があるかと問われたオバーマは、「過去の米国とラ米との関係を逐一顧みるつもりはない」と交わした。

 1時間近い記者団との会合の後、オバーマ大統領は、政庁近くにある大聖堂とサンマルティン廟を訪れた。この大聖堂は、フランシスコ法王がミサをしていた。オバーマは若者との会合では、社会主義とか資本主義とかイデオロギーに囚われずに実践的に生きるべきだ、と忠言した。

 玖亜歴訪でのオバーマ発言を点検してきたベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は23日カラカスで、米政府はラ米への干渉メカニズモを復活させようとしている、と批判した。

 一方モスクワでは、セルゲイ・ラブロフ露外相が、玖米首脳会談を支持。ベネスエラについては、外部から干渉されており、ロシアは事態を注意深く見守っている、と述べた。 
 
 

2016年3月23日水曜日

オバマ大統領がキューバ訪問終えアルゼンチンに向かう

 バラク・オバーマ米大統領はクーバ滞在最終日の3月22日も忙しい日程をこなした。ハバナ市内にある野球場、ラ米スタジアムで、大リーク、タンパベイ・レイズと玖ナシオナルチームの親善試合をラウール・カストロ議長と並んで1時間余り観戦した。

 そこに、友好行事に水を指す大事件の一報が入った。ベルギーでの連続テロリズムだ。大統領は直ちに、「テロ事件は挑戦であり、事件の重大性を理解する。だが脅迫に屈してはならず、我々の日常を中断させてはならない」と述べ、ラ米2ヵ国歴訪を続行することを確認した。これは米国内にある「帰国すべきだ」との批判的意見に応えたもの。

 大統領は野球場を離れてからベルギーのシャルル・ミシェル首相と電話会談し、弔意と連帯を表明、事件捜査への協力を伝えた。

 試合は4時間に及び、タンパベイが4対1で勝った。球場には招待された往年のクーバ人大リーガー、ルイス・ティタント、ホせ・カルデナル、元ヤンキースのデレク・ジーター、初の大リーグ黒人選手・故ジャッキー・ロビンソンの妻ナンシーと娘、コロンビア和平交渉を続ける政府とFARCの代表らも、両首脳の近くで観戦した。

 オバーマはロビンソン夫人ナンシーについて、「共にここで観戦できるのは誇りだ」と述べ、ジャッキーと「野球の力」を讃えた。球場の壁には「スポーツは革命の成果」の文字が描かれている。クーバTVは、「両国は好敵手同士だが、野球という共通の情熱で団結する」と謳った。

 大統領は米大使館内で、クーバ反体制派活動家および批判者17人と会合。その後、記者団に、「彼らの勇気を讃える」と述べた。「この問題(基本的人権)は引き続き両国間の懸案として続く」とも語った。

 オバーマは次いでハバナ大劇場に移動、クーバ人向けに演説した。「法治国家は、基本的権利を行使する市民を一方的に逮捕してはならない」と述べ、自らの人権に関する立場をクーバ政府にあらためて伝えた。

 大統領は22日午後、ラウール議長らに見送られてハバナ空港を出発、ブエノスアイレスに向かった。20日のハバナ到着時に出迎えなかった議長が見送ったのは、クーバにとって大統領来訪が有意義だったことを示している。

 一方、オバーマを迎えるマクリ亜国政権は、ベルギー事件発生に伴い、国内に厳戒態勢を敷いている。

 ハバナでは玖米友好行事として、ローリングストーンズや、ミネソタのセントオラフ・ジャズバンドの演奏が予定されている。

【参考:23日付毎日新聞オバーマ訪玖関係ページに、伊高談話が掲載されている。】
 

2016年3月22日火曜日

オバマとラウール・カストロが国交正常化深化に向け会談

 バラク・オバーマ米大統領は3月21日、ハバナ市中心部の革命広場にあるホセ・マルティ像に献花、訪玖公式日程に入った。マルティ記念館では、「祖国独立に命を捧げたホセ・マルティに表敬するのは大いなる名誉だ。彼の自由、独立、自決への情熱は現代のクーバ人民の中に生きている」と記帳した。

 続いて同広場に隣接する革命宮殿で、ラウール・カストロ国家評議会議長と会談した。オバーマが「人権問題」改善を求め、ラウールは経済封鎖解除やグアンタナモ米軍基地の返還を求めた。従来からの平行線の主張をし合ったわけで、儀式的だった。

 だが両首脳が直接会うのは、ネルソン・マンデーラ葬儀、パナマ市での米州首脳会議、国連総会に次いで4度目。信頼関係は着実に醸成されている。

 双方の実務者は首脳会談後、農産品貿易、農業生産性、食糧の安全性などに関する農業協力覚書に調印した。

 両首脳は革命宮殿内で内外記者団を前に演説した。オバーマは12分45秒で、「両国間には相違点が多く、それゆえに対話を望む。だがクーバの運命を決めるのはクーバ人だけだ」と強調した。これは「内政干渉」批判に対する発言だ。

 大統領はまた、「我々はクーバの保健と教育の成果を認める。だが民主、人権、宗教などの問題に触れないわけにいかない」と述べた。

 外交面で大統領は、コロンビア和平交渉へのクーバ政府の貢献を讃える一方、ベネスエラ政府は人民の要求を受け入れるべきだと、従来通りベネスエラに厳しい姿勢を示した。

 ラウール演説は13分52秒。米国による経済封鎖を批判、大統領の封鎖緩和政策を評価しながらも「不十分」と指摘し、封鎖全面解除が国交正常化深化の基本条件だと強調した。

★日本の某紙はハバナ発で、ラウールが「経済制裁」緩和と発言したと報じているが、とんでもない誤りだ。クーバは経済封鎖(ブロケオ)を絶対に制裁(サンシオン)とは言わない。米政府に制裁されるいわれはないとの立場だからだ。米政府も「禁輸」(エンバーゴ)という場合が多い。独りよがりな制裁好きの日本人記者は、ハバナまで行っても学んでいないようだ。

 ラウールはまた、グアンタナモ基地の不法占拠に触れた。さらに「地域の平和と安定が重要だ」として、米国のベネスエラ不安定化政策を非生産的と批判した。

 その上で、「玖米両国は相違点を尊重し合いながら平和共存を図るべきだ」と呼び掛けた。

 演説終了後、オバーマは「ラウール、国際記者団との初めての記者会見をやらないか」と切り出し、ラウールも仕方なく応じた。すると、米CNNが、「政治囚をなぜ解放しないのか」と質問。ラウールは声を高め、「政治囚がいると言うなら、その名簿を示しなさい。それがまっとうな名簿なら、今夜にも釈放する」と応じた。(マイアミのクーバ系米国人財団=CANF=本部は、これを受けて47人の名簿をメディアに提示した。)

 オバーマに「もう一問」と促された米NBCは、「人権問題」をラウールに質問した。議長は、「人権は擁護している。人権を政治化してはならない。クーバは人権に関する国際条約61のうちの47に加盟している。いったい、どれだけの国がこれほど多く加盟しているだろうか」と返した。

 ラウールは続けて、「男女同一労働・同一賃金」の原則があるが、「その場合クーバでは女性の賃金の方が高いのだ」と強調した。

 次いで「私にばかり質問が来たが、オバーマ大統領にもすべきだ。諸君が私に500もの質問をしたことはわかっているが」と冗談を言い、記者発表を終えた。

 大統領はこの後、米財界人、クーバ国営企業幹部、クーバ人自営業者代表らと会合し、「クーバ経済は変化しつつあり、米国はその過程に付き合う」とし、だからこそ禁輸措置などを緩和してきたと述べた。

 米グーグル社は21日、クーバのパソコンよりも70倍も速い電脳サービスを無料でクーバ人に提供する40人入りのサービススタジオをハバナに開く準備を進めている、と明らかにした。オバーマはこの日の演説で、「クーバが21世紀経済に参加し、クーバ人民が発言しやすくするためには、インターネットへの広範な接近が必要だ」と指摘している。

 会合に経営者が出席した米CLEBER社は、ハバナ西方のマリエル経済特区への進出を決めた最初の米企業。トラクターを製造する。

 米電信会社ウェスタンユニオンは21日ハバナで、今年後半、世界中のあらゆる地域からクーバへの電信為替送金サービスを開始する、と発表した。現在、同社はクーバ国内490カ所にサービスセンターを持つ。2013年に海外から送金された金額は28億ドルで、うち9割は米国からだった。

 ハバナでは21日、第3回商談見本市(エクスポクーバ)が始まった。

 タンパベイの親善試合のためハバナを訪れているMLBコミーッショナー、ロジャー・マンフレドは21日、クーバ人野球選手の米国行きが正常化されるのを願っている、と述べた。

 やはりハバナに来ている元ヤンキース遊撃手、デレク・ジーターは、「クーバ人選手は優れている。米玖両国民には野球の血が流れている」と語った。

 一方、ボリビアのエボ・モラレス大統領は21日、「米国が経済封鎖を全面解除し、グアンタナモ基地を返還した時、オバーマ訪玖がショーでなく実体化する」と指摘した。

 オバーマに同行しているジョン・ケリー国務長官は21日、ハバナで内戦和平交渉中のコロンビア政府代表団と、FARC代表団と別個に会合した。和平交渉の進展度を確認するためという。

 最高指導者ティモチェンコも出席したFARCは、米政府の和平交渉支援に謝意を表明、和平実施過程で最大の阻害要因になると懸念されている極右準軍部隊(パラミリタレス)取締りへの米国の協力を要請した。

 

2016年3月21日月曜日

オバマ大統領ハバナ到着、ラウール・カストロ議長は出迎えず

 バラク・オバーマ米大統領は3月20日夕刻、大統領専用機でハバナに到着、ブルーノ・ロドリゲス外相をはじめクーバ高官らの出迎えを受けた。大統領一行は大統領家族、ジョン・ケリー国務長官ら政府高官、上院議員8人、下院議員31人、実業家11人ら約800人が同行している。

 大統領は、ハバナ到着後、「歴史的訪問、歴史的好機だ。クールリッヂ大統領は軍艦で3日かかったが、私は3時間で到着した」とtwtを発信した。

 カルヴィン・クールリッヂ大統領は1928年、汎米首脳会議出席のためハバナを訪れた。オバーマは、以来88年ぶりの米大統領の訪玖であることに触れたのだ。クーバ革命を起こしたフィデル・カストロ前議長は88年前は1歳半だった。

 大統領は、「ここ(クーバ)に居ることは素晴らしいことだ。クーバ人民との関係を築く好機だ」とも発信した。

 オバーマは家族とともにハバナ市内で米大使館員の挨拶を受けてから、ユネスコ世界遺産の旧市街を、歴史家エウセビオ・レアルの案内で散策。カトリック大聖堂では、米玖正常化に尽力したハイメ・オルテガ大司教兼枢機卿と会った。夜は、民間レストラン「サンクリストーバル」で家族と夕食を取った。

 旧市街には、ラウール・カストロ国家評議会議長とオバーマ大統領の肖像入りの歓迎ポスターが数多く貼ってある。星条旗を手に大統領を歓迎する市民もいた。市内は大統領来訪で持ち切りだ。

 一方、マイアミのリトゥル・ハバナでは20日、反カストロ派クーバ系数百人が「大統領訪玖は裏切り行為だ」と叫んで気勢を挙げた。ハバナでは大統領到着前、反体制派女性組織「白衣女性」の約50人が街頭デモをしようとして警察に規制された。

 クーバ法律家連盟(UNJC)は20日、東部のグアンタナモ州カイマネーラ市にあるグアンタナモ米軍基地の違法性を指摘し、返還を求める声明を発表した。

 ラウール議長は21日、オバーマ大統領と会談する。議長が空港で出迎えなかったのは、ベネスエラ変革政権を揺さぶり、平和裡のクーバ体制転換を目指し、ハバナで22日反体制派代表と会合するオバーマ大統領への明確な牽制だ。

 議長は、オバーマ政権が打倒しようとしてきたマドゥーロ・ベネスエラ政権への「無条件支持」を打ち出している。議長とニコラース・マドゥーロ大統領は18日ハバナで会談し、両国の結束を確認、強調した。

 ボリビアのエボ・モラレス大統領はオバーマ訪玖に先立つ19日、南米右翼は米国の支援を得て域内の民主的・平和的革命政権を倒そうとしている、と非難。右翼は「ヂウマ・ルセフ大統領を弾劾し、ルーラ前大統領の政治生命を断とうとしている」と、ブラジルの例を挙げた。

  米ホテルチェーン、スターウッドは19日、ハバナ市内にあるホテル2カ所を買収し運営することでクーバ側と合意した。

2016年3月20日日曜日

オバマ米大統領キューバ訪問、きょうハバナ入り

 バラク・オバーマ米大統領は3月21~22日のキューバ公式訪問に先立ち20日、ハバナ入りする。ハバナでは旧市街を中心に大統領来訪に備えて進められていた道路舗装、建物の壁の塗り替えなどの街化粧が大方済んでいる。土産物店には、米国と敵対した革命家、故チェ・ゲバラとオバマ大統領の肖像が並んでいる。

 米インターネット大手グーグルのヴィントン・サーフ副社長は18日、ハバナで開かれた第7回国際電気通信シンポジウムで講演、「オバーマ大統領訪問を機にインターネットサービスの対玖規制が解除されるのを期待する」と述べた。また、「クーバ人は創意に富んでおり、規制は技術革新を妨げる」と指摘した。

 玖米両国は18日ハバナで、水路学、測量学、海洋観測などで協力する議定書に調印した。

 クーバの人気TVユーモア風刺番組「語って生きる」で進行役「パンフィロ(愚鈍)」として主演する俳優ルイス・シルバは19日、番組中、ハバナで22日実施される米大リーグのタンパベイ・レイズと玖ナシオナルチームとの試合当日、「雨になるかどうか気象台に訊いてみよう」と電話をかけた。

 すると、ホワイトハウスにつながり、本物のオバーマ大統領が「クーバのパンフィロだと! 本当か?」とスペイン語で答えた。大統領は、「早く訪玖したい。米玖両人民は友人同士だからね」と続ける。両国政府連携の情宣の一こまだった。

 友好に一役買う英ロックバンド、ローリングストーンズのプロデューサー、ダーレ・シェルセスも19日ハバナで、「クーバ人は我々のコンサート以上の音楽行事を今後観ることはないだろう」と豪語した。コンサートは25日、ハバナのスポーツ都市の野外ステージで観衆40万人を集めて催される。

 一方、クーバ共産党機関紙グランマは19日、革命防衛委員会(CDR)の声明を発表。「我々CDRは14歳以上の市民の91%が参加するクーバ最大の市民社会だ」と前置きし、革命体制と社会主義を守る意志を強調しながら、「オバーマ大統領来訪を歓迎する」と表明した。これはクーバ政府の立場を代弁している。

 クーバを18日公式訪問したベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領はラウール・カストロ国家評議会議長と会談。その後、両国間で2016~30年の長期経済協力に関する協定の調印式が催された。エネルギー、医療、都市菜園を含む農業、鉱業などが重点項目。

 ラウール議長からクーバの対外最高勲章「ホセ・マルティ国家勲章」を授与されたマドゥーロ大統領は、「ベネスエラは(米国に仕掛けられている)非通常型戦争に屈しない。シモン・ボリーバルのベネスエラとホセ・マルティのクーバは<血の同盟関係>にある」と述べた。

 マドゥーロは19日、フィデル・カストロ前議長を邸宅に訪ね2時間半会談し、帰国した。

 オバーマ大統領はクーバ訪問後アルヘンティーナを訪れるが、マウリシオ・マクリ亜国大統領は就任100日となる20日を前に19日、「仏大統領、伊首相の来訪に続いて米大統領が来る。アルヘンティーナは国際社会に復帰した」と語った。

2016年3月19日土曜日

オバマ来訪前にキューバがベネズエラと対米牽制演出

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は3月18日未明、ハバナに到着、空港でミゲル・ディアスカネル第1副議長の出迎えを受けた。大統領とラウール・カストロ議長は18日会談し、クーバが4月中旬の第7回共産党大会で決める2016~30年15年計画への原油援助をはじめとする両国間の協力関係について話し合い、協定を結ぶ。

 だがバラク・オバーマ米大統領が20日~22日、歴史的なクーバ公式訪問を実施する直前のベネスエラ最高指導者の訪玖に政治的、外交的狙いがあるのは明らかだ。

 オバーマは3日、昨年3月9日に出した政令を1年間延長することを決めた。「ベネスラは米国の安全保障にとって脅威であるため、米国は非常事態を発動する」という内容。この突拍子もない政令にベネスエラだけでなく国際社会はあきれはて、米政府を厳しく批判した。クーバとベネスエラを分断し、マドゥーロ政権潰しの圧力をかける狙いが見え見えだからだ。

 ラウール議長は政令延長の報を受け「ベネスエラへの無条件支持」を表明した。だがオバーマは続いて14日、「ベネスエラには誰もが正統と認める政府が必要だ」という趣旨の発言で、マドゥーロ政権崩壊を期待する、あからさまな内政干渉をした。

 ベネスエラ国会で圧倒的多数を占める保守・右翼政党連合は、米政府の措置や発言に勇気づけられて、政府への対決姿勢を先鋭化させている。

 ベネスエラ政府、政権党PSUV、国軍などは、オバーマ政権に激しく反駁、米国や野党への敵愾心を顕わにしている。

 一方、オバーマを迎えるクーバは、オバーマがハバナで反体制派代表とも会合するのを快くは思っていない。平和裏にクーバ社会主義体制を転覆させる「和平演変」策をオバーマが公言してきたのを承知の上で対米国交を再開、オバーマを迎え入れるわけだが、来訪直前に社会主義体制厳守という基本的立場を新たに内外に向け鮮明にしておくのが得策だ。

 ラウールは、マドゥーロをこの時期に迎えたことで、フィデル・カストロ前議長と故ウーゴ・チャベス前大統領が築いた両国の思想的同盟関係を敢えて誇示した。

 マドゥーロはハバナで、オバーマが会わない予定のフィデルとも会談するが、これによってクーバとベネスエラの「対米共通姿勢」を国際社会にあらためて示す。

 ベネスエラのラファエル・ラミーレス国連大使は17日、米国はラ米を親米派とそうでない派に分断しようとしている、と非難した。オバーマはクーバに続いて訪問するアルヘンティーナのマクリ保守・右翼政権を南米外交の新しい同伴者に選んでいる。ベネスエラは、チャベス派変革政権を潰し、マクリ政権を南米での新自由主義路線復活の象徴にするのが米国の意向と見ている。

 ベネスエラ最高裁は18日、マドゥーロ政権が発動中の「経済非常事態」を60日間延長するのを認めた。国会が17日延長を拒否したのを覆した。

 ベネスエラ原油は18日、1バレル=30・75ドルだった。先週末より1ドル上がっている。

2016年3月18日金曜日

米ドル決済実施確認後に10%税を廃止、とキューバ外相言明

 クーバのブルーノ・ロドリゲス外相は3月17日ハバナで記者会見し、バラク・オバーマ米大統領が15日発表した、米銀行を通じての米ドルによる決済をクーバに認めたことについて、実際に銀行が決済を実施するのを待ってクーバは、米ドルに対する10%課税制度を廃止する、と発表した。この10%税は2004年に導入された。

 外相はまた、オバーマ大統領の大まかな来訪日程を明らかにした。大統領は20日ハバナ入りし、旧市街を散策、大聖堂を見る。21日に公式日程が始まり、ホセ・マルティ像に花輪を捧げ、ラウール・カストロ議長と首脳会談、共同記者発表に臨む。ハバナリブレホテルでの両国経済人会合で演説。夜は公式晩餐会。

 22日にはアリシア・アロンソ=ハバナ大劇場で反体制派を含む市民社会代表と会合、演説する。この演説はテレビで全国中継される。その後、ブエノスアイレスに向かう。

 ロドリゲス外相は、オバーマ大統領は「尊厳を持つ市民が経済・社会開発に打ち込んでいる国、多くの国々にとっては夢想にすぎない成果を挙げた国を見ることになるだろう。訪問は、関係正常化過程で今後数カ月間に歩むべき道を示すのに役立つはずだ」と述べた。

 米大統領が「クーバの市民社会を支援する」と盛んに言っていることに関しては、「ならば経済封鎖を全面解除すべきだ」と返した。

 ハバナでは17日、フィンランドの対玖債権問題を解決する高官会合が開かれ、合意書が調印された。詳細は不明だが、債権をクーバの開発投資に回すことになる可能性がある。

 クーバ税務署は17日、自営業者約1万人が確定申告した、と明らかにした。昨年より11%増えているという。所得税支払いは4月30日まで。収入の10%は控除される。

 ニューヨークでは17日、第2回対玖商談米財界人会合が開かれ、200人が参加した。米国務省高官は、両国間で環境保護協定や民間航空協定が結ばれ、政府間対話が確立したことを成果として列挙した。両国間の直接郵便業務は16日、53年ぶりに再開した。

 因みにオバーマ大統領は22日夜ブエノスアイレスに到着。23日公式訪問開始、在亜・米商業会議所で演説。マウリシオ・マクリ大統領と、亜国建国の父ホセ・デ・サンマツティン将軍の銅像に花輪を捧げてから、首脳会談。その後、共同記者発表する。次いで、青年起業家らと会合。夜は公式晩餐会。

 24日は、1976年のこの日、故ホルヘ・ビデーラ将軍らによる軍事クーデターが起きた40周年記念日。1983年まで続いた軍政下で市民ら3万2000人が殺害された。
 
 オバーマは市内の「記憶公園」の人道犯罪犠牲者記念碑を参拝。クーデターに当時のフォード米政権、とりわけヘンリー・キッシンジャー国務長官らが関与したことについて何らかの発言をすることが予想されている。

 大統領は次いでアンデス山脈の保養地バリローチェに行き、そこから帰国の途に就く。
 
 
 

2016年3月17日木曜日

巨匠オルミの「緑はよみがえる」と、英作品「さざなみ」を観る

 エルマンノ・オルミ監督の「緑はよみがえる」(2014年イタリア、76分)を観た。第1次世界大戦中の1917年冬、イタリア北部アジアーゴ高原の戦線で、敵のオーストリア軍と塹壕戦を展開、迫撃砲の攻撃で劣勢に立たされていたイタリア軍部隊の塹壕が舞台だ。

 映画の締めくくりの言葉は、「戦争とは、大地を絶え間なく這いまわる醜い獣だ」。100年前には第1次大戦が展開され、日本も参戦していた。戦略も戦術も兵器も100年で様変わりしたが、戦争の醜さは同じだ。この本質が伝わってくる。反戦を言わずに反戦を語っている。芸術たるゆえんだ。

 オルミは、第1次大戦に出兵した実父の過酷な体験を基に、この映画製作を企図、戦争の愚かさと悲惨さを若い世代に教訓として引き継がせようと、この作品を世に出した。監督の息子が撮影、娘がプロデューサーをそれぞれ担当している。オルミ家3世代に亘る作品のなのだ。

 雪原と、雪に埋まった塹壕という狭く閉ざされた半地下空間に、生死の狭間で蠢く兵士たちの人間模様が見事に描かれている。監督は、兵士を群像として、個人として、丁寧に描いている。

 ナポリ民謡を切々と歌うイタリア軍兵士は、さらに歌うよう所望されると、「歌は幸福でないと歌えない」と応える。私は、クーバ革命戦争中、マエストラ山脈の戦線で歌を口ずさんでいた黒人の司令フアン・アルメイダ=ボスケ(故人)を思い浮かべた。ヘミングウェイの「武器よさらば」や「誰がために鐘は鳴る」を想起した。

 塹壕という限られた異常な舞台設定で76分、観衆をスクリーンに釘づけにするオルミは、さすが巨匠である。そして多くの場合、巨匠は深く人間的だ。

 この映画は、4月23日(土)から東京・神田神保町の岩波ホールで公開される。ぜひ多くの人々に観てほしい作品だ。2年前の作品だが、文句なく、既に「戦争映画の古典」となった感がある。戦争の本質が描かれているからだ。

             ☆                     ☆                    ☆ 
            
 同じ日、同じ試写会場で、英国映画「さざなみ」(アンドリュー・ヘイ監督、2015年、95分)を観た。結婚45周年を迎えた老夫婦の心に起きた波紋を上手に描いている。主演のシャーロット・ランプリング(70)はスラブ系のような風貌で、雰囲気は故ローレン・バコールに少し似ている。

 夫は結婚前、山の事故で死別した恋人への思いにかられ、妻はそんな夫に嫉妬からか疑念を抱く。美しい田園の生活を背景に、過去と現在が二重のさざ波のように交錯しながら、結婚45周年祝宴の日が来る。

 夫は祝宴の席で「人生最大の選択は妻との結婚だった」と語り、泣き崩れる。2人は司会者に促されて、ザ・プラターズの「煙が目にしみる」で踊る。「いまや私の恋は過ぎ去り、私には恋(恋人)がない」という歌詞がある。妻の表情は踊りの後も冴えない。

 男の古いロマンは時として女の心を傷つけかねない、というのが主題だろうか。私は、この種の物語は本で読む気はしない。だが映画ならば1時間半、楽しめる。4月9日(土)、東京のシネスイッチ銀座で公開される。
 

2016年3月16日水曜日

アルゼンチン巡視艇が逃走図った中国漁船を撃沈

 アルヘンティーナ海事庁は3月14日、同国南部パタゴニアのチュブー州プエルト・マドゥリン沖の排他的経済水域(ZEE)内で違法操業していた中国漁船「ル・ヤン・ユアン・ユ 010」号を臨検しようとしたところ逃走を図ったため、沿岸警備隊の巡視艇ペルフェクト・デルベス号が機関砲を発射、同漁船は沈没した、と発表した。

 発表によると、この漁船は4日前にもZEEを侵犯、巡視艇を振り切って逃走した。巡視艇は14日、漁船を発見するや、無線によりスペイン語と英語で警告、ついで音声や信号で合図を送った。だが公海に向けて逃走を図ったため、接近して砲撃した。漁船は何度も巡視艇に体当たりしようと試みた。

 沈没した際、船長ら4人はボートで脱出、巡視艇が救助した。他の乗組員28人は、付近にいた中国漁船に救助された。死傷者は出ていない。

 船長ら中国人4人を乗せた巡視艇は16日にもマドゥリン港に到着するもよう。最寄りのラウソン市の法廷がこの事件を扱う。

 一方、中国外務省とブエノスアイレスの中国大使館は15日、亜国外務省に厳重抗議し、事件の究明を要請した。中国側は、漁船がZEE内で不法操業した事実には言及していないもよう。

 中国は、フェルナンデス前政権期に亜国にとり最大の貿易相手国、融資源となった。だが昨年12月発足したマクリ政権は対米関係改善を通じ国際金融界復帰を図っており、亜国経済にとって中国は依然重要だが、以前よりは重要性が減る方向にある。

2016年3月15日火曜日

マクリ・アルゼンチン大統領が4月、キューバを訪問か

 クーバと米国が3月16日、両国間の直接郵便業務を53年ぶりに再開させる。共産党機関紙グランマが14日報じた。業務再開は昨年12月10日、合意していた。

 クーバ国営航空クバーナは14日、今月22日から毎週火曜日、オルギン市とドミニカ共和国首都サントドミンゴを結ぶ往復便を就航させる、と発表した。

★ハバナでは14日から15日にかけて、マウリシオ・マクリ亜国大統領が4月初め、クーバを訪問する可能性がささやかれてた。10日にはハバナでブルーノ・ロドリゲス外相が、亜国のスサーナ・マルコーラ外相を迎えて会談している。ブエノスアイレスでは各紙が、マクリ大統領は31日から4月2日までワシントンで開かれる「核安全保障首脳会議」に出席した後、クーバを訪れる可能性があると報じている。

 昨年12月就任したマクリは、クーバとの「脱イデオロギー外交」確立を望んでいると伝えられる。また、ペロン派左翼の故エクトル・カンポラ大統領が1973年にクーバに与えた13億ドルの借款の解決処理も企図しているという。

 この対玖債権は利子が膨らみ、今日110億ドルになっている。クーバに返済能力がないため、マクリは債権をクーバでの開発投資に換えたい考えと伝えられる。

 一方、21~24日、玖亜両国を歴訪するバラク・オバーマ米大統領は14日、米CNNテレビ西語版のインタビューに応じ、「私が政権に就いた時、米国の対ラ米外交は極めて低調だった。チャベス(故ウーゴ・チャベスVEN大統領)やALBA(米州ボリバリアーナ同盟)が勢いづいていた。対玖国交再開は、我が政権の対ラ米外交改善政策の頂点だ」と指摘した。

 大統領は、「当初は私の意図に疑念がもたれていたが、我々は一歩下がってラ米の友邦、非友邦と相互尊重主義で外交的に話し合った。今では米国はラ米で敬意を払われ、仲間として何かをしようという関係になっている」と述べた。

 クーバについては、「カストロ体制下では一夜にして変化がもたらされるとは思わない。今や両国間で旅行、通商、送金などが増えている。次期米政権下で経済封鎖が全面解除されるのを期待する。その解除はクーバが変わるために必要なのだ」と強調した。

 「私の訪玖は譲歩するためでなく、真摯に話し合うためだ。過去に中越露など立場の異なる諸国と話し合ったように」とも語った。

 ベネスエラについては、「誰もが正統性があると認め、かつ経済再建ができる政府を早く選ぶことが肝要だ」と指摘した。

 クーバの後に訪問するアルヘンティーナについては、「マクリ大統領は対米関係改善に関して模範的だ」と前置きし、「フェルナンデス前大統領の政権と米国の関係も丁重なものではあったが、同大統領はイデオロギーに偏り過ぎた。現代でなく60、70年代の論法を使っていた」と批判した。

 オバーマ大統領には850人が随行するが、うち400人は米財界人。米側の対亜経済関係活性化の意気込みを示している。

★オバーマ大統領は15日、クーバ人、法人、政府機関が米市銀を通じて米ドルで国際決済することを許可した。また米市銀が玖人口座を開くのを認めた。いすれも16日発効する。

 大統領はまた、12種類の訪問目的を持つ米国人の訪玖について必要としていたクーバ側からの招待状提示などの事前手続き
を廃止した。12種類に含まれる「教育目的」の訪問者は従来、団体だったが、16日から個人で行けることになった。

 米企業が主催する芸術やスポーツの行事に参加するため短期査証で米国に滞在するクーバ人は、報酬や手当をもらえることになった。

 米当局者は、オバーマ訪玖に先立つ一連の措置について、「クーバ人に機会を与えることによって、米国は利益を得ることになる」と述べ、大統領権限で可能な経済封鎖緩和措置がクーバに変化を促す狙いをもつことをあらためて強調した。

 大統領訪問に合わせて、クーバでローリング・ストーンズが公演し、タンパベイ・レイズがクーバ代表チームと対戦する。

2016年3月14日月曜日

ブラジル各地で大統領退陣を要求するデモ行進実施さる

 ブラジル各地で3月13日、ヂウマ・ルセフ大統領の退陣を要求し、腐敗容疑で起訴されたルーラ前大統領に象徴される大規模な贈収賄・物品授受事件を糾弾する大規模な反政府デモ行進が実施された。ルーラ、ヂウマ2代4期13年余りの労働者党(PT)政権は最大の危機に直面している。

 全国で計100万人が動員されたと見られている。最大動員のあったサンパウロ市では45万人、首都ブラジリアで10万人、リオデジャネイロ市で8万人、ベロオリゾンチ市で3万人など。2014年のサッカーW杯ブラジル大会前の13年6~7月、中産下層市民らが公共交通機関の値上げに反対して全国で抗議デモを展開して以来の動員数だ。

 今回はリオデジャネイロ五輪大会を前にしての、経済よりも政治の変化を求める大規模抗議行動だ。ルセフ大統領はブラジリアで13日、臨時閣議を開き、情勢分析を続けた。

 問題の背景には、過去4回の大統領選挙で負け続け欲求不満に陥っている伯民社党(PSDB)など保守政党の「選挙によらない政権交代」戦略がある。反政府機運を盛り上げて大統領を辞任に追い込むか、もしくは国会で弾劾するという手法だ。

 軍事クーデターを打てなくなった時代の、新らしい政権打倒法だ。

 反政府派を勇気づけたのは、PTと連立してきた最大政党・伯民主運動党(PMDB)が12日、連立の維持か解消かを30日以内に決めると表明したこと。PMDB党首で副大統領のミシェル・テメルはルセフが退けば、暫定大統領になる立場にある。

 一方、ラ米諸国の大統領経験者らは12日、起訴されたルーラ前大統領を支援する立場を表明した。南米からはクリスティーナ・フェルナンデス亜国前大統領、エドゥアルド・ドゥアルデ元亜国暫定大統領、リカルド・ラゴス元チレ大統領、カルロス・メサ元ボリビア暫定大統領、エルネスト・サンペール元コロンビア大統領(現・南米諸国連合事務局長)、ホセ・ムヒーカ前ウルグアイ大統領、フェルナンド・ルーゴ元パラグアイ大統領、ニカノール・ドゥアルデ元パラグアイ大統領が署名している。

 中米からはエル・サルバドールのマウリシオ・フネス前大統領、オンドゥーラスのマヌエル・セラヤ元大統領、マルティン・トリホス元パナマ大統領。カリブからはドミニカ共和国のレオネル・フェルナンデス前大統領。このほか、米州諸国機構(OEA)のホセ=ミゲル・インスルサ前事務総長(元チレ外相)、フェリーペ・ゴンサレス元スペイン首相、マッシモ・ダレマ元伊首相が加わっている。

 ラ米では、亜国右翼政権誕生、ベネスエラ国会での保守・右翼連合の主導権獲得とマドゥーロ大統領退陣要求、ボリビア国民投票でのエボ・モラレス大統領の4選拒否に続く、保守・右翼勢力の逆襲と見る向きが多い。

 そんな時期だけに、バラク・オバーマ米大統領の21~24日の玖亜両国公式訪問が関心を集めている。

★ルーラは14日、2018年の次期大統領選挙に出馬する、と言明した。起訴され政治生命のかかる危機を<正面突破>で乗り切る意志を表明したと受け止められている。
★ルセフ大統領は16日、ルーラを内閣文官長(大統領府長官=首相級)に任命した。ルーラは17日就任したが、法廷はこれを差し止めた。国内では大統領退陣とルーラ断罪を求める野党勢力のデモが活発化している。

2016年3月13日日曜日

ベネズエラ政府と野党連合が首都の動員集会でにらみ合う

 ベネスエラの保守・右翼政党連合MUDは3月12日、カラカス市内で数万人を動員、ニコラース・マゥドーロ大統領の早期辞任を要求した。これに合わせるかのように、不審な事件が続発している。

 ボリーバル州内では11日、送電線鉄塔がサボタージュに遭い、送電線が切断された。当局は、一人を現行犯逮捕、他の一人が死亡した、と発表した。サボタージュによる停電は、反政府派が社会的撹乱を狙ってよく用いる手段だ。

 同日、ベネスエラ警察は、コロンビア国境のタチラ州内で、侵入したコロンビアの準軍部隊(パラミリタレス)の要員5人と戦闘、5人を射殺したと発表。準軍部隊は通常は国境地帯で密輸や麻薬取引に関与しているが、雇われれば社会的撹乱にも加担する。

 また12日、ララ州バルキシメトの工場地帯にある「団結プロレタリア社会主義会社」倉庫に発火物が投げ込まれ、倉庫は炎上した。この会社は、「コムーナ(コミューン)直接運営社会資産会社」(EPSDC)。元の民間人所有者らが、この時期に合わせて決行した犯行と見られている。

 2年前の2014年3月には、全国各地で殺傷、街頭暴力、社会資本破壊などの事件が激発していた。MUD右翼は、この種の非合法活動を再開させたい構えだ。

 マドゥーロ大統領は12日、カラカス市内で支持派を大量動員した集会で演説、「私は寡頭勢力に屈服しない。任期最後の日まで辞めない」と述べた。

 大統領は、全国で16~18日、バラク・オバーマ米大統領が9日に1年間延長した「ベネスエラを米国安全保障上の脅威とみなし、非常事態を宣言する」という政令と、その延長を糾弾する運動を展開すると明らかにした。

 大統領はまた、4月1日からチャベス派=政権党ベネスエラ統一社会党(PSUV=ペスーブ)=の党員証を更新し、勢力の確認と再結集を図るとし、4月13~14日、「祖国会議」を開いて、その後の闘争方針などを決めることにしている。

 マドゥーロはさらに、聖週間に当たる19~27日の連続9日間を休日にすると発表した。電力節減と、反政府派の気勢を殺ぐのが狙いだ。

 ベネスエラ原油は12日、1バレル=29・6ドルで終わり、3ドル余り上昇した。

 一方、クーバのラウール・カストロ国家評議会議長は11日ハバナにベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相を迎え会談、オバーマ政令延長問題でマドゥーロ・ベネスエラ政権を無条件で支持する、と表明した。

 ラ米では、「ルセフ伯政権とベネスエラ政権を打倒する陰謀が同時進行している」との見方が拡がっている。ルセフ政権の政権党・労働者党(PT)と連立してきた伯民主運動党(PMDB)は12日、連立維持か解消かを30日以内に決めると表明した。もし解消されれば、国会でのルセフ大統領弾劾の可能性が一気に強まることになる。

 このような微妙時期にオバーマ大統領は21~24日、クーバとアルヘンティーナを歴訪する。 

2016年3月12日土曜日

キューバと欧州連合(EU)が関係正常化合意書に調印

 クーバと欧州連合(EU)は3月11日ハバナで、関係正常化合意書に調印した。これにより、スペインのアスナール右翼政権が推進、1996年に定められた欧州の対玖圧力政策「共通姿勢」は名実共に廃棄される。双方は批准手続きに入る。

 ブルーノ・ロドリゲス玖外相は、「共通姿勢は2008年にクーバがEU19カ国と2国間正常化合意を結んだ時点で実質的に効力を失った」と指摘した。双方は14年4月から正常化交渉を続けていた。

 ラウール・カストロ玖国家評議会議長は、調印式に立ち会ったEU外交代表フェデリカ・モゲリーニと会い、労をねぎらった。21~22日のバラク・オバーマ米大統領の訪玖前に調印が成ったことで、米政府もクーバへの新しい「お土産」が与えすくなったと言える。

 EUは、2014~20年に対玖援助5000万ユーロを予算に計上しているが、うち1000万ユーロを近く執行する。行政効率化や食糧生産計画に使われる。

 米大統領政庁(ホワイトハウス)の国家安全保障会議副顧問ベン・ローズは11日マイアミで、大統領訪玖を前に、在米クーバ系市民と会合。その後、「米政府、在米クーバ系、在玖反体制派はみな同じ考えを抱いている」と述べた。

 ローズはマイアミでさらに、玖系米国人財団(CANF)代表や、マイアミに来ている玖反体制派指導者の一人マルタ=ベアトリス・ロケに会う。ロケは軟禁処分にあるが、玖当局の特別許可を得て訪米中。
  米国で昨年12月発表された世論調査では、米国人の77%が米玖国交再開を支持。クーバ系では53%だった。米大統領選挙の共和党候補では、クルーズとルビオが「対玖断交」を公約、トゥランプは国交再開の一定の評価を与えている。

 コスタ・リカ(CR)とパナマの政府は11日、両国にいるクーバ人経済難民の対米輸送が同日終わる、と発表した。昨年11月半ばからCRで足止めされていたクーバ人約8000人のうち約3500人は密出入国支援業者(コヨテ)に大金を支払ってニカラグア経由で米国境に向かったが、あとの4000人余りは空路、もしくは陸路で米国に行った。

 この日最終輸送便がCRを出発、メヒコ北部のヌエボラレードに向かった。ルイス=ギジェルモ・ソリースCR大統領は空港で最後の難民らを激励し、見送った。

 パナマで動けなくなっていたクーバ経済難民1200人も11日、最終集団が空路、メヒコ北部のフアレス市に去った。

 一方、米ウォールストゥリートジャーナル紙は11日、米ホテル大手マリオットとスターウッドが対玖進出を目指しており、オバーマ訪問前に合意に漕ぎつける見通しと報じた。米AT&T電気通信会社も同じく合意を目指している。

 ハバナでは米大統領来訪に合わせて22~25日、第1回国際ジャズバンド競演会が催され、米玖両国などのバンドが参加する。

  

東電福島原発放射能惨事5年、ラテンアメリカでも大きく報道

 ラ米諸国のメディアは3月10~11日、東日本大震災と東電福島原発惨事を一斉に報じた。メヒコのTV局テレビサは東京発で「日本、地震と津波の犠牲者に1分間黙祷」と題してニュースを伝えた。また、福島県浪江発で、「原発事故周辺を体験するトゥリズモ・ネグロ(黒い観光)」について伝えている。

 原発が稼働しているアルヘンティーナのクラリン紙は、「5年経っても被災地域は再建終わらず」の見出しで報じた。同国のアンビト紙ウェブ版は、日本での原発再開、大津地裁の原発稼働差し止め判決、脱原発が日本世論の主流、などを伝えた。やはり原発のあるブラジルのRTPニュースは、「福島原発危機:5年経っても未解決」と伝えた。

 故ウーゴ・チャベス前大統領が原発導入決定を福島事故直後に取り消したベネスエラのエル・ウニベルサル紙は、「5周年:日本は津波と福島の傷跡に直面」の見出しで報じた。国営ベネスエラ通信は、「日本は5年前、同国史上最大の地震に見舞われた」と振り返った。ベネスエラのウェブ・パノラマは、「5年経っても福島では恐怖が依然疼いている」と書いた。

 ソ連援助で原発建設に着手したがソ連消滅で建設を打ち切ったクーバの共産党機関紙グランマは、「福島原発事故責任者の怠慢を糾弾」の見出しで、東電元幹部らが起訴されたことを伝えた。

 太平洋のはるか対岸にある地震国チレのウェブ紙「テラ」は、「日本は5周年を厳粛に迎えた」の見出しで、日本にとって第2次世界大戦後最悪の悲劇、福島原発事故の現場一帯の問題は未解決、と伝えている。

 オンドゥーラスのプレンサ紙は、「原発論争」と題し、「日本政府の原発再開への執着にも拘わら世論は脱原発が多数」と報じている。

 コロンビアの週刊誌セマーナは、「福島:天変地異5周年」と題し、「放射能による癌発生が出ている」と報じた。ペルーのエル・コメルシオ紙は、「5年前のきょう、何が起きたのか」と、大震災と放射能流出事故を回顧した。

 ペルーのラ・レプーブリカ紙は、「黙示録的惨事から5年」と書き、その間、日本の被災地から漁船2隻、地名標識、サッカーボール、大型オートバイの5点の物体が米国のハワイ、アラスカ、加州、およびカナダに漂着したことを報じた。

 メヒコのウェブ「アリステギ」ニュースは、ローマ滞在中の管直人元首相が「事故を起こした福島原発施設は日本と世界にとって脅威だ、と語った」と伝えた。またウェブ「ペリオディコ・ソカロ」(ソカロ新聞)は、「福島・幻の村・見えない人々」として現地ルポを紹介している。エクセルシオール紙は、「日本は回復から依然遠い」と報じた。

 このほか、ウェブ「経済アメリカ」は「福島から5年、日本政府は原発に固執」、同「メルカード」は「福島は5年経っても放射能と戦っている」、同「ラ・グラン・エポカ(大時代)」は「福島原発事故はどんな結果を招いたか」の見出しで伝えている。

 「福島核惨事は5年経っても終わらない」と題したウェブ解説記事もある。 

 
 

2016年3月11日金曜日

サンダース候補が米政府の過去のラ米政策を厳しく批判

 米民主党の大統領候補バーニー・サンダースは3月9日、米政府の過去のラ米政策を厳しく批判、クーバに対しては軍事侵攻で体制打倒を図るなど誤った政策を実施した、と指摘した。

 サンダースはまた、ヴァーモント州選出の上院議員だった1970年代初め、ニクソン政権がチレのアジェンデ社会主義政権をクーデターで倒すのを支援した際、米政府および米外交責任者ヘンリー・キッシンジャーに、チレ情勢に介入しないよう求めたと明らかにした。

 1980年代にレーガン米政権がサンディニスタ・ニカラグア政権を倒すため反革命ゲリラ(コントラ)を使って軍事侵攻した時には、サンダースは自らニカラグアに赴き、米政府の介入に反対した、とも述べた。

 米政府が1954年にハコボ・アルベンス大統領のグアテマラ革新政権を軍事侵攻で倒した史実にも触れ、このような強圧政策に反対する立場を強調した。

 ブルーノ・ロドリゲス外相は10日ハバナで、アルヘンティーナのスサーナ・マルコーラ外相と会談した。コロンビア和平交渉、バラク・オバーマ米大統領の玖亜両国歴訪(今月21~24日)などを話し合ったもよう。
 
 ハバナでコロンビア内戦に終止符を打つ和平協定調印のため交渉を続けているコロンビア政府とFARCは10日、今月23日にも予定されていた和平協定調印を延期することで合意した。未解決の重要事項が残されており、交渉が長引く見通しになったため。

 米国の書籍・教育機材業界は10日ワシントンで、米政府と議会に対し、書籍や教育機材の対玖輸出解禁を訴えた。同業界の調査では、米国人の72%が対玖経済封鎖全面解除に賛成している。

 一方、クーバ共産党(PCC)のホセ=ラモーン・バラゲール国際局長は10日、メヒコ市でのメヒコ労働党(PTM)主催国際セミナリオ「政党と新社会」の開会式で講演、クーバは社会主義を絶対に放棄しない、と強調した。

 バラゲールはまた、自由貿易協定(FTA・TLC)について「第三世界諸国に対する政治介入の道具になっている」と糾弾した。   

ペルー大統領選挙まで1カ月、有力2候補が失格へ

 ペルーの国家選挙審議会(JNE、審議員5人)は3月9日、大統領選挙の有力候補2人を失格と判定した。一人は支持率調査で2位に着けていたフリオ・グスマン候補(45、「皆、ペルーのために」TPP)で、「TPP党内で大統領候補を選ぶ際、民主的でなかった」というのが理由。

 もう一人は、3月初め4位だったセサル・アクーニャ候補(63、「進歩のための同盟」APP)。選挙戦中、有権者に現金を渡したため。アクーニャはJNE判断を受け、出馬を取りやめる。グスマンは「3日以内に異議を申し立てる権利」を行使したが、判断が覆る可能性は極めて乏しい。

 有力2候補がこのような結果となったのを受けて実施され10日発表された緊急支持率調査では、昨年来ずっと1位を突っ走ってきているケイコ・フジモリ(40、「人民勢力」FP)が37%に上昇した。ケイコにとっては、最大のライバルと見なされていたグスマンが窮地に陥ったことで有利になったと受け止められている。

 2位には昨年まで2位だったペドロ=パブロ・クチンスキ(77、「改革目指すペルー人」PPK)が復活し、14%。3位は、アルフレド・バルネチェア(63、「人民行動党」AP)9%、4位は、ベロニカ・メンドサ(「拡大戦線」FA)で8%。3期目を狙うアラン・ガルシア前大統領(「人民同盟」AP)は7%で、5位。

 選挙(第1回投票)は4月10日実施されるが、過半数得票者は出そうもなく、上位2候補による6月5日の決選が実施される公算が大きい。

 問題は、JNEが恣意的になれば、ケイコ以下の全候補が振り落とされる可能性があることだ。各陣営は、やや疑心暗鬼になっている。

 一方、米州諸国機構(OEA)の選挙監視団は11日にはリマに集結、監視準備に入る。監視団幹部は非公式ながら、選挙まで1カ月の時点でJNEが候補者を失格させることができるような制度の存在に疑問を表明している。

2016年3月10日木曜日

映画「エスコバル 楽園の掟」トークショーで語る

 映画「エスコバル 楽園の掟」は3月12日、東京のシネマサンシャイン池袋で公開される。これを前に9日夕刻、東京・六番町のスペイン政府国際文化伝播機関「セルバンテス文化セントロ」で、配給会社トランスファー主催のトークショーと、最後の試写会が催された。

 トークショーは、テレビ番組出演で1990年代後半にコロンビアに旅行したことのあるドロンズ石本(マセキ芸能社所属、石本武士)と私の対談形式。彼が主に旅行体験、私がコロンビアの麻薬状況とパブロ・エスコバルについて、それぞれ語った。

 試写会は、前列を報道陣が占め、他は一般応募の観衆150人だった。観衆は年配が多かったが、若い女性も来ていた。

 このところ、コロンビアやメヒコの「麻薬戦争」を題材にした映画が目立っている。SF物や恐怖映画に飽きた観衆が、虚構よりもはるかに恐ろしい闇の麻薬業界の実態になびいているためなのだろうか。

 製作者が観衆の興味を先取りして作品を生産しているからには違いないが、考えてみれば殺伐とした需給関係だ。黒澤のように人間を深く描く大河劇も、ジョン・フォードのような文句なしに楽しめる活劇も見られなくなっている。

 創作・虚構よりも生の現実、芸術よりもジャーナリズム、劇映画よりもドキュメンタリーというご時世なのだろう。

 映画は同時に内外の新作が何十本も上映されている。可能ならば、常にさまざまな作品を同時的に観ながら、比較、位置付け、解釈、批評し、
楽しむことだろう。

 映画の洪水に巻き込まれながら、正気を維持するのが面白いのだ。 

  

ブラジル検察がルーラ前大統領を起訴

 サンパウロ検察は3月9日、ルイス=イナシオ・ルーラ=ダ・シルヴァ前ブラジル大統領を、詐欺、偽りの申し立て、不法結託、資金洗浄の疑いで起訴した。同じくマリーザ=レチシア夫人と長男ファビオも「共犯」として起訴された。

 検察は4日には、サンパウロ郊外サンベルナルドドカンポの自宅など、ルーラと家族が所有する不動産5カ所を捜索した。その際ルーラは3時間拘禁され、事情聴取された。

 容疑の中心は、ラ米最大の建設会社オレブレヒトなどブラジルの建設業界が受注目的で国営石油ペトロブラス重役および、ペロロブラスの政策決定に影響力を持つ政治家に支払った賄賂、およびペトロブラス社が政治家に贈った総額6300万ドルの資金をめぐる「ラヴァ・ジャト」と呼ばれる贈収賄事件への前大統領の関与にある。

 ルーラは2018年の次期大統領選挙に政権党PT(労働者党)から出馬する方針だが、起訴は出馬を危うくする。PTのヂウマ・ルセフ現大統領も昨年来、国会で弾劾される可能性に直面している。

 南米右傾化の潮流にも乗ったブラジルの保守的「体制」は、ルーラ起訴で、ついに「本丸」に切り込んだと言える。

 ルーラは、サンパウロ州の海浜に豪華アパルタメントを所有するが、これがペトロブラスの不法資金によって獲得された不動産として直接的な捜査対象となった。検察は、このほか農場などの入手の経緯も捜査中。

 一方、法廷は8日、オデブレヒト社の前社長(最高経営責任者)マルセロ・オデブレヒト(47)に贈賄罪などで禁錮19年4カ月の実刑判決を言い渡した。他の4人の元重役も同じ禁錮刑となった。また、収賄したペトロブラス元重役3人と仲介者1人に6~23年の禁錮刑の判決が下った。

 ルセフ大統領にとってルーラは政治の師であり後見役。法廷が起訴を受け入れ逮捕されれば、弾劾の可能性も強まる。そこで不逮捕特権のある閣僚にルーラを急遽任命する方策を検討中とも伝えられる。

 ルーラ政権期、国会で少数派だったPTは多数化工作に迫られ、その際、ペトロブラスから資金が流され、議員買収に使われた。「ラヴァ・ジャト」事件は、そこに源流がある。
 
 

2016年3月9日水曜日

ベネズエラ野党連合が「大統領罷免戦略」を発表

 ベネスエラの保守・右翼野党連合MUDは3月8日、ニコラース・マドゥーロ大統領を任期途中の年内に辞任に追い込む戦略を発表した。「平和的な社会的圧力」、「憲法条項修正」、「大統領罷免国民投票」の3つの戦術を、同時に遂行できるものは同時に、段階的にすべきものは段階的に進める。

 「社会的圧力」は、全国的にMUD支持派(反政府派)を街頭動員し、大統領辞任を求める世論を盛り上げる狙い。12日から全国に動員拠点を組織していく。この戦術はMUD内の右翼・極右が主張した。

 政府と政権党PSUVは、3つの戦術が出たのは、MUD内部が一致できなかったのを示すと見ている。政権党は「社会的圧力」について、MUDは2014年前半の死者43人を出した街頭暴力戦術の復活を狙っている、と非難している。

 「憲法条項修正」は、大統領任期を現行の6年から4年に短縮し、同一大統領の連続再選を禁止する。国会が過半数で議決し、国民投票で承認する。これはヘンリー・ラモス国会議長らが主張している。

 マドゥーロ大統領は4月任期半ばを迎えるが、来年4月の任期4年満了以前に辞任に追い込まれた場合、執権副大統領が30日間、暫定大統領を務め、大統領選挙で新大統領を選ぶ。任期4年満了後の辞任ならば、残り任期は執権副大統領が昇格して務める。

 だが最高裁は、「憲法条項修正」を「改憲」と見なし、国会に3分の2の議決を求めるだろう。MUDは3議席足りず、議決できない。

 「罷免国民投票」は、有権者1%(20万人)の署名を添えて選管に申請。認められれば、その日から3日以内に有権者の20%(
400万人)の署名を集め、選管に提出。これが認められれば、国民投票が実施され、罷免派がマドゥーロ大統領当選時の得票750万票を上回れば、大統領は罷免される。この国民投票は、有権者の25%(500万人)の参加が必要。

 故ウーゴ・チャベス前大統領は任期中、罷免国民投票に一度遭ったが、これを凌いだ。今回、この国民投票の署名運動は、MUD内中道右翼のミランダ州知事エンリケ・カプリーレス(元MUD大統領候補)が推進している。

 一方、マドゥーロ大統領は8日、「国際女性日」に因んで、政府支持派の女性団体代表と会った際、「誰も私を辞めさせることはできない」と、テレビを通じて反駁した。

 大統領は、バラク・オバーマ米大統領がこのほど、「ベネスエラは米国の安全保障上の脅威であり、非常事態を宣言する」とした昨年3月の政令を1年間延長したことに関し、12日から4月14日まで全国で「邪悪な内政干渉」を糾弾し跳ね付けるための運動を展開すると発表した。

 12日はMUDの全国運動開始日であり、政府はそれに合わせて対抗運動を開始することにしたもよう。MUDが多数派の国会は8日、政権党が求めた、米大統領政令延長を糾弾する決議の採択を拒否している。

★マドゥーロ大統領は9日、駐米臨時代理大使マキシミリアーノ・サンチェス=アルベライスの召還を決めた。 

 
 
 
 

2016年3月8日火曜日

月刊誌「世界」掲載:伊高浩昭執筆「コロンビア内戦終結へ」

 ◎伊高浩昭執筆論文 「半世紀におよぶ内戦終結の黎明を迎えるコロンビア  政府とゲリラ組織が和平協定調印へ」
 
★本日3月8日発売の月刊誌「世界」(岩波書店)4月号に掲載。

☆内容:1960年に始まったコロンビア政府と共産ゲリラとの内戦は、サントス政権とゲリラFARC(コロンビア革命軍)が2015年9月23日ハバナで、JMサントス大統領と、FARCのティモチェンコ最高司令が16年3月23日を目処に和平協定に調印することで歴史的合意に達した。

☆両者の間での和平交渉は2012年10月からハバナで始まった。3年間の粘り強い交渉の結果、合意に達したのだった。仲立ちした諸国、とりわけクーバのラウール・カストロ国家評議会議長の貢献が大きい。

☆論文は「まえがき」、「内戦の推移」、「和平交渉の機運」、「ハバナ合意」、「国家体質変える歴史的試み」で構成される。極めて複雑な合意事項を詳述してある。米玖国交再開や最近の南米「右旋回」との関連づけもしてある。

☆もう一つのゲリラ組織ELN(民族解放軍)との和平交渉の展望も為されている。

☆3月23日まで2週間と迫っており、協定調印が24日以降に延期される可能性もあるが、双方は早期調印で一致している。

★ラ米情勢、とりわけコロンビア内戦に関心のある読者には、ぜひ読んでいただきたい。
 

2016年3月7日月曜日

ロシアのロサトム社がボリビアに原子炉建設へ

 ボリビア政府とロシアの核エネルギー開発企業ロサトム社は3月6日、政治首都ラパスに隣接するエル・アルト市で、平和利用を目的とする核エネルギー技術の開発協力調停に調印した。

 ロサトム社は、実験用原子炉を備えた「核技術実験・開発セントロ」を同市に総工費3億ドル、工期4年で建設する。工費の一部はボリビア政府が負担する。同社が設計、建設、操作、施設解体・撤去などを担当する。

 完成後、放射性同位元素を生産し、医療、工業、農業などに役立てる。併せて放射線汚染対策、環境保護、人材育成も為される。

 将来的に、原子核破壊のためのイオン加速装置を持つ「国立イオン加速装置・ラジウム薬学セントロ」を設置する。多目的照射施設(PMI)として利用され、食糧の安全、無害化などに使われる。

 このほか、核エネルギー平和利用で、環境科学、生物学、物理学、化学、石油化学、水利学、地質学も恩恵を受けるとされている。

メキシコ・米国合作映画「カルテル・ランド」を観る

 この映画は、現代の一部を時間をかけて切り取ったドキュメンタリーであるがゆえに面白い。虚構のドラマ、半実半虚のドキュドラマでは、この味は出ない。

 メヒコ中西部のミチョアカン州の自警団創設者ホセ=マヌエル・ミレレス医師の密着取材を、よくもここまでやったものだと思わざるを得ない。このこと自体、感嘆に値する。

 メヒコでは1960年代に大麻が蔓延していたが、南米産のコカインの消費地、および対米・対欧・対亜密輸の中継地になったのは1990年代のこと。コロンビアの「麻薬戦争」でマフィアが降参してからのことだ。

 当時のメヒコ政府は、脆弱なメヒコ資本主義経済に、莫大にして潤沢な麻薬資金を投下し、経済強化を図った。政府・財界と麻薬マフィアが結託した瞬間だった。

 以来、政府は麻薬マフィアと持ちつ持たれつの関係に陥り、本気で取締まることは不可能となった。メヒコの政治家、官憲、自治体が麻薬資金で汚染、買収されてしまったからだ。抗えば、容赦なく殺される。

 そんな状況に、昔の米保安官よろしく立ち上がったのが、ミレレスと仲間たちだった。そして、治安を奪回し、あなりの成果を挙げた。「銃の平和」を敷いたのだ。それが時代離れしていないところに、メヒコ治安状況の深刻さがある。

 だが、それは、政府という最大の官憲の存在と役割を否定することに等しい。当局は結局、自警団潰しにかかった。もちろん、自警団にやられていたマフィアからの賄賂が効いた。

 私は若いころ、メヒコ全土を取材した。ミチョアカンは貧しくも美しい大地だった。素晴らしい先住民文化がある。私の大好きな州の一つだった。それがいまでは、麻薬マフィアが群雄割拠する麻薬マフィアベルト(支配地帯)に包みこまれてしまっている。

 「もしも狂気の絶頂に居ることができたならば」(さぞ素晴らしい瞬間になるだろう)という言い方がある。だが、ミチョアカンはまさに「狂気の絶頂」に在り続けている。瞬間でなく、果てしない継続である。これは厳しい苦痛以外の何物でもない。

 この映画の失敗面は、米墨国境の北側・アリゾナ州の国境線一帯を武装警備する勝手組の男たちの生態と、ミチョアカンの状況を対(つい)にしたところにある。これによって、その分だけ作品が安っぽくなってしまった。期待されていたアカデミー賞も逃げて行った。製作者や監督は、状況を真に理解していなかったようだ。

 だが見るに十分に値する映画であるのは疑いない。東京・青山のイメージフォーラム劇場で5月公開される。問い合わせ先は、配給会社「トランスファー」。

 先日も当ブログに少しだけ書いたが、主人公ミレレスは刑務所に閉じ込められており、この映画を観ていない。

 映画の題名は、カルテル(麻薬マフィア)のはびこる地域というような意味。この場合のマフィアは、テンプラリオス=聖堂騎士団。字幕では「テンプル騎士団」となっているが、これでは日本人には意味不明だ。

2016年3月6日日曜日

ベネズエラでウーゴ・チャベス大統領歿後3周年式典催さる

 ベネズエラ政府は3月5日、故ウーゴ・チャベス前大統領の死歿3周年の記念行事を挙行した。カラカス市内のテレサ・カレーニョ劇場で催された追悼式典で、ニコラース・マドゥーロ大統領が「永遠の司令官チャベス」の功績を讃えた。

 ボリビアのエボ・モラエス、ニカラグアのダニエル・オルテガ、エル・サルバドールのサルバドール・サンチェス=セレーンの3国大統領、クーバのミゲル・ディアスカネル国家評議会第1副議長、サンヴィセンテ&グラナディーンのラルフ・ゴンサルヴェス、アンティグア&バーブーダスのガストン・ブラウン、ドミニカのルーズヴェルト・スケリットの3国首相、各国大使らが来賓として出席した。

 エボ・モラレス大統領は、「チェベスは我々に、帝国主義を恐れないことを教えてくれた」と強調、大きな拍手を浴びた。オルテガは「チェベスは、ラ米統合を理想としたシモン・ボリーバルの再来」と指摘した。

 米国のバラク・オバーマ大統領は3日、昨年3月に出した政令で「ベネスエラは米国の安全にとり脅威であり、非常事態を発動する」とした宣言を1年間延長する、と発表した。これについてディアスカネル副議長はカラカスでの式典で批判、「政令を廃止すべきだ」と訴えた。クーバ外務省も4日声明で、オバーマ決定を批判し、廃棄を求めている。

 ベネスエラのデルシー・ロドリゲス外相は4日カラカスで、カリブ諸国大使たちと会合、「カリブ経済特別地域」(ZEEC)結成について話し合ったが、その後、オバーマの政令延長を糾弾した。カリブ諸国も、南米諸国連合(ウナスール)も糾弾している。

 劇場での式典に次いで、カラカス市内の高台にある旧陸軍ラ・モンターニャ兵営内のチャベス廟で、マドゥーロ大統領や各国首脳らが墓参した。

 同兵営内中庭でも追悼式典が執り行われ、チャベスの娘マリーア=ガブリエーラ・チャベスが亡き父親との思い出を語り、参列者の涙を誘った。追悼行事と、それに伴う音楽祭など文化行事は、カラカスをはじめ全国各地で6日にかけて催されている。

 ブエノスイアレスでは前亜国大統領クリスティーナ・フェルナンデスが、キトでは大統領ラファエル・コレアが、それぞれチャベス追悼のメンサヘ(メッセージ)を出した。

 ハバナでコロンビア政府と内戦終結交渉中のゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)代表団は、「チャベスは世界史的人物だった。その痛ましい不在に世界中の人民が泣いている」との声明を出した。
 
 

2016年3月5日土曜日

エクアドル政府と軍部の確執で実力者の外相が国防相に移る


 エクアドールのラファエル・コレア大統領は3月3日、リカルド・パティーニョ外相を国防相に任命、後任の外相にはギヨーム・ロング文化相を据えた。新文化相には、アナ・ロドリゲス副文化相が昇格した。

 パティーニョはコレア大統領の腹心で、来年2月に予定される大統領選挙に政権党から出馬する可能性のある有力候補の一人だ。今回の人事は、フェルナンド・コルデロ国防相が政府と国軍の板挟みになって1日辞任したことから為された。

 大統領は3日、コルデロ国防相の辞任理由を明らかにした。国軍社会保障庁(ISSAFA)が新庁舎建設用地としてグアヤキル市内のサマネス公園の土地を購入した折、実額よりも高い価格を支払っていたことが明らかになったため、政府が購入を差し止め、土地購入代金4100万ドルを環境省に回したが、これが退役将校らを怒らせたことから、コルデロは板挟みになり、辞任に追い込まれた。

 またコルデロは、将校向けのカジーノ、浴場、食堂を下士官、兵卒も使えるようにしたが、この決定が将校らを怒らせた。さらに統合参謀本部長が兵士らに昼食代金1回3ドルを支払う方針を決めたことも問題になった。大統領は兵士には月90ドルの昼食手当てを支給していると指摘し、国軍最高司令官(大統領)として勝手な真似は許さないと、支払い方針を認めなかった。

 政府と国軍との関係は冷ややかになっており、コレアは腹心のパティーニョを国防省に送り込み、国軍との関係修復に乗り出したわけだ。

 パティーニョは2010年以来、外相としてコレア外交を支えてきた。パティーニョは南米諸国連合(ウナスール)やラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)の外相会議のまとめ役として活躍、ラ米の外相として最も目立った存在だった。
 

2016年3月4日金曜日

ホンジュラスで環境活動家ベルタ・カセレス殺害さる

 オンドゥーラスの著名な環境活動家ベルタ・カセレス(45)が3月3日未明、同国ラ・エスペランサ市内の自宅を2人組に襲われ、銃弾4発を見舞われて殺された。遺体は同日、首都デグシガルパの遺体置き場に空輸された。

 事件の目撃者であり事件時に負傷したメキシコ人社会学者で、カセレスらと人材を育成していたグスタボ・カストロは重要証人として保護されている、という。

 カセレスは、この国最大の先住民レンカ人で、母親ベルタとともに1993年、NGO「オンドゥーラス人民・先住民団体市民協議会」(COPINH)を結成、ダム建設や鉱山開発への反対運動の先頭に立っていた。

 カセレスらの運動により、グアルカルケ川をせき止め、アグア・サルカ水力発電所を建設する事業計画は中断を余儀なくされた。こうした功績によて彼女は昨年4月、ゴールドマン環境賞を受賞した。グアルカルケ川は、レンカ人にとって「聖なる川」である。

 この事業計画は、鉱山開発などに不可欠な電力を生産するため政府が推進、地元住民らに事前に諮らず情報も公開せずに、オンドゥーラスのエネルギー開発会社(DESA)に建設権を与えた。

 この事業への参画を決めていた中国企業シノハイドロ社は、住民の反対が強いことを理由に撤退し、世銀会社「国際融資」(IFC)もこれに続いた。

 カセレスらの闘争過程で、レンカ人の活動家3人が殺害された。カせレスは4人目の犠牲者で、最も重要な指導者だった。

 政府は、グアルカルケ川の上流でダムの建設工事を実施する計画に変更することを検討中で、さらに別のカンヘル川でも同様の事業計画がある。これらの計画に対してもカセレスは闘争を続けていた。

 このため政府や事業の関係者から恨まれ敵視され、殺害、誘拐、家族迫害、でっちあげ犯罪容疑などで絶えず脅迫されていた。だが彼女はひるまなかった。

 カセレス殺害を「政治的暗殺」と捉える内外の環境、人権、司法などのNGO、とりわけ地元中米諸国の諸団体は一斉に、オンドゥーラス政府に対し「必要な身辺警護をしていなかった」などと厳しく批判している。

 この国では2002~14年に環境活動家111人が殺されている。昨年もかなりの活動家が殺された。

 非難の的となっているフアン・エルナンデス大統領は、「事件はオンドゥーラスに対する犯罪であり、無処罰はあり得ない。米政府の協力を得て捜査する」と約束した。
   
 

国連がコロンビア和平に備え現地で準備を開始

 今月23日以降に調印される可能性のあるコロンビア内戦終結協定の実施に備え、国連は2日、ボゴタで準備を開始した。国連のコロンビア駐在代表が明らかにした。

 国連は1月25日の安保理決議に基づき、ラ米・カリブ諸国共同体(CELAC)に委ねて、和平協定調印後の政府軍とゲリラFARC(コロンビア革命軍)の相互停戦、FARC要員の集結、その武装解除、停戦監視・検証などの任務を遂行する。

 CELAC加盟33カ国のうち、コロンビアと国境を接するベネスエラ、ブラジル、ペルー、エクアドール、パナマの5カ国は任務から外れる見通し。

 この国連CELAC監視団は協定調印から30日以内にコロンビア各地に展開する。少なくとも1年間活動し、必要ならば任務は延長される。

 和平交渉地ハバナでは2日、政府とFARCは交渉最終段階の会合を再開した。この会合は2月、FARC交渉団首席イバン・マルケスらがコロンビア北東部のラ・グアヒーラ州内のFARCキャンプでゲリラ部隊への交渉報告会を開いた際、マルケスが協定の承認は制憲議会開設をもって新憲法制定過程と併せて行なうべきだと演説したことからサントス政権を怒らせ、中断していた。

 双方は2月27日ハバナで話し合い、会合再開で一致した。政府(検察庁)は2月29日、和平反対派のアルバロ・ウリーベ前大統領の実弟サンティアゴを殺人容疑などで逮捕したが、これもFARCとの了解事項。

 イバン・マルケス首席は2日ハバナで、FARCは協定調印に漕ぎつける、と和平実現の意志を再確認した。

 一方、JMサントス大統領はウリーベ兄弟ら右翼・保守勢力を念頭に同日ボゴタで、「政治的理由から和平に反対する者がいるが、国民投票で彼らを打ち破らねばならない」と強調した。政府は、協定は国民投票によって承認する、との立場をとり続けている。

 この制憲議会か国民投票かという対立点は最終局面での重要な交渉課題の一つだ。FARCが武装解除と復員のため国内数カ所に集結した後、その安全をいかに保障するかも重要問題だ。

 マリーア・オルギン外相は2日、ジュネーブでの国連人権理事会で演説、「和平交渉は最終段階にあるが、前例のない成果を挙げてきた。5つの議題のうち4つで合意済みだ」と述べた。

 だが世論調査では、和平協定が3月23日の予定日に調印されるか否かで、76%が危ういと回答、20%が可能と回答した。調印日は23日以降にずれ込む公算が大きくなりつつあると見られている。だが依然、この日付は双方にとって努力目標だ。

 別件だが、共和国銀行(中銀)は2日、10万ペソ札を3月31日に発行すると発表した。1960年代末のカルロス・ジェラス=レストレポ大統領(故人)の肖像が描かれている。

 年内には、5万ペソ札(故ガブリエル・ガルシア=マルケスの肖像入り)、2万ペソ札(故アルフォンソ・ロペス=ミケルセン大統領)、1万ペソ札(故ビルヒニア・グティエレス=人類学者)、5000ペソ札(故ホセ・シルバ=詩人)、2000ペソ札(故デボラ・アランゴ=画家)も発行の予定。

 10万、5万などの高額札発行は、年末実施予定のデノミネーション(通貨切り下げ)に備えての措置。

2016年3月3日木曜日

故チャベスの盟友らがベネズエラ大統領に辞任を要求

 故ウーゴ・チャベス前大統領のかつての盟友ら42人が3月2日、公開書簡でニコラース・マドゥーロ現大統領に辞任を要求した。身内のチャビズモ(チャベス派)からの辞任要求で、マドゥーロ政権の混迷は一層深まることになった。

 明後日5日は、チャベス歿3周年記念日で、5~6日に盛大な追悼行事が予定されている。書簡は3周年直前に発表された、チャベスが陸軍中佐だった1992年2月4日に起こして失敗した軍事クーデター(4F)に参加した元軍人らも書簡に名を連ねている。

 書簡は、「ベネスエラは史上最悪の危機の一つに直面しており、政治・社会・経済・文化・倫理の危機的状況に鑑み、大統領が責任を果たせないならば早急に辞任するよう要求する」と厳しい。

 「専横的政治が無政府状態、社会的没価値状態、庶民政治、国家制度解体状況をもたらしている」とし、「無能はもう十分だ」と辞任を強く促している。

 これまで、国会で3分の2に近い圧倒的多数の議席を占める野党連合MUDがマドゥーロ退陣を要求してきたが、チャベス派内部からその要求が公然と出されたのは初めて。

 書簡は、「憲法に基づき辞任がなされ、国民連合政権を樹立すべきだ」とも主張している。

 また、マドゥーロが「鉱業・石油・天然ガス産業軍事会社」(CAMIMPEG)設立方針を打ち出したことに対し、書簡は疑問を呈している。政府は新制度、新省庁などの設立を相次いで決定してきたが、その多くは実行されず、されても機能せず、また、朝令暮改で消滅してきた。

 大統領はチャベス死去3周年に際し演説する予定で、問題の書簡にどう回答するかに関心が集まっている。

2016年3月2日水曜日

コロンビア検察が「和平の障害」前大統領の実弟を逮捕

 コロンビア検察庁は2月29日、牧場主サンティアゴ・ウリーベを、極右準軍部隊を指揮し殺人などを犯した容疑で逮捕した。22年間に亘る捜査の結果、逮捕状が執行された。サンティアゴは、極右のアルバロ・ウリーベ前大統領(現上院議員)の実弟。

 発表や報道によると、サンティアゴは1990年代にウリーベ兄弟の勢力基盤であるアンティオキア州内で準軍部隊(パラミリタレス)「12人の使徒」を組織、その指導者として、先住民を含む市民殺害、誘拐、脅迫など数多くの凶悪犯罪に関与した疑いが濃厚。

 元コロンビア警察幹部らが90年代半ば、サンティアゴの事件関与を証言している。検察は120日以内にサンティアゴを起訴するか否かを決定する。

 準軍部隊は1960年代初め、米陸軍特殊部隊(グリーンベレー)がコロンビア政府にゲリラ掃討のため組織を働き掛けた。80年代以降、準軍部隊は麻薬組織と一体化。政府秘密警察とも結託し、要人や左翼の暗殺に関わった。

 90年代には、ゲリラの攻勢の前に手を焼いていた国軍と連携、「第2の陸軍」としてゲリラと戦った。軍に認可された準軍部隊は、先住民やアフリカ系の多い貧農層から土地を奪い、大地主に渡していた。抵抗する農民は家族ともども容赦なく虐殺した。

 サントス現政権とコロンビア革命軍(FARC)は、半世紀を超える内戦に終止符を打つ和平協定に今月23日以降調印するため、最終交渉段階にある。政府とFARCは、準軍部隊を和平の最大阻害要因と見る点で一致している。

 政府は昨年10月、前大統領ウリーベが、アンティオキア州知事だった90年代に準軍部隊による虐殺事件に関わった疑いで捜査を開始した。前大統領は、ゲリラとの和平による内戦終結に頑強に反対している。

 この捜査と今回のサンティアゴ逮捕は、将来的に和平維持の障害となる準軍部隊を抑え込むための政府戦略だ。サントス政権の和平努力を支援するオバーマ米政権は、ウリーベ兄弟に対する「規制措置」を暗黙の裡に支持している。

 サンティアゴ逮捕について、隣国ベネスエラのディオスダード・カベージョ国会議員(前国会議長)は29日、サンティアゴはベネスエラにも侵入を繰り返してきたコロンビア準軍部隊の最高指揮者であり、逮捕は当選だ、と述べた。

 さらに、その黒幕のアルバロ・ウリーベ(前大統領)まで司直の手が及ぶのを期待する、と語った。
 
 

2016年3月1日火曜日

「アイヒマン・ショー」「グランドフィナーレ」「Mrホ-ムズ」を観る

 東京浅草で少年時代を過ごした私は、小学4年~中学2年のころ、ほとんど毎土曜日、3本立ての映画を観ていた。浅草6区に数多くあった上映館か、鶯谷駅に少し近い入谷地区の入谷金美館(通称「いりきん」)かで観ていた。

 当時、コロッケ4個で10円、もりそば・かけそば一杯15円、ラーメン20円、映画3本立て40円ぐらいだった。こどもの小遣い銭で毎週、映画を楽しめたのだ。

 たまに、国際劇場の楽屋に首を突っ込むこともあった。松竹歌劇団は小月冴子、川路龍子の2枚看板の全盛時代だった。子供の私は、踊り子たちから可愛がられ、たばこを買ってきてくれと頼まれ、買ってきてやると、お駄賃として小遣い銭をもらったものだ。

 2016年に飛ぶが、私は今年に入ってから、一日映画を3本観る日が3回あった。新しくは、つい最近のことだが、都内で「アイヒマンショー 歴史を映した男たち」(96分、4月23日公開)、「グランドフィナーレ」(124分、4月16日公開)、「Mr。ホームズ 名探偵最後の事件」(104分、3月18日公開)の試写会をはしごした。

 「アイヒマンショー」は、「絶対悪ナチ」を「絶対善ユダヤ人」が断罪する実話のテレビ中継放送がいかにして可能になったか、というドキュドラマである。

 この映画を観て誰もが気付くだろうが、日本では2013年上映された「ハンナ・アーレント」というアイヒマン裁判にまつわるドキュドラマがあった。ハンナは、アイヒマンを「絶対悪」と見なさず、平凡なナチ軍事官僚機構の一部品にすぎないと喝破し、当時のユダヤ人社会を敵に回した。

 今回の映画は、本筋を「ハンナアー・レント」を踏まえて展開させている。一つの進歩があり、定着したようだ。私は1967年にメヒコで、壁画家ダビー・アルファロ=シケイロスにインタビュ-していた時、画伯が「第2次大戦中、ユダヤ人には正義があったが、今日裁かれるべきは彼ら(ユダヤ)だ」と吐き捨てるように言ったのを覚えている。パレスティーナと周辺のアラブ諸国に軍事攻勢をかけていたイスラエルを厳しく批判してのことだ。

 シケイロスの批判の延長線上に、先ごろ観た「オマールの壁」がある。

 「グランドフィナーレ」は、老いの悲哀は過去の栄光が輝かしければ輝かしいほど深い、ということを讃えている。仏僧が最終局面で空中浮遊する場面があるが、これには人間の喜怒哀楽の上位に身を置く「超越」の意味がある。

 欧米人の映画監督には、禅僧らを画面に盆栽や日本庭園の石のように置くのを好む傾向がある。「何やらわけのわからないもの」をも、自分たちの「多様性」の中に取り込んで乙に澄ますのだ。

 主人公のマイケル・ケイン、ハーヴェイ・カイテル両老人と、厚化粧の「大女優」役のジェーン・フォンダが懐かしかった。

 「Mr。ホームズ」は、1月に観た「シャーロック 忌まわしき花嫁」(付録付き115分、2月19日公開済み)とどっこいどっこいだ。コナン・ドイルの原作にない亜流作品の域を出ない。老いさらばえたホームズなど誰も好んで観ようとは思うまい。かといって、ホームズが空を飛ぶのに喝采するお人よしも多くはあるまい。

 教訓は、誰も、自分の全盛期に精いっぱいやれ、ということだろう。

 ともあれ、映画はありがたい。製作者や監督、俳優、撮影班、裏方勢、映画記者ら何百人もの映画人が長い時間と膨大な資金をかけて生み出す作品を、我々は90分か120分で簡単に消費してしまう。単なる消費ではなく、学ぶことも少なくない。

 試写会場では、紙誌の映画記者、映画評論家、俳優・女優と会ったり見たりすることがしばしばある。映画が専門でない私のような者もいれば、評論家もいる。大学教授やテレビキャスターもいる。「グランドフィナーレ」では、評論家T氏と隣り合わせた。

 どうも3本立てを観ると遠い日の習慣が甦りつつあるようだ。年老いても、老いぼれないために映画はいい眼薬になる。