2016年4月30日土曜日

ペルー大統領選挙決選はケイコがPPKを2・2p上回る接戦

 ペルーの世論調査会社CPIが4月29日公表した大統領選挙決選(6月5日)進出候補支持率は、ケイコ・フジモリ42・3%、ペドロ=パブロ・クチンスキ(PPK)40・1%。2・2ポイント差の接戦が続いている。

 ケイコは4月10日の第1回投票で1位39・8%、PPKは2位21・0%だった。ケイコは2・5ポイント伸ばしただけだが、これは第1回投票が限界近くに達していたことを物語る。

 一方PPKは3位以下の候補と争っていたため21%にすぎなかったが、3位以下の落選候補の票を着実に積み上げて、40%の大台を維持している。

 CPIは4月26~27日、全国の18歳以上の男女1800人を対象に調査した。未決定は8・9%、棄権(伯票・無効票)は8・7%だった。単純計算では、9%近い未決定票田をより多く開拓し自陣に取り込んだ候補が決選で勝つことになる。

 CPI調査は、農村部でケイコは41・6%、PPK36・9%と上回っているが、リマ首都圏ではケイコ43・8%、PPK46・0%とPPKが上に立っている。女性票はケイコ44・4%、PPK38・1%で、この国初の女性大統領を目指すケイコが6ポイント勝っている。

 だが大衆層がケイコ53%、PPK47%であるのに対し、中産・富裕層ではPPK55%、ケイコ45%となっている。

 絶対に投票しないという「拒否票」はケイコ43・6%、PPK43・5%で<互角>だった。

▼ラ米短信  ブラジル国会上院弾劾審議特別委員会は4月29日、弾劾対象となっているヂウマ・ルセフ大統領側の反対弁論を聴いた。弁護団は、「大統領は犯罪を犯しておらず、弾劾はゴルペ(クーxデター)に等しい」と強く訴えた。

 一方、亜国のノーベル平和賞受賞者アドルフォ・ペレス=エスキベル(APE)は28日ブラジリアの大統領政庁にヂウマを訪れ会談、支持を表明した。

 次いで記者団を前に、「軍隊を必要としない<やわらかなゴルペ>が進行している。大統領の信用を傷つけるのにメディアが一役買っている。テメル(副大統領)が大統領代行となれば、メルコスール(南部共同市場)やラ米統合に影響が及び、米国を利すること0になる」と指摘した。

 APEは続いて上院本会議場に招かれて発言し、「弾劾=ゴルペ」論を展開。弾劾派が増えつつある議場から激しいヤジが飛んだ。
 

2016年4月29日金曜日

メキシコ学生失踪事件:政府捜査の欺瞞が暴露さる

 メヒコ・ゲレロ州イグアラ市一帯で2014年9月26~27日起きた教員養成学校生43人強制失踪および学生ら6人殺害事件に関するメヒコ当局の捜査がでっちあげだったことが判明、メヒコ政府は窮地に陥っている。

 事件発生から19カ月経った26日、首都メヒコ市や教員養成学校のあるアヨツィナパに近いゲレロ州都チルパンシンゴなどで、犠牲者家族、学生、人権団体、一般市民などが真相究明を政府に求め定例の抗議デモを展開したが、今回はいつになく抗議の声が大きかった。

 検察庁の捜査結果については当初から科学的根拠が薄いなどと疑問が出ていたが、米州人権委員会(CIDH)が捜査協力のためメヒコに派遣していた「独立専門家学際グルーポ」(GIEI)は24日、捜査に関する最終報告書を発表。その中で、少なからぬ問題点を暴きだした。

 まず容疑者のうち17人は拷問されて証言。検察庁の捜査結果は、その証言も踏まえて記されていた。GIEIは、拷問で得られた証言は無効と切り捨てた。

 また検察庁は事件発生翌月の10月29日、イグアラ市近郊のコクーラ市ごみ捨て場で43人の焼かれた遺骨が発見されたと報告書に書いているいるが、捜査に当たっていた犯罪捜査局(AIC)のトマース・セローン局長らが前日28日にごみ捨て場に行き、翌日「発見」されることになる「証拠品」を置いていた可能性が指摘された。当局発表には、同局長のこの訪問は全く触れられていなかった。

 事件当日、学生たちは乗り合いバス4台を奪取してイグアラ市に乗り付けたとされていたが、5台目のバスがあった事実を当局は隠していた。そのバスには、ゲレロ州を拠点とする麻薬マフィアがヘロインを米国のシカゴに運ぶため使っていた疑いがある。

 学生たちがそうとは知らず、そのバスに乗り込んでしまったため、バスはマフィアと連携するイグアラ市警およびコクーラ市警によって襲撃された可能性があると見られる。

 事件当日、現場には連邦警察要員も展開していたが、これに関する記述は検察報告には盛り込まれていない。また学生たちは事件に遭う前、イグアラ市駐屯の陸軍第27大隊に保護を求め拒否されており、GIEIはメヒコ政府に同大隊の捜査許可を要請したが、政府は拒否し続けてきた。これはまぎれもない証言・証拠隠しと受け止められている。

 さらに「一部学生は武装していて、警官隊と衝突した」との検察庁報告についても、学生たちは当時丸腰で、警官隊との衝突などなく、一方的に襲われたことがわかった。

 GIEIは、警官隊が、ヘロイン現物か現金が置いてあったバスを襲撃した場合、現物か現金を確保するためだった可能性があると見ている。

 メヒコ政府が捜査活動継続を拒否したため、GIEIは4月30日でメヒコでの捜査活動を打ち切る。だが報告書は、メヒコ当局が拷問によって当局に有利な証言をさせ得たこと、当局による証拠捏造と真の証拠の隠滅と破壊、当局の分析能力の欠如、軍部を捜査しないこと、連邦警察関与隠し、などを明るみに出した。

 エンリケ・ペニャ=ニエト大統領は、信用をさらに失った。大統領は誰を何のために何故かばっているのか、という当然の疑問がメヒコ全体に拡がっている。メヒコの司法制度が腐りきっている事実が今新たに証明された。

 さらに深刻なのは、この国の、強制失踪させられた行方不明者(遺体所在不明者)が2万5000人の上っていることだ。

 検察庁は28日、セローン局長を捜査すると発表した。同局長は大統領に極めて近い人物と見なされている。

ベネズエラの大物議員カベージョが「クーデター計画」を暴露

 ベネスエラのディオスダード・カベージョ国会議員(前国会議長、政権党PSUV第1副党首、大統領に次ぐチャベス派序列2位)は4月27日テレビ番組を通じ、ニコラース・マドゥーロ大統領を倒すゴルペ(クーデター)の陰謀が米国内にある、と暴露した。

 マドゥーロ政権で運輸相、食糧相などを歴任したエベルト・ガルシア少将が首謀者。ガルシアは運輸相時代、スペインからフェリー3隻を買い付けた際、公金を横領した容疑で追及された2015年4月、米国に逃亡した。

 カベージョの告発によると、ガルシアはチャベス前政権で副国防相を務めたこともあり、国軍の武器や武器庫の位置を知り、その情報を米政府、CIA、DEA(麻薬捜査局)、ペンタゴン(国防省)に伝えた。

 ガルシア一味の中核は、元DEAカラカス事務所職員だった人物らベネスエラ人ら数人。国軍内の同調者を巻き込んでゴルペを起こす計画だった。

 不満派を物資欠乏でたきつけ街頭暴力に駆り立て、社会的混乱に乗じて武装蜂起する段取りで、5月15日が決行予定日だった。その直前に米州諸国機構(OEA)が、ベネスエラの「米州民主憲章」違反を宣言するのを織り込んでいた。

 最近、ルイス・アルマグロOEA事務総長(前ウルグアイ外相)、ジョン・ケリー米国務長官らが米州民主憲章適用の可能性を口にし、カート・ティッド米南方軍司令官がゴルペ計画を漏らし、アルバロ・ウリーベ前コロンビア大統領らが「ゴルペ近し」と発言するなど、一連の出来事があった。その流れとカベージョの暴露は時期的に一致する。

 ベネスエラ国会で圧倒的多数派の保守・右翼野党連合MUDの代表議員団は28日、ワシントンのOEA本部にアルマグロ総長を訪ね、「ベネスエラの制度的危機」打開のため協力を依頼した。政府との対話仲介、ベネスエラ問題を扱うOEA特別大使会議開催、さらに「あるメカニズム」(民主憲章)適用などが「協力」に含まれている。

 同議員団は、米大統領政庁(ホワイトハウス)当局者や、ロベルタ(ロバータ)・ジェイコブソン国務省米州担当次官補にも会った。米国は1980年代までOEAをラ米・カリブ諸国侵略の道具とし、それができなくなった21世紀には、「民主憲章違反」を政権転覆の名分にする戦略をとっている。

 このジェイコブソン次官補は次期駐墨大使に近く就任する見通し。昨年来この人事に待ったをかけていた共和党右翼マルコ・ルビオが、ベネスエラへの締め付け政策を3年間延長するのをホワイトハウスに受け入れさせるのと引き換えに、大使人事を認めることにしたため、と伝えられる。[上院は28日、同政策3年延長と大使人事を了承した。] 

 ベネスエラでは26日、スリア州にある産油中心地マラカイボ市で略奪事件73件、公共施設7カ所への破壊行動が発生、121人が逮捕された。国家警備隊3500人が展開し、治安確保に当たっている。当局は、この一連の事件と「ゴルペ計画」との関連をまだ確認していない。

 ベネスエラは異常な降雨不足によってダムの水位が極度に下がり、厳しい停電を全国で実施している。物資不足などに苛まれている国民の不満は一層高まりつつある。MUDは、マドゥーロ大統領を退陣させるための国民投票実施を要請する署名活動を展開している。

 ゴルペ勢力は、そんな「好機」を捉え、米国、内外大企業、企業と繋がる大手メディアなどと連携しつつある。カベージョは時期を同じくして、ベネスエラ諜報機関からの情報を踏まえて「ゴルペ計画」を暴いたわけだ。

▼ラ米短信  ボリビアのエボ・モラレス大統領は4月27日、エクアドール太平洋岸の地震被災地の一つマナビー市を訪れ、ラファエル・コレア大統領の案内で被災状況を視察した。

 モラレスは救援物資93トンを渡し、「我々が持っている物資はわすかだが、それを分かち合いたい」と語った。ボリビア人救援隊140人も展開している。

 ペルーのオヤンタ・ウマーラ大統領も27日、救援物資とともに現地入りした。コロンビアのJMサントス大統領も既に訪れている。
 赤道国太平洋岸では16日、M7・8の超烈震が発生、死者659人、不明40人、住居喪失3万人が出ている。 
  

 
 

2016年4月28日木曜日

ドイツが元ナチ兵運営のチリ植民地に関する文書公開へ

 チレ軍政期に、強姦、未成年性的虐待、拷問、殺害、秘密警察訓練などが密かに行なわれていたドイツ人移住地に関するドイツ政府の機密文書の一部が4月26日、解除されることになった。

 ドイツ政府は同日、軍政期の1986年から90年の民政移管を経た96年までの同植民地「コロニア・ディグニダー」(尊厳ある植民地)に関する文書を近くチレ政府に引き渡すと発表した。

 この植民地は、首都サンティアゴ南方約350kmのパラル市近郊にあり、1万6000平方kmと広大で、アンデス山脈から太平洋岸に至るほどだ。戦後、ドイツから逃亡してきたナチ看護兵ポール・シャファーが建設した。

 シャファーは1973年9月11日、陸軍司令官アウグスト・ピノチェーらによるクーデターでアジェンデ社会主義政権が倒されると、軍部に植民地を使用させることにした。植民地は軍政に守られて治外法権となり、憲政と隆盛を謳歌した。

 だが、その陰で強姦、虐待や、軍政が拉致し送り込んだ左翼、労組指導者ら反軍政派を拷問し殺害していた。秘密警察は植民地で要員の訓練として人道犯罪を遂行していた。

 1990年3月の民政移管後、植民地住民が脱出、凄惨な内情を民政当局に通報した。シャファーは最終的に2005年、逃亡先のアルヘンティーナで逮捕、身柄を送還され、禁錮30年を言い渡されたが、受刑中の2010年死去した。

 ドイツ政府は、「文書は10年早めて解禁する。文書から、(軍政ばかりでなく)ドイツ外交官も植民地に対する必要な措置を講じなかった」と指摘している。1985年までの機密文書は既にドイツで開示されている。

 「尊厳」の名称とは裏腹に虐殺の場となった植民地の被害者遺族らは、シャファーの侍医だったハートムット・ホップ医師(ドイツ在住)を禁錮刑に処すよう要求している。

▼ラ米短信  ベネスエラ政府は4月26日、国家・地方公務員の出勤日を向こう2週間、月火両日だけとする、と発表した。節電のため。今月7日、金曜日が休みとされており、水木両日が加えたれた。25日からは、1日4時間の停電が制度的に実施されている。

 だが、この「週休5日制」は、保健、治安など不可欠な部門には適用されない。電力を水力発電に頼るベネスエラは、極度の雨不足でダムが干上がり、窮地に陥っている。 
  

2016年4月27日水曜日

ベネズエラで大統領罷免国民投票の申請活動開始

 ベネスエラ国家選挙理事会(CNE、選管)は4月26日、野党連合MUDに対し、ニコラース・マドゥーロ大統領罷免の是非を問う国民投票実施申請に必要な書式を手渡した。

 MUDは30日以内に、有権者の1%に当たる19万8000人の署名をCNEに提出せねばならない。憲法はこの種の国民投票を認めており、現職大統領の任期が半分を超えた段階で実施申請が可能となる。

 マドゥーロ大統領は2013年4月14日の選挙で758万票余りを得て当選、同月19日就任した。任期6年の半分3年が経過した今月19日以降、申請が可能になった。

 MUDは国民投票が実施された場合、罷免を実現するには、マドゥーロの得票数を上回る必要がある。マドゥーロにい敗れたMUD候補エンリケ・カプリーレス(現ミランダ州知事)は772万余りを得ている。

 今回の国民投票を推進してきた中心人物はカプリーレスであり、2012年に故ウーゴ・チャベス前大統領に敗れた選挙から3度目の大統領の椅子への挑戦をかけている。

 選管が書類を渡したことでMUDは、27日に全国で予定していた抗議行動を取りやめた。

 一方、最高裁は25日、国会で圧倒的多数派のMUDが20日第1回審議で可決していた、大統領任期を6年から4年に短縮し、現在無制限の大統領再選制を「再選は1回限り」とする改憲法案を、「人民意志を否定するもので、憲法への詐欺行為」として糾弾、不可とした。

 MUDは改憲によって、マドゥーロの任期も4年とし、チャベス前大統領が就任した2013年1月10日から数えて4年目となる17年のその日をもってマドゥーロを退陣させようと狙っていた。

 MUDと軍部の関係も緊張している。MUDが「国軍がマドゥーロ政権を支えている」と発言したのに対し、ブラディーミル・パドゥリーノ国防相は24日テレビで、「政府と軍を引き離すクーデターが画策されている」と述べた。これに対し、MUD最高幹部の一人であるヘンリー・ラモス国会議長は「クーデターがあるとすれば、首謀者は彼(国防相)だ」と言い返した。

2016年4月26日火曜日

6月27日にパナマ運河第3水路の営業通航開始へ

 パナマ運河庁(ACP)は4月25日、建設工事がほど終わっている同運河第3水路の通航式を6月26日実施と確認、翌27日から営業通航を始める、と発表した。

 通航式にカリブ海側コロン市クリストーバル港方面から太平洋側のパナマ市バルボア港方面にかけて最初に通航する船は、4月29日、抽選で決める。日本郵船の液化石油ガス(LPG)運搬船「リンデン・プライド」号に決まる可能性があるという。

 第3水路を通航する船舶は、「新パナマ運河最大限度」(ネオパナマックス)である、船幅49m、全長366m、喫水12・5m以内でなければならない。

 ACPは2015年度の現行パナマ運河通航実績上位15カ国を初通航船抽選会に招いている。北米から米加、ラ米から智秘コロンビア赤墨グアテマラ巴ベネスエラ、欧州から西蘭、アジアから中日韓。同通航実績は米中智日の順だった。

 パナマ政府は通航式に世界70カ国首脳を招待している。バラク・オバーマ米大統領、習近平中国主席、ラ米諸国首脳らが出席すると回答済み。「パナマ文書」問題との関連で出席に難色を示す首脳もいるという。

 第3水路の建設工事は2007年に開始された。スペインの建設会社サシルを中心とする西伊巴企業連合が想定建設費の半値で落札したが、中途で資金不足に陥り、ACPと対立。当初、現行運河開通100周年の14年8月15日開通の目標が延期を重ねた。

 費用も最終的に54億ドルに達した。ACPが見込んでいた額とほぼ同じだった。新水路を加えたパナマ運河は、世界の海運の6%を担い、年間通航料10億ドルをパナマにもたらすと見られている。

 サシル社が新水路建設に貢献したスペインは、6月26日にやり直し総選挙を実施する予定で、国王も暫定首相も出席しない見通し。

▼ラ米短信  ブラジル上院は4月25日、このほど設置された弾劾審議特別委員会がまとめる見通しの弾劾裁判開始決議案を5月12日、本会議で採択する方針を決めた。

 本会議採択は定数81の過半数(41議席)で可能。可決されれば、ヂウマ・ルセフ大統領は最大180日間、職務を離れなければならない。その間、弾劾裁判開始の是非をめぐって審議がなされ、最終的に弾劾裁判開始か否かが決まる。

 大統領離職中は、副大統領が職務を代行する。だが、そのミシェル・テメル副大統領にも、ルセフと同じ弾劾理由の嫌疑がかけられている。 

2016年4月25日月曜日

伊高浩昭執筆LATINA誌記事は「アルゼンチン政変40周年」

◎最近の伊高浩昭執筆記事など

★月刊誌LATINA5月号(4月20日刊)

「ラ米乱反射」連載第121回 「軍事政変40周年の亜国をオバーマ米大統領が訪問  人権に冷淡な経営者大統領マクリと意気投合」=ノーベル平和賞のアドルフォ・ペレス=エスキベルの発言も紹介する=

書評:『カストロとフランコ 冷戦期外交の舞台裏』 細田晴子著、ちくま新書 820円

★週刊金曜日4月22日号「きんようぶんか」 書評:『教皇フランシスコ キリストとともに燃えて』 オースティン・アイヴァリー著、宮崎修二訳、明石書店

★毎日新聞社週刊経済誌「エコノミスト」4月26日号(4月19日刊)「フラッシュ」: 「ペルー大統領選 父がハンディのケイコ氏 決選投票は苦戦必至か」

★NGO機関冊子「そんりさ」4月21日号(Vol.156) 「ラ米百景」連載第59回 「天野芳太郎の思い出」

★ラジオJWAVE金曜日(4月8日)青木理番組の「ブレイクスルー」出演 「ブラジル情勢とリオ五輪」を語る

☆掲載予告:月刊誌「世界」(岩波書店)6月号(5月8日刊) 「ホセ・ムヒーカ来日発言録」
☆掲載予告:LATNA誌「ラ米乱反射」6月号(5月20日刊) 「オバーマ訪玖と第7回クーバ共産党大会分析」

2016年4月24日日曜日

スペインでセルバンテスの死歿400周年行事催さる

 『ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ』(マンチャの郷士キホーテ)の作者ミゲル・デ・セルバンテス(1547~1616)の死歿400周年の4月23日、スペイン全土で記念行事が催された。

 実際の命日は4月22日だが、スペインでは埋葬された23日を命日としてきた。英国のシェークスピアの命日と同じになった。大作『ドン・キホーテ』は、スペインがクーバ、プエルト・リコ、フィリピン諸島などの植民地を米国に奪われた19世紀末以降の、スペイン民族主義の再高揚の過程で再評価され、優れた「スペイン性」の象徴として大きく持ち上げられた。

 この日、セルバンテスの生地である、マドリー郊外のアルカラー・デ・エナーレス市では、国王フェリーペ6世がメヒコ人作家フェルナンド・デルパソに2015年度のセルバンテス(文学)賞を授与した。

 専門家は、『ドン・キホーテ』を、<世俗の聖書>として、その後の欧州文学と世界文学に影響を与えてきた、と評価している。「世界文学史上最高の創作小説」と見なす評論家も多い。

 この物語では現実と幻想が交錯するが、現実主義小説の走りとして影響を及ぼした一方、幻想創設や20世紀の「魔術的リアリズモ」にも繋がった。

 今月5~12日来日したウルグアイのホセ・ムヒーカ上院議員(前大統領)は、「サンチョ・パンサの振りをするドン・キホーテ」と形容される。

 セルバンテスは1604年、この大作を世に出した。実人生も波乱に富み、レパントの戦いに参加し捕えられ、アルジェリアで5年、幽閉された。スペインでの募金で身代金が支払われ解放された。

 募金に貢献した跣足派三位一体修道会の尼僧院で2014年、発掘作業が行なわれ、セルバンテスのものである可能性があるという遺骨が見つかっている。

2016年4月22日金曜日

ベネズエラでマドゥーロ政権3周年機に対抗国会「祖国会議」発足

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は4月19日、就任3周年を迎えた。この日はベネスエラで最初に独立が叫ばれた日の206周年記念日。二つの記念日に合わせ、政府を支持するチャベス主義者がカラカス中心部で大々的な行進と集会を打った。

 マドゥーロ大統領はボリーバル広場での演説で、「祖国会議」(コングレソ・デ・パトゥリア)開設を発表した。故ウーゴ・チャベス前大統領が始めた「ボリバリアーナ革命」(ボリーバル主義革命)がもたらした「人民権力」を保障するのが「祖国会議」、と説明した。

 大統領はまた、保守・右翼野党連合MUDが圧倒的多数の国会によるゴルペ(クーデター)を目指す不安定化運動を無力化するのも「祖国議会」の役割だとし、一種の「対抗国会」という認識を示した。

 「祖国会議」は常設機関で、具現化する組織として「全国委員会」が設置される。この日から7月5日かけて全国で支持者の意見を吸い上げ、それを国政に反映させてゆく。5月から、新たに党員、党支援大衆組織員の登録、身分証発行を始める。

 さらに、7月14日の独立の英雄フランシスコ・ミランダの没200周年に「祖国会議」に関する国際会議を開く、と明らかにした。

 大統領は演説で、「ブラジルも、ラ米の進歩主義政権打倒を狙う帝国の攻撃対象となっている」と指摘した。世界40都市で19日、ベネスエラやブラジルを支援する行動が展開された。

 一方、野党連合MUDは19日、マドゥーロ大統領解任の是非を問う国民投票実施を選管に申請するのに必要な署名を集める活動を開始した。次いで20日、この国民投票実施法案を可決した。

 法は大統領の署名をもって発効するが、大統領が署名を拒否した場合、最高裁憲法法廷が審理する。野党議員たちは20日、選管に国民投票申請用紙をもらいに行ったが、政府支持派と対立。出動した国家警備隊に追い払われた。

 MUDは、大統領任期を現行の6年から5年以下に短縮することや、大統領の無期限再選制廃止も狙っている。

 マドゥーロ政権打倒のため内政干渉を続けてきた米国は、干渉を強めている。ジョン・ケリー国務長官は18日、米紙上で、「米州人権憲章のベネスエラへの適用の是非」を訊かれて、「民主化圧力をかけるため良い考えだ」と述べた。デルシー・ロドリゲス外相は、ケリー発言を直ちに糾弾した。

 呼応するかのように米南方軍司令官カート・ティッド提督は、「自由ベネスエラ作戦2」というマドゥーロ政権打倒計画文書に署名、それが、意図的か、暴露された。ベネスエラ政府はこれをも糾弾した。

 ワシントンの米州諸国機構(OEA)本部では21日、ベルナルド・アルバレスVEN大使がルイス・アルマグロ事務総長(前ウルグアイ外相)に、米州民主憲章のベネスエラへの適用を提案するならば、事務総長解任の覚悟が必要だと警告した。アルマグロは3月、MUDから要請があれば適用を検討すると表明。近くMUDから申請を受ける可能性が指摘されていた。

 同憲章第20条は、「民主体制に重大な影響を及ぼす憲政秩序の変更」を適用理由にしている。過去に09年のオンドゥーラスでの民軍クーデター時に適用され、同国は違法政権が終わるまでOEA加盟資格を剥奪された。アルバレス大使は、ベネスエラは、そのような状況にないと述べた。

 ベネスエラは16日エクアドール太平洋岸で起きたM7・8の巨大地震の被災者救援のため20日までに4回に分けて、物資、医師団、救助・救急隊、工兵隊などを同国被災地に派遣してきた。

 2014年のMUD支持者などによる街頭暴力事件の実態を調査する「真実委員会」は20日、調査活動を開始した。半年後に結果を報告する。

 電力省は21日、この日から40日間にわたって全国を5地域に分け、一日4時間ずつ停電を実施すると発表した。ベネスエラは異常乾燥に見舞われ、ダムが枯渇気味で、電力節約のため非常措置に踏み切った。

 その雨のない日々に特に好まれるのはビールだが、ビール製造会社ポラール社は21日、原料の大麦が29日までしかなく、その後はビールの生産を打ち切らざるを得ない、と発表した。大麦は全面的に輸入に依存しているが、ベネスエラは深刻な外貨不足に陥っている。
 

ブラジル最高裁がルーラ官房長官就任判断を後回しに

 ブラジル最高裁は4月20日、ルーラ前大統領の内閣文官長(官房長官)就任の是非判断を延期することを決めた。次回の判断期日は決まっていない。

 この日報じられた2018年10月の次期大統領選挙出馬予想候補の支持率調査結果によると、労働者党(PT)のルーラ前大統領が21%で1位。2位は、環境保護活動家マリーナ・シルヴァ19%、3位はPSDB(伯民社党)のアエシオ・ネヴェス17%だった。

 この結果からもわかるように、今回のヂウマ・ルセフ大統領弾劾の動きは、ルーラ、ヂウマ2代4期続いてきたPT政権潰しの様相が濃い。特に保守・右翼のPSDBは過去4回敗北しており、「選挙で勝てないため国会クーデター(弾劾)に出た」とPTから非難されてきた。

 国営石油ペトロブラスや大手建設会社が絡んだ大掛かりな贈収賄事件には、政治家39人に関与がほぼ明らかになっている。その中には、PT、および最近までPTと連立与党を形成していたPMDB(伯民主運動党、中道・保守)およびPP(進歩主義者党、保守・右翼)の議員も含まれている。

 ヂウマが弾劾された場合、暫定大統領に昇格するミシェル・テメル、弾劾を推進してき下院議長、上院議長の3人はみなPMDB所属で、収賄容疑・嫌疑などがかけられている。だが、まとまな捜査を受けていない。ヂウマ、ルーラ両人だけがやり玉に挙がっている、極めて異常な弾劾および訴追の動きが独り歩きしている。

 大統領は21日、国連での気候変動条約調印のためNYに向かった。テメルは臨時大統領になっている。 

2016年4月20日水曜日

チリ民政移管に尽くしたパトリシオ・エイルウィン元大統領が死去

 パトリシオ・エイルウィン元チレ大統領(97)が4月19日、サンティアゴで死去した。ミチェル・バチェレー大統領は同日、「民主国家チレの再建に尽くした」と讃え、3日間の国喪を決めた。

 エイルウィンは1918年、太平洋岸のビニャデルマルに生まれ、スペイン・フランコ派の影響を受けた保守・右翼系の政治団体「ファランヘ・ナシオナル」(FN)を45年結成。57年、FNとキリスト教社会主義系諸団体と合同し、キリスト教民主党(DC)を結党、翌年、党首に就任した。

 64年、党幹部のエドゥアルド・フレイ=モンタルバが大統領に就任、70年まで、その政権を支えた。同年、サルバドール・アジェンデ大統領の人民連合(UP)社会主義政権が発足、エイルウィンのDCは協力を決める。

 だがUP政権の左傾化を危惧、DCは野党に回り、やがて軍事クーデターやむなしという立場をとる。これがアウグスト・ピノチェー陸軍司令官を筆頭とする軍部に、クーデターを是とする「お墨付き」を与える結果となった。

 73年9月11日の流血の政変で発足した軍政は左翼ら反対派を殺戮、ピノチェーらは長期軍政を担う野心を明確にした。エイルウィン党首のDCは軍政に反対、83年、民政移管に備えて「民主同盟」(AD)を結成する。そのころ軍政は、やはり軍政に反対していたフレイ元大統領を毒殺した。

 エイルウィンは旧UP参加の左翼諸党と「民主のための政党協和」(コンセルタシオン)を結成、88年10月5日の国民投票で勝ち、政権にさらに8年間居座ろうとしたピノチェーの野心を打ち砕いた。

 翌年エイルウィンはコンセルタシオン候補として大統領選挙に勝利、1990年3月11日の民政移管で政権に就いた。直ちに「国家真実・和解委員会」を設置、軍政下で犯された人道犯罪の調査に着手、後に3195人の犠牲者が特定されることになる。91年3月には、犠牲者の遺族に「国家の犯罪」を謝罪した。

 エイルウィンは94年にエドゥアルド・フレイ=ルイスタグレ(元大統領の息子)に政権を渡し、米州開銀(BID)や国連機関で要職に就き、2002年、政界を引退した。

 [私は、エイルウィンが勝った大統領選挙、就任式などを取材、一度インタビューした。温厚で保守的な調整型の政治家だった。]


▼ラ米短信  アイチ(ハイチ)の選管「暫定選挙理事会」(CEP)は4月17日、今月24日に予定されていた大統領選挙決選の実施を無期限延期する、と発表した。政情混乱で実施条件が整わないため、というのが理由。

 ミシェル・マルテリ前大統領と国会は2月5日協定を結び、4月の決選実施と5月の新政権発足で合意していた。決選延期を受けてマルテリは18日、約束が違うと怒り、ジョスレルム・プリヴェール暫定大統領(前上院議長)に公開書簡で抗議した。

 一方、混乱に乗じて18日、武装集団が首都ポルトープランス一帯で自動車道をバリケードで遮断、タイヤを燃やした。市内の最貧困地区シテ・ソレイユでは銃撃があり、負傷者や逮捕者が出ている。

 地続きの隣国ドミニカ共和国では5月15日、大統領選挙が実施されるが、候補者の間で「国境に壁を建設しよう」と言う声が出ている。 
 

2016年4月19日火曜日

ペルー大統領選挙決選支持率:ケイコ40%、クチンスキ44%

 ペルー大統領選挙の選挙戦は6月5日実施の決選に向けて、ケイコ・フジモリ(40)、ペドロ=パブロ・クチンスキ=PPK=(77)の両候補が鎬(しのぎ)を削っている。

 4月10日の第1回投票後、初めて実施され18日公表された支持率調査の結果は、PPK44%、ケイコ40%だった。PPKは第1回投票では21%だったが、3位で決選に進めなかったベロニカ・メンドサ(18・82%)らの支持票を上乗せするのに成功しているかに見える。

 一方、第1回に39・8%を得ていたケイコは、ほぼ同じ40%で頭打ちになっている形だ。両候補は新自由主義経済政策の継続で一致、大きな争点はない。このため、依然根強い「反フジモリ世論」がケイコに逆風、PPKには追い風となっている。

 しかしケイコは、父親アルベルト・フジモリ元大統領を嫌う「政治的意識層」でない大衆層を主な支持基盤としており、これを最大限に開発すれば勝機はあると見られている。いずれにせよ、接戦になる公算が大きい。

 今回の世論調査で出た「支持候補未決定」6%、棄権10%、合わせて16%の多くを自陣に取り込んだ候補が勝つことになる。

 また、この調査では「反ケイコ」42%、「反PPK」32%という結果も出た。「反ケイコ」が50%を上回らないからには、ケイコに支持票開拓の余地があるわけだ。

 両候補は18日、リマ市内にある国家選挙審議会(JNE)本部で90分間会合、有権者への金品贈与の禁止などを確認した。

 大統領選挙と同時に10日実施された国会議員選挙では、定数130の過半数をケイコの政党「人民勢力」(FP)が握るもよう。PPK政権となれば、ねじれが生じることになる。ケイコが勝てば安定度は増す。これがケイコの自信の源となっている。
 

2016年4月18日月曜日

ブラジル下院がルセフ大統領弾劾裁判を上院に要請へ

 ブラジル国会下院本会議は4月17日深夜、ヂウマ・ルセフ大統領の弾劾裁判を上院に要請する決議案を賛成367、反対137、棄権7、欠席(不参加)2で、可決した。昨年12月初め、下院が弾劾手続き開始を決めてから4カ月半で上院送りが決まった。

 この決議には定数513の3分の2、342票が必要だが、それを25票上回る賛成票が投じられた。反政府諸党の激しい多数派工作で、政権党・労働者党(PT)の連立諸党が相次いで離脱、反政府側に寝返ったのが響いた。

 弾劾の動きを「国会クーデター」と非難してきたルセフ大統領は、「怒りと悲しみをもって受け止めた」と表明した。

 下院の弾劾裁判要請決議は18日、上院に送付される。定数81人の上院は近日中に、特別委員会(42人)を設置、25日にも委員長と書記を選出する見通し。

 委員会は報告書を作成、採択後、本会議に送付する。本会議は5月末にも審議を開始するもよう。過半数(41)で、弾劾裁判開始を決議でき、そうなれば、ルセフ大統領は最長180日間の弾劾審理中、政権を離れ、ミシェル・テメル副大統領が大統領代行となる。

 上院本会議は弾劾裁判所となり審理、180日間の期限内に、3分の2(54票)で裁定を下す。弾劾となれば、ルセフ大統領は解任され、代行が暫定大統領となって、2019年元日までのルセフの残り任期を担当する。

 下院では反政府派の数と声が大きく、大統領派は弁明をほとんど認められずに、弾劾賛成派の演説で押し切られた。上院が弾劾法廷となれば、ルセフ大統領は弁明を許される。

 リオデジャネイロ五輪は8月5日開会するが、ルセフが開会式に姿を見せないことは、ほぼ確実となった。

 ルーラ前PT政権下で起きた汚職問題は、後継のルセフ2期目になって、弾劾裁判開始直前まで大統領と政府を追いこみ、窮地に立たせている。背後には、過去4回続けて大統領選挙で敗れた伯民社党(PSDB)など保守・右翼勢力のルーラ・ルセフ・PT潰しの策謀がある。

 副大統領テメルも上下両院の各議長も、野党側に回った最大政党、伯民主運動党(PMDB)幹部で、3人とも収賄容疑がかけられている。これを棚上げし大統領弾劾の方向に突っ走っている。法治があって無いに等しいブラジルの大きな問題点がさらけ出されている。

2016年4月17日日曜日

第7回キューバ共産党大会でラウール・カストロ第1書記が報告演説

 クーバ共産党(PCC)の第7回大会が4月16日、ハバナの会議殿堂で始まった。1961年のこの日、フィデル・カストロ首相(当時)が米傭兵部隊の来襲を前に「社会主義革命」を宣言した。その55周年に因む。

 大会は19日まで続く。17~19日の3日間は、クーバ島カリブ海岸コチーノス(豚)湾ヒロン浜一帯で米傭兵部隊が上陸作戦を展開し、クーバ革命軍と民兵部隊に撃破された期間。その55周年でもある。

 代議員1000人が出席、平均年齢は48歳と若返っている。43%は女性だ。党員は昨年1月から党細胞ごとに協議を重ね、2011年の前回大会で定められた変革のための「経済社会指針」の実行状況、問題点、今大会の議題などを話し合った。その総合体が今大会で討議される。

 今大会では、2030年までの「経済社会開発15年計画」が策定される。これに欠かせないベネスエラによる原油供給は3月、両国間で決まっている。また、国交再開で活発化してい米国との経済関係も新計画の与件として組み込まれている。

 党幹部人事も焦点だ。ラウール・カストロ第1書記兼国家評議会議長に次ぐ党内序列2位は、革命第1世代のホセ=ラモーン・マチャード第2書記(国家評議会副議長)だが、第2書記が、ラウール議長の後継者である国家評議会第1副議長ミゲル・ディアスカネル政治局員に移るか否かが最大の関心事。

 もしそうなれば、18年2月にラウールの議長任期が終わり議長に就任するミゲルへの信頼が「絶対的」となったことを示唆する。ラウールは党規上、21年まであと5年間、第1書記に留まることが可能。

 ラウール第1書記は16日、党大会の開会演説(中央委員会報告)で、「急がず休まず、着実に前進する」と持論を述べ、「統計や
ドグマに囚われない討議」を求めた。

 前回大会で承認された「経済社会指針」313項目は、21%が実行され、77%が実行中で、2%は手つかず。ラウールは、「指針実行は容易でなく、障害や矛盾があった」と指摘、最初の5年間では終わらないことを認めた。

 変革過程では、弱者に打撃となる「衝撃療法」は用いず、国有財産・サービスの民営化を促す新自由主義も採らない、と従来からの原則を確認した。

 また、「経済政策は、革命がもたらした平等主義や正義を壊すものではなく、党を中心とする人民団結を損なわせるものでもない」と強調。だが、「(悪)平等主義を克服し、各人が能力と労働に応じて社会主義原則を守る」べきことを付言した。

 指針実行には規律、より多くの貢献、改革過程積極関与が人民に求められるとしながらも、二重通貨制度が問題を複雑化させていると指摘。銀行預金は外貨、兌換ペソ(CUC)、通貨ペソ(CUP)のいずれでも可能であることを確認した。

 配給制度については、大幅に廃止されたが、(貧困層、孤老らのために)今後も補助金による配給を続けると述べ、加速する高齢化社会に対策を講じると語った。

 外資導入では建設中のマリエル開発特区(ZEDM)を例に挙げた。日本を含む債権国から公的債務の大きな部分の返済を免除されたことで可能になった「債務再編」のお陰で、クーバ経済への信頼が増し、通商、投資、融資の可能性が膨らんだ、と指摘した。

 国営企業については「効率化が必要」と従来通りの発言。労働者への賃金による刺激策を肯定しながらも、その前提として労働者の能力的準備が不可欠と述べた。

 農産品価格(の高騰)を問題だと指摘、生産不足が原因とした。年間20億ドルも輸入してる食糧に関しては、その生産を阻害している要因を廃棄すると強調した。農牧業以外の分野-商業、技術サービス、軽工業、建設など-での協同組合化は引き続き促進される。自営業には50万人が従事している。

 ラウールは、「私有財産制度は資本制への復帰や富の集中化を意味せず、あくまで社会主義国家の開発、革命に資するためにある」と前置きし、体制変換を狙う「強大な外国勢力」(米国)に警告した。

 党員には、模範、闘争心、準備、倫理、政策、イデオロギー、大衆への関与を要求。「ばらばらになれば何世代にもわたるクーバ人民の犠牲によって鍛えられた祖国、社会主義、独立は終わる」とし、党の下に団結し、脅威に対抗、侵略から守ると強調した。

 さらに、「圧力や<人魚の心地よい誘い>があっても、威厳、恥意識、主権国家人民としての価値・原則に則って生きよう」と呼び掛けた。

 また、LAC(ラ米・カリブ)との連帯と、米植民地プエルト・リコの独立支援を確認した。 
 

2016年4月16日土曜日

ラ米で「最も魅力的なコロニアル風10都市」の1位はクスコ

 スペインのエル・パイース紙系列の旅行雑誌「エル・ビアヘーロ」(旅人)は4月15日、ラ米に数多い植民地時代の街並みを残す「コロニアル風」都市の中で「最も魅力的な上位10都市」を発表した。

 1位は、ペルー高地にあクスコ。インカ帝国の首都で、旅行者にとってはマチュイチュ遺跡への玄関口だ。2位は、メヒコのサンミゲル・デ・アジェンデ。小じんまりした街。半世紀前から内外のヒッピー、芸術家らが住みついてきた。近くには、ドローレス・デ・イダルゴ、グアナフアトなど同様に魅力的な街がある。

 3位は、コロンビアカリブ海岸のカルタヘーナ・デ・インディアス。城壁に囲まれた旧市街と丘上の巨大な砦が歴史を偲ばせる。4位は、グアテマラの旧首都アンティグア。昔の大地震で壊滅したが、その時、街を埋めた土石流の源の火山が郊外に聳え立つ。この街には、西語を学ぶ日本人の若者が多く暮らす。

 5位は、エクアドールの首都キト。標高3600~3800mの高地にある。郊外には赤道の走る「ミター・デル・ムンド」(世界の半分=中央線)に巨大な碑が建つ。ここには南米諸国連合(ウナスール)の本部がある。6位は、ボリビアの銀山の街ポトシー。造幣局の跡がある。ここの銀貨がスペインや欧州の文明構築に大いに貢献した。

 7位は、ブラジルのオウロ・プレト(黒い金)。ブラジル発達史上の「金産出期」の中心地だった。この街には、世界中から迫害されている人々を招き、居場所を提供するという運動が息づいている。8位は、ニカラグアのグラナーダ。この街にも、その昔、地震で破壊された跡が残されている。

 9位は、クーバカリブ海岸のトゥリニダー。奴隷貿易の中心地の一つだった。砂糖生産場の跡がある。10位は、ウルグアイのコロニア・デ・サクラメント。このほど初来日した前大統領ホセ・ムヒーカが好きな街だ。

 ポルトガル人が築いたブラジルのオウロ・プレトを除いては、すべてスペイン人が造った街。つまり先住民や黒奴隷が酷使された名残である。

 植民地にされ解放されたラ米側が選べば、「コロビアル風10都市」は、これとは異なるものになるはずだ。

2016年4月13日水曜日

ベネズエラ最高裁が「恩赦法」を違憲と判断、政府は反政府勢力の犯罪暴く「真実委員会」を設置

 ベネスエラのニコラース・マドゥーロ大統領は4月12日、「真実・正義・平和・賠償委員会」を設立し、アリストーブロ・イズトゥーリス副大統領を委員長に据えた。検事総長、外相、オンブズマンらも委員として参加している。

 この委員会は、故ウーゴ・チャベス前大統領が就任した1999年2月から2015年末までの期間に起きた反政府勢力による破壊活動、殺傷事件、人道犯罪などの犠牲者について調査、必要な場合、犠牲者側に賠償する。

 南米諸国連合(ウナスール)が委員会を支援する。ウナスールの事務局長エルネスト・サンペール元コロンビア大統領は同日カラカスで、ドミニカ共和国(RD)のレオネル・フェルナンデス前大統領、パナマのマルティン・トリホス元大統領、スペインのホセ=ルイス・ロドリゲス=サパテーロ前首相が、委員としてでなく「同伴者」として参加すると発表した。

 今月末には委員会設置との関連で、「国際和平正義セミナリオ(セミナー)」がカラカスで開催される。これには現在、和平交渉が最終段階にあるコロンビア政府とゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)の交渉者、少数白人のアパルトヘイト政権を話し合いで消滅させた南アフリカ政府、ネルソン・マンデーラ財団、軍政期の人道犯罪を裁いてきた亜国、チレ、ウルグアイの代表らも参加する。

 マドゥーロ大統領が委員会設置やセミナリオ開催を決めたのは、国会で3分の2に迫る圧倒的多数を占める保守・右翼の野党連合MUDが、組織的な反政府街頭暴事件に関与し、力テロリズムや破壊活動で禁錮刑に処せられた者や逃亡中の者を中途で免罪する「恩赦法」を成立させたことへの対抗策としてだ。混乱する政情を「準内戦状態」と見なしているのだ。

 MUDは、彼らを「政治囚ないし政治犯」と規定しているが、政府は「重大刑事犯」と捉え、それが政治家であれば「(政治囚では決してなく)収監されている政治家」にすぎない、との立場だ。

 国連人権高等弁務官事務所や、米国の影響力が強い米州諸国機構(OEA)事務局はMUDを支持しており、「恩赦法」に署名しないマドゥーロ大統領を批判してきた。

 だがベネスエラ最高裁・憲法法廷は11日、「恩赦法」を違憲とする判断を下し、問題に一応の決着をつけた。12日設立された委員会は、チャベス・マドゥーロ2代17年に及ぶチャベス派政権下で、1998年まで政権を握っていた有産層中心の旧支配勢力、その利益を代表する野党、その現在の連合体であるMUDに関係する諸事件の罪状を暴き出し、「恩赦法」に正当な根拠がないことを内外に示すためだ。

 最高裁判断を受けたMUDは12日、国家選挙理事会(CNE)に、マドゥーロ大統領罷免の是非を問う国民投票実施を請求する書類上の手続きを開始した。憲法は、大統領が任期半分を過ぎた場合、この国民投票の実施を条件付きで認めている。

 一方、マドゥーロは12日、「ベネスエラは過去17カ月間に対外債務元本と利子計300億ドルを支払った」と明らかにした。大統領は、「それにも拘わらず、米財務省が支援する国際金融界はベネスエラを金融封鎖している」と批判した。

 また17日カタールのドーハで予定されている石油輸出国機構(OPEC)加盟国・非加盟産油国会議について、「米国は会議を妨害しようとしている」と非難した。大統領は、ベエネスエラ、コロンビア、メヒコ、エクアドールがキトで予備会談を済ませたことにも触れた。

 国際通貨基金(IMF)はこの日、ベネスエラの経済予測を発表。去年5・7%縮小したGDPは今年8%、来年4・5%、それぞれ縮小する展望した。失業率は今年17・4%になる見込み。去年121%だったインフレは今年481%、来年1642%になる見通し、と明らかにした。

2016年4月12日火曜日

ペルー大統領選挙決選のケイコの相手は元経済相PPK

 ペルー大統領選挙第1回投票が4月10日実施され、開票率99・35%段階でケイコ・フジモリ元国会議員(40)=人民勢力(FP)=が得票率39・81%で、6月5日の決選への1位進出を決めた。

 決選でケイコと大統領の座を争うことになったのは、ペドロ=パブロ・クチンスキ(PPK)元経済相(77)=変革のためのぺルー人(PPK)=で、得票率は21・00%だった。

 PPKと2位争いをしていた中道左翼のベロニカ・メンドサ(35)=拡大戦線(FA)=は18・82%で、敗退した。

 ケイコとPPKはともに新自由主義経済路線を継承、「中道右翼」と位置付けられている。ケイコは農村部、都市大衆層、中小企業者などに人気が高く、PPKは内外大企業、米財界、都市中産及び富裕層から支持されている。

 5年前の前回大統領選挙決選でケイコはオヤンタ・ウマーラ現大統領に敗れたが、決選に進出できなかったPPKはケイコ支持に回っていた。それが今回は「本命と対抗馬」の関係となった。

 メンドサの決選進出の可能性もあった。進出すれば、ペルー大統領選挙史上初の女性候補同士の一騎討ちとなっていた。また、メンドサの政党FAは新憲法制定、貧困解消、社会投資拡充などに政治の力点を置いており、新自由主義路線+社会政策のケイコと政策論争をしうる立場にあった。

 ケイコとPPKの争いとなったことは、有権者の多数派が「変化」よりも「安定」を求めていることを示す。南米政治の潮流に昨年11月以降、「右傾化」や「保守化」が著しく、これがペルーではメンドサに不利に作用した。

 ケイコは決選進出を当たり前のこととして選挙戦を展開してきた。最大の敵は、父・アルベルト・フジモリ元大統領=禁錮刑受刑囚=の政権下で起きた人道犯罪、腐敗、お手盛りクーデターなどを指摘して「反ケイコ」を煽る勢力の存在だ。このためケイコ陣営は昨年から、「元大統領離れ」を鮮明にしてきた。

 PPKにとって難敵は、ケイコと、77歳いう自身の高齢だ。ケイコは決選進出を決めた直後、「未来はもう始まっている。政策で決選を戦う」と語った。

 アラン・ガルシア(得票5位)、アレハンドロ・トレード(8位)の両大統領経験者は、いすれも「腐敗した過去の政治家」として見離され惨敗した。また選挙管理当局が有力2候補の出馬資格を剥奪したことで、PPKが浮上できた。ケイコは昨年から1年余り、常に支持率1位を維持してきた。

 決選の行方は予断を許さないが、ペルーに「初の女性大統領」が誕生する可能性が膨らんでいるのは確かだ。

★ラ米短信[ブラジル] ブラジル下院弾劾問題特別委員会(65人)は4月11日、ヂウマ・ルセフ大統領を弾劾すべしとする報告書を賛成38、反対27で可決した。

 これを受けて下院本会議が14日以降開かれ、審議した後、弾劾か否かを可決する。可決には3分の2の342票が必要だが、現時点では固まっていない。否決されれば廃案となり、可決されれば上院に送られる。  

2016年4月10日日曜日

今日ペルーで大統領選、決選でのケイコの相手は誰かが焦点

 ペルーで4月10日、大統領選挙を中心とする「総選挙」が実施される。注目の大統領選挙(第1回投票)は、ケイコ・フジモリ(40歳、人民勢力=FP=候補、保守・中道右翼)の得票第1位は動かないと見られ、6月5日実施の「決選の相手が誰になるかを決める選挙」と位置付けられている。

 もちろん10日に1位得票者の得票率が50%を超えれば当選するが、それはありそうもない。2位で決選に進出する候補は、ペドロ=パブロ・クチンスキ=通称PPK=(77歳、変化のためのペルー人=PPK=候補、保守・中道右翼)と、ベロニカ・メンデサ(35歳、拡大戦線=FA=候補、中道左翼)のいずれかとなる公算が大きい。

 最新の支持率調査では、ケイコ38・2%、PPK19・9%、メンドサ18・9%。ケイコは昨年初めから一貫して支持率首位の座を維持してきた。前回選挙でケイコは決選に進出したが、現大統領オヤンタ・ウマーラに敗れた。そのウマーラは前々回選挙の決選に1位進出しながら、2位進出のアラン・ガルシア前大統領に逆転された。

 ガルシアは通算3期目を目指し出馬しているが、「腐敗した過去の政治家」と見なされ、支持率5位で、振るわない。

 1990年の選挙では、決選で2位進出の数学者アルベルト・フジモリ(ケイコの父)が1位進出の作家マリオ・バルガス=ジョサに逆転勝利した。こうした過去の例からケイコの決選勝利は不確かであり、ケイコ陣営は当初から決選勝利に的を絞り、有権者に拒否反応が強いフジモリ元大統領と娘ケイコを切り離す戦略を推進してきた。

 ケイコは8日、選挙戦の締めくくりで、「ペルーに欠けているのは強い指導力だ。私は<ズボンをしっかりとはいて>=指導力を十分に発揮して=政治を運営する。重大極悪犯罪者のため標高4000mの地に刑務所を造る」と訴えた。

 今選挙戦のさなか支持率が上位2~5位にいた有力候補2人が国家選挙審議会(JNE)によって出馬資格を取り消された。これにより、下位にいたメンドサが上位に浮上。2~4位の間を浮動していたPPKは2位に落ち着いた。

 メンドサが決選に進出すれば、女性同士の戦いとなり、いずれが勝ってもペルー史上初の女性大統領となる。メンドサは「人民の人民による人民のための政府」を謳い、新憲法制定や社会投資拡充を中心政策に掲げている。またケチュア語を話すこともあって、先住民や都市貧困層に人気がある。

 トレード前々政権で首相・経済相を務めた経済学者PPKは、財界、米財界が期待する人物。だが77歳と高齢なのが不安材料。

 最強のケイコは、現在の新自由主義経済路線に貧者救済のための社会政策を加えた「ポスト新自由主義」路線。かつて父親が手掛けた路線に手を加えたものだ。

 決選で相手がPPKならば、ケイコの農村部・地方部大衆層+中止企業と、PPKの都市富裕層・中産層+財界中央の戦いになる。相手がメンドサならば、彼女の「左翼政策」を嫌うPPK票を含む保守票がケイコに集まると予想されている。メンドサが勝てば<奇蹟>と見なされている。

 有権者は2300万人。副大統領2人、国会議員130人、アンデス議会議員15人も同時に選ばれる。米州諸国機構(OEA)を中心とする国際監視団が展開している。

2016年4月9日土曜日

J-WAVE、青木理、ブラジル情勢、リオ五輪、夜の六本木

 六本木ヒルズ(森ビル)33階にFM81・3の「JーWAVE」放送局がある。2000~2130の「ブレイクスルー」という番組(金曜日担当、青木理パーソナリティー)に30分弱出演し、ブラジル情勢とリオ五輪について話し合った。

 窓の外には東京タワーが赤く肢体を誇らしげに輝かせ、彼方にはベイブリッヂが万国旗で飾られた旅客船のように浮かび上がっていた。東京の街は星座にように光っていた。だからガラスの外に目が行くと、生放送に出ていることを忘れてしまう。くわばら、くわばらだ。

 放送中に聴取者からTwtで質問が殺到する。その一つは、ブラジルの汚職体質についてだった。無処罰(インプニダー)の悪しき法治状況と、植民地時代から続く弱肉強食の国富収奪主義の伝統があるのと無関係でない旨、そして、ブラジルだけでなくラ米全体も同様に状況であること、を回答として話した。日本も汚職と無関係ではない。

 日本滞在中の前ウルグイア大統領で現上院議員のペペ(ホセ)・ムヒーカ(80)のような、物質に惑わされない精神の億万長者はラ米では稀なのだ。否、世界中で在りえない「奇蹟的存在」だ。6日にペペと対話して、その印象を新たにした。

 リオ五輪は、「完璧ではないが、8月5日に開会し、21日に閉会し、五輪は過去のものになるでしょう」と言う在日ブラジル人の意見を紹介しておいた。

 私はブラジルも50年近く取材し、リオには4年住んだ。だから、大概の事は起承転結、係り結びとしてわかる。

 スタヂオで、友人のジャーナリスト、高瀬毅にばったり会った。地下鉄六本木駅近くの喫茶店で、アイスクリーム突っつきながら愉快な会話を楽しんだ。

 東京の中の異境・六本木、異邦人の多い街。誰もかれも、束の間の時を費やしている。ペペならば、「あなたは幸福ですか」と一人一人に訊ねるに違いない。

 若い記者だったころ、幾夜も徹夜で酒を呑んだ夜の六本木を、実に久々に友人と歩いたことで、ブラジルは脳裡の果てに去ってしまった。
  
 

 

2016年4月7日木曜日

ブラジル上院議長が繰り上げ大統領選挙10月実施に言及

 ブラジル国会上院のレナン・カリェイロ議長(PMDB所属)は4月5日、現在の政治危機を国会議員たちが乗り切ることができなければ、2018年10月実施予定の次期大統領選挙を2年間繰り上げて、今年10月の統一地方選挙と同時に実施する可能性も出てくると述べた。

 議員たちの間では、弾劾手続きを止めて繰り上げ選挙を実施する危機収拾案に賛成する者が増えつつある。

 下院(定数513)本会議が今月半ばヂウマ・ルセフ大統領の弾劾を決議した場合、上院(定数81)は過半数で決議でき、その後180日審議し、最終的に3分の2(55人)で弾劾を決めることになる。4月から数えると、10月はちょうど半年後になる。

 だがカリェイロ議長も、国営石油会社ペトロブラスから収賄した嫌疑がかけられており、最高裁は3月末、同議長の捜査を当局に許可している。

 一方、ルセフ弾劾裁判実施の是非を審議している同国国会下院の特別委員会(65人)は4月6日、弾劾裁判を実施すべきだと下院に勧告する報告書を提示した。報告書は、同委員会審議記録者であるジョヴァイル・アランテス議員(伯労働党)が作成した。

 特別委員会は11日、報告書を本会議に送るか否かを採決する。送付された場合、本会議は15日以降採決する見通し。可決には、定数の3分の2(342)の賛成が必要。

 弾劾裁判は1992年のフェルナンド・コロル大統領弾劾以来となる。ルセフは2014年に再選された大統領選挙の際、「公金を粉飾決算して選挙資金を捻出した背任行為」を理由に弾劾対象にされている。

 エドゥアルド・クーニャ下院議長は6日、ミシェル・テメル副大統領を弾劾裁判にかけるかどうかの是非を審議する特別委員会設置の手続きに入った。テメルは、ルセフ大統領が弾劾裁判にかけられた場合、大統領代行、弾劾された場合、暫定大統領になる職位にある。テメルはまた、政権党連合を先月離脱した最大政党PMDB(伯民主運動党)の党首でもある。

 クーニャは5日、最高裁から、ルセフ大統領と同じ「公金粉飾決済」の嫌疑でテメル副大統領を弾劾裁判にかけるか否かを審議するよう求められながら怠っていたとして、弾劾手続きを開始するよう命じていた。

 クーニャは、PMDB党員であり、自身が巨額の収賄容疑で起訴されていることから、政治的保身を重視したのか、最高裁命令に従っていなかった。大統領弾劾の是非をめぐる政争はますます政党間の権力闘争の色合いを帯び、混迷の度が深まっている。

 政権党連合でルセフらの労働者党(PT)を支える進歩主義党(PP)は6日、政権党に留まる意志を表明した。大統領は6日、弾劾裁判阻止を狙って多数派工作を図るための閣僚など政府高官の人事はない、と述べた。

 ブラジルの労働界や知識人はルセフを支持しており、11日には支援集会を予定している。だが財界や保守・右翼勢力はルセフ弾劾実現を支援している。

 ベネスエラ、ボリビア、チレの大統領らラ米首脳からはルセフ支持が表明されつつある。米州諸国機構(OEA)のアルマグロ事務総長もルセフ支持を打ち出している。

2016年4月6日水曜日

ウルグアイ前大統領ホセ・ムヒカが東京で大いに語る

 ウルグアイのホセ・ムヒーカ上院議員(前大統領)は4月5日、ルシーア・トポランスキ夫人(上院議員)および、ムヒーカについて書かれ最近刊行された訳書『権力に着いた異端児』(邦題「ホセ・ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領」、角川文庫)の共著者2人と共に初来日。6日朝、東京・富士見町の角川ビル内での記者会見に4人そろって臨んだ。

 一言居士として名高いムヒーカは冒頭、「80歳の身に長旅はきつい。観光のためだけに来ることはできない。経済や技術が高度に発達した日本に人類の未来を見ることができるのではないか、という問題意識を持ってやってきた。日本人が果たして真に幸福かどうかも確かめてみたい」と述べた。

 質疑では最初に私(伊高)が、コルバタ(ネクタイ)をしないムヒーカの「無ネクタイの哲学」を本人に訊いた。ムヒーカはゆっくりと、かつ滔々と語った。結論的には、「ネクタイの彼方にある価値が大切だ」ということだった。

 これまで会った世界の首脳たちの中で誰がいちばん印象に残るか、という質問には、「チェ・ゲバーラだ」と答えた。現存する首脳、元首脳らについては言及を避けた。

 2014年12月、米玖両国は国交正常化合意を発表したが、そこに至る過程で、ムヒーカは、バラク・オバーマ米大統領とラウール・カストロ玖議長との間でメンサヘ(メッセージ) の受け渡しをとりもった。会見で問われ、その事実を語った。

 大統領時代に大麻栽培を許可したことについては、「合法化したのではなく、政府の目が届くように規制管理しただけだ」と述べた。麻薬の闇市場の存在を無視できず、規制の範囲内で大麻の栽培を認めた。「麻薬より悪いのは麻薬取引であり、麻薬常習からは逃れられるが、取引(麻薬マフィア)の一度入ったら抜け出せない。若者をマフィアに渡すわけにはいかない」と強調した。

 持論の「幸福論」もたっぷりと展開した。「人間は物質、金(かね)、欲望、権力、名誉のために生きるのではなく、幸福であろうとするために生きている。生きていることは奇蹟なのだ。このことを若い世代に考えてもらい、よりよい世界を築いてほしい」と、若者たちに託す希望を発信した。

 日本で人気が沸騰していることに関してムヒーカは、「おそらく古い日本文化にあって、西欧化によって隠されてしまっている部分と通底している価値を私が語るからではないか」と分析した。

 都市ゲリラ時代からの同志であるルシーア夫人は、夫の魅力を訊かれて、「政治家は目先の利益を考えて言動するが、夫は利害でなく理想や信念で動く。その点だと思う」と答えた。

 共著者アンデレス・ダンサとエルネスト・トゥルボビッツは、著書と訳書が遠いウルグアイと日本の文化・友好の橋を懸けたと指摘、そのお陰で日本に来ることができたのが嬉しい、と述べた。

 ムヒーカは、築地魚市場見物、東京外語大生との対話、前記新訳書署名会、テレビ番組出演、観光などを続け、12日離日する。

 ★ムヒーカ来日時の発言などの取材記は追って雑誌などで伝えたい。

2016年4月5日火曜日

ブラジル下院特別委がヂウマ・ルセフ大統領の弾劾審議を開始、17日にも本会議採決か

 ブラジル国会下院で4月4日、ヂウマ・ルセフ大統領の弾劾審議をするかしないかをめぐる特別委員会(65人)の審議が始まり、ルセフ政権で司法相を経験した弁護士ジョゼ・カルドーゾが90分間、弁護の陳述を展開した。

 カルドーゾは、大統領弾劾審議は、大統領が直接関与した例外的に重大な過失がある場合に限って認められており、粉飾決算などを弾劾審議開始の理由にするのは違憲だ、と訴えた。

 同弁護士はまた、下院議長エドゥアルド・クーニャは昨年12月、国営石油会社絡みの贈収賄事件に関与、500万ドルを収賄した疑いで下院倫理委員会で追及されることが決まった翌日、野党勢力の要求を入れて大統領弾劾審議開始を決めたが、これは倫理委員会による追及を阻止しなかった大統領へのクーニャによる報復行為だ、と糾弾した。

 特別委員会は5日間審議し、11日にも採決する。次いで採決結果は下院本会議に送付される。本会議は審議の末、17日にも採決する。弾劾決議には、下院定数513の3分の2の342票が必要。逆に見れば、大統領側は172票を固めれば、弾劾を阻止することができる。

 本会議が弾劾を決議すれば、議案は上院に送られる。上院は単純過半数で弾劾審議継続を決めることができ、決まれば180日間、大統領は職務を離れなければならない。その間、副大統領(ミシェル・テメル)が大統領代行となる。

 上院本会議は180日の間に審議し、3分の2で最終的に決議する。弾劾が成れば、大統領は解任され、大統領代行(副大統領)が暫定大統領として、ルセフ大統領の2018年大みそかまでの残り任期を務めることになる。18年には次期大統領選挙が実施され、新大統領は19年元日就任する。

 下院本会議が弾劾決議を否決すれば、その瞬間、廃案となる。ルセフ大統領は近く大型人事を断行し、連立与党から離脱した最大政党PMDB(伯民主運動党)が占めていた閣僚や官庁などの多数の高官職務を、弾劾反対の約束と引き換えに下院議員らに割り振る考えだ。

 下院議長クーニャは収賄罪で起訴されながら、不逮捕特権に守られてきた。だが3日の報道で暴露された「パナマ文書」に氏名が載っており、新たな醜聞が加わって、地に落ちている信用はさらに傷ついた。

 一方、最高裁は7日にも、腐敗罪で起訴されているルーラ前大統領の文官長(官房長官)就任の是非を判断する。ルーラは野にいれば、労働者階級の最高指導者として弾劾反対で大動員をかけることができるが、政権を内側から支えるため大統領に次ぐ実力者となれば、在野活動が難しくなる。このようjなジレンマを抱えているが、閣僚となれば不逮捕特権が得られることになる。

 ルーラは18年の大統領選挙に出馬する意志を表明している。
 

2016年4月4日月曜日

マクリ大統領も絡む脱税天国事件でパナマ政府が捜査開始

 パナマ政府は4月3日、パナマ市にある「モサック・フォンセカ弁護士事務所」が運営する特殊会社の電脳が侵入され「パナマ文書」と名付けられた厖大な機密文書が盗まれて暴露された事件の捜査を開始した。文書内容は、南ドイツ新聞および「国際調査報道ジャーナリスト連合」(ICIJ) 加盟のメディアが3日一斉に報じた。

 流出したのは、過去数十年に亘りファイルされていた1150万点に及ぶ文書類で、世界約200カ国・地域の21万4000企業、72カ国の現職・元職書国家元首・政府首班、富裕有名人多数が顧客などとして絡んでいる。

 パナマのJCバレーラ大統領は、パナマが脱税天国提供国名簿に入っていたのを屈辱とし、金融取引の「完全透明化」に努め、名簿からのパナマ削除を勝ち取った。それだけに今回の事件は強烈な打撃となった。

 顧客名簿には、アルヘンティーナのマウリシオ・マクリ大統領、ロシアのウラディーミル・プーチン大統領、「世界一のサッカー選手」リオネル・メッシ(亜国人)、欧州サッカー連盟前会長ミシェル・プラティーニ(仏人)、スペイン人映画監督ペドロ・アルモドーバルらが関係する法人も含まれている。

 亜国では3日、政府寄りの新聞「ラ・ナシオン」と、TV「13チャネル」が「パナマ文書」事件を報じた。マクリ大統領は同日、ブラジルでの投資を目的とする同族会社「フレグ商事」に父、兄弟と共に重役として参加していた事実を認めた。同社はバハマに置かれていた。

 マクリは、「たまたま重役陣に名を連ねていただけで、資本に参加しなかったし配当金も受け取っていない」と釈明した。同商事は、マクリがブエノスアイレス市長になっていた2009年に営業を終えた。マクリは07~08年に米国などの銀行に口座を持っていたとも明かしている。

 去る1日ワシントンでマクリは、核物資・兵器安保首脳会議出席の折、安倍首相と会談。亜国側報道によると、安倍は「亜国が自由経済を伴う新しい時代を推進しているのは日本にとっても喜ばしい」と述べ、マクリは気を良くした、という。

 また日本側は、亜国が希望するOECD(経済協力開発機構)加盟と、2018年のG20首脳会議の亜国開催を支持した、と報じられている。「パナマ文書」事件で、日本側のマクリの印象が多少変化するのを否めまい。

 問題を複雑にしているのは、上記弁護士事務所の幹部所員である弁護士ランモー・フォンセカが、バレーラ大統領の顧問であることだ。

 

2016年4月2日土曜日

ペルー大統領選挙まで10日、ケイコ・フジモリが1位維持

 ペルー国家選挙審議会(JNE)は4月1日、ケイコ・フジモリ大統領候補の出馬資格剥奪を求める反フジモリ派の訴えを証拠不十分として却下した。JNEは既に3月、同様の訴えを却下、その再審理要求を今回却下し、判断は確定した。

 JNEは、支持率調査で上位2~5位以内にいた有力候補2人の出馬資格を剥奪しており、ケイコ候補の選挙運動継続も危ぶまれていた。

 今月10日の大統領選挙第1回投票を監視する米州諸国機構(OEA)は1日、JNEによって資格を奪われた2候補が復権しない限り、ペルーの大統領選挙は「半民主主義状態」で実施されることになる、と憂慮を表明した。

 選挙まで10日と迫った3月31日公表された最新の支持率調査では、ケイコ・フジモリ(人民勢力)が36%で1位。「変化のためのペルー」候補ペドロ=パブロ・クチンスキ(PPK)が16%で2位。3位ベロニカ・メンドサ(拡大戦線)15%、4位アルフレド・バルネチェア(人民行動党)9%、5位アラン。ガルシア(人民同盟)3%。

 過半数得票者は出そうもなく、上位2候補が6月5日実施の決選に進出する。ケイコの1位進出は堅いと見られている。2位はPPK、メンドサ、バルネチェアのいずれかとなる公算が大きい。決選予想では概ねケイコ有利となっている。

 だがケイコの父アルベルト・フジモリ元大統領期(1990~2000)のお手盛りクーデターによる民主中断、秘密警察と治安部隊による人道犯罪、麻薬汚染、腐敗、メディア買収などを依然攻撃する反フジモリ派は、反ケイコ派となって健在だ。ケイコにとっては、決選に向け、反ケイコ派を懐柔しつつ3位以下の票を引き付けられるか否かが勝敗の鍵となる。

 選挙では大統領の他、副大統領2人、国会議員130人、アンデス議会議員15人が選ばれる。有権者は2300万人。

▼ラ米短信  ドミニカ共和国(RD、ラ・ドミニカーナ)の首都サントドミンゴで4月1日、第10回CELAC(ラ米・カリブ諸国共同体)外相会議が開かれた。

 会議は、米州およびラ米の他の地域統合組織との連携、移民、極貧、食糧供給、気候変動、麻薬取締などを討議した。会議の議題と討議内容は、来年1月RDで開かれる第5回CELAC首脳会議に提示される。 

2016年4月1日金曜日

ブラジルで大統領支援デモ、最高裁は反ルーラ派判事を外す

 ブラジル長期軍政(1964~85)年の発端となったクーデターの52周年記念日の3月31日、全国各地でヂウマ・ルセフ大統領とルーラ前大統領を支持する広範な街頭デモ行進が実施された。大統領は弾劾の危機に直面しており、前大統領は汚職事件で裁かれようとしている。

 ルセフ大統領は31日ブラジリアの政庁で、弾劾運動を展開してきた野党および反政府勢力について、「(弾劾を目指す運動の)激化はナチズムのようだ。思想信条ゆえに人を非難するとは悲しいことだ」と述べ、反政権勢力を牽制した。

 街頭デモ参加の労働者党(PT、政権党)党員らは、29日に政権党連合から離脱したPMDB(伯民主運動党)、および同党所属の上下両院議長を非難した。両議長ともに、国営ブラジル石油(ペトロブラス)絡みの汚職事件への関与を検察庁から追及されている。

 ルーラ前大統領は街頭デモに合わせて声明を発表、「軍政からの民政奪回のため、どれだけ大きな犠牲を払ったことか」と強調。「民主政治を崩してはならない。獲得した社会的成果を失ってはならない」と訴えた。

 最高裁は31日、ルーラの汚職事件関与捜査を指揮してきた地裁判事セルジオ・モロを捜査から外し、最高裁が捜査の指揮を執ることにした。賛成8、反対2で決まった。

 汚職容疑で起訴されているルーラは、モロ判事がルーラの身柄を一時拘束し強制尋問したことや、ルセフ大統領がルーラを政府文官長(文民内閣官房長官)に任命した際の両人の通話盗聴を警察に命じ、任命発表に合わせて通話内容を暴露したことなどから、「公正でない」とモロを忌避していた。最高裁はルーラの言い分を認めたわけで、ルーラは一息ついた。

 最高裁は来週、ルーラの文官長任命人事および、盗聴された通話内容を正当な証拠と認めるべきか否かを審理する。

 一方、ブラジル国家治安部隊(FNSB)のアヂルソン・モレイラ長官は31日、「大統領を含む道義心に欠けた集団の指揮下にはいられない」と公開書簡で政府を糾弾、辞任した。この部隊はリオ五輪の治安を担う主要機関の一つ。これに対し司法省は、重大な規律違反であり懲罰がありうるとして、モレイラの捜査を開始した。

 また重要な経営者団体「サンパウロ州産業連合」(FIESP)のパブロ・スカフ会長は31日、「大統領は行政能力を失っており早期弾劾を望む。ミシェル・テメル副大統領(PMDB党首)が暫定大統領になるのを支持する」と語った。国会下院は4月半ば、大統領弾劾審議に入る。

▼ラ米短信  解放者シモン・ボリーバルが1815~1816年にかけ、ベネスエラをはじめ南米北部の独立を目指し、船団を率いてアイチ(ハイチ)からベネスエラまで航海した「ロス・カヨス遠征」の200周年を記念する式典が3月31日、ポルトープランスで催され、アイチのジョスレルム・プリヴェール暫定大統領、ベネスエラのアリストーブロ・イズトゥーリス副大統領らが出席した。

 ボリーバルは1816年初め、アイチ大統領アレクサンドル・ペシオン大統領と会談、大統領はベネスエラへの軍事支援などを約束。遠征にはベネスエラ人のほか、アイチ人多数が参加した。この遠征は、ベネスエラ海軍の起源と位置付けられている。

 この日、ポルトープランス中心部で「ウーゴ・チャベス広場」の開場式も催された。