2016年11月20日日曜日

~~波路遥かに2016年10~11月~第1回ティルベリーから~

 10月初め成田空港を飛び立って2時間半、韓国西岸のインチョン空港に着いた。東アジアのハブ空港を目指すだけに規模が大きい。海の浅瀬を埋め立てた広大な空の港だ。朝鮮(韓国)語が耳にリズムよく飛び込んでくる。

 ロンドン行きのアシアナ航空便も空港同様、韓国(朝鮮)語の合唱だった。本場のキムチが付いた機内食はうまかった。夜遅く、ヒースロー空港に着く。

 同じ朝、成田空港を私の1時間後に別の便でアムステルダム経由で出発した写真家水本さんが1時間先に着いていて、私を迎えてくれた。ロンドンの街を観ることなく、テムズ川沿いを東方の河口に向かって2時間近く走る。河口に近いティルベリー港に、慣れ親しんできたNGOピースボートの世界周遊船「オーシャン・ドゥリーム」号がいつも通り、白く優雅な姿で迎えてくれた。

 翌日、テムズ川を小舟で渡り、南岸に拡がるティルベリーの街を水本さんと散策する。ロンドンを築いた財は、何世紀にも亘って、この港から運び込まれた。往時の繁栄を偲ばせる街並みだ。

 次の日、ベルギーのブルージュを歩いた。中世が残る美しい古都だ。何十羽もの白鳥が川べりの緑に遊び、運河を小舟が行き交う。乗っているのは、外国人観光客ばかりだ。

 ベルギーは特にコンゴで収奪し、無数のアフリカ人を凄まじく殺戮した。そこで奪った富とブルージュとの関係性は、時代の落差もあって定かではないが、「コンゴ動乱」を想起しつつ街を歩き回った。

 翌日はアムステルダムだ。何十年振りかで、中央駅の輝く姿を観た。海に繋がる運河は、幾つかの水面の高低を調整する水門を経て、この古都まで繋がっている。昔、東インド会社の本店がここにあった。

 この会社のアジア拠点はジャカルタで、そこから平戸、長崎にオランダ人たちはやってきた。そして幕府に、「スペインとポルトガルは日本領土奪取を策謀している」と耳打ちした。これが鎖国の原因の一つとなった。彼らによる収奪と、彼らがもたらした「蘭学」を思いつつ、市電を乗り継いでゴッホ美術館に行き、懐かしい絵に再会した。

  船内で船上講師たちが紹介された。ティルベリーから乗った武者小路公秀・羽後静子両先生、アムステルダム乗船の細川元首相夫人らが紹介された。 私も、紹介された講師の一人である。

 私は最初の講座として「アイスランドの歴史」を語った。『原爆基地』(1948年)を書き55年にノーベル文学賞を受賞したハルドル・ラックスネスや、今をときめく警察小説作家アーナルディルについても話した。「音楽番組」では、東方の彼方のロシアを思いやり、ロシア民謡をまず紹介した。

 外界の情報が正確かつ詳細に船に届くには時間がかかる。コロンビアから到着した、内戦終結のための和平合意承認の是非を問う10月2日実施の国民投票結果は、1ポイント以下の超僅差で「不承認」が勝った。6月の英国のEU脱退を決める国民投票で脱退賛成派が僅差で勝ったのに次ぐ「番狂わせ」だ。

 ならば11月8日に迫る米大統領選挙も、両候補のどちらが勝ってもおかしくない。カリブ海のハイチとキューバを「マシュー」と命名された大型ハリケーンが襲った。10月9日実施予定のハイチ大統領選挙は11月20日に延期された。

 船は北海を北北西に進む。目指すはアイスランドだ。