メヒコの教員養成学校生43人の強制失踪事件を2月から捜査してきた米州人権委員会(CIDH)の専門家派遣団は9月6日、半年に及んだ捜査結果を500ページの報告書として発表した。メヒコ政府の捜査結論を覆す内容だった。
まず、政府当局は昨年9月26日ゲレロ州イグアラ市で起きた事件後、早い段階で、43人は麻薬マフィアの殺し屋に殺され、イグアラの隣のコクーラ市のごみ捨て場で遺体が焼かれた、と結論付け、事件の幕引きを図った。
ところが、事件発生1周年まで20日という時点で公表された報告は、ごみ捨て場で43人もの遺体を焼くには大量の薪が要るうえ、仮に焼いたとすれば長時間かかり煙が高く上がることから、目撃者がいないはずはないとして、政府の結論を一蹴した。
報告書は、政府発表にある、イグアラ、コクーラ両市の警察と、イグアラ市を拠点とする麻薬マフィア「ゲレロ・ウニード」の殺し屋が事件に関与したのを認めたが、さらにゲレロ州警察、メヒコ連邦警察、イグアラ市駐屯陸軍第27大隊も関与した証拠がある、と指摘した。
連邦警察と陸軍が関与したとすれば、大統領に直接、責任が及ぶことになる。
最も衝撃的だったのは、学生たちが乗っていたバスは政府発表の4台でなく5台で、その5台目はヘロイン、コカインを運ぶのに使われていた可能性がある、との報告書の指摘だ。
5台目のバスの存在は事件直後から証言や目撃で明らかだったが、政府捜査からは除外され、問題のバスも隠されてしまった。
CIDH派遣団は米麻薬捜査局(DEA)の協力も得て、「ゲレロ・ウニード」とシカゴの「パブロ・ベガ」を首領とする麻薬取引グループが連携しているとし、イグアラからバスでシカゴまで麻薬が運ばれていた、と報告している。
学生たちの乗っていたバスが事件当日イグアラで激しい銃撃を受けたのは、麻薬輸送用バスが含まれていたからではないか、と報告書は指摘する。
43人失踪前、バス銃撃などで学生3人、乗り合わせたサッカー選手1人、流れ弾に当たった通行人の女性1人、バス運転手1人の計6人が死に、17人が負傷していた。
とくに殺された3人の学生の一人は、警官に別の場所に連れ去られ、殺され、顔の皮を剥かれた。
報告書は、逮捕された容疑者には拷問された者もいるとし、この点の調査も必要だとしている。
報告書を渡された被害者家族会は、エンリケ・ペーニャ=ニエト大統領に会って説明を求めたいと表明。併せて、CIDH派遣団に真相解明までのメヒコに滞在するよう訴えた。
アレリー・ゴメス検事総長は、大統領の指示として、「43人のもの」とされる遺骨のうち、身元が確認された1人のものを除く42人の遺骨のDNA鑑定のやり直しを命じた。
また、これまでのメヒコ側捜査結果を検証し、CIDH派遣団のメヒコ滞在期間を延長する、と発表した。
この報告書で明らかになったのは、政府(大統領府、国軍、検察、連邦警察)と自治体(ゲレロ州、イグアラ市、コクーラ市)が「麻薬取引絡み」という事件の真相を知りながら、隠し通してきた可能性が濃厚、ということだ。