2012年5月16日水曜日

作家カルロス・フエンテス死去

▼▽▼メキシコの作家カルロス・フエンテス(83)が5月15日、メキシコ市内の病院で死去した。死因は、潰瘍破裂による大量出血という。自宅で通夜、16日には中心街の国立文化殿堂で告別式が行なわれた。フェリーペ・カルデロン大統領夫妻、文化人ら多数が参列した。火葬された後、遺骨はパリのモンパルナス墓地の家族の墓に納められる。

▽フエンテスは『ラ・レヒオン・マス・トランスパレンテ』(1958年、邦題「澄みわたる大地」=寺尾隆吉訳、2012年、現代企画室)で世に出た。キューバ革命(59年元日)後の60年代に始まった「ラ米新文学」の先駆けであり、旗頭の一人だった。『アルテミオ・クルスの死』(62年)もベストセラーになった。

▼ロムロ・ガジェゴス賞(77年)、メキシコ文学賞(84年)、スペインのセルバンテス賞(87年)、スペイン皇太子文学賞(94年)などを受賞した。ノーベル文学賞の候補でもあった。

▽私は68年のメキシコ五輪大会直前まで、メキシコ人学生らが、当時の封建的なPRI(制度的革命党)体制に反逆した一大運動を取材する過程で、フエンテスの邸宅で連日のように開かれていた知識人、学生指導者、ジャーナリストらの会合でフエンテスを取材した。インド駐在大使だったオクタビオ・パスが会合に参加したこともあった。当時39歳だったフエンテスは、長髪、長もみあげ、メキシカンブーツ姿の精悍な知識人だった。

▼当時、私はメキシコ国立自治大学(UNAM=ウナム)哲学文学部の聴講生でもあり、『澄みわたる大地』を原語で読んでいた。最初が特に難解で、辞書を引きっぱなしだった。1ページ進むのに何日もかかった。「フエンテスの頭の中はどうなっているのか」と、恨めしく思ったものだ。

▽それがいま、日本語で読めるようになった。私は『澄みわたる大地』日本語版を、書評を書くために読んでいる最中に、フエンテスの死を知った。かすかに因縁を感じる。