2017年4月2日日曜日

 パラグアイ上院議員25人が憲法の大統領再選禁止条項を違憲行為で修正。野党が抗議、警官隊に1人が射殺され30人が負傷、首都アスンシオンは混乱に陥る

 パラグアイで3月31日、国会上院の議員25人が不正に憲法条項を修正、怒った野党党員や市民ら約1000人が国会周辺など首都アスンシオンで抗議行動を展開した。国警機動隊が出動、1人が警官に散弾銃で射殺された。他に約30人が負傷、211人が逮捕された。

 事の起こりは28日、憲法の大統領再選禁止条項を修正して再選を狙いたいオラシオ・カルテス大統領の政権党コロラード党、これに同調する野党「グアスー戦線」(FG=拡大戦線)、および野党・真正急進自由党(PLRA)反主流派の上院議員計25人が、上院本会議場でなく上院内のFG会派室で、憲法修正案を<可決>したこと。上院定数は45。

 同25議員は31日、再びFG室で<本会議>を開き可決、下院に<送付>した。下院(定数80)は4月1日審議を開始する予定だったが、混乱が収まらないため、3日以降に延期した。下院は政権党が多数派のため通過は容易。

 エフライーン・アレーグレ党首らPLRA主流派を中心とする野党勢力は上院内外で25議員の違憲行動を糾弾、31日、抗議行動に出た。若者ら一部勢力は上院に放火、市内でも小競り合いが続いた。

 機動隊はPLRA本部に乱入した際、党青年部のロドリーゴ・キンターナ(25)に散弾銃を1回発射、キンターナは散弾9発を受けて死亡した。さらに約30人が重軽傷を負った。PLRAのエドゥガル・アコスタ下院議員は顔面に散弾を浴びせられ重傷。カルテス大統領は、死傷者が出たのを受けて、内相と国警長官を更迭した。

 上院議員25人が一方的に可決した憲法修正案は、「正副大統領は連続または非連続的に計2期まで就任できる」とし、「連続再選を目指す正副大統領は任期満了半年前に辞任せねばならない」というもの。

 パラグアイでは1954~89年、故アルフレド・ストロエスネル将軍が35年間の長期軍事独裁を敷いた。これを教訓とした政界は92年、憲法に大統領再選禁止条項を盛り込んだ。コルテスは2016年、再選禁止条項修正を試み、失敗している。

 上院では過半数に達しない政権党は、12年に「国会クーデター」と呼ばれる不当な弾劾裁判で大統領を解任されたフェルナンド・ルーゴ元司教の政党FGおよびPLRA反主流派に働き掛け、25人議員集団を結成した。

 ルーゴは、1989年の独裁体制終焉後、最初の非コロラード党政権を率い、穏健な社会改革で成果を挙げた。改革路線が定着するのを恐れたコロラード党は2012年6月、農民・警官殺害事件をでっちあげてルーゴを弾劾した。

 ルーゴは現在、上院議員だが、志半ばで解任されたため、やり残した改革をやりたいと、再選条項修正に回った。18年4月の大統領選挙で再選が可能になった場合の現時点での予想候補者支持率は、ルーゴ52%、カルテス12%で、ルーゴが優位。カルテスは敗れても、<ルーゴ次期政権>の次を狙うことが可能になる。

 この来年の総選挙では正副大統領の他、国会上下両院議員、17州知事・州会議員、南部共同市場(メルコスール)議会議員18人が選ばれる。

 今回、問題の25議員は、上院本会議を開けないことから、コルテス派の上院第2副議長を<上院議長>に就け、FG室で審議、憲法修正に必要な賛成票を従来の30から23人に変更し、憲法修正案を可決した。

 パラグアイ弁護士会は、大統領再選は憲法条項修正では不可能で、正式に改憲せねばならないと主張している。ラ米進歩主義世論は、米州諸国機構(OEA)がベネスエラ問題だけに集中し、パラグアイ上院での違憲の暴挙を取り上げないのはおかしいと非難している。